特許第5764181号(P5764181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764181
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】硬質皮膜被覆切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/16 20060101AFI20150723BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20150723BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20150723BHJP
   B23C 5/10 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   B23C5/16
   B23B27/14 A
   B23B27/14 C
   B23B27/20
   B23C5/10 B
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-226984(P2013-226984)
(22)【出願日】2013年10月31日
(65)【公開番号】特開2015-85462(P2015-85462A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2014年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000115120
【氏名又は名称】ユニオンツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100097065
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 雅栄
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 英樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】新田 円空
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 英人
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−101910(JP,A)
【文献】 特開2004−122263(JP,A)
【文献】 特開2011−005582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/00 − 5/16
B23B 27/14 − 27/20
B23D 77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
逃げ面とすくい面との交差稜線部に切れ刃が形成された工具本体に硬質皮膜が被覆されて成る硬質皮膜被覆切削工具であって、工具先端から軸方向に工具直径の0.3倍以下の範囲における切れ刃に直角な断面において、逃げ面側の硬質皮膜の膜厚h1及び切れ刃近傍のすくい面側の硬質皮膜の膜厚h2が、下記1の2条件を充足するように構成し、更に、工具先端から軸方向に工具直径の0.3倍以下の範囲における切れ刃に直角な方向で、当該切れ刃の刃先の丸みを半径Rの円弧で近似したとき、下記2の条件を充足するように構成したことを特徴とする硬質皮膜被覆切削工具。

(1)8μm≦h1≦30μm
(2)0≦h2/h1≦0.5
記2
0.1h1≦R≦0.8h1
【請求項2】
逃げ面とすくい面との交差稜線部に切れ刃が形成された工具本体に硬質皮膜が被覆されて成る硬質皮膜被覆切削工具であって、工具先端から軸方向に工具直径の0.3倍以下の範囲における切れ刃に直角な断面において、逃げ面側の硬質皮膜の膜厚h1及び切れ刃近傍のすくい面側の硬質皮膜の膜厚h2が、下記1の2条件を充足するように構成し、更に、工具先端から軸方向に工具直径の0.3倍以下の範囲における切れ刃に直角な方向で、当該切れ刃の刃先の丸みを半径Rの円弧で近似したとき、下記2の条件を充足するように構成したことを特徴とする硬質皮膜被覆切削工具。
記1
(1)8μm≦h1≦30μm
(2)0≦h2/h1≦0.5
記2
0.1h1≦R≦15μm
