(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
好気性条件の下、反応槽に流入させた、溶解性窒素を含有する被処理水中で、亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌を、またはアンモニア以外の溶解性窒素を分解しアンモニアとする好気性菌および亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌を優占種として外側に、嫌気性アンモニア酸化反応に寄与する嫌気性アンモニア酸化菌を優占種として該亜硝酸型硝化菌に取り囲まれる形態で内側に、それぞれ存在させる2層の微生物膜を表面部に担持させた担体を流動させることにより、嫌気性アンモニア酸化反応を利用して被処理水から脱窒を行う、嫌気性アンモニア酸化反応を利用した生物学的窒素除去方法であって、
該亜硝酸型硝化菌の亜硝酸型硝化反応が硝酸型硝化反応を抑止するほどのレベルになるように、担体投入率(反応槽の単位容積当たりの担体総表面積)の調整により流入溶解性窒素負荷を、4.0〜11.5g/m2担体/dayとし、かつ、被処理水の撹拌により反応槽内における被処理水の最大流速を、0.7m/sec以上とする、嫌気性アンモニア酸化反応を利用した生物学的窒素除去方法。
【背景技術】
【0002】
従来から、アンモニア性窒素を含有する被処理水、たとえば下水を対象として、微生物菌を利用して脱窒する技術が用いられてきた。この生物学的窒素除去技術は、被処理水中のアンモニア性窒素を硝化と脱窒の2段階の生物反応によって窒素ガスに変換し、系外に排出するものであり、硝化工程において、アンモニア性窒素を好気性条件下でアンモニア酸化菌によって酸素を利用して亜硝酸性窒素に酸化し、次いで、亜硝酸性窒素を、亜硝酸酸化菌によって硝酸性窒素に酸化し、さらに脱窒工程において、亜硝酸性窒素および硝酸性窒素を無酸素条件下で脱窒菌により、有機物を電子供与体として利用しつつ窒素ガスに変換するものである。
【0003】
しかしながら、このような生物学的窒素除去技術は、硝化工程において多量の酸素が必要であり、一方脱窒工程において、メタノール等の有機物を多量に添加する必要があり、総じてランニングコストを増大させるものであった。このような技術的問題点を解決した新たな生物学的窒素除去技術として、嫌気性アンモニア酸化反応を利用した生物学的窒素除去方法および生物学的窒素除去装置が用いられている。ここに、嫌気性アンモニア酸化反応とは、嫌気性アンモニア酸化菌を利用した生物反応であり、嫌気性アンモニア酸化菌は、嫌気性条件下でアンモニア性窒素を電子供与体、亜硝酸性窒素を電子受容体として両者を反応させ、窒素ガスを生成することが可能な脱窒微生物群であり、脱窒に際し有機物の添加が不要な脱窒微生物である。
【0004】
このような嫌気性アンモニア酸化反応を利用した生物学的窒素除去方法および生物学的窒素除去装置の例が、特許文献1に開示されている。この生物学的窒素除去方法および生物学的窒素除去装置は、被処理水の上流側から下流側に向かって、部分亜硝化槽と、pH調整槽と、脱窒槽とから概略構成されている。より詳細には、部分亜硝化槽は、アンモニア性窒素含有液をアンモニア酸化細菌の存在下に曝気し、アンモニア性窒素成分の一部を亜硝酸性窒素にまで酸化し、脱窒槽は、嫌気性アンモニア酸化菌の存在下に、部分亜硝酸化槽の被処理水中の亜硝酸性窒素とアンモニア性窒素とを反応させて窒素ガスに転換し、pH調整槽は、脱窒槽の被処理水を部分亜硝酸化槽に循環してpH調整するようにしている。このような構成の生物学的窒素除去方法および生物学的窒素除去装置によれば、硝化のための曝気動力が少なくて済むとともに、メタノール等の有機物を添加する必要がなく、発生汚泥量を少なくすることが可能である。
【0005】
しかしながら、このような生物学的窒素除去方法および生物学的窒素除去装置では、部分亜硝化槽、pH調整槽および脱窒槽を別個独立に設け、部分亜硝化槽および脱窒槽それぞれにおいて、部分亜硝化反応に必要なpH値、脱窒反応に必要なpH値を調整する必要があることから、生物学的窒素除去装置として、設備コストがかかり、また生物学的窒素除去方法として、簡略な方法であるとはいえなかった。
【0006】
このような技術的問題点を解決した嫌気性アンモニア酸化反応を利用した生物学的窒素除去装置および生物学的窒素除去方法が、たとえば、非特許文献1に開示されている。この生物学的窒素除去装置は、部分亜硝化槽および脱窒槽を単一槽として供用化し、この単一槽内において、pH値の調整を必要することなしに、部分亜硝化反応および脱窒反応を生じさせて、窒素を除去するものである。より詳細には、処理すべき被処理水を流入させた単一槽内に、亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌を優占種として外側に、嫌気性アンモニア酸化菌を優占種として内側に存在させる2層の微生物膜を表面部に担持させた担体を投入し、アンモニア性窒素を含有する被処理水中
に担体を
固定することにより、好気性条件の下で、亜硝酸型硝化菌によって亜硝酸型硝化反応によりアンモニア性窒素を一部亜硝酸性窒素に酸化し、次いで、亜硝酸型硝化菌の存在により被処理水中の酸素から遮断される嫌気性条件の下で、主に微生物膜の内側の層に存在する嫌気性アンモニア酸化菌により、亜硝酸性窒素とアンモニア性窒素とを反応させて、窒素ガスに転換して脱窒を行う。このような嫌気性アンモニア酸化反応を利用した生物学的窒素除去装置および生物学的窒素除去方法によれば、設備の簡略化によるコスト低減とともに、pH値の調整を不要とすることで、生物学的窒素除去方法の簡略化も達成することができる。
【0007】
しかしながら、この嫌気性アンモニア酸化反応を利用した生物学的窒素除去方法には、以下のような技術的問題点が存する。すなわち、処理対象である被処理水のアンモニア性窒素濃度、反応槽内での水温、DO値およびpH値に対する制約から、アンモニア性窒素を含有する被処理水であれば、無条件でそのまま生物学的窒素除去を行うことができるという訳ではない点である。
【0008】
より詳細には、従来の嫌気性アンモニア酸化反応を利用した生物学的窒素除去方法によれば、アンモニア性窒素を含有する被処理水に対して、以下の反応プロセスを利用して脱窒することができる。
(1)亜硝酸型硝化反応:NH
4++1.5O
2→NO
2−+H
2O+2H
+
(2)嫌気性アンモニア酸化反応:0.75NH
4++NO
2−→0.77N
2+0.19NO
3−+1.5H
2O+0.10H
−【0009】
より具体的には、好気性条件下、アンモニア性窒素を含有する被処理水中に、亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌を優占種として外側に、嫌気性アンモニア酸化反応に寄与する嫌気性アンモニア酸化菌を優占種として該亜硝酸型硝化菌に取り囲まれる形態で内側に、それぞれ存在させる2層の微生物膜を表面部に担持させた担体を配置することにより、優占種として外側に存在する亜硝酸型硝化菌により(1)の反応である亜硝酸型硝化反応を生じさせることによって、亜硝酸を生成する。次いで、被処理水中のアンモニア性窒素と、生成した亜硝酸性窒素とに基づいて、亜硝酸型硝化菌により取り囲まれる形態で微生物膜の内側の層に存在することにより嫌気性条件が満足された状態で、嫌気性アンモニア酸化菌により(2)の反応である嫌気性アンモニア酸化反応が生じ、窒素を生成する。
【0010】
しかしながら、このような嫌気性アンモニア酸化反応を利用した脱窒素方法を実施する過程で、硝酸型硝化菌により、以下の反応式に示すように、生成した亜硝酸がさらに酸化されて、硝酸が生成されてしまう。
(3)硝酸型硝化反応:NO
2−+0.5O
2→NO
3−+H
2O+2H
+
