(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記コントローラは、メインスイッチがオン状態のまま所定の期間、前記走行用の電気モータが停止していた場合、停止状態の前記電動オイルポンプを設定時間、動作させるように制御する、請求項1または2のいずれかの電動車両。
前記コントローラは、メインスイッチがオン状態のまま所定の期間、前記走行用の電気モータが停止していた場合、運転者による所定の発進操作に応じて停止状態の前記電動オイルポンプの動作を開始させるように制御する、請求項1または2のいずれかの電動車両。
前記コントローラは、所定の条件下で前記走行用の電気モータの動作が停止した後の所定の期間、前記電動オイルポンプを動作させるように制御する、請求項1〜4のいずれか1つの電動車両。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。以下の説明で用いる前後左右の方向の概念は、実施形態にかかる電動二輪車に騎乗した運転者の見る方向を基準とする。以下の説明では、全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する詳細な説明は省略する。
【0019】
−電動二輪車の全体構成−
図1は、本発明の実施形態に係る電動車両の一例として示す電動二輪車1の左側面図である。
図1に示すように電動二輪車1は、従動輪である前輪2と、駆動輪である後輪3と、前輪2及び後輪3の間に配置される車体フレーム4と、車体フレーム4に支持されたモータユニット5とを備えている。この電動二輪車1は、エンジンを備えておらず、走行用の電気モータ30(以下、走行用モータ30と呼ぶ)の発生する走行動力で後輪3を回転駆動するように構成されている。
【0020】
前輪2は、あるキャスター角で傾斜しながら略上下方向に延びるフロントフォーク6の下部に回転可能に支持されている。フロントフォーク6の上部には、ステアリングシャフト7が接続され、ステアリングシャフト7の上部にはバー型のハンドル8が取り付けられている。ハンドル8の右グリップは、電気モータ30の発生する走行動力を調整するためのアクセルグリップ(図示せず)である。
【0021】
車体フレーム4は、ヘッドパイプ11と、左右一対且つ上下一対のメインフレーム12と、左右一対のダウンフレーム13と、左右一対のピボットフレーム14と、左右一対のスイングアーム15と、シートフレーム16とを有している。ヘッドパイプ11は、ステアリングシャフト7を回転可能に支持している。
【0022】
メインフレーム12は、左右一対の上メインフレーム部12aと、左右一対の下メインフレーム部12aと、上メインフレーム部12aを下メインフレーム部12bに接続するトラスフレーム部12cとを有している。上メインフレーム部12aは下メインフレーム部12bと概略平行に延びている。上メインフレーム部12a及び下メインフレーム部12bは、ヘッドパイプ11から若干下向きに傾斜しながら後方へ延びている。上メインフレーム部12aは、その後端部において略下方に向けて屈曲しており、下メインフレーム部12bに合流している。トラスフレーム部12cは、当該合流点よりも前側で上メインフレーム部12aを下メインフレーム部12bに接続しており、これによりメインフレーム12全体の剛性を高めることができる。
【0023】
ダウンフレーム13は、ヘッドパイプ11から見て略下方に向けて延びるバーティカルフレーム部13aと、バーティカルフレーム部13aの下端から略水平に後方に向けて延びるロアフレーム部13bとを有している。ピボットフレーム14は、メインフレーム12の後端部及びロアフレーム部13bの後端部に接続されている。スイングアーム15は、略前後方向に延びており、その前端部にてピボットフレーム14に揺動可能に連結され、その後端部にて後輪3を回転可能に支持している。シートフレーム16は、上メインフレーム部12aの後端部及びピボットフレーム14の上端部から若干上向きに傾斜しながら後方へ延びている。シートフレーム16は、運転者及び同乗者が前後に並んで着座可能なシート(図示せず)を支持している。
【0024】
図示はしないが、シートに騎乗する運転者は両手でハンドル8のグリップを掴み、両足がステップ(図示せず)に載るように左右両方の脚部を曲げて、シートの直前に位置するバッテリケース20の後上部を両膝で挟み込む(ニーグリップ)。こうしてニーグリップをしやすいように、バッテリケース20の後上部の左右方向の寸法はその下部に比べて小さくされている。
【0025】
