【実施例】
【0011】
<1>全体の構成
本発明のコンクリート構造物の補強パネルAは、高強度フレキシブルボード11と炭素繊維シート3とより構成する。
なお説明のために高強度フレキシブルボード11、炭素繊維シート3は厚さの厚い物として図示してあるが、実際にはいずれも数mm程度の薄く軽量な材料である。
【0012】
<2>高強度フレキシブルボード
高強度フレキシブルボード11(以下単に「ボード11」という)は、セメント系の材料で構成した板体である。
主成分は、セメント、けい酸カルシウム、有機繊維(パルプ)であり、それらを混練した後、ロール状に成形し、脱水プレスしたものである。
このボード11は、周知の製品を使用することができ、入手が容易なものは、厚さ3mm〜6mmの規格の製品である。
このようなボード11を用いる理由は、工場において容易に製造可能であり製品の品質が安定していること、曲げ強度が30(N/mm
2)以上と大きく、表面にひび割れが発生しないこと、曲げ加工等が容易にできるため補強すべき既設コンクリートの形状に応じて所望の形状に成形可能であること、不燃性を有していること、比重が1.6〜1.8と軽いため作業性や運搬が容易であること等である。
【0013】
<3>炭素繊維シート
炭素繊維シート3はエポキシ樹脂を含浸させた柔軟性を備えた公知のシートである。
その比重が1.7〜1.8と軽量であり、その硬化体は錆びない特性を有するとともに、繊維方向では、鉄筋の約5倍〜6倍である3000(N/mm
2)という大きな引張強度を有している。
そのため、後述するように2枚のボード11で1枚の炭素繊維シート3を挟持することにより、薄膜で鉄筋コンクリートと同等以上の構造耐力を得ることができる。
この炭素繊維シート3は、公知の単一配向シート、単一配向シートを合板のように交互に積層したもの、クロス状のもの等を使用することができる。
なお図では理解しやすいように炭素繊維シート3は太線で記載してあるが、実際にはほとんどが1mm以下のものであって、図の縮尺で表現できるような厚いものではない。
【0014】
<4>接着剤
接着剤は、ボード11と炭素繊維シート3とを強固に接合するための接着剤であり、両者を一体成形できる材料であればどのような種類のものを用いることができる。
特に接着強度や作業性の点から、エポキシ樹脂が好適である。
なお、その他の接着剤としては、酢酸ビニル樹脂系、EVA系(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂系)、アクリル樹脂系等の樹脂系接着剤や、クロロプレンゴム系、スチレン・ブタジエンゴム系等のゴム系接着剤や、セメント系、石膏系等の水・気硬性接着剤を用いることも可能である。
【0015】
<5>補強パネル
補強パネルAは、2枚のボード11に、炭素繊維シート3をサンドイッチ状に挟み込み、接着剤によってボード11と炭素繊維シート3とを一体成形したものである。
前記炭素繊維シート3の量は、補強対象のコンクリート構造物に要求される構造耐力を求め、必要な場合には炭素繊維シート3を所定枚数、重畳させて使用する。
また、2方向に作用する応力に対して補強が必要となる場合には、炭素繊維シート3の繊維の方向が2方向になるように配置することで対応することができる。
以上のように炭素繊維シート3をボード11の間に介在させた理由は、炭素繊維シート3を既設コンクリートの表面に直接貼り付けた場合に生じる、炭素繊維シート3の剥離や、炭素繊維シート3への通電、紫外線による炭素繊維シート3の劣化等を防止するためである。
【0016】
<6>補強パネルの構成
補強対象物Bの周囲を包囲するために、本願発明の補強パネルAは3面に分けて構成する。
すなわち、中央パネル1と、その両脇に配置する両脇パネル2である。
各パネル1、2は矩形の板体であり、一定の高さを備え、その幅は補強する対象物Bの寸法に応じて決定する。
中央パネル1の幅は、接着剤などの充填剤の厚みだけ、補強対象物Bの幅よりも多少大きく形成する。
両脇パネル2の幅は、補強対象物Bの奥行きの半分程度の寸法に形成する。
【0017】
<7>パネル間の接続
中央パネル1と両脇パネル2との間は数cmの距離だけ離して配置し、両者間を炭素繊維シート3で連結する。
この炭素繊維シート3は、ボード11の間で挟持させた炭素繊維シート3と一体のものであり、その延長上にある。
このように、中央パネル1と、その両脇に配置した両脇パネル2の間に、柔軟性のある炭素繊維シート3を位置させることによって、両者はその部分で90度、その他の自由な角度での折り曲げが可能となる。
そのために後述するように、コンクリート構造物のハンチ部の補強パネルAとしても使用できる。(
図5)
【0018】
<8>炭素繊維シート露出部
中央パネル1は、炭素繊維シート3の両側に位置するボード11の端部は同一の位置にあるから、炭素繊維シート3の一面だけにボード11が位置することはない。
しかし両脇パネル2ではその端部では、ボード11は位置をずらして配置する。
そのために炭素繊維シート3は端部においては両面をボード11で被覆されずに、一面だけにボード11が位置しており、他面では炭素繊維シート3が露出する状態となる。
