(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施形態により説明する。
<フッ素ゴム組成物>
本実施形態のフッ素ゴム組成物は、フッ素ゴム及びカーボンブラックを含んでなり、前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N
2SA)が25m
2/g以上180m
2/g以下、ジブチルフタレート(DBP)吸収量が60ml/180g以上180ml/100g以下であり、前記フッ素ゴムが、特定の種類の共重合体から選ばれる少なくとも1種であり、前記ゴム成分に前記カーボンブラックを配合する混練工程(A)における混練機のローター表面の平均せん断速度が100(1/秒)以上、混練最高温度T
mが120℃以上200℃以下であることを特徴とする。
【0012】
前記のように、フッ素ゴムそのものは機械的特性が十分でなく、成形材として使用するためにはより耐性が要求される。一方、カーボンブラックはゴムの補強剤として優れることが知られており、特に耐摩耗性あるいは強度の要求されるゴム製品には不可欠の充填剤である。
カーボンブラックと一般のゴムとを混合するとゲルを形成することが知られている。そして、このゲルがゴム中でどのようなミクロ構造を形成するかにより、当該ゴムの機械的特性が大きく左右されると考えられる。
【0013】
本実施形態では、フッ素ゴムにカーボンブラックを混合した場合にもゴム中でゲル(いわゆる「カーボンゲル」)が形成されることから、カーボンブラック種の選択等の配合材料の最適化や後述するようなゴムの混練り方法の工夫等を行って前記カーボンゲルのミクロ構造を制御することにより、得られるフッ素ゴム組成物の加硫後の引張強さや切断時伸びといった機械的特性が大きく改良されることが見出された。
【0014】
本実施形態のフッ素ゴム組成物は、フッ素ゴムからなるゴム成分及びカーボンブラックを含むものである。
(フッ素ゴム)
前記フッ素ゴムは、パーフルオロフッ素ゴム、非パーフルオロフッ素ゴムであり、 より具体的には、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、パーフルオロアルキルビニルエーテル及びプロピレンから選ばれる少なくとも1種とフッ化ビニリデンとの共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体並びにテトラフルオロエチレン/プロピレン共重合体から選ばれる少なくとも1種である。これらの中では、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、パーフルオロアルキルビニルエーテル及びプロピレンから選ばれる少なくとも1種とフッ化ビニリデンとの共重合体(特に、二元共重合体又は三元共重合体)が好ましい。
本実施形態におけるゴム成分はフッ素ゴムのみからなることが好ましいが、本発明の課題の解決に反しない範囲で、エピクロルヒドリンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム等の他のゴムを少量配合しても良い。
【0015】
(カーボンブラック)
本実施形態のフッ素ゴム組成物に配合されるカーボンブラックは、ファーネス法で製造されるファーネスブラックが好ましく、特にハードブラックが好ましい。ここで、該ハードブラックとは、SAF、ISAF、HAF等を指す。そして、本実施形態では、配合されるカーボンブラックの窒素吸着比表面積(以下、「N
2SA」という。)が25m
2/g以上180m
2/g以下であり、かつジブチルフタレート吸収量(以下、「DBP吸収量」という。)が60ml/100g以上180ml/100g以下であることが必要である。
【0016】
N
2SAが25m
2/gに満たないと、カーボンブラック補強効果が得られず、一方、N
2SAが180m
2/gを超えると、カーボンブラックゲル生成が過剰となり、所定のゴム強度、伸びが各々得られなくなる。用いるカーボンブラックのN
2SAは30m
2/g以上160m
2/g以下であることが好ましく、40m
2/g以上150m
2/g以下であることがより好ましい。
【0017】
また、カーボンブラックのDBP吸収量が60ml/100gに満たないと、N
2SAの場合と同様にカーボンブラック補強効果が得られず、一方、DBP吸収量が180ml/100gを超えると、これもN
2SAの場合と同様にカーボンブラックゲル生成が過剰となり、所定のゴム強度、伸びが各々得られなくなる。用いるカーボンブラックのDBP吸収量は70ml/100g以上160ml/100g以下であることが好ましく、80ml/100g以上150ml/100g以下であることがより好ましい。
【0018】
以上のN
2SA及びDBP吸収量を満足するカーボンブラックとしては、例えば、GPF(N
2SA:27m
