特許第5764539号(P5764539)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764539
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】オイルポンプ装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 41/30 20060101AFI20150730BHJP
   F16H 61/00 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   F16H41/30 F
   F16H61/00
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-172143(P2012-172143)
(22)【出願日】2012年8月2日
(65)【公開番号】特開2014-31823(P2014-31823A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2014年2月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(74)【代理人】
【識別番号】100167520
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 良太
(72)【発明者】
【氏名】大塚 征史
【審査官】 稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−299825(JP,A)
【文献】 特開2000−335263(JP,A)
【文献】 特開2007−51720(JP,A)
【文献】 特開2009−293711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/00−17/08
F16H 41/30
57/00−57/10
59/00−61/12
61/16−61/24
61/66−61/70
63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルポンプ装置であって、
駆動源から回転が伝達される入力部材と、前記入力部材の回転が流体を介して伝達され回転する出力部材とを備える車両に搭載したトルクコンバータと、
前記入力部材に駆動される第1回転部材と、前記出力部材に駆動される第2回転部材と、前記第1回転部材の回転速度が前記第2回転部材の回転速度より高い場合に前記第1回転部材の回転速度が増速されて回転する第3回転部材とを備える差動機構と、
前記第3回転部材により駆動されるオイルポンプと、
前記第1回転部材の回転速度が前記第2回転部材の回転速度よりも低くなる場合、前記差動機構の差動機能を抑制する抑制手段とを備えることを特徴とするオイルポンプ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のオイルポンプ装置であって、
前記抑制手段は、
ワンウェイクラッチであり、
前記第1回転部材の回転速度が前記第2回転部材の回転速度より低くなる場合に係合して、前記第1回転部材と前記第2回転部材とを一体となって回転させることを特徴とするオイルポンプ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のオイルポンプ装置であって、
前記トルクコンバータに対して直列に配置され、前記出力部材の回転が伝達される回転機構と、
前記回転機構と前記トルクコンバータとの間に設けられ、前記回転機構が取り付けられる壁部とを備え、
前記出力部材の回転は前記回転機構から取り出され、
前記入力部材の回転は前記壁部よりも前記トルクコンバータ側から取り出され、
前記抑制手段は、前記トルクコンバータの回転軸の径方向における前記壁部の延長上に位置することを特徴とするオイルポンプ装置。
【請求項4】
オイルポンプ装置であって、
駆動源から回転が伝達される入力部材と、前記入力部材の回転が流体を介して伝達され回転する出力部材とを備える流体継手機構と、
前記入力部材に駆動される第1回転部材と、前記出力部材に駆動される第2回転部材と、前記第1回転部材の回転速度が前記第2回転部材の回転速度より高い場合に前記第1回転部材の回転速度が増速されて回転する第3回転部材とを備える差動機構と、
