(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
XY座標系のX軸上とY軸上に設けた渦電流式ギャップセンサと磁気軸受で浮上させる被制御軸とのギャップを該渦電流式ギャップセンサで検出し、その検出値を基にX軸上電磁石とY軸上電磁石を励磁することにより、これらの電磁石の磁力で前記被制御軸を浮上支持する磁気軸受の制御装置であって、
前記磁気軸受の制御装置は、
前記被制御軸のX軸方向可動限界位置を検出する第1の機能と、
前記第1の機能で検出したX軸方向可動限界位置を基に前記X軸上渦電流式ギャップセンサのX軸上可動範囲の中心を特定する第2の機能と、
前記被制御軸のY軸方向可動限界位置を検出する第3の機能と、
前記第3の機能で検出したY軸方向可動限界位置を基に前記Y軸上渦電流式ギャップセンサのY軸上可動範囲の中心を特定する第4の機能と、
前記第1の機能によるX軸方向可動限界位置の検出時及び第2の機能によるX軸上可動範囲の中心の特定時は、前記X軸上電磁石のうち対向する少なくとも2つの電磁石の励磁電流をONにするとともに、前記Y軸上電磁石の励磁電流をOFFにし、前記第3の機能によるY軸方向可動限界位置の検出時及び第4の機能によるY軸上可動範囲の中心の特定時は、前記Y軸上電磁石のうち対向する少なくとも2つの電磁石の励磁電流をONにするとともに、前記X軸上電磁石の励磁電流をOFFにする第5の機能と、
を備えることを特徴とする磁気軸受の制御装置。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造装置、フラット・パネル・ディスプレイ製造装置、ソーラー・パネル製造装置におけるプロセスチャンバやその他の密閉チャンバのガス排気手段等として利用される排気ポンプにおいては、ガス排気時に回転させるロータの回転軸(以下「ロータ軸という)を浮上支持する手段として、磁気軸受を採用したものがある。この種の磁気軸受については、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
同特許文献1の磁気軸受は、排気ポンプとして公知のターボ分子ポンプ(100)のロータ軸(113)を浮上支持する軸受手段であって、XY座標系のX軸上に渦電流式ギャップセンサ(107A、107B)と電磁石(104X+、104X−)とを備えるとともに、このX軸上電磁石(104X+、104X−)の励磁電流を制御する制御装置(200)を備えている。また、図示は省略されているが、同XY座標系のY軸上にも渦電流式ギャップセンサと電磁石を備えている。
【0004】
特許文献1のターボ分子ポンプ(100)には、磁気軸受の補助装置として保護ベアリング(120)を設けている。保護ベアリング(120)は、制御装置(200)によるロータ軸(113)の浮上支持制御が不能になった時など、ロータ軸(104)の回転異常時に、その回転を受け止めて停止させる手段として機能する。
【0005】
ところで、前記保護ベアリング(120)の中心とロータ軸(113)の回転中心とがずれていると、ロータ軸(113)の正常回転時でも、ロータ軸(113)と保護ベアリング(120)とが接触し易くなるので、従来は、ターボ分子ポンプ(100)の工場出荷時に、ロータ軸(113)が保護ベアリング(120)の中心で回転するように初期調整を行っている。
【0006】
前記初期調整は、本願の
図4に示すフローチャートに従って行われる。以下、この
図4のフローチャートに従って初期調整の方式を説明する。
【0007】
図4のフローチャートは、例えば制御装置(200)の図示しない初期調整開始ボタンの押下等により開始される。フローチャートの開始により、磁気軸受の制御装置(200)では、X軸上電磁石(104X+、104X−)および図示しないY軸上電磁石の励磁電流をON(通電)の状態にし、これらの電磁石の励磁電流制御を開始する(ステップ201)。
