【課題を解決するための手段】
【0021】
このように、第一の態様によれば、本発明の主題の一つは、その後の工程で無電解法により金属層を堆積させて被覆できるように基板表面を活性化するための溶液であって、上記表面は、ポリマーのみからなるか、又は、ポリマーから形成される少なくとも1つの領域と、酸化物、特に酸化ケイ素から形成される少なくとも1つの領域とを含むものであり、
A)・式(I)のパラジウム錯体:
【0022】
【化1】
(式中、
・R1及びR2は同一で、H、CH
2CH
2NH
2、CH
2CH
2OHを表すか;又は
R1はHを表し、且つ、R2はCH
2CH
2NH
2を表すか;又は
R1はCH
2CH
2NH
2を表し、且つ、R2はCH
2CH
2NHCH
2CH
2NH
2を表すか;又は
R1はHを表し、且つ、R2はCH
2CH
2NHCH
2CH
2NHCH
2CH
2NH
2を表し、
・Xは、Cl
−;Br
−;I
−;H
2O,NO
3−;CH
3SO
3−;CF
3SO
3−;CH
3−Ph−SO
3−;CH
3COO
−からなる群から選択される配位子を表す)、
・式IIa又はIIbのパラジウム錯体:
【0023】
【化2】
(式中、
・R1及びR2は上記と同義であり、
・Yは、
・2つのモノアニオン、好ましくは、Cl
−;PF
6−;BF
4−;NO
3−;CH
3SO
3−;CF
3SO
3−;CH
3−C
6H
4−SO
3−;CH
3COO
−からなる群から選択される2つのモノアニオンか、又は
・ジアニオン、好ましくはSO
42−
から形成される2つの負電荷を含む対イオンを表す)
からなる群から選択される1以上のパラジウム錯体から形成される活性化剤と;
B)少なくとも2つのグリシジル官能基を含む化合物、及び、少なくとも2つのイソシアネート官能基を含む化合物からなる群から選択される1以上の有機化合物から形成される結合剤と;
C)上記活性化剤及び上記結合剤を溶解可能な1以上の溶媒から形成される溶媒系と
を含有することを特徴とする溶液である。
【0024】
以下、式(IIa)及び(IIb)の化合物をまとめて「式(II)の化合物」と称することもある。
【0025】
本発明の具体的な一特徴によれば、上記溶液は、
・上記活性化剤を10
−6M〜10
−2M、好ましくは10
−5M〜10
−3M、より好ましくは5×10
−5M〜5×10
−4Mの濃度で、
・上記結合剤を10
−5M〜10
−1M、好ましくは10
−4M〜10
−2M、より好ましくは5×10
−4M〜5×10
−3Mの濃度で含有する。
【0026】
全く新規なものとして、本発明に係る溶液の活性化剤は、上述の式(I)及び(II)に対応する1以上のパラジウム錯体から形成される。
【0027】
式(I)の錯体は、下記反応スキームに従って、式(III)のパラジウム塩を式(IV)の二座窒素配位子と反応させることにより調製することができる。
【0028】
【化3】
【0029】
式中、X、R1及びR2は上で定義したものと同義である。
【0030】
より具体的には、式(III)のパラジウム塩は、0.2M塩酸水溶液中に40℃〜80℃の温度、好ましくは約60℃の温度で10〜20分間、好ましくは約20分間、溶解させて、式:H
2PdCl
4の可溶性錯体を得る。
【0031】
反応終了時に、反応媒体に式(IV)の二座窒素配位子を1当量添加し、40℃〜80℃の温度、好ましくは約60℃の温度で、1〜3時間、好ましくは約2時間保持し、式(I)の錯体を得る。配位子を添加することで反応媒体の色が変化する。
【0032】
次に、上記溶媒を留去し、固体残留物に対してエタノールなどの溶媒中で再結晶処理を施す。
【0033】
出発物質であるパラジウム化合物は、塩化パラジウム(PdCl
2)であることが好ましい。
【0034】
あるいは、式(III)のパラジウム塩は、式[PdX
4]
2−のパラジウム塩、例えば、K
2PdCl
4、Li
2PdCl
4、Na
2PdCl
4、又は、(NH
4)
2PdCl
4などに置き換えることもできる。
【0035】
本発明において使用できる式(IV)のアミン誘導体の好ましい例として、特に以下の化合物が挙げられる。
・ジエチレントリアミン(R1が水素原子を表し、R2がCH
2CH
2NH
2を表す場合の(IV)の化合物);
・N,N’−ビス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン(R1及びR2が同一で、CH
2CH
2OHを表す場合の(IV)の化合物)。
