【0007】
(生体光計測)
本発明のファントムが対象とする生体光計測は、生体に対して電磁波を照射し、生体からの応答を検出することで、その生体についての情報を得る計測方法および装置である。生体に対して照射する電磁波としては、X線をはじめ各種波長の光、すなわち可視光や遠赤外光、マイクロ波等がある。また、生体からの応答としては、超音波、温度変化、蛍光等がある。
特に好ましくは光音響計測ないしイメージング装置の校正、検定、設計に対して本発明を適用する。光音響イメージングの場合には、生体の深部からの情報を超音波応答によって検出可能であるため、ファントムについても、生体のより深部の組織構造を反映することが一層重要となる。従って、本発明の重要性が最も顕著である。
(ファントム)
ファントムとは、対象とする生体光計測装置の校正、検査、設計などに用いる、生体の応答を模擬した試料のことである。本発明のファントムは、従来のファントムとは異なり、均質な組織ではなく、複雑な組織構造や積層構造を有する生体組織を模擬するのに適しており、この点に顕著な特徴を有する。こうした複雑な組織、あるいは積層構造を有する組織としては、血管組織、血栓、しみ、腫瘍組織、軟骨、皮膚組織、筋肉、リンパ節、リンパ管、神経などの生体組織モデルを例示できる。更には、表皮、真皮、皮下組織、皮下脂肪、メラノサイト、リンパ節、リンパ管、血管網、骨、乳房、乳腺、前立腺、消化器全般、呼吸器全般などの生体組織モデルを例示できる。 例えば、皮膚は表皮、真皮という積層構造を有しており、かつその中に血管組織、リンパ組織や皮下脂肪組織を含んでいる。更に、内部にしみ、斑点、血栓などの欠損、変色組織を含んでおり,非常に複雑な構造を有している。こうした複雑な生体組織を模擬するファントムは従来提供されておらず、本発明の意義は大きい。
(ファントムの基本形態)
本発明のファントムは、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂と油との混合物からなる板状の基材、この基材の少なくとも一方の主面を被覆する親水性樹脂からなる被膜、およびこの被膜に定着され、生体組織を模擬するインク印刷パターンを備えている。
好適な実施形態においては、前記ファントムが別体の支持基板と積層、接合されており、一体のファントムを構成している。これによって、ファントムの機械的強度が増大し、取り扱いが容易になる。
更に例えば光音響ファントムにおいては、各層を伝播した音波が、最下層に到達した後、周囲の空気層によって反響し、アーチファクトとよばれる実際には存在しないノイズ像を、検査像に混入させることが懸念される。アーチファクトとよばれるノイズ像を混入させない方法の一つとして、例えば、音響特性の異なる、比重の重い、厚みの厚い樹脂の支持基板を最下層に設置することで、反響する音波に位相差を設けて、ノイズ像を区別することが可能となる。
例えば第1図〜第3図のファントム1においては、基材2の一方の主面2a上に、親水性樹脂の被膜3が形成されており、被膜3上に印刷4が施されている。なお、第1図、第3図では、印刷パターンの詳細は特に限定されないので、図示していない。ファントム1の基材2と支持基板5とを接合一体化することで、更に支持基板付きのファントム10を構成することができる。ここで、被膜3および印刷パターンは、基材2と支持基板5の接合面5aとの間に挟まれている。本例では、基材2の他方の主面2bは露出している。
(熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂と油との混合物からなる基材)
本発明のファントムでは、対象とする生体組織を模擬していることが要求される。生体組織は細胞からなり、主な成分は水である。水の比重は1.0であることから、基材の材質の比重は、1.0に近いことが好ましい。この観点からは、基材の材質の比重は、0.85〜1.30であることが好ましく、0.9〜1.12であることが一層好ましい。
基材の材質と支持基板の材質とは、同一であってよく、あるいは同種であってよいが、互いに異なっていてもよい。
基材と支持基板との接着性という観点からは、基材と支持基板とが同じ材質、または相溶性を有する材質からなることが好ましい。
アーチファクトとよばれるノイズ像の混入を防止する観点からは、支持基板は、音響特性の異なる、比重の重い、厚みの厚い樹脂からなることが好ましい。比重の重い樹脂とは、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、フッ素系樹脂(四フッ化エチレン、フッ化ビニリデンなど)があげられる。
熱可塑性樹脂とは、ガラス転移温度または融点まで加熱することによって軟らかくなり、目的の形に成形できる樹脂のことである。
基材、支持基板を構成する熱可塑性樹脂としては、例えばアクリル系樹脂、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、スチレン系樹脂、アクリル・スチレン系共重合樹脂(MS樹脂)、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン・ビニルアルコール系共重合樹脂、スチレン系エラストマーなどの熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系樹脂、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーン樹脂、酢酸ビニル系樹脂(商品名:エクセバール)、ポリビニルブチラール系樹脂等を挙げることができる。
熱可塑性樹脂に油を混合することで、基材材質の比重を、生体組織の細胞と等しい比重1.0に可能な限り近づけることで、光計測における音波の減衰を少なくすることができる。