バッテリケース20は、左右のメインフレーム12の間に囲まれるように配置されて、その下面がロアフレーム部13bの少し上に位置している。バッテリケース20は、平面視で左右一対のメインフレーム12とは重ならないように配置されており、左右両側の壁部がそれぞれメインフレーム12にボルト等で締結されている。よって、バッテリケース20をメインフレーム12の間に上側又は下側から挿し入れて車体フレーム4に組み付けることができる。
【0026】
バッテリケース20の前面には吸気ダクト21が接続されて前方に延びている。一方、バッテリケース20の後面の上部には排気ダクト22が接続されて下方に延びている。これらのダクト21,22を設けたことにより、前方からの走行風を吸気ダクト21に取り込んで、バッテリケース20のバッテリユニット23や電装品24を効果的に空冷することができる。
【0027】
前記吸気ダクト21の前端のエア取込み口は、側面視でフロントフォーク6よりも前方に突出しているので、雨水や車輪2,3から跳ね上げられた泥の吸気ダクト21内への浸入を抑制できる。また、排気ダクト22の上端付近にはバッテリケース20内の空気を排出するための排気ファン25が配置されていて、排気ダクト22を介してバッテリケース20内に雨水等が浸入するおそれを軽減している。
【0028】
また、前記バッテリケース20の下部の後方において、側面視でメインフレーム12とピボットフレーム14とシートフレーム16とに囲まれた略三角形状のスペースに、インバータケース26が配設されている。このインバータケース26にはIGBT(Insulated-Gate Bipolar Transistor)等のパワー半導体が実装されたインバータ27が収容されており、図示しない電力線等によってバッテリケース20内のバッテリユニット23に接続されている。
【0029】
そして、前記バッテリケース20の下方、即ちダウンフレーム13の下方且つピボットフレーム14の前方のスペースに、前記したようにモータユニット5が配設されている。詳しくは後述するが、モータユニット5の前部には走行用モータ30が収容され、その後部には変速機40(動力伝達機構)が収容されている。モータユニット5の後部の左右両側がそれぞれピボットフレーム14に締結される一方、モータユニット5の前部の左右両側は、ダウンフレーム13のロアフレーム部13bに締結されている。
【0030】
また、モータユニット5の前部には前方に突出するように電力線の端子台50が設けられ、その前方に離間してオイルクーラ28が配設されている。オイルクーラ28の上部はロワフレーム部13bの前端に取付けられており、オイルクーラ28の下部はステー29(
図3を参照)を介してモータユニット5の前部に支持されている。オイルクーラ28は、モータユニット5等の潤滑および冷却に用いられるオイルを走行風と熱交換させて放熱させる。
【0031】
すなわち、詳しくは
図3〜6を参照して後述するが、モータユニット5の下部にはオイルパン60が設けられており、ここに貯留されているオイルが電動オイルポンプ62等により吸い上げられて、走行用モータ30のモータ軸32のベアリング33や変速機40のギヤ列45等の潤滑に供される。また、オイルの一部はロワホース71を介してオイルクーラ28に送られて、オイルクーラ28を通過する走行風と熱交換する。
【0032】
こうして放熱し温度の低下したオイルは、オイルクーラ28の上部に接続されているアッパホース79によってインバータケース26へと送られる。インバータケース26には、図示しないがラビリンス状のオイル流路を有する冷却器がインバータ27に接するように組み込まれている。この冷却器を流通する間にインバータ27から熱を奪ったオイルはリターンホース80によってモータユニット5へと戻される。後述するが、モータユニット5においてオイルは走行用モータ30を冷却した後にオイルパン60へと流下する。
【0033】
なお、本実施形態において走行用モータ30はモータ動作及び発電動作の可能なモータ・ジェネレータであり、インバータ27を介してバッテリ24から供給される電力によりモータ動作して、後輪3へ駆動力を出力する。一方、電動二輪車1の回生制動時には走行用モータ30は発電機として動作し、発生した交流電流はインバータ27により直流に変換されて、バッテリ24に蓄えられる。このような走行用モータ30の動作に係る制御やバッテリ24の充放電制御は従来公知の手法により行われる。
【0034】
−モータユニットの構成−
図2は、モータユニット5における走行用モータ30及び変速機40の構造を概略的に示す展開図であり、
図3は、電動二輪車1の右側から見てオイル供給系の構造を示すモータユニット5の断面図である。