前記第3回転部材により駆動されるオイルポンプと、
前記第1回転部材の回転速度が前記第2回転部材の回転速度よりも低くなる場合、前記差動機構の差動機能を抑制する抑制手段とを備え、
前記流体継手機構は、車両に搭載したトルクコンバータであり、
前記抑制手段は、前記差動機構の前記第1回転部材前記第2回転部材との間に設けたクラッチであり、
前記オイルポンプ装置は、前記トルクコンバータが解放状態であり、前記車両がコースト走行中であり、前記オイルポンプから吐出される流体の流量が前記オイルポンプに要求される要求流量よりも少ない場合に、前記クラッチをスリップ状態、または締結状態とする制御手段を備えることを特徴とするオイルポンプ装置。
【請求項5】
請求項4に記載のオイルポンプ装置であって、
前記オイルポンプから吐出される流体の流量は、前記入力部材の回転速度及び前記出力部材の回転速度に基づいて算出されることを特徴とするオイルポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオイルポンプ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動源との間に遊星歯車機構を介在させ、駆動源の回転を増速させてオイルポンプを作動させるものが特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1では、エンジンとトランスミッションとの間に設けたトルクコンバータのタービン軸がサンギヤに接続し、トルクコンバータのインペラ軸がキャリアに接続し、オイルポンプの回転軸がリングギヤに接続している。
【0004】
このような構成によって、インペラの回転速度がタービンの回転速度よりも高い場合、例えば車両が停車し、エンジンがアイドル回転速度となっている場合などにはオイルポンプに入力される回転の増速比を大きくし、オイルポンプの吐出流量が少なくなることを抑制し、車両で必要な油圧が不足することを抑制している。また、インペラ軸の回転速度とタービン軸の回転速度との差が小さくなるにつれて増速比を小さくし、例えば車速が高くなり、トルクコンバータのロックアップクラッチが締結する場合には、オイルポンプに回転を増速させずに入力し、オイルポンプから過大な吐出流量が吐出されることを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−299825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の発明では、タービンの回転速度がインペラの回転速度よりも大きくなる場合、例えばコースト走行中に、トルクコンバータのロックアップクラッチが解放された場合には、遊星歯車機構が減速機構として機能し、オイルポンプの回転軸の回転速度が低下する。そのため、オイルポンプの吐出流量が少なくなり、車両で必要な油圧をオイルポンプによって供給できなくなる、といった問題点がある。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するために発明されたもので、タービンの回転速度がインペラの回転速度よりも高くなる場合であっても、オイルポンプの吐出流量が少なくなることを抑制し、車両で必要な油圧をオイルポンプから供給することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様に係るオイルポンプ装置は、駆動源から回転が伝達される入力部材と、入力部材の回転が流体を介して伝達され回転する出力部材とを備える車両に搭載したトルクコンバータと、入力部材に駆動される第1回転部材と、出力部材に駆動される第2回転部材と、第1回転部材の回転速度が第2回転部材の回転速度より高い場合に第1回転部材の回転速度が増速されて回転する第3回転部材とを備える差動機構と、第3回転部材により駆動されるオイルポンプと、第1回転部材の回転速度が第2回転部材の回転速度よりも低くなる場合、差動機構の差動機能を抑制する抑制手段とを備える。
