特許第5764367号(P5764367)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764367
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】偏光フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20150730BHJP
【FI】
   G02B5/30
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2011-83524(P2011-83524)
(22)【出願日】2011年4月5日
(65)【公開番号】特開2012-53440(P2012-53440A)
(43)【公開日】2012年3月15日
【審査請求日】2014年1月17日
(31)【優先権主張番号】特願2010-138133(P2010-138133)
(32)【優先日】2010年6月17日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-175625(P2010-175625)
(32)【優先日】2010年8月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】松尾 直之
(72)【発明者】
【氏名】下田 麻由
(72)【発明者】
【氏名】中野 勇樹
【審査官】 藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−160665(JP,A)
【文献】 特開2009−274382(JP,A)
【文献】 特開2010−125654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B29C 55/02
B65H 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムのうち第一のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを長手方向に移動させつつその移動経路において該第一のポリビニルアルコール系樹脂フィルムに少なくとも染色と延伸とを実施し、且つ、前記第一のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの末端部に第二のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの先端部を連結することにより、前記第一及び第二のポリビニルアルコール系樹脂フィルムに連続して前記染色と延伸とを少なくとも実施する偏光フィルムの製造方法であって、
前記末端部と前記先端部とを重ね合わせた配置にさせてその界面部をレーザー溶着することにより前記連結を実施し、
前記延伸を、前記第一及び第二のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの長手方向に、且つ、延伸倍率が5.25倍以上となるように実施することを特徴とする偏光フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記第一のポリビニルアルコール系樹脂フィルムにおける前記染色と延伸とが実施されていない末端部と、前記第二の帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの先端部とを重ね合わせた配置にさせてその界面部をレーザー溶着することにより、前記連結を実施することを特徴とする請求項1記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記界面部に光吸収剤を配して前記レーザー溶着を実施する請求項2記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項4】
波長800nm以上11000nm以下の赤外線レーザーで前記レーザー溶着を実施する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記第一のポリビニルアルコール系樹脂フィルム、及び、前記第二のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの延伸倍率が、いずれも5.5倍以上である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記延伸を、浸漬浴内で実施する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記末端部と前記先端部との重ね合わせ部において未接合部の幅が5mm未満となるように、前記レーザー溶着を実施する請求項1乃至6のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項8】
パワー密度が200W/cm2乃至10,000W/cm2の範囲内であるレーザー光によって、前記レーザー溶着を実施する請求項1乃至7のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを長手方向に移動させつつその移動経路において長手方向に延伸して偏光フィルムを作製する偏光フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置などの画像表示装置において、偏光フィルムなどを含む光学フィルムが利用されている。
この種の偏光フィルムの製造方法としては、原反となる帯状のポリビニルアルコール系樹脂(PVA)フィルムがロール状に巻回されてなる原反ロールからポリビニルアルコール系樹脂フィルム(原反フィルム)を送り出して該原反フィルムの移動経路を規制し、原反フィルムをガイドする複数本のローラと各種の薬液浴とを備えた装置に通して延伸させる方法が採用されており、例えば、原反フィルムをその長手方向に移動させて膨潤浴や染色浴に連続して浸漬させた後に前後2箇所において前記ローラで原反フィルムをニップして、その間において張力を加えて前記延伸を実施させる方法が採用されたりしている。
【0003】
ところで、この種の偏光フィルムの製造方法においては、原反ロールを交換する毎に改めて新しい原反フィルムをローラ等に巻き掛けて装置にセットするのは、非常に煩雑であり且つ時間を浪費するものであることから、先行する原反フィルムの末端部に次の原反ロールから繰り出された原反フィルムの先端部を接合して連結させた2つの原反フィルムを順次連続して偏光フィルムに加工することがなされている。
この種の接合手段としては、従来、粘着テープや接着剤などの接着接合手段、リベットや糸などによる縫合接合手段またはヒートシーラーなどによる加熱溶融接合手段などが採用されている。
【0004】
しかしながら、上記のような方法においては、それぞれ下記のような問題を有している。
・粘着テープや接着剤などによる接着接合における問題点
膨潤浴、染色浴などに原反フィルムを浸漬させる工程において、接着剤の成分などが薬液に溶け出すことで、薬液を汚染し、製品への異物付着の要因となりうることに加え、接着剤が薬液に溶解されたり薬液の成分によって膨潤したりすることで接合強度が低下し、延伸工程において所望の延伸倍率に達する前に連結部に破断を生じさせるおそれを有する。
・リベットや糸などによる縫合接合における問題点
この方法では、原反フィルムにリベットや糸を通すための穴が穿設されることになるために連結部に張力が加わった場合に前記穴を起点とした破断を生じさせるおそれを有する。