2/g、DBP吸収量:87ml/100g)、FEF(N
2SA:42m
2/g、DBP吸収量:115ml/100g)、LI−HAF(N
2SA:74m
2/g、DBP吸収量:103ml/100g)、HAF(N330、N
2SA:77m
2/g、DBP吸収量:101ml/100g)、N−339(N
2SA:83m
2/g、DBP吸収量:128ml/100g)、N−351(N
2SA:74m
2/g、DBP吸収量:124ml/100g)、IISAF(N285、N
2SA:98m
2/g、DBP吸収量:124ml/100g)、ISAF(N220、N
2SA:115m
2/g、DBP吸収量:113ml/100g)、N−234(N
2SA:124m
2/g、DBP吸収量:125ml/100g)、SAF(N110、N
2SA:139m
2/g、DBP吸収量:113ml/100g)、SAF−HS(N
2SA:142m
2/g、DBP吸収量:130ml/100g)等が挙げられる。
これらの中では、LI−HAF、HAF、ISAFが特に好ましい。
【0019】
上記のカーボンブラックは、例えば、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上50質量部以下で用いることが好ましく、より好ましくは10質量部以上40質量部以下、特に好ましくは15質量部以上35質量部以下で用いることができる。
なお、上記のカーボンブラックは、一種を単独で用いても良いし、複数種を併用しても良い。
【0020】
(加硫系配合剤)
本実施形態のフッ素ゴム組成物にさらに配合される加硫系配合剤としては、有機過酸化物、共架橋剤及び所望により配合される架橋助剤としての金属化合物が挙げられる。
有機過酸化物としては、架橋剤としての働きを有していれば特に限定されず、例えばベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルヒドロパーオキサイド、2,4−ビクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、1,1−ジ(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3,1,3−ジ(2−tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、n−ブチル−4,4−ジ(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ(パーオキシルベンゾエート)等が挙げられる。
これらの中では、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサンなどのジアルキルパーオキサイドが特に好ましい。
【0021】
上記有機過酸化物は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上3.0質量部以下、より好ましくは0.2質量部以上2.5質量部以下、特に好ましくは0.3質量部以上2.0質量部以下で用いることができる。有機過酸化物の配合量が0.1質量部以上3.0質量部以下であると、高温伸びと強度とのバランス設計をコントロールすることができる。
上記の有機過酸化物は、一種を単独で用いても良いし、複数種を併用しても良い。
【0022】
また、本実施形態のフッ素ゴム組成物にさらに配合される共架橋剤としては、例えばトリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、トリビニルイソシアヌレート、トリ(5−ノルボルネン−2−メチレン)シアヌレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリアリルホルマール、トリアリルトリメリテート、ジプロパギルテレフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5−トリス(2,3,3−トリフルオロ−2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン)、亜リン酸トリアリル、N,N−ジアリルアクリルアミド、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N’,N’−テトラアリルテトラフタラミド、N,N,N’,N’−テトラアリルマロンアミド、2,4,6−トリビニルメチルトリシロキサン、トリアリルホスファイト等が使用できるが、これらに限定されない。
上記の共架橋剤の内、加硫性、加硫物の物性の点から、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好ましい。
【0023】
