特許第5764089号(P5764089)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5764089-スラグ材の表面改質方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764089
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】スラグ材の表面改質方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 5/00 20060101AFI20150723BHJP
【FI】
   C04B5/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-96719(P2012-96719)
(22)【出願日】2012年4月20日
(65)【公開番号】特開2013-224229(P2013-224229A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2014年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100061745
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】漆原 亘
(72)【発明者】
【氏名】巽 明彦
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 佳寿美
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陵平
(72)【発明者】
【氏名】船岡 洋一
【審査官】 相田 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−041772(JP,A)
【文献】 特開2009−028581(JP,A)
【文献】 特開2005−097076(JP,A)
【文献】 特開平08−259282(JP,A)
【文献】 特開2009−057257(JP,A)
【文献】 特開2011−051831(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01630143(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 5/00〜5/06
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼スラグを含むスラグ材を相対湿度が100%となる湿潤環境で保持しつつ当該スラグ材の表面全体を濡らす第1工程と、前記第1工程後に前記スラグ材を相対湿度が80%以下となる乾燥環境で保持しつつ当該スラグ材の表面全体を乾かす第2工程とを有する湿乾処理を3回以上行ってスラグ材の表面を改質することを特徴とするスラグ材の表面改質方法。
【請求項2】
前記第1工程では、前記スラグ材に水分を供給することを特徴とする請求項1に記載のスラグ材の表面改質方法。
【請求項3】
前記湿乾処理は、前記前記スラグ材の表面温度が5〜60℃となる範囲で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のスラグ材の表面改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、鉄鋼スラグを含むスラグ材を海洋環境修復材として用いるスラグ材の表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋では、「海砂採取後の深掘り部による貧酸素海域」や「海藻類の減少による磯焼け」により悪化した環境の修復が望まれており、深掘り部の「埋め戻し材」や「藻場造成」等の材料として、製銑工程や製鋼工程で発生した鉄鋼スラグの利用が期待されている。鉄鋼スラグは、既に路盤材等の陸上利用が進められているが、海洋環境修復材としてスラグを使用する場合、海水浸漬時のpH上昇と白濁生成を抑制し、環境に無害な状態とする必要がある。
【0003】
