【文献】
The Journal of Physical Chemistry B,Vol.110, No.49,p.24923-24928 (2006).
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
硫黄成分が、ジメチルジスルフィド(DMDS)、ジメチルスルフィド、ジエチルジスルフィド、ジエチルトリスルフィド、ジエチルテトラスルフィドおよびそれらの組合せから選択される請求項1記載の組成物。
シラン化合物が、3-(トリヒドロキシシリル)プロピルメチルホスホネート、アルキルシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸もしくはケイ酸様の中間体を生じ得るシラン前駆体およびそれらの組合せから成る群より選択される請求項6記載のゲル。
柑橘潰瘍に対して柑橘植物を治療すること、ならびに、柑橘植物において病原体を運び、柑橘緑色化病を広げるアジアン シトラス キジラミ(Asian Citrus Psyllid)(ACP)媒介物(vector)の侵入を防ぐことを同時に行うための方法であって、
請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物、請求項5〜7のいずれか1項記載の多機能性のシリカに基づくナノ粒子ゲル、またはそれらの混合物を含む組成物を柑橘植物に投与すること
を含み、投与は、柑橘植物の葉および枝を実質的に被覆することを含む方法。
雨、風、雪および日光の少なくとも1種から選択される大気状態へ曝露して、ゆっくりとした放出で、植物毒性でないやり方で、Cuイオンおよびジメチルジスルフィド(DMDS)を浸出させることをさらに含み、複数の銅イオンおよびジメチルジスルフィドが、植物組織表面での施与の場所から外へ拡散し、急速に成長する果実および葉の曝露組織表面を覆い、それによって、成育季節当たりの施与頻度を最小にし、植物表面適用範囲を増加させ、且つ、柑橘潰瘍および柑橘緑色化病のための治療を必要とする柑橘植物の適用範囲の長続きを増加させる、請求項12記載の方法。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
世界中の柑橘産業は現今、2つのもしかすると破壊的な病気:Huanglongbing もしくはHLBとしてまた知られる柑橘緑色化(citrus greening)および柑橘潰瘍と戦っている。
柑橘緑色化は、ほとんどの商業的柑橘品種の最も破壊的な、非常に感染性の病気である。この病気は、J. M. ボーブ(Bove) により、「Huanglongbing:破壊的な新生の百年来の柑橘の病気(Huanglongbing: A destructive, newly-emerging, century-old disease of citrus)」、
Journal of Plant Pathology 2006, 88, (1), 7-37において報告されたカンディダタス リベリバクテル(Candidatus Liberibacter)属に属するグラム陰性HLB菌により引き起こされる。HLBは、世界中の柑橘産業を脅かし、フロリダ州の柑橘産業および経済への損失の原因となり得る。この問題はひどくなり、柑橘樹木を殺し得る。この病気は、果実の味が苦くなる原因となり、変形し、大きさが小さくなり、色が悪くなり、柑橘を使用できなくし、市場に向かなくする。現在、HLBについての治療法はない。
【0004】
アジアン シトラス キジラミ(Asian Citrus Psyllid)(ACP)は、侵略的な、師部を食する昆虫であり、柑橘植物および柑橘類縁植物に対するひどい損傷の原因となる。焼けた葉芽およびねじれた葉は、新成長部でのACPの群がりから生じる。さらに、ACPはHLBの媒介物であり、HLBを運び、柑橘類の果樹園から果樹園へと病気を急速に広げ得る。
【0005】
病気にかかっていない苗木の使用、徴候のみられる木の急速な除去および葉への殺虫剤を使用するACPの積極的な制御を包含する、統合された害虫取り締まり戦略は、A. モリス(Morris)ら による「柑橘緑色化取り締まりの経済的協定(Economic tradeoffs of citrus greening management)」、
Citrus Industry 2008, 89 (4), 26-28 およびP. L. ホリス(Hollis)による 「科学者はフロリダの柑橘産業における緑色化と戦う努力を集結する(Scientists combining efforts to combat greening in Florida’s citrus industry)」、
Southeast Farm Press 2008, 35 (15), 35に従って、HLB感染した果樹園を取り締まることに主に焦点を定めてきた。
【0006】
そのような統合された実施は高価で多数の労力がかかるが、あいにく、葉への殺虫剤の使用は、HLB感染を予防するために近頃栽培者に利用可能な唯一の解決法であることが分かった。
【0007】
柑橘潰瘍は、別の深刻な病気であり、キサントモナス アキソノポディス pv. シトリ(Xanthomonas axonopodis pv. citri)菌によって引き起こされ、これは、ほとんどの商業的な柑橘品種に影響を及ぼし、T. R. ゴットワルド(Gottwald)の「フロリダにおける流行性の柑橘潰瘍:侵略的な種のための調節的撲滅手段の科学的根拠(The citrus canker epidemic in Florida: The scientific basis of regulatory eradication policy for an invasive species)」、
Phytopathology 2001, 91, (1), 30-34によれば、世界中の経済損失を引き起こした。潰瘍は、果実、葉および幹を含む木の種々の部分に壊死性の病変を引き起こす。病気または感染の深刻性は、J. H. グラハム(Graham)、「キサントモナス アキソノポディス pv. シトリ:柑橘潰瘍の成功裏の撲滅に影響を及ぼす要因(Xanthomonas axonopodis pv. citri: factors affecting successful eradication of citrus canker)」、
Molecular Plant Pathology 2004, 5, (1), 1-15 およびA. K. ダス(Das)、「柑橘潰瘍-論評 “Citrus Canker−A review,”」
