特許第5764068号(P5764068)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5764068アルキル−アミン−n−オキシド(AANOx)を用いる細胞増殖を増強する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764068
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】アルキル−アミン−n−オキシド(AANOx)を用いる細胞増殖を増強する方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20150723BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20150723BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20150723BHJP
   C12N 5/00 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   C12P21/02 C
   C12N1/00 F
   C12N5/00 101
   C12N5/00 201
【請求項の数】23
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2011-544608(P2011-544608)
(86)(22)【出願日】2009年12月30日
(65)【公表番号】特表2012-513770(P2012-513770A)
(43)【公表日】2012年6月21日
(86)【国際出願番号】US2009069854
(87)【国際公開番号】WO2010078450
(87)【国際公開日】20100708
【審査請求日】2012年9月25日
(31)【優先権主張番号】61/141,555
(32)【優先日】2008年12月30日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591013229
【氏名又は名称】バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
(73)【特許権者】
【識別番号】501453189
【氏名又は名称】バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】Baxter Healthcare SA
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ロイ, シルヴァイン
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−243942(JP,A)
【文献】 特開平04−316484(JP,A)
【文献】 特開平08−070859(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/033517(WO,A2)
【文献】 Angew. Chem. Int. Ed. Engl.,2002年,vol.41, no.6,pp.983-986
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 21/00−21/08
C12N 1/00−1/38
C12N 5/00−5/28
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養物における組換えタンパク質の発現を増強するための方法であって、該方法は、該組換えタンパク質を発現する細胞を、培養物中の該細胞の増殖速度を改善するのに十分な量のドデシルジメチルアミンオキシド(DDAO)または関連する検体を含む培養培地中で培養する工程、を包含し、該検体は、C10ジメチルアミンオキシド、C12ジメチルアミンオキシド、C14ジメチルアミンオキシド、C16ジメチルアミンオキシド、C18ジメチルアミンオキシド、ジメチル−テトラデシル−アミン−オキシドおよびジメチル−ヘキサデシル−アミン−オキシドからなる群より選択される、方法。
【請求項2】
細胞培養物中の哺乳動物細胞の増殖速度を増強するための方法であって、該方法は、培養物中の該細胞の該増殖速度を改善するのに十分な量のドデシルジメチルアミンオキシド(DDAO)または関連する検体を含む培養培地中で細胞を培養する工程、を包含し、該検体は、C10ジメチルアミンオキシド、C12ジメチルアミンオキシド、C14ジメチルアミンオキシド、C16ジメチルアミンオキシド、C18ジメチルアミンオキシド、ジメチル−テトラデシル−アミン−オキシドおよびジメチル−ヘキサデシル−アミン−オキシドからなる群より選択される、方法。
【請求項3】
前記DDAOまたは関連する検体の量は、4〜80ppbの間である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記DDAOまたは関連する検体の量は、4〜50ppbの間である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記DDAOまたは関連する検体の量は、10ppb〜40ppbの間である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記DDAOまたは関連する検体は、規則的な時間周期で添加されて、前記細胞培地中のDDAOまたは関連する検体のレベルが維持される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記DDAOまたは関連する検体は、複数の時間周期で添加されて、前記細胞培地中のDDAOまたは関連する検体のレベルが維持される、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記DDAOまたは関連する検体は、単一の時間周期で連続して添加されて、前記細胞培地中のDDAOまたは関連する検体のレベルが維持される、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記DDAOまたは関連する検体は、ダイズ加水分解物の調製物に由来しない、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
前記DDAOまたは関連する検体は、ダイズ加水分解物の調製物に由来する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項11】
前記培養培地は、動物タンパク質を含まない培地である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項12】
前記培養培地は、動物タンパク質を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞は、BSC細胞、LLC−MK細胞、CV−1細胞、COS細胞、VERO細胞、MDBK細胞、MDCK細胞、CRFK細胞、RAF細胞、RK細胞、TCMK−1細胞、LLCPK細胞、PK15細胞、LLC−RK細胞、MDOK細胞、BHK−21細胞、CHO細胞、NS−1細胞、MRC−5細胞、WI−38細胞、BHK細胞、293細胞、およびRK細胞からなる群より選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞は、CHO細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記組換えタンパク質は、血液凝固因子である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項16】
前記血液凝固因子は、第II因子、第V因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XI因子、フォンビルブラント因子、第XII因子および第XIII因子からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記血液凝固因子は、第VIII因子である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
細胞培養培地において使用される場合、哺乳動物細胞増殖を増強するのに十分な量のDDAOまたは関連する検体を含む、細胞培養培地であって、該検体は、C10ジメチルアミンオキシド、C12ジメチルアミンオキシド、C14ジメチルアミンオキシド、C16ジメチルアミンオキシド、C18ジメチルアミンオキシド、ジメチル−テトラデシル−アミン−オキシドおよびジメチル−ヘキサデシル−アミン−オキシドからなる群より選択される、細胞培養培地