鉄鋼スラグには、成分として生石灰などの溶け残りであるf−CaOやこのf−CaOの水和反応で形成されたCa(OH)を含んでいる。f−CaOやCa(OH)は海水などの水分と接触すると、溶解しアルカリ化する。また、海水中にアルカリが溶出してしまうとpH9.5以上でMg(OH)の白色沈殿が生じて、環境影響が懸念される。このようなことから、鉄鋼スラグを、海洋で利用するためにはアルカリ溶出を抑制する処理が必要である。鉄鋼スラグ等のアルカリ溶出を抑制する技術として特許文献1〜5に示すものがある。
【0004】
特許文献1では、鉄鋼スラグ中に存在するCaO分を炭酸化するに際し、鉄鋼スラグに機械攪拌を付与しつつ、CO含有ガスを供給して炭酸化反応を行わせしめる鉄鋼スラグの処理方法であって、鉄鋼スラグ中に10〜40mmの粒状物を含む状態で機械攪拌している。特許文献2では、セメント、無機系混和材、骨材、混和剤及び水を含むコンクリートを硬化させたコンクリート硬化体の表面を、散水及び/又は強制炭酸化し、コンクリート硬化体の中性化深さを0.5mm以上にしている。
【0005】
また、特許文献3では、鉄鋼スラグに含まれる遊離CaO及びCa(OH)の合計含有量を0.9質量%以下としている。特許文献4では、高炉水砕スラグと刺激剤とを主成分とする固化処理材を水の存在下で廃棄物に混合し、該廃棄物を固化させている。特許文献5では、水分が添加された石材用原料の積み山での原料充填層を形成し、該積み山に炭酸ガスまたは炭酸ガス含有ガスからなる原料ガスを吹き込むことにより、微粉原料中に含まれるCaOの炭酸化反応より生成させたCaCOをバインダーとして石材用原料の積み山を炭酸固化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−022817号公報
【特許文献2】特開2007−001813号公報
【特許文献3】特開2005−320230号公報
【特許文献4】特開2003−305448号公報
【特許文献5】特開2000−247711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜5では、アルカリ溶出を抑制するために鉄鋼スラグ等の炭酸化処理を行っているものの、これらの技術を用いても鉄鋼スラグの表面全体に適正な炭酸化処理を付与することができず、アルカリ溶出性にバラツキが生じることがあった。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、鉄鋼スラグを含むスラグ材からのアルカリ溶出を十分に抑制することができるスラグ材の表面改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明のスラグ材の表面改質方法は、鉄鋼スラグを含むスラグ材を相対湿度が100%
となる湿潤環境で保持しつつ当該スラグ材の表面全体を濡らす第1工程と、前記第1工程後に前記スラグ材を相対湿度が80%以下となる乾燥環境で保持しつつ当該スラグ材の表面全体を乾かす第2工程とを有する湿乾処理を3回以上行ってスラグ材の表面を改質することを特徴とする。
【0009】
前記第1工程では、前記スラグ材に水分を混合することが好ましい。
前記湿乾処理は、前記前記スラグ材の表面温度が5〜60℃となる範囲で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鉄鋼スラグを含むスラグ材からのアルカリ溶出を十分に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】スラグ材の表面を改質する手順を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るスラグ材の表面改質方法について、図をもとに説明する。
製鉄所では、一般的に、高炉で出銑した溶銑に対して脱硫処理及び脱珪処理などの溶銑予備処理を行い、溶銑予備処理の終了後には脱りん処理や脱炭処理を行っている。溶銑などを溶鋼に精錬する様々な精錬処理では、副生成物である鉄鋼スラグが生成される。鉄鋼スラグは、例えば、脱炭スラグ、溶銑脱燐スラグ、溶銑脱硫スラグ、溶銑脱珪スラグ、取鍋精錬スラグ、電気炉鉄鋼スラグなどである。鉄鋼スラグには精錬処理によってある程度の差はあるものの、酸化カルシウム(CaO)、二酸化珪素、酸化アルミニウム、鉄などが含まれている。この鉄鋼スラグは、精錬処理後に外部に排滓して様々な用途に用いられるが、精錬処理後の鉄鋼スラグ中には、f−CaOやCa(OH)が含まれている。
