(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
連続鋳造機に設けられたタンディッシュ内の溶鋼を誘導加熱する誘導鉄心を、タンディッシュに設けられたブラケットに対して締結ボルトを貫通させて締結する締結構造であって、
前記締結ボルトの先端側には、当該締結ボルトの軸心に対して垂直な方向に突出した凸設部が形成されており、締結ボルトの基端側には、ネジ部が形成されていて、
前記ブラケットには、前記誘導鉄心の上鉄心を収納しているビーム部材を貫通した締結ボルトの先端と係合して、締結ボルトの抜け止めを行う抜け止め部材が設けられており、
前記抜け止め部材は、前記凸設部が設けられた締結ボルトの先端側の通過を許容する開口部と、差し込まれた締結ボルトが前記開口部から上方へ抜けなくなる角度まで回動することを許容すると共に、前記角度以上に締結ボルトが回動することを前記凸設部と当接することで規制する回動規制部と、を有していることを特徴とする誘導鉄心の締結構造。
前記回動規制部は、前記差し込まれた締結ボルトが前記開口部から上方に抜ける角度まで回動することを許容すると共に、前記上方に抜ける角度以上に締結ボルトが回動することを前記凸設部と当接することで規制する構成とされていることを特徴とする請求項1に記載の誘導鉄心の締結構造。
前記回動規制部は、差し込まれた締結ボルトを90°回動させた場合に、前記凸設部と当接して締結ボルトの回動を規制する構成とされていることを特徴とする請求項1または2に記載の誘導鉄心の締結構造。
前記抜け止め部材には、前記締結ボルトの先端側と接触して、締結ボルトが下方に落下することを防止する落下防止部が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の誘導鉄心の締結構造。
前記落下防止部は、前記締結ボルトの先端側が当該落下防止部に接触している状態で、凸設部と回動規制部とが締結ボルトの軸方向に重なり合う位置に配備されていることを特徴とする請求項4に記載の誘導鉄心の締結構造。
前記回動規制部は、前記締結ボルトをこの締結ボルトの軸心回りに一方向に回動させた際に前記凸設部と衝合する第1規制面と、他方向に回動させた際に前記凸設部と衝合する第2規制面とを備えており、
締結解除のための回動時に前記凸設部と衝合する第1規制面または第2規制面が開口部に対応した位置に配置される構成とされていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の誘導鉄心の締結構造。
前記締結ボルトの外周面には、熱収縮性のチューブを用いて形成されて、当該締結ボルトとビーム部材との間に電気的な短絡が起こることを防止する絶縁スリーブが設けられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の誘導鉄心の締結構造。
【背景技術】
【0002】
従来から連続鋳造設備では、タンディッシュ内の溶鋼の温度を維持したり昇温したりするために誘導加熱手段が用いられている。この誘導加熱手段は、棒状に形成された誘導鉄心の周囲に誘導コイルを備えたものであり、誘導コイルに電流を流すことで誘導鉄心を介して溶鋼中に誘導電流を発生させ、当該溶鋼を誘導加熱できるようになっている。この誘導加熱手段は、タンディッシュの中心を誘導鉄心が上下に貫通するように、タンディッシュのブラケットに締結ボルトなどを用いて取り付けられる。
【0003】
具体的には、タンディッシュの外側壁には外方突出状にブラケットが設けられており、このブラケットに取り付け用の孔が予め穿孔されている。この取り付け用の孔に、誘導鉄心を貫通する締結ボルトを挿通させ、挿通した締結ボルトをナットなどを用いて締結すれば、誘導加熱手段とタンディッシュとが、ブラケットを介して締結された状態となる。
ただ、この締結ボルトにナットを締結したり、締結されたナットを締結ボルトから取り外したりする作業は、高温で十分な作業スペースが確保できない連続鋳造設備の周囲(例えば、タンディッシュカーの上や下)で行われるため、可能な限り短時間で行われる方が好ましい。それゆえ、従来の連続鋳造設備では、以下の特許文献1に示すような方法で誘導鉄心を簡便に締結・解除できるようにして作業時間の短時間化を行っている。