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載の硬質皮膜被覆切削工具において、工具先端から軸方向に工具直径の0.3倍以下の範囲における、すくい面側の硬質皮膜の少なくとも切れ刃に隣接する領域に、切れ刃に対して90°±20°の範囲の角度で交差する多数の微細な凸条が並設されていることを特徴とする硬質皮膜被覆切削工具。
【請求項4】
請求項記載の硬質皮膜被覆切削工具において、前記凸条の並設間隔は1μm以上30μm以下であることを特徴とする硬質皮膜被覆切削工具。
【請求項5】
請求項3,4いずれか1項に記載の硬質皮膜被覆切削工具において、前記凸条が並設されている部分の算術平均粗さRaが0.05μm以上1μm以下であることを特徴とする硬質皮膜被覆切削工具。
【請求項6】
請求項3〜5いずれか1項に記載の硬質皮膜被覆切削工具において、前記凸条は、切れ刃近傍の前記すくい面側の硬質皮膜の表面部をレーザ照射により除去する際に形成されたものであることを特徴とする硬質皮膜被覆切削工具。
【請求項7】
請求項1〜いずれか1項に記載の硬質皮膜被覆切削工具において、前記硬質皮膜はダイヤモンド皮膜であることを特徴とする硬質皮膜被覆切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質皮膜被覆切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に開示されるように、回転切削工具に耐摩耗性を向上させるためのダイヤモンド皮膜等の硬質皮膜を被覆して成る硬質皮膜被覆切削工具が種々提案されている。近年の市場においては、難削材であるガラス、セラミックス、超硬合金などの硬脆材を切削し得る切削工具の要求が高まってきており、切削工具メーカーではこれらの市場要求に応えられる切削工具の研究開発が行われている。取り分け、高硬度且つ高強度材料として代表的な超硬合金を工具母材として、ダイヤモンド皮膜、窒化物系皮膜などの硬質皮膜を被覆した切削工具の研究開発が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−25117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような硬脆材は高硬度であるが故に切削加工自体が非常に困難であるだけでなく、脆いが故に欠け易いという特徴がある。更に、上述のような硬質皮膜被覆切削工具の切れ刃は、硬質皮膜が被覆されていない工具の切れ刃と比較して皮膜の膜厚に応じて刃先が丸みを帯びることから、切削加工の際に良好な切削作用が発揮されず、特に硬脆材を被削材として切削加工する際には、被削材の端部において欠け(所謂コバ欠け。図1参照。)を生じるおそれが高まるという問題がある。
【0005】
また、硬質皮膜の剥離が生じ易く、切れ刃近傍において剥離が生じて、その後も切削加工を継続した場合、剥離前後で被削材の加工面に段差が生じたり加工品質が変化したりする等の問題がある。
【0006】
本発明は、上述の問題点を解決するもので、硬質皮膜被覆切削工具のすくい面の硬質皮膜の膜厚を適切に設定することで、刃先を所望の鋭利さにすると共に、加工途中での切れ刃近傍における皮膜の剥離を抑制することができ、仕上げ加工における切削性を改善し良好な仕上げ面を得ることができる実用性に秀れた硬質皮膜被覆切削工具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0008】
逃げ面1とすくい面2との交差稜線部に切れ刃3が形成された工具本体7に硬質皮膜4が被覆されて成る硬質皮膜被覆切削工具であって、工具先端から軸方向に工具直径の0.3倍以下の範囲における切れ刃3に直角な断面において、逃げ面1側の硬質皮膜4の膜厚h1及び切れ刃3近傍のすくい面2側の硬質皮膜4の膜厚h2が、下記1の2条件を充足するように構成し、更に、工具先端から軸方向に工具直径の0.3倍以下の範囲における切れ刃3に直角な方向で、当該切れ刃3の刃先の丸みを半径Rの円弧で近似したとき、下記2の条件を充足するように構成したことを特徴とする硬質皮膜被覆切削工具に係るものである。

(1)8μm≦h1≦30μm
(2)0≦h2/h1≦0.5
記2
0.1h1≦R≦0.8h1
【0009】
