(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
希釈液を収容する容器本体と、容器本体の開口部に着脱可能に装着されるキャップと、キャップに装着されて下方に延長する綿棒と、綿棒の先端に取り付けられてキャップ密栓状態において容器本体内の希釈液に浸漬される綿球と、キャップ上面の開口に挿入される下方突起を備えて開閉可能に設けられる上蓋と、容器本体内の内容液をキャップ開口に液通させる液通路と、キャップ開口内の所定高さ位置に設けられる液封膜とを有する拭き取り検査キットであって、上蓋を上方から押圧して凹ませたときにその下方突起の先端で液封膜を突き破ることにより容器本体内の内容液を液通路からキャップ開口に液通させ、上蓋を開き、拭き取り検査キットを逆さにしたときに該内容液をキャップ開口から外部に排出可能とするように構成されてなることを特徴とする拭き取り検査キット。
上蓋の天面に薄肉部が設けられ、上蓋の天面を上方から押圧したときにこの薄肉部を介して上蓋の天面を下方に向けて変形させ、下方突起の先端で液封膜を突き破ることを特徴とする、請求項1記載の拭き取り検査キット。
上蓋の天面を上方から押して凹ませたときに下方突起がキャップ開口に嵌まり込むことによって上蓋天面が凹んだままの状態に維持され、この凹み状態を目視にて確認することで液封膜が開封されたことを識別可能であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか一に記載の拭き取り検査キット。
【背景技術】
【0002】
食品安全性試験の一環として、製品検査や原料検査、生産要員の手指検査、工程検査あるいはレストラン・厨房施設等において使用される器具や器材等が清潔且つ衛生的であるか否かは、一般に、生菌数と大腸菌群を検査することによって評価され、場合によってはさらに黄色ブドウ球菌やカビ、酵母等の検査も行われる。
【0003】
検査対象とされる器具や器材または容器包装等は種々に異なる形状を有しており、瓶や缶等の有栓容器の内部の汚染状態を検査するには通常は洗い落とし法が採用されるが、まな板や皿等の表面が扁平な器具や包丁等の不規則形状を有する器具を対象とする場合は、拭き取り検査法に準拠して試料検液を調製している。
【0004】
拭き取り検査法は、0.1%ペプトン加生理食塩水1mlを湿らせて滅菌したガーゼタンポンまたは綿棒・綿球等を用いて検査対象の器具や器材等の表面を拭った後、これを収納瓶に入れ、滅菌0.1%ペプトン加生理食塩水9mlを加えて希釈し、撹拌均一化して試料検液とするのが従来の一般的手法であったが、この方法による拭き取り検査は面倒であり、ラボを持たない一般の厨房施設等では的確な検査を行うことが困難であった。
【0005】
また、上述のような拭き取り検査は、臨床においても、たとえば喉や鼻、耳等の患部を綿棒や綿球で拭き取って検体を回収するためにも行われている。従来は、綿棒等で拭き取り収集した検体を試験管に分注されたリン酸緩衝液等に浸漬させた後に引き上げ、試験管の側壁に押圧して回転させることによって検体を回収していたが、きわめて面倒で熟練を要する作業となっていた。
【0006】
このような事情に鑑みて、本出願人は、ラボを持たない施設においても簡易で且つ確実に拭き取り検査を行うことができる拭き取り検査キットを開発した(特許文献1)。この拭き取り検査キットによれば、希釈液と共に容器本体内に収容した検体を定量検査のためにシャーレなどの培地に分注する際に、キャップを装着したままの状態で上蓋を開くことによって検体を排出させることができるので、分注作業を容易に行うことができる利点があり、市場においてもその有用性が高く評価されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1による拭き取り検査キットにも更なる改良の余地があった。すなわち、この拭き取り検査キットにおいて上蓋が不慮に開くと内容液が漏れ出てしまう事故につながる恐れがある。たとえば、この拭き取り検査キットを航空機の貨物室に横積みした状態で航空輸送した場合、気圧変動の影響を受けて上蓋が開き、キャップ先端から内容液が漏れ出てしまうことがあった。
【0009】