使用される油としては、例えば、ナフテン系プロセス油、パラフィン系プロセス油などの鉱物油系軟化剤、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、梛子油、落花生油、木ろう、パインオイル、オリーブ油などの植物油系軟化剤、ポリイソブチレン系オイルなどの合成系軟化剤が挙げられる。なお、これらの軟化剤は一種を単独で用いてもよく、互いの相溶性が良好であれば二種以上を混合して用いてもよい。
熱可塑性樹脂と油の混合方法は、熱により樹脂を可塑化させて基材を得る場合は、あらかじめ樹脂と油をブレンダーで混合する方法、樹脂を溶剤に溶解させて基材を得る場合は、油を溶剤と混合する方法などがあげられる。熱可塑性樹脂と油との混合比率は、基材の比重の設計値から決定することができる。
基材の厚みは、特に限定はされないが、生体からの応答信号、例えば音波の減衰を抑制する観点からは、0.02mm〜50mmの範囲が好ましく、0.1〜20mmの範囲がより好ましい。
基材、支持基板を得る方法としては、例えば、射出成形、プレス成形、押出成形、モノマーキャスト成形、溶剤キャスト成形などを挙げることができる。
基材、支持基板の好ましい光学物性値は、全光線透過率(厚み:0.5mm)70%以上、ヘイズ値(厚み:0.5mm)30%以下が好ましく、全光線透過率(厚み:0.5mm)80%以上、ヘイズ値(厚み:0.5mm)20%以下がより好ましい。
(アクリル系樹脂)
基材、支持基板を構成するアクリル系樹脂の具体例としてはメタクリル酸、アクリル酸、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、クロロメチルメタクリレート、クロロメチルアクリレート、2−クロロエチルメタクリレート、2−クロロエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルメタクリレート、2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルアクリレート、2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルメタクリレート、または2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルアクリレートなどのモノマーの重合体、または上記モノマーの共重合体(コポリマー)が挙げられる。
アクリル系樹脂は、好ましくは、アクリル系ブロック共重合体が特に好ましい。この特徴について、説明する。
共重合体には、ランダム共重合体(―ABBABBBAAABA―)、交互共重合体(―ABABABABABAB―)、周期的共重合体(―AAABBAAABBAAA―)、ブロック共重合体(―AAAAAABBBBBB―)、の4種類の構造がある。また、ブロック共重合体の一種にグラフト共重合体と呼ばれるものがあり、幹となる高分子鎖に、異種の枝高分子鎖が結合した枝分かれ構造をしている。
ブロック共重合体は、リビング重合法によって製造される。リビング重合とは、重合反応の中でも、連鎖重合において移動反応・停止反応などの副反応を伴わない重合のことである。リビング重合の特徴は、ポリマーの生長末端が常に重合活性である(livingである)ため、モノマーが完全に消費されたあと新たにモノマーを加えると重合がさらに進行すること、鎖の長さのそろったポリマーが得られること等の点を挙げることができる。
ブロック共重合体は、スチレン系ブロック共重合体と、アクリル系ブロック共重合体に大別される。ファントムに、アクリル系ブロック共重合体を使用することで、より生体組織を模擬したファントムを実現することができる。
アクリル系ブロック共重合体とは、例えば、ポリメチルメタクリレート−ボリブチルアクリレート(MA)、ポリメチルメタクリレート−ポリブチルアクリレート−ポリメチルメタクリレート(MAM)などがあげられる。
アクリル系ブロック共重合体の優れる特徴は、比重が、水の1.0に近いことである。例えば、ポリメチルメタクリレート(比重1.19、硬質:ガラス転移温度100℃)と、ポリブチルアクリレート(比重1.03、軟質:ガラス転移温度−54℃)の共重合比が、ポリメチルメタクリレート/ポリブチルアクリレート=50/50wt%の場合、比重は1.11となり、一般のアクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート)よりも比重を低くすることができる。ポリメチルメタクリレート/ポリブチルアクリレート=20/80wt%の場合、比重は1.06となる。
アクリル系ブロック共重合体は、例えば、ポリメチルメタクリレート(A、硬質)−ボリブチルアクリレート(B、軟質)からなる、AB型のジブロック共重合体、ポリメチルメタクリレート(A、硬質)−ポリブチルアクリレート(B、軟質)−ポリメチルメタクリレート(A、硬質)からなる、ABA型トリブロック共重合体などがあげられる。
アクリル系ブロック共重合体は、各ブロックのポリマー屈折率が異なっていても、鎖の長さがそろっていることにより、ナノレベルの分散構造を有することにより、高い透明性を保持することが可能である。
ゴム成分であるポリブチルアクリレートの成分比を高くすることで、柔軟性を高めることができ、目的とする用途に応じて、ABの成分比を選択することが望ましい。
更に、アクリル系ブロック共重合体は、柔軟であるため、インク定着用被膜である親水性樹脂と基材との接着力を強固にすることが可能となる。
親水性樹脂を基材に被覆した際、親水性樹脂は基材の表面に存在する水酸基だけでなく、基材の内部に浸潤して、基材内部の水酸基とも親和するため、化学的な接着力に加えて、物理的なアンカー効果を発揮することが可能となる。
アクリル系樹脂とアクリル系ブロック共重合体の混合物における配合比は、成形加工性とハンドリング性を両立させる観点から、5/95wt%〜95/5wt%の範囲が好ましく、20/80wt%〜80/20wt%の範囲であることがより好ましい。
アクリル系ブロック共重合体単体における配合比は、成形加工性とハンドリング性を両立させる観点から、ポリメチルメタクリレート(A、硬質)−ポリブチルアクリレート(B、軟質)−ポリメチルメタクリレート(A、硬質)からなる、ABA型トリブロック共重合体の場合、2/96/2wt%〜45/10/45wt%の範囲が好ましく、5/90/5wt%〜25/50/25wt%の範囲がより好ましい。
