【実施例】
【0028】
(実施例1)支持細胞の調製
初期のマウスの胎児線維芽細胞(MEF)をC57BL/6マウスの13.5日齢の胚から単離した。胚を、帝王切開により回収し、胚の頭部、足部、内部臓器、及び尾を除去した。残った胚の部分を鋭いはさみで切り刻み、細胞消化のためにトリプシンを含むチューブに入れた。あらかじめ温めたMEF培地[DMEM+10%加熱不活性化FBS+ペニシリン(100U/mL)+ストレプトイマイシン(100U/mL)+NEAA(0.1mM)+L−グルタミン(2mM)]を加え、1時間、インキュベーター(37℃、5%CO
2)中でMEF細胞を培養した。その後、MEF細胞を、2時間、インキュベーター(37℃、5%CO
2)中で、あらかじめ温めた細胞培地[DMEM+15%加熱不活性化FBS+NEAA(0.1mM)+L−グルタミン(2mM)]で培養ディッシュにおいて培養した。増殖を抑えるようにマイトマイシンC(10μg/mL)で細胞を処理し、ES細胞の培養に必要な支持細胞を得た。
【0029】
(実施例2)幹細胞の培養
実験A.胚性幹細胞(ES細胞)の培養(実施例群)
ES細胞を培養するために、以下の工程を実施した。
(1)幹細胞の培地を調製する(DMEM+15%加熱不活性化FBS+NEAA(0.1mM)+L−グルタミン(2mM)+β−メルカプトエタノール(0.2mM))。
(2)BP含有溶液を調製し(DMSOにBPを溶解し、BP含有溶液(100mg/mL)を作る)、−20℃で該溶液を保存する。
(3)異なる量の工程(2)のBP含有溶液を、工程(1)の幹細胞の培地に加え、異なるBP含有培地を作る。各々幹細胞の培地1ミリリットルあたりBPの量は、5、10、20、又は40μgである(すなわち、実施例群の培地:BP5、BP10、BP20、及びBP40)。
(4)工程(3)のBP含有培地を用いて、ES細胞(胚胞期の129sv/Jマウスの胚から回収した)を、実施例1で得られた支持細胞上で、37℃、5%CO
2、及び95%の湿度で培養する。
【0030】
実験B.人工多能性幹細胞(iPS細胞)の培養(実施例群)
実験Aで示されたプロトコールを繰り返したが、工程(4)ではiPS細胞(理化学研究所(日本)より入手)を培養した。
【0031】
実験C.ES細胞の培養(コントロール群)
ES細胞を培養するために、以下の工程を実施した。
(1)幹細胞の培地を調製する。
LIF含有培地(BP無し):DMEM+15%加熱不活性化FBS+NEAA(0.1mM)+L−グルタミン(2mM)+β−メルカプトエタノール(0.2mM)+LIF(4ng/mL);及び
コントロール培地(BP無し):DMEM+15%加熱不活性化FBS+NEAA(0.1mM)+L−グルタミン(2mM)+β−メルカプトエタノール(0.2mM);
(2)工程(1)の培地を用いて、ES細胞(胚胞期の129sv/Jマウスの胞胚期の胚から回収した)を、実施例1で得られた支持細胞上で、37℃、5%CO
2、及び95%の湿度で培養する。
【0032】
実験D.iPS細胞の培養(コントロール群)
実験Cで示されたプロトコールを繰り返したが、工程(2)ではiPS細胞(理化学研究所(日本)より入手)を培養した。
【0033】
(実施例3)細胞生存率の評価(MTTアッセイ)
本実施例では、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)を用いて、BPをLIFに代えて用いる場合に、幹細胞の生存率に影響を与えるかについて評価した。
【0034】
MTTは、生細胞のミトコンドリア呼吸鎖において反応し得る水溶性のテトラゾリウム塩であり、MTTの構造で見られるテトラゾリウムブロミドが代謝及び還元されて、スクシネートデヒドロゲナーゼ(SDH)及びシトクロームc(cyt c)の反応下、水溶性で紫色の結晶性ホルマザンを形成する。形成される結晶の量は、生細胞の数に正比例する(SDHは死細胞から消え、MTTが還元され得ないからである)。さらに、ミトコンドリアは、環境に最も感受性の高い細胞における細胞小器官であり、そのため、MTTアッセイは、薬物により処理された細胞の生存率のマーカーとして役に立ち得る。
