(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764171
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】導電性薄膜
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20150723BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20150723BHJP
H01B 13/00 20060101ALN20150723BHJP
【FI】
C23C14/06 A
H01B5/14 Z
!H01B13/00 503Z
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-164264(P2013-164264)
(22)【出願日】2013年8月7日
(62)【分割の表示】特願2008-181841(P2008-181841)の分割
【原出願日】2008年7月11日
(65)【公開番号】特開2013-256718(P2013-256718A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2013年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(72)【発明者】
【氏名】水野 雅夫
【審査官】
田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−322517(JP,A)
【文献】
特開2002−373823(JP,A)
【文献】
特開平09−067668(JP,A)
【文献】
特開2000−199054(JP,A)
【文献】
特開平07−180038(JP,A)
【文献】
米国特許第05648174(US,A)
【文献】
特表2007−532783(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/100635(WO,A1)
【文献】
特開昭60−194070(JP,A)
【文献】
特開2000−129462(JP,A)
【文献】
Caldwell, M.L., et al.,"Optical properties of manganese doped amorphous and crystalline aluminum nitride films",Mat. Res. Soc. Symp.,2000年,Vol. 595,W3.26.1 - W3.26.6
【文献】
Tucceri, R.C., et al.,"SIMS and CL characterization of manganese-doped aluminum nitride films",Mat. Res. Soc. Symp.,1999年,Vol. 572,pp. 413-418
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長550nmの可視光の反射率が50%以下で、基材表面に被覆して形成される窒化アルミニウムを基とする導電性薄膜であって、
Mnを2at%以上25at%以下、Nを10at%以上50at%未満含有し、前記Mn,Nの各含有量(at%:原子濃度)を、[Mn]、[N]として表したとき、10/15×[Mn]+50/15<[N]<20/18×[Mn]+500/18を満足することを特徴とする導電性薄膜。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性薄膜であって、
当該導電性薄膜の膜厚が30〜10000nmであることを特徴とする導電性薄膜。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の導電性薄膜であって、
当該導電性薄膜の、波長550nmの可視光の透過率が20%以下であることを特微とする導電性薄膜。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の導電性薄膜であって、
当該導電性薄膜の電気抵抗率が、10-4〜105Ωcmであることを特徴とする導電性薄膜。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の導電性薄膜であって、
当該導電性薄膜の硬さが5GPa以上であることを特徴とする導電性薄膜。
【請求項6】
アルミニウムとマンガンからなる蒸着源と、希ガスに窒素を混合した雰囲気ガスとを用いて、物理蒸着法により前記基材表面に形成されたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部品や樹脂部品等の基材の表面に被覆して黒みを帯びた色調を呈する、導電性を有する薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