【0008】
次に、制御装置(200)では、+X方向の電磁石(104X+)でロータ軸(113)を+X方向に引っ張る(ステップ202)。そして、引っ張られたロータ軸(113)が保護ベアリング(120)の内輪に接触した時点で、+X軸方向の渦電流式ギャップセンサ(107A)と−X軸方向の渦電流式ギャップセンサ(107B)の検出値を読み取り、読み取った検出値に基づいてロータ軸(113)の+X軸方向可動限界位置を特定する(ステップ203)。これと同様の原理で、同制御装置(200)においては、ロータ軸(113)の−X軸方向可動限界位置を特定する(ステップ204、205)。
【0009】
その後、制御装置(200)では、前記のように特定した+X軸方向可動限界位置と−X軸方向可動限界位置との中点を、渦電流式ギャップセンサのX軸上可動範囲の中心すなわちX軸上保護ベアリング中心として算出特定する(ステップ206)。ここで、X軸上保護ベアリング中心を算出特定できなかった場合には、ステップ202に戻り、X軸上保護ベアリング中心の算出特定を再試行する(ステップ207のNo)。一方、X軸上保護ベアリング中心を算出特定できた場合は、特定したX軸上保護ベアリング中心でロータ軸(113)が回転するようにX軸上電磁石(104X+、104X−)の励磁電流を調整する(ステップ208、ステップ207のYes)。
【0010】
次に、制御装置(200)では、先に説明したX軸上保護ベアリング中心の算出特定方式と同様の原理で、Y軸上保護ベアリング中心(磁気軸受のY軸上中心)を算出特定し(ステップ209から214)、特定したY軸上保護ベアリング中心でロータ軸(113)が回転するように図示しないY軸上電磁石の励磁電流を調整する(ステップ215)。
【0011】
本願の
図5(a)は、
図4のフローチャートによる従来の初期調整時において、保護ベアリング(120)の中心(幾何学的・機械的な中心)とX軸上渦電流式ギャップセンサのX軸上可動範囲の中心(電気的な中心)とが一致し、かつ、保護ベアリング(120)の中心とY軸上渦電流式ギャップセンサのY軸上可動範囲の中心とが一致している状態を示している。この状態であれば初期調整は正常に終了する。尚、本願の
図5(a)においては、先に説明したX軸上渦電流式ギャップセンサ(107B)を“+Xセンサ、−Xセンサ”として記載し、図示しないY軸上渦電流式ギャップセンサを“+Yセンサ、−Yセンサ”として記載してある。
【0012】
しかしながら、渦電流式ギャップセンサ(+Xセンサ、−Xセンサ)の取付け位置誤差、あるいは保護ベアリング(120)の取付け位置誤差や寸法公差などのため、保護ベアリング(120)の中心とX軸上渦電流式ギャップセンサのX軸上可動範囲の中心とが本願の
図5(b)のように一致していない場合もある。この場合、先に説明した
図4のフローチャートによる従来の初期調整によると、ステップ202においてロータ軸(130)を+X方向へ引っ張った際に、ロータ軸(130)が保護ベアリング(120)の内輪の円弧面に沿って小刻みに往復運動する、いわゆる発振現象が発生するという問題点がある。
【0013】
この発振現象は、ロータ軸(130)を+X方向に引っ張る力の成分のうち、保護ベアリング(120)の内輪の円弧面接線方向の力成分によってロータ軸(130)が、その内輪の円弧面に沿って移動すること、及び、その移動によりロータ軸(130)のY軸方向位置が変化するので、この変化を元に戻そうとするための励磁電流が図示しないY軸方向の電磁石に作用することによるものである。なお、前記ステップ204においてロータ軸(130)を−X方向に引っ張ったときや、前記ステップ209又は211においてロータ軸(130)を+Y方向又は−Y方向に引っ張ったときも、同様の発振現象が生じるという問題点がある。
【0014】
