(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半導体部品等には金属膜等の成膜処理が施されている。成膜とは、対象物である基材上に薄膜を形成することであり、成膜方法の例としてスパッタリングやアーク蒸着が挙げられる。
【0003】
スパッタリングとは、成膜チャンバー内を真空にした後、アルゴンガスなどの不活性ガスを導入しながら、対象物である基材と薄膜の材料となるターゲット材との間に高電圧を印加し、グロー放電によりイオン化した不活性ガスをターゲット材に衝突させ、それにより弾き飛ばされた成膜物質を基材上に付着させ薄膜を形成する方法である。
【0004】
またアーク蒸着とは、蒸着用金属を真空の成膜チャンバー内にブロック状の固体(ターゲット材)として配置して、アーク放電によりターゲット材を蒸発させる方法である。アークは磁場印加機構による磁場に導かれてターゲット材上を移動し、当該ターゲット材の蒸発によって成膜チャンバー内の基材がコーティングされる。
【0005】
真空成膜装置による成膜方法として、スパッタリングやカソード放電型アークイオンプレーティング、ホローカソード等の種類があるが、成膜レートやイオン化率を向上させるために、磁場印加機構によって蒸発源に磁場を印加することが行われている。
【0006】
例えば特許文献1には、磁場印加機構を有するアーク蒸発源及び磁場印加機構を有するスパッタリング蒸発源が同一成膜チャンバー内に設けられた複合成膜装置が開示されている。
【0007】
また例えば非特許文献1には、磁場印加機構を有するスパッタリング蒸発源が複数備えられた成膜装置が記載されている。さらに非特許文献2には、磁場印加機構を備えたアーク蒸発源が複数備えられた成膜装置が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
複数の蒸発源用磁場印加機構を同一成膜チャンバー内に設ける目的は、成膜レートの向上或いは組成の異なるターゲット材を設けることで多層膜等の構造を実現するためである。しかしながら、上記特許文献1に記載の発明等のように複数の蒸発源用磁場印加機構を同一成膜チャンバー内に隣接させて設けると、相互の磁場が干渉し合う場合がある。
【0011】
スパッタリング蒸発源用磁場印加機構やアーク蒸発源用磁場印加機構等の蒸発源用磁場印加機構はプラズマを使用するものであるが、このプラズマを構成するイオンや電子はいずれも荷電粒子であり、磁場の影響によりその挙動が変化してしまう。すなわち、各磁場印加機構による磁場の相互干渉により、上記の荷電粒子の運動方向が意図したものから逸脱する場合が生じる。その結果、成膜処理を良好に行うことができない。
【0012】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、複数の蒸発源用磁場印加機構による磁場の相互干渉を抑制することができる真空成膜装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る真空成膜装置は、成膜チャンバーと、成膜チャンバーに設けられる、スパッタリング蒸発源が有する磁場印加機構及びアーク蒸発源が有する磁場印加機構のうち少なくとも2以上の磁場印加機構と、少なくとも一つの磁場印加機構の一部又は全部を覆うように設けられる磁場遮蔽部とを有することを要旨とする。なお、蒸発源はターゲット材、磁場印加機構、及び冷却水システム等で構成される。
【0014】
この真空成膜装置によれば、2以上の磁場印加機構のうち、少なくともスパッタリング蒸発源の磁場印加機構かアーク蒸発源の磁場印加機構の一部又は全部が覆われるように磁性体からなる磁場遮蔽部が設けられるので、覆われた方の磁場印加機構による磁場を遮蔽することができる。したがって、各磁場印加機構による磁場の相互干渉を抑制することができるので、プラズマを構成するイオンや電子の挙動が磁場によって変化することが抑制され、成膜処理に悪影響を与える可能性を低くすることができる。
【0015】
磁場遮蔽部が開閉可能に取り付けられていれば、成膜時には磁場遮蔽部を開状態にすることができ、成膜時ではないときには磁場遮蔽部を閉状態にすることにより磁場の相互干渉を抑制することができる。
【0016】
磁場遮蔽部の一部は非磁性体で構成されていることが好ましい。蒸発源によっては基材方向に磁力線が延びており、プラズマを基材方向に誘導することで、成膜レートを向上させること或いは基材へのイオン照射が強化されている。磁場遮蔽部を全体的に磁性体で構成すると、この磁場遮蔽部を開状態にしても磁場遮蔽部が磁力線に影響を与える場合がある。