【0036】
本発明において特に好ましいアミン化合物は、ジエチレントリアミンである。
【0037】
式(II)の錯体は、下記反応スキームに従って、式(I)の錯体の調製と同様にして調製することができる。
【0038】
【化4】
【0039】
式中、X、R1及びR2は上で定義したものと同義である。
【0040】
より具体的には、式:H
2PdCl
4の可溶性錯体は上で説明した方法と同じ方法により形成される。
【0041】
反応終了時に、反応媒体に式(IV)の二座窒素配位子を2当量添加し、60℃〜80℃の温度で8〜15時間、好ましくは約12時間保持し、式(IIa)及び(IIb)の錯体を得る。
【0042】
あるいは、式(II)の錯体は、式(I)の錯体に、適当な溶媒中に混ぜた二座窒素配位子を1当量添加し、60℃〜80℃の温度、好ましくは約70℃の温度で、8〜15時間、好ましくは約12時間、反応媒体を保持することによって、式(I)の錯体から調製することもできる。これら2つの場合において、反応媒体に銀塩を添加することで反応を促進することもできる。
【0043】
上記反応スキームには、反応によって2つのcis及びtrans錯体が得られることが示されているが、これらは、R1がHを表し、R2がCH
2CH
2NH
2を表す場合に限って形成される錯体である。当業者であれば、R1及びR2が共にCH
2CH
2NH
2基以上の分子量を有する基を表す場合に、統計学に基づいた複数の錯体の混合物が得られることを容易に理解するであろう。このような混合物は工業的規模で用いることができ、所望の結果を得る上で必ずしも精製する必要がないことは明らかである。
【0044】
本発明に係る溶液の必須成分の1つである結合剤は、少なくとも2つのグリシジル官能基を含む化合物、及び、少なくとも2つのイソシアネート官能基を含む化合物から選択される1以上の有機化合物から形成される。
【0045】
結合剤は、活性化対象のポリマー表面にパラジウムを付着しやすくするためのものである。
【0046】
本発明において使用できる少なくとも2つのグリシジル官能基を含む有機化合物の例としては、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、4,4’−ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、グリセリルトリグリシジルエーテル、及び、トリグリシジルイソシアヌレートからなる群から選択される化合物が挙げられる。
【0047】
本発明において特に好ましい化合物は、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(ジグリシジルエーテルブタンともいう)である。
【0048】
2つのイソシアネート官能基を含む化合物は、1,2−フェニレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、1,4−ジイソシアネートブタン、1,6−ジイソシアネートヘキサン、1,8−ジイソシアネートオクタン、2,4−トルエンジイソシアネート、2,5−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、trans−1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,3−ビス(1−イソシアネート−1−メチルエチル)ベンゼン、4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)からなる群から選択できる。
【0049】
結合剤は、通常、10
−5M〜10
−1M、好ましくは10
−4M〜10
−2M、より好ましくは5×10
−4M〜5×10
−3Mの濃度で活性化溶液中に存在する。
【0050】
本発明に係る溶液用の溶媒系は、上述の活性化剤及び結合剤を溶解可能なものでなければならない。
【0051】
上記溶媒系は、N−メチルピロリジノン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アルコール類、エチレングリコールエーテル類、例えばモノエチルジエチレングリコール、プロピレングリコールエーテル類、ジオキサン、及び、トルエンからなる群から選択される1以上の溶媒から形成されるものであってもよい。
【0052】
通常、溶媒系は、パラジウム錯体を溶解可能な溶媒と、エチレングリコールエーテルやプロピレングリコールエーテルなどの溶媒を組み合わせた混合物から形成されるのが有利である。
