【課題を解決するための手段】
【0008】
この点について、本発明者らは、高い化学的純度、すなわち低い窒素含量を有する単結晶ダイヤモンド材料であって、該ダイヤモンド材料の表面を加工して結晶欠陥の存在を最小限にしてある単結晶ダイヤモンド材料を用いて、量子スピン欠陥を含むソリッドステートシステムを形成できることを見い出した。驚くべきことに、該材料を量子スピン欠陥のホストとして使用した場合、室温で長いT2時間が得られ、かつデバイスに読み書きするために使用する光学遷移の周波数が安定していることが分かった。
従って、本発明は、ホスト材料と量子スピン欠陥とを含むソリッドステートシステムであって、前記量子スピン欠陥が室温で約300μs以上のT2を有し、前記ホスト材料が、約20ppb以下の全窒素濃度を有する単結晶CVDダイヤモンドの層を含み、前記量子スピン欠陥が形成されている所に最も近い表面上の点に中心がある約5μmの半径の円によって定義される領域内の前記単結晶ダイヤモンドの表面粗さR
qが約10nm以下である、前記ソリッドステートシステムを提供する。
本発明のソリッドステートシステムでは、量子スピン欠陥、例えばNV欠陥は室温で驚くほど長いT2値を有する。
量子スピン欠陥の読み出しを行なうために使用する技術、かつその調製方法、例えば、数ミクロンの表面内で欠陥を導入できるだけの注入手法のおかげで、この特徴づけは一般的にホスト材料の表面の約100μm以内の材料の領域上で行なわれる。従って、ホスト材料のこの領域は特に高い品質(すなわち、実質的に損傷がない)の領域であり、また量子スピン欠陥が容易にアクセスできるように該材料のこの領域内に位置していることが望ましい。この点で、本発明者らは、低い表面粗さR
qを獲得するように単結晶ダイヤモンドホスト材料の表面を加工することによって、加工表面から100μm未満の距離に量子スピン欠陥が位置するようにホスト材料として本発明の合成ダイヤモンド材料を使用した場合、高いT2値及び高いスペクトル安定性を得ることができることを見い出した。量子スピン欠陥のこの位置決めは、例えば、導波路への光学的連結によって、量子スピン欠陥を特徴づけ及び「読み出し」できるように、最終用途で容易にアクセスできることを意味する。
【0009】
単結晶ダイヤモンドホスト材料の中に量子スピン欠陥を形成する前か後のどちらかに、単結晶ダイヤモンドホスト材料の表面を加工することができる。この点では、ホスト材料の調製後に量子スピン欠陥、例えばNV中心を形成することができる。従って、さらなる態様では、本発明は、ホスト材料と、室温で約300μs以上のT2を有する量子スピン欠陥とを含むソリッドステートシステムであって、前記ホスト材料が、約20ppb以下の全窒素濃度を有する、化学蒸着(CVD)プロセスによって調製された単結晶ダイヤモンドを含む前記ソリッドステートシステムの調製方法であって、以下の工程:
前記ホスト材料内に量子スピン欠陥を形成する工程(ここで、前記ホスト材料の表面は、前記量子スピン欠陥が形成される所に最も近い表面上の点に中心がある約5μmの半径の円によって定義される領域内の前記単結晶ダイヤモンドの表面粗さR
qが約10nm以下であるように加工されている)
を含む方法を提供する。
或いは、表面の加工前にホスト材料内に量子スピン欠陥を形成してよい。この点について、本発明はさらに、ホスト材料と、室温で約300μs以上のT2を有する量子スピン欠陥とを含むソリッドステートシステムであって、前記ホスト材料が、約20ppb以下の全窒素濃度を有する、単結晶CVDダイヤモンドの層を含む前記ソリッドステートシステムの調製方法であって、以下の工程:
量子スピン欠陥が形成されているホスト材料の表面を、前記量子スピン欠陥が形成されている所に最も近い表面上の点に中心がある約5μmの半径の円によって定義される領域内の前記単結晶ダイヤモンドの表面粗さR
qが約10nm以下になるように加工する工程
を含む方法を提供する。
【0010】
ホスト材料中に量子スピン欠陥が存在する場合、該材料の最終用途では、量子スピン欠陥を特徴づけ及び読み出す必要があるだろう。ホスト材料と欠陥を含むシステムが、例えば量子計算用途に有用であるためには、量子スピン欠陥を特徴づけ及び読み出すために使用する光学遷移の周波数が高いスペクトル安定性を有する必要がある。このことが、ある量子スピン欠陥をいずれの他の量子スピン欠陥からも区別できない、量子の絡み合いに必要な条件を保証する。
量子スピン欠陥、例えば、NV
-中心のスペクトル安定性は、室温(約27℃(300K))で測定された経時的に中心から放出された光子の周波数の広がりによって定量化される。NV
-中心の場合、測定される光子は、m
s=±1励起状態の電子がm
s=0基底状態に緩和(すなわち、下方遷移)するときに放出される光子である。ゼロフォノンライン(ZPL)と関係がある光子は約4.7×10
14Hz(470THz)の周波数に対応する637nmという公称波長を有する。ZPLの光子は分光計に認められ、それらの周波数が決定される。多数の光子の周波数を測定することによって、特定の周波数を有する光子の数対光子の周波数のヒストグラムをプロットすることができる。驚くべきことに、本発明のソリッドステートシステムでは、量子欠陥が特に安定した光学遷移を示す。
【0011】
本発明者らは、高い化学的純度を有する単結晶ダイヤモンド材料はスピントロニクス用途で特に有用であることを確認した。従って、さらなる態様では、本発明は、約20ppb以下の全窒素濃度を有する単結晶CVDダイヤモンドのスピントロニクス用途における使用に関する。
この発明のダイヤモンド材料は非常に低い不純物レベル及び非常に低い付随点欠陥レベルを有する。さらに、本発明のダイヤモンド材料は、非常に低い転位密度及び歪み、並びに空孔及び自己格子間濃度(self-interstitial concentratio)を有し、該材料の光吸収スペクトルが本質的に完全な天然の同位体存在度のダイヤモンド格子の光吸収スペクトルであり、それ自体、ダイヤモンドである材料においてさらに改善し得ないように、成長温度と関係がある熱力学的平衡値に十分に近い。
【0012】
本明細書では、用語「ppm」を用いて百万分率を表す。
本明細書では、用語「ppb」を用いて十億分率を表す。
本明細書では、「高い化学的純度」という用語を用いて、約20ppb以下、好ましくは約10ppb以下、好ましくは約5ppb以下、好ましくは約2ppb以下、好ましくは約1ppb以下、好ましくは約0.5ppb以下、好ましくは約0.2ppb以下、好ましくは約0.1ppb以下の全窒素濃度を有する単結晶ダイヤモンド材料を示す。
本明細書では、用語「量子スピン欠陥」を用いて、2つ以上の磁気スピン状態を有し、かつホスト材料中に取り込まれると量子ビットとして使用できる常磁性欠陥中心を表す。好ましくは量子スピン欠陥はNV中心である。
本明細書では、用語「スピントロニクス用途」を用いて、電子の量子スピン状態を活用する用途を表す。例として、量子計算並びに量子暗号法及び磁気測定が挙げられる。
本明細書では、用語「室温」を用いて約27℃(300K)の温度を表す。
【0013】
用語「表面粗さR
a」(「中心線平均」又は「c.l.a」と表すこともある)は、British Standard BS 1134 Part 1及びPart 2に従い、針式プロフィロメーター(stylus profilometer)によって、0.08mmの長さにわたって測定された、平均線からの表面プロファイルの絶定偏差の算術平均を表す。R
aの数学的記述(“Tribology”, I. M. Hutchings, Pub. Edward Arnold (London), 1992, 8〜9ページより)は以下の通りである。
【0014】
【数1】
【0015】
「表面粗さR
q」は、二乗平均平方根を表す(「RMS粗さ」と称することもある)。R
qに言及している場合、それは典型的に、British Standard BS 1134 Part 1及びPart 2に従い、針式プロフィロメーターを用いて0.08mmの長さに渡って測定されるか、又は原子間力顕微鏡のような走査プローブ機器を用いて、数μm×数μmの面積(例えば1μm×1μm又は2μm×2μm)にわたって測定され;R
qに言及している場合、R
qを走査プローブ機器を用いて測定すると特に述べていない限り、R
qは針式プロフィロメーターを用いて測定される。R
qの数学的記述(“Tribology”, I. M. Hutchings, Pub. Edward Arnold (London), 1992, 8〜9ページより)は以下の通りである。
【0016】
【数2】
【0017】
ガウス分布(Gaussian distribution)の表面高を有する表面では、R
q=1.25R
aである(“Tribology”, I. M. Hutchings, Pub. Edward Arnold (London), 1992, 8〜9ページより)。
本発明のソリッドステートシステムはホスト材料と量子スピン欠陥とを含む。ホスト材料は約20ppb以下の全窒素濃度を有する単結晶CVDダイヤモンドの層を含む。
本発明のソリッドステートシステムの単結晶CVDダイヤモンドホスト材料は化学蒸着(CVD)プロセスによって製造される。ホモエピタキシャル結晶CVDダイヤモンドを含め、ダイヤモンド材料の合成方法は今やよく確立されており、特許及び他の文献に広く記載されている。ダイヤモンド材料が基板の成長表面上に沈着される場合、本方法は一般的に合成装置に入力される源ガスを供給する工程を含む。合成装置内部では、合成環境の源ガスは、原子形態の水素又はハロゲン(例えばF、Cl)並びにC又は炭素含有ラジカル及び他の反応種、例えばCH
x、CF
x(xは1〜4であり得る)に解離される。さらに、窒素源及びホウ素源として酸素含有源が存在することもある。多くのプロセスでは、ヘリウム、ネオン又はアルゴン等の不活性ガスも存在する。従って、典型的な源ガスは炭化水素C
xH
y(式中、x及びyはそれぞれ1〜10であり得る)、又はハロカーボンC
xH
yHal
z(式中、x及びzはそれぞれ1〜10であり得、yは0〜10であり得る)、及び任意に以下の1種以上を含んでよい:CO
x(式中、xは0.5〜2であり得る)、O
2、H
2、N
2、NH
3、B
2H
6及び不活性ガス。各ガスは、その天然の同位体比で存在してよく、又は相対同位体比を人工的に制御してもよい。例えば、水素は重水素又は三重水素として存在してよく、炭素は
12C又は
13Cとして存在してよい。
【0018】
CVDプロセスによるその製造の結果として、本発明のソリッドステートシステムのホスト材料として使用する単結晶ダイヤモンドの層は、水素とその同位体を除き、約1ppm以下、或いは約0.1ppm以下、或いは約0.01ppm以下、或いは約0.03ppm以下、或いは約0.001ppm以下の全化学的不純物濃度を有する。
単結晶ダイヤモンド材料の層の好ましい厚さは、ダイヤモンド材料の層を含むソリッドステートシステムを使用する最終用途によって決まるであろう。例えば、単結晶ダイヤモンド層の厚さは、100μm以下、或いは約50μm以下、或いは約20μm以下、或いは約10μm以下であってよい。これは、ダイヤモンド層を従来のダイヤモンド支持層と併用するつもりの場合に有利である。取扱いの容易さのため、ダイヤモンド材料の層は少なくとも0.1μm以上、好ましくは約0.2μm以上、好ましくは約0.5μm以上の厚さを有してよい。
或いは、合成ダイヤモンド材料の層の厚さは100μm以上、場合によっては200μm以上であってよい。合成ダイヤモンド材料の厚さは、約2000μm未満、或いは約1000μm未満である。有利なことに、層がこのような厚さを有する場合、機械的に頑強な十分な厚さであり、基板から引き離して合成ダイヤモンド材料の自立層を提供することができる。合成ダイヤモンドの層を厚くし過ぎると、コストが相当高くなり、層の作製が困難になり、特に、前述したように、表面粗さR
a又はR
qは厚さが増すにつれて高くなる傾向があるので、厚くし過ぎないことが好ましい。
【0019】
本発明は、単結晶ダイヤモンドを量子スピン欠陥用のホスト材料として使用する予定の場合、ダイヤモンドの化学的純度を最大にして、量子スピン欠陥に有害な影響を及ぼし得る格子欠陥及び種の存在を最小限にすることが望ましい。合成ダイヤモンド材料の層の化学的純度を最大にするためには、合成ダイヤモンド材料の層中の窒素の全濃度を最小限にすることが望ましい。この点について、窒素の全濃度は、約20ppb以下、好ましくは約10ppb以下、好ましくは約5ppb以下、好ましくは約2ppb以下、好ましくは約1ppb以下、好ましくは約0.5ppb以下、好ましくは約0.2ppb以下、好ましくは約0.1ppb以下である。
二次イオン質量分析(SIMS)によって、ダイヤモンド材料中の全窒素を測定することができる。SIMSは非常に感度の高い技術であり、典型的に数nm〜数μmの範囲の薄層の元素分析を行なうために使用できる。この技術では、表面を一次イオンビームでスパッタし、スパッタされた材料の、表面からイオンとして離れる部分を質量分析法で分析する。特定種の計数率を標準濃度と比較することによって、かつスパッタホールの深さを測定することによって、深さ対濃度のプロファイルを生成することができる。所定領域で一連の値を取ってから平均値を求めることができる。
電子常磁性共鳴(EPR)によって、単置換窒素として存在する窒素を測定することができる。感度の下限値は約1ppb未満(約2×10
14cm
-3未満)である。CVDダイヤモンド中の大多数の窒素は単置換窒素として存在する。この点について、単置換窒素は典型的にCVDダイヤモンド中に存在する窒素の約99%以上を占める。
NV中心として存在する窒素は、W15 EPR中心と関連付けられており、EPRによって、約1ppb(約2×10
14cm