したがって、本発明は、特許文献1による拭き取り検査キットが遭遇する可能性のある上記不慮の事故を未然に防止することができる新規な構成の拭き取り検査用容器を提供することを課題とする。より詳しくは、特許文献1による拭き取り検査キットと同様に、定量検査のためにシャーレなどの培地に分注する際にはキャップを装着したままの状態で上蓋を開くことによって検体を排出させるという分注作業の容易性を確保した上で、使用前の輸送段階などにあっては万一上蓋が開いてしまった場合であっても内容液の漏出を阻止可能とすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するため、請求項1に係る本発明は、希釈液を収容する容器本体と、容器本体の開口部に着脱可能に装着されるキャップと、キャップに装着されて下方に延長する綿棒と、綿棒の先端に取り付けられてキャップ密栓状態において容器本体内の希釈液に浸漬される綿球と、キャップ上面の開口に挿入される下方突起を備えて開閉可能に設けられる上蓋と、容器本体内の内容液をキャップ開口に液通させる液通路と、キャップ開口内の所定高さ位置に設けられる液封膜とを有する拭き取り検査キットであって、上蓋を上方から押圧して凹ませたときにその下方突起の先端で液封膜を突き破ることにより容器本体内の内容液を液通路からキャップ開口に液通させ、上蓋を開いたときに該内容液をキャップ開口から外部に排出可能とするように構成されてなることを特徴とする拭き取り検査キットである。
【0011】
請求項2に係る本発明は、請求項1記載の拭き取り検査キットにおいて、上蓋の天面に薄肉部が設けられ、上蓋の天面を上方から押圧したときにこの薄肉部を介して上蓋の天面を下方に向けて変形させ、下方突起の先端で液封膜を突き破ることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る本発明は、請求項2記載の拭き取り検査キットにおいて、前記薄肉部が下方突起を包囲するように上蓋天面に略リング状に形成されることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る本発明は、請求項1ないし3のいずれか記載の拭き取り検査キットにおいて、上蓋の天面を上方から押して凹ませたときに下方突起がキャップ開口に嵌まり込むことによって上蓋天面が凹んだままの状態に維持され、この凹み状態を目視にて確認することで液封膜が開封されたことを識別可能であることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る本発明は、上蓋の下方突起が略円筒形状の下端を斜めに切除した斜断円筒形状を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る本発明によれば、キャップ開口内の所定高さ位置に液封膜が設けられているので、これがそのまま保持されている限り、容器本体内の内容液が液通路を介してキャップ開口に入り込もうとしても該液封膜でそれ以上の液通が阻止される。したがって、この状態で上蓋が開放されても、キャップ上面の開口から内容液が漏れ出ることはない。本発明の拭き取り検査キットは、この状態でユーザに供給されるので、航空機の貨物室に横積みした状態で航空輸送する際に気圧変動の影響を受けても、キャップ先端からの内容液(希釈液)の漏出を阻止することができる。また、この拭き取り検査キットの綿球で拭き取った検体を容器本体内に収容して混釈する際などに誤って上蓋が開いてしまうようなことがあっても、液封膜が保持されている限り、液漏れを起こすことがない。
【0016】
その後、定量検査のためにシャーレなどの培地に分注する際に、上蓋を上方から押圧して凹ませ、その下方突起の先端で液封膜を突き破ってキャップ開口を液通路と液通させる。これにより、液通路およびキャップ開口を介して容器本体の内外が液通することになるので、キャップを装着したままの状態で上蓋を開くことによって検体を排出させることが可能となり、定量検査の際の分注作業を容易に行うことができる。
【0017】
また、定性検査のために増菌培地などを注入する際にも、上蓋を上方から押圧して凹ませ、その下方突起の先端で液封膜を突き破って液通させることにより、キャップ上面の開口からスポイト注入した定性検査用培地を液通路を介して容器本体に収容させることが可能となり、定性検査の際の培地注入作業を容易に行うことができる。
【0018】
