特許第5764383号(P5764383)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5764383車両懸架用ばね部品用鋼、車両懸架用ばね部品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764383
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】車両懸架用ばね部品用鋼、車両懸架用ばね部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20150730BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20150730BHJP
   C21D 9/02 20060101ALI20150730BHJP
   F16F 1/02 20060101ALI20150730BHJP
   C22C 38/60 20060101ALN20150730BHJP
【FI】
   C22C38/00 301Z
   C22C38/58
   C21D9/02 A
   C21D9/02 Z
   F16F1/02 A
   F16F1/02 B
   !C22C38/60
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-107513(P2011-107513)
(22)【出願日】2011年5月12日
(65)【公開番号】特開2012-237040(P2012-237040A)
(43)【公開日】2012年12月6日
【審査請求日】2014年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】399009642
【氏名又は名称】JFE条鋼株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100159651
【弁理士】
【氏名又は名称】高倉 成男
(74)【代理人】
【識別番号】100091351
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 哲
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100095441
【弁理士】
【氏名又は名称】白根 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084618
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 貞男
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100119976
【弁理士】
【氏名又は名称】幸長 保次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100158805
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 守三
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(74)【代理人】
【識別番号】100134290
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 将訓
(72)【発明者】
【氏名】菊地 克彦
(72)【発明者】
【氏名】冨田 邦和
(72)【発明者】
【氏名】福岡 和明
(72)【発明者】
【氏名】服部 和彰
(72)【発明者】
【氏名】丹下 彰
(72)【発明者】
【氏名】栗本 清
(72)【発明者】
【氏名】後藤 由利香
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−185109(JP,A)
【文献】 特開2003−105485(JP,A)
【文献】 特開平06−093339(JP,A)
【文献】 特開2007−284774(JP,A)
【文献】 特開2002−097547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.20%超え0.35%以下、Si:0.6%超え1.5%以下、Mn:1〜3%、Cr:0.3〜0.8%、sol.Al:0.005〜0.080%、Ti:0.05〜0.060%、Nb:0.005〜0.060%、Ti+Nb≦0.07%、N:150ppm以下、P:0.035%以下、S:0.035%以下、Cu:0.01〜1.00%、Ni:0.01〜1.00%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、焼入れ後の結晶粒が旧オーステナイト粒度番号で7.5〜10.5の範囲にあり、引張強さ1300MPa以上を有する耐食性と低温靭性に優れたことを特徴とする車両懸架用ばね部品用鋼。
