特許第5764672号(P5764672)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5764672高耐食溶融亜鉛合金めっき鋼板及びその製造方法
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  • 特許5764672-高耐食溶融亜鉛合金めっき鋼板及びその製造方法 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764672
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】高耐食溶融亜鉛合金めっき鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/06 20060101AFI20150730BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20150730BHJP
   C23C 2/16 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   C23C2/06
   C23C2/26
   C23C2/16
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-547322(P2013-547322)
(86)(22)【出願日】2011年12月26日
(65)【公表番号】特表2014-501334(P2014-501334A)
(43)【公表日】2014年1月20日
(86)【国際出願番号】KR2011010099
(87)【国際公開番号】WO2012091385
(87)【国際公開日】20120705
【審査請求日】2013年8月15日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0137294
(32)【優先日】2010年12月28日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】キム、 サン−ホン
(72)【発明者】
【氏名】ジン、 ユン−ソル
(72)【発明者】
【氏名】オー、 ミン−スク
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ス−ユン
(72)【発明者】
【氏名】ユ、 ボン−ファン
【審査官】 山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−360056(JP,A)
【文献】 特開2007−056307(JP,A)
【文献】 特開2002−004017(JP,A)
【文献】 特開平02−175852(JP,A)
【文献】 特表2008−525641(JP,A)
【文献】 特開2001−295015(JP,A)
【文献】 特開2010−275632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00−2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板及び溶融亜鉛合金めっき層を含み、
前記溶融亜鉛合金めっき層の組成は重量%で、Al:1〜3%、Mg:1.5〜4.0%、残りはZn及び不可避な不純物を含み、Al+Mg:2.5〜7.0%で、Al/(Al+Mg):0.38〜0.48であ前記溶融亜鉛合金めっき層のめっき組織は、Zn−Al−MgZnの三元共晶組織を基地組織とし、Zn−MgZnの二元共晶組織が分散されためっき組織を含み、Zn単相組織は10%以下で含まれ、MgZn組織を残部として含む、高耐食溶融亜鉛合金めっき鋼板。
【請求項2】
前記めっき層は、さらに、Si、Li、Ti、La、Ce、B及びPからなる群より選択される1種または2種以上が0.1%以下で含まれる、請求項1に記載の高耐食溶融亜鉛合金めっき鋼板。
【請求項3】
前記溶融亜鉛めっき鋼板の表面粗さ(Ra)は2μm以下である、請求項1に記載の高耐食溶融亜鉛合金めっき鋼板。
【請求項4】
前記めっき層の表面にリン(P)が付着され、前記リンの含量は0.1〜500mg/mである、請求項1に記載の高耐食溶融亜鉛合金めっき鋼板。
【請求項5】
重量%で、Al:1〜3%、Mg:1.5〜4.0%、残りはZn及び不可避な不純物を含み、Al+Mg:2.5〜7.0%で、Al/(Al+Mg):0.38〜0.48である溶融亜鉛合金めっき浴を用意する段階と、