図2に表れているようにモータユニット5のケース51は、それぞれ右側に向かって開口するモータ収容部53と変速機収容部54(伝達機構収容部)とが前後に連なって設けられ、それらの右側の開口を閉ざすように別体の右壁部材55が組付けられている。
【0035】
モータ収容部53は概略的には有底の円筒状とされ、その右側の開口から嵌め込まれた状態で走行用モータ30の円筒状のケース31が収容されるとともに、その筒軸に沿ってモータ軸32(出力軸)が左右方向に延びている。モータ軸32は、左右両側においてそれぞれベアリング33(出力軸の軸受)によって支持されている。左側のベアリング33は、モータケース31の左端の底壁部31aの貫通孔に嵌入されており、右側のベアリング33は、モータケース31の右端の開口を閉ざすキャップ34の貫通孔に嵌入されている。
【0036】
そうして円筒状のモータケース31の筒軸方向の両端の壁部である底壁部31a及びキャップ34にそれぞれ一対のベアリング33が設けられ、それらの中間においてモータ軸32には一体に回転するようにロータ35が取り付けられている。図示は省略するがロータ35には、鉄心の内部に永久磁石が埋め込まれており、このロータ35の外周を取り巻くように近接して円環状のステータ36が配設されている。なお、ステータ36を取り巻くようにモータケース31の周壁部31bとモータ収容部53との隙間に冷却ジャケット31cが形成されている(後述する)。
【0037】
前記モータ軸32の左端は、モータケース31の底壁部31aを貫通して左側に突出しており、その先端部には回転角センサ37が配設されている。本実施形態ではモータケース31の底壁部31aには、これを貫通するモータ軸32の左端部を取り囲むようにボス部が突出しており、このボス部に回転角センサ37のピックアップ部が配設されている。また、回転角センサ37を覆うように、モータ収容部53の左端には蓋部材56が取付けられている。
【0038】
一方、モータ軸32の右端は、キャップ34を貫通して右側に突出しており、その先端部にはスプライン等によって出力ギヤ38が取り付けられている。
図3にも示すように、走行用モータ30の後方には変速機40の入力軸であるクラッチ軸41が配設されており、このクラッチ軸41の右端寄りに回転自在に外嵌されたクラッチギヤ43が、前記モータ軸32の出力ギヤ38と噛み合わされている。クラッチギヤ43は隣接する多板クラッチ42(
図3には示さず)に連結されており、この多板クラッチ42によりクラッチギヤ43とクラッチ軸41とが接続されることで、モータ軸32からの回転がクラッチ軸41に伝わるようになる。
【0039】
また、クラッチ軸41の後方には変速機40の出力軸44が配設され、両軸がギヤ列45を介して変速自在に接続されるようになっている。すなわち、
図3にのみ示すが、シフトドラム46a、シフトフォーク46b、ドグクラッチ46c等からなる変速操作機構46によって、ギヤ列45において接続されるギヤの組み合わせが変更されるようになっており、これにより入出力回転の変速比、即ち変速機40の変速段が変更される。
【0040】
そうして変速された回転が出力される出力軸44の左端には、
図2に示すようにスプロケット47が設けられており、
図1にのみ示す後輪3のスプロケット3aとの間にチェーン48(仮想線で示す)が巻き掛けられている。なお、走行用モータ30の駆動力を伝える動力伝達機構は前記のような多段式の変速機40に限定されず、例えばベルト式の無段変速機であってもよいし、変速比が一定の単なる減速機構であってもよい。
【0041】
前記のような変速機40を収容する変速機収容部54は、
図2に示すようにモータ収容部53よりも左右の幅が狭くなっており、この変速機収容部54の幅に概ね合致するように、比較的幅の狭い長方形状のオイルパン60がモータユニット5のケース51の下部に設けられている(
図2には仮想線で示す)。オイルパン60は、その後部が変速機収容部54の下方に位置し、前部がモータ収容部53の下方に位置するよう、前後に長い長方形状とされている。走行用モータ30のロータ35およびステータ36は、左右方向についてオイルパン60の範囲に含まれるよう、モータ収容部53の左右方向の中央よりも右寄りにずらして配置されている。
【0042】
−モータユニットのオイル供給系−
次に、前記
図3の他、
図4〜6も参照してモータユニット5の潤滑および冷却のためのオイルの供給系統について説明する。
図4は、
図3と同じく右側から見て、走行用モータ30により駆動される機械式オイルポンプ61を示し、
図5には左側から見て、専用の電気モータ(図示せず)を内蔵する電動オイルポンプ62を示す。また、
図6には、それら2つのオイルポンプ61,62が接続された油路の構造を示す。
【0043】
図3および