また、本発明のある態様に係るオイルポンプ装置は、駆動源から回転が伝達される入力部材と、入力部材の回転が流体を介して伝達され回転する出力部材とを備える流体継手機構と、入力部材に駆動される第1回転部材と、出力部材に駆動される第2回転部材と、第1回転部材の回転速度が第2回転部材の回転速度より高い場合に第1回転部材の回転速度が増速されて回転する第3回転部材とを備える差動機構と、第3回転部材により駆動されるオイルポンプと、第1回転部材の回転速度が第2回転部材の回転速度よりも低くなる場合、差動機構の差動機能を抑制する抑制手段とを備え、流体継手機構は、車両に搭載したトルクコンバータであり、抑制手段は、差動機構の第1回転部材と第2回転部材との間に設けたクラッチであり、オイルポンプ装置は、トルクコンバータが解放状態であり、車両がコースト走行中であり、オイルポンプから吐出される流体の流量がオイルポンプに要求される要求流量よりも少ない場合に、クラッチをスリップ状態、または締結状態とする制御手段を備える。
【発明の効果】
【0009】
この態様によると、流体継手機構の入力回転が出力回転よりも低くなる場合に、抑制手段によってオイルポンプに入力する回転が低下することを抑制し、オイルポンプの吐出流量が少なくなることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態のポンプ装置を有する車両の概略構成図である。
図2図1のII−II断面における概略構成図である。
図3図1のIII−III断面における概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1実施形態のポンプ装置を有する車両について図1を用いて説明する。図1はポンプ装置を有する車両を示す概略図である。以下においては、車両に搭載したポンプ装置について説明するが、これに限られることはない。
【0012】
車両1は、エンジン(図示せず)と、トルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、無段変速機4と、オイルポンプ5と、第1遊星歯車機構6と、ワンウェイクラッチ24と、コントローラ50とを備える。エンジンによって発生した回転は、トルクコンバータ2、前後進切替機構3、無段変速機4の順に伝達される。また、エンジンによって発生した回転は、第1遊星歯車機構6を介してオイルポンプ5に伝達される。
【0013】
トルクコンバータ2は、エンジンの出力軸に連結されるポンプインペラ7と、トルクコンバータ2の出力軸2aに連結されるタービンランナ8とが対向するように配置される。エンジンの回転に伴ってポンプインペラ7が回転すると、トルクコンバータ2の内部に充填された流体(ATF)が流動し、これによってタービンランナ8が回転する。
【0014】
ポンプインペラ7には、第1スプロケット9が装着されており、ポンプインペラ7と第1スプロケット9とは一体となって回転する。第1スプロケット9は、後述する壁部14とトルクコンバータ2との間に配設されている。
【0015】
トルクコンバータ2には、ポンプインペラ7とタービンランナ8とを機械的に連結可能な従来公知のロックアップクラッチ10が設けられている。ロックアップクラッチ10は、その両面に供給される油圧の圧力差に応じて、完全締結状態、スリップ締結状態、解放状態の3つの状態を取り得る。
【0016】
前後進切替機構3は、第2遊星歯車機構11と、前進クラッチ12と、後進ブレーキ13とを備え、トルクコンバータ2の出力軸2aと同軸上に設けられている。つまり、前後進切替機構3は、トルクコンバータ2に対して動力伝達経路において直列に設けられている。前後進切替機構3は、トルクコンバータ2との間に設けた壁部14に取り付けられる。前後進切替機構3は、前進クラッチ12が締結され、後進ブレーキ13が解放されると、トルクコンバータ2の出力軸2aに連結するクラッチパック15を介して伝達された回転をそのまま無段変速機4に伝達し、前進クラッチ12が解放され、後進ブレーキ13が締結されると、クラッチパック15を介して伝達された回転を逆転減速させて無段変速機4に伝達する。
【0017】
クラッチパック15には、第2スプロケット16が係合しており、クラッチパック15、第2スプロケット16、トルクコンバータ2の出力軸2a、タービンランナ8は一体となって回転する。
【0018】
壁部14は、前後進切替機構3とトルクコンバータ2との間に設けられ、トルクコンバータ2の出力軸2aが貫通する。壁部14は、変速機ケース17に連結し、前後進切替機構3が取り付けられる。
【0019】