【0053】
本発明において、とりわけ毒性が非常に低いことから、特に好ましい溶媒系は、N−メチルピロリジノン(NMP)とジエチレングリコールモノエチルエーテルの混合物から形成される。これらの化合物は、1:200〜1:5、好ましくは概ね1:10の体積比で使用してもよい。
【0054】
活性化対象の表面が酸化物、例えばシリコン系半導体基板の場合にはSiO
2など、から形成される少なくとも1つの領域も含む場合に特に有用である本発明の実施形態の一変形例によれば、本発明に係る溶液は、1以上の有機シラン化合物も含有する。
【0055】
具体的には、「混合型」構造を有する基板、すなわち、ポリマーから形成される少なくとも1つの領域と酸化物から形成される少なくとも1つの領域とを含む基板について、特に、その後の工程でその表面を、銅拡散バリアを形成する金属層、とりわけNiBの金属層で被覆し、該バリア自体を銅下地層で被覆する場合に、上記化合物が基板の連続層間の接着力を良好にするために必要であることが見出された。
【0056】
また、上記1以上の有機シラン化合物が本発明に係る活性化溶液中に存在すれば、基板表面のポリマーで被覆された領域の各層の接着性が損なわれないことが明らかとなった。
【0057】
本発明の具体的な一特徴によれば、上記有機シラン化合物は、
・一般式:{X−(L)}
4−n−Si(OR)
n (Va)
(式中、
・Xは、チオール、ピリジル、エポキシ(オキサシクロプロパニル)、グリシジル、1級アミン、クロロからなる群から選択され、且つ、上記式Iのパラジウム化合物と反応することができる官能基を表し、
・Lは、CH
2、CH
2CH
2、CH
2CH
2CH
2−、CH
2CH
2CH
2CH
2−、CH
2CH
2NHCH
2CH
2、CH
2CH
2CH
2NHCH
2CH
2、CH
2CH
2CH
2NHCH
2CH
2NHCH
2CH
2、CH
2CH
2CH
2NHCH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2、Ph、Ph−CH
2、及び、CH
2CH
2−Ph−CH
2(Phはフェニル核)からなる群から選択されるスペーサーアームを表し、
・Rは、CH
3、CH
3CH
2、CH
3CH
2CH
2、及び、(CH
3)
2CHからなる群から選択される基であり、
・nは、1、2又は3の整数である);又は
・一般式:(OR)
3Si−(L)−Si(OR)
3 (Vb)
(式中、
・Lは、CH
2CH
2CH
2NHCH
2CH
2NHCH
2CH
2CH
2、及び、CH
2CH
2CH
2−S−S−CH
2CH
2CH
2からなる群から選択されるスペーサーアームを表し、
・Rは、CH
3、CH
3CH
2、CH
3CH
2CH
2、及び、(CH
3)
2CHからなる群から選択される基である)
に相当する。
【0058】
式(Va)又は(Vb)の化合物は、例えば、下記化合物から選択される:(3−アミノプロピル)トリエトキシシラン、(3−アミノプロピル)トリメトキシシラン、m−アミノフェニルトリメトキシシラン、p−アミノフェニルトリメトキシシラン、p,m−アミノフェニルトリメトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、m,p−(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−(4−ピリジルエチル)トリエトキシシラン、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン、N−(3−トリメトキシシリルエチル)エチレンジアミン、N−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)トリエトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]ジスルフィド、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、(p−クロロメチル)フェニルトリメトキシシラン、m,p−((クロロメチル)フェニルエチル)トリメトキシシラン。
【0059】
本発明において使用できる好ましい有機シラン化合物として、特に以下のものが挙げられる。
・式(Va)の化合物(式中、
XがNH
2基を表す場合に、
LがCH
2CH
2CH
2−を表し、且つ、RがCH
