特許第5764393号(P5764393)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764393
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】直流モータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 13/00 20060101AFI20150730BHJP
   H02K 23/04 20060101ALI20150730BHJP
   H02K 23/40 20060101ALI20150730BHJP
   H02K 23/38 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   H02K13/00 N
   H02K23/04
   H02K23/40
   H02K23/38
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-134502(P2011-134502)
(22)【出願日】2011年6月16日
(65)【公開番号】特開2013-5601(P2013-5601A)
(43)【公開日】2013年1月7日
【審査請求日】2014年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000101352
【氏名又は名称】アスモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100111109
【弁理士】
【氏名又は名称】城田 百合子
(72)【発明者】
【氏名】清水 正明
【審査官】 河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−207000(JP,A)
【文献】 特開平05−168209(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/126834(WO,A1)
【文献】 特開2000−134872(JP,A)
【文献】 特開2001−231219(JP,A)
【文献】 特開2007−189810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 13/00
H02K 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転方向に回転する電機子と、
該電機子に備え付けられ、前記回転方向に沿って等間隔に並ぶように配置された複数の整流子片からなる整流子と、
前記電機子のコアに巻回され、前記整流子片に接続されたコイルと、
前記回転方向に沿って一定間隔毎に磁極が変化するように配置された、界磁磁束を発生させるための界磁体と、
前記コイルに励磁電流を流すために複数の前記整流子片の各々に当接する当接面を備え、前記回転方向に沿って等間隔に並ぶように配置された陽極ブラシ及び陰極ブラシと、を備える直流モータであって、
前記陽極ブラシ及び前記陰極ブラシの双方の前記当接面は、前記回転方向に沿って円弧状に湾曲しており、前記双方のうち、一方の前記当接面の前記回転方向における幅は、他方の前記当接面の前記回転方向における幅よりも広く、
前記整流子片の外周長をdとし、前記整流子片間の隙間の幅をtとし、前記陽極ブラシの前記当接面の前記回転方向における幅をb1とし、前記陰極ブラシの前記当接面の前記回転方向における幅をb2としたときに、下記の式(1)が成立することを特徴とする直流モータ。
(d−b1)/2+t=(b2−t)/2 (1)
【請求項2】
前記界磁磁束の磁束密度の、前記電機子の回転角度に対する変化を示す曲線を第1曲線とし、
前記電機子の回転に伴って前記界磁体の内側で前記コイルが回転することにより発生する磁束と、前記界磁磁束とを合成した合成磁束の磁束密度の、前記回転角度に対する変化を示す第2曲線としたとき、
前記回転角度に対する、一方の前記当接面の前記回転方向における幅と、他方の前記当接面の前記回転方向における幅との差は、前記第1曲線と前記第2曲線との位相差に相当する長さであることを特徴とする請求項1に記載の直流モータ。
【請求項3】
前記界磁体は、複数のN極磁石片と、該N極磁石片と同数のS極磁石片とからなり、
前記N極磁石片及び前記S極磁石片の各々は、前記回転方向に沿って等間隔に並び、かつ、前記回転方向に沿って前記N極磁石片と前記S極磁石片とが交互に並ぶように配置され、
前記陽極ブラシ及び前記陰極ブラシが複数組備えられ、
前記陽極ブラシ及び前記陰極ブラシの各々は、該各々の前記回転方向における中央位置が、複数の前記N極磁石片及び複数の前記S極磁石片のうち、最も近くに位置する磁石片の前記回転方向における中央位置と重なるように配置されていることを特徴とする請求項2に記載の直流モータ。