(アクリル系樹脂と、水酸基とカルボシキル基を有する脂肪酸に由来する植物油の混合物からなる基材)
アクリル系樹脂と、水酸基酸基とカルボシキル基を有する脂肪酸に由来する植物油の混合物によって基材を形成することが特に好ましい。
本発明者は、水酸基とカルボシキル基を有する脂肪酸に由来する植物油により、アクリル系樹脂と相溶させることを見い出し、光音響ファントムに必要とされる、水の1.0に近づけること、高い透明性の保持、更には、親水性樹脂と基材との強い接着性を実現させることに至った。
植物油の主成分である脂肪酸は、カルボルシル基を有しているため、アクリル系樹脂のエステル(カルボシキル基の化合物)と相溶するため、アクリル系樹脂にナノレベル分散性を実現することができ、アクリル系樹脂への混合後も、高い透明性を有することが可能になる。
更に、脂肪酸に水酸基を有することで、アクリル系樹脂の内部、および表面に親水基を配置することが可能になるため、インク層である親水性樹脂と基材との界面に化学的親和性をもたらし、基材との飛躍的に高い接着性を発現することができる。
植物油とは、植物に由来する油を意味しており、植物油を精製したものを含んでおり、また植物油に水素添加等の化学処理を加えた後の誘導体も含む。また、植物油は、混合物であってよい。植物油の純度も特に限定はされないが、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。
脂肪酸と反応する水酸基含有化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリンなどがあげられる。
前記植物油の具体例としては、ひまし油、水添ひまし油などのひまし油誘導体、またはそれらの混合物があげられる。
ひまし油は、脂肪酸(リシノレイン酸)とグリセリンとのエステルを主成分とし、保有する水酸基(OH基)、二重結合、およびエステル結合を利用し、多くの化学反応を行わせることができ、得られた生成物は、塗料工業、プラスチック工業、ゴム工業、建材工業、金属工業、および機械工業など広範な用途に展開されている。更に、ひまし油は、淡黄色の粘稠な不乾性油で、脂肪族炭化水素系溶剤を除く、ほとんどの有機溶剤に可溶である特徴を示す。ひまし油の純度は、90重量%以上が好ましい。
アクリル系樹脂とひまし油またはその誘導体の混合比として、例えばポリメチルメタクリレート(比重1.19)/ひまし油(比重0.95)=80/20の場合、比重は1.14となる。
アクリル系樹脂と、水酸基とカルボシキル基を有する脂肪酸に由来する植物油の混合方法は、例えば、アクリル系樹脂と前記植物油を、有機溶剤であるアセトンに溶解させた後、アセトンを蒸発させるキャスト成形法、アクリル系モノマーと脂肪酸に前記植物油を混合した後に重合(硬化)させる方法などによって簡単に得ることができる。アクリル系樹脂とひまし油またはその誘導体が、お互いの化学構造によって相溶しているため、透明な基材を得ることができる。
アクリル系樹脂と、水酸基とカルボシキル基を有する脂肪酸に由来する植物油の混合物からなる基材は、前記植物油が水酸基(OH基)を有することにより、親水性樹脂が有する水酸基(OH基)と親和し、基材と親水性樹脂の接着性を飛躍的に向上させることが可能となる。
この結果、親水性樹脂に形成されたインクは、基材に強固に接着することができ、ファントムの精度、保存安定性を高めることができる。
アクリル系樹脂に対する、水酸基とカルボシキル基を有する脂肪酸に由来する植物油の混合割合は、透明性保持と、前記植物油のブリードアウトを防止する観点から、0.5%〜50%の範囲が好ましく、1.0〜25%の範囲がより好ましい。
特に好ましくは、比重1.06のアクリル系ブロック共重合体と、水酸基とカルボシキル基を有する脂肪酸に由来する植物油としてひまし油を選択した場合、その混合比を、アクリル系ブロック共重合体(比重1.06)/ひまし油またはその誘導体(合計量)=80/20wt%とした場合、比重は1.04となり、更に、水の比重1.0に近づけることができる。
アクリル系ブロック共重合体と、水酸基とカルボシキル基を有する脂肪酸に由来する植物油の混合物は、例えば、アクリル系ブロック共重合体とひまし油を、有機溶剤であるアセトンに溶解させた後、アセトンを蒸発させるキャスト成形法によって簡単に得ることができる。アクリル系ブロック共重合体と、水酸基とカルボシキル基を有する脂肪酸に由来する植物油が、お互いの化学構造によって相溶しているため、透明な基材を得ることができる
次の特徴は、光音響計測に必要となる、高い透明性を有していることである。通常、屈折率の異なる2種類の熱可塑性樹脂をブレンドした場合、水と脂肪からなる牛乳のように不透明となる。
アクリル系ブロック共重合体は、鎖の長さのそろったポリマーであるため、各ブロックの屈折率が異なっていても、数10nm単位の相分離構造となるため、可視光波長の400〜650nmの光を屈折させることがなく、基材を得ることが可能である。
好ましい光学物性値は、全光線透過率(厚み:0.5mm)70%以上、ヘイズ値(厚み:0.5mm)30%以下が好ましく、全光線透過率(厚み:0.5mm)80%以上、ヘイズ値(厚み:0.5mm)20%以下がより好ましい。 次の特徴は、長期間安定な自己接着能である。
ブロック共重合体は、軟質(液状性質)セグメントの比率が高くなると、軟質成分のポリブチルアクリレートが、ナノレベルで表在するようになり、自己接着性を示すことが可能となる。自己接着性は、可塑剤を使用しないため、時間経過、例えば6ヶ月以上が経過しても、粘着性が低下することがなく、製品としての品質を保証することが可能となる。