-3)の濃度に至るまで測定することができる。共焦点フォトルミネセンス(共焦点PL)は個々のNV中心を同定できるので、計数手段を用いて極端に低い濃度を測定することができる。発明者らは、全窒素濃度が約100ppbの場合、NV中心の濃度は典型的にCVDダイヤモンド中の全N濃度の約1/10〜約1/100、さらに典型的には約1/20〜約1/50、さらに典型的には約1/30であることを見い出した。この割合をより低いNV濃度に外挿することは妥当であると考えられる。
【0020】
本発明者らは、単結晶ダイヤモンド材料の層中の他の不純物の存在を最小限にすることも望ましいと確認した。この点について、単結晶CVDダイヤモンドの層は、以下の基準の1つ以上を満たすことが好ましい:
(i)ホウ素の濃度が約100ppb以下、好ましくは約50ppb以下、好ましくは約20ppb以下、好ましくは約10ppb以下、好ましくは約5ppb以下、好ましくは約2ppb以下、好ましくは約1ppb以下、好ましくは約0.5ppb以下、好ましくは約0.2ppb以下、好ましくは約0.1ppb以下である;
(ii)非補償置換ホウ素の濃度が約100ppb以下、好ましくは約50ppb以下、好ましくは約20ppb以下、好ましくは約10ppb以下、好ましくは約5ppb以下、好ましくは約2ppb以下、好ましくは約1ppb以下、好ましくは約0.5ppb以下、好ましくは約0.2ppb以下、好ましくは約0.1ppb以下である;
(iii)ケイ素の濃度が約100ppb以下、好ましくは約50ppb以下、好ましくは約20ppb以下、好ましくは約10ppb以下、好ましくは約5ppb以下、好ましくは約2ppb以下、好ましくは約1ppb以下、好ましくは約0.5ppb以下、好ましくは約0.2ppb以下、好ましくは約0.1ppb以下、好ましくは約0.05ppb以下である;
(iv)約1332.5cm
-1のシフトにおけるダイヤモンドラマン線の強度に対して正規化された737nmのフォトルミネセンス(PL)線の強度で特徴づけられる(両者とも約-196℃(約77K)の温度で測定される)ケイ素空孔(「SiV」とも称する)の濃度が約0.5以下、好ましくは約0.2以下、好ましくは約0.1以下、好ましくは約0.05以下、好ましくは約0.02以下、好ましくは約0.01以下、好ましくは約0.005以下である;
(v)固有常磁性欠陥、すなわち非ゼロスピン磁気スピンX
-/+を有する欠陥の濃度が約1ppm以下、好ましくは約0.5ppm以下、好ましくは約0.2ppm以下、好ましくは約0.1ppm以下、好ましくは約0.05ppm以下、好ましくは約0.02ppm以下、好ましくは約0.01ppm以下、好ましくは約0.005ppm以下、好ましくは約0.001ppm以下である;
(vi)いずれの単一の非水素不純物の濃度も約5ppm以下であり、好ましくは水素とその同位体を除くいずれの単一の不純物のレベルも約1ppm以下、好ましくは約0.5ppm以下である;
(vii)水素とその同位体を除く全不純物含量が約10ppm以下であり、好ましくは水素とその同位体を除く全不純物含量が約5ppm以下、好ましくは約2ppm以下である;及び
(viii)水素不純物(詳細には水素とその同位体)の濃度が約10
18cm
-3以下、好ましくは約10
17cm
-3以下、好ましくは約10
16cm
-3以下、好ましくは約10
15cm
-3以下である。
【0021】
単結晶CVDダイヤモンドは、(i)〜(viii)のいずれの特徴をいずれの数及びいずれの組合せで満たしてもよい。一実施形態では、単結晶CVDダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の2つをいずれの組合せで満たしてもよい。代替実施形態では、単結晶CVDダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の3つをいずれの組合せで満たしてもよい。代替実施形態では、単結晶CVDダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の4つをいずれの組合せで満たしてもよい。代替実施形態では、単結晶CVDダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の5つをいずれの組合せで満たしてもよい。代替実施形態では、単結晶CVDダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の6つをいずれの組合せで満たしてもよい。代替実施形態では、単結晶CVDダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の7つをいずれの組合せで満たしてもよい。代替実施形態では、単結晶CVDダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の8つ全てを満たしてよい。
SIMSを用いて、ホウ素の濃度及びケイ素の濃度を決定し得る。
静電容量-電圧(CV)法を用いて、非補償置換ホウ素の濃度を測定し得る。
約1332.5cm
-1のシフトにおけるダイヤモンドラマン線の強度に対して正規化された737nmのフォトルミネセンス(PL)線の強度(両者とも約-196℃(約77K)の温度で測定される)によって、ケイ素空孔、Si-Vの濃度を特徴づけ得る。
EPR技術を用いて、常磁性欠陥の濃度を決定し得る。
固有常磁性欠陥は、転位及び空孔クラスターのような、該材料に固有の非ゼロスピンを有する格子欠陥である。g=2.0028で電子常磁性共鳴(EPR)を用いて該欠陥の濃度を決定することができる。この線は格子欠陥の存在に関連していると考えられる。
二次イオン質量分析(SIMS)、グロー放電質量分析(GDMS)、燃焼質量分析(CMS)、電子常磁性共鳴(EPR)及び赤外線(IR)吸収によって不純物濃度を測定することができ、単置換窒素についてはさらに270nmの光吸収測定(燃焼解析で破壊的に分析したサンプルから得た標準値に対して較正される)によって測定され得る。上記「不純物」は、水素とその同位体形を除外する。
【0022】
本発明のソリッドステートシステムのホスト材料として好適な単結晶CVDダイヤモンド材料の例は、WO01/96333に記載されているものである。
さらに詳しくは、単結晶ダイヤモンド材料の層は、いくつかの電子的特性の少なくとも1つを有し得る。
この点について、本発明のソリッドステートシステムの単結晶CVDダイヤモンドの層は、オフ状態で、全て50V/μm及び27℃(300K)(又はこの発明の目的では等価とみなされる20℃)の印加場で測定される約1×10
12Ω.cm以上、好ましくは約2×10
13Ω.cm以上、好ましくは約5×10
14Ω.cm以上の抵抗率R
1を有し得る。このような高印加場における該抵抗率は、ダイヤモンドの化学的純度並びに不純物及び欠陥の実質的不在の指標である。低い化学的純度又は結晶完全性の材料は、より低い例えば30V/μm未満の印加場で高い抵抗率を示し得るが、30V/μmより高く、一般的に45V/μmによる印加場で急速に漏れ電流が上昇する破壊挙動を示す。技術上周知の方法による漏れ(暗)電流の測定から抵抗率を決定できる。電圧源への外部接続を行なってから、部分的又は全体的に被包してフラッシュオーバーのリスクを回避できる適切な接点(contact)を受け入れるため(蒸発、スパッタ又はドープダイヤモンド)、標準的なダイヤモンド浄化法を用いて浄化した均一厚のプレートとして試験用サンプルを調製する。被包が、測定される漏れ電流を有意には高めないようにすることが重要である。典型的サンプルサイズは、0.01〜0.5mmの厚さで横方向が3×3mm〜50×50mmであるが、それより小さくても大きくても使用し得る。
【0023】
これとは別に又はこれに加えて、本発明のソリッドステートシステムの単結晶CVDダイヤモンドの層は、イオン状態で長いキャリア寿命を有する高電流、さらに詳細には、全て約50V/μmの印加場及び約27℃(300K)の温度で測定された約1.5×10
-6cm
2/V以上、好ましくは約4.0×10
-6cm
2/V以上、好ましくは約6.0×10
-6cm
2/V以上の積μτを有し得る。μは電荷キャリアの移動度であり、τは電荷キャリアの寿命であり、その積は、電荷キャリアの全電荷変位又は電流への寄与を表す。この特性を測定し、電荷収集距離として表すこともできる。
積μτは下記方程式を用いて電荷収集距離に関連付けられる。
μτE=CCD
(cm
2/Vs)×(s)×(V/cm)=cm
式中、E=印加場
本発明のソリッドステートシステムの単結晶CVDダイヤモンド、特にその好ましい形態の層は、高い積μτを有し、いずれの他の既知単結晶CVDダイヤモンドを用いて達成されているよりずっと高い電荷収集距離につながる。
電極を用いて電場をサンプルに印加すると、サンプルの光子照射によって発生した電子正孔(electron-hole)対を分離することができる。正孔はカソードに向かってドリフトし、電子はアノードに向かってドリフトする。短波長及びダイヤモンドのバンドギャップより高い光子エネルギーを有する光(紫外線若しくはUV光)はダイヤモンド中への非常に小さい透過深さを有し、このタイプの光を利用して、どちらの電極が照射されるかにのみ左右される、あるタイプのキャリアの寄与を同定することができる。
【0024】
この明細書で言及する積μτは、以下の方法で測定される。
(i)ダイヤモンドのサンプルを約100μmを超える厚さのプレートとして調製する。
(ii)ダイヤモンドプレートの両面にTi半透明接点をスパッタしてから標準的なフォトリソグラフィー技術を用いてパターン形成する。このプロセスが適切な接点を形成する。
(iii)10μsパルスの単色Xe光(波長218nm)を用いてキャリアを励起させ、発生した光電流を外部回路で測定する。10μsのパルス長は、輸送時間及びキャリア寿命などの他のプロセスよりはるかに長く、このパルスの間の全時間でシステムが平衡状態であるとみなすことができる。この波長でダイヤモンド中への光の透過は数ミクロンでしかない。相対的に低い光強度を使用するので(約0.1W/cm
2)、N
0は相対的に低く、内部場は印加場によって合理的に近似される。それより高いと移動度が場依存性になる閾値未満に印加場を維持する。また、その値より高いと、有意な割合の電荷キャリアがダイヤモンドの向こう側に達して、収集された全電荷が飽和を示す(ブロッキング接点によって;非ブロッキング接点はこの点で利益を示す)値未満に印加場を維持する。
(iv)積μτは、下記Hechtの関係を用いて、収集電荷を印加電圧に関係づけることによって導かれる。
Q=N
0eμτE/D[1-exp{-D/(μτE)}]
この方程式中、Qは無照射接点で収集された電荷であり、N
0は光パスルによって発生した電子正孔対の全数であり、Eは印加電場であり、Dはサンプル厚さであり、かつμτは決定すべき移動度と寿命の積である。
(v)例として、照射電極がアノード(カソード)の場合、電荷キャリアは数μmの表面内で発生され、電極(正孔)の近接電極への電荷変位は無視してよい。対照的に、μとτが両方とも無照射電極に向けて移動する特定の電荷キャリアに特異的な場合、反対の接点へ向けた正孔(電子)の電荷変位は有意であり、積μτによって制限される。
【0025】
これとは別に、又はこれに加えて、本発明のソリッドステートシステムの単結晶CVDダイヤモンドの層は、27℃(300K)で測定された約2400cm
2V
-1s
-1以上、好ましくは約3000cm
2V
-1s
-1以上、好ましくは約4000cm
2V
-1s
-1以上の電子移動度(μ
e)を有し得る。高品質のIIa型天然ダイヤモンドでは、27℃(300K)で電子移動度が典型的に1800cm
2V
-1s
-1であると報告され、異例の値として2200cm
2V
-1s
-1まで報告されている。
これとは別に、又はこれに加えて、本発明のソリッドステートシステムの単結晶CVDダイヤモンドの層は、27℃(300K)で測定された約2100cm
2V
-1s
-1以上、好ましくは約2500cm
2V
-1s
-1以上、好ましくは約3000cm
2V
-1s
-1以上の正孔移動度(μ
h)を有し得る。高品質のIIa型天然ダイヤモンドでは、27℃(300K)で正孔移動度が典型的に1200cm
2V
-1s
-1であると報告され、異例の値として1900cm
2V
-1s
-1まで報告されている。
これとは別に、又はこれに加えて、本発明のソリッドステートシステムの単結晶CVDダイヤモンドの層は、約150μm以上、好ましくは約400μm以上、好ましくは約600μm以上(全て1V/μm及び27℃(300K)の印加場で測定された収集距離)という高い電荷収集距離を有し得る。高品質のIIa型天然ダイヤモンドでは、電荷収集距離は、27℃(300K)にてかつ1V/μmの印加場で実質的に100μm未満、さらに典型的には約40μmであると報告されている。
収集距離及びその決定は技術上周知である。ダイヤモンドに衝突するUV、X線及びγ線などの放射線は、電極間の印加電圧下でドリフトする電子正孔対を形成することができる。典型的に、β及びγ線などの放射線を透過させるためには、電極をダイヤモンド(その厚さは100μm未満から1000μm超えの範囲であってよいが、典型的に200〜700μmであり、層の厚さを貫いて電荷キャリア(電子/正孔)がドリフトする)の反対表面に置く。バンドギャップの近傍以上のエネルギーを有するα放射線又はUV放射線のような、ダイヤモンド中に数μmしか透過しない高度に吸収される放射線では、ダイヤモンド層の同一面上に櫛型(inter-digitated)電極配置を利用してよく;この面は平面であってよく、或いは溝のような表面構造と関連付けながら電極を配置してもよい。
【0026】