上記の共架橋剤は、ゴム成分100質量部に対して、0.1質量部以上3.0質量部以下で用いることが好ましい。配合量が上記範囲であれば、高温伸びと強度とのバランス設計をコントロールすることができる。上記の共架橋剤は、ゴム成分100質量部に対してより好ましくは0.3質量部以上2.5質量部以下、特に好ましくは0.5質量部以上2.0質量部以下で用いることができる。
なお、上記の共架橋剤は、一種を単独で用いても良いし、複数種を併用しても良い。
【0024】
また、本実施形態のフッ素ゴム組成物に所望により配合される架橋助剤としての金属化合物は、受酸剤(主として、加硫により生ずる酸性物質を吸収する作用を有するもの)として機能する金属酸化物や金属水酸化物が挙げられる。
金属酸化物としては、亜鉛華(ZnO)、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等が挙げられ、これらの内、亜鉛華(ZnO)、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等の2価の金属酸化物が好ましい。
【0025】
上記の金属化合物は、例えば、ゴム成分であるフッ素ゴム100質量部に対して、好ましくは0質量部以上20質量部以下、より好ましくは0質量部以上15質量部以下、特に好ましくは1質量部以上10質量部以下で用いることができる。
上記の金属化合物は、一種を単独で用いても良いし、複数種を併用しても良い。
【0026】
本実施形態のフッ素ゴム組成物には、以上の成分以外に、ゴム配合剤として、例えば、カーボン繊維等の補強剤;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、チタン酸カリウム、酸化チタン、硫酸バリウム、硼酸アルミニウム、ガラス繊維、アラミド繊維、珪藻土、ウォラストナイト等の充填剤;ワックス、金属セッケン、カルナバワックス、アルキルアミン等の加工助剤;老化防止剤;熱可塑性樹脂;クレー、その他繊維状充填剤などのようなゴム工業で一般的に使用されている配合剤を、本実施形態において使用する有機過酸化物及び共架橋剤の効果を損なわない範囲で必要に応じて配合できる。
【0027】
なお、上記のうち加工助剤は、ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下含まれることが好ましく、特にアルキルアミンは0.1質量部以上5.0質量部以下含まれることが好ましく、0.5質量部以上3.0質量部以下含まれることがより好ましい。また、前記アルキルアミンとしては、例えば、Farmin(ファーミン) 86T(花王(株)製)、Armeen 18D(アクゾ社製)が挙げられる。
【0028】
本実施形態のフッ素ゴム組成物は、以上説明したフッ素ゴムを含有するゴム成分、及びカーボンブラックを含み、前述のカーボンゲルに基づく好適なミクロ構造が形成されるように、ゴム成分にカーボンブラックを配合する混練工程(A)を以下のように行う必要がある。
【0029】
すなわち、まず混練工程(A)における混練機のローターチップ先端(混練機がロールの場合はロール表面)の平均せん断速度を100(1/秒)以上とする。平均せん断速度が100(1/秒)に満たないと、カーボンブラックをアグリゲート単位まで分散させ、良好なカーボンゲルネットワーク補強構造を形成させることができない。
前記平均せん断速度は300(1/秒)以上とすることが好ましく、1000(1/秒)以上とすることがより好ましい。
ここで、上記平均せん断速度(γ、1/秒)は、ローター径R、ローターチップ先端クリアランスC、ローター回転数N(rpm)とすると、γ=π・R・N/15C(π:円周率)で求めることができる。
【0030】
また、前記ゴム成分にカーボンブラックを配合する混練工程(A)の混練最高温度T
mは120℃以上200℃以下とする。該混練最高温度T
mが120℃以上200℃以下であれば、ゴム成分が分解等することなくフッ素ゴムとカーボンブラックとが結合してゲルとなる、いわゆる「カーボンゲル」が好適に生成するので、高い引張強さと高い切断時伸びとを両立させることができる。これらの観点から、T
mは140℃以上170℃以下がより好ましく、155℃以上165℃以下が更に好ましい。
なお、混練最高温度T
mは、混練機内の複数個所に温度センサーを設置して検知する。
【0031】
以下に、本実施形態において使用される典型的な密閉型混練装置を説明する。
図1は、本実施形態のフッ素ゴム組成物の製造において使用される密閉型混練装置及びその装置内での混練状態の1例を示す概略図である。
図1に示す密閉型混練装置は、接線式1翼型のバッチ式密閉型混練機であって、「インターナルミキサー」と称されるものである。この密閉型混練装置10は、混練機11と動力部21、油圧シリンダー19及びガイドロット20とから構成されている。この混練機11は混練機本体12とフローティングウェイト18との組合せにより構成されている。混練機本体12は、断面半円状に形成された円筒面を2個合体した形の混練室(混練チャンバ)13を形成している。該混練室13の上方には、円筒面に形成された開口部14が設けられている。
