(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764067
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液、それを用いたインゴットの切断方法、そのリサイクル方法及び切断によって得られるウェハー
(51)【国際特許分類】
C10M 173/00 20060101AFI20150723BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20150723BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20150723BHJP
B28D 7/02 20060101ALI20150723BHJP
C10M 105/14 20060101ALN20150723BHJP
C10M 105/18 20060101ALN20150723BHJP
C10M 107/34 20060101ALN20150723BHJP
C10M 129/08 20060101ALN20150723BHJP
C10M 129/16 20060101ALN20150723BHJP
C10M 145/26 20060101ALN20150723BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20150723BHJP
C10N 30/18 20060101ALN20150723BHJP
C10N 40/22 20060101ALN20150723BHJP
C10N 40/32 20060101ALN20150723BHJP
【FI】
C10M173/00
B24B27/06 H
H01L21/304 611W
B28D7/02
!C10M105/14
!C10M105/18
!C10M107/34
!C10M129/08
!C10M129/16
!C10M145/26
C10N30:00
C10N30:18
C10N40:22
C10N40:32
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-540486(P2011-540486)
(86)(22)【出願日】2010年11月5日
(86)【国際出願番号】JP2010069716
(87)【国際公開番号】WO2011058929
(87)【国際公開日】20110519
【審査請求日】2013年10月2日
(31)【優先権主張番号】特願2009-258864(P2009-258864)
(32)【優先日】2009年11月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391045668
【氏名又は名称】パレス化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】きさらぎ国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100064539
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 登志男
(74)【代理人】
【識別番号】100103274
【弁理士】
【氏名又は名称】千且 和也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 種二郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 清史
【審査官】
増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/133612(WO,A1)
【文献】
特開2003−082334(JP,A)
【文献】
特開2002−053788(JP,A)
【文献】
国際公開第99/051711(WO,A1)
【文献】
特開2007−031502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 173/00
B24B 27/06
B28D 7/02
H01L 21/304
C10M 105/14
C10M 105/18
C10M 107/34
C10M 129/08
C10M 129/16
C10M 145/26
C10N 30/00
C10N 30/18
C10N 40/22
C10N 40/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)式(1)で表されるポリエーテルと、(b)
(b1)式(2)で表されるポリアルキレングリコール、並びに(b2)(b1)以外のグリコール及び分子量100〜300の低分子量グリコールエーテルの少なくとも1種と、(c)水とを含み、
(a)と(b)の比が1:99〜50:50であり、(c)の含有量が5〜50重量%であり、
(b1)の含有量が水溶性切断液全体に対して0.01〜5.0重量%であることを特徴とする固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液。
【化1】
【化2】
【請求項2】
(d)分散剤を0.1〜5.0重量%さらに含有することを特徴とする請求項1記載の固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液。
【請求項3】
請求項1又は2記載の固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液を用いて、固定砥粒ワイヤーソーによりシリコンのインゴットを切断することを特徴とするインゴットの切断方法。
【請求項4】
請求項3記載のインゴット切断方法によってインゴットの切断を行った後に、遠心分離機を用いて固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液をシリコンから分離することを特徴とする固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液のリサイクル方法。
【請求項5】
請求項3記載のインゴット切断方法によって切断されたウェハー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定砥粒ワイヤーソーを用いてシリコンインゴットを切断するために用いられる固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液、それを用いたインゴットの切断方法、そのリサイクル方法及び切断によって得られるウェハーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリコンインゴットの切断には、遊離砥粒を用いたバンドソーやワイヤーソーによる切断が使用されている。遊離砥粒を用いたバンドソーやワイヤーソーによる切断は、切断したウェハーにスラリーが付着し、後工程での洗浄負荷が高く、また、シリコンインゴットの切断使用液から遊離砥粒、スラッジ、切断液を分離することが難しく、リサイクル性が悪いという問題がある。
【0003】