【0035】
実施例群の培地(BP5、BP10、BP20、及びBP40)及びコントロール群の培地(BP無し)を各々96ウェルのマイクロ培養プレートに加え、24時間から72時間、1ウェルにつき5×10
3の初期濃度でES細胞を培養した。その後、10μLの0.5mg/mL MTT(シグマ)を各ウェルに加え、細胞を2時間から4時間、37℃及び5%CO
2で、インキュベーター中でインキュベートした。培地を除去し、100μLのDMSOを各ウェルに加え、10分間、37℃で維持した。サンプルの吸光度を570nmの波長で測定し、実施例群(BP有り)及びコントロール群(BP無し)のデータを得た。コントロール群の吸光度を参照とし、各実施例群の相対的な細胞生存率を算出した。結果を表1及び
図1に示す。
【0036】
表1及び
図1に示されるように、BPのES細胞培地への添加は、幹細胞の生存率に影響を与えなかった。
【0037】
【表1】
【0038】
(実施例4)幹細胞関連遺伝子の発現レベル
実験I.RNAの抽出
実施例群の培地(BP5、BP10、BP20、及びBP40)及びコントロール群の培地(BP無し)を各々加え、下記の工程を行った。ES細胞を、6ウェルの培養ディッシュにおいて1ウェルにつき1×10
4の初期濃度で培養した。細胞が70−80%コンフルエンスに増殖するまで培地を除去し、その後各ウェルに1mLのTRIzol(インビトロジェン)を加えた。細胞を5分間インキュベートし、その後、スパチュラで剥がし、十分に溶解するように1.5mLのマクロチューブに入れた。クロロホルム(0.2mL)をマイクロチューブに加えた。混合物を15秒間、上下に振とうさせ、その後2−3分間室温でインキュベートした。その後、混合物を15分間、4℃で、12000rpmで遠心分離し、上清を他の1.5mLマイクロチューブに取り除き、イソプロパノール(0.5mL)をマイクロチューブに加えよく混合した。混合物を10分間、室温でインキュベートし、その後10分間、4℃で、12000rpmで遠心分離した。その後、上清を取り除いた。DEPC・H
2Oを含有する1mLの70%エタノールを用いて、残りの沈殿物を洗った。沈殿物を、5分間、4℃で、7500rpmで遠心分離した。上清を取り除いた。沈殿物を、真空吸引により乾燥させた。乾燥させたサンプルを0.01−0.02mLのDEPC・H
2Oに溶解させ、実施例群RNA及びコントロール群RNAを得た。両群とも、−80℃で保存した。
【0039】
実験II.cDNAの調製
上述の実験Iで得られた両群におけるRNAサンプルのOD値を、260nmの波長で測定した(RNA:OD260=1で40μg/mL溶液)。各RNAサンプル(2μL)に、サンプルの量が10μLに達するまで、RNAフリー水を加えた。2μLのオリゴ(dT)(100μg/mL)を各サンプルに加え、サンプルを5分間、65℃でインキュベートした。その後、サンプルを即座に氷上に置き、スピンダウンした。次に、6.5μLの反応溶液[4μLの5×バッファー+1μLの0.1M DTT+1μLのRNase out+0.5μLのSSIII(インビトロジェン)]をサンプルの各々に加え、サンプルを50℃で30−60分間、75℃で15分インキュベートし、実施例群cDNA及びコントロール群cDNAを得た。両群とも、−80℃で保存した。
【0040】
実験III.リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(リアルタイムPCR;Q−PCR)