以上説明したロータ軸(130)の発振現象が発生すると、X軸上の可動範囲やその中心を特定できず、ロータ軸を保護ベアリングの中心位置に浮上出来なくなることから、排気ポンプは初期調整不良として出荷停止とならざるを得ない。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、願書に添付した図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は本発明に係る磁気軸受の制御装置を適用した排気ポンプの断面図である。同図の排気ポンプPは、例えば半導体製造装置、フラット・パネル・ディスプレイ製造装置、ソーラー・パネル製造装置におけるプロセスチャンバやその他の密閉チャンバのガス排気手段等として利用される。この排気ポンプは、外装ケース1内に、回転翼13と固定翼14により気体を排気する翼排気部Ptと、ネジ溝19を利用して気体を排気するネジ溝排気部Psと、これらの駆動系とを有している。
【0023】
外装ケース1は、筒状のポンプケース1Aと有底筒状のポンプベース1Bとをその筒軸方向にボルトで一体に連結した有底円筒形になっている。ポンプケース1Aの上端部側はガス吸気口2として開口しており、ポンプベース1Bの下端部側面にはガス排気口3を設けてある。
【0024】
ガス吸気口2は、ポンプケース1A上縁のフランジ1Cに設けた図示しないボルトにより、例えば半導体製造装置のプロセスチャンバ等、高真空となる図示しない密閉チャンバに接続される。ガス排気口3は、図示しない補助ポンプに連通するように接続される。
【0025】
ポンプケース1A内の中央部には各種電装品を内蔵する円筒状のステータコラム4が設けられており、ステータコラム4はその下端側がポンプベース1B上にネジ止め固定される形態で立設してある。
【0026】
ステータコラム4の内側には後述のラジアル磁気軸受、アキシャル磁気軸受で浮上させるロータ軸5(被制御軸)が設けられており、ロータ軸5は、その上端部がガス吸気口2の方向を向き、その下端部がポンプベース1Bの方向を向くように配置してある。また、ロータ軸5の上端部はステータコラム4の円筒上端面から上方に突出するように設けてある。
【0027】
ロータ軸5は、ラジアル磁気軸受10とアキシャル磁気軸受11の磁力で径方向と軸方向が回転可能に浮上支持され、駆動モータ12により回転駆動される。また、このロータ軸5の上下端側には保護ベアリングB1、B2を設けている。
【0028】
《駆動モータの詳細構成》
駆動モータ12は、固定子12Aと回転子12Bとからなる構造であって、ロータ軸5の略中央付近に設けられている。かかる駆動モータ12の固定子12Aはステータコラム4の内側に設置しており、同駆動モータ12の回転子12Bはロータ軸5の外周面側に一体に装着してある。
【0029】
《保護ベアリングBの詳細構成》
ロータ軸5上端側の保護ベアリングB1は、例えばラジアル磁気軸受10やアキシャル磁気軸受11によるロータ軸5の浮上位置制御が不能となった時など、ロータ軸5の回転異常時に、ロータ軸5の径方向から該ロータ軸5の回転を受け止めて停止させる手段として機能する。かかる機能を実現するために、同保護ベアリングB1の外輪は、ステータコラム4の内周面側に取り付け固定し、同保護ベアリングB1の内輪は、ロータ軸5上端外周面と所定の隙間を隔てて対向するように設けている。
【0030】
ロータ軸5下端側の保護ベアリングB2は、前記ロータ軸5の回転異常時に、ロータ軸5の下端肩部が同保護ベアリングB2の内輪端面に接触したり、ロータ軸5の下端外周面が同保護ベアリングB2の内輪内周面に接触したりすることで、当該ロータ軸5を径方向及び軸方向に機械的に支持する手段として機能する。かかる機能を実現するために、同保護ベアリングB2の外輪は、後述するアキシャル電磁石11Bを介してステータコラム4の内周面側に取り付け固定し、同保護ベアリングB2の内輪は、ロータ軸5の下端肩部及び外周面と所定の隙間を隔てて対向するように設けている。
