(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
質量で、0.1%以下のC、0.1%以下のN、9.0%以上14.0%以下のCr、9.0%以上14.0%以下のNi、0.5%以上2.5%以下のMo、0.5%以下のSi、1.0%以下のMn、0.25%以上1.75%以下のTi、0.25%以上1.75%以下のAlを含み、Nb、V及びTaの合計添加量が、0%超0.5%以下であり、残部がFeおよび不可避不純物であり、
サブゼロ処理を行わず、900〜1000℃の温度範囲での溶体化処理及び500〜600℃の温度範囲での時効処理を行ったものであり、
マルテンサイト変態終了温度に係るパラメータAと、マルテンサイト組織の安定性に係るパラメータBが、4.0≦A≦10.0かつ2.0≦B≦7.0を満足することを特徴とする析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼。
A:(Cr+2.2Si+1.1Mo+0.6W+4.3Al+2.1Ti)−(Ni+31.2C+0.5Mn+27N+1.1Co)
B:(125−4.0Cr−6.0Ni−3.0Mo+2.5Al−1.5W−3.5Mn−3.5Si−5.5Co−2.0Ti−221.5C−321.4N)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼に含まれる成分元素の役割と添加量の規定について説明する。
【0011】
以下の説明において、成分元素の添加量は%で表わしている。
【0012】
カーボン(C)は、クロム炭化物を形成し、炭化物の過剰析出による靭性の低下、粒界近傍のCr濃度低下による耐食性の悪化などが問題となる。また、Cはマルテンサイト変態終了温度点を著しく低下させる。このため、Cの量は抑制する必要があり、0.1%以下であることが好ましく、0.05%以下であることがより好ましい。
【0013】
窒素(N)は、TiNやAlNを形成して疲労強度を低下させ、靭性にも悪影響を及ぼす。また、Nはマルテンサイト変態終了温度点を著しく低下させる。このため、Nの量は抑制する必要があり、0.1%以下であることが好ましく0.05%以下であることがより好ましい。
【0014】
クロム(Cr)は、表面に不動態被膜を形成することで耐食性向上に寄与する元素である。添加の下限を9.0%とすることで耐食性を十分に確保できる。一方で、Crを過剰に添加するとδフェライトが形成し機械的性質及び耐食性を著しく悪化させるので、上限を14.0%とした。以上から、Crの添加量は9.0〜14.0%とする必要がある。11.0〜13.0%が望ましく、特に11.5〜12.5%が好ましい。
【0015】
ニッケル(Ni)は、δフェライトの形成を抑制し、またNi−TiおよびNi−Al化合物の析出硬化により、強度の向上に寄与する元素である。また、焼入れ性、靭性も改善する。上記の効果を十分にするためには、添加の下限を9.0%とする必要がある。一方、添加量が14.0%を超えると、残留オーステナイトが析出し目標とする引張特性が得られない。以上の点から、Niの添加量は9.0〜14.0%とする必要がある。11.0〜12.0%がより望ましく、特に11.25〜11.75%がより好ましい。
【0016】
モリブデン(Mo)は、耐食性を向上させる元素である。目標の耐食性を得るためには、少なくとも0.5%の添加が必要であり、一方添加量が2.5%を超えると、δフェライトの形成を助長し却って特性を悪化させる。以上の点から、Moの添加量は0.5〜2.5%とする必要がある。1.0〜2.0%がより望ましく、特に1.25〜1.75%が好ましい。
【0017】
シリコン(Si)は脱酸材であり0.5%以下とするのが好ましい。0.5%を超えるとδフェライトの析出が問題となるためである。0.25%以下がより望ましく、0.1%以下が特に好ましい。カーボン真空脱酸法、及びエレクトロスラグ溶解法を適用すればSiの添加を省くことが可能である。その場合はSiを無添加とするのが好ましい。