オイルポンプ5は、トルクコンバータ2の出力軸2aに対して並列に設けられる。オイルポンプ5の回転軸5aは、第1遊星歯車機構6のリングギヤ23に連結し、リングギヤ23と一体となって回転する。オイルポンプ5は、回転軸5aの回転速度に応じて油を吐出し、車両で必要な油圧を発生させる。なお、図1においてオイルポンプ5は変速機ケース17の外に位置しているが、これは説明のためのものであり、実際には変速機ケース17内に設けられている。
【0020】
第1遊星歯車機構6は、サンギヤ20(請求項1における第2回転部材に相当)と、プラネタリギヤ21を回転自在に指示するキャリア22(請求項1における第1回転部材に相当)と、リングギヤ23(請求項1における第3回転部材に相当)とを備える。
【0021】
サンギヤ20には、第3スプロケット25が連結されている。第3スプロケット25は、図2に示すようにクラッチパック15に設けた第2スプロケット16から第1チェーン26を介して回転が伝達される。つまり、サンギヤ20には、タービンランナ8の回転が伝達される。図2図1のII−II断面における概略構成図である。第2スプロケット16と第3スプロケット25とにおける回転の増減速は、第2スプロケット16の歯数と第3スプロケット25の歯数との歯数比に基づいて設定され、本実施形態では第3スプロケット25、すなわちサンギヤ20に第2スプロケット16の回転が増速して伝達されるように歯数比が設定されている。
【0022】
プラネタリギヤ21は、サンギヤ20の外周側に設けられ、内周側でサンギヤ20に噛み合い、外周側でリングギヤ23に噛み合う。プラネタリギヤ21は、サンギヤ20の周りに複数設けられ、複数のプラネタリギヤ21はキャリア22によって連結され、キャリア22と一体となり、サンギヤ20の周りを公転する。また、プラネタリギヤ21は、キャリア22に設けた軸を中心に自転する。
【0023】
キャリア22には、第4スプロケット27が相対回転不能に装着されている。第4スプロケット27は、図3に示すように第1スプロケット9から第2チェーン28を介して回転が伝達される。つまり、キャリア22には、トルクコンバータ2のポンプインペラ7の回転が伝達される。図3図1のIII−III断面における概略構成図である。第1スプロケット9と第4スプロケット27との歯数比は、第4スプロケット27に第1スプロケット9の回転が増速して伝達されるように設定されている。また、第2スプロケット16と第3スプロケット25との歯数比は、第1スプロケット9と第4スプロケット27との歯数比と同じである。そのため、ポンプインペラ7の回転速度とタービンランナ8の回転速度との回転速度差がそのままキャリア22の回転速度とサンギヤ20の回転速度との回転速度差となる。
【0024】
サンギヤ20の第3スプロケット25とキャリア22との間には、軸方向において所定の隙間が設けられる。この隙間は、クラッチパック15に係合する第2スプロケット16からタービンランナ8の回転を取り出し、ポンプインペラ7に係合する第1スプロケット9からポンプインペラ7の回転を取り出すために生じる隙間であり、トルクコンバータ2と前後進切替機構3との間に前後進切替機構3を取り付ける壁部14が形成されていることによるものである。
【0025】
リングギヤ23は、プラネタリギヤ21の外周側に設けられ、プラネタリギヤ21に噛み合う。リングギヤ23はオイルポンプ5の回転軸5aに連結し、オイルポンプ5の回転軸5aと一体となって回転する。
【0026】
ワンウェイクラッチ24は、サンギヤ20とキャリア22との間に設けられ、インナーレース30がサンギヤ20に、アウターレース31がキャリア22にそれぞれ連結されている。
【0027】
ワンウェイクラッチ24は、キャリア22の回転速度がサンギヤ20の回転速度よりも高い場合には係合せず、キャリア22およびサンギヤ20はポンプインペラ7の回転速度およびタービンランナ8の回転速度に応じてそれぞれ回転し、キャリア22の回転速度がサンギヤ20の回転速度よりも低くなる場合には係合して、キャリア22とサンギヤ20とが一体となって回転するように構成されている。
【0028】
コントローラ50は、エンジン回転速度センサ51からの信号、プライマリプーリ回転速度センサ52からの信号、セカンダリプーリ回転速度センサ53からの信号などに基づいてトルクコンバータ2、前後進切替機構3、無段変速機4などに供給する油圧を制御して、トルクコンバータ2におけるロックアップクラッチ10の締結状態、前後進切替機構3の前進クラッチ12、後進ブレーキ13の締結状態、無段変速機4の変速比などを制御する。
