(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜10のいずれか1項に記載のガラス組成物をナトリウムイオンのイオン半径よりも大きいイオン半径を有する一価の陽イオンを含む溶融塩に接触させることにより、前記ガラス組成物に含まれるナトリウムイオンと前記一価の陽イオンとをイオン交換して表面に圧縮応力層が形成された強化ガラス物品。
前記ガラス組成物を400〜430℃に加熱した硝酸カリウム溶融塩に30分以上8時間以下浸漬することにより、前記圧縮応力層が形成された請求項12または請求項13に記載の強化ガラス物品。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等を搭載した電子機器やタッチパネル式ディスプレイを搭載した電子機器が広く普及している。ガラス材料は高い表面硬度を有するため、これらの電子機器のディスプレイのカバーガラスとして広く利用されている。ディスプレイのカバーガラスは、機械的強度を補うために化学強化が施されることがある。
【0003】
化学強化は、ガラス表面に含まれるアルカリ金属イオンをより半径の大きい一価の陽イオンで置換することにより、ガラス表面に圧縮応力層を形成する技術である。化学強化は、リチウムイオン(Li
+)をナトリウムイオン(Na
+)で置換することにより、あるいはナトリウムイオンをカリウムイオン(K
+)で置換することにより、実施されることが多い。
【0004】
特許文献1に開示されている化学強化に適したガラス組成物は、64〜68mol%のSiO
2、12〜16mol%のNa
2O、8〜12mol%のAl
2O
3を含み、アルカリ土類金属の酸化物の含有量の和(MgO+CaO+SrO)が5〜8mol%に調整されている(請求項1)。また、特許文献1に記載のガラス組成物は、ダウンドロー法による製造に適したものとするために、熔融温度1650℃未満、および、少なくとも13kPa・sの液相粘度を示す。ところで、特許文献1に実施例として記載されたガラス組成物のAl
2O
3の含有量を質量%に換算すると、13%以上となっている。また、特許文献1の実施例において、粘度が200P(200dPa・s)時の温度は1536℃以上を示し、粘度35kP(35000dPa・s)時の温度は1058℃以上を示している。
【0005】
特許文献2に開示されているタッチパネルディスプレイに好適な強化ガラス基板は、質量%で、45〜75%のSiO
2、1〜30%のAl
2O
3、0〜20%のNa
2O、0〜20%のK
2Oを含有している(請求項3)。しかしながら、実施例として実質的に開示されたガラス基板は、13質量%以上のAl
2O
3を含んでおり、13質量%未満のAl
2O
3を含むガラス基板については実質的には開示されていない。また、実施例において、粘度10
4dPa・sにおける温度(T4)は1122℃以上となっている。
【0006】
ところで、ガラスの高温粘性を示す指標として、作業温度および熔融温度が知られている。フロート法においては、作業温度は、ガラス粘度が10
4dPa・sになる温度であり、以下T4という。また、熔融温度は、ガラス粘度が10
2dPa・sになる温度であり、以下T2という。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、ガラス組成物の成分を示す%表示は特に断らない限り、すべて質量%を意味する。また、本明細書において、「実質的に構成される」とは、列挙された成分の含有率の合計が99.5質量%以上、好ましくは99.9質量%以上、より好ましくは99.95質量%以上を占めることを意味する。「実質的に含有しない」とは、当該成分の含有質が0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下であることを意味する。
【0014】
特許文献1および特許文献2に開示されているガラスでは、高温粘性が高く、非常に高いT4を示す。高いT4は、ディスプレイのカバーガラスをフロート法により製造するうえでは不利であり、またディスプレイのカバーガラスとしてガラスを薄く成形するうえでも不利である。
【0015】
そこで、本発明では、特にAl
2O
3、Na
2OおよびSrOの含有率を、各酸化物が特性に及ぼす影響を考慮しながら抜本的に見直し、併せてその他の成分の含有率を総合的に調整することによりT4を下げて、フロート法による製造に適し、特にディスプレイ用のカバーガラスとしてガラスをより薄く成形(例えば1mm以下)するのに有利な、傷や割れの生じにくいガラス組成物を提供することとした。