【0017】
そこで、磁場遮蔽部の一部を非磁性体で構成することによって、磁場遮蔽部が閉じた状態にあるときは磁場がシールドされるようにでき、且つ磁場遮蔽部が開いた状態にあるときには磁場遮蔽効果が低くなるよう図ることが可能となる。
【0018】
非磁性体は、磁場遮蔽部が閉じた状態にあるときに蒸発源と向かい合う磁場遮蔽部の位置に配されてもよい。
【0019】
スパッタリング蒸発源の磁場印加機構はアンバランスド・マグネトロン(UBM)型であり、1以上のスパッタリング蒸発源の磁場印加機構と1以上のアーク蒸発源の磁場印加機構とを有し、磁場遮蔽部は、少なくとも1つのスパッタリング蒸発源の磁場印加機構側に配されることが好ましい。強力な磁場が発生するスパッタリング蒸発源の磁場印加機構側に磁場遮蔽部を設けることで、磁場の相互干渉をより抑制できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、少なくともスパッタリング蒸発源の磁場印加機構かアーク蒸発源の磁場印加機構の一部又は全部が覆われるように磁場遮蔽部が設けられるので、覆われた方の磁場印加機構による磁場を遮蔽することができる。したがって、各磁場印加機構による磁場の相互干渉を抑制できるという長所を有する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施形態に係る真空成膜装置について図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1は本実施形態に係る真空成膜装置100の構成を示す平面図である。
図1に示すように真空成膜装置100は、成膜チャンバー3と、この成膜チャンバー3内の中央に配される成膜対象である基材4を取り囲むように配設される複数のスパッタリング蒸発源用磁場印加機構1(1a,1b)及び複数のアーク蒸発源用磁場印加機構2(2a,2b)とを主として備える。
【0024】
スパッタリング蒸発源用磁場印加機構1はアンバランスド・マグネトロン(UBM)型であってもよい。
【0025】
UBM型のスパッタリング蒸発源用磁場印加機構1においては、その中心部と周辺部とで異なる大きさ、数の磁石(例えば、中心部に小型のネオジム磁石、周辺部に大型のネオジム磁石)が配置されている。このように磁石が配置されると、磁力線が蒸発源前で閉磁場とはならずに、周辺部のより強力な磁石によって発生する磁力線の一部が基材近傍まで達するようになる。その結果、この磁力線に沿ってスパッタリング時に発生したプラズマ(例えば、Arプラズマ)は、基材付近まで拡散するようになる。したがって、UBM型のスパッタリング蒸発源用磁場印加機構1によれば、通常のスパッタリングに比べ、基材付近まで達する上記磁力線に沿ってArイオン及び電子が、より多く基材に達するようになる。
【0026】
スパッタリング蒸発源用磁場印加機構1aとスパッタリング蒸発源用磁場印加機構1bとが基材4を挟んで対称的に配設されており、アーク蒸発源用磁場印加機構2aとアーク蒸発源用磁場印加機構2bとが基材4を挟んで対称的に配設されるようになっている。
【0027】
成膜時には成膜チャンバー3内に成膜ガス(N源(窒素等)含有ガス、C源(メタン等)及びN源含有ガス、又はこれらを不活性ガスで希釈したもの等)が供給される。基材4は回転される際に、スパッタリング蒸発源用磁場印加機構1a,1bの正面とアーク蒸発源用磁場印加機構2a,2bの正面を交互に通過するため、この基材4に第1の層と第2の層とを交互に複数回積層させることができる。これにより積層型薄膜を製造できる。なお、個々の層の厚さは基材4の回転速度あるいはターゲット材に投入するパワー(蒸発速度)によって制御することができる。
【0028】
図2はスパッタリング蒸発源用磁場印加機構1aによる磁場を遮蔽する磁場遮蔽部21,22を示す平面図であり、
図3はアーク蒸発源用磁場印加機構2aの構成を示す平面図である。なお、
図2では一方のスパッタリング蒸発源用磁場印加機構1aに磁場遮蔽部21,22を設ける構成について説明するが、他方のスパッタリング蒸発源用磁場印加機構1bにも同様に磁場遮蔽部を設けてもよい。
【0029】