よって、嫌気性アンモニア酸化反応を利用した生物学的窒素除去方法を実用的レベルで実施するためには、(1)の反応である亜硝酸型硝化反応による亜硝酸の生成量を高めつつ、(3)の反応である硝酸型硝化反応を抑止することにより、(2)の反応である嫌気性アンモニア酸化反応に必要
な亜硝酸性窒
素を確保する必要がある。
【0011】
この点、亜硝酸型硝化反応および硝酸型硝化反応に対して影響を与えるパラメータ因子として、被処理水のアンモニア性窒素濃度、槽内での水温、DO値およびpH値が考えられる。
【0012】
図8ないし
図11はそれぞれ、亜硝酸型硝化菌および硝酸型硝化菌それぞれの増殖速度または反応速度に対して、被処理水の温度、被処理水中のDO(溶存酸素量)、被処理水中のアンモニア性窒素濃度、および被処理水のpHが与える影響を模式的に示したグラフである。
図8に示すように、被処理水の温度は高いほど、硝酸型硝化菌に比べて亜硝酸型硝化菌の増殖速度が高まることから、被処理水の温度は高いのが好ましい。また、
図9に示すように、被処理水中のDO(溶存酸素量)は低いほど、亜硝酸型硝化菌に比べて硝酸型硝化菌の反応速度が低下することから、被処理水中のDOは、好気性条件が満足される範囲内で、低いのが好ましい。さらに、
図10に示すように、被処理水中のアンモニア性窒素濃度は高いほど、亜硝酸型硝化菌に比べて硝酸型硝化菌の反応速度が低下することから、被処理水中のアンモニア性窒素濃度は、高いのが好ましい。さらにまた、
図11に示すように、被処理水のpHは高いほど、亜硝酸型硝化菌に比べて硝酸型硝化菌の増殖速度が低下することから、被処理水中のpHは、高いのが好ましい。
【0013】
以上のように、従来、(1)の反応である亜硝酸型硝化反応による亜硝酸の生成量を高めつつ、(3)の反応である硝酸型硝化反応を抑止するためには、被処理水のアンモニア性窒素濃度、槽内での水温、DO値およびpH値の制約があり、アンモニア性窒素を含有する被処理水であれば、無条件に嫌気性アンモニア酸化反応を利用して、実用的レベルで脱窒が可能であったとはいえず、たとえば、工業廃水、返流汚泥水等の高温でアンモニア性窒素濃度が高い廃水に処理対象が限定され、都市下水や生活廃水は、より低温でアンモニア性窒素濃度がより低いため、そのまま適用することが困難であった。
【発明の概要】
【0016】
以上の技術的問題に鑑み、本発明の課題は、処理対象である被処理水のアンモニア性窒素濃度、反応槽内での水温、DO値およびpH値に対する制約を緩和するとともに、脱窒プロセスを簡略化しながらも実用的レベルの脱窒効率を確保することが可能な、嫌気性アンモニア酸化反応を利用した生物学的窒素除去方法および生物学的窒素除去装置、該生物学的窒素除去装置を備えた水処理システム、並びに該生物学的窒素除去方法および該生物学的窒素除去装置に利用される菌担持用担体を提供することにある。
【0017】
上記課題を解決するために、本発明によれば、好気性条件の下、反応槽に流入させた、溶解性窒素を含有する被処理水中で、亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌を、またはアンモニア以外の溶解性窒素を分解しアンモニアとする好気性菌および亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌を優占種として外側に、嫌気性アンモニア酸化反応に寄与する嫌気性アンモニア酸化菌を優占種として該亜硝酸型硝化菌に取り囲まれる形態で内側に、それぞれ存在させる2層の微生物膜を表面部に担持させた担体を流動させることにより、嫌気性アンモニア酸化反応を利用して被処理水から脱窒を行う、嫌気性アンモニア酸化反応を利用した生物学的窒素除去方法であって、該亜硝酸型硝化菌の亜硝酸型硝化反応による亜硝酸の生成量が、硝酸型硝化反応を抑止するほどのレベルになるように、担体投入率(反応槽の単位容積当たりの担体総表面積)を調整する、嫌気性アンモニア酸化反応を利用した生物学的窒素除去方法が提供される。
【0018】
また、本発明によれば、好気性条件の下、反応槽に流入させた、溶解性窒素を含有する被処理水中で、亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌を、またはアンモニア以外の溶解性窒素を分解しアンモニアとする好気性菌および亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌を優占種として外側に、嫌気性アンモニア酸化反応に寄与する嫌気性アンモニア酸化菌を優占種として該亜硝酸型硝化菌に取り囲まれる形態で内側に、それぞれ存在させる2層の微生物膜を表面部に担持させた担体を流動させることにより、嫌気性アンモニア酸化反応を利用して被処理水から脱窒を行う、嫌気性アンモニア酸化反応を利用した生物学的窒素除去方法であって、該亜硝酸型硝化菌の亜硝酸型硝化反応による亜硝酸の生成量が、硝酸型硝化反応を抑止するほどのレベルになるように、担体表面に対する被処理水の流速を調整する、嫌気性アンモニア酸化反応を利用した生物学的窒素除去方法が提供される。
【0019】
さらに、本発明によれば、好気性条件の下、反応槽に流入させた、溶解性窒素を含有する被処理水中で、亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌を、またはアンモニア以外の溶解性窒素を分解しアンモニアとする好気性菌および亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌を優占種として外側に、嫌気性アンモニア酸化反応に寄与する嫌気性アンモニア酸化菌を優占種として該亜硝酸型硝化菌に取り囲まれる形態で内側に、それぞれ存在させる2層の微生物膜を表面部に担持させた担体を流動させることにより、嫌気性アンモニア酸化反応を利用して被処理水から脱窒を行う、嫌気性アンモニア酸化反応を利用した生物学的窒素除去方法であって、該亜硝酸型硝化菌の亜硝酸型硝化反応による亜硝酸の生成量が、硝酸型硝化反応を抑止するほどのレベルになるように、担体投入率(反応槽の単位容積当たりの担体総表面積)および担体表面に対する被処理水の流速を調整する、嫌気性アンモニア酸化反応を利用した生物学的窒素除去方法が提供される。
【0020】
これら本発明に係る生物学的窒素除去方法は、被処理水中の担体投入率および/または担体表面の被処理水の流速に着目し、これらを適正に調整することにより、処理対象である被処理水のアンモニア性窒素濃度、反応槽内での水温、DO値およびpH値に対する制約を緩和しつつ、嫌気性アンモニア酸化反応を利用して、実用的レベルで脱窒を可能とするものである。より詳細には、本発明に係る生物学的窒素除去方法は、被処理水中の担体投入率および/または担体表面に対する被処理水の流速を調整することにより、(3)の反応である硝酸型硝化反応を抑止するほどに、(1)の反応である亜硝酸型硝化反応による亜硝酸の生成量を高めることで、(2)の反応である嫌気性アンモニア酸化反応に必要なアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とを確保するのである。
【0021】
本発明に係る生物学的窒素除去方法は、さらに具体的には、以下のようなプロセスで行う。まず、被処理水中の溶解性窒素濃度に基づいて、担体投入率を調整する。ここに、担体投入率とは、反応槽の単位容積当たりの担体総表面積である。たとえば、被処理水中の溶解性窒素濃度が低い場合に、担体投入率を低減する。次いで、担体を反応槽内で均一な分布状態となるように流動させる。これにより、単位時間、担体表面積当たりのアンモニア負荷を反応槽内全体に亘り一様に確保することが可能である。このような状態で、各担体の表面部の優占種として外側に位置する亜硝酸型硝化菌により、亜硝酸型硝化反応が生じるが、前記のように担体投入率を低減すると、担体の単位表面積当たりのアンモニア負荷が大きくなり、その結果、亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌の増殖により、担体の単位表面積当たりの亜硝酸型硝化菌の数が増加して、亜硝酸型硝化菌を優占種とする外側の微生物膜の膜厚が増大し、担体表面積当たりのアンモニア性窒素の除去速度が増大する。