【0013】
各精錬処理後に排滓した鉄鋼スラグに対して、何ら処理もせずにそのまま海洋に使用すると、鉄鋼スラグ中に含まれるf−CaOやCa(OH)が海水などの水分と反応[CaO+HO→Ca2++2OH、Ca(OH)+HO→Ca2++2OH]により、海水がアルカリ化してしまい、海洋環境に影響を与える可能性がある。
本発明では、鉄鋼スラグを含むスラグ材を、海洋環境修復材などとして使用できるように、スラグ材の改質を行うこととしている。なお、スラグ材とは、鉄鋼スラグを含むものであればよく、鉄鋼スラグのみで構成したもの(鉄鋼スラグが100%)であっても、鉄鋼スラグと他の骨材やバインダーとを合わせて塊成化した材料であっても、鉄鋼スラグを土砂等と混合した材料であってもよい。また、排滓後の鉄鋼スラグに対して蒸気エージング処理を行ってCaOやCa(OH)を変質させたものをスラグ材としてもよい。
【0014】
以下、スラグ材の表面改質方法について詳しく説明する。
スラグ材の表面改質方法では、鉄鋼スラグに含まれているf−CaOやCa(OH)を利用して、スラグ材の表面をコーティングし、このコーティングによって鉄鋼スラグからのアルカリ溶出を抑制することとしている。なお、鉄鋼スラグのみによってスラグ材を構成したものを例にとり説明する。
【0015】
例えば、精錬処理後に鉄鋼スラグをスラグパンなどに排滓し、排滓した鉄鋼スラグ(スラグ材)に、水を噴霧して鉄鋼スラグの表面に水膜を形成する。そうすると、鉄鋼スラグ中にf−CaOやCa(OH)が含まれるため、水膜にCaイオンやCOイオンが溶け出し、炭酸化反応が進み、鉄鋼スラグの表面に炭酸化カルシウムが形成されることになる。しかしながら、鉄鋼スラグの表面に形成された水膜の厚さが厚過ぎる場合、鉄鋼スラグの表面に形成された炭酸カルシウムは最終的に皮膜とはならず、当該炭酸カルシウムによって鉄鋼スラグの表面をコーティングすることができない。一方、鉄鋼スラグの表面に形成された水膜の厚さが薄過ぎる場合、水膜に溶け込むCaイオンやCOイオンが少なく炭酸化反応が十分に進まないため、炭酸カルシウムが鉄鋼スラグの表面をコーティングできる十分な皮膜にならない。
【0016】
このようなことから、本発明では、後述するような工程を採用することにより、炭酸カルシウムによって鉄鋼スラグの表面を十分にコーティングできるようにしている。
具体的には、図1の排滓処理工程に示すように、まず、スラグ材の元材料である鉄鋼ス
ラグ1をスラグパンに排滓して冷却した後、鉄鋼スラグ1を、例えば、1〜100mmに粉砕する。
【0017】
次に、第1工程に示すように、粉砕した鉄鋼スラグ1を相対湿度が100%となる湿潤環境下にある容器2等に入れ、湿潤環境下で保持する。このように、相対湿度が100%となる湿潤環境下に鉄鋼スラグ1を設置すると、時間が経過するに伴い、鉄鋼スラグ1の表面全体が次第に濡れた状態になり、鉄鋼スラグ1の表面に水膜が形成され、この水膜にCaイオンやCOイオンを溶け込ませることができる。
【0018】
第1工程では、鉄鋼スラグ1の表面全体が十分に濡れていることが目視で分かるまで鉄鋼スラグ1を湿潤環境で保持する。第1工程では、鉄鋼スラグ1の表面が十分に濡れるまで当該鉄鋼スラグを保持すればよく、保持時間は限定されないが、2時間以上であることが好ましい。
第1工程においては、鉄鋼スラグ1の周囲の相対湿度を100%に保持するために、環境全体(容器2内)の湿度の制御を行ってもよいし、高温多湿の大気雰囲気下に鉄鋼スラグ1を置いてもよい。また、COイオンの溶け出しを推進するために、COガスを容器2内に吹き込んでCOガス濃度を上昇させてもよい。また、鉄鋼スラグ1の周囲の相対湿度が100%とするために、例えば、水道水、蒸留水、塩水、海水、炭酸水等を、直接、鉄鋼スラグ1の表面に散布したり噴霧することにより、当該鉄鋼スラグ1に水分を供給して、表面全体の水膜の形成を促進してもよい。或いは、湿潤環境下で分級した鉄鋼スラグの塊を設置台などに載せて、上下左右から当該鉄鋼スラグの表面に大気等の水分が付着するようにしてもよいし、鉄鋼スラグ1の表面を結露させてもよい。
