特許第5764140号(P5764140)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5764140改良イオン交換樹脂触媒を使用するエポキシ樹脂の生成
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764140
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】改良イオン交換樹脂触媒を使用するエポキシ樹脂の生成
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/06 20060101AFI20150723BHJP
【FI】
   C08G59/06
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-544603(P2012-544603)
(86)(22)【出願日】2010年12月7日
(65)【公表番号】特表2013-514434(P2013-514434A)
(43)【公表日】2013年4月25日
(86)【国際出願番号】US2010059177
(87)【国際公開番号】WO2011084304
(87)【国際公開日】20110714
【審査請求日】2013年11月26日
(31)【優先権主張番号】61/286,847
(32)【優先日】2009年12月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】カールバーグ,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ゴルツ,エッチ.
(72)【発明者】
【氏名】グ,レミン
(72)【発明者】
【氏名】ハリス,ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ウエスト,ダビッド
(72)【発明者】
【氏名】ウォーリー,ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ヤング,トーマス
【審査官】 柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/120685(WO,A1)
【文献】 特表2011−515566(JP,A)
【文献】 特開平04−227052(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第00888945(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00−59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エーテル化触媒を用いて多価フェノールおよびエピハロヒドリンをエーテル化してビスハロヒドリンエーテルを生成し、無機水酸化物混合物水溶液を用いてビスハロヒドリンエーテルを脱ハロゲン化水素化することによる、液状エポキシ樹脂を製造するための改良方法であって、
ビスハロヒドリンエーテルが任意選択で有機溶媒と混合されており、
改良が、前記エーテル化触媒として変性アミン官能化アニオン交換樹脂を使用することを含み、
変性アミン官能化アニオン交換樹脂が、a)アニオン交換樹脂コポリマーの調製に使用されるモノマーの総重量に基づいて、0.1重量パーセントから4重量パーセントの範囲内の重合された架橋性モノマー含有量、c)変性アミン官能化アニオン交換樹脂中のモノマー単位の2パーセントから60パーセントが官能化されているような官能化度、およびd)式−NR(式中、各Rが独立して、少なくとも2個の炭素原子を有するアルキル基またはアルコキシ基であり、Xは、ハロゲンアニオン、水酸化物アニオン、カルボン酸アニオン、炭酸アニオンおよび硫酸アニオンからなる群から選択される)によって表される第4級アンモニウム基による官能化の少なくとも1つを有する方法。
【請求項2】
架橋性モノマーが、ポリビニリデン芳香族化合物、アルキレンジアクリレートおよびアルキレンジメタクリレートからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
架橋性モノマーが、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルナフタレン、トリビニルベンゼン、ビス(ビニルフェニル)アルカン、ジビニルジフェニルスルホンからなる群から選択されるポリビニリデン芳香族化合物である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