【0004】
例えば、特許文献1の締結構造は、タンディッシュのブラケットに対して離れる方向に皿バネにより付勢力を与えられた可動プレートを有しており、この可動プレートにより締結ボルトが押圧されることにより締結ボルトを締結できるようになっている。また、この締結構造には、締結ボルトとブラケットとの間にネジリバネが設けられていて、可動プレートをブラケット側に近接させると皿バネの付勢力が開放され、それに合わせてネジリバネのバネ力が締結ボルトに働くようになっている。その結果、ネジリバネのバネ力により締結ボルトが係止位置から非係止位置まで回転し、取り付け用の孔から締結ボルトを引き抜けるようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1の締結構造は、皿バネの弾性力を利用して締結ボルトを締結するものであり、ナットの締め付け作業が不要となる分だけ締結作業が容易となるという利点を備えている。しかし、その一方で、誘導鉄心の装着に際しては、可動プレートを持ち上げ、皿バネによる付勢力を開放するといった作業を行うことが必要不可欠になる。連続鋳造設備のような大型設備でこのような作業を行う場合、どうしても複数の作業者が必要になるし、油圧ジャッキや機械的な押し上げ機構のような大掛かりな機械も用いなくてはならず、作業効率はそれほど良くはならないし、作業時間も十分に短時間化できない。
【0007】
また、ネジリバネや皿バネを用いた特許文献1の締結構造は、設備の構造が非常に複雑となりやすく、メンテナンスなども容易ではないという問題もある。加えて、油圧ジャッキや機械的な押し上げ機構を用いた特許文献1の締結構造では、押し上げ機構自体が熱に弱く、作動不良などのトラブルも起きやすくなるという問題がある。
特許文献1の締結構造は、誘導鉄心を構成する部材の中でも下鉄心に関するものではあるが、上述した問題は上鉄心に関しても発生することが考えられる。
【0008】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、タンディッシュに対して誘導鉄心を締結する締結作業が短時間で且つ容易に行うことができる誘導鉄心の締結構造を提供す
ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の誘導鉄心の締結構造は、連続鋳造機に設けられたタンディッシュ内の溶鋼を誘導加熱する誘導鉄心を、タンディッシュに設けられたブラケットに対して締結ボルトを貫通させて締結する締結構造であって、前記締結ボルトの先端側には、当該締結ボルトの軸心に対して垂直な方向に突出した凸設部が形成されており、締結ボルトの基端側には、ネジ部が形成されていて、前記ブラケットには、前記誘導鉄心の上鉄心を収納しているビーム部材を貫通した締結ボルトの先端と係合して、締結ボルトの抜け止めを行う抜け止め部材が設けられており、前記抜け止め部材は、前記凸設部が設けられた締結ボルトの先端側の通過を許容する開口部と、差し込まれた締結ボルトが前記開口部から上方へ抜けなくなる角度まで回動することを許容すると共に、前記角度以上に締結ボルトが回動することを前記凸設部と当接することで規制する回動規制部と、を有していることを特徴とする。
【0010】
なお、好ましくは、前記回動規制部は、前記差し込まれた締結ボルトが前記開口部から上方に抜ける角度まで回動することを許容すると共に、前記上方に抜ける角度以上に締結ボルトが回動することを前記凸設部と当接することで規制する構成とされているとよい。
なお、好ましくは、前記回動規制部は、差し込まれた締結ボルトを90°回動させた場合に、前記凸設部と当接して締結ボルトの回動を規制する構成とされているとよい。
【0011】
なお、好ましくは、前記抜け止め部材には、前記締結ボルトの先端側と接触して、締結ボルトが下方に落下することを防止する落下防止部が設けられているとよい。
なお、好ましくは、前記落下防止部は、前記締結ボルトの先端側が当該落下防止部に接触している状態で、凸設部と回動規制部とが締結ボルトの軸方向に重なり合う位置に配備されているとよい。
【0012】