【0019】
第1工程において、鉄鋼スラグ1の表面温度が高いと、水膜に溶け込むCaイオンやCOイオンの溶け込み速度が低下し、低温では、水膜中のイオンの拡散速度が低下する。このようなことから、第1工程においては、鉄鋼スラグ1の表面温度が高過ぎず低過ぎないのがよく、表面温度が5〜60℃となる範囲となるように雰囲気の温度調整することが好ましく、より好ましくは表面温度が10〜50℃にするのがよい。
【0020】
次に、第1工程が終了すると、鉄鋼スラグ1を湿潤環境とは別の環境に移す。具体的には、第2工程に示すように、鉄鋼スラグ1を相対湿度が80%以下となる乾燥環境下にある容器2に入れ、乾燥環境下で保持する。相対湿度が80%以下となる乾燥環境下に鉄鋼スラグ1を設置すると、鉄鋼スラグ1の表面全体が徐々に乾いていき、水膜が徐々に薄くなっていく。水膜が徐々に薄くなっていく過程では、水膜に溶け込んだCaイオンやCOイオンが濃縮していくと共に、鉄鋼スラグ1と水膜との境界部分で炭酸化反応が進み、鉄鋼スラグ1の表面に炭酸カルシウムからなる皮膜を形成させることができる。第2工程における相対湿度は60%以下にすることが好ましい。
【0021】
第2工程では、鉄鋼スラグ1の表面全体が十分に乾いていることが目視で分かるまで鉄鋼スラグ1を乾燥環境で保持する。第2工程では、鉄鋼スラグ1の表面が十分に乾くまで当該鉄鋼スラグ1を保持すればよいため、保持時間は限定されないが5時間以上が好ましい。
第2工程においては、鉄鋼スラグ1の周囲の相対湿度を80%以下に保持するために、環境全体(容器2内)の湿度の制御を行ってもよいし、低湿となるように風を当てるようにしてもよい。
【0022】
第2工程において、鉄鋼スラグ1の表面温度が高いと、鉄鋼スラグ1の表面全体が乾燥するのが速く、水膜が一挙に無くなるため、当該工程における1回当たりの成膜量が小さくなる。一方、鉄鋼スラグ1の表面温度が低いと、乾燥するまで非常に長い時間がかかる。このようなことから、第2工程においても、鉄鋼スラグ1の表面温度が高過ぎず低過ぎないのがよく、表面温度が5〜60℃となる範囲となるように雰囲気の温度調整することが好ましく、より好ましくは表面温度が30〜50℃にするのがよい。なお、第2工程における温度や湿度は、上述した範囲内であれば変動させてもよい。
【0023】
以上、第1工程及び第2工程をまとめると、第1工程では、鉄鋼スラグ(スラグ材)1を相対湿度が100%となる湿潤環境で保持して、鉄鋼スラグ(スラグ材)1の表面全体を濡らすこととし、表面に形成した水膜にCaイオンやCOイオンを溶け込ませている。
第2工程では、鉄鋼スラグ(スラグ材)1を相対湿度が80%以下となる乾燥環境で保持して、鉄鋼スラグ(スラグ材)1の表面全体を徐々に乾かし、鉄鋼スラグ1の表面に炭酸カルシウムからなる皮膜を形成させている。
【0024】
このように、本発明では、鉄鋼スラグの周囲の湿度の環境をかえることによって、鉄鋼スラグ1の表面全体に水分を供給し、その後に徐々に乾燥させることによって鉄鋼スラグ1の表面に炭酸カルシウムからなる皮膜を形成させるようにしているが、鉄鋼スラグ1の表面に確実に皮膜を形成させるため、第1工程と第2工程とからなる湿乾処理を3回以上行うこととしている。なお、上述したように、第1工程及び第2工程、即ち、湿乾処理は、鉄鋼スラグの表面温度が5〜60℃となる範囲で行うことが好ましい。
【0025】
湿乾処理を1回で終わらすのではなく、繰り返し3回以上行うことによって、繰り返す毎に鉄鋼スラグ1に形成した皮膜が大きくなると共に、皮膜が鉄鋼スラグ1の表面から剥がれにくくなり、さらに、皮膜は鉄鋼スラグ1の全体に亘って形成されるため、鉄鋼スラグ1の表面全体を炭酸カルシウムの皮膜によりコーティングすることができる。
表1、2は、本発明のスラグ材の表面改質方法をおこなった例と、本発明とは異なる方法でスラグ材の表面改質を行った例とをまとめたものである。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