請求項2に係る本発明によれば、上蓋の天面に薄肉部を設けることにより上蓋天面が変形容易な形状とされているので、下方突起の先端で液封膜を突き破る際の操作を容易に行うことができる。
【0019】
請求項3に係る本発明によれば、上蓋の天面に略リング状に薄肉部が設けられるので、上蓋天面がより変形容易な形状となり、下方突起の先端で液封膜を突き破る際の操作をさらに容易に行うことができる。
【0020】
請求項4に係る本発明によれば、上蓋天面の凹み状態の有無を目視確認することで、液封膜が未開封に保持されている状態(未使用状態)であるか、液封膜が既に開封されている状態であるかを容易に判別することができる効果がある。
【0021】
請求項5に係る本発明によれば、上蓋の下方突起が斜断円筒形状を有するので、上蓋を上方から押圧して凹ませたときに、その下方突起の最先端部が最初に液封膜を突き破り、徐々にその両側の縁部で液封膜を突き破ることになるので、比較的小さな力でスムーズに液封膜を破っていくことができる。上蓋の下方突起が単なる円筒形状を有するものであると、その下端縁が液封膜に同時に到達するため、液封膜が一挙に円形に破られてしまい、その破片が落下して容器本体内の内容液に対してノイズになるリスクがあるが、斜断円筒形状とすることによってこのようなリスクを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は本発明の一実施形態による拭き取り検査キット10の正面図(a)および側面図(b)であり、高密度ポリエチレン等の圧縮変形可能な軟質材料で一体成形された容器本体20と、容器本体20の上端開口を密栓すべく着脱可能に装着されるキャップ30と、キャップ30に固定されて先端に綿球41を備える綿棒42と、キャップ30に連結された上蓋50とを有して構成されている。
【0024】
キャップ30を容器本体20の上端に着脱可能に装着する手段としては、ねじ込み式や押し込み式その他の、人手によって容易に着脱が可能であり、且つ、密栓時には容器内を実質的に完全に気密および液密に維持する任意の着脱構造を採用することができる。本実施形態では、容器本体20の上端口部11の外周にネジ山(図示せず)を螺旋状に形成し、この雄ネジに螺合可能なネジ山31をキャップ30の内周に螺旋状に形成することにより、キャップ30が容器本体20の上端に着脱可能とされている。
【0025】
綿棒41はポリプロピレン等の材料で形成された中実または中空の棒体であり、ねじ込みや接着その他任意の手段によってキャップ30の裏面中央に取り付けられ、下方に向けて延長する。この実施形態では、キャップ30の裏面中央に中空筒状部32を一体形成し、この中空筒状部32の下端に中空の綿棒42の上端を挿入することにより着脱可能に取り付けられている(
図2参照)が、綿棒42がキャップ30に固着され、あるいはキャップ30と一体的に形成されていても良い。
【0026】
容器本体20にはあらかじめ所定量(たとえば10ml)の希釈液21が収容されている。希釈液21としては、たとえば、0.1%ペプトン加生理食塩水、緩衝ペプトン水、リン酸緩衝生理食塩水などが用いられる。綿棒42の下端に保持されている綿球41は、この拭き取り検査キット10をキャップ30を上にして保持した状態において、容器本体20にあらかじめ収納されている希釈液21の液面レベル22よりも下方に位置しており、したがって希釈液21中に浸漬された状態に保持されている。
【0027】
容器本体20は概ね円筒形状をなしているが、その中間部分が絞り込まれて縮径部23を形成している。この実施例における縮径部23は、対向する一対の面を有するものとして示されており、これら面同士の間隔(縮径部23の内寸)は綿球41の外径よりも若干大きく設定されている。
【0028】
また、この縮径部23を構成する容器本体20の側面には目盛り24が表示されている(
図1(b))。この目盛り24は、後述するように、
図1の状態からこの拭き取り検査キット10を逆さにして内容液を培地入りシャーレなどの所定の検査容器に分注する際にその分注量を確認するために用いられるものであるため、逆さにした状態で見やすいように表示されている。容器本体20にはあらかじめ10mlの希釈液が収容されているので、逆さにしたときに内容液(希釈された検体)の液面レベルはほぼ「10」の目盛りと一致しており、ここから滴下していくにつれて液面レベルが低下していく。その際に目盛り24を参照することによって必要量の分注を行うことができる。
