(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下地処理を施した鋼材の表面に、下記成分(イ)、(ロ)、(ハ)および(ニ)を含む組成物から形成されたエポキシプライマー層、ポリオレフィン接着剤層及びポリオレフィン層が順次積層されたポリオレフィン被覆鋼材。
(イ)軟化点が75〜128℃でエポキシ当量が600〜2200g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(a)と、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(b)との混合物であって、 (a)/(b)の重量割合が90/10〜50/50である、混合エポキシ樹脂成分。
(ロ)平均フェノール水酸基当量が200〜800g/eqのフェノール性硬化剤であって、該フェノール性硬化剤のフェノール水酸基の量は、混合エポキシ樹脂成分(イ)のエポキシ基1当量に対して0.5〜1.0当量である、硬化剤成分。
(ハ)イミダゾール系硬化促進剤および/またはイミダゾリン系硬化促進剤であって、該硬化促進剤の量は、硬化剤成分(ロ)100重量部に対して0.1〜15.0重量部である、硬化促進剤成分。
(ニ)メジアン径が5〜20μmの無機質充填材であって、該無機質充填材の量は、該混合エポキシ樹脂成分(イ)、硬化剤成分(ロ)および硬化促進剤成分(ハ)の合計量100重量部に対して20〜100重量部含まれることを特徴とする無機質充填材成分。
ポリオレフィン被覆鋼材の製造に用いられるエポキシ粉体プライマー組成物であって、下記成分(イ)、(ロ)、(ハ)および(ニ)を含む、エポキシ粉体プライマー組成物。
(イ)軟化点が75〜128℃でエポキシ当量が600〜2200g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(a)と、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(b)との混合物であって、 (a)/(b)の重量割合が90/10〜50/50である、混合エポキシ樹脂成分。
(ロ)平均フェノール水酸基当量が200〜800g/eqのフェノール性硬化剤であって、該フェノール性硬化剤のフェノール水酸基の量は、混合エポキシ樹脂成分(イ)のエポキシ基1当量に対して0.5〜1.0当量である、硬化剤成分。
(ハ)イミダゾール系硬化促進剤および/またはイミダゾリン系硬化促進剤であって、該硬化促進剤の量は、硬化剤成分(ロ)100重量部に対して0.1〜15.0重量部である、硬化促進剤成分。
(ニ)メジアン径が5〜20μmの無機質充填材であって、該無機質充填材の量は、該混合エポキシ樹脂成分(イ)、硬化剤成分(ロ)および硬化促進剤成分(ハ)の合計量100重量部に対して20〜100重量部含まれることを特徴とする無機質充填材成分。
【背景技術】
【0002】
鋼材に長期の防食性が要求される場合、化学的に安定で安価なポリエチレンを厚膜で被覆するポリオレフィン(主としてポリエチレン)重防食被覆が一般に用いられる。特に石油又はガスのラインパイプ防食用としてエポキシ粉体塗料をプライマーとして使用したポリオレフィン被覆鋼管は寒冷地から熱帯地域まで広く一般に用いられている。ポリオレフィンは無極性のために鋼材との間に接着力は発現しないことからポリオレフィン重防食被覆は機能を分離した多層構造となっており、ポリオレフィン防食層は変性ポリオレフィン接着剤層を介し、更に鋼材との接着性、防食性に優れるエポキシ系プライマーが使用される。従来のエポキシ系プライマーは液体のアミン硬化型エポキシ樹脂を2液塗装して吹き付け塗装していたが、環境問題から溶剤使用を防止するためにエポキシ粉体塗料が世界的に多く用いられるようになってきた。しかしながら、エポキシ粉体塗料は液体と異なり、溶融〜液化工程が必要なことから液体よりも高い加熱温度が必要で、低温加熱では鋼材との密着性が劣るという課題がある。
【0003】
このようにエポキシ粉体塗料をプライマーに用いた場合には加熱温度が不足すると、粉体の溶融〜接着が不十分となって接着耐久性が低下する。但し、ラインパイプでは埋設状態で使用されることが多いために、ポリオレフィン被覆と鋼管の接着耐久性は問題となりにくい。
【0004】
一方、鋼管杭に代表される構造物にポリオレフィン重防食被覆を施した場合の様な屋外使用においては、太陽光による温度上昇での膨張と夜間の温度低下による収縮、長期では季節間での収縮膨張も繰り返される。一般的なポリオレフィンの線膨張係数が10〜14×10