【0031】
《ラジアル磁気軸受の詳細構成》
ラジアル磁気軸受10は、駆動モータ12の上下に1組ずつ合計2組配置され、アキシャル磁気軸受11はロータ軸5の下端部側に1組配置されている。以下の説明では、説明の便宜上、
図2のように、ロータ軸5の軸心を原点とし、原点からロータ軸5の径方向にX軸とこれに直角のY軸を備えたXY座標系で説明する。
【0032】
2組のラジアル磁気軸受10、10は、それぞれ、ロータ軸5の外周面に取り付けたラジアル電磁石ターゲット10A、これに対向するステータコラム4内側面に設置したラジアル電磁石10B、および渦電流式ギャップセンサ10Cを備えて構成される。
【0033】
ラジアル電磁石ターゲット10Aは、高透磁率材料の鋼板を積層した積層鋼板で形成してある。
【0034】
ラジアル電磁石10Bは、
図2のように、+X方向、−X方向、+Y方向、及び−Y方向にそれぞれ一つずつ計4組配置されていて、
図2に示す磁気軸受の制御装置20で制御された励磁電流により励磁され、ラジアル電磁石ターゲット10Aを通じてロータ軸5を径方向に磁力で吸引する。
【0035】
なお、以下の説明では、説明の便宜上、前記4組のラジアル電磁石10Bのうち、X軸上ラジアル電磁石、具体的には+X方向に位置するラジアル電磁石を「+X電磁石」といい、−X方向に位置するラジアル電磁石を「−X電磁石」という。また、Y軸上ラジアル電磁石、具体的には+Y方向に位置するラジアル電磁石を「+Y電磁石」といい、−Y方向に位置するラジアル電磁石を「−Y電磁石」という。
【0036】
渦電流式ギャップセンサ10Cは、+X方向、−X方向、+Y方向、及び−Y方向にそれぞれ一つずつ計4組配置されていて、その配置位置からロータ軸5までのギャップを検出する。検出値は
図2に示す磁気軸受の制御装置20に出力される。
【0037】
なお、以下の説明では、説明の便宜上、前記4組の渦電流式ギャップセンサ10Cのうち、X軸上渦電流式ギャップセンサ、具体的には+X方向に位置する渦電流式ギャップセンサを「+Xセンサ」といい、−X軸方向に位置する渦電流式ギャップセンサを「−Xセンサ」という。また、+Y方向に位置する渦電流式ギャップセンサを「+Yセンサ」といい、−Y方向に位置する渦電流式ギャップセンサを「−Yセンサ」という。
【0038】
《アキシャル磁気軸受の詳細構成》
アキシャル磁気軸受11は、ロータ軸5の下端部外周に取り付けた円盤形状のアーマチュアディスク11Aと、アーマチュアディスク11Aを挟んで上下に対向するアキシャル電磁石11Bと、ロータ軸5の下端面から少し離れた位置に設置したアキシャル方向変位センサ11Cとを備えて構成される。アーマチュアディスク11Aは透磁率の高い材料からなり、上下のアキシャル電磁石11Bはアーマチュアディスク11Aをその上下方向から磁力で吸引するようになっている。アキシャル方向変位センサ11Cはロータ軸5の軸方向変位を検出する。そして、アキシャル方向変位センサ11Cでの検出値(ロータ軸5の軸方向変位)に基づき上下のアキシャル電磁石11Bの励磁電流を制御することによって、ロータ軸5は軸方向所定位置に磁力で浮上支持される。
【0039】
ステータコラム4の外側にはロータ6が設けられている。このロータ6は、ステータコラム4の外周を囲む円筒形状であって、ロータ軸5に一体化されている。このような一体化の構造例として、
図1の排気ポンプPでは、ロータ6の端面部中心にボス孔7を設けるとともに、ロータ軸5の上端部外周に段状の肩部(以下「ロータ軸肩部9」という)を形成している。そして、ロータ軸肩部9より上のロータ軸5先端部を前記ロータ軸5端面部のボス孔7に嵌め込み、かつ、ロータ軸5端面部とロータ軸肩部9とをボルトで固定することにより、ロータ6とロータ軸5は一体化している。
【0040】
