特許第5764204号(P5764204)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764204
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】平衡/不平衡作動型のSAWフィルタ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/64 20060101AFI20150723BHJP
   H03H 9/145 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   H03H9/64 Z
   H03H9/145 Z
   H03H9/145 D
【請求項の数】19
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-510617(P2013-510617)
(86)(22)【出願日】2011年5月18日
(65)【公表番号】特表2013-526808(P2013-526808A)
(43)【公表日】2013年6月24日
(86)【国際出願番号】EP2011058059
(87)【国際公開番号】WO2011144664
(87)【国際公開日】20111124
【審査請求日】2014年2月7日
(31)【優先権主張番号】102010021164.8
(32)【優先日】2010年5月21日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510263560
【氏名又は名称】エプコス アーゲー
【氏名又は名称原語表記】EPCOS AG
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】トーマス バウアー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス デトレフセン
(72)【発明者】
【氏名】ステファン ボルズ
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ ダーナー
【審査官】 橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−028825(JP,A)
【文献】 特開2006−186433(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/009021(WO,A1)
【文献】 国際公開第03/003574(WO,A1)
【文献】 特開2005−184143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H9/00−9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の構成要件を備えるSAWフィルタ。
・平衡ポート(P2)及び不平衡ポート(P1)を備えること。
・2個の入力変換器(W12,W15)が配置され,前記不平衡ポート(P1)に接続された第1DMSトラック(SP1)を備えること。
・該第1DMSトラックに対して幾何学的に平行に配置された第2DMSトラック(SP2)を備え,該第2DMSトラックにおいて2個の出力変換器(W22,W25)が前記平衡ポート(P2)の2個の端子と接続すること。
・前記第1DMSトラック及び第2DMSトラックが,それぞれ4個の接続変換器(W11,W13,W4,W16;W21,W23,W24,W26)を備えること。
・4本の接続ライン(KL1,KL2,KL3,KL4)を備え,各接続ラインが前記第1DMSトラック(SP1)及び第2DMSトラック(SP2)の各1個の接続変換器を互いに接続することで両DMSトラックを電気的に直列接続すること。
・各DMSトラックの変換器が,それぞれのDMSトラックを限定する各2個の端部反射器(R11,R13,R21,R23)の間に配置されること。
・入力変換器のグランド端子が前記第2DMSトラック(SP2)側を向き,両DMSトラック間で共通内側グランドライン(GIL)と接続し,該共通内側グランドライン(GIL)が,両DMSトラック間に配置され,かつ,両端部でグランド端子(MP1,MP2)のそれぞれと接続すること。
・前記第2DMSトラック(SP2)において,出力変換器(W22,W25)のグランド端子が前記第1DMSトラック(SP1)側を向き,前記両方のDMSトラック間に配置されたポテンシャルフリーの第2内側ライン(IL2)と接続すること。
・前記共通内側グランドライン及び前記第2内側ライン(IL2)が前記接続ライン(KL)と交差し,前記共通内側グランドライン(GIL)と,前記第2内側ライン及び前記接続ライン(KL)との間にその交差域で誘電体(D1,D2,D3,D4)がそれぞれ配置されること。
前記第1DMSトラック(SP1)の前記変換器は,前記4本の接続ライン(KL)が,配置順に交互に逆位相となって機能するよう指端子配列を配置すること。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルタであって,両DMSトラック(SP1,SP2)のそれぞれに中央反射器(R12,R22)が配置され,該中央反射器が各DMSトラックを2個の半トラック部に分割し,各半トラック部が少なくとも3個の変換器を備えるフィルタ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフィルタであって,両DMSトラックの各半トラック部において,2個の接続変換器の間に入力変換器又は出力変換器が配置されているフィルタ。
【請求項4】