【請求項2】
質量%で、C:0.20%超え0.35%以下、Si:0.6%超え1.5%以下、Mn:1〜3%、Cr:0.3〜0.8%、sol.Al:0.005〜0.080%、Ti:0.05〜0.060%、Nb:0.005〜0.060%、Ti+Nb≦0.07%、N:150ppm以下、P:0.035%以下、S:0.035%以下、Cu:0.01〜1.00%、Ni:0.01〜1.00%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、焼入れ前の組織がベイナイト又はマルテンサイト又はベイナイト/マルテンサイトの混合組織のいずれかからなる鋼を、熱間または冷間でばね部品形状に成形加工し、前記成形加工後に高周波誘導加熱または直接通電による抵抗発熱により30℃/秒以上の昇温速度で加熱した後に直ちに焼入れを行い、焼入れ後の結晶粒を旧オーステナイト粒度番号で7.5〜10.5の範囲とし、引張強さ1300MPa以上を有する耐食性と低温靭性に優れたばね部品を得ることを特徴とする車両懸架用ばね部品の製造方法。
【請求項3】
質量%で、C:0.20%超え0.35%以下、Si:0.6%超え1.5%以下、Mn:1〜3%、Cr:0.3〜0.8%、sol.Al:0.005〜0.080%、Ti:0.05〜0.060%、Nb:0.005〜0.060%、Ti+Nb≦0.07%、N:150ppm以下、P:0.035%以下、S:0.035%以下、Cu:0.01〜1.00%、Ni:0.01〜1.00%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、焼入れ前の組織がベイナイト又はマルテンサイト又はベイナイト/マルテンサイトの混合組織のいずれかからなる鋼を、熱間または冷間でばね部品形状に成形加工し、前記成形加工後に高周波誘導加熱または直接通電による抵抗発熱により30℃/秒以上の昇温速度で加熱した後に直ちに焼入れし、焼入れ後の結晶粒を旧オーステナイト粒度番号で7.5〜10.5の範囲とし、引張強さ1300MPa以上を有する耐食性と低温靭性に優れていることを特徴とする車両懸架用ばね部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に自動車に用いられるスタビライザや板ばねなどの車両懸架用ばね部品に使用可能な鋼およびそれらのばね部品とその製造方法に係り、特に引張強度が1300MPa以上の高強度で、かつ耐食性と低温靭性に優れる車両懸架用ばね部品に関する。
【背景技術】
【0002】
スタビライザは旋回時に横揺れを防止する機能を有する一種の懸架用ばね部品であり、一方、板ばねはトラックの懸架ばねに使用され、凸凹路での走行安定性を保証する懸架用ばね部品である。いずれも、自然環境化に曝された状態で応力の繰り返し負荷を受けるため、腐食しやすい事、ヘタリが起こる事、地域により−50℃〜−30℃の低温にさらされる事は共通している。よって、耐食性、耐ヘタリ性、低温靭性などの特性が優良な事が必要である。
【0003】
これらの材料にはJIS S48Cなどの機械構造用炭素鋼やJIS G4801 SUP9などのばね鋼が用いられ、その製造工程は例えば、熱間圧延鋼材を所定の寸法に切断後、熱間で曲げ成形を行い、焼入れ焼戻しの調質処理で所定の強度・靭性に調整し、その後、表面にショットピーニングを施すものもあり、最後に防食のために塗装工程を経て使用される。
【0004】
近年の自動車の燃費向上を目的とした足回り部品への高強度化による軽量化要求は更に強くなるいっぽうで、スタビライザにおいても板ばねにおいても1000MPa以上の高強度な材料が開発されてきている。本発明者らも先の特許文献1において引張強さが1100MPa以上のスタビライザを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−185109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながらスタビライザや板ばねなどの車両懸架用ばね部品は、低燃費化のためのさらなる軽量化が図られており、そのためには引張強さが1100MPa以上では強度不足であり、さらに高強度化を行う必要が出てきている。一般に鋼材を単純に高強度化すると延靭性が劣化する。延靭性劣化により亀裂の伝播抵抗がさらに低下し、破損してしまう危険性がさらに高まる。また、板ばねやスタビライザは、防食性能を確保するために塗装は行なっているが、構造上車外に露出しているため、走行中の飛び石などによる凹み疵や塗装剥離が起きやすい。塗装の剥れた箇所から腐食が進行し、この腐食部分を起点とする疲労亀裂の伝播により部品が破損することが懸念される。そのため、高強度化と同時に延靭性低下抑制が必要不可欠であり、特に腐食環境が過酷化している冬場の気温の低い状態での靭性(低温靭性)の向上は非常に重要である。
【0007】