【0016】
以下の観点は、本発明において必須の観点ではない。しかし、本発明は場合によっては、以下の観点に着目することができる。
【0017】
本発明は、従来のフロート法による製造設備に用いられているガラス熔融窯に適合しやすいように比較的低いT2を示すガラス組成物を提供するものである。また、フロート法でのガラス成形に適しやすいように、T4と液相温度TLとの差が大きな値(例えば50℃以上)を示すガラス組成物を提供するものである。
【0018】
以下、本発明によるガラス組成物を構成する各成分について説明する。
【0019】
(Al
2O
3)
Al
2O
3はガラス組成物の化学的耐久性を向上させ、さらにガラス中のアルカリ金属イオンの移動を容易にする。また、化学強化後の強度の維持に寄与する成分でもある。他方、Al
2O
3の含有率が高すぎると、Tgが上昇し、溶融ガラスを適切に徐冷してガラス板を製造することが難しくなる。また、ガラス融液の粘度を増加させ、T2、T4を上昇させてしまう。
【0020】
したがって、Al
2O
3の含有率は、8〜12%の範囲が適切である。Al
2O
3の含有率は11.5%以下が好ましく、11%以下がより好ましく、10.5%以下がさらに好ましい。また、Al
2O
3の含有率は、8.5%以上が好ましく、9%以上がより好ましい。
【0021】
(Na
2O)
Na
2Oは、ナトリウムイオンがカリウムイオンと置換されることにより、表面圧縮応力を大きくし、圧縮応力層の深さを大きくする成分である。また、溶解性を向上させ、T4、T2を低下させる成分でもある。他方、Na
2Oの含有率が高すぎるとガラス組成物の耐熱性が低下し、カリウムイオンと置換されることで生じた応力が緩和してしまう。
【0022】
したがって、Na
2Oの含有率は、15〜20%の範囲が適切である。Na
2Oの含有率は、15.5%以上が好ましく、16%以上がより好ましい。また、Na
2Oの含有率は、19%以下が好ましく、18.7%以下がより好ましい。
【0023】
上述の通り、Na
2OはT4の低下に寄与する成分であり、Al
2O
3はT4を上昇させる成分である。したがって、Na
2Oの含有率からAl
2O
3の含有率を差し引いた差分を調整すれば、ガラス組成物のT4を効果的に下げることが容易となる。Na
2Oの含有率からAl
2O
3の含有率を差し引いた差分は、5〜9%の範囲が適切である。この差分は、5.3〜8.7%が好ましく、5.6〜8.5%がより好ましい。
【0024】
(SrO)
SrOは、ガラスの粘性を下げるため、T4の低下に寄与する。また、少量含有させると、液相温度TLを低下させる効果を顕著に有する。しかし、SrOの含有率が高すぎると、ガラス組成物におけるナトリウムイオンの移動が阻害されてしまう。
【0025】
したがって、SrOの含有率は1〜3%の範囲が適切である。SrOの含有率は、場合によっては1.2%以上であってもよい。SrOの含有率は、2.5%以下が好ましく、2.0%以下がより好ましい。
【0026】
(CaO)
CaOは、高温での粘性を低下させる効果を有する。しかし、CaOの含有率が高すぎると、ガラス組成物におけるナトリウムイオンの移動が阻害されてしまう。また、CaOは、CaO・MgO・2SiO
2(ディオプサイド:diopside)を構成する成分でもある。この結晶は、失透したガラス組成物においてよく観察される。
【0027】
したがって、CaOの含有率は0〜1%の範囲が適切である。CaOの含有率は、0.8%以下が好ましく、0.6%以下がより好ましい。
【0028】
(CaO+SrO)
少量のSrOの含有は、ガラス組成物の後述するクラック発生荷重を顕著に向上させる。クラック発生荷重が大きいことは、ガラス表面に傷や割れが生じにくいことを意味し、ディスプレイのカバーガラスとして好ましい。この効果を有するためのSrOの含有率の範囲は1〜2%である。また、SrOとCaOが共存する場合においてクラック発生荷重の向上の観点から、SrOの含有率とCaOの含有率との和(CaO+SrO)の範囲は、1〜2.7%が好ましい。SrO+CaOの下限としては1.2%がより好ましく、1.4%がさらに好ましい。また、SrO+CaOの上限としては2.5%がより好ましく、2.2%がさらに好ましい。
【0029】
(MgO)
