特許第5764051号(P5764051)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5764051-樹脂被覆防食PC鋼材 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764051
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】樹脂被覆防食PC鋼材
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/08 20060101AFI20150723BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20150723BHJP
   D07B 1/16 20060101ALI20150723BHJP
   E01D 19/16 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   E04C5/08
   E04G21/12 104Z
   D07B1/16
   E01D19/16
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2011-282932(P2011-282932)
(22)【出願日】2011年12月26日
(65)【公開番号】特開2013-133598(P2013-133598A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】302061613
【氏名又は名称】住友電工スチールワイヤー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】前田 修平
(72)【発明者】
【氏名】菅原 潤
(72)【発明者】
【氏名】前川 智哉
(72)【発明者】
【氏名】松下 公則
【審査官】 土屋 真理子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−193622(JP,A)
【文献】 特開昭57−146861(JP,A)
【文献】 特開平10−226973(JP,A)
【文献】 特開2007−205155(JP,A)
【文献】 特開平07−048899(JP,A)
【文献】 特開2007−291773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/08
D07B 1/16
E01D 19/16
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素線(1a)を撚り合わせたPC鋼線材(1)と、そのPC鋼線材(1)の外周及び前記素線(1a)の間に介在されたワックス(2)又はグリースと、前記PC鋼線材(1)の周りにワックス(2)又はグリースを介在して被覆された樹脂被覆(3)とから成る樹脂被覆防食PC鋼材(W)であって、前記ワックス(2)又はグリースに熱収縮抑制用フィラー(4)を混合・分散させたことを特徴とする樹脂被覆防食PC鋼材。
【請求項2】
上記ワックス(2)又はグリースにフィラー(4)を、体積比で、ワックス又はグリース:100に対してフィラー:10以上30以下としたことを特徴とする請求項1に記載の樹脂被覆防食PC鋼材。
【請求項3】
上記PC鋼線材(1)の端部の上記ワックス(2)又はグリースに吸水性ポリマーを添加したことを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂被覆防食PC鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主に、斜張橋の斜材ケーブル等として用いられる樹脂被覆防食PC鋼材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の樹脂被覆防食PC鋼材は、例えば、本願に係る発明の一実施形態を示す図1図2を参照して説明すると、複数の素線1aを撚り合わせたPC鋼線材(PC鋼線ストランド)1と、そのPC鋼線材1の外周及び前記素線1aの間に塗布・介在されたワックス(蝋)2と、前記PC鋼線材1の周りにワックス2を介在して被覆された樹脂被覆3とから成る(特許文献1請求項1、図1)。
このPC鋼材Wは、例えば、素線1aを撚り合わせたPC鋼線材1を、高圧下のワックス槽中に通してその外周全面及び各素線1a間にワックスを塗布・介在した後、そのPC鋼線材1外周面にポリエチレン樹脂等を押出し成形することによって樹脂被覆3して製造される(特許文献1段落0003、図1等参照)。特に、素線1aの表面に亜鉛メッキを施した樹脂被覆防食PC鋼材は、亜鉛メッキ、ワックス被覆及び樹脂被覆3していることによって三重防食ストランドと称される。
【0003】
この樹脂被覆防食PC鋼材が斜張橋の斜材ケーブとして用いられると、風雨や潮風に直接に晒される過酷な条件下での使用となるため、その内部に水等の鋼線材1の腐食物質が浸入する恐れがあり、その浸入が生じると、鋼線材1(素線1a)が錆びてその機械的強度(機能)の低下を招く。このため、その浸入を防ぐべく(防錆の有効性を担保すべく)、現場施行前(出荷前)にリークパスの有無を評価する気密性試験が行なわれる。
この気密性試験は、例えば、図3に示すように、500mm長さのPC鋼材Wの一端を水槽Bに漬けるとともに、他端に、空気シリンダCでもって0.2MPa×30秒の空気を印加し、その空気が一端から漏れ出るか否か(リークパスの有無)を測定するものである。そのリークパスの有無は水槽B内に気泡が生じるか否かによって判別される。図3中、AはL字状金具からなるPC鋼材Wの支持具である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−193622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、上記気密性試験において、約40%のPC鋼材Wにリークパスが生じ、合格率は60%程度と低い。
【0006】
