特許第5764505号(P5764505)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764505
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】油剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 101/02 20060101AFI20150730BHJP
   C10M 175/02 20060101ALN20150730BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20150730BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20150730BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20150730BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20150730BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20150730BHJP
   C10N 40/22 20060101ALN20150730BHJP
【FI】
   C10M101/02
   !C10M175/02
   C10N20:00 A
   C10N20:00 C
   C10N20:02
   C10N30:00 Z
   C10N30:06
   C10N30:08
   C10N40:22
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-20948(P2012-20948)
(22)【出願日】2012年2月2日
(65)【公開番号】特開2013-159658(P2013-159658A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JX日鉱日石エネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】柴田 潤一
【審査官】 ▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−535276(JP,A)
【文献】 特表2010−535275(JP,A)
【文献】 特開平11−106778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 10/00−80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
引火点が200℃以上、%Cが16以下、40℃における動粘度が12mm/s以上50mm/s以下、初留点が235℃以上350℃以下、15℃における密度が0.90g/cm以下の鉱油を、油剤組成物全量基準で60質量%以上含有し、硬質脆性物を含む被加工材の切削加工に使用される、油剤組成物。
【請求項2】
前記鉱油を、油剤組成物全量基準で90質量%以上含有する、請求項1に記載の油剤組成物。
【請求項3】
油性剤をさらに含有する、請求項1または2に記載の油剤組成物。
【請求項4】
ミスト防止剤として炭化水素系高分子化合物をさらに含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の油剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質で脆性な材料(「硬質脆性物」ともいう。以下同じ)を含む被加工材の加工に使用される油剤組成物に関する。特に、単結晶および多結晶シリコンウェハー、ガラス、セラミックス、サファイア、ネオジウムなどの硬質脆性物をワイヤソーでスライス加工する際に使用される油剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、単結晶および多結晶のシリコンウェハー、ガラス、セラミックス、サファイア、ネオジウムなどの硬質で脆性な材料を加工する際に、合成系炭化水素の不水溶性基油に砥粒を分散させた切削油が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、水溶性切削油として、ジエチレングリコールなどのグリコール類をベース基材として、それに高級脂肪酸のカリウム塩またはアミン塩などの脂肪酸塩を潤滑剤として添加し、さらに硫化脂肪酸塩などが添加されている切削油がある(例えば、特許文献2および3参照)。また、有機アミンのアルキレンオキシド付加物を添加して加工精度の改善を図ったものもある(例えば、特許文献4参照)。これらの水溶性切削油は、通常、水で希釈されて用いられる。水の含有量は、少ない場合で10%程度、多い場合では95%程度である。例えば、結晶シリコンの加工においては、遊離砥粒法または固定砥粒法を問わず、水溶性切削油が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−110180号公報
【特許文献2】特開2003−82334号公報
【特許文献3】特開2003−82335号公報
【特許文献4】特開2009−57423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の切削油を用いて硬質脆性物を含む被加工材を加工する場合、表面精度などの加工精度の点で必ずしも十分であるとはいえない。
【0006】