このことを防止すべく穴数を減らして穴の間隔を広めに確保させると、張力が加わった際に、シワが生じやすくなって延伸ムラを生じさせるおそれを有する。
・ヒートシーラーなどによる加熱溶融接合における問題点
上記のような接着接合や縫合接合における問題点の解決を図り得る接合手段として、下記特許文献1及び2などに示すようなヒートシーラーによって接合する手段が知られている。
この方法では、接着接合に比べて薬液を汚染するおそれが低く、縫合接合のように穴を設ける必要がない。
しかし、ヒートシーラーでは狭い領域のみを加熱することが難しいため比較的大面積の溶着領域が形成されやすく、この溶着領域、及び、その周辺は、溶着時に受けた熱によって変性して通常の部分に比べて硬化した状態となる傾向がある。
そのため、延伸時にこの溶着領域を挟んで張力が加えられるとこの硬化した箇所と通常の状態の箇所との境界部分に集中して歪みが生じやすく、全体が所望の延伸倍率に至る前に当該領域が極端に延伸されるおそれを有する。
したがって、高い延伸倍率での延伸を実施させようとすると連結部において原反フィルムの破断を生じさせるおそれを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−171897号公報
【特許文献2】特開2010−8509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
偏光フィルムに高い偏光機能を付与するためには、一般には5.25倍以上の延伸を加えることが求められるが、ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムを上記に示したような従来の連結方法で連結した場合には、5.25倍以上の延伸負荷に連結部が耐えられず、破断を起こすおそれを有するため、連結部が通過する間の延伸倍率を5.25倍未満に変更することで破断を回避させるような対策がなされている。
しかしながら上記のような回避策を選択した場合においては、連結部前後の延伸倍率は所望の倍率(5.25倍以上)とはなっていないことから、製品として用いることが出来ず、材料ロスを発生させることになる。
このように、連結されたポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムを、その連結部も含めて連続して5.25倍以上の延伸倍率で延伸しつつ移動させることは困難であり、また、かかる延伸及び移動を可能とするような連結方法は、これまでに提案されていない。
【0007】
すなわち、従来の偏光フィルムの製造方法においては、高い偏光機能を有する偏光フィルムを効率良く製造することが難しいという問題を有しており、本発明は、このような問題の解決を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明に係る偏光フィルムの製造方法は、2以上の帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムのうち第一のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを長手方向に移動させつつその移動経路において該第一のポリビニルアルコール系樹脂フィルムに少なくとも染色と延伸とを実施し、且つ、前記第一のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの末端部に第二のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの先端部を連結することにより、前記第一及び第二のポリビニルアルコール系樹脂フィルムに連続して前記染色と延伸とを少なくとも実施する偏光フィルムの製造方法であって、
前記末端部と前記先端部とを重ね合わせた配置にさせてその界面部をレーザー溶着することにより前記連結を実施することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、延伸を行う2以上の帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの内の先行する第一の帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの末端部と、これに連結する第二のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの先端部とがレーザー溶着によって接合されることから、接着剤等の使用によって接着接合する場合に比べて薬液が汚染されたり、該薬液によって接合強度が低下されたりするおそれが抑制され得る。
また、レーザー溶着においては、レーザーが極めて狭い領域のみを選択的に加熱することができることから、全体的な加熱を必要とするヒートシーラーに比べて変性(硬化)領域が形成されることを抑制させ得る。
したがって、延伸を加えるのに際して、ヒートシーラーで溶着を行った場合よりも歪み集中の生じにくい連結部を形成させることができる。
このことによって、例えば、5.25倍以上の延伸工程においても破断が発生しない連結が可能となり、連結部が通過する場合においても延伸条件を変更することなく、連続的に延伸を加えられることによって、作業効率の向上、生産性の向上、歩留まりの向上及び材料ロスの削減効果が得られる。
なお、偏光フィルムに用いられるポリビニルアルコール系樹脂フィルムをこのようにレーザー溶着することに関しては、従来例がなく、このことは、本発明によって初めて達成されることである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態の偏光フィルムの製造方法に用いる装置を示した概略斜視図。
図2】原反フィルムを連結して偏光フィルムの製造装置に供給する様子を示した概略斜視図。
図3】原反フィルムを連結するための連結装置の要部の機構を示した概略正面図。
図4】他の態様の偏光フィルムの製造方法において形成される原反フィルムの連結部を示す正面図。
図5】実施例1にて形成された連結部の様子を示す顕微鏡写真。
図6】比較例1にて形成された連結部の様子を示す顕微鏡写真。
図7】実施例1と比較例1とにおける延伸の様子を示すグラフ。
図8】2枚のPVAフィルムを連結した試料を水中で引張り試験した際の違いを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態について説明する。
まず、本実施形態の偏光フィルムの製造方法を実施するための好ましい延伸装置について図面を参照しつつ説明する。
本実施形態の延伸装置は、帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下「原反フィルム」、あるいは、単に「フィルム」ともいう)がロール状に巻回された原反ロールから前記原反フィルム1が送り出される原反フィルム供給部3と、送り出された原反フィルム1を所定の薬液に浸漬するための複数の浸漬浴4と、該浸漬浴4内に前記原反フィルム1を通すように、原反フィルム1の移動経路を規制する複数のローラ9と、該移動経路中にて原反フィルム1を延伸する延伸手段と、複数の浸漬浴4に浸漬され且つ延伸されたフィルムを偏光フィルムとしてロール状に巻き取る偏光フィルム巻取部10とが備えられている。
【0012】
図1図2は、好ましい延伸装置の一態様を示す概略斜視図である。
図1に示すように、複数の浸漬浴4として、フィルムの流れ方向上流側から順に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを膨潤させる膨潤液の貯留された膨潤浴4a、膨潤されたフィルムを染色する染色液の貯留された染色浴4b、フィルムを構成している樹脂の分子鎖を架橋させる架橋剤液の貯留された架橋浴4c、浴内でフィルムを延伸するための延伸浴4d、及び、該延伸浴4dに通されたフィルムを洗浄する洗浄液が貯留された洗浄浴4fという5種類の浸漬浴4が延伸装置に備えられている。