図6に示すように、モータユニット5のケース51の下部には、下方に延びるように矩形枠状のオイルパン部58が形成され、その下部に別体のオイルパン本体59が組み付けられてオイルパン60を構成している。オイルパン60には、上方のモータ収容部53や変速機収容部54から流下してきたオイルが貯留されている。オイルパン60は、前記したようにモータ収容部53から変速機収容部54にわたる前後方向に長い直方体状であり、必要な容量を確保しながらモータユニット5の下方への飛び出しは抑えられている。
【0044】
本実施形態のモータユニット5においては、オイル供給源として機械式および電動式の2つのオイルポンプ61,62を備えており、共通のストレーナ63を介してオイルパン60に貯留されているオイルを吸い上げ、それぞれ吐出するようになっている。すなわち、一例としてオイルパン60の後寄りにて、貯留されているオイルに浸るようにしてストレーナ63が配設され、その上端には上下方向に延びる第1吸込み油路64の下端が接続されている。
【0045】
図6にも示すように第1吸込み油路64の上端は略水平に左右に延びる第2吸込み油路65に連通し、この第2吸込み油路65の右端が機械式オイルポンプ61の吸込み口61aに接続される一方、第2吸込み油路65の左端は前後方向に延びる第3吸込み油路66を介して、電動オイルポンプ62の吸込み口62aに接続されている。つまり、機械式オイルポンプ61および電動オイルポンプ62が互いに左右方向に対向するように配置されていて、それらのポンプ61,62のオイル吸込口61a,62aは共通のオイル通路(第1吸込み油路64)に接続されている。
【0046】
なお、前記の第2吸込み油路65は、一例としてモータユニット5のケース51を左側面から右側に向かって穿孔したドリルホールからなり、その左端はプラグ65aによって閉鎖されている。また、前記第3吸込み油路66は、ケース51の後面から前方に向かって穿孔したドリルホールからなり、その前端が電動オイルポンプ62の吸込み口に接続される一方、後端はプラグ66aによって閉鎖されている。
【0047】
図4に示すように右壁部材55を取り外してモータユニット5のケース51内を見ると、機械式オイルポンプ61は変速機収容部54の下方に配設されていて、被駆動ギヤ61bに噛み合うポンプ駆動ギヤ61cが、クラッチギヤ43と一体に設けられた小径のギヤ43a(
図2を参照)と噛み合わされている。本実施形態では機械式オイルポンプ61は、例えばトロコイドポンプであって、その吐出量は走行用モータ30の回転数の上昇に比例して増大する。
【0048】
一方、
図5に示すように電動オイルポンプ62は、モータユニット5のケース51の左側面にフランジ部が締結されて、
図6に示すように円柱状の本体部62bがケース51の左側壁の凹部に収容されている。本体部62bには電気モータ(図示せず)を内蔵しており、コントローラ90(
図7参照)からの制御指令を受けて動作する。本体部62bの左端にはヒートシンク62cが取付けられ、その斜め後にはコントローラ90との間を結ぶ信号線のコネクタ62dが設けられている。
【0049】
前記の機械式オイルポンプ61とは異なり、電動オイルポンプ62の回転数は走行用モータ30の回転数に関係なく制御することができる。そこで、詳しくは後述するが、電動二輪車1の走行速度が比較的低く、走行用モータ30の回転数が比較的低いときに電動オイルポンプ62を動作させて、機械式オイルポンプ61からのオイルの吐出量や吐出圧が不足気味になることを補完するようにしている。
【0050】
図6に示すように機械式オイルポンプ61のオイル吐出口61dは、第1吐出油路67を介してメイン油路68(共通のオイル供給路)に連通され、同様に電動オイルポンプ62のオイル吐出口62eは、第2吐出油路69を介して前記メイン油路68に連通されている。メイン油路68は、ケース51の前面から後方に向かって穿孔したドリルホールであり、その後端部に右側から第1吐出油路67が連通するとともに、こうして第1吐出油路67の連通する部位の少し前方、つまりオイルの流れの下流側に前記第2吐出油路69が連通している。
【0051】
一方、ケース51の前面に開口するメイン油路68の前端には、金属製のパイプ部材70の後端が連通している。このパイプ部材70の後端部がジョイント70aによってケース51の前面に取付けられる一方、パイプ部材70の前端は、オイルクーラ28の下部を支持するステー29の後端部の付近でロワホース71の後端に接続されている。ロワホース71は例えばゴムのように弾性を有するホースであり、概ね前方に向かって延びて斜め右向きに湾曲した後に、金属製のパイプ部材72を介してオイルクーラ28の下部に接続されている。