J. Appl. Hort. 2003, 5 (1), 52-60により報告されるように、落葉、未熟な果実の落下、傷つけられた果実および一般的な木の衰えとして表される。
【0008】
HLB病のための治療法はないが、潰瘍障害は、適当な抗菌剤、例えば銅(Cu)に基づく化合物(限定されないが、Cu酸塩化物、Cu硫酸塩、Cu水酸化物、Cu酸化物、アンモニア-Cu炭酸塩を含む)、抗生物質、例えばストレプトマイシン、テトラサイクリン、ならびに誘導された全身耐性化合物(アシベンゾラー-S-メチル(acibenzolar-S-methyl)、ハルピンタンパク質(harpin protein)を含む)の使用により、制御されてきた。今までのところ、銅(Cu)は、感染の可能性に対しての保護におけるその有効性および病原体によるCu耐性の最小の展開のゆえに、世界中の柑橘潰瘍病を制御するためのゴールドスタンダードであった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
本開示をさらに詳細に説明する前に、本開示は、説明される特定の実施態様に限定されず、それ自体、もちろん変化し得ることを理解すべきである。本明細書において使用される用語は、特定の実施態様のみを説明する目的のためであり、限定すると解釈されないことがまた理解されるべきである。というのは、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ規定されるからである。
【0020】
ある範囲の値が提供される場合、その範囲の上限と下限の間で、状況が他で明らかに指示しなければ、下限の単位の10分の一までの各間にある値、およびその記載された範囲中のいずれの他の記載された値または間にある値も、開示内に含まれると理解される。これらのより小さい範囲の上限および下限は、独立してより少ない範囲中に含まれることができ、記載された範囲中に特に排除された限界があると仮定しても、また開示内に含まれる。記載された範囲が1つまたは両方の限界を含む場合には、それらの含まれる限界の一方または両方を除く範囲はまた、開示中に含まれる。
【0021】
他で定義しなければ、本明細書において使用される全ての技術科学用語は、この開示が属する当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるのと同様もしくは同等の方法および物質をまた本開示の実施もしくは試験において使用することができるが、好ましい方法および物質がここで述べられる。
【0022】
本明細書において引用される全ての刊行物および特許は、それぞれの個々の刊行物または特許が詳細かつ他と無関係に示されて引用により組み込まれたかのように、引用によりここに組み込まれ、かつ、刊行物が関連して引用される方法および/または物質を開示し、記載するように、引用することにより本明細書に組み込まれる。どのような刊行物の引用もその開示は、出願日より前であり、以前の開示によって本開示がそのような刊行物に先立つ権利が与えられない承認として解釈されるべきではない。さらに、提供された刊行物の日付は、実際の刊行物の日付と異なることがあり得、これは、無関係に確認する必要があり得る。
【0023】
この開示を読むと当業者に明らかなように、本明細書に記載され、説明される個々の実施態様のそれぞれは、別々の成分および特徴を有し、これは、本開示の意図および範囲からはずれることなく、どの他の幾つかの実施態様の特徴からも容易に分離することができるか、またはそれと組合せることができる。いずれの列挙された方法も、列挙される事象の順序で、または論理的に可能な他の順序で行うことができる。
【0024】
本開示の実施態様は、他で示されなければ、化学、植物学、生物学等の技術を使用し、これは当分野の技術の範囲内である。
【0025】
以下の実施例は、本明細書に開示され、特許請求される方法をいかに行い、かつ探査を使用するかの完全な開示および説明を当業者に提供するように、提供される。数(例えば量、温度等)に関して、精度を保証する努力がなされたが、幾つかの誤差および偏差が説明されるべきである。他に示されなければ、部は、重量部であり、温度は℃であり、圧力は大気圧かほぼ大気圧である。標準温度および圧力は、20℃および1気圧として規定される。
【0026】
本開示の実施態様を詳細に説明する前に、他で示されなければ、本開示は特定の物質、試薬、反応物質、製造方法等に限定されず、それ自体変化し得ることを理解すべきである。本明細書において使用される用語は、特定の実施態様のみを説明する目的のためであり、限定すると解釈されないことをまた理解すべきである。段階は、これが論理的に可能である異なる順序では除き得ることが、本開示においてまた可能である。
【0027】
明細書および添付の特許請求の範囲において使用されるように、単数形の「a」、「an」および「the」は、他で状況が明らかに指示しなければ、複数対象を含むことに注意しなければならない。かくして、例えば「単数の化合物(a compound)」への言及は、複数の化合物を包含する。本明細書および後の特許請求の範囲において、反対の強さが明らかでなければ以下の意味を有すると定義される多数の用語が参照される。
【0028】
定義および略語
Siは、本明細書においては、二酸化ケイ素を意味するように使用され、これはまた通常「シリカ」として知られる。
NGは、「ナノゲル」を表し、これは、ナノ粒子の相互連結、例えば多機能性のシリカに基づくナノ粒子の相互連結によって形成されるゲル様の物質である。
NPは「ナノ粒子」を表し、これは、約10〜500nm、約10〜250nm、約10〜100、または約10〜50nmの粒径(例えば、球状もしくは実質的に球状のナノ粒子については直径)を有することができる。直径は、合成パラメータ、例えばシラン前駆体の量、加水分解剤の量、反応媒体の極性等を適当に調節することによって、数ナノメートル〜数百ナノメートルに変化し得る。
CuSiNPは銅を装填したシリカナノ粒子を表す。
CuSiNGは、銅を装填したシリカナノゲルを表す。
HCuSiNGは、ハイブリッドCu装填シリカナノゲルを表し、SiNGマトリックスが第2のシラン化合物を装填して、均質もしくは実質的に均質な植物表面適用範囲を達成する。
Kocide(商標)3000農薬/殺菌剤;Kocideはデュポン社(E.I. du Pont de Nemours and Company)の登録商標である。
