特許第5764222号(P5764222)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764222
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】補強繊維ストランドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D02J 1/18 20060101AFI20150723BHJP
   D01F 9/12 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   D02J1/18 Z
   D02J1/18 A
   D01F9/12
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-550358(P2013-550358)
(86)(22)【出願日】2012年12月21日
(86)【国際出願番号】JP2012083292
(87)【国際公開番号】WO2013094742
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2014年6月6日
(31)【優先権主張番号】特願2011-281507(P2011-281507)
(32)【優先日】2011年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115107
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 猛
(74)【代理人】
【識別番号】100151194
【弁理士】
【氏名又は名称】尾澤 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100164758
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 博道
(72)【発明者】
【氏名】大澤 敬乃
(72)【発明者】
【氏名】大坪 誠
(72)【発明者】
【氏名】大木 武
(72)【発明者】
【氏名】萩原 克之
【審査官】 久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−254255(JP,A)
【文献】 特開2007−313697(JP,A)
【文献】 特開平03−146736(JP,A)
【文献】 特公昭44−021506(JP,B1)
【文献】 特開2000−136457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00−3/48
D02J 1/00−13/00
D01F 9/08−9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強繊維からなるストランドが凹凸治具、拡幅治具を順に通過し、凹凸治具が凹部と凸部からなる複数の凹凸をストランド進行方向の直角方向に有し、ストランドが凸部によって分けられることを特徴とする補強繊維ストランドの製造方法。
【請求項2】
凹凸治具が、ストランド厚さの0.01〜10倍の高さの凹凸を有する治具である請求項1記載の補強繊維ストランドの製造方法。
【請求項3】
凹凸治具から拡幅治具間の距離であるストランド渡し距離Lが下記不等式(1)を満たす請求項1または2に記載の補強繊維ストランドの製造方法。
L≦20×W (1)
L:凹凸治具から拡幅治具間のストランド渡し距離(mm)
W:拡幅前の繊維ストランド幅(mm)
【請求項4】
ストランドが凹凸治具の前に収束治具を通過する請求項1〜3のいずれか1項記載の補強繊維ストランドの製造方法。
【請求項5】
拡幅治具が一つの凸部を有する治具である請求項1〜4のいずれか1項記載の補強繊維ストランドの製造方法。
【請求項6】
拡幅治具の後に第2の凹凸治具を通過する請求項1〜5のいずれか1項記載の補強繊維ストランドの製造方法。
【請求項7】
補強繊維が炭素繊維である請求項1〜6のいずれか1項記載の補強繊維ストランドの製造方法。
【請求項8】
拡幅前のストランドの幅が1mm〜300mmである請求項1〜7のいずれか1項記載の補強繊維ストランドの製造方法。
【請求項9】
収束治具が一つの凹部を有する治具である請求項4に記載の補強繊維ストランドの製造方法。
【請求項10】
補強繊維ストランドが、樹脂含浸ストランド、補強繊維ペレット、またはランダムマットに用いられる補強繊維ストランドである請求項1〜9のいずれか1項記載の補強繊維ストランドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は補強繊維ストランドに関し、さらに詳しくは繊維強化複合材料に最適な拡幅された補強繊維ストランドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ストランドを拡幅する方法としては、水流や高圧空気流を補強繊維ストランドに当てて構成繊維を幅方向へ散ける方法、空気中あるいは液体中で超音波等によりストランドに振動を与えて広げる方法、あるいはストランドと拡幅治具との接触によりストランドを延し広げる方法などが知られている。
【0003】
例えば水流や高圧空気流を作用させる方法としては、特許文献1や特許文献2などが知られている。しかし、流体に水などを使用すると拡幅後の乾燥工程に大きなエネルギーを必要とし、吸引高圧空気流を使用する場合、多錘化や高速化などのスケールアップに伴って多大な付帯設備を要するという問題があった。その点、特許文献3〜5のようにストランドに振動を与えて広げる方法は比較的小型の装置で実施可能である。しかしこのように振動する治具を用いた方法では、一定のライン速度を越えると振動数が不足し、十分なストランド幅を得られないという問題があった。
【0004】
結局のところ工業的には、拡幅治具との接触による方法が設備投資が比較的少なく効率的な生産が可能であるという利点がある。例えば特許文献6では、表面が凸曲面の曲面バーと凹曲面の曲面バーを用いることにより均一で十分に拡幅された強化繊維ストランドを得る方法が開示されている。しかし工程上ではストランドの張力に変動が生じ、凸曲面の中心部からストランドの中心部が外れ、拡幅が不均一になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開昭57−77342号公報
【特許文献2】日本国特許第3049225号公報
【特許文献3】日本国特開昭56−43435号公報
【特許文献4】日本国特開平1−282362号公報
【特許文献5】日本国特開2007−313697号公報
【特許文献6】日本国特開平3−146736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、簡便な機構でありながら、高速処理の条件下においても安定してストランドが拡幅される、補強繊維ストランドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の<1>〜<10>に関する。
<1>
補強繊維からなるストランドが凹凸治具、拡幅治具を順に通過し、凹凸治具が凹部と凸部からなる複数の凹凸をストランド進行方向の直角方向に有し、ストランドが凸部によって分けられることを特徴とする補強繊維ストランドの製造方法。
<2>
凹凸治具が、ストランド厚さの0.01〜10倍の高さの凹凸を有する治具である<1>記載の補強繊維ストランドの製造方法。
<3>
凹凸治具から拡幅治具間の距離であるストランド渡し距離Lが下記不等式(1)を満たす<1>または<2>に記載の補強繊維ストランドの製造方法。
L≦20×W (1)
L:凹凸治具から拡幅治具間のストランド渡し距離(mm)
W:拡幅前の繊維ストランド幅(mm)
<4>
ストランドが凹凸治具の前に収束治具を通過する<1>〜<3>のいずれか1項記載の補強繊維ストランドの製造方法。
<5>
拡幅治具が一つの凸部を有する治具である<1>〜<4>のいずれか1項記載の補強繊維ストランドの製造方法。
<6>
拡幅治具の後に第2の凹凸治具を通過する<1>〜<5>のいずれか1項記載の補強繊維ストランドの製造方法。