MgOはガラスの溶解性を向上させる成分である。この効果を十分に得るためには、MgOの含有率は6%以上が望ましい。また、MgOは、ROの中では、ガラス組成物中のナトリウムイオンをカリウムイオンにより置換するイオン交換を促進する効果が最も大きい。他方、MgOの含有率が高すぎると、ガラス中のナトリウムイオンの移動が阻害される。また、ガラス組成物の液相温度TLが上昇してしまう。
【0030】
したがって、MgOの含有率は6〜10%の範囲が適切である。MgOの含有率は、7%以上が好ましい。また、MgOの含有率は9%以下が好ましく、8%以下がより好ましい。
【0031】
(BaO)
BaOは、ガラス組成物の粘性を大きく低下させるものの、ガラス組成物におけるナトリウムイオンの移動を顕著に妨げる。
【0032】
したがって、BaOの含有率は0〜1%の範囲が適切である。本発明のガラス組成物においては、BaOを実質的に含有しないことが好ましい。ただし、工業的規模で入手できるSrO原料に、BaOが不純物として不可避的に混入(例えば、0.1%以下)することを排除するものではない。
【0033】
(RO)
ROは、MgO、CaO、SrOおよびBaOを示す。ROの含有率が低すぎると、ガラス組成物の粘性を下げる成分が不足して溶解が困難となる。他方、ROの含有率が高すぎると、化学的耐久性が低下する。また、ガラス中のナトリウムイオンの移動を阻害するため化学強化が進みにくくなる。
【0034】
したがって、ROの含有率(MgO、CaO、SrOおよびBaOの含有率の合計)は、7〜12%の範囲が適切である。ROの含有率は、7〜11%の範囲が好ましく、7.5〜11%の範囲がより好ましく、7.8〜10.5%の範囲がさらに好ましい。
【0035】
(SiO
2)
SiO
2は、ガラス組成物を構成する主要成分であり、その含有率が低すぎるとガラスの化学的耐久性および耐熱性が低下する。他方、SiO
2の含有率が高すぎると、高温でのガラス組成物の粘性が高くなり、溶解および成形が困難になる。したがって、SiO
2の含有率は、60〜64%の範囲が適切である。60〜63%が好ましく、60〜62%がより好ましい。
【0036】
(Li
2O)
Li
2Oの含有率が高いと、ガラスの耐熱性が低下しすぎてしまう。したがって、Li
2Oの含有率は1%以下が適切であり、実質的にLi
2Oを含有しないことが好ましい。
【0037】
(K
2O)
K
2Oは、Na
2Oと同様、ガラスの溶解性を向上させる成分である。また、K
2Oは化学強化による圧縮応力層を深く形成する作用に優れる。しかし、K
2Oの含有率が高すぎると、化学強化後の表面圧縮応力の値が低下する。また、K
2Oは、Na
2Oと比較して、ガラス組成物の高温での粘性T4、T2を高める傾向が大きい。
【0038】
したがって、K
2Oの含有率は0〜4%の範囲が適切である。K
2Oの含有率は、1〜4%が好ましく、1.8〜3.5%がより好ましい。
【0039】
(R
2O)
R
2Oは、Li
2O、Na
2OおよびK
2Oを示す。R
2Oの含有率が低すぎると、ガラスの溶解性が低下する。他方、R
2Oの含有率が高すぎると、耐熱性が低下しすぎてしまい、イオン交換によって生じた圧縮応力が緩和してしまう。
【0040】
したがって、R
2Oの含有率(Li
2O、Na
2OおよびK
2Oの含有率の合計)は、15〜25%の範囲が適切である。18〜22%の範囲が好ましく、18.5〜20.5%の範囲がより好ましい。
【0041】
(B
2O
3)
B
2O
3は、ガラス組成物の粘性を下げ、溶解性を改善する成分である。しかし、B
2O
3の含有率が高すぎると、ガラス組成物の耐水性が低下し、ガラス組成物が分相しやすくなる。また、B
2O
3とアルカリ金属酸化物とが形成する化合物が揮発してガラス溶解室の耐火物を損傷するおそれが生じる。さらに、B
2O
3の含有は化学強化における圧縮応力層の深さを減少させてしまう。したがって、B
2O
3の含有率は1%以下が適切である。本発明では、B
2O
3を実質的に含有しないガラス組成物としてもよい。
【0042】
(Fe
2O
3)
通常Feは、Fe
2+又はFe
3+の状態でガラス中に存在する。Fe
3+はガラスの紫外線吸収特性を高める成分であり、Fe
2+は熱線吸収特性を高める成分である。しかし、ガラス組成物をディスプレイのカバーガラスとして用いる場合、着色が目立たないことが求められるため、Feの含有量は少ない方が好ましい。Feは工業原料により不可避的に混入する場合があるが、Fe
2O
3に換算した酸化鉄の含有率が0.1%以下であることが好ましい。また、本発明においては、酸化鉄を実質的に含有しないガラス組成物としてもよい。