「均質な植物表面適用範囲」は、本開示の実施態様の噴霧施与のために、均質で完全な(例えば約100%)湿潤表面をいう。言い換えると、噴霧施与は、本開示の実施態様が植物表面全体にわたって広がるようにする。
「実質的に均質な植物表面適用範囲」は、約70%、約80%、約90%またはそれ以上の均質な植物表面適用範囲をいう。
「実質的に被覆する」は、約70%、約80%、約90%またはそれ以上の、植物の葉および枝を被覆することをいう。
「植物」は、樹木、草木、灌木、花等、ならびに植物の部分、例えば小枝、葉、幹等をいう。特定の実施態様において、植物という語は、果樹、例えば柑橘の木(例えばオレンジの木、レモンの木、ライムの木等)を含む。
「アルク(alk)」もしくは「アルキル」という語は、1〜12個の炭素原子、好ましくは1〜8個の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐鎖炭化水素基、例えばメチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、n-オクチル、ドデシル、オクタデシル、アミル、2-エチルヘキシル等をいう。アルキルは、アルキル、ジアルキル、トリアルキル等を含み得る。
【0029】
本明細書において使用されるように、「治療する(treat)」「治療(treatment)」「治療すること(treating)」等は、本開示の多機能性のシリカに基づくナノ粒子もしくはゲルを用いて病気もしくは状態に作用して、それを改善もしくは変えることによって病気もしくは状態に影響を及ぼすことをいう。さらに、「治療」は、病気もしくは状態を有する植物形態を完全もしくは部分的に(例えば約70%以上、約80%以上、約90%以上、約95%以上または約99%以上)予防することを含む。「予防」という表現は、この意味のために治療の代わりに使用することができる。本明細書において使用される「治療」は、植物における病気の1つ以上の治療を包含し、それは、以下を含む:(a) 病気に罹りやすくされたが、まだ病気に感染したと診断されていない植物における病気の発症の危険を低減すること、(b) 病気の展開を遅らせること、および/または(c) 病気を軽減すること、例えば病気の退縮を引き起こす、および/または1つ以上の病気の症状を軽減すること。
「抗菌性の」という語は、細菌を破壊し、細菌の増殖を抑制もしくは予防し、および/または細菌が再生する能力を抑制、予防もしくは除去する、化合物もしくは組成物をいう。
「抗真菌性の」という語は、真菌を破壊し、真菌の増殖を抑制もしくは予防し、および/または真菌が再生する能力を抑制、予防もしくは除去する、化合物もしくは組成物をいう。
【0030】
検討
本開示の実施態様は、多機能性のシリカに基づくナノ粒子、多機能性のシリカに基づくナノ粒子を製造する方法、多機能性のシリカに基づくナノ粒子ゲル、多機能性のシリカに基づくナノ粒子ゲルを製造する方法、多機能性のシリカに基づくナノ粒子を製造する方法および多機能性のシリカに基づくナノ粒子ゲルを製造する方法を使用する方法、植物を治療する方法等を包含する。本開示の実施態様は、多様な目的のために使用することができる組成物を提供する。本開示の実施態様は、それらが、植物における病気または状態を予防もしくは実質的に予防および/または治療もしくは実質的に治療するのに使用することができ、抗菌剤および/もしくは抗真菌剤として作用し、ならびに/またはあるタイプの昆虫に忌避剤として作用することができる1種以上の剤をゆっくりと放出することができることにおいて有利である。本開示の実施態様の別の利点は、剤が、長時間にわたって(例えば施与の日から数週間もしくは数カ月(例えば約6もしくは8カ月)まで)制御可能に放出されることができることである。本開示の実施態様ならびにこれらの実施態様の特徴および利点は、本明細書においてさらに詳細に検討される。
【0031】
多機能性のシリカに基づくナノ粒子の実施態様は、第1の成分および第2の成分を含むことができる。さらに、本開示の実施態様は、多機能性のシリカに基づくナノ粒子を含む多機能性のシリカに基づくナノ粒子ゲルを含むことができる。多機能性のシリカに基づくナノ粒子および/または多機能性のシリカに基づくナノ粒子ゲルは、植物に投与されるべき(例えば噴霧)組成物中に含まれることができる。多機能性のシリカに基づくナノ粒子ゲルは、無定形シリカ物質中で相互に連結した多機能性のシリカに基づくナノ粒子を含む。ナノ粒子は、共有的に(例えば-Si-O-Si-結合によって)相互連結されるか、ファン デル ワールス力によって、および/もしくはイオン相互作用(例えば正に荷電した銅イオンおよび負に荷電したシリカナノ粒子)によって、物理的に会合されることができる。第1および第2の成分は、無定形物質内ならびに多機能性のシリカに基づくナノ粒子中にあることができる。
【0032】
第1の成分は、抗菌剤および/または抗真菌剤として機能することができ、詳細には、植物の病気、例えば柑橘緑色化(HLB)および柑橘潰瘍病を治療、実質的に治療、予防もしくは実質的に予防する。第1の成分(例えばCu)は、一定時間(例えば施与から数日、数か月)抗菌剤および/または抗真菌剤として作用することができるように、多機能性のシリカに基づくナノ粒子もしくはゲルから放出され得る。第2の成分は、植物を害し得る、および/または植物(例えば果樹)を害し得る細菌、病気、真菌等を運び得る、昆虫の忌避剤として機能する。多機能性のシリカに基づくナノ粒子もしくはゲルの第2の成分(例えば硫黄化合物)は、一定時間(例えば施与から数日、数か月)アジアン シトラス キジラミ(Asian Citrus Psyllid)(ACP)の忌避剤として作用することができる。本開示の実施態様は、植物、例えば樹木、灌木等における病気と戦い、例えば同時に、柑橘緑色化および柑橘潰瘍病を治療、実質的に治療、予防および/または実質的に予防する、多機能の目的を有する。
【0033】
1つの実施態様において、第1および/または第2の成分の放出速度は、一方または両方の特徴が数日から数週間または数カ月までの期間有効であり得るように、制御することができる。言い換えると、第1の成分および/または第2の成分は、施与の日から開始して、約1週間、約1ヵ月、約2ヵ月、約3ヵ月、約4ヵ月、約5ヵ月、約6ヵ月、約7ヵ月もしくは約8ヵ月まで放出を続けて、多機能性のシリカに基づくナノ粒子もしくはゲルから放出されることができる。
【0034】