この発明は、上記PC鋼材Wのリークパスを防ぐことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、PC鋼材の製造工程において、樹脂被覆3の形成時、ワックス2が熱履歴を受けて熱収縮し(溶融する樹脂の被覆によって熱膨張した後の冷却過程で熱収縮し)、その膨張・収縮によって、ワックス層に隙間(空隙)が生じ、その状態でリール巻きされると、その巻きによる曲げ応力がワックス層にかかり、それによって、ワックス層内の前記各隙間が繋がって連続気泡状態となり、PC鋼材全長に亘る(PC鋼材の両端に通じる)リークパスに成長すると考えた。
上記課題を達成するため、この発明は、上記考察に基づき、上記ワックスの熱収縮を抑制することとしたのである。
ワックスの熱収縮が抑制されれば、ワックス層に生じる隙間も少なくなってリール巻き時の曲げ応力によるリークパスが生じる恐れは少なくなる。
【0008】
この発明の構成としては、上記の複数の素線1aを撚り合わせたPC鋼線材1と、そのPC鋼線材1の外周及び前記素線1aの間に塗布・介在されたワックス2と、前記PC鋼線材1の周りにワックス2を介在して被覆された樹脂被覆3とから成る樹脂被覆防食PC鋼材において、前記ワックス2に熱収縮抑制用フィラーを混合・分散させた構成を採用することができる。
【0009】
この構成において、ワックス2に代えてグリースを採用することができ、熱収縮抑制用フィラーには、ワックス(グリース)に添加することによって、そのワックスの熱膨張係数を低減する材料、例えば、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、クレー、アルミナ、酸化チタン、ガラス繊維、カーボン等を採用することができる。
そのワックス2とフィラー4との混合比は、上記熱収縮を抑制して(熱膨張係数を低減して)連続気泡状態が生じない程度を実験などによって適宜に設定すれば良いが、例えば、体積比で、ワックス:100に対してフィラー:10以上30以下とすることができる。
また、PC鋼線材1の端部のワックスに吸水性ポリマーを添加し、その吸水性ポリマーの吸水膨張によってその端部の浸水を防止してPC鋼材全長への浸水をさらに防止するようにすることができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明は、以上のように構成したPC鋼材としたので、リークパスによる内部への浸水を有効に防ぐことができ、上記気密性試験における合格率を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】この発明に係るPC鋼材の一実施形態の部分斜視図
図2】同実施形態の切断図
図3】同実施形態の気密性試験説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
この実施形態のPC鋼材は、従来と同様に、図1図2に示すように、複数の表面亜鉛メッキした鋼素線(径:19.0±0.8mm)1aを撚り合わせたPC鋼線材1と、そのPC鋼線材1の外周及び前記素線1aの間に塗布・介在されたワックス2と、PC鋼線材1の周りにワックス2を介在して被覆されたポリエチレン樹脂被覆3とから成る。このPC鋼材Wも、PC鋼線材1を、高圧下のフィラー混入のワックス槽中に通してその外周全面及び各素線1a間にワックスを塗布・介在した後、そのPC鋼線材1外周面にポリエチレン樹脂を押出し成形することによって樹脂被覆3して製造した。このとき、ワックス2へのフィラー4の添加(混合・分散)は、常温のワックス2にフィラー4を添加して混練し、そのワックス2を3本ロールに通してフィラー4を均等分散させた。
【0013】
このように製造するPC鋼材において、表1に示す配合割合の試験例1〜11を製作し、その各試験例を従来と同様の図3で示す気密性試験を行なった結果を同表1に示す。その表1において、ワックス(炭化水素系)2に対するフィラー4としての炭酸カルシウム(商品名:白艶華CCR、一次粒子径:80nm)の各割合(比率)において、「○」は水槽B内に気泡が生じず、リークパスが生じなかったものを示し、「×」は水槽B内に気泡が生じ、リークパスが生じたものを示す。この表1において、比重の上欄は「25℃」、同下欄は「130℃」の場合を示し、熱膨張係数「ppm/K」は、25〜130℃の温度域における値、熱膨張減少体積は、130℃から25℃に降温し、試験例1の減少率を100とした時の各試験例1〜11の減少率である。
【0014】
【表1】
【0015】
この試験結果から、体積比で、ワックス:100に対してフィラー:10以上30以下であれば、混合・塗装が可能であって、例えば、隙間の発生体積は、フィラー無添加の試験例1に比べて試験例8が78%低減する(熱収縮減少体積)等して、リークパスが生じ難いことが理解できる。
この態様のPC鋼材Wにおいて、ワックス2に代えてグラウト材として同等のグリースを採用しても同様な結果を得ることができ、また、PC鋼材Wの端部のワックス(グリース)2に吸水性ポリマーを添加したところ、試験例1、2においても、リークパスが生じなかった。
【0016】
因みに、通常、炭酸カルシウムは、増量材として使用されてワックス(グリース)2に対し価格が低いため、この実施形態におけるワックス2の炭酸カルシウム4の添加は、この発明の作用効果を発揮するとともに価格的にも有利なものとなる。
【0017】
なお、樹脂被覆3にはポリエチレン樹脂でなくても、ポリプロピレン樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリアミド系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、アクリルニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアリレート、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリオレフィン系ポリエチレン等を採用し得て、それらの樹脂被覆3にはカーボン等の顔料を混合させて耐候性を高めることが好ましい。また、素線1aの撚り数も7本に限らず、19本等と任意である。このように、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0018】
1 PC鋼線材
1a 鋼線(素線)
2 ワックス
3 樹脂被覆
4 熱収縮抑制用フィラー(炭酸カルシウム)
W 樹脂被覆防食PC鋼材
図1
図2
図3