図2に示すように、スパッタリング蒸発源用磁場印加機構1aはターゲット材12の背面側(成膜チャンバー内壁3a側)に配設される。スパッタリング蒸発源用磁場印加機構1aによってターゲット材12の正面側で基材4に成膜できるようになっている。なお、スパッタリング蒸発源用磁場印加機構1bの構成はスパッタリング蒸発源用磁場印加機構1aの構成と同じである。
【0030】
スパッタリング蒸発源用磁場印加機構1aを覆うようにL字型の磁場遮蔽部21,22が設けられる。
【0031】
磁場遮蔽部21,22は、それぞれ開状態と閉状態とが切り替えられる開閉部21b,22bと、スパッタリング蒸発源用磁場印加機構1aの片側方に固定されている固定部21c,22cとから構成されている。なお、開閉部21b,22bが閉じた状態で、この開閉部21b,22bはそれぞれ固定部21c,22cと接続されている。
【0032】
固定部21c,22cの一端は成膜チャンバー内壁3aに固定されている。また、磁場遮蔽部21,22は、開閉部21b,22bについてそれぞれ閉状態と開状態とを切り替えるための図示しない開閉機構を備えている。
【0033】
アーク蒸発源用磁場印加機構2によって成膜を行うときは、磁場の相互干渉を抑制するために磁場遮蔽部21,22の開閉部21b,22bを閉じた状態とする。これにより、スパッタリング蒸発源用磁場印加機構1aによる磁場は磁場遮蔽部21,22により遮蔽(シールド)された状態となり、アーク蒸発源用磁場印加機構1による磁場との相互干渉が抑制される。
【0034】
ここで、磁場遮蔽部21,22はそれぞれ主に磁性体から構成されるが、開閉部21b,22bの一部(閉じた状態でターゲット材12と対向する部分)は非磁性体21a,22aで構成される。これは以下の理由による。
【0035】
蒸発源によっては基材方向に磁力線が延びており、プラズマを基材方向に誘導することで、成膜レートを向上させること或いは基材へのイオン照射が強化されている。磁場遮蔽部21,22を全体的に磁性体で構成すると、この磁場遮蔽部21,22を開状態にしても磁場遮蔽部21,22が磁力線に影響を与える場合がある。
【0036】
そこで、開閉部21b,22bの一部(閉じた状態でターゲット材12と対向する部分)を非磁性体21a,22aで構成することによって、開閉部21b,22bが閉じた状態にあるときは磁場がシールドされるようにでき、且つ開閉部21b,22bが開いた状態にあるときには磁場遮蔽効果が低くなるよう図ること(開閉部21b,22bを開状態にした場合の磁力線の形状や磁場の強さを、磁場遮蔽部21,22を設けない場合の磁力線の形状や磁場の強さに近付けるよう図ること)が可能となる。
【0037】
また、開閉部21b,22bがそれぞれ矢印D1,D2の方向に沿って開いた状態(同図において一点鎖線で図示)にあるときは、スパッタリング蒸発源用磁場印加機構1aによる磁場は磁場遮蔽部21,22により遮蔽されない状態となる。成膜を行う場合にはこのように開閉部21b,22bは開状態とされる。なお、開閉部21b,22bが閉状態にあるとき、開閉部21b,22bの端部は互いに重なった状態となっている。
【0038】
図3に示すように、アーク蒸発源用磁場印加機構2aはターゲット材32の側方と背面側(成膜チャンバー内壁3a側)とに配されている。なお、アーク蒸発源用磁場印加機構2bの構成はアーク蒸発源用磁場印加機構2aの構成と同じである。
【0039】
磁場遮蔽部21,22は基本的には磁性体の板により構成されるが、磁場の遮蔽効果は比透磁率との関係で決まり、比透磁率の値が概ね300以上で磁場遮蔽効果を得ることができる。磁場遮蔽効果をより向上する観点で、比透磁率が500以上の材料からなる磁場遮蔽部を使用することがより好ましい。
【0040】
比透磁率が300以上の材料の例としては、SUS430が挙げられ、比透磁率が500以上の材料の例としては、SS400が挙げられる。
【0041】
本実施形態では、磁場遮蔽部21,22によりスパッタリング蒸発源用磁場印加機構1による磁場を遮蔽することができるので、スパッタリング蒸発源用磁場印加機構1及びアーク蒸発源用磁場印加機構2による磁場の相互干渉を抑制することができる。したがって、プラズマを構成するイオンや電子の挙動が磁場によって変化することが抑制され、成膜処理に悪影響を与える可能性を低くすることができる。
【0042】
(その他の形態)
なお、上記実施形態では磁場遮蔽部21,22を独立で設けることとしたが、磁場遮蔽部21,22を、通常設けられる蒸発源のシャッター機構と兼用させる構成を採用してもよい。