【0018】
マンガン(Mn)は脱酸剤及び脱硫剤であり、またδフェライトの形成を抑制するために少なくとも0.1%以上の添加が必要である。一方、1.0%を超えると靭性が低下するため、Mnの添加量は0.1〜1.0%添加させる必要がある。0.3〜0.8%がより望ましく、特に0.4〜0.7%が更に好ましい。
【0019】
アルミニウム(Al)は、Ni−Al化合物を形成し析出硬化に寄与する元素である。析出硬化を十分に発現するためには、少なくとも、0.25%以上添加する必要がある。添加量が1.75%を超えると、Ni−Al化合物の過剰な析出やδフェライトの形成による機械的性質の低下を引き起こす。以上の点から、Alの添加量は0.25〜1.75%とする必要がある。0.5〜1.5%がより望ましく、特に0.75〜1.25%が好ましい。
【0020】
チタン(Ti)はNi−Ti化合物を形成し析出硬化に寄与する。上記の効果を十分に得るためには、添加の下限を0.25%以上とする必要がある。Tiを過剰に添加した場合、δフェライトが形成するので上限を1.75%とした。このため、Tiの添加量は0.25〜1.75%とする必要がある。0.5〜1.5%がより望ましく、特に0.75〜1.25%が好ましい。
【0021】
AlとTiの添加量は、合計で0.75%以上、2.25%以下とする必要がある。0.75%より小さい場合、析出硬化が十分でなく目標とする引張強さが得られない。一方、2.25%より大きい場合は析出硬化が過剰となり靭性が目標を下回る。
【0022】
ニオブ(Nb)は、炭化物を形成して強度、耐食性の向上に寄与する元素である。0.05%より少ないとその効果が不十分で、0.5%以上添加するとδフェライトの形成を助長する。以上の点から、Nbの添加量は0.05〜0.5%とする必要がある。0.1〜0.45%がより望ましく、特に0.2〜0.3%が好ましい。
【0023】
また、バナジウム(V)、タンタル(Ta)をNbに置き換えることもできる。Nb、V、及びTaの2種類、または3種類を複合添加する場合、添加量の合計はNb単独添加と同量にする必要がある。これらの元素の添加は必須ではないが、析出硬化をより顕著にする。
【0024】
タングステン(W)はMoと同様に耐食性を向上させる効果がある。Wの添加は必須ではないが、Moとの複合添加により一層この効果を高めることができる。この場合、MoとWの添加量の合計はδフェライトの析出を防ぐためにMo単独添加と同量にする必要がある。
【0025】
コバルト(Co)はδフェライトの形成を抑制し、マルテンサイト組織の安定性を改善させる効果がある。Coの添加量が増加するに従い、残留オーステナイトの析出により目標とする引張特性が得られなくなる。このため、Coの添加量の上限は1.0%とするのが好ましい。
【0026】
レニウム(Re)は、固溶強化により強度を向上するとともに、靭性、耐食性の向上にも寄与する元素である。しかし、Reは非常に高価であるため、コストの面から1.0%を上限とするのが好ましい。
【0027】
本発明における不可避的不純物とは、原料にもともと含まれていた、もしくは製造の過程で混入したなどに起因して本発明に含まれる成分であり、意図的に入れたものではない成分を指す。不可避不純物として、例えばP、S、Sb、Sn及びAsなどがあり、このうちの少なくとも1種を本発明の析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼を含むことができる。
【0028】
また、P及びSの低減は、引張特性を損なわずに、靭性を向上できるので極力低減することが好ましい。P:0.5%以下、S:0.5%以下とすることが靭性を向上させる観点から好ましい。特に、P:0.1%以下、S:0.1%以下が好ましい。
