【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は,請求項1に記載した特徴を備えたSAWフィルタにより解決される。また,本発明の好ましい実施形態は,従属請求項に記載したとおりである。
【0007】
本発明は,互いに直列接続する2個のDMSトラックを備えたSAWフィルタを提案する。第1DMSトラックは2個の入力変換器によって不平衡ポートと接続する。しかし,より多数の入力変換器,特に平衡性の観点から常に偶数個の入力変換器を備えることも可能である。
【0008】
第2DMSトラックは,第1DMSトラックと幾何学的に平行に配置する。第2DMSトラック上には出力変換器を2個配置し,該出力変換器の両方の端子は平衡ポートと接続する。
【0009】
第1及び第2DMSトラックはそれぞれ4個の接続変換器を備え,両DMSトラックにおける各1個ずつの接続変換器は接続ラインにより互いに接続される。
【0010】
各DMSトラックにおいて,各DMSトラックを規定するそれぞれ2個の端部反射器の間に変換器を配置する。両DMSトラック間には,DMSトラックと平行に共通内側グランドラインが配置され,その共通内側グランドラインは入力変換器のグランド端子と接続し,任意的に端部反射器とも接続する。
【0011】
第2DMSトラックにおける出力変換器のグランド端子は第1DMSトラック側に向けて配置され,両DMSトラック間に配置された第2内側ラインと接続する。第2内側ラインは,グランドフリーであり,外部グランドポテンシャルとは接続していない。このようにして,出力変換器が接続部を介して外部グランドポテンシャルと間接的にグランド接続することを防ぎ,グランドポテンシャルによって生じ得る出力変換器のガルバニック接続の可能性を完全に排除する。
【0012】
好適には,共通内部グランドラインは両側で,両方のトラックの間から外側へ導かれ,両方のトラック間の外側に配置された2個のグランド端子位置に接続する。ここに「グランド端子位置」とは,例えばボンディングパッド,グランドバンプ,ボンディングワイヤなど,外部グランドとの接続に適用可能な全ての構成部を意味する。しかし,両DMSトラック間におけるグランド端子位置は,共通内側グランドラインにおける対向端部に配置することも可能である。
【0013】
変換器のグランド端子は,この場合には変換器の電極として機能し,該電極は,例えば2個の等しい大きさの信号がガルバニック接続によって互いに異なる極性に設定されて相殺し合う場合に信号を伝えず,そのため「グランド」の基準ポテンシャルと接続するか,又は仮想グランド上に配置されるものである。
【0014】
共通内側グランドラインと接続ラインは,互いに垂直に配置されて交差する。交差域においては,好適には上部に配置された共通内側グランドラインと,下部を走る接続ラインとの間に,絶縁のため及びオーム抵抗による損失を避けるため,誘電体が配置される。
【0015】
SAWフィルタは,上述したような,それぞれ6個の変換器を備える直列接続した両DMSトラック以外に更なるフィルタ素子を必要としないため,既知の解決策と比較して,所用のチップ面積が最小限となる。また両DMSトラック間の領域にグランド端子位置を配置しないため,更にチップ面積が極小化される。
【0016】
共通内側グランドラインは,好適にはDMSトラックの全長に亘って伸長し,接続ラインを通過する第1DMSトラックのグランドフローを両側に,特に両DMSトラックの間から外側に導く。このようにして,グランドフローの流れにより誘発された磁気モーメントが相殺され,グランドフローによって決定される両DMSトラックの磁気結合が低減される。
【0017】
このフィルタは,機能性を完全にするため両DMSトラックに対して直列接続しなければならない更なる共振器を必要とせず,僅かな挿入損失下で良好な平衡性を示している。
【0018】
一実施形態において,両DMSトラックはそれぞれ中央反射器を備え,各DMSトラックが大きさの等しい2個の半トラック部に分割され,各半トラック部には少なくともそれぞれ3個又は4個の変換器を配置する。中央反射器によって,各DMSトラックは電気的に並列接続する半トラック部に分割される。その半トラック部は,入力側である第1DMSトラックにおいて既に,第2DMSトラックの平衡ポートに向けて平衡信号を導くことが可能である。
【0019】
両DMSトラックにおける各半トラック部では,2個の接続変換器の間に入力変換器又は出力変換器が配置される。入力変換器が4個である場合,入力変換器は接続変換器と交互に配置される。指端子配列は,半トラック部における両方の接続変換器と接続する接続ラインが,フィルタ機能時に互いに180度の位相差を示すよう配置されるため,第2DMSトラックの対応する半トラック部と差動モードで結合する。
【0020】