【0043】
また、上記実施形態ではスパッタリング蒸発源用磁場印加機構1aに磁場遮蔽部21,22を設けることとしたが、これに限定されるものではなく、アーク蒸発源用磁場印加機構2にも磁場遮蔽部21,22を設けてもよい。
【0044】
また、上記実施形態では磁場遮蔽部21,22をL字型としたが、形態はこれに限定されるものではなく、例えば仕切りにドアを設けて当該ドアについて開状態と閉状態とを切り替える構成を採用することもできるし、仕切りに窓部を設けて当該窓部をスライドさせることで開状態と閉状態とを切り替える構成を採用することもできる。
【0045】
さらに、上記実施形態では磁場遮蔽部21,22及び成膜チャンバー内壁3aによってスパッタリング蒸発源用磁場印加機構1aを覆うように構成したが、磁場遮蔽部のみによってスパッタリング蒸発源用磁場印加機構1aを覆うように構成してもよい。
【0046】
また、上記実施形態ではスパッタリング蒸発源用磁場印加機構1及びアーク蒸発源用磁場印加機構2を成膜チャンバー3内に設ける構成としたが、これに限定されるものではなく、これらの磁場印加機構の一部が成膜チャンバー3の外側に設けられていてもよい。
【0047】
また、上記実施形態では磁場遮蔽部21,22を開閉部21b,22b及び固定部21c,22cで構成したが、これに限定されるものではなく、開閉部のみで磁場印加機構の磁場を遮蔽する構成を採用してもよい。
【0048】
本発明はもとより上記実施形態によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0050】
(比較例)
単体の蒸発源用磁場印加機構(磁場遮蔽部無し)における磁場解析を行った。磁場の干渉度合いを評価するために、相互の蒸発源用磁場印加機構の中央付近における磁場の強さを計算した。単体の蒸発源用磁場印加機構としてスパッタリング蒸発源用磁場印加機構又はアーク蒸発源用磁場印加機構を使用した場合、磁場の強さは、スパッタリング蒸発源用磁場印加機構単体の場合が7.65ガウスとなり、アーク蒸発源用磁場印加機構単体の場合が1.99ガウスとなった。
【0051】
また、スパッタリング蒸発源用磁場印加機構及びアーク蒸発源用磁場印加機構の双方を同一成膜チャンバーに設けて(磁場遮蔽部無し)、且つ相互の磁極がつながるようにした場合、磁場の強さは9.54ガウスとなった。解析結果を
図4に示す。なお
図4及び後述の
図5〜
図8の横軸・縦軸の単位はmmである。
【0052】
これらの結果より、単体の蒸発源用磁場印加機構に比べて複数の蒸発源用磁場印加機構を用いた場合の磁場の強さが大きくなることが確認できた。この磁場の増加により特にアーク蒸発源を放電させて成膜する場合に問題となり、イオン化率の高いアークプロセスでは電子やイオン化したターゲット原子の軌道に影響が生じてしまうことが予想される。
【0053】
(実施例)
上述の
図1に示すようなスパッタリング蒸発源用磁場印加機構(バランスド・マグネトロンスパッタリング(BMS型)、又はアンバランスド・マグネトロンスパッタリング(UBMS型))、及びアーク蒸発源用磁場印加機構を有する真空成膜装置において、磁場解析を行って磁場遮蔽部の磁場遮蔽効果を調査した。
【0054】
スパッタリング蒸発源用磁場印加機構による磁場を透磁率の高い材料からなる磁場遮蔽部で遮蔽することにより、基材近傍の磁場は4.7ガウスと半減する結果となった。解析結果を
図5に示す。
【0055】
UBM型のスパッタリング蒸発源用磁場印加機構により成膜を行う場合には、基材付近にも強磁場を印加して基材付近でのプラズマ密度を上げる必要があるが、当該磁場印加機構を使用した場合には、磁場遮蔽部を開けた状態での基材近傍の磁場の強さは6.0ガウスと単体蒸発源用磁場印加機構の値(上記の7.65ガウス)と比較して低下する結果となった。解析結果を
図6に示す。
【0056】
そこで、磁場の強さを増加するために、磁場遮蔽部の一部を非磁性体で構成することによって、磁場遮蔽部が閉じた状態にあるときは磁場がシールドされるようにし、磁場遮蔽部が開いた状態にあるときには磁場遮蔽効果が低くなるようにした。その結果、磁場遮蔽部が閉じた状態にあるときの基材近傍の磁場の強さは4.7ガウスと低くなり(
図7の解析結果を参照)、また磁場遮蔽部が開いた状態にあるときの基材近傍の磁場の強さは8.0ガウスとなり、上記の磁場の強さの値(6.0ガウス)よりも上昇できたことを確認できた(
図8の解析結果を参照)。