本発明は従来品よりもさらに高強度の、引張強度が1300MPa以上で、耐食性と低温靭性に優れた車両懸架用ばね部品用鋼、車両懸架用ばね部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下の知見を得た。
【0009】
車両懸架用ばね部品の高強度化とともに、延靭性の向上と耐食性の向上の2つが必要である。
【0010】
(i)先ず素材の耐食性を向上させるには、腐食ピットになりやすい炭窒化物の生成量を制限する。具体的には、低炭素化とTiやNbなど炭窒化物を生成しやすい合金元素の添加量を適正化し、Cu、Niの耐食性合金元素を適量添加することが耐食性の向上に効果がある。
【0011】
(ii)また、高強度と高延靭性を両立させるためには、低炭素含有鋼とするとともに、炭窒化物による結晶粒の微細化が効果的である。しかし、結晶粒を微細化しすぎた場合には焼入れ性が低下するために1300MPaの引張強さに到達しない事がわかった。そこで、結晶粒度の範囲を制限するとともにその結晶粒径をコントロールする炭窒化物形成元素の添加量を制限する事で焼入れ性を確保するとともに延靭性劣化を抑制できることが判った。
【0012】
(iii)さらに焼入れで引張強さ1300MPa以上とするために、引張強さ1100MPa以上を狙う場合よりもさらに炭素含有量を多くしなければならないが、炭素を過剰に添加すると炭化物による延靭性の劣化を招くとともに、焼割れが発生しやすくなり、部品強度が低下してしまう。よって、延靭性をあまり低くすること無く高強度化を図るためには炭素量を適量範囲に限定する必要がある。さらに、炭素量を上げると耐食性が下がり、腐蝕孔が発生しやすくなり、そのために耐久性が劣化する。これに関して発明者らは鋭意研究を重ねた結果、炭化物生成合金元素の中で、Crの範囲をさらに限定する事と結晶粒のコントロールを同時に行うことで高強度・高靭性と高耐食性を両立させることが可能であることを見出した。
【0013】
本発明は以上の知見に基づいてなされ、以下の特徴を有する。
【0014】
本発明に係る車両懸架用ばね部品用鋼は、質量%で、C:0.20%超え0.35%以下、Si:0.6%超え1.5%以下、Mn:1〜3%、Cr:0.3〜0.8%、sol.Al:0.005〜0.080%、Ti:0.05〜0.060%、Nb:0.005〜0.060%、Ti+Nb≦0.07%、N:150ppm以下、P:0.035%以下、S:0.035%以下、Cu:0.01〜1.00%、Ni:0.01〜1.00%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、焼入れ後の結晶粒が旧オーステナイト粒度番号で7.5〜10.5の範囲にあり、引張強さ1300MPa以上を有する耐食性と低温靭性に優れたことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る車両懸架用ばね部品の製造方法は、C:0.20%超え0.35%以下、Si:0.6%超え1.5%以下、Mn:1〜3%、Cr:0.3〜0.8%、sol.Al:0.005〜0.080%、Ti:0.05〜0.060%、Nb:0.005〜0.060%、Ti+Nb≦0.07%、N:150ppm以下、P:0.035%以下、S:0.035%以下、Cu:0.01〜1.00%、Ni:0.01〜1.00%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、焼入れ前の組織がベイナイト又はマルテンサイト又はベイナイト/マルテンサイトの混合組織のいずれかからなる鋼を、熱間または冷間でばね部品形状に成形加工し、前記成形加工後に高周波誘導加熱または直接通電による抵抗発熱により30℃/秒以上の昇温速度で加熱した後に直ちに焼入れを行い、焼入れ後の結晶粒を旧オーステナイト粒度番号で7.5〜10.5の範囲とし、引張強さ1300MPa以上を有する耐食性と低温靭性に優れたばね部品を得ることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る車両懸架用ばね部品は、質量%で、C:0.20%超え0.35%以下、Si:0.6%超え1.5%以下、Mn:1〜3%、Cr:0.3〜0.8%、sol.Al:0.005〜0.080%、Ti:0.05〜0.060%、Nb:0.005〜0.060%、Ti+Nb≦0.07%、N:150ppm以下、P:0.035%以下、S:0.035%以下、Cu:0.01〜1.00%、Ni:0.01〜1.00%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、焼入れ前の組織がベイナイト又はマルテンサイト又はベイナイト/マルテンサイトの混合組織のいずれかからなる鋼を、熱間または冷間でばね部品形状に成形加工し、前記成形加工後に高周波誘導加熱または直接通電による抵抗発熱により30℃/秒以上の昇温速度で加熱した後に直ちに焼入れし、焼入れ後の結晶粒を旧オーステナイト粒度番号で7.5〜10.5の範囲とし、引張強さ1300MPa以上を有する耐食性と低温靭性に優れていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、引張強度が1300MPa以上の高強度を有し、極寒の腐食環境下においても耐食性と低温靭性に優れた車両用高強度スタビライザまたは板ばね用鋼およびその製造方法とその部品の提供が可能となり、部品の高強度化による自動車の軽量化、それによる燃費向上に伴う地球環境改善に大きく貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】スタビライザの概略形状を示す斜視図。