架橋性モノマーがジビニルベンゼンである、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項5】
各Rが8個以下の炭素原子を有する、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
変性アミン官能化アニオン交換樹脂が3.5meq/g以下の乾燥重量容量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
多価フェノールがビスフェノールAであり、エピハロヒドリンがエピクロロヒドリンである、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記変性アミン官能化アニオン交換樹脂が、b)10マイクロメーターから200マイクロメーターの範囲内の平均粒径(湿潤樹脂に基づいて粒径測定)を有する、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、「PRODUCTION OF EPOXY RESINS USING IMPROVED ION EXCHANGE RESIN CATALYSTS」の名称で2009年12月16日に出願した米国仮特許出願第61/286,847号の優先権を主張する非仮出願であり、この教示は、以下に全て再現されているかのように、参照により本明細書に組み込む。
【0002】
本発明は一般に、イオン交換樹脂触媒、特に、以下により詳細に記載する官能化第4級アミンアニオン交換樹脂などの、改良または変性アニオン交換樹脂を使用する、エポキシ樹脂、特に液状エポキシ樹脂の製造に関する。
【背景技術】
【0003】
多価フェノールおよびエピハロヒドリンから低分子量(例えば、総エポキシ樹脂重量に基づいて少なくとも50wt%の多価フェノールのN=0のジグリシジルエーテルオリゴマーを含有する)エポキシ樹脂の製造においては、2つの反応:a.多価フェノールのビスハロヒドリンエーテルを生成するためのエーテル化(カップリング)反応、およびb.エポキシ樹脂を生成するための多価フェノールのビスハロヒドリンエーテルと無機水酸化物との脱ハロゲン化水素化(エポキシ化)反応を実施しなければならない。第1の手法は、典型的には、無機水酸化物混合物水溶液(通常、20重量パーセント(wt%)から50wt%の水酸化ナトリウム(NaOH))を、多価フェノールおよびエピハロヒドリンを含有する有機混合物に添加することによって、2つの反応を同時に実施する。第2の手法においては、触媒を使用して多価フェノールおよびエピハロヒドリンをエーテル化する(カップリングする)ことによってビスハロヒドリンエーテルを生成し、次いで、無機水酸化物混合物水溶液を、ビスハロヒドリンエーテルおよび有機溶媒(例えば、過剰のエピハロヒドリン)を含有する有機混合物に連続的に添加することによって脱ハロゲン化水素化(エポキシ化)反応を行う。いずれの手法においても、大きい資本投資を必要としない装置で、しかし、エポキシ樹脂が所望の生成物規格を満たしながらも副反応による原料損失を最小限にするような方法で、これらの反応を速やかに実施しようとする際には、重大な課題に直面する。
【0004】
第1の手法は、第2の手法より頻繁に使用されるが、複数のバッチ反応器、および有機混合物中の過剰のエピハロヒドリンを用いる。水を反応器中に残して2相混合物を形成するか、または共沸蒸留によって水除去して無機ハロゲン化物塩を沈殿させることが可能である。いずれにしても、反応器の最大サイズの限界は、大きい設備が多数のバッチ反応器を収容し、それによって設備費用が増すことを意味する。
【0005】
第2の手法は、それほど多く使用されないが、第4級アンモニウムまたはホスホニウムのハロゲン化物、水酸化物、炭酸塩およびカルボン酸塩、アルカリ金属またはアルカリ土類のハロゲン化物、炭酸塩、水酸化物および炭酸塩、ハロゲン化スルホニウム、第3級アミン、第3級ホスフィン、有機硫化物、第3級アンモニウムアルキリド、第3級ホスホニウムアルキリド、ベタインおよびルイス酸などの、多数の既に同定されているエーテル化(カップリング)触媒のいずれかを使用する。こうした触媒の多くは、1つ又は複数の問題を抱えている。一部の触媒(例えば、水酸化物、第3級アミン、第3級ホスフィンおよびカルボン酸塩)は、触媒および反応体の両方として機能し、反応の間に消費される。一部の触媒(例えば、第3級アミンおよび第3級ホスフィン)はまた、エピハロヒドリンまたはエポキシ樹脂との間で不可逆反応を開始して、エポキシ樹脂から容易に除去できない望ましくない触媒付加物を形成する。一部の触媒(例えば、ルイス酸)は選択性が低く、望ましくない生成物品質を与える。一部(例えば、無機ハロゲン化物)は、エピハロヒドリン/フェノール混合物への溶解度が非常に低く、したがって、前記反応を容易には触媒できないか、あるいは非常に低い触媒活性しか与えることができない。一部(例えば、第4級アンモニウムまたはハロゲン化ホスホニウム)は高い触媒活性を有し、反応によって消費されず、良好な生成物品質を与え、生成物から容易に分離されるが、再利用のための回収を容易に実施できず、触媒および廃棄処理のコストが高くなる。