さらに、特許文献1に記載されているような合成系炭化水素の不水溶性切削油の場合は、切削油からの発煙、切削油への引火が起こりやすいという作業環境上の問題や経済性の問題がある。
【0007】
一方、特許文献2〜4に記載されているような水溶性切削油は、不水溶性切削油に比べて、切削油自体の潤滑性が低いという問題がある。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、硬質脆性物を含む被加工材の切削加工において、油剤からの発煙や油剤への引火などの作業環境上の問題を解決することができ、且つ十分な加工精度を達成することができる安価で再生が容易な油剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の目的を達成するため、まず、従来の切削油を用いた場合に加工精度が不十分となる原因について検討した。その結果、従来の切削油においては、切削油自体の潤滑性と、ワイヤソーが切り進んだ狭い間隙への切削油の侵入のしやすさ(以下、「侵入性」という。)とがいわゆるトレードオフの関係にあるため、加工精度が不十分となることが判明した。例えば、仮に切削油自体の潤滑性が高くても、その侵入性が低いと、加工部位への切削油の供給量が不十分となり、その結果十分な加工精度を達成できなくなるのである。このような侵入性不足は、油に比べて表面張力が高い水で希釈されて用いられる水溶性切削油の場合に顕著となる。
【0010】
また、水溶性切削油又は不水溶性切削油のいずれの場合も、雨水・地下水の混入が起こることがある。不水溶性切削油の場合は、混入した水分は被加工材の表面粗度を大きくすることとなり好ましくない。油剤は、使用するに従い油剤中に被加工物の摩耗粉が蓄積するが、砥粒と同程度の粒子径をもつ摩耗粉であれば大きな影響はないが、非常に微細な摩耗粉は油剤とともに加工点に供給されると汚れなどになり表面品質を損なうこととなるため、油剤を再利用する際には遠心分離やろ過による再生が必要となる。しかし、砥粒や大きな摩耗粉は遠心分離により除去できるが、微細な摩耗粉は遠心分離では捕捉することが困難なため、一定量の加工に使用された油剤は再蒸留による再生が必要となる。また、この蒸留による再生では混入した水も除去できることが望ましい。この際、蒸留における初留点が低すぎると水との分離が不完全となり、初留点が高すぎると過剰な熱が油剤にかかるため油剤成分の劣化などが生じて加工性の低下、表面粗度の増加を招くこととなる。
【0011】
そこで本発明者は、上記の知見に基づいて更に鋭意検討した結果、鉱油において、その引火点、%C、40℃における動粘度、蒸留試験における初留点及び15℃における密度をそれぞれ特定の範囲内とし、その鉱油を油剤組成物に特定の割合で含有させることによって、作業環境上の問題を解消しつつ、切削油自体の潤滑性と切削油の侵入性とを高水準で両立して十分な加工精度を達成することができ、安価でかつ容易に再生可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、引火点が120℃以上、%Cが16以下、40℃における動粘度が2mm/s以上50mm/s以下、初留点が235℃以上350℃以下、15℃における密度が0.90g/以下の鉱油を、油剤組成物全量基準で60質量%以上含有し、硬質脆性物を含む被加工材の切削加工に使用される油剤組成物を提供する。
【0013】
本発明の油剤組成物は、油性剤をさらに含有することが好ましい。
【0014】
また、本発明の油剤組成物は、ミスト防止剤として炭化水素系高分子化合物をさらに含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の油剤組成物は、硬質脆性物を含む被加工材の切削加工、特にスライス加工において、油剤からの発煙や油剤への引火などの作業環境上の問題を解決することができ、且つ潤滑性と油剤の浸入性とを高水準で両立して十分な加工精度を達成することができる、という優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
本実施形態に係る油剤組成物は、引火点が120℃以上、%Cが16以下、40℃における動粘度が2mm/s以上50mm/s以下、初留点が235℃以上350℃以下、15℃における密度が0.90g/以下の鉱油を、油剤組成物全量基準で60質量%以上含有する。
【0018】
鉱油としては、パラフィン基系原油、中間基系原油あるいはナフテン基系原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理の1種もしくは2種以上の精製手段を適宜組み合わせて適用して得られるパラフィン系またはナフテン系の鉱油のうち、引火点、%C、40℃における動粘度、初留点および15℃における密度が上記の条件を満たすものが挙げられる。さらに、鉱油の95%留出温度は550℃以下であることが好ましい。
【0019】
本発明でいう初留点および95%留出温度は、それぞれJIS K2254「石油製品−蒸留試験方法」に規定するガスクロマトグラグ法により測定された値をいう。
【0020】
上記の鉱油の40℃における動粘度は、油剤組成物自体の潤滑性と油剤組成物の侵入性とを両立して十分な加工精度を達成できる観点から、2mm/s以上50mm/s以下である。さらに、当該動粘度は、油剤組成物自体の潤滑性の観点から、6mm/s以上が好ましく、12mm/s以上がより好ましく、18mm/s以上がさらに好ましい。また、当該動粘度は、油剤組成物の侵入性の観点から、42mm/s以下が好ましく、37mm/s以下がより好ましく、30mm/s以下がさらに好ましい。なお、動粘度が上記の上限値を超えると油剤組成物の浸透が不足し、また、上記の下限値未満であると十分な油膜が確保できず油剤組成物自体の潤滑性が不十分となり、いずれの場合も被加工材の表面粗度が大きくなって加工精度が低下する。