<7>
補強繊維が炭素繊維である<1>〜<6>のいずれか1項記載の補強繊維ストランドの製造方法。
<8>
拡幅前のストランドの幅が1mm〜300mmである<1>〜<7>のいずれか1項記載の補強繊維ストランドの製造方法。
<9>
収束治具が一つの凹部を有する治具である<4>に記載の補強繊維ストランドの製造方法。
<10>
補強繊維ストランドが、樹脂含浸ストランド、補強繊維ペレット、またはランダムマットに用いられる補強繊維ストランドである<1>〜<9>のいずれか1項記載の補強繊維ストランドの製造方法。
なお、本発明は上記<1>〜<10>に関するものであるが、参考のためその他の事項についても記載した。
本発明の補強繊維ストランドの製造方法は、補強繊維からなるストランドが凹凸治具、拡幅治具を順に通過し、凹凸治具が凹部と凸部からなる複数の凹凸を有し、ストランドが凸部によって分けられることを特徴とする。さらには、凹凸治具が、ストランド厚さの0.01〜10倍の高さの凹凸を有する治具であることや、ストランドが凹凸治具の前に収束治具を通過することが好ましい。本発明において、凹凸治具から拡幅治具間の距離であるストランド渡し距離Lは下記不等式(1)を満たすことが好ましい。
L≦20×W(1)
L:凹凸治具から拡幅治具間のストランド渡し距離(mm)
W:拡幅前の繊維ストランド幅(mm)
【0008】
また、拡幅治具が一つの凸部を形成する治具であることや、拡幅治具の後に第2の凹凸治具を有することが好ましい。本発明では、補強繊維が炭素繊維であることや、拡幅前のストランドの幅が1〜300mmであることが好ましく、治具がロールまたはピンであることや、収束治具が一つの凹部を形成する治具であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡便な機構でありながら、高速処理の条件下においても安定してストランドが拡幅される、補強繊維ストランドの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】凹凸治具の模式図。
図2】拡幅治具の模式図。
図3】収束治具の模式図。
図4】本発明の補強繊維ストランドの製造方法に、カット工程を組み合わせた模式図。
図5】補強繊維にかかる張力の方向を説明する模式図。
図6】凹凸治具と拡幅治具の、ストランド渡し距離(L)が短い例。
図7】凹凸治具と拡幅治具の、ストランド渡し距離(L)が長い例。
図8】凹凸治具と拡幅治具が一体化した、L=0の例。
図9】凹凸治具が、横方向に複数並んだ図。
図10】拡幅治具(凸治具)が、横方向に複数並んだ図。
図11】収束治具(凹治具)が、横方向に複数並んだ図。
【符号の説明】
【0011】
1.収束治具
2.凹凸治具
3.拡幅治具
4.ロータリーカッター本体
5.ゴムローラー
6.補強用繊維の糸道
7.ガイド機構
8.拡幅治具へ入射時のストランド引き取りテンション
9.軌道修正力となるストランド引き取りテンションの反力
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、補強繊維からなるストランドが凹凸治具、拡幅治具を順に通過し、凹凸治具が凹部と凸部からなる複数の凹凸を有し、ストランドが凸部によって分けられる補強繊維ストランドの製造方法である。凹凸治具の複数の凸部は、ストランドをその進行方向の直角方向(幅方向)に複数に分ける働きを有し、その結果、繊維束(ストランド)は幅方向に一旦分繊される。その後拡幅治具等を通過した後も、小型の繊維束に一旦分かれたストランドは、単繊維同士の弱い結合と強い結合が共存する状態を維持できる。本発明の補強繊維ストランドの製造方法では、補強繊維からなるストランドが最終的には、各々小型の繊維束に凹凸治具の凸部によって分けられるのである。
【0013】
また、拡幅治具としては、繊維ストランドの幅を広げることができれば特に制限はないが、一つの凸部を有する治具であることが好ましく、図2にあるような一つのゆるやかな凸部を有する治具であることがより好ましい。すなわち拡幅治具としてはいわゆる太鼓形状(より詳しくは和太鼓形状や樽形状)の治具(以下、凸治具)であることが好ましい。このような治具は図10のように長尺方向に連結させることで、容易に多錘化に対応することができ、多錘化して工業的に大量生産する際に特に有用である。
【0014】
本発明の製造方法では、凹凸治具から拡幅治具間のストランドの渡し距離Lは小さいことが好ましく、少なくとも拡幅前の繊維ストランドの幅Wの20倍以下の距離であることが好ましい。
【0015】
本発明で用いられる補強繊維としては、繊維強化複合材料に用いることが可能な高強度繊維であれば繊維の種類について特に限定は無いが、無機系繊維としては炭素繊維、ガラス繊維、玄武岩繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、スチール繊維などが、有機系合成繊維としては芳香族ポリアミド繊維、PBO繊維、高強度ポリエチレン繊維などを好ましく挙げることができる。なかでも本発明の製造方法を適用するにあたっては炭素繊維が好適である。炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、石油・石炭ピッチ系、レーヨン系、リグニン系など、何れの炭素繊維も使用することができるが、特に、PANを原料としたPAN系炭素繊維であることが、工業規模における生産性及び機械的特性に優れており特に最適である。
【0016】
補強繊維の引張強度としては、600MPa〜12GPaであることが好ましく、特には3000〜10000MPaの範囲であることが好ましい。また、補強繊維のストランド引張弾性率としては、100〜1000GPaであることが好ましく、特には200〜500GPaであることが好ましい。
補強繊維の直径としては用途により1μm〜30μmの幅広い範囲を用いることができ、特には3〜10μmの範囲であることが、マトリックス樹脂への補強効果が高く好ましい。
【0017】
本発明で用いる補強繊維からなるストランドは、複数の単繊維が集合し束となったものである。束を構成する単繊維の本数としては1000本〜10万本の繊維から構成された繊維束(ストランド)であることが、本発明の拡幅効果が明確となり好ましい。さらには6000本〜5万本の範囲であることが好ましい。本数が少なすぎる場合には本発明の拡幅効果が少なくなる傾向にある。ストランドの総繊度としては30tex〜50万texであることが好ましく、特には200〜4000texであることが好ましい。
【0018】
このようなストランドの幅としては、用いる補強繊維の繊維径にもよるが、補強繊維100texあたり0.1〜10mmであることが好ましく、0.5〜5mmであることがより好ましい。また、加工性の観点から、ストランド一本辺りの幅が1mm〜300mmの範囲であることが好ましく、より好ましくは3〜90mm、特には5〜40mmの範囲が最適である。また、これらのストランドは製造当初から繊維からなる束を構成していても良いし、複数本のストランドを集めて一度に処理することも可能である。そしてストランドを複数用いる場合には、多錘で供給しても良い。投入するストランドの本数および幅に応じて、各治具を軸方向に延長する事により、本発明の製造方法においては容易に対応することが出来る。
【0019】
本発明に用いられる補強繊維からなるストランドの形状としては扁平であることが好ましく、とくに限定されるものではないが、長方形、円形および楕円形であることが好ましい。ストランドの厚さとしては0.01〜20mmの範囲であることが好ましく、特には0.02〜10mmの厚さであることが好ましい。この厚さは、ノギスやマイクロメーターを用いて測定する事が可能で有る。拡幅前のストランドは通常サイジング剤によって収束されており、例えばそのような炭素繊維であれば、厚さも容易に測定が可能である。またそれが困難な場合においても、ストランドに樹脂を含浸させた試験片の切断断面を研磨し、顕微鏡等で観察し、正確に厚みを測定することが可能である。
【0020】