これらの問題に対し、ワイヤーに電着やレジンボンドを用いて砥粒を固定させた固定ワイヤーソーが開発され、洗浄工程の簡素化やシリコンインゴットの切断使用液から切断液とスラッジを分離することでリサイクル性が向上するという利点を有する。この固定ワイヤーソーを用いてシリコンを切断する際に使用される切断液として水や特許文献1及び2のような水溶性切断液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−82334号公報
【特許文献2】特開2009−57423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの水溶性切断液を用いてシリコンを切断する場合、シリコンと水が反応し水素ガスが発生する欠点があり、シリコンと水との反応による水素ガスにより、泡の発生やシリコンの凝集が起こり、切断液の粘度が上昇し、目標とする切断性能が得られない。また、シリコンと水との反応による水素ガスと切断液自体の泡立ち性によって、その後の遠心分離機によるリサイクル性が悪いという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、切断性能が高く、シリコンと水との反応による水素ガスの発生を抑制することができる固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液、それを用いたインゴットの切断方法、そのリサイクル方法及び切断によって得られるウェハーを提供するものである。
【0007】
以上の課題を解決するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、(a)所定の一般式からなるポリエーテルと、(b)グリコール及び分子量100〜300の低分子量グリコールエーテルの少なくとも1種と、(c)水とを所定の割合で含ませた水溶性切断液を用いることによって、固定砥粒ワイヤーソーに用いる場合であっても、切断性能が高く、シリコンと水との反応による水素ガスの発生を抑制することができることを見出した。すなわち、本発明は、(a)式(1)で表されるポリエーテルと、(b)グリコール及び分子量100〜300の低分子量グリコールエーテルの少なくとも1種と、(c)水とを含み、(a)と(b)の比が1:99〜50:50であり、(c)の含有量が5〜50重量%であることを特徴とする固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液である。
【0009】
また、本発明は、上記固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液を用いて、固定砥粒ワイヤーソーによりシリコンのインゴットを切断することを特徴とするインゴットの切断方法、そのインゴット切断方法によってインゴットの切断を行った後に、遠心分離機を用いて固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液をシリコンから分離することを特徴とする固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液のリサイクル方法、及び上記インゴット切断方法によって切断されたウェハーである。
【発明の効果】
【0010】
以上のように本発明によれば、切断性能が高く、シリコンと水との反応による水素ガスの発生を抑制することができる固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液、それを用いたインゴットの切断方法、そのリサイクル方法及び切断によって得られるウェハーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液に用いられる(a)ポリエーテルの式(1)中、R
1は、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基若しくはアルケニル基、EOは、オキシエチレン基、AOは、炭素数3又は4のオキシアルキレン基、m及びnは、それぞれ1〜20の付加モル数を表す。また、式(1)で示すポリエーテルは、ランダム重合によって重合しても、ブロック重合によって重合しても良い。式(1)で示すポリエーテルの重量平均分子量は、200〜2,000であることが好ましい。このようにポリエーテルを式(1)で示すポリアルキレングリコールブチルエーテルに限定したのは、メチルやエチル等のエーテルでは、固定砥粒ワイヤーソーにおいて十分な切断性能を得られないためである。このようなポリアルキレングリコールブチルエーテルとしては、例えばユカノール50MB−5(日油社製)などがある。
【0012】
また、(b)のグリコールは、OH基を2つ有し、分子量又は重量平均分子量が60〜3,500であることが好ましく、例えばモノエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、モノプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ヘキシレングリコール及びポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコールなどがある。さらに、(b)の低分子量グリコールエーテルは、分子量が100〜300であればよく、例えばジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル及びジエチレングリコールモノヘキシルエーテルなどがある。
【0013】
この(b)は、(b1)式(2)で表されるポリアルキレングリコールと、(b2)(b1)以外のグリコール及び分子量100〜300の低分子量グリコールエーテルの少なくとも1種とを含み、(b1)の含有量が水溶性切断液全体に対して0.01〜5.0重量%であることが好ましい。式(2)中、x、y、zはそれぞれ1〜20の付加モル数を表す。式(2)で示すポリエーテルの重量平均分子量は、1,000〜3,000であることが好ましい。また、(b1)を0.01〜5.0重量%としたのは、0.01重量%未満では泡立ちの改善とならず、リサイクル性が悪くなり、5.0重量%以上では切断性能が悪くなるからである。より好ましい(b1)の含有量は0.1〜2.0重量%である。
【0014】
【化2】
【0015】
本発明に係る固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液は、必要に応じて(d)分散剤を添加することができる。使用する分散剤としては、アリルアルコール、無水マレイン酸の共重合体にポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルのグラフト重合したポリカルボン酸やその塩、アリルアルコール、無水マレイン酸、スチレンの共重合体にポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルのグラフト重合したポリカルボン酸やその塩、ナフタレンスルホン酸縮合物やその塩等があり、一般に分散剤として販売されているものを使用することができる。分散剤の含有量は、0.1〜5.0重量%であることが好ましい。0.1〜5.0重量%においては、切断時の切屑の分散性が良好であり、発泡による切断性能やリサイクル性の低下を抑制することができる。より好ましい(d)分散剤の含有量は、0.1〜1重量%である。