【請求項4】
前記コアに前記コイルを複数形成することにより巻線が構成されており、
該巻線は、該巻線のうち、同電位となるべき地点同士を接続する均圧線を有していることを特徴とする請求項3に記載の直流モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流モータに係り、特に、多極多スロット構造のブラシ付き直流モータに関する。
【背景技術】
【0002】
ステータに永久磁石等を使用した直流モータにおいてコギングトルクを低減して回転ムラ(回転リップル)を抑制する方策として、極数及びスロット数を増やすことは、既に知られている。また、スロット数の増加に伴って、整流子を構成する整流子片(セグメント)の数も増加するので、各整流子片の幅(ロータの回転方向における長さ)が短くなる。ここで、整流子片の幅が短くなるほど、給電用のブラシが複数の整流子片に同時に当接することによって生じる整流子片間の短絡が生じ易くなり、かかる整流子片同士に接続されたコイル(いわゆる短絡コイル)の数も増えることになる。このような短絡コイルの増加により整流に乱れが生じてしまい、極数やスロット数を増やして回転ムラを抑制する効果が有効に奏されなくなってしまう虞がある。
【0003】
上記の課題に対しては、従来から既に対策が講じられてきており(例えば、特許文献1参照)、特許文献1に記載のモータでは、ブラシの幅(より詳しくは、整流子に当接する回転方向円弧長)を、整流子における外周長の20分の1以下にすることにより、短絡コイルの発生を回避している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−209362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された技術では、ブラシの幅が狭くなることにより、整流子との当接面の面積が減少して電流密度が増える結果、ブラシ劣化の進行が早くなり、モータの寿命が短命化してしまう。
そこで、本発明の目的は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、ブラシの寿命を短命化させることなく、回転リップルを抑えることが可能な直流モータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、本発明の直流モータによれば、回転方向に回転する電機子と、該電機子に備え付けられ、前記回転方向に沿って等間隔に並ぶように配置された複数の整流子片からなる整流子と、前記電機子のコアに巻回され、前記整流子片に接続されたコイルと、前記回転方向に沿って一定間隔毎に磁極が変化するように配置された、界磁磁束を発生させるための界磁体と、前記コイルに励磁電流を流すために複数の前記整流子片の各々に当接する当接面を備え、前記回転方向に沿って等間隔に並ぶように配置された陽極ブラシ及び陰極ブラシと、を備える直流モータであって、前記陽極ブラシ及び前記陰極ブラシの双方の前記当接面は、前記回転方向に沿って円弧状に湾曲しており、前記双方のうち、一方の前記当接面の前記回転方向における幅は、他方の前記当接面の前記回転方向における幅よりも広く、前記整流子片の外周長をdとし、前記整流子片間の隙間の幅をtとし、前記陽極ブラシの前記当接面の前記回転方向における幅をb1とし、前記陰極ブラシの前記当接面の前記回転方向における幅をb2としたときに、下記の式(1)が成立することにより解決される。
(d−b1)/2+t=(b2−t)/2 (1)
ブラシの幅を広く設定すれば、幅を広くした分、ブラシの当接面の面積が拡大して電流密度が減少し、ブラシの寿命の短命化を防止することが可能になる。ただし、その反面で、ブラシの幅を広く設定することにより、短絡コイルが発生し易くなってしまう。つまり、短絡コイルの発生とブラシの寿命とはトレードオフの関係にあり、かかる関係を考慮して、本発明の直流モータでは、陽極ブラシ及び陰極ブラシのうち、一方のブラシの幅を他方のブラシの幅よりも広くしている。したがって、本発明の直流モータであれば、短絡コイルの発生を最小限に留めつつ、ブラシ(具体的には、幅をより広くした方のブラシ)の劣化を抑制し、モータ寿命の短命化を防止することが可能になる。さらに、陽極ブラシと陰極ブラシとの間で幅が異なっていることにより、ブラシの整流タイミングが不等ピッチになり、モータ構造に起因する規則的振動が分散されることになり、もって、モータ振動の低減につながる。
さらに、上記の式(1)を満たす当接面の幅で陽極ブラシ及び陰極ブラシを作り込むことにより、モータ回転中、短絡コイルの発生数を抑えることが可能となる。換言すると、一方のブラシ幅を他方のブラシ幅より広くしたとしても、コイルの利用率の低下を最小限に留めておくことが可能になる。