【0021】
本発明でいう動粘度とは、JIS K 2283−2000「原油および石油製品−動粘度試験方法および粘度指数算出方法」に準拠して測定される動粘度を意味する。
【0022】
また、上記鉱油の引火点は、安全性の観点から、120℃以上、150℃以上がより好ましく、200℃以上がさらに好ましく、210℃以上が特に好ましい。なお、当該引火点が上記の下限値未満であると、油剤組成物からの発煙や油剤組成物への引火などの作業環境上の問題が生じるおそれがある。
【0023】
本発明でいう引火点とは、JIS K2265−4「引火点の求め方−第4部:クリーブランド開放法」に準拠して測定される引火点を意味する。
【0024】
また、上記鉱油の%Cは、皮膚刺激性などの作業環境性の観点から16以下であり、8以下が好ましく、3以下がより好ましく、1以下が最も好ましい。
【0025】
本発明でいう%Cとは、ASTM D−3238に規定する“Standard Test Method for Calculation Distribution and Structural Group Analysis of Petroleum Oils by the n−d−M Method”に準拠して測定される%Caを意味する。
【0026】
また、上記鉱油の15℃における密度は、リサイクル時の切削粉の分離性、あるいは本実施形態に係る油剤組成物を砥粒と混合して用いる場合のリサイクル時の砥粒の分散性の観点から、0.90g/cm以下が好ましく、0.87g/cm以下がより好ましく、0.84g/cm以下が最も好ましい。
【0027】
本発明でいう密度とは、JIS K 2249「原油および石油製品−密度試験方法および密度・質量・容量換算表」に準拠して測定される密度を意味する。
【0028】
本実施形態に係る油剤組成物は、上記の鉱油を、油剤組成物全量基準で60質量%以上含有する。さらに、コスト、添加剤に起因する臭気などの観点から、鉱油の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が最も好ましい。
【0029】
また、本実施形態に係る油剤組成物は、加工精度をさらに向上させる観点から、油性剤をさらに含有することが好ましい。
【0030】
本実施形態に用いられる油性剤としては、(B1)脂肪酸またはその塩、(B2)アルコール、(B3)脂肪酸エステル、(B4)不飽和カルボン酸の硫化物、(B5)アミノ酸誘導体、(B6)ポリオキシアルキレン化合物、(B7)アミン、(B8)多価アルコールのヒドロカルビルエーテル、(B9)下記一般式(1)で表される化合物、および(B10)下記一般式(2)で表される化合物等が挙げられる。これらの油性剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【化1】

[式(1)中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を示し、aは1〜6の整数を示し、bは0〜5の整数を示す。]
【化2】

[式(2)中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を示し、cは1〜6の整数を示し、dは0〜5の整数を表す。]
【0031】
(B1)脂肪酸またはその塩のうち、脂肪酸としては、炭素数6〜24を有する直鎖または分枝の脂肪酸が挙げられ、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸またはこれらの混合物であってもよい。
【0032】
飽和脂肪酸としては、直鎖または分枝のへキサン酸、直鎖または分枝のオクタン酸、直鎖または分枝のノナン酸、直鎖または分枝のデカン酸、直鎖または分枝のウンデカン酸、直鎖または分枝のドデカン酸、直鎖または分枝のトリデカン酸、直鎖または分枝のテトラデカン酸、直鎖または分枝のペンタデカン酸、直鎖または分枝のヘキサデカン酸、直鎖または分枝のオクタデカン酸、直鎖または分枝のヒドロキシオクタデカン酸、直鎖または分枝のノナデカン酸、直鎖または分枝のエイコサン酸、直鎖または分枝のヘンエイコサン酸、直鎖または分枝のドコサン酸、直鎖または分枝のトリコサン酸、直鎖または分枝のテトラコサン酸等が挙げられる。
【0033】
不飽和脂肪酸としては、直鎖または分枝のヘキセン酸、直鎖または分枝のヘプテン酸、直鎖または分枝のオクテン酸、直鎖または分枝のノネン酸、直鎖または分枝のデセン酸、直鎖または分枝のウンデセン酸、直鎖または分枝のドデセン酸、直鎖または分枝のトリデセン酸、直鎖または分枝のテトラデセン酸、直鎖または分枝のペンタデセン酸、直鎖または分枝のヘキサデセン酸、直鎖または分枝のオクタデセン酸、直鎖または分枝のヒドロキシオクタデセン酸、直鎖または分枝のノナデセン酸、直鎖または分枝のエイコセン酸、直鎖または分枝のヘンエイコセン酸、直鎖または分枝のドコセン酸、直鎖または分枝のトリコセン酸、直鎖または分枝のテトラコセン酸等が挙げられる。
【0034】
これらの中では、特に炭素数6〜20の飽和脂肪酸、炭素数6〜20の不飽和脂肪酸およびこれらの混合物が好ましい。より高い加工性が得られる点から、より好ましくは炭素数8〜20の脂肪酸であり、最も好ましくは炭素数8〜18の脂肪酸である。具体的には、直鎖のドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、分枝のオクタン酸である2−エチルヘキサン酸、分枝のオクタデセン酸であるオレイン酸が好ましく、中でもラウリン酸、2−エチルヘキサン酸、ステアリン酸およびオレイン酸がより好ましい。