-5/℃、エポキシ樹脂が4〜8×10
-5/℃なのに対して、鉄は1.2×10
-5/℃と小さく、鋼材と樹脂との接着界面に歪みが集中するために被覆端部や疵があると応力集中が起こって接着剥離が発生する。ポリオレフィン重防食鋼管杭は、主として海洋構造物として使用され、厳しい腐食環境に晒される。被覆端部では腐食も剥離要因として加わることから、熱応力での剥離低減は非常に重要である。このような応力熱歪みに対する評価試験方法としては、冷熱サイクル試験方法がある。屋外使用の鋼管杭に止まらず、ポリオレフィン被覆鋼管でも埋設までは、管端に被覆端部が存在する状態で置き場に長期保管される場合があることから、その際の管端剥離を模擬する方法としても冷熱サイクル試験が用いられる。
【0005】
一般市販のエポキシ粉体塗料では、埋設ラインパイプへの適用が主となるため、熱歪みによる剥離特性は考慮されていない。また、高強度鋼材では特性が大きく変化し、熱エネルギー効率も良くない200〜240℃の高温加熱を前提とした設計である。このため、良好な冷熱サイクル特性と160℃での低温塗装を両立したエポキシ樹脂プライマーがこれまでは無かった。
【0006】
本出願の出願人らによる出願である特許文献1には、鋼材の表面に、エポキシ粉体プライマー層、熱可塑性接着剤層、およびポリプロピレン層を順次積層したポリプロピレン被覆鋼材であって、前記エポキシ粉体プライマー層は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の混合物であって、その割合が質量比で97/3〜50/50である混合エポキシ樹脂成分、フェノール性硬化剤、トリアジン環またはトリメリット酸塩を有するイミダゾール系硬化促進剤、並びに、無機質充填材としてホウ酸亜鉛を10〜100質量%含有するエポキシ粉体プライマー組成物、が記載されている。そしてこのポリプロピレン被覆鋼材は、耐熱水密着性、耐高温陰極剥離性および耐低温衝撃性に優れることが記載されている。しかしながら、被覆鋼材が実際に晒される冷熱サイクル性に関する記述がない。また、プライマーを硬化させるための加熱温度が180℃であり、鋼材の強度への影響や、熱エネルギー低減の観点から好ましくない。
【0007】
また、特許文献2には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂とo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の混合物であって、フェノール性硬化剤、イミダゾール系硬化促進剤および/またはイミダゾリン系硬化剤、並びに、無機質充填材とを含有するエポキシ粉体プライマー、が記載されている。エポキシ粉体プライマーの加熱温度は上記特許文献1より低い160℃の低温塗装を可能としたものであるが、冷熱サイクル性の試験条件が緩く、過酷な環境にも適用できるエポキシ粉体プライマーとは言えない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
鋼材の強度保持および省エネルギーの観点から、低温でも製造可能なプライマーを使って、かつ海洋構造物に代表される屋外での過酷な環境下での使用にも耐えうる性能を有する被覆鋼材を提供できることが求められている。しかしながら、上記のように従来技術では、エポキシ粉体プライマーを低温で硬化させ、かつ十分な冷熱サイクル性を有するエポキシ粉体プライマーの開発には至っていないため、被覆に端部や貫通疵部があると、剥離が進展しやすいという課題があった。
本発明では、この課題を解決すべく鋭意検討の結果、低温でも製造可能でかつ十分な冷熱サイクル性を有するエポキシ粉体プライマーを開発するにいたった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
冷熱サイクル性のさらなる向上には、冷熱サイクルに伴う鋼材の伸縮にエポキシ粉体プライマーが十分に追随する必要がある。特許文献2に含まれる、混合エポキシ樹脂成分はビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂3成分の混合物であるが、この中でo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂は構造的に一つの分子に多くのエポキシ基を持つ多官能性のエポキシ樹脂であり、エポキシ当量が約200g/eq程度と小さい。このため、ノボラック型エポキシ樹脂を含有した粉体プライマーは、架橋点が多くなり生成される塗膜は硬く伸びにくくなる。その結果、冷熱サイクルに伴う鋼材の伸縮への追随性が劣ることとなる。そこで、本発明の混合エポキシ樹脂成分はビスフェノールA型エポキシ樹脂及びビスフェノールF型エポキシ樹脂の2成分に限定した。