また、本発明に用いられる補強繊維ストランドはその前工程にてサイジング剤を付与しているものであることが好ましい。サイジング剤の付着量としては、繊維100質量部に対し、0超〜10質量部であることが好ましく、0.5〜5質量部であることがより好ましい。またサイジング剤としては、特に制限はないが、得られる複合材料の物性の観点から、後にストランドが補強する対象となるマトリックス樹脂と同じ樹脂系のサイジング剤であることが好ましい。また、軟化点を有する熱硬化性または熱可塑性の樹脂を主剤として含むサイジング剤が好ましい。本発明の製造方法では、このようなサイジング剤が付着した開繊しにくい繊維ストランドも、高速処理が可能である。
【0021】
本発明の補強繊維ストランドの製造方法では、上記のような補強繊維からなるストランドを、凹凸治具、拡幅治具の順に通過させる工程を必須としている。そしてこの凹凸治具がストランドの進行方向に対し直角方向に粗密斑が生じるように複数の凹凸を有することが重要である。また凹凸治具から拡幅治具間のストランドの渡し距離Lが下記不等式(1)を満たすような位置関係で配置されていることが好ましい。
L≦20×W (1)
L:凹凸治具から拡幅治具間のストランド渡し距離(mm)
W:拡幅前の繊維ストランド幅(mm)
【0022】
本発明の製造方法では、凹凸治具から拡幅治具間のストランドの渡し距離Lは小さいことが好ましく、少なくとも拡幅前の繊維ストランドの幅Wの20倍以下の距離であることが好ましい。さらには繊維ストランドの幅Wの5倍以下、特には2倍以下が好ましい。距離Lの下限値としては凹凸治具と拡幅治具が一体化し、図8のように実質的にはLがゼロの場合も好ましい態様である。
【0023】
また、本発明においては、補強繊維ストランドを凹凸治具、拡幅治具についで、ストランドの糸道を安定化させるガイド機構を通過させることが好ましい。拡幅治具を用いてストランドの幅を広げる場合、ストランドに対して幅方向(X方向)の分力が加えられるが、この時、例えば図5において+X方向、−X方向の分力が、拡幅に十分な大きさであることもさることながら、両者のバランスが取れていることが理想的である。仮に+X方向が極端に大きい場合は、ストランド全体が+X方向に偏ってしまい、ストランドが均一かつ十分に拡幅されない傾向がある。
【0024】
拡幅治具において、ストランドに対し+X、―X双方向に分力をバランスよく加えるためにはストランド自体を拡幅治具の中心を走行させることが好ましい。そのため、拡幅治具へのストランド入射位置及び角度を制御し、ストランド幅方向の糸道を規制することが好ましい。
【0025】
拡幅治具へのストランド入射位置としては、(i)ストランド中心が拡幅治具上の中心(X=0)の位置を走行すること、(ii)中心(X=0)の軸とストランドの入射方向とでなす角度(ストランド入射角度)が0度であること、が理想的である。しかし、実際には補強繊維ストランドの拡幅処理を、工業的に高速かつ連続的に行う場合、上記(i)、(ii)を常時、継続して満足することは困難である。
【0026】
本発明において、補強繊維ストランドを凹凸治具、拡幅治具の順に通過させると、ストランド全体が+X方向に偏った場合にも、糸道を修正するために−X方向に力(軌道修正力)が加わる。さらに、補強繊維ストランドを凹凸治具、拡幅治具についで、ストランドの糸道を安定化させるガイド機構を通過させた場合には、例えば図6(拡幅治具への入射位置X’)に示すように拡幅治具上でストランド全体が+X方向に偏ったとしても、ガイド機構がストランド幅方向の糸道ズレに対して支点として作用することで、X方向の凹凸治具上のストランドに−X方向の反力を生じさせ、この反力を軌道修正力として利用しやすい。ここで−X方向の反力はストランドの繊維軸方向に作用させているストランドの引き取りテンションのX方向分力であるので、ストランドの幅方向に対する凹凸治具と拡幅治具の位置関係が上記不等式(1)を満足することでより大きな効果が得られる。
【0027】
そのため凹凸治具からストランド拡幅治具間のストランドの渡し距離Lは小さい方が好ましく、ストランドの引き取りテンションのX方向分力を大きくするために、距離Lがストランドの幅Wの20倍以下であることがより好ましい。さらにはLがWの5倍以下であることが好ましく、特には2倍以下であることが好ましい。
【0028】
このような構成をとることにより、ストランドの糸道が多少ズレた場合でも、実用的な範囲に軌道が修正されやすくなるのである。従来から軌道修正の方法としては、センサー等で糸道のズレを検知してフィードバック制御を行う方法などがあるが、本発明の方法では、このような設備的に大掛かりなものは不要となり、特に多錘化して工業的に安定生産する上で効果的である。
【0029】
またさらには、ストランドが凹凸治具を通過する前にあらかじめ一度収束治具を通過することが好ましい。収束治具をあらかじめ通過することによりストランドがより安定した糸道を通過し、張力変動等の工程調子の影響をより少なくすることが可能となる。
【0030】
さらにストランドが拡幅治具を通過した後に、第2の凹凸治具を通過することも好ましい。処理後のストランドが、再度、複数の凹凸を有した凹凸治具を通過することにより、後の工程においても拡幅状態をより均一に保持することが可能となる。
【0031】
このような本発明の製造方法に用いられる凹凸治具は、ストランドの進行方向の直角方向(幅方向)に、ストランドの粗密斑が発生するよう配置された凹凸を有することを必須とする治具である。凹凸により補強繊維からなるストランドを予め分繊し、拡幅を安定化させると共に、ストランドの糸道を一定にするガイド機構としての効果がある。
【0032】
通常補強用繊維を拡幅させる場合には、ストランドの厚さをストランドの幅方向に対して均一に保つ必要性があり、本発明のような凹凸治具の使用は避けられてきた。複合材料中の繊維の存在率が高い部分と低い部分でマトリックス樹脂の補強効果が異なると考えられてきたためである。しかし、補強繊維ストランドの使用方法としてはそのままマトリックス樹脂中に含浸させる以外にも、拡幅した状態にて樹脂を浸漬し、収束した後に樹脂を固化させカットしてペレットとして使用する方法や、拡幅した状態にて補強繊維ストランドをカットしランダムマットに用いる方法などの活用方法がある。これらの場合は工程途中にて安定したストランド全体の幅と厚さが得られることが特に重要であり、ストランドの幅方向における局所的な厚さ変動は何ら問題とはならない。却って規則的であれば局所的な幅方向の厚さ変動が有る方が好ましいことが、本発明者らの努力により判明したのである。
【0033】
凹凸治具は、ストランドを構成するフィラメントがより安定な谷部(凹部)を走行しやすいため、簡易な機構でもX方向に対し、十分に、ストランドの糸道を安定化する支点として機能する。また、図9のように図1のような凹凸治具を長尺方向に連結させることで、容易に多錘化に対応することが可能であり好ましい。
【0034】
本発明で用いる凹凸治具としては、その凹凸による高低差がストランド厚さの0.01〜10倍程度の高さであることが好ましい。ストランドの厚さより凹凸の高低差が小さい場合には糸道の安定と共に、ストランドの幅方向の局所的な厚さ変動も押さえることが可能となる。一方ストランドの厚さよりも凹凸の高低差が大きい場合には糸道のより高い安定化を得ることができる。また、ストランド中に多数のより小型の繊維束が生じるため、後の含浸処理やカット工程にてそれぞれの小型の繊維束(ストランド)がまとまって処理されるという特徴を有する。本発明の製造方法によれば、元のストランドより細い、小型の繊維束が多数生じる結果を得ることが可能となる。凹凸による高低差は0.01〜20mmが好ましく、さらには0.05〜5mmが最適である。
【0035】
このような凹凸治具としては、ロールやピンなどの形状でも良いし、固定した治具のストランドが通過する面に凹凸を形成したものでも良い。例えばギザギザの凹凸を有する図1のようなピン形状であることが好ましい。ロールやピンなどの円筒形の形状を取る場合には、その直径としては5〜900mmであることが好ましく、10〜200mmであることがより好ましく、さらには10〜90mmであることが特に好ましい。
【0036】