【0006】
エポキシ樹脂生成物からの触媒の分離を促進するために、前記エーテル化触媒の少なくとも一部は、反応液に不溶な担体に付着させることによって、固定化できる。
【0007】
米国特許(US)第3,176,027号および英国特許(GB)第888,945号は、フェノールとハロエポキシアルカン(エピハロヒドリン)とを、反応媒体に不溶な高分子量触媒の存在下で反応させることによる、一価フェノールまたは多価フェノールのグリシジルエーテルの製造を記載している。この触媒は極性基を含有し、極性基は(i)塩様基、(ii)反応混合物中で塩様基を形成できる基、または(iii)酸アミド基のいずれかである。触媒は、アミノ基、第4級アンモニウム基、第4級ホスホニウム基または第3級スルホニウム基を含有するアニオン交換樹脂であってもよい。実施例は、Dowex(商標)1X10およびLewatit(商標)MNアニオン交換樹脂の使用に取り組んでいる。Dowex(商標)1X10は、第4級アミンスチレン−ジビニルベンゼン型アニオン交換樹脂であり、Lewatit(商標)MNは、第4級アミン基を含有する強塩基性の重縮合物であると記載されている。
【0008】
GB1,159,530、US3,925,407およびUS4,014,824は、第4級アンモニウムアニオン交換樹脂を使用して、フェノール、脂肪族アルコールまたはアミンとエピハロヒドリンとのエーテル化反応を触媒できることを教示している。
【0009】
US3,372,142は、「強アニオン交換樹脂」を使用して、エピクロロヒドリンとフェノールとの反応を触媒する一例を提供している。
【0010】
US4,313,886、US5,310,955およびUS5,372,790は、Dowex(商標)MSA−1、Dowex(商標)11およびDowex(商標)SBRなどの塩基性イオン交換樹脂が、エピハロヒドリンと二価フェノールとのエーテル化反応のための触媒として適当であることを教示している。
【0011】
US4,276,406およびUS4,341,658は、この反応のための触媒として、複数の第4級「オニウム」(アンモニウム、ホスホニウムまたはスルホニウム)カチオンを含有する(非架橋)ポリマーで処理されたカチオン交換樹脂の使用を記載している。それらは、多価フェノールとエピハロヒドリンとのエーテル化反応の触媒としての、Dowex(商標)MSA−1などの高架橋アニオン交換樹脂の使用が、望ましくない副生成物を高濃度で形成することを示唆している。
【0012】
中国特許公報(CN)第1,931,890号は、水酸化物アニオンだけを含有するように処理された乾燥第4級アンモニウム交換樹脂の調製を検討している。この特許文献は、ビスフェノールAおよびエピクロロヒドリンのエーテル化および脱ハロゲン化水素化のための触媒および反応体として、処理アニオン交換樹脂を使用して、液状エポキシ樹脂を生成するバッチ法も記載している。
【0013】
CN1,546,548は、触媒として炭酸塩またはアニオン交換樹脂を使用する、低分子量ビスフェノールAエポキシ樹脂の調製を教示している。この教示は、ビスフェノールA、エピクロロヒドリン、および炭酸塩または水酸化物型のアニオン交換樹脂を合せて、60〜110℃で3〜10時間反応させ、続いて濾過および脱揮発を行うバッチ手順を含む。
【0014】
CN1,941,890およびCN1,546,548はいずれも、ビスフェノールA液状エポキシ樹脂を生成するためのバッチ苛性カップリングおよびエポキシ化反応における、水酸化ナトリウムの代わりとしての水酸化物型のアニオン交換樹脂の使用を提供している。このように使用する場合、イオン交換樹脂は反応体であり、触媒ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来技術に開示されている触媒よりも高い活性(例えば、フェノール性OH基のより速い転化)および高い選択性(例えば、低オリゴマー含有量の生成物を生成する)を有する不溶性のエーテル化触媒が依然として必要とされている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例3(Dowex(商標)1X2)の触媒活性を、比較例1(Dowex(商標)MSA1)および比較例2(Dowex(商標)1X8)と比較して示すグラフ図である。
図2】実施例3および実施例4の触媒活性を示すグラフ図である。