多機能性のシリカに基づくナノ粒子は、コアおよびシェルを含む。コアは、第1のタイプの第1の成分(例えばCuイオン)が装填されたシリカを含む。第2のタイプの第1の成分(例えば銅酸化物)を支持することができるシリカシェルはまた、第1の成分(例えばCuイオン)を含む。理論に束縛されることを意図しないが、1つの実施態様において、第2の成分は、電荷移動タイプの相互作用によって、第1の成分(例えばCuイオン)と相互作用することができ、ここで、第1の成分と第2の成分との間の相互作用は、ナノ粒子中で起こるか、および/または無定形シリカ物質中で起こり得る。
【0035】
1つの実施態様において、第1の成分は、銅成分、亜鉛成分、チタン成分、セリウム成分、マグネシウム成分、ジルコニウム成分、ポリエチレンイミン(PEI)、炭素成分(例えば混合炭素もしくはすす)、フラーレン、炭素ナノチューブおよびそれらの組合せを含むことができる。詳細には、第1の成分は、銅イオン、金属銅(Cu)、銅塩、銅錯体、亜鉛イオン、金属亜鉛(Zn)、亜鉛酸化物、亜鉛塩、銀イオン、金属銀(Ag)、銀塩、銀錯体、チタンイオン、二酸化チタン(TiO
2)、セリウムイオン、セリウム酸化物、マグネシウムイオン、マグネシウム酸化物、ジルコニウムイオン、ジルコニウム酸化物、およびそれらの組合せを含むことができる。
【0036】
1つの実施態様において、銅成分は、銅イオン、金属銅、銅酸化物、銅酸塩化物、銅硫酸塩、銅水酸化物、およびそれらの組合せを含むことができる。銅成分は、シリカナノ粒子コアもしくは無定形シリカマトリックスに静電気的に結合される銅イオン、ナノ粒子もしくは無定形シリカマトリックスの水和した表面に共有的に結合される銅および/または、ナノ粒子もしくは無定形シリカマトリックスの表面に結合される銅酸化物および/もしくは水酸化物を含むことができる。1つの実施態様において、多機能性のシリカに基づくナノ粒子および/またはゲルは、2つもしくは3つ全部のこれらの状態で、銅成分を含む。
【0037】
1つの実施態様において、銅成分は、可溶性(無定形)および不溶性(結晶)形態であり得る。可溶性および不溶性の比を制御することによって、銅成分の放出速度を、時間の関数として制御することができる。その結果、銅成分の放出速度を、抗菌および/または抗真菌特性が数日から数週間または数ヶ月までの期間有効であり得るように、制御することができる。言い換えると、銅成分は、施与の日から開始して、約1週間、約1ヵ月、約2ヵ月、約3ヵ月、約4ヵ月、約5ヵ月、約6ヵ月、約7ヵ月もしくは約8ヵ月まで放出を続けて、多機能性のシリカに基づくナノ粒子もしくはゲルから放出されることができる。可溶性対不溶性の銅成分の比を調整して、放出速度を制御することができる。1つの実施態様において、可溶性の銅対不溶性の銅の比(例えば(キレート化されたCu)
X(結晶Cu)
1-X)は、0:1〜1:0であることができ、所望の期間Cuを放出する比を生じるように約0.01きざみで変えることができる。比を調節するのに使用することができるパラメータは次のものを含む:溶媒の極性およびプロティックな性質(protic nature)(すなわち、水素結合力)、銅前駆体(例えばCu硫酸塩)濃度、温度、シラン前駆体(例えば、テトラエチルオルトシリケート、TEOS)の濃度等。
【0038】
1つの実施態様において、第2の成分は、硫黄化合物を含むことができる。硫黄化合物は第1の成分と反応しないか、またはほとんど反応しない(例えば、第1および第2の成分が本明細書に記載されるやり方および期間でなお機能し得るような低いパーセンテージで、またはそれくらい遅い速度で)。硫黄化合物は、アルキルスルフィド、アルキルジスルフィド、アルキルトリスルフィド、アルキルテトラスルフィド、それぞれの類似体、およびそれらの組合せを含むことができ、アルキルは、アルキル、ジアルキルおよびトリアルキルを含むことができる。特に、硫黄化合物は、ジメチルジスルフィド(DMDS)、ジメチルスルフィド、ジエチルジスルフィド、ジエチルトリスルフィド、ジエチルテトラスルフィド、およびそれらの組合せのような化合物を含むことができる。第2の成分の放出速度を制御して、施与の日から開始して、約1週間、約1ヵ月、約2ヵ月、約3ヵ月、約4ヵ月、約5ヵ月、約6ヵ月、約7ヵ月もしくは約8ヵ月まで、放出することができる。
【0039】
1つの実施態様において、硫黄化合物はDMDSである。硫黄化合物はACP忌避剤として使用することができ、かつHLBを制御するための魅力的な方法であることに注意すべきである。DMDSはミトコンドリアのシトクロームオキシダーゼ系を中断させるので、昆虫に対して毒性であり、ACPに対する強い忌避剤と考えられることに注意すべきである。DMDSは、第1の成分(例えばCuイオン)と、電荷移動タイプの相互作用で、相互作用し得る。かくして、DMDSが相互作用し得る第1の成分の量を制御することによって、第1の成分の量は、多機能性のシリカに基づくナノ粒子もしくはゲルに存在するDMDSの量を制御するように使用することができる。理論に束縛されることを意図しないが、DMDS中の硫黄(負に帯電した元素、分極性)は銅イオンに弱く結合される(イオン-双極子相互作用のタイプ)。Cuが製品から放出されると、DMDSは、ファン デル ワールス力以外の、DMDSとシリカナノ粒子/ナノゲルマトリックスとの間の強い相互作用が他にないので、大部分放出する。
【0040】
1つの実施態様において、「無定形ゲル」が無定形構造の組成物を有するゲル物質をいうように、無定形シリカゲルは、定められた(例えば規定された)構造(結晶構造に対する)を有していない。1つの実施態様において、多機能性のシリカに基づくナノ粒子ゲル1グラム中の多機能性のシリカに基づくナノ粒子の数は、正確に決定するのが困難であり得る。しかしながら、以下は幾らかの案内を提供する。
【0041】
試験物質として、約10nmの大きさ(直径)の相互連結した粒子を含む無定形シリカゲル(完全に脱水されている)を想定しよう。以下の方法で、物質1グラム当たりの粒子の数を概算することができる。
1個の粒子の質量(m)=粒子の密度(d) x 粒子の体積(v)
D = 2.648 gm/cm
3(概算)
V = (4/3)Pi(π)(r)
3
ここで、rは粒子の半径である。
π=3.14;r = (10/2nm) = 5 nm= 5 x 10
-7 cm。
これらの数を入れると、v = 5.23 x 10
-19 cm
3
それで、m = (5.23 x 10
-19 cm
3)(2.648 gm/cm
3)
または、m = 1.38 x 10
-18 gm。
【0042】