しかしながら、電子及び正孔は有限の移動度と寿命を有するので、再結合前に一定の距離しか移動しない。電荷キャリアを形成する事象(例えばβ粒子の衝突)が起こると、一次までは、検出器からの全シグナルは電荷キャリアが移動する平均距離に依存する。この電荷変位は、電荷移動度と、印加電場(電荷にドリフト速度を与える)と、捕獲、つまり再結合が電荷のドリフトを停止する前のキャリアの再結晶寿命との積である。これが収集距離であり、電極に掃引される電荷の体積とみなすこともできる。ダイヤモンドの純度が高いほど(つまり非補償トラップのレベルが低いほど)又は結晶不完全性のレベルが低いほど、キャリアの移動度が高く及び/又はキャリアの寿命が長い。測定される収集距離は一般的に試験用サンプルの厚さによって制限され;収集距離測定がサンプル厚の約80%を超える場合、その測定値は実際の値よりむしろ低い限界の可能性がある。
【0027】
本明細書で言及する収集距離は以下の手順で決定された。
1)オームスポット接点を試験用層の両側に置く。この層は典型的に300〜700μmの厚さ及び5〜10mmの正方形であり、2〜6mm径のスポット接点を許容する。信頼できる測定のためにはオーム接点(ダイオード挙動を示す接点ではなく)の形成が重要である。これはいくつかの方法で達成し得るが、手順は典型的に以下の通りである。
i)例えば、酸素プラズマ灰を用いて、ダイヤモンドの表面を酸素終端処理して、表面電気伝導を最小限にし(デバイスの「暗電流」を減少させる);
ii)まず炭化物形成材(例えばTi、Cr)、次に保護材、典型的にAu(これにワイヤーボンドを作ることができる)のより厚い層から成るメタライゼーションをスパッタリング、蒸発又は同様の方法でダイヤモンド上に沈着させる。次に典型的には接点を約400℃〜約600℃で約1時間までの間アニールする。
2)接点へのワイヤーボンドを作り、典型的に2〜10kV/cmのバイアス電圧を用いて回路にダイヤモンドを接続する。「暗電流」つまり漏れ電流を特徴づけ、良いサンプルでは、3mm径スポット接点を用いて、2.5kV/cmで約5nA未満、さらに典型的には約100pA未満でなければならない。
3)出口面上のSiトリガー信号検出器を用いてサンプルをβ線にさらすことによって収集距離の測定を行なって、a)事象が起こったかを示し、及びb)ダイヤモンド膜内にβ粒子が停止されないことを保証する(ずっと多数の電荷キャリアが形成されることとなるであろう)。次に高利得電荷増幅器によって、かつβ粒子が横断する直線1μm当たり約36の電子正孔対という電荷キャリアの既知形成速度に基づいて、ダイヤモンドからのシグナルを解読し、測定された電荷から下記方程式によって収集距離を計算することができる。
CCD=CCE×t
式中、t=サンプル厚
CCE=電荷収集効率(charge collection efficiency)=
収集された電荷/発生した全電荷。
CCD=電荷収集距離(charge collection distance)。
4)完全性を期すため、正逆両方で、印加バイアス電圧の一連の値について収集距離を測定し、10kV/cmバイアスまでのバイアス電圧に対して良い線形挙動を示すサンプルについてのみ10kV/cmのバイアス電圧における特徴的収集距離を見積もる。さらに、質が悪いサンプルについての測定値は時間及び処理歴とともに劣化し得るので、測定手順全体を数回繰り返して挙動の再現性を確保する。
5)収集距離の測定におけるさらなる問題は、材料がポンプ状態又は非ポンプ状態かである。材料の「ポンピング」(「プライミング」とも呼ばれる)は、測定される収集距離が典型的に多結晶性CVDダイヤモンドで1.6の係数まで(これは変化し得るが)上昇し得るときに、材料を特定タイプの放射線(β、γなど)に十分な時間さらすことを含む。プライミングの効果は高純度単結晶では一般的により低く;1.05〜1.2の係数までのプライミングであり、サンプルによってはプライミングを測定できない。十分に強い白色光又は選択された波長の光にさらすことによって脱ポンピングを達成することができ、このプロセスは全体的に可逆性であると考えられる。この明細書で言及する収集距離は、材料の最終用途が何であれ、全て非ポンプ状態である。特定用途(例えば高エネルギー粒子物理実験)では、いずれの脱ポンピング放射線からも検出器を遮蔽することによって、ポンピングに伴う収集距離の増加を有利に用いて個々の事象の検出可能性を増強することができる。他の用途では、ポンピングに伴うデバイス利得の不安定性が非常に有害である。
【0028】
上記特徴は、ダイヤモンドの大部分の体積で観察可能である。具体的な特性を観察できない、一般的に10体積%未満の体積部分があり得る。この点について、本明細書では用語「大部分の体積」を用いて、連続的であり、かつ規定基準を満たさない領域を含まない単一の体積を表す。
上記特徴に加えて、本発明のソリッドステートシステムのホスト材料として使用する単結晶CVDダイヤモンドの層は、575nmバンド内に低いか存在しないカソードルミネセンス(CL)放出シグナルと、1332cm
-1におけるダイヤモンドラマンピークの1/1000より低いピーク高を有するArイオンレーザー励起(名目上300mWの入射ビーム)下で-196℃(77K)にて測定される関連フォトルミネセンス(PL)線を有し得る。これらのバンドは窒素空孔欠陥に関連し、それらの存在は膜内の窒素の存在を示している。競合する消光機構が存在する可能性があるため、575nm線の正規化強度は窒素の定量的尺度ではなく、その非存在は膜内に窒素が存在しないことの決定的示唆でもない。CLは、10〜40keVの典型的なビームエネルギーの電子ビームによる励起の結果生じるルミネセンスであり、サンプル表面に約30nm〜10μm侵入する。フォトルミネセンスはさらに一般的にはサンプル体積を貫いて励起される。
これとは別にか又はこれに加えて、本発明のソリッドステートシステムの単結晶CVDダイヤモンドの層は、-196℃(77K)で収集されたCLスペクトル内の235nmに均一な強い自由励起子(FE)ピークを有し得る。強い自由励起子ピークの存在は、転位及び不純物などの欠陥が実質的に存在しないことを示唆している。低い欠陥及び不純物密度と高いFEとの間の関連性は、多結晶性CVDダイヤモンド合成の個々の結晶について以前に報告されている。
これとは別にか又はこれに加えて、本発明のソリッドステートシステムの単結晶CVDダイヤモンドの層は、室温のUV励起フォトルミネセンススペクトルにおいて強い自由励起子放出を有し得る。自由励起子は、バンドギャップ以上の放射線、例えばArFエキシマレーザーからの193nmの放射線によって励起されることもある。このように励起されたフォトルミネセンススペクトル内の強い自由励起子放出の存在は、転位及び不純物が実質的に存在しないことを示唆している。室温で193nmにArFエキシマレーザーによって励起された自由励起子放出の強度は、自由励起子放出の量子収率が少なくとも10
-5であるような強度である。
【0029】
これとは別にか又はこれに加えて、本発明のソリッドステートシステムの単結晶CVDダイヤモンドの層は、電子常磁性共鳴(EPR)において、単置換窒素中心[N-C]
0を約40ppb以下、さらに典型的には約10ppb以下の濃度で有することがあり、低レベルの窒素混入を示唆している。
これとは別にか又はこれに加えて、本発明のソリッドステートシステムの単結晶CVDダイヤモンドの層は、EPRにおいて、g=2.0028で、約1×10
17cm
-3以下、さらに典型的には約5×10
16cm
-3以下、さらに典型的には約2×10
16cm
-3以下、さらに典型的には約1×10
16cm
-3以下、さらに典型的には約5×10
15cm
-3以下、さらに典型的には約2×10
15cm
-3以下のスピン密度を有し得る。単結晶ダイヤモンドでは、このg=2.0028におけるラインは格子欠陥濃度に関連し、典型的に、天然のIIa型ダイヤモンド、圧入によって塑性的に変形したCVDダイヤモンド、及び品質の悪いホモエピタキシャルダイヤモンドで大きい。
これとは別にか又はこれに加えて、本発明のソリッドステートシステムの単結晶CVDダイヤモンドの層は、ダイヤモンドの理論最大値に近いUV/可視及びIR(赤外)透明性を有する優れた光学特性を有し得る。さらに詳細には、UVでは270nmに単一の実質的な窒素吸収が少ないか又は存在せず、またIRではスペクトル範囲2500〜3400cm
-1にC-H伸縮結合が少ないか又は存在しない。
【0030】
本発明のソリッドステートシステムの単結晶CVDダイヤモンドの層をダイヤモンド基板(基板が合成、天然、又はCVDダイヤモンドであれ)に付着させることができる。このことは、厚さがその用途を制限する場合に、より大きい全体厚を与えることができ、或いは加工処理によってその厚さが減じてしまったCVDダイヤモンドに支持体をもたらすことを意味するので有利である。さらに、単結晶CVDダイヤモンドの層は多層デバイス内に1つの層を形成することができるが、他のダイヤモンド層は、例えば、ドープされてCVDダイヤモンドに電気接点又は電気接合部をもたらし得るか、或いはCVDダイヤモンドへの支持体をもたらすために存在するのみである。
一実施形態では、本発明のソリッドステートシステム及び/又はスピントロニクス用途で使うのに好適な単結晶CVDダイヤモンドの層は、実質的に結晶欠陥がない表面を有するダイヤモンド基板を供給する工程、源ガスを供給する工程、源ガスを解離させる工程及びホモエピタキシャルダイヤモンドを、300ppb未満の窒素を含む雰囲気内で実質的に結晶欠陥がない表面上で成長させる工程を含む方法で製造され得る。
本発明のホスト材料の単結晶CVDダイヤモンドの層を製造するために使う基板は、好ましくはダイヤモンド基板、好ましくはホモエピタキシャルダイヤモンド合成で使うのに適ししているダイヤモンド基板である。本発明の基板は低複屈折Ia又はIIb型天然ダイヤモンド又は低複屈折Ib又はIIa型高圧高温(HPHT)合成ダイヤモンドであってよい。基板が、上にCVDダイヤモンド基板層が、基板の成長表面がCVDダイヤモンド基板層の表面であるように合成されているHPHT合成ダイヤモンド層を含んでよい。或いは、本発明の基板が単結晶CVDダイヤモンドであってよい。基板は、ホモエピタキシャル単結晶CVDダイヤモンド合成によって製造されたホモエピタキシャル単結晶CVDダイヤモンドであってよい(本明細書ではホモエピタキシャル基板としても知られる)。
【0031】
好ましくはダイヤモンド基板は低い複屈折を有する。この点について、基板が以下の少なくとも1つを満たすことが好ましい。
a)X線トポグラフィーで特徴づけられる拡張欠陥の密度が、約0.014cm
2以上の面積にわたって約1000/cm
2以下;
b)光学等方性が、約0.1mm
3以上の体積にわたって約1×10
-4以下;及び
c)(004)反射に対するFWHM(「半値全幅(Full Width at Half Maximum)」)X線ロッキングカーブ幅が約120アーク秒以下。
本明細書で使用する場合、用語「拡張欠陥」は転位又は転位束及び積層欠陥(stacking fault)等の欠陥を表す。
本発明のダイヤモンド基板は、基準(a)〜(c)の少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つを有し得る。好ましくは、合成ダイヤモンド材料の層は、基準(a)及び(b)、又は基準(a)及び(c)、又は基準(b)及び(c)、さらに好ましくは(a)、(b)及び(c)を満たす。
好ましくは、ダイヤモンド基板は、X線トポグラフィーによって特徴づけられる拡張欠陥の密度が約1000/cm
2以下、好ましくは約400/cm
2以下、好ましくは約300/cm
2以下、好ましくは約200/cm
2以下、好ましくは約100/cm
2以下である。好ましくは、拡張欠陥が特徴づけられる面積は、約0.014cm
2以上、好ましくは約0.1cm
2以上、好ましくは約0.25cm
2以上、好ましくは約0.5cm
2以上、好ましくは約1cm
2以上、好ましくは約2cm
2以上である。
好ましくは、ダイヤモンド基板は光学等方性が約1×10
-4以下、好ましくは約5×10
-5以下、好ましくは約1×10
-5以下、好ましくは約5×10
-6以下、好ましくは約2×10
-6以下、好ましくは約1×10
-6以下である。好ましくはこの光学等方性は、約0.1mm
3以上、好ましくは約0.5mm
3以上、好ましくは約1mm
3以上、好ましくは約3.4mm
3以上、好ましくは約8mm
3以上、好ましくは約27mm
3以上、好ましくは約64mm
3以上、好ましくは約125mm
3以上、好ましくは約512mm
3以上、好ましくは約1000mm
3以上の体積にわたって測定される。
好ましくは、ダイヤモンド基板は、(004)X線ロッキングカーブ半値全幅(FWHM)が、約120アーク秒以下、好ましくは約50アーク秒以下、好ましくは20アーク秒以下、好ましくは約10アーク秒以下、好ましくは約7アーク秒以下、好ましくは約5アーク秒以下、好ましくは約3アーク秒以下、好ましくは約2アーク秒以下、好ましくは約1.5アーク秒以下である。好ましくは(004)X線ロッキングカーブFWHMは、約1mm×1mm以上、好ましくは約2mm×2mm以上、好ましくは約4mm×4mm以上、好ましくは約7mm×7mm以上、好ましくは約15mm×15mm以上の面積にわたって測定される。
【0032】
好ましくは、ダイヤモンド基板は、極端に低レベルの複屈折を有する。ダイヤモンドでは、複屈折は典型的に多数の拡張欠陥(例えば転位、転位束及び積層欠陥)の存在と関係があり、高レベルの局所歪みとその結果として複屈折をもたらす。好ましくは主表面積の約70%以上、好ましくは主表面積の約80%以上、好ましくは主表面積の約90%以上、好ましくは主表面積の約95%以上、好ましくは主表面積の約98%以上にわたる基板の厚さを通じた測定によって評価される最大複屈折が1×10
-4以下、好ましくは5×10
-5以下、好ましくは1×10
-5以下、好ましくは5×10
-6以下、好ましくは1×10