なお、上記のインターナルミキサーとしては、バンバリー型や加圧ニーダーが一般的に用いられている。
【0032】
上記混練室13の半円形円筒面の中心軸には、一対のローター15aと15bとが設けられ、第1のローター15aは回転軸16aを、第2のローター15bは回転軸16bを有している。第1のローター15aと第2のローター15bには各々第1の羽根17aと第2の羽根17bとが設けられている。一対のローター15a及び15bは、動力部21によって第1と第2の回転軸16a及び16bを軸として、両者間に向かって互いに回転し、互いの第1の羽根17aと第2の羽根17bによって、ゴム成分とカーボンブラック等のゴム用配合材料とをせん断を掛けながら混練し、混合物1を製造する様に構成されている。
フローティングウェイト18は、混練機本体12の開口部14内側に嵌合する外周面18aが設けられていると共に、油圧シリンダー19及びガイドロット20からの圧力によりゴム成分とカーボンブラック等のゴム用配合材料が混合し易い様に押え込み圧接している。フローティングウェイト形状は、かまぼこ型よりもかもめ型が好ましいが、バンバリー型でもよい。
【0033】
図1においては、接線式1翼型のバッチ式密閉型混練機を有する密閉型混練装置を示したが、噛合式1翼型、接線式2翼型又は噛合式2翼型(2つの羽根を有するローターを2つ備えている。)あるいは接線式3翼型又は噛合式3翼型(3つの羽根を有するローターを2つ備えている。)も同様に用いられる。
開放型のオープンロールは、混練り最高温度T
mを高くすることが通常の場合困難であるので、その場合では本実施形態に係る混練工程においては使用するのは好ましくない。
【0034】
混練工程(A)(「マスターバッチ工程」という場合がある)においては、通常、最初にゴム成分が混練機内に投入され、10秒〜数分混練りした後に、カーボンブラックが投入される。カーボンブラックは一度に全量を投入しても良いし、複数回に分けて分割投入しても良い。
カーボンブラックを混練機内に投入完了した時から混練機のローターにかかるパワーが上昇し、その後徐々にパワーが低下して混練工程を終了する。混練工程(A)は、ゴム成分とカーボンブラック等との混合物が混練機から排出されて終了する。混練工程(A)終了後の混合物は、ロール(バンバリー型混練機においては、アンダーロール)等によりシート化されて次工程に移る。
【0035】
上記混練工程(A)終了後、得られた混合物は冷却され、所望により熟成工程(室温(23℃程度)に放置)を経て、通常、得られた混合物に前記加硫系配合剤を配合する混練工程(B)により、加硫性のフッ素ゴム組成物となる。
なお、所望により、混練工程(A)と混練工程(B)との間に、混練工程(A)で得られた混合物を再び混練りする工程(「マスターバッチRemill工程」または「X−ミル工程」ともいう。)を行っても良い。
また、混練工程(A)及び混練工程(B)を行うための具体的な混練装置としては、例えば、混練工程(A)ではバンバリー、ニーダー、1軸混練機、2軸混練機などを、混練工程(B)では上記混練工程(A)で用いる混練機、ロール及びミルブレンダーなどを使用することができる。
【0036】
以上説明した方法によって得られた加硫性のフッ素ゴム組成物を加圧・加熱・加硫して加硫品に成形する。
具体的には、上記加硫性のフッ素ゴム組成物を、射出成形機、圧縮成形機、加硫プレス機、オーブンなどを用いて、通常、加圧下、140℃〜230℃の温度で1〜120分程度加熱することにより、架橋(加硫)して加硫品を成形することができる。 上記の加硫は、一定の形状を形成するために架橋させる工程であり、複雑な形状では、好ましくは、金型により成形されるが、空気加熱等のオーブンでも加硫は可能である。
本実施形態では、必要に応じて2次加硫を行うこともできる。2次加硫を行う場合、上記と同様の方法でも良いが、用途によっては、例えば140℃〜230℃の温度範囲で1〜20時間熱処理しても良い。
【0037】
以上のようにして得られる本実施形態のフッ素ゴム組成物は、加硫後に以下の機械的特性を有することが望ましい。
具体的には、まず、加硫後の25℃における引張強さが10MPa以上50MPa以下、切断時伸びが400%以上800%以下であり、160℃における引張強さが1MPa以上20MPa以下、切断時伸びが150%以上500%以下であることが望ましい。
【0038】
25℃における引張強さ及び切断時伸びが上記範囲にあることにより、これまで機械的強度等が不足し使用が不可能であった工業的分野に新たに適用することが可能となる。加えて、160℃における引張強さ及び切断時伸びが上記範囲にあることにより、耐熱性と機械的特性との両立が要求される分野にまで適用が可能となり、フッ素ゴム組成物としてこれまでにない用途が拡大される。