【0052】
それらのパイプ部材70,72やロワホース71にアッパホース79やリターンホース80を加えて、メイン油路68から走行用モータ30やインバータ27に冷却のためのオイルを供給するための冷却用オイル供給路が構成されている。一方、モータユニット5のケース51には、メイン油路68から分岐して変速機40のギヤ列45等に潤滑のためのオイルを供給する変速機側油路73と、同じくメイン油路68から分岐して、走行用モータ30のベアリング33に潤滑のためのオイルを供給するモータ側油路74とが形成されている。
【0053】
変速機側油路73は、前記メイン油路68から分岐して上方に向かって延びる第1変速機側油路73aと、その上端に連通する第2変速機側油路73bとを有する。第1変速機側油路73aの下端は、電動オイルポンプ62からの第2吐出油路69がメイン油路68と連通する部位に連通している。
図2にのみ示すが、第2変速機側油路73bは第1変速機側油路73aとの連通部位から左側に延びた後に、前後方向に延びる第3変速機側油路73cと左右方向に延びる第4変速機側油路73dとによって、クラッチ軸41内を軸心の方向に延びる第5変速機側油路73eに至る。そして、この第5変速機側油路73eから半径方向外方に延びる複数のオリフィスを介してオイルがギヤ列45やベアリング41aに供給される。
【0054】
また、第1変速機側油路73aは、図示省略の油路を介して変速機40の出力軸44内の第6変速機側油路73fにも連通しており、出力軸44内を軸心の方向に延びる第6変速機側油路73fから半径方向外方に延びる複数のオリフィスを介して、オイルがギヤ列45やベアリング44aに供給されるようになっている。このようにギヤ列45やベアリング41a,44aにオイルを供給する変速機側油路73は、比較的複雑な構造になってしまい、圧力損失が大きくなりやすい。
【0055】
一方、モータ側油路74は、モータ収容部53の下方、即ちモータユニット5のケース51の前寄りの部位(前記変速機側油路73よりもオイルの流れの下流側)においてメイン油路68から分岐し、左右方向に延びる第1モータ側油路74aと、この第1モータ側油路74aの左右両端から、それぞれ走行用モータ30のモータ軸32に向かって延びる第2および第3のモータ側油路74b,74cとを有している。
【0056】
すなわち、
図2には実線で、
図3には仮想線でそれぞれ示すように、第2および第3モータ側油路74b,74cは、それぞれモータケース31の底壁部31aとキャップ34とに形成されて、内周端がベアリング33へオイルを供給するように接続される一方、第2および第3モータ側油路74b,74cの外周端は、それぞれジョイント部材75,76に形成されたポート75a,76aを介して第1モータ側油路74aの左右両端に連通している。
【0057】
なお、
図2にのみ示すが、第1モータ側油路74aには分岐路74dを介して油圧センサ77が接続されており、その出力信号がコントローラ90に入力されるようになっている。第1モータ側油路74aのオイルの圧力は、走行用モータ30のベアリング33へ供給されるオイルの圧力と概ね同じであり、この圧力値を検出して電動オイルポンプ62の動作を制御することで、モータユニット5の各部位への所要のオイル供給状態を維持することができる。
【0058】
図3にのみ示すが、メイン油路68においてそれぞれ分岐する変速機側油路73とモータ側油路74との間にはリリーフバルブ78が設けられている。リリーフバルブ78は、筒状のハウジング78a内に収容されたボール78bが、通常はコイルスプリング78cの付勢力によって上方のシート部78dに押し付けられ、閉塞状態となっている。そして、メイン油路68の油圧が所定値以上に上昇すると、この油圧を受けたボール78bがコイルスプリング78cを押し縮めながら下方に移動し、シート部78dから離れてメイン油路68の油圧を開放する開放状態になる。
【0059】
図1を参照して前述したように本実施形態では、前記のように走行用モータ30や変速機40の潤滑に用いられるオイルを利用して、動作中に発熱する走行用モータ30のステータ36やインバータ27を冷却するようにしている。すなわち、メイン油路68を流れるオイルの一部はパイプ部材70,72やロワホース71を介してオイルクーラ28に送られ、このオイルクーラ28のコアを上昇する間に走行風と熱交換して放熱する。
【0060】
図3には模式的に示すが、オイルクーラ28の上部から後方のインバータケース26にかけてアッパホース79が架け渡され、このインバータケース26からモータユニット5にかけてリターンホース80が架け渡されている(