前記溶融亜鉛合金めっき浴に素地鋼板を浸漬し、めっきを行ってめっき鋼板を製造する段階と、
前記めっき鋼板をガスワイピングした後冷却する段階と、を含み、
形成されためっき層のめっき組織は、Zn−Al−MgZnの三元共晶組織を基地組織とし、Zn−MgZnの二元共晶組織が分散されためっき組織を含み、Zn単相組織は10%以下で含まれ、MgZn組織を残部として含む、高耐食溶融亜鉛合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記溶融亜鉛合金めっき浴の温度が420〜450℃でめっきを行う、請求項に記載の高耐食溶融亜鉛合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記ガスワイピング時に用いるガスは窒素である、請求項に記載の高耐食溶融亜鉛合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記冷却は10℃/s以上の冷却速度で行う、請求項に記載の高耐食溶融亜鉛合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記冷却は空気を噴射して冷却し、噴射圧力は300mbar以下で行う、請求項に記載の高耐食溶融亜鉛合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記冷却は空気とリン酸塩水溶液をともに噴射する段階を含む、請求項に記載の高耐食溶融亜鉛合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記リン酸塩水溶液中のリンの含量は0.01〜5.0重量%である、請求項10に記載の高耐食溶融亜鉛合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記冷却はリン酸塩水溶液と空気をともに噴射する2流体噴射ノズルを用い、前記リン酸塩水溶液の噴射圧力は0.3〜5.0kgf/cmで、前記空気の噴射圧力は0.5〜7.0kgf/cmである、請求項10に記載の高耐食溶融亜鉛合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記噴射されたリン酸塩水溶液の液滴が−1kV〜−40kVに帯電されたメッシュ形態の帯電電極を通過して静電的に帯電される、請求項10に記載の高耐食溶融亜鉛合金めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建築資材用、家電用、自動車用等に用いられる亜鉛合金めっき鋼板に関し、より詳細には、アルミニウム、マグネシウムなどを含む溶融亜鉛合金めっき浴を利用して、耐食性と表面品質に優れた溶融亜鉛合金めっき鋼板及びこれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛めっき鋼板は、電気亜鉛めっき鋼板より製造工程が単純で、製品価格が安価であるため、建築資材、家電製品及び自動車用等にその需要が拡大されている。特に、最近、亜鉛価格の上昇により、溶融亜鉛めっき鋼板より少ないめっき量でも耐食性に優れた溶融亜鉛−アルミニウム(以下、「Zn−Al系」という)或いは溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板(以下、「Zn−Al−Mg系」という)等に関する技術が開発され、需要が拡大されている。
【0003】
代表的なZn−Al系としてはZn−55%Alめっき鋼板が挙げられるが、めっき層のアルミニウム含量が高いため、犠牲防食(sacrificial corrosion protection)能力が低下し、切断面のような素地金属(underlying metal)が露出する部位で優先的に腐食が発生するという問題がある。また、溶融Zn−55%Alめっきの場合、めっき浴の温度が約600℃と高いため、めっき浴内のドロス発生が酷く、シンクロール等のめっき浴内の設備の浸食により、めっき作業性が低下し、設備の寿命が短くなるという短所がある。
【0004】
上記Zn−Al−Mg系に対しては特許文献1で提案され、その後、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6等で提案された。上記特許文献2〜6は、めっき層中のアルミニウムとマグネシウムの合計含量が9〜14重量%で、耐食性に優れ、建材用に相応しい品質特性を示すが、めっき層のアルミニウム、マグネシウムなどの合金成分が高くて表面品質が低下し、自動車用としては使用しにくいという短所がある。