多機能性のナノ粒子/ナノゲル生成物は、2種の活性成分、DMDSおよび第1の成分(例えばCu)ならびに第2の成分(例えばDMDS)を含む。実験上は、本発明者らは、約33〜45重量%のCuをシリカナノ粒子物質中に装填することができる(ICP-AAS分析により測定;ICPは、誘導的に結合されたプラズマを表す-原子吸光分析)。例えば、Cu装填は、全体積の45.5%までエタノール(95%)を含む酸性エタノール-水混合物中で合成された、Cu装填されたシリカナノゲル物質中、約33%である。Cu装填は、酸性の水中のみで合成された、Cu装填されたシリカナノ粒子物質中、約45%である。おおざっぱには、1個のCuは、少なくとも1個のDMDS分子を保持し得る。これらの見積もりは、第1の成分および第2の成分に適用され得る。
【0043】
多機能性のシリカに基づくナノ粒子およびゲルの1つの実施態様は、PCT特許出願US 2009/006496、標題「シリカに基づく抗菌および抗真菌ナノ処方物(Silica-based Antibacterial and Antifungal Nanoformulation)」に記載されており、これは、引用することにより本明細書に組み入れられる。さらに、多機能性のシリカに基づくナノ粒子およびゲルの1つの実施態様の製造方法は、前記したPCT特許出願に記載されている。
【0044】
一般に、多機能性のシリカに基づくナノ粒子およびゲルを作るための前駆体物質は、アルコール例えばエタノールを含み得る酸性媒体(例えば酸性水)中で、シラン化合物(例えばアルキルシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、ケイ酸ナトリウムまたは、ケイ酸もしくはケイ酸様の中間体を生成することができるシラン前駆体、ならびにこれらのシラン化合物の組合せ)を、第1の成分の前駆体化合物と混合することによって、作ることができる。一定の時間(例えば、約30分〜数時間)混合した後、第1の成分が装填されたシリカナノ粒子(また「装填されたシリカナノ粒子」と称する)を含む混合物が形成される。装填されたシリカナノ粒子が形成された後、媒体を約7のpHにすることができ、ある時間(例えば、数時間〜1日)保持して、装填されたシリカナノ粒子ゲルを含む前駆体物質を形成することができ、ここで、ナノ粒子は相互連結されている。このプロセスは、単一の反応容器を用いて行うことができるか、または多数の反応容器を使用することができる。
【0045】
装填されたシリカナノ粒子が作られたなら、多機能性のシリカに基づくナノ粒子およびゲルを形成することができる。装填されたシリカナノ粒子は、水性反応媒体(例えば酸性水)中で反応容器に入れるか、または乾燥させ、粉末として混合することができる。第2の成分(例えばDMDS)をまた、水性反応混合物または乾燥前駆体物質を含む反応容器に添加する。前駆体物質および第2の成分(乾燥)の量の比は、約1対1であり得る。この混合物は、一定時間(例えば、数分から数時間)混合されて、多機能性のシリカに基づくナノ粒子およびゲルを形成する。多機能性のシリカに基づくナノ粒子およびゲルは、水性溶液から分離され(例えば遠心分離)、乾燥される(例えば空気乾燥)ことができる。混合物はさらなる精製を必要としないが、さらなる精製および加工処理を行うことができる。このプロセスは、単一の反応容器を用いて行うことができるか、または多数の反応容器を使用することができ、環境温度および圧力にて行うことができる。
【0046】
特定の実施態様において、第2の成分はDMDSであり、Cu装填されたシリカナノ処方物が製造された後に、機械的撹拌下で添加されることができる。しかしながら、DMDSを、ナノ処方物製造プロセス中いつでも添加することができる。1つの実施態様において、約100マイクログラムのDMDSが、Cu約45g当量に添加される。
【0047】
本開示の別の実施態様において、多機能性のシリカに基づくナノ粒子ゲルを、第2のシラン化合物を使用して形成することができ、第2のシラン化合物の添加は、植物表面適用範囲の均質性を改善する。シラン化合物が添加される段階中、第2のシラン化合物をまた添加することができる。第2のシラン化合物は、アルキルシランのような化合物を含むことができる。第2のシラン化合物は、シラン化合物の約0.01〜30重量%、または約10〜30重量%であり得る。得られるシラン混合物は、第1の成分および/または第2の成分、例えば先に記載したものを含むことができる。ナノ粒子は、先に記載され、本明細書に記載されたナノ粒子と同じであるか、または同様である。この実施態様における目標は、ナノ粒子/ナノゲル表面の親水性もしくは疎水性を調整して、ナノ処方物の付着特性をさらに改善することであることに注意すべきである。例えば柑橘の葉は、蝋のようである(疎水性)。疎水性-疎水性相互作用により、蝋のような表面へのナノ処方物の付着を改善するために、シリカナノ粒子/ナノゲル物質を、疎水性シラン試薬、例えばメチル-もしくはプロピル-もしくはブチル-シランを用いて、さらに変性することができる。
【0048】
先に述べたように、本開示の実施態様は、植物、例えば柑橘植物および樹木に影響を及ぼす病気の治療のために有効である。さらに、本開示の実施態様は、植物表面(例えば葉の表面)を均質に覆うので、師部を食するACPに対して保護バリアとして有効であり得る。特に、本開示の実施態様は、柑橘潰瘍および緑色化病(HLB)と戦うために使用することができる。多機能性のシリカに基づくナノ粒子もしくはゲルの設計は、均質な植物表面適用範囲または実質的に均質な植物表面適用範囲を容易にする。1つの実施態様において、植物に施与される多機能性のシリカに基づくナノ粒子もしくはゲルは、第1および/または第2の成分の放出の時間にわたって実質的に除去されないように、大気条件、例えば雨、風、雪および日光に対する種々のタイプの曝露において優れた付着特性を有することができる。1つの実施態様において、多機能性のシリカに基づくナノ粒子もしくはゲルは、最小のCu含量のために、植物に対する減ぜられた植物毒性の影響および減ぜられた環境ストレスを有する。
【0049】
本開示の実施態様は、第1および第2の成分の放出と一致した時間枠に適用することができ、これらの時間枠は、施与の第1日から約1週間、約1ヵ月、約2ヵ月、約3ヵ月、約4ヵ月、約5ヵ月、約6ヵ月、約7ヵ月もしくは約8ヵ月までを含み得る。
【0050】
多機能性のシリカに基づくナノ粒子もしくはゲルの特定の実施態様は、多機能性のジメチルジスルフィド(DMDS)および銅が共に装填されたシリカに基づくナノ粒子もしくはナノゲル(DMDS-CuSiNP/NG)を含むことができ、これは、開示された柑橘潰瘍および緑色化病と戦うために使用することができる。組成物が柑橘植物に施与されるとき、1つの柑橘の成育シーズン中1回の施与で、柑橘潰瘍および柑橘緑色化病を同時に制御するために有効である。