3を表す((3−アミノプロピル)トリメトキシシラン又はAPTMSとして知られる化合物)か、又は
LがCH
2CH
2CH
2−を表し、且つ、RがCH
3CH
2を表す((3−アミノプロピル)トリエトキシシラン又はAPTESとして知られる化合物)か、又は
LがCH
2CH
2NHCH
2CH
2を表し、且つ、RがCH
3を表す(N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン又はDATMS又はDAMOとして知られる化合物)か;又は
XがSHを表し、LがCH
2CH
2CH
2−を表し、且つ、RがCH
2−CH
3を表す((3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン又はMPTESとして知られる化合物)か;又は
XがC
6H
5Nを表し、LがCH
2CH
2−を表し、且つ、RがCH
2−CH
3を表す(2−(4−ピリジルエチル)トリエトキシシラン又はPETESとして知られる化合物)か;又は
XがCHCH
2Oを表し、LがCH
2CH
2CH
2を表し、且つ、RがCH
3を表す((3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン又はEPTMSとして知られる化合物)か;又は
XがClを表し、LがCH
2CH
2CH
2を表し、且つ、RがCH
3を表す(3−クロロプロピルトリメトキシシラン又はCPTMSとして知られる化合物))。
【0060】
本発明において特に好ましい有機シラン化合物は、(3−アミノプロピル)トリメトキシシラン(APTMS)である。
【0061】
上記有機シラン化合物の濃度は、通常10
−5M〜10
−1M、好ましくは10
−4M〜10
−2M、より好ましくは5×10
−4M〜5×10
−3Mであることが有利である。
【0062】
特に有利な一特徴によれば、活性化溶液は非常に少量の水を含有する。よって、水は、体積に基づいて1%未満、好ましくは0.5%未満、より好ましくは0.2%未満の濃度で存在していてもよい。
【0063】
本発明において特に好ましい活性化溶液は、
・5×10
−5M〜5×10
−4Mの濃度の下記錯体:
・式(I)の錯体(式中、
・R1はHを表し、R2はCH
2CH
2NH
2を表し、且つ、RはClを表す(この錯体は、(ジエチレントリアミン)(ジクロロ)パラデート(II)として知られている)か;又は
R1及びR2は同一で、CH
2CH
2OHを表し、且つ、XはClを表す(この錯体は、(N,N’−ビス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン)(ジクロロ)パラデート(II)として知られている))、
・式(IIa)の錯体(式中、
・R1はHを表し、R2はCH
2CH
2NH
2を表し、且つ、Yは2つのClを表す(この錯体は、trans−ビス(ジエチレントリアミン)パラデート(II)として知られている))、
・式(IIb)の錯体(式中、
・R1はHを表し、R2はCH
2CH
2NH
2を表し、且つ、Yは2つのClを表す(この錯体は、cis−ビス(ジエチレントリアミン)パラデート(II)として知られている))
からなる群から選択される1以上のパラジウム錯体から形成される活性化剤と;
・それぞれ5×10
−4M〜5×10
−3Mの濃度の1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル及び4,4’−ビスフェノールA−ジグリシジルエーテルからなる群から選択される1以上の有機化合物から形成される結合剤と;
・10
−3M〜10
−2Mの濃度の下記化合物:式(Va)の化合物(式中、XがNH
2基を表す場合に、
・LがCH
2CH
2CH
2−を表し、且つ、RがCH
3を表す(この化合物は、(3−アミノプロピル)トリメトキシシラン又はAPTMSとして知られている)か;
・LがCH
2CH
2CH
2−を表し、且つ、RがCH
3を表す(この化合物は、(3−アミノプロピル)トリエトキシシラン又はAPTESとして知られている)か;
・LがCH
2CH
2NHCH
2CH
2を表し、且つ、RがCH
3を表す(この化合物は、[3−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル]トリメトキシシラン又はDATMS又はDAMOとして知られている))
からなる群から選択される有機シラン化合物とを含有する。
【0064】