この自己接着能は、板状の基材を重ね合わせて、生体模擬モデルを製作する際、接着剤が不要となり、気泡の混入を無くし、製作にかかるコストを可能とする。この接着力は、熱可塑性プラスチック、ガラス、シリコンウェハー、プリント配線板、エラストマー、エンジニアプラスチックなどにも有効であり、ファントムの実装化に貢献することができる。
また、ブロック共重合体は、分子量が揃っているため、従来のエラストマーと比較して、引き裂き強度に優れるため、穴あけ加工においても、破断する等の問題を発生させることがない。分子量が揃っていることにより、毒性物となる低分子量が含まれておらず、生物試験にも使用可能である
(親水性樹脂)
基材の少なくとも一方の主面に親水性樹脂の被膜を形成することによって、ターゲットとなるインクを含侵させ、定着することができる。インクは、親水性樹脂に含浸することによって乾燥し、基材上に固定される。
インクの含浸を促進するという観点からは、親水性樹脂の水に対する接触角は、3°〜60°であることが好ましく、10°〜40°であることが更に好ましい。
親水性樹脂としては、例えば、カルボキシル基、水酸基、スルホン基、アミド基、エーテル結合の1種以上を含有するポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンの1種もしくはこれらの共重合物もしくは混合物があげられる。
親水性樹脂の被覆方法は、薬品処理、溶剤処理、カップリング剤処理、モノマーコーティング、ポリマーコーティング、蒸気処理、表面グラフト化、紫外線照射処理、プラズマ接触処理、プラズマジェット処理、プラズマ重合処理、イオンビーム処理、ディッピング法、スピンコート法、エキシマUV処理などがあげられる
基材に被覆される親水性樹脂の膜厚は、薄すぎるとインクの含浸性が低下し、厚すぎると耐水性の低下の要因となる。親水性樹脂の膜厚の下限は、0.1ミクロン以上が好ましく、1ミクロン以上がより好ましく、10ミクロン以上が更に好ましい。また、親水性樹脂の膜厚の上限は、1000ミクロン以下が好ましく、100ミクロン以下がより好ましく、50ミクロン以下が更に好ましい。
また、熱可塑性樹脂のほとんどが疎水性であるため、被覆する親水性樹脂との密着性が低下する場合には、熱可塑性樹脂表面のぬれ性を改質する技術が知られている。
熱可塑性樹脂のぬれ性を改質する技術は、化学的処理技術、物理的処理技術に大別される。化学的処理技術としては、薬品処理、溶剤処理、カップリング剤処理、モノマーコーティング、ポリマーコーティング、蒸気処理、表面グラフト化、電気化学的処理などがあげられる。物理的処理技術としては、紫外線照射処理、プラズマ接触処理、プラズマジェット処理、プラズマ重合処理、イオンビーム処理、機械的処理などがあげられる。
(水溶性樹脂被膜)
前記親水性樹脂は、特に好ましくは水溶性樹脂である。熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂と油との混合物からなる板状の基材に被覆する親水性樹脂が、水溶性樹脂であることにより、生産性を大きく向上させることができる。
水溶性樹脂は、その溶解に有機溶剤を必要としないため、全ての熱可塑性樹脂に被覆することが可能である。大型の生産設備を必要とせず、容易に被覆できる。
熱可塑性樹脂の表面のぬれ性を親水性に改質したり、熱可塑性樹脂と油との混合物において、ひまし油を選択した場合には、水溶性樹脂の有する水酸基(OH基)と親和するため、水に溶解した水溶性樹脂の濃度を低くすることができる。基材と強い接着力を有する親水性の皮膜を、薄膜で形成できることで、水溶性樹脂の弱点である耐水性を改善することが可能となる。更なる耐水性を要求される場合は、例えば、ポリビニルアルコールを使用する場合、1000以上の分子量で、90%以上のけん化度の高いグレードを選択する方法があげられる。
水溶性樹脂としては、例えば酢酸ビニル系樹脂(商品名:エクセバール、ポバール)、ポリビニルアルコール、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカプロラクタム、日本油脂(株)製の商品名:Lipidure−PMB(リン脂質極性基を有するMPCポリマーとブチルアクリレートの共重合ポリマー)などがあげられる。
水溶性樹脂の基材への被覆方法は、例えばスピンコート法、ディッピング法、スプレーミスト噴霧法などがあげられる。
水に溶解した水溶性樹脂の濃度は、0.1重量%〜20重量%の範囲であることが好ましく、1重量%〜10重量%の範囲であることがより好ましい。被覆する基材のぬれ性、被覆方法に応じて、適宜、選択することが望ましい。
基材に被覆される水溶性樹脂の膜厚は、薄すぎるとインクの含浸性が低下し、厚すぎると耐水性の低下の要因となる。親水性樹脂の膜厚の下限は、0.1ミクロン以上が好ましく、1ミクロン以上がより好ましく、10ミクロン以上が更に好ましい。また、親水性樹脂の膜厚の上限は、1000ミクロン以下が好ましく、100ミクロン以下がより好ましく、50ミクロン以下が更に好ましい。
(好適な物性)
アクリル系樹脂と、水酸基とカルボシキル基を有する脂肪酸に由来する植物油との混合物からなる基材を用いる場合には、基材の内部、表面に水酸基を有することができ、基材とインク定着用被膜となる親水性樹脂との接着力を、飛躍的に高めることが可能となる。
この観点からは、基材と親水性樹脂との接着力は、0.3〜10Nの範囲が好ましく、1〜5Nの範囲であることがより好ましい。
動的粘弾性測定は、ファントムのキャラクタリゼーションを把握するうえで、有効な手段である。アクリル系ブロック共重合体の硬質成分と、軟質成分の割合において、硬質成分の比率が高くなると、貯蔵弾性率(E’)は高くなり、ファントムの柔軟性、自己接着能は低下する傾向となる。軟質成分の比率が高くなると、貯蔵弾性率(E’)は低くなり、ファントムの柔軟性、自己接着能は高くなる傾向となる。
柔軟性と自己接着能を発揮でき、かつハンドリング性(柔らかすぎない、かつ接着力が強すぎない)を両立させる観点から、動的粘弾性測定(引張モード、11Hz)における、温度10℃〜40℃±3の貯蔵弾性率(E’)は、10000Pa〜100MPaの範囲であることが好ましく、50000Pa〜50MPaの範囲がより好ましい。