【請求項19】
前記DDAOまたは関連する検体の量は、4〜80ppbの間である、請求項18に記載の培地
【請求項20】
前記DDAOまたは関連する検体の量は、4〜50ppbの間である、請求項18に記載の培地
【請求項21】
前記DDAOまたは関連する検体の量は、10ppb〜40ppbの間である、請求項18に記載の培地
【請求項22】
前記DDAOまたは関連する検体は、ダイズ加水分解物の調製物に由来しない、請求項18に記載の培地。
【請求項23】
前記DDAOまたは関連する検体は、ダイズ加水分解物の調製物に由来する、請求項18に記載の培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2008年12月30日に出願された米国仮特許出願第61/141,555号の利益を主張し、この米国仮特許出願は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、一般に、アルキル−アミン−n−オキシド(AANOx)(例えば、ドデシルジメチルアミンオキシド(DDAO))を細胞培養培地に添加することによって、無血清培地中で細胞増殖を高めるための方法に関する。DDAOの、上記培養培地への添加は、細胞増殖速度を改善し、それによって、上記細胞によって発現される組換えタンパク質の生成を改善する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
細胞(特に、真核生物細胞)のインビトロ培養、およびより具体的には、哺乳動物細胞の培養は、しばしば、上記細胞の効率的増殖に必要とされる増殖栄養物質を使えるようにする特別な培養培地を要する。これら培養細胞に由来する生物学的生成物(ウイルスもしくは組換えタンパク質を含む)の効率的生成のために、至適細胞密度が達成され、同様に、最大生成物収率を得るようにタンパク質発現の増大を達成することは、重要である。
【0004】
細胞培養培地は、制御され、人工的かつインビトロの環境で細胞を維持および増殖するために必要な栄養分を提供する。上記細胞培養培地の特徴および組成は、特定の細胞の要求に依存して変動する。関連する培養パラメーターとしては、容量オスモル濃度、pH、および栄養分処方物が挙げられる。細胞培養培地処方物には、ある範囲の添加物(ウシ胎仔血清(FCS)のような不確定の成分、いくつかの動物由来タンパク質および/もしくはウシ由来のタンパク質加水分解物が挙げられる)が補充されてきた。
【0005】
一般に、血清もしくは血清由来物質(例えば、アルブミン、トランスフェリン、もしくはインスリン)は、上記細胞培養物およびこれから得られる生物学的生成物に夾雑する所望されない因子を含み得る。例えば、ヒト血清由来添加物は、血清によって伝播され得る全ての公知のウイルス(肝炎およびHIVが挙げられる)に対して試験されなければならない。さらに、ウシ血清およびこれに由来する生成物は、ウシ海綿状脳症(BSE)夾雑のリスクを有する。さらに、全ての血清由来生成物は、未知の成分が夾雑し得る。細胞培養物中の、ヒトもしくは他の動物供給源に由来する血清またはタンパク質添加物の場合、多くの問題(例えば、種々のバッチの組成では品質に変化があること、およびマイコプラズマ、ウイルスもしくはBSEが夾雑しているリスクがあること)が、特に、上記細胞が、ヒト投与のための薬物もしくはワクチンの生成に使用される場合には、存在する。
【0006】
効率的な宿主系および培養条件を提供するために多くの試みが行われてきた。これらは、血清も他の動物タンパク質化合物をも要しない。単純な無血清培地は、代表的には、基礎培地、ビタミン、アミノ酸、有機塩もしくは無機塩、ならびに必要に応じて、上記培地を栄養的に複雑にするさらなる成分を含む。
【0007】
ダイズ加水分解物は、発酵プロセスに有用であることが公知であり、多くの生物、酵母および真菌の増殖を高め得る。特許文献1は、ダイズミールのパパイン消化物(papaic digest)が、炭水化物および窒素の供給源であり、上記成分の多くが組織培養において使用され得ることを記載している。非特許文献1は、規定されたダイズ加水分解物のペプチド画分の増殖および生産性促進効果を記載している。
【0008】
特許文献2は、脊椎動物細胞の増殖およびウイルス生成プロセスのための、合成ミネラル必須培地および酵母抽出物から構成される無血清培地を開示する。動物細胞の増殖のための、コメペプチド、ならびに酵母抽出物およびその酵素消化物、ならびに/または植物脂質を含む基礎細胞培養培地から構成される培地処方物は、特許文献3で開示されている。組換え細胞の培養のための精製ダイズ加水分解物を含む培地は、特許文献4で開示されている。特許文献5は、ダイズ加水分解物および酵母抽出物を含む培地を開示しているが、動物タンパク質(例えば、増殖因子)の組換え形態の存在も必要とする。
【0009】
EP 0481791は、操作されたCHO細胞を培養するための生化学的に規定された培養培地(これは、動物供給源から単離されたタンパク質、脂質および炭水化物を含まず、組換えインスリンもしくはインスリンアナログ、1%〜0.025% w/v パパイン消化したダイズペプトンおよびプトレシンをさらに含む)を記載する。特許文献6は、加水分解ダイズペプチド(1〜1000mg/L)、0.01〜1mg/L プトレシンおよび種々の動物由来成分(アルブミン、フェチュイン、種々のホルモンおよび他のタンパク質が挙げられる)を含む無血清真核生物細胞培養物を記載している。この状況において、プトレシンが0.08mg/Lの濃度でDMEM/Ham’s F12のような標準培地に含まれることが公知であることもまた、注意されるべきである。
【0010】
しばしば、細胞培養培地は、微量の夾雑物(例えば、上記培地の成分を調製するために使用される界面活性剤もしくは保存剤)を含み得る。表面活性剤(surfactant)および界面活性剤(detergent)(例えば、いくつか挙げると、脂質アミンのN−オキシド、Triton−X、Nonidet P40、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、CHAPS、およびポリソルベート)は、洗浄溶液、膜、ガラス製品に対する生化学的プロセスにおいて、および組換え生物学ならびに生化学が依拠する多くのプロセスにおいて、一般に使用される。例えば、非イオン性界面活性剤であるN,N−ジメチルドデシルアミン−N−オキシド(DDAO)(CH(CH11N(O)(CH)(CAS番号:1643−20−5)もしくは関連化合物であるアルキルアミン−N−オキシドは、多くの分野(化粧品、遺伝子操作を含む)において、およびタンパク質膜の研究のために使用されている(非特許文献2)。DDAOはまた、ダイズ加水分解物の化合物の製造において使用され、上記加水分解物の化合物は、無血清培地における一般的な添加物である。次いで、微量のDDAOは、夾雑ダイズ加水分解物が補充された細胞培養培地中で検出され得る。代表的には、これら微量の夾雑物は、培養物において細胞の増殖もしくは生存性をもたらさないと考えられるが、Bryckiら(前出)が、培養物中のBacillus細菌の脱窒素作用(NOからNへの変換)に対するDDAOの影響を研究したところ、75ppmを上回るDDAOレベルは、脱窒素作用のプロセスを遅らせることが示された。しかし、これら微量夾雑物(例えば、哺乳動物細胞培養物におけるDDAO)の効果の分析は、今日まで行われてこなかった。
【0011】
従って、細胞の増殖速度を増大させるために、細胞増殖に対する培養培地夾雑物の効果を決定し、生物学的生成物(例えば、ヒトの医薬もしくはワクチンとして使用されるもの)の生成のための最適な細胞培養培地を提供する必要が残っている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第96/26266号
【特許文献2】国際公開第96/15231号
【特許文献3】国際公開第98/15614号
【特許文献4】国際公開第01/23527号
【特許文献5】国際公開第00/03000号
【特許文献6】国際公開第98/08934号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Franekら、Biotechnology Progress 16:688−692,2000
【非特許文献2】Bryckiら,Polish Journal of Environmental Studies 14:411−15,2005
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の要旨)
本発明は、アルキル−アミン−n−オキシド(AANOx)の、細胞培養培地への添加による細胞培養条件の改善に関する。