図3】実施例5、比較例1および比較例6の触媒活性を示すグラフ図である。
図4】実施例7〜9の触媒活性を示すグラフ図である。
図5】実施例10〜13の触媒活性を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一部の態様において、本発明は、触媒としてアミン官能化アニオン交換樹脂を用いて多価フェノールおよびエピハロヒドリンをエーテル化してビスハロヒドリンエーテルを生成し、無機水酸化物混合物水溶液を用いてビスハロヒドリンエーテルを脱ハロゲン化水素化することによる、液状エポキシ樹脂を製造するための改良方法であって、ビスハロヒドリンエーテルが任意選択で有機溶媒と混合されており、改良が、エーテル化触媒として変性アミン官能化アニオン交換樹脂を使用することを含み、変性アミン官能化アニオン交換樹脂が、a)アニオン交換樹脂コポリマーの調製に使用されるモノマーの総重量に基づいて、0.1重量パーセント(wt%)から4wt%の範囲内の重合された架橋性モノマー含有量、b)10マイクロメーター(μm)から200μmの範囲内の平均粒径、c)変性アミン官能化アニオン交換樹脂中のモノマー単位の2パーセントから60パーセントが官能化されているような官能化度、およびd)各Rが独立して、少なくとも2個の炭素原子を有するアルキル基またはアルコキシ基である式−NRによって表される第4級アンモニウム基による官能化の少なくとも1つを有する方法である。
【0018】
本発明における使用に適当なアニオン交換樹脂として、アニオンを交換することができる、架橋ポリマーに結合されているカチオンを含む任意のイオン交換樹脂が挙げられる。適当なアニオン交換樹脂の例としては、第3級アミンで四級化されたクロロメチル化架橋ポリスチレン、第4級アミン基を含有するポリアミンで四級化された架橋ポリアクリレート、四級化された架橋ポリビニルピリジン、ならびにビニルベンジルクロリド、ジビニルベンゼン、および任意選択で、スチレン、アルキルスチレン(alkylstyrenic)、アクリレートおよびメタクリレートから選択される第3のモノマーを共重合することによって調製された樹脂が挙げられる。適当なアニオン交換樹脂は、第4級ホスホニウム基または第3級スルホニウム基を有するクロロメチル化架橋ポリスチレンの官能化によって調製することもできる。第3級アミンで四級化されたクロロメチル化架橋ポリスチレンが好ましい。アニオン交換樹脂は、ゲル型またはマクロ多孔質のいずれかであってもよい。
【0019】
適当な架橋性モノマー(即ち、ポリビニリデン化合物)の例としては、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルナフタレン、トリビニルベンゼン、ビス(ビニルフェニル)アルカン、ジビニルジフェニルスルホンなどのポリビニリデン芳香族化合物、ならびに多様なアルキレンジアクリレートおよびアルキレンジメタクリレートが挙げられる。好ましい架橋性モノマーは、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼンおよびビス(ビニルフェニル)エタンである。「架橋剤」、「クロスリンカー」および「架橋性モノマー」という用語は、本明細書において同義語として使用され、種々の型の架橋剤の組合せに加えて単一種の架橋剤のいずれも含むよう意図される。
【0020】
本発明の一部の態様においては、式1によって表される第3級アミンを使用するクロロメチル化コポリマーのアミノ化によって調製された変性アミン官能化アニオン交換樹脂を使用する。
【0021】
【化1】
[式中、R、RおよびRはそれぞれ独立して、アルキル基およびアルコキシ基から選択され、ただし、R、RおよびRの炭素原子の総数は少なくとも6個であるが、好ましくは少なくとも8個、9個、10個、11個、および一部の実施形態においては少なくとも12個である]。いくつかの実施形態において、R、RおよびRは独立して、炭素数1から8のアルキル基またはアルコキシ基から選択され、ただし、炭素原子の総数は少なくとも8個である。各アルキル基またはアルコキシ基(R、RおよびR)は、独立して、直鎖(例えば、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルなど)または分岐(例えば、イソプロピル、イソブチルなど)であってもよく、非置換であるかまたは置換されていてもよい(例えば、ヒドロキシルなどの基で置換されている)。好ましい実施形態において、3つのアルキル基(R、RおよびR)は独立して、直鎖または分岐であってもよい非置換アルキル基から選択される。別の実施形態において、3つのアルキル基または部分は、エチル部分、プロピル部分、ブチル部分、ペンチル部分およびヘキシル部分から選択される。さらに別の好ましい実施形態において、R、RおよびRはそれぞれ、n−ブチル基、即ち、トリ−n−ブチルアミンである。他の実施形態においては、対象の第3級アミンの「混合種」を使用できるか、あるいは対象の第3級アミンを、上前記定義の範囲外のアミン、例えば、第1級および第2級アミン、または式1の範囲外の第3級アミンと組み合せて使用できる。