【0007】
また、上記の直流モータにおいて、前記界磁磁束の磁束密度の、前記電機子の回転角度に対する変化を示す曲線を第1曲線とし、前記電機子の回転に伴って前記界磁体の内側で前記コイルが回転することにより発生する磁束と、前記界磁磁束とを合成した合成磁束の磁束密度の、前記回転角度に対する変化を示す第2曲線としたとき、前記回転角度に対する、一方の前記当接面の前記回転方向における幅と、他方の前記当接面の前記回転方向における幅との差は、前記第1曲線と前記第2曲線との位相差に相当する長さであると、より好適である。
かかる構成であれば、モータ性能を低下させることなく、上記の効果(一方のブラシの幅を他方のブラシの幅よりも広くすることによる効果)を得ることができる。より具体的に説明すると、電機子の回転に伴って界磁体の内側でコイルが回転することにより磁束(以下、阻害磁束ともいう)が発生し、かかる阻害磁束によりモータ出力が低下する。ここで、阻害磁束によるずれ(すなわち、上記の位相差)の分、界磁体に対する各ブラシの相対位置をずらせば、阻害磁束に起因するモータ出力の低下を抑制することができる。一方、相対位置をずらす代わりに、上記ずれの分だけブラシの幅を広くした場合にも、モータ出力の低下を抑えることができる。ただし、前述のように、陽極ブラシ及び陰極ブラシの双方の幅を広く設定すると、短絡コイルが発生し易くなってしまうので、一方のブラシの幅のみ広くすることにより、モータ出力の低下を抑えつつ、ブラシを長寿命化させることが可能になる。
【0008】
また、上記の直流モータにおいて、前記界磁体は、複数のN極磁石片と、該N極磁石片と同数のS極磁石片とからなり、前記N極磁石片及び前記S極磁石片の各々は、前記回転方向に沿って等間隔に並び、かつ、前記回転方向に沿って前記N極磁石片と前記S極磁石片とが交互に並ぶように配置され、前記陽極ブラシ及び前記陰極ブラシが複数組備えられ、前記陽極ブラシ及び前記陰極ブラシの各々は、該各々の前記回転方向における中央位置が、複数の前記N極磁石片及び複数の前記S極磁石片のうち、最も近くに位置する磁石片の前記回転方向における中央位置と重なるように配置されていると、より一層好適である。
【0009】
また、前記コアに前記コイルを複数形成することにより巻線が構成されており、該巻線は、該巻線のうち、同電位となるべき地点同士を接続する均圧線を有していると、更に好適である。
かかる構成であれば、多極多スロット構造のモータにおいてブラシの個数を減らすことができるので、部品点数の削減及びブラシにおける摺動ロスの低減を図ることが可能になる。
【発明の効果】
【0010】
ブラシの幅を広く設定すれば、幅を広くした分、ブラシの当接面の面積が拡大して電流密度が減少し、ブラシの寿命の短命化を防止することが可能になる一方で、ブラシの幅を広く設定することにより、短絡コイルが発生し易くなってしまう。つまり、短絡コイルの発生とブラシの寿命とはトレードオフの関係にある。かかる関係を考慮して、本発明の直流モータでは、陽極ブラシ及び陰極ブラシのうち、一方のブラシの幅を他方のブラシの幅よりも広くすることにより、短絡コイルの発生を最小限に留めつつ、ブラシ(具体的には、幅をより広くした方のブラシ)を長寿命化させることが可能になる。さらに、陽極ブラシと陰極ブラシとの間で幅が異なっていることにより、ブラシの整流タイミングが不等ピッチになり、モータ構造に起因する規則的振動が分散され、モータ振動の低減につながる。さらにまた、一方のブラシ幅を他方のブラシ幅より広くしたとしても、コイルの利用率の低下を最小限に留めておくことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】本実施形態に係る直流モータの模式断面図である。
図1B】電機子のコアを示す図である。
図2】界磁体、整流子及びブラシの位置関係を示す図である。
図3】巻線構造の展開図である。
図4】電機子の回転角度と磁束密度との関係図である。
図5】ブラシの幅を設定する際の前提条件を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態(以下、本実施形態)に係る直流モータについて、図1A図5を参照しながら説明する。図1Aは、本実施形態に係る直流モータの模式断面図である。図1Bは、電機子のコアを示す図である。図2は、界磁体、整流子及びブラシの位置関係を示す図である。図3は、巻線構造の展開図である。図4は、電機子の回転角度と磁束密度との関係図である。図5は、ブラシの幅を設定する際の前提条件を示す図である。
【0013】