-6以下である。「Metripol」(Oxford Cyrosystems Ltd., Oxford, UK)のような機器を用いて複屈折を評価することができる。このような低複屈折のダイヤモンド材料はホモエピタキシャルダイヤモンド層の成長中に基板からホモエピタキシャルダイヤモンド層内に伝播する拡張欠陥(該欠陥は非ゼロ核スピンを有し、ひいては近くの量子スピン欠陥のT2時間を減少させ得る不純物原子で「装飾」され得る)の単位面積当たりの数を減らすので、該低複屈折のダイヤモンド材料を使用するのが有利である。
好ましくは、ダイヤモンド基板内の窒素濃度は、SIMS測定又はEPR測定によって決定した場合、約200ppm以下、好ましくは約150ppm以下、好ましくは約100ppm以下、好ましくは約50ppm以下、好ましくは約20ppm以下、好ましくは約10ppm以下、好ましくは約5ppm以下、好ましくは約2ppm以下、好ましくは約1ppm以下、好ましくは約0.5ppm以下、好ましくは約0.1ppm以下、好ましくは約0.01ppm以下、好ましくは約0.001ppm以下である。ダイヤモンド基板中の低い窒素濃度は、窒素不純物のより高い濃度によるダイヤモンドの格子膨張と関係があり、また基板とダイヤモンド材料との間の界面における格子不整合を除くために発生され得るいずれの界面転位とも関係がある歪みを減らすことから有利である。ダイヤモンド基板中の低い窒素濃度は、基板とCVDダイヤモンド層との間の界面から約100μm未満である量子スピン欠陥のT2時間を増やすというさらなる利点を有する。
【0033】
合成後、ダイヤモンド材料への支持層として作用するように基板を保持してよい。或いは、合成後にダイヤモンド材料から基板を除去し、処分してダイヤモンド材料を自立物として残してよい。ダイヤモンド材料は1つ以上のさらなる層(以後、「中間支持層」と称する)を含んでよい。従って、一実施形態では、本発明のダイヤモンド材料は、基板より化学的純度が高い層を含んで、付着基板(量子スピン欠陥(例えばNV中心)を含む高い化学的純度の層が続く)内の不純物関連スピン中心の作用を除去することができる。或いは、ダイヤモンド材料を基板から分離し、基板を処分して、ダイヤモンド層と1つ以上の中間支持層を含むダイヤモンド材料を残してよい。
基板がダイヤモンド基板である場合、その上でダイヤモンドの成長が起こる基板の表面は、実質的に{100}、{110}又は{111}表面であってよい。これらの各表面は、該表面には最小数のステップエッジがあることを意味する低指数を有するので、これらの表面は有利である。
基板がダイヤモンド基板である場合、基板は、実質的に<100>方向に沿って横たわっているエッジによって囲まれ得る(001)主要面を有することが好ましい。基板が、[001]方向から約10°以下、好ましくは5°以下、好ましくは4°以下、好ましくは3°以下、好ましくは2°以下、好ましくは1°以下だけ異なる法線を持つ主要面を有することがさらに好ましい。基板が、[001]方向から約0.01°以上、好ましくは約0.05°以上、好ましくは約0.2°以上、好ましくは約0.5°以上だけ異なる法線を持つ主要面を有することがさらに好ましい。或いは、基板が、[001]方向から約0.01°〜約2°、好ましくは約0.05°〜約1.5°、好ましくは約0.5°〜約1°だけ異なる法線を持つ主要面を有することが好ましい。小さいがゼロでない相違が、低いが均一密度のステップエッジをもたらすことによって、高品質の成長を得るのに助けとなり得る。基板のエッジが実質的に<100>方向に沿って整列している場合、基板のエッジが<100>方向の約10°以内、好ましくは<100>方向の約5°以内、<100>方向の約3°以内にあることが好ましい。
【0034】
本明細書では、方向、例えば結晶学的方向又は基板の成長表面に関する方向に言及する場合、用語「実質的に」は、前記方向の約10°以内、或いは前記方向の約5°以内、或いは前記方向の約4°以内、或いは前記方向の約3°以内を意味する。
その上で成長が起こる基板の表面は、実質的に結晶欠陥がない。以後使用する場合、用語「結晶欠陥」は、拡張結晶欠陥及び/又は構造上の結晶欠陥、例えば該材料に固有の転位、積層欠陥、双晶境界などを表す。
本明細書では、基板の成長表面を表す場合に「実質的に結晶欠陥がない」という表現は、後述するように、暴露(revealing)プラズマエッチングによって決定した場合、約5×10
3mm
-2以下、好ましくは約1×10
2mm
-2以下の成長表面上の結晶欠陥を表す。
実質的に結晶欠陥がない成長表面を有する基板を使用するのが有利である。その上でダイヤモンド材料が合成される基板の成長表面が多数の結晶欠陥を含むと、合成ダイヤモンド材料中の結晶欠陥の濃度が高くなるからである。合成ダイヤモンド材料中の結晶欠陥の濃度が低いと、常磁性欠陥の濃度を下げ、ダイヤモンド層内の量子ビット欠陥中心のT2を増やすので、スピントロニクス用途に有利である。結晶欠陥は材料中の歪みの存在をもたらし、順次、量子スピン欠陥の光学特性に影響を及ぼし得るので、結晶欠陥の密度を下げることが有利である。
【0035】
欠陥密度は、欠陥を暴露するために最適化されたプラズマ又は化学エッチング(暴露プラズマエッチングとも称する)を使用後、例えば後述するタイプの短時間のプラズマエッチングを使用して最も容易に特徴づけられる。2タイプの欠陥を暴露することができる。
1)基板材料品質に固有の当該欠陥。選択された天然ダイヤモンドでは、これらの欠陥の密度は50/mm
2程度に低く、さらに典型的な値は10
2/mm
2であるが、他の場合には、10
6/mm
2以上であり得る。
2)研磨の結果として生じる当該欠陥であり、研磨ラインに沿った、転位構造や「チャタートラック(chatter track)」の形態の微小亀裂が挙げられる。これらの密度はサンプルによってかなり変化することがあり、典型的な値は、約10
2/mm
2から、不十分に研磨された領域又はサンプルでは10
4/mm
2を超える値までの範囲である。
従って、上述したように、欠陥に関連する表面エッチングフィーチャー(feature)の密度が5×10
3/mm
2未満、さらに好ましくは10
2/mm
2未満であるような低い欠陥密度が好ましい。
使用し得る暴露エッチングの一タイプは、必要に応じて少量のArと必要な少量のO
2と共に主に水素を用いるプラズマエッチングである。典型的な酸素エッチング条件は、約50×10
2Pa〜約450×10
2Paの圧力、約1%〜約5%の酸素含量、0%〜約30%のアルゴン含量及びバランス水素を含むエッチングガス(全ての百分率は体積についてである)、約600℃〜約1100℃(さらに典型的には約800℃)の基板温度及び約3〜約60分の持続時間である。次にエッチング表面を光学顕微鏡で検査し、表面フィーチャーの数を数える。
従って、基板の慎重な調製によって、CVD成長が起こる基板表面及びその下の欠陥レベルを最小限にすることができる。ここで、エッチング段階は、基板を形成するための加工が完了したときに最終的に基板表面を形成する平面における該材料内の欠陥密度に影響を与え得るので、調製は、鉱物回収(天然ダイヤモンドの場合)又は合成(合成材料の場合)由来の材料に適用されるいずれのプロセスをも含む。特定の加工工程として、機械的鋸引き、ラッピング(lapping)及び研磨などの通常のダイヤモンドプロセス、並びにレーザー加工又はイオン注入などのあまり一般的でない技術並びにリフトオフ法、化学的/機械的研磨、及び液体とプラズマの両化学的加工法が挙げられる。
【0036】
有利には、基板の表面R
aを最小限にすべきである。好ましくは、いずれのプラズマエッチング前の基板の成長表面のR
aも約10nm以下、好ましくは約5nm以下、好ましくは約2nm以下、好ましくは約1nm以下、好ましくは約0.5nm以下、好ましくは約0.2nm以下である。
基板の所要のR
a及び/又は結晶方位は、高い完全性のより大きい断片から、好ましくは高い完全性の一片の単一成長セクターから基板を機械的に鋸引きするか又はレーザー鋸引きすることによって達成され得る。次に基板の主表面をラッピング及びスケイフ(scaife)研磨などの宝石細工術を利用して加工することができる。このような技術は当該分野で周知であり、本明細書では「機械加工」と称する。好ましくは、基板の成長表面をスケイフ研磨する。
機械加工した基板は、機械加工の正確な仕様によるが、表面下に数μmから数十μmまでの深さまでに広がる機械的に損傷を受けた層(「表面下損傷層」とも称する)を有することがある。
【0037】
単結晶CVDダイヤモンド層の次の成長時に、基板の機械的損傷層の効果を減じるために使用できる特有の一方法は、in situプラズマエッチングの利用である。原則として、このエッチングはin situである必要はなく、成長プロセスの直前である必要もないが、in situの場合、さらなる物理的損傷又は化学的汚染のいずれのリスクをも回避するので、最高に有益である。また、成長プロセスもプラズマに基づく場合にはin situエッチングが最も便利である。プラズマエッチングは沈着又はダイヤモンド成長プロセスと同様の条件を使用できるが、エッチング速度の良い制御を得るためには、いずれの炭素含有源ガスも存在せず、一般的にわずかに低温である。例えば、下記条件の1つ以上から成り得る。
(i)必要に応じて少量のArと所要の少量のO
2を含む主に水素を利用する酸素エッチング。典型的酸素エッチング条件は、50〜450×10
2Paの圧力、1〜4%の酸素含量、0〜30%のアルゴン含量及びバランス水素(全ての百分率は体積による)を含むエッチングガス、基板温度600〜1100℃(さらに典型的には800℃)及び3〜60分の典型的持続時間。
(ii)(i)と同様であるが、酸素が存在しない。
(iii)アルゴン、水素及び酸素に基づくだけでないエッチングの代替方法は、例えば、ハロゲン、他の不活性ガス又は窒素を利用する当該方法を利用し得る。
【0038】
典型的にエッチングは、酸素エッチング後の水素エッチングから成り、次いでプロセスは炭素源ガスの導入による合成に直接移る。エッチング時間/温度を選択して、非常に粗い面を形成することなく、また表面を横断し、ひいては深い窪みをもたらす拡張欠陥(例えば転位)に沿って広範にエッチングすることなく、加工によるいずれの残存表面損傷をも除去することができ、かついずれの表面汚染をも除去することができる。エッチングは攻撃的なので、この段階では、プラズマによってチャンバーから何の材料も気相又は基板表面に運ばれないようにエッチング要素に合わせたチャンバー設計及び材料選択が特に重要である。酸素エッチング後の水素エッチングは、結晶欠陥にはあまり特異的ではなく、酸素エッチング(該欠陥を激しく攻撃する)によって生じた成角に丸みをつけて、その後の成長のためにより滑らかで良い表面を与える。
或いは、基板の表面の成長前in situプラズマエッチングを、ex situ等方性エッチング、例えば同時係属出願PCT/IB2008/050215に記載されているようなAr-Cl
2誘導結合プラズマエッチングと置き替えるか又は該エッチングを先に行なってよい。Ar-Cl
2誘導結合プラズマエッチングを利用して、基板の表面を調製することもでき、その上のCVDダイヤモンド層が最終的に量子スピン欠陥を含むであろう。in situプラズマエッチングの前にex situ等方性エッチング、例えばAr-Cl
2エッチングを行なうと、過度に表面粗さを増やすことなく、実質的に損傷がない表面をもたらすので、有利である。好ましくは、ex situ Ar-Cl
2誘導結合プラズマエッチングを利用する場合、その後にin situエッチングを行ない、該in situエッチングの持続時間は典型的に約3分〜約15分の範囲である。
Ar-Cl
2誘導結合プラズマエッチングを約0.5mTorr(約0.0667Pa)〜約100mTorr(約13.3Pa)の範囲、さらに好ましくは約1mTorr(約0.133Pa)〜約30mTorr(約4.00Pa)の範囲、さらに好ましくは約2mTorr(約0.267Pa)〜約10mTorr(1.33Pa)の範囲の操作圧力で行なってよい。エッチャントは好ましくは少なくとも不活性ガス、好ましくはアルゴンと、ハロゲン含有ガス、好ましくは塩素(Cl
2)とから成る混合ガスである。好ましくはハロゲン含有ガスは、プロセスに添加されたガス混合物中に約1%〜約99%、さらに好ましくは約20%〜約85%、さらに好ましくは約40%〜約70%の範囲の濃度(体積で)で存在する。好ましくはガス混合物のバランスの大部分はArで補われ、さらに好ましくはガスのバランスの全部がArで補われる。
或いは不活性ガスがヘリウム、ネオン、クリプトン若しくはキセノンであってよく、又はこれらの2種以上の混合物を含むか、又はこれらの1種以上とアルゴンの混合物を含んでよい。
【0039】
単結晶CVDダイヤモンドホスト材料を製造するとき、CVD成長が起こる環境の不純物含量を正確に制御することも重要である。さらに詳しくは、ダイヤモンド成長は、実質的に窒素を含まない、すなわち約300十億分率(ppb、全ガス体積のモル分率として)未満、好ましくは約100ppb未満、好ましくは約80ppb未満、好ましくは約50ppb未満、好ましくは約20ppb未満の窒素を含む雰囲気の存在下で起こらなければならない。CVDダイヤモンド、特に多結晶性CVDダイヤモンドの合成における窒素の役割が文献で報告されている。例えば、これらの報告において、10十億分率以上の気相窒素レベルは、{100}及び{111}面間の相対的成長速度を改変して全体的に成長速度を高め、場合によっては結晶品質を高めると記述されている。さらに、一定のCVDダイヤモンド合成プロセスでは、数百万分率未満の低窒素含量を使用し得る。これらの低値の窒素レベルの測定は、例えば、ガスクロマトグラフィーによって達成できるモニタリングのような精巧なモニタリングを必要とする。該方法の例を以下に示す。
(1)標準的ガスクロマトグラフィー(GC)技術は以下から成る:最大流速と最小デッドボリュームに最適化された狭口径サンプルラインを用いて、問題の点からガスサンプルストリームを抽出し、GCサンプルコイルを通過させた後に廃棄する。GCサンプルコイルは、固定された既知体積(標準大気圧注入では典型的に1cm