また、逃げ面1とすくい面2との交差稜線部に切れ刃3が形成された工具本体7に硬質皮膜4が被覆されて成る硬質皮膜被覆切削工具であって、工具先端から軸方向に工具直径の0.3倍以下の範囲における切れ刃3に直角な断面において、逃げ面1側の硬質皮膜4の膜厚h1及び切れ刃3近傍のすくい面2側の硬質皮膜4の膜厚h2が、下記1の2条件を充足するように構成し、更に、工具先端から軸方向に工具直径の0.3倍以下の範囲における切れ刃3に直角な方向で、当該切れ刃3の刃先の丸みを半径Rの円弧で近似したとき、下記2の条件を充足するように構成したことを特徴とする硬質皮膜被覆切削工具に係るものである。
記1
(1)8μm≦h1≦30μm
(2)0≦h2/h1≦0.5
記2
0.1h1≦R≦15μm
【0010】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の硬質皮膜被覆切削工具において、工具先端から軸方向に工具直径の0.3倍以下の範囲における、すくい面2側の硬質皮膜4の少なくとも切れ刃3に隣接する領域に、切れ刃3に対して90°±20°の範囲の角度で交差する多数の微細な凸条6が並設されていることを特徴とする硬質皮膜被覆切削工具に係るものである。
【0011】
また、請求項記載の硬質皮膜被覆切削工具において、前記凸条6の並設間隔は1μm以上30μm以下であることを特徴とする硬質皮膜被覆切削工具に係るものである。
【0012】
また、請求項3,4いずれか1項に記載の硬質皮膜被覆切削工具において、前記凸条6が並設されている部分の算術平均粗さRaが0.05μm以上1μm以下であることを特徴とする硬質皮膜被覆切削工具に係るものである。
【0013】
また、請求項3〜5いずれか1項に記載の硬質皮膜被覆切削工具において、前記凸条6は、切れ刃3近傍の前記すくい面2側の硬質皮膜4の表面部をレーザ照射により除去する際に形成されたものであることを特徴とする硬質皮膜被覆切削工具に係るものである。
【0014】
また、請求項1〜いずれか1項に記載の硬質皮膜被覆切削工具において、前記硬質皮膜4はダイヤモンド皮膜4であることを特徴とする硬質皮膜被覆切削工具に係るものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上述のように構成したから、仕上げ加工における切削性を改善し良好な仕上げ面を得ることができる実用性に秀れた硬質皮膜被覆切削工具となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】従来例(比較例)により切削した被削材の加工面の写真である。
図2】本実施例の概略説明斜視図及び要部拡大図である。
図3】本実施例の概略説明側面図である。
図4】本実施例のレーザ照射方法の概略説明図である。
図5】別例の概略説明側面図である。
図6】本実施例の要部の概略説明図である。
図7】比較例の正面写真(a)及び側面写真(b)である。
図8】比較例の刃先の丸みの半径Rの測定データ(a)、刃先側(逃げ面をすくい面に対して略平行な方向)から見た皮膜写真(b)及びすくい面側から見た皮膜写真(c)である。
図9】実験例の正面写真(a)及び側面写真(b)である。
図10】実験例の刃先の丸みの半径Rの測定データ(a)、刃先側(逃げ面をすくい面に対して略平行な方向)から見た皮膜写真(b)及びすくい面側から見た皮膜写真(c)である。
図11】実験例により切削した被削材の加工面の写真である。
図12】実験条件および実験結果を示す表である。
図13】実験条件および実験結果を示す表である。
図14】実験条件および実験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0018】
切れ刃3近傍のすくい面2側の硬質皮膜4の膜厚を逃げ面1側の硬質皮膜4の半分以下の所定の膜厚とすることで、硬質皮膜4による刃先の丸まりを抑制して所望の鋭利さにすることができ、即ち、切れ刃3に直角な方向でこの切れ刃3の刃先の丸みを半径Rの円弧で近似したとき、このRを十分小さくすることが可能となり、コバ欠けを抑制することが可能となる。
【0019】
また、硬質皮膜4は膜厚が薄い程剥離し難いため、それだけすくい面2側の硬質皮膜4の剥離を抑制でき、即ち、加工途中での切れ刃3近傍の硬質皮膜4の剥離を抑制することが可能となる。従って、加工面に段差が形成されたり加工途中で加工品質が変化したりすることを防止できることになる。
【実施例】