【0015】
一局面において、本発明は、細胞培養物における組換えタンパク質の発現を高めるための方法を提供し、上記方法は、培養物において上記細胞の増殖速度を改善するのに十分な量のアルキル−アミン−n−オキシド(AANOx)を含む培養培地において、上記組換えタンパク質を発現する細胞を培養する工程を包含する。
【0016】
関連する局面において、本発明は、細胞培養物における細胞の増殖速度を高めるための方法を意図し、上記方法は、細胞を、上記培養物中の上記細胞の増殖速度を改善するのに十分な量のアルキル−アミン−n−オキシド(AANOx)を含む培養培地において培養する工程を包含する。
【0017】
一実施形態において、上記AANOxは、ジメチル−テトラデシル−アミン−オキシド(C14NCO)、ジメチル−ヘキサデシル−アミン−オキシド(C16NCO)、およびアルキル−アミン−n−オキシドの検体(analyte)からなる群より選択され、ここで上記アルキルは、C10、C12、C14およびC16(例えば、C12NC、C12NC、C14NC、C14NC)を含み、さらなるメチル分枝があってもよいし、なくてもよい。関連する実施形態において、上記AANOxは、ドデシルジメチルアミンオキシド(DDAO)である。
【0018】
一実施形態において、上記AANOxの量は、約4〜約80十億分率(parts per billion)(ppb)の間(約1〜約20百万分率(parts per million)相当量の、ダイズペプトン調製物中に見いだされるAANOxに相当する)である。関連する実施形態において、上記AANOxの量は、約4〜約50ppbの間である。別の実施形態において、上記AANOxの量は、約10ppb〜約40ppbの間である。上記AANOxが、約4ppb、約5ppb、約6ppb、約7ppb、約8ppb、約9ppb、約10ppb、約11ppb、約12ppb、約13ppb、約14ppb、約15ppb、約16ppb、約17ppb、約18ppb、約19ppb、約20ppb、約25ppb、約30ppb、約35ppb、約40ppb、約45ppb、約50ppb、約55ppb、約60ppb、約65ppb、約70ppb、約75ppbもしくは約80ppbであることが、意図される。
【0019】
いくつかの実施形態において、上記AANOxは、規則的な時間周期で上記培養培地に添加されて、上記細胞培地中のAANOxレベルが維持される。さらなる実施形態において、上記AANOxは、複数の時間周期で添加されて、上記細胞培地中のAANOxレベルが維持される。一実施形態において、上記AANOxは、単一の時間周期で連続して添加されて、上記細胞培地中のAANOxレベルが維持される。
【0020】
一実施形態において、上記AANOxは、ダイズ加水分解物の調製物に由来しない。関連する実施形態において、上記AANOxは、ダイズ加水分解物の調製物に由来する。
【0021】
例示的なダイズ加水分解物としては、高度に精製したダイズ加水分解物、精製したダイズ加水分解物、粗製のダイズ加水分解物、植物ベースの加水分解物、非植物ベースの加水分解物、酵母ベースのダイズ加水分解物、HYPEP 1510(登録商標)、HY−SOY(登録商標)、HY−YEAST 412(登録商標)、HI−YEAST444(登録商標)、トリプロン(Tryprone)、カゼイン加水分解物、酵母抽出物、パパイン消化したダイズペプトン、TC Yeastolate、Yeastolate UF、ダイズ加水分解物(Soy Hydrolysate) UFおよびHYQ(登録商標)ダイズ加水分解物(Soy Hydrolysate)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
一実施形態において、本発明は、上記培養培地が動物タンパク質を含まない培地であるものを提供する。別の実施形態において、上記培養培地は、動物タンパク質を含む。
【0023】
本発明は、上記組換えタンパク質が、細胞において成長し、ここで上記細胞が哺乳動物細胞であるものを提供する。一実施形態において、上記細胞は、BSC細胞、LLC−MK細胞、CV−1細胞、COS細胞、VERO細胞、MDBK細胞、MDCK細胞、CRFK細胞、RAF細胞、RK細胞、TCMK−1細胞、LLCPK細胞、PK15細胞、LLC−RK細胞、MDOK細胞、BHK−21細胞、CHO細胞、NS−1細胞、MRC−5細胞、WI−38細胞、BHK細胞、293細胞、RK細胞、ニワトリ胚細胞および当該分野で公知の組換えタンパク質生成に有用な他の哺乳動物細胞からなる群より選択される。関連する実施形態において、上記細胞は、CHO細胞である。
【0024】
本発明の方法は、任意の組換えタンパク質を生成するために有用であることが意図される。一実施形態において、上記組換えタンパク質は、血液凝固因子である。別の実施形態において、上記血液凝固因子は、第II因子、第V因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XI因子、フォンビルブラント因子、第XII因子および第XIII因子からなる群より選択される。さらなる実施形態において、上記血液凝固因子は、第VIII因子である。
【0025】
別の局面において、本発明は、上記培養培地において使用される場合に、細胞増殖を高めるのに十分な量のアルキル−アミン−n−オキシド(AANOx)を含む細胞培養培地を提供する。
【0026】
一実施形態において、上記AANOxは、ジメチル−テトラデシル−アミン−オキシド(C14NCO)、ジメチル−ヘキサデシル−アミン−オキシド(C16NCO)、およびアルキル−アミン−n−オキシドの検体からなる群より選択され、ここで上記アルキルは、C10、C12、C14、およびC16(例えば、C12NC、C12NC、C14NC、C14NC)を含み、さらなるメチル分枝があってもよいし、なくてもよい。関連する実施形態において、上記AANOxは、ドデシルジメチルアミンオキシド(DDAO)である。
【0027】
一実施形態において、上記AANOxの量は、約4〜約80十億分率(ppb)の間(約1〜約20百万分率相当量の、ダイズペプトン調製物において見いだされるDDAOに相当する)である。関連する実施形態において、上記AANOxの量は、約4〜約50ppbの間である。別の実施形態において、上記AANOxの量は、約10ppb〜約40ppbの間である。上記AANOxは、約4ppb、約5ppb、約6ppb、約7ppb、約8ppb、約9ppb、約10ppb、約11ppb、約12ppb、約13ppb、約14ppb、約15ppb、約16ppb、約17ppb、約18ppb、約19ppb、約20ppb、約25ppb、約30ppb、約35ppb、約40ppb、約45ppb、約50ppb、約55ppb、約60ppb、約65ppb、約70ppb、約75ppbもしくは約80ppbであることが意図される。
【0028】
一実施形態において、上記AANOxは、ダイズ加水分解物の調製物に由来しない。関連する実施形態において、上記AANOxは、本明細書で記載されるように、ダイズ加水分解物の調製物に由来する。
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)
細胞培養物における組換えタンパク質の発現を増強するための方法であって、該方法は、該組換えタンパク質を発現する細胞を、培養物中の該細胞の増殖速度を改善するのに十分な量のアルキル−アミン−n−オキシド(AANOx)を含む培養培地中で培養する工程、を包含する、方法。
(項目2)
細胞培養物中の細胞の増殖速度を増強するための方法であって、該方法は、培養物中の該細胞の該増殖速度を改善するのに十分な量のアルキル−アミン−n−オキシド(AANOx)を含む培養培地中で細胞を培養する工程、を包含する、方法。
(項目3)
上記AANOxは、ドデシルジメチルアミンオキシド(DDAO)である、項目1または2に記載の方法。
(項目4)
上記AANOxの量は、約4〜約80ppbの間である、項目1または2に記載の方法。
(項目5)
上記AANOxの量は、約4〜約50ppbの間である、項目1または2に記載の方法。
(項目6)
上記AANOxの量は、約10ppb〜約40ppbの間である、項目1または2に記載の方法。
(項目7)
上記AANOxは、規則的な時間周期で添加されて、上記細胞培地中のAANOxレベルが維持される、項目1または2に記載の方法。
(項目8)
上記AANOxは、複数の時間周期で添加されて、上記細胞培地中のAANOxレベルが維持される、項目7に記載の方法。
(項目9)
上記AANOxは、単一の時間周期で連続して添加されて、上記細胞培地中のAANOxレベルが維持される、項目7に記載の方法。