更に指端子配列は,4個の接続ラインのうち中央にある両方の接続ラインが互いに差動モードで作動するよう配置され,直に隣接する全ての接続ラインの間を差動モードとする。これにより,差動モードで作動するよう隣接配置された接続変換器のグランドフローも,グランド側で逆位相となるため,ガルバニック接続されている限り,互いに相殺し合うことになる。正のポテンシャルに対して作用するグランドは,負のポテンシャルに対して接続されたグランドとは異なる電流フローに影響を及ぼす。このような「異なる」グランドポテンシャルが直接に接続する場合,電流強度が同じである場合にはチップ上のグランド端子内部で既にグランドフローが完全に相殺し合い,さもなければフィルタの入力部と出力部の間で不所望な接続を生じさせることとなるグランドフローが,ハウジングに流れることはない。
【0021】
一実施形態において,第1トラックにおける両方の内側接続変換器のグランド端子は,第2DMSトラックから離れて不平衡ポート側を向いた箇所で,第1中央ラインにより互いに接続される。この第1中央ラインは,グランドフリーとすることが可能であり,外部のグランドポテンシャルと直接に接続する必要はない。
【0022】
良好な平衡性を達成するため,中央反射器は第1中央ラインに接続する。更に中央反射器は,内側の共通グランドラインと接続し,第1中央ラインは第1DMSトラックの中央反射器により,外部のグランドポテンシャルと電気的に接続することになる。
【0023】
本発明の更なる実施形態において,第2DMSトラックにおける両方の内側接続変換器のグランド端子は第1トラックから平衡ポート側を向いた箇所で,第2中央ラインにより互いに接続される。その第2中央ラインにおいては,同様に逆向きのグランドフローが相殺し合うため,第2中央ラインは仮想グランド上に配置する。第2DMSトラックにおける中央反射器は,第2中央ラインに接続可能である。
【0024】
一実施形態においては,第2中央ラインが外部のグランドポテンシャルと接続する。
【0025】
本発明の更なる実施形態においては,各接続変換器の両方の外側指が第1及び第2トラック上でグランドポテンシャル又は仮想グランド上に配置されるため,両トラック間の静電シールドが改善され,選択性及びアイソレーション特性も向上する。通常の場合,電極指は交互にそれぞれの変換器の一方又は両方の端子と接続するため,接続変換器においては必要となる電極指が一様でない。グランドポテンシャル又は仮想グランドと接続する電極指は,隣接する変換器における隣接する電極指と共に相互作用をより低減するため,隣接する2個の変換器間の結合が低減する。このため,入力変換器と接続変換器の間,及び接続変換器と出力変換器の間で静電結合が弱まる。
【0026】
入力側と出力側の間の更なる静電シールドは,両DMSトラック間に配置された共通内側グランドラインにより構成され,両側で両DMSトラックの全長に亘ってシールド効果を発現する。即ち,共通内側グランドラインは静電シールドバーを構成することになる。
【0027】
両DMSトラック間に位置する第2内側ラインは,2本の接続ラインと交差する。その交差域においては,互いに交差する両ラインが,同様にその間に配置された誘電体によって分割される。誘電体はそれぞれ1面が構成化され,その面は同一の接続ラインにおける2箇所の交差域を,第2の内側グランドラインと及び共通内側グランドラインによって覆い,そこで両方の交差ラインを互いに絶縁させる。
【0028】
更なる実施形態においては,両DMSトラックの端部を越えた外側グランドラインを備え,該外側グランドラインは,共通内側グランドラインの延長部分にあるグランド端子位置を,端部反射器の周囲で各DMSトラックの外側接続変換器のグランド端子と接続する。従って端部反射器は,内側の共通グランドライン及び外側のグランドラインの両方と接続する。
【0029】
更なる実施形態において,第1及び第2DMSトラックにおけるグランド端子は,圧電チップ上で互いに分離可能である。この場合,第1DMSトラックの変換器及び反射器の全てのグランド端子は,第2DMSトラックのグランド端子から分離され,即ち別のグランド端子位置で接続されるか,又は仮想グランド上に配置される。追加された2個のグランド端子位置により,第2DMSトラックにおける両方の端部反射器及び接続変換器をグランドに接続可能である。しかし,第2DMSトラックにおける両方の端部反射器を,第2外側グランドラインによって互いに接続し,第2外側グランドラインを1箇所の中央グランド端子位置に接続することも可能であり,該中央グランド端子位置は,第1DMSトラックのグランド端子に対して絶縁される。
【0030】
第2DMSトラックにおける中央反射器は,第2中央ラインと接続する。しかし,好適には,該中央反射器は第2内側ラインとは接続せず,それによって内側の接続ラインのグランド端子と分離され,該グランド端子に対してより良好な状態で絶縁される。
【0031】
伝播経路の交差部,例えば共通内側グランドライン及び第二内側ラインと接続ラインとの交差部などは,2層構造のメタライジング部として構成することができる。より薄い第1メタライジング層においては,電極指,変換器のバスバー,反射器,接続ライン,共通中央ライン及び第2中央ラインの一部,第1及び/又は第2外部グランドラインを実装する。第1メタライジング層上に配置するより厚い第2メタライジング層においては,少なくともライン構造で欠けている部分と,必要に応じて変換器の電気端子バーとを実装する。少なくとも,既に第1メタライジング層上に形成されている構造の一部の上に,第1メタライジング層の補強を目的として第2メタライジング層を施し,オーム抵抗を低減することも可能である。互いに交差する両方のラインのそれぞれの絶縁が必要となる交差域には誘電体を配置し,その誘電体は特に有機ポリマーが適当であるが,無機ポリマーも適用可能である。誘電体は好適には長方形の層構造とし,それぞれの交差域に配置する。