家電や自動車等に搭載される金属部品や樹脂部品には、意匠性や防錆、耐傷性の観点からその表面に塗装やめっき等のコーティングが施されることが多い。その中で、黒色のコーティングは、高級感を演出する効果もあって、多く用いられる。黒色のコーティングを施す方法は様々であり、代表的には黒色顔料やカーボンブラックを用いた黒色塗装である。また、基材である部品がアルミニウムやステンレスからなる場合には、陽極酸化処理と黒色顔料を併用した黒色化処理が併せて行われる。
【0003】
さらに、電子部品の筐体に施されるコーティングには、帯電防止や電磁波遮蔽の効果が要求される場合が多い。例えば、特許文献1には、黒色の外周電極を備えるディスプレイ用電磁波シールドが提案されている。帯電防止の効果を備えるためには、コーティング材料の電気抵抗率は10
-2〜10
6Ωcm程度である必要があり、電磁波遮蔽の効果を備えるためには、10
-4〜10
-2Ωcm程度である必要がある。
【0004】
また、ディスプレイパネルの表示部の薄膜状の電極には、黒色表示や反射防止の観点から黒色の電極材料が使用されるものが多い。例えば、特許文献2では、粒子移動型表示装置、いわゆる電子ペーパーが開示されているが、この装置は、黒色に着色された黒色電極を備え、帯電粒子がこの黒色電極上を移動することで表示する色調を変化させる。また、特許文献3,4では、黒色電極を備えるプラズマディスプレイパネルが開示されている。これらの電極に適用する材料は、電気抵抗が小さいほど望ましく、電気抵抗率は10
-2Ωcm以下とされる。
【0005】
導電性材料からなる薄膜を基材表面に形成する場合には、金属ペーストあるいは黒鉛、金属フィラーを含有した樹脂塗装等が行われる。さらに、外観を黒色とする場合の薄膜形成には、主に黒鉛を添加した塗装が簡便な方法として多用されている。例えば、黒鉛粒子を混合した銀ペーストを印刷して外周電極を形成する方法(特許文献1)や、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、ルテニウム、ロジウムのいずれかの黒色金属微粒子あるいは金属酸化物と、封着ガラスと、感光性有機バインダとよりなる感光性ペーストを印刷する方法(特許文献3)や、ビスマス、ストロンチウム、カルシウム、銅を含む複合酸化物と、有機バインダとを混合したペーストを塗装する方法(特許文献4)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3657115号公報
【特許文献2】特開2007−127676号公報
【特許文献3】特開2007−128858号公報
【特許文献4】特開2006−344483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、塗装により形成された膜は、膜厚が数μm〜数mmと厚く、さらに薄い膜を形成することが困難であり、また、溶媒として有機成分を含有するため耐熱性や耐久性が高くなく、耐傷性が不十分であるという問題がある。
【0008】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、数μm以下の薄膜に形成することが容易で、導電性および十分な耐傷性(硬さ)を有し、基材が被覆されて黒みを帯びた色調を呈する薄膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、基材表面に薄膜を容易に形成するためにPVD(物理的気相成長)法等の蒸着により薄膜を形成することにして、蒸着により成膜の可能な材料を研究した。その結果、本発明者らは、蒸着により成膜の可能な材料としてアルミニウム(Al)を用い、蒸着の雰囲気に窒素を混合することで成膜される極めて硬い窒化アルミニウム(AlN)を基とする薄膜を成膜することとした。そして、本発明者らは、この薄膜に、蒸着の雰囲気中の窒素量を調整することで、窒化されていない導体の金属アルミニウムを分散させて導電性を付与すること、および、アルミニウムと同時に成膜の可能な材料として、導体のマンガン(Mn)を分散させることで、黒みを帯びた色調の薄膜にすることに至った。
【0010】
そして、本発明者らは、窒化アルミニウム、マンガンまたは窒化マンガン、およびアルミニウムの構成比を適正なものとすることにより、望ましい硬さおよび導電性を備え、色調の好ましい薄膜とすることができることを見出した。本発明者らは、この構成比を制御するために、アルミニウム、マンガン、および窒素の各濃度、さらにマンガンと窒素の各濃度の相関を調整することにした。
【0011】
すなわち、本発明に係る導電性薄膜は、