【0020】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0021】
本実施例は、逃げ面1とすくい面2との交差稜線部に切れ刃3が形成された工具本体7に硬質皮膜4が被覆されて成る硬質皮膜被覆切削工具であって、図3に示したように、工具先端から軸方向に工具直径(刃部の回転直径)Dの0.3倍(0.3D)以下の範囲における切れ刃3に直角な断面において、逃げ面1側の硬質皮膜4の膜厚をh1、切れ刃3近傍のすくい面2側の硬質皮膜4の膜厚をh2としたとき、8μm≦h1≦30μm且つ0≦h2/h1≦0.5であるものである。
【0022】
本実施例は、図2に図示したような切り屑排出溝5が工具軸線に平行な(工具軸線周りに螺旋状に形成されない)所謂直刃の1枚刃ボールエンドミルであり、具体的には、工具本体7は超硬合金製であり、外周に切り屑排出溝5が工具軸線に平行に設けられ、工具本体7の先端部の逃げ面1と切り屑排出溝5のすくい面2との交差稜線部に切れ刃3が設けられているものである。図中、符号8はシャンク部である。
【0023】
また、工具本体7にはダイヤモンド皮膜4が被覆されている。なお、ダイヤモンド皮膜以外の硬質皮膜を採用しても良い。
【0024】
このダイヤモンド皮膜4は、CVD法により一様に工具本体7に被覆した後、切れ刃3近傍のすくい面2側のダイヤモンド皮膜4を所定の厚さとなるようにその表面部をレーザ照射により一部除去している。本実施例においては、YVOレーザを、所定の送り速度及び出力で、図4に図示したようにすくい面2の上方(すくい面2の正面)からダイヤモンド皮膜4の表面と平行な方向に送りながら照射することで、ダイヤモンド皮膜4の一部を除去している。なお、砥石等で研削することで除去しても良い。なお、他の構成、例えば図5に図示したような直刃の2枚刃ボールエンドミルに対しても各切れ刃3のすくい面2を同様に処理することで同様の効果を得ることができる。また、直刃に限らず切り屑排出溝5が工具軸線周りに螺旋状に形成される所謂ねじれ刃タイプの構成としても同様である。
【0025】
ダイヤモンド皮膜4は、上述したように、工具先端から軸方向に工具直径の0.3倍以下の範囲における、切れ刃3に直角な断面において、逃げ面1側のダイヤモンド皮膜4の膜厚をh1、切れ刃3近傍のすくい面2側のダイヤモンド皮膜4の膜厚をh2としたとき、8μm≦h1≦30μmで、0≦h2/h1≦0.5となるように、即ち、すくい面2側のダイヤモンド皮膜4が逃げ面1側のダイヤモンド皮膜4より薄くなるようにすくい面2側のダイヤモンド皮膜4を除去する。具体的には、前記レーザ照射を切れ刃3に沿う方向に所定間隔で繰り返して、すくい面2側のダイヤモンド皮膜4を所定範囲にわたって一部除去する(図6参照)。
【0026】
また、上記すくい面2側のダイヤモンド皮膜4の一部除去処理は、ダイヤモンド皮膜4を一部除去した領域がある程度存在しなければ本発明の効果を得られないため、少なくとも切れ刃3先端位置から工具直径の1/10程度奥側まで行う(工具直径の1/10程度の幅で行う)。本実施例では工具直径1mmの1/10である0.1mmの幅を除去している。
【0027】
ダイヤモンド皮膜4が被覆された回転切削工具は、先端から軸方向に工具直径の0.3倍の範囲が多用される。従って、少なくともこの範囲において、h1及びh2が上記設定を満たすようにする。
【0028】
また、ダイヤモンド皮膜4が被覆された回転切削工具の場合、工具寿命は逃げ面1の膜厚h1に依存する。そのため、切れ刃3に直角な断面で見たときに、逃げ面1の膜厚h1が8μm未満となると、皮膜摩耗の進行が早く、寿命が極端に短くなる傾向があり、加工の継続が難しくなる。また、30μmを超えると、超硬合金母材との密着性が必ずしも高くないというダイヤモンド皮膜4の特性上、工具本体7との密着性の確保が難しく、剥離などのリスクが高まるとともに安定的な工具寿命を得づらくなる。
【0029】
また、すくい面2の膜厚h2は逃げ面1の膜厚h1との関係で、刃先の丸みの大きさを決める要因となっている。また、すくい面2側のダイヤモンド皮膜4が厚いと突発的に剥離するリスクが高まるため、0≦h2/h1≦0.5となるように、即ち、すくい面2の膜厚h2は逃げ面1の膜厚h1の1/2以下にすることが望ましい。
【0030】
また、工具先端から軸方向に工具直径の0.3倍以下の範囲における、切れ刃3に直角な方向で、この切れ刃3の刃先の丸みを半径Rの円弧で近似したとき(刃先のRを測定した時)、0.1h1≦R≦0.8h1(0.1≦R/h1≦0.8)となるように設定する。