図1も参照)。リターンホース80の下端は図示しないジョイント等を介してモータユニット5のケース51の上部に接続されており、インバータ27を冷却したオイルがリターンホース80によってモータユニット5のケース51内へ戻される。
【0061】
ここで、上述したように本実施形態のモータユニット5においては、ケース51のモータ収容部53にモータケース31を嵌め込むという二重壁構造を利用して、そのモータ収容部53とモータケース31の周壁部31bとの隙間に、ステータ36を取り巻くように冷却ジャケット31cを形成している。すなわち、モータケース31の周壁部31bの外周における左右方向の略中央部から少し右側寄りにかけて、全周に亘って断面矩形状の浅い溝部が形成されるとともに、これを取り巻くモータ収容部53の内周面には薄肉の部位が形成されて、それらの間に環状の冷却ジャケット31cが形成されている。
【0062】
図2にのみ示すが、冷却ジャケット31cに臨むモータケース31の周壁部31b側の浅溝部には、幅の狭い環状の深溝部が複数(図の例では5本)形成されており、オイルによるステータ36の冷却効率が高められている。そして、前記のようにリターンホース80を流下してくるオイルが上方から冷却ジャケット31cに流入し、
図3に矢印で示すように円周方向に分かれて、モータケース31の外周に沿って流れてゆく。こうして冷却ジャケット31cを流下する間に走行用モータ30の熱を奪ったオイルは、モータ収容部53の下部のオイル排出口53aから下方のオイルパン60内に落下する。
【0063】
−電動オイルポンプの制御系−
ところで、上述したように機械式オイルポンプ61の吐出量は、走行用モータ30の回転数の上昇に比例して増大するので、走行用モータ30の回転が低いときには不足気味になり、反対に走行用モータ30の回転が高いときには過剰気味になる虞がある。そこで、本実施形態では、前記のような機械式オイルポンプ61のオイルの吐出特性を補完するように、電動オイルポンプ62を動作させる。
【0064】
図7は電動オイルポンプ62の制御系の機能ブロック図であり、本実施形態では、走行用モータ30の動作制御を行うコントローラ90が、電動オイルポンプ62の動作制御を行うオイルポンプ制御部90aを有している。オイルポンプ制御部90aには、少なくとも、走行用モータ30の回転角センサ37や油圧センサ77からの信号が入力する他に、電動二輪車1のメインスイッチ91、走行用モータ30の温度状態を検出する温度センサ92、電動二輪車1のアクセルグリップの操作量を検出するアクセルセンサ93、同ギヤポジションを検出するギヤポジションセンサ94等からの信号が入力する。
【0065】
それらの信号に応じてオイルポンプ制御部90aは、まず、電動二輪車1の発進時等に、所定条件下で走行用モータ30の動作を開始させる前に、電動オイルポンプ62の動作を開始させるように制御する。また、機械式オイルポンプ61のオイルの吐出量等が不足しがちな走行用モータ30の低回転域で、電動オイルポンプ62を動作させる。なお、オイルポンプ制御部90aは、コントローラ90のマイコンによるソフトウェア処理によって実現される。
【0066】
以下、
図8、9を参照して前記のような電動オイルポンプ62の動作制御について具体的に説明する。
図8は、電動オイルポンプ62の動作制御の手順を表したフローチャート図であり、
図9は、電動オイルポンプ62の動作によって機械式オイルポンプ61の吐出特性を補完するイメージ図である。
【0067】
図8のフローは、電動二輪車1のメインスイッチ91がオフからオンになるとスタートし、まず、ステップS1においてコントローラ90のオイルポンプ制御部90aが電動オイルポンプ62に動作指令を送る。この動作指令を受けた電動オイルポンプ62は、予め設定されている時間(例えば5〜10秒くらい)だけ動作し、メイン油路68へオイルを送り出す。こうしてメイン油路68へ送り出されたオイルの一部は、ロワホース71を介してオイルクーラ28に送られ、インバータ27および走行用モータ30の冷却に供される。停車中の走行用モータ30やインバータ27の発熱は少ないので、電動オイルポンプ62の回転数は非常に低く制御され、無駄な電力消費は抑制される。
【0068】
また、メイン油路68へ送り出されたオイルの一部は、変速機側油路73に流れて変速機40に供給され、そのギヤ列45やベアリング41a,44aを潤滑する。同様にメイン油路68からモータ側油路74に流れたオイルは走行用モータ30に供給されて、そのベアリング33を潤滑する。こうして一旦、オイルが供給されれば暫くの間は被潤滑部の油膜が維持され、いわゆるオイル切れにはならない。
【0069】