【0022】
また、担体投入率を調整する代わりに、あるいは、担体投入率を調整することと併せて、担体表面の被処理水の流速を調整する。たとえば、被処理水中の溶解性窒素濃度が低い場合に、担体表面の被処理水の流速を上昇させる。このように担体表面の被処理水の流速を上昇させると、担体の単位表面積当たりの液相から微生物膜へのアンモニウムイオンの移動可能速度が増大し、その結果、亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌の増殖により、担体の単位表面積当たりの亜硝酸型硝化菌の数が増加して、亜硝酸型硝化菌を優占種とする外側の微生物膜の膜厚が増大し、アンモニウムイオンの移動速度に見合った窒素除去速度を確保することが可能となる。
【0023】
このように担体投入率および/または担体表面に対する被処理水の流速を調整することで、亜硝酸型硝化菌を優占種とする微生物膜の膜厚が増大して、亜硝酸型硝化反応による亜硝酸の生成量が増加し、当該反応による亜硝酸の生成量が硝酸型硝化反応を抑止するレベルになると、生成した亜硝酸が硝酸に転換されることなしに、嫌気性アンモニア酸化反応に必要な亜硝酸を確保することが可能となる。そして、その結果、担体の単位表面積当たりの窒素の除去速度が増大し、液相から微生物膜へのアンモニウムイオンの移動速度に見合った窒素除去速度を確保することが可能となる。なお、担体には、前記のように微生物膜の膜厚が増大しても、微生物膜を担持可能なものを採用することが必要である。
【0024】
以上の点について、
図12AないしCを用いて、さらに詳細に説明する。
図12AないしCは、担体の表面部において、担体の内側に向かって、DO値とともに、アンモニア性窒素濃度、亜硝酸性窒素濃度、硝酸性窒素濃度および窒素ガス濃度がどのように変化するかを模式的に示す図であり、
図12Aは、多量の酸素を必要とした初期の生物学的窒素除去技術、
図12Bは、嫌気性アンモニア酸化反応を利用した従来の生物学的窒素除去技術、および
図12Cは、本発明に係る嫌気性アンモニア酸化反応を利用した生物学的窒素除去技術について示したものである。各図において、矩形部の横の長さは、担体の表面部に担持された微生物膜の膜厚を意味し、図面上左側が微生物膜の表面部である。また、矩形部の縦の長さは、アンモニア性窒素濃度、亜硝酸性窒素濃度、硝酸性窒素濃度および窒素濃度の多寡を示し、たとえば、
図12Cでは、微生物膜の表面部において、DO値およびアンモニア性窒素濃度が最大であるが、膜内方(図面上右側)に向かって、DO値およびアンモニア性窒素濃度が低下するとともに、亜硝酸性窒素濃度が増大し、DO値が零となる位置において、亜硝酸性窒素濃度の方がアンモニア性窒素濃度より大となり、さらに膜内方に向かって、硝酸性窒素濃度および窒素濃度が増大する一方、アンモニア性窒素濃度および亜硝酸性窒素濃度が低下している。
【0025】
図12AないしCを比較すれば、
図12Aにおいては、微生物膜の表面部から硝酸性窒素濃度が増大し始め、アンモニア性窒素濃度が零となった以降、硝酸性窒素濃度が全体を占めるのに対して、
図12BおよびCにおいては、DO値が零となる位置において、亜硝酸性窒素濃度およびアンモニア性窒素濃度が確保され、それにより嫌気性条件下で嫌気性アンモニア酸化反応が生じ、それ以降で硝酸性窒素濃度とともに窒素濃度が増大している。
図12Bと
図12Cとにおいて、DO値が零となっている位置における亜硝酸性窒素濃度とアンモニア性窒素濃度とを比較すれば、担体投入率および/または担体表面に対する被処理水の流速の調整による微生物膜の膜厚の違いに起因して、微生物膜の膜厚が厚い
図12Cの方が、亜硝酸性窒素濃度が高く、それにより、以降の硝酸型硝化反応が抑制される。
【0026】
本発明の好ましい形態によれば、流入溶解性窒素負荷は、4.0〜11.5g/m
2担体/dayとなるように、担体投入率を調整するのが好ましい。また、具体的な担体投入率としては、4〜40m
2/m
3に調整することが好ましい。また、本発明は、反応槽内における被処理水の最大流速が、0.7m/sec以上となるように被処理水を撹拌しながら実施することが好ましい。また、本発明は、被処理水のORP(酸化還元電位)を−150mV以下とした状態で実施することが好ましく、−300mV以下とした状態で実施することがより好ましい。また、本発明は、反応槽に活性汚泥を流入させることなく実施することがより好ましい。さらに、本発明の処理対象となる溶解性窒素を含有する被処理水は、常温かつ溶解性窒素濃度50mg/L以下の廃水であってもよい。
【0027】
上記課題を達成するために、本発明によれば、溶解性窒素を含有する被処理水を流入させる反応槽と、この反応槽内に配置され、亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌を、またはアンモニア以外の溶解性窒素を分解しアンモニアとする好気性菌および亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌を優占種として外側に、および該亜硝酸型硝化菌に取り囲まれる形態で嫌気性アンモニア酸化菌を優占種として内側に、それぞれ存在させる2層の微生物膜を表面部に担持させた担体と、この反応槽内に配置され、該担体を被処理水中で流動させる流動手段と、この反応槽内に配置され、被処理水に酸素を供給する散気手段とを、有する嫌気性アンモニア酸化反応を利用した生物学的窒素除去装置であって、前記流動手段が、前記担体の前記表面部における被処理水の流速の調整を通じて、微生物膜への膜の単位表面積当たりのアンモニ
ウムイオン移動速度を調整可能なほどの攪拌力を有する攪拌装置である、嫌気性アンモニア酸化反応を利用した生物学的窒素除去装置が提供される。
【0028】
以上の構成を有する生物学的窒素除去装置によれば、担体の表面部における被処理水の流速の調整を通じて、微生物膜への膜の単位表面積当たりのアンモニ
ウムイオン移動速度を調整可能なほどの攪拌力を有する攪拌装置を用いることにより、担体の表面部に担持された2層の微生物膜のうちの外側の層に優占種として存在する亜硝酸型硝化菌の亜硝酸型硝化反応による亜硝酸の生成量を、硝酸型硝化反応を抑止するほどのレベルにまで高め、以て嫌気性アンモニア酸化反応に必要なアンモニア性窒素および亜硝酸性窒素を確保することが可能である。
【0029】
また、従来、亜硝酸型硝化反応を行う亜硝化槽と、嫌気性アンモニア酸化反応を行う嫌気性アンモニア酸化槽とを別々に設け、それぞれの槽内でpHの調整を行っていたところ、亜硝酸型硝化反応および嫌気性アンモニア酸化反応を同じ槽内で行うことにより、このようなpHの調整を不要とすることが可能である。本発明の好ましい形態によれば、前記攪拌装置は、ドラフ
トチューブエアレータであるのがよい。
【0030】
上記課題を達成するために、本発明によれば、前記本発明の生物学的窒素除去装置と、当該生物学的窒素除去装置の反応槽の上流側に設置され、被処理水から固形性有機物を沈殿させる第1沈殿槽と、前記反応槽において生物学的に窒素除去された被処理水中の固形性有機物および/またはリンを凝集するための凝集剤を添加するための凝集剤添加手段と、前記反応槽の下流側に設置され、該凝集剤添加手段により凝集された固形性有機物および/またはリンを沈殿させる第2沈殿槽とを、有する、溶解性窒素を含有する被処理水の水処理システム(第一の水処理システム)が提供される。
【0031】
また、本発明によれば、前記本発明の生物学的窒素除去装置と、被処理水中の固形性有機物および/またはリンを凝集するための凝集剤を添加するための凝集剤添加手段と、前記本発明の生物学的窒素除去装置の反応槽の上流側に設置され、該凝集剤添加手段により凝集された固形性有機物および/またはリンを沈殿させる第1沈殿槽と、前記反応槽の下流側に設置され、固形物を沈殿させる第2沈殿槽とを、有する、溶解性窒素を含有する被処理水の水処理システム(第二の水処理システム)が提供される。