(項目10)
上記AANOxは、ダイズ加水分解物の調製物に由来しない、項目1または2に記載の方法。
(項目11)
上記AANOxは、ダイズ加水分解物の調製物に由来する、項目1または2に記載の方法。
(項目12)
上記培養培地は、動物タンパク質を含まない培地である、項目1または2に記載の方法。
(項目13)
上記培養培地は、動物タンパク質を含む、項目1または2に記載の方法。
(項目14)
上記細胞は、哺乳動物細胞である、項目1または2に記載の方法。
(項目15)
上記細胞は、BSC細胞、LLC−MK細胞、CV−1細胞、COS細胞、VERO細胞、MDBK細胞、MDCK細胞、CRFK細胞、RAF細胞、RK細胞、TCMK−1細胞、LLCPK細胞、PK15細胞、LLC−RK細胞、MDOK細胞、BHK−21細胞、CHO細胞、NS−1細胞、MRC−5細胞、WI−38細胞、BHK細胞、293細胞、およびRK細胞からなる群より選択される、項目14に記載の方法。
(項目16)
上記細胞は、CHO細胞である、項目14に記載の方法。
(項目17)
上記組換えタンパク質は、血液凝固因子である、項目1または2に記載の方法。
(項目18)
上記血液凝固因子は、第II因子、第V因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XI因子、フォンビルブラント因子、第XII因子および第XIII因子からなる群より選択される、項目17に記載の方法。
(項目19)
上記血液凝固因子は、第VIII因子である、項目18に記載の方法。
(項目20)
細胞培養培地において使用される場合、細胞増殖を増強するのに十分な量のアルキル−アミン−n−オキシド(AANOx)を含む、細胞培養培地。
(項目21)
上記AANOxは、ドデシルジメチルアミンオキシド(DDAO)である、項目20に記載の方法。
(項目22)
上記AANOxの量は、約4〜約80ppbの間である、項目20に記載の方法。
(項目23)
上記AANOxの量は、約4〜約50ppbの間である、項目20に記載の方法。
(項目24)
上記AANOxの量は、約10ppb〜約40ppbの間である、項目20に記載の方法。
(項目25)
上記AANOxは、ダイズ加水分解物の調製物に由来しない、項目20に記載の培地。
(項目26)
上記AANOxは、ダイズ加水分解物の調製物に由来する、項目20に記載の培地。

【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、培養細胞培地へのAANOxの添加の、CHO細胞増殖に対する効果を示す。
図2図2は、種々のレベルのAANOxを添加した培地中での、細胞増殖に対するAANOxの効果を示す。図2Aは、AANOxの増殖増強効果を示す。図2Bは、高レベルのAANOx中での細胞の培養は、毒性であることを示す。
図3図3は、種々の細胞培養物濃度(十億分率で表される)での、DDAOの増殖増強効果を図示する。
図4図4は、種々の細胞培養条件での、DDAOの増殖増強効果(サンプルを2連でアッセイした)を図示する。結果は、百万分率で表した。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(詳細な説明)
本発明は、細胞培養物中の細胞増殖を高めるための方法に関し、上記方法は、細胞増殖を高め、続いて、上記細胞からの組換えタンパク質生成を改善するのに十分な量のアルキル−アミン−n−オキシド(AANOx)(例えば、ドデシルジメチルアミンオキシド(DDAO))を添加する工程を包含する。
【0031】
別段定義されなければ、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。以下の参考文献は、本発明において使用される用語の多くについての一般的定義を当業者に提供する:Singletonら,DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY(2d ed.1994);THE CAMBRIDGE DICTIONARY OF SCIENCE AND TECHNOLOGY(Walker ed.,1988);THE GLOSSARY OF GENETICS,5TH ED.,R.Riegerら(eds.),Springer Verlag(1991);およびHale and Marham,THE HARPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY(1991)。
【0032】
本明細書で引用される各刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、本開示と矛盾しない程度にまで、その全体が本明細書に参考として援用される。
【0033】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「1つの、ある(a)」、「1つの、ある(an)」、および「この、その、上記(the)」は、文脈が明らかに別のことを指し示さなければ、複数形への言及を含むことが留意される。
【0034】
本明細書で使用される場合、以下の用語は、別段特定されなければ、それら用語に与えられた意味を有する。
【0035】
用語「細胞培養」もしくは「培養」とは、人工的なインビトロ環境においで細胞を維持することをいう。用語「細胞培養物」とは、包括的用語であり、個々の細胞の培養のみならず、組織、器官、器官系もしくは全生物の培養をも包含するために使用され得ることが理解される。米国特許第6,103,529号を参照のこと。
【0036】
語句「細胞培養培地」、「培養培地」(各場合では、複数形の「培地(media)」)および「培地処方物」とは、細胞を培養するための栄養素溶液をいい、交換可能に使用され得る。
【0037】
用語「動物タンパク質を含まない細胞培養培地」とは、本明細書で使用される場合、高等多細胞非植物真核生物に由来するタンパク質および/もしくはタンパク質成分を含まない培地をいう。避けられる代表的タンパク質は、血清および血清由来物質において見いだされるもの(例えば、アルブミン、トランスフェリン、インスリンおよび他の増殖因子が挙げられるが、これらに限定されない)である。上記動物タンパク質を含まない細胞培養培地はまた、いかなる精製された動物由来生成物および組換えの動物由来生成物をも、ならびにそのタンパク質消化物および抽出物をも、その脂質抽出物や精製された成分をも含まない。動物タンパク質およびタンパク質成分は、非動物タンパク質、植物から得られ得る低分子ペプチド(通常、10〜30アミノ酸長)(例えば、ダイズ)、および低級真核生物(例えば、本発明に従って、上記動物タンパク質を含まない細胞培養培地に含められ得る酵母)から区別されるべきである。用語「無血清培地」とは、培地に対して適用される場合、「動物タンパク質を含まない細胞培養培地」のうちのあるタイプであり、血清(例えば、ウシ胎仔血清)を含まない任意の哺乳動物細胞培養培地を包含する。
【0038】
本発明に従う動物タンパク質を含まない培養培地は、一局面において、任意の基礎培地(例えば、一般に、当業者に公知であるDMEM、Ham’s F12、199培地、マッコイもしくはRPMI)に基づく。上記基礎培地は、種々の実施形態において、いくつかの成分(例示すると、アミノ酸、ビタミン、有機塩もしくは無機塩、および炭水化物源が挙げられるが、これらに限定されず、各成分は、一般に、当業者に公知の、細胞の培養を支援する量で存在する)を含む。上記培地は、特定の局面において、補助的物質(例えば、炭酸水素ナトリウムのような緩衝物質、抗酸化剤、機械的ストレスを中和する安定化剤、もしくはプロテアーゼインヒビター)を含む。必要とされる場合、種々の実施形態において、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールの混合物(例えば、PLURONIC F68(登録商標)、SERVA)が挙げられるが、これらに限定されない)は、消泡剤として添加される。
【0039】
用語「アルキル−アミン−n−オキシド」もしくは「AANOx」とは、関連化合物のファミリー(アルキル−アミン−n−オキシドの検体)に関する。いくつかの実施形態において、上記アルキルとしては、C10、C12、C14、およびC16の炭素部分(例えば、C12NC、C12NC、C14NC、C14NCなど)が挙げられるが、これらに限定されず、さらなるメチル分枝があってもよいし、なくてもよい。当業者に公知かつ明らかなさらなるアルキルアミンオキシドもまた、本発明の方法における使用が意図される。
【0040】