【0029】
次に本実施形態の作用について説明する。
【0030】
ロックアップクラッチ10が、解放状態、またはスリップ状態となっており、ポンプインペラ7の回転速度がタービンランナ8の回転速度よりも高い、すなわち、キャリア22の回転速度がサンギヤ20の回転速度よりも高い場合には、ワンウェイクラッチ24はトルクの伝達を行わない。この場合、第1遊星歯車機構6は、増速機構として機能し、ポンプインペラ7の回転は第1遊星歯車機構6によってスプロケット9、27の歯数比以上に増速されてオイルポンプ5の回転軸5aに伝達される。そのため、エンジンの回転速度(ポンプインペラ7の回転速度)が低い場合であっても、オイルポンプ5の回転軸5aの回転速度を高くしてオイルポンプ5から吐出される油の流量を多くすることができ、オイルポンプ5は車両で必要な油圧を供給することができる。
【0031】
ロックアップクラッチ10が、ロックアップ(完全締結)状態となると、タービンランナ8の回転速度とポンプインペラ7の回転速度とが等しくなり、サンギヤ20の回転速度とキャリア22の回転速度とが等しくなるので、ポンプインペラ7の回転は第1遊星歯車機構6によって増速されず、オイルポンプ5はポンプインペラ7の回転速度、つまりエンジンの回転速度に応じて油を吐出する。ロックアップ状態となっている場合は、エンジンの回転速度は比較的高く、オイルポンプ5は車両で必要な油圧を十分に供給できる。
【0032】
ワンウェイクラッチ24を設けず、ロックアップクラッチ10が、解放状態であり、ポンプインペラ7の回転速度がタービンランナ8の回転速度よりも低くなるような場合、例えばアクセルペダルの踏み込みがないコースト走行中に解放状態となった場合には、第1遊星歯車機構6は、リングギヤ23の回転速度をキャリア22の回転速度に対して低くする減速機構として機能する。そのため、オイルポンプ5の回転軸5aの回転速度が低くなり、オイルポンプ5は車両で必要な油圧を供給できないおそれがある。
【0033】
本実施形態では、ロックアップクラッチ10が、解放状態であり、ポンプインペラ7の回転速度がタービンランナ8の回転速度よりも低くなるような場合に、ワンウェイクラッチ24が係合してトルクの伝達を行うので、キャリア22とサンギヤ20とが一体回転して両者の回転速度が等しくなる。そのため、第1遊星歯車機構6は減速機構として機能せず、リングギヤ23の回転速度はサンギヤ20の回転速度(キャリア22の回転速度)と等しくなり、車両で必要な油圧が不足することが抑制される。
【0034】
次に本実施形態の効果について説明する。
【0035】
本実施形態では、第1遊星歯車機構6のキャリア22にポンプインペラ7の回転を入力し、サンギヤ20にタービンランナ8の回転を入力し、リングギヤ23にオイルポンプ5の回転軸5aを連結する。そして、サンギヤ20とキャリア22との間に、ポンプインペラ7の回転速度がタービンランナ8の回転速度よりも低くなる場合に、オイルポンプ5の回転軸5aの回転速度が第1遊星歯車機構6によって低下することを抑制するワンウェイクラッチ24を備える。これにより、コースト走行中にロックアップクラッチ10が解放されてトルクコンバータ2が解放状態となった場合でも、タービンランナ8の回転が第1遊星歯車機構6によって減速されてオイルポンプ5に入力することを阻止し、オイルポンプ5から吐出される油が少なくなることを抑制し、車両で必要な油圧が不足することを防止することができる(請求項1、2に対応する効果)。
【0036】
ワンウェイクラッチ24を設けることで、コースト走行中にトルクコンバータ2が解放状態となった場合でも、複雑な制御を用いずに車両で必要な油圧が不足することを抑制することができる。ポンプインペラ7の回転速度がタービンランナ8の回転速度よりも高い場合にはワンウェイクラッチ24はトルクを伝達せず、ワンウェイクラッチ24がトルクを伝達するのは、ポンプインペラ7の回転速度がタービンランナ8の回転速度よりも低くなる場合である。このとき、ワンウェイクラッチ24に加わるトルクは小さいので、比較的小さなトルク容量のワンウェイクラッチ24を用いることができる。そのため、第1遊星歯車機構6を大型にすることなく、コストを抑制することができる(請求項2に対応する効果)。
【0037】