請求項に記載のフィルタであって,前記第1DMSトラック(SP1)における両方の内側接続変換器のグランド端子が,前記第2DMSトラック(SP2)から離れて前記不平衡ポート(P1)に向けて延在し,そこで第1中央ライン(ML1)によって互いに接続し,該第1中央ライン(ML1)は更に外側のグランドポテンシャル(MP)と接続するフィルタ。
【請求項5】
請求項に記載のフィルタであって,前記第2DMSトラック(SP2)の両方の内側接続変換器(W23,W24)のグランド端子が,前記第1DMSトラック(SP1)から離れ,前記平衡ポート(P2)側を向き,そこで第2中央ライン(ML2)によって互いに接続するフィルタ。
【請求項6】
請求項に記載のフィルタであって,前記第1DMSトラック(SP1)の前記中央反射器(R12)が,前記共通内側グランドライン(GIL)及び前記第1中央ライン(ML1)と接続するフィルタ。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載のフィルタであって,前記第1及び第2DMSトラック上の接続変換器が一様でない数の電極指を有し,両方の外側の指は,グランドポテンシャル上にあるフィルタ。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載のフィルタであって,前記第1DMSトラック(SP1)における両方の外側接続変換器(W11,W16)と,前記第2DMSトラック(SP2)における両方の外側接続変換器(W21,W26)とが,両方の前記端部反射器(R11,R13,R21,R23)の周囲を回り,2本の外側グランドライン(MLA1,MLA2)を経て,両方のグランド端子(MP1,MP2)又は前記共通内側グランドライン(GIL)と接続するフィルタ。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか一項に記載のフィルタであって,両DMSトラックのグランド端子が,圧電基板上で電気的に遮断されているフィルタ。
【請求項10】
請求項に記載のフィルタであって,前記第2DMSトラック(SP2)において,前記中央反射器(R22)は前記第2中央ライン(ML2)を介して,前記内側接続変換器(W23,W24)の両者と接続するフィルタ。
【請求項11】
請求項に記載のフィルタであって,前記第2中央ライン(ML2)はグランドポテンシャルと接続するフィルタ。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか一項に記載のフィルタであって,互いに接続する接続変換器の電極指の本数が等しいフィルタ。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか一項に記載のフィルタであって,それぞれのDMSトラックの内側接続変換器における変換指の本数が,他の変換器における変換指の本数より少ないフィルタ。
【請求項14】
請求項1〜13の何れか一項に記載のフィルタであって,前記出力変換器(W22,W25)における変換指の本数が,前記入力変換器(W12,W15)における変換指の本数よりも多いフィルタ。
【請求項15】
請求項1〜14の何れか一項に記載のフィルタであって,グランドライン及び接続ラインを含む前記の全てのラインのそれぞれが,圧電チップ上のメタライジングとして構成されるフィルタ。
【請求項16】
請求項15に記載のフィルタであって,前記ライン,前記グランドライン及び前記接続ラインが,圧電チップ上の異なる2層のメタライジング層のうちの1層の内部に構成されるか,又は両方のメタライジング層を含むかするフィルタ。
【請求項17】
請求項1〜16の何れか一項に記載のフィルタであって,前記不平衡ポートが2極直列素子によってアンテナ端子と接続し,該2極素子は通過帯域の下部でキャパシタとして機能するフィルタ。
【請求項18】
請求項17に記載のフィルタであって,前記2極素子は,インターデジタル構成で圧電チップ上に配置されるフィルタ。
【請求項19】
請求項1〜18の何れか一項に記載のフィルタを,デュプレクサのRXフィルタとするフィルタの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
SAWフィルタを受信フィルタとして使用するには,しばしば不平衡入力部と平衡出力部が必要となり,これにより不平衡アンテナ端子と平衡信号処理回路を有するトランシーバICとの間にバランを追加する必要がなくなる。このような受信フィルタは,不平衡/不平衡作動型の更なるフィルタと共にデュプレクサに相互接続することが可能である。しかしながら,平衡/平衡作動型フィルタをバランに接続すると,入力部及び出力部での接続が同様に平衡/不平衡型として作動する可能性がある。
【背景技術】
【0002】
デュプレクサにおいては,受信フィルタに更なる要件が求められる。例えば,送信フィルタと受信フィルタの間では60dBよりも高いコモンモードアイソレーション特性や,送信バンドにおいて60dBを超える高い差動モードアイソレーション特性が要求される。また,一般的にフィルタの製造コストをできるだけ削減することや,挿入損失を可及的に低減して実装することも求められる。更に,平衡出力部において平衡性が高いことも求められ,散乱も最小限とする必要がある。
【0003】
米国特許第7369015号明細書は,2個のDMSトラックを直列接続した平衡/不平衡作動型SAWを開示している。更に既知の受信フィルタは,ラダー型フィルタと単一トラック型DMSフィルタを用いている。これらの回路の短所は,アイソレーションレベルが十分でないこと,並びに広いチップ面積を必要とすることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7369015号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は,受信フィルタに適したSAWフィルタとして,デュプレクサ内におけるRXフィルタに関する前記要件を満足し,所要チップ面積及び挿入損失を低減してアイソレーション特性を向上させたSAWフィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は,請求項1に記載した特徴を備えたSAWフィルタにより解決される。また,本発明の好ましい実施形態は,従属請求項に記載したとおりである。