【0035】
また、脂肪酸の塩としては、上記の脂肪酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩などが挙げられる。アルカリ金属としてはナトリウム、カリウム、アルカリ土類としてはマグネシウム、カルシウム、バリウムが用いられる。なかでもナトリウム、カリウムが好ましい。アミンとしてはモノアミン、ポリアミン、アルカノールアミン等が挙げられ、これらアミンとしては前記のパーフルオロスルホン酸のアミン塩のアミンと同様のアミンが使用できる。なかでも、カリウム、ナトリウム、およびアルカノールアミン塩が好ましい。
【0036】
(B2)アルコールは、1価アルコールでも多価アルコールでも、飽和であっても不飽和であっても、これらの混合物であってもよい。より高い加工性が得られ、また、本実施形態に係る油剤組成物を砥粒と混合して用いる場合の砥粒分散性に優れる観点から、炭素数1〜40の1価アルコールが好ましく、更に好ましくは炭素数1〜25のアルコールであり、最も好ましくは炭素数8〜18のアルコールである。
【0037】
具体的には、1価アルコールとしては、通常炭素数1〜40、好ましくは1〜24、より好ましくは8〜18のものが用いられ、このようなアルコールとしては直鎖のものでも分枝のものでもよく、また飽和のものであっても不飽和のものであってもよい。炭素数1〜24のアルコールとしては、具体的には例えば、メタノール、エタノール、直鎖状または分枝状のプロパノール、直鎖状または分枝状のブタノール、直鎖状または分枝状のペンタノール、直鎖状または分枝状のヘキサノール、直鎖状または分枝状のヘプタノール、直鎖状または分枝状のオクタノール、直鎖状または分枝状のノナノール、直鎖状または分枝状のデカノール、直鎖状または分枝状のウンデカノール、直鎖状または分枝状のドデカノール、直鎖状または分枝状のトリデカノール、直鎖状または分枝状のテトラデカノール、直鎖状または分枝状のペンタデカノール、直鎖状または分枝状のヘキサデカノール、直鎖状または分枝状のヘプタデカノール、直鎖状または分枝状のオクタデカノール、直鎖状または分枝状のノナデカノール、直鎖状または分枝状のイコサノール、直鎖状または分枝状のヘンイコサノール、直鎖状または分枝状のトリコサノール、直鎖状または分枝状のテトラコサノールおよびこれらの混合物等が挙げられる。
【0038】
これらの1価アルコールの中でも、直鎖状のドデカノール(ラウリルアルコール)、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、分枝状の2−エチルヘキシルアルコール、イソステアリルアルコール、および不飽和のオレイルアルコールが好ましく、2−エチルヘキシルアルコール、ラウリルアルコール、イソステアリルアルコールおよびオレイルアルコールがより好ましい。
【0039】
多価アルコールとしては、通常2〜10価、好ましくは2〜6価のものが用いられる。2〜10価の多価アルコールとしては、具体的には例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜15量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜15量体)、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜8量体、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)およびこれらの2〜8量体、ペンタエリスリトールおよびこれらの2〜4量体、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類、およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0040】
これらの多価アルコールの中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜10量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜10量体)、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)およびこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の2〜6価の多価アルコールおよびこれらの混合物等が好ましい。さらに好ましくは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、およびこれらの混合物等である。これらの中でも、より高い加工性が得られることから、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、およびこれらの混合物等が最も好ましい。
【0041】
(B3)脂肪酸エステルとしては、(B1)成分の説明において示した脂肪酸と(B2)成分の説明において示した1価アルコールとのエステルが好ましく、脂肪酸と1価アルコールの好ましい炭素数も(B1)、(B2)の値と同様である。好ましい脂肪酸エステルとしては、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸メチル、パルミチン酸ブチル、パルミチン酸メチル、オレイン酸メチル、ラウリン酸メチル、イソステアリン酸メチル等が挙げられる。
【0042】
(B4)不飽和カルボン酸の硫化物としては、例えばオレイン酸の硫化物を挙げることができる。