前記ロータ6は、ロータ軸5を介してラジアル磁気軸受10、10及びアキシャル磁気軸受11で、その軸心(ロータ軸5)周りに回転可能に浮上支持される。従って、
図1の排気ポンプPでは、ロータ軸5、ラジアル磁気軸受10、10、及びアキシャル磁気軸受11が、ロータ6をその軸心周りに回転可能に支持する支持手段として機能する。またロータ6はロータ軸5と一体に回転するので、ロータ軸5を回転駆動する駆動モータ12がロータ6を回転駆動する駆動手段として機能する。
【0041】
《磁気軸受の制御装置の詳細構成》
磁気軸受の制御装置20は、制御対象であるロータ軸5と磁気軸受の+Xセンサ及び−Xセンサによる+X方向と−X方向の2つのギャップ値の差分を演算し、その差分とX方向ギャップ補正値を基準とし+X電磁石と−X電磁石の励磁電流を制御すること、及び、+Yセンサと−Yセンサの検出値とこれらに対応する+Y方向、−Y方向のギャップ値の差分を演算し、その差分とY方向ギャップ補正値を基準とし+Y電磁石と−Y電磁石の励磁電流を制御することにより、ロータ軸5を磁力で浮上支持するように制御している。通常、初期浮上位置は、X方向ギャップ補正値とY方向ギャップ補正値は0として、浮上支持するように電磁石は制御される。
【0042】
本実施形態の排気ポンプPでも、その工場出荷時等、実際に排気ポンプPをユーザー装置に組み込んで使用する以前に、ロータ軸5が保護ベアリングB1、B2の中心で回転するように初期調整を行っている。以下、この初期調整について説明する。
【0043】
前述した磁気軸受の制御装置20は、マイクロコンピュータ等の数値処理装置で構成されていて、
図3に示す初期調整のフローチャートの実行により、下記第1から第5の機能を発揮するように構成してある。
【0044】
第1の機能:
第1の機能は、ロータ軸5のX軸方向可動限界位置を検出する機能である。
【0045】
第2の機能:
第2の機能は、第1の機能で検出したX軸方向可動限界位置を基にX軸上渦電流式ギャップセンサ10CのX軸上可動範囲とその中心(ラジアル磁気軸受のX軸上可動範囲中心)を特定する機能である。
【0046】
第3の機能:
第3の機能は、ロータ軸5のY軸方向可動限界位置を検出する機能である。
【0047】
第4の機能:
第4の機能は、第3の機能で検出したY軸方向可動限界位置を基にY軸上渦電流式ギャップセンサ10CのY軸上可動範囲とその中心(ラジアル磁気軸受のY軸上可動範囲中心)を特定する機能である。
【0048】
第5の機能:
第5の機能は、第1の機能による検出時及び第2の機能による特定時は、Y軸上電磁石10B(+Y電磁石と−Y電磁石)の励磁電流をOFFにし、第3の機能による検出時及び第4の機能による特定時は、X軸上電磁石10B(+X電磁石と−X電磁石)の励磁電流をOFFにする機能である。
【0049】
次に、
図3に示す初期調整のフローチャートを説明する。
【0050】
図3に示す初期調整のフローチャートは、本制御装置20の図示しない初期調整開始ボタンの押下等により開始される。フローチャートの開始により、最初に、制御装置20では、+X電磁石と−X電磁石(X軸上ラジアル電磁石)の励磁電流をON(通電)の状態とし、+X電磁石と−X電磁石の励磁電流の制御を開始することにより、ラジアル磁気軸受10におけるロータ軸5のX軸方向浮上位置制御が行われるようにする(ステップ101)。この一方で、制御装置20は、+Y電磁石と−Y電磁石(Y軸上ラジアル電磁石)の励磁電流をOFF(非通電)の状態とし、+Y電磁石と−Y電磁石の励磁電流の制御を停止することにより、ラジアル磁気軸受10におけるロータ軸5のY軸方向浮上位置制御は行われないようにする(ステップ102)。
【0051】
次に、制御装置20では、初期ギャップ補正値0の位置から、+X電磁石に流れる励磁電流を増やし、−Xの電磁石に流れる励磁電流を減らすことにより、+X電磁石10Bでロータ軸5を+X方向に引っ張る(ステップ103)。
【0052】