【0011】
本発明は、下地処理を施した鋼材の表面に、下記成分(イ)、(ロ)、(ハ)および(ニ)を含む組成物から形成されたエポキシプライマー層、ポリオレフィン接着剤層及びポリオレフィン層が順次積層された、ポリオレフィン被覆鋼材とすることによって、上記課題を解決したものである。
(イ)軟化点が75〜128℃でエポキシ当量が600〜2200g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(a)と、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(b)との混合物であって、(a)/(b)の重量割合が90/10〜50/50である混合エポキシ樹脂成分。
(ロ)平均フェノール水酸基当量が200〜800g/eqのフェノール性硬化剤であって、該フェノール性硬化剤のフェノール水酸基の量は、混合エポキシ樹脂成分(イ)のエポキシ基1当量に対して0.5〜1.0当量である硬化剤成分。
(ハ)イミダゾール系硬化促進剤および/またはイミダゾリン系硬化促進剤であって、該硬化促進剤の量は、硬化剤成分(ロ)100重量部に対して0.1〜15.0重量部である硬化促進剤成分。
(ニ)メジアン径が5〜20μmの無機質充填材であって、該無機質充填材の量は、該混合エポキシ樹脂成分(イ)、硬化剤成分(ロ)および硬化促進剤成分(ハ)の合計量100重量部に対して20〜100重量部含まれることを特徴とする無機質充填材成分。
上記メジアン径は、日機装株式会社製マイクロトラックMT3000IIシリーズ等のレーザー回折・散乱法により測定することができる。
【0012】
なお、上記鋼材の下地処理はクロメート処理、シランカップリング剤処理、リン酸系化成処理が好ましい。
【0013】
本発明はさらに、ポリオレフィン被覆鋼材の製造に用いられるエポキシ粉体プライマー組成物であって、下記成分(イ)、(ロ)、(ハ)および(ニ)を含む、エポキシ粉体プライマー組成物を提供する。
(イ)軟化点が75〜128℃でエポキシ当量が600〜2200g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(a)と、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(b)との混合物であって、(a)/(b)の重量割合が90/10〜50/50である、混合エポキシ樹脂成分。
(ロ)平均フェノール水酸基当量が200〜800g/eqのフェノール性硬化剤であって、該フェノール性硬化剤のフェノール水酸基の量は、混合エポキシ樹脂成分(イ)のエポキシ基1当量に対して0.5〜1.0当量である、硬化剤成分。
(ハ)イミダゾール系硬化促進剤および/またはイミダゾリン系硬化促進剤であって、該硬化促進剤の量は、硬化剤成分(ロ)100重量部に対して0.1〜15.0重量部である、硬化促進剤成分。
(ニ)メジアン径が5〜20μmの無機質充填材であって、該無機質充填材の量は、該混合エポキシ樹脂成分(イ)、硬化剤成分(ロ)および硬化促進剤成分(ハ)の合計量100重量部に対して20〜100重量部含まれることを特徴とする無機質充填材成分。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエポキシ粉体塗料をプライマーに用いたポリオレフィン被覆鋼材は、−30℃の極低温から60℃の高温での過酷な冷熱サイクル試験における耐剥離特性が従来品よりも格段に優れることから、屋外使用における被覆端部あるいは貫通疵部からの剥離を大幅に抑制することが出来る。これにより鋼管杭に代表される海洋構造物での過酷な腐食環境においても長期防食性維持が期待出来る。また、製造方法において、エポキシ粉体塗料をプライマーに用いた場合に一般的に必要な180℃の温度よりも低い160℃での塗装が可能であるため、高強度鋼材の特性変化防止や省エネルギーでの製造が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明における鋼材とは、主に杭又は配管に用いられる鋼管である。防食性能は鋼材種に依存しないため、普通鋼から低合金鋼が主であるが、高合金やステンレス鋼であっても、防食被覆を必要とする場合には問題無く使用出来る。また、表面にめっきを施しても構わない。