【0031】
ダイヤモンド皮膜4を被覆した刃先のRの大きさは、逃げ面1側のダイヤモンド皮膜4の厚さとすくい面2側のダイヤモンド皮膜4の厚さとの関係が大きい。
【0032】
主にすくい面2側のダイヤモンド皮膜4を除去して薄くすることで得られる刃先のRは、刃先のRの大きさが0.1h1未満(R/h1が0.1未満)では、切削時に刃先のチッピングを発生し易くなる。また、刃先のRが大きいことで被削材側のコバ欠けなどの発生が懸念されるため、逃げ面1側の膜厚が厚くなることで刃先のRが大きくなってしまう場合は、刃先のRの大きさは0.8h1以下(R/h1が0.8以下)で、さらに好ましくは15μm以下であることが望ましい。なお、すくい面2側のダイヤモンド皮膜4を完全に除去(h2/h1=0)した場合、刃先のRの大きさは小さくなって鋭利な刃先状態となるため切削性は向上する。なお、すくい面2にもダイヤモンド皮膜4を残すことで逃げ面1側のダイヤモンド皮膜4が剥離しにくくなり、刃先近傍のダイヤモンド皮膜4の強度を保つことができると考えられるため残しておいてもよい。より望ましくは、0≦h2/h1≦0.2である。
【0033】
すくい面2側のダイヤモンド皮膜4を上述の方法により除去し、逃げ面1の膜厚h1とすくい面2の膜厚h2の比h2/h1を変えたときの効果を確認した実験結果を図12に示す。
【0034】
なお、本実施例においては、刃先のRの測定には、三鷹光器株式会社製の非接触三次元測定装置(NH−3SP)を使用し、所定の治具で被測定物(エンドミル)を所定の位置と所定の姿勢となるように設置し、逃げ面1から切れ刃3の刃先を経由してすくい面2までの範囲を前記切れ刃3に直角な方向に測定し、レーザによりプロファイルを検出し、そのプロファイルに近似する円を描き刃先のRを測定した。なお、被測定物を一部破壊(除去)して切れ刃3に直角な断面を形成し、この断面上において刃先のRを測定しても良い。
【0035】
<加工条件>
使用工具:ダイヤモンド皮膜が被覆された1枚刃ボールエンドミル(直径1mm、刃長0.7mm、シャンク径4mm、全長50mm)
被削材:超硬合金VM−40(CIS規格)
クーラント:エアブロー
工具突出し量:15mm
回転速度:30,000min−1、送り速度:150mm/min、軸方向の切込み深さ:0.05mm
半径方向の切込み深さ:0.25mm
加工方法:4.3mm×4.3mm×深さ0.6mmの四角ポケット形状を加工する。
【0036】
以上の加工条件で、図12の実験例の組み合わせについて実験を行い、工具寿命までのポケット加工個数(寿命)と、1ポケット加工後の上面の稜線のコバ欠けの大きさ(長さ)、すくい面2の皮膜剥離の発生状態について比較を行った。
【0037】
逃げ面1の膜厚h1が5μmのとき、すくい面2の膜厚h2を薄くすることで刃先のRが小さくなり、コバ欠けの抑制には効果があったが逃げ面1の膜厚h1が薄いことにより工具寿命が短く加工可能なポケット数が少ない結果となった(実験例1〜4)。
【0038】
これに対し、逃げ面1の膜厚h1が8μmの場合においては、すくい面2の膜厚h2を薄くすることで刃先のRが小さくなり、コバ欠けの抑制に効果が見られた。逃げ面1の膜厚h1が厚くなることで、工具寿命までのポケット加工個数が増加した(実験例5〜9)。皮膜除去後のすくい面2の膜厚h2が6μmの場合、加工時にすくい面2の皮膜剥離の影響が加工面に大きく出る結果となった(実験例9)。
【0039】
さらに、逃げ面1の膜厚h1が15μmの場合においては、すくい面2の膜厚h2を薄くすることで刃先のRが小さくなり、コバ欠けの抑制に効果がみられた。逃げ面1の膜厚h1が厚くなることで、工具寿命までのポケット加工個数が増加した。皮膜除去後のすくい面2の膜厚h2が12μmの場合、コバ欠けの大きさがやや大きく、加工途中にすくい面2の皮膜剥離が発生し加工面に段差などの影響が発生した(実験例10〜13)。
【0040】
また、逃げ面1の膜厚h1が19μmの場合において、すくい面2の膜厚h2を8μmとした時、刃先のRは12μmとなった。すくい面2側のダイヤモンド皮膜4を除去しないものではすくい面2の膜厚h2は18μm、刃先のRは20μmであり、加工評価の結果、すくい面2の膜厚h2を8μmとしたものは、コバ欠けの大きさが10μmで、すくい面2側のダイヤモンド皮膜4を除去しないものが38μmであった。すくい面2の皮膜剥離の加工面への影響についてもすくい面2の膜厚h2を8μmとしたものはすくい面2側のダイヤモンド皮膜4を除去しないものに対して改善傾向となった(実験例14,15)。