また糸道上に凹部と凸部からなる複数の凹凸部を有するのであればその断面形状は特には問わないが、抱き角や糸道の自由度が高い点から、治具の断面形状は円形であることが好ましい。抱き角としては1〜350°の範囲であることが好ましく、30〜180°であることがより好ましい。この抱き角は治具間の距離や高さを変更することにより容易に調整することが可能である。
【0037】
本発明で用いられる凹凸治具においては凹凸が複数であることが必要で有る。凹凸の各凸部のピッチとしては0.1〜10mmの間隔であることが好ましく、さらには5mm以下であることが好ましい。また、凸部のピッチは、拡幅前の補強繊維ストランドの幅に対して1/2以下の間隔であることが好ましく、より好ましくは1/5以下、1/10以下のピッチ間隔であることが特に好ましい。一つの凸部の側面の角度としては特に限定しないが15°〜90°であることが好ましく、さらには30°〜90°の範囲が最適である。
【0038】
凸部の頂点は、補強繊維を傷つけないように曲率を有することが好ましく、曲率半径R1 は凹凸の幅と間隔にもよるが、R1 =0.01mm〜30mm、特には10mm以下であることが好ましい。またストランドが通過する凹凸の底部となる凹部の頂点の曲率半径R2 は凹凸幅と間隔にもよるが、R2 =0.01mm〜50mmの範囲であることが、特には30mm以下であることが好ましい。
【0039】
また、本発明で用いられる凹凸治具としては、全体的に鼓状(より詳しくは小鼓形状)の形状をとり、その一つの大きな凹部の中に小さな凹凸部を形成させることにより、収束治具と凹凸治具を兼ねた治具として用いることも可能である。
【0040】
本発明に用いられる凹凸治具を形成する材質は特に限定しないが、ステンレス、鉄、銅等の金属や、ガラスやアルミナ、ジルコニア等のセラミックスが好ましい。金属には梨地加工や磨き加工、クロムメッキ等の表面処理、セラミックスにはフッ素樹脂等の合成樹脂をコーティングしておくこともできる。もっとも好ましくは、ステンレス鋼にハードクロムメッキ加工を施したものである。特に炭素繊維のように剛性が高い繊維を用いる場合、擦過による治具の耐摩耗性を向上させるために特に好ましい。またその表面は目的により、鏡面加工を施しても梨地処理等を施しても良い。またさらに凹凸治具に超音波振動等の振動や、加熱・冷却を与える事でより好適に使用できる場合もある。
【0041】
本発明の製造方法においては、このような例えば図1のような凹凸治具を用いることにより、凹凸により補強繊維からなるストランドを分繊し、拡幅を安定化させると共に、ストランドの糸道を一定にすることができる。
【0042】
本発明の補強繊維ストランドの製造方法では、ストランドは凹凸治具を通過後、拡幅治具を通過する。拡幅治具としては、ストランドを拡幅できる治具であれば特に制限は無いが、一般には拡幅治具としては多錘化して工業的に生産することを考慮すると図2のような一つのゆるやかな凸部を形成する治具(凸治具)であることが好ましい。いわゆる太鼓形状(より詳しくは和太鼓形状)の治具である。このような治具は図10のように長尺方向に連結させることで、容易に多錘化に対応できる。
【0043】
このような拡幅治具としては、ロールやピンなどの形状でも良いし、固定した治具の繊維束(ストランド)が通過する面に凸部を形成したものでも良い。ロールやピンなどの円筒形の形状を取る場合には、最大部の直径としては5〜900mmであることが好ましく、10〜200mmであることがより好ましく、さらには10〜90mmであることが好ましい。
【0044】
また糸道上に凸部を有するのであればその断面形状は特には問わないが、抱き角や糸道の自由度が高い点からは、治具の断面形状は円形であることが好ましい。抱き角としては1〜350°の範囲であることが好ましく、30〜180°の範囲であることがより好ましい。この抱き角は治具間の距離や高さを変更することにより容易に調整することが可能である。
【0045】
凸部は、治具の中央に近い程大径になっており、いわゆる太鼓形状(より詳しくは和太鼓形状)」に加工されている。凸部を有する拡幅治具である凸治具は中央部と端部では径が異なる。繊維は糸道上において、その行路長が短くなるようなルートで走行する傾向がある。したがって、凸治具において径が大きい中央部を走行する繊維は行路長が長くなり易いため、繊維は幅方向に広がることで行路長が短くなるルートを走行しストランドの拡幅がなされる。一方で、拡幅するということは、繊維がストランドの走行方向に対し角度をもったルートを走行することであるため、この角度が大き過ぎると行路長が長くなる方向となる。したがって、繊維は両者のバランスが取れた最も行路長が短くなるルートを走行することになる。
【0046】
凸部は円弧状であることも好ましく、その場合の曲率半径Rは、R=10mm〜900mmが好ましく、さらにはR=10mm〜500mmの範囲であることがより好ましい。拡幅治具の曲率半径が小さすぎると拡幅状態が不良になりやすく、曲率半径が大きすぎると拡幅が不十分になる傾向に有る。
【0047】
また、拡幅治具の有効幅を設定することにより、補強繊維ストランドの拡幅後の幅を調整することが可能である。さらには有効幅を規定したフラットバーやピン、ロール等の治具を用いることにより、より品質の安定した補強繊維ストランドを得ることが可能となる。また、本発明の製造方法においては、補強繊維ストランドが拡幅治具を通過した後に、例えば、規制幅を設定したピンガイドや溝付きローラーなどの糸幅規制治具を通過させることも好ましい。糸幅規制治具を用いることで、補強繊維ストランドの拡幅後の幅を調整し、また拡幅後の補強繊維ストランドに生じた目隙を低減することができる。
【0048】
本発明に用いられる拡幅治具を形成する材質は特に限定しないが、ステンレス、鉄、銅等の金属や、ガラスやアルミナ、ジルコニア等のセラミックスが好ましい。金属には梨地加工や磨き加工、クロムメッキ等の表面処理、セラミックスにはフッ素樹脂等の合成樹脂をコーティングしておくこともできる。もっとも好ましくは、ステンレス鋼にハードクロムメッキ加工を施したものである。特に炭素繊維のように剛性が高い繊維を用いる場合、擦過による治具の耐摩耗性を向上させるために特に好ましい。さらに拡幅治具に超音波振動等の振動や、加熱・冷却を与える事でより好適に使用できる場合もある。
【0049】
上述の通り、凸治具を用いた場合には中央を走行する繊維は行路長が長くなるため、拡幅後のストランドは中央部が薄くなり易い傾向にある。そこでストランド幅方向の凹凸治具からストランド拡幅治具間のストランドの渡し距離Lを小さくすることで、中央部の繊維が過度に幅方向に逃げることが抑制され、安定的に均一な厚みと幅の拡幅ストランドが得られる。したがって、図8のようにストランド幅方向の凹凸治具と拡幅治具を実質的に一体化させたものは特に有効である。
【0050】
また、拡幅治具の後にガイド機構が配置されている場合、このガイド機構は、糸道がズレたときの軌道修正を行うために下流側の支点として働く。ガイド機構としては、下流側の支点として作用できれば特に限定されないが、例えば、フラットバーやピン、ロール等の治具などがあげられる。特には、ストランド幅方向の凹凸治具と同様にX方向に凹凸を有する固定された凹凸治具を用いることが好ましい。ガイド機構として凹凸治具を用いることで、ストランドを構成するフィラメントがより安定な凹部を走行しやすいため、簡易な機構でもX方向に対し十分に支点として機能し、かつ、長尺方向に連結させることで、容易に多錘化に対応でき、さらには後の工程においても拡幅状態をより均一に保持することが可能となる。また、凹凸治具を用いた場合には、ストランドの進行方向の直角方向(X方向)にストランドの粗密斑が発生するよう配置された凹凸が存在するため、これにより補強繊維からなるストランドを予め分繊する効果がある。
【0051】
このようなあらかじめ分繊された補強用繊維束は、拡幅した状態にて樹脂を浸漬し、収束した後に樹脂を固化させカットして得られるペレットや、拡幅した状態にてカットされた補強繊維を分散させて製造されるランダムマットに、特に好ましく用いられる。これらの場合は工程途中にて安定したストランド全体の幅と厚さが得られることが特に重要であるからである。
【0052】
