(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記接地電極のうち前記挿入工程において前記チューブに挿入される部位の少なくとも一部は、前記接地電極の中心軸と直交する断面において矩形状をなすことを特徴とする請求項1に記載の点火プラグの製造方法。
前記チューブ変形工程において、前記内周空間の投影領域が矩形状又は楕円形状をなすように前記チューブを変形させることを特徴とする請求項2に記載の点火プラグの製造方法。
前記挿入工程において、前記チューブに対する前記接地電極の挿入時に、前記接地電極の中心軸と前記チューブの中心軸とを一致させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の点火プラグの製造方法。
【背景技術】
【0002】
点火プラグは、内燃機関(エンジン)等に取付けられ、燃焼室内における混合気等への着火のために用いられる。一般に点火プラグは、軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、前記軸孔の先端側に挿設される中心電極と、絶縁体の外周に設けられる主体金具と、主体金具の先端部に配置される接地電極とを備える。接地電極は、自身の中間部分において先端部が中心電極と対向するように曲げ返されており、接地電極の先端部と中心電極の先端部との間には火花放電間隙が形成される。
【0003】
ところで、主体金具や接地電極における耐食性の向上を図るべく、その表面にニッケルや亜鉛等を主成分とする金属からなるメッキ層を形成することがある。また、メッキ層を形成するにあたっては、接地電極の接合された主体金具に対してメッキ処理を施すことが一般的に行われる。この場合には、主体金具及び接地電極の表面全域にメッキ層が形成されることとなる。
【0004】
ところが、接地電極の表面全域にメッキ層が形成された状態で、接地電極を中心電極側へと屈曲させると、屈曲に伴いメッキ層が剥離してしまうおそれがある。メッキ層が剥離してしまうと、メッキ層の剥離部分と中心電極との間での火花放電(いわゆる横飛火)が生じてしまい、着火性が低下してしまうおそれがある。また、近年、耐消耗性や着火性の向上を図るという観点から、接地電極に対して耐消耗性に優れる金属からなるチップを接合することがあるが、接地電極におけるチップの接合予定部位にメッキ層が形成されていると、接地電極に対するチップの接合性が不十分となってしまうおそれがある。
【0005】
そこで、メッキ処理前に、接地電極(屈曲前であり、直棒状である)の先端部に筒状のチューブを装着し、接地電極の先端部にマスキングを施すことで、接地電極の少なくとも先端側がメッキ層で覆われないようにする手法が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。尚、チューブとしては、通常、熱収縮性を有するものが用いられ、接地電極に対する装着後にチューブを熱収縮させることで、接地電極の表面とチューブの内周面を密着させる。これにより、メッキ処理時等において、チューブが外れてしまったり、所定の位置からチューブがずれてしまったりすることが抑制されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、自動化された生産工程において、接地電極にチューブを装着する手法としては、チューブと接地電極と直列的に配置した上で、チューブに対して接地電極を接近移動させることにより、接地電極をチューブに挿入する手法が考えられる。しかしながら、当該手法においては、チューブに対して接地電極をより確実に挿入可能とすべく、チューブの内径を十分に大きくする必要がある。具体的には、チューブの内周空間をチューブの中心軸と直交する平面に投影した際における前記内周空間の投影領域の中心と、接地電極のうちチューブに挿入される部位を接地電極の中心軸と直交する平面に投影した際における接地電極の投影領域の中心とを一致させた状態で両投影領域を重ねたとき、接地電極の投影領域全てが内周空間の投影領域よりも内側に位置するように構成する必要がある。
【0008】