本実験では、ES細胞関連遺伝子(すなわち、Oct4及びSox2等)の発現レベルを検出した。最初に、4μLの実施例群cDNA又はコントロール群cDNAを96ウェルのマイクロ反応プレートの各ウェルに加え、6μLの反応溶液[0.5μLの6μMフォーワードプライマー+0.5μLの6μMリバースプライマー+5μLのSYBR Green PCR Master mix(ロシュ)]と混合させた(SYBR Green PCR Master mixは、dNTPs、MgCl、Taq DNAポリメラーゼ、及び2×SYBR(登録商標)Green I溶液といった、Q−PCRに必要な試薬を含んでいた)。表2に示されるように、プライマーは、測定される遺伝子に従って選択された。混合物を良く混ぜ、スピンダウンし、リアルタイルPCR機器に置いた(StepOnePlus(登録商標)Real−Time PCR System、Applied Biosystems)。反応を10分間60℃で行い、その後40サイクル(95℃で15秒間、60℃で60秒間での反応)行った。Cycle threshold値(CT値)を測定した。結果を
図2及び表3に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
図2及び表3に示されるように、BP含有ES細胞培養培地を含む実施例群におけるOct4及びSox2の遺伝子発現レベルは、コントロール群のそれらに比して、顕著にアップレギュレーションされた。BP10を用いた群では、最も顕著な効果が得られた。
【0043】
【表3】
【0044】
(実施例5)アルカリフォスファターゼ染色
アルカリフォスファターゼは、幹細胞のマーカータンパク質である。染色により測定される活性は、BPが幹細胞の自己複製性及び多能性を効果的に維持し得るかについて評価するのに用いられ得る。
【0045】
実施例群の培地(BP5、BP10、BP20、及びBP40)、LIF含有培地(BP無し)及びコントロール群の培地(BP無し)を各々用いて、72時間、1ウェルにつき1×10
4の初期濃度で、6ウェルの培養ディッシュにおいてES細胞を培養した。培地を取り除き、細胞をPBSで2回洗った。次に、PBSを取り除き、1mLの80%エタノールを各ウェルに加え、2時間から24時間、4℃で固定を行った。次に、エタノールを取り除き、その後、細胞を蒸留水で1回洗った。蒸留水を再び加えて、細胞を2−3分間浸し、その後取り除いた。次に、細胞を5分間、室温で、Tris−HClバッファー(100mM、pH8.2−8.5)に浸し、その後、バッファーを取り除いた。次に、白血球アルカリフォスファターゼキット(ベクター)を用いて、20−30分間染色を行い、その後、アルカリフォスファターゼの基質の使用溶液を取り除き、細胞をTris−HClバッファー(100mM、pH8.2−8.5)に浸し、洗った。その後、蛍光顕微鏡で観察して、AP陽性クローンの数をカウントした。より高い活性を有する未分化のES細胞は、赤色を示し、一方、より低い活性を有する分化したES細胞は、薄い赤色を示し、さらには無色を示す。結果を
図3及び表4に示す。
【0046】
前述の培養条件を用いることで、実施例群の培地(BP5、BP10、BP20、又はBP40)、LIF含有培地(BP無し)及びコントロール群の培地(BP無し)を各々用いて、iPS細胞を培養した。その後、iPS細胞の染色を、前述の工程により行った。より高い活性を有する未分化のiPS細胞は、赤色を示し、一方、より低い活性を有する分化したiPS細胞は、薄い赤色を示し、さらには無色を示す。結果を
図4及び表4に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
図3、
図4及び表4に示されるように、BP含有ES細胞培地を含む実施例群では、コントロール群の培地(BP無し)に比して、AP陽性クローンが多く、実施例群におけるAP陽性クローンの数は、LIF含有培地(BP無し)を用いた群のそれと同等であった。この結果から、BPはたしかにES細胞及び/又はiPS細胞の自己複製性及び多能性を維持し得ることが示される。
【0049】
(実施例6)免疫蛍光染色
Nanog及びSSEA1もまた、幹細胞のマーカータンパク質であり、それらの発現レベルを免疫蛍光染色により評価することで、BPが幹細胞の自己複製性及び多能性を効果的に維持し得るかをさらに確かめることができる。
【0050】