【0022】
適当な第3級アミンとしては、トリ−n−ペンチルアミン、トリ−n−ヘキシルアミン、トリ−n−ヘプチルアミン、トリ(イソオクチル)アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミンおよびトリ(イソブチル)アミンからなる群から選択されるものが挙げられる。こうしたアミンは、単独で、または前記群の2種以上の構成員との任意の組合せで使用できる。
【0023】
式−NR中の対イオンXは、エーテル化反応の触媒に役立つ任意の無機または有機アニオン、例えば、ハロゲンアニオン、水酸化物アニオン、カルボン酸アニオン、炭酸アニオンおよび硫酸アニオンであってもよい。アニオンは一価または多価であってもよい。アニオンは、好ましくはハロゲンアニオン、より好ましくはエピハロヒドリン中のハロゲンアニオンと同一である。
【0024】
本発明の一部の態様において、架橋コポリマーのモノマー単位は全てではないが、イオン交換基で官能化する。大部分のアニオン交換樹脂は、樹脂乾燥重量交換容量(ミリ当量/グラム(meq/g)で測定される)を最大にするために、モノマー単位の官能化度を最大にする方法で調製する。例えば、トリメチルアミンによる四級化によって調製されるクロロメチル化スチレン/ジビニルベンゼンアニオン交換樹脂に関して、モノマー単位の官能化度は典型的には、80%から100%未満であり、不完全なクロロメチル化、クロロメチル化反応の間に副反応によって起こるモノマー単位間のメチレン架橋、およびクロロメチル化部位の不完全なアミノ化又はアミノ化の間の副反応(例えば加水分解)によるクロロメチル化部位の消失によって低下する。モノマーの官能化度は、アニオン交換樹脂乾燥重量容量ならびにアニオン交換樹脂中の官能化コモノマーおよび非官能化コモノマーの分子量から算出できる。
【0025】
部分クロロメチル化についての教示については、Helfferich、Ion Exchange、McGraw-Hill、1962、52ページおよびDorfner、Ion Exchangers、Walter de Gruyter、1991、238〜239ページを参照のこと。アミノ化の間に使用する第3級アミンの量を制限することにより、クロロメチル化モノマー単位または部分の一部のみをアミノ化できる。別法として、アミノ化の間にそれほど反応性でない第3級アミンを使用することによって、クロロメチル化モノマー単位の一部のみをアミノ化できるが、他のクロロメチル化モノマー単位が副反応によってベンジルアルコール基、ベンジルエーテル基または他の種に変換される。
【0026】
本発明の一部の態様において、モノマー単位官能化度は、2%から60%、好ましくは10%から40%の範囲である。
【0027】
本発明の一部の態様において、乾燥重量アニオン交換容量は、3.5meq/g未満であり、好ましくは0.5meq/gから3.0meq/gの間である。
【0028】
本発明の一部の態様において、アニオン交換樹脂、特にゲル型アニオン交換樹脂は、200マイクロメーター(μm)以下の平均粒径を有する。平均粒径は、好ましくは10μmから200μm、より好ましくは20μmから100μmの範囲内である。これは、固定床操作における簡便な取り扱いおよび低い圧力降下を提供するために50メッシュ(289μm)から20メッシュ(841μm)の平均粒径を有する従来のアニオン交換樹脂とは異なる。
【0029】
アニオン交換樹脂は、広い、狭いまたは均一な粒径分布を有していてもよい。狭いまたは均一な粒径分布が好ましい。
【0030】
本発明の一部の態様において、アニオン交換樹脂は、少量(官能化前のコポリマー生成の間に使用されるモノマーの総重量に基づいて0.1重量パーセント(wt%)から4wt%)の架橋性モノマーを使用して調製する。対照的に、大部分のゲル型アニオン交換樹脂は、2wt%から10wt%の架橋性モノマーを用いて調製され、大部分のマクロ多孔質アニオン交換樹脂は、4wt%から10wt%の架橋性モノマーを用いて調製される。
【0031】
多価フェノールは、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノール−ホルムアルデヒドノボラック、クレゾール−ホルムアルデヒドノボラック、ビスフェノールA−ホルムアルデヒドノボラック、トリスフェノール、ビフェノール、ジフェノールおよびハイドロキノンを含む、様々な出発原料のうちの1種であることができる。他の多価フェノールは、米国特許第3,372,142号、同第4,313,886号、同第5,310,955号および同第5,372,790号に見出すことができる。ビスフェノールAは特に好ましい多価フェノールである。