ところが、このように内径の大きなチューブを用いた場合には、熱収縮前において接地電極の表面とチューブの内周面との間に形成される隙間が非常に大きなものとなる。そして、このような大きな隙間が存在する状態で、熱収縮により接地電極とチューブとを密着させるためには、熱収縮性に非常に優れた材料からなるチューブを用いる必要があり、製造コストの増大を招いてしまうおそれがある。一方、熱収縮性がさほど高くないチューブでは、チューブを熱収縮させてもチューブ及び接地電極間に隙間が依然として存在することとなり、チューブの外れ等が発生しやすくなってしまう。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、製造コストの増大抑制を図りつつ、接地電極からのチューブの外れ等をより確実に防止することができる点火プラグの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
【0011】
構成1.本構成の点火プラグの製造方法は、表面にメッキ層が形成された主体金具と、
前記主体金具の先端部に配置された接地電極とを備える点火プラグの製造方法であって、
前記主体金具の先端部に、直棒状の前記接地電極が配置されてなる金具組立体を形成する組立体形成工程と、
筒状のチューブに対して前記金具組立体に設けられた前記接地電極を挿入し、前記接地電極をマスキングするマスキング工程と、
前記マスキング工程後において、前記金具組立体にメッキ処理を施すメッキ工程とを含み、
前記マスキング工程は、
前記チューブを変形させるチューブ変形工程と、
変形された前記チューブに対して前記接地電極を挿入する挿入工程とを有し、
前記チューブ変形工程では、
前記チューブの内周空間を前記チューブの中心軸と直交する平面に投影した際に前記内周空間の投影領域の周長が、前記接地電極のうち前記チューブに挿入される部位を前記接地電極の中心軸と直交する平面に投影した際の前記接地電極の投影領域の周長以上、かつ、前記接地電極の投影領域の中心と前記内周空間の投影領域の中心とを一致させた状態で両投影領域を重ねたとき、前記接地電極の投影領域の一部が前記内周空間の投影領域よりも外側に位置する形状の前記チューブを、
前記接地電極の投影領域の中心と前記内周空間の投影領域の中心とを一致させた状態で両投影領域を重ねたとき、前記接地電極の投影領域全てが前記内周空間の投影領域の内側に位置するように変形させ
、
前記チューブ変形工程においては、複数の割型チャックにより前記チューブを挟むことで、前記チューブを変形させることを特徴とする。
【0012】
上記構成1によれば、チューブは、変形前において、その内周空間の投影領域の周長が、接地電極の投影領域の周長以上であるものの、前記内周空間の投影領域と前記接地電極の投影領域を重ねたとき、接地電極の投影領域の一部が内周空間の投影領域よりも外側に位置するように構成されている。すなわち、チューブは、接地電極の形状に合わせて変形させた際には接地電極を挿入可能となるものの、非変形の状態では、接地電極を挿入不能である程度に小さな内径とされている。
【0013】
そして、上記構成1では、このように内径の小さなチューブを、接地電極の投影領域と内周空間の投影領域とを重ねたとき、接地電極の投影領域の全てが内周空間の投影領域の内側に位置するように(つまり、接地電極を挿入可能となる形状に)変形させた上で、変形させたチューブに対して接地電極が挿入される。従って、接地電極の挿入後においてチューブの変形を解除した際には、接地電極に対してチューブから径方向内側に向けた力が加わることとなる。そして、チューブを熱収縮させた際には、接地電極のうち前記チューブから力が加わる部位において、チューブとの間で生じる摩擦力を非常に大きくすることができる。その結果、接地電極からチューブが外れてしまったり、チューブが所定の位置からずれてしまったりすることをより確実に防止できる。
【0014】
また、上記構成1によれば、チューブに対する接地電極の挿入後において、接地電極の外表面とチューブの内周面との間に形成される隙間を小さなものとすることができる。従って、チューブとして熱収縮性のさほど高くない材料からなるものを用いた場合であっても、チューブを熱収縮させた際には、接地電極の外表面とチューブの内周面とをより確実に密着させることができる。これにより、チューブの内径が小さいことと相俟って、製造コストの増大抑制を図ることができる。