実施例群の培地(BP5、BP10、BP20、又はBP40)、LIF含有培地(BP無し)及びコントロール群の培地(BP無し)を各々用いて、6ウェル培養ディッシュ(各ウェルにスライドを備える)において、72時間、1ウェルにつき1×10
4の初期濃度でES細胞を培養した。培地を取り除き、細胞をPBSで洗った。次に、PBSを取り除き、その後、4%パラホルムアルデヒドを加え、10分間室温で固定を行った。次に、パラホルムアルデヒドを取り除き、その後スライドを0.1%Tween−20/1×PBSで3回、各回10分間洗った。0.3%Tween−20/1×PBSを加え、30分間室温に保ち、染料が細胞膜に浸透して入り込むようにした。スライドを0.1Tween−20で3回洗った後、5%FBS/1×PBSを加え、2時間、室温でブロッキング反応を行い、その後、一晩、室温で、1:100の希釈で一次抗体[anti−Nanog(Novus)又はanti−SSEA1(Millipore)]と反応させた。スライドをその後0.1%Tween−20で5回洗い、その後、1:500の希釈で二次抗体[FITCコンジュゲート−anti−マウスIgG又はTRITCコンジュゲート−anti−ウサギIgG(シグマ−アルドリッチ)]と反応させた。10分間、0.1%Tween−20で洗った後、スライドを、DAPI含有UltraCruz(登録商標)Mounting mediumに載せ、倒立蛍光顕微鏡を用いて観察した。結果を、
図5A−5D及び表5に示す。
【0051】
【表5】
【0052】
前述の培養条件を用いることで、実施例群の培地(BP5、BP10、BP20、又はBP40)、LIF含有培地(BP無し)及びコントロール群の培地(BP無し)を各々用いて、iPS細胞を培養した。iPS細胞の染色を、前述の工程を用いることで行った。結果を、
図6A−6D及び表6に示す。
【0053】
【表6】
【0054】
図5A−5D、表5、
図6A−6D及び表6に示されるように、Nanog及びSSEA1の発現レベルは、コントロール群(BP無し)に比して、BP含有ES細胞培地を含む実施例群においてより高く、LIF含有培地(BP無し)を用いた群のそれと同等であった。前述の結果から、BPはたしかにES細胞及び/又はiPS細胞の自己複製性及び多能性を維持し得ることが示される。
【0055】
(実施例7)胚様体の形成及び分化
胚様体の形成及び分化もまた免疫蛍光染色により観察し、ES細胞の多能性の維持におけるBPの影響を検証した。
【0056】
実施例群の培地(BP10)を用いて、6ウェル培養ディッシュにおいて、1ウェルあたり1×10
4の初期濃度でES細胞を培養した。ES細胞を3代継代し、胚様体形成培地[DMEM+20%FBS+βメルカプトエタノール(1mM)+1%L−グルタミン+1%NEAA]を含有するUltra Low Cluster Plate(Costar)においてさらに2−3日間インキュベートし、その後、胚様体形成を観察した。胚様体を、24ウェル培養ディッシュに入れ(5−6胚様体/ウェル)、さらに3日間インキュベートした。次に、免疫蛍光染色を行い、anti−Tuj1抗体(外胚葉マーカー)、anti−α−SMA抗体(中胚葉)及びanti−Gata4抗体(内胚葉マーカー)で細胞を検出した。結果を
図7に示す。
【0057】
図7に示されるように、BPのES細胞培地への添加により、ES細胞が胚様体を形成し、さらに、外胚葉、中胚葉及び内胚葉を含むすべての3つの胚葉に分化し得た。BPはたしかに、幹細胞の多能性を維持し得ることが明白であった。
【0058】
(実施例8)幹細胞のシグナリング経路
実験A.DNAマイクロアレイ分析
DNAマイクロアレイ分析を用いて、細胞がBP含有培地により培養された場合に、細胞内の種々の経路における遺伝子発現プロファイルが影響を受けるかについて検証した。
【0059】
実施例群の培地(BP10又はBP40)、LIF含有培地(BP無し)及びコントロール群の培地(BP無し)を各々用いて、6ウェル培養ディッシュにおいて、24時間、1ウェルにつき1×10