【0043】
(その他の成分)
本発明によるガラス組成物は、上記に列挙した各成分(Al
2O
3〜Fe
2O
3)から実質的に構成されていることが好ましい。ただし、本発明によるガラス組成物は、上記に列記した成分以外の成分を、好ましくは各成分の含有率が0.5%未満、より好ましくは0.1%未満となる範囲で含有していてもよい。含有が許容される成分としては、溶融ガラスの脱泡を目的として添加される、As
2O
5、Sb
2O
5、SO
3、SnO
2、CeO
2、Cl、Fを例示できる。ただし、As
2O
5、Sb
2O
5、Cl、Fは、環境に対する悪影響が大きいなどの理由から添加しないことが好ましい。脱泡のための添加成分としては硫酸塩として添加された原料から発生するSO
3が好適である。また、含有が許容されるまた別の例は、TiO
2、ZrO
2、ZnO、P
2O
5、GeO
2、Ga
2O
3、Y
2O
3、La
2O
3である。工業的に使用される原料に由来する上記以外の成分であっても0.1%を超えない範囲であれば許容される。これらの成分は、必要に応じて適宜添加したり、不可避的に混入したりするものであるから、本発明のガラス組成物は、これらの成分を実質的に含有しないものであっても構わない。
【0044】
(易化学強化性)
本発明のガラス組成物では、モル%で表示した各成分の含有率に基づいて以下の式により算出される比Mが、0.80〜1.15であることが好ましい。この範囲にあると、ガラス組成物は良好な化学強化性を示し、化学強化による圧縮応力層が発達しやすくなる。
M=(Al
2O
3+MgO)/(Na
2O+K
2O)
【0045】
以下、本発明によるガラス組成物の特性について説明する。
【0046】
(ガラス転移点:Tg)
本発明によれば、ガラス組成物の転移点(Tg)を580℃未満、さらには、575℃以下、場合によっては、550℃以下にまで引き下げて、溶融ガラスの徐冷が容易で製造しやすいガラス組成物を提供できる。なお、ガラス転移点の下限は特に制限されないが、イオン交換によって生じた圧縮応力が緩和しないように、500℃以上、好ましくは530℃以上がよい。
【0047】
(作業温度:T4)
フロート法では、溶融ガラスを溶融窯からフロートバスに流入させる際に、溶融ガラスの粘度が10
4dPa・s(10
4P)程度に調整される。フロート法による製造は、溶融ガラスの粘度が10
4dPa・sとなる温度(作業温度;T4)が低い方が好ましく、例えばディスプレイのカバーガラスのためにガラスを薄く成形するためには、溶融ガラスの作業温度T4が1080℃以下であることが好ましい。本発明によれば、ガラス組成物のT4を、1080℃以下、さらには1075℃以下、場合によっては1060℃以下まで低減し、フロート法による製造に適したガラス組成物を提供できる。T4の下限は特に限定されないが、例えば1000℃である。
【0048】
(熔融温度:T2)
溶融ガラスの粘度が10
2dPa・sになる温度(熔融温度;T2)が低いと、ガラス原料を熔かすために必要なエネルギー量を抑制することができ、ガラス原料がより容易に溶解してガラス融液の脱泡および清澄が促進される。本発明によれば、T2を1530℃以下、さらには1500℃以下にまで低下させることができる。
【0049】
(作業温度と液相温度との差分:T4−TL)
フロート法では、溶融ガラスの温度がT4において、溶融ガラスが失透しないこと、言い換えれば作業温度(T4)が液相温度(TL)よりも高いことが必要である。本発明によれば、作業温度から液相温度を差し引いた差分が、50℃以上、さらには100℃以上、場合によっては150℃以上にまで大きい、ガラス組成物を提供できる。また本発明によれば、TLを1050℃以下、さらには1000℃以下、場合によっては900℃以下にまで低下させて、T4−TLを大きくすることに寄与できる。
【0050】
(密度(比重):d)
電子機器の軽量化のため、電子機器に搭載されるディスプレイのカバーガラスの密度は小さいことが望ましい。本発明よれば、ガラス組成物の密度を2.55g・cm
-3以下、さらには2.53g・cm
-3以下、場合によっては2.52g・cm
-3以下にまで減少させることができる。
【0051】
フロート法などでは、ガラス品種間の密度の相違が大きいと、製造するガラス品種を切り換える際に熔融窯の底部に密度が高い方の溶融ガラスが滞留し、品種の切り換えに支障が生じる場合がある。現在、フロート法で量産されているソーダライムガラスの密度は約2.50g・cm