動的粘弾性測定は、貯蔵弾性率(E’)に加え、ガラス状態からゴム状態への転移に対応する軟質(ゴム状性質)成分のtanδのピーク温度を測定することで、ファントムの柔軟性、自己接着能を評価することが可能である。
柔軟性と自己接着能を発揮でき、かつハンドリング性(柔らかすぎない、かつ接着力が強すぎない)を両立させる観点から、動的粘弾性測定(引張モード、11Hz)における、ゴム状態からガラス状態への転移に対応するソフトセグメント(軟質成分)のtanδのピーク温度は、−80〜+50℃の範囲であることが好ましく、−50〜+20℃の範囲であることがより好ましい。
基材の自己接着能は、接着剤が不要となる範囲として、0.5〜10Nの範囲が好ましく、1N〜0.5Nの範囲がより好ましい。
(印刷パターン)
インクの種類としては、例えば水性、または油性の染料インク、顔料インク、ジェル、墨などがあげられる。
インクの親水性樹脂への被覆方法は、例えば、インクジェットプリンターを使用して直接印字する方法、ペン、筆による直接描画、開口部を有するステンレスなどのマスク体を用いた印字などがあげられる。
本発明によれば、ターゲットとなるインクを、基材上にパターンニングできるので、計測する生体組織の擬似モデルを実現することができ、精度と再現性を両立したファントムの展開用途を飛躍的に拡大することに貢献する。
例えば、インクジェットプリンタに使用されている染料インク、顔料インクを使用した場合、皮膚のしみを再現しようとすれば、黒系の色など、任意の濃度、形状のパターンを、パソコンから指定すれば極めて高精細に印字可能である。血管を再現しようとすれば、赤系の色を指定し、線幅100ミクロンの印字も容易である。血管と血栓を再現するには、赤系の色の描画エリアに、描画しない領域をパソコンから指定すれば完了する。また、1枚の基材に、皮膚のしみ、血管、血栓を印字したり、複数の基材に印字した擬似モデルを重ね合わせることも可能である。インクジェットプリンタの吐出量は、最小単位が1ピコリットルであり、最小単位30ミクロンの印字も容易で、かつ迅速である。
(ファントムの積層体)
基材の積層構造について説明する。
生体組織を模擬したファントムは、積層構造によって、より、実際の組織を精密に再現したモデルを実現することができる。
また、前記のようなファントムを複数積層することで、積層ファントムとすることができる。例えば、第4図〜第6図に示すファントム積層体10Aの例では、支持基板5上にファントム1A、1B、1Cを積層し、接合している。各ファントム1A、1B、1Cは、それぞれ、基材2A、2B、2Cと、その主面上に形成された親水性樹脂からなる被膜3A、3B、3Cと、各被膜上に形成された印刷パターン4A、4B、4Cとを備えている。積層方向に見て隣接するファントムの各主面2bと各被膜3B、3Cとが互いに接合されている。末端に積層されたファントム1Aが支持基板5の接合面5aに対して接合されており、その被膜3Aおよび印刷パターン4が基材2Aと支持基板5との間に挟まれている。
なお、ファントム積層体において積層する複数のファントムの個数は特に制限されないが、生体光計測の深度によって制限を受ける。この観点からは、ファントムの個数は5個以下が好ましい。
ファントム積層体中には、親水性樹脂被膜および印刷パターンの付いていない基材を挟み込むことも可能である。こうした設計は、目的とする生体組織の状態に合わせる。
(血管組織ファントム)
皮下の血管組織は、少し太めの動脈や毛細血管など、太さの異なる数種類の赤色の血管を含んでいる。また、太さの異なる数種類の青色血管を含んでいる。これは、目的や測定箇所に応じて、適切な色彩のインクで印刷することができる。例えば、第7図に示すように、親水性樹脂からなる被膜3E上に血管組織を模擬する印刷パターン7を形成できる。
同様に、血栓を模擬する印刷パターン12を、第8図に示すように被膜3D上に印刷できる。しみパターンや、通常の細胞組織と異なる腫瘍パターン、軟骨パターンについても同様である。
第9図に、これらの印刷パターンを利用したファントム積層体の例を示す。これは皮膚の血管組織および血栓組織を重ね合わせ、全体として模擬するものである。
たとえば生体の皮膚組織は、表皮と真皮にわかれる。微小循環系である毛細血管は、その一部が閉塞することにより、血栓を生ずる。第9図は、真皮の下部での血栓組織を再現するためのファントム積層体を示す。
本例では、支持基板5上には、血管組織7および血栓組織12を模擬するファントム1Dが接合され、その上に血管組織7を模擬するファントム1Eが接合されている。ファントム1E上には皮膚(表皮)組織を模擬するファントム11が接合されている。
本例では、表皮組織を模擬するファントム11には特に印刷パターンは設けられておらず、樹脂基材中に光散乱材料を配合することで表皮組織を模擬している。ファントム11の上面11bは露出しており、電磁波の照射面となる。ファントム11の主面11aに対して血管組織ファントム1Eが接合され、血管組織ファントム1Eの下に血栓組織ファントム1Dが接合されている。血管組織ファントム1E中には光散乱材料を配合することで真皮組織を模擬している。また、血栓組織ファントム1Dには血管組織および血栓組織を模擬する印刷パターン7.12を設ける。これによって、各組織が積層され、合成された状態の複合ファントムが得られ、被験体の組織を極めて精密に模擬することが可能となる。なお、3D、3Eは親水性樹脂の被膜である。
第12図は、皮膚の血管組織およびしみ組織を重ね合わせ、全体として模擬するファントム積層体の例を示す。
たとえば生体の皮膚組織は、表皮と真皮にわかれる。微小循環系である毛細血管は、その一部が閉塞することにより、細胞が死滅して線維状となり、しみの原因となる。第12図は、真皮の下部でのしみを再現するための印刷パターンを有するファントム積層体を示す。