【0051】
実施例
ここでは一般に本開示の実施態様を説明してきたが、実施例は、本開示の幾つかのさらなる実施態様を説明する。本開示の実施態様は、実施例ならびに対応する本文および図面と関連して説明されるが、本開示の実施態様をこれらの説明に限定する意図はない。それどころか、本開示の実施態様の意図および範囲内に包含される全ての代替物、変更物および等価物を含むことが意図される。
【0052】
実施例1-CuSiNG物質および特性
実験室に基づく実験データは、以下を確認した:(i) 対照であるKocide(商標)3000 (デユポン社(DuPont)の製品;Cu水酸化物物質)およびCu硫酸塩と比較してかなり改善された、CuSiNG物質の抗菌特性、(ii) 対照と比較して格別に強い、柑橘の葉表面への付着特性、ならびに(iii) 噴霧施与すると、改善された表面適用範囲、全体にわたる均質性。物質の特性決定データ(高解像度の透過型電子顕微鏡および選択された領域の電子回折パターン)に基づき、Cuが、シリカナノゲル(SiNG)マトリックス中に、2つの異なる形態で、かつ2つの異なる酸化状態(結晶Cu酸化物(Cu+1状態)および無定形Cu錯体(Cu+2状態))で存在することが確認される。CuSiNGはかくして、独特の、ナノテクノロジーが可能にした工学的に作り出されたナノ物質である。ディスク拡散アッセイは、CuSiNG物質が施与の場所から外へ拡散する能力を有することを確認した。この拡散特性は、急速に広がる若い果実および葉表面を保護することにおいて強い影響力を有する。
【0053】
実施例2-溶液中のDMDS装填されたCuSiNG
本開示において、DMDSおよびCuを共に装填したシリカナノゲル(DMDS-CuSiNG)に基づく物質および関連する処方物が製造される。多くの専門分野にわたる探求を使用して、DMDS装填物質を開発研究し、多数の実験室に基づくバイオアッセイを行って効力を試験し、フィールド研究を行ってHLBおよび柑橘潰瘍病を制御することにおける効力を評価する。
【0054】
CuSiNGにおけるDMDSの装填は、溶液状態で(合成されたCuSiNG液体処方物として)研究され、ガス-クロマトグラフィー-マススペクトル法(GC-MS)により特性決定されてきた。溶液状態において、DMDSのCuSiNG物質中への装填は、DMDSを、CuSiNG物質を含む水性反応混合物中に直接添加することによって行われた。撹拌を続けて、DMDSとCuSiNG物質との均質な混合を確実にした。反応媒体組成物は、DMDSのCuSiNG物質中への直接装填を非常に容易にした。24時間後、DMDS-CuSiNG物質を遠心分離し、7日間より多く空気乾燥した。強い硫黄臭を感じることができた。
【0055】
図1aは、シリカナノゲル(SiNG)が銅を含まない条件下で対照として使用したDMDSのGC-MSスペクトルである。
図1bは、DMDS-CuSiNG物質のGC-MSスペクトルである。7日間後ですら、DMDS-CuSiNG粉末からのDMDS臭が認められる。GC-MS試料調製のために、スペクトル法等級のクロロホルムを粉末およびDMDSに添加した。DMDS(対照)およびDMDS-CuSiNGのクロロホルム抽出物のGC-MSデータをそれぞれ
図1aおよび
図1bに示す。93(m/z)にDMDSの特徴的な分子ピークが、ばらばらになった構造についての他のピークと一緒に図
2に示され、ここで、DMDS-SiNG物質生成物のGC-MSスペクトルは、両方の場合に見出され、DMDS-CuSiNG試料中にDMDSの存在を確認した。
【0056】
SiNG(CuSiNGの代わりに)を用いて同様の実験をまた行った。3日後、DMDS-SiNG物質から特徴的なDMDS臭を検出することができず、GC-MSの調査は、
図2に示されるように、顕著なDMDSの特徴的ピークを示さなかった。これらの結果は、Cu
2+イオンが、DMDS装填および保持に不可欠の役割を演じることを示唆する。
【0057】
実施例3-乾燥状態でのCuSiNGへのDMDSの装填
20mLのガラスびん中でCuSiNG(150mgの真空乾燥した粉末)試料にDMDS(正味100μl)を直接添加することによって、凍結乾燥したCuSiNG粉末を用いて乾燥状態でDMDSの装填を行った。すばやく比較する目的で、別の20mLガラスびん中に正味100μlのDMDS(対照)を取った。両方のびんを実験室換気フード内に並行して保持して、DMDSを同じ速度で蒸発させた。3日後、DMDS処理したCuSiNG試料のみから強いDMDS臭をかぎとることができた。
【0058】
その後、両方のびんにクロロホルムを添加し、結果を
図3aおよび3bに示す。乾燥CuSiNG凍結乾燥粉末に添加したDMDSのGC-MSスペクトルを
図3aに示す。
図3bにおいて、DMDSの対照抽出物が取られ、GC-MSを行った。予想されるように、特徴的なDMDSピークがDMDS-CuSiNG試料から得られ(
図3a)、対照からそのようなピークは得られなかった(
図3b)。上記の予備的な実験はこのように、CuSiNG物質がDMDSを装填し、保持し、かつゆっくりと放出することができることを確認した。埋め込まれた金属粒子を有するシリカマトリックスの製造のための合成方法は、タン(Tan)らによるU.S. Patent 6,548,264 、タン(Tan)らによるU.S. 6,924,116 およびタン(Tan)らによるU.S. Patent 7,332,351 において報告されており、これらは、引用することにより本明細書に組み込まれる。CuSiNGの合成は、2009年12月10日に出願された国際特許出願No. PCT/US2009/006496に開示されており、引用することにより本明細書に組み込まれる。
【0059】
実施例4-DMDS-CuSiNG物質の特性決定
以下の物質特性決定技術を使用して、本開示のDMDS-CuSiNG物質の特性決定をした。まず、GC-MS調査は、CuSiNGおよびSiNG物質中のDMDSの装填を定性的に確認する。第2に、石英結晶微量天秤(QCM)に基づく検知の調査は、リアルタイムでのDMDSの装填および放出を確認する。フィールドでのDMDS-CuSiNG物質の実際の施与を考えると、DMDS装填/放出プロセスをリアルタイムで監視する定量的な調査を行うのが望ましい。したがって、QCMに基づく検知技術は、DMDS装填/放出の定量的な測定に向いており、動力学を決定する。QCM技術の感度は、J.W.ガードナー(Gardner)らによる「電子装置の鼻の簡潔な歴史(A brief-history of electronic noses)、