本発明のエポキシ粉体プライマー層を形成するには、事前に脱脂・酸洗又はブラスト処理を行って鋼材表面のスケールを完全に除去する。スケール除去が不十分であると、浸漬後の密着力の早期低下等、長期防食性能が低下する。
【0016】
次いで、水環境での長期接着耐久性が要求される場合、鋼材表面には化成処理を行う。化成処理として最も優れるのはクロメート処理で、部分還元型のクロム酸処理液にシリカ微粒子を混合したもので、例えば日本パーカーライジング社製のパルクロム100があり、適宜塗布して用いる。クロメート処理以外の処理としては、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ基、あるいは3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトル基、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアンート基、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルファイド基を有するシランカップリング処理剤を添加成分として用いた処理剤、あるいはリン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸アルミ、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム等のリン酸金属塩を成分として用いるリン酸金属系化成処理を行うと良い。
【0017】
下地処理を行った鋼材を加熱し、本発明のエポキシ粉体塗料を塗布して、エポキシプライマー層を形成する。エポキシプライマー層の必須成分である(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の詳細について以下に記述する。
【0018】
〔混合エポキシ樹脂成分(イ)〕
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(a)としては、軟化点が75〜128℃であり、エポキシ当量が600〜2200g/eqの範囲であるものが望ましい。軟化点が75℃未満であるとエポキシ粉体プライマー組成物の貯蔵中に粉体粒子間で融着が起こりやすくなるおそれがあり、取り扱いが難しくなる。一方、軟化点が128℃を超えると溶融粘度が高くなり、鋼材基材との濡れ性が悪くなり密着性が低下する(陰極剥離性、耐冷熱サイクル性が低下する)。軟化点は、好ましくは90〜110℃である。また、エポキシ当量が600g/eq未満であると、一般に分子量が小さくなり、軟化温度が低くなるおそれがあり、粉体塗料の貯蔵安定性が悪化する場合がある。一方で2200g/eqを超えると、一般に分子量が大きくなり、軟化温度が高くなりすぎるおそれがあり、その結果、低温硬化性が損なわれる恐れがある。エポキシ当量は、好ましくは650〜1100g/eqである。
【0019】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(a)としては、市販されているものを使用することができる。具体的には、例えばjER1003F(エポキシ当量700〜800g/eq、軟化点約96℃、三菱化学社製)、jER1004F(エポキシ当量875〜975g/eq、軟化点約103℃、三菱化学社製)、jER1005F(エポキシ当量950〜1050g/eq、軟化点約107℃、三菱化学社製)、エポトートYD−014(エポキシ当量900〜1000g/eq、軟化点91〜102℃、新日鐵化学社製)、エポトートYD−017(エポキシ当量1750〜2100g/eq、軟化点117〜127℃、新日鐵化学社製)、エポトートYD−904(エポキシ当量900〜1000g/eq、軟化点96〜107℃、新日鐵化学社製)、エポトートYD−907(エポキシ当量1300〜1700g/eq、軟化点117〜127℃、新日鐵化学社製)等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上併用してもよい。
【0020】
またビスフェノールF型エポキシ樹脂(b)の軟化点は75〜120℃であるのが好ましい。軟化点が75℃未満であるとエポキシ粉体プライマー組成物の貯蔵中に粉体粒子間で融着が起こりやすくなるおそれがある。一方、軟化点が120℃を超えると溶融粘度が高くなり、鋼材基材との濡れ性が悪くなり密着性が低下する(陰極剥離性、耐冷熱サイクル性が低下する)。軟化点は、より好ましくは、80〜100℃である。またビスフェノールF型エポキシ樹脂(b)のエポキシ当量は800〜2500g/eqの範囲であるのが好ましい。エポキシ当量が800g/eq未満であると、一般に分子量が小さくなり、軟化温度が低くなり貯蔵安定性が低下する。一方で2500g/eqを超えると、一般に分子量が大きくなり、軟化温度が高くなりすぎるおそれがある。エポキシ当量は、より好ましくは、900〜1600g/eqである。