さらに、上記構成1によれば、複雑な装置を用いることなく、比較的簡素な装置により、チューブを変形させることができる。従って、製造コストの増大を一層効果的に抑制することができる。
【0015】
構成2.本構成の点火プラグの製造方法は、上記構成1において、前記接地電極のうち前記挿入工程において前記チューブに挿入される部位の少なくとも一部は、前記接地電極の中心軸と直交する断面において矩形状をなすことを特徴とする。
【0016】
上記構成2によれば、接地電極のうちチューブに挿入される部位の少なくとも一部は、断面矩形状とされている。従って、接地電極の挿入後においてチューブの変形を解除した際には、接地電極の4つの角部に対してチューブから径方向内側に向けた力が加わることとなる。そのため、チューブの外れ等をより確実に防止することができる。また、チューブを熱収縮させた際には、接地電極の外表面とチューブの内周面とが全体的に密着するが、接地電極の各角部において、チューブとの間でより大きな摩擦力を生じさせることができる。従って、チューブの外れ等を一層確実に防止することができる。
【0017】
構成3.本構成の点火プラグの製造方法は、上記構成2において、前記チューブ変形工程において、前記内周空間の投影領域が矩形状又は楕円形状をなすように前記チューブを変形させることを特徴とする。
【0018】
上記構成3によれば、接地電極の断面形状(矩形状)に合わせた形状にチューブを変形させる。従って、チューブに対する接地電極の挿入をより容易に行うことができ、生産性の向上を図ることができる。
【0019】
構成4.本構成の点火プラグの製造方法は、上記構成1乃至3のいずれかにおいて、前記挿入工程において、前記チューブに対する前記接地電極の挿入時に、前記接地電極の中心軸と前記チューブの中心軸とを一致させることを特徴とする。
【0020】
上記構成4によれば、チューブに対する接地電極の挿入をより円滑に行うことができ、生産性を一層向上させることができる。
【0023】
構成
5.本構成の点火プラグの製造方法は、上記構成
1乃至4のいずれかにおいて、前記割型チャックは、前記チューブを挟んで対向する第1チャック部及び第2チャック部を備え、
前記両チャック部は、前記チューブを変形させる際に前記チューブに接触するチューブ接触面を有し、
前記両チャック部の少なくとも一方のチャック部は、前記チューブ接触面よりも他方のチャック部側に突出し、前記チューブを変形させる際に前記他方のチャック部に接触する過変形規制部を具備することを特徴とする。
【0024】
上記構成
5によれば、第1チャック部及び第2チャック部のうちの少なくとも一方には、過変形規制部が設けられている。従って、両チャック部により挟み込むことでチューブを変形させる際に、チューブが過度に潰れ変形してしまうことをより確実に防止でき、チューブを安定的に一定の形状に変形させることができる。その結果、チューブに対する接地電極の挿入を一層円滑に行うことができ、生産性の更なる向上を図ることができる。
【0025】
また、過変形規制部は、単なる突出部分により構成されるため、製造コストの増大を特に招くことなく、前述の作用効果を得ることができる。
【0026】
構成
6.本構成の点火プラグの製造方法は、上記構成1乃至
5のいずれかにおいて、前記チューブ変形工程において、前記チューブの中心軸と直交する方向に沿って力を加えることにより、前記チューブを変形させることを特徴とする。
【0027】
上記構成
6によれば、チューブをより容易に変形させることができ、生産性を一層向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、点火プラグ1の一部破断正面図である。尚、
図1では、点火プラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側を点火プラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
【0030】
点火プラグ1は、筒状をなす絶縁碍子2、これを保持する筒状の主体金具3などから構成されるものである。
【0031】