なお、好ましくは、前記回動規制部は、前記締結ボルトをこの締結ボルトの軸心回りに一方向に回動させた際に前記凸設部と衝合する第1規制面と、他方向に回動させた際に前記凸設部と衝合する第2規制面とを備えており、締結解除のための回動時に前記凸設部と衝合する第1規制面または第2規制面が開口部に対応した位置に配置される構成とされているとよい。
【0013】
なお、好ましくは、前記締結ボルトの先端側は、先端に向って尖ったテーパ状に形成されているとよい。
なお、好ましくは、前記締結ボルトの外周面には、熱収縮性のチューブを用いて形成されて、当該締結ボルトとビーム部材との間に電気的な短絡が起こることを防止する絶縁スリーブが設けられているとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の締結構造を用いることで、タンディッシュに対する誘導鉄心の取り付け及び取り外しが短時間で且つ容易に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るタンディッシュ2用の誘導加熱手段3に備えられた誘導鉄心4の締結構造1を、図面を用いて説明する。
まずは、誘導鉄心4の締結構造1の説明に先立ち、この締結構造1が採用される誘導加熱手段3、この誘導加熱手段3が設けられるタンディッシュ2、およびこのタンディッシュ2が備えられた連続鋳造設備5について説明する。
【0017】
図1に示すように、連続鋳造設備5は、溶鋼を連続的に鋳造して鋳片を製造する設備であり、溶鋼を一時的に蓄え鋳型6へ注入するタンディッシュ2と、溶鋼を鋳造する鋳型6と、鋳型6から出たブルーム等の鋳片を支えつつ移送する複数のサポートロール7とを有している。このような構成の連続鋳造設備5では、取鍋8により運ばれてきた溶鋼がタンディッシュ2に注がれ、注がれた溶鋼はタンディッシュ2に設けた浸漬ノズル9を介して鋳型6に注入される。鋳型6では注入された溶鋼が冷却(1次冷却)され、その表面部のみが凝固した状態の鋳片となって、鋳型6下部から引き抜かれる。
【0018】
このようにして引き抜かれた鋳片は、各サポートロール7で保持されながら、下流側へ移送されつつ冷却(2次冷却)される。そして、冷却されて水平になった鋳片は、下流側に備えられたガス切断機(図示せず)で適当な長さに切断され、鋳片が形成される。
図2に示すように、連続鋳造設備5に設けられたタンディッシュ2は、上方から見るとT字形状や台形状に形成された筺体であり、耐火材などを用いて上方に向かって開口した筺状に形成されていて、内部には溶鋼が貯留できるようになっている。タンディッシュ2の中央部には、タンディッシュ2を上下方向に貫通して上方と下方とに開口する取付孔10が形成されていて、この取付孔10に誘導加熱手段3の誘導鉄心4(詳細は後述)が差し込まれる。
【0019】
また、タンディッシュ2の外周側には、外方突出状にブラケット11が設けられている。このブラケット11は、内部が空洞とされた角筒状であり、ブラケット11の上面と下面とのそれぞれには締結ボルト12の通過を許容する挿通孔が形成されていて、締結ボルト12を上下に貫通するように挿通できるようになっている。
また、タンディッシュ2の上側には、水平方向に沿ってビーム部材14が配備されており、ビーム部材14の上面には上述したブラケット11の挿通孔に対応した位置にボルト挿通孔13が形成されていて、締結ボルト12を用いてブラケット11をビーム部材14に連通状に固定できるようになっている。
【0020】
この誘導加熱手段3を用いることで、タンディッシュ2内の溶鋼の温度低下を防ぐことが可能となる。
誘導加熱手段3は、側面視で四角形の枠状に形成された誘導鉄心4を有している。詳しくは、
図2に示す如く、この誘導鉄心4は、タンディッシュ2の上側に水平方向に沿って配備されるビーム部材14の内部に懸装され、このビーム部材14の長手方向の中途側から下方に向かって垂下状に伸びる棒状の上鉄心15と、タンディッシュ2の外周面に沿って上鉄心15の下端と上端との間を連結するL字形状の下鉄心16とを組み合わせて形成されている。
【0021】