図2】(1)は冷間成形加工によりスタビライザを製造するときの工程図、(2)と(3)はそれぞれ熱間成形加工によりスタビライザを製造するときの工程図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明における各成分元素の作用および製造条件などの限定理由についてそれぞれ説明する。なお、とくに断わらない限りは下記の百分率は質量%を示す。
【0020】
(1)C:0.20%超え0.35%以下
Cは鋼が所定の強度を確保するために必要な元素であり、引張強度で1300MPa以上確保するためには0.20%を超える量が必要である。しかし、0.35%を超えてCを含有すると、炭化物が過剰になり、耐食性と靭性がともに低下しすぎるので、その上限を0.35%とした。本発明では、スタビライザおよび板ばね素材として炭素含有量の低い鋼材を用いることにより、従来の鋼材による製造方法において懸念されていた焼割れを防止するとともに、耐食性を向上させて、スタビライザおよび板ばねをさらに安全性の高いものとしている。
【0021】
(2)Si:0.6%超え1.5%以下(0.6%<Si≦1.5%)
Siは溶製時の脱酸剤として重要である。また固溶強化に有効な元素なので、高強度化するには重要な元素である。その効果を発揮させるためには0.6%を超えてSiを添加する必要がある。一方、Si量が1.5%を超えると、靭性が低下するので、その上限を1.5%とした。
【0022】
(3)Mn:1〜3%
Mnは、焼入れ性を向上させ、固溶強化元素として有効な元素であり、低炭素鋼の場合、強度を確保するために重要である。また、Mnは組織を微細化し、延靭性を向上させる元素としても重要である。その効果を発揮するためには1%以上のMnを添加する必要がある。一方、3%を超えてMnを添加すると、焼戻し時に低温から析出する炭化物量が過剰になり、耐食性と靭性がともに低下するので、その上限を3%とした。
【0023】
(4)Cr:0.3〜0.8%
Crは、焼入れ性を向上させて強度を上げるが、耐食性にも影響を及ぼす。1300MPa以上の引張強さを確保するためには0.3%以上のCrを添加する必要がある。しかし、0.8%を超えて添加しても、焼き戻し時のCr含有炭化物が過剰に析出し、耐食性が極端に低下するので、その上限を0.8%に限定した。
【0024】
(5)Al:0.005〜0.080%
Alは溶製時の脱酸剤として重要な元素である。その効果を発揮させるためには0.005%以上のAlを添加する必要がある。一方、0.080%を越えてAlを添加すると、酸化物および窒化物が過剰になり、耐食性と靭性がともに低下するので、その上限を0.080%とした。
【0025】
(6)Ti:0.005〜0.060%
Tiは鋼中で炭窒化物を形成し、強度の向上と結晶粒の微細化に有効な元素である。これらの効果を発揮させるためには0.005%以上のTiを添加する必要がある。一方、0.060%を越えてTiを添加すると、炭窒化物が過剰になり、耐食性と靭性がともに低下するので、その上限を0.060%とした。
【0026】
(7)Nb:0.005〜0.060%
Nbは、鋼中で炭窒化物を形成し、強度の向上と組織の微細化に有効な元素である。これらの効果を発揮させるためには0.005%以上のNbを添加する必要がある。一方、0.060%を越えてNbを添加すると、炭窒化物が過剰になり、耐食性と延靭性がともに低下するので、その上限を0.060%とした。
【0027】
(8)Ti+Nb:0.07%以下
TiとNbは、上述のように鋼中で炭窒化物を形成し、強度と靭性を高める効果がそれぞれあり、両者を同時に複合添加することで相乗効果を発揮する。一方、(Ti+Nb)合計量で0.07%を超えてTiとNbを過剰に添加すると、炭窒化物が過剰になり、耐食性と靭性がともに低下するので、(Ti+Nb)合計添加量を0.07%以下に抑える。
【0028】
(9)Cu:0.01〜1.00%
Cuは、耐食性を向上させるのに有効な元素である。その効果を発揮させるためには0.01%以上のCuを添加する必要がある。一方、1.00%を越えてCuを添加してもその効果は飽和するので経済的ではなく、さらに熱間圧延時に表面疵が多発して製造性を損なうため、その上限を1.00%とした。
【0029】
(10)Ni:0.01〜1.00%