絶縁碍子2は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成されており、その外形部において、後端側に形成された後端側胴部10と、当該後端側胴部10よりも先端側において径方向外向きに突出形成された大径部11と、当該大径部11よりも先端側においてこれよりも細径に形成された中胴部12と、当該中胴部12よりも先端側においてこれよりも細径に形成された脚長部13とを備えている。加えて、絶縁碍子2のうち、大径部11、中胴部12、及び、大部分の脚長部13は、主体金具3の内部に収容されている。そして、中胴部12と脚長部13との連接部にはテーパ状の段部14が形成されており、当該段部14にて絶縁碍子2が主体金具3に係止されている。
【0032】
さらに、絶縁碍子2には、軸線CL1に沿って軸孔4が貫通形成されており、当該軸孔4の先端側には中心電極5が挿設されている。中心電極5は、熱伝導性に優れる金属〔例えば、銅や銅合金、純ニッケル(Ni)等〕からなる内層5Aと、Niを主成分とする合金からなる外層5Bとを備えている。さらに、中心電極5は、全体として棒状(円柱状)をなし、絶縁碍子2の先端から突出している。加えて、耐消耗性の向上を図るべく、中心電極5の先端部には、所定の金属〔例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、レニウム(Re)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、又は、これらの少なくとも一種を主成分とする合金など〕からなる円柱状のチップ31が接合されている。
【0033】
また、軸孔4の後端側には、絶縁碍子2の後端から突出した状態で端子電極6が挿入、固定されている。
【0034】
さらに、軸孔4の中心電極5と端子電極6との間には、円柱状の抵抗体7が配設されている。当該抵抗体7の両端部は、導電性のガラスシール層8,9を介して、中心電極5と端子電極6とにそれぞれ電気的に接続されている。
【0035】
加えて、前記主体金具3は、低炭素鋼等の金属により形成されており、軸線CL1方向に延びる筒状をなしている。また、主体金具3の先端側外周には点火プラグ1を燃焼装置(例えば、内燃機関や燃料電池改質器等)の取付孔に取付けるためのねじ部(雄ねじ部)15が形成されている。さらに、ねじ部15よりも後端側には径方向外側に突出する座部16が形成され、ねじ部15後端のねじ首17にはリング状のガスケット18が嵌め込まれている。加えて、座部16よりも後端側には、点火プラグ1を燃焼装置に取付ける際に所定の工具が係合される断面六角形状の工具係合部19が設けられている。また、主体金具3のうち工具係合部19よりも後端側には、絶縁碍子2を保持するための加締め部20が径方向内側に向けて屈曲形成されている。
【0036】
さらに、主体金具3の内周面には、絶縁碍子2を係止するためのテーパ状の段部21が設けられている。そして、絶縁碍子2は、主体金具3に対してその後端側から先端側に向かって挿入され、自身の段部14が主体金具3の段部21に係止された状態で、主体金具3の後端側開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって主体金具3に固定されている。尚、段部14,21間には、円環状の板パッキン22が介在されている。これにより、燃焼室内の気密性を保持し、燃焼室内に晒される絶縁碍子2の脚長部13と主体金具3の内周面との隙間に入り込む燃料ガスが外部に漏れないようになっている。
【0037】
さらに、加締めによる密閉をより完全なものとするため、主体金具3の後端側においては、主体金具3と絶縁碍子2との間に環状のリング部材23,24が介在され、リング部材23,24間にはタルク(滑石)25の粉末が充填されている。すなわち、主体金具3は、板パッキン22、リング部材23,24及びタルク25を介して絶縁碍子2を保持している。
【0038】
また、主体金具3の先端部26には、自身の中間部分にて屈曲され、先端部側面が中心電極5の先端部(チップ31)と対向する接地電極27が接合されている。接地電極27は、Ni合金〔例えば、インコネル600やインコネル601(いずれも登録商標)〕により形成された外層27Aと、前記Ni合金よりも良熱導電性金属である銅合金や純銅等により形成された内層27Bとから構成されている。尚、本実施形態において、接地電極27のうち、少なくとも後述するマスキング工程においてチューブ51に挿入される部位の少なくとも一部(本実施形態では、接地電極27の全域)は、接地電極27の中心軸CL2(