【0029】
As、Sb、及びSnを低減することで靭性を改善できる。このため、上記の元素を極力低下することが望ましくAs:0.1%以下、Sb:0.1%以下、Sn:0.1%以下が好ましい。特にAs:0.05%以下、Sb:0.05%以下、Sn:0.05%以下が好ましい。
【0030】
上記成分範囲を満足する組成であっても、サブゼロフリーで時効熱処理後の組織を均一焼戻しマルテンサイト組織にするためには下記のパラメータA、Bが同時に規定範囲内であることを必要とする。なお、ここで言う、均一焼戻しマルテンサイト組織とは、組織中のδフェライト、残留オーステナイトおよびフレッシュマルテンサイトがそれぞれ10%未満であることを指す。
A:(Cr+2.2Si+1.1Mo+0.6W+4.3Al+2.1Ti)−(Ni+31.2C+0.5Mn+27N+1.1Co)
B:(
125−4.0Cr−6.0Ni−3.0Mo+2.5Al−1.5W−3.5Mn−3.5Si−5.5Co−2.0Ti−221.5C−321.4N)
規定範囲:4.0≦A≦10.0かつ2.0≦B≦7.0
【0031】
Aはマルテンサイト組織の安定性に係るパラメータである。均一焼戻しマルテンサイト組織を得るためには、本発明鋼の成分範囲内において、パラメータAが4.0以上、10以下であることが好ましい。δフェライト、残留オーステナイトの析出に伴い引張強さなどの特性が低下するので、安全面の観点からこれらの析出許容量はそれぞれ1.0%、10%以下とした。パラメータAが4.0未満のとき残留オーステナイトが10%以上析出し、また、オーステナイト安定化傾向が強く下記パラメータBが既定の範囲内でもサブゼロフリーではマルテンサイト変態が終了せず、Ac1温度以下の時効処理でもオーステナイトを10%以下まで分解できない。また、パラメータAが10より大きいときは、δフェライトが10%以上析出する。
【0032】
Bは発明材の変態温度に係るパラメータで、サブゼロフリーで均一焼戻しマルテンサイト組織を得るための目安であるマルテンサイト変態終了温度が20℃以上を実現するには、本発明鋼の成分範囲内において、パラメータBが2.0以上であることが好ましい。一方、パラメータBが7.0より大きい場合Ac1温度が低くなり、本発明鋼の時効熱処理温度である500〜600℃での時効処理時に硬く脆いフレッシュマルテンサイト組織が10%以上生成し靭性が目標を下回る。
【0033】
以上により、パラメータAが4.0以上、10.0以下、パラメータBが2.0以上、7.0以下を満足する成分範囲を選択することで、高強度、高靭性および高耐食性を有し、サブゼロフリーで均一焼戻しマルテンサイト組織となる合金を得ることができる。
【0034】
次に、本発明の熱処理について説明する。
【0035】
本発明では、900〜1000℃、望ましくは925〜975℃で加熱保持後急冷する溶体化処理を行う必要がある。本発明における溶体化処理とは、析出物の形成に関わるAlやTiなどの成分を組織中に溶かし込むと同時にマルテンサイト組織を得るための熱処理を指す。また、この過程において、先述したように、組織中に含有されているδフェライトは分解される。溶体化処理に続き、400〜600℃で加熱保持後に徐冷する時効処理を行う必要がある。本発明における時効処理とは、溶体化処理を施した後に行うNi−Al、Ni−Ti化合物などを組織中に微細析出させることで優れた強度を得るための熱処理を指す。
【0036】
本発明合金の蒸気タービン長翼への適用について説明する。成形加工、曲がり取りの作業は時効処理後に行うこともできるが、Ni−Al、Ni−Ti化合物などが析出していない溶体化処理直後にこれらの作業を行えば、加工性が良いために高い作業効率が期待できる。
【0037】