【0029】
図2ないし
図5は、本発明の一実施形態による拭き取り検査キット10のキャップ30および上蓋50に関連する構成を示す(いずれも綿棒42は図示省略)。キャップ30は、容器本体20の上端口部の外周ネジ山に螺合可能なネジ山31が内周に形成された略円筒形状の外筒部33と、中央開口35を有する上面34と、上面34の中央裏面側から下方に突出する前記中空筒状部32とが一体に形成された構成を有している。キャップ上面34の中央開口35は中空筒状部32の中空部に通じている。
【0030】
上蓋50はヒンジ51を介してキャップ30に開閉可能に連結されており、開いた状態(
図2,
図3)のときは開口35が外部と連通するが、閉じた状態(
図4)のときは下方突起52がキャップ上面34の拡径開口端36から開口35に入り込んで密栓することにより開口35を気密および液密に閉止する。
【0031】
キャップ30の中空筒状部32の内径は、綿棒42の外径よりも若干大きく設定されている。また、中空筒状部32の内周面には間隔をおいて軸方向に延長する複数の突条37が綿棒42を取り巻くように形成されている。図示の実施形態では、等角度間隔に5つの突条37が形成されると共に、これら突条37の上端が内方に突出して
内方突起(図4および図5に図示、符号なし)を形成しており、綿棒42は、その上端が
該内方突起に係止されると共に突条37間に嵌着された状態で、中空筒状部32に対して着脱可能に装着されている。
【0032】
以上のようなキャップ構成により、キャップ30を容器本体20の上端口部に装着して密栓した状態のとき、容器本体20の内部空間(当初は所定量の希釈液21が収容されている)は、キャップ中空筒状部32と綿棒42との間において突条37が存在しない空隙(突条37間に形成される軸方向の空隙38)を介して、キャップ上面34の開口35に通じている。すなわち、容器本体20の内容液は空隙38を介してキャップ上面34の開口35に入り込むことができ、この空隙38が本発明の「液通路」として働くものである。
【0033】
また、この実施形態における綿棒42は中空であるので、容器本体20の内容液はスポンジ質の綿球41を通って綿棒42の下端から内部空間に入り込むことができる。そして、綿棒42の内部空間は、
前記内方突起によって綿棒42の上端と中空筒状部32の底面との間に形成される空隙39を介して、キャップ上面34の開口35に通じている。すなわち、容器本体20の内容液は綿棒42の内部空間および空隙39を介してキャップ上面34の開口35に入り込むことができ、中空である綿棒42の内部空間が空隙39と相まって本発明の「液通路」として働くものである。
【0034】
これらの「液通路」は例示的であり非限定的である。容器本体20に収容された内容液をキャップ上面34の開口35に流入可能とさせるものであれば、いかなる具体的態様も「液通路」を構成し得る。図示実施形態において、綿棒42が中実に形成される場合は、「液通路」が空隙38のみによって形成されることになるが、そのような実施形態も本発明の範囲内である。
【0035】
上蓋50の天面53には、ヒンジ51と干渉する部分を除いて略リング状に薄肉部54が形成されている。薄肉部54は上蓋50の天面53から下方に突出する下方突起52を包囲するように形成され、且つ、ヒンジ51の反対側(突片55が形成されている側)では周縁に至る大きな溝幅を有するものとされている。これにより、閉じた状態(
図4)にある上蓋50の天面53の中央部を親指などで上方から押圧したとき
(図5参照)に、上蓋天面53を大きく凹ませ、下方突起52をキャップ開口35内に挿入させることが容易である。
【0036】
キャップ開口35の所定高さ位置には液封膜40が設けられている。液封膜40は、閉じた状態(
図4)にある上蓋50の天面53に対して下向きの押圧力が作用していないときには上蓋50の下方突起52が届かないが、上蓋天面53の中央部を親指などで上方から押圧して下方突起52をキャップ開口35に挿入させたとき
(図5参照)にはその先端が液封膜40を突き破ることができるような高さ位置に設けられている。液封膜40は、閉じた状態(
図4)にある上蓋50の天面53に対して押圧力が作用していないときには破裂ないし破損することなく保持されるに十分であり、且つ、上蓋天面53に押圧力を加えて下方突起52をキャップ開口35に挿入させたときにはその先端で容易に破裂ないし破損する程度の強度を有するように、その材質および膜厚などを選定して使用する。