【0032】
エピハロヒドリンは任意の公知のエピハロヒドリンであってもよく、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンおよびメチルエピクロロヒドリンが好ましく、エピクロロヒドリンがより好ましい。
【0033】
無機水酸化物は、水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、または水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物であってよい。水酸化ナトリウムは好ましい無機水酸化物である。
【0034】
これらの反応は共溶媒の存在下で実施できる。好ましい共溶媒には、アルコール官能基を含有する任意の溶媒がある。適当な脂肪族アルコールの例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノールおよび4−メチル−2−ペンタノールが挙げられる。エーテル官能基を有する適当なアルコールの例は、1−メトキシ−2−エタノール、1−エトキシ−2−エタノール、1−ブトキシ−2−エタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−イソブトキシ−2−プロパノール、1−フェノキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチルブタノール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、およびエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテルである。
【0035】
前記反応は有機希釈溶媒の存在下でも実施できる。希釈溶媒は、有機相へのエポキシ樹脂の溶解性を増加させる任意の溶媒であってもよい。希釈溶媒は、使用する場合、好ましくは、多価フェノール、エピハロヒドリン、アルカリ金属水酸化物もしくはアルカリ土類金属水酸化物または水と容易に反応する官能基を含有しない。ブライン分離および水洗を容易にするために、希釈溶媒は、好ましくは、水への溶解度がわずかである。適当な希釈溶媒の例としては、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、ケトンおよびエーテルが挙げられる。特に適当な希釈溶媒としては、これらに限定されないが、トルエン、キシレン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンが挙げられる。これらの溶媒の1種または複数の混合物も使用できる。
【0036】
エーテル化反応は、好ましくは、摂氏20度(℃)から100℃の間、より好ましくは40℃から70℃の間の温度で実施する。エーテル化反応は、好ましくは、過剰なエピハロヒドリンを用いて、より好ましくは、フェノール性ヒドロキシル(OH)部分1モル当量当たり1モル超から20モルのエピハロヒドリンを使用して、最も好ましくは、フェノール性OH部分1モル当量当たり2モルから10モルの間のエピハロヒドリンを使用して実施する。
【実施例】
【0037】
比較例(CEx)1
Dowex(商標)MSA−1アニオン交換樹脂(第4級トリメチルアンモニウムクロリド形態のスチレン−ジビニルベンゼン型、マクロ多孔質、総交換容量1.0meq/ml、乾燥重量容量4.2meq/g)の、使用するための準備は、脱イオン水でそれを洗浄し、樹脂をメタノールで溶媒交換して水を除去し、次いでこれを真空オーブン内に入れて摂氏60度(℃)で終夜乾燥させることによって行う。
【0038】
撹拌器、熱電対および凝縮器を装備した、ジャケット付き撹拌5口1リットル(L)丸底フラスコ中に、乾燥アニオン交換樹脂28グラム(g)、精製p,p’−ビスフェノールA80gおよびエピクロロヒドリン320gを入れる。少流量(5ミリリットル/分(ml/分)〜10ml/分)の窒素でフラスコをパージする。加熱したグリコール/水混合物をジャケットに通して再循環させて、フラスコ内容物を設定点温度70℃まで加熱し、この比較例1を通して同温度を維持する。加熱したフラスコ内容物に乾燥アニオン交換樹脂28gを添加する。試料をフラスコから一定間隔で取り出し、試料を紫外線(UV)吸収および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって分析して、フェノール性ヒドロキシル(OH)含有量および反応混合物組成を求める。27時間後に、フラスコの内容物を除去し、イオン交換樹脂触媒をフラスコの他の内容物から分離することによって、反応を停止させる。フラスコ内容物は、85%のフェノール性OH転化率と、クロロヒドリン、グリシジルエーテルおよびフェノール性OH末端基の混合物とともに、ビスフェノールAオリゴマーのジグリシジルエーテル(DGEBA)をN=0 79%、N=1 14.8%、N=2 2.1%およびN=3 0.03%で含むエポキシ樹脂を含有する反応混合物組成とを示す。