本発明合金を適用した蒸気タービン長翼では、Co系合金のステライトをTIG溶接によって翼先端部に接合することができる。これは、結露した高速の蒸気が衝突することによって翼が損傷するエロージョンから蒸気タービン長翼を保護するための手段である。
【0038】
その他のステライトの取り付け手段として、銀ロウ付けや、プラズマトランスファーアーク、レーザーによる肉盛溶接などがある。エロージョンから蒸気タービン長翼を保護するための他の手段として、窒化チタンコーティングなどにより表面改質をすることもできる。また、翼先端部表面をAc3変態点以上に加熱し空冷により室温まで下げる熱処理を複数回繰り返し結晶粒度6より微細にし、その後の翼全体の時効処理で翼先端部表面のみを高硬度にして耐エロージョンを備えることもできる。本発明合金はある程度の耐エロージョン性を有するので、エロージョンが厳しくない状況下であれば、上記したエロージョン対策を省略しても構わない。
【0039】
以下、図面を参照して本発明を説明する。
【0040】
図1は本発明合金を適用した蒸気タービン長翼(符号10)である。長翼は、蒸気を受ける翼プロファイル部(符号1)、ロータに翼を植え込む翼根部(符号2)、捩りによって隣接する翼と一体化するためのスタブ(符号4)、コンティニュアスカバー(符号5)から構成される。この蒸気タービン長翼は翼根部が逆クリスマスツリー形状のアキシャルエントリータイプである。また、エロージョンシールド(符号3)の一例としてステライト板が接合されている。その他のステライトの取り付け手段として、銀ロウ付けや、プラズマトランスファーアーク、レーザーによる肉盛溶接などがある。窒化チタンコーティングなどにより表面改質をすることもできる。また、本発明合金はある程度の耐エロージョン性を有するので、エロージョンが厳しくない状況下であれば、上記したエロージョン対策を省略しても構わない。
【0041】
図2は本発明の長翼を適用した低圧段ロータ(符号20)を示す。この低圧段ロータは複流構造のものであり、長翼は左右対称に長翼植込み部(符号21)に複数段にわたって設置される。前述した長翼は最終段に設置されるものである。
【0042】
図3は本発明の低圧段ロータを適用した低圧段蒸気タービン(符号30)を示す。蒸気タービン長翼(符号31)は、ノズル(符号32)によって導かれる蒸気を受けることで回転する。ロータは軸受け(符号33)によって支持される。
【0043】
図4は本発明の低圧段蒸気タービンを適用した発電プラント(符号40)である。ボイラ(符号41)で発生した高温高圧蒸気は高圧段タービン(符号42)で仕事をした後、ボイラで再加熱される。再加熱された蒸気は中圧段タービン(符号43)で仕事をした後、更に低圧段タービン(符号44)で仕事をする。蒸気タービンで発生した仕事は、発電機(符号45)で電力に変えられる。低圧段タービンを出た蒸気は、復水器(符号46)に導かれる。
【実施例1】
【0046】
本発明に係る析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼の化学組成と、引張強さ、0.02%耐力、シャルピー衝撃吸収エネルギー、孔食電位、ミクロ組織観察およびマルテンサイト変態終了点の関係性を評価するために、供試材を作製した。
【0047】
表1に、各供試材の化学組成を示す。
【0048】
【表1】
【0049】
はじめに、表1に示す組成となるように、高周波真空溶解炉(5.0×10
-3Pa以下、1600℃以上)を用いて原料を溶解した。得られた鋳塊に対して、プレス鍛造機およびハンマ鍛造機を用いて熱間鍛造を行い、幅×厚さ×長さ=100mm×30mm×1000mmの角材に成形した。次に、この角材を幅×厚さ×長さ=50mm×30mm×120mmに切断加工してステンレス鋼出発材とした。
【0050】