【0007】
本発明は,互いに直列接続する2個のDMSトラックを備えたSAWフィルタを提案する。第1DMSトラックは2個の入力変換器によって不平衡ポートと接続する。しかし,より多数の入力変換器,特に平衡性の観点から常に偶数個の入力変換器を備えることも可能である。
【0008】
第2DMSトラックは,第1DMSトラックと幾何学的に平行に配置する。第2DMSトラック上には出力変換器を2個配置し,該出力変換器の両方の端子は平衡ポートと接続する。
【0009】
第1及び第2DMSトラックはそれぞれ4個の接続変換器を備え,両DMSトラックにおける各1個ずつの接続変換器は接続ラインにより互いに接続される。
【0010】
各DMSトラックにおいて,各DMSトラックを規定するそれぞれ2個の端部反射器の間に変換器を配置する。両DMSトラック間には,DMSトラックと平行に共通内側グランドラインが配置され,その共通内側グランドラインは入力変換器のグランド端子と接続し,任意的に端部反射器とも接続する。
【0011】
第2DMSトラックにおける出力変換器のグランド端子は第1DMSトラック側に向けて配置され,両DMSトラック間に配置された第2内側ラインと接続する。第2内側ラインは,グランドフリーであり,外部グランドポテンシャルとは接続していない。このようにして,出力変換器が接続部を介して外部グランドポテンシャルと間接的にグランド接続することを防ぎ,グランドポテンシャルによって生じ得る出力変換器のガルバニック接続の可能性を完全に排除する。
【0012】
好適には,共通内部グランドラインは両側で,両方のトラックの間から外側へ導かれ,両方のトラック間の外側に配置された2個のグランド端子位置に接続する。ここに「グランド端子位置」とは,例えばボンディングパッド,グランドバンプ,ボンディングワイヤなど,外部グランドとの接続に適用可能な全ての構成部を意味する。しかし,両DMSトラック間におけるグランド端子位置は,共通内側グランドラインにおける対向端部に配置することも可能である。
【0013】
変換器のグランド端子は,この場合には変換器の電極として機能し,該電極は,例えば2個の等しい大きさの信号がガルバニック接続によって互いに異なる極性に設定されて相殺し合う場合に信号を伝えず,そのため「グランド」の基準ポテンシャルと接続するか,又は仮想グランド上に配置されるものである。
【0014】
共通内側グランドラインと接続ラインは,互いに垂直に配置されて交差する。交差域においては,好適には上部に配置された共通内側グランドラインと,下部を走る接続ラインとの間に,絶縁のため及びオーム抵抗による損失を避けるため,誘電体が配置される。
【0015】
SAWフィルタは,上述したような,それぞれ6個の変換器を備える直列接続した両DMSトラック以外に更なるフィルタ素子を必要としないため,既知の解決策と比較して,所用のチップ面積が最小限となる。また両DMSトラック間の領域にグランド端子位置を配置しないため,更にチップ面積が極小化される。
【0016】
共通内側グランドラインは,好適にはDMSトラックの全長に亘って伸長し,接続ラインを通過する第1DMSトラックのグランドフローを両側に,特に両DMSトラックの間から外側に導く。このようにして,グランドフローの流れにより誘発された磁気モーメントが相殺され,グランドフローによって決定される両DMSトラックの磁気結合が低減される。
【0017】
このフィルタは,機能性を完全にするため両DMSトラックに対して直列接続しなければならない更なる共振器を必要とせず,僅かな挿入損失下で良好な平衡性を示している。
【0018】
一実施形態において,両DMSトラックはそれぞれ中央反射器を備え,各DMSトラックが大きさの等しい2個の半トラック部に分割され,各半トラック部には少なくともそれぞれ3個又は4個の変換器を配置する。中央反射器によって,各DMSトラックは電気的に並列接続する半トラック部に分割される。その半トラック部は,入力側である第1DMSトラックにおいて既に,第2DMSトラックの平衡ポートに向けて平衡信号を導くことが可能である。
【0019】
両DMSトラックにおける各半トラック部では,2個の接続変換器の間に入力変換器又は出力変換器が配置される。入力変換器が4個である場合,入力変換器は接続変換器と交互に配置される。指端子配列は,半トラック部における両方の接続変換器と接続する接続ラインが,フィルタ機能時に互いに180度の位相差を示すよう配置されるため,第2DMSトラックの対応する半トラック部と差動モードで結合する。
【0020】
更に指端子配列は,4個の接続ラインのうち中央にある両方の接続ラインが互いに差動モードで作動するよう配置され,直に隣接する全ての接続ラインの間を差動モードとする。これにより,差動モードで作動するよう隣接配置された接続変換器のグランドフローも,グランド側で逆位相となるため,ガルバニック接続されている限り,互いに相殺し合うことになる。正のポテンシャルに対して作用するグランドは,負のポテンシャルに対して接続されたグランドとは異なる電流フローに影響を及ぼす。このような「異なる」グランドポテンシャルが直接に接続する場合,電流強度が同じである場合にはチップ上のグランド端子内部で既にグランドフローが完全に相殺し合い,さもなければフィルタの入力部と出力部の間で不所望な接続を生じさせることとなるグランドフローが,ハウジングに流れることはない。
【0021】