Niは、Cuと同様に耐食性を向上させる元素であり、その効果を発揮させるためには0.01%以上のNiを添加する必要がある。一方、1.00%を越えてNiを添加してもその効果は飽和するので経済的ではなく(Niは産出国が限られる希少かつ高価な金属元素)、その上限を1.00%とした。
【0030】
(11)P:0.035%以下
Pは製鋼プロセスにおいて不可避的に残留または混入する不純物元素であり、結晶粒界に偏析して靭性を低下させるので、その上限を0.035%とした。
【0031】
(12)S:0.035%以下
Sは、Pと同様に製鋼プロセスにおいて不可避的に残留または混入する不純物元素であり、結晶粒界に偏析して靭性を低下させる。さらに介在物であるMnSが過剰になり、靭性と耐食性がともに低下するので、その上限を0.035%とした。
【0032】
(13)N:150ppm以下
Nは、鋼中で炭窒化物を形成し、強度の向上と組織の微細化に有効な元素であるが、150ppmを超えて添加すると、炭窒化物が過剰になり、靭性と耐食性がともに低下するので、その上限を150ppmとする。
【0033】
(14)その他の成分添加元素
前記添加元素の他に、微量であればMo、V、B、Ca、Pbなどの成分元素をさらに添加してもよい。これらの添加量をMo:1%以下、V:1%以下、B:0.010%以下、Ca:0.010%以下、Pb:0.5%以下にそれぞれ制限すれば、本発明の効果はとくに阻害されない。
【0034】
Moは焼入性の向上および靭性の向上に効果のある元素である。しかし、Moを過剰に添加してもその効果は飽和するので、Niと同様に経済性を考慮すると最大で1%を限度とすることが望ましい。
【0035】
Vは鋼が高温焼戻し処理を受けたときに硬さの低下を抑制し、鋼の軟化抵抗を有効に高めることができる有効な元素である。しかし、VもNiと同様に希少な元素であるため価格安定性が低く、原料コストの上昇につながりやすいことからできるだけ添加しないほうが望ましく、最大で1%を限度とすることが望ましい。
【0036】
Bは微量の添加により鋼の焼入れ性を増大させる元素である。焼入れ性の増大効果はB添加量が0.010%程度まで認められるが、B添加量が0.010%を超えると効果が飽和してしまう。よって、Bの添加量は最大で0.010%を限度とすることが望ましい。
【0037】
CaとPbは鋼材の被削性を向上させる元素であり、添加すればスタビライザライザ端部の穴あけ加工性が更に向上する。
【0038】
(15)昇温速度30℃/sec以上での焼入れ前組織の限定
本発明では、スタビライザライザあるいは板ばねの焼入れ加熱時にオーステナイト領域に一旦加熱し、その後、水や油などの冷却媒体に焼入れを行うことで所望の強度を得る。そのオーステナイト領域に加熱する際、昇温速度が30℃/sec以上の場合には、焼入れ前組織(以下、単に「前組織」という)がフェライト−パーライト組織では、特にパーライト組織のセメンタイトの溶け込みが遅いので、長い加熱保持時間が必要となり粗大で不均一なオーステナイト組織になり、焼入れ後の鋼材の靭性が低下する。このことからオーステナイト領域に加熱したときに炭化物の溶け込みが速く、微細で均一なオーステナイト組織を得るために前組織をベイナイト組織あるいはマルテンサイト組織、またはこれらの混合組織に限定する。本発明では、スタビライザライザ又は板ばねの成形加工は冷間または熱間のいずれでもよく特に限定はしない。熱間成形加工による場合は、図2の(2)に示すように熱間成形加工した直後にワークを焼入れするようにしてもよいし、また図2の(3)に示すように熱間成形加工後にワークを再加熱してから焼入れするようにしてもよい。
【0039】
(16)スタビライザライザ又は板ばねの加熱条件:
本発明でのスタビライザまたは板ばねにおいて、加熱後に成形して焼入れする熱間成形法での加熱方法は、従来の大気加熱炉あるいは不活性ガス雰囲気炉の焼入れ炉でも、適量のTiとNbの適量添加により、組織は微細化され、引張強さ1300MPa以上で充分な靭性が得られる。また、高周波誘導加熱手段または直接通電加熱手段を用いても良いが、昇温速度が30℃/sec以上の急速加熱する場合には前記の通り加熱前組織を限定する事により所望の特性が得られる。なお、高周波誘導加熱手段は、高周波誘導加熱炉の他に加熱対象物を簡易に取り囲むコイルを有する高周波誘導加熱コイル装置を含むものである。また、直接通電加熱手段は、加熱対象物に直接通電して抵抗発熱させるための両極端子を有する直接通電加熱装置を含むものである。なお、加熱温度に関しては、下限をオーステナイト化温度+50℃とし、上限を高くしすぎると結晶粒の粗大化や脱炭などの悪影響が懸念されるため1050℃未満とすることが好ましい。
【0040】
また、スタビライザあるいは板ばねを冷間成形後加熱して焼入れする場合、あるいは、熱間成形後に必要に応じて再加熱して焼入れする場合についても、同様のことがいえる。
【0041】
(17)旧オーステナイト粒度