【0043】
(B5)アミノ酸誘導体は、下記一般式(3)、(4)、および(5)で表される化合物である。
−CO−NR−(CH−COOX (3)
[R−CO−NR−(CH−COO]Y (4)
[R−CO−NR−(CH−COO]−Z−(OH) (5)
[式(3)〜(5)中、Rは炭素数6〜30のアルキル基または炭素数6〜30のアルケニル基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは水素原子、炭素数1〜30のアルキル基または炭素数1〜30のアルケニル基を示し、nは1〜4の整数を示し、Yはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、mは、Yがアルカリ金属の場合は1、アルカリ土類金属の場合は2であり、Zは2価以上の多価アルコールから水酸基を除いた残基を示し、eは1以上の整数を示し、fは0以上の整数を示し、e+fは前記多価アルコールの価数である。]
【0044】
一般式(3)〜(5)中、Rは基油への溶解性などの点から、炭素数6以上のアルキル基またはアルケニル基であり、炭素数7以上であることが好ましく、炭素数8以上であることがより好ましい。また、貯蔵安定性などの点から、炭素数30以下のアルキル基またはアルケニル基であることが必要であり、炭素数24以下であることが好ましく、炭素数20以下であることがより好ましい。これらアルキル基またはアルケニル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また、アルケニル基の二重結合の位置は任意である。
【0045】
一般式(3)〜(5)中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。貯蔵安定性などの点から、炭素数4以下のアルキル基であることが必要であり、炭素数3以下であることが好ましく、炭素数2以下であることがより好ましい。
一般式(3)〜(5)中、nは1〜4の整数を表す。貯蔵安定性などの点から、4以下の整数であることが必要であり、3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。
【0046】
一般式(3)中、Xは水素原子、炭素数1〜30のアルキル基または炭素数1〜30のアルケニル基を表す。Xで表されるアルキル基またはアルケニル基としては、貯蔵安定性などの点から炭素数30以下であることが必要であり、炭素数20以下であることが好ましく、炭素数10以下であることがより好ましい。これらアルキル基またはアルケニル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また、アルケニル基の二重結合の位置は任意である。また、よりさび止め性に優れるなどの点から、アルキル基であることが好ましい。Xとしては、よりさび止め性に優れるなどの点から、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数1〜20のアルケニル基であることが好ましく、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基であることがより好ましく、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基であることがさらにより好ましい。
【0047】
一般式(4)中、Yはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を表し、具体的には例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられる。これらの中でも、よりさび止め性に優れる点から、アルカリ土類金属が好ましい。なお、バリウムの場合、人体や生態系に対する安全性が不十分となるおそれがある。一般式(2)中、mはYがアルカリ金属の場合は1を示し、Yがアルカリ土類金属の場合は2を示す。
【0048】
一般式(5)中、Zは2価以上の多価アルコールの水酸基を除いた残基を表す。このような多価アルコールとしては、2価〜6価のアルコールが挙げられる。
【0049】
一般式(5)中、eは1以上の整数、fは0以上の整数であり、かつe+fはZの価数と同じである。つまり、Zの多価アルコールの水酸基のうち、全てが置換されていても良く、その一部のみが置換されていても良い。
【0050】
上記一般式(3)〜(5)で表されるアミノ酸誘導体の中でも、より加工性に優れる点から、一般式(3)および(4)の中から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましく、一般式(3)で表される化合物であることがより好ましい。また、一般式(3)〜(5)の中から選ばれる1種の化合物のみを単独で使用しても良く、2種以上の化合物の混合物を使用しても良い。
【0051】
(B6)ポリオキシアルキレン化合物としては、例えば下記一般式(6)または(7)で表される化合物を挙げることができる。
O−(RO)−R (6)
[式(6)中、RおよびRは各々独立に水素原子または炭素数1〜30の炭化水素基を表し、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、iは数平均分子量が100〜3500となるような整数を表す。]
E−[(RO)−R (7)