【0037】
この拭き取り検査キット10は、容器本体20に所定量の希釈液21を収容してキャップ30で密栓した状態でオートクレーブまたは放射線により滅菌され、滅菌処理済のものとして保管・輸送・市販される。この時点においてキャップ開口35内の所定高さ位置に液封膜40が設けられていて、容器本体20内の希釈液21が中空綿棒42や空隙38,39を介してキャップ開口35に入り込んだとしても、液封膜40でそれ以上の液通が阻止される。したがって、航空機の貨物室に横積みした状態で航空輸送する際に気圧変動の影響を受けて上蓋が開放されてしまっても、キャップ開口端36から希釈液21が漏れ出ることはない。
【0038】
上述の構成の拭き取り検査キット10を用いて行う拭き取り検査は、前記特許文献1に記載したと同様にして行うことができる。
【0039】
すなわち、この拭き取り検査キット10を上向きにした状態で(キャップ30を上にして)開栓し、キャップ30を上方に引き上げる。綿棒42およびその先端の綿球41もキャップ30と共に引き出され、希釈液21中に浸漬されていた綿球41は該希釈液の液面レベル22よりも上方に引き上げられる。
【0040】
さらにキャップ30を上昇させて、綿球41が容器本体20の縮径部23を通過する際に、縮径部23の対向面を外方より指で軽く圧縮する。前述のように容器本体20は高密度ポリエチレン等の圧縮変形可能な軟質材料で一体成形されているので、人指で軽微な力を加えることによって容易に圧縮変形する。これにより、縮径部23の内寸を綿球41の外径よりも僅かに小さくなるまで縮小させて、綿球41の外周部に絞り込み力を加え、綿球41に付着する希釈液21の余剰分を除去する。
【0041】
なお、別の実施形態によれば、縮径部23の内寸が当初から綿球41の外径よりも僅かに小さく設定されており、開栓時に綿球41が縮径部23を通過する際に、綿球41の外周部に対して自動的に絞り込み力が与えられ、綿球41に付着する希釈液21の余剰分が除去される。この実施形態によるときは、縮径部23を人指で圧縮操作する必要なしに、綿球41に付着する希釈液21の余剰分を除去することができる。
【0042】
以上のようにして余分な希釈液21が搾り取られた綿球41を用いて検体面を拭き取る。綿球41はキャップ30に固定ないし一体化されているので、キャップ30の外筒部33を人指で把持することにより、簡易に且つ綿球41の滅菌状態を損なうことなく拭き取り操作を行うことができ、ピンセットなどを用いる必要がない。
【0043】
綿球41を用いて検体面を拭き取った後、再度これを容器本体20に収容して、キャップ30で密栓する。検体面の菌が付着された綿球41は、密栓により希釈液21中に再び浸漬され、水平方向に振るなどして混釈することにより、所定の希釈率で希釈された検体として容器本体20に収容される。好ましくはこの作業を複数回繰り返すことによって検体の回収を効率的に行うことができる。
【0044】
この時点においてもキャップ開口35内の所定高さ位置に設けられる液封膜40は破裂ないし破損することなく残存している(このことは、上蓋天面53が凹んでいないことを目視確認することで容易に判別可能である)ので、容器本体20の内容液(所定希釈率で希釈された試料原液)が中空綿棒42や空隙38,39を介してキャップ開口35に入り込んだとしても、液封膜40でそれ以上の液通が阻止される。したがって、混釈などの際に誤って上蓋が開放された場合であっても、キャップ開口端36から内容液が漏れ出ることはない。
【0045】
この試料原液を培地入りのシャーレや試験管などの検査容器に所定量分注して培養し、生菌数や大腸菌群等の微生物検査(定量検査)を行うが、この分注作業について説明する。
【0046】
試料原液が収容された拭き取り検査キット10の上蓋50が封止されたままの状態で、その上方から上蓋天面53の中央部を親指などで上方から押圧すると、その下方突起52がキャップ開口35に挿入され、その先端で、キャップ開口35に設けられて液通を遮断している液封膜40を突き破って破裂ないし破損させる(