【0032】
以上の構成を有する水処理システムによれば、嫌気性アンモニア酸化反応を利用して脱窒を行うことにより、被処理水を脱窒するのに必要な酸素量を低減することが可能であるとともに、脱窒を行うのに活性汚泥の代わりに菌を担持した担体を用いることから、活性汚泥を反応槽に返流する設備が不要であると同時に、活性汚泥中に必然的に混入する固形性有機物が分解するに際し、酸素が消費されることもなく、総じて、アンモニア性窒素を含有する被処理水の水処理に必要な酸素量を格段に低減することが可能である。
【0033】
なお、第一の水処理システムと第二の水処理システムは、本発明の生物学的窒素除去装置を有する点で共通しているが、第一の水処理システムでは、反応槽において生物学的に窒素除去された後の被処理水に対して、凝集剤添加手段により凝集剤を添加し、反応槽の下流側の第2沈殿槽に、凝集された固形性有機物および/またはリンを沈殿させるよう構成されているのに対し、第二の水処理システムでは、反応槽において生物学的に窒素除去される前の被処理水に対して、凝集剤添加手段により凝集剤を添加し、反応槽の上流側の第1沈殿槽に、凝集された固形性有機物および/またはリンを沈殿させるよう構成されている点で両者は相違する。
【0034】
上記課題を達成するために、本発明によれば、亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌を、またはアンモニア以外の溶解性窒素を分解しアンモニアとする好気性菌および亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌を優占種として外側に、および該亜硝酸型硝化菌に取り囲まれる形態で嫌気性アンモニア酸化菌を優占種として内側に、それぞれ存在させる2層の微生物膜を表面部に担持させた担体であり、好気性条件の下、溶解性窒素を含有する被処理水中で、この担体を流動させることにより、嫌気性アンモニア酸化反応を利用して被処理水から脱窒を行うことが可能な担体であって、該亜硝酸型硝化菌の亜硝酸型硝化反応による亜硝酸の生成量が、硝酸型硝化反応を抑止するレベルになるほど、該亜硝酸型硝化菌が増殖して該微生物膜の厚みが増大しても、該微生物膜を担持可能な吸水特性および/または親水特性を有するとともに、該担体が被処理水中で流動することにより該担体に対して作用するせん断力に耐えるような強度特性を有する、嫌気性アンモニア酸化反応を利用して被処理水から脱窒を行うことが可能な担体が提供される。
【0035】
以上の構成を有する担体によれば、亜硝酸型硝化菌の亜硝酸型硝化反応による亜硝酸の生成量が、硝酸型硝化反応を抑止するレベルになるほど、該亜硝酸型硝化菌が増殖して該微生物膜の厚みが増大したとしても、このような厚みの微生物膜を担持可能な吸水特性および/または親水特性を有するとともに、担体の表面部における被処理水の流速を上げることにより、担体の単位表面積当たりの液相から微生物膜へのアンモニウムイオンの移動可能速度を増大させる際、該担体が被処理水中で流動することにより担体に対して作用するせん断力に耐えるような強度特性を有することから、処理対象である被処理水のアンモニア性窒素濃度、反応槽内での水温、DO値およびpH値に対する制約を緩和しつつ、嫌気性アンモニア酸化反応を利用して、実用的レベルの脱窒効率で脱窒を行うことが可能となる。
【0036】
本発明の好ましい形態によれば、前記担体は、親水性TPU樹脂を主成分とする吸水性ポリウレタン樹脂からなるのがよい。また、前記担体には、疎水性プレポリマーである架橋剤が添加されているのがよい。
【0037】
以上のように、従来は、亜硝酸型硝化反応の促進と、硝酸型硝化反応の抑制とに対して、処理対象である被処理水のアンモニア性窒素濃度、反応槽内での水温、DO値およびpH値を調整することにより、個別に対処していたところ、本発明においては、亜硝酸の生成が、硝酸型硝化反応の抑止に寄与することを利用して、亜硝酸型硝化反応の促進と硝酸型硝化反応の抑制とを同時に達成するために、硝酸型硝化反応の抑制を起こすレベルで亜硝酸型硝化反応の促進を行うことにより、処理対象である被処理水のアンモニア性窒素濃度、反応槽内での水温、DO値およびpH値に対する制約を緩和しつつ、嫌気性アンモニア酸化反応を利用して、実用的レベルで脱窒を行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明に係る嫌気性アンモニア酸化反応を利用した生物学的窒素除去装置を有する水処理システムの実施形態を図面を参照しながら、以下に詳細に説明する。
図1に示すように、この被処理水の処理システム10は、被処理水の上流側から下流側に向かって、第1沈殿槽12と、反応槽14と、混和槽16と、第2沈殿槽18と、DO計20およびPO
4計22と、凝集剤注入ポンプ24とから概略構成されている。
【0040】
本発明において処理の対象となりえる被処理水は、溶解性窒素を含有する窒素含有液であり、アンモニア性窒素の他、亜硝酸性窒素、有機性窒素、その他の窒素を含んでいてもよく、下水、し尿、食品排水、工場排水、その他の産業排水等である。本発明は、処理対象である被処理水のアンモニア性窒素濃度、反応槽内での水温、DO値およびpH値に対する制約を緩和しつつ、嫌気性アンモニア酸化反応を利用して実用的レベルで脱窒を可能とすることを特徴とするものであり、たとえば常温かつ溶解性窒素濃度50mg/L以下の低窒素濃度である都市下水や生活廃水に対しても適用可能である。
【0041】
第1沈殿槽12は、この槽内に流入させた処理すべき被処理水から固形物を沈殿させ、除去するために設けられ、この槽内の上澄み液を接続配管を通じて下流側の反応槽14に流入させるようにしている。なお、第1沈殿槽12の底に溜まった汚泥は、定期的に第1沈殿槽12から除去し、汚泥処理施設に送り、そのまま処分するようにしている。
【0042】
反応槽14は、単一槽であり、内部が隔壁30を通じて3つに仕切られ、仕切られた3つの部分は互いに連通している。従来、亜硝酸型硝化反応を行う亜硝化槽と、嫌気性アンモニア酸化反応を行う嫌気性アンモニア酸化槽とを別々に設け、亜硝化槽においては、好気性条件下で被処理水中のアンモニア性窒素をアンモニア酸化細菌の作用により亜硝酸性窒素に酸化する亜硝化工程を行い、一方
嫌気性アンモニア酸化槽においては、亜硝酸性窒素を電子受容体とし、残存したアンモニア性窒素を電子供与体として独立栄養微生物の作用により窒素ガスを発生させる嫌気性アンモニア酸化反応工程とを行っていたところ、単一槽内において、これらの好気性亜硝化工程および嫌気性アンモニア酸化反応工程を行うようにしたものである。
【0043】
より詳細には、反応槽14内には、菌を担持する担体26が投入されるとともに、散気装置が設置され、第1沈殿槽12から配管を通じて液送された被処理水に対して、散気装置により酸素を送り込むとともに、被処理水を攪拌し、それにより被処理水中で菌を担持する担体26が流動させられ、被処理水中で一様に分布するようにしている。
【0044】
図3に示すように、担体26は、粒状の樹脂製担体であり、担体26が被処理水中で流動しても担体26が菌を保持可能である限り、その大きさおよび形状は、任意である。たとえば、円柱形、球形等で、外形寸法が数mm程度のものでよい。