3)を有する、コイルで巻き上げられた管のセクションであり、サンプルラインのその位置からキャリアガス(高純度He)ラインへ切り替わることができ、ガスクロマトグラフィーカラム内に流れ込む。これが、カラムに入るガス流内に既知体積のガスのサンプルを置く;当該技術では、この手順をサンプル注入と呼ぶ。
注入されたサンプルは第1のGCカラム(単純な無機ガスの分離用に最適化された分子ふるいで満たされている)を通ってキャリアガスによって運ばれ、一部は分離されるが、高濃度の一次ガス(例えばH
2、Ar)がカラム飽和をもたらし、窒素の完全な分離を困難にする。次に、第1のカラムからの流出物の関連セクションを第2のカラムの供給口に切り替えることによって、第2のカラム内を他のガスが通過するのを大部分回避し、カラム飽和を回避して標的ガス(N
2)の完全な分離を可能にする。この手順を「ハートカッティング(heart-cutting)」と呼ぶ。
第2のカラムの出力流が放電イオン化検出器(DID)を通り、キャリアガスを通じてサンプルの存在によってもたらされた漏れ電流の増加を検出する。ガス滞留時間(標準ガス混合物から較正される)によって化学的同一性を決定する。DIDの応答は、5桁超えの大きさにわたって線形であり、重量分析で作製してから供給業者が検証した、典型的に10〜100ppmの範囲の専用の較正ガス混合物を用いて較正される。慎重な希釈実験によって、DIDの直線性を検証することができる。
【0040】
(2)ガスクロマトグラフィーのこの既知技術をさらに修正して、この用途に合わせて以下のように開発した。ここで分析するプロセスは典型的に50〜500×10
2Paで操作する。通常のCG操作は、源ガスの大気圧を超えた過剰の圧力を利用してガスを操縦してサンプルラインに通す。ここで、ラインの廃棄末端に真空ポンプを取り付けることによって、サンプルを操縦し、大気圧未満でサンプルを引く。しかし、ガスが流れると同時に、ラインインピーダンスがラインの有意な圧力降下をもたらすことがあり、較正及び感度に影響する。結果として、サンプル注入前の短い時間閉じて、サンプルコイルの圧力を安定化でき、かつ圧力ゲージで測定するための弁をサンプルコイルと真空ポンプとの間に設ける。注入されるサンプルガスの十分な量を保証するため、サンプルコイル体積を約51cm
3に拡大する。サンプルラインの設計によっては、この技術は約70×10
2Paの圧力まで下げて効率的に操作することができる。GCの較正は、注入されるサンプルの量によって左右され、分析用原料から利用できるのと同じサンプル圧力を用いてGCを較正することによって、最高の精度を得ることができる。測定が正確であることを保証するためには、非常に高い水準の真空及びガス取扱い実務を検討しなければならない。
サンプリング点は、チャンバー内の流入ガスを特徴づけるため合成チャンバーの上流にあってチャンバー環境を特徴づけてよく、或いは最悪の場合のチャンバー内の窒素濃度の値を測定するためチャンバーの下流にあってもよい。
【0041】
源ガスは当該技術で既知のいずれのガスでもよく、解離してラジカル又は他の反応種を生成する炭素含有材料を含むであろう。ガス混合物は、一般的に原子形態の水素又はハロゲンを供給するのに適したガスをも含むであろう。
好ましくは反応器内でマイクロ波エネルギーを用いて源ガスの解離を行なう。反応器の例は技術上周知である。しかし、反応器からのいずれの不純物の移動をも最小限にすべきである。マイクロ波システムを用いて、その上でダイヤモンド成長が起こる基板表面とそのマウントを除く全ての表面から確実に離してプラズマを設置することができる。好ましいマウント材料の例は、モリブデン、タングステン、ケイ素及び炭化ケイ素である。好ましい反応器チャンバー材料の例は、ステンレススチール、アルミニウム、銅、金、白金である。
高いプラズマ出力密度を使用してよく、結果として高いマイクロ波出力(50〜150mmの基板径では、典型的に3〜60kW)及び高いガス圧力(50〜500×10
2Pa、好ましくは100〜450×10
2Pa)となる。
【0042】
上記条件を用いて、20ppb以下の全窒素濃度及び1.5×10
-6cm
2/V超えの移動度と寿命の積μτの値、例えば電子では320×10
-6cm
2/V及び正孔では390×10
-6cm
2/Vを有する高品質の単結晶CVDダイヤモンド層を製造することができた。
或いは、下記工程:
実質的に結晶欠陥がない表面を有するダイヤモンド基板を供給する工程;
高純度ガスを含む源ガス混合物を供給する工程(ここで、源ガス混合物中の窒素の濃度は約300ppb以下である);
固体炭素源を供給する工程(ここで、固体炭素源は低い窒素不純物含量を有する);
源ガス混合物及び固体炭素源の少なくとも一部を活性化及び/又は解離させてガス状炭素種を形成する工程;及び
基板の表面上でホモエピタキシャルダイヤモンド成長させる工程
を含む方法によって、本発明のホスト材料の単結晶ダイヤモンド材料の層を製造することができる。
使用する源ガスは、一般的に水素、1種以上の希ガス、例えばヘリウム、ネオン又はアルゴン、及び酸素を含み、源ガスを構成するガスは、高純度ガスである。これは、ガスが高い化学的純度を有することを意味する。窒素は大気中の最も豊富なガスなので、窒素は、ガス源中に最も一般的に取り込まれる不純物である。窒素は、置換不純物原子としても容易にダイヤモンド中に取り込まれる。この点について、特定ガスの化学的純度をその中に存在する窒素不純物の含量を基準にして数量化することができる。特に、源ガスの一部を形成する水素ガスは、好ましくは約1ppm以下の窒素不純物を含み、希ガスは好ましくは約1ppm以下の窒素不純物を含み、及び/又は酸素は好ましくは約1ppm以下の窒素不純物を含む。
この方法では、炭素源は固体炭素源であり、活性化してガス状炭素種を生じさせてから基板上のホモエピタキシャルダイヤモンド成長のために使用する。適切な固体炭素源の例としてはグラファイト及びダイヤモンドが挙げられる。典型的に該固体源はガス状前駆体(例えばCH
4)から作られる。一実施形態では、固体炭素源がダイヤモンドである。別の実施形態では、固体炭素源がグラファイト構造中への窒素の取込みが確実に最小限になるように調製されたグラファイトである。
上述したように、窒素は大気中の最も豊富なガスであり、結果として、窒素によるガス状炭素源の汚染を回避するのは困難である。しかし、本発明者らは、固体炭素源を使用することによって、この効果を最小限にできることを見い出した。この点について、本発明者らは、固体炭素源を活性化してガス状炭素種を形成してからガス状種を再沈着させることによって、形成される固体の化学的純度が向上(すなわち窒素含量が減少)することを認めた。これは、固体炭素源を生成するために用いた炭素源ガスの化学的純度は低減し得るが、それでも高い化学的純度の生成物を得られることを意味する。
炭素源は、低い窒素不純物含量を有するように選択される。本明細書では、用語「低い窒素不純物含量」を用いて、約10ppm以下の窒素の濃度を表す。好ましくは固体炭素源中の窒素の濃度は、SIMS又は燃焼分析によって測定した場合、好ましくは約5ppm以下、好ましくは約2ppm以下、好ましくは約1ppm以下である。
固体炭素源がダイヤモンドである場合、固体炭素源を用いて従来のHPHTによってか又は市販のガスに典型的な化学的純度の炭素源ガス(すなわち源ガスを構成する炭素含有ガスは必ずしも高い化学的純度でない)を用いてCVD技術によって固体炭素源を製造することができる。CVDプロセスでは、該炭素源ガスは望ましくなく高含量の窒素を含む可能性があるが、合成環境内に存在する窒素の約1/1000しか固体ダイヤモンドに取り込まれないことが分かった。このダイヤモンドを次に固体炭素源として本発明の方法で使用する場合、該固体炭素源を活性化することによって生成されるガス状炭素種は、必ず最初の炭素源より低い窒素含量を有する。従って、本発明は、最終CVDダイヤモンド層中の窒素含量を有意に減らすように、炭素源ガスの化学的純度を改善する手段を提供する。
【0043】
固体炭素源を使用する本発明の実施形態では、CVD法による固体炭素源の合成で使う源ガス混合物中の窒素の濃度は、約10ppm以下、好ましくは約3ppm以下、好ましくは約1ppm以下、好ましくは約300ppb以下、或いは約100ppb以下、或いは約30ppb以下、或いは約10ppb以下である。ガスクロマトグラフィーによって源ガス中の窒素の濃度を決定することができる。源ガス混合物中の窒素含量を最小限にすることが、最終的にダイヤモンド材料中に取り込まれる窒素の量を最小限にするので望ましい。これは、順次、提供される材料の品質を高め、ひいては量子スピン欠陥のホスト材料として特に有用にするので望ましい。
この量で窒素を含む源ガス混合物は商業的に入手可能である。源ガスの例は、不純物含量が体積で0.5ppm以下のH
2(例えば「H
2 6.5」、例えばCK Gases Ltd., Hook, Hampshire, UKから入手可能)(Pdディフューザー(例えばJohnson Matthey Inc., West Chester, PA, USA)に通してさらに精製して、体積で約5ppb以下の不純物レベルを達成し得る);不純物含量が体積で1ppm以下のAr(例えば「Ar 6.0」、例えばCK Gases Ltd., Hook, Hampshire UKから入手可能)(清浄器(例えばJohnson Matthey Inc., West Chester, PA, USA)に通してさらに精製して体積で約5ppb以下の不純物レベルを達成し得る)である。
本発明の方法で固体炭素源を使用する場合、源ガス混合物は、好ましくは最小限の意図的に加えた炭素含有ガスを含む。この点について、固体炭素源は、好ましくは約80%以上、好ましくは約85%以上の炭素、好ましくは約90%以上、好ましくは約95%以上、好ましくは約98%以上、好ましくは約99%以上、好ましくは実質的に100%の、本方法で使用する炭素含有ガスを供給する。従って、源ガス混合物中に存在する炭素含有種だけが不純物として存在する当該炭素含有種であることが好ましい。
【0044】
本発明の方法では、固体炭素源の少なくとも一部を活性化してガス状炭素種を供給する。
固体炭素源の「活性化」は、固体炭素をガス状炭素及び炭素含有種、例えば、原子炭素、CH
xラジカル(xは1、2又は3である);複数の炭素原子を含むラジカル、例えばC
2H
x(xは1〜5の整数である)のような種、及び分子種、例えばCH
4に変換することを意味する。炭素のガス源が、成長プロセス、ひいてはダイヤモンドの品質に寄与する炭素種に及ぼす影響は無視できることは当技術分野では精通しており、本発明者らは、これが固体炭素源についても驚くべきことに真実であることをここで実証した。
発明者らは、固体炭素源を活性化する以下の2種の一般的方法を特定した。
(i)ダイヤモンド沈着が起こるのと同じチャンバー内での活性化、及び
(ii)ダイヤモンド沈着が起こるチャンバーから離れた活性化。
これら2種の技術の後者(方法(ii))が好ましい。この方法は、固体炭素源の活性化の速度よりずっと高い制御、ひいては本発明のダイヤモンド材料を形成するための再沈着プロセスで存在するCの濃度の高い制御を可能にするからである。
【0045】
活性化が離れて起こる実施形態では、固体炭素源の活性化は好ましくは反応器(本明細書では、「活性化反応器」と称する)、例えば化学蒸着反応器内で起こる。この反応器は、チャンバーと、ガス入口と、ガス出口とを含み、活性化に使用するエネルギー源がマイクロ波プラズマであり、マイクロ波エネルギーを反応器に供給する手段を含む。マイクロ波がエネルギー源の場合、活性化反応器のチャンバーは好ましくは使用するマイクロ波の周波数の共振空洞である。好ましくは、固体炭素源はマイクロ波プラズマを利用して加熱される。源ガス、典型的に水素とアルゴンの混合物を固体炭素源上を通過させ、プラズマ、例えばマイクロ波プラズマ、熱フィラメントを利用して、又は固体炭素源を直接加熱することによってエネルギーを供給する。固体炭素源を約700℃〜約1200℃の温度に加熱する。正確な温度は、所望速度でダイヤモンド沈着反応器にガス状炭素種を供給するように選択される。活性化反応器内で生じたガス混合物をダイヤモンド沈着反応器に供給すべき場合、活性化反応器内の圧力はダイヤモンド沈着反応器内の圧力より高くなければならない。或いは、活性化反応器からのガス混合物を圧縮(すなわち、その圧力を上昇させる)した後にダイヤモンド沈着反応器に供給するか、或いはダイヤモンド沈着反応器へのその後の送達用の貯蔵設備に供給してよい。ダイヤモンド沈着反応器にガスを直接供給すると、圧縮及び/又は貯蔵中にN
2などの不純物によってガスが汚染される可能性を減らすので好ましい。
局部的に切断するためのレーザーの使用のような当業者が精通している活性化の代替方法も可能である。
【0046】
ダイヤモンド沈着と同じチャンバー内で固体炭素源の活性化が起こる実施形態では、反応器はCVDダイヤモンド沈着反応器であり、その中で、固体炭素源を水素ラジカルでエッチングしてガス状炭素種を生成し、引き続き隣接単結晶ダイヤモンド基板上に再沈着させて高い化学的純度の単結晶CVDダイヤモンド層を形成できるように固体炭素源が処理される。
代替実施形態では、
実質的に結晶欠陥がない表面を有するダイヤモンド基板を供給する工程;
高純度ガスと炭素源ガスとを含む源ガス混合物を供給する工程(ここで、高純度ガスは源ガス混合物中の全窒素レベルに約300ppb以下寄与し、かつ炭素源ガスは約20ppm以下の量で窒素不純物を含む);
源ガスを解離させる工程;及び
表面上でホモエピタキシャルダイヤモンド成長させる工程(このとき下記条件の少なくとも1つを満たす:
(a)基板の温度が約800℃〜約1000℃の範囲である;及び
(b)酸素を、O
2当量として体積分率で測定される、体積で全源ガス混合物の約0.5%〜約5%の量で源ガスに添加する)