4の初期濃度でES細胞を培養した。次に、トータルRNAの抽出を行い、得られたRNAをCy3でラベルした。サンプルを、使用説明書に従って、Agilent Mouse G3 Whole Genome Oligo 86×60K microarrays(Agilent)とハイブリダイズさせた。アレイをマイクロアレイスキャナーシステムでスキャンし、データをGeneSpring GX software(Agilent)を用いて分析した。
【0060】
遺伝子の生物学的機能及び関係するシグナリング経路を、KEGG及びBabelomicsのデータベースに従って分類して、発現レベルにおいて顕著に調節されている遺伝子の数を評価した。結果を表7に示す。表7に示されるように、BP含有培地で培養されたES細胞において顕著に調節された遺伝子は、大部分がPPAR、ECM受容体相互作用、及び/又はJak−Statシグナリング経路に関係していた。現在関連する研究によると、Jak−Statシグナリング経路は、幹細胞の自己複製性及び多能性維持の観点から最も関連性の高いものである。
【0061】
【表7】
【0062】
実験B.リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(リアルタイムPCR;Q−PCR)
実施例4に記載されたプロトコールを繰り返し、実施例群の培地(BP10又はBP40)、LIF含有培地(BP無し)及びコントロール群の培地(BP無し)を各々用いたが、リアルタイムPCRは、表8に示されるプライマーで行い、Jak2及びStat3遺伝子のmRNA発現レベルを検出した。結果を
図8に示す。
図8に示されるように、Jak2及びStat3のmRNA発現レベルは、BP含有ES細胞培地で培養された細胞において、顕著にアップレギュレートされていた。
【0063】
【表8】
【0064】
実験C.ウェスタンブロットアッセイ
現在知られている研究によると、Jak2及びStat3のタンパク質はリン酸化されて、活性体を形成し、Jak2−Stat3シグナリング経路は、Jak2及びStat3がリン酸化された場合に活性化される。
【0065】
実施例群の培地(BP5又はBP10)、LIF含有培地(BP無し)及びコントロール群の培地(BP無し)を各々用いて、6ウェル培養ディッシュにおいて1ウェルあたり1×10
4の初期濃度でES細胞を培養した。培地を、細胞が70−80%コンフルエンスに増殖するまで、取り除いた。タンパク質を抽出し、ウサギanti−Jak2抗体(Cell Signaling Technology)、マウスanti−phospho−Jak2抗体(Cell Signaling Technology)、ウサギanti−Stat3抗体(BD)及びウサギanti−phospho−Stat3抗体(Cell Signaling Technology)を用いてウェスタンブロットアッセイを行い、BPがJak2−Stat3シグナリング経路における遺伝子のタンパク質発現レベルに影響を与えるかについて検証した。結果を
図9及び表9に示す。
【0066】
図9及び表9に示されるように、Jak2及びStat3のトータルタンパク質発現及びリン酸化タンパク質発現レベルは、BPを含有するES細胞培地で培養した群において顕著に増加した。この結果より、BPはJak2−Stat3シグナリング経路を活性化することでES細胞の自己複製性を維持し得ることが示される。
【0067】
【表9】
【0068】
実験D.サイトカイン遺伝子調節の評価
BPがどのようにJak2−Stat3シグナリングの活性化をもたらすのかを理解するために、実施例4のプロトコールを繰り返した。実施例群の培地(BP5又はBP10)、LIF含有培地及びコントロール群の培地を各々用いて、リアルタイムPCRを表8に示されるプライマーを用いて行い、Jak2及びStat3のシグナリング経路に関連するサイトカイン遺伝子(LIF、EGF、EPO、IL−5、IL−11及びOSM)のmRNA発現レベルを検出した。結果を、
図10及び表10に示す。
【0069】