なお、上記の切断時伸び及び引張強さは、JIS K 6251:2004に準拠して測定される。また、上記引裂強さはJIS K 6252:2001に準拠して測定される。
【0039】
<タイヤ製造用ブラダー>
本実施形態のタイヤ製造用ブラダーは、前記本実施形態のフッ素ゴム組成物を用いて製造される。具体的には、本実施形態のフッ素ゴム組成物を成型し、加硫することにより前記ブラダーを得ることができる。
一般に、タイヤの製造工程においては、タイヤの各構成部材を組み立てて生タイヤ(未加硫タイヤ)を成型する際に用いるタイヤ成型用ブラダーと、加硫時に最終的な製品タイヤ形状を付与するために用いるタイヤ加硫用ブラダーとの、大きく分けて2種類のブラダーが使用されている。本実施形態のフッ素ゴム組成物は、上記いずれのブラダーの製造用として使用することができる。
【0040】
特に、本実施形態のタイヤ成型用ブラダーは、前記本実施形態のフッ素ゴム組成物を用いることから、従来のシリコーンコーティングを必要とせず、従来に比し高強度であって使用寿命を大幅に向上することができるものであり、また、引き裂き強度も従来に比し高いものとなる。また、本実施形態のタイヤ加硫用ブラダーは、前記本実施形態のフッ素ゴム組成物を用いることから、摩擦係数が小さく、離型性が大きく向上するため、離型剤の塗布なしでブラダーと生タイヤとの密着を防止できるものであり、従来の離型剤塗布工程を省略できるとともに、タイヤ品質への悪影響も防止することができとともに、使用寿命をも大幅に向上させることが可能である。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
なお、諸特性は下記の方法に従って測定した。
【0042】
(1)切断時伸び(%)及び引張強さ(MPa)
JIS K 6251:2004に準拠して、25℃及び160℃で測定した。サンプルは、第1表に示す結果についてはダンベル状3号形、第2表に示す結果についてはダンベル状6号形(共に平行部分の厚さ2mm)を各々用いた。
(2)引裂強さ(N/mm)
JIS K 6252:2001に準拠して、23℃及び160℃で測定した。サンプルは、切込みなしアングル形(厚さ2mm)を用いた。
(3)耐疲労性
JIS K 6260:1999に準拠して、25℃にてデマチャ屈曲き裂試験を行い、破断に至る屈曲回数を求めた。
【0043】
<実施例A1〜A2、比較例A1〜A6>
(フッ素ゴム組成物の製造)
第1表に各々示す配合により、共架橋剤、有機過酸化物を除く成分を、表中に示す条件でフッ素ゴムとカーボンブラックとを混練りする混練工程(A)を実施し、混練温度が最高温度T
mに達したときに放出してマスターバッチ(混合物)を得た。なお、混練機として混練容量1リットルの密閉型ミキサー((株)モリヤマ製、DS1−5MHB−E型ニーダー)を用い、ロールタイプとして10インチロール(桜井ロール(株)製)を用いた。
混練工程(A)で得られたマスターバッチを室温(23℃)で12時間放置する熟成工程を経た後、上記のマスターバッチに第1表に示す共架橋剤及び有機過酸化物を加え、8インチのオープンロールにて100℃で混練して(混練工程(B))加硫性のフッ素ゴム組成物を得た。なお、亜鉛華及びアルキルアミンは混練工程(A)で加えてもよいし、混練工程(B)で加えてもよいし、混練工程(A)、(B)で分けて加えてもよい。
【0044】
(評価)
得られた加硫性のフッ素ゴム組成物(未加硫)をシート状に加工した後、金型中で圧力2.0MPa、温度160℃、30分の条件でプレス加硫して、厚さ2mmのシートを得た。得られた加硫後のフッ素ゴム組成物のシートを用いて、動的粘弾性試験によるせん断弾性率、切断時伸び、引張強さ、引裂強さ及び耐疲労性を前記の方法によって測定した。一方、前記未加硫のフッ素ゴム組成物のシートについて、別途動的粘弾性試験によるせん断弾性率の測定を行った。
結果を第1表に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
[注]
*1 フッ素ゴム:フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体、デュポンエラストマー(株)製、商品名「GBL600S」
*2 カーボンブラック−A:MT(N
2SA:12m
2/g、DBP吸収量:41ml/100g)、Cancarb社製、商品名「Thermax N−990」
*3 カーボンブラック−B:GPF(N
2SA:27m
2/g、DBP吸収量:87ml/100g)、旭カーボン株式会社製、商品名「旭#60」
*4 カーボンブラック−C:ISAF(N
2SA:119m
2/g、DBP吸収量:114ml/100g)、東海カーボン(株)製、商品名「シースト6」
*5 共架橋剤:トリアリルイソシアヌレート、デュポンエラストマー(株)製、商品名「Diak−7」