本発明では、所望の強度として1300MPa以上の強度レベルが要求されているため、焼入れまま、または焼入れ・焼戻し後にこの強度レベルを得るためには結晶粒が微細化しすぎても焼入れ性が不足し、所望の強度が得られない。一方、一定以上の微細化を行う事により延靭性を確保する必要がある。その範囲としては旧オーステナイト結晶粒度番号で7.5〜10.5の範囲にする必要がある。より好ましくは旧オーステナイト結晶粒度番号8.5〜10.5の範囲である。なお、結晶粒度はJIS G 0551の規定に準じて測定した。具体的には、倍率を100倍とする光学顕微鏡視野において顕微鏡観察像を所定の標準図と比較することにより結晶粒度番号を判定し、1サンプルにつき10視野ずつ測定し、それらの平均値を算出して測定値とした。なお、標準図は最小単位が結晶粒度番号で1刻みであるが、顕微鏡視野下の結晶粒が2つの標準図の中間にあたる場合は0.5という表示を用いた。すなわち、顕微鏡視野下の結晶粒(観察像)が粒度番号7の標準図と粒度番号8の標準図との中間にあるときは、その結晶粒度番号Ghを7.5と判定する(表3、表4を参照)。なお、ここで旧オーステナイト粒度とは、焼入れ加熱時のオーステナイト組織の粒度のことをいう。
【0042】
(18)焼戻し処理
焼入れ後の焼戻し処理は、本発明において任意の処理であり、行なってもよいし、行なわなくてもよい。これは鋼中炭素量を低減しているので、本願限定の範囲内であれば特に焼入れ後の焼戻し処理を行わない場合であっても(塗装時の温度上昇を考慮しても)、所望の強度、発明の効果(耐食性と低温靭性)を得ることができる場合があるからである。
【0043】
以下、添付の図面および表を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0044】
(スタビライザの構成)
図1に示すように、スタビライザ10は、図示しない車体の幅方向に延び出すトーション部11と、トーション部11から両端に連続する左右一対のアーム部12とを有している。トーション部11はブッシュ14などを介して車体側に固定されている。アーム部12の端末12aは、左右のサスペンション機構15にスタビライザリンク(図示せず)などを介して連結される。トーション部11およびアーム部12は他の部品との干渉を避ける目的で通常の場合は複数個所もしくは十数箇所の曲げ加工がなされている。
【0045】
スタビライザ10は、車両が旋回するときに、サスペンション機構15に上下逆相の入力が入り、左右のアーム部12が逆方向にたわみ、トーション部11がねじられて、車体の過度の傾き(横揺れ)を抑制するばねとして機能する。
【0046】
(スタビライザの製造例)
次に、図2を用いて種々のスタビライザの製造例(1)〜(3)を説明する。
【0047】
製造例(1);冷間成形加工
丸棒を所定長さに切断し、図1に示す所望の形状に冷間曲げ加工し、加熱炉内で加熱するか、または抵抗発熱装置または高周波加熱装置を用いてオーステナイト温度域まで加熱した後、焼入れし、焼入れ後焼戻し処理を施し、必要に応じて形状を矯正し、ショットピーニングし、所望の塗料を用いて塗装した。なお、本発明では、上記の製造工程のうち焼戻し処理は省略可能である。また、拘束焼入れを行えば形状矯正工程も省略することが可能である。
【0048】
製造例(2);熱間成形加工後に直接焼入
丸棒を所定長さに切断し、加熱炉内で加熱するか、または抵抗発熱装置または高周波加熱装置を用いてオーステナイト温度域まで加熱し、その温度域において図1に示す所望の形状に熱間曲げ加工し、焼入れし、焼入れ後焼戻し処理を施し、必要に応じて形状を矯正し、これをショットピーニングし、所望の塗料を用いて塗装した。なお、本発明では、上記の製造工程のうち焼戻し処理は省略可能である。また、拘束焼入れを行えば形状矯正工程も省略することが可能である。
【0049】
製造例(3);熱間成形加工後に再加熱して焼入
丸棒を所定長さに切断し、加熱炉内で加熱するか、または抵抗発熱装置または高周波加熱装置を用いてオーステナイト温度域まで加熱し、その温度域において図1に示す所望の形状に熱間曲げ加工する。その後、必要に応じて再加熱し、焼入れし、焼入れ後焼戻し処理を施し、必要に応じて形状を矯正し、これをショットピーニングし、所望の塗料を用いて塗装した。なお、本発明では、上記の製造工程のうち焼戻し処理は省略可能である。また、拘束焼入れを行えば形状矯正工程も省略することが可能である。
【実施例】
【0050】
以下、表1〜4を参照して本発明の実施例を比較例と対比しながら説明する。
【0051】
表1に示す種々の化学成分の鋼を試験溶解にて溶製(150kg)後、鋼塊となし、次いで160mm角ビレットに溶接し、熱間圧延にて直径25mmの素材を作製した。この素材から直径20mmの丸棒状試験片を採取し、焼入れ・焼戻し処理を行い、引張試験、衝撃試験、耐食性試験、旧オーステナイト結晶粒度試験を行なった。
【0052】