図10及び表10に示されるように、6遺伝子のmRNA発現レベルは、BPを含有するES細胞培地で培養した細胞において顕著にアップレギュレートした。その効果は、BP10で培養された細胞において最も顕著であった。この結果より、BPはJak2−Stat3に関連するサイトカインのレベルを増加させることができ、それゆえ、Jak2及びStat3タンパク質を活性化させて幹細胞の多能性を維持することが明らかとなった。
【0070】
【表10】
【0071】
(実施例9)iPS細胞作製効率の評価
MEF細胞は、Pou5f1−GFPトランスジェニックマウス(ジャクソンラボラトリー)から単離された。pcDNA−Oct4、pcDNA−Sox2、pcDNA−c−Myc及びpcDNA−Klf4プラスミドを2日に1回(全部で4回)、Pou5f1−GFP MEF細胞に導入し、コトランスフェクションによりiPS細胞を作製した。培地をトランスフェクション6日後、BP含有培地に代え、培地を毎日交換した。9日目、MEF細胞を実施例1で得られた支持細胞上に継代し、GFP陽性クローンを観察した。最後に、iPS細胞のGFP蛍光シグナルを蛍光顕微鏡で検出した。蛍光シグナル強度は、細胞作製効率に正比例する。
【0072】
本実施例は、2つの群、BP(T+P)及びBP(T)を含み、BP(T+P)は、トランスフェクション前及び支持細胞上に置いた後に、実施例群の培地(BP10)で培養された群であり、BP(T)は、トランスフェクション前に、実施例群の培地(BP10)で培養された群である。結果を、
図11及び表11に示す。
【0073】
【表11】
【0074】
図11及び表11に示されるように、BP含有iPS細胞培地を含む実施例群は、コントロール群(BP無し)のそれに比して、より高いGFP蛍光シグナルを示した。この結果より、BPはたしかにiPS細胞の作製効率を向上させ得ることが示される。
【0075】
得られたiPS細胞のAP活性は、AP染色により評価された。Nanog及びSSEA1の発現レベルは、胚葉体形成及び分化と同様に、免疫蛍光染色により観察された。結果を
図12に示す。
図12に示されるように、BP含有iPS細胞培地を含む実施例群(T+P)では、より高いAP、Nanog、及びSSEA1発現レベルを示した。この結果により、BPはiPS細胞の作製効率を向上させるだけでなく、iPS細胞の自己複製性及び多能性を維持させ得ることが示される。
【0076】
加えて、iPS細胞(T+P)を、実施例7において示される工程により培養して、胚葉体の形成及び分化を観察した。結果を、
図13に示す。
図13に示されるように、免疫蛍光染色により、anti−Tuj1抗体(外胚葉マーカー)、anti−α−SMA抗体(中胚葉マーカー)、及びanti−Gata4抗体(内胚葉マーカー)を用いて細胞を検出した。iPS細胞は、3つの胚葉、すなわち、外胚葉、中胚葉及び内胚葉に分化し得ることが観察された。この結果により、BPがiPS細胞の作製効率を向上させるだけでなく、さらにこうして得られたiPS細胞の多能性を維持させ得ることが示される。
【0077】
前述の結果によると、BPを本発明における幹細胞培地に添加することで、幹細胞の作製効率を向上させるだけでなく、培養手順の間こうして得られた幹細胞の多能性を維持させることができる。したがって、高価なLIFが回避され、それゆえ、経済的な方法で幹細胞を培養して幹細胞の適用を改善させることができる。
【0078】
上述の実施例は、本発明の原理及び有効性を示すために単に例示されたにすぎず、本発明を限定することを意図していない。本技術分野における当業者であれば、本発明の技術的範囲において種々の変更及び修正を行い得ることが明白である。それゆえ、これらの変更及び修正は添付された特許請求の範囲及び同等物の範囲内に含まれることが明らかである。
【0079】
(関連する出願)
本出願は、台湾特許出願102102807(出願日2013年1月25日)に基づく優先権を主張しており、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。