波長550nmの可視光の反射率が50%以下で、基材表面に被覆して形成され
、窒化アルミニウムを基とし、Mnを2at%以上25at%以下、Nを10at%以上50at%未満含有し、前記Mn,Nの各含有量(at%:原子濃度)を、[Mn]、[N]として表したとき、10/15×[Mn]+50/15<[N]<20/18×[Mn]+500/18を満足することを特徴とする。
【0012】
このような導電性薄膜によれば、コーティング材料として十分な硬さを有し、電子部品等に必要な導電性を有し、さらに、黒みを帯びた色調の外観とすることができる。
【0013】
さらに、本発明に係る導電性薄膜は、その膜厚が30〜10000nmであることを特徴とする。このような導電性薄膜によれば、基材から剥離し難く、連続した薄膜となる。
【0014】
また、本発明に係る導電性薄膜の光学特性は
、波長550nmの可視光の透過率が20%以下であることを特微とする。このような導電性薄膜によれば、視覚的に好ましい黒色の外観とすることができる。
【0015】
また、本発明に係る導電性薄膜は、その電気抵抗率が10
-4〜10
5Ωcmであることを特徴とする。このような導電性薄膜によれば、電子部品等を被覆する薄膜に必要な導電性を有するものとなる。
【0016】
また、本発明に係る導電性薄膜は、その硬さが5GPa以上であることを特徴とする。このような導電性薄膜によれば、耐傷性のよい薄膜となる。
【0017】
また、本発明に係る導電性薄膜は、アルミニウムとマンガンからなる蒸着源と、希ガスに窒素を混合した雰囲気ガスとを用いて、物理蒸着法により基材表面に形成されたものであることを特徴とする。このような導電性薄膜によれば、生産性のよい薄膜となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る導電性薄膜によれば、耐傷性と導電性とに優れた薄膜となり、このような薄膜を基材表面に形成されることで視覚的に好ましい黒みを帯びた色調の外観を得られ、さらに、基材表面への形成が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る導電性薄膜について説明する。
本発明に係る導電性薄膜は、基材の表面に被覆される薄膜であり、Al,Mn,Nからなる窒化アルミニウム(AlN)を基とする導電性薄膜である。その組成は、原子濃度で、Mnは2at%以上25at%以下、Nは10at%以上50at%未満、Alは残部であり、さらに、Mn,Nの各含有量(at%)を、[Mn]、[N]として表したとき、[N]、[Mn]が、次式(1)を満足することを特徴とする。
10/15×[Mn]+50/15<[N]<20/18×[Mn]+500/18 ・・・式(1)
これらの構成は、後記する導電性薄膜の製造方法において制御可能である。以下、本発明に係る導電性薄膜を構成する各要素について説明する。
【0020】
(Al)
Al(アルミニウム)は、電気抵抗率2.65×10
-6Ωcmの良導体であり、電極材料としても適用される金属である。Alは延性が高く柔らかいため、単独ではコーティング材料としての硬さは得られない。また、色調は不透明であるが、反射率92%で金属光沢を有する銀白色の反射体である。一方で、AlはNと結合して、本発明に係る導電性薄膜の基であるAlN(窒化アルミニウム)を形成する。AlNは、セラミックスの一種であり、コーティング材料として十分な硬さを有する。しかし、AlNは、電気抵抗率10
14Ωcmを超える絶縁体であり、また、透過率70%以上の無色透明な材料であるため、AlN単独のコーティングでは基材の色調がそのまま視認されてしまう。本発明に係る導電性薄膜においては、窒化されていないAlが、AlNの中に微細に分散して存在することで、AlNを基とする薄膜に導電性を付与する。導電性薄膜において、この窒化されていないAlの構成比はN含有量によって変化し、Alが多くなると、導電性薄膜は、導電性が向上するが、硬さが低下し、また反射率が高くなる。
【0021】
(Mn:2at%以上25at%以下)
Mn(マンガン)は、電気抵抗率1.44×10
-4Ωcmの導体で、単体では銀色であるが、AlN中に微細に分散することで、AlNを基とする本発明に係る導電性薄膜を黒く着色し、さらに導電性を付与する。これらの効果を得るため、Mn含有量は2at%以上とする。導電性薄膜においては、Mnは、単体マンガン、または同じく導体である窒化マンガン(Mn
3N
4,Mn
4N,Mn
2N,Mn
3N
2:MnNと表す)として微細粒状で存在したり、一部はAlに固溶して存在する。Mn含有量が多くなると、導電性薄膜は、透過率および反射率が共に低くなって色調がより黒みを帯び、また導電性が向上する。一方、Mn含有量が過剰になると、粗大なMnまたはMnNが析出して、導電性薄膜が脆くなるため、Mn含有量は25at%以下とする。