そして、引っ張られたロータ軸5が保護ベアリングB1、B2の内輪の内周円弧面に接触した時点で、+Xと−Xセンサの検出値を読み取り、読み取った検出値に基づいてロータ軸5の+X軸方向可動限界位置を特定する(ステップ104)。この場合、ロータ軸5が保護ベアリングB1、B2の内輪の内周円弧面に接触した後は+Xと−Xセンサの検出値が変化しなくなる(飽和状態になる)ので、かかる検出値の変化量を監視することにより、ロータ軸5が接触したか否かを判定し、接触と判定したときの+Xと−Xセンサの検出値に基づいて当該ロータ軸5の+X軸方向可動限界位置を特定してもよい。
【0053】
その後、制御装置20では、−X電磁石に流れる電流値を増やし、+Xの電磁石に流れる電流値を減らすことにより、−X電磁石10Bでロータ軸5を−X方向に引っ張る(ステップ105)。
【0054】
そして、引っ張られたロータ軸5が保護ベアリングB1、B2の内輪の内周円弧面に接触した時点で、+Xと−Xセンサの検出値を読み取り、読み取った検出値に基づいてロータ軸5の−X軸方向可動限界位置を特定する(ステップ106)。この−X軸方向可動限界位置の特定は先に説明した+X軸方向可動限界位置と同様の方式で特定してよい。
【0055】
以上のようにして+X軸方向可動限界位置と−X軸方向可動限界位置の特定が完了したら、次に、制御装置20では、その+X軸方向可動限界位置から−X軸方向可動限界位置までの範囲をX軸上可動範囲として特定し、かつ、これら可動限界位置の中点をX軸上渦電流式ギャップセンサ10CのX軸上可動範囲の中心(ラジアル磁気軸受のX軸上可動範囲の中心)としてX方向ギャップ補正値を算出特定する。X方向ギャップ補正値は、制御装置20の記憶メモリ(図示省略)に格納される(ステップ107)。
【0056】
次のステップ108では、前記ステップ107でX軸上可動範囲の中心を特定できたか否かを判定し、特定できなかった場合は、ステップ103に戻って、X軸上可動範囲の中心の算出特定を再試行する(ステップ108のNo)。一方、前記ステップ107でX軸上可動範囲の中心を特定できた場合には、前記ステップ107で格納した記憶メモリ内のX方向ギャップ補正値でX軸上可動範囲の中心にロータ軸5が回転するようにX軸上電磁石10Bの励磁電流を制御する。これにより、ロータ軸5はその特定したX軸上可動範囲の中心(ラジアル磁気軸受のX軸上中心)に浮上支持される(ステップ108のYes、ステップ109)。
【0057】
更に続けて、制御装置20では、+Y電磁石と−Y電磁石(Y軸上ラジアル電磁石)の励磁電流をONの状態とし、+Y電磁石と−Y電磁石の励磁電流の制御を開始することにより、ラジアル磁気軸受10におけるロータ軸5のY軸方向浮上位置制御が行われるようにする(ステップ110)。この一方で、制御装置20は、+X電磁石と−X電磁石(X軸上ラジアル電磁石)の励磁電流をOFFの状態とし、+X電磁石と−X電磁石の励磁電流の制御を停止することにより、ラジアル磁気軸受10におけるロータ軸5のX軸方向浮上位置制御は行われないようにする(ステップ111)。
【0058】
次に、制御装置20では、初期ギャップ補正値0の位置から、+Y電磁石10Bに流れる励磁電流を増やし、−Yの電磁石10Bに流れる励磁電流を減らすことにより、+Y電磁石10Bでロータ軸5を+Y方向に引っ張る(ステップ112)。
【0059】
そして、引っ張られたロータ軸5が保護ベアリングB1、B2の内輪の内周円弧面に接触した時点で、+Yと−Yセンサの検出値を読み取り、読み取った検出値に基づいてロータ軸5の+Y軸方向可動限界位置を特定する(ステップ113)。この+Y軸方向可動限界位置の特定は先に説明した+X軸方向可動限界位置と同様の方式で特定できる。
【0060】
次に、制御装置20では、−Y電磁石10Bに流れる励磁電流を増やし、+Yの電磁石10Bに流れる励磁電流を減らすことにより、−Y電磁石10Bでロータ軸5を−Y方向に引っ張る(ステップ114)。