次に、各ステンレス鋼出発材に対して、ボックス電気炉を用いて種々の熱処理を施した。合金1〜14には、溶体化熱処理として950℃で1時間保持した後に室温の水に浸漬する水急冷を行った。次いで、時効熱処理として500℃で2時間保持した後に室温の大気中に取り出す空冷を行った。
【0051】
上記で得られた各試料に対して、引張強さ、シャルピー衝撃吸収エネルギー、孔食電位、ミクロ組織観察、マルテンサイト変態終了点の評価試験をそれぞれ実施した。各評価試験の概要について説明する。
【0052】
引張強さおよび0.02%耐力の測定は、前記で得られた各試料から試験片(評点間距離30mm、外径6mm)を用意しJIS Z 2241に準拠して室温で引張試験を行った。引張強さ、0.02%耐力の判定基準は、それぞれ、120kgf/cm
2以上、90kgf/cm
2以上を「合格」とし、その値未満を「不合格」とした。
【0053】
シャルピー衝撃吸収エネルギーの測定は、前記で得られた各試料から2mmのVノッチを有する試験片を用意しJIS Z 2242に準拠して室温でシャルピー衝撃試験を行った。シャルピー衝撃吸収エネルギーの判定基準は、20J以上を「合格」とし、その値未満を「不合格」とした。
【0054】
孔食電位の評価は、前記で得られた各試料から板状の試験片(長さ15mm、幅15mm、厚さ3mm)を用意した。試験液は3.0%NaCl溶液、溶液の温度は30℃、掃引速度は20mV/minの条件で評価を実施した。孔食電位の判定基準は、150mV以上を「合格」とし、その値未満を「不合格」とした。
【0055】
ミクロ組織の判定基準は、δフェライト、残留オーステナイト、およびフレッシュマルテンサイトの析出量がそれぞれ1.0%、10%、10%以下である均一焼戻しマルテンサイト組織を有するものを「合格」とした。それ以外を「不合格」とした。δフェライト析出量の測定は、JIS G 0555に記載の点算法に準拠した。残留オーステナイト析出量の測定は、X線回折により行った。また、フレッシュマルテンサイト析出量の測定は、透過電子顕微鏡観察により行った。
【0056】
マルテンサイト変態終了点の評価は、熱膨張測定により実施した。円柱状の試験片(φ3.0×L10)を用意し、0℃から加熱して行き950℃で30分保持したのちに−100℃まで冷却する温度サイクルとし、加熱および冷却速度は100℃/minで、アルゴン雰囲気下にて評価した。マルテンサイト変態終了点の合格基準は20℃以上とした。
【0057】
各材料の試験結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
本発明に係る合金1〜8は、各成分、パラメータともに規定範囲内であり、引張強さ、0.02%耐力およびシャルピー衝撃吸収エネルギーの機械的特性も合格であった。さらに、孔食電位も良好な結果が得られた。また、金属組織中にδフェライト相、残留オーステナイト相やフレッシュマルテンサイトは確認されず、均一焼戻しマルテンサイト組織となっていることが確認された。マルテンサイト変態終了点も20℃以上であり、合格であった。
【0060】
合金9の各成分は規定範囲内であるが、パラメータAが10より大きくδフェライトの析出が1.0%以上観察され不合格であった。また、他の特性も不合格であった。
【0061】
合金10の各成分は規定範囲内であるが、パラメータAが4より小さく組織中に残留オーステナイトの析出が10%以上観察され不合格であった。衝撃吸収エネルギー以外の特性も不合格であった。
【0062】
合金11の各成分は規定範囲内であるが、パラメータBが2.0以下でありマルテンサイト変態終了点が20℃以下であり、組織中に残留オーステナイトの析出が10%以上観察され不合格であった。衝撃吸収エネルギー以外の特性も不合格であった。
【0063】
合金12の各成分は規定範囲内であるが、パラメータBが7.0以上でありフレッシュマルテンサイトが10%以上析出したため不合格であった。衝撃吸収エネルギーも不合格であった。
【0064】