【0032】
第1及び第2メタライジング層間で電気的な接続が必要とされる部位においては,第1及び第2メタライジング層の伝播経路間で十分に広い接触面積をとる。これにより,遷移抵抗を低減し,SAWフィルタにおける損失を減少させる。両DMSトラックの間隔を最小限とするため,接続ラインは第1メタライジング層上のみに実装可能であり,これにより低オーム抵抗接続のために必要とされる第1及び第2メタライジング層間の接触面積を節減することができる。
【0033】
第1及び第2メタライジング層の素材及び構成は,完全に同一とすることができる。しかし,第1と第2メタライジング層を異なる素材又は構成で形成することも可能である。特に,第1メタライジング層の最上層と第2メタライジング層の最下層に関しては,移行抵抗がより低減するよう選択する。
【0034】
SAWフィルタの更なる実施形態は,電極指の本数及び配置に関するものである。この場合,特に,接続ラインにより互いに接続する接続変換器は,等しい本数の電極指を備える。第1中央ライン又は第2中央ラインにより互いに接続する両DMSトラックの内側接続変換器は,それぞれ等しい本数の電極指を備えることが可能である。内側及び外側接続変換器間では,電極指の本数を異ならせることができる。好適には,内側接続変換器における電極指の本数を,各DMSトラックにおける他の変換器との対比において減少させる。出力変換器における変換器指の本数は,入力変換器との対比において増加させることが可能である。
【0035】
2個の変換器の間又は1個の変換器と1個の反射器の間では,1個のDMSフィルタにおいて,技術的要件から異なる指間隔が決定される。このように,通常の間隔から逸脱した指/指間隔が突然現出することに起因する音響的損失及びそれに伴なう電気的損失を低減するため,それぞれ隣り合う変換器又は反射器を備える末端の電極指の複数本が,移行部を構成することとする。該移行部において,この末端の電極指の間,又は末端の反射ストライプの間の電極指又は反射ストライプの間隔及び/又は幅が異なり,通常の指/指間隔から逸脱した差分が,移行域における全ての指/指間隔に分散される。移行域において,隣接する2個の変換器の末端の指においては,変換器又はフィルタの中心周波数の前の基準周波数を定義する通常の電極指間隔に対して,指間隔を減少させる。外側反射器と接続変換器の間で互いに備える移行域においては,反射ストライプの間隔及び/又は幅,あるいは各反射器又は各変換器における指の間隔及び/又は幅を,反射器又は変換器における通常の指との対比において拡大させる。
【0036】
この場合,それぞれの移行域は2本〜15本,好適には4本〜9本の電極指又は反射ストライブを備えることとする。
【0037】
異なる移行域を異なる大きさで構成すること,即ち末端の電極指又は反射ストライプの数を異ならせて伸長させることが好適である。1個の変換器から隣接する変換器への移行部,又は1個の変換器から隣接する反射器への移行部においては,それぞれ1個の移行域のみが備わり,その移行域は,変換器及び反射器から選択された1個の素子における末端の電極指又は反射ストライプを含むこととする。
【0038】
1個の反射器と1個の変換器との間の移行域において,電極指間隔又は反射ストライプ間隔は通常値に対して5%まで変化させることが可能である。2個の変換器の間の移行域においては,電極指間隔は通常値に対して10%まで変化させることが可能である。
【0039】
何れの場合においても,移行域に存在する電極指及び反射ストライプの本数,即ち電極指及び反射ストライプの本数が変更されている状態での電極指及び反射ストライプの本数は,各変換器又は反射器における電極指又は反射ストライプの全本数の半分を下回ることとする。
【0040】
更なる実施形態においては,反射ストライプの間隔は電極指の間隔よりも広く,例えば3.5%を上限として電極指の間隔を上回る。
【0041】
両方の内側接続変換器の指本数は,外側接続変換器の指本数よりも2本程度少なくすることが可能である。両方の出力変換器の指本数は,両方の入力変換器よりも4本程度増やすことができる。
【0042】
更なる実施形態においては,入力側と出力側の両者が平衡作動するようフィルタを構成することができる。このために原則的に必要な構成は,不平衡/平衡作動型フィルタにおいて第1DMSトラックの入力変換器のうちの1個を傾斜させること,即ち軸を両方のDMSトラックに対して平行に反転させることだけである。この方法により,反転された変換器の各電極指の極性が逆極性となる。
【0043】
以下,本発明を図示の実施形態に基づいて更に詳説する。図面において,変換器及び反射器は正寸ではなく,単に概略的に示されている。即ち,両DMSトラックの間隔やストライプ幅などの寸法は,異なる尺度で表すことができる。