[式(7)中、Eは、水酸基を3〜10個有する多価アルコールの水酸基の水素原子の一部または全てを取り除いた残基を表し、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、Rは水素原子または炭素数1〜30の炭化水素基を表し、jは数平均分子量が100〜3500となるような整数を表し、kはEの水酸基から取り除かれた水素原子の個数と同じ数を表す。]
【0052】
上記一般式(6)中、RおよびRの少なくとも一方は水素原子であることが好ましい。RおよびRで表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、例えば上記一般式(1)のRで表される炭素数1〜30の炭化水素基の例と同じものを挙げることができ、また好ましいものの例も同じである。Rで表される炭素数2〜4のアルキレン基としては、具体的には例えば、エチレン基、プロピレン基(メチルエチレン基)、ブチレン基(エチルエチレン基)を挙げることができる。iは、好ましくは数平均分子量が300120〜2000となるような整数であり、更に好ましくは数平均分子量が500140〜1500となるような整数である。
【0053】
また、上記一般式(7)中、Eを構成する3〜10の水酸基を有する多価アルコールの具体例としては、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜4量体、例えば、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン)およびこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロ−ル、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール、イジリトール、タリトール、ズルシトール、アリトールなどの多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マントース、イソマントース、トレハロース、およびシュクロースなどの糖類を挙げることができる。これらの中でもグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールアルカン、およびこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、またはソルビタンが好ましい。
【0054】
で表される炭素数2〜4のアルキレン基の例としては、上記一般式(6)のRで表される炭素数2〜4のアルキレン基の例と同じものを挙げることができる。またRで表される炭素数1〜30の炭化水素基の例としては、前記一般式(1)のRで表される炭素数1〜30の炭化水素基の例と同じものを挙げることができ、また好ましいものの例も同じである。k個のRのうち少なくとも一つが水素原子であることが好ましく、全て水素原子であることが更に好ましい。jは、好ましくは数平均分子量が300〜2000となるような整数であり、更に好ましくは数平均分子量が500〜1500となるような整数である。
【0055】
(B7)アミンとしては、モノアミンが好ましく使用される。モノアミンの炭素数は、好ましくは6〜24であり、より好ましくは12〜24である。ここでいう炭素数とはモノアミンに含まれる総炭素数の意味であり、モノアミンが2個以上の炭化水素基を有する場合にはその合計炭素数を表す。
【0056】
モノアミンとしては、第1級モノアミン、第2級モノアミン、第3級モノアミンの何れもが使用可能であるが、優れた加工性を達成できる点から、第1級モノアミンが好ましい。
モノアミンの窒素原子に結合する炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルカリール基、アラルキル基等の何れもが使用可能であるが、優れた加工性を達成できる点から、アルキル基またはアルケニル基であることが好ましい。アルキル基、アルケニル基としては、直鎖状のものであっても分枝鎖状のものであっても良いが、加工性を向上できる点から、直鎖状のものが好ましい。
【0057】
モノアミンの好ましいものとしては、具体的には例えば、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ノナデシルアミン、イコシルアミン、ヘンイコシルアミン、ドコシルアミン、トリコシルアミン、テトラコシルアミン、オクタデセニルアミン、オレイルアミン(以上のアミンは全ての異性体を含む)およびこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。これらの中でも、優れた加工性を達成できる点から、炭素数12〜24の第1級モノアミンが好ましく、炭素数14〜20の第1級モノアミンがより好ましく、炭素数16〜18の第1級モノアミンがさらに好ましい。
【0058】
(B8)多価アルコールのヒドロカルビルエーテルを構成する多価アルコールの例としては、エステルの説明において例示した多価アルコールと同じものを挙げることができ、更に好ましい例についてもエステルの説明において例示した多価アルコールと同じものを挙げることができる。更に多価アルコールとしては、良好な加工性を示す点から、グリセリンが最も好ましい。
【0059】
(B8)多価アルコールのヒドロカルビルエーテルとしては、上記多価アルコールの水酸基の一部または全部をヒドロカルビルエーテル化したものが使用できる。優れた加工性を達成できる点からは、多価アルコールの水酸基の一部をヒドロカルビルエーテル化したもの(部分エーテル化物)が好ましい。ここでいうヒドロカルビル基とは、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜18のアルカリール基、炭素数7〜18のアラルキル基等の炭素数1〜24の炭化水素基を表す。これらの中でも、良好な加工性を示す点から、炭素数2〜18の直鎖または分枝のアルキル基、炭素数2〜18の直鎖または分枝のアルケニル基が好ましく、炭素数3〜12の直鎖または分枝のアルキル基、オレイル基(オレイルアルコールから水酸基を除いた残基)がより好ましい。