-3である。したがって、フロート法による量産を考慮すると、ガラス組成物の密度は、上記の値に近いこと、具体的には、2.45〜2.55g・cm
-3、特に2.47〜2.53g・cm
-3が好ましい。
【0052】
(弾性率:E)
イオン交換を伴う化学強化を行うと、ガラス基板に反りが生じることがある。この反りを抑制するためには、ガラス組成物の弾性率は高いことが好ましい。本発明によれば、ガラス組成物の弾性率(ヤング率:E)を70GPa以上、さらには72GPa以上、場合によっては73GPa以上にまで増加させることができる。
【0053】
(クラック発生荷重:W)
ディスプレイのカバーガラスには、傷や割れが入りにくいことが求められる。本発明のガラス組成物について、ガラス表面への傷や割れの入りにくさを示す指標として、後述する、クラック発生荷重を採用した。本発明によれば、ガラス組成物のクラック発生荷重は200gf(グラムフォース)以上を示し、さらには300gf以上、500gf以上、場合によっては900gf以上まで増加させることができる。
【0054】
以下、ガラス組成物の化学強化について説明する。
【0055】
(化学強化の条件)
ナトリウムを含むガラス組成物を、ナトリウムイオンよりもイオン半径の大きい一価の陽イオン、好ましくはカリウムイオン、を含む溶融塩に接触させ、ガラス組成物中のナトリウムイオンを上記の一価の陽イオンによって置換するイオン交換を行うことにより、本発明によるガラス組成物の化学強化を実施することができる。これによって、表面に圧縮応力が付与された圧縮応力層が形成される。溶融塩としては、典型的には硝酸カリウムを挙げることができる。硝酸カリウムと硝酸ナトリウムとの混塩を用いることもできるが、混塩は濃度管理が難しいため、硝酸カリウム単独の溶融塩が好ましい。溶融塩の温度および処理時間は、処理するガラス組成物の組成、大きさおよび形状などによって適宜定めればよいが、硝酸カリウム単独の溶融塩を用いる場合には、硝酸カリウムの熱分解を考慮して、溶融塩の温度を例えば400℃〜430℃に定めるとよい。ガラス組成物と溶融塩とを接触させる時間は、例えば30分〜8時間が適切である。
【0056】
(圧縮応力層)
本発明によるガラス組成物を化学強化して得られた強化ガラス物品は、その表面に圧縮応力層が形成されている。この圧縮応力層に付与された圧縮応力は、600MPa以上、さらには700MPa以上、場合によっては800MPa以上を示す。また、本発明によるガラス組成物を化学強化して得られた強化ガラス物品の圧縮応力層の深さは、22μm以上、さらには25μm以上、場合によっては27μm以上を示す。したがって、本発明によるガラス組成物を化学強化して得られた強化ガラス物品は、十分な大きさの圧縮応力および十分な深さを備えた圧縮応力層が形成されており、ディスプレイのカバーガラスに適した強度を有している。
【0057】
本発明によれば、比較的低いT4を示し、フロート法による製造に適し、ディスプレイのカバーガラスとしてガラスを薄く成形するのに有利なガラス組成物を提供することができる。
【0058】
本発明のガラス組成物を化学強化して得られた強化ガラス物品は、電子機器に搭載される液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等やタッチパネル式ディスプレイのカバーガラスとして好適である。ただし、本発明によるガラス組成物は、化学強化処理を施し、あるいはこの処理を施さずに、電子デバイスの基板などとして用いることもできる。
【実施例】
【0059】
以下では、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0060】
(ガラス組成物の作製)
表1〜5に示すガラス組成となるように、汎用のガラス原料である、シリカ、酸化チタン、アルミナ、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムを用いてガラス原料(バッチ)を調合した。炭酸ナトリウムの一部を硫酸ナトリウムとした。比較例4、比較例9については、ガラス原料に酸化鉄をさらに加え、比較例9および比較例10については、さらに、酸化ジルコニウム、酸化ホウ素および酸化スズ(IV)をガラス原料に加えた。調合したバッチを白金ルツボに投入し、電気炉内で1550℃で4時間加熱して溶融ガラスとした。次いで、溶融ガラスを鉄板上に流し出し、冷却してガラスプレートとした。次いで、このガラスプレートを再び電気炉へ入れ、580℃で30分間保持した後、炉の電源を切り、室温まで徐冷して試料ガラスとした。