【0005】
また、欧州の場合、めっき層中のアルミニウム及びマグネシウムの合計含量を日本より低く制御する技術はあるが、この場合、耐食性が多少低下するという問題がある。
【0006】
一方、製造の観点からは、アルミニウムとマグネシウムの含量を低く制御する場合、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき層の凝固開始温度は、アルミニウムとマグネシウムの含量により多少の差はあるものの、400〜420℃の範囲であり、最終的に亜鉛−アルミニウム−マグネシウムの三元共晶組織の凝固終了温度が340℃付近であり、液相−固相温度区間でマグネシウムの選択的酸化によって流れ模様が発生し、表面品質が悪くなるという問題がある。即ち、めっき層が凝固する過程で凝固されない溶融金属プール(pool)にはアルミニウム及びマグネシウムが濃縮し、マグネシウムの濃度が高いほど、酸化が容易に行われ、流動性にもバラツキが出る。
【0007】
従って、めっき層中のアルミニウムとマグネシウムの含量をできる限り低めながら、優れた耐食性と均一な表面品質が確保できる亜鉛−アルミニウム−マグネシウム系溶融亜鉛合金めっき鋼板のための技術が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国登録特許3505043号
【特許文献2】日本特公昭64−8702号公報
【特許文献3】日本特公昭64−11112号公報
【特許文献4】日本特開平8−60324号公報
【特許文献5】日本特開平10−226865号公報
【特許文献6】日本登録特許3201469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一側面は、Zn−Al−Mg系溶融亜鉛合金めっき浴を利用して製造された耐食性及び表面品質に優れた溶融亜鉛合金めっき鋼板及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、素地鋼板及び溶融亜鉛合金めっき層を含み、上記溶融亜鉛合金めっき層の組成は重量%で、Al:1〜3%、Mg:1.5〜4.0%、残りはZn及び不可避な不純物を含み、Al+Mg:2.5〜7.0%で、Al/(Al+Mg):0.38〜0.48を含む高耐食溶融亜鉛合金めっき鋼板を提供する。
【0011】
また、本発明は、重量%で、Al:1〜3%、Mg:1.5〜4.0%、残りはZn及び不可避な不純物を含み、Al+Mg:2.5〜7.0%で、Al/(Al+Mg):0.38〜0.48を含む溶融亜鉛合金めっき浴を用意する段階と、上記溶融亜鉛合金めっき浴に素地鋼板を浸漬してめっきを行うことで、めっき鋼板を製造する段階と、上記めっき鋼板をガスワイピングした後、冷却する段階と、を含む高耐食溶融亜鉛合金めっき鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、Al−Zn−MgZnの三元共晶組織を基地とし、主にZn−MgZnの二元共晶組織が分散されためっき組織を有する溶融亜鉛合金めっき鋼板を製造することができるめっき浴及び製造方法を提供し、これにより、耐食性だけでなく、美麗な表面外観を有する溶融亜鉛合金めっき鋼板を提供することで、建材用、家電製品及び自動車用防錆鋼板等への高い活用性が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】Al及びMgの変化によるめっき層を示した模式図である。
図2】Al/(Al+Mg)の変化による溶融亜鉛合金めっき鋼板の表面粗さの変化を示したグラフである。
図3】実施例1の結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に対して詳しく説明する。
【0015】
まず、本発明に用いられる溶融亜鉛合金めっき浴について詳しく説明する。
【0016】
本発明に用いられる溶融亜鉛合金めっき浴は、重量%で、Al:1〜3%、Mg:1.5〜4.0%、残りはZn及び不可避な不純物を含み、Al+Mg:2.5〜7.0%で、Al/(Al+Mg):0.38〜0.48であることが好ましい。
【0017】
上記Alの含量が1%未満では、耐食性の向上効果が不足し、Mg添加により酷くなるめっき浴表層部の酸化を防止する効果が不十分で、3%を超えると、素地鋼板のFe溶出が増加し、めっき層の溶接性及びリン酸塩処理性が低下するため、Al含量は1〜3%であることが好ましい。
【0018】