第二の態様によれば、本発明の主題は、その後の工程で無電解法により金属層を堆積させて被覆できるように基板表面を活性化するための上記溶液の使用であって、
上記表面は、ポリマーのみからなるか、又は、ポリマーから形成される少なくとも1つの領域と、酸化物から形成される少なくとも1つの領域とを含むことを特徴とする使用である。
【0065】
第一実施形態によれば、本発明を行うことで表面が活性化される基板は、高温などの過酷な条件に耐えることができる誘電特性を有するポリマーから形成されるフレキシブル基板(「フレックス」ともいう)であってもよい。この基板は特にマイクロエレクトロニクス分野で有用であり、より具体的には、フレキシブルプリント回路(FPC)の製造、あるいは、電話やラップトップの2部品間の電子接続の形成において有用である。
【0066】
このフレキシブル基板は、ポリイミド類(Kapton(登録商標)やUpilex(登録商標))、ポリエステル類(Mylar(登録商標))、ポリアミド類(Nomex(登録商標))、及び、ポリエーテルイミド類(Ultem(登録商標))などのポリマーであってもよい。
【0067】
現段階で好ましい第二実施形態によれば、本発明を行うことで表面が活性化される基板は、シリコン系半導体基板、特に電子デバイス製造を目的としたもの、とりわけ、3次元集積回路用のウェハ貫通ビアの形成を目的としたものであってもよい。
【0068】
少なくとも部分的に基板表面を形成可能なポリマーは、1級アミン基、2級アミン基、エナミン基、アルコール基、チオール基、芳香族複素環(例えば、ピリジン、ピロール又はチオフェン)基、及び、非芳香族複素環基からなる群から選択される1以上の基を含むポリマーから選択することができる。
【0069】
本発明では、「複素環基」という用語は、1つ又は2つの環を有し、1環当たり3〜8つの炭素原子を含む飽和又は部分不飽和の炭化水素系基であって、その1以上の炭素原子(1以上の水素原子と結合していてもよい)が、1以上のヘテロ原子、特に、酸素、窒素、及び硫黄から選択される1以上のヘテロ原子で置換されているものを意味する。よって、そのような基は、芳香族であっても非芳香族であってもよく、単環式であっても二環式であってもよい。
【0070】
単環式芳香族複素環基の例としては、ピリジン基、ピロール基、チオフェン基、ピラゾール基、イミダゾール基、及び、オキサゾール基が挙げられる。
【0071】
二環式複素環基の例としては、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾオキサジアゾール基、及び、インドール基が挙げられる。
【0072】
非芳香族複素環基の例としては、テトラヒドロフラン基、ピペリジン基、モルホリン基、及び、チアモルホリン基が挙げられる。
【0073】
具体的な一特徴によれば、上記ポリマーは、エレクトログラフティングにより基板表面に堆積されるポリマーである。
【0074】
エレクトログラフティングは、被覆対象の表面で、電気活性なモノマーの重合を開始させ、連鎖成長反応を利用して電気誘起重合を行うという湿式堆積技術である。
【0075】
通常、エレクトログラフティングは以下を必要とする。
・まず、開始化合物及びモノマーを含有する溶液の使用。
・次に、被覆対象の基板表面にポリマー皮膜を形成するための電気化学的プロトコル。
【0076】
エレクトログラフティングにより有機皮膜を形成するプロセスは、例えば国際公開第2007/099137号などに記載されている。
【0077】
本発明において、ポリマー皮膜は、下記工程を含むプロセスによってシリコン基板などの導電性又は半導電性の基板表面に形成できる。
a)・プロトン性溶媒、好ましくは水、より好ましくは脱イオン水又は蒸留水と;
・少なくとも1つのジアゾニウム塩と;
・上記プロトン性溶媒に可溶な少なくとも1つの連鎖重合性モノマーと;
・上記溶液のpHを7未満、好ましくは2.5未満の値に調整して上記ジアゾニウム塩を安定化するのに充分な量の少なくとも1つの酸と
を含有する溶液と上記表面を接触させる工程、
b)少なくとも20ナノメートルの厚み、好ましくは100〜500ナノメートルの厚みの皮膜を形成させるのに充分な時間、上記表面を電圧パルスモード又は電流パルスモードで分極させる工程。
【0078】
通常、上記プロセスを行うために多くのジアゾニウム塩を使用することができ、特に国際公開第2007/099218号に記載のジアゾニウム塩が挙げられる。
【0079】