【0013】
また、本態様の延伸装置には、フィルムの移動経路における洗浄浴4fの下流側で且つ巻取部10の上流側に、フィルムに付着した洗浄液を乾燥させる乾燥装置11、具体的には乾燥オーブンが備えられている。
更に、本態様の延伸装置においては、ロール状に巻回された表面保護フィルム(例えば、トリアセチルセルロースフィルムやシクロオレフィンポリマーフィルム)等の積層用フィルム12が前記乾燥装置11で乾燥されたフィルムの両面側にそれぞれ配されており、乾燥後のフィルムの両面に積層用フィルム12を積層させるためのラミネート装置が備えられている。
【0014】
前記延伸手段としては、所謂ロール延伸手段9aが採用されている。即ち、前記移動経路中において、フィルムを間で狭持し且つ流れ方向下流側に送り出すように構成された対をなすニップローラ9aが複数組配され且つ流れ方向下流側の組の周速度が上流側よりも高速とされてなる構成が採用されている。
【0015】
更に、本延伸装置は、2以上の原反フィルムを連続的に延伸させ得るように構成されており、この2以上の原反フィルムの内の第一の原反フィルムの末端部と、第二の原反フィルムを連結するための装置が備えられている。すなわち、本延伸装置には、図2に示すように、先行する第一の原反フィルム1の末端部1aが規制された移動経路に通される前に、具体的には、浸漬浴4に通される前に、この第一の原反フィルム1の末端部1aと該原反フィルム1に次いで移動経路内に通す新たなる原反フィルム(第二の原反フィルム)の先端部1bとをレーザー溶着にて連結するための連結装置(図2に図示せず)が備えられている。
尚、図2に於いては、レーザー照射によって連結された部分(溶着部)を黒塗り部30で示している。
【0016】
次に、図3を参照しつつ好ましい連結装置について説明する。
この図3は、レーザー溶着によって原反フィルムどうしを連結する連結装置を示す概略構成図である。
図3は、連結される原反フィルムをその側面からTD方向(幅方向)に向かって見た連結装置の正面図が示されている。
この図3に示すように、前記連結装置は、平坦な上面部を有するステージ40と、該ステージ40の上方に配され、上下方向に移動可能に配された加圧部材50と、該加圧部材50の上方に配されたレーザー光源(図示せず)とを有しており、先行する第一の原反フィルム1の末端部1aと、これに連結する新たな第二の原反フィルム1の先端部1bとを前記ステージ40上において上下に重ね合わせ、この重ね合わせた部分を前記加圧部材50で加圧しつつ前記レーザー光源からレーザー光Rを照射することにより、前記末端部1aと前記先端部1bとの界面部を加熱溶融させて溶着させ得るように構成されており、前記加圧部材50がレーザー光Rの透過性に優れた透明な部材で構成されている。
【0017】
なお、前記連結装置には、前記末端部1aと前記先端部1bとの界面部におけるレーザー光Rの光吸収性を高め、より効率良く溶着を実施させ得るように、前記界面部において面接させる前記末端部1aか前記先端部1bかのいずれかの表面(又は両面)に予め光吸収剤を塗布する塗布装置を備えさせることも可能である。
【0018】
なお、ここで使用する光吸収剤としては、レーザー光Rを吸収して熱を発生させるものであれば特に限定がされず、カーボンブラック、顔料、染料などを用いることが出来る。
例えば、フタロシアニン系吸収剤、ナフタロシアニン系吸収剤、ポリメチン系吸収剤、ジフェニルメタン系吸収剤、トリフェニルメタン系吸収剤、キノン系吸収剤、アゾ系吸収剤、ジインモニウム塩などを用いることが出来る。
また、800nm〜1200nmの波長を有するレーザー光Rを発するレーザー光源を用いる場合には、例えば、米国Gentex社製から商品名「Clearweld」として市販の光吸収剤を用いることが出来る。
【0019】
これらの吸収剤は有機溶媒などで希釈して、前記塗布装置で塗布させることができ、該塗布装置としては、例えば、ディスペンサー、インクジェットプリンター、スクリーン印刷機、2流体式、1流体式又は超音波式スプレー、スタンパー、コーターなどの一般的な塗布装置を採用することができる。
【0020】
また、当該連結装置において利用するレーザー光源の種類も特に限定がされるものではないが、用いるレーザー光は、新旧原反フィルムを重ね合わせた部分における新旧原反フィルムの界面において一方もしくは両方の原反フィルム表面に塗布するなどして配置された光吸収剤によって吸収され、発熱させる役目を担うものであって、用いる光吸収剤の吸収感度の高い波長を有することが好ましい。
【0021】
具体的には、レーザー光の種類としては、可視光域もしくは赤外線域の波長を有する半導体レーザー、ファイバーレーザー、フェムト秒レーザー、ピコ秒レーザー、YAGレーザーなどの固体レーザー、CO2レーザーなどのガスレーザーが挙げられる。
なかでも、安価で且つ面内均一なレーザービームが容易に得られる半導体レーザーやファイバーレーザーが好ましい。
また、原反フィルムの分解を避けつつ溶融を促す目的においては、瞬間的に高いエネルギーが投入されるパルスレーザーよりも連続波のCWレーザーのほうが好ましい。
レーザー光の出力(パワー)、ビームサイズ及び形状、照射回数、更に走査速度などは、対象となる原反フィルム及び光吸収剤の光吸収率といった光学特性や原反フィルムを構成しているポリマーの融点、ガラス転移点(Tg)といった熱特性などの違いに対して適宜最適化されればよいが、レーザーが照射された部分においてポリビニルアルコール系樹脂を効率的に流動化させて強固な接合を得るために、照射するレーザー光のパワー密度としては、200W/cm2乃至10,000W/cm2の範囲内であることが好ましく、300W/cm2乃至5,000W/cm2の範囲内であることがさらに好ましく、1,000W/cm2乃至3,000W/cm2の範囲内であることが特に好ましい。
【0022】
また、連結装置において利用するレーザー光源は、新旧原反フィルムの界面において所定の大きさのスポット径(照射幅)でレーザー光を照射しうるものが好ましい。
この照射スポット径(照射巾)としては、前記照射レーザーパワー密度を満たすパワーにて、新旧原反フィルム重ね合わせ幅の1/3以上3倍以下が好ましい。
重ね合わせ幅の1/3未満では、重ね合わせ部の未接合部が大きく、接合後に搬送する際にばたついて、良好な搬送性を阻害するおそれを有する。
また、3倍以上の巾でレーザーを照射すると、接合及び延伸特性には影響は及ぼさないものの、エネルギー利用効率の観点からは好ましくない。
好ましくは、重ね合わせ幅と同値以上2倍以下である。
なお、新旧原反フィルムの重ね合せ幅は、0.1mm以上10.0mm未満とすることが好ましく、0.5mm以上5mm未満とすることが更に好ましい。
これは、重ね合わせ幅が0.1mm未満では、繰り返し精度よく広幅な原反フィルムを重ね合わせ配置することが難しいためであり、10.0mm以上になると、未接合部の形成を防止するためにレーザー光を10.0mm巾以上で照射する必要が生じることから必要なエネルギーが高くなり、省エネルギーの観点から好ましくないためである。
また、新旧原反フィルムの重ね合わせ部においては、未接合部の幅が5mm未満であることが好ましく、0mmである(重ね合わせ部の全面が接合されている)ことが更に好ましい。未接合部の幅が5mm未満であることが好ましいのは、未接合部の幅が5mm以上の場合には、未接合部がフィルムの延伸を阻害して応力集中による破断を招くおそれがあるからである。