本実施形態に係る直流モータ(以下、単にモータ1という)は、多極多スロット構造のモータ(下記の説明では、4極10スロットの構造とする)であり、図1Aに示すように、有底円筒状のハウジング2を有し、ハウジング2内に電機子3(ロータ)と、略環状の界磁体4(ステータ)と、2組の給電ブラシ20、21とを備えている。
【0014】
電機子3は、その回転軸をなすシャフト5が軸受10a、10bを介してハウジング2に支持されることにより、シャフト5を中心に回転可能な状態でハウジング2内に収容されている。特に本実施形態の電機子3は、正逆双方向に回転することが可能である。
【0015】
また、図1A及び図1Bに示すように、電機子3は、シャフト5に貫通させて積層した複数枚の電磁鋼板からなるコア6を有し、コア6の周囲には、コア6の外周を囲むように界磁体4が配置されている。コア6の外周部には、円周方向に沿って等間隔に10個のスロット7a〜7jが設けられており、スロット間にはティース8a〜8jが形成されている。各ティース8a〜8jには、導線からなるコイルCが巻回されており、このコイルCをコア6に複数形成することにより巻線WLが構成されている。なお、本実施形態では、各コイルCは、図3に示すように、2つのティース間に跨って巻回されている(所謂分布巻にて巻回されている)。
【0016】
電機子3(より具体的には、シャフト5の一端部)には、また、複数(本実施形態では10個)の整流子片9a〜9jからなる整流子11が備え付けられている。複数の整流子片9a〜9jは、シャフト5の外周方向、換言すると、電機子3の回転方向に沿って等間隔に並ぶように配置されている。また、各整流子片9a〜9jには、上述のコイルCの端末が接続されている。これにより、整流子片9a〜9jに給電ブラシ20、21が摺接すると、コイルCに励磁電流が流れるようになる。
【0017】
なお、所定の整流子片9a〜9j同士(具体的には、互いに216度の間隔を有する整流子片9a〜9j同士)は、短絡線SLにより短絡されている。これにより、各給電ブラシ20、21は、同一のコイルCを整流するようになっており、2種類の給電ブラシ20、21が2組ある場合(すなわち、4つの給電ブラシがある場合)と同じ作用を果たす。
【0018】
界磁体4は、界磁磁束を発生させるためのものであり、複数のN極磁石片12と、N極磁石片12と同数のS極磁石片13とからなる。より具体的に説明すると、本実施形態ではモータ1の磁極数が4極であり、N極磁石片12とS極磁石片13とが、それぞれ2個ずつ備えられている。そして、N極磁石片12及びS極磁石片13の各々は、ハウジング2の内周方向、換言すると、電機子3の回転方向に沿って等間隔(90度間隔)に並び、かつ、同方向に沿ってN極磁石片12とS極磁石片13とが交互に並ぶようにハウジング2の内周面上に配置されている。つまり、界磁体4は、電機子3の回転方向に沿って一定間隔毎に磁極が変化するように配置されていることになる。
【0019】
給電ブラシ20、21は、整流子3周りに配置され、コイルCに励磁電流を流すために複数の整流子片9a〜9jの各々に当接する。すなわち、各給電ブラシ20、21は、整流子3の径方向において整流子3と対向する側の端(先端)に当接面TSを備え、電機子3の回転により、当接面TSを各整流子片9a〜9jに摺接させる。ここで、当接面TSは、各整流子片9a〜9jの外周面と適合するように、整流子3の外周、すなわち、電機子3の回転方向にそって円弧状に湾曲している。一方、各給電ブラシ20、21には不図示のリード線が接続されている。これにより、不図示の外部電源から上記リード線、給電ブラシ20、21及び整流子3を通じて、各コイルCに励磁電流が流れるようになる。
【0020】
本実施形態の給電ブラシ20、21について詳しく説明すると、本実施形態では、陽極ブラシと陰極ブラシの組み合わせが1組備えられており、電機子3の回転方向に沿って等間隔(90度間隔)に並ぶように配置されている。なお、図2に示すケースでは、給電ブラシ20が陽極ブラシに該当し、給電ブラシ21が陰極ブラシに該当する。
【0021】
さらに、本実施形態において、各給電ブラシ20、21は、図2に示すように、その中央位置(正しくは、電機子3回転方向における中央位置であり、以下において同じ。)が、複数のN極磁石片12及び複数のS極磁石片13のうち、最も近くに位置する磁石片の中央位置に重なるように配置されている。例えば、給電ブラシ20の中央位置は、最寄りのN極磁石片12の中央位置に重なっている。
【0022】
そして、本実施形態では、陽極ブラシ及び陰極ブラシのうち、一方のブラシの幅は、他方のブラシの幅よりも広くなっている。ここで、ブラシの幅とは、各給電ブラシ20、21が有する当接面TSの円弧長(電機子3の回転方向における幅)を意味する。このように一方のブラシの幅が他方のブラシの幅よりも広くなっていることにより、ブラシの寿命を短命化させることなく、モータ回転時の回転ムラ(リップル)を抑えることになる。