【0022】
(N:10at%以上50at%未満)
N(窒素)は、本発明に係る導電性薄膜において窒化物、特にAlNを形成するための元素である。したがって、導電性薄膜が十分な硬さとなるAlNを形成するため、N含有量は10at%以上とし、さらに後記に示すようにMn含有量に比した規定含有量を超えるようにする。N含有量が多くなるとAlNが多くなり、導電性薄膜は、硬さが向上するが透過率が高くなる。さらに、N含有量がMn含有量に比して多いと、導電性薄膜は導電性が低下するため、同じくMn含有量に比した規定含有量未満とする。また、50at%以上のNをAl,Mnと結合させることはできない。
【0023】
本発明に係る導電性薄膜の組成は、N含有量が、次式(2)に示すようにMn含有量の所定比を超えるものとする。
[N]>10/15×[Mn]+50/15 ・・・式(2)
式(2)を満足する量のNは、導電性薄膜が十分な硬さを得るためのAlNを形成できる。さらに、Mn含有量が本発明の範囲内で多い場合、N含有量が式(2)を満足しないと、Mnの金属光沢により、導電性薄膜の反射率が増大する。
また、本発明に係る導電性薄膜の組成は、N含有量が、次式(3)に示すようにMn含有量の所定比未満となるものとする。
[N]<20/18×[Mn]+500/18 ・・・式(3)
式(3)を満足する量のNは、AlNを導電性薄膜が十分な導電性を維持できる量に抑制できる。N含有量が式(3)を満足しないとAlNが過剰になり、導電性薄膜は、導電性が低下し、透過率が高くなる。
式(2)、(3)より、式(1)が導かれる。
10/15×[Mn]+50/15<[N]<20/18×[Mn]+500/18 ・・・式(1)
以上のような本発明の範囲内におけるAl,Mn,Nの組成により、Mn,MnNの少なくとも一種、または、さらにAlが所望の構成比でAlN中に分散されて存在する導電性薄膜が得られる。そして、これらの構成比により、導電性薄膜は、その光学特性、導電性、機械的特性をそれぞれ以下の範囲内で変化させることができる。
【0024】
本発明に係る導電性薄膜は、さらに、Ti,V,Cr,Zr,Hf,Ta,Moを、これらの元素の合計で2.0at%以下含有していてもよい。また、本発明に係る導電性薄膜は、不可避不純物を含有してもよい。不可避不純物としては、例えば、Fe,Si,Cu,Mg,Ni等が挙げられ、これらの元素の合計が0.3at%以下であれば、本発明に係る導電性薄膜の特性に影響しない。
【0025】
本発明に係る導電性薄膜は、その膜厚が30nm未満では連続した膜に形成することは困難であるため、30nm以上とすることが好ましい。また、透過率を十分に抑えて基材自体の色調が透過しないようにするためには、膜厚は、300nm以上とすることがより好ましく、1μm以上とすることがさらに好ましい。なお、膜厚が300nm未満の場合、導電性薄膜に光干渉効果が生じるため、AlN中のAl,Mn,MnNの構成比によって、導電性薄膜で被覆した基材の外観の色調を、青色を帯びた黒色や緑色を帯びた黒色とすることができる。一方、膜厚が5μmを超えると、導電性薄膜の表面に凹凸が出現して、つや消しの外観を呈するようになる。さらに、10μmを超えると、導電性薄膜が基材から剥離する虞があるため、膜厚は10μm(=10000nm)以下とすることが好ましい。
【0026】
本発明に係る導電性薄膜は、その光学特性が、可視光(波長550nm)について、反射率が50%以下かつ透過率が20%以下であることが好ましい。反射率および透過率がこの範囲に抑えられていることで、本発明に係る導電性薄膜で被覆した基材の外観が黒みを帯びたものとなる。また、反射率が40%以下であれば光沢が抑えられ、さらに、反射率が25%以下かつ透過率が10%以下であれば、このような導電性薄膜で被覆した基材の外観がほぼ黒色を呈したものとなる。より黒くする、すなわち反射率および透過率を低減させるためには、Mn,MnNの構成比を多く、したがってMn含有量を増加させる。ただし、Mn含有量に比してN含有量が少ないと反射率が増大するため、N含有量も共に増加させる必要があり、それにより、反射率を5%程度まで低減させることができる。なお、透過率は、AlNの構成比が多いほど高くなるが、その他に、前記したように、導電性薄膜の膜厚が薄いほど高くなる。したがって、膜厚を厚く形成することによって、透過率を低減させることもできる。
【0027】
本発明に係る導電性薄膜は、その導電性が、電気抵抗率10
-4〜10
5Ωcmであることが好ましい。電気抵抗率がこの範囲であれば、本発明に係る導電性薄膜で被覆した基材に帯電防止効果を備えることができる。導電性薄膜の電気抵抗率はAlNの構成比が少ないほど低くなる。
【0028】