【0023】
なお、レーザー光の積算照射量としては、5J/cm2乃至400J/cm2の範囲内であることが好ましく、10J/cm2乃至300J/cm2の範囲内であることが更に好ましく、30J/cm2乃至150J/cm2の範囲内であることが特に好ましい。
したがって、これらの条件を満たすことのできるレーザー光源を連結装置に採用することが好ましい。
【0024】
このようなレーザー光の照射において重ね合わせた前記新旧原反フィルム(旧原反フィルムの末端部1aと新原反フィルムの先端部1b)をステージ上で加圧する加圧部材50としては、用いるレーザー光に対して高い透明性を示すガラス製の部材を用いることが出来る。
レーザー光の照射に際する加圧強度としては、0.5乃至100kgf/cm2の範囲内であることが好ましく、10乃至70kgf/cm2の範囲内であることが更に好ましい。
したがって、前記連結装置において好ましく採用される加圧部材50としては、このような強度で加圧することが可能な部材であればそのガラス部材の形状は特に限定されず、例えば、平板、円筒、球状のものを使用することが出来る。
ガラス部材の厚みは特に限定されないが、薄すぎると歪みによって良好な加圧ができず、厚すぎるとレーザー光の利用効率が下がるため、レーザー光が透過する方向における厚みが3mm以上30mm未満であることが好ましく、5mm以上20mm未満であることが更に好ましい。
【0025】
加圧部材50の材質としては、例えば、石英ガラス、無アルカリガラス、テンパックス、パイレックス、バイコール、D263、OA10、AF45などが挙げられる。
レーザー光Rの利用効率を高めるために、加圧部材として利用するガラス製部材は、用いるレーザー光波長に対して高い透明性を有することが好ましく、50%以上の光透過率を有していることが好ましく、70%以上の光透過率を有していることが更に好ましい。
【0026】
なお、加圧部材50を上記のようなガラス製の部材を用いて構成させる場合には、より広い面積をより均一に加圧して全域にわたって良好な接合を行わせ得るように、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムと接する部分に、前記ガラス製部材よりもクッション性に優れたクッション層を形成させることもできる。
すなわち、光透過性の良好なラバーシートやクッション性を有する透明樹脂シート等を備えた加圧部材50を採用することもでき、例えば、背面側がガラス製部材で構成され、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムと接する前面側が透明ラバーシートで構成された加圧部材50を採用することができる。
【0027】
前記クッション層の形成には、例えば、シリコンラバー、ウレタンラバーなどのゴム系材料やポリエチレンなどの樹脂材料を用いることが出来る。
このクッション層の厚みは、50μm以上5mm未満であることが好ましく、1mm以上3mm未満が更に好ましい。
50μm未満であると、クッション性に乏しく、5mm以上の場合は、当該クッション層によってレーザー光の吸収や散乱が生じ、前記末端部1aと先端部1bとの接触界面部に到達するレーザー光のエネルギーを低下させるおそれを有する。
このクッション層は、用いるレーザー光波長に対して30%以上の光透過率を有することが好ましく、50%以上が更に好ましい。
さらに、レーザー溶着後に連結された原反フィルムを該クッション層から剥離し易くすることを可能とすべく、ベタツキがなく、且つクッション性を損なわないような材質のフィルム材が、該クッション層の表面に配置された構成とすることも可能である。このようなフィルム材としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ノルボルネン樹脂、シクロオレフィンポリマー、ポリメタクリル酸メチル、ポリイミド、トリアセチルセルロース等が挙げられる。
なお、上記したようなクッション層は、ステージ40におけるポリビニルアルコール系樹脂フィルムと接する部分に形成されることもできる。
【0028】
また、レーザー溶着によって形成された接合部は、新旧原反フィルムの少なくともいずれかの幅方向に対して傾斜しているように配置されていることが好ましい。すなわち、新旧原反フィルムの少なくともいずれかの幅方向に対する接合部の傾斜角度が0°を超えていることが好ましい。かかる接合部の傾斜角度が0°を超えていることにより、延伸時における接合部への応力集中を緩和することができる。また、上記した傾斜角度が大きくなる程、延伸時の応力集中を、より緩和することができる一方、該傾斜角度が50°以上であると、連結装置の大型化を招いたり、連結作業に要する時間の長時間化を招いたりするおそれがある。従って、例えば、かかる観点を考慮して、上記した接合部の傾斜角度は、新旧原反フィルムの少なくともいずれかの幅方向に対して0°を超え50°未満であることが好ましい。
また、上記した、新旧原反フィルムの少なくともいずれかの幅方向に対して接合部が傾斜しているような配置、としては、例えば、新旧原反フィルムの幅方向が互いに平行(両原反フィルムの幅方向の傾斜角度が0°)であるように配置されており、且つ、接合部が、両原反フィルムの幅方向に対して傾斜しているように配置されているような態様が挙げられる。また、例えば、新旧原反フィルムの幅方向が互いに平行ではない(両原反フィルムの幅方向同士の傾斜角度が0°より大きい)ように配置されている場合において、接合部がいずれかの原反フィルムの幅方向と平行である場合や、両原反フィルムの幅方向のいずれとも傾斜しているように配置されているような態様が挙げられる。
【0029】
本実施形態の偏光フィルムの製造方法においては、重ね合わせた新旧原反フィルムの重ね合わせ部分に沿ってレーザー溶着を実施して、ライン状の溶着部を形成させ得るように前記連結装置が構成されていることが好ましく、例えば、集光レンズによって所望のビームサイズに集光されたスポットビームを重ね合わせ部分に沿って走査させるための機構や、シリンドリカルレンズや回折光学素子といった光学部材の使用によってライン状のレーザービームを整形して原反フィルムの重ね合わせ部に照射する機構、更には複数のレーザー光源を重ね合わせ部に沿って配置し、無走査で同時照射することで一括溶融加熱接合する機構などが備えられていることが好ましい。このようにして照射されるレーザー光のビーム形状は、円形であっても、線状であってもよいが、線状であることがより好ましい。これにより、より高いパワー密度を得ることができる。
【0030】
なお、ここでは詳述しないが、上記のような連結装置には、一般的なレーザー溶着装置ならびにその周辺機器において利用されている種々の機構を採用することができる。
【0031】
次いで、このような連結装置を備えた延伸装置を利用して偏光フィルムを製造する方法について説明する。
本実施形態の偏光フィルムの製造方法においては、2以上の帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムのうち第一のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを長手方向に移動させつつその移動経路において該第一のポリビニルアルコール系樹脂フィルムに少なくとも染色と延伸とを実施し、且つ、前記第一のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの末端部に第二のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの先端部を連結することにより、前記第一及び第二のポリビニルアルコール系樹脂フィルムに連続して前記染色と延伸とを少なくとも実施する偏光フィルムの製造方法であって、前記末端部と前記先端部とを重ね合わせた配置にさせてその界面部をレーザー溶着することにより前記連結を実施する。