【0023】
具体的に説明すると、ブラシの幅を広くすれば、その分、当接面TSの面積が拡大して電流密度が減少し、ブラシの寿命の短命化を防止することが可能になる。ただし、その反面で、ブラシの幅を広く設定することにより、短絡コイルが発生し易くなってしまう。つまり、短絡コイルの発生とブラシの寿命とはトレードオフの関係にあり、かかる関係を考慮して、本発明の直流モータでは、陽極ブラシ及び陰極ブラシのうち、一方のブラシの幅を他方のブラシの幅よりも広くしている。これにより、本実施形態に係るモータ1では、短絡コイルの発生を最小限に留めつつ、幅をより広くした方のブラシを長寿命化させることが可能になる。
さらに、陽極ブラシと陰極ブラシとの間で幅が異なることで、ブラシの整流タイミングが不等ピッチになり、モータ構造に起因する規則的振動が分散され、モータ振動が低減されるようになる。
【0024】
上記の効果に関して、以下、陽極ブラシの幅が陰極ブラシの幅よりも広くなったケースを例に挙げて詳しく説明する。ただし、下記のケースは一例にすぎず、陰極ブラシの幅が陽極ブラシの幅よりも広くなった構成であってもよい。なお、以下の説明では、ブラシの幅を含む、電機子3の回転方向に沿った長さ(円弧長)を、当該長さに相当する角度(中心角の大きさ)にて表現するものとする。
【0025】
本ケースでは、前述したように、陽極ブラシの幅が陰極ブラシの幅よりも広くなっており、図2に示す構成では、陽極ブラシに相当する給電ブラシ20の幅が、陰極ブラシに相当する給電ブラシ21の幅よりも狭くなっている。
【0026】
まず、ブラシの幅の差を決定する手順について図4を参照しながら説明する。
なお、図4中、実線にて示す曲線は、界磁磁束の磁束密度の、電機子3の回転角度(電気角)に対する変化を示す曲線であり、以下、界磁磁束曲線(第1曲線に相当する)と呼ぶ。また、図4中、破線にて示す曲線は、電機子3の回転に伴って界磁体4の内側でコイルCが回転することにより発生する磁束(阻害磁束)について、電機子3の回転角度に対する磁界強度の変化を示す曲線であり、以下、阻害磁束曲線と呼ぶ。さらに、図4中、太実線にて示す曲線は、上記阻害磁束と界磁磁束とを合成した合成磁束の磁束密度の、電機子3の回転角度に対する変化を示す曲線であり、以下、合成磁束曲線(第2曲線に相当する)と呼ぶ。
【0027】
図4を参照すると、界磁磁束曲線は、例えば、有効磁束計算によって得られ、空隙磁束の磁束密度を最大値としたsin関数として表現されている。一方、阻害磁束曲線は、例えば、減磁解析によって得られ、定格値の励磁電流がコイルCに流れた際の起磁力に相当する磁界強度を最大値としたcos関数として表現されており、界磁磁束曲線に対して約90度ずれている。また、合成磁束曲線については、界磁磁束が阻害磁束の影響を受けることを反映し、界磁磁束曲線に対して所定角(以下、シフト角度)分ずれることになる。このシフト角度は、界磁磁束曲線と合成磁束曲線との位相差に相当し、4極10スロットのモータ1では、電気角で約6度となる(すなわち、機械角で片側3度となる)。
【0028】
そして、以上のようにして求めたシフト角度をブラシの幅の差として採用する。かかる手順によりブラシの幅の差を決定して当該差を採用することで、モータ性能を低下させることなく、一方の給電ブラシ20の幅を他方の給電ブラシ21の幅よりも広くすることができる。
【0029】
これにより、電流密度が増加するのを抑えつつ、幅を広くしたブラシを長寿命化させることが可能になる。なお、一方のブラシの幅を広くすることで阻害磁束の発生源となるコイルCを短絡することになり、モータ出力の低下を抑える効果は、より有効に奏されることになる。
次に、陽極ブラシ及び陰極ブラシの各々の幅を決定する手順について説明する。
【0030】
4極10スリット構造では、整流子11の外径、整流子片9a〜9jの外周長(円弧長)、整流子片間の隙間の幅、整流子片間のピッチが予め決まっており、各値は図5に示す通りである。一方、前述したように、陽極ブラシの差と陰極ブラシの幅との差は、シフト角度に相当する。また、陽極ブラシと陰極ブラシとの間隔(より具体的には、ブラシの中央位置間の長さ)は90度である。さらに、各ブラシの中央位置が磁石片12、13の中央位置と重なっている。
【0031】
ここで、陽極ブラシ及び陰極ブラシの各々の幅を決定する際の条件は、短絡コイルの発生数を最小化することであり、本実施形態の構成(陽極ブラシ及び陰極ブラシをそれぞれ2個備える構成)では、2コイルに抑えることになる。換言すると、4つのコイルが同時に短絡しないことが条件となる。かかる条件の下、陽極ブラシ及び陰極ブラシの各々の幅を求めると、陽極ブラシ及び陰極ブラシの各々の幅に関して下記の式が成立することになる。