【0061】
そして、引っ張られたロータ軸5が保護ベアリングB1、B2の内輪の内周円弧面に接触した時点で、+Yと−Yセンサの検出値を読み取り、読み取った検出値に基づいてロータ軸5の
−Y軸方向可動限界位置を特定する(ステップ115)。この−Y軸方向可動限界位置の特定は先に説明した+X軸方向可動限界位置と同様の方式で特定できる。
【0062】
以上のようにして+Y軸方向可動限界位置と−Y軸方向可動限界位置の特定が完了したら、次に、制御装置20では、その+Y軸方向可動限界位置から−Y軸方向可動限界位置までの範囲をY軸上可動範囲として特定し、かつ、これら可動限界位置の中点をY軸上渦電流式ギャップセンサ10CのY軸上可動範囲の中心(ラジアル磁気軸受のY軸上可動範囲の中心)としてY方向ギャップ補正値を算出特定する。Y方向ギャップ補正値は制御装置20の記憶メモリ(図示省略)に格納される(ステップ116)。
【0063】
そして、次のステップ117では、前記ステップ116でY軸上可動範囲の中心を特定できたか否かを判定し、特定できなかった場合は、ステップ112に戻って、Y軸上可動範囲の中心の算出特定を再試行する(ステップ117のNo)。一方、前記ステップ117でY軸上可動範囲の中心を特定できた場合には、前記ステップ116で格納した記憶メモリ内のY方向ギャップ補正値でY軸上可動範囲の中心にロータ軸5が回転するようにY軸上電磁石10Bの励磁電流を制御する。これにより、ロータ軸5はその特定したY軸上可動範囲の中心(ラジアル磁気軸受のY軸上中心)に浮上支持される(ステップ117のYes、ステップ118)。
【0064】
その後のステップ119では、+Y電磁石と−Y電磁石(Y軸上ラジアル電磁石)の励磁電流のON(通電)状態を維持したまま、+X電磁石と−X電磁石(X軸上ラジアル電磁石)の励磁電流をON(通電)の状態とし、前記ステップ107で格納した記憶メモリ(図示省略)内のX方向ギャップ補正値でX軸上可動範囲の中心にロータ軸5が回転するようにX軸上電磁石10Bの励磁電流を制御する。これにより、ロータ軸5はX軸上可動範囲の中心とY軸上可動範囲の中心で回転するように浮上支持される。この時点でロータ軸5の回転に異常がないなら本フローチャートによる初期調整が完了し、排気ポンプPは出荷待ちになる、又は、他の初期調整作業に移行できる。
【0065】
《翼排気部Ptの詳細構成》
図1の排気ポンプPでは、ロータ6の略中間より上流(ロータ6の略中間からロータ6のガス吸気口2側端部までの範囲)が翼排気部Ptとして機能する。以下この翼排気部Ptを詳細に説明する。
【0066】
ロータ6の略中間より上流側のロータ6外周面には回転翼13が一体に複数設けられている。これら複数の回転翼13は、ロータ6の回転軸心(ロータ軸5)若しくは外装ケース1の軸心(以下「ポンプ軸心」という)を中心として放射状に並んでいる。一方、ポンプケース1Aの内周面側には固定翼14が複数設けられており、これらの固定翼14は、ポンプ軸心を中心として放射状に並んで配置されている。そして、上記回転翼13と固定翼14とがポンプ軸心に沿って交互に多段に配置されることによって翼排気部Ptを形成している。
【0067】
いずれの回転翼13も、ロータ6の外径加工部と一体的に切削加工で切り出し形成したブレード状の切削加工品であって、気体分子の排気に最適な角度で傾斜している。いずれの固定翼14もまた、気体分子の排気に最適な角度で傾斜している。
【0068】
《翼排気部Ptによる排気動作説明》
以上の構成からなる翼排気部Ptでは、駆動モータ12の起動により、ロータ軸5、ロータ6および複数の回転翼13が一体に高速回転し、最上段の回転翼13がガス吸気口2から入射した気体分子に下向き方向の運動量を付与する。この下向き方向の運動量を有する気体分子が固定翼14によって次段の回転翼13側へ送り込まれる。以上のような気体分子への運動量の付与と送り込み動作とが繰り返し多段に行われることにより、ガス吸気口2側の気体分子はロータ6の下流に向かって順次移行するように排気される。