本例では、支持基板5上には、しみ13A、13Bを模擬するファントム1Fが接合され、その上に血管組織7を模擬するファントム1Gが接合されている。ファントム1G上には皮膚(表皮)組織を模擬するファントム11が接合されている。
本例では、表皮組織を模擬するファントム11には特に印刷パターンは設けられておらず、樹脂基材中に光散乱材料を配合することで表皮組織を模擬している。ファントム11の上面11bは露出しており、電磁波の照射面となる。ファントム11の主面11aに対して血管組織ファントム1Gが接合され、血管組織ファントム1Gの下にしみファントム1Fが接合されている。血管組織ファントム1G中には光散乱材料を配合することで真皮組織を模擬している。また、しみ組織ファントム1Fには、しみを模擬する印刷パターンを設ける(第10図参照)。これによって、各組織が積層され、合成された状態の複合ファントムが得られ、被験体の組織を極めて精密に模擬することが可能となる。第11図にこうした合成パターンを図示する。なお、3F、3Gは、親水性樹脂からなる被膜である。
(各ファントムおよび支持基板の接合方法)
各層の接合方法は、薬品処理、溶剤処理、モノマーコーティング、紫外線照射処理、プラズマ接触処理、基材の自己接着能を利用する方法などがあげられる。
(基材への光散乱粒子、光吸収体の配合)
生体組織を模擬したファントムは、生体の皮膚、組織と同等の光散乱特性を有することが好ましい。例えば、生体と同等の光散乱特性、光吸収特性を有するため、光散乱粒子、光吸収粒子を添加した基材に、ターゲットとなるインクパターンが印字されることで、生体組織を模擬することが可能となる。また、前述例のように、本発明のファントムに対して、特定の光散乱粒子、光吸収体を配合した基材を積層することもできる。
光散乱粒子は、有機、無機のいずれでも良い。無機材料を光散乱粒子とした場合、例えば、酸化チタン、二酸化チタン、酸化亜鉛、カオリナイトなどがあげられる。
有機光散乱粒子としては、例えば、乳化重合法で製造された球形の粒子として、ポリスチレン、ポリスチレンとポリジビニルベンゼンの共重合体、ポリスチレンとポリブタジエンの共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレートとポリブチルメタクリレートの共重合体粒子などがあげられる。
光吸収体は、無機化合物、有機化合物のいずれでも良い。
無機化合物では、例えば、顔料として使用されている鉛丹、酸化鉄赤、黄鉛、亜鉛黄、ウルトラマリン青、プロシア青、カーボンブラック、金、銀、銅、鉄などの粒子があげられ、有機化合物としては、例えば、染料として使用される、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ペンタセンなどの化学構造を有する化合物があげられる。
基材に光散乱粒子、光吸収体が均一に分散されないと、目的とする光散乱特性、光吸収特性が得られないことが予測される。
また、その粒子径が揃っていると、特定の色を吸収する場合があるため、目的とする光散乱特性に応じて、粒子の添加量、粒子径分布を選択することが好ましい。
粒子と基材の原材料となる熱可塑性樹脂との分散性を高める方法として、粒子と熱可塑性樹脂との相容性(親和性)を選択する方法がある。例えば、粒子に、親水性や疎水性の官能基を有する粒子を使用する、粒子に酸素などのプラズマを照射する、分散剤、乳化剤を添加することによって、表面のぬれ性が改質された粒子を選択することができる。
光散乱粒子の平均粒子径は、2次凝集を防止し、均一な分散性を得るために、0.01〜200ミクロンの範囲が好ましく、0.05〜100ミクロンの範囲がより好ましい。
粒子の添加量は、粒子の分散性を保つうえで、基材重量に対して0.01wt%〜10wt%の範囲が好ましく、0.05wt%〜5wt%の範囲がより好ましい。
光吸収体に粒子を使用した場合の平均粒子径は、均一な分散性を得るために、0.01〜100ミクロンの範囲が好ましく、0.05〜30ミクロンの範囲がより好ましい。
粒子の添加量は、粒子の分散性を保つうえで、基材重量に対して0.01wt%〜10wt%の範囲が好ましく、0.05wt%〜5wt%の範囲がより好ましい。
光散乱粒子、光吸収粒子の配合方法は、あらかじめ、熱により可塑化した樹脂と粒子を混合したペレットを準備しておき、射出成形、プレス成形、押出成形の際に添加する方法、モノマーキャスト成形の際に、モノマーに粒子を添加する方法、溶剤キャスト成形の際に、樹脂が溶解した溶剤に、粒子を添加する方法などがあげられる。
無機材料を光散乱粒子、光吸収粒子とした場合、無機粒子の分散性は、底部に、粒子が沈降しているか否か、目視で確認することができる。沈降した粒子の基材への混入を防止する方法として、例えば、攪拌後、約3時間静置し、容器を分取することで分散性に優れる基材を得ることができる
粒子の分散性を向上させる方法として、熱により可塑化した樹脂と粒子を混合する場合は、あらかじめ、2軸押出機などを用いて、樹脂と粒子が均一に分散されたペレットを準備しておくことが好ましい。
(ファントムの透明性)
光音響ファントムにおいては、1層、または複層が透明、または光散乱粒子を有する基材構成にすることで、多様な検査ニーズに対応することが可能となる。
例えば、1層、または複層が透明の基材構成の場合は、各層における音波の減衰、インクによる反射、吸収を再現性よく検査することができる。
1層、または複層が光散乱基材の場合は、例えば皮膚組織を模擬した光散乱の要素をファントムに加えることができる。目的に応じた層構成とすることで、ファントムの実用性を更に高めることができる。
透明基材の光学物性値は、全光線透過率(厚み:0.5mm)70%以上、ヘイズ値(厚み:0.5mm)30%以下が好ましく、全光線透過率(厚み:0.5mm)80%以上、ヘイズ値(厚み:0.5mm)20%以下がより好ましい。実際の皮膚では表皮、真皮でも光を吸収するので基材の中に染料、インクを混ぜ込んで光の吸収特性を表皮、真皮にあわせても良い、
(ファントムの製造方法の好適形態)