合金13の各成分、パラメータは規定範囲内であるが、AlとTiの合計量が質量で2.25%以上であり析出物が過剰であり衝撃吸収エネルギーが不合格であった。
【0065】
合金14の各成分、パラメータは規定範囲内であるが、AlとTiの合計量が質量で0.5%以下であり析出物が少なく、衝撃吸収エネルギーが不合格であった。
【0066】
図5は表1の各合金のパラメータAとδフェライト、残留オーステナイト析出量の関係を示す。発明の目標であるδフェライト析出量1.0%以下、残留オーステナイト析出量10%以下であることを達成するには、パラメータAは4以上、10以下である必要がある。
【0067】
図6はパラメータBとマルテンサイト変態終了温度の関係を示す。発明の目標であるマルテンサイト変態終了点が20℃以上、フレッシュマルテンサイト析出量10%以下であることを達成するには、パラメータBは2.0以上、7.0以下である必要がある。
【0068】
図7は、表1の各合金とパラメータA、パラメータBの関係を示す。網掛けで示した部分がA、Bともに好適な範囲である。比較合金、公知例の合金で網掛け部分内に入るものもあるが、合金設計思想が異なるので、各元素の添加範囲が本発明の請求範囲とも異なっている。
【実施例2】
【0069】
(熱処理条件の検討)
発明合金1を用いて溶体化熱処理および時効熱処理の熱処理条件の検討を行った。溶体化温度と機械特性の関係を検討した結果を
図7に示す。時効条件を500℃で2時間保持し空冷とした場合、溶体化温度が1000℃を超えるとδフェライト過剰、結晶粒度粗大化などにより、引張強さ、0.02%耐力、シャルピー衝撃吸収エネルギー、ミクロ組織が不合格になった。また、溶体化温度が900℃より低い場合は、未固溶な析出物が増加することで機械的強度も不合格になった。すなわち、溶体化温度は、900〜1000℃が好ましいことが確認された。925〜975℃がより好ましい。
【0070】
時効温度と機械特性の関係を検討した結果を
図7に示す。時効温度が450℃では衝撃吸収エネルギーが不合格になり、時効温度が650℃では引張強さ、0.2%耐力が不合格になった。すなわち、時効温度は、500〜600℃が好ましいことが確認された。引張特性とシャルピー衝撃吸収エネルギーのバランスの観点から、より好ましくは525〜575℃であり、更に好ましくは540〜560℃である。
【実施例3】
【0071】
本発明合金を用いた蒸気タービン長翼について説明する。本実施形態では、発明材である表1記載の合金1を用いて翼長が48インチのアクシャルエントリー型蒸気タービン長翼を作成した。長翼の作製方法として、まず、5.0×10
-3Pa以下の高真空状態で、C+O→COとなる化学反応によって溶鋼を脱酸する真空カーボン脱酸を行った。続いて、鍛伸により電極棒に成形した。この電極棒を溶融スラグに浸漬し電流を流した際に発生するジュール熱で自己溶解させ、水冷鋳型内で凝固させ高品位の鋼塊を得るエレクトロスラグ再溶解を行った。次に、熱間鍛造を行った後に48インチ翼型によって型打ち鍛造を行った。この後に、溶体化処理として、980℃で2.0時間加熱保持後、送風機で急冷する強制冷却した。次に、切削工程を経て所定の形状に加工し、続いて時効処理として550℃で4.0時間加熱保持後、空冷した。最終的な仕上げ加工として、曲がり取りや表面の研磨を行い、48インチの長翼とした。
【0072】
以上の工程により、得られた蒸気タービン長翼の先端、中央、及び根部から試験片をそれぞれ採取し、実施例1と同様の評価試験を行った。採取した試験片の方向は翼の長さ方向である。
【0073】
各部位のミクロ組織は均一マルテンサイト組織であり、残留オーステナイトは観察されず、δフェライトも1.0%以下であった。また、引張強さ、0.02%耐力、シャルピー衝撃値、孔食電位、およびマルテンサイト変態終了温度は採取位置によらず目標を全て満足した。