一実施形態において,第1トラックにおける両方の内側接続変換器のグランド端子は,第2DMSトラックから離れて不平衡ポート側を向いた箇所で,第1中央ラインにより互いに接続される。この第1中央ラインは,グランドフリーとすることが可能であり,外部のグランドポテンシャルと直接に接続する必要はない。
【0022】
良好な平衡性を達成するため,中央反射器は第1中央ラインに接続する。更に中央反射器は,内側の共通グランドラインと接続し,第1中央ラインは第1DMSトラックの中央反射器により,外部のグランドポテンシャルと電気的に接続することになる。
【0023】
本発明の更なる実施形態において,第2DMSトラックにおける両方の内側接続変換器のグランド端子は第1トラックから平衡ポート側を向いた箇所で,第2中央ラインにより互いに接続される。その第2中央ラインにおいては,同様に逆向きのグランドフローが相殺し合うため,第2中央ラインは仮想グランド上に配置する。第2DMSトラックにおける中央反射器は,第2中央ラインに接続可能である。
【0024】
一実施形態においては,第2中央ラインが外部のグランドポテンシャルと接続する。
【0025】
本発明の更なる実施形態においては,各接続変換器の両方の外側指が第1及び第2トラック上でグランドポテンシャル又は仮想グランド上に配置されるため,両トラック間の静電シールドが改善され,選択性及びアイソレーション特性も向上する。通常の場合,電極指は交互にそれぞれの変換器の一方又は両方の端子と接続するため,接続変換器においては必要となる電極指が一様でない。グランドポテンシャル又は仮想グランドと接続する電極指は,隣接する変換器における隣接する電極指と共に相互作用をより低減するため,隣接する2個の変換器間の結合が低減する。このため,入力変換器と接続変換器の間,及び接続変換器と出力変換器の間で静電結合が弱まる。
【0026】
入力側と出力側の間の更なる静電シールドは,両DMSトラック間に配置された共通内側グランドラインにより構成され,両側で両DMSトラックの全長に亘ってシールド効果を発現する。即ち,共通内側グランドラインは静電シールドバーを構成することになる。
【0027】
両DMSトラック間に位置する第2内側ラインは,2本の接続ラインと交差する。その交差域においては,互いに交差する両ラインが,同様にその間に配置された誘電体によって分割される。誘電体はそれぞれ1面が構成化され,その面は同一の接続ラインにおける2箇所の交差域を,第2の内側グランドラインと及び共通内側グランドラインによって覆い,そこで両方の交差ラインを互いに絶縁させる。
【0028】
更なる実施形態においては,両DMSトラックの端部を越えた外側グランドラインを備え,該外側グランドラインは,共通内側グランドラインの延長部分にあるグランド端子位置を,端部反射器の周囲で各DMSトラックの外側接続変換器のグランド端子と接続する。従って端部反射器は,内側の共通グランドライン及び外側のグランドラインの両方と接続する。
【0029】
更なる実施形態において,第1及び第2DMSトラックにおけるグランド端子は,圧電チップ上で互いに分離可能である。この場合,第1DMSトラックの変換器及び反射器の全てのグランド端子は,第2DMSトラックのグランド端子から分離され,即ち別のグランド端子位置で接続されるか,又は仮想グランド上に配置される。追加された2個のグランド端子位置により,第2DMSトラックにおける両方の端部反射器及び接続変換器をグランドに接続可能である。しかし,第2DMSトラックにおける両方の端部反射器を,第2外側グランドラインによって互いに接続し,第2外側グランドラインを1箇所の中央グランド端子位置に接続することも可能であり,該中央グランド端子位置は,第1DMSトラックのグランド端子に対して絶縁される。
【0030】
第2DMSトラックにおける中央反射器は,第2中央ラインと接続する。しかし,好適には,該中央反射器は第2内側ラインとは接続せず,それによって内側の接続ラインのグランド端子と分離され,該グランド端子に対してより良好な状態で絶縁される。
【0031】
伝播経路の交差部,例えば共通内側グランドライン及び第二内側ラインと接続ラインとの交差部などは,2層構造のメタライジング部として構成することができる。より薄い第1メタライジング層においては,電極指,変換器のバスバー,反射器,接続ライン,共通中央ライン及び第2中央ラインの一部,第1及び/又は第2外部グランドラインを実装する。第1メタライジング層上に配置するより厚い第2メタライジング層においては,少なくともライン構造で欠けている部分と,必要に応じて変換器の電気端子バーとを実装する。少なくとも,既に第1メタライジング層上に形成されている構造の一部の上に,第1メタライジング層の補強を目的として第2メタライジング層を施し,オーム抵抗を低減することも可能である。互いに交差する両方のラインのそれぞれの絶縁が必要となる交差域には誘電体を配置し,その誘電体は特に有機ポリマーが適当であるが,無機ポリマーも適用可能である。誘電体は好適には長方形の層構造とし,それぞれの交差域に配置する。
【0032】
第1及び第2メタライジング層間で電気的な接続が必要とされる部位においては,第1及び第2メタライジング層の伝播経路間で十分に広い接触面積をとる。これにより,遷移抵抗を低減し,SAWフィルタにおける損失を減少させる。両DMSトラックの間隔を最小限とするため,接続ラインは第1メタライジング層上のみに実装可能であり,これにより低オーム抵抗接続のために必要とされる第1及び第2メタライジング層間の接触面積を節減することができる。
【0033】
第1及び第2メタライジング層の素材及び構成は,完全に同一とすることができる。しかし,第1と第2メタライジング層を異なる素材又は構成で形成することも可能である。特に,第1メタライジング層の最上層と第2メタライジング層の最下層に関しては,移行抵抗がより低減するよう選択する。