用語「ドデシルジメチルアミンオキシド」もしくは「DDAO」とは、膜およびフィルタを清浄にする生物学的な適用において使用され、かつ様々な他の界面活性剤の役割(function)において使用される、非イオン性界面活性剤(C1225N(CHO)に言及する。いくつかの場合において、これは、ダイズ加水分解物(これは、無血清培地の一般的な添加物である)の調製において有用である。DDAOは、しばしば、ダイズ加水分解物の調製物中にある微量の夾雑物である。しかし、少量のDDAOは、培養物において細胞の増殖に有益であることが、本明細書で発見された。一実施形態において、DDAOは、培養物における細胞の増殖を改善するために、細胞培養培地に添加される。上記DDAOは、細胞増殖を改善するのに十分な量で添加される。種々の局面において、DDAOが、約4〜80十億分率(ppb)(すなわち、上記ダイズ加水分解物において約1〜約20ppm相当量の間の量(例えば、1ppm DDAOを有する4g/L ダイズ加水分解物は、細胞培養物中で4ppb DDAOに等しい))で、細胞培養培地に添加されることが意図される。いくつかの実施形態において、上記DDAOが、規則的な時間周期で上記培養培地に添加されて、上記細胞培地中のDDAOレベルが維持されることは、さらに意図される。他の実施形態において、上記DDAOは、上記細胞培養物に単一ボーラスで添加される。DDAOは、多くの市販の供給源から得られる。一実施形態において、上記DDAOは、ダイズ加水分解物の調製物に由来しない。他の実施形態において、上記DDAOは、ダイズ加水分解物の調製物に由来する。DDAOについての上記説明は、本明細書で意図されるいかなるAANOxにも適用可能である。
【0041】
他の微量の界面活性剤は、DDAOと同様に、細胞増殖を改善するのに適切な量で有用であることもまた、意図される。これら一般的な細胞培養培地の夾雑物としては、DDAO、ならびに、ジメチル−テトラデシル−アミン−オキシド(C14NCO)もしくはジメチル−ヘキサデシル−アミン−オキシド(C16NCO)(DDAOに似ているが、12Cの代わりに、それぞれ14C鎖もしくは16C鎖を有する)が挙げられるが、これらに限定されない5種の関連DDAO検体、ならびにアルキル−アミン−n−オキシド’(AANOx)である検体(ここで上記アルキルとしては、例えば、C10、C12、C14、C16(例えば、C12NC、C12NC、C14NC、C14NC)を含み、さらなるメチル分枝はあってもよいし、なくてもよい)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
用語「加水分解物」とは、植物抽出物もしくは酵母抽出物の任意の酵素消化物に言及する。上記「加水分解物」は、種々の局面において、さらに、例えば、パパインによって酵素消化されるか、および/もしくは自己分解、熱分解および/もしくは原形質分離によって形成される。
【0043】
非動物ベースの加水分解物の例としては、植物ベースの加水分解物および非植物ベースの加水分解物(例えば、HYPEP 1510(登録商標)、HY−SOY(登録商標)、HY−YEAST 412(登録商標)およびHI−YEAST444(登録商標)(Quest International,Norwich,N.Y.、OrganoTechnie,S.A.France、Deutsche Hefewerke GmbH,Germany、もしくはDMV Intl.Delhi,N.Y.のような供給元から)および酵母ベースの加水分解物(例えば、Tryprone、カゼイン加水分解物、酵母抽出物、パパイン消化ダイズペプトン、TC Yeastolate(BD Diagnostic)およびYeastolate UF(SAFC Biosciences)が挙げられるが、これらに限定されない。植物ベースの加水分解物の例としては、ダイズ加水分解物UF(SAFC Biosciences)およびHYQ(登録商標)、ダイズ加水分解物(HyClone Media)が挙げられる。例えば、米国特許公開第080227136号を参照のこと。酵母抽出物およびダイズ加水分解物の供給源はまた、WO 98/15614、WO 00/03000、WO 01/23527および米国特許第5,741,705号で開示される。
【0044】
本発明に従う動物タンパク質を含まない細胞培養培地に使用される上記植物由来タンパク質加水分解物は、一局面において、穀物加水分解物および/もしくはダイズ加水分解物からなる群より選択される。上記ダイズ加水分解物は、特定の実施形態において、高度に精製されたダイズ加水分解物、精製されたダイズ加水分解物もしくは粗製ダイズ加水分解物である。
【0045】
用語「タンパク質」とは、本明細書で使用される場合、任意のタンパク質、タンパク質複合体もしくはポリペプチド(ペプチド結合によって連結されたアミノ酸残基から構成される組換えタンパク質、タンパク質複合体およびポリペプチドが挙げられる)をいう。タンパク質は、種々の局面において、インビボ供給源からのタンパク質の単離によって、合成の調製方法によって、もしくは組換えDNA技術を介して得られる。合成ポリペプチドは、例えば、自動化ポリペプチド合成機(これに限定されない)を使用して合成される。本発明に従って使用される組換えタンパク質は、種々の局面において、本明細書中以下で記載されるように、当該分野で公知の任意の方法によって生成される。一実施形態において、上記タンパク質は、生理学的に活性なタンパク質(治療用タンパク質もしくは生物学的に活性なその誘導体が挙げられる)である。用語「生物学的に活性な誘導体」とは、親タンパク質と実質的に同じ機能特性および/もしくは生物学的特性を有する改変タンパク質をいう。用語「タンパク質」とは、代表的には、大きなポリペプチドをいう。用語「ペプチド」とは、代表的には、短いポリペプチドをいう。本明細書で使用される場合、ポリペプチド、タンパク質およびペプチドは、交換可能に使用される。「タンパク質複合体」とは、少なくとも一方のタンパク質に結合した少なくとも他方のタンパク質から構成される分子をいう。タンパク質複合体の例としては、補因子もしくはシャペロンタンパク質に結合したタンパク質、リガンド−レセプター複合体およびマルチサブユニットタンパク質(例えば、インテグリンおよび複数のタンパク質サブユニットから構成される他の細胞表面レセプター)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
種々の実施形態において、本発明の方法における使用が意図されるタンパク質としては、被験体への投与に有用な生理学的に活性なタンパク質が挙げられる。一実施形態において、上記生理学的に活性なタンパク質は、治療用タンパク質(例えば、血液凝固因子)である。上記生理学的に活性なタンパク質は、別の局面において、タンパク質もしくはこのようなタンパク質の任意のフラグメント(これは、上記タンパク質の治療活性もしくは生物学的活性のうちのいくつか、実質的に全てもしくは全てをなお保持している)である。いくつかの実施形態において、上記タンパク質は、発現も生成もされない場合、または発現もしくは生成が実質的に低下する場合、疾患を生じるものである。一局面において、上記タンパク質は、ヒトに由来するかもしくはヒトから得られる。
【0047】
本明細書で使用される場合、「アナログ」もしくは「誘導体」(これは、交換可能に使用され得る)とは、特定の場合にある程度まで異なっているとはいえ、天然に存在する分子に対して構造が実質的に類似しかつ同じ生物学的活性を有するポリペプチドをいう。アナログは、上記アナログが由来する天然に存在するポリペプチドと比較して、それらのアミノ酸配列の組成が異なり、それは、(i)上記ポリペプチドの1つ以上の末端および/もしくは上記天然に存在するポリペプチド配列の1つ以上の内部領域における、1もしくは複数個のアミノ酸残基の欠失、(ii)上記ポリペプチドの1つ以上の末端(代表的には、「付加」アナログ)および/もしくは上記天然に存在するポリペプチド配列の1つ以上の内部領域(代表的には、「挿入」アナログ)における、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入もしくは付加、または(iii)1もしくは複数個のアミノ酸の、上記天然に存在するポリペプチド配列における他のアミノ酸に代えての置換を含む、1もしくは複数個の変異に基づく。置換は、置換されるアミノ酸およびそれを置換するアミノ酸の物理化学的関連性もしくは機能的関連性に基づく保存的置換であってもよいし、非保存的置換であってもよい。このタイプの置換は、当該分野で周知である。
【0048】