図2参照)と直交する断面において矩形状をなすように構成されている。
【0039】
加えて、耐消耗性の向上を図るべく、接地電極27の先端部には、抵抗溶接により、所定の金属(例えば、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、W、Pd、又は、これらの少なくとも一種を主成分とする合金など)からなる円柱状のチップ32が接合されている。そして、中心電極5の先端部(チップ31)及び接地電極27の先端部(チップ32)間には、火花放電間隙33が形成されており、当該火花放電間隙33において軸線CL1にほぼ沿った方向で火花放電が行われるようになっている。
【0040】
また、
図2(
図2では、図示の便宜上、メッキ層35を実際よりも厚く示している)に示すように、主体金具3の表面全域、及び、接地電極27の基端部表面には、Niを主成分とする金属からなるメッキ層35が設けられている(尚、「主成分」とあるのは、材料中、最も質量比の高い成分を指すものである)。メッキ層35は、接地電極27の先端側にマスキングを施した上で、主体金具3及び接地電極27に対してメッキ処理を施すことにより形成されている(メッキ層35の形成工程については、後に詳述する)。
【0041】
尚、接地電極27のうち、その先端からその屈曲部分を越えた位置までの表面は、メッキ層35で覆われておらず、母材が露出する母材露出部27Rとなっている。そして、チップ32は、母材露出部27Rに対して溶接されている。そのため、接地電極27に対するチップ32の溶接強度が良好なものとなっており、接地電極27からのチップ32の剥離(脱落)防止が図られている。また、接地電極27の屈曲部分の表面は母材露出部27Rとなっているため、接地電極27を屈曲させる際におけるメッキ被膜の剥離防止が図られている。
【0042】
次に、上記のように構成されてなる点火プラグ1の製造方法について説明する。
【0043】
まず、組立体形成工程において、
図3に示すように、主体金具3及び接地電極27を有する金具組立体41を予め作製しておく。すなわち、円柱状の金属素材(例えばS17CやS25Cといった鉄系素材やステンレス素材)を冷間鍛造加工により貫通孔を形成し、概形を製造する。その後、切削加工を施すことで外形を整え、主体金具中間体を得る。続いて、主体金具中間体の先端面に、Ni合金等からなる直棒状の接地電極27を抵抗溶接する。当該溶接に際してはいわゆる「ダレ」が生じるので、その「ダレ」を除去した後、主体金具中間体の所定部位にねじ部15が転造によって形成される。これにより、主体金具3の先端部に直棒状の接地電極27が配置されてなる金具組立体41が形成される。
【0044】
次いで、マスキング工程において、弾性変形可能な熱収縮性樹脂からなる円筒状のチューブ51により接地電極27の先端側をマスキングする。
【0045】
尚、チューブ51としては、次の形状のものが用いられる。すなわち、
図4及び
図5(図示の便宜上、
図5では、主体金具3の図示を省略している)に示すように、チューブ51の内周空間51Nをチューブ51の中心軸CL3と直交する平面VS1に投影した際の前記内周空間51Nの投影領域51NX(
図4中、散点模様を付した部位)の周長が、接地電極27のうちチューブ51に挿入される部位を接地電極27の中心軸CL2と直交する平面に投影した際の接地電極27の投影領域27X(
図5中、斜線を付した部位)の周長以上となっている。また、チューブ51は、自身が非変形の状態において、
図6に示すように、前記接地電極27の投影領域27X(
図6中、斜線を付した部位)の中心CP1と前記内周空間51Nの投影領域51NX(
図6中、散点模様を付した部位)の中心CP2とを一致させた状態で両投影領域27X,51NXを重ねたとき、接地電極27の投影領域27Xの一部が内周空間51Nの投影領域51NXよりも外側に位置する形状となっている。すなわち、チューブ51は、自身が非変形の状態では接地電極27を挿入することができず、自身を接地電極27の形状に合わせて変形させることによって、接地電極27を挿入可能な形状となっている。尚、チューブ51は、次述する挿入工程において切断されることにより所定の長さとされ、チューブ変形工程においては、所定の供給装置(図示せず)から送り出された状態の長尺状となっている。