【0034】
SAWフィルタの更なる実施形態は,電極指の本数及び配置に関するものである。この場合,特に,接続ラインにより互いに接続する接続変換器は,等しい本数の電極指を備える。第1中央ライン又は第2中央ラインにより互いに接続する両DMSトラックの内側接続変換器は,それぞれ等しい本数の電極指を備えることが可能である。内側及び外側接続変換器間では,電極指の本数を異ならせることができる。好適には,内側接続変換器における電極指の本数を,各DMSトラックにおける他の変換器との対比において減少させる。出力変換器における変換器指の本数は,入力変換器との対比において増加させることが可能である。
【0035】
2個の変換器の間又は1個の変換器と1個の反射器の間では,1個のDMSフィルタにおいて,技術的要件から異なる指間隔が決定される。このように,通常の間隔から逸脱した指/指間隔が突然現出することに起因する音響的損失及びそれに伴なう電気的損失を低減するため,それぞれ隣り合う変換器又は反射器を備える末端の電極指の複数本が,移行部を構成することとする。該移行部において,この末端の電極指の間,又は末端の反射ストライプの間の電極指又は反射ストライプの間隔及び/又は幅が異なり,通常の指/指間隔から逸脱した差分が,移行域における全ての指/指間隔に分散される。移行域において,隣接する2個の変換器の末端の指においては,変換器又はフィルタの中心周波数の前の基準周波数を定義する通常の電極指間隔に対して,指間隔を減少させる。外側反射器と接続変換器の間で互いに備える移行域においては,反射ストライプの間隔及び/又は幅,あるいは各反射器又は各変換器における指の間隔及び/又は幅を,反射器又は変換器における通常の指との対比において拡大させる。
【0036】
この場合,それぞれの移行域は2本〜15本,好適には4本〜9本の電極指又は反射ストライブを備えることとする。
【0037】
異なる移行域を異なる大きさで構成すること,即ち末端の電極指又は反射ストライプの数を異ならせて伸長させることが好適である。1個の変換器から隣接する変換器への移行部,又は1個の変換器から隣接する反射器への移行部においては,それぞれ1個の移行域のみが備わり,その移行域は,変換器及び反射器から選択された1個の素子における末端の電極指又は反射ストライプを含むこととする。
【0038】
1個の反射器と1個の変換器との間の移行域において,電極指間隔又は反射ストライプ間隔は通常値に対して5%まで変化させることが可能である。2個の変換器の間の移行域においては,電極指間隔は通常値に対して10%まで変化させることが可能である。
【0039】
何れの場合においても,移行域に存在する電極指及び反射ストライプの本数,即ち電極指及び反射ストライプの本数が変更されている状態での電極指及び反射ストライプの本数は,各変換器又は反射器における電極指又は反射ストライプの全本数の半分を下回ることとする。
【0040】
更なる実施形態においては,反射ストライプの間隔は電極指の間隔よりも広く,例えば3.5%を上限として電極指の間隔を上回る。
【0041】
両方の内側接続変換器の指本数は,外側接続変換器の指本数よりも2本程度少なくすることが可能である。両方の出力変換器の指本数は,両方の入力変換器よりも4本程度増やすことができる。
【0042】
更なる実施形態においては,入力側と出力側の両者が平衡作動するようフィルタを構成することができる。このために原則的に必要な構成は,不平衡/平衡作動型フィルタにおいて第1DMSトラックの入力変換器のうちの1個を傾斜させること,即ち軸を両方のDMSトラックに対して平行に反転させることだけである。この方法により,反転された変換器の各電極指の極性が逆極性となる。
【0043】
以下,本発明を図示の実施形態に基づいて更に詳説する。図面において,変換器及び反射器は正寸ではなく,単に概略的に示されている。即ち,両DMSトラックの間隔やストライプ幅などの寸法は,異なる尺度で表すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の第1実施形態であるSAWフィルタの概略図である。
図2A図2Aは,本発明に係る受信フィルタと既知の受信フィルタの通過帯域特性の比較グラフであり,両フィルタはデュプレクサの一部分として機能する。
図2B図2Bは,本発明に係る受信フィルタと既知の受信フィルタの通過帯域特性の比較グラフであり,両フィルタはデュプレクサの一部分として機能する。
図2C図2Cは,本発明による受信フィルタを備えたデュプレクサと,既知の受信フィルタを備えたデュプレクサの,差動モードアイソレーション特性の比較グラフである。
図2D図2Dは,本発明による受信フィルタを備えたデュプレクサと,既知の受信フィルタを備えたデュプレクサの,コモンモードアイソレーション特性の比較グラフである。
図2E図2Eは,本発明に係る受信フィルタを備えたデュプレクサと,既知の受信フィルタを備えたデュプレクサにおける,アンテナとデュプレクサのRx出力部間のコモンモード抑圧特性の比較グラフである。
図2F図2Fは,平衡ポートにおける振幅平衡性を示すグラフである。
図2G図2Gは,平衡ポートにおける位相平衡性を示すグラフである。
図3A】1の実施形態に係る図2A図2Gと同一のパラメータと,第1の実施形態に対して異ならせたパラメータとの比較グラフである。
図3B】1の実施形態に係る図2A図2Gと同一のパラメータと,第1の実施形態に対して異ならせたパラメータとの比較グラフである。
図3C】1の実施形態に係る図2A図2Gと同一のパラメータと,第1の実施形態に対して異ならせたパラメータとの比較グラフである。
図3D】1の実施形態に係る図2A図2Gと同一のパラメータと,第1の実施形態に対して異ならせたパラメータとの比較グラフである。