従来繊維を拡幅して連続繊維として補強材に用いる場合には、ストランドを目透きなく均一に保つことが重視されてきた。補強繊維ストランドの使用方法としてはそのままマトリックス樹脂中に含浸させる方法が主流だったからである。そのため、分繊作用を有する本発明のような凹凸治具の使用は一般的に避けられてきた。複合材料中の繊維の存在率が高い部分と低い部分とでマトリックス樹脂の補強効果が異なり、欠点となると考えられてきたためである。しかし上記のペレットやランダムマットとして使用する場合には、ストランドの幅方向における局所的な厚さ変動は何ら問題とはならない。特に拡幅後のストランドをカットしてランダムマットとして用いる場合、マットのムラを軽減させるためには、逆に積極的にストランドを分繊し、繊維及び繊維束の本数を増加させることが効果的であり、本発明の凹凸治具の使用は、ストランドの分繊作用を有しているために、特に好ましい方法となる。
【0053】
また本発明の製造方法においては、ストランドが上記のような凹凸治具や拡幅治具を通過する前にあらかじめ収束治具を通過することが好ましい。そのような収束治具としては、ストランドの糸道を固定化できる治具であれば特に制限は無いが、例えば、多錘化して工業的に生産することを考慮すると、図3のようにロールやピンなどのストランドが通過する面に凹部を形成した治具(凹治具)であることが好ましい。いわゆる鼓形状(より詳しくは小鼓形状)の治具である。このような治具は図11のように長尺方向に連結させることで、容易に多錘化に対応できる。
【0054】
収束治具をあらかじめ通過することにより上述の(i)の条件、「ストランド中心が拡幅治具上のX=0の位置を走行すること」を高い基準で満足し、ストランドがより安定した糸道を通過するため、安定した拡幅が可能となり、最終的に得られるストランドの拡幅幅も安定する。
【0055】
収束治具の機能としては、上述のロールやピンなどの円筒形の形状を取る場合には、最大部の直径としては5〜900mmであることが好ましく、10〜200mmであることがより好ましく、さらには10〜90mmであることが好ましい。
【0056】
糸道上に凹部を有するのであればその断面形状は特には問わないが、抱き角や糸道の自由度が高い点からは、治具の断面形状は円形であることが好ましい。抱き角としては1〜350°の範囲であることが好ましく、30〜180°であることがより好ましい。この抱き角は治具間の距離や高さを変更することにより容易に調整することが可能である。
【0057】
収束治具の凹部は、治具の中央程小径になっており、いわゆる鼓形状(より詳しくは小鼓形状)に加工されている。凹部は円弧状であることも好ましく、その場合の曲率半径Rは、R=10mm〜900mmが好ましく、さらにはR=10mm〜500mmの範囲であることがより好ましい。
Rが小さすぎると繊維が収束されすぎ、逆に大きすぎると位置決め効果が劣る傾向となる。
【0058】
本発明に用いられる収束治具を形成する材質は特に限定しないが、ステンレス、鉄、銅等の金属や、ガラスやアルミナ、ジルコニア等のセラミックスが好ましい。金属には梨地加工や磨き加工、クロムメッキ等の表面処理、セラミックスにはフッ素樹脂等の合成樹脂をコーティングしておくこともできる。もっとも好ましくは、ステンレス鋼にハードクロムメッキ加工を施したものである。特に炭素繊維のように剛性が高い繊維を用いる場合、擦過による治具の耐摩耗性を向上させるために特に好ましい。さらに収束治具に超音波振動等の振動や、加熱・冷却を与える事でより好適に使用できる場合もある。
【0059】
本発明に好ましく用いられる、収束治具、凹凸治具、拡幅治具、ガイド機構などには、さらに端部に「つば」などで繊維が通過する範囲を規制することで、これらの治具に有効幅を設定し、補強繊維ストランドの拡幅後の幅を調整することが可能である。
【0060】
また本発明に用いられる収束治具、凹凸治具、拡幅治具、ガイド機構などには、超音波振動等の振動や、加熱・冷却を与える事が、ストランドの拡幅性の向上及び糸道のブレ抑制を図ることが可能となるため、好ましい。上述のように補強繊維ストランドにはマトリックス材料との接着向上やストランドの収束性を高める目的で各種サイジング剤を付与することが好ましく、振動・加熱・冷却などによってこの収束力を低減することで比較的小さな張力でも効果的に拡幅を行うことができるようになる。ただし、収束力が大きすぎると、所望のストランド幅に拡幅するために大きな張力が必要となる場合がある。特に、サイジング剤が固体の樹脂成分を含む場合には、収束治具、ストランド幅方向の凹凸治具、拡幅治具、ガイド機構などをサイジング剤の軟化温度以上、分解温度未満に加熱することが好ましく、工程途中におけるサイジング剤の収束力を一時的に低下させることができ、生産性が向上する。なお、サイジング剤が熱硬化性樹脂成分を含む場合には、加熱温度は硬化温度未満であることがより好ましい。治具の加熱温度としては、ストランド自体の熱劣化、ストランド‐各機構の接触時間、サイジング剤の成分によっても異なるが、一般的には50〜300℃が好ましく、70〜250℃がより好ましい。
【0061】
本発明の補強繊維ストランドの製造方法では、補強繊維からなるストランドが凹凸治具、拡幅治具に接触しながら順に走行するものであるが、接触長、接触時間、糸道、治具とストランドの摩擦係数、等を適宜調整する事によって、張力や拡幅状態を適宜最適化する事ができる。
【0062】
一般には本発明の製造方法のライン速度としては1〜500m/分の範囲が好ましく、特には2〜90m/分の範囲であることが好ましい。また、処理する前のストランドにかける張力としては0.098〜98N(0.01〜10kgf)の範囲が好ましく、0.98N(0.1kgf)以上であることが最適である。
【0063】
このような本発明の製造方法にて得られた補強繊維ストランドをマトリックス樹脂と組み合わせ、例えば、射出成形、プレス成形、フィラメントワインディング成形、樹脂トランスファー成形、オートクレーブ成形など、公知の成形手段・成形方法により繊維強化複合材料が得られる。本発明の製造方法にて得られた補強繊維ストランドは、例えば、かかる補強繊維ストランドを一方向に引き揃え、もしくは織編物や不織布、多軸織物、組物等に成形した補強繊維材料、補強繊維ストランドを任意の繊維長に切断したチョップドストランドとして、特に好ましくは、樹脂含浸ストランドや補強繊維ペレット、あるいはランダムマットとして、最終的には繊維強化複合材料に特に好適に用いることができる。例えば樹脂含浸ストランドとするには拡幅された補強繊維ストランドを、熱可塑性樹脂などに含浸し、冷却し切断することにより補強繊維ペレットとすることができる。
【0064】
マトリックス樹脂としては、特に制限はなく、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂が用いられる。
熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂、およびその共重合体やブレンド物であるポリオレフィン系樹脂、ポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド12等の脂肪族ポリアミド系樹脂、酸成分として芳香族成分を有する半芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)やポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂(ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ABS樹脂等)、あるいは、ポリ乳酸系などの脂肪族ポリエステル系樹脂などを挙げることができる。なかでも好ましくはポリカーボネート系樹脂や脂肪族ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が好ましく挙げられる。
【0065】