比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、Smith & Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所的相同性アルゴリズムによって、Needleman & Wunsch,J.Mol.Biol.48:443(1970)の相同性アラインメントアルゴリズムによって、Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444(1988)の類似性検索法によって、これらアルゴリズムのコンピューター化された実行によって(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,WIにおけるGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)、または視覚的検査によって行われ得る。
【0049】
本発明の種々の実施形態において、上記タンパク質が、タンパク質アナログもしくは上記タンパク質のフラグメントであるか、または上記フラグメントもしくはアナログが由来するタンパク質の生物学的活性を有するアナログである場合、上記タンパク質は、上記ヒトタンパク質もしくは哺乳動物タンパク質の対応する部分に対して、上記アミノ酸配列に同一のアミノ酸配列を有する。他の実施形態において、上記タンパク質もしくはそのフラグメントもしくはアナログは、上記対応するヒトタンパク質もしくは哺乳動物タンパク質の天然の(native)アミノ酸配列に対して実質的に相同(すなわち、少なくとも10、25、50、100、150、もしくは200アミノ酸の長さ、または上記活性因子の長さ全体にわたるアミノ酸配列において、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一)である。
【0050】
組換えタンパク質(組換え治療用タンパク質が挙げられる)およびタンパク質アナログを作製するための方法は、当該分野で周知である。組換えタンパク質をコードするDNAもしくはRNAを発現する細胞(哺乳動物細胞が挙げられる)を生成するための方法は、米国特許第6,048,729号、同第5,994,129号、および同第6,063,630号に記載されている。これら出願の各々の教示は、それらの全体が本明細書に参考として援用される。
【0051】
一実施形態において、ポリペプチドもしくはフラグメントまたはそれらのアナログを発現するために使用される核酸構築物は、組換え哺乳動物細胞において染色体外に(エピソームに)発現される構築物または、無作為にもしくは相同組み換えを介して予め選択された標的化部位で、レシピエント細胞のゲノムへ挿入する構築物である。染色体外に発現される構築物は、ポリペプチドコード配列に加えて、上記細胞において上記タンパク質の発現のために十分な配列を含み、および、必要に応じて、上記構築物の複製のために十分な配列を含む。上記構築物は、代表的には、プロモーター、ポリペプチドコードDNA配列およびポリアデニル化部位を含む。上記タンパク質をコードするDNAは、その発現が上記プロモーターの制御下にあるような様式で、上記構築物に配置される。必要に応じて、上記構築物は、さらなる成分(例えば、以下のうちの1つ以上:スプライス部位、エンハンサー配列、適切なプロモーターの制御下にある選択可能マーカー遺伝子、および適切なプロモーターの制御下にある増幅可能マーカー遺伝子)を含み得る。
【0052】
上記DNA構築物が細胞ゲノムに組み込まれる実施形態において、上記構築物は、上記ポリペプチドコード核酸配列を含む。必要に応じて、上記構築物は、プロモーター配列、エンハンサー配列、ポリアデニル化部位(複数可)、スプライス部位(複数可)、選択可能マーカー(複数可)をコードする核酸配列、増幅可能マーカーをコードする核酸配列および/もしくはゲノムDNAに相同なDNAの、上記ゲノムの選択された部位への組み込みを標的とする(DNAもしくは複数のDNA配列を標的とする)ための、上記レシピエント細胞中のゲノムDNAに相同なDNAのうちの1つ以上を含む。
【0053】
組換えタンパク質を生成するために使用される宿主細胞は、例示であって限定ではなく、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、トリ細胞、非哺乳動物の脊椎動物細胞、もしくは哺乳動物細胞である;上記哺乳動物細胞としては、ハムスター、サル、チンパンジー、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジおよびヒトの細胞が挙げられるが、これらに限定されない。上記宿主細胞としては、不死化細胞(細胞株)もしくは非不死化(初代もしくは2代)細胞が挙げられ、広く様々な細胞タイプのうちのいずれか(例えば、線維芽細胞、ケラチノサイト、上皮細胞(例えば、乳腺上皮細胞、腸管上皮細胞)、卵巣細胞(例えば、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞すなわちCHO細胞)、内皮細胞、グリア細胞、神経細胞、血液の有形成分(例えば、リンパ球、骨髄細胞)、筋細胞、肝細胞、およびこれら体細胞タイプの前駆体が挙げられるが、これらに限定されない)を含む。他の局面において、上記細胞は、例えば、組換え形質転換なしに目的のタンパク質を生成する細胞(例えば、一局面においては、例えば、限定しないが、ウイルス感染によって、不死化状態へと形質転換した、抗体を生成するB細胞)である。上記細胞は、例えば、初代細胞もしくは初代細胞株を含む。インビトロでの組換えタンパク質生成に有用な細胞としては、BSC細胞、LLC−MK細胞、CV−1細胞、COS細胞、VERO細胞、MDBK細胞、MDCK細胞、CRFK細胞、RAF細胞、RK細胞、TCMK−1細胞、LLCPK細胞、PK15細胞、LLC−RK細胞、MDOK細胞、BHK−21細胞、CHO細胞、NS−1細胞、MRC−5細胞、WI−38細胞、BHK細胞、293細胞、RK細胞、ニワトリ胚細胞、および組換えタンパク質を生成するために有用な当該分野で公知の他の哺乳動物細胞、トリ細胞もしくは昆虫細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
上記ポリペプチドをコードするDNAもしくはRNAを含む宿主細胞は、上記細胞の増殖および上記DNAもしくはRNAの発現に適した条件下で培養される。上記ポリペプチドを発現するそれら細胞は、公知の方法を使用して同定され、組換えタンパク質は、ポリペプチド生成の増幅ありまたはなしのいずれかで、公知の方法を使用して単離および精製される。同定は、例えば、上記タンパク質をコードするDNAもしくはRNAの存在を示す表現型を示す遺伝的に改変された細胞のスクリーニング(例えば、PCRスクリーニング、サザンブロット分析によるスクリーニング、もしくは上記タンパク質の発現についてのスクリーニングが挙げられるが、これらに限定されない)を介して行われる。タンパク質をコードするDNAを組み込んだ細胞の選択は、一局面において、上記DNA構築物中に選択可能マーカーを含ますことによって、そして選択可能マーカー遺伝子を発現する細胞のみの生存に適した条件下で、上記選択可能マーカー遺伝子を含む、トランスフェクトされた細胞もしくは感染細胞を培養することによって、達成される。上記導入されたDNA構築物のさらなる増幅は、所望であれば、増幅に適した条件(例えば、増幅可能なマーカー遺伝子を含む遺伝的に改変された細胞を、上記増幅可能なマーカー遺伝子の複数のコピーを含む細胞のみが生存し得る、ある濃度の薬物の存在下で培養することが挙げられるが、これらに限定されない)下で遺伝的に改変された細胞を培養することによって、もたらされる。
【0055】
本発明に従って使用される細胞は、種々の局面において、バッチ培養、流加培養(feed−batch−cultivation)、灌流培養およびケモスタット培養(chemostate−cultivation)の群から選択される方法によって培養される。これら方法の全ては、一般に、当該分野で公知である。
【0056】
本発明はさらに、標的タンパク質(例えば、異種タンパク質もしくは自己タンパク質または組換えタンパク質)を発現するための方法に関する。異種タンパク質は、上記タンパク質を発現する上記生物もしくは宿主細胞において通常見いだされる任意のタンパク質とは異なるタンパク質である。自己タンパク質は、上記生物もしくは宿主細胞において通常見いだされるタンパク質である。組換えタンパク質は、宿主細胞において組換えDNAの発現から得られるタンパク質である。
【0057】