【0039】
比較例2
比較例1を繰り返す。ただし、Dowex(商標)1X8アニオン交換樹脂(塩化第4級トリメチルアンモニウム形態のスチレン−ジビニルベンゼン型、ゲル、8%の架橋ジビニルベンゼン、20メッシュ(841マイクロメーター(μm))から50メッシュ(289μm)サイズ(湿潤樹脂に基づいて粒径測定)、総交換容量1.3meq/ml、乾燥重量容量3.9meq/g)を使用し、28時間後に反応を停止させる。フラスコ内容物は、わずか66%のフェノール性OH転化率を示す。
【0040】
実施例(Ex)3
比較例1を繰り返す。ただし、Dowex(商標)1X2アニオン交換樹脂(塩化第4級トリメチルアンモニウム形態のスチレン−ジビニルベンゼン型、ゲル、2%の架橋されたジビニルベンゼン、16メッシュ(1ミリメートル(mm))から100メッシュ(149μm)サイズ(湿潤樹脂に基づいて粒径測定)、総交換容量0.8meq/ml、乾燥重量容量4.3meq/g)を使用し、23時間後に反応を停止させる。フラスコ内容物は、97%のフェノール性OH転化率、ならびに77%のN=0、15.6%のN=1、3.2%のN=2および0.4%のN=3のDGEBAオリゴマーを含むエポキシ樹脂を含有する反応混合物組成を示す。
【0041】
図1は、比較例1(Dowex(商標)MSA1)および比較例2(Dowex(商標)1X8)と比較した、実施例3(Dowex(商標)1X2)の触媒活性を示す。図1は、より低い架橋密度(6%の比較例1および8%の比較例2に対して2%の実施例3)を有するイオン交換樹脂が、より高い活性を有することを示唆している。
【0042】
実施例4
実施例3を繰り返す。ただし、微細メッシュ(200メッシュ(74μm)から400メッシュ(37μm)(湿潤樹脂に基づいて粒径測定)のDowex(商標)1X2アニオン交換樹脂を使用し、7時間後に反応を停止させる。フラスコ内容物は、97%のフェノール性OH変換、ならびに88%のN=0、8.1%のN=1および0.5%のN=2のDGEBAオリゴマーを含むエポキシ樹脂を含有する反応混合物を示す。これは、実施例3のように通常メッシュサイズのDowex(商標)1X2を用いて得られたオリゴマー含有量よりはるかに低いオリゴマー含有量である。図2は、この実施例4と実施例3との触媒活性を比較しており、実施例4の粒径がより小さいゲル型イオン交換樹脂が、実施例3で使用した同型の粒径がより大きい樹脂より高い活性を有することを示唆している。
【0043】
実施例5および比較例6
比較例1を繰り返す。ただし、実施例5にはDowex(商標)1X4樹脂(4%の架橋されたジビニルベンゼン)を使用し、比較例6にはDowex(商標)1X8(8%の架橋されたジビニルベンゼン)樹脂を使用する。いずれの樹脂も、アニオン交換樹脂(塩化第4級トリメチルアンモニウム形態のスチレン−ジビニルベンゼン型、ゲル、200メッシュ(74μm)から400メッシュ(37μm)(湿潤樹脂に基づいて粒径測定)の粒径範囲)である。実施例5では24時間後に反応を停止させ、比較例6では30時間後に反応を停止させる。実施例5のフラスコ内容物は、転化92%のフェノール性OH転化率、ならびに72%のN=0、18.3%のN=1、3.7%のN=2および0.8%のN=3のDGEBAオリゴマーを含む反応混合物組成を示す。比較例6のフラスコ内容物は、わずか68%のフェノール性OH転化率、測定には低すぎるほとんど役に立たないオリゴマー含有量を示す。フラスコ内容物の分析は、架橋性モノマー含有量が4%である実施例5の触媒が、8%というより高い架橋性モノマー含有量を有する比較例6の触媒より活性であることを示唆している。架橋性モノマー含有量が2%である前記実施例4は、実施例5よりさらに活性である。
【0044】
実施例7〜9