【0021】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(b)としては、市販されているものを使用することができる。具体的には、例えばjER4005P(エポキシ当量1050〜1250g/eq、三菱化学社製)、jER4007P(エポキシ当量2100〜2450g/eq、三菱化学社製)エポトート2004(エポキシ当量900〜1000g/eq、軟化点80〜90℃、新日鐵化学社製)、エポトート2005RL(エポキシ当量1100〜1300g/eq、軟化点91〜96℃、新日鐵化学社製)等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上併用してもよい。
【0022】
本発明において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(a)とビスフェノールF型エポキシ樹脂(b)の重量割合は、下記条件を満たすことを条件とする。
(a)/(b)の重量割合が90/10〜50/50である。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(a)に対して、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(b)の混合割合が10未満である場合は、低温で十分な密着性を得ることができず、冷熱サイクル性や低温硬化性が劣ることとなる。また、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(b)の混合割合が50を超える場合は、高温耐熱性などが劣り、粒子間で融着が起こりやすくなるおそれがある。
【0023】
〔硬化剤成分(ロ)〕
硬化剤成分(ロ)としては、プライマー塗膜の耐低温衝撃性を改善するために可撓性に優れた一般式(A)(式中mは1〜4)で表わすフェノール性硬化剤を用いる。
【0025】
式中、mは、1〜4の整数を表す。上記mが1未満であると、以下に詳述するように、原料としてビスフェノールAを使用する場合には、存在することができず、mが4を超えると、合成時に反応が進みすぎて、合成が困難となるので、上記範囲に限定される。上記一般式(A)で表される化合物としては特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(a)とビスフェノールAとの反応により得られるもの等を挙げることができる。上記硬化剤はフェノール性水酸基当量が200〜800g/eqである。200g/eq未満であるとエポキシ粉体プライマー組成物の軟化点が低下し、エポキシ粉体プライマー組成物の貯蔵中に粉体粒子間で融着が起こりやすくなり、貯蔵安定性が低下する。800g/eqを超えると反応性が低下し、冷熱サイクル性が低下する。
【0026】
上記硬化剤としては、市販されているものを使用することができる。具体的には、例えば、ZX−798P(フェノール性水酸基当量670〜770g/eq、軟化点105〜120℃、新日鐵化学社製)、jERキュア171N(フェノール性水酸基当量200〜250g/eq、軟化点約80℃、三菱化学社製)、jERキュア170(フェノール性水酸基価286〜400g/eq、軟化点約90℃、三菱化学社製)等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0027】
硬化剤成分の配合量は、混合エポキシ樹脂成分のエポキシ基1当量に対してフェノール性硬化剤のフェノール性水酸基を0.5〜1.0当量とする。フェノール性水酸基当量が0.5当量未満では硬化剤が少なすぎるためエポキシ樹脂の高分子化が不十分となり、エポキシ粉体プライマーとしての性能が発揮できない。また、1.0当量を超えると混合エポキシ樹脂のエポキシ基がほとんど反応し、エポキシ粉体プライマー組成物中の反応活性点が減少することにより、プライマー上に積層されるポリオレフィン接着剤とエポキシプライマー層との間の接着性が低下し、ピール強度が低下する。
【0028】
〔硬化促進剤成分(ハ)〕
硬化促進剤成分(ハ)としては、下記一般式(B)および下記一般式(C)で表されるイミダゾール系硬化促進剤および(または)イミダゾリン系硬化促進剤を用いる。