【0060】
(B9)上記一般式(1)で表される化合物において、Rで表される炭素数1〜30の炭化水素基の例としては、例えば炭素数1〜30の直鎖または分枝アルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数6〜30のアルキルシクロアルキル基、炭素数2〜30の直鎖または分枝アルケニル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜30のアルカリール基、および炭素数7〜30のアラルキル基を挙げることができる。これらの中では、炭素数1〜30の直鎖または分枝アルキル基であることが好ましく、更に好ましくは炭素数1〜20の直鎖または分枝アルキル基であり、更に好ましくは炭素数1〜10の直鎖または分枝アルキル基であり、最も好ましくは炭素数1〜4の直鎖または分枝アルキル基である。炭素数1〜4の直鎖または分枝アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、直鎖または分枝のプロピル基および直鎖または分枝のブチル基を挙げることができる。
【0061】
水酸基の置換位置は任意であるが、2個以上の水酸基を有する場合には隣接する炭素原子に置換していることが好ましい。aは好ましくは1〜3の整数であり、更に好ましくは2である。bは好ましくは0〜3の整数であり、更に好ましくは1または2である。一般式(1)で表される化合物の例としては、p−tert−ブチルカテコールを挙げることができる。
【0062】
(B10)上記一般式(2)で表される化合物において、Rで表される炭素数1〜30の炭化水素基の例としては、前記一般式(1)中のRで表される炭素数1〜30の炭化水素基の例と同じものを挙げることができ、また好ましいものの例も同じである。水酸基の置換位置は任意であるが、2個以上の水酸基を有する場合には隣接する炭素原子に置換していることが好ましい。cは好ましくは1〜3の整数であり、更に好ましくは2である。dは好ましくは0〜3の整数であり、更に好ましくは1または2である。一般式(2)で表される化合物の例としては、2,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレンを挙げることができる。
【0063】
本実施形態に係る油剤組成物は、上記油性剤(B1)〜(B10)の中から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。さらに、より高い加工性が得られ、また、本実施形態に係る油剤組成物を砥粒と混合して用いる場合の砥粒分散性に優れる観点から、(B1)カルボン酸またはその塩、(B2)1価アルコール、(B3)脂肪酸エステル、(B5)アミノ酸誘導体および(B6)ポリオキシアルキレン化合物が好ましく、(B1)カルボン酸、(B2)1価アルコールおよび(B6)ポリオキシアルキレン化合物がより好ましい。さらに(B1)カルボン酸および/または(B2)1価アルコールと(B6)ポリオキシアルキレン化合物を併用することが最も好ましい
【0064】
油性剤の含有量には特に制限はないが、優れた加工性を達成できる点から、油剤組成物全量基準で、下限値は、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.05質量%、更に好ましくは0.1質量%である。また、油性剤含有量の上限値は、油剤組成物全量基準で、好ましくは15質量%、より好ましくは10質量%、更に好ましくは5質量%である。
少なすぎると十分な加工精度向上効果が得られず、多すぎると添加量に見合った効果が得られない、油性剤の種類によっては引火性が高くなることがある。
【0065】
また、本実施形態に係る油剤組成物は、ミスト防止剤をさらに含有することが好ましい。ミスト防止剤としては、ポリイソブチレン、エチレン−プロピレンコポリマー等の炭化水素系高分子化合物を用いることが好ましく、ポリイソブチレンを用いることがより好ましい。また、高分子化合物の数平均分子量は100,000以上3,000,000以下が好ましく、200,000以上2,000,000以下がより好ましく、250000以上1,000,000以下がさらにより好ましく、300,000以上700,000以下が最も好ましい。
【0066】
なお、本発明でいう数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した数平均分子量を意味する。
【0067】
本発明でいう数平均分子量とは、ウォーターズ製の150−C ALC/GPC装置に東ソー製のGMHHR−M(7.8mmID×30cm)のカラムを2本直列に使用し、溶媒としてはテトラヒドロフラン、温度23℃、流速1mL/分、試料濃度1質量%、試料注入量75μL、検出器示差屈折率計(RI)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量を意味する。
【0068】
ミスト防止剤の添加量は、油剤組成物の安定性の観点から、油剤組成物全量基準で、8%質量以下が好ましく、5%質量以下がより好ましく、3%質量以下が最も好ましい。また、効果の観点から0.01%質量以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が最も好ましい。少なすぎると十分なミスト防止効果が得られず引火しやすくなる。多すぎると添加量に見合った効果が得られない、加工精度に悪影響を及ぼすことがある。