生理学的に活性なタンパク質もしくは治療用タンパク質である組換えタンパク質としては、サイトカイン、増殖因子、治療用凝固タンパク質もしくは血液凝固因子、酵素、ケモカイン、可溶性細胞表面レセプター、細胞接着分子、抗体、ホルモン、細胞骨格タンパク質、マトリクスタンパク質、シャペロンタンパク質、構造タンパク質、代謝性タンパク質(metabolic protein)、および当業者に公知の他の治療用タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。治療剤として使用される例示的組換えタンパク質としては、第VIII因子、第VIII因子:C、抗血友病因子、第VII因子、第IX因子およびフォンビルブラント因子、エリスロポエチン、インターフェロン、インスリン、CTLA4−Ig、α−グルコセレブロシダーゼ、α−グルコシダーゼ、卵胞刺激ホルモン、抗CD20抗体、抗HER2抗体、抗CD52抗体、TNFレセプター、および当該分野で公知の他のものが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、Physicians Desk Reference,62nd Edition,2008,Thomson Healthcare,Montvale,NJを参照のこと。
【0058】
一実施形態において、上記タンパク質は、治療用凝固因子もしくは血液凝固因子であり、これらとしては、第II因子、第V因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XI因子、フォンビルブラント因子、第XII因子および第XIII因子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
一実施形態において、上記タンパク質は、組換えフォンビルブラント因子(vWF)もしくはその生物学的に活性な誘導体である。上記pvWFの1つの生物学的に活性な誘導体は、そのプロペプチドを含むプロ−vWFである。本発明の一例において、上記タンパク質は、内皮細胞および巨核球によって合成される前駆体vWF分子(プレ−プロ−vWF)を含む未成熟vWF、vWFプロペプチド(プロ−vWF)および、上記前駆体分子のそれぞれ、シグナルペプチドおよびプロペプチドの切断の際に得られる成熟血漿由来vWFからなる群より選択される。血漿vWFの生物学的に活性な誘導体のさらなる例としては、上記生物学的に活性な形態に処理もしくは変換されるプロドラッグが挙げられるか、または上記天然の形態と比較して、短縮された形態、欠失を有する形態、置換を有する形態、プロ形態以外の付加を有する形態、成熟形態のフラグメント、キメラ形態、および翻訳後修飾を有する形態などのような生物学的に活性な誘導体である。用語「組換えvWF(rvWF)」とは、薬理学的に受容可能であるグリコシル化パターンを必要に応じて有する組換えDNA技術を介して得られるvWFを含む。その具体例としては、A2ドメインを含まず、よって、タンパク質分解に抵抗性であるvWF(Lankhofら,Thromb Haemost.77:1008−1013,1997)、ならびに糖タンパク質Ib結合ドメインとコラーゲンおよびヘパリンの結合部位とを含むVal 449〜Asn 730のvWFフラグメント(Pietuら,Biochem Biophys Res Commun.164:1339−1347,1989)が挙げられる。
【0060】
vWFは、分子量1×10〜20×10ダルトンの一連のマルチマー形態で血漿中に存在する。vWF(Genbankアクセッション番号NP_000543)は、哺乳動物の内皮細胞において主に形成されかつその後循環へと分泌される糖タンパク質である。この点について、分子量約220kDを有するポリペプチド鎖から始まって、分子量550kDを有するvWF二量体は、いくつかの硫黄結合の形成によって、上記細胞中で生成される。分子量が最大2000万ダルトンまで増大する上記vWFのさらなるポリマーは、vWF二量体の連結によって形成される。特に高分子量のvWFマルチマーは、血液凝固において本質的に重要であると推定される。
【0061】
vWF症候群は、vWFの過小生成もしくは過剰生成のいずれかが存在する場合に臨床的に発現する。vWFの過剰発現は、血栓症の増大(血管内部の血餅もしくは血栓の形成、血流の閉塞)を引き起こす一方で、高分子形態であるvWFのレベルの低下もしくは欠如は、血小板凝集および創傷閉鎖の阻害に起因して、出血の増大および出血時間の延長を引き起こす。
【0062】
vWF欠損はまた、表現型血友病Aを引き起こし得る。なぜならvWFは、機能的第VIII因子の必須成分であるからである。これら場合において、第VIII因子の半減期は、血液凝固カスケードにおけるその機能が損なわれる程度まで低下している。フォンビルブラント病(vWD)もしくはvWF症候群に罹患している患者は、頻繁に、第VIII因子欠損症を示す。これら患者において、上記低下した第VIII因子活性は、X染色体遺伝子の欠陥の結果ではないが、血漿中のvWFの定量的かつ定性的変化の間接的結果である。血友病AおよびvWDとの間の鑑別は、vWF抗原を測定することによって、またはリストセチン補因子活性を決定することによって、通常もたらされ得る。上記vWF抗原含有量および上記リストセチン補因子活性の両方が、大部分のvWD患者において低下しているのに対して、それらは、血友病A患者においては正常である。vWF症候群の処置のためのvWF生成物としては、HUMATE−P;ならびにIMMUNATE(登録商標)、INNOBRAND(登録商標)、および8Y(登録商標)が挙げられるが、これらに限定されない。これら治療剤は、血漿からの第VIII因子/vWF濃縮物を含む。
【0063】
関連する実施形態において、上記タンパク質は、第VIII因子である。第VIII因子(FVIII)は、哺乳動物の肝臓において生成される約260kDa分子量の血漿糖タンパク質(Genbankアクセッション番号 NP_000123)である。上記第VIII因子は、血液凝固をもたらす凝固反応のカスケードの重要な成分である。このカスケード内には、第IXa因子が、FVIIIとともに、第X因子(Genbankアクセッション番号NP_000495)を活性形態である第Xa因子に変換する段階がある。FVIIIは、この段階において補因子として作用し、カルシウムイオンおよびリン脂質とともに、第IXa因子の活性に必要とされる。上記2つの最も一般的な血友病障害は、機能的FVIIIの欠損(血友病A、全症例のうちの約80%)もしくは機能的第IXa因子の欠損(血友病Bもしくはクリスマス因子疾患)によって引き起こされる。FVIIIは、非常に低濃度で血漿中を循環し、vWFに非共有結合的に結合している。止血の間に、FVIIIは、vWFから分離し、活性化第IX因子(FIXa)媒介性第X因子(FX)活性化のための補因子として働き、カルシウムおよびリン脂質もしくは細胞膜の存在下で、その活性化の速度を高める。
【0064】
FVIIIは、ドメイン構造A1−A2−B−A3−C1−C2を有する、約270〜330kDの一本鎖前駆体として合成される。血漿から精製される場合、FVIIIは、重鎖(A1−A2−B)および軽鎖(A3−C1−C2)から構成される。上記軽鎖の分子量は、80kDであるのに対して、上記重鎖は、Bドメイン内でのタンパク質分解に起因して、90〜220kDの範囲にある。
【0065】
FVIIIはまた、出血障害における治療的使用のための組換えタンパク質として合成される。種々のインビトロアッセイは、治療用医薬として、組換えFVIII(rFVIII)の潜在的効力を決定するために考案されてきた。これらアッセイは、内因性FVIIIのインビボでの効果を模倣する。FVIIIのインビトロでのトロンビン処理は、インビトロアッセイによって測定した場合、その凝結促進活性の迅速な増大およびその後の低下を生じる。この活性化および不活性化は、上記重鎖および上記軽鎖における両方の特定の限定されたタンパク質分解(これは、FVIIIにおける異なる結合エピトープの利用性を変える(例えば、FVIIIがvWFから分離し、リン脂質表面に結合することを可能にするか、または特定のモノクローナル抗体への結合能力を変える))と一致する。
【0066】
血友病Aの処置における重要な進歩は、ヒトFVIIIの完全な2,351アミノ酸配列をコードするcDNAクローンの単離(Woodら,Nature,312:330(1984)および米国特許第4,757,006号を参照のこと)ならびに上記ヒトFVIII遺伝子DNA配列およびその生成のための組換え法の提供であった。血友病の処置のためのFVIII生成物としては、ADVATE(登録商標)(抗血友病因子(組換え)、血漿/アルブミン非含有法、rAHF−PFM)、組換え抗血友病因子(BIOCLATETM、GENARC(登録商標)、HELIXATE FS(登録商標)、KOATE(登録商標)、KOGENATE FS(登録商標)、RECOMBINATE(登録商標)):MONOCLATE−P(登録商標)、FVIII:Cの精製された調製物、抗血友病因子/vWF複合体(ヒト) HUMATE−P(登録商標)およびALPHANATE(登録商標)、抗血友病因子/vWF複合体(ヒト);ならびにHYATE C(登録商標)、精製されたブタFVIIIが挙げられるが、これらに限定されない。ADVATE(登録商標)は、CHO細胞で生成され、Baxter Healthcare Corporationによって製造されている。ヒト血漿タンパク質もしくはアルブミンも、動物血漿タンパク質もしくはアルブミンも、細胞培養プロセス、精製、またはADVATE(登録商標)の最終処方物中にも添加されない。