図3E】1の実施形態に係る図2A図2Gと同一のパラメータと,第1の実施形態に対して異ならせたパラメータとの比較グラフである。
図3F】1の実施形態に係る図2A図2Gと同一のパラメータと,第1の実施形態に対して異ならせたパラメータとの比較グラフである。
図3G】1の実施形態に係る図2A図2Gと同一のパラメータと,第1の実施形態に対して異ならせたパラメータとの比較グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は,本発明に係るSAWフィルタの実施形態を示す概略図である。SAWフィルタは第1トラックSP1を有し,該第1トラックSP1上には,変換器W11から変換器W16の計6個が,第1及び第2端部反射器R11とR13の間に配置される。中央反射器R12は第1DMSトラックを2個の半トラック部に分割し,半トラック部のそれぞれに3個の変換器が配置される。
【0046】
第1DMSトラックSP1と平行に第2DMSトラックSP2が配置され,該第2DMSトラックSP2は,変換器及び反射器配置の点で原則的に第1トラックSP1と同様の構成を有する。この観点から,第2DMSトラックSP2は,例えば第1DMSトラックSP1に対して鏡像対称に構成することが可能であり,この場合の対称要素として両トラック間に存在する仮想鏡面を用いることができる。しかし,この対称性は個々の変換器には適用されず,個々の変換器の構成は両トラック間で異ならせることが可能である。
【0047】
両方のDMSトラックに,異なる個数の変換器を配置することもできる。特に第1DMSトラック上の入力変換器の個数は,第2DMSトラック上の入力変換器の個数と異なってもよい。
【0048】
第1DMSトラックSP1の各半トラック部上では,3個の変換器のうちそれぞれ中央の変換器が,入力変換器W12,W15として機能する。両方の入力変換器は平行に配置され,SAWフィルタの第1ポートP1の不平衡端子と接続する。第1DMSトラックの左半トラック部上では,2個の接続変換器W11とW13の間に入力変換器W12を配置する。第2入力変換器W15は,第1DMSトラックSP1の右側の半トラック部上で,2個の接続変換器W14とW16の間に配置する。
【0049】
第2DMSトラックSP2上では同様に,各半トラック部における中央の変換器が出力変換器W22,W25として機能し,出力変換器W22,W25は,平衡ポートP2の2個の端子と接続する。第2DMSトラックSP2の左半トラック部上の出力変換器W22は,2個の接続変換器W21とW23の間に配置し,一方右半トラック部上の出力変換器W25は,両方の接続変換器W24,W26の間に配置する。
【0050】
両DMSトラックSP1,SP2は,4本の接続ラインKL1からKL4によって互いに直列接続する。各接続ラインは,第1トラック上の接続変換器を,第2トラック上の対応する接続変換器と接続する。例えば,第1接続ラインKL1は,第1DMSトラックSP1の左半トラック部の左の接続変換器W11を,第2DMSトラックSP2の左半トラック部の左の接続変換器W21と接続する。残りの変換器についても,対応するペア同士である結合変換器W13とW23,W14とW24,W16とW26が接続する。
【0051】
両方の入力変換器W12,W15のグランド端子は,第2DMSトラックSP2に向かい,両方のDMSトラックの間に配置された共通内側グランドラインGILによって接続される。共通内側グランドラインGILは両方のDMSトラックと平行して配置され,DMSトラック間の領域からその両側で外側へ至る。共通内側グランドラインGILは,両側でそれぞれグランド端子MP1,MP2と接続する。更に,第1DMSトラックの中央反射器R12と両方の端部反射器R11,R13も,共通内側グランドラインGILと接続する。
【0052】
端部反射器は,各DMSトラックの長手方向端部を構成する。両側の長手方向端部で,各端部反射器の周囲を回る2本の外側グランドラインMLA1,MLA2によって,両方の外側接続変換器W11,W16が共通内側グランドラインGILと接続し,そこに接続しているグランド端子MP1,MP2とも接続する。更に外側グランドラインMLA1,MLA2は下に伸長し,第2DMSトラックSP2の長手方向端部の周囲を回り,第2DMSトラックSP2の両方の末端接続変換器W21,W26と接続する。このようにして,共通内側グランドラインGILと両方の外側グランドラインMLA1,MLA2とが接続することで,第1と第2のDMSトラック間の静電シールド,及びSAWフィルタの両方の長手方向端部の間の静電シールドが実現される。
【0053】
第1DMSトラックSP1の両方の内側接続変換器W13,W14は,第1中央ラインML1によって互いに接続する。第1DMSトラックSP1の中央反射器R12も,該第1中央ラインML1と接続する。更に中央反射器R12は共通内側グランドラインGILとも接続する。これによって,両方の内側接続変換器W13,W14は,両方のグランド端子MP1,MP2を介して外部のグランドポテンシャルと接続する。
【0054】
基板上で下側に配置した4本の各接続ラインKL1〜KL4と,該接続ラインKL1〜KL4に対して横向きにその上側で延在させた共通内側グランドラインGILとの間の交差域に誘電体D1〜D4の各構成層を配置し,誘電体同士は互いに交差するラインにより絶縁する。誘電体の一例としては,BCB(ベンゾシクロブテン)が挙げられる。
【0055】
第2DMSトラックSP2においては,両方の出力変換器W22,S25のグランド端子が第2内側ラインIL2と接続する。第2内側ラインIL2は,両方の中央接続ラインKL2,KL3と交差し,中央の接続ラインKL2,KL3に対して,同様に誘電体によって絶縁される。更に好適には,誘電体は第2及び第3の接続ラインKL2,KL3上を伸長するため,誘電体の表面が両方の交差域上で,接続ラインKLの第1及び第2メタライジング層,及び第2内側ラインIL2である共通内側グランドラインGILに対して同様に絶縁効果を発揮できる。第2内側ラインIL2は外部のグランドポテンシャルとは接続しておらず,グランドフリーであり仮想グランドとなる。