この誘導鉄心4の上鉄心15は、上述したタンディッシュ2の取付孔10に上下方向に差し込まれており、取付孔10に差し込まれた上鉄心15の中途部には誘導コイル17が設けられている。この誘導コイル17に電流を流すことで誘導鉄心4を介して溶鋼中に誘導電流を発生させ、当該溶鋼を誘導加熱できるようになっている。
ところで、本発明の誘導鉄心4の締結構造1は、上述した誘導鉄心4を、タンディッシュ2に設けられたブラケット11に対して長尺の締結ボルト12を貫通させ、貫通した締結ボルト12の先端側を抜け止め部材18を用いて締結するものである。
【0022】
具体的には、締結ボルト12は上下方向に沿って長尺状とされている。締結ボルト12の先端側には、翼形状を有していて締結ボルト12の軸心に対して垂直な方向に突出した凸設部19が形成されており、締結ボルト12の基端側にはネジ部20が形成されていて、このネジ部20にナット21を螺合できるようになっている。
また、ブラケット11の下面には、ビーム部材14及び当該ブラケット11を貫通した締結ボルト12の先端と係合して、締結ボルト12の抜け止めを行う抜け止め部材18が
設けられている。
【0023】
抜け止め部材18は、凸設部19が設けられた締結ボルト12の先端側の通過を許容する開口部22と、差し込まれた締結ボルト12が開口部22から上方へ抜けなくなる角度まで(軸心回りに)回動することを許容すると共に、角度以上に締結ボルト12が回動することを凸設部19と当接することで規制する回動規制部23と、を有している。
以降では、本発明の特徴である締結構造1を構成する締結ボルト12及び抜け止め部材18について、詳しく説明する。
【0024】
図3に示すように、締結ボルト12は、上述したボルト挿通孔13に差し込める外径を備えた長尺な丸棒状の部材である。締結ボルト12の上端側(基端側)の外周面にはネジ部20が形成されており、このネジ部20には後述するナット21を螺合できるようになっている。締結ボルト12の下端側(先端側)は、下方に向かうに連れて細くなるようにテーパ状、言い換えれば先端に向かって尖ったテーパ状に形成されている。そして、このテーパ状に形成された部分の上側には、当該締結ボルトの軸心に対して垂直な方向(軸垂直方向)に突出した板状の凸設部19が形成されている。この凸設部19は、後述する抜け止め部材18と係合して締結ボルト12の自由回動を抑制するものであり、軸心を挟んで互いに反対側に向かって2箇所に亘って設けられている。
【0025】
また、締結ボルト12の外周面であってネジ部20の下側には、ビーム部材14と締結ボルト12との間に電気的な短絡が起こることを防止する絶縁スリーブ24が設けられている。この絶縁スリーブ24には、シリコン系の樹脂またはPTFE系の樹脂などから構成された熱収縮性のチューブを用いるのが好ましい。このような熱収縮性のチューブを用いれば、絶縁スリーブ24を締結ボルト12の上端側の外周面に良好な密着性を備えた状態で装着することが可能となり、衝撃や熱に強い絶縁スリーブ24を得ることが可能となる。
【0026】
図5及び
図6に示すように、抜け止め部材18は、上述した締結ボルト12の凸設部19と係合して締結ボルト12の抜け止めを可能とするものであり、上面にブロック取付孔25が形成された筺状のストッパ本体26と、このストッパ本体26の内部に設けられた回転止めブロック部材27とから構成されている。
ストッパ本体26は、内部が空洞とされた立方体形状の筺体であり、ストッパ本体26の上面がブラケット11の下面に固着されている。このストッパ本体26は、上面の中央に円形に開口するブロック取付孔25が形成されており、内部にはブロック取付孔25より若干大きな寸法を備えた回転止めブロック部材27が下方から嵌り込んでいる。この回転止めブロック部材27の上端には段差部28が形成されており、この段差部28とブロック取付孔25とが係合することで、ブロック取付孔25の内部に回転止めブロック部材27が入り込まないものとなっている。
【0027】
また、ストッパ本体26の底面は、締結された状態にある締結ボルト12の下端からさらに下方に間隔を空けた位置に設けられている。このストッパ本体26の底面は、落下防止部であり、例えばナット21を取り外した状態で誤って締結ボルト12を落とした場合に、締結ボルト12の下端と接触することにより、締結ボルト12の下方移動を規制して締結ボルト12の落下を防止できるようになっている。