スラグ材の表面改質を行うには、まず、CaO、Ca(OH)、CaSiOの合計が50質量%以上となる鉄鋼スラグを用意して、この鉄鋼スラグを10〜60mmの粒度で分級する。そして、分級した鉄鋼スラグを乾湿複合サイクル試験機に入れて、湿潤環境に相当する処理(第1環境処理)を行うと共に、乾燥環境に相当する処理(第2環境処理)を実施した。この乾湿複合サイクル試験機は、スガ試験機株式会社製で、温度、湿度、水分供給(水噴霧)が行えるものである。第1環境処理では、鉄鋼スラグの表面に向けて適宜、水噴霧した。
【0029】
鉄鋼スラグの処理量は5kgであり、無作為に鉄鋼スラグを5個取り出し、第1環境処理では全面が濡れているか、第2環境処理では全面が乾いているかを確認した。鉄鋼スラグの乾きの程度は、表面全体が乾いている場合を「全面」とし、表面一部が乾いている場合を「一部」とした。
また、第1環境処理と第2環境処理とを連続して1回行った後、その繰り返し回数を1回、3回、5回、7回、10回の5パターンに分けて処理を実施した。各パターンの終了毎に鉄鋼スラグを1kg取り出してアルカリ溶出評価試験を行った。
【0030】
アルカリ溶出評価試験では、取り出した1kgの鉄鋼スラグを約300gの3つに分け
、3個の試験片(鉄鋼スラグ)を、それぞれ1.5kgの人工海水(マリンアートSF−1を10%硫酸にてpH8.2に調整したもの)に沈める。そして、試験片を沈めた人工海水をそれぞれ3時間放置し、3時間後に人工海水を1回/secの速さで10回攪拌し、各人工海水のpHを測定した。試験片を入れた人工海水のうち、最も高いpHを示した人工海水のpH値を記録し、pH9.0以上の場合を不可「××」とし、pH8.8以上9.0未満の場合を不良「×」とし、pH8.6以上8.8未満の場合をやや不良「△」とし、pH8.4以上8.6未満の場合を良好「○」とし、pH8.4未満の場合を最良「◎」として、人工海水の評価、即ち、鉄鋼スラグからのアルカリ溶出の評価を行った。なお、pHの評価は、2008年9月に(社)日本鉄鋼連盟から刊行されている「転炉系製鋼スラグ 海域利用の手引き」P50に記載されている「表5-6 pH、白濁試験方法」に準じて実施した。
【0031】
実施番号1〜4に示すように、第1環境処理にて、相対湿度を100%として鉄鋼スラグを保持しつつ当該鉄鋼スラグの表面全体を濡らした後、第2環境処理にて、相対湿度を80%以下として鉄鋼スラグを保持しつつ当該鉄鋼スラグの全面を乾かし、これらの第1環境処理及び第2環境処理を3回以上繰り返した場合、アルカリ溶出評価試験でのpHを良好「○」又は最良「◎」とすることができた。
【0032】
実施番号5、6に示すように、第1環境処理にて相対湿度を100%として鉄鋼スラグを保持したものの当該鉄鋼スラグの表面一部しか濡らさなかったり、相対湿度を100%ではなく95%にした場合、第2環境処理にて鉄鋼スラグの表面全体を乾燥させたとしても、アルカリ溶出評価試験でのpHは不可「××」又は不良「×」となった。
実施番号7に示すように、第2環境処理にて相対湿度を80%以下とせずに鉄鋼スラグを保持して当該鉄鋼スラグの表面一部しか乾かさなかった場合、第1環境処理にて鉄鋼スラグの表面全体を濡らしたとしても、アルカリ溶出評価試験でのpHは不可「××」又は不良「×」となった。
【0033】
実施番号8、9に示すように、第2環境処理にて鉄鋼スラグの表面を乾かすことを行わなかったり、第1環境処理にて鉄鋼スラグの表面を濡らさなかったりした場合、繰り返し処理を3回以上行ったとしても、アルカリ溶出評価試験でのpHは不可「××」となった。
これから分かるように、第1環境処理(第1工程)では、鉄鋼スラグを相対湿度が100%となる湿潤環境で保持しつつ当該鉄鋼スラグの表面全体を濡らし、第2環境処理(第2工程)では、鉄鋼スラグを相対湿度が80%以下となる乾燥環境で保持しつつ当該鉄鋼スラグの表面全体を乾かし、これら第1工程及び第2工程を湿乾処理として、この湿乾処理を3回以上行うと、鉄鋼スラグの表面全体に炭酸カルシウムの皮膜ができ、アルカリ溶出を抑えることができる。
【0034】
なお、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する領域を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。
【符号の説明】
【0035】
1 鉄鋼スラグ
2 容器
図1