【0056】
第2DMSトラックSP2の両方の内側接続変換器W23,W24のグランド端子は,第2中央ラインML2を介して互いに接続し,第2中央ラインML2には,第2DMSトラックの中央反射器R22とも接続可能である。第2中央ラインML2は同様にフロートさせることも可能であり,又は外部のグランドポテンシャルとも接続できる。
【0057】
図1においては,外部のグランドポテンシャルと接続する変換器及び反射器は全て黒で示す。信号を伝える変換器構成は灰色で,一方仮想グランド接続する変換器構成は色を付けずに白で示す。図において,各変換器の電極指は実際よりもはるかに個数が少なく,反射ストライプの個数も実際より少ない。しかし各反射器のそれぞれの末端指の極性は,正しく図示されており,配置全体において対応する極性と指端子配列が明らかになる。例えば,第1トラックの接続変換器W11,W13,W14及びW16は,それぞれ最も外側に2個の電極指を備え,最も外側の該電極指は外部のグランドポテンシャルと接続する。こうして,入力変換器と第2トラックと接続する接続変換器との間に,静電シールドが与えられる。
【0058】
一方,両方の入力変換器W12とW15は平行して第1ポートP1と接続して同じポテンシャル上に並び,対応する指の配置によって隣り合う2個の接続ラインそれぞれの間で,位相が180度反転する。これにより,例えば両方の中央接続変換器W13とW14へのグランドフローが,第1中央ラインML1でのポテンシャルが異なるために抹消され,中央反射器R12を介して外部のグランド端子へと至るフローが最小になるという利点が生じる。
【0059】
両方の入力変換器のグランド端子が結合することで発生するグランドフローは,位相が等しい。しかしグランドフローは,SAWフィルタの長手方向の両端部に向って平衡に導かれ,平衡性が高いため,実際にはグランド端子MP1,MP2へと至る2本の等しいサイズのグランドフローとなる。従って,フローと結合する電磁場は異なる極性を示し,互いに相殺し合う。
【0060】
本発明に係るSAWフィルタの異なる伝播経路の交差域においては,2層の異なるメタライジング層が必要であり,該メタライジング層は互いに時間差をおいて形成される。両方のメタライジング層を形成する間にも,交差域に誘電体を配置しなければならない。
【0061】
第1メタライジング層は,両方のDMSトラックの全ての素子,つまり反射器と変換器のためのメタライジングを必ず含むこととする。第1メタライジング層上には,接続ラインKL1〜KL4が配置される。従来通りに塗布,構成して第一メタライジング層を形成した後,例えばリフティングテクニックなどによって,少なくとも該交差域に誘電体D1〜D4それぞれの構成層を形成する。
【0062】
続いて,少なくとも共通内側グランドラインGIL及び第2内側ラインIL2を含む第2メタライジング層が形成される。該共通内側グランドラインGIL及び第2内側ラインIL2は,接続ライン又は接続ラインの一部と誘電体上で交差する。その他の全てのラインは,第1メタライジング層又は第2メタライジング層の何れかを選択し,共に形成できる。両方のメタライジング層からメタライジング部を構成し,ライン抵抗を避けることも可能である。第1から第2のメタライジングへの移行部を可及的に低減する必要があることを念頭に,第1及び第2メタライジング層を配置することが好ましい。該移行部は潜在的にオーム抵抗が高く,そのために損失が発生する可能性が高い。オーム抵抗が低い断面を十分にとって第1及び第2メタライジング層を接続し,十分に広い面積を確保する。接続ラインを第1メタライジング層上にのみ配置し,一方両方のメタライジング層を共通内側グランドラインGIL及び第2内側ラインIL2に適用することで,オーム損失を抑えつつ,第1と第2DMSトラックの間隔が最小限になる。
【0063】
第1メタライジング層から第2メタライジング層への移行部を全て,変換器又は反射器のバスバー域内に配置するのが好適である。該バスバー域においては,オーム抵抗が低い移行部を実現可能な,より広範な面積が得られるためである。以上の点から,両方の外側グランドラインMLA1及びMLA2,共通内側グランドラインGIL及び両方の外側グランドラインMLAと接続するライン部分を,第2メタライジング層又は両方のメタライジング層上に配置する。
【0064】
各DMSトラックにおいては,原則的に全ての変換器に対してピッチが等しく,該ピッチによって変換器からの刺激を受ける表面波の中心周波数が決定される。中心周波数は,そうした変換器と共に表面波から分離された電気信号の中央周波数である。通常,変換器の全ての電極指は,こうした中心周波数に対応した共通のピッチを示す。電極指の個数が異なるため,相同域にある,つまり等しい構成であり移行域にない変換器の領域にある指周期は,変換器が異なる場合,異なるよう選択される。
【0065】
しかしDMSフィルタの機能上,全ての変換器を同じラスタ上に配置しているわけではなく,互いにシフトし合っているため,互いに隣り合う変換器の,両方の最も外側の指の間に間隔が生じ,その間隔が前述のピッチから大きく逸脱する可能性がある。これより非相同性が現出し,損失につながりかねない。こうした状態を緩和するため,互いに変換器が隣り合う移行部においては,電極指間隔(ピッチ)を調整し,変換器が移行域において全ての電極指間隔に割り当てられるようにする。このため2個の変換器間では,移行域の電極指間隔が狭まる。移行域においては,末端の変換器指の数は,2個〜15個となる。
【0066】