(1)焼入れ処理は、各鋼の化学成分と下式を用いて計算で求めたオーステナイト化温度Ac3+50℃(一桁目は切り上げ)に30分間加熱し、その後焼入れを行った。焼戻し処理は、引張強度が1500MPa程度になるように焼戻し温度を調整するが、焼戻しの最低温度は180℃とした。これはスタビライザライザの製造工程において、最後に塗装を行なうがこのときの材料温度が180℃程度に上昇するためである。
【0053】
Ac3(℃)=908−2.237×%C×100+0.4385×%P×1000+0.3049×%Si×100−0.3443×%Mn×100−0.23×%Ni×100+2×(%C×100−54+0.06×%Ni×100)(出典:熱処理技術便覧、P81)
(2)引張試験は、JIS4号試験片で行なった。
【0054】
(3)衝撃試験はJIS3号片(Uノッチ2mm深さ)で、試験温度はマイナス40℃で行なった。表2において、低温靭性評価は吸収エネルギの測定値が40(J/cm2)未満であったものを不合格(記号×)とし、同値が40(J/cm2)以上であったものを合格(記号○)とした。
【0055】
(4)耐食性試験は、所定の強度に熱処理を行なった丸棒材から20mm×長さ50mm×厚み5mmの板状試験片を採取し、更に板状試験片内の幅15mm×長さ40mm範囲の領域を腐食面(それ以外はマスキングした)として乾湿繰返しの腐食試験を行い、腐食減量を測定した。
【0056】
乾湿繰返し条件は、温度35℃の5%NaCl水溶液中に8時間浸漬後、温度35℃で相対湿度50%に保たれた容器内に16時間保管する操作を1サイクルとして、合計10サイクルを実施した。腐食減量測定は、腐食試験前後に重量を測定し、腐食面積で除して算出した。除錆は80℃の20%クエン酸水素アンモニウム水溶液で行なった。
【0057】
表2において、耐食性の評価は、腐食減量の値が1000(g/m2)以上であったものを不合格(記号×)とし、同値が1000(g/m2)未満であったものを合格(記号○)とした。
【0058】
(5)旧オーステナイト結晶粒度の判定は、JIS-G-0551に従い、結晶粒の現出は焼入れ焼戻し法(Gh)で行い、判定は標準図との比較で行なった。
【0059】
さらに、スタビライザならびに板ばね用素材の耐久性評価として、スタビライザ用素材評価としては棒形状での捩り疲労試験を行い、板ばね用素材評価としては板形状での曲げ疲労試験を行った。
【0060】
捩り疲労試験では直径20mmの棒をそれぞれの成分の鋼塊より圧延し、220mm長さで切断加工した後、表2に示す温度条件で通電加熱焼入れ・炉加熱焼戻しを実施し、供試体とした。その試験片中央より両端面方向へ50mmづつ、計100mm長さの部分を腐食試験と上記と同じ乾湿繰返し条件で合計3サイクルを実施し、その後に片端部固定で片振りの捩り疲労試験を実施した。評価としては繰返し10万回達成時の最大応力で評価した。
【0061】
曲げ疲労試験には各成分の鋼塊を溶製した後、5mm厚さの板状に圧延し、その圧延材より幅25mm、長さ220mm、厚さ5mm(圧延まま表面)の試験片を作成した。その後、電気炉にて表2に示す温度条件で焼入れ(保持30分)・焼戻しを行い、中央100mm長さ部分を、捩り疲労試験片と同様の乾湿繰返し条件で行った後、下スパンが150mmで上スパンが50mmの4点曲げ疲労試験を実施した。評価は10万回達成最大応力で行った。
【0062】
(評価結果)
表1−2において、鋼No.22(参考例1)と鋼No.45(参考例24)を除いて、鋼No.23〜44(実施例2〜23)および鋼No.46〜50(実施例25〜29)はそれぞれ化学成分、熱処理前組織、旧オーステナイト結晶粒度が本発明範囲内の鋼材であり、引張強度が1300MPa以上の高強度レベルにあるにもかかわらず、表2−2に示すように腐食減量が1000(g/m2)未満で耐食性に優れ、衝撃試験温度−40℃における衝撃値が100(J/cm2)以上と低温靭性にも優れているという結果が得られた。また、疲労強度においても従来材であるNo.21(JIS SUP9)よりも、捩り疲労試験、曲げ疲労試験いずれの疲労試験においても高強度であることが証明された。
【0063】
それに対し、表1−1において、鋼No.1〜21は化学成分において本発明の範囲外の鋼材(比較例1〜21)であり、これらのうち特に鋼No.21はJIS SUP9からなるものである。
【表1-1】
【0064】
【表1-2】
【0065】
比較例1は、C含有量が低すぎるために180℃の焼き戻し処理を行っても引張強さが1005MPaとなり、所望の強度が得られず、疲労強度が低下した。
【0066】
比較例2は、C含有量が0.37%と多すぎるため、炭化物が過剰に析出して耐食性および低温靭性がともに劣るという結果が得られた。
【0067】
比較例3は、Si含有量が0.58%と少なすぎるため、180℃の焼き戻し処理を行っても引張強さが1154MPaとなり、所望の強度が得られず、疲労強度が低下した。
【0068】
比較例4は、Si含有量が多すぎるために低温靭性が劣った。
【0069】