これが炭素繊維シート露出部31である。
図2の実施例では2枚の両脇パネル2の炭素繊維シート3が同一の方向、すなわち図面上で上方に向けて露出させてあるが、
図2において一方を上向き、他方を下向きに露出させた構成であっても使用することができる。
【0019】
<9>使用方法
次に上記で説明した本発明のパネルを使用して、柱や橋脚のような独立したコンクリート構造物である補強対象物Bを補強する方法について説明する。
【0020】
<10>パネルの展開
事前に工場において、補強対象物Bの寸法に合わせた中央パネル1と両脇パネル2を製造しておく。
中央パネル1の平面視の長さは、補強対象物Bである柱などの裏面の幅より多少長く、また両脇パネル2の平面視の長さは、補強対象物Bの長さの半分以上の長さに設定しておく。
このような構成の中央パネル1の上に両側の両脇パネル2を重ねて折りたたんだ状態で運搬、保管しておき、現場でそれを展開する。
【0021】
<11>裏側への配置
次に補強対象物Bが独立したコンクリート製の柱であり、その背後に接近して壁板などの障害物Cが存在する場合について説明する。
そのように補強対象物Bである柱の裏側と障害物Cとの間隔が狭く、手が入らないような状態でも、展開した補強パネルAは1枚の板状となるから、その隙間から挿入して柱の反対側に押し出すことができる。
こうして両脇パネル2のひとつが柱の反対側から露出したら、中央パネル1との間の炭素繊維シート3部分を柱に沿って折り曲げる。
すると、柱の裏面には中央パネル1が位置し、柱の両側には両脇パネル2が位置することになる。
そして両脇パネル2を折り曲げることによって、炭素繊維シート露出部31が外側から見える面として位置する。
【0022】
<12>表側への配置
次に柱の表側に他のパネルを配置する。
表側には一般に障害物Cが存在しないが、たとえ存在したとしても、前記した裏側への配置と同様にして配置することができる。
この表側へ配置するパネルの炭素繊維シート3の露出部31は、裏側の炭素繊維シート3の露出部31に対向するように、柱側に向くように配置する。
【0023】
<13>両パネルの接続
柱の両側へは作業者が接近できるという前提であるが、その場合に、表側と裏側の両脇シートの炭素繊維シート露出部31に接着剤を塗布して両面を接着する。
炭素繊維シート3どうしの接着には公知の多数の接着剤が市販されている。
表裏のパネルの両脇パネル2を接着することによって、平面視で柱の周囲を完全に包囲することができる。
中央パネル1と両脇パネル2はともにその内面と柱の外面とは数mmから数cmだけ離した状態で配置する。その隙間が充填剤の充填範囲となる。
補強パネルAの高さを1m程度に設定しておけば、最下段のパネルは床の上に設置し、順次その上に搭載して、柱の周囲を天井に至るまで包囲することができる。
なお、接着に際して炭素繊維シート露出部31はその範囲では二重に重なるから厚さが倍になるが、実際には炭素繊維シート3の厚さはそのほとんどが1mm以下であるから二重に重なっても問題はない。
【0024】
<14>充填
表裏のパネルが重なる、両脇パネル2の重なり部分を縫うような状態でアンカー4などを打設して柱と一体化する。
こうして補強パネルAを対象物Bの周囲に固定しておいて、対象物Bと補強パネルAの隙間である充填空間に無収縮モルタルやエポキシ樹脂、アクリル樹脂などの充填剤5を充填する。
その充填は補強パネルAの上部から投入し、あるいは補強パネルAに開口した充填口から加圧状態で充填する。
充填剤5が硬化することによって補強が完了するが、型枠として機能する補強パネルAは、硬化後にそれを解体する必要がないから、その点でも経済的である。
なお対象物Bの隅部では炭素繊維シート3が露出する状態となるので、その外側に炭素繊維シート3の曲面に沿った隅切り部材を取り付け、あるいは保護用の材料を塗布して炭素繊維シート3の外側を保護する。
【0025】
<15>ハンチ部での使用(
図5)
補強対象物bが、コンクリート構造物の特にハンチ部B1であった場合その補強に、本発明の補強パネルAを使用することができる。
その際には2枚の高強度フレキシブルボード11の間に炭素繊維シート3を挟んだ一般の平板パネルDと、本発明の補強パネルAを使用する。
この平板パネルDは、
図5に示すように、構造物の水平の天井部と、鉛直の壁面部に対して一定の間隔を介して位置させる。この間隔が接着剤の充填空間となる。
そして平板パネルDのハンチ部B1側の端部は、外側のボード11を除去することによって、外側に向けて炭素繊維シート3の露出部31を形成する。
一方、傾斜したハンチ部B1の斜面に本願発明の補強パネルAの中央パネル1を、一定の間隔を介して位置させる。
そして両脇パネル2の炭素繊維シート露出部31と、平板パネルDの炭素繊維シート露出部31とを接着剤を使用して接着させる。
その際に、本願発明の補強パネルAは、中央パネル1と両脇パネル2の間を、柔軟性のある炭素繊維シート3で接続しているので、ハンチ部B1の両側の平面部と傾斜部とに簡単に対応させることができる。
各パネルA、Dのアンカー4での取り付けや、充填剤5の充填工程などは前記の実施例と同様である。