【0061】
試料ガラスについて、ガラス転移点Tg、作業温度T4、熔融温度T2、液相温度TL、密度d、およびヤング率Eを測定した。
【0062】
ガラス転移点Tgは示差熱膨張計(理学電機株式会社サーモフレックスTMA8140)を用いて測定した。作業温度T4および熔融温度T2は、白金球引き上げ法により測定した。密度dはアルキメデス法により測定した。ヤング率EはJIS(日本工業規格) R1602に従って計測した。
【0063】
(クラック発生荷重の評価)
上記のようにして得た試料ガラスのいくつかについて、クラック発生荷重を評価した。アカシ製作所製ビッカース硬度計を用いて、クラック発生荷重を以下の手順で算出した。まず、試料ガラスの表面にビッカース圧子を押し当て、100gfの荷重を15秒間加えた。除荷後に試料ガラスの表面に残る正方形の圧痕において、その頂点からクラックが生じている数を計測した。この計測を5回繰り返して行ない、クラックが生じた数を頂点の数の合計20ヶ所で除してクラック発生確率Pを算出した。荷重を100gf、200gf、300gf、500gf、1kgf、2kgfと段階的に増やし、それぞれの荷重について同様にクラック発生確率Pを求めた。このようにして、P=50%を跨いで隣り合う2段階の荷重WH、WLとその時の発生確率PH、PL(PL<50%<PH)を得た。2点(WH,PH)および(WL, PL)を通る直線がP=50%をとるときの荷重を求め、クラック発生荷重とした。結果を表1〜5に併せて示す。
【0064】
(強化ガラスの作製)
上記のようにして作製した試料ガラスを25mm×35mmに切り出し、その両面をアルミナ砥粒で研削し、さらに酸化セリウム研磨砥粒を用いて鏡面研磨した。こうして、両面の表面粗さがRaが2nm以下である厚さ5mmのガラスブロックを得た(RaはJIS B0601−1994に従う)。このガラスブロックを420℃に加熱した硝酸カリウム溶融塩中に4時間浸漬して化学強化を行った。化学強化処理後のガラス基板80℃の熱水で洗浄し、強化ガラスブロックを得た。
【0065】
上記のようにして得た強化ガラスブロックのうちいくつかについて、表面の圧縮応力および圧縮深さ(圧縮応力層の深さ)を折原製作所製表面応力計「FSM−6000」を用いて測定した。結果を、表1〜5に併せて示す。
【0066】
各実施例では、ガラス転移点Tgが580℃未満、作業温度T4が1080℃以下となった。また、実施例の一部について測定した熔融温度T2は1530℃以下であった。また、作業温度T4から液相温度TLを差し引いた差分T4−TLは、T4−TLを計算可能なすべての実施例において、50℃以上であった。各実施例の密度dは、2.50〜2.53g・cm
-3となった。また、各実施例において易化学強化性Mは、0.86〜1.02であった。また、化学強化処理を施した強化ガラスブロックについて、圧縮応力は774〜951MPaであり、圧縮応力層の深さは22.0〜37.3μmであった。
【0067】
これに対し、比較例1〜5の試料ガラスは、Tgが580℃を超えており、T4は1080℃を超えている。したがって、フロート法による製造には不利である。さらに、ディスプレイのカバーガラスとして薄く成形するうえでも不利である。特に比較例1〜3、5の試料ガラスはAl
2O
3の含有量が高いため、Tgが高くなってしまっている。比較例6〜8の試料ガラスは、Tgは580℃未満であるものの、T4が1080℃を超えている。したがって、フロート法による製造には不利であり、ディスプレイのカバーガラスとして薄く成形するうえでも不利である。比較例1〜4の試料ガラスは熔融温度T2が1530℃を超えている。したがって、ガラスの溶解、清澄に要するエネルギーが多くなってしまう。比較例9、10は、T4が1080℃よりも大きくフロート法による成形には不利である。また、比較例11のT4−TLは、−100℃よりも小さいためフロート法による成形には不利である。
【0068】
実施例7、16、21、28、実施例36〜38の試料ガラスについてクラック発生荷重Wを評価したところ、いずれも200gfより大きいクラック発生荷重を示した。一方、比較例5、6および比較例10の試料ガラスについてクラック発生荷重Wを評価したところ、いずれも200gf以下を示した。比較例5、6および10は、ディスプレイのカバーガラスとしては、傷や割れの生じにくさの点で劣っている。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
【表5】