【0046】
また、上述した形状のチューブ51が用いられるため、マスキング工程においては、まず、チューブ変形工程において、チューブ51を変形させる。チューブ変形工程においては、
図7(a),(b)に示すように、第1チャック部101及び第2チャック部102を備えた、複数の割型チャックからなるチャック機構100によりチューブ51を変形させる。
【0047】
ここで、第1チャック部101及び第2チャック部102は、チューブ51を挟んで対向する位置に設けられており、お互いに接離移動可能である。また、第1チャック部101及び第2チャック部102は、チューブ51を変形させる際にチューブ51の外周面に接触する平坦状のチューブ接触面101A,102Aをそれぞれ有している。さらに、第1チャック部101は、自身のチューブ接触面101Aよりも第2チャック部102側に突出し、チューブ51を変形させる際に第2チャック部102に接触する過変形規制部101Bを備えている。また、第2チャック部102は、自身のチューブ接触面102Aよりも第1チャック部101側に突出し、チューブ51を変形させる際に第1チャック部101に接触する過変形規制部102Bを備えている。
【0048】
製造方法の説明に戻り、チューブ変形工程では、両チャック部101,102によりチューブ51の外周面を挟むとともに、チューブ51の中心軸CL3と直交する方向に沿った力を両チャック部101,102からチューブ51に加えることにより、チューブ51を変形させる。このとき、
図8に示すように、両チャック部101,102により挟み込むことで、内周空間51Nの投影領域51NXが矩形状又は楕円形状(本実施形態では、楕円形状)をなすように、チューブ51を変形させる。また、
図9に示すように、前記接地電極27の投影領域27X(
図9中、斜線を付した部位)の中心CP1と前記内周空間51Nの投影領域51NX(
図9中、散点模様を付した部位)の中心CP2とを一致させた状態で両投影領域27X,51NXを重ねたとき、接地電極27の投影領域27X全てが内周空間51Nの投影領域51NXの内側に位置するように、チューブ51を変形させる。すなわち、チューブ51に対して接地電極27を挿入可能となるようにチューブ51を変形させる。
【0049】
次いで、挿入工程において、変形されたチューブ51に対して接地電極27が挿入される。具体的には、
図10(a)(
図10及び
図11では、主体金具3の図示を省略している)に示すように、接地電極27を一対のチャック111,112で保持するとともに、接地電極27の中心軸CL2とチューブ51の中心軸CL3とを一致させる。その上で、
図10(b)に示すように、前記中心軸CL2,CL3方向に沿ってチューブ51に対して接地電極27(主体金具3)を接近移動させることにより、チューブ51に対して接地電極27の先端部を挿入する。次いで、
図11(a)に示すように、前記チャック11,112による接地電極27の保持を解除した上で、
図11(b)に示すように、前記中心軸CL2,CL3に沿って接地電極27(主体金具3)をさらに移動させることにより、チューブ51に接地電極27を挿入する。挿入後、接地電極27の先端が挿入されている位置よりも若干先端側においてチューブ51を切断することで、
図12に示すように、金具組立体41の接地電極27にチューブ51が装着される。尚、挿入工程においては、少なくともチューブ51に対する接地電極27の挿入時に、接地電極27の中心軸CL2とチューブ51の中心軸CL3とが一致していればよい。
【0050】
挿入工程の後、両チャック部101,102を離間させ、チャック機構100によるチューブ51の変形を解除する。その後、チューブ51を加熱・乾燥させることで、チューブ51を熱収縮させる。これにより、接地電極27の表面にチューブ51の内周面が密着することとなる。
【0051】
次いで、メッキ工程において、バレルメッキ法により、チューブ51の装着された金具組立体41に対してメッキ処理が施される。メッキ処理に際しては、硫酸ニッケル(NiSO
4)や塩化ニッケル(NiCl
2)、ホウ酸(H
3BO