ファントムの製造方法は、基材の比重調整、親水性樹脂の被覆、インクパターンの描画といった複雑なプロセスを有する。大型の製造装置を用いれば、大量生産が可能となる反面、仕様の異なる基材を複数準備するには、大量の原材料、電力、設備費を必要とするため、ファントムのコストは高額となる。
複雑な製造プロセスにおいても、原材料を廃棄することなく使用でき、電力、大型の設備を必要としない方法として、キャスト成形法があげられる。キャスト成形法では、製作バッチごとに、配合比を調整でき、多様な仕様に応じることが可能である。
具体的には、原材料である熱可塑性樹脂、油を有機溶剤に溶解させるステップと、型枠内で有機溶剤を乾燥させるステップと、得られた基材に親水性樹脂を被覆した後、ターゲットとなるインクパターンを描画するステップとを有する。このインクパターンを有する基材を、更に他の基材、他のファントム、および/または支持基板と接合することもできる。
有機溶剤に溶解した原材料の濃度は、有機溶剤の乾燥時間を短くし、型枠内への良好な流動性を両立させる観点から、5wt%〜70wt%の範囲が好ましく、20wt%〜50wt%の範囲がより好ましい。
型枠内に、有機溶剤に溶解した原材料を投入する際、基材内への気泡発生を防止するため、溶液の温度は、型枠よりも5℃〜15℃高いほうが望ましい。
基材の平坦性を確保するためには、直接、溶液が循環空気に触れないよう、開口部を確保しつつ、基材上部をカバーで覆うことが望ましい。
【実施例】
【0008】
以下に実施例を説明する。本実施例で示したファントムは一例であり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
以下の手順により、第1図〜第3図に模式的に示したようなファントムを作製した。
(熱可塑性樹脂からなる基材2の作製)
PSジャパン(株)のポリスチレン(製品名:汎用タイプ、品番:GPPS)を使用し、アセトンに40wt%の濃度で溶解させた。次に、この溶液を、ウォーターバスにより50℃に昇温した後、型枠内に流し込み、12時間かけてアセトンを揮発させた。
型枠から、型枠の底面に張ってある保護フィルム(ニッパ(株)、品名:シリコーンコートPET、品番:PET75xl−K0−ASI5)を取り外して、縦・横12cm×厚さ1mmの基材を得た。光学物性値を、JIS K6714に準拠する方法で測定した結果、全光線透過率87%、ヘイズ5.8%であった。
(基材2への親水性樹脂3の被覆)
(株)クラレの水溶性樹脂(製品名:ポリビニルアルコール、品番:PVA−505)を使用し、純水に8wt%の濃度で溶解させた。次に、基材の四辺を、平坦な金属バット上にテープで固定し、基材裏面への溶液の浸潤防止、ポリビニルアルコール乾燥後の基材のソリ防止を行った。
次に、ポリビニルアルコールの溶解液を基材全面に滴下した後、金属バットと傾斜させて余分な溶液を廃棄した。24時間をかけて水分を乾燥させた後、金属バットから基材を取り出し、親水性樹脂が被覆された基材を得た。
マイクロメーター((株)ミツトヨ、型式:MDE−MJ/PJ)により、ポリビニルアルコールの膜厚は、20ミクロンであることを確認した。
空気中にて、水に対する接触角を測定した。接触角測定装置(協和界面化学株式会社製、CA−DT・A型)を用いて測定したところ38°であった。
(インクパターン4の描画)
インクジェットプリンタ(キャノン(株)、型式:MG6130)を使用し、パソコン(パナソニック(株)、品名:レッツノート、型式:CF−S9)からインクパターンを指示し、描画を行った。インクジェットプリンタの直接描画トレイに、縦4.5cm×横5.5cmに切り出した基材を固定し、所望の色、パターンを有するインクパターンを描画した。インクパターンの描画には、約10秒/1基材であり、描画直後のインクに触れても、インクの乾燥不良は発生しなかった。
(支持基板5との接合)
アクリル系ブロック共重合体の自己接着能を利用し、基材どうしを重ね合わせることで、支持基板5との接合を行った。
支持基板5は、音響特性の異なる、比重の重い、厚みの厚いアクリル系ブロック共重合体を最下層に設置することで、反響する音波に位相差を設けて、ノイズ像を区別することを目的としている。支持基板の厚さは5mm、比重1.10のアクリル系ブロック共重合体を使用した。支持基板の接合後は、端面からの剥離を防止するため、端面をアセトンで溶着した。下層の接合時、接合面に気泡が混入を防止するため、例えば、樹脂製のスクレイパー(へら)を使用し、基材の端面から反対側に、一定の押し圧を加えながら、接合することが望ましい。
[実施例2]
実施例1と同様のプロセスに従い、第1図〜第3図に示すファントムを作製した。ただし、(株)クラレのポリメチルメタクリレート(製品名:パラペット、品番:GH−S)からなる基材2を用いた。基材2の光学物性値は、全光線透過率91%、ヘイズ2.2%であった。ポリビニルアルコールの水に対する接触角は、33°、膜厚は、22ミクロンであることを確認した。
[実施例3]
実施例1と同様のプロセスに従い、第1図〜第3図に示すファントムを作製した。ただし、(株)クラレのポリメチルメタクリレート(製品名:パラペット、品番:GH−S)とひまし油(伊藤製油(株)、品名:精製ひまし油、比重:0.95)の混合物(アクリル系ブロック共重合体/ひまし油=90/10wt%)からなる基材2を使用した。また、水溶性樹脂であるポリビニルアルコールの濃度が4wt%である。基材2の光学物性値は、全光線透過率90%、ヘイズ3.3%であった。ポリビニルアルコールの水に対する接触角は、25°、膜厚は8ミクロンであることを確認した。
[実施例4]
実施例1と同様のプロセスに従い、第1図〜第3図に示すファントムを作製した。ただし、(株)クラレのアクリル系ブロック共重合体(製品名:クラリティ、品番:La2140e、比重:1.06)とひまし油(伊藤製油(株)、品名:精製ひまし油、比重:0.95)の混合物(アクリル系ブロック共重合体/ひまし油=90/10wt%)からなる基材を使用した。水溶性樹脂であるポリビニルアルコールの濃度は4wt%である。基材2の光学物性値は、全光線透過率90%、ヘイズ3.8%であった。ポリビニルアルコールの水に対する接触角は、18°、膜厚は8ミクロンであることを確認した。