図3に示すように、担体26の表面部の亜硝酸型硝化ゾーンには主に亜硝酸型硝化菌が、嫌気性アンモニア酸化反応ゾーンには主に嫌気性アンモニア酸化反応菌とが担持されるようにしている。なお、亜硝酸型硝化ゾーンには亜硝酸型硝化菌に加えて、アンモニア以外の溶解性窒素を分解しアンモニアとする好気性菌が担持されるようにしてもよい。より詳細には、担体26は、亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌を、またはアンモニア以外の溶解性窒素を分解しアンモニアとする好気性菌および亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌を優占種として外側に、該亜硝酸型硝化菌に取り囲まれる形態で嫌気性アンモニア酸化反応に寄与する嫌気性アンモニア酸化菌を優占種として内側に、それぞれ存在させる2層の微生物膜を表面部に担持させている。これにより、被処理水中の担体26において、優占種として、より外側に位置する亜硝酸型硝化菌は好気性条件とされ、より内側に位置する嫌気性アンモニア酸化反応菌は、亜硝酸型硝化菌により取り囲まれる形態で嫌気性条件が確保されるようにしている。2層の微生物膜の外側の層に、亜硝酸型硝化菌に加えて、アンモニア以外の溶解性窒素を分解しアンモニアとする好気性菌が担持されている場合には、アンモニア以外の溶解性窒素は、該好気性菌によりアンモニアに分解された後、亜硝酸型硝化菌による亜硝酸型硝化反応に供されることになる。
【0045】
亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌としては、Nitorosomonas属に属する菌等が挙げられる。アンモニア以外の溶解性窒素を分解しアンモニアとする好気性菌としては、Bacillus属に属する菌等が挙げられる。
【0046】
担体26の材質としては、以下に説明するように、散気装置による強い攪拌力に起因して、各担体26の表面部に作用するせん断力に耐えるような強度特性を有し、かつ被処理水中で各担体26が流動する間、表面部に亜硝酸型硝化菌および嫌気性アンモニア酸化反応菌を保持し得る吸水性あるいは親水性を有する必要がある。特に、本発明においては、溶解性窒素濃度に応じて、担
体投入率を調整するようにしており、それにより担体26の表面部に存在する亜硝酸型硝化菌を優占種とする微生物膜の膜厚が増大するようにしているところ、このように膜厚が増大しても、亜硝酸型硝化菌および嫌気性アンモニア酸化反応菌を保持し得る特性を有する必要がある。
【0047】
この点において、担体26の材質としては、たとえば、発泡性の吸水性ポリウレタンであって、特に親水性樹脂であるTPU(熱可塑性ポリウレタン樹脂)を主成分として比較的高濃度で有し、強度特性を確保するために、疎水性プレポリマーである架橋剤を添加したものが好ましい。
【0048】
亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌を、またはアンモニア以外の溶解性窒素を分解しアンモニアとする好気性菌および亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌を優占種として外側に、該亜硝酸型硝化菌に取り囲まれる形態で嫌気性アンモニア酸化反応に寄与する嫌気性アンモニア酸化菌を優占種として内側に、それぞれ存在させる2層の微生物膜を、担体の表面部に担持させるには、たとえば、担体の表面に、それらの菌を含む汚泥を少量付着させた後、その担体を、下水等の溶解性窒素を含有する水を収容した槽に投入して、数日間放置し、菌を増殖させる。前記亜硝酸型硝化菌および好気性菌は好気性条件下で増殖し、前記嫌気性アンモニア酸化菌は嫌気性条件下で増殖するため、特別な操作を行わずとも、微生物膜の外側の層は前記亜硝酸型硝化菌および好気性菌が優占種となり、内側の層は嫌気性アンモニア酸化菌が優占種となる。
【0049】
散気装置は、従来用いられているようなディフィーザではなく、被処理水中に酸素を溶存させる機能と、被処理水を被処理水中の担体26とともに流動させる攪拌機能とを備えた散気装置であるのがよい。この点において、たとえば、ドラフトチューブエアレータ28が好適である。
図2は、
図1において隔壁30により3つに仕切られた反応槽14の1つを示す。
図1および
図2に示すように、ドラフトチューブエアレータ28は、既知であり、その基本的構成としては、下端にインぺラー40が設けられたシャフト42と、シャフト42に連結された駆動装置44と、インぺラー40の直下に位置決めされた散気管46と、散気管46に連通するブロワ32と、インぺラー40の径と略同一の径を有し、インぺラー40から下方に延びるドラフトチューブ48とを有し、駆動装置44によりシャフト42を回転させてインぺラー40により被処理水を攪拌するとともに、ブロワ32から散気管46を通じて被処理水中に空気を送り込み、ドラフトチューブ48により被処理水と気泡とを槽底部に導き、底部の攪拌力を高めるとともに、酸素溶存効率を高めるようにしている。ブロワ32は、DO計20に接続され、DO計20によって計測した被処理水中のDO値に応じて、ブロワ32から送り込まれる空気量(曝気量)を調整し、以て被処理水中のDO値が適切な値となるようにしている。
【0050】
図13は、本発明の生物学的窒素除去方法により脱窒した被処理水における溶解性窒素の除去率、NO
2−N生成濃度およびNO
3−N生成濃度が、溶解性窒素負荷に対するDOの比率によりどのように変化するかを示すグラフである。このグラフに示すように、溶解性窒素負荷に対するDOの比率が低すぎると、2層の微生物膜の内、亜硝酸型硝化菌を優占種とする外側の層において、十分な酸素濃度が確保できないため、亜硝酸型硝化反応による亜硝酸の生成量が不十分となり、低い窒素除去率しか得られない。一方、溶解性窒素負荷に対するDOの比率が高すぎると、過剰な酸素により、亜硝酸型硝化反応により生成した亜硝酸が、更に硝酸型硝化反応により酸化されて硝酸が生成されてしまうとともに、2層の微生物膜の内、嫌気性アンモニア酸化菌を優占種とする内側の層にまで酸素が到達して嫌気性条件を十分に満足できなくなるため、嫌気性アンモニア酸化反応が促進されなくなり、低い窒素除去率しか得られない。
【0051】
このように、DOは、窒素除去反応に必要な量に対し過不足なく供給されなければならないが、DOは窒素除去反応だけでなく、被処理水中の有機物によっても消費されるため、溶解性窒素負荷のみに基づいて、曝気量を適切な値に調整するのは困難である。
図14は、本発明の生物学的窒素除去方法により脱窒した被処理水における溶解性窒素の除去率、NO
2−N生成濃度およびNO
3−N生成濃度が、溶解性総有機炭素負荷に対するDOの比率によりどのように変化するかを示すグラフである。このグラフに示すように、溶解性総有機炭素負荷に対するDOの比率が低いと、有機物によるDOの消費によって、窒素除去反応に必要な量のDOの確保が困難となり、低い窒素除去率しか得られない。
【0052】
これらの点を考慮すると、反応槽14における曝気量の調整は、
図15に示すような方法で行うことがより好ましい。すなわち、反応槽14の下流側に、アンモニア性窒素(NH
4−N)濃度を計測するNH
4−N計50、亜硝酸性窒素(NO
2−N)濃度を計測するNO
2−N計52、硝酸性窒素(NO
3−N)濃度を計測するNO
3−N計54を設けて、反応槽14から流出する被処理水のNH
4−N濃度、NO
2−N濃度およびNO
3−N濃度を計測し、下記(a)〜(c)のように、曝気量(散気装置56への空気供給量)を調整する。
(a)NO
3−N濃度がある設定値以上になったら曝気量を減少させる。
(b)NO
2−N濃度がある設定値以上になったら曝気量を減少させる。
(c)NH
4−N濃度がある設定値以上になったら曝気量を増加させる。
【0053】
前記(a)及び(b)により過剰な曝気が抑制され、(c)により曝気不足が抑止される。なお、調整の優先順位は、(a)、(b)、(c)の順とする。
【0054】
図1に示すように、反応槽14の下流側には、途中にPO
4計22が付設された配管を介して混和槽16が接続され、混和槽16内には、モータ駆動の攪拌装置が設置されている。これにより、反応槽14において亜硝酸型硝化菌と嫌気性アンモニア酸化菌とにより処理された被処理水のPO
4濃度をPO
4計により測定し、そのPO