好ましい一実施形態によれば、上記ジアゾニウム塩は、フェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−ブロモフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、2−メチル−4−クロロフェニルジアゾニウムクロリド、4−ベンゾイルベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−シアノフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−カルボキシフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−アセトアミドフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−フェニル酢酸ジアゾニウムテトラフルオロボレート、2−メチル−4−[(2−メチルフェニル)ジアゼニル]ベンゼンジアゾニウムスルフェート、9,10−ジオキソ−9,10−ジヒドロ−1−アントラセンジアゾニウムクロリド、4−ニトロフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレート、ナフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレート、及び、4−アミノフェニルジアゾニウムクロリドから選択することができる。
【0080】
上記ジアゾニウム塩は、フェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、及び、4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレートから選択されることが好ましい。
【0081】
上記ジアゾニウム塩は、通常、10
−3M〜10
−1M、好ましくは5×10
−3M〜3×10
−2Mの量でエレクトログラフティング溶液中に存在する。
【0082】
基板表面に皮膜を形成可能なモノマーは、下記一般式に相当する、プロトン性溶媒に可溶なビニルモノマー類から選択することができる。
【0083】
【化5】
【0084】
式中、R
1〜R
4基は同一でも異なっていてもよく、ハロゲン原子若しくは水素原子などの1価の非金属原子、又は、C
1〜C
6アルキル基、アリール基、−COOR
5基(式中、R
5は水素原子、又は、C
1〜C
6アルキルを表す)、ニトリル基、カルボニル基、アミン基、又は、アミド基などの飽和若しくは不飽和の化学基を表す。
【0085】
水溶性モノマーを使用することが好ましい。このようなモノマーは、ピリジン基を含むエチレン性モノマー、例えば、4−ビニルピリジン若しくは2−ビニルピリジン、又は、カルボキシル基を含むエチレン性モノマー、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸若しくはフマル酸、及び、それらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニア塩若しくはアミン塩、これらのカルボン酸のアミド、特にアクリルアミド及びメタクリルアミド、さらに、それらのN−置換誘導体、それらのエステル、例えば、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジル、ジメチル若しくはジエチルアミノ(エチル若しくはプロピル)(メタ)アクリレート、及び、それらの塩、それらカチオン性エステルの4級化誘導体、例えば、アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、ビニルスルホン酸、ビニルリン酸、ビニル酢酸、及び、それらの塩、アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、酢酸ビニル、N−ビニルイミダゾリン、及び、それらの誘導体、N−ビニルイミダゾール、及び、ジアリルアンモニウム型誘導体、例えば、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジメチルジアリルアンモニウムブロミド若しくはジエチルジアリルアンモニウムクロリドから選択することが有利であろう。
【0086】
本発明において特に好ましいモノマーは、4−ビニルピリジンである。
【0087】
エレクトログラフティング溶液の定量的組成は幅広い範囲内で変動してもよい。
【0088】
通常、上記溶液は、
・少なくとも0.3Mの重合性モノマーと、