を含む方法で本発明のソリッドステートシステムの単結晶ダイヤモンド材料の層を製造し得る。
【0047】
この実施形態では、炭素源がガスである。好適な炭素源ガスの例としては、限定するものではないが、C
xH
y(式中、x及びyは、それぞれ独立に1〜10の整数であってよい(例えばCH
4、C
2H
6、C
2H
4、C
2H
2など)、C
xH
yHal
z(式中、x及びzは、独立に1〜10の整数であってよく、yは0〜10であってよい)又はCO
x(式中、xは0.5〜2.0の範囲である)が挙げられる。好ましくは炭素源ガスがCH
4である。特に、炭素源がガス状であり、かつ約20ppm以下であるがプロセス中の窒素濃度全体を有意に増加させるのに十分高いレベルで窒素不純物を含む場合(例えば約1ppmより高い)、発明者らは、プロセス条件を最適化することによって、高い化学的純度を有する生成物が得られることを見い出した。
さらに詳細には、高い化学的純度を有する材料は、以下のいずれかによって得られることが分かった:
(i)基板温度を約800℃より高くかつ約1000℃未満であることを保証すること;又は
(ii)源ガス混合物に酸素を、全ガス流量のO
2当量として体積分率で測定される、全ガス流量の約0.5%〜約5%の範囲で添加する。
酸素濃度は、全ガス流量を構成する体積分率(百分率として表す)として測定され;例えば、全ガス流量が500sccm(標準立方センチメートル(standard cubic centimetres))で、その10sccmがO
2である場合、O
2当量の体積分率は2%であり;例えば、全ガス流量が500sccmで、その10sccmがCOである場合、O
2当量の体積分離は1%である。
【0048】
理論に拘束されることを望むものではないが、発明者らは、上記特徴(i)の最適温度範囲は2つの相反する因子によって決まると考える。第1に、発明者らは、同一の基板と成長条件では、基板温度が約700℃から約1000℃に上昇するにつれて、SIMSやEPR等の手法で測定される窒素取込みのレベルが減少することを実験的に見い出した。いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、これは、基板温度が上昇するにつれて減少する、N原子のダイヤモンド成長表面への固着係数の結果であると考えられる。第2に、発明者らは、所定厚のCVDダイヤモンド成長では、基板温度が約700℃から約1000℃に上昇するにつれて、CVDダイヤモンド層の成長表面が、マクロステップ、ヒロック(hillock)及び双晶の観察によって特徴づけられるように、粗面化の増加を示すことを実験的に見い出した。いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、この粗面化の増加は、成長しているダイヤモンド膜内へのN及び他の欠陥の取込みのさらに過激な部位をもたらすと考えられる。このようにして発明者らは、2つの競合する作用、その一方は基板温度が上昇するにつれて窒素取込みを減少させ、他方は基板温度が上昇するにつれて窒素取込みを増加させることを確認した。温度に伴うこれら2つの作用の変化率はいずれの選択厚のCVDダイヤモンド成長でも同一ではないので、所定の層厚にとって窒素の取込みが最小限になる成長温度を同定することができる。
この点について、基板温度は、好ましくは約840℃より高く、好ましくは約860℃より高く、好ましくは約880℃より高く、好ましくは約900℃より高く、好ましくは約920℃より高く、好ましくは約950℃より高い。最も好ましくは、基板温度が約950℃〜約1000℃の範囲である。
上記特徴(ii)に関し、いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、上記(ii)で述べた量で源ガス混合物に少量の酸素を添加すると、基板温度の上昇に伴う粗面化作用(順次、窒素取込みの増加をもたらす)が低減し、結果として、酸素を添加しないことを除き同一の条件と比較していずれの特定厚のCVDダイヤモンド成長及び成長温度でもNの取込みが減少することが実験的に分かった。
添加される酸素は、O
2の形態、又は酸素含有種の形態、例えばCO
x(式中、xは0.5〜2の範囲である)、例えばCO又はCO
2のいずれかである。
酸素は、好ましくは全ガス流量の約1体積%〜全ガス流量の約3体積%、好ましくは全ガス流量の約1体積%〜全ガス流量の約2体積%の範囲の量で源ガス混合物に添加される。
【0049】
ガス状炭素源を使用する場合、ガス状炭素源は、約20ppm以下、或いは約10ppm以下、或いは約5ppm以下、或いは約3ppm以下、或いは約1ppm以下、或いは約0.5ppm以下の濃度の窒素を含む。該炭素源は市販されている。
この技術は、炭素源が約1ppm以上、或いは約2ppm以上、或いは約5ppm以上の濃度で窒素を含む場合に特に適している。
従って、(i)若しくは(ii)又は(i)と(ii)の両方を利用することによって、
13Cに関して同位体が濃縮された炭素源ガスを用いて合成されたCVDダイヤモンド層の窒素不純物含量を最小限にできる方法が提供される。
本発明者らは、より高濃度の窒素を含む市販のガス状炭素源を、上述したように固体炭素源を形成することによって精製し得ることを見い出した。
さらに詳細には、より低い化学的純度の炭素源ガスを用いて通常のCVD技術で固体炭素源、例えば多結晶性ダイヤモンドを形成することができる。この方法では、生成されるダイヤモンド材料中に、合成環境に存在する窒素の約1/1000が取り込まれるであろう。次に多結晶性ダイヤモンドを活性化して、化学的純度が向上したガス状炭素源を与え得る。
この点について、本発明は、特に、固体炭素源を使用すると共に上記条件(i)及び(ii)の一方又は両方を確実に満たすことによって、上記2つの方法を併用することを企図する。
【0050】
上記方法による製造後、単結晶CVDダイヤモンド材料を、使用すべき量子スピン欠陥に最も近いか、又は量子スピン欠陥がイオン注入等のプロセスによる表面の加工後にもたらされる場合には該量子スピン欠陥の所望位置に最も近い表面上の点に中心がある約5μm、好ましくは約10μm、好ましくは約20μm、好ましくは約50μm、好ましくは約100μmの半径の円によって定義される領域内の表面の表面粗さR
qが、約10nm以下、約5nm以下、約2nm以下、約1nm以下、約0.5nm以下、約0.2nm以下、約0.1nm以下であるように加工する。
表面が巨視的湾曲、例えば約10μm〜約100μmの曲率半径のレンズを有して量子欠陥中心からの光出力を集めて焦点を合わせる場合、粗さは該巨視的湾曲に関連する。表面の粗さから根底にある曲率が減算され得る走査プローブ機器を用いて(例えば原子間力顕微鏡を用いて)、このような物体の粗さを測定することができる。
例えば、スケイフ研磨などの通常の機械加工にダイヤモンド材料の表面を供することによって、表面の平坦度及び粗さを改善することができる。このような手法は技術上周知である。機械加工操作は、ダイヤモンド材料の表面の平坦度を改善し(インターフェロメトリー等の技術上周知の巨視的方法で測定し得るように)、かつ粗さを低減する(R
a又はR
qで表されるように)が、同時にこのような調製は、望ましくないであろう基板損傷を導入し得る。基板損傷の存在は、ダイヤモンド材料を、材料内にある量子スピン欠陥の正確な読み出し及び特徴づけのため、表面下約100μmの深さまで材料の品質が高いことが重要であるスピントロニクス用途で使用する予定の場合に特に望ましくない。
従って、機械加工後、ダイヤモンド表面をエッチング、好ましくは等方性エッチング、及び/又は再成長工程によって処理してよい。等方性エッチングを利用して、表面粗さを制御又は低減しながら、レンズのような巨視的湾曲フィーチャーを保持又は形成することができる。
エッチング表面は、最後の機械的プロセスのグリットサイズに基づいて、機械加工されたままの表面から材料の最小厚を除去して、機械加工損傷がないか又は実質的になく、かつ損傷エッチングフィーチャーがないか又は実質的にない表面を与えることを意味する。
好ましくは誘導結合プラズマ(ICP)エッチングにより、ハロゲン及び不活性ガスを含むガス混合物を用いて、好ましくは該不活性ガスがアルゴンであり、好ましくはハロゲンが塩素であるガス混合物を用いてエッチングを行なう。Ar/Cl
2プラズマエッチングは、ダイヤモンド層の表面(その上に、常磁性を有するか、又は電荷を持っている表面汚染物質として他の化学種が存在し得る)を浄化する。
【0051】
等方的にエッチングされた表面は、表面のR
qを実質的に高めない。好ましくは走査プローブ機器を用いてもたらされるR
q測定値R
qa及びR
qbは、ダイヤモンド層の表面の同一領域について取られる。「同一領域」とは、技術上周知なように、複数の測定値及び測定値の一般妥当性を検証する必要がある統計解析を利用するときに、合理的に実際と同じくらい近い等価領域を意味する。特に等方的にエッチングされた表面は粗さR
qa(エッチング後)及び元の表面粗さR
qb(エッチング前)を、R
qa/R
qbが好ましくは1.5未満、さらに好ましくは1.4未満、さらに好ましくは1.2未満、さらに好ましくは1.1未満であるように有してよく、さらに、等方性エッチングは好ましくは以下の特徴の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つをもたらす。
・エッチングされた表面は滑らかであり、好ましくはエッチング前の元の表面より滑らかであり、かつ特にエッチングされた表面のR
q(R
qa)は好ましくは10nm未満、好ましくは5nm未満、好ましくは2nm未満、好ましくは1nm未満、好ましくは0.5nm未満、好ましくは0.3nm未満である;
・材料の厚さの除去が少なくとも0.2μm、さらに好ましくは少なくとも0.5μm、さらに好ましくは少なくとも1.0μm、さらに好ましくは少なくとも2μm、さらに好ましくは少なくとも5μm、さらに好ましくは少なくとも10μmを超える。
【0052】
機械加工損傷がないか又は実質的にない表面をもたらすため、最後の機械的プロセスのグリットサイズに基づいて、機械加工されたままの表面からダイヤモンドの最小厚をエッチングによって除去することは、表面損傷を有意に減らすのに十分な深さの除去が必要であり、ひいては表面損傷層と同じオーダーの厚さのエッチングによる除去が必要である。典型的に表面損傷層は、0.2μm〜20μmの範囲の厚さを有する(又は非常に攻撃的な宝石細工技術を用いた場合にはさらに厚い)。従って、好ましくはエッチングは、除去されるダイヤモンドの厚さが、少なくとも0.2μm、さらに好ましくは少なくとも0.5μm、さらに好ましくは少なくとも1.0μm、さらに好ましくは少なくとも2μm、さらに好ましくは少なくとも5μm、さらに好ましくは少なくとも10μmである厚さのダイヤモンドを表面から除去する。表面損傷層は典型的に、いずれかの宝石細工加工の最終段階で用いた最大のダイヤモンドグリット粒子のサイズとほぼ同一の厚さを有し;例えば1〜2μmサイズのダイヤモンドグリットでスケイフ研磨された表面は、典型的に約2μm厚の表面損傷層を有するであろう。従って、本発明の方法によるエッチング後に残る宝石細工加工からの損傷の量を最小限にするため、本発明の方法で除去される材料の量は、好ましくは最大グリット粒子のサイズの少なくとも0.2倍、さらに好ましくは最大グリット粒子のサイズの少なくとも0.5倍、さらに好ましくは最大グリット粒子のサイズの少なくとも0.8倍、さらに好ましくは最大グリット粒子のサイズの少なくとも1.0倍、さらに好ましくは最大グリット粒子のサイズの少なくとも1.5倍、さらに好ましくは最大グリット粒子のサイズの少なくとも2倍であるべきである。エッチング後、ダイヤモンド層の表面は好ましくは10nm未満、さらに好ましくは5nm未満、さらに好ましくは2nm未満、さらに好ましくは1nm未満、さらに好ましくは0.5nm未満、さらに好ましくは0.3nm未満のエッチング後表面粗さR
qaを有する。
エッチング表面がダイヤモンド層の表面全体に広がってよく、或いはフォトリソグラフィー等の既知技術を用いて表面にエッチングされた構造上のフィーチャー(例えば光導波路)のような表面の一部にわたって広がってよく、そして表面のこの部分はそれ自体ダイヤモンド層の表面を形成する。
さらに、低いR
qaを有するエッチングされたダイヤモンド表面は、好ましくは暴露エッチング試験によって暴露される欠陥の数が約5×10
3/mm
2以下、好ましくは約100/mm
2以下であるように、実質的に加工損傷がない。
【0053】
好適な等方性エッチングの例はAr-Cl
2誘導結合プラズマエッチングであり、約0.5mTorr(約0.0667Pa)〜約100mTorr(約13.3Pa)の範囲、さらに好ましくは約1mTorr(約0.133Pa)〜約30mTorr(約4.00Pa)の範囲、好ましくは約2mTorr(約0.267Pa)〜約10mTorr(約1.33Pa)の範囲の操作圧力で実施することができる。エッチャントは好ましくは、少なくとも不活性ガス、好ましくはアルゴンと、ハロゲン含有ガス、好ましくは塩素(Cl
2)とから成るガス混合物である。好ましくはハロゲン含有ガスは、プロセスに添加されるガス混合物中に約1%〜約99%、さらに好ましくは約20%〜約85%、さらに好ましくは約40%〜約70%の範囲の濃度で存在する。好ましくはガス混合物のバランスの大部分がArで補われ、さらに好ましくはガスのバランスの全てがArで補われる。
さらに、低いR
qaを有するエッチングされたダイヤモンド表面は、好ましくは暴露エッチング試験によって暴露される欠陥の数が約5×10
3/mm
2以下、好ましくは約100/mm
2以下であるように、実質的に加工損傷がない。
【0054】