熱硬化性樹脂の具体例としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂とシアン酸エステル樹脂の予備重合樹脂、ビスマレイミド樹脂、アセチレン末端を有するポリイミド樹脂及びポリイソイミド樹脂、ナジック酸末端を有するポリイミド樹脂等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上の混合物として用いることもできる。中でも、耐熱性、弾性率、耐薬品性に優れたエポキシ樹脂やビニルエステル樹脂が、特に好ましい。これらの熱硬化性樹脂には、硬化剤、硬化促進剤以外に、通常用いられる着色剤や各種添加剤等が含まれていてもよい。複合材料中に占める樹脂組成物の含有率は、10〜90質量%、好ましくは20〜60質量%、更に好ましくは25〜45質量%である。
【0066】
本発明の補強繊維ストランドは十分に拡幅されており、樹脂が容易に含浸されるため、これらを用いた複合材料は高い物性を得ることが可能となる。
【0067】
また、本発明の補強繊維ストランドは、特に、任意の繊維長の補強繊維をランダム配向させた疑似等方性の不織布基材であるランダムマットの製造に使用される補強繊維ストランドとして好ましく使用することができ、例えば次のような工程を経ることにより得られるランダムマット及びそれを使用した繊維強化複合材料に使用することで特に高い効果を発揮することが可能である(図4)。
1.(カット)補強繊維ストランドをカットする工程、
2.(分割)カットされた補強繊維ストランドを管内に導入し、空気を繊維ストランドに吹き付ける事により、ストランドを分割させる工程、
3.(繊維散布)分割させた各補強繊維ストランドを拡散させる工程(同時に、繊維状又はパウダー状のマトリックス樹脂とともに吸引し、補強繊維とマトリックス樹脂を同時に散布する塗布工程とすることもできる)、
4.(定着)塗布された補強繊維およびマトリックス樹脂を定着させ、ランダムマットを得る工程。
5.(プレス)得られたランダムマットをプレス成形する工程。
【0068】
特に本発明の製造方法にて得られた補強繊維ストランドは、凹凸治具処理に由来する幅方向に規則的な粗密斑が有り、カット工程後のバラバラに分割する工程にて特に品質の高い分割した繊維ストランドを得ることが可能となる。
【0069】
かかるランダムマットに使用するマトリックス樹脂としては、特に制限はないが、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。また、プレスは4の工程にて得られたランダムマットを複数枚重ねて、所望の厚さとすることができる。プレス成形の方法および条件にはとくに制限はないが、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、熱可塑性樹脂の融点以上、融点分解温度以下の条件にて熱プレスすることが好ましい。プレスの圧力およびプレス時間も適宜選択できる。また、ランダムマットに用いる樹脂は上記の3の工程と同時に塗布してもいいし、繊維散布したマットの上に、樹脂フィルムや溶融した樹脂を重ねて次の4の定着工程を行ってもよい。
【0070】
ランダムマットに用いるマトリックス樹脂の存在量は、補強繊維100質量部に対し、50〜1000質量部であることが好ましい。より好ましくは、補強繊維100質量部に対し、マトリックス樹脂100〜600質量部、更に好ましくは、補強繊維100質量部に対し、マトリックス樹脂150〜300質量部である。
【0071】
ランダムマットに適した熱可塑性樹脂の種類としては例えば塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド46樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド610樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などの 単量体、共重合体、及びそれら2種以上の混合体が好ましく挙げられる。この中でも、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などが望ましい。
【0072】
また本発明の補強繊維ストランドを用いて最終的に得られる繊維強化複合材料中には、本発明の目的を損なわない範囲で、本発明の補強繊維ストランドに用いた繊維以外に、他のガラス繊維等の無機繊維や有機繊維等の各種繊維状または非繊維状フィラー、難燃剤、耐UV剤、顔料、離型剤、軟化剤、可塑剤、界面活性剤の添加剤を含んでいてもよい。
【0073】
ランダムマットを用いて、繊維強化複合材料である成形品を得る方法としては、特に限定はしないが、プレス成形、熱成形が好ましい。かかる成形工程は、上記ランダムマットの製造工程における5のプレス成型工程において、直接最終成形品の形状に成形するものであってもよいし、5のプレス成型工程において、例えば板状など取り扱いやすい形状に予備成形した繊維強化複合材料を、プレス成形もしくは熱成形など任意の成形方法により最終成形品の形状に成形するものであってもよい。
【0074】
具体的には、金型内にランダムマットあるいは予備成形した繊維強化複合材料を配置し、融点以上あるいはガラス転移点以上(マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合には硬化温度以上)まで昇温しつつ、プレス成形を行い、次いで金型を融点未満あるいはガラス転移温度未満まで冷却する、いわゆるホットプレスにより好ましく成形品を得る事ができる。
【0075】
また、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合には、ランダムマットあるいは予備成形した繊維強化複合材料を融点以上あるいはガラス転移点以上まで加熱し、これを得ようとする成形体の形状に合わせ単独または複数枚重ね、融点未満あるいはガラス転移点未満に保持した金型内に投入し、加圧した後、冷却する、いわゆるコールドプレスにても好ましく成形品を得る事ができる。
【0076】
このような本発明で得られる補強繊維ストランドを用いた繊維強化複合材料は、樹脂の含浸が十分に行われ、高い物性と高効率の加工性を有する経済効率の高い複合材料となり、機械物性に優れ、そのばらつきも小さいため、スポーツ用途、レジャー用途、一般産業用途、航空・宇宙用途、自動車用途など、様々な用途に広く適用できるものとなる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。なお、複合材料の製造および物性の評価は以下に示す方法で行った。
【0078】
(補強繊維ストランドの幅の測定)
補強繊維ストランドの幅を、ノギスを用いて、繊維の長さ方向1m置きに計10点測定し、その平均を補強繊維ストランドの幅とした。
【0079】
(ランダムマットの製造)
補強繊維ストランドを、ロータリーカッターを用い繊維長20mmにカットした。カットされたストランドをSUS304製の二重管中に導入し、150m/secの圧縮空気を吹き付けることによりストランドを分割させた。さらに引き続き、ストランドを拡散させると同時に、マトリックス樹脂としてポリアミド樹脂(PA6パウダー、ユニチカ株式会社製 A1030FP)を供給し、繊維と樹脂を同時に散布した後、繊維にポリアミド樹脂を定着させランダムマットを作成した。
【0080】
(成形板の製造方法)
350mm×300mmの大きさに裁断した上記ランダムマットを、成形後の厚みが5mmになるように積層し、260℃に加熱したプレス機を用いて4MPaの圧力で3分間熱プレスして、繊維強化複合材料成形板を得た。
【0081】
(引張強度測定)
上記の製造方法により得られた繊維強化複合材料成形板を用いて、JIS K7164に従い、幅45mm、長さ215mm(つかみ具間の長さ115mm、測定部での幅25mm)のダンベル型の試験片を作製し、試験速度10mm/minで引張試験を実施した。同様の試験を10回繰り返し、その標準偏差を引張強度のバラツキ度合の指標として求めた。
【0082】
[実施例1]
補強繊維ストランドとして、東邦テナックス株式会社製の炭素繊維 テナックス(登録商標)(平均直径7μm、フィラメント本数24000本、繊度1600tex、引張強度4000MPa)を用い、ポリアミド樹脂系樹脂(軟化点90℃)を主剤とするサイジング剤にて、幅10mm、厚み0.15mmの偏平状態に集束させたストランド(サイジング剤付着量1.0wt%)を用意した。