3)を含む酸性(pHが3.7±0.5程度)のメッキ用水溶液が貯留されたメッキ槽と、壁面が網や穴開き板などにより形成され、前記メッキ用水溶液の液中に浸漬される保持容器とを備えたバレルメッキ装置(図示せず)が用いられる。具体的には、前記保持容器に金具組立体41を収容し、金具組立体41をメッキ用水溶液中に浸漬する。そして、所定のモータにより前記保持容器を回転させながら、金具組立体41に対して所定の通電時間に亘って直流電流を流す。これにより、主体金具3の表面全域、及び、接地電極27の基端部(チューブ51に挿入されていない部位)の表面にメッキ層35が形成される。尚、耐食性向上を図るべく、メッキ層35の表面に、さらにクロメート処理を施すこととしてもよい。
【0052】
メッキ工程後、チューブ51が接地電極27から取外された上で、金具組立体41に対して洗浄及び乾燥処理が施される。
【0053】
次いで、前記金具組立体41とは別に、絶縁碍子2を成形加工しておく。例えば、アルミナを主体としバインダ等を含む原料粉末を用い、成型用素地造粒物を調製し、これを用いてラバープレス成形を行うことで、筒状の成形体が得られる。そして、得られた成形体に研削加工を施すことで整形し、整形したものを焼成炉へ投入し焼成されることで絶縁碍子2が得られる。
【0054】
また、絶縁碍子2とは別に中心電極5を製造しておく。すなわち、中央部に放熱性向上を図るための銅合金等を配置したNi合金を鍛造加工して中心電極5を作製する。さらに、レーザー溶接により、中心電極5の先端部にチップ31を接合する。
【0055】
そして、上記のようにして得られた絶縁碍子2及び中心電極5と、抵抗体7と、端子電極6とが、ガラスシール層8,9によって封着固定される。ガラスシール層8,9としては、一般的にホウ珪酸ガラスと金属粉末とが混合されて調製されており、当該調製されたものが抵抗体7を挟むようにして絶縁碍子2の軸孔4内に充填された後、後方から前記端子電極6で押圧しつつ、焼成炉内にて加熱することにより焼き固められる。尚、このとき、絶縁碍子2の後端側胴部10の表面には釉薬層が同時に焼成されることとしてもよいし、事前に釉薬層が形成されることとしてもよい。
【0056】
その後、上記のようにそれぞれ作製された中心電極5及び端子電極6を備える絶縁碍子2と、金具組立体41の主体金具3とが組付けられる。より詳しくは、主体金具3に対して、その後端側開口から絶縁碍子2を挿入した上で、主体金具3の後端部を軸線CL1方向に沿って押圧し、前記後端部を径方向内側に向けて屈曲させること(すなわち、加締め部20を形成すること)により、絶縁碍子2と主体金具3とが固定される。
【0057】
次いで、接地電極27の先端部に、チップ32が抵抗溶接される。そして最後に、接地電極27を屈曲させることで、中心電極5の先端部(チップ31)と接地電極27の先端部(チップ32)との間に火花放電間隙33を形成するとともに、火花放電間隙33の大きさを調節することで、上述の点火プラグ1が得られる。
【0058】
以上詳述したように、本実施形態によれば、内径の小さなチューブ51を、接地電極27を挿入可能となる形状に変形させた上で、変形させたチューブ51に対して接地電極27が挿入される。従って、接地電極27の挿入後においてチューブ51の変形を解除した際には、接地電極27に対してチューブ51から径方向内側に向けた力が加わることとなる。そして、チューブ51を熱収縮させた際には、接地電極27のうち前記チューブ51から力が加わる部位において、チューブ51との間で生じる摩擦力を非常に大きくすることができる。その結果、メッキ工程等において、接地電極27からチューブ51が外れてしまったり、チューブ51が所定の位置からずれてしまったりすることをより確実に防止できる。
【0059】
また、チューブ51の内径が小さいため、チューブ51に対する接地電極27の挿入後において、接地電極27の外表面とチューブ51の内周面との間に形成される隙間を小さなものとすることができる。従って、チューブ51として熱収縮性のさほど高くない材料からなるものを用いた場合であっても、チューブ51を熱収縮させた際には、接地電極27の外表面とチューブ51の内周面とをより確実に密着させることができる。これにより、チューブ51の内径が小さいことと相俟って、製造コストの増大抑制を図ることができる。
【0060】