4濃度に応じて、固形性有機物および/またはリンを凝集するための凝集剤、たとえば、ポリ塩化アルミニウム(PAC)を、凝集剤注入ポンプ24を駆動することにより、混和槽16内の被処理水中に供給するとともに、攪拌装置により被処理水を攪拌し、以て被処理水中の固形性有機物および/またはリンを所定濃度になるまで除去するようにしている。
【0055】
混和槽16の下流には、配管を介して第2沈殿槽18が設けられ、混和槽16内で凝集剤により凝集した固形性有機物および/またはリンが、この第2沈殿槽18内で沈殿するようにしている。沈殿したリンは、定期的に第2沈殿槽18の底から引き抜かれ、汚泥処理施設に送られて、処分されるようにしている。一方、第2沈殿槽18内の上澄み液は、脱窒およびリン除去済みの処理水としてシステムの外に送られるようにしてある。なお、PO
4計22、凝集剤注入ポンプ24および混和槽16は、第1沈殿槽12の上流側に設置してもよい。この場合には、反応槽14において生物学的に窒素除去される前の被処理水に対して凝集剤を添加し、反応槽14の上流側に設置された第1沈殿槽12内で、凝集剤により凝集した固形性有機物および/またはリンが沈殿し、反応槽14の下流側に設置された第2沈殿槽18では、脱窒およびリン除去済みの処理水に含まれる固形物が沈殿することになる。
【0056】
以上の構成を有する、水処理システム10について、その作用を以下に詳細に説明する。まず、処理すべき被処理水を第1沈殿槽12に供給する。第1沈殿槽12内において、被処理水中の異物は沈殿する一方、第1沈殿槽12内の上澄み液は、配管を通じて、反応槽14に送られる。なお、第1沈殿槽12内の底に沈殿した汚泥は、適宜引き抜かれ、汚泥処理施設に送られて、処分される。
【0057】
次いで、被処理水は、反応槽14内において、本発明の生物学的窒素除去方法により窒素除去される。より詳細には、反応槽14内に流入された被処理水は、ドラフトチューブエアレータ28により攪拌されて、表面部に亜硝酸型硝化菌と嫌気性アンモニア酸化反応菌とが担持された複数の担体26が、
図2の矢印に示すように、被処理水中を一様に流動するとともに、ドラフトチューブエアレータ28により被処理水中に空気が送り込まれる。その際、DO計20により被処理水中の溶存酸素の濃度を測定し、それによりドラフトチューブエアレータ28のブロワ32を制御して、被処理水中に所定の好気性条件が作り出されるようにしている。また、反応槽14内に流入された被処理水の溶解性窒素濃度に基づいて、被処理水に投入する担体26の担体投入率を予め調整しておく。
【0058】
より具体的には、担体投入率は、反応槽14の単位体積当たりの担体26の表面積として定義され、反応槽14内に投入する担体26の数を増減することで、このような担体投入率を調整することが可能である。このような状態で、まず反応槽14内に流入された被処理水は、各担体26の表面部に担持された微生物膜の外側の層で優占種である亜硝酸型硝化菌により、好気性条件の下で、亜硝酸型硝化反応が生じ、アンモニア性窒素が、亜硝酸性窒素に変換される。その際、予め担体投入率を調整しておくことにより、たとえば、担体投入率を低減することにより、亜硝酸型硝化反応を通じて亜硝酸型硝化菌を優占種とする微生物膜の厚みを増大させることが可能である。この場合、各担体26は、散気装置による強い攪拌力に起因して、各担体26の表面部に作用するせん断力に耐えるような強度特性を有し、かつ被処理水中で各担体26が流動する間、表面部に亜硝酸型硝化菌および嫌気性アンモニア酸化反応菌を保持し得る吸水性あるいは親水性を有することから、このような菌の増殖による微生物膜の膜厚の増大に起因して、菌が担体26から離脱したり、あるいは
担体自体が破損したりするような事態を防止することが可能である。
【0059】
あるいは、担体26の表面部に対する被処理水の流速が速いほど、微生物膜への膜表面当たりのアンモニ
ウムイオン移動速度を高くできる知見に基づいて、ドラフトチューブエアレータ28による被処理水の攪拌力を増大し、それにより、表面部に菌が担持された担体26の表面部に対する被処理水の流速を増大させ、以て微生物膜への膜の単位表面積当たりのアンモニ
ウムイオン移動速度を高めることにより、亜硝酸型硝化反応による亜硝酸の生成量が、硝酸型硝化反応を抑止するほどのレベルになるようにしてもよい。あるいは、担体投入率の調整とともに、ドラフトチューブエアレータ28による被処理水の攪拌力の調整を通じて、担体表面に対する被処理水の流速の調整を併せて行い、より窒素除去効率を高めるようにしてもよい。
【0060】
これにより、担体26の単位表面積当たりの溶解性窒素の除去速度が高まり、さらに亜硝酸型硝化反応が促進され、亜硝酸が生成される。この場合、亜硝酸の生成が硝酸型硝化反応を抑止するほどのレベルで生じることにより、亜硝酸は生成されるが、生成した亜硝酸が硝酸に転換されることなしに、嫌気性アンモニア酸化反応に必要な亜硝酸性窒素を確保することが可能となる。以上のように、被処理水中の担体投入率および/または担体表面に対する被処理水の流速を調整することにより、亜硝酸型硝化反応による亜硝酸の生成量を、硝酸型硝化反応を抑止するほどのレベルにまで高めることで、嫌気性アンモニア酸化反応に必要なアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とを確保している。
【0061】
次いで、各担体26の表面部に担持された2層の微生物膜の内側の方の層で優占種である嫌気性アンモニア酸化菌により、擬似的な嫌気性条件の下で、嫌気性アンモニア酸化反応が生じ、アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とが窒素に変換される。
【0062】
次いで、被処理水は、配管を通じて混和槽16に送られる。その際、PO
4計により計測したPO
4濃度に基づいて、凝集剤注入ポンプ24を制御することにより、混和槽16内に供給する凝集剤の量を調整するとともに、被処理水が攪拌され、凝集剤によりPO
4が凝集する。次いで、被処理水は、第2沈殿槽18に配管を通じて送られ、ここで凝集した固形有機物および/またはリンが沈澱され、沈澱汚泥は、汚泥処理施設に送られて処分される。第2沈殿槽18内の生物学的窒素除去およびリン除去処理の施された上澄み液は、別途処理水として、再利用されるか、処分される。以上で、本発明による水処理システム10による水処理が完了する。なお、本水処理は、被処理水を連続的に流入させて、連続処理してもよいし、場合によりバッチ処理してもよい。
【0063】
以上の構成を有する水処理システム10によれば、嫌気性アンモニア酸化反応を利用して脱窒を行うことにより、被処理水を脱窒するのに必要な酸素量を低減することが可能であるとともに、脱窒を行うのに活性汚泥の代わりに菌を担持した担体を用いることから、活性汚泥を反応槽に返流する設備が不要であると同時に、活性汚泥中に必然的に混入する固形性有機物が分解するに際し、酸素が消費されることもなく、総じて、アンモニア性窒素等の溶解性窒素を含有する被処理水の水処理に必要な酸素量を格段に低減することが可能である。
【0064】
なお、本発明の生物学的窒素除去方法を実施するに際しては、流入溶解性窒素負荷が4.0〜11.5g/m
2担体/dayとなるように、担体投入率を調整するのが好ましい。
図17は、溶解性窒素除去速度およびNO
3−N生成濃度が、流入溶解性窒素負荷によりどのように変化するかを示すグラフである。このグラフに示すように、流入溶解性窒素負荷が4.0〜11.5g/m
2担体/dayの範囲では、溶解性窒素除去速度がほぼ直線的に上昇し、溶解性窒素除去率(グラフ内の直線の傾き)が最大となる。流入溶解性窒素負荷が4.0g/m
2担体/day未満では、NO
3−N生成濃度が高いことから、硝酸型硝化反応の抑止が困難であると考えられ、11.5g/m
2担体/dayを超えると、溶解性窒素除去速度が低下し始める。
【0065】
具体的な担体投入率としては、4〜40m
2/m