反射器,好適には末端の反射器と,その反射器と直に隣接する変換器との間の移行域においても,ピッチを同様に変化させることが可能であり,特にリフトアップ形成が可能である。
【0067】
好適には,移行域が異なる大きさで選択され,各DMSトラックSP全体で非対称に分散配置される。更に,2個の隣り合う変換器の間,又は1個の変換器と,その変換器と直に隣り合う反射器の間の移行部は,両エレメントのうちの1個が移行域を備えることとし,それに対してもう一方のエレメントは,末端指が不変のピッチを備えるよう配置することが可能である。
【0068】
しかし前述に係らず,反射器間のピッチを通常のピッチに対して,例えば3.5パーセント程度を上限として増加させることが好適である。
【0069】
両方の内側に配置された接続変換器(第1トラックのW13及びW14,又は第2トラックのW23及びW24)の指数は,外側に配置された接続変換器の本数よりも少なくすることが可能であり,例えば指2本を減少できる。両方の出力変換器の電極指の本数は,両方の入力変換器と比較し,例えば4本増加させることが可能である。
【0070】
図1に例示した,本発明に係るSAWフィルタは,受信フィルタとして好適であり,特にデュプレクサのRXフィルタに適している。更に,第1不平衡ポートP1はアンテナ端子と接続する。好適には,アンテナ端子と第1ポートの間に更にキャパシタを接続することとし,該キャパシタは例えばインターデジタル変換器として構成できる。これによって,好適にもDMSトラックの中央周波数から大きく逸脱したピッチが示され,DMSトラックの変換器に対する指配列をツイストできる。
【0071】
図2Aは本発明に係るフィルタの通過帯域特性と,1個のDMSトラックのみと追加の共振器を備えた既知の受信フィルタの通過帯域特性とを比較したグラフであり,両方のフィルタはデュプレクサの受信フィルタとして機能する。本発明に係るフィルタの通過帯域特性曲線は実線で,一方既知のフィルタについては点線で表す。図2Aは,特に通過帯域から下の低周波数領域での選択性が向上したことを示している。
【0072】
図2Bは,通過帯域の拡大グラフであり,既知のフィルタの通過帯域と再比較している。本発明に係るフィルタは,通過帯域でのリップルがより少なく,挿入損失がより低減されることが示される。
【0073】
図2C,2D及び2Eにおいては,本発明に係る受信フィルタに関して,更なるパラメータである差動モードアイソレーション特性(図2C),コモンモードアイソレーション特性(図2D)及びコモンモード抑制特性(図2E)を示す。同図から,これらの特性において本発明に係るフィルタが既知のフィルタと比較して改善されていることが明らかであり,特に選択性が向上している。
【0074】
図2Fは,第2平衡ポートにおいて決定された出力信号の平衡度を示す。周波数に対して作成された,両方の端子の間の振幅差が示され,本発明に係るフィルタの振幅差は,既知のフィルタと比較して向上している。
【0075】
図2Gは,本発明に係るフィルタの第2ポートP2における位相平衡度を示し,第2ポートの両方の端子間の位相差が,周波数に対して示される。図2Gも高い位相平衡度を示しており,ほぼ全ての通過帯域において,位相差がゼロライン域内を動いている。
【0076】
第2ポートにおいて平衡度が高いため,特にTXバンドにおいて60dBを超えるTXフィルタに対し,とりわけ高い差動モードアイソレーション特性(図2C参照)が生じる。コモンモードアイソレーション特性に関しても,本発明に係るフィルタのコモンモード部分と,例えばデュプレクサのTXフィルタなどの隣り合うフィルタ間の接続部を反映するコモンモードアイソレーション特性は,既知のフィルタと比較して顕著に改善されており,例えば60dBを超えている(図2D参照)。
【0077】
図3A〜3Gは,図2A〜2Gと同様のパラメータにおいて,異なる変更実施形態に対する比較を示す。図1に示す実施形態(図において実線で示す)と,共通内側グランドラインGILと第2内側ラインIL2が互いにガルバニック接続した第1変更実施形態(均等な点線で示した曲線で示す)とを比較する。第2変更実施形態においては,共通内側グランドラインGILが中央部でガルバニック分離しており,両方の出力変換器W12,W15のグランド端子が,異なるグランド端子MP1,MP2と接続する。第2変更実施例の特性曲線は,グラフにおいて長さの異なる点を組み合わせた点線で示される。
【0078】
図3Aは,図1に示した第1実施形態が,上述の第1,第2変更実施形態に対し,低周波数領域におけるアイソレーション特性がやや改善されていることを示している。図3C〜3Eに示されるように,第1実施形態のアイソレーション特性は,第1,第2変更実施形態に比較して,部分的にではあるが20dBを超えて著しく改善されている。第2ポートの平衡性に関しても,図3F,3Gが示すように,第1実施形態が最も優れている。
【0079】
本発明に係るフィルタの必要面積は,既知のRXフィルタと比較し減少している。グランド端子MPがDMSトラック域の外側に位置し,横方向に追加の面積が不要である場合,特に横方向,つまりDMSトラックの長手方向の伸長と垂直に交わる方向の必要面積が減少する。通常,長手方向にはチップ表面により広いスペースがあるため,本発明に係るSAWフィルタの「外部」に位置するグランド端子には,実際には追加のチップ表面積は不要となる。
【0080】
本発明は,図1に示された実施形態に限定されることはない。該実施形態においては,好適な配置を全て組み合わせて示しているが,それら全てが共に,本発明に係るSAWフィルタに不可欠というわけではない。従って本発明に該当するフィルタであっても,図1に示されたよりも少ない特徴を示す場合があり得る。
【符号の説明】
【0081】
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G