この状態でオイルポンプ制御部90aは、前記のような各種センサからの信号を入力するとともに、コントローラ90のメモリの所定領域からデータを読み込んで(ステップS2)、アクセルグリップの操作が行われているか否か判定する(ステップS3)。そして、アクセル操作が行われておらず判定がNOであれば後述するステップS5に進む一方、判定がYESでアクセル操作が行われていれば、この操作量等に応じて電動オイルポンプ62の動作を制御する(ステップS4:連続動作モード)。
【0070】
一例として、まず、電動二輪車1の発進時には、運転者のアクセル操作に応じて走行用モータ30が回転を始め、比較的大きなトルクを発生するが、このときには前記のように走行用モータ30のベアリング33や変速機40のギヤ列45、ベアリング41a,44a等の被潤滑部に既にオイルが供給されて潤滑されているので、オイル切れによる損傷の問題は生じない。
【0071】
続いて電動二輪車1が走り始めると、運転者のアクセル操作に応じて走行用モータ30の回転数が制御され、これに比例して回転する機械式オイルポンプ61からのオイルの吐出量が変化するようになる。電動二輪車1の走行速度が低く、走行用モータ30の回転数が比較的低いときには機械式オイルポンプ61のオイルの吐出量、吐出圧が不足気味になりやすいので、これを補完するように電動オイルポンプ62の動作が制御される。
【0072】
すなわち、連続動作モードにおける電動オイルポンプ62の回転数は、一例として
図9に模式的に示すように、基本的には走行用モータ30の回転数とアクセルグリップの操作量とに応じて変化する。走行用モータ30の回転数が低いときには、機械式オイルポンプ61の動作だけでは変速機40等の被潤滑部へのオイルの供給が不足気味になるので、電動オイルポンプ62を動作させるとともに、その回転数は走行用モータ30の回転数が高いほど、低下させる。
【0073】
一方でアクセル操作量の大きいときは走行用モータ30の出力が大きくなるので、そのベアリングや変速機40等の被潤滑部へのオイルの供給を確保するとともに、走行用モータ30やインバータ27を冷却するオイルの流量を増やすために、電動オイルポンプ62の回転数を高くする。このように走行用モータ30の回転数とアクセル操作量とに基づくとともに、油圧センサ77、温度センサ92、ギヤポジションセンサ94等からの信号も加味して、電動オイルポンプ62を制御してもよい。
【0074】
なお、走行用モータ30の回転数の上昇に連れて、機械式オイルポンプ61からのオイルの吐出量、吐出圧が増大すれば、これに応じて電動オイルポンプ62の動作は停止させてもよい。特に高回転域では機械式オイルポンプ61のオイル吐出量が過剰気味になってリリーフバルブ78が動作するようになる。
【0075】
そうして機械式オイルポンプ61の動作に加えて電動オイルポンプ62を適切に動作させることで、メイン油路68には十分な量のオイルが送り出されて、変速機40のギヤ列45やベアリング41a,44a、および走行用モータ30のベアリング33等の潤滑に供される。本実施形態では、変速機側油路73およびモータ側油路74がいずれもメイン油路68から分岐しており、オイルクーラ28での圧力損失がない分、高圧のオイルを変速機40や走行用モータ30の被潤滑部に供給することができる。
【0076】
また、変速機40のギヤ列45等へオイルを供給する変速機側油路73が比較的複雑な構造であり、圧力損失が大きくなりやすいことを考慮して、本実施形態では変速機側油路73をメイン油路68においてモータ側油路74よりもオイルの流れの上流側、即ちオイルポンプ61,62の近くから分岐させている。このことで、圧力損失の大きくなりやすい変速機側油路73においても所要のオイル圧力を確保しやすい。
【0077】
さらに、メイン油路68に送り出されたオイルの一部は、ロワホース71を介してオイルクーラ28に送られた後に、インバータ27および走行用モータ30の冷却に供される。オイルクーラ28で放熱した比較的低温のオイルによってインバータ27および走行用モータ30を効果的に冷却することができる。
【0078】
前記のような連続動作モードに対し、電動二輪車1のアクセルグリップの操作が行われておらず、前記のステップS2においてNOと判定したときには、ステップS5において温度センサ92からの信号に基づき、走行用モータ30若しくはインバータ27の温度が所定値以上の高温状態かどうか判定する。この判定がYESであれば、アクセルオフであるにもかかわらず走行用モータ30等の温度が高いことから、例えば高負荷走行の直後で走行用モータ30やインバータ27が過熱気味であると判定し、電動オイルポンプ62の動作を予め設定した期間、継続する(ステップS6)。
【0079】