3に調整することが好ましく、概ねこのような範囲に調整すれば、亜硝酸型硝化反応よる亜硝酸の生成量を、硝酸型硝化反応を抑止するほどのレベルにまで高めることができ、高い溶解性窒素除去率が得られる。また、本発明は、反応槽内における被処理水の最大流速が、0.7m/sec以上となるように被処理水を撹拌しながら実施することが好ましい。このような撹拌により、担体表面に対する被処理水の流速が高まる結果、亜硝酸型硝化反応よる亜硝酸の生成量を、硝酸型硝化反応を抑止するほどのレベルにまで高めることができ、高い溶解性窒素除去率が得られる。
【0066】
また、本発明の生物学的窒素除去方法は、被処理水のORP(酸化還元電位)を−150mV以下とした状態で実施することが好ましく、−300mV以下とした状態で実施することがより好ましい。
図18は、溶解性窒素除去率が、反応槽流入水の酸化還元電位によりどのように変化するかを示すグラフである。このグラフに示すように、反応槽流入水の酸化還元電位が−150mV以下、特に−300mV以下である場合、高い溶解性窒素除去率が得られる一方、−150mVを超えると急激に溶解性窒素除去率が低下する。
【0067】
被処理水のORPが高い場合に、ORPを低下させる方法としては、被処理水に還元剤を注入する方法が挙げられる。例えば、
図16に示すように、反応槽14の前段(上流側)に、ORP調整槽57を設け、ORP調整槽57内に流入した被処理水のORPをORP計58で計測し、ORPが所定の値になるように、還元剤注入ポンプ60を制御して、ORP調整槽57内に注入する還元剤の量を調整する。こうして、還元剤の注入により、ORPが所定の値となるよう調整された被処理水は、後段(下流側)の反応槽14に流入する。還元剤としては、第1沈殿槽の引抜汚泥等の水処理工程で発生する汚泥を用いてもよいし、工業生産された薬品を用いてもよい。薬品としては、被処理水中に含まれる有機物により酸化を受けにくいものを使用することが好ましく、たとえば、硫化ナトリウムが好適に使用できる。
【0068】
また、窒素除去は本発明の生物学的窒素除去方法により行い、溶解性有機物とリンの除去は活性汚泥を用いて行うということも可能であるが、この場合には、本発明の生物学的窒素除去方法による窒素除去は、反応槽に活性汚泥を流入させることなく実施することが好ましい。反応槽に活性汚泥が流入してしまうと、本発明の生物学的窒素除去方法における菌による反応が阻害される恐れがある。
図19は、窒素除去は本発明の生物学的窒素除去方法により行い、溶解性有機物とリンの除去は活性汚泥を用いて行う場合のフロー図である。このように、第1沈殿槽12
の上流に嫌気槽62を設置し、反応槽14と第2沈殿槽18との間に好気槽64を設置するとともに、第1沈殿槽12から反応槽14を経由せず好気槽64に至るバイパス路66と、第2沈殿槽18から嫌気槽
62に戻る返送路68を設けることにより、反応槽14に活性汚泥を流入させることなく、活性汚泥を用いて溶解性有機物とリンの除去を行うことができる。
【0069】
具体的には、まず、嫌気槽62内において、活性汚泥により被処理水中の溶解性有機物を除去する。その後、嫌気槽62内の被処理水は、活性汚泥を伴って第1沈殿槽12に流入し、第1沈殿槽12内で活性汚泥と固形性有機物が沈降分離する。そして、活性汚泥と固形性有機物とを含まない上澄み液は、反応槽14に流入し、反応槽14内で本発明の生物学的窒素除去方法により窒素が除去された後、好気槽64に流入する。一方、第1沈殿槽12で沈降分離された活性汚泥は、反応槽14には流入することなく、バイパス路66を通って、好気槽64に流入する。こうして好気槽64に流入した活性汚泥は、同じく好気槽64に流入した窒素除去済みの被処理水に含まれるリンを摂取して蓄積する。次いで、活性汚泥にリンを摂取されることによりリンが除去された被処理水は、リンを蓄積した活性汚泥とともに第2沈殿槽18に移動し、第2沈殿槽18内において活性汚泥とその他の固形物は沈降分離する。そして、活性汚泥と固形物を含まない上澄み液(窒素、リン、溶解性有機物が除去された被処理水)は、システムの外に送り出され、一方、沈降分離された活性汚泥は、その一部が余剰汚泥としてシステムの外に排出され、残部はリンを蓄積したまま、返送路68を通って嫌気槽62に返送される。こうして嫌気槽62に返送された活性汚泥は、嫌気槽62内で蓄積していたリンを放出するとともに、再び被処理水中の溶解性有機物を除去する。なお、好気槽64から第2沈殿槽18に活性汚泥が移動する過程において、当該活性汚泥に凝集剤を添加し、リンを凝集させるようにしてもよい。
【0070】
このように、活性汚泥が反応槽14をバイパスして循環するように運転することにより、被処理水の窒素除去は、本発明の生物学的窒素除去方法により、反応槽14に活性汚泥を流入させることなく行い、溶解性有機物とリンの除去は、活性汚泥を用いて行うということができる。また、このように、反応槽14の上流側に嫌気槽62が存在すると、嫌気槽62が被処理水のORPを低下させる働きをするため、前述のように還元剤を添加しなくても、被処理水のORPを好適な範囲まで低下させることができ、還元剤を添加する場合に比べて、ランニングコストが低下する。
【0071】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明の範囲から逸脱しない範囲内において、当業者であれば、種々の修正あるいは変更が可能である。たとえば、本実施形態においては、担体投入率を調整するのに、反応槽内に投入する担体の数を調整することにより行ったが、それに限定されることなく、たとえば、担体の表面形状を変え、それにより担体の表面積が変わることで、担体投入率を調整してもよい。また、本実施形態においては、単一の反応槽の内部を隔壁により仕切る場合を説明したが、それに限定されることなく、たとえば、隔壁により仕切らずに、反応槽内部を単一のスペースとしてもよい。また、本実施形態においては、水処理システムの各槽を配管を通じて接続する場合を説明したが、それに限定されることなく、たとえば、配管を用いずにオーバーフロー方式を採用してもよい。さらにまた、本実施形態においては、攪拌装置としてドラフトチューブエアレータを採用した場合を説明したが、それに限定されることなく、被処理水に対する必要な攪拌力が得られる限り、他の攪拌装置でもよい。さらに、本実施形態においては、担体として、ポリウレタン樹脂製の場合を説明したが、それに限定されることなく、亜硝酸型硝化菌の亜硝酸型硝化反応による亜硝酸の生成量が、硝酸型硝化反応を抑止するレベルになるほど、亜硝酸型硝化菌が増殖して微生物膜の厚みが増大しても、該微生物膜を担持可能な吸水特性および/または親水特性を有するとともに、担体が被処理水中で流動することにより該担体に対して作用するせん断力に耐えるような強度特性を有する限り、他の種類の樹脂でもよい。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
[実施例1]
本発明者は、上記実施形態に記載した反応槽14を用いて、通常の下水を対象に実用レベルで試験を行い、ドラフトチューブエアレータにより、被処理水である下水を散気しつつ、亜硝酸型硝化菌および嫌気性アンモニア酸化菌を表面部に担持させた担体を下水中で流動するように攪拌する際、担体投入率を調整することにより、被処理水のアンモニア性窒素濃度、反応槽内での水温、DO値およびpH値の制約を緩和しつつ、実用レベルの脱窒効率を確保することが可能であることを確認した。ここに、脱窒効率とは、単位時間当たり、単位反応容積当たりの窒素除去量である。
【0074】
表1は、今回の運転条件(本発明の実施例における運転条件)を、
非特許文献
1に開示された運転条件と比較して示している。表2は、今回採用した担体26の仕様を示す。どちらの運転条件においても、反応槽14内で、亜硝酸型硝化反応に寄与する亜硝酸型硝化菌を優占種として外側に、嫌気性アンモニア酸化反応に寄与する嫌気性アンモニア酸化菌を優占種として該亜硝酸型硝化菌に取り囲まれる形態で内側に、それぞれ存在させる2層の微生物膜を表面部に担持させた担体26が用いられ、微生物膜の外側の方の層に優占種として存在する亜硝化型硝化菌により好気性条件下で亜硝化型硝化反応が生じ、それにより、アンモニア性窒素の一部が亜硝酸性窒素に変換され、次いで、微生物膜の内側の方の層に優占種として存在する嫌気性アンモニア酸化菌により嫌気性条件下でアンモニア性窒素および亜硝酸性窒素が窒素に変換される。ただし、今回の運転条件では、撹拌手段により担体を流動させるのに対し、