図5に仮想線で示す)。これにより、キャップ開口35が中空筒状部32と液通する。このとき、下方突起52はキャップ開口35の内面に密着して嵌まり込んだ状態となるので、上蓋天面53は凹んだ状態に維持されるので、この凹み状態を目視確認することで、この拭き取り検査キット10が開封済であることを容易に判別することができる。
【0047】
そして、上蓋50を開き、拭き取り検査キット10を逆さにする。液封膜40の破壊によりキャップ開口35が全通しているので、容器本体20に収容されている試料原液は液通路(空隙38、空隙39、綿棒42の中空内部)からキャップ開口35を通って、キャップ開口縁36から滴下される。
【0048】
シャーレなどの検査容器内への分注作業においては、容器本体20の側面に表示した目盛り24を参照しながら必要量の分注を行うことができるので、ピペット無しでも試料原液を直接シャーレなどに正確な分注量を滴下することができる。
【0049】
また、この拭き取り検査キット10をそのまま培養容器として使用して定性検査を行う場合は、前述と同様にして上蓋天面52の中央部を親指などで押圧して液封膜40を破壊させた後に、上蓋50を開き、キャップ開口35にスポイトなどの先端を挿入して、定性検査用の培地を注入する。液封膜40の破壊によりキャップ開口35が既に全通しているので、キャップ開口35から注入された培地は液通路(空隙38、空隙39、綿棒42の中空内部)を通って、試料原液と共に容器本体20内に収容される。その後、上蓋50を閉じ、水平方向に振るなどして混釈し、所定時間(たとえば24時間)培養して、大腸菌群などの存在を変色などによって定性検査する。
【0050】
以上に本発明の一実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲における各請求項に記載の発明の範囲内において様々に変形可能である。
【0051】
たとえば、上蓋50を上方から押圧して液封膜40を破壊させるための構造として、図示実施形態では、ヒンジ51と干渉する部分を除いて略リング状に薄肉部54を形成して、上蓋中央部を親指などで押圧したとき該上蓋中央部を下方に凹ませ、下方突起52をキャップ開口35に挿入させて液封膜40を突き破るように設計しているが、上蓋天面53を大きく変形可能な軟質材質で形成することにより、これを親指などで押圧したときに同様の作用を果たすような構造を採用しても良い。
【0052】
また、図示実施形態では中空の綿棒が用いられているが、中実の棒体として構成される綿棒を使用しても良い。また、中空の綿棒を用いる場合、その壁部に中空内部に通ずる小孔(これも「液通路」を構成する)を複数形成してもよい。
【0053】
また、綿棒の中空構造を利用してテレスコープ式の伸縮自在構造としても良い。このような伸縮自在構造とされた綿棒は、縮小させた状態で容器本体に収容され、使用時には伸張させることにより手の届きにくい箇所も容易に拭き取ることができるので、利便性の高いものとなる。
【0054】
なお、上蓋50の下方突起52は、上蓋天面53を押圧して凹ませたときにキャップ開口35内の液封膜40を破裂ないし破損させることができるものであれば特にその形状は限定されないが、好ましくは、図示実施形態のように、略円筒形状の下端を斜めに切除した斜断円筒形状を有する。このような形状とすることにより、上蓋天面を押圧して凹ませたときに、その下方突起の最先端部が最初に液封膜に到達して液封膜を突き破り、徐々にその両側の縁部で液封膜を突き破っていくことになるので、比較的軽微な押圧力でもスムーズに液封膜を破裂させることができる。また、上蓋の下方突起が単なる円筒形状を有するものであると、その下端縁が液封膜に同時に到達するため、液封膜が一挙に円形に破られてしまい、その破片が落下して容器本体内の内容液に対してノイズになるリスクがあるが、斜断円筒形状とすることによってこのようなリスクを防止することができる。この効果を確実に発揮させるために、
図5に示すように、上蓋天面53を押圧して下方突起52を下方移動させたときの最下方位置(仮想線位置)において、斜断円筒形状の最後端部(図において左端部)は液封膜40に到達せず、その上方位置に止まるように設計することが好ましい。このようにすれば、上蓋天面53を最大限に押圧したときであっても、液封膜40は全周に亘って切断されることがなくなり、非切断部がキャップ開口35の内面に連結された状態で保持されるので、その破片の落下により内容液にノイズを与えることがない。