ここで、実施例1〜4の概要を表1に示す。
また、実施例1〜4の各ファントムの描画状態を第13図〜第16図に示す。第13図は、実施例1において、ポリスチレン基材に黒色のインクパターンを描画したものを示す写真である。第14図は、実施例2において、ポリメチルメタクリレートの基材に緑色のインクパターンを描画したものを示す写真である。第15図は、実施例3において、ポリメチルメタクリレートとひまし油との接合物からなる基材に黄色のインクパターンを描画したものを示す写真である。第16図は、実施例4において、アクリル系ブロック共重合体とひまし油との接合物からなる基材に赤色のインクパターンを描画したものを示す写真である。いずれも、微細な着色パターンを鮮明に定着することに成功している。
【表1】
[実施例5]
第4図〜第6図を参照しつつ説明したファントム積層体を作製した。各ファントム1A〜1Cの製造手順および支持基板5の製造手順は実施例1と同様である。ただし、各基材2A、2B、2Cは、(株)クラレのアクリル系ブロック共重合体(製品名:クラリティ、品番:La2140e、比重:1.06)とひまし油(伊藤製油(株)、品名:精製ひまし油、比重:0.95)の混合物(アクリル系ブロック共重合体/ひまし油=90/10wt%)によって作製した。水溶性樹脂であるポリビニルアルコールの濃度は4wt%である。各基材の光学物性値は、全光線透過率90%、ヘイズ3.5%であった。ポリビニルアルコールの水に対する接触角は、21°、膜厚は10ミクロンであることを確認した。
[実施例6]
第4図〜第6図を参照しつつ説明したファントム積層体を作製した。ただし、層構造は、水溶性二酸化チタンを有する3層構造とし、支持基板から1層目にインクパターンを有するものとした。2層目、3層目のファントムには印刷パターンを設けていない。これ以外は、実施例5と同様にして、実施例6のファントム積層体を得た。
各基材は以下のようにして成形した。すなわち、(株)クラレのアクリル系ブロック共重合体(製品名:クラリティ、品番:La2140e、比重:1.06)とひまし油(伊藤製油(株)、品名:精製ひまし油、比重:0.95)の混合物(アクリル系ブロック共重合体/ひまし油=90/10wt%)を使用し、アセトンに40wt%の濃度で溶解させた。次に、上記混合物に対し、0.5wt%の水溶性二酸化チタン(モーノ(株))を添加、3分間、攪拌を行った。次に、分散剤(巴工業(株)、品名:Dispers、品番:670)を、水溶性二酸化チタンに対し50wt%添加し、3分間、攪拌を行った。次に、この溶液を、ウォーターバスにより50℃に昇温した後、型枠内に流し込み、15時間かけてアセトンを揮発させ、各基材を作製した。
[実施例7]
第4図〜第6図を参照しつつ説明したファントム積層体を作製した。ただし、層構造は、水溶性二酸化チタンを有する3層構造とし、支持基板から1層目、2層目にインクパターンを有するものとした。3層目のファントムには印刷パターンを設けていない。これ以外は、実施例6と同様にして、実施例7のファントム積層体を得た。
[実施例8]
第4図〜第6図を参照しつつ説明したファントム積層体を作製した。ただし、層構造は、水溶性二酸化チタンを有する3層構造とし、支持基板から1層目、2層目、3層目にインクパターンを有するものとした。これ以外は、実施例6と同様にして、実施例8のファントム積層体を得た。
ここで、実施例5〜8の概要を表2に示す。
また、実施例6〜8の各ファントムにおいては、基材上にポリビニルアルコールを塗布し、塗布液を乾燥した。第17図は、この状態を示す写真である。また、二酸化チタンを配合した基材上に、ポリビニルアルコール被膜を介してインクパターンを描画した。第18図はこのインクパターンを示す写真である。微細な着色パターンを鮮明に定着することに成功している。
【表2】
[実施例A1]
前述の実施例1と同様にしてファントムを製作した。
ただし、実施例1と異なり、親水性樹脂としては、(株)クラレの水溶性樹脂(製品名:ポリビニルアルコール、品番:PVA−217(分子量1700)を使用し、また親水性樹脂被膜の膜厚を52ミクロンとした。
この結果、実施例1と同様に微細な着色パターンを鮮明に定着することに成功した。
[実施例A2]
前述の実施例2と同様にしてファントムを製作した。
ただし、実施例2と異なり、親水性樹脂としては、(株)クラレの水溶性樹脂(製品名:ポリビニルアルコール、品番:PVA−217(分子量1700)を使用し、また、親水性樹脂被膜の膜厚を50ミクロンとした。
この結果、実施例2と同様に微細な着色パターンを鮮明に定着することに成功した。
[実施例A3]
前述の実施例3と同様にしてファントムを製作した。
ただし、実施例3と異なり、親水性樹脂としては、(株)クラレの水溶性樹脂(製品名:ポリビニルアルコール、品番:PVA−217(分子量1700)を使用し、また、親水性樹脂被膜の膜厚を24ミクロンとした。
この結果、実施例3と同様に微細な着色パターンを鮮明に定着することに成功した。
[実施例A4]
前述の実施例4と同様にしてファントムを製作した。
ただし、実施例4と異なり、親水性樹脂としては、(株)クラレの水溶性樹脂(製品名:ポリビニルアルコール、品番:PVA−217(分子量1700)を使用し、また、親水性樹脂被膜の膜厚を28ミクロンとした。
この結果、実施例4と同様に微細な着色パターンを鮮明に定着することに成功した。
[実施例A5]
前述の実施例5と同様にしてファントムを製作した。
ただし、実施例5と異なり、親水性樹脂としては、(株)クラレの水溶性樹脂(製品名:ポリビニルアルコール、品番:PVA−217(分子量1700)を使用し、また、得られた親水性樹脂被膜の膜厚を26ミクロンとした。
この結果、実施例5と同様に微細な着色パターンを鮮明に定着することに成功した。