【実施例】
【0050】
以下、表1〜4を参照して本発明の実施例を比較例と対比しながら説明する。
【0051】
表1に示す種々の化学成分の鋼を試験溶解にて溶製(150kg)後、鋼塊となし、次いで160mm角ビレットに溶接し、熱間圧延にて直径25mmの素材を作製した。この素材から直径20mmの丸棒状試験片を採取し、焼入れ・焼戻し処理を行い、引張試験、衝撃試験、耐食性試験、旧オーステナイト結晶粒度試験を行なった。
【0052】
(1)焼入れ処理は、各鋼の化学成分と下式を用いて計算で求めたオーステナイト化温度Ac
3+50℃(一桁目は切り上げ)に30分間加熱し、その後焼入れを行った。焼戻し処理は、引張強度が1500MPa程度になるように焼戻し温度を調整するが、焼戻しの最低温度は180℃とした。これはスタビライザライザの製造工程において、最後に塗装を行なうがこのときの材料温度が180℃程度に上昇するためである。
【0053】
Ac
3(℃)=908−2.237×%C×100+0.4385×%P×1000+0.3049×%Si×100−0.3443×%Mn×100−0.23×%Ni×100+2×(%C×100−54+0.06×%Ni×100)(出典:熱処理技術便覧、P81)
(2)引張試験は、JIS4号試験片で行なった。
【0054】
(3)衝撃試験はJIS3号片(Uノッチ2mm深さ)で、試験温度はマイナス40℃で行なった。表2において、低温靭性評価は吸収エネルギの測定値が40(J/cm2)未満であったものを不合格(記号×)とし、同値が40(J/cm2)以上であったものを合格(記号○)とした。
【0055】
(4)耐食性試験は、所定の強度に熱処理を行なった丸棒材から20mm×長さ50mm×厚み5mmの板状試験片を採取し、更に板状試験片内の幅15mm×長さ40mm範囲の領域を腐食面(それ以外はマスキングした)として乾湿繰返しの腐食試験を行い、腐食減量を測定した。
【0056】
乾湿繰返し条件は、温度35℃の5%NaCl水溶液中に8時間浸漬後、温度35℃で相対湿度50%に保たれた容器内に16時間保管する操作を1サイクルとして、合計10サイクルを実施した。腐食減量測定は、腐食試験前後に重量を測定し、腐食面積で除して算出した。除錆は80℃の20%クエン酸水素アンモニウム水溶液で行なった。
【0057】
表2において、耐食性の評価は、腐食減量の値が1000(g/m2)以上であったものを不合格(記号×)とし、同値が1000(g/m2)未満であったものを合格(記号○)とした。
【0058】
(5)旧オーステナイト結晶粒度の判定は、JIS-G-0551に従い、結晶粒の現出は焼入れ焼戻し法(Gh)で行い、判定は標準図との比較で行なった。
【0059】
さらに、スタビライザならびに板ばね用素材の耐久性評価として、スタビライザ用素材評価としては棒形状での捩り疲労試験を行い、板ばね用素材評価としては板形状での曲げ疲労試験を行った。
【0060】
捩り疲労試験では直径20mmの棒をそれぞれの成分の鋼塊より圧延し、220mm長さで切断加工した後、表2に示す温度条件で通電加熱焼入れ・炉加熱焼戻しを実施し、供試体とした。その試験片中央より両端面方向へ50mmづつ、計100mm長さの部分を腐食試験と上記と同じ乾湿繰返し条件で合計3サイクルを実施し、その後に片端部固定で片振りの捩り疲労試験を実施した。評価としては繰返し10万回達成時の最大応力で評価した。
【0061】
曲げ疲労試験には各成分の鋼塊を溶製した後、5mm厚さの板状に圧延し、その圧延材より幅25mm、長さ220mm、厚さ5mm(圧延まま表面)の試験片を作成した。その後、電気炉にて表2に示す温度条件で焼入れ(保持30分)・焼戻しを行い、中央100mm長さ部分を、捩り疲労試験片と同様の乾湿繰返し条件で行った後、下スパンが150mmで上スパンが50mmの4点曲げ疲労試験を実施した。評価は10万回達成最大応力で行った。
【0062】
(評価結果)
表1−2において、
鋼No.22(参考例1)と鋼No.45(参考例24)を除いて、鋼No.23〜44(実施例2〜23)および鋼No.46〜50(実施例25〜29)はそれぞれ化学成分、熱処理前組織、旧オーステナイト結晶粒度が本発明範囲内の鋼材であり、引張強度が1300MPa以上の高強度レベルにあるにもかかわらず、表2−2に示すように腐食減量が1000(g/m2)未満で耐食性に優れ、衝撃試験温度−40℃における衝撃値が100(J/cm2)以上と低温靭性にも優れているという結果が得られた。また、疲労強度においても従来材であるNo.21(JIS SUP9)よりも、捩り疲労試験、曲げ疲労試験いずれの疲労試験においても高強度であることが証明された。
【0063】
それに対し、表1−1において、鋼No.1〜21は化学成分において本発明の範囲外の鋼材(比較例1〜21)であり、これらのうち特に鋼No.21はJIS SUP9からなるものである。
【表1-1】
【0064】
【表1-2】
【0065】
比較例1は、C含有量が低すぎるために180℃の焼き戻し処理を行っても引張強さが1005MPaとなり、所望の強度が得られず、疲労強度が低下した。
【0066】
比較例2は、C含有量が0.37%と多すぎるため、炭化物が過剰に析出して耐食性および低温靭性がともに劣るという結果が得られた。