【0067】
第VII因子(プロコンバーチンとしても当該分野で公知)は、セリンプロテアーゼ酵素であり、血液凝固カスケードにおける中心的タンパク質のうちの1つである(Genbankアクセッション番号NP_000122)。第VII因子(FVII)の主要な役割は、組織因子(TF)とともに凝固プロセスを開始することである。血管損傷の際に、TFは、血液および循環している第VII因子に曝される。TFにいったん結合すると、FVIIは、種々のプロテアーゼによってFVIIaへと活性化される。そのプロテアーゼの中には、トロンビン(第IIa因子)、活性化第X因子およびFVIIa−TF複合体自体がある。組換えヒト第VIIa因子(NOVOSEVEN(登録商標))は、置換凝固因子に対してインヒビターを発生させた血友病患者における制御不能な出血において使用するために導入されてきた。
【0068】
第IX因子(FIX、すなわち、クリスマス因子)(Genbankアクセッション番号NP_000124)は、第XIa因子もしくは第VIIa因子(組織因子経路のうちの)によって活性化されなければ、不活性であるセリンプロテアーゼである。第IXaへと活性化される場合、これは、第X因子におけるアルギニン−イソロイシン結合を加水分解して、第Xa因子を形成することによって作用する。第VIII因子は、FIXプロテアーゼ活性に対する必要な補因子である(Lowe GD,Br.J.Haematol.115:507−13,2002)。第IX因子の欠損は、血友病Bもしくはクリスマス病を引き起こす。
【0069】
本発明の方法において使用しやすいさらなる血液因子としては、第II因子(トロンビンとして当該分野で公知)(Genbankアクセッション番号NP_000497)(その欠損は、血栓症およびプロトロンビン異常症(dysprothrombinemia)を引き起こす);第V因子(Genbankアクセッション番号NP_000121)(その欠損は、出血性素因をもたらすかまたは血栓形成傾向の形態(これは、活性化プロテインC抵抗性として公知)を引き起こす)、第XI因子(Genbankアクセッション番号NP_000119)(その欠損は、ローゼンタール症候群(血友病C)を引き起こす)、および第XIII因子サブユニットA(Genbankアクセッション番号NP_000120)およびサブユニットB(Genbankアクセッション番号NP_001985)(それらの欠損は、I型欠損症(AサブユニットおよびBサブユニット両方の欠損症)およびII型欠損症(Aサブユニットのみの欠損症)として特徴付けられ、そのうちのいずれも、生涯の出血傾向、不完全な創傷治癒、および習慣性流産を生じ得る);第XII因子(Genbankアクセッション番号NP_000496);プロテインC(Genbankアクセッション番号NP_000303);アンチトロンビンIII(Genbankアクセッション番号NP_000479)、およびそれらの活性化形態が挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
キットはまた、本発明の範囲内で意図される。代表的なキットは、種々の局面において、細胞培養培地に添加される場合に、AANOxが細胞の増殖をインビトロで高めるように十分な量のAANOx(例えば、DDAO)を含む。上記キット中のAANOx組成物が、例えば、限定せずに、単位投与形態で(例えば、バイアルもしくはドロッパーボトルの状態で)調製されることが意図される。上記キットは、必要に応じて、サンプルの調製のための試薬および緩衝化剤を含む。
【0071】
本発明のさらなる局面および詳細は、以下の実施例から明らかであり、この実施例は、限定ではなく例示であることが意図される。
【実施例】
【0072】
(実施例1:AANOxとの培養は、細胞増殖を改善する)
組換えタンパク質をヒトへ投与するための、タンパク質を組換え生成する細胞の細胞培養は、しばしば、動物タンパク質による夾雑の可能性を回避するために、無血清培地中で行われる。しかし、最適な細胞培養は、培地中に補助的なタンパク質を必要とする。非動物タンパク質のこの必要性は、細胞培養培地中でダイズ加水分解物を使用することによって補われてきた。しかし、増殖および生存性の課題は、2006年初期以来、商業的供給元のダイズ加水分解物質を使用して、いくつかの製造業者が経験した。この課題は、おそらく、ダイズペプトン調製物に存在する非イオン性界面活性剤(例えば、ジメチルドデシルアミンオキシド(DDAO))に関連する。いくつかの液体クリーナーに存在するこの化合物は、いくつかの供給元の上記ダイズ加水分解物の製造プロセスにおいて濾過膜を再生するために使用されている。DDAOの夾雑は、いくつかの場合において、細胞増殖の低下の原因として同定されてきた。
【0073】
細胞増殖におけるDDAOレベルの効果を決定するために、FVIIIを発現するCHO細胞を使用して、市販ダイズ加水分解物の特定のロット中に夾雑する量に等しい種々のレベルのDDAOを用いて、実験を行った。興味深いことに、いくつかの細胞培養物のバッチが、それらの細胞に対して逆の効果(すなわち、増大した増殖速度)を経験した。
【0074】
BAV無血清培地、DMEM/HAM’s F12培地(11.76g)(ダイズペプトン(4g)、エタノールアミン(1.53mg)、L−グルタミン(0.6g)、NaHCO(2.0g)およびSYNPERONIC(プルロニック(登録商標))F68(0.25g)(国際特許公開WO/2006/045438を参照のこと)を補充した)中にCHO細胞を含むバイオリアクターからの細胞を、60mL Rouxフラスコ中、4g/L ダイズペプトンとともに培養した。Rouxフラスコは、上記細胞が増殖するのに、静止した動かない環境を提供する。
【0075】
これら結果は、DDAOが、上記ダイズ加水分解物中の最大20百万分率(ppm)相当量まで、細胞増殖に対して陽性の効果を有することを示すが、21.5ppmを上回ると毒性を示す。
【0076】
次いで、Erlen振盪フラスコ中、種々の濃度のAANOxを使用して、実験を行った。図1は、種々の濃度で(相当量のppmダイズペプトンにおいて)添加されたAANOxが、1〜10ppm(すなわち、4〜40ppb)で培養された場合、細胞増殖を改善することを示す。
【0077】
全てがErlen振盪フラスコ中に播種されたが、種々の培地中で培養された、CHO細胞の群についての増殖の比較から、AANOx(DDAO)が、2000ppbという培地中AANOx含有量を下回ると、または500ppmというダイズペプトン中のAANOx相当量の含有量を下回ると、毒性作用はないことが示された。これら実験の結果は、AANOxが、0〜20ppmダイズペプトン相当量(0〜80ppb)まで用量依存性である増殖促進効果を有し、増殖増強効果を有し、および20ppm ダイズペプトン相当量を上回ると、その効果は増殖制限的である。AANOxはまた、1250ppm ダイズペプトン相当量を上回ると強い細胞傷害性効果を有する(図2Aおよび図2B)。
【0078】
別個の実験において、DDAOを、エラーを減らすために高DDAO含有培地の連続希釈物を使用して2連で、0〜50ppmの間の濃度でもしくは相当量のppbで、培地へ添加した(図3および図4)。このデータは、DDAOが、特定の点まで(これら実験において、最大約6〜10ppm(図4)(もしくは5〜10ppb、図3)まで)細胞増殖に対して有益な効果を示し、特定の濃度を上回るDDAOが、細胞増殖に負に作用することを確認する。さらに、15ppmのダイズペプトン(2.5g/Lもしくは4g/Lで処方された(添加実験と一致))を用いると、細胞生存性には差異がない。
【0079】
全体として、本明細書で示される結果は、DDAOを特定レベルまで培地へと補充するか、または既に微量のDDAOを含む培地中での特定のレベルへDDAOを制御することが、細胞培養物において細胞増殖を増強し、次には、これら細胞からの組換えタンパク質の収量を増加させるために有益な方法であることを実証する。
【0080】
上記例示的実施例に示される本発明における多くの改変および変形は、当業者に想起されると予測される。結論として、添付の特許請求の範囲に現れるような限定のみが、本発明に対して置かれるべきである。
図1
図2
図3
図4