【0069】
《ネジ溝排気部Psの詳細構成》
図1の排気ポンプPでは、ロータ6の略中間より下流(ロータ6の略中間からロータ6のガス排気口3側端部までの範囲)がネジ溝排気部Psとして機能する。以下このネジ溝排気部Psを詳細に説明する。
【0070】
ロータ6の略中間より下流側のロータ6外周面は、ネジ溝排気部Psの回転部材として回転する部分であって、円筒形のネジ溝排気部ステータ18内に所定のギャップを介して挿入・収容されている。
【0071】
ネジ溝排気部ステータ18は、ネジ溝排気部Psの筒形固定部材として、ロータ6の外周(ロータ6の略中間より下流の部分)を囲む形状になっており、その内周部には、深さが下方に向けて小径化したテーパコーン形状に変化するネジ溝19を形成してある。ネジ溝19は、ネジ溝排気部ステータ18の上端から下端にかけて螺旋状に刻設してあり、このようなネジ溝19とロータ6の外周面とにより、ロータ6とネジ溝排気部ステータ18との間には、螺旋状のネジ溝排気通路Sが設けられる。尚、ネジ溝排気部ステータ18はその下端部がポンプベース1Bで支持されるようになっている。
【0072】
図示は省略するが、先に説明したネジ溝19をロータ6の内周面に形成することで、前記のようなネジ溝排気通路Sが設けられるように構成してもよい。
【0073】
ネジ溝排気部Psでは、ネジ溝19とロータ6の外周面でのドラッグ効果により気体を圧縮しながら移送するため、ネジ溝19の深さは、ネジ溝排気通路Sの上流入口側(ガス吸気口2に近い方の通路開口端)で最も深く、その下流出口側(ガス排気口3に近い方の通路開口端)で最も浅くなるように設定してある。
【0074】
ネジ溝排気通路Sの上流入口は、多段に配置されている回転翼13のうち最下段の回転翼
13若しくは固定翼
14(図1の例では最下段の固定翼14)に向って開口しており、同通路Sの下流出口は、ガス排気口3側に連通するように構成してある。
【0075】
《ネジ溝排気部Psにおける排気動作説明》
先に説明した翼排気部Ptの排気動作による移送で最下段の回転翼
13若しくは固定翼
14に到達した気体分子は、それらに向かって開口しているネジ溝排気通路Sの上流入口から同ネジ溝排気通路Sに移行する。移行した気体分子は、ロータ6の回転によって生じる効果、すなわち、ロータ6の外周面とネジ溝19でのドラッグ効果によって、遷移流から粘性流に圧縮されながらガス排気口3に向って移行し、最終的に図示しない補助ポンプを通じて外部へ排気される。
【0076】
以上説明した本実施形態の排気ポンプPにあっては、磁気軸受の制御装置20の具体的な構成として、第1の機能によるX軸方向可動限界位置の検出時及び第2の機能によるX軸上可動範囲の特定時は、+Y電磁石と−Y電磁石(Y軸上電磁石10B)の励磁電流をOFFにし、第3の機能によるY軸方向可動限界位置の検出時及び第4の機能によるY軸上可動範囲の特定時は、+X電磁石と−X電磁石(X軸上電磁石10B)の励磁電流をOFFにする機能を採用した。このため、例えば、保護ベアリングB1、B2の内輪の内周円弧面に向ってロータ軸5を引っ張って接触させることによりロータ軸5のX軸方向可動限界値を検出する際に、Y軸上渦電流式ギャップセンサ10CのY軸上可動範囲の中心と保護ベアリングB1、B2の中心とが一致していない場合でも、+Y電磁石と−Y電磁石の励磁電流がOFFとされることによってロータ軸5のY軸方向浮上位置制御は行われない。従って、従来のような発振現象は効果的に抑制され、X軸上可動範囲やその中心、及びY軸上可動範囲やその中心を特定でき、X軸上可動範囲やY軸上可動範囲を特定できずロータ軸を保護ベアリングの中心位置に浮上出来ないために初期調整不良として排気ポンプPが出荷停止となるような事態も回避できる。