比較例5は、Mn含有量が低すぎるために180℃での焼き戻し処理を行っても引張強さが1205MPaとなり、所望の強度が得られておらず、そのために疲労強度が低下した。
【0070】
比較例6は、Mn含有量が高すぎるために所望の強度は得られたものの、耐食性と靭性が劣り、疲労試験では腐食が進行したために疲労強度が低下した。
【0071】
比較例7はP添加量が多すぎるために靭性が劣り、疲労強度が低下した。
【0072】
比較例8はS添加量が多すぎるために靭性が劣り、疲労強度が低下した。
【0073】
比較例9は、Cu添加量が少なすぎるために耐食性が劣り、そのため疲労試験片の腐食が進行したため、疲労強度が低下した。
【0074】
比較例10は、Ni添加量が少なすぎるために耐食性が劣り、そのために疲労試験片の腐食が進行したため、疲労強度が低下した。
【0075】
比較例11は、Cr含有量が低すぎるために180℃での焼き戻し処理を行っても引張強さが1258MPaとなり、所望の強度が得られておらず、疲労強度が低下した。
【0076】
比較例12は、Cr含有量が高すぎるために炭化物が過剰になり、靭性と耐食性がともに劣り、疲労強度が低下した。
【0077】
比較例13は、Al含有量が少なすぎるために脱酸が不十分で酸化物が過剰になり、靭性と耐食性がともに低下し、腐食の進行と酸化物による応力集中で疲労強度が低下した。
【0078】
比較例14は、Al含有量が多すぎる場合であり、Al2O3系の酸化物やAlNなどの窒化物が過剰になり、靭性と耐食性がともに低下し、疲労強度も低下した。
【0079】
比較例15はTi含有量が少なすぎて、180℃の焼戻しを行っても引張強さは1212MPaと所望の強度が得られず、また組織が粗くなって靭性も低下しており、そのため疲労強度が低下した。
【0080】
比較例16はTi添加量が多すぎるために、炭窒化物が過剰に析出し、靭性低下と耐食性劣化を引き起こした。そのため疲労強度も低下した。
【0081】
比較例17はNb含有量が少なすぎるために、所望の強度が得られず、また結晶粒が微細化しなかったために靭性が低下した。
【0082】
比較例18はNb添加量が多すぎて炭化物が多量に析出したため、耐食性が低下して疲労試験片の腐食が進行したため、疲労強度が低下した。
【0083】
比較例19は、TiとNbの各添加量は本発明の範囲内であるが、両者の合計量が多すぎて、炭窒化物が過剰に析出したため、靭性と耐食性がともに劣化し、疲労強度も低下した。
【0084】
比較例20は、Nが高すぎるために窒化物が過剰になり、靭性と耐食性がともに劣化し、疲労強度が低下している。
【0085】
比較例21はスタビライザ用として使用されているJIS SUP9の例であるが、化学成分が本発明範囲外となり、靭性と耐食性が劣る。
【表2-1】
【0086】
【表2-2】
【0087】
(2)表3は結晶粒度の影響を示した例である。
【0088】
鋼No.48を用いて成形後の焼入れ温度を調整する事で結晶粒度の異なる試験片を作成した後、焼戻しにて引張強さを調整した。
【0089】
実施例27-1,27−2,27−3は、それぞれ結晶粒度を本発明範囲としたものであり、強度・靭性ともに優れ、高い疲労特性が得られている。
【0090】
一方、比較例22は、結晶粒度が本発明範囲より大きく、結晶粒が微細すぎて焼入れ性が低下しており、引張強さが低すぎて疲労強度が低下した。
【0091】
比較例23は、結晶粒度が本発明範囲より小さく、結晶粒が粗大なために靭性が劣化しすぎて、疲労特性が低下した。
【0092】
比較例24は、結晶粒が混粒となっており、そのために靭性が劣化し、疲労強度が低下した。
【表3】
【0093】
(3)表4は焼入れ時の加熱速度ならびに焼入れ前組織の影響を示したものである。
【0094】
鋼No.48を用いて焼入れ時の加熱速度と焼入れ前組織を変化させて試験片を作成して各種特性を調査した。実施例27-4、27-5、27−6、27−7はいずれも本発明の範囲である。実施例27-4は、前組織をフェライト・パーライト(F+P)とし、加熱速度が30℃/secよりも遅い5℃/secの炉加熱としたもの、実施例27-5、27−6、27−7は加熱方法を通電加熱として加熱速度を30℃/sec以上とし、前組織をベイナイト(B)、マルテンサイト(M)またはベイナイト・マルテンサイト(B+M)としたものである。いずれも所望の強度ならびに靭性を有し、高い疲労強度が得られた。
【0095】
それに対して、比較例25は加熱速度を30℃/sec以上とし、前組織をフェライト・パーライトとしたもの、比較例26は加熱速度を100℃/secとし、前組織をフェライト・ベイナイト(F+B)としたものであるが、いずれも焼入れ時の炭化物の溶け込み不足で引張強さが低くなり、結晶粒も混粒になったために靭性が低下し、疲労強度が低下した。
【表4】
【符号の説明】
【0096】
10…スタビライザ、11…トーション部、12…アーム部、12a…アーム末端、
14…ブッシュ、15…サスペンション機構。
図1
図2