【0028】
なお、落下防止部として機能するストッパ本体26の底面は、この底面に締結ボルト12の下端が接触して落下防止されている状態においても、回動規制部23と凸設部19とが上下方向に重なり合うような配置とされている。このようにすれば、締結ボルト12が下方に落とし込まれた状態であっても、凸設部19を回動規制部23に接触させることが可能となり、締結ボルト12を引き続き回動させて締結解除を確実に行うことが可能となる。
【0029】
図4に示すように、回転止めブロック部材27は、円柱体の下側の一部が周方向の2箇所に亘って欠けたような形状の部材であり、締結ボルト12の凸設部19と係合して締結ボルト12の抜け止めを行ったり締結ボルト12の回動を規制したりできるようになっている。なお、
図4は締結ボルト12が右ネジの場合のものであるが、締結ボルト12が左ネジの場合にも本発明の締結構造1は成立し、この左ネジの場合には以降の部材の配置は
左右に反転した構造となる。以降の説明では、
図4に示すような右ネジの締結ボルト12を用いた締結構造を例に挙げて、本発明を説明する。
【0030】
回転止めブロック部材27の上面中央には、締結ボルト12の上下移動を許容する開口部22が形成されている。この開口部22は、締結ボルト12における凸設部19が形成されていない部分の通過を許容するような円形の断面と、凸設部19の通過を許容するようにスリット状に形成された断面とを組み合わせたような断面形状を備えており、凸設部19をスリット状の断面に合わせた方向に向けておけば締結ボルト12の上下移動が許容されるようになっている。
【0031】
また、回転止めブロック部材27の下部には、上述した開口部22から差し込まれた締結ボルト12が開口部22から上方へ抜けなくなる角度まで軸心回りに回動することを許容すると共に、抜けなくなる角度以上に締結ボルト12が回動することを凸設部19と当接することで規制する回動規制部23が形成されている。具体的には、この回転止めブロック部材27の下部は、周方向に4つの部分(図例では90°ごとに4つの部分)に分かれていて、4つに分かれた部分のうち中心を挟んで互いに対称となる2箇所が回動規制部23として機能する。
【0032】
つまり、この回動規制部23は、円板状に形成された回転止めブロック部材27の上部から、下方に向かって垂下するように伸びると共に断面が扇状とされた柱体で形成されている。また、回動規制部23は、軸垂直方向を向いて平坦な2つの側面と、湾曲した円筒状の側面との3つの面で囲まれている。そして、これら2つの平坦な側面のうち、一方の側面が、締結ボルト12の凸設部19がこの締結ボルト12の軸心回りに一方向(締結ボルト12が右ネジの場合は反時計回り、すなわち解除時)に回動した際に凸設部19に衝合する第1規制面29とされている。また、もう一方の側面が、凸設部19が軸心回りに他方向(締結ボルト12が右ネジの場合は時計回り、すなわち締結時)に回動した際に凸設部19に衝合する第2規制面30とされている。これらの第1規制面29と第2規制面30とは周方向に90°の角度をあけて形成されていて、
図5に示す締結状態においてはこの第1規制面29が上述した開口部22に対応した位置(面一となる位置)に形成されると共に、また第2規制面30が開口部22とは90°回転した位置に形成されている。
【0033】
それゆえ、締結ボルト12が右ネジの場合には、開口部22から差し込まれた締結ボルト12をこの締結ボルト12の上端側(基端側)から見て時計回りに回動させて、凸設部19が第2規制面30に衝合すると、凸設部19が開口部22とは交差する位置になって締結ボルト12が回転止めブロック部材27に対して抜け止めされる。一方、締結ボルト12をこの締結ボルト12の上端側(基端側)から見て反時計回りに回動させると、凸設部19が第1規制面29に衝合し、凸設部19が開口部22と対応した位置になって締結ボルト12を回転止めブロック部材27から容易に引き抜くことが可能となる。
【0034】