*6 有機過酸化物: 2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、日油株式会社製、商品名「パーヘキサ25B40(40%有効分)」
*7 アルキルアミン:モノアルキル1級アミン、アクゾ社製、商品名「Armeen 18D」
【0047】
<実施例B1〜B
5、比較例B1〜B4>
(フッ素ゴム組成物の製造)
第2表に各々示す配合により、共架橋剤、有機過酸化物を除く成分を、表中に示す条件でフッ素ゴムとカーボンブラックとを混練りする混練工程(A)を実施し、混練温度が最高温度T
mに達したときに放出してマスターバッチ(混合物)を得た。なお、混練機としてはミキサータイプとして0.5リットルの密閉型ミキサー((株)モリヤマ製、ミックスラボ)、35リットルの密閉型ミキサ(トーシン社製)を用い、ロールタイプとして8インチロール(関西ロール社製)、22インチロール(神戸機械社製)を用いた。
混練工程(A)で得られたマスターバッチを室温(23℃)で12時間放置する熟成工程を経た後、上記のマスターバッチに第2表に示す共架橋剤及び有機過酸化物を加え、8インチのオープンロールにて100℃で混練して(混練工程(B))加硫性のフッ素ゴム組成物を得た。なお、亜鉛華及びアルキルアミンは混練工程(A)で加えてもよいし、混練工程(B)で加えてもよいし、混練工程(A)、(B)で分けて加えてもよい。
【0048】
(評価)
得られた加硫性のフッ素ゴム組成物(未加硫)をシート状に加工した後、金型中で圧力2.0MPa、温度160℃、30分の条件でプレス加硫して、厚さ2mmのシートを得た。得られた加硫後のフッ素ゴム組成物のシートを用いて、動的粘弾性試験によるせん断弾性率、切断時伸び、引張強さ、引裂強さ及び耐疲労性を前記の方法によって測定した。一方、前記未加硫のフッ素ゴム組成物のシートについて、別途動的粘弾性試験によるせん断弾性率の測定を行った。
結果を第2表に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
[注]
*1 フッ素ゴム−A:ビニリデンフロライド/ヘキサフルオロプロピレンの2元共重合体、ダイキン工業(株)製、商品名「G801」
*2 フッ素ゴム−B:ビニリデンフロライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンの3共重合体、ダイキン工業(株)製、商品名「G9074」
*3 カーボンブラック−A:MT(N
2SA:12m
2/g、DBP吸収量:41ml/100g)、Cancarb thermix社製、商品名「N990」
*4 カーボンブラック−B:GPF(N
2SA:27m
2/g、DBP吸収量:
87ml/100g)、東海カーボン株式会社製、商品名「シーストV」
*5 カーボンブラック−C:ISAF(N
2SA:119m
2/g、DBP吸収量:114ml/100g)、東海カーボン株式会社製、商品名「シースト6」
*6 カーボンブラック−D:HAF(N
2SA:79m
2/g、DBP吸収量:101ml/100g)、東海カーボン株式会社製、商品名「シースト3」
*7 共架橋剤: トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、日本化成株式会社製、商品名「タイク」(登録商標)
*8 有機過酸化物: 2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、日油株式会社製、商品名「パーヘキサ25B40」
*9 アルキルアミン:ステアリルアミン、花王(株)社製、商品名「ファーミン 86T」
【0051】
<タイヤ製造用ブラダー性能>
従来より慣用されているブチル配合ゴム組成物と、実施例A1及びB1のフッ素ゴム組成物とを用いて、タイヤ加硫用ブラダーおよびタイヤ成型用ブラダーをそれぞれ作製した。
得られたタイヤ加硫用ブラダーを用いて、タイヤサイズPSR215/60R15.5のタイヤの加硫を、ブラダー表面及び生タイヤ内面に離型剤を塗布することなく加硫時間15分で加硫時間15分でブラダーがパンクするまで実施し、その使用寿命(加硫回数)につき評価した。また、タイヤ成型用ブラダーについては、同様に一般的な乗用車用タイヤを用いて、成型可能本数を評価した。ただし、従来より慣用されているブチル配合ゴム組成物を用いたタイヤ加硫用ブラダーについては、ブラダー表面及び生タイヤ内面に離型剤を塗布した。
【0052】
その結果、タイヤ加硫用ブラダーの使用寿命は、従来のゴム組成物を用いたブラダーで300回であるのに対し、実施例A1、B1のフッ素ゴム組成物を用いたブラダーでは2000回となった。
また、タイヤ成型用ブラダーの成型可能本数については、従来のゴム組成物を用いたブラダーで3000本であったのに対し、実施例A1、B1のフッ素ゴム組成物を用いたブラダーでは10000本となった。