表面を成長によって形成する場合、マスキング法を利用して、表面をダイヤモンド層の表面の一部に限定することができ、そしてこの部分がダイヤモンド層の表面に相当する。或いはさらに好ましくは、ダイヤモンド層の表面の全体に表面が広がることがあり、この表面全体が本発明のダイヤモンド層の表面を形成する。
再成長によって形成される表面は、第2のダイヤモンド薄層を成長させることを意味し、次にこの薄層の表面を、ダイヤモンド材料を除去してダイヤモンド表面を変えるためのさらなる機械加工又はエッチングをしていない成長したままの状態のダイヤモンド層の表面として使用する。
第2のダイヤモンド薄層は好ましくはCVD合成によって成長し、薄くて巨視的成長ステップの形成を制限する。前もって機械的に調製された表面上に成長したこの層の厚さは約100μm以下、好ましくは約50μm以下、好ましくは約30μm以下、好ましくは約20μm以下、好ましくは約10μm以下、好ましくは約3μm以下、好ましくは約1μm以下、好ましくは約100nm以下、好ましくは約50nm以下、好ましくは約20nm以下、好ましくは約10nm以下である。第2のダイヤモンド薄層の厚さは、約1nm以上、好ましくは約10nm以上、好ましくは約30nm以上、好ましくは約100nm以上、好ましくは約300nm以上、好ましくは約1μm以上であってよい。一部の実施形態では、前もって機械的に調製された表面上に成長したこの層の厚さが約100nm〜約50μm、或いは約500nm〜約20μm、或いは約1μm〜約10μmである。
【0055】
単層成長法及び軸外表面の使用を含めたいくつかの技術を利用して第2のダイヤモンド薄層を調製して、表面ステップの伝播を制御し、ひいては非常に平坦かつ滑らかな表面を保持することができる。
一部の実施形態では、第2の薄層が量子スピン欠陥を含むか又は含むことになる。該実施形態では、好ましくは第2の薄層は本明細書に記載の技術を利用して、炭素が、本明細書に記載の1種以上の技術を利用して層の窒素含量が最小限であるように調製される。
第2のダイヤモンド薄層の表面がダイヤモンド層の表面を形成し、好ましくは約10nm以下、好ましくは約5nm以下、好ましくは約3nm以下、好ましくは約2nm以下、好ましくは約1nm以下、好ましくは約0.5nm以下、好ましくは約0.3nm以下、好ましくは約0.2nm以下、好ましくは約0.1nm以下のR
qを有する。このように、この表面は非常に低い表面粗さを有し、さらに加工損傷がない。
【0056】
上記エッチング、好ましくは等方性エッチング及び再成長の技術を併用して、表面をまずエッチングしてから薄層を再成長させてダイヤモンド層の表面を形成することができる。このやり方は一般的に、エッチングが全ての機械加工損傷を除去するのに十分に完成しなかった場合にのみ有利である。
上述した等方性エッチング、及び再成長法によって本発明のソリッドステートシステムの単結晶CVDダイヤモンドホスト材料の表面を調製するのが有利である。この調製は、材料をスピントロニクス用途で使う予定の場合に、量子スピン欠陥の光学読み書きが可能であるように、調製表面に隣接するダイヤモンド材料の部分に特に、実質的に欠陥及び不純物がないことを保証する。
表面終端を制御するため、単結晶CVDダイヤモンドの層の表面を加工することができる。ダイヤモンド表面は、極端に低い圧力(例えば、数μTorrの圧力)の条件下を除き、かつ数百℃に加熱することによって終端種が脱着される場合しか、裸の炭素原子から成ることはほとんどない。最も一般的な終端種は、全ての同位体形態のH、O及びOHである。特に、非ゼロ電子スピン量子数及び/又は非ゼロ核磁気スピン量子数を有する種による表面の終端を最小限にすることが望ましい。これらの種は材料中に存在するいずれの量子スピン欠陥のデコヒーレンス時間及び/又はスペクトル安定性にも影響を及ぼし得るからである。特に、ゼロに等しい核スピン量子数若しくはゼロに等しい電子スピン粒子数又はゼロに等しい核スピン量子数と電子スピン量子数の両方を有する原子でダイヤモンドの表面を終端処理することが望ましいであろう。水素(
1H)は1/2の核スピン量子数を有するので、超微細相互作用によってNV
-欠陥の遷移の分割を引き起こすことがあり;二重水素(
2H)は1の核スピン量子数を有するので、超微細相互作用によってNV
-欠陥の遷移の分割を引き起こし得る。従って、これらの2つの同位体は、量子スピン欠陥のデコヒーレンス時間及び/又はスペクトル安定性に有害な影響を及ぼす可能性がある。同位体
16Oはゼロの核スピン量子数を有するので、NV
-量子スピン欠陥との超微細相互作用はなく、
16Oは超微細相互作用によってデコヒーレンス時間又はスペクトル安定性に何ら作用しない。従って、考えられる他の終端種より
16Oで終端処理するのが有利であると考えられる。天然存在度酸素は99.76%の
16Oを含む。
発明者らは、実質的に完全に
16O酸素で終端処理した表面はいかなる不対電子をも持たないので、
16O終端原子の電子と、量子スピン欠陥を含むNV
-中心の不対電子との間には何の相互作用もないはずであると考える。
例えば、表面を実質的にエッチングするのに不十分な条件下で低圧
16Oプラズマに表面をさらすことによって(例えばBioRad PT7150 RF Plasma Barrel Etcher内で約1分〜15分間、約20Paの圧力にて
16Oプラズマ内)、
16O終端処理表面を調製することができる。
好ましくは、
16O酸素で終端処理されている、量子スピン欠陥に最も近い表面の領域の割合は約95%以上、約98%以上、約99%以上、約99.5%以上、約99.8%以上、約99.9%以上である。
X線光電子分光法などの技術上周知の方法で表面終端を特徴づけることができる。
【0057】
本発明のソリッドステートシステムは、さらに量子スピン欠陥を含む。好ましくは量子スピン欠陥はNV中心、好ましくはNV
-中心である。
量子スピン欠陥がNV
-中心である場合、窒素イオン注入、窒素原子注入又は窒素含有イオン注入によってNV
-中心を形成することができる。或いは、ダイヤモンド層内にNV
-中心を成長させてもよい。用語「内に成長させる」は、層の成長中に、成長表面に取り込まれたN原子及び空孔からNV中心が自発的に生じることを意味する。詳細には、空孔の近似的な熱力学的平衡濃度がCVDダイヤモンドの成長表面上に存在し、これらの一部がバルクダイヤモンド中に取り込まれることは技術上周知である。従って、N原子と空孔がNV中心を自発的に形成するように、相互に隣接する固体中にN原子と空孔が取り込まれる、小さいが有限の機会がある。
量子スピン欠陥がNV
-中心である場合、それは
14N又は
15Nを含でよい。NV
-中心が
14Nのみ又は
15Nのみを含み、
14Nと
15Nの混合物を含まないことが望ましい。NV
-中心のN原子が単一同位体であると、全ての場合に電子遷移のエネルギーが同一であることを意味するので有利である。単一同位体のNV
-中心の形成は、イオン注入法による当該中心の製造と完全に適合性である。
【0058】
イオン注入を利用して、ダイヤモンド材料の表面の中及び下に1つ以上の原子種を送達して、ダイヤモンド層の表面下の所定深さに注入原子のピーク濃度があるNV
-中心注入層を形成することができる。次に、中にNV
-中心が注入されているダイヤモンド層上にダイヤモンドのキャッピング層を合成することができる。ダイヤモンドのキャッピング層は、好ましくは本明細書に記載の方法を利用して合成される。
成長後、技術上周知のイオン注入法を利用した後、真空中又は不活性雰囲気内で約600℃〜約900℃、好ましくは約750℃〜約850℃の範囲の温度で、約0.1時間〜約16時間、好ましくは約0.5時間〜約8時間、好ましくは約1時間〜約6時間、好ましくは約2時間〜約4時間の時間アニールすることによってダイヤモンド層内にNV
-中心を形成することができる。この温度範囲内で、イオン注入プロセスの副生物として生成される、ダイヤモンド層内の空孔が移動性になる。この温度範囲で、置換Nが空孔捕獲用の大きい断面を有するので、アニーリングプロセス中にNV中心が形成される。
【0059】
有利には、NV
-中心の形成の前か後に、本発明の単結晶ダイヤモンドの層をさらなるアニーリング工程に供してよい。さらなるアニーリング工程を含める場合、約1000℃より高い、好ましくは約1100℃より高い、好ましくは約1200℃より高い、好ましくは約1300℃より高い、好ましくは約1400℃より高い、好ましくは約1500℃より高い、好ましくは約1600℃より高い温度で、約0.1時間〜約16時間、好ましくは約0.5時間〜約8時間、好ましくは約1時間〜約6時間、好ましくは約2時間〜約4時間の時間アニーリング工程を行なうことが好ましい。このアニーリング工程を約1×10
-3Pa未満の圧力(約1×10
-5mbarである)の真空下、又は好ましくはダイヤモンドが炭素の熱力学的に安定した形態であるような(広く「ダイヤモンド安定化圧力」と呼ばれる)超高圧条件下、典型的に約4GPa〜約10GPa(温度によって決まる)下で行なうことができる。この最後のアニールが、NV中心のT2とスペクトル安定性の両方に影響を及ぼし得る、注入によって残されたいずれの残存損傷をも除去する。
第2のアニーリング工程は、固体内(すなわち表面上でない)のいずれの水素原子もが、第2アニーリング工程の最小温度より高い(すなわち約1000℃より高い)温度で有意に移動性になるというさらなる利点を有する。従って、該アニーリング工程を含めることによって、材料の水素濃度を低減することができる。水素
1Hとその同位体の濃度は、好ましくは約10
18cm
-3以下、好ましくは約10
17cm
-3以下、好ましくは約10
16cm
-3以下、好ましくは約10
15cm
-3以下である。
1Hは1/2の核スピンを有するのでNV中心と相互作用してそのT2時間を短くすることから、固体中の
1Hの濃度の低減は有利である。
好ましくは、量子スピン欠陥は、ホスト材料の表面、好ましくは上述したように加工したホスト材料の表面の約100μm以下、好ましくは約50μm以下、好ましくは約30μm以下、好ましくは約20μm以下、好ましくは約10μm以下、好ましくは約5μm以下、好ましくは約2μm以下、好ましくは約1μm以下以内に形成される。このことは、光学デバイスを用いてNV中心を特徴づけかつ解読できることを意味するので有利である。
【0060】
イオン注入を利用して単結晶ダイヤモンド層内に形成される量子スピン欠陥は、量子スピン欠陥の配列がダイヤモンド層内に生成されるように正確に配置される。量子スピン欠陥の配列は、ダイヤモンド層内で一次元、二次元又は三次元であってよい。量子スピン欠陥は、配列内で均一又は不均一に分布していてよい。異なるエネルギーで原子又はイオンを注入することによる注入法を利用して三次元配列を形成することができる。さらに、合成ダイヤモンドはいくつかのダイヤモンド層を含んでよく、各ダイヤモンド層は少なくとも1つの量子スピン欠陥を含む。
いくつかの量子スピン欠陥を一次元配列又は二次元配列で配置し得る多数の方法があり、上記議論はいかなる特定の配列の使用をも排除しない。量子スピン欠陥が一次元配列(いくつかの量子スピン欠陥が直線に沿って配置されている)にある場合、量子スピン欠陥を均一に間隔をあけて配置し、或いは不均一に間隔をあけて配置してよい。量子スピン欠陥を均一に間隔をあけて配置すると、相互のそれらの相互作用をよく制御できるので好ましい。量子スピン欠陥を一次配列で配置する場合、合成ダイヤモンド層の表面にある結晶学的方向で配列を整えることができる;例えば、[001]方向の約3°以内に法線を有する表面では、<100>又は<110>方向の約5°以内に配列があってよい。
量子スピン欠陥を二次元配列で配置する場合、配列の2本の軸のそれぞれに沿った量子スピン欠陥の分布が同一又は異なってよく、均一又は不均一であってよい。配列の軸は直交又は非直交であってよい。好ましい二次元配列は直交軸を有し、量子スピン欠陥が軸に沿って均一に間隔をあけて配置されている。二次元配列が直交軸を有する場合、合成ダイヤモンド層の表面にある結晶学的方向で軸を整えることができ;例えば、[001]方向の約3°以内に法線を有する表面では、二次元配列の軸は<100>又は<110>方向の約5°以内にあってよい。
【0061】
スピントロニクス用途が安定した制御できる単一光子源を必要とする場合、実験的実用性が最も近いNV中心間の距離について制限を課す。これらの実用性は、単一欠陥に読み書きできる光学/磁気的方法に関連し、かつパラメーターT2に及ぼす高濃度の常磁性欠陥の影響にも関連する。
アンサンブルEPR測定は、約0.05ppbのNV
-濃度についての上限を決定するためW15 EPR中心による可能性を提供するが、共焦点フォトルミネセンス(PL)測定は非常に低レベルまで定量化が可能である。これをどのように行なうかを示す模式図を
図15に示す。共焦点顕微鏡を用いて、室温における単一NV中心の検出を達成することができる。共焦点顕微鏡法は技術上周知であり、Ph. Tamarat et al(J. Phys. Chem. A, 104 (2000), 1-16)に記載され、使用されている。
好ましくは、量子スピン欠陥がNV中心である場合、ダイヤモンド層内に形成されるNV中心の濃度は、約1ppb以下、好ましくは約0.5ppb以下、好ましくは約0.2ppb以下、好ましくは約0.1ppb以下、好ましくは約0.05ppb以下、好ましくは約0.02ppb以下、好ましくは約0.01ppb以下、好ましくは約0.005ppb以下、好ましくは約0.001ppb以下、好ましくは約0.0001ppb以下、好ましくは約0.00001ppb以下、好ましくは約0.000001ppb以下である。この濃度は、量子デバイスの一部でないNV中心間の相互作用を減らし、それによって、量子スピン欠陥を含むNV中心のデコヒーレンス時間T2を増やし、かつスペクトル安定性を高めるので有利である。
【0062】