【0067】
比較例3は、Si含有量が0.58%と少なすぎるため、180℃の焼き戻し処理を行っても引張強さが1154MPaとなり、所望の強度が得られず、疲労強度が低下した。
【0068】
比較例4は、Si含有量が多すぎるために低温靭性が劣った。
【0069】
比較例5は、Mn含有量が低すぎるために180℃での焼き戻し処理を行っても引張強さが1205MPaとなり、所望の強度が得られておらず、そのために疲労強度が低下した。
【0070】
比較例6は、Mn含有量が高すぎるために所望の強度は得られたものの、耐食性と靭性が劣り、疲労試験では腐食が進行したために疲労強度が低下した。
【0071】
比較例7はP添加量が多すぎるために靭性が劣り、疲労強度が低下した。
【0072】
比較例8はS添加量が多すぎるために靭性が劣り、疲労強度が低下した。
【0073】
比較例9は、Cu添加量が少なすぎるために耐食性が劣り、そのため疲労試験片の腐食が進行したため、疲労強度が低下した。
【0074】
比較例10は、Ni添加量が少なすぎるために耐食性が劣り、そのために疲労試験片の腐食が進行したため、疲労強度が低下した。
【0075】
比較例11は、Cr含有量が低すぎるために180℃での焼き戻し処理を行っても引張強さが1258MPaとなり、所望の強度が得られておらず、疲労強度が低下した。
【0076】
比較例12は、Cr含有量が高すぎるために炭化物が過剰になり、靭性と耐食性がともに劣り、疲労強度が低下した。
【0077】
比較例13は、Al含有量が少なすぎるために脱酸が不十分で酸化物が過剰になり、靭性と耐食性がともに低下し、腐食の進行と酸化物による応力集中で疲労強度が低下した。
【0078】
比較例14は、Al含有量が多すぎる場合であり、Al2O3系の酸化物やAlNなどの窒化物が過剰になり、靭性と耐食性がともに低下し、疲労強度も低下した。
【0079】
比較例15はTi含有量が少なすぎて、180℃の焼戻しを行っても引張強さは1212MPaと所望の強度が得られず、また組織が粗くなって靭性も低下しており、そのため疲労強度が低下した。
【0080】
比較例16はTi添加量が多すぎるために、炭窒化物が過剰に析出し、靭性低下と耐食性劣化を引き起こした。そのため疲労強度も低下した。
【0081】
比較例17はNb含有量が少なすぎるために、所望の強度が得られず、また結晶粒が微細化しなかったために靭性が低下した。
【0082】
比較例18はNb添加量が多すぎて炭化物が多量に析出したため、耐食性が低下して疲労試験片の腐食が進行したため、疲労強度が低下した。
【0083】
比較例19は、TiとNbの各添加量は本発明の範囲内であるが、両者の合計量が多すぎて、炭窒化物が過剰に析出したため、靭性と耐食性がともに劣化し、疲労強度も低下した。
【0084】
比較例20は、Nが高すぎるために窒化物が過剰になり、靭性と耐食性がともに劣化し、疲労強度が低下している。
【0085】
比較例21はスタビライザ用として使用されているJIS SUP9の例であるが、化学成分が本発明範囲外となり、靭性と耐食性が劣る。
【表2-1】
【0086】
【表2-2】
【0087】
(2)表3は結晶粒度の影響を示した例である。
【0088】
鋼No.48を用いて成形後の焼入れ温度を調整する事で結晶粒度の異なる試験片を作成した後、焼戻しにて引張強さを調整した。
【0089】
実施例27-1,27−2,27−3は、それぞれ結晶粒度を本発明範囲としたものであり、強度・靭性ともに優れ、高い疲労特性が得られている。
【0090】
一方、比較例22は、結晶粒度が本発明範囲より大きく、結晶粒が微細すぎて焼入れ性が低下しており、引張強さが低すぎて疲労強度が低下した。
【0091】
比較例23は、結晶粒度が本発明範囲より小さく、結晶粒が粗大なために靭性が劣化しすぎて、疲労特性が低下した。
【0092】
比較例24は、結晶粒が混粒となっており、そのために靭性が劣化し、疲労強度が低下した。
【表3】
【0093】
(3)表4は焼入れ時の加熱速度ならびに焼入れ前組織の影響を示したものである。
【0094】
鋼No.48を用いて焼入れ時の加熱速度と焼入れ前組織を変化させて試験片を作成して各種特性を調査した。実施例27-4、27-5、27−6、27−7はいずれも本発明の範囲である。実施例27-4は、前組織をフェライト・パーライト(F+P)とし、加熱速度が30℃/secよりも遅い5℃/secの炉加熱としたもの、実施例27-5、27−6、27−7は加熱方法を通電加熱として加熱速度を30℃/sec以上とし、前組織をベイナイト(B)、マルテンサイト(M)またはベイナイト・マルテンサイト(B+M)としたものである。いずれも所望の強度ならびに靭性を有し、高い疲労強度が得られた。
【0095】
それに対して、比較例25は加熱速度を30℃/sec以上とし、前組織をフェライト・パーライトとしたもの、比較例26は加熱速度を100℃/secとし、前組織をフェライト・ベイナイト(F+B)としたものであるが、いずれも焼入れ時の炭化物の溶け込み不足で引張強さが低くなり、結晶粒も混粒になったために靭性が低下し、疲労強度が低下した。
【表4】