【0083】
このストランドが下記の収束治具、凹凸治具、拡幅治具を順に、ラインスピード40m/分、拡幅前張力(収束治具直前)平均0.7kgf(6.9N)(ロードセル式デジタルテンションメーターにて測定)の条件にて、連続的に給糸体から搬送される条件にて処理を行い、幅20mmに拡幅した補強繊維ストランドを得た。収束治具、凹凸治具、拡幅治具は全てピン(円柱形)で、その中心部は一直線に配置されており、各ピンの中心距離は40mm、ピンのストランドの抱き角は約70°であった。この時のLの値は35mmであった。
【0084】
(収束治具)
材質はハードクロムメッキ処理を施したステンレス鋼であり、糸道の有効幅が40mm、一つの凹部が存在し、凹部曲率の半径Rが100mm、収束治具の最大部直径Φが20mmであった。
【0085】
(凹凸治具)
材質はステンレス鋼であり、糸道の有効幅が40mm、凹凸が多数形成されており、凸部側面の角度θは80°、凸部頂点の半径Rが0.05mm、凹部底部の半径Rが0.2mm、凹凸治具の直径が20mm、凸部の頂点間隔が1mm、凸部の高さ(凹凸の高低差)が0.6mmであった。
【0086】
(拡幅治具)
材質はステンレス鋼であり、糸道の有効幅が20mm、一つの凸部が存在し、凸部曲率の半径Rが100mm、拡幅治具の直径Φが25mmであった。
拡幅処理直後の張力は平均1.5kgf(14.7N)であり、均一に繊維が分散され、拡幅後のストランド幅は20mmであり、2時間連続運転したが、時間が経過しても拡幅後のストランド幅に変化は見られなかった。
【0087】
引き続き得られた補強繊維ストランドを、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、優れた物性のランダムマットが得られた。
【0088】
[実施例2]
実施例1と同様に、補強繊維ストランドを、収束治具、凹凸治具、拡幅治具の順に通過させ、その後引き続き、糸幅規制治具である規制幅18mmの平ピンより処理を行った(なお、全ての治具は平ピンを含め一直線に配置されていた)。
平ピン通過直後の張力は平均1.6kgf(15.7N)に若干高まったものの、実施例1よりもより均一に繊維が分散され、拡幅後のストランド幅は18mmの安定した補強繊維ストランドが得られた。平ピン処理を行ったことにより凹凸治具による目隙が減少した効果によるものだと考えられる。
【0089】
引き続き得られた補強繊維ストランドをカットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、優れた物性のランダムマットが得られた。
【0090】
[実施例3]
実施例1と同様に、補強繊維ストランドを、収束治具、凹凸治具、拡幅治具の順に通過させ、その後引き続きガイド機構として第2の凹凸治具により処理を行った(なお、全ての治具は一直線に配置されていた)。第2の凹凸治具は、最初の凹凸治具と同一のものである。
【0091】
第2の凹凸治具通過直後の張力は平均1.8kgf(17.6N)に高まり、1mmピッチの分繊繊維跡が見られたものの、全体的には均一に繊維が分散され、拡幅後のストランド幅は20mmの安定した補強繊維ストランドが得られた。
【0092】
引き続き得られた補強繊維ストランドを、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、実施例1と同等の優れた物性のランダムマットが得られた。
【0093】
[実施例4]
拡幅治具の凸部曲率の半径Rを実施例1の100mmから300mmに変更した以外は、実施例1と同様に処理を行った。拡幅後の張力は平均1.6kgf(15.7N)であり、実施例1よりも拡幅後のストランド幅の点でやや劣るものの十分な品位の補強繊維ストランドが得られた。拡幅後のストランド幅は16mmであった。
【0094】
引き続き得られた補強繊維ストランドを、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、優れた物性のランダムマットが得られた。
【0095】
[実施例5]
用いた補強繊維のサイジング剤をポリアミド樹脂系からウレタン系に変更し、実施例4と同じく拡幅治具の凸部曲率の半径Rが300mmのものを用いた以外は、実施例1と同様に処理を行った。拡幅後の張力は平均1.6kgf(15.7N)であり、均一に繊維が分散され、拡幅後のストランド幅は16mmから20mmに拡大し、安定した補強繊維ストランドであった。
【0096】
引き続き得られた補強繊維ストランドを、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、実施例1と同等の優れた物性のランダムマットが得られた。
【0097】
[実施例6]
用いた補強繊維のフィラメント数を24000本(24K)から12000本(12K)に変更し、実施例4と同じく拡幅治具の凸部曲率の半径Rが300mmのものを用いた以外は、実施例1と同様に処理を行った。拡幅後の張力は平均1.5kgf(14.7N)であり、均一に繊維が分散され、拡幅後のストランド幅は20mmの安定した補強繊維ストランドであった。
【0098】
引き続き得られた補強繊維ストランドを、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、優れた物性のランダムマットが得られた。
【0099】
[比較例1]
凹凸治具を使用しなかった以外は実施例1と同様に処理を行った。拡幅後の張力は平均1.6kgf(15.7N)に若干高まっただけであったが、糸道が不安定で、収束治具通過後の原糸が、拡幅ピンの中央を走行せず、安定した拡幅効果を得られなかった。糸道がズレる為に目的のストランド幅を得られなかった。
【0100】
引き続き得られた補強繊維ストランドをカットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したものの、拡幅処理を行わない補強繊維ストランドと同等の物性の物しか得られなかった。かかるランダムマットを成形し得られた繊維強化複合材料成形板の引張強度の標準偏差は40と大きく、強度のばらつきが大きく、不均一な成形板であった。
【0101】
[比較例2]
凹凸治具の代わりに、ハードクロムメッキ処理を施したステンレス鋼製の直径Φが20mmの円筒形のフラットバーを使用した以外は実施例1と同様に処理を行った。拡幅後の張力は平均1.7kgf(16.7N)に高まり、また、糸道が不安定で、収束治具通過後の原糸が、拡幅ピンの中央を走行せず、安定した拡幅効果を得られなかった。得られたストランドのストランド幅は、13mmと凹凸治具を使用した時と比べ狭く、十分な拡幅効果を得られなかった。
【0102】
引き続き得られた補強繊維ストランドを、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したものの、拡幅処理を行わない補強繊維ストランドと同等の物性の物しか得られなかった。かかるランダムマットを成形し得られた繊維強化複合材料成形板の引張強度の標準偏差は37と大きく、強度のばらつきが大きく、不均一な成形板であった。
【0103】
[実施例7]
凹凸治具の凸部の頂点間隔を実施例1の1mmから6mmに変更した以外は、実施例1と同様に処理を行った。拡幅後の張力は平均1.3kgf(12.7N)であり、実施例1よりも拡幅後のストランド幅の点でやや劣るものの十分な品位の補強繊維ストランドが得られた。拡幅後のストランド幅は16mmであった。
【0104】
引き続き得られた補強繊維ストランドを、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、優れた物性のランダムマットが得られた。
【0105】
[実施例8]
凹凸治具の凸部の高さを実施例1の0.6mmから1.8mmに変更した以外は、実施例1と同様に処理を行った。拡幅後の張力は平均1.7kgf(16.7N)であり、実施例1よりも拡幅後のストランド幅の点でやや劣るものの十分な品位の補強繊維ストランドが得られた。拡幅後のストランド幅は15mmであった。
【0106】