一方、走行用モータ30およびインバータ27の温度が前記の所定値未満であれば(ステップS5でNO)、電動オイルポンプ62を一旦停止させて間欠的に動作させるようにして(間欠動作モード)、前記ステップS2にリターンする。間欠動作モードでは所定の期間(例えば5〜10分くらい)、電動オイルポンプ62を停止させた後に設定時間(例えば10〜30秒くらい)、動作させ、これを交互に繰り返す。なお、フローはメインスイッチ91が切られると、強制的に終了する。
【0080】
したがって、本実施形態にかかる電動二輪車1のモータユニット5においては、走行用モータ30によって駆動される機械式オイルポンプ61の他に、電動オイルポンプ62を備え、これを必要に応じて電動二輪車1の発進前に動作させることにより、発進時に変速機40や走行用モータ30の被潤滑部でオイル切れの起きることを阻止して、その損傷を防止することができる。
【0081】
すなわち、電動二輪車1のメインスイッチ91がオフからオンに操作されたときには、それ以前の停車時間が長かった可能性があるので、必ず電動オイルポンプ62を動作させる。また、メインスイッチ91がオン状態のまま走行用モータ30が停止していれば、電動オイルポンプ62を間欠的に動作させることで、運転者がメインスイッチ91を切り忘れた場合でも、その後の発進時に変速機40や走行用モータ30の被潤滑部でオイル切れの起きることを阻止できる。
【0082】
さらに本実施形態では、電動二輪車1の走行中に電動オイルポンプ62の動作制御によって機械式オイルポンプ61の吐出特性を補完し、低速域でオイルの吐出量、吐出圧が不足気味になることを解消しながら、高速域でのポンプ駆動ロスの低減を図ることが可能である。
【0083】
加えて本実施形態では、機械式および電動式の両方のオイルポンプ61,62のそれぞれのオイル吐出口61d,62eを、第1吐出油路67および第2吐出油路69を介して共通のメイン油路68に接続しており、このことで、オイル通路の全般的な構造を簡略化して工数も削減することができる。
【0084】
−他の実施形態−
前記した実施形態の説明はあくまで例示に過ぎず、本発明、その適用物またはその用途を制限するものではない。例えば、前記の実施形態におけるオイル通路の全般的な構造は単なる例示であって、これは全く異なるものであってもよい。例えば、前記のように両方のオイルポンプ61,62を共通のメイン油路68に接続する必要はないし、このメイン油路68の比較的上流側から変速機側油路73を分岐させ、比較的下流側からモータ側油路74を分岐させる必要もない。
【0085】
また、前記の実施形態では、電動二輪車1のメインスイッチ91が操作されてオフからオンになったとき、電動オイルポンプ62を動作させるようにしているが、これにも限定されない。一例としてキーレスシステムを装備する電動車両の場合は、例えばメインスイッチがオフになっているときに、リモコンキーを有する運転者がシートに騎乗して、着座センサから信号が出力されたときに、電動オイルポンプ62の動作を開始させるようにしてもよい。
【0086】
さらに、前記の実施形態ではメインスイッチ91がオンで且つアクセルオフになっているときに、温度が高くなければ電動オイルポンプ62を間欠動作モードにしているが、このときには電動オイルポンプ62を停止させてもよい。但し、こうした場合は、その後、運転者が何らかの操作を行ったときに、これに応じて電動オイルポンプ62の動作を開始させることが望ましい。
【0087】
すなわち、一例として
図10に示すように、上述した
図8のフローにおいてステップS2に続くステップS20で、ギヤポジションセンサ94からの信号に基づき変速機40がニュートラルからローギヤへシフトされたかどうか判定し(ギヤイン?)、シフトされない間は(NO)待機する一方、シフトされれば(YES)電動オイルポンプ62を動作させる(ステップS21)。こうすれば、その後の電動二輪車1の発進時に変速機40や走行用モータ30の被潤滑部でオイル切れの起きることを阻止できる。
【0088】
なお、図示は省略するが、そのようにギヤポジションセンサ94からの信号に応じて電動オイルポンプ62を動作させる代わりに、電動二輪車1にアクセルグリップ感圧センサやクラッチセンサがあれば、これらのセンサからの信号に応じて電動オイルポンプ62を動作させるようにしてもよい。
【0089】
前記の実施形態では電動二輪車1について説明したが、本発明に係る電動車両は二輪車に限らず、例えばATV(AllTerrain Vehicle:不整地走行車両)や小型運搬車等であってもよい。また、駆動源として走行用モータ30だけでなく、エンジンも搭載したハイブリッドタイプの電動車両も含むことは勿論である。