・少なくとも5×10
−3Mのジアゾニウム塩と
を、重合性モノマー及びジアゾニウム塩のモル比が10〜300となるように含有する。
【0089】
3次元集積回路の製造への本発明の好ましい適用例では、エレクトログラフティングプロトコルをパルスモードで用いて、工業的制約に対応できる成長速度で連続的で均一な皮膜を得ることが有利である。
【0090】
通常、皮膜で被覆される表面の重合はパルスモードで行われ、その各サイクルは以下の特徴を有する。
・合計時間Pは、0.010秒〜2秒、好ましくは約0.11秒;
・基板表面に電位差又は電流が印加される分極時間T
onは、0.01〜1秒、好ましくは約0.02秒;
・ゼロ電位又はゼロ電流での休止時間は、0.01〜1秒間、好ましくは約0.09秒間。
【0091】
第三の態様によれば、本発明の主題は、その後の工程で無電解法により金属層を堆積させて被覆できるように基板表面を活性化するためのプロセスであって、
上記表面は、ポリマーのみからなるか、又は、ポリマーから形成される少なくとも1つの領域と、酸化物、特に酸化ケイ素から形成される少なくとも1つの領域とを含み、
上記基板表面を上述の溶液と接触させることを特徴とするプロセスである。
【0092】
この活性化プロセスは、好ましくは50〜90℃の温度で1〜30分間、より好ましくは65〜70℃の温度で5〜15分間行う。
【0093】
ポリマーで被覆した基板を活性化溶液中に浸漬することによって、基板表面を本発明に係る活性化溶液と接触させることが有利である。
【0094】
また、第四の態様によれば、本発明の主題は、
a)ポリマーのみからなるか、又は、ポリマーから形成される少なくとも1つの領域と、酸化物、特に酸化ケイ素から形成される少なくとも1つの領域とを含む基板表面、特にシリコン系基板などの表面を上述の溶液と、好ましくは50〜90℃の温度で1〜30分間、より好ましくは65〜70℃の温度で5〜15分間、接触させることによって、上記表面を活性化する工程;及び
b)その活性化した表面を無電解法により金属層、特にニッケル系金属層を堆積させて被覆する工程
を含むことを特徴とする、電子デバイスを製造するためのプロセスである。
【0095】
このようなプロセスは、導電性又は半導電性の基板の表面が少なくとも部分的に、電気絶縁皮膜形成ポリマーでできた第一内層、銅拡散バリアを形成する金属中間層、及び、銅下地外層で連続して被覆される3次元集積回路用ウェハ貫通ビアの形成に特に有用である。
【0096】
本発明のこのような別の態様におけるプロセスでは、活性化された基板表面に無電解法により堆積可能な金属であればどのようなものを使用してもよい。
【0097】
本発明の好ましい用途では、貴金属及び遷移金属、及び、それらの合金から選択される金属を使用することが好ましい。これらの金属は、リンやホウ素などの元素、又は、それらの化合物の混合物と合金化してもよい。
【0098】
そのような物質、特にニッケル系物質又はコバルト系物質は、銅の移動又は拡散を防ぐために特に有利なバリア層を構成する。
【0099】
本発明においては、ホウ素と合金化したニッケルを使用した場合に優れた結果が得られた。
【0100】
無電解法による金属層の堆積は、当業者に周知のプロセスである。
【0101】
本発明においては、
・少なくとも1つの金属塩を好ましくは10
−3M〜1Mの濃度、
・少なくとも1つ還元剤を好ましくは10
−4M〜1Mの量、
・場合によっては、少なくとも1つの安定剤を好ましくは10
−3M〜1Mの量、及び
・pHを6〜11の値、好ましくは8〜10の値に調整するための薬剤
を含有する溶液、好ましくは水溶液と、活性化した基板表面を、少なくとも30ナノメーターの厚み、好ましくは30ナノメーター〜100マイクロメーターの厚み、より好ましくは70ナノメーター〜200ナノメーターの厚みの金属皮膜を形成できる条件下で、接触させることによって、上記表面の被覆を行う。
【0102】
上記金属の金属塩は、上記金属の酢酸塩、アセチルアセトネート、ヘキサフルオロリン酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩又はテトラフルオロホウ酸塩からなる群から選択される水溶性塩であることが有利である。
【0103】
本発明において、好ましい金属塩は、硫酸ニッケル六水和物である。
【0104】
上記還元剤は、次亜リン酸及びその塩、ボラン誘導体、グルコース、ホルムアルデヒド、及び、ヒドラジンからなる群から選択することが有利である。