Sensors and Actuators B-Chemical 1994, 18, (1-3), 211-220によって、10億当たりの部のレベルで報告されている。DMDS-CuSiNGの特性決定は、DMDSとCuSiNG物質との相互作用の性質を明らかにする。本発明者らの目的は、DMDSの周囲の物理-化学環境およびDMDS吸着におけるCuの役割を調べることである。
【0060】
簡単には、実験の段取りは、QCMセンサー上に噴霧コートされるCuSiNG物質の試料を用いること、その後、閉鎖された部屋の中でDMDSに曝露することを含む。時間が経つにつれて、QCMの共鳴振動数が、DMDSがCuSiNG物質中にだんだん装填されるにつれて低下を続けることが予想される。平衡に達したなら、それ以上の振動数の低下は起こらない。センサーが部屋から除かれ、時間が経つにつれてのDMDS放出プロセスの監視が観察される。本発明者らは、だんだんDMDSが放出されるにつれて、振動数の増加を観察することを予想する。対照としてSiNG物質について、同様の実験が行われる。
【0061】
実施例5-DMDS装填におけるCuIIイオンの役割
R.W.グラス(Glass)らによる、「423度Kでの多孔性吸着剤への硫黄含有気体の吸着の表面研究。1.硫化水素、メタンチオール、エタンチオール、およびジメチルスルフィドのシリカゲルへの吸着(Surface studies of adsorption of sulfur-containing gases at 423 degree K on porous adsorbents. 1. Adsorption of hydrogen sulfide, methanethiol, ethanethiol, and dimethyl sulfide on silica gels)」
Journal of Physical Chemistry 1973, 77, (21), 2571-2576によれば、SiNGマトリックス中へのDMDS装填は、シラノール(-Si-OH)基を含有するシリカ表面/孔(プロトン供与体)とDMDS硫黄原子(プロトン受容体)との間の水素結合によって推進される。
【0062】
SiNGと違って、CuSiNG中のDMDSの物理-化学環境は、Cu(II)イオンの存在のために、いくらか異なると予想される。予備的結果は、特徴的な臭いのDMDSが時間にわたって変化せず、これはDMDSがCu(II)イオンに反応性でないことを示すということを示唆する。しかしながら、DMDSの電子に富む硫黄原子は、電子不足のCu(II)イオンと弱く相互作用する能力を有する。このことは、DMDSのCuSiNG中への吸着をさらに容易にし得る。詳細なFT-IRの調査を行って、DMDSとSiNGとの間に存在する分子間相互作用の性質を理解する。さらに、CuSiNGおよびSiNG物質に対するDMDS装填/放出特性(等温曲線)を得るために熱重量分析(TGA)、熱量測定およびQCM検知の調査を使用して、DMDS装填におけるCuIIイオンの役割を決定する。FT-IR分析と一緒の相対的等温曲線データ分析は、DMDS装填/放出プロセスにおけるCuの影響を示す。
【0063】
実施例6-ナノスケール操作によるCuSiNG中へのDMDS装填
ナノスケールレベルでのDMDSの周囲の分子環境の操作を行って、CuSiNGおよびSiNG物質中へのDMDS装填効率を改善した。
【0064】
まず、ハイブリッドシリカナノゲル(HSiNG)およびCu装填したHSiNG(CuHSiNG)物質を合成した。シランに基づくエステルおよびアルキル(例えばメチルまたはプロピル)に基づくシランから成る、2種の安価なシリカ前駆体の組合せを、HSiNG合成中に使用した。小さいアルキル鎖ポリマーをシリカマトリックス中に導入することの理論的解釈は、それが、分子間疎水性-疎水性相互作用によってDMDSとの相互作用を改善するであろうことである。
【0065】
これら2種のシリカ前駆体の比を変えることによって、一連の実験を行って、CuおよびDMDSの両方のHSiNG物質中への装填を最適化した。DMDS-HSiNGおよびDMDS-HCuSiNG物質の両方が系統的に特性決定される。HSiNGおよびHCuSiNG物質へのDMDS装填効率が評価され、結果がDMDS-CuSiNG物質と比較される。バイオアッセイおよびフィールドでの試験のために、CuおよびDMDSの最大装填を有するたった1つのDMDS-CuSiNG物質が選択され、2種の活性成分は、潰瘍およびHLB病それぞれの予防のために責任がある。
【0066】
特性決定:Cu装填効率は、原子吸光分析(AAS)によって定量的に決定されるのに対して、DMDS装填/放出動力学は、QCM調査によって決定される。さらに、幾つかの物質特性決定法、例えばTEM/HRTEM(寸法および形態学)、SAED(結晶性)、XPS(Cuの酸化状態の同定)、XRD(大量結晶性)、SEM-EDAX(Cu対Si比を見積もるための元素分析)、BET(表面積/間隙率測定)およびFTIR(シリカマトリックスとのDMDSならびにCuの相互作用を調査)が、HSiNGおよびCuHSiNG物質の系統的特性決定のために使用される。DMDSのメチル基とシラン前駆体のアルキル基との間のさらなる疎水性-疎水性分子間相互作用のために、HSiNGおよびHCuSiNG中へのDMDS装填のさらなる改善が予想される。
【0067】
実施例7-DMDS-CuSiNGおよびDMDS-HCuSiNGの効力の比較
DMDS装填された物質の効力の評価のための実験室バイオアッセイは、X.アルファルファ(X. alfalfae)に対するディスク拡散アッセイおよびACPに対する嗅覚計バイオアッセイおよびディスク拡散アッセイを含む。DMDS-CuSiNGおよびDMDS-HCuSiNG物質の抗菌活性を試験するために、公知の「ディスク拡散アッセイ」法が使用される。
【0068】
