【実施例】
【0029】
本発明を用いて、ここではコークス炉炭化室の炉壁損傷部の吹付け補修を前提とした測定方法の一例を以下に記載する。
コークス炉の炭化室は、耐火煉瓦で構築されており、燃料ガスが燃焼する燃焼室と、石炭が装入され、燃焼室より発生する熱によって加熱,乾留しコークスとなる炭化室とが交互に配置された構造となっている。
【0030】
特にコークス炉の場合、数十年に亘って長期間連続稼働し、炉壁煉瓦の欠損や亀裂,煉瓦間の目地開きや段差等の、稼働年数によって損傷した部位の状況が変化するため、その損傷に適合した吹付け方法を選定しなければならない。
【0031】
図7〜9は、コークス炉の損傷の一例を示す水平断面図であり、
図7は、目地切れが発生した炉壁を示し、
図8は、亀裂が発生した炉壁を示し、さらに、
図9は、段差が発生した炉壁を示す。
【0032】
図7は、複数の煉瓦で構築された煉瓦壁の水平断面を示しており、稼働当初、煉瓦16同士はモルタル17で接着されているが、長期間の使用によりモルタル17が煉瓦16から剥離し、目地切れ18のようになる。
【0033】
図8は、煉瓦16自体が割れ、亀裂19の発生を示している。
さらに、
図9は、目地切れ18または亀裂19を境に、煉瓦面20に段差21が生じたところを示している。
【0034】
図10は、亀裂,目地切れが発生した炉壁を示す側面図であり、コークス炉炭化室の炉壁面を示す。
図10に示すように、特に損傷が進んだものは、目地切れや亀裂が繋がり、炉壁面に発生した縦亀裂(A)22と縦亀裂(B)23、および水平目地切れ24に挟まれた炉壁が、煉瓦面25から独立し、底面26上で煉瓦のみで自立している状態のものがある。
【0035】
以上のような損傷を想定して、化学成分組成の異なる吹付材Aおよび吹付材Bの2種類の吹付け材を使用して、以下の試験を実施した。
図13は、吹付材A,Bの剪断接着強度を示すグラフである。
【0036】
吹付け材A,Bは、特許文献1,2により開示されるように、耐火物との接着性を評価すると、
図13にグラフで示すように、せん断接着強度がそれぞれ、1.2MPaと4.6Mpaであり、当該耐火物との接着性では4倍程度の差を有する。
【0037】
図1に示すように、加熱炉内2には、固定された2本の支柱状耐火物3の間に耐火物4を5段積み、支柱状耐火物3と耐火物4の間には左右に隙間7を設けた。また、耐火物4の配置の仕方として、
図7の目地切れ18,
図8の亀裂19を想定し、表1に示すようなパラメータを設定した。
【0038】
【表1】
【0039】
まず、加熱炉蓋8を閉じた状態で、加熱炉内2を1000℃前後に昇温・保持した後、加熱炉蓋8を開け、左右2か所の隙間7に対して、吹付材Aの吹付けを行った。吹付け範囲については、
図5に示すように、5段ある耐火物4のうち、中3段とし、吹付機の条件は表2の通りとした。
【0040】
【表2】
【0041】
このように、コークス炉炭化室の損傷状況を再現した耐火物に吹付けを実施した後、
図6に示すように、加圧用耐火物14を介して、加圧装置15で耐火物4に荷重を与え、荷重変化を測定した。同様の試験を吹付材Bでも実施した。
【0042】
各試験構造体とも、耐火物4が支柱状煉瓦3から外れる直前に最大荷重を示し、その最大荷重を吹付け材の接着強度として評価した。
図12は、本発明による試験結果(荷重測定結果)を示すグラフである。
【0043】
図12にグラフで示すように、本試験における炉壁損傷パラメータでは、吹付材Aの最大荷重よりも吹付材Bの最大荷重が大きくなり、吹付け材Bのほうがより適した補修材であることが確認できた。
【0044】
また、
図12,13のグラフから明らかなように、吹付け材Aのせん断接着強度は吹付け材Bのせん断接着強度の25%程度であるにも関わらず、吹付け材Aの最大荷重は吹付け材Bの最大荷重の80%程度にまで達している。
【0045】
特許文献1,2により開示されるように、耐火物との接着性だけで評価すると、
図13にグラフで示すように、せん断接着強度がそれぞれ、1.2MPaと4.6Mpaであり、当該耐火物との接着性では4倍程度従来性能が劣ると判断されていた吹付け材Aの使用可能性を示唆するものであり、安価製品の使用につながる可能性も見出すことができた。