より具体的には、本実施形態の偏光フィルムの製造方法においては、前記原反フィルムを膨潤浴4aに浸漬させて膨潤させる膨潤工程、膨潤されたフィルムを染色浴4bに浸漬させて染色する染色工程、染色されたフィルムを架橋浴4cに浸漬させてフィルムを構成している樹脂の分子鎖を架橋させる架橋工程、及び、該架橋工程後のフィルムを延伸浴4d内で延伸する延伸工程を実施する。
すなわち、本実施形態の偏光フィルムの製造方法においては、最終的に目標の延伸倍率となるように膨潤浴4aから延伸浴4dの各浴において延伸を実施する。
また、本実施形態の偏光フィルムの製造方法においては、前記延伸工程後のフィルムを洗浄する洗浄工程、該洗浄されたフィルムを乾燥装置11で乾燥させる乾燥工程、該乾燥後のフィルムに表面保護フィルムを積層する積層工程を実施する。
【0032】
そして、本実施形態の偏光フィルムの製造方法は、一つの原反ロールを前記原反フィルム供給部3にセットして、この原反フィルム供給部3から原反フィルムを連続的に送り出して、その移動経路において上記の工程を実施させて最終的に積層工程を終えた製品(偏光フィルム)を偏光フィルム巻取部10においてロール状に巻き取る巻取り工程を実施することによってなされるもので、複数の原反ロールを用意しておいて、その内の第一の原反ロールが終了する前に、新たな第二の原反ロールから原反フィルムを繰り出して、この新たな原反フィルムの先端部1bを先行している第一の原反ロールの末端部1aに連結することにより、前記連結を別途実施する。
このことにより、引き続き、この新たなる原反ロールから原反フィルムを延伸装置に供給し少なくとも前記染色と延伸とを実施して、偏光フィルムを連続的に製造させる。
【0033】
なお、このような工程に供する原反フィルム(帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルム)としては、以下のようなものが採用可能である。
【0034】
本実施形態の偏光フィルムの製造方法に用いる原反フィルムとしては、偏光フィルムの原材料として用いられるポリビニルアルコール系高分子樹脂材料からなるフィルムを用いることができ、具体的には、例えば、ポリビニルアルコールフィルム、部分ケン化ポリビニルアルコールフィルム又はポリビニルアルコールの脱水処理フィルムなどを用いることができる。
通常、これらの原反フィルムは、上記に述べたようにロール状に巻回された原反ロールの状態で用いる。
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの形成材料であるポリマーの重合度は、一般に500〜10,000であり、1,000〜6,000の範囲であることが好ましく、1,400〜4,000の範囲にあることがより好ましい。
さらに、部分ケン化ポリビニルアルコールフィルムの場合、そのケン化度は、例えば、水への溶解性の点から、75モル%以上が好ましく、より好ましくは98モル%以上であり、98.3〜99.8モル%の範囲にあることがより好ましい。
【0035】
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムとしては、水または有機溶媒に溶解した原液を流延成膜する流延法、キャスト法、押し出し法等任意の方法で成膜されたものを適宜使用することが出来る。
原反フィルムの位相差値は、5nm〜100nmのものが好ましい。
また、面内均一な偏光フィルムを得る為に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム面内の位相差バラツキはできるだけ小さいほうが好ましく、原反フィルムとしてのポリビニルアルコール系樹脂フィルムの面内位相差バラツキは、測定波長1000nmにおいて10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることが更に好ましい。
【0036】
なお、レーザー接合される時の吸水状態としては、2質量%乃至15質量%の吸水率であることが好ましく、4質量%乃至10質量%の吸水率が更に好ましい。
連結される前の原反フィルムが15質量%以上の吸水率を有すると、レーザー溶着時において加熱溶融部に水分蒸発による発泡が生じやすくなり、接合不良を起こすおそれを有する。
逆に吸水率が2質量%未満の場合は、原反フィルムをレーザーで加熱した部分における樹脂流動性が乏しくなって、接合効率の低下を招くおそれを有する。
このようなことから、連結に際して用いる原反フィルムの吸水率は上記のような範囲内であることが好ましい。
なお、この吸水率については、乾燥前後の質量を比較することによって求められ、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを83℃×1時間加熱して、その加熱減量を加熱前のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの質量で除して求めることができる。
【0037】
次に、上記原反フィルムに前記延伸装置で延伸を加えて偏光フィルムに加工するための各工程について説明する。
【0038】
(膨潤工程)
本工程においては、例えば、原反フィルム供給部3から送出される原反フィルムを前記ローラ9によって移動速度を一定に維持つつ水で満たされた膨潤浴4aに案内して水中に前記原反フィルムを浸漬させる。
これにより原反フィルムが水洗され、原反フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるとともに、原反フィルムを水で膨潤させることで染色ムラ等の不均一性を防止する効果が期待できる。
【0039】
前記膨潤浴4aの中の膨潤液には、水以外にグリセリンやヨウ化カリウムなどを適宜添加しておいてもよく、これらを添加する場合には、その濃度は、グリセリンであれば5質量%以下、ヨウ化カリウムでは10質量%以下とすることが好ましい。
膨潤液の温度は、20〜45℃の範囲とすることが好ましく、25〜40℃とすることが更に好ましい。
前記原反フィルムが前記膨潤液に浸漬される浸漬時間は、2〜180秒間とすることが好ましく、10〜150秒間とすることがより好ましく、30〜120秒間とすることが特に好ましい。
また、この膨潤浴中でポリビニルアルコール系樹脂フィルムを長さ方向に延伸してもよく、そのときの延伸倍率は膨潤による伸展も含めて1.1〜3.5倍程度とすることが好ましい。
【0040】
(染色工程)
前記膨潤工程を経たフィルムには、膨潤工程と同様にローラ9によって染色浴4bに貯留されている染色液中に浸漬させて染色工程を実施する。
例えば、ヨウ素等の二色性物質を含む染色液に膨潤工程を経たポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬することによって、上記二色性物質をフィルムに吸着させる方法を採用して前記染色工程を実施することができる。
前記二色性物質としては、従来公知の物質が使用でき、例えば、ヨウ素や有機染料等が挙げられる。
【0041】