【0105】
本発明において、好ましい還元剤は、ボラン誘導体、特にジメチルアミノボラン(DMAB)などである。
【0106】
上記安定剤は、エチレンジアミン、クエン酸、酢酸、コハク酸、マロン酸、アミノ酢酸、リンゴ酸、又は、これらの化合物のアルカリ金属塩からなる群から選択することができる。
【0107】
本発明において、好ましい安定剤はクエン酸である。
【0108】
通常、上記金属層は、層の所望の厚みにより異なるが、40〜90℃、好ましくは70℃の温度で30秒〜20分間、上述の溶液中に浸漬することによって形成することができる。
【0109】
有利な一実施形態によれば、上記層に対して、不活性又は還元的雰囲気下、200〜400℃、好ましくは250℃の温度で1分〜30分間、好ましくは約10分間、アニールを行ってもよい。
【0110】
本発明の好ましい用途においては、上述のプロセスは、銅下地層をさらに形成するための工程を行って終了することとなる。
【0111】
銅下地層(copper germination layer:銅シード層)は、
a)・少なくとも1つの溶媒と、
・14〜120mM、好ましくは16〜64mMの濃度の銅イオンと、
・エチレンジアミンと
を含有し、
・エチレンジアミン及び銅のモル比が1.80〜2.03であり、
・上記組成物のpHが6.6〜7.5である
溶液と基板の金属表面を接触させる工程;
b)上記銅下地層を形成させるのに充分な時間、上記表面を分極させる工程
を含む湿式電着プロセスにより形成することが有利である。
【0112】
好ましい一実施形態によれば、上記溶液は、銅イオンを16〜64mMの濃度で、銅イオン及びエチレンジアミンのモル比が好ましくは1.96〜2.00になるように含有する。
【0113】
溶媒の性質は本質的に限定されない(但し、溶液の活性種を充分に溶解し、電着を妨げないものとする)が、水であることが好ましい。
【0114】
通常、銅イオン源は、銅塩、特に、硫酸銅、塩化銅、硝酸銅、酢酸銅、好ましくは硫酸銅、より好ましくは硫酸銅五水和物などである。
【0115】
好ましい一実施形態によれば、被覆対象の表面と上記液体との接触は、電着工程前に電気分極させることなく、すなわち、対電極、又は、上記表面上の参照電極に電流又は電位を印加することなく行う。
【0116】
皮膜形成後に銅下地層で被覆された基板を分離するための工程は本質的に限定されない。
【0117】
このプロセスでは、電着により皮膜を形成するための工程を、所望の皮膜を形成させるのに充分な時間行う。この時間は当業者であれば容易に設定でき、皮膜の成長度合いは、堆積時間内に回路に流れた電流の時間積分に等しい電荷に依存する(ファラデーの法則)。
【0118】
皮膜形成工程が行われる間、定電流(galvanostatic)モード(印加電流固定)、又は、定電圧(potentiostatic)モード((場合によっては参照電極に対して)印加電位固定)、又は、パルスモード(パルス電流又はパルス電圧)のいずれかで、被覆対象の表面を分極させてもよい。
【0119】
通常は、パルスモードで、好ましくは電流ギャップを印加するようにして、分極させれば、特に良好な皮膜が得られることが明らかとなった。
【0120】
通常、単位面積当たりの最大電流が0.6mA/cm
2〜10mA/cm
2、特に1mA/cm
2〜5mA/cm
2の範囲で、単位面積当たりの最小電流が0mA/cm
2〜5mA/cm
2、好ましくは0mA/cm
2の範囲に相当する電流ギャップを印加することで上記工程を行ってもよい。
【0121】
より具体的には、最大電流での分極時間は、2×10
−3〜1.6秒、好ましくは0.1〜0.8秒、例えば約0.36秒であってもよく、一方、最小電流での分極時間は、2×10
−3〜1.6秒、好ましくは0.1〜0.8秒、例えば約0.24秒であってもよい。
【0122】
この工程中に行うサイクル数は、皮膜の所望の厚みによって決まる。
【0123】
好適な条件下において堆積速度が約0.3nm/秒となることが明らかとなったことから、当業者であれば、通常、実行サイクル数を容易に設定できよう。
【0124】
このプロセスにより、「ウェハ貫通ビア」型構造の銅拡散バリアを形成する金属表面に50nm〜1μm、好ましくは200〜800nm、例えば約300nmなどの厚みを有する銅下地層を形成することができた。
【0125】
以下の添付図面を関連づけて示された下記実施例の説明を参照することにより本発明の理解がより深まるであろう。但し、下記実施例は本発明を限定するものではない。