【0031】
式中、R
1は、水素原子、炭素数1〜17のアルキル基、または、フェニル基を表す。R
2は、水素原子、または、メチル基を表す。上記炭素数1〜17のアルキル基としては特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基等を挙げることができる。上記イミダゾール系硬化促進剤としては特に限定されず、市販されているものを使用してもよい。具体的には、例えば、2MZ(2−メチルイミダゾール、四国化成工業社製)、2PZ(2−フェニルイミダゾール、四国化成工業社製)、C11Z(2−ウンデシルイミダゾール、四国化成工業社製)、C17Z(2−ヘプタデシルイミダゾール、四国化成工業社製)等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0032】
上記イミダゾリン系硬化促進剤としては特に限定されず、市販されているものを使用してもよい。具体的には、例えば、2MZL(2−メチルイミダゾリン、四国化成工業社製)、2E・4MZL(2−エチル−4−メチルイミダゾリン、四国化成工業社製)等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0033】
硬化促進剤の配合量は、硬化剤成分(ロ)の量に対して0.1〜15.0重量%配合する。0.1重量%未満では硬化が促進されず、15.0重量%を超えるとエポキシ粉体プライマー組成物の反応性が高くなりすぎ、常温域においてもブロッキングが発生しやすくなり、貯蔵安定性が不良となる。
【0034】
〔無機質充填材成分(ニ)〕
配合する無機質充填材(ニ)としては、メジアン径5〜20μmのものを用いることを条件とする。
重量割合としては、無機質充填材を混合エポキシ樹脂成分(イ)、フェノール性硬化剤成分(ロ)および硬化促進剤成分(ハ)の合計量に対して20〜100重量%含有させる。無機質充填材は、冷熱サイクル時におけるプライマー皮膜鋼材の伸縮現象において、プライマー皮膜と鋼材との熱膨張率の違いから発生する応力を緩和させ、鋼材との密着性を保持させる。
無機質充填材は、メジアン径が5μmより小さくなると、充填材の相互作用が大きくなり溶融粘度が高くなり易くなるため、鋼材基材との濡れ性が悪くなり、密着性が低下する。メジアン径が20μmより大きくなると、プライマー皮膜に凹凸が生じるため、ポリオレフィン接着剤との密着性が低下する。
また、無機質充填材の量は10%未満では十分な応力緩和の効果が得られず100重量%を超えると、エポキシ粉体プライマーの溶融粘度が高く鋼材との濡れ性が悪くなり、密着性が低下する。上記無機質充填材としては、例えば、アルミナ、シリカ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の体質顔料を挙げることができる。
その他、無機質充填材としてではないが、必要に応じて二酸化チタン、ベンガラ、酸化鉄等の着色無機顔料、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム等の防錆顔料、亜鉛粉、アルミニウム粉等の金属粉等及び有機系の着色顔料を使用することもできる。さらに、ポリアクリル酸エステル等のレベリング剤も使用できる。
【0035】
〔エポキシプライマー層の形成〕
上記の混合エポキシ樹脂成分(イ)、硬化剤成分(ロ)、硬化促進剤成分(ハ)および無機充填材成分(ニ)を含むエポキシ粉体プライマー組成物の調製は、これらの各成分をスーパーミキサーやヘンシェルミキサーなどを使用して予備混合を行った後、ニーダーやエクストルーダーなどの混練機にて溶融混練を行い、その後冷却して粗粉砕し、さらに微粉砕して所望の粒径に粉砕・分級を行うことによって、調製することができる。溶融混練の条件は、用いる原料成分によって適宜選択することができる。また、その粒径は、体積平均粒子径で5〜50μmであることが好ましい。これらの調整は、巨大粒子や微小粒子を除去し、粒度分布を調整するための分級により行うことができる。更に本発明に用いられるエポキシ粉体プライマー組成物は、用途に応じてレベリング剤、流動化助剤、脱気剤等の添加剤や助剤を含有してもよい。
【0036】
誘導加熱などの加熱方法を用いて160℃以上に加熱した鋼材に、エポキシ粉体塗料を塗布して溶融〜硬化させることでエポキシプライマー層(3)を形成する。粉体塗布後に鋼材を加熱しても良いが、事前加熱の方が気泡などの混入が少ない。粉体の塗布方法は、静電塗装、流動浸漬法などの粉体分野で一般的に用いられる方法が挙げられる。こうして形成されたエポキシプライマー層(3)の膜厚は、10〜500μmであることが望ましい。膜厚が10μm未満では防食性が不十分となり、膜厚が500μmを越えると、内部応力が増大して耐低温衝撃などの低温特性が低下する。