有機染料としては、例えば、レッドBR、レッドLR、レッドR、ピンクLB、ルビンBL、ボルドーGS、スカイブルーLG、レモンエロー、ブルーBR、ブルー2R、ネイビーRY、グリーンLG、バイオレットLB、バイオレットB、ブラックH、ブラックB、ブラックGSP、エロー3G、エローR、オレンジLR、オレンジ3R、スカーレットGL、スカーレットKGL、コンゴーレッド、ブリリアントバイオレットBK、スプラブルーG、スプラブルーGL、スプラオレンジGL、ダイレクトスカイブルー、ダイレクトファーストオレンジS、ファーストブラック等が使用できる。
これらの二色性物質は、一種類のみ使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0042】
前記有機染料を用いる場合は、例えば、可視光領域のニュートラル化を図る点から、二種類以上を組み合わせることが好ましい。
具体例としては、コンゴーレッドとスプラブルーG、スプラオレンジGLとダイレクトスカイブルーの組合せ、又は、ダイレクトスカイブルーとファーストブラックとの組合せなどが挙げられる。
前記染色浴の染色液としては、前記二色性物質を溶媒に溶解した溶液を使用できる。
前記溶媒としては、水を一般的に使用できるが、水と相溶性のある有機溶媒を更に添加して用いても良い。
この染色液における二色性物質の濃度としては、0.010〜10質量%の範囲とすることが好ましく、0.020〜7質量%の範囲とすることがより好ましく、0.025〜5質量%とすることが特に好ましい。
【0043】
また、前記二色性物質としてヨウ素を使用する場合、染色効率をより一層向上できることから、更にヨウ化物を添加することが好ましい。
このヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。
これらヨウ化物の添加割合は、前記染色浴において、0.010〜10質量%とすることが好ましく、0.10〜5質量%とすることがより好ましい。
これらの中でも、ヨウ化カリウムを添加することが好ましく、ヨウ素とヨウ化カリウムの割合(質量比)は、1:5〜1:100の範囲とすることが好ましく、1:6〜1:80の範囲とすることがより好ましく、1:7〜1:70の範囲とすることが特に好ましい。
【0044】
前記染色浴へのフィルムの浸漬時間は、特に限定されるものではないが、0.5〜20分の範囲とすることが好ましく、1〜10分の範囲が更に好ましい。また、染色浴の温度は、5〜42℃の範囲とすることが好ましく、10〜35℃の範囲とすることがより好ましい。
また、この染色浴中でフィルムを長さ方向に延伸しても良く、このときの累積した総延伸倍率は、1.1〜4.0倍程度とすることが好ましい。
なお、染色工程としては、前述のような染色浴に浸漬する方法以外に、例えば、二色性物質を含む水溶液を前記ポリマーフィルムに塗布又は噴霧する方法を採用しても良い。
また、本発明においては、染色工程を行わずに、用いる原反フィルムとして、予め二色性物質が混ぜられたポリマー原料で成膜されたフィルムを採用しても良い。
【0045】
(架橋工程)
次いで、架橋剤液を貯留する架橋浴4cにフィルムを導入し、前記架橋剤液中にフィルムを浸漬して架橋工程を実施する。
前記架橋剤としては、従来公知の物質を使用できる。
例えば、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物や、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどを使用できる。
これらは一種類のみ用いても良いし、二種類以上を併用しても良い。
二種類以上を併用する場合には、例えばホウ酸とホウ砂の組合せが好ましく、また、その添加割合(モル比)は、4:6〜9:1の範囲とすることが好ましく、5.5:4.5〜7:3の範囲とすることがより好ましく、6:4とすることが最も好ましい。
前記架橋浴の架橋剤液としては、前記架橋剤を溶媒に溶解したものを使用できる。
前記溶媒としては、例えば水を使用できるが、更に水と相溶性のある有機溶媒を併用しても良い。前記架橋剤液における架橋剤の濃度は、特に限定されるものではないが、1〜10質量%の範囲とすることが好ましく、2〜6質量%とすることがより好ましい。
【0046】
前記架橋浴中の架橋剤液には、偏光フィルムに面内均一な特性を付与させるべくヨウ化物を添加しても良い。
このヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタンなどが挙げられ、これらを添加する場合におけるヨウ化物の含有量は0.05〜15質量%とすることが好ましく、0.5〜8質量%とすることがより好ましい。
架橋剤とヨウ化物の組合せとしては、ホウ酸とヨウ化カリウムの組合せが好ましく、ホウ酸とヨウ化カリウムの割合(質量比)は、1:0.1〜1:3.5の範囲とすることが好ましく、1:0.5〜1:2.5の範囲とすることが更に好ましい。
【0047】
前記架橋浴における架橋剤液の温度は、通常、20〜70℃の範囲とすることが好ましく、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの浸漬時間は、通常、1秒〜15分の範囲の内のいずれかの時間とされ、5秒〜10分とされることが好ましい。
当該架橋工程においては、架橋浴中でフィルムを長さ方向に延伸してもよく、このときの累積した総延伸倍率は、1.1〜5.0倍程度とすることが好ましい。
なお、架橋工程としては、染色工程と同様に、架橋剤液中に浸漬させる処理方法に代えて、架橋剤含有溶液を塗布又は噴霧する方法によって実施しても良い。
【0048】
(延伸工程)
前記延伸工程は、染色、架橋されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、例えば、累積した総延伸倍率が2〜8倍程度となるようにその長さ方向に延伸する工程であり、湿式延伸法では、延伸浴に貯留された溶液中にフィルムを浸漬した状態でその長さ方向に張力を加えて延伸を実施する。
延伸浴に貯留する溶液としては、特に限定されるわけではないが、例えば、各種金属塩、ヨウ素、ホウ素又は亜鉛の化合物の添加された溶液を用いることが出来る。
この溶液の溶媒としては、水、エタノールあるいは各種有機溶媒を適宜用いることが出来る。
なかでも、ホウ酸及び/又はヨウ化カリウムをそれぞれ2〜18質量%程度添加した溶液を用いることが好ましい。
このホウ酸とヨウ化カリウムを同時に用いる場合には、その含有割合(質量比)は、1:0.1〜1:4程度、より好ましくは、1:0.5〜1:3程度の割合で用いることが好ましい。
前記延伸浴における溶液の温度としては、例えば、40〜67℃の範囲とすることが好ましく、50〜62℃とすることがより好ましい。
【0049】
(洗浄工程)
該洗浄工程は、例えば、水などの洗浄液の貯留された洗浄浴にフィルムを通すことにより、これより前の処理で付着したホウ酸等の不要残存物を洗い流す工程である。
前記水には、ヨウ化物を添加することが好ましく、例えば、ヨウ化ナトリウム又はヨウ化カリウムを添加することが好ましい。
洗浄浴の水にヨウ化カリウムを添加する場合、その濃度は通常0.1〜10質量%、好ましくは3〜8質量%とされる。
更に、洗浄液の温度は、10〜60℃とすることが好ましく、15〜40℃とすることがより好ましい。
また、洗浄処理の回数、すなわち、洗浄液に浸漬した後、洗浄液から引き上げる繰り返し回数は、特に限定されることなく複数としてもよく、複数の洗浄浴に添加物の種類や濃度の異なる水を貯留しておき、これらにフィルムを通すことにより洗浄工程を実施してもよい。
なお、フィルムを各工程における浸漬浴から引き上げる際には、液ダレの発生を防止するために、従来公知であるピンチロール等の液切れロールを用いたり、エアナイフによって液を削ぎ落としたりするなどの方法により、余分な水分を取り除いても良い。
【0050】