(整流子片の外周長−陽極ブラシの幅)/2+整流子片間の隙間の幅
=(陰極ブラシの幅ー整流子片間の隙間の幅)/2 (1)
【0032】
上記式(1)に図5に示す値を代入し、陽極ブラシの幅が陰極ブラシの幅よりもシフト角度の分だけ広いことを踏まえると、陽極ブラシ及び陰極ブラシの各々の幅が算出されるようになる。具体的に説明すると、陽極ブラシの幅の解として24.3度が、陰極ブラシの幅の解として18.3度が、それぞれ得られる。
【0033】
そして、算出結果に相当する幅で陽極ブラシ及び陰極ブラシを作り込むことにより、モータ回転中、短絡コイルの発生数を抑えることが可能になる。換言すると、上記の算出結果を採用することにより、一方のブラシ幅を他方のブラシ幅より広くしたとしても、コイルの利用率の低下を最小限に留めておくことが可能になる。
<<その他の実施形態>>
以上までに説明してきた実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0034】
また、上記の実施形態では、電機子3が正逆双方向に回転することとしたが、これに限定されるものではなく、正転方向(片方向)にのみ回転するものであってもよい。
【0035】
また、上記の実施形態では、陽極ブラシ及び陰極ブラシが界磁体4の略中央位置に配置されていることとしたが、これに限定されるものではなく、コイルC(巻線WL)と整流子との接続位置に応じて各ブラシの配置位置を適宜変更することとしてもよい。
【0036】
また、上記の実施形態では、2個の給電ブラシ20、21が設けられていることとした。ただし、これに限定されるわけではなく、備え付ける陽極ブラシ及び陰極ブラシの個数については、(磁極数/2)個としたり、それ未満の個数に設定したりすることが可能である。
【0037】
より具体的に説明すると、電機子3のコア6に巻装された巻線WLのうち、理論上同電位となるべき地点同士が均圧線(不図示)により接続されている場合、備え付ける陽極ブラシ及び陰極ブラシの個数を(磁極数/2)以下に設定することが可能になる。このように均圧線を利用することにより、多極多スロット構造のモータにおいてブラシの個数を減らすことができるので、結果として、部品点数の削減及びブラシにおける摺動ロスの低減を図ることが可能になる。
【0038】
なお、均圧線については、巻線WLの一部を延長して形成することとしてもよい。すなわち、巻線WL自体が、該巻線WLのうち、同電位となるべき地点同士を接続する均圧線を有しているものであってもよい。ただし、これに限定されるものではなく、巻線WLとは別の導体によって均圧線が形成されることとしてもよい。また、巻線WLにおいて同電位となるべき地点には、巻線WLが接続されている整流子片9a〜9jが含まれる。すなわち、均圧線により整流子片9a〜9j同士を接続することとしてもよい。
【0039】
また、上記の実施形態では、4極10スロット構造の直流モータを例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、磁極数やスロット数については、上記の実施形態とは異なる数であってもよく、基本的には、磁極数が2n(nは自然数)でスロット数が4m+2(mは自然数)であるとよい。なお、本発明の効果については、スロット数(換言すると、整流子片の数)が多くなるほど、より有意義なものとなる。
【0040】
また、上記の実施形態では、陽極ブラシ及び陰極ブラシのセットが2組備えられた構成において、各ブラシの幅の求め方について説明した。すなわち、4極10スロット構造のモータ1であれば、上述の式(1)に整流子片の外周長等の値を代入すれば、陽極ブラシ及び陰極ブラシの双方の幅を求めるケースについて説明した。
一方、陽極ブラシ及び陰極ブラシのセットが3組以上備えられている場合においても、上述の式(1)と同様の、陽極ブラシの幅と陰極ブラシの幅に関する関係式を求め、当該関係式に諸処の値を入力して、陽極ブラシ及び陰極ブラシの双方の幅を求めることとしてもよい。なお、上記の関係式については数値解析等により導出することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 モータ、2 ハウジング、3 電機子、4 界磁体、
5 シャフト、6 コア、7a〜7j スロット、
8a〜8j ティース、9a〜9j 整流子片、
10a,10b 軸受、11 整流子、
12 N極磁石片、13 S極磁石片、
20,21 給電ブラシ、
C コイル、SL 短絡線、TS 当接面、WL 巻線
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5