【0037】
〔ポリオレフィン接着剤層(4)およびポリオレフィン層(5)の形成〕
ポリオレフィン接着剤層(4)としては、エポキシプライマー層(3)との接着性およびポリオレフィン層(5)との融着性が優れるものであれば何でも良いが、ポリオレフィンに無水マレイン酸をグラフト重合した無水マレイン酸変性ポリオレフィンを用いるとプライマー層との接着が優れ好適である。ポリオレフィン接着剤層(4)は0.02〜1.0mmの厚みであると良好な結果が得られる。0.02mm以下ではプライマー層との溶融濡れが悪く、接着強度が不十分である。また、1mmを越えると経済性の観点から好ましくない。ポリオレフィン接着剤層の形成方法としては、溶融した変性ポリオレフィンを押出機から押し出して被覆する溶融押出法が好適である。この場合、Tダイ、あるいは丸ダイを用いてポリオレフィン接着剤層(4)が下層、ポリオレフィン層(5)が上層になるように被覆する。
【0038】
本発明に用いるポリオレフィン層(5)としては、一般市販のポリエチレンやポリプロピレンが使用出来る。また、用途に応じて耐候性を付与するカーボンブラックや紫外線防止剤、耐久性を付与する酸化防止剤、意匠性を付与する着色顔料、その他、滑剤、難燃剤、耐電防止剤等を混合して用いることが出来る。ポリオレフィン層(5)は0.3mm以上の厚みであると十分な防食性が得られる。被覆方法としては、溶融押出法が好適である。
【0039】
本発明のポリオレフィン被覆鋼材は、従来の硬化温度よりも低い温度でエポキシプライマー層を硬化させた場合であっても、−30℃という極低温と60℃という高温での優れた耐冷熱サイクル特性を有するという特徴を有している。これにより、本発明のポリオレフィン被覆鋼材は低温から高温までのいずれの環境にあっても応力剥離が少なく、屋外使用における疵部、あるいは端部からの剥離性が飛躍的に優れることから、配管では置き場での管端剥離の問題が無く、杭では高腐食環境である海洋構の飛沫帯にも使用可能である。
【0040】
なお本発明のポリオレフィン被覆鋼材において、極低温の耐冷熱サイクル性が著しく向上した理由として、エポキシ粉体プライマー組成物に含まれる上記(イ)、(ロ)、(ハ)および(ニ)成分において、混合エポキシ樹脂成分(イ)としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(a)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(b)の混合物を用い、そしてこれらの量を特定することによって、エポキシ粉体プライマー組成物の硬化時の流動性および硬化剤成分(ロ)との相溶性が向上し、これにより接着性が向上したと考えられる。そして本発明においてはさらに、被覆層形成時の硬化温度をより低く設定する場合であっても、このように防食性に優れたポリオレフィン被覆鋼材が得られるため、上述の利点に加えてさらにエネルギーコストおよびCO
2排出量の削減をも可能とするという利点がある。
【0041】
また、無機質充填材の含有量とメジアン径を特定することで、接着性を保持したまま、冷熱サイクルによってプライマー皮膜と鋼材の熱膨張率の違いに起因して発生する応力を緩和することができたと考えられる。そしてこのことは、厳しい冷熱サイクルを繰り返す環境下に、本発明のポリオレフィン被覆鋼材を設置しても、十分な防食性能を保持し続けることを意味し、また、それほど厳しくない環境下においては、従来技術のそれより長寿命化できる可能性を示唆している。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例および比較例を示す表中の[部]および[%]は、ことわりのない限り重量基準とする。
【0043】
〔実施例1〕
(a)エポキシ粉体プライマー組成物の調製