【0069】
本実施形態に係る油剤組成物は、酸化防止剤を更に含有することが好ましい。具体的には、フェノール系、アミン系、有機金属化合物系および硫黄系酸化防止剤が好ましく、なかでも、フェノール系酸化防止剤およびアミン系酸化防止剤がより好ましい。
【0070】
さらに、本実施形態に係る油剤組成物は消泡剤を含有することができる。消泡剤としては、シリコーン系消泡剤等を用いることが好ましい。
【0071】
本実施形態に係わる油剤組成物は、その性能を損なわない範囲で、ポリ−αオレフィン、アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、ポリエステル、ポリオキシアルキレングリコール等の合成油をさらに含有してもよい。
【0072】
本実施形態に係る油剤組成物は、単結晶および多結晶シリコン、ガラス、セラミックス、サファイア、ネオジウム等の硬質かつ脆性な物質の、スライス、切削、切断、研削、研磨、穴あけ等の加工に用いることができる。特に、ワイヤソーを用いてのスライス加工に好適に使用できる。
【0073】
ワイヤソーによるスライス加工には、大別して、油剤組成物にダイアモンド、CBN(六方晶窒化ホウ素)、酸化アルミナ、GC(緑色炭化珪素)などの砥粒を分散させた遊離砥粒法と、それらの砥粒をワイヤソー表面に電着により固定した電着ワイヤ、もしくは樹脂を結合剤として砥粒を固定したレジンボンドワイヤなどを用いた固定砥粒法とがある。本実施形態に係る油剤組成物はそれらいずれにも使用できるが、遊離砥粒法に最適に用いられる。
【0074】
遊離砥粒法に用いられる場合、油剤に対する砥粒の割合は油剤と砥粒を混合したスラリー状物質基準で30質量%以上70質量%以下で用いられることが好ましい。
【実施例】
【0075】
以下、実施例および比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0076】
[実施例1〜43、比較例1〜5]
実施例1〜43、比較例1〜5においては、それぞれ表1に示す基油1〜13、ならびに以下の添加剤を用いて、表2〜8に示す組成を有する油剤組成物を調製した。
【0077】
【表1】
【0078】
[油性剤]
B1−1:ラウリン酸
B1−2:オレイン酸
B1−3:イソステアリン酸
B1−4:2エチルヘキサン酸
B1−5:オレイン酸ナトリウム
B2−1:ラウリルアルコール
B2−2:オレイルアルコール
B2−3:イソステアリルアルコール
B2−4:2エチルヘキシルアルコール
B3−1:イソステアリン酸メチル
B4:N−オレオイルサルコシン
B5:トリプロピレングリコール
[ミスト防止剤]
C1:ポリイソブチレン(数平均分子量320,000)
C2:ポリイソブチレン(数平均分子量660,000)
C3:ポリイソブチレン(数平均分子量260,000)
C4:ポリイソブチレン(数平均分子量960,000)
C5:ポリイソブチレン(数平均分子量118,000)
C6:ポリイソブチレン(数平均分子量2,880,000)
C7:ポリイソブチレン(数平均分子量93,000)
C8:ポリイソブチレン(数平均分子量3,300,000)
[その他の添加剤]
D1:フェノール系酸化防止剤
【0079】
次に、実施例1〜43および比較例1〜5の油剤組成物について、以下の評価試験を実施した。
【0080】
[加工性評価試験および再生性試験]
各油剤組成物に実加工で得られたシリコン摩耗粉を5質量%、水道水を5質量%加え、よく攪拌した後、常圧で蒸留を行い、沸点範囲が3%留出温度から97%留出温度までの範囲の留出物を得た。さらにこの操作を4回繰り返した油剤(すなわち摩耗粉、水を加えて蒸留する操作を合計5回繰り返した油剤)を再生油剤とし、以下の加工性評価試験に供した。
各油剤組成物から得られた再生油剤と砥粒を1:1に混合してスラリーとし、評価用ワイヤソーにてシリコンインゴッドのスライスを実施した。
使用した砥粒はGC砥粒(粒度:#1000)、ワイヤにはφ0.16mmのブラスめっき鋼線を用いた。ワイヤ走行速度は400m/min、被削材の送り速度は1.0mm/minとした。本状件でスライスした被削材10枚の平均の表面粗度を測定した。
加工性の評価は、表面粗度の平均(Ra)が1.2μm以下を合格と評価した。
【0081】
[引火性試験]
引火性試験は、TACO社ミスト発生器(MW2)を用いて測定した。着火装置を備えたミストボックス(縦0.5m、横0.3m、奥行き0.5m)内に、油剤組成物のミストを供給量300ml/hにて1時間供給しミストを充満させた後着火させ、ミストの引火の有無を観察した。引火しないものを0点、着火直後に一瞬種火が大きくなるが引火せず直ぐに消えたものを1点、燃焼したものを2点、として10回測定し10回の平均点を算出した。平均点が1.0点未満を合格と評価した。
【0082】
[皮膚刺激性試験]
市販の絆創膏の不織布製のパッド部分に油剤組成物を0.2ml含浸させ、被験者の上腕の裏側に貼付し、3時間後の皮膚の状態を観察した。変化なしが0点、変化ないが被験者に若干の違和感があるものを1点、赤くなるなどの変化があり違和感もあるものを2点とし、同一の10名の被験者に対してそれぞれ各油剤組成物について試験した。評価は、各油剤組成物毎の10人の平均点を算出し、その平均点が0.6点以下を合格とした。
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】
【0087】
【表6】
【0088】
【表7】
【0089】
【表8】