非特許文献
1に開示された運転条件では、担体は固定されている。表1に示すように、今回の運転条件において、被処理水の条件は、水温が15〜29℃、流入アンモニア性窒素濃度が10〜15mg/Lであり、DO値が2.5〜3.0mgO
2/Lであるのに対し、
非特許文献
1に開示された運転条件においては、被処理水は、水温が20℃以上、流入アンモニア性窒素濃度が200mg/L以上、DO値が0.5mgO
2/L以下であり、両者を比較すれば、今回の運転条件は、常温かつアンモニア性窒素濃度が低濃度の被処理水を対象とし、DO値に対する制約が緩和されている。
【0075】
表1及び表2に示すように、今回の運転条件において、担体26には、粒状樹脂製担体であって、親水性樹脂を84.5%、架橋剤を6.5%含有する吸水性ポリウレタン樹脂からなるものを採用した。これにより、担体26の表面部に担持される亜硝化型硝化菌および嫌気性アンモニア酸化菌の増殖による微生物膜の膜厚の増大化に係わらず、菌を担持可能であり、曝気および攪拌を行うドラフトチューブエアレータ28による攪拌力に起因して担体26の表面部に作用するせん断力に対して耐え得る強度特性を具備するようにしている。これに対して、
非特許文献
1に開示された運転条件においては、ディフューザを用いて曝気しており、今回の運転条件に比べて、被被処理水に対する攪拌力は小さく設定されている。
【0076】
今回の運転条件において、表2に示すように、担体投入率は、15m
2担体総表面積/m
3槽容積であり、これにより流入アンモニア性窒素負荷が、6.0〜9.0g/m
2担体/dayに維持されている。これに対して、表1に示すように、
非特許文献
1に開示された運転条件では、担体を用いる場合、流入アンモニア性窒素負荷が、1〜8g/m
2担体/dayである。このような運転条件で被処理水の生物学的窒素除を行ったところ、今回の運転条件は、
非特許文献
1に開示された運転条件よりも、被処理水のアンモニア性窒素濃度、槽内での水温、DO値およびpH値の制約を緩和したものであるにもかかわらず、実用レベルの脱窒効率を確保することが可能であった。
【0077】
これは、今回の運転条件においては、担体投入率を低レベルとして、各担体26の微生物膜の厚みを増大するとともに、ドラフトチューブエアレータ28により被処理水内で担体26を流動させる際、担体26の表面部に対する被処理水の流速を高めることにより、担体の単位表面積当たりのアンモニア性窒素の除去速度が増大し、硝酸型硝化反応を抑止するほどに亜硝酸型硝化反応を促進しているのに対して、
非特許文献
1の運転条件においては、担体投入率が高く、それによりこのような微生物膜の厚肉化が生じず、亜硝酸型硝化反応の促進と、硝酸型硝化反応の抑止とを個別に行う必要があるためであると思われる。すなわち、
非特許文献
1の運転条件においては、処理すべき被処理水の反応槽内での温度を高温度とすることにより、亜硝酸型硝化菌の増殖速度を硝酸型硝化菌のそれより増大させて、亜硝酸型硝化反応を促進し(
図8参照)、また、流入アンモニア性窒素濃度を高く設定することで、亜硝酸型硝化菌の反応速度を硝酸型硝化菌のそれより増大させて、亜硝酸型硝化反応を促進し(
図10参照)、さらにDO値を低く設定することにより、亜硝酸型硝化菌の反応速度を硝酸型硝化菌のそれより増大させて、亜硝酸型硝化反応を促進した(
図9参照)ものと推測される。
【0078】
図4は、今回の運転条件にて連続運転を行った場合における、反応槽流入水の溶解性窒素濃度、反応槽流入水のNH
4−N濃度、反応槽流出水の溶解性窒素濃度および反応槽流出水のNH
4−N濃度の時間変化を示すグラフである。各濃度の測定は、測定開始日の0時0分から翌日の21時0分までの45時間に渡って行った。このグラフに示す通り、反応槽流入水の溶解性窒素濃度およびNH
4−N濃度が大きく変動しても、反応槽流出水の溶解性窒素濃度およびNH
4−N濃度の変動は小さく、安定して高い脱窒効率が得られた。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
[実施例2]
本発明者は、担体投入率が窒素除去速度に与える影響を確認するため、前記実施例1にて連続運転に使用されている担体を少量取り出し、それを、実際の下水処理場における下水を被処理水として収容したビーカーに投入して、以下のような実験(バッチ試験)を行った。実験条件は、以下の通りである。
【0082】
(共通の条件)
(1)菌:亜硝酸型硝化菌および嫌気性アンモニア酸化菌
(2)菌担持法:円柱状(φ4.0mm×L4.3mm)のポリウレタン樹脂製担体を用い、亜硝酸型硝化菌を優占種として外側に、嫌気性アンモニア酸化菌を優占種として該亜硝酸型硝化菌に取り囲まれる形態で内側に、それぞれ存在させる2層の微生物膜を担持
(3)被処理水:下水処理場曝気槽混合液の沈殿上澄液
(4)水量:300mL(ビーカー)
(5)DO供給法:曝気および攪拌
【0083】
(実験条件)
(A)前記実施例1にて担体投入率15m
2担体総表面積/m
3槽容積で使用中の担体を取り出し、それら担体を被処理水の水量300mLに対し、担体投入率が90m
2担体総表面積/m
3槽容積となるよう投入し、十分に攪拌した(
図5)。
(B)前記実施例1にて担体投入率15m
2担体総表面積/ m
3槽容積で使用中の担体を取り出し、それら担体を被処理水の水量300mLに対し、担体投入率が30m
2担体総表面積/m
3槽容積となるよう投入し、十分に攪拌した(
図6)。
(C)前記実施例1にて担体投入率15m
2担体総表面積/m
3槽容積で使用中の担体を取り出し、それら担体を被処理水の水量300mLに対し、担体投入率が7.5m
2担体総表面積/ m
3槽容積となるよう投入し、十分に攪拌した(
図7)。
【0084】
各実験条件における実験結果を
図5〜
図7に示す。
図5〜
図7において、[NO
X−N]は、[NO
3−N](硝酸性窒素濃度)と[NO
2−N](亜硝酸性窒素濃度)との合計、イオン性窒素は、[NH
4−N](アンモニア性窒素濃度)と[NO
X−N]との合計、NH
4−N減少速度(mgN/L/hr)は、([NH
4−N](0時間における)+[NH
4−N](4時間後における))/4 、NH
4−N減少速度(mgN/m
2担体表面積/hr)は、NH
4−N減少速度/担体表面積、イオン性窒素減少速度(mgN/L/hr)は、(イオン性窒素(0時間における)+イオン性窒素(4時間後における))/4、イオン性窒素減少速度(mgN/m
2担体表面積/hr)は、イオン性窒素減少速度/表面積として定義している。
図5ないし
図7を比較すれば、担体投入率が低いほど、イオン性窒素減少速度(mgN/L/hr)または(mgN/m
2担体表面積/hr)およびNH
4−N減少速度(mgN/L/hr)または(mgN/m
2担体表面積/hr)は、増大する一方、NO
X−N増大速度(mgN/L/hr)または(mgN/m
2担体表面積/hr)は、減少することがわかる。ここに
、イオン性窒素減少速度は、嫌気性アンモニア酸化速度とみなすことが可能である。
【0085】
よって、以上の実験により、本発明者は、以下のような知見を得た。
(1
)担体投入率が高いほど
、硝酸型硝化反応により硝酸性窒素が生成する。
(
2)担体投入率が低いほど、
硝酸型硝化反応が抑制され、嫌気性アンモニア酸化反応が促進される。
【0086】
以上より、本発明者は、担体投入率が、亜硝酸型硝化反応の促進、硝酸型硝化反応の抑止、および嫌気性アンモニア酸化反応の促進に対して、影響を及ぼし得ることを確認した。