【0041】
逃げ面1の膜厚h1が30μmの場合においては、すくい面2の膜厚h2を薄くすることで刃先のRが小さくなり、コバ欠けの抑制に効果が見られた(実験例16〜18)。逃げ面1の膜厚h1が大きいことで、すくい面2側のダイヤモンド皮膜4を除去しない場合の刃先のRが大きいため、すくい面2の膜厚h2を薄くした時に得られる刃先のRの大きさが、逃げ面1の膜厚h1が薄い時に比べて大きくなる。このためすくい面2の膜厚h2を、逃げ面1の膜厚h1に対して0.5倍としたときにも刃先のRが大きくなり、コバ欠けの大きさと加工時のすくい面2の皮膜剥離の加工面への影響が多少大きくなった(実験例18)。
【0042】
逃げ面1の膜厚h1が35μmの場合において、すくい面2の膜厚h2を0としたときに、刃先のRは15μmとすることができたが、逃げ面1の膜厚h1が厚いためにダイヤモンド皮膜4の密着性の問題から、膜の損傷が早期に発生することでコバ欠けが大きくなり、工具寿命までのポケット加工個数も2個となった(実験例20)。
【0043】
逃げ面1の膜厚h1が40μmの場合においては、すくい面2の膜厚h2を0とした時に刃先のRは18μmとなり、加工の初期から工具損傷が進みコバ欠けが大きくなるとともに、工具寿命までのポケット加工個数も2個となった。また、すくい面2の膜厚h2を10μm、20μm、24μmと残した場合においては、刃先のRが大きく切削抵抗を大きく受けることとダイヤモンド皮膜4の密着性の問題から、ポケット加工個数が0個となった(実験例21〜24)。
【0044】
以上の結果から、逃げ面1の膜厚h1は8μm≦h1≦30μm且つすくい面2の膜厚h2との関係を0≦h2/h1≦0.5と設定した。また、刃先のRについては逃げ面1の膜厚h1に対して一定の割合以下にすることが望ましく、0.1h1≦R≦0.8h1とし、さらに膜厚が厚い場合に逃げ面1の膜厚h1に対しての割合だけでは効果を得られない場合があるため0.1h1≦R≦15μmとした。
【0045】
また、本実施例は、工具先端から軸方向に工具直径の0.3倍以下の範囲における、すくい面2側のダイヤモンド皮膜4の切れ刃3に隣接する領域に、切れ刃3に対して90°±20°の範囲の角度で交差する多数の微細な凸条6が所定の並設間隔αで並設されている。なお、この凸条6は、前記レーザ照射により生じる溝(照射痕)と隣り合う溝とを一部重なり合わせることで形成するものである(図2参照)。具体的には、図3に図示したように、切れ刃3を通る接線に直交する線の角度を90°とした場合、前記接線に対して約90°で交差するように設定している。
【0046】
凸条6はレーザ照射以外の手段によって形成しても良い。切削時に切り屑が切れ刃3に対して直角方向に流れるため、切り屑の流れをコントロールする上で、切れ刃3に対して直角に凸条6を形成することが望ましい。また、凸条6の並ぶ間隔によっても切り屑排出性に違いが出ることが実験でわかった。
【0047】
図13図12中の実験例14の形状で、凸条6の並設される角度条件を変えたときの実験結果を示したものである。切れ刃3を通る接線に直交する線の角度を90°とした場合、切り屑排出性は凸条6の前記接線に対する角度が90°±20°で良好であり、望ましくは90°±10°の範囲であった。実験例14では、図3に図示したように前記接線に対して約90°で交差するようにした。
【0048】
また、本実施例においてこの凸条6の並設間隔(レーザ照射の間隔)αは1μm以上30μm以下に設定されている(図2参照)。図14図12中の実験例14の形状で、凸条6の並設間隔αを変えたときの実験結果を示したものである。刃先を観察したところ、刃先の鋭利さと切り屑排出性は、並設間隔αが0.8μm以上40μm以下で良好であった。これは、刃先近傍のマイクロテクスチャ効果により切り屑離れが良くなり安定的な切削が可能になったからであると考えられる。
【0049】
実験例14では、凸条6の並設間隔αは10μmに設定されている。並設間隔αが1μm未満では凸条6を形成することによる上記効果が期待できない。また、並設間隔αが30μmを超えると刃先のRを安定的に小さくすることが難しくなり、刃先の切削性改善を期待できない。また、刃先の状態は並設間隔αが30μm以下で良好であるという結果が得られた。