【0016】
本発明に係る固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液において、(a)と(b)の比を1:99〜50:50とすると、シリコンと水との反応による水素ガスの発生を抑制する効果が高く、水素ガスの発生による泡の発生やシリコンの凝集が起こり難くなり、粘度変化を少なくすることができる。また、工作機械で使用している樹脂部品への影響も少なく、切断性能を向上させることができる。より好ましい(a)と(b)との比は、5:95〜30:70である。
【0017】
本発明に係る固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液において、(c)水を5〜50重量%とすると、切断時の引火性の問題がなく、切断時における発熱を冷却する能力が高く、発熱による水分の蒸発量が少ないため、切断性能が向上する。また、切断中のウェハー表面の乾燥を抑制し、後工程の洗浄工程の負荷を抑えることが可能となる。より好ましい水分量は、5〜40重量%である。
【0018】
本発明に係る固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液は、必要に応じて、防錆剤、防腐剤、香料、染料等を添加しても良い。
【0019】
本発明に係る固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液は、半導体素子や太陽電池の材料であるシリコンウェハーの切断において、切断工具として固定砥粒ワイヤーソーを用い、切断加工機としてマルチワイヤーソーを用いることができる。
【0020】
本発明に係る固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液は、切断した後、遠心分離機を用いて、シリコンと水溶性切断液とを分離し、リサイクルすることができる。
【0021】
本発明に係るインゴットの切断方法によって切断されたウェハーは、従来の固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液を用いて切断されたウェハーよりも、表面粗さ、ウネリが良好なウェハーを得ることができ、半導体デバイス用やソーラー用のウェハーとして使用できる。
【実施例】
【0022】
次に、本発明に係る固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液の実施例について説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。先ず、表1乃至表4の配合量に従って、これらを常法により混合することにより、実施例1乃至実施例12に係る固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液、及び比較例1乃至比較例10に係る固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液を得た。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
【表4】
【0027】
(切断試験)
次に、実施例1乃至実施例12に係る固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液、及び比較例1乃至比較例10に係る固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液を使用し、切断試験を行い、切断距離を測定した。切断試験は、ワイヤーソー試験機:3032−4(WELL製)、ワイヤー:芯線0.12mm ダイヤ径12−25μm(旭ダイヤ社製)、ワイヤー速度:200m/min、加工荷重:30g、加工時間:30分、加工ワーク:20mm×30mm×30mm、試験温度:25℃の条件で行った。結果を表5及び表6に示す。表5及び表6から、本実施例に係る固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液は、切断性能が良好であることが分かる。
【0028】
【表5】
【0029】
【表6】
【0030】
(粘度及びガス発生試験)
次に、固定砥粒ワイヤーより単結晶シリコンのインゴットを切断したときに混入してくる活性なシリコン屑を想定して、実施例1乃至実施例12に係る固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液、並びに比較例1乃至比較例3及び比較例5乃至比較例9に係る固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液にシリコン粉(粒径約5μm)を20重量%添加し、遊星ボールミルにて粗粉砕し、BL型回転粘度計(ローターNo.1 60rpm)にて25℃における粘度を測定した(粘度1)。その後、密閉できるポリエチレン袋(厚さ0.04mm)に入れ、脱気し、50℃にて24時間保管した後のシリコン反応ガス量を確認するとともに、25℃における粘度を測定した(粘度2)。粗粉砕は、カップ:500mlジルコニアポット、メディア:φ2mmジルコニアビーズ、試料量:200ml、メディア量:200ml、回転数:250rpm、時間:30分の条件で行った。反応ガス量確認は、ポリエチレン袋:パコールチャック袋(日本ハイテック(株)製)、厚み:0.04mm、確認方法:目視(ポリエチレン袋の膨らみ具合)の条件で行った。結果を表7及び表8に示す。表7及び表8から、本発明に係る固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液は、シリコンと水との反応ガス量が限りなく少なく、粘度変化も小さいことが分かる。
【0031】
【表7】
【0032】
【表8】
【0033】
(洗浄試験)
次に、固定砥粒ワイヤーより単結晶シリコンのインゴットを切断したときに混入してくる活性なシリコン屑を想定して、実施例1乃至実施例12に係る水溶性切断液、並びに比較例3及び比較例6に係る水溶性切断液にシリコン粉(粒径約5μm)を20重量%添加し、遊星ボールミルにて前記(粘度及びガス発生試験)の粗粉砕と同様の条件で粗粉砕した液を、3インチシリコンウェハー全面に付着させ、ウェハーを垂直に維持したまま、室温で24時間静置した。その後、流水にて洗浄し、洗浄性を確認した。結果を表9に示す。表9から、本発明に係る固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液は、後工程での洗浄が良好な事が分かる。
【0034】
【表9】
【0035】
(泡立ち試験)
次に、切断中の泡立ちやリサイクル中の泡立ちを想定して、実施例1乃至12に係る固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液、並びに比較例1、比較例2、及び比較例6に係る固定砥粒ワイヤーソー用水溶性切断液を有栓式100・メスシリンダーに50・入れ、有栓した後、激しくシェイクした。その後の泡立ち量および液表面が見えるまでの消泡時間を確認した。結果を表10に示す。表10から、本発明に係る水溶性切断液は、泡立ちが少なく良好な事が分かる。
【0036】
【表10】