なお、締結ボルト12が左ネジの場合には、上述した各部材の配置は左右に反転した構造となる。例えば、左ネジの場合には、
図5に示す締結状態において第2規制面30が開口部22に対応した位置に形成されると共に、第1規制面29が開口部22とは90°回転した位置に形成されることになる。
それゆえ、締結ボルト12が左ネジの場合には、右ネジの場合とは逆に、締結ボルト12を反時計回りに回動させる、すなわち締結させる方向に回動させると、締結ボルト12が回転止めブロック部材27に対して抜け止めされる。また、時計回りに回動させる、すなわち解除させる方向に回動させると、締結ボルト12を回転止めブロック部材27から容易に引き抜くことが可能となる。
【0035】
次に、上述した締結構造1を用いて、誘導加熱手段3の誘導鉄心4をタンディッシュ2のブラケット11に締結する締結方法、及びブラケット11に締結された誘導鉄心4の締結を解除する解除方法について、説明する。
図5(a)は締結された状態にある締結構造1を示す断面図であり、
図5(b)は締結ボルト12のA−A線断面図である。また、
図5(c)は締結ボルト12のB−B線断面図であり、
図5(d)は抜け止め部材18を斜め下方から見た斜視図である。また、
図6(a)は非締結状態(例えば、締結ボルト12を差し入れた直後の状態及び締結ボルト1
2の締結を解除した状態)にある締結構造1を示す断面図であり、
図6(b)は締結ボルト12のC−C線断面図である。また、
図6(c)は締結ボルト12のD−D線断面図であり、
図6(d)は抜け止め部材18を斜め下方から見た斜視図である。
【0036】
図5(a)〜
図5(d)に示すように、誘導鉄心4の上鉄心15を下鉄心16に接合する際には、誘導鉄心4の上鉄心15をタンディッシュ2の上方向から誘導鉄心4の下鉄心16に載せ、ビーム部材14の上面に形成されたボルト挿通孔13から、締結ボルト12を下方に差し込む。
ボルト挿通孔13の周囲には、座金31と座金31よりやや形の大きな円環状のリングプレート32が予め設けられており、ビーム部材14の上面とリングプレート32との間に両者の間に電気的な短絡が起こることを防止する絶縁プレート33が設けられている。また、上述したネジ部20の下側に位置する締結ボルト12の外周面にも、ビーム部材14と締結ボルト12との間に電気的な短絡が起こることを防止する絶縁スリーブ24が上述したように設けられている。このような絶縁プレート33や絶縁スリーブ24を設ければ、誘導加熱用の電流がブラケット11を介してタンディッシュ2側に漏洩することを防止することが可能となり、誘導加熱の効率を向上させることが可能となる。
【0037】
次に、ボルト挿通孔13に対して上方から差し込まれた締結ボルト12をさらに下方に移動させると、締結ボルト12の先端側がまずビーム部材14を上下方向に貫通し、次にブラケット11を上下方向に貫通する。そして、締結ボルト12の先端側は、さらに抜け止め部材18のブロック取付孔25を通って、回転止めブロック部材27の開口部22から回転止めブロック部材27の下部に形成された回動規制部23に達するようになる。締結ボルト12の下端が開口部22を通過する際には、締結ボルト12の下端が先端に向かって尖ったテーパ状に形成されているので、締結ボルト12における凸設部19が形成されていない部分の通過を許容する円形の開口部に自動的にセンタリングされるので締結ボルト12を上方から容易に差し込むことができる。
【0038】
このように締結ボルト12の先端側がストッパ本体26の底面まで達したら、締結ボルト12の上端側に形成されたネジ部20にナット21を嵌め込み、ナット21を軸心回りに締め付け方向(図例では上方から見て軸心回りに反時計方向)に回転させる。このとき、ナット21とネジ部20との間には摩擦力が作用するため、ナット21を回転させると締結ボルト12も共回りする。やがて、