比較例1を繰り返す。ただし、実施例7にはDowex(商標)NSR−1アニオン交換樹脂(塩化第4級トリエチルアンモニウム形態のスチレン−ジビニルベンゼン型、マクロ多孔質、総交換容量0.9meq/ml)を使用し、実施例8にはDowex(商標)PSR−3アニオン交換樹脂(塩化第4級トリブチルアンモニウム形態のスチレン−ジビニルベンゼン型、マクロ多孔質、総交換容量0.6meq/ml)を使用し、実施例9にはLanxess/Sybron Ionac(商標)SR7(塩化第4級トリプロピルアンモニウム形態のスチレン−ジビニルベンゼン型、マクロ多孔質、総交換容量0.6meq/ml)を使用する。図4は、実施例7〜9の触媒活性と比較例1の触媒活性とを比較し、メチル基より大きいアルキル基を含むアニオン交換樹脂のアミノ化はより高い触媒活性をもたらすことを示唆している。
【0045】
実施例10〜13
比較例1を繰り返す。ただし、表1に記載する塩化第4級トリメチルアンモニウムのマクロ多孔質アニオン交換樹脂を使用する。この樹脂の調製は、US5,663,455(ジビニルベンゼン含有量が3wt%であり、モノマーは可溶であるがコポリマーは可溶でない有機溶媒であるポロジェンを47wt%使用)に記載されているのと同様なコポリマー製造方法、クロロメチル化度の制御に温度及び時間の制御を用いるクロロメチル化法(例えば、Helfferich、Ion Exchange、McGraw-Hill、1962、52ページ、およびDorfner、Ion Exchangers、Walter de Gruyter、1991、238〜239ページに記載されているもの)、および過剰のトリメチルアミン(TMA)中において40℃で4時間(実施例10〜12)または化学量論量未満のトリメチルアミンを用いて40℃で4時間(実施例13)のアミノ化によって実施できる。アミノ化樹脂を洗浄し、次いでASTM方法D2187によって示される方法などの標準的なアニオン交換特性決定法を使用してそれらのアニオン交換特性を測定する。
【0046】
比較例1と同様にして、触媒活性に関してアニオン交換樹脂を試験する。図5は、触媒(実施例10〜13)の活性を比較している。下記表2は、各触媒(実施例10〜13)に関する反応生成物のオリゴマー含有量を要約している。図5、および表2に要約する結果は、乾燥重量容量がより低い、部分的に官能化されているアニオン交換樹脂(実施例11〜13)が、完全に官能化されているアニオン交換樹脂(実施例10)より高い活性を有し、オリゴマー含有量が低い生成物を生成することを実証している。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
以下に、本願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。

[1] 触媒としてアミン官能化アニオン交換樹脂を用いて多価フェノールおよびエピハロヒドリンをエーテル化してビスハロヒドリンエーテルを生成し、無機水酸化物混合物水溶液を用いてビスハロヒドリンエーテルを脱ハロゲン化水素化することによる、液状エポキシ樹脂を製造するための改良方法であって、ビスハロヒドリンエーテルが任意選択で有機溶媒と混合されており、改良が、エーテル化触媒として変性アミン官能化アニオン交換樹脂を使用することを含み、変性アミン官能化アニオン交換樹脂が、a)アニオン交換樹脂コポリマーの調製に使用されるモノマーの総重量に基づいて、0.1重量パーセントから4重量パーセントの範囲内の重合された架橋性モノマー含有量、b)10マイクロメーターから200マイクロメーターの範囲内の平均粒径(湿潤樹脂に基づいて粒径測定)、c)変性アミン官能化アニオン交換樹脂中のモノマー単位の2パーセントから60パーセントが官能化されているような官能化度、およびd)各Rが独立して、少なくとも2個の炭素原子を有するアルキル基またはアルコキシ基である式−NRによって表される第4級アンモニウム基による官能化の少なくとも1つを有する方法。

[2] 架橋性モノマーが、ポリビニリデン芳香族化合物、アルキレンジアクリレートおよびアルキレンジメタクリレートからなる群から選択される、[1]に記載の方法。

[3] 架橋性モノマーが、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルナフタレン、トリビニルベンゼン、ビス(ビニルフェニル)アルカン、ジビニルジフェニルスルホンからなる群から選択されるポリビニリデン芳香族化合物である、[1]または[2]に記載の方法。

[4] 架橋性モノマーがジビニルベンゼンである、[1]または[2]に記載の方法。

[5] 各Rが8個以下の炭素原子を有する、[1]から[4]のいずれかに記載の方法。

[6] 変性アミン官能化アニオン交換樹脂が3.5meq/g以下の乾燥重量容量を有する、[1]に記載の方法。

[7] 多価フェノールがビスフェノールAであり、エピハロヒドリンがエピクロロヒドリンである、[1]から[6]のいずれかに記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5