【0050】
また、この凸条6が並設されている部分の算術平均粗さRaは0.05μm以上1μm以下に設定されている。
【0051】
前記凸条6を設けた領域の算術平均粗さRaは0.05μm以上あることが望ましく、算術平均粗さRaが大きくなることで仕上げ面粗さが悪化するため1μm以下であることが望ましい。本実施例においては、算術平均粗さRaは0.5μm程度に設定している。凸条6の並設間隔α(レーザ照射の間隔)を狭くすることで、算術平均粗さRaは小さくすることができ、また間隔αを広くすることで算術平均粗さRaは大きくなる。算術平均粗さRaが小さくなることで、刃先が鋭利になり、また、大きくなりすぎると刃先の鋭利さが失われる傾向となる。
【0052】
なお、本発明は、本実施例のような1枚刃ボールエンドミルに限らず、2枚以上の刃数のボールエンドミルや、ラジアスエンドミル、スクエアエンドミル等にも同様に適用できる。2枚刃以上の刃数のエンドミルに対しては、必要な刃先すべてに適用すればよい。
【0053】
また、皮膜はダイヤモンド皮膜に限らず、窒化物系皮膜などの硬質皮膜を採用しても良い。
【0054】
本実施例は上述のように構成したから、切れ刃3近傍のすくい面2側の硬質皮膜4の膜厚を逃げ面1側の硬質皮膜4の半分以下(1/2以下)の所定の膜厚とすることで、硬質皮膜4による刃先の丸まりを抑制して所望の鋭利さにすることができ、即ち、切れ刃3に直角な方向でこの切れ刃3の刃先の丸みを半径Rの円弧で近似したとき、このRを十分小さくすることが可能となり、コバ欠けを抑制することが可能となる。
【0055】
また、硬質皮膜4は膜厚が薄い程剥離し難いため、それだけすくい面2側の硬質皮膜4の剥離を抑制でき、即ち、加工途中での切れ刃3近傍の硬質皮膜4の剥離を抑制することが可能となるため加工面に段差が形成されたり加工途中で加工品質が変化したりすることを防止できることになる。さらに、すくい面2の膜厚を制御する段階で凸条6を設ける処理を行うことにより刃先を均一な状態にできるため、切り屑排出性にも秀でたものとなる。
【0056】
よって、本実施例は、仕上げ加工における切削性を改善し良好な仕上げ面を得ることができる実用性に秀れたものとなる。
【0057】
本実施例の効果を裏付ける実験例について説明する。
【0058】
<加工条件>
使用工具:ダイヤモンド皮膜が被覆された1枚刃ボールエンドミル(直径1mm、刃長0.7mm、シャンク径4mm、全長50mm)
被削材:超硬合金VM−40(CIS規格)
クーラント:エアブロー
工具突出し量:15mm
回転速度:30,000min−1、送り速度:150mm/min、軸方向の切込み深さ:0.02mm
半径方向の切込み深さ:0.1mm
加工方法:被削材の上面に5mm×5mm×深さ0.02mm(軸方向の切込み深さ分)の大きさの領域を切削加工(ダウンカット)する。
工具の進行方向:被削材の外方から被削材の上面と正面の稜線に対して直角方向に工具を被削材へ進入させる。
評価:前記稜線におけるコバ欠けの状態(有無)を確認する。
【0059】
以上の加工条件で、すくい面2側のダイヤモンド皮膜4に上記レーザ照射処理を施さない比較例と、上記レーザ照射処理を施した実験例とで夫々被削材を加工し、加工後の被削材の状態を比較した。
【0060】
図7が比較例、図9が実験例の各正面写真(a)及び側面写真(b)である。また、図8が比較例、図10が実験例の各刃先の丸みの半径Rの測定データ(a)、刃先側から見た皮膜写真(b)及びすくい面側から見た皮膜写真(c)である。
【0061】
比較例の刃先のRは、刃直角方向(切れ刃に直角な方向)でおよそ20.8μmであり、実験例の刃先のRは、およそ13.3μmであった。
【0062】
図1が比較例の被削材加工後の写真、図11が実験例の被削材加工後の写真であり、これらの比較から、すくい面2側のダイヤモンド皮膜4が所定の膜厚となるような一部除去処理を行い、刃先のRの小さくなった状態で切削を行うと、加工初期からコバ欠けの発生がなく、良好な加工面が得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0063】
1 逃げ面
2 すくい面
3 切れ刃
4 硬質皮膜
6 凸条
7 工具本体
図2
図3
図4
図5
図6
図12
図13
図14
図1
図7
図8
図9
図10
図11