図5(c)に示すように締結ボルト12が軸心回りに90°回動して、締結ボルト12の先端側に形成された凸設部19が回動規制部23の第2規制面30に衝合すると、それ以上の角度に締結ボルト12が回動することが規制される。締結ボルト12の下端はストッパ本体26の底面より沈むことがないので締結ボルト12が脱落することがない。また、締結ボルト12の下端がストッパ本体26の底面に達しても凸設部19と回動規制部23とが高さ方向でオーバーラップしているので、締結ボルト12の回動が停止したままナット21だけを回動させることができる。それゆえ、さらにナット21を上方から見て軸心回りに時計方向に回転させ続けると、締結ボルト12の回動が停止したままナット21だけが回動し、ナット21が締結ボルト12に対して締め付けられる。
【0039】
なお、上述したように凸設部19が回動規制部23の第2規制面30に衝合した状態では、
図5(b)に示すように、締結ボルト12の凸設部19は、開口部22のスリット状の部分と交差し、凸設部19が抜け止め部材18の開口部22に引っ掛かるため締結ボルト12が開口部22から抜けないようになる。
一方、ブラケット11に締結された締結ボルト12をボルト挿通孔13から引き抜く(締結を解除する)際には、上述した手順と逆の手順を行えば、締結ボルト12を引き抜くことができる。
【0040】
つまり、締結ボルト12を軸心回りに他方向、言い換えれば締結時とは逆方向(図例では上方から見て軸心回りに反時計方向)に回動させる。そうすると、
図6(c)に示すように締結ボルト12が軸心回りに−90°回動して、締結ボルト12の先端側に形成された凸設部19が、回動規制部23の第1規制面29に衝合するまで回動し、凸設部19が第1規制面29に衝合した位置で締結ボルト12の回動が停止する。そして、第1規制面
29に凸設部19が衝合することで、締結ボルト12が他方向に向かってそれ以上の角度に回動することが規制される。
【0041】
それゆえ、さらにナット21を他方向に回転させ続けると、締結ボルト12の回動が停止したままナット21だけが回動し、
図6(a)に示すようにナット21を締結ボルト12から緩めることができる。更にナット21を緩めると、締結ボルト12が下方に沈むが、締結ボルト12の下端はストッパ本体26の底面より沈むことがないので締結ボルト12が脱落することがない。また、締結ボルト12の下端がストッパ本体26の底面に達しても凸設部19と回動規制部23とが高さ方向でオーバーラップしているので、締結ボルト12の回動が停止したままナット21だけを回動させることができる。
【0042】
なお、上述したように凸設部19が回動規制部23の第1規制面29に衝合した状態では、
図6(b)に示すように、締結ボルト12の凸設部19は開口部22のスリット状の部分と同じ方向を向いており、締結ボルト12は開口部22を通って上下方向に自由に移動できるようになる。これにより作業者は、締結ボルト12の凸設部19が開口部22のスリット状の部分と同じ方向を向いていることを目視確認したり、締結ボルト12の凸設部19を開口部22のスリット状の部分と同じ方向に合せる必要がない。
【0043】
やがて、ナット21をネジ部20に対してある程度緩めるか、ナット21がネジ部20から外れれば、締結ボルト12を抜け止め部材18、ブラケット11、ビーム部材14のさらに上方に引き抜くことが可能となり、ブラケット11に締結されたビーム部材14の締結を解除することが可能となる。
上述した誘導鉄心4の締結構造1を用いれば、油圧ジャッキや機械的な押し上げ機構のような大掛かりな機械も用いなくても、締結ボルト12の締結や解除が行え、誘導鉄心4の締結作業の効率が向上し、作業時間も十分に短時間化できるようになる。
【0044】
特に、上述した締結構造1では、締結ボルト12の先端をボルト挿通孔13に差し込んだ上で、一方向に回動させるだけで締結ボルト12の抜け止めが行われ、他方向に回動させるだけで締結ボルト12の締結が解除されるので、締結ボルト12の先端を固定したり位置合わせしたりする必要がない。それゆえ、従来の締結構造1のように、締結ボルト12の上側と下側とに作業者を配置する必要がなく、単独の作業者だけでも締結ボルト12の締結や解除を行うことができる。
【0045】
ところで、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。また、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。