引き続き得られた補強繊維ストランドを、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、優れた物性のランダムマットが得られた。
【0107】
[実施例9]
実施例1と同様に、補強繊維ストランドを、収束治具、凹凸治具、拡幅治具の順に通過させ、その後引き続きガイド機構として、ハードクロムメッキ処理を施したステンレス鋼製の直径Φが20mmの円筒形のフラットバーにより処理を行った(なお、全ての治具は一直線に配置されていた)。フラットバー通過直後の張力は平均1.7kgf(16.7N)であり、拡幅後のストランド幅は20mmの安定した補強繊維ストランドが得られた。
【0108】
引き続き得られた補強繊維ストランドを、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、実施例1と同等の優れた物性のランダムマットが得られた。
【0109】
[実施例10]
用いた補強繊維のサイジング剤の付着量を1wt%から5wt%に変更した以外は、実施例1と同様に処理を行った。拡幅後の張力は平均1.6kgf(15.7N)であり、均一に繊維が分散され、拡幅後のストランド幅が16mmの安定した補強繊維ストランドが得られた。
【0110】
引き続き得られた補強繊維ストランドを、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、実施例1と同等の優れた物性のランダムマットが得られた。
【0111】
[実施例11]
収束治具、凹凸治具、拡幅治具の直径Φを90mmに変更した以外は実施例1と同様に処理を行った。なお、収束治具、凹凸治具、拡幅治具の中心部は一直線に配置されており、各ピンの中心距離は100mm、ピンのストランドの抱き角は約140°であり、Lの値は35mmであった。拡幅後の張力は平均2.0kgf(19.6N)であり、均一に繊維が分散され、拡幅後のストランド幅は22mmの安定した補強繊維ストランドであった。
【0112】
引き続き得られた補強繊維ストランドを、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、優れた物性のランダムマットが得られた。かかるランダムマットを成形し得られた繊維強化複合材料成形板の引張強度の標準偏差は18と小さく、強度のばらつきの小さな、均一な形状と物性を有する成形板を得ることができた。
【0113】
[実施例12]
収束治具、凹凸治具、拡幅治具、それぞれの側面から棒ヒーター(Φ12mm)を挿入し、各治具の温度を120℃とした以外は実施例1と同様に処理を行った。拡幅後の張力は平均1.8kgf(17.6N)であり、均一に繊維が分散され、拡幅後のストランド幅は21mmの安定した補強繊維ストランドであった。
【0114】
引き続き得られた補強繊維ストランドを、実施例1と同様の方法で、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、優れた物性のランダムマットが得られた。かかるランダムマットを成形し得られた繊維強化複合材料成形板の引張強度の標準偏差は19と小さく、強度のばらつきの小さな、均一な形状と物性を有する成形板を得ることができた。
【0115】
[実施例13]
収束治具、凹凸治具、拡幅治具、それぞれの側面から棒ヒーター(Φ12mm)を挿入し、各治具の温度を120℃とした以外は実施例3と同様に処理を行った。なお、第2の凹凸治具には棒ヒーターを使用していない。拡幅後の張力は平均1.8kgf(17.6N)であり、均一に繊維が分散され、拡幅後のストランド幅は21mmの安定した補強繊維ストランドであった。
【0116】
引き続き得られた補強繊維ストランドを、実施例1と同様の方法で、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、優れた物性のランダムマットが得られた。かかるランダムマットを成形し得られた繊維強化複合材料成形板の引張強度の標準偏差は19と小さく、強度のばらつきの小さな、均一な形状と物性を有する成形板を得ることができた。
【0117】
[実施例14]
収束治具、凹凸治具、拡幅治具および第2の凹凸治具の直径Φを90mmに変更し、さらに、各ピンの中心距離を200mmとすることで、Lの値を180mmに変更した以外は実施例13と同様に処理を行った。なお、収束治具、凹凸治具、拡幅治具の中心部は一直線に配置されており、ピンのストランドの抱き角は50°であった。拡幅処理直後の張力は平均1.5kgf(14.7N)であり、均一に繊維が分繊され、拡幅後のストランド幅は16mmであり、2時間連続運転したが、時間が経過しても拡幅後のストランド幅に変化は見られなかった。
【0118】
引き続き得られた補強繊維ストランドを、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、優れた物性のランダムマットが得られた。かかるランダムマットを成形し得られた繊維強化複合材料成形板の引張強度の標準偏差は25と小さく、強度のばらつきの小さな、均一な形状と物性を有する成形板を得ることができた。
【0119】
[実施例15]
実施例14において用いた、凹凸治具及び拡幅治具をそれぞれ半割りにして、その断面を合わせることで実質的に凹凸治具と拡幅治具を図8のように一体化させたものを用意した。そして上記の一体化治具と、各治具(収束治具及び第2の凹凸治具)間の中心距離をそれぞれ110mm(治具へのストランドの抱き角は約110°)としたこと以外は、実施例14と同様に処理を行った。すなわち、この実施例15における凹凸治具−拡幅治具間の渡し距離Lは0mmであった。拡幅処理直後の張力は平均1.6kgf(15.7N)であり、繊維が均一に分繊され、拡幅後のストランド幅は20mmであった。2時間連続運転したところ、ストランドの拡幅治具への入射角度はほぼゼロであり、時間が経過しても拡幅後のストランド幅に変化は見られなかった。
【0120】
引き続き得られた補強繊維ストランドを、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、優れた物性のランダムマットが得られた。かかるランダムマットを成形し得られた繊維強化複合材料成形板の引張強度の標準偏差は17と小さく、強度のばらつきの小さな、均一な形状と物性を有する成形板を得ることができた。
【0121】
[実施例16]
収束治具、凹凸治具、拡幅治具および第2の凹凸治具の中心距離を250mmとすることで、Lの値を240mm(繊維ストランド幅の24倍)に変更した以外は実施例14と同様に処理を行った。なお、収束治具、凹凸治具、拡幅治具の中心部は一直線に配置されており、ピンのストランドの抱き角は45°であった。全体的に15mm程度まで拡幅された補強繊維拡幅ストランドを得た。拡幅処理直後の張力は平均1.6kgf(15.7N)であり、拡幅治具への入射角度が多少不安定ではあったが、拡幅後のストランド幅が15mmの補強繊維ストランドを得ることができた。
【0122】
引き続き得られた補強繊維ストランドを、実施例1と同様の方法で、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、優れた物性のランダムマットが得られた。かかるランダムマットを成形し得られた繊維強化複合材料成形板の引張強度の標準偏差は27と小さく、強度のばらつきの小さな、均一な形状と物性を有する成形板を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によれば、簡便な機構でありながら、高速処理の条件下においても安定してストランドが拡幅される、補強繊維ストランドの製造方法が提供される。
【0124】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2011年12月22日出願の日本特許出願(特願2011−281507)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
図1
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図11