本発明に係る導電性薄膜は、その機械的特性が、硬さ5GPa以上であることが好ましい。5GPa以上の硬さであれば、コーティング材料として十分な耐傷性を備えることができる。導電性薄膜は、AlNの構成比が多いほど硬くなり、11GPa程度まで硬くすることができる。なお、本発明に係る導電性薄膜の硬さは、ナノインデンテーション法により測定される。
【0029】
本発明に係る導電性薄膜で被覆される基材は、PVD法による処理が可能な材料であれば、特に規定されるものではない。好ましくは、ガラス、樹脂、アルミニウムおよびアルミニウム合金、銅および銅合金、ステンレス等が挙げられる。
【0030】
次に、本発明に係る導電性薄膜の形成方法について説明する。
本発明に係る導電性薄膜は、公知のPVD法により形成することができる。ターゲットとして、任意の組成のAl−Mn合金を用いることで、導電性薄膜のAl,Mn含有量を制御できる。あるいは、AlターゲットとMnターゲットとを同時に用いてもよい。さらに、PVD雰囲気として、不活性ガス(Ar等の希ガス)に窒素(N
2)を混合することにより窒化物を成膜することができる。PVD雰囲気のN
2濃度が10%程度以上で、すべてのAl,Mnは窒化されて、AlNとMnNのみで構成された導電性薄膜となる。N
2濃度10%未満の範囲でPVD雰囲気のN
2分圧を制御することで、窒化されていないAl,Mnを含む導電性薄膜を成膜することができる。PVD法で成膜されることにより、薄膜のAl,Mn,Nの組成が制御され、その結果、AlNを基として、その中に微細なAl,Mn,MnNが分散されて所望の構成比で存在する導電性薄膜が形成される。また、予め成膜レートを測定しておき、処理時間(放電時間)を調整することで、導電性薄膜の膜厚を制御できる。
【実施例】
【0031】
以上、本発明を実施するための最良の形態について述べてきたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と比較して具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0032】
基材として、厚さ0.7mm、直径2インチの青板ガラスを使用した。基材をマグネトロンスパッタリング装置に導入後、装置内を1×10
-6Torr以下に排気した後、ArガスにN
2を任意の分圧で混合して流入させて装置内の圧力を2mTorrとした。任意の組成のAl−Mn合金またはAlからなるターゲットを用い、定電流DC電源装置で260W印加することで、グロー放電を生じさせて成膜を実施した。
【0033】
得られた薄膜について、次の測定、評価を行った。触針式膜厚計を用いて膜厚を測定した。EPMAで定量分析を行って組成(原子濃度)を求めた。四短針法で電気抵抗率を測定した。分光光度計を用い、入射5°、反射5°の正反射条件で、分光反射率を測定した。また、垂直入射条件で透過率を測定した。さらに、基材上の薄膜の色調を目視にて観察した。ナノインデンテーション法により硬さを測定した。以上の結果を表1に示す。また、Mn,Nの各原子濃度が式(1)を満たすものを成分判定「○」、N原子濃度が、不足しているものを「−」、過剰なものを「+」として表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
Mnを含有しない比較例のNo.1〜3は、N含有量の増加に伴い、硬さが向上する一方、導電性が低下した。また、N含有量の増加に伴い、透過率が増加、反射率が減少したが、いずれも無色であった。Mnを添加しても、N含有量の変化による硬さ、導電性、透過率および反射率の挙動は同様であるが、No.4〜6のように、Mnの微量な(5at%)添加により、透過率および反射率が共に全体的に大きく低下して、外観が黒みを帯びた。また、N含有量が同じ(15at%)のNo.2とNo.4を比較すると、Mnの微量な添加により、導電性および硬さが格段に向上したことが認められた。なお、No.6は透過率がやや高いが、これは膜厚が150nmと比較的薄いことによる。さらに、Mnを10,20at%含有し、かつMn含有量に対するN含有量が本発明の範囲内であるNo.9〜11,13〜15も、良好な導電性および硬さとなり、また、N含有量にかかわらず透過率および反射率が共に十分に低く、外観がほぼ黒色を呈した。これに対して、Mn含有量が過剰な比較例のNo.16は、薄膜が脆くなって硬さを測定できず、また、N含有量がMn含有量に対しても不足しているため、金属マンガンによる光沢で反射率が増大した。
【0036】
No.7,12は、Mn,Nの各含有量は本発明の範囲内であるが、Mn含有量に対してN含有量が過剰であるため、AlNの構成比が増加して、透過率が高くなって半透明となり、導電性も低下した。一方、No.8は、Mn,Nの各含有量は本発明の範囲内であるが、Mn含有量に対してN含有量が不足しているため、硬さが低下した。