表1の実施例1に示すように、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(a)(三菱化学社製jER1004F、エポキシ当量875〜975g/eq、軟化点約103℃)70.0重量部、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(b)(三菱化学社製jER4005P、エポキシ当量1050〜1250g/eq、軟化点87℃)30.0重量部、フェノール系硬化剤(三菱化学社製jERキュア171N、フェノール性水酸基当量200〜250g/eq、軟化点80℃)18.6重量部、イミダゾール(四国化成工業社製2MZ)0.6重量部、無機質充填材(冨士タルク工業社製硫酸バリウム、バライトパウダーFBA メジアン径8μm)、レベリング剤(BASF社製、アクロナール4F)、着色顔料(石原産業社製酸化チタン、タイペークCR50)をスーパーミキサーにて3分間混合した。次いで混練機により約100℃の条件で、加熱溶融混練を行った。その後、押し出されたペレットを常温まで冷却後、粉砕機にて粉砕し、流動化助剤(日本アエロジル社製シリカ、アエロジル300)を加え、平均粒子径約35μmのエポキシ粉体プライマー組成物を得た。
【0044】
(b)ポリオレフィン被覆鋼管の作成
鋼管(SGP200A×5.5m長×5.8mm厚み)の外面を70番グリッドブラスト処理により除錆し、クロメート処理剤(日本パーカーライジング社製パルクロム100)をクロム付着量で600mg/m
2となるように塗布して乾燥させた後、高周波加熱装置で加熱して鋼材温度が160℃になるように加熱し、(a)で調整したエポキシ粉体プライマー組成物を静電粉体塗装機と静電粉体塗装ガンを用いて静電塗装し、本発明のエポキシプライマー層を形成した。形成されたエポキシプライマー層の厚みは硬化後で0.15mmであった。
無水マレイン酸変性ポリエチレンと中密度ポリエチレン(密度0.94、カーボンブラック2%添加)を2層Tダイスから押し出し、シリコンゴムロールを用いて圧着し、エポキシプライマー層が形成された鋼管表面に螺旋状に被覆した。直後に外面水冷を行って、ポリエチレン被覆鋼管を得た。変性ポリエチレンの厚みは0.15mm、ポリエチレン層の厚みは4mmであった。
【0045】
〔実施例2〜13〕
表1の実施例2〜13に示す組成のエポキシ粉体プライマー組成物を実施例1(a)と同じ要領で調製した。
そして実施例1(b)と同じ要領で、表1の実施例2〜13に記したエポキシ粉体プライマー組成物を用いたポリエチレン被覆鋼管を製作した。
表中の記載を次に示す。
・jERキュア170:フェノール性水酸基価286〜400g/eq、三菱化学社製
・ヒ性硫酸バリウムBC:硫酸バリウム、堺化学社製、メジアン径10μm
・硅石粉#300:シリカ、丸仙礦業株式会社製、メジアン径:12μm
【0046】
〔比較例1〜9〕
表2の比較例1〜9に示す組成のエポキシ粉体プライマー組成物を実施例1(a)と同様に調製した。そして実施例1(b)と同じ要領で、表2の比較例1〜9に記したエポキシ粉体プライマー組成物を用いたポリエチレン被覆鋼管を製作した。
表中の記載を次に示す。
・エポトートYDCN−704:o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、新日鐵化学社製、エポキシ当量:204〜216g/eq
・沈降性硫酸バリウム#100:硫酸バリウム、堺化学社製、メジアン径:0.5μm
【0047】
上記実施例および比較例によって得られたポリオレフィン被覆鋼管を下記に従って評価試験を行った。
【0048】
〔冷熱サイクル性等の評価〕
実施例及び比較例で得られたポリオレフィン被覆鋼管を切断し、円周方向に100mm幅、管軸方向に150mm長さに加工して試験片とした。試験片は2枚1組として、−30℃雰囲気に1時間60℃雰囲気に1時間の熱衝撃を200回加え、被覆をたがねで除去して切断被覆端からの剥離を4端部の最大剥離幅で測定し、その平均値を算出した。結果は表1および表2の下欄にまとめた。
【0049】
表1の結果から明らかなように、本発明で規定する条件を全て満たす実施例は200サイクル試験後の端部からの剥離が3mm以下と極めて小さく、優れた特性を示す。
一方、表2に示す、混合エポキシ成分のうちビスフェノールF型エポキシ樹脂成分を含まない比較例1、硬化剤の当量比が本発明の0.5〜1.0当量の範囲に含まれない比較例2(当量比:1.13〜1.59)及び比較例3(当量比:0.30〜0.43)、無機質充填材の配合量が100重量部を上回る比較例4、無機質充填材のメジアン径が5μmを下回る比較例5、範囲外のエポキシ樹脂を含む比較例6、7、ビスフェノールF型エポキシ樹脂と無機質充填材を含まない比較例8、ビスフェノールF型樹脂を含まず、且つ無機質充填材量が20重量部を下回る比較例9では、剥離が10mm以上と大きく増大するため、長期屋外使用では問題となる可能性が高い。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】