当業者には分かるように、特定の関連性のある固体材料の最終用途で量子ビットとして使用するのは、量子スピン欠陥の濃度と分離である。例えば、スピントロニクス用途で利用する予定の量子スピン欠陥がホスト材料の薄層内にある場合、この層以外の他の量子スピン欠陥の濃度はあまり重要でない。しかし、本発明は、例えば、ホスト材料の全体にわたって分布されている量子スピン欠陥の三次元配列があり得るソリッドステートシステム(ここで、各量子スピン欠陥内では個々にアドレス指定可能である)をも提供する。この場合、全ての量子スピン欠陥の濃度と分離が特定の関連性がある。この点について、本発明は、ホスト材料の薄層に限定されず、合成ダイヤモンドホスト材料のバルク部分を含み、そのバルク全体を通じて実質的に同一の特性を有するソリッドステートシステムにも拡張する。
ホスト材料中の量子ビット欠陥中心のデコヒーレンス時間T2は、特に、ホスト材料中の他の欠陥、特に磁気スピンを有する欠陥の接近によって不利に減少する。本明細書では、用語「他の欠陥」を用いて、量子ビット中心として作用するよう意図されていない、ホスト材料中に存在する欠陥を表す。
量子スピン欠陥のT2に影響を及ぼす、単結晶ダイヤモンド層中に存在する他の欠陥は、一般的に以下の4つの機構のうちの1つによって量子スピン欠陥のT2に影響を及ぼす。
・欠陥が常磁性であり、ひいてはスピンを有する場合、双極子スピンカップリング;
・電場又は電荷、例えば量子ビット欠陥中心が位置する局所電場電位の変化が隣接欠陥上の電荷から生じる場合。さらに、該欠陥は例えば熱励起によってランダムに電荷状態を変えて、量子ビット欠陥中心のエネルギー状態に変化を引き起こし得る。本質的に、状態にバンドギャップを加えるいずれの欠陥も局所電場を上昇させ得る。
・格子歪み(これが格子の局所弾性特性、ひいては量子ビット欠陥中心の詳細構造を変え、例えば次にゼロフォノンラインエネルギー又は線幅に影響を及ぼすので);及び
・局所光学特性、例えば吸収、屈折率及び散乱など;量子ビット欠陥中心との相互作用は一般的に光学手段によることから、詳細な光子構造を効率的に外界とつなぐ必要があるので、ダイヤモンド材料の全てのこれらの光学的態様が重要である。
【0063】
従って、該欠陥の存在を最小限にすることに加えて、磁気スピンを有する他の要素から、いかなる相互作用をも最小限にするのに十分な距離で量子スピン欠陥を確実に分離することも望ましい。
この点について、好ましくは、量子スピン欠陥を磁気スピンを有する他の要素(すなわち他のNV中心)から、NV中心間の平均距離が0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、好ましくは1μm以上、好ましくは2μm以上、好ましくは5μm以上、好ましくは10μm以上、好ましくは20μm以上、好ましくは50μm以上であるように分離する。これは、例えば、断面切断によって特徴づけられる。
上記距離は、量子ビットとして使用する予定の個々のNV中心と磁気スピンを有する他の要素との間の距離又はスピントロニクス用途で一緒に使用する予定の一群の2つ以上のNV中心と磁気スピンを有する他の要素との間の距離であってよい。
当業者には分かるように、重要なのは、ダイヤモンドホスト材料の、読み出し及び/又は特徴づけする予定の部分のNV中心の密度とNV中心の間隔である。
【0064】
本発明の単結晶CVDダイヤモンド層の高い化学的純度のため、該層内に、室温で驚くほど長いT2時間を有する量子スピン欠陥、特にNV中心を形成することができる。
極低温を採用する必要がないことを意味するので、室温でこれらの長いT2時間が観察されることは特に有利である。
この点について、本発明のソリッドステートシステムでは、量子スピン欠陥は室温で約30μs以上、好ましくは約500μs以上、好ましくは約700μs以上、好ましくは約900μs以上、好ましくは約1ms以上、好ましくは約1.2ms以上、好ましくは約1.4ms以上、好ましくは約1.6ms以上、好ましくは約2.0ms以上、好ましくは約3.0ms以上、好ましくは約4.0ms以上、好ましくは約5.0ms以上、好ましくは約8ms以上、好ましくは約10ms以上、好ましくは約15ms以上、好ましくは約20ms以上、好ましくは約25ms以上、好ましくは約30ms以上、好ましくは約50ms以上のT2を有する。
T2の最大値はT1、すなわち「スピン-格子緩和時間」によって基本的に制限される。実際には、T2の最大値はT1の値の約1/5〜1/10であることが分かっている。通常、T2の値は室温で1000msを超えないだろう。
ESR法を利用して量子スピン欠陥のT2時間を決定することができる。T2を測定するために採用されるESR法は、ハーンエコー減衰(Hahn echo decay)を利用してスピンコヒーレンスの寿命(すなわちT2)を測定する。例えば、量子スピン欠陥がNV中心である場合、スピン偏極集団を用いて単一NV中心についてハーンエコー減衰測定を行なう。スピン偏極集団は
3A基底状態(すなわちm
s=0)から
3E第1励起三重項状態(すなわちm
s=-1)までのレーザー励起によって作り出された後、基底状態へ戻る減衰がスピン角運動量の非保存に起因するスピン偏極状態を残すことになる(D. Redman et al, J. Opt. Soc. Am. B, 9 (1992), 768)。次にNV中心のスピンが、NV中心のスピンを反転させるマイクロ波パルスを利用する一連の変換を受ける(該シーケンスを
図17に示す)。パルスは形態π/2-t
0-π-t
0-π/2(ここで、t
0はパルス間の時間である)を取る。次に蛍光を通じてNV中心のスピンが読み出される。パスル間の異なる時間で測定を繰り返して、デコヒーレンス時間T2を測定することができる。
【0065】
T2値を測定する方法は以下の通りである。この方法をNV中心を特徴づけることに関連して述べてあるが、類似の方法を利用してNV中心以外の量子スピン欠陥のT2値を決定でことが当業者には分かるであろう。
(i)レーザー励起を利用する共焦点顕微鏡システムを用いて単一NV中心を見つける(
図15に模式的に示す)。
(ii)NV中心について「同時測定」を行なって、選択したNV中心が実際に単一NV中心であることを確認する。この測定は、光子周波数安定性測定に使われるシステムと同様のシステムを使用するが、ずっと狭くて速い走査時間を用い、数えられる光子の代わりに測定される1つの光子と次の光子との間の時間遅延を利用する。
図14は、ゼロに同時事象がない(特徴づけられるNVが実際に単一NV中心であることを示唆している)同時試験の結果を示す。
同定されたNV中心のT2時間を今度こそは決定することができる。
(iii)非縮退共鳴(例えば1.299T)に及ぼす磁場の存在下、NV
-中心のZPL未満の波長で(例えば532nmで)操作する連続波(「cw」)レーザーを用いてNV中心を励起させてm
s=0状態のスピン偏極集団を作り出す(NV中心の電子構造の理由で)。
(iv)次に、1μs未満から多数のμsまで体系的に変化する「遅延時間」、t
0で分離される例えば、約35GHzの周波数の一連の短い(数nsの持続時間)強烈な(16Wピーク出力)マイクロ波パルスにスピン偏極NV
-中心を供して、スピン状態を「反転」させる。第1パルスは、磁化をコヒーレント重ね合わせm
s=0及びm
s=-1状態に回転させるπ/2パルスである。第1パルスの時間t
0後の第2パルスは、スピンを逆さにするπパルスである。第1パルスの時間2t
0後の第3パルス(別のπ/2パルス)は、スピンを回転させてその元の状態に戻す。このシーケンスを
図16に示す。マイクロ波パルスのシーケンス中、NV中心からの蛍光放出の強度をモニターする。蛍光放出の強度は、t
0の値が変化するにつれて変化する。このプロセスをt
0時間より長く体系的に繰り返す。
(v)蛍光強度(「ハーンエコー振幅」とも称する)をt
0時間の関数としてプロットする。蛍光の強度は指数関数的に降下する曲線の変調を示し、該変調のピークにわたって近似的に指数曲線(「電子スピンエコーエンベロープ」とも称する)を適合させることができる。発明者らは、データを選択して下記式に適合させた。
I ∝ exp(-1/T
M)
式中、Iは、蛍光強度であり、T
mは、T2と等価な相記憶時間(phase memory time)である。本例では、T2の値を、Iの値が初期強度の1/e≒0.367に低減している電子スピンエコーエンベロープ上の点として定義した(eは周知であり、超越数e=2.7182818…)。
文献には、電子スピンエコーエンベロープのフィッティング及びT2の値の抽出への多くのアプローチがある。上記アプローチは保守的なアプローチとみなされる。
この方法(電子スピンエコーエンベロープからのT2値の抽出とは異なる)はCharnock及びKennedy(Phys. Rev. B, 64 (2001), 041201-1〜041201-4)に記載されている。
【0066】
量子スピン欠陥を含むソリッドステートシステムにおいては、読み書きに使われる量子スピン欠陥の光学的遷移の周波数が安定的であって、2つ以上の欠陥が量子力学的に同一の光子を生じさせるように該2つ以上の欠陥の周波数を合わせられることが必要である。
後述する方法に従って量子スピン欠陥からの発光の安定性を決定することができる。この方法をNV中心を特徴づけることに関連して述べてあるが、類似の方法を利用してNV中心以外の量子スピン欠陥からの発光の安定性を決定し得ることが当業者には分かるであろう。
637nmにおけるNV
-中心からのゼロフォノンライン発光の波長(又は周波数)安定性の決定は、要求される精度が通常の分光法を利用するには高すぎるので、高精度法の使用を要する(すなわち通常の分光法によっては、約30GHzの周波数分解能に等価な約0.05nmよりもよくは該ラインの位置を決定できない)。実際には、ZPLの真の線幅の測定が必要である。
本例では、発明者らはZPLの安定性を決定するためにレーザー分光法を利用することを選択したが、当技術分野で開示されている他の方法を使用できるであろう。低温(例えば-269℃(4K))でのフォトルミネセンス励起(PLE)測定を利用するダイヤモンド中の単一NV中心についてのレーザー分光法は、Jelezkoら(F. Jelezko, I. Popa, A. Gruber, C. Tietz, J. Wrachtrup, A. Nizovtsev and S. Kilin, “Single spin states in a defect center resolved by optical spectroscopy,” Appl. Phys. Lett., 81 (2002), 2160-2162)に記載されている。発明者らは、低温ではなく室温でこの技術を利用した。
【0067】
PLEによるNV
-中心のZPLの安定性の決定を以下のように行なった。
(i)共焦点顕微鏡を用いて532nmのレーザー照射で単一NV中心を同定し、T2時間の決定には同時測定を利用する。
(ii)波長可変励起レーザー(637nmで出力可能な波長可変レーザー及び約5MHz未満の周波数同調ステップを有する)の焦点を共焦点顕微鏡を用いてNV中心に合わせ、レーザーの周波数を例えばZPL周波数の両側の約3GHzの範囲にわたって637nmでNV
- ZPLを横断して走査する。サンプルから「反射」して戻る照射は光路に従うので、典型的にZPLの波長で光を入れるための通常分光計セットを用いて検出できる。
(iii)単一NV中心は、基底状態から励起状態への実際の遷移が起こる周波数でのみ入射レーザー光線を吸収し;これが、検出器によって測定される強度の減少として観察される。周波数は検出器の強度の減少と関係があり、励起周波数対光子数のヒストグラムに周波数をプロットする。
(iv)周波数走査を複数回繰り返して、例えば
図17に示すように、明確に定義されたピークのある統計的に有意なヒストグラムを構築する。
(v)ヒストグラムのピークの半値全幅(「FWHM」)で安定性を特徴づける。
【0068】
上記方法では、使用する検出器は、その機能が周波数ではなくレーザー走査として「反射」された照射の強度を測定することなので通常の分光計であってよい。
上記方法では、特に励起出力が増すと「光退色(photo bleaching)」(すなわちNV中心から電子が失われる)が起こり得る。例えば、532nm又は488nmで「リポンプ(repump)」レーザーを適用して、この退色を逆転させ得る。リポンプは、単置換窒素不純物から伝導バンドへ電子を励起させるのに十分なエネルギーを有し、これらの電子はNV中心によって再捕獲され得る。このプロセスは決定論的でなく、いつでもNV
-電荷状態のNV中心を残すわけではない。PLE走査間に連続的にか又はパルスとしてリポンプを適用できるが、連続的リポンピングは、単一PLE走査中に素早い点滅及びおそらくスペクトル拡散を引き起こす。走査間のパルスリポンプは中断せずに単一走査を完了させられるが、点滅又は走査から走査へのスペクトル飛び越しをもたらし得る。
特定周波数を有する光子の数対その光子の周波数のヒストグラムのピークのFWHMの理論上の最小値は約13.3MHzである。この値は、他の点欠陥又は拡張欠陥を持たない、ほかの点では完璧な同位体的に純粋なダイヤモンドの単一NV中心に当てはまるであろう。
好ましくは、本発明のソリッドステートシステムでは、m
s=±1の励起状態からm
s=0の基底状態への遷移の安定性が、特定周波数を有する光子の数対その光子の周波数のヒストグラムのピークのFWHMが約500MHz以下、好ましくは約300MHz以下、好ましくは約200MHz以下、好ましくは約150MHz以下、好ましくは約100MHz以下、好ましくは約80MHz以下、好ましくは約50MHz以下であるようなものである(ここで、該FWHMを評価する光子の数は約5×10
5以上、好ましくは約10
6以上、好ましくは約10
7以上、好ましくは約10
8以上である)。
本発明のソリッドステートシステムは、量子リピーター、量子暗号デバイス若しくは量子計算デバイス若しくは磁気計又は他のスピントロニクスデバイスであってよい。