タービンランナ8の回転を、前後進切替機構3のクラッチパック15に係合する第2スプロケット16からサンギヤ20(第2回転部材)に入力し、ポンプインペラ7の回転を、壁部14よりもトルクコンバータ2側にてポンプインペラ7に装着された第1スプロケット9からキャリア22(第1回転部材)に入力する。壁部14と第2スプロケット16、壁部14と第1スプロケット9とは相対回転するため、壁部14と第2スプロケット16、壁部14と第1スプロケット9との間は隙間を有している。従って、第1スプロケット9と第2スプロケット16とは壁部14の軸方向寸法に加えて両隙間分、軸方向に離間している。すなわちサンギヤ20とキャリア22とは上述した壁部14の軸方向寸法と両隙間とを加算した分、軸方向に離間している(デッドスペースが存在する)。サンギヤ20とキャリア22との間に配されるワンウェイクラッチ24は、トルクコンバータ2の出力軸2aの径方向における壁部14の延長上、すなわち、デッドスペースに配されるため、従来の構造に対してワンウェイクラッチ24の追加する際、デッドスペースを有効に利用することができ、軸方向における寸法が長くなることを抑制することができる。また、第2スプロケット16をクラッチパック15に設けることで、複雑な構成とせずに第2スプロケット16を設け、第2スプロケット16からタービンランナ8の回転を取り出すことができる(請求項3に対応する効果)。
【0038】
また、ワンウェイクラッチ24の代わりに通常のクラッチを設けてもよい。ロックアップクラッチ10が解放状態となり、車両で必要な油圧が不足すると予測される場合に、コントローラ50によってクラッチを締結、またはスリップさせることで、第1遊星歯車機構6の減速作用を抑制しオイルポンプ5から吐出される油が少なくなることを抑制し、車両で必要な油圧が不足することを防止することができる(請求項4に対応する効果)。
【0039】
なお、車両で必要な油圧が不足するかどうかは、タービンランナ8の回転速度及びポンプインペラ7の回転速度に基づいてコントローラ50によって予測する。例えばタービンランナ8の回転速度及びポンプインペラ7の回転速度、各スプロケットの歯数からオイルポンプ5の回転軸5aの回転速度を算出して予測する。コントローラ50は、車両に設けられる回転速度センサに基づいて予測することが可能であり、オイルポンプ5の吐出圧を検出するセンサを設けることなく、車両で必要な油圧が不足するかどうか予測することができる(請求項5に対応する効果)。
【0040】
上記実施形態の第1遊星歯車機構6はシングルピニオン型、ダブルピニオン型であってもよい。なお、シングルピニオン型はダブルピニオン型よりも低コストであり、容易な構成によって本実施形態の発明を実行することができる。
【0041】
上記実施形態では、ポンプインペラ7の回転を第1遊星歯車機構6のキャリア22に入力し、タービンランナ8の回転を第1遊星歯車機構6のサンギヤ20に入力し、オイルポンプ5の回転軸5aを第1遊星歯車機構6のリングギヤ23に連結したが、タービンランナ8の回転をリングギヤ23に入力し、オイルポンプ5の回転軸5aをサンギヤ20に連結してもよい。この構成としても本実施形態の効果を得ることができる。
【0042】
第1スプロケット9と第4スプロケット27との歯数比(ポンプインペラ7の回転に対するキャリア22の増速比)、第2スプロケット16と第3スプロケット25との歯数比(タービンランナ8の回転に対するサンギヤ20の増速比)は適宜決めることができる。例えばポンプインペラ7の回転に対するキャリア22の増速比をタービンランナ8の回転に対するサンギヤ20の増速比よりも大きくすると、コースト走行中にロックアップクラッチ10が解放状態となっても、直ぐにはキャリア22の回転速度が、サンギヤ20の回転速度よりも低くならず、オイルポンプ5の回転軸5aの回転速度が低下することを抑制し、車両で必要な油圧が不足することを抑制することができる。
【0043】
上記実施形態では、エンジンを駆動源として用いたが、これに限られることはなく、例えば電動モータを駆動源、またはエンジンおよび電動モータを駆動源としてもよい。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0045】
2 トルクコンバータ(流体継手機構)
3 前後進切替機構(回転機構)
5 オイルポンプ
6 第1遊星歯車機構(差動機構)
10 ロックアップクラッチ
14 壁部
24 ワンウェイクラッチ(抑制手段)
50 コントローラ(制御手段)
図1
図2
図3