(乾燥工程)
前記洗浄工程において洗浄を行ったフィルムは、前記乾燥機11に導入し、自然乾燥、風乾燥、加熱乾燥など、適宜最適な方法で乾燥させて当該乾燥工程を実施することができる。
この内、加熱乾燥による乾燥工程を実施する場合であれば、加熱乾燥の条件は、加熱温度を20〜80℃程度、乾燥時間を1〜10分間程度とすることが好ましい。
更には、乾燥温度は前記方法に関わらずフィルムの劣化を防ぐ目的としてできるだけ低温にすることが好ましい。
より好ましくは60℃以下であり、45℃以下とすることが特に好ましい。
【0051】
(積層工程)及び(巻取り工程)
本実施形態においては、以上のような工程を経たフィルムを巻取りローラにて巻き取る巻取り工程を実施することによりロール状に巻回された偏光フィルムを得ることができる。
なお、本実施形態においては、乾燥工程にて乾燥させた偏光フィルムの表面片側もしくは両側に適宜表面保護用フィルムなどを積層させる積層工程を実施してから巻取り工程を実施するようにしてもよい。
このように製造される偏光フィルムの最終的な総延伸倍率は、原反フィルムに対して、5.5〜8.0倍の範囲の内のいずれかの延伸倍率であることが好ましく、6.0〜7.0倍の範囲の内のいずれかの延伸倍率であることがより好ましい。
上記のような延伸倍率が好ましいのは、最終的な総延伸倍率が5.5倍未満では、高い偏光特性を有する偏光フィルムを得ることが難しく、8.0倍を超えると、フィルムに破断を生じさせるおそれを有するためである。
【0052】
(連結工程)
前記のように本実施形態においては、一つの原反ロールの全てが延伸装置に供給されてしまう前に、更に次の原反ロールからポリビニルアルコール系樹脂フィルム(原反フィルム)を繰り出させて、この新たな原反フィルムの先端部1bを延伸装置で各工程が実施されている原反ロールの末端部1aに連結する連結工程を実施する。
このように先行する第一の原反フィルムの末端部と、次の原反フィルムの先端部とをレーザー接合手段にて連結することによって、高い偏光機能を付与するために必要な、例えば、5.5倍以上の延伸倍率においても破断が発生しない接合が可能となり、接合部が通過する場合においても延伸条件を変更することなく第二の原反フィルムを延伸する工程に移行することができ、効率よく偏光フィルムを製造することができる。
すなわち、第一の原反フィルムと第二の原反フィルムとを、延伸条件を変えずに延伸装置に連続通紙できることによって、作業効率の向上、生産性の向上、歩留まりの向上及び材料ロスの削減効果が得られる。
【0053】
なお、この連結工程は、第一の原反フィルムを上記膨潤、染色、架橋、延伸する工程を完全に終了させた後に実施するのではなく、これらの工程の後段側において、これら工程と並行して実施することができる。
例えば、前記連結装置と前記膨潤浴4aとの間にアキュムレータを備えた延伸装置を使用して第一の原反ロールを前記アキュムレータを通じて膨潤浴4aに供給し、該第一の原反ロールの巻き終わり部分に差し掛かった際に、その末端部を停止状態にさせつつも前記アキュムレータに蓄積した原反フィルムを膨潤浴4a側に供給して、前記第一の原反フィルムに少なくとも染色と延伸とを実施しつつ、新たなる原反ロールの先端部と前記末端部とのレーザー溶着による連結を実施させることができる。
【0054】
前記連結工程は、例えば、前記第一のポリビニルアルコール系樹脂フィルムにおける前記染色と延伸とが実施されていない末端部と、前記第二の帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの先端部とを重ね合わせた配置にさせ、重ね合わせた前記末端部と前記先端部との界面部をレーザー溶着することによって実施することができ、先行するフィルムの末端部1aと新たなるフィルムの先端部1bの内のいずれか一方、あるいは、両方の表面に光吸収剤を塗布して、重ね合せ部の幅が0.1mm以上10.0mm未満となるようにステージ40の上で新旧原反フィルムを上下に重ね合わせた配置とし、この重ね合わせ部を前記加圧部材50で加圧しつつレーザー光をこの重ね合わせ部に照射してフィルム界面において互いの樹脂を相溶させて溶着部30を形成させことによって実施し得る。
このようにレーザー光によって溶着することによって、加熱変性を受けるエリアを、ヒートシーラーによる溶着を行うような場合に比べて減少させることができ、延伸時に歪み集中の生じにくい連結部を形成させることができる。
【0055】
このことについて具体的に説明すると、例えば、ヒートシーラーによって連結されたことによって連結部に大きな熱変性(硬化)エリアが形成されている原反フィルムを前記延伸装置に供給し、前記膨潤浴4a、染色浴4b、架橋浴4cを、例えば、30℃前後の温度とし架橋浴4cでの総延伸倍率を5.0倍程度まで延伸させたとすると、前記加熱変性エリアにおいては殆ど延伸がされず、この加熱変性エリア前後に大きな歪みの生じた領域が形成されることになる。
そして、この連結部が延伸浴4dでさらなる延伸を受けた際に破断を生じさせることになる。
【0056】
一方で、本実施形態においては熱変性エリアがヒートシーラーで溶着した場合よりも小さくなることから歪みの集中が軽減される。
しかも、熱変性エリアが小さいことで、各浴での薬液によって膨潤されやすくなる。
すなわち、軟化されて、より一層歪みの集中を防止させることができる。
例えば、前記膨潤浴4a、染色浴4b、架橋浴4cを30℃前後の温度としている場合では、膨潤による軟化効果はあまり期待することができないものの、延伸浴を50〜62℃としていると、この加熱変性エリアの膨潤が進行し、該加熱変性エリア自体を延伸させ得る。
すなわち、溶着における熱の影響を受けていない領域と溶着部分との延伸性を近似させることができ、破断等の問題を抑制しつつ高い倍率での延伸を実施させ得る。
例えば、第一の原反フィルムと第二の原反フィルムとの連結部をも含めて、全体を延伸倍率5倍以上にすることができる。
ヒートシーラーでは達成することが困難な程度にまで高い延伸倍率を連結部においてまで発揮させ、本発明の効果をより顕著なものとさせ得る点において、連結部をも含めて、全体を延伸倍率5.25倍以上にすることが好ましく、5.5倍以上にすることが特に好ましい。
【0057】
なお、ヒートシーラーで溶着したものは加熱変性エリアが大きいため、膨潤による軟化の進行が緩やかで、同様の温度条件で延伸を行っても、やはり破断を生じやすいものとなる。
このように本実施形態の偏光フィルムの製造方法においては、延伸によって破断するおそれの低い連結部を形成させることができる。
さらに、連結部は、原反フィルムの移動方向に、非連結部と同等程度に延伸されることから、連結部の厚みは比較的小さくなる。これにより、偏光フィルム巻取部10によって偏光フィルムがロール状に巻き取られた際に、巻き取られた偏光フィルムのうち連結部と重なり合う部分への打痕の発生を緩和することが可能となる。また、このような緩和が可能となる、という観点から、延伸後の連結部の厚みは、延伸後の非連結部の厚みの3倍未満であることが好ましく、2.5倍未満であることがさらに好ましい。
【0058】
本実施形態においては、一度のレーザー照射で第一の原反フィルムと第二の原反フィルムとを容易に溶着することができる点において、第一の原反フィルムの末端部と、第二の原反フィルムの先端部とを上下に重ね合せ、この重ね合せ部にレーザー照射して前記末端部と前記先端部とが接する界面部を溶着する場合を例示しているが、加熱変性エリアが小さく薬液によって膨潤されやすい連結部が形成される点においては、例えば、図4(a)に示すように、第一の原反フィルムの末端部1aのフィルム端面1xと、第二の原反フィルムの先端部1bのフィルム端面1yとを対向させて第一の原反フィルムと第二の原反フィルムとを突き合わせ、この突き合わせ部に沿ってレーザー照射してフィルム端面どうしを溶着させて溶着部30を形成させる場合も同じであり、このような態様によって第一の原反フィルムと第二の原反フィルムとを連結する場合も本発明の意図する範囲である。