簡潔には、1晩増殖させたX.アルファルファ(X. alfalfae)培養物の適当な希釈(0.5Mcファーランド標準(Farland standard)の希釈に基づく約106cfu/mlの200μl)を栄養寒天プレート(90mm)上に広げて、培養の融合性菌叢を達成する。負の対照としてDMDS-SiNGおよびDMDS-HSiNGならびに、正の対照としてCu硫酸塩およびKocide(商標)3000を用いる、異なる濃度の試験物質(DMDS-CuSiNGおよびDMDS-HCuSiNG)による増殖阻止の比較分析を行って、試験条件下での最小阻止濃度範囲における差異を見出す。異なる濃度の各処方物を含む同じ体積をディスク当たりに施与して、寒天プレート上の同等でない拡散限界の変動を避ける。抗菌活性のレベルは、30℃にて24時間のインキュベーション後の阻止の帯域を測定することによって決定される。DMDS-CuSiNGおよびDMDS-HCuSiNGを含む全ての上記した化合物の最小阻止濃度(MIC)がまた、試験化合物のlog
2(2倍)連続希釈を含む栄養寒天プレート上に適当な希釈のX.アルファルファ(X. alfalfae)培養物を広げることによって決定されて、ディスク拡散試験における阻止の帯域の結果を相関させ、病原体の有効な殺害のために必要なDMDS-CuSiNGおよびDMDS-HCuSiNGの濃度をさらに精密にする。
【0069】
全ての試験プレートを24時間を超える長時間インキュベートして、MICレベルで、阻止の帯域または一連希釈寒天プレート上における分離されたコロニーの形成によって、試験有機体の遅れた増殖を検出する。これは、試験条件下でDMDS-CuSiNG(またはDMDS-HCuSiNG)とKocide(商標)3000 もしくはCu硫酸塩との間の安定性の差異を仮に示し、これは、DMDS-CuSiNG(またはDMDS-HCuSiNG)およびKocide(商標)3000のCu放出動力学における差異の間接的評価である。本発明者らはまた、適当な場合にはいつでも、投与量-応答プロットを作り出す。簡潔には、Cu化合物の投与量が変えられ、それらの投与量に対する病気制御の相対的応答もしくはパーセンテージが決定される。
【0070】
統計分析:本発明者らは、異なる統計分析、例えばヒンケルマンK.( Hinkelmann, K.);ケンプソルンO.( Kempthorne, O.)による、
Design and Analysis of Experiments, Wiley: 2008; Vol. I およびII (第2版.)において論じられたANNOVAによって、抗菌活性の有意性を試験する。異なる濃度およびインキュベーション時間にて全てのそれぞれの抗菌物質を用いて阻止帯域の直径を測定して、統計分析において使用し、対照に関してより良い抗菌物質としてCuSiNGおよびH- CuSiNGの適当性を査定する。
【0071】
ナノ技術を柑橘の研究において適用することの利益は非常に高い。シリカナノゲルマトリックスは、CuおよびDMDSを共に有するための独自の環境を提供し、DMDS-CuSiNGナノ物質を柑橘潰瘍および緑色化病の両方と戦うために多機能性にする。最近の研究は、シリカナノゲルが、湿った環境中で施与の点からゆっくりと外へ広がることができることを示唆する。時間にわたってこのCuSiNGが均質な膜様のコーティングを表面上に形成するので、影響力は途方もなく高い。本発明者らは、シリカナノゲル膜の2つの主な利点を確認する:(i) 急速に成長する若い果実および葉表面を保護する能力、ならびに(ii) 師部を食するACPのための保護バリアとして役立つ能力。
【0072】
DMDS-CuSiNGの技術は、以下の利益を提供する:(a) 柑橘潰瘍および緑色化病の両方と戦うための2剤含有1処方物(two-in-one formulation)、(b) 優れたCu生物学的利用能および長続きすること、(c) ACPの侵入を防ぐためのDMDSの持続する放出(第1の防御メカニズム)、(d) 葉表面へのDMDS-CuSiNGの強いコーティング(ACPに対する第2の防御メカニズム)、(e) 単純な1容器大量合成技術、(f) 安価な成分(原料物質費用は1エーカー当たり〜3.00ドル)および、(g) 多数回の施与を必要としない。
【0073】
ナノスケールの工学技術のために、本開示のCuSiNGは、現存するCuに基づく化合物にまさって、以下の利点を有する:極度に小さい粒径ゆえに植物表面の均一な適用範囲、ゲル様のナノ構造のためにより良い付着特性、持続する(長期間の)Cu放出プロファイル、Cu放出速度のより良い制御(調製可能な「可溶性」対「不溶性」のCu比)、より少ない量のCu含量でのより大きい抗菌/抗真菌活性、調製可能な「可溶性」対「不溶性」のCu比のゆえに減ぜられた植物毒作用、ならびに、少ないCu含量、有害な副生物の形成がないこと、水に基づく合成、植物栄養として過剰のCuSiNGの使用、環境毒性を引き起こし得る局所的Cu濃度の上昇の最小の可能性のために環境安全性。
【0074】
合成のプロトコールは以下の利点を有する:(i) 簡単、(ii) 水に基づく、(iii) フィールド適用へ大規模実現可能である、(iv) 精製段階を必要としない、1容器での合成法、および(v) 濃縮されたCuSiNG物質をフィールド適用のために容易に希釈することができる。適当な量の水を添加することによって、非専門の人がこの仕事をすることができ、かくして輸送費用を減らすことができる。この方法はまた、安価な原料化学物質を使用し、費用効果の高いやり方で容易に製造される。
【0075】
比率、濃度、量および他の数値データは、範囲の形で本明細書において表現され得ることに注意すべきである。そのような範囲の形は、便利および簡潔のために使用されることを理解すべきであり、かくして、その範囲の限界としてはっきりと列挙された数値だけを含むのではなく、各数値および下位範囲がはっきりと列挙されているかのように、その範囲内に包含される全ての個々の数値または下位範囲をも含むと、柔軟なやり方で解釈すべきである。説明するために、「約0.1%〜約5%」の濃度範囲は、約0.1重量%〜約5重量%のはっきりと列挙された濃度を含むだけでなく、示された範囲内の個々の濃度(例えば1%、2%、3%および4%)ならびに下位範囲(例えば0.5%、1.1%、2.2%、3.3%および4.4%)をもまた含むと解釈されるべきである。1つの実施態様において、「約」という語は、数値の有意の数字に従う旧来の四捨五入(rounding)を含むことができる。さらに、「約xからy」という表現は、「約xから約y」を包含する。
【0076】
先に述べた本開示の実施態様は単に、可能な実施の例であり、本開示の原理の明快な理解のためにのみ示されることが強調されるべきである。本開示の意図および原理から実質的にはずれることなく、上記した本開示の実施態様に対して多くの変更および変形を行うことができる。全てのそのような変形および変更は、本開示の範囲内に含まれると解釈される。