さらに、接地電極27のうちチューブ51に挿入される部位の少なくとも一部は、断面矩形状とされている。従って、接地電極27の挿入後においてチューブ51の変形を解除した際には、接地電極27の4つの角部に対してチューブ51から径方向内側に向けた力が加わることとなる。そのため、チューブ51の外れ等をより確実に防止することができる。また、チューブ51を熱収縮させた際には、接地電極27の外表面とチューブ51の内周面とが全体的に密着するが、接地電極27の各角部において、チューブ51との間でより大きな摩擦力を生じさせることができる。従って、チューブ51の外れ等を一層確実に防止することができる。
【0061】
加えて、チューブ変形工程では、内周空間51Nの投影領域51NXが矩形状又は楕円形状をなすようにチューブを変形させる。つまり、接地電極27の断面形状(矩形状)に合わせた形状にチューブを変形させる。従って、チューブ51に対する接地電極27の挿入をより容易に行うことができ、生産性の向上を図ることができる。
【0062】
併せて、挿入工程において、接地電極27の中心軸CL2とチューブ51の中心軸CL3とを一致させるため、チューブ51に対する接地電極27の挿入をより円滑に行うことができ、生産性を一層向上させることができる。
【0063】
また、本実施形態では、第1チャック部101及び第2チャック部102によりチューブ51を挟むことで、チューブ51を変形させる。従って、複雑な装置を用いることなく、比較的簡素な装置により、チューブ51を変形させることができる。その結果、製造コストの増大を一層効果的に抑制することができる。
【0064】
さらに、第1チャック部101及び第2チャック部102には、過変形規制部101B,102Bが設けられている。従って、両チャック部101,102により挟み込むことでチューブ51を変形させる際に、チューブ51が過度に潰れ変形してしまうことをより確実に防止でき、チューブ51を安定的に一定の形状に変形させることができる。その結果、チューブ51に対する接地電極27の挿入を一層円滑に行うことができ、生産性の更なる向上を図ることができる。
【0065】
また、過変形規制部101B,102Bは、単なる突出部分により構成されているため、製造コストの増大を特に招くことなく、前述の作用効果を得ることができる。
【0066】
加えて、チューブ変形工程では、チューブ51の中心軸CL3と直交する方向に沿って力を加えることによりチューブ51を変形させる。そのため、チューブ51をより容易に変形させることができ、生産性を一層向上させることができる。
【0067】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0068】
(a)上記実施形態において、メッキ層35は、Niを主成分とする金属により形成されているが、メッキ層の形成材料は特に限定されるものではない。従って、例えば、亜鉛を主成分とする金属によりメッキ層35を形成してもよい。
【0069】
(b)上記実施形態では、両チャック部101,102がそれぞれ過変形規制部101B,102Bを備えているが、両チャック部101,102のうちの一方のみに過変形規制部を設けることとしてもよい。また、チャック部101,102に過変形規制部を設けないこととしてもよい。
【0070】
(c)上記実施形態において、チャック部101,102におけるチューブ接触面101A,101Bは平坦状とされているが、チューブ接触面の形状はこれに限定されるものではない。従って、例えば、
図13に示すように、チューブ接触面121A,122Aが湾曲面状をなすように第1チャック部121及び第2チャック部122を構成してもよい。
【0071】
(d)上記実施形態では、主体金具3の先端部に接地電極27が接合される場合について具体化しているが、主体金具の一部(又は、主体金具に予め溶接してある先端金具の一部)を削り出すようにして接地電極を形成する場合についても適用可能である(例えば、特開2006−236906号公報等)。
【0072】
(e)上記実施形態では、工具係合部19は断面六角形状とされているが、工具係合部19の形状は、このような形状に限定されるものではない。例えば、Bi−HEX(変形12角)形状〔ISO22977:2005(E)〕等とされていてもよい。