【0059】
さらに、図4(b)に示すように、原反フィルムの幅と同じ長さを有する細幅のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを第一の原反フィルムと第二の原反フィルムとを連結するための接合部材60として採用し、前記のように第一の原反フィルムと第二の原反フィルムとをフィルム端面どうしを対向させた状態で突き合わせた配置とし、この突き合わせ部を前記接合部材60で覆って、この接合部材60と第一の原反フィルムの末端部1aとが接触する界面部、及び、前記接合部材60と第二の原反フィルムの先端部1bとが接触する界面部のそれぞれを溶着する場合も本発明の意図する範囲である。
【0060】
なお、本実施形態の製造方法によって製造される偏光フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、5〜40μmであることが好ましい。
厚さが5μm以上であれば機械的強度が低下することはなく、また40μm以下であれば光学特性が低下せず、画像表示装置に適用しても薄型化を実現できる。
本実施形態により製造された偏光フィルムは、液晶セル基板に積層される偏光フィルムなどとして、液晶表示装置等に使用することができ、また液晶表示装置の他、エレクトロルミネッセンス表示装置、プラズマディスプレイ及び電界放出ディスプレイなどの各種画像表示装置における偏光フィルムとして用いることが出来る。
なお、実用に際しては、両面又は片面に各種光学層を積層して光学フィルムとしたり、各種表面処理を施したりして、液晶表示装置等の画像表示装置に用いることもできる。
前記光学層としては、要求される光学特性を満たすものであれば特に限定されるものではないが、例えば、偏光フィルムの保護を目的とした透明保護層、視覚補償等を目的とした配向液晶層、他のフィルムを積層するための粘着層の他、偏光変換素子、反射板、半透過板、位相差板(1/2や1/4などの波長板(λ板)を含む)、視覚補償フィルム、輝度向上フィルムなどの画像表示装置等の形成に用いられるフィルムを用いることが出来る。
また表面処理としては、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止や拡散又はアンチグレアを目的とした表面処理を挙げることが出来る。
本実施形態の偏光フィルムの製造方法は、以上の通りであるが、本発明は本実施形態に限定されず本発明の意図する範囲内において適宜設計変更可能である。
【実施例】
【0061】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
(評価事例1)
(基本条件)
・原反フィルム:ポリビニルアルコール樹脂(PVA)フィルム((株)クラレ社製、
厚み75μm、巾30mm、吸水率6%)
・重ね合わせ幅:1.5mm巾
・加熱溶融接合手段:レーザー
・レーザー:半導体レーザー(波長940nm、パワー70W、スポット径2mmφ、
パワー密度2,228W/cm2、走査速度50mm/sec、積算照射量
89J/cm2、トップハットビーム)
・光吸収剤:商品名「Clearweld LD120C」(米国ジェンテックス社製、
溶媒アセトン)、下側に配した原反フィルムの上面に5.0mm巾で
10nL/mm2塗布
・加圧部材:石英ガラス板(10mm厚)
・加圧条件:原反フィルム重ね合わせ部へ加重50kgf/cm2で押し付け
・新旧原反フィルムの傾斜角度:0°
・新旧原反フィルムの幅方向に対する接合部の傾斜角度:0°
【0063】
(実施例1)
上記基本条件にて、2本の原反フィルムを連結し、連結部前後を50mm長さ程度切り出して、偏光フィルムをバッチ製造した結果、累積した総延伸倍率6.0倍の延伸条件においても連結部は破断することがなかった。
また、連結された原反フィルムの連結部の断面構造を光学顕微鏡にて観察した結果を図5に示す。
この図にも示されているように良好な接合状態が確認できる。
【0064】
(実施例2)
原反フィルムの巾を3,900mm巾へ変更すること及びレーザー出力を90Wへ変更すること以外は上記基本条件にて新旧原反フィルムを連結し、ロールトゥロールで偏光フィルムを製造した結果、実施例1と同様に累積した総延伸倍率6.0倍の延伸条件においても連結部は破断することが無く、連続通紙することができた。
(実施例3)
新旧原反フィルムの幅方向に対する接合部の傾斜角度が45°となるようにレーザー溶着を行うこと以外は上記基本条件にて新旧原反フィルムを連結し、実施例1と同様に、連結部前後を50mm長さ程度切り出して、偏光フィルムをバッチ製造した結果、累積した総延伸倍率6.2倍の延伸条件においても連結部は破断することがなかった。
【0065】
(比較例1)
新旧原反フィルムの重ね合わせ幅を30mmとし、ここに幅3mmのニクロム線を使って66℃、3秒の加熱条件でヒートシールを実施し、しかも、重ね合わせ部に前記条件で2条のライン状の溶着部を形成させたこと以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムをバッチ製造した。
このとき形成された連結部の様子を実施例1と同様に光学顕微鏡にて観察した結果を図6に示す。
結果、溶着されている様子自体には特に問題を見出すには至らなかったものの、この比較例1の場合には、偏光フィルムを製造する過程において、累積した総延伸倍率5.2倍で破断が発生し、所望の延伸倍率である6.0倍まで延伸することが出来なかった。
【0066】
また、図7に実施例1と比較例1とにおいて、延伸開始後の経過時間にともなう全体の延伸倍率と、溶着部(重ね合せ部)の延伸倍率とを測定した結果を示す。
この図に示したグラフからも、実施例1(図7上)の場合には、レーザー溶着された部分自体(凡例「○」)が全体(凡例「●」)と同じ様に延伸されており、この部分と、その前後の溶着時に熱の影響を受けていない部分との境界において歪みの集中が生じ難い状態となっていることがわかる。
一方で比較例1(図7下)の場合には、二条の溶着部分(凡例「◇」、「◆」)は全く延伸されず、その間の部分(凡例「○」)において僅かに延伸されているのみで、最終的に破断に至っている。
【0067】
(評価事例2)
実施例1、比較例1で作製したものと同じ新旧原反フィルムの接合体(レーザー接合体、ヒートシーラ接合体)、ならびに、接合による熱の影響を受けていない原反フィルム(未変性)の各試料を水中で引張り試験を実施し、試料の延伸倍率と応力とを測定した。
この結果を図8に示す。
この図からもわかるように、レーザー溶着を実施したもの(実施例1:一点鎖線)は、熱の影響を受けていないPVAフィルムそのもの(破線)と同様の高い延伸倍率で延伸させうることが確認できた。
一方でヒートシーラーによって接合されたもの(比較例1:実線)は、4倍程度の延伸倍率で破断した。
【0068】
以上のことからも、本発明によれば、高い偏光機能を有する偏光フィルムを従来の方法に比べて効率良く製造し得ることがわかる。
【符号の説明】
【0069】
1:原反フィルム(帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルム)、1a:末端部、1b:先端部、4f:延伸浴、9:ローラ
図1
図2
図3
図4
図7
図8
図5
図6