上記Mgの含量が1.5%未満では、耐食性の向上効果が不十分で、4.0%を超えると、後述するめっき浴の温度範囲で、めっき浴の酸化性及びドロス発生が増大してめっき浴の管理が困難であるため、Mgの含量は1.5〜4.0%であることが好ましい。
【0019】
上記アルミニウムとマグネシウムはともにめっき層の耐食性を向上させる元素であって、これらの元素の和が増加するほど、耐食性が向上する。しかし、めっき浴中のアルミニウムとマグネシウム重量%の和が2.5%未満では、耐食性の向上効果が不十分であり、7.0%を超えると、耐食性は向上するが、めっき層の硬度が上昇して加工クラック(Crack)の発生が促進され、溶接性、塗装性が劣化したり、処理方法の改善が必要であるという短所があるため、2.5〜7.0%であることが好ましい。
【0020】
本発明者らは、実験を通じて、上記Al及びMgの範囲において、Mg/Alの濃度比率により決まるAl/(Al+Mg)の比率によって3つの形態のめっき組織が形成され、めっき層の耐食性が変化することを見出し、これらのうち3つの例を図1に模式化した。
【0021】
上記本発明の組成範囲で生成可能な結晶組織は、Zn−Al−MgZnの三元共晶組織を基地とし、Zn単相、MgZn単相、Zn−MgZnの二元共晶組織、Zn−Alの二元共晶組織などが形成されることができる。このような合金めっき層の組織形態は、めっき浴の成分組成比率と冷却方法により異なり、組織形態によって耐食性に差が出る。
【0022】
図1の(a)は、めっき浴の組成がZn−2Al−2Mg、Mg+Al=4、Al/(Mg+Al)=0.5の場合であって、Zn−Al−MgZnの三元共晶組織を基地とし、粗大なZn単相組織が形成されることを示す。図1の(b)は、Zn−3Al−2Mg、Mg+Al=5、Al/(Mg+Al)=0.6の場合であって、上記図1の(a)に比べて、アルミニウムが若干高くてZn−Alの二元共晶組織も形成されることを示す。一方、図1の(c)は、Zn−2Al−3Mg、Mg+Al=5、Al/(Mg+Al)=0.4の場合であって、Zn単相組織が10%未満観察され、めっき浴中のMgZnの一部がめっき層中に不可避的に含まれており、Zn−Al−MgZnの三元共晶組織を基地組織とし、Zn−MgZnの二元共晶組織で構成されている。上記図1の(c)のめっき組織は、Al/(Mg+Al)が0.38〜0.48のときに形成された。
【0023】
図1の(a)のようにZn初晶相が生成されたり、(b)のようにZn−Alの二元共晶組織が形成される場合に比べて、Al/(Mg+Al)が0.38〜0.48を満たす(c)は、MgZnが形成される場合の耐食性に優れ、めっき層中のMgがZnの緻密な腐食生成物であるシモンコライト(Simonkolleite、Zn(OH)Cl)の形成を促進して耐食性を向上させる効果が得られる。
【0024】
上記Al/(Mg+Al)が0.38未満では、めっき浴の酸化が酷くなり、めっき浴中にドロス形態のMgZnの金属間化合物粒子が浮遊し、めっき層欠陥が発生する恐れがあり、また、めっき層中には粗大なMgZn相が形成され、めっき表面が粗くなるという問題がある。また、Al/(Mg+Al)が0.48を超えると、図1の(a)及び(b)から分かるように、めっき層にZn単相が多量形成されて耐食性が低下する。
【0025】
本発明の溶融亜鉛合金めっき浴にはSi、Li、Ti、La、Ce、B及びPからなる群より選択される1種または2種以上が0.1%以下含まれることが好ましい。上記成分を微量添加すると、めっき層の結晶組織を微細、かつ緻密にし表面粗さを減少させ、本発明で制限するAl/(Al+Mg)範囲で均一な表面粗さが得られるようになる。好ましい上記添加元素の組成範囲は0.005〜0.1%であり、0.005%未満では添加効果が得られず、0.1%を超えると、めっき浴に浮遊物が生成したり、それ以上の効果が得られないため、0.005〜0.1%にすることが好ましい。
【0026】
以下、本発明の溶融亜鉛合金めっき鋼板について詳しく説明する。
【0027】
本発明の溶融亜鉛合金めっき鋼板は、素地鋼板及び溶融亜鉛合金めっき層を含み、上記溶融亜鉛合金めっき層の組成は重量%で、Al:1〜3%、Mg:1.5〜4.0%、残りはZn及び不可避な不純物を含み、Al+Mg:2.5〜7.0%を満たし、Al/(Al+Mg):0.38〜0.48を含むことが好ましい。
【0028】
本発明の溶融亜鉛合金めっき鋼板において、溶融亜鉛合金めっき層の合金相はZn−Al−MgZnの三元共晶組織とZn−MgZnの二元共晶組織を主組織とし、Zn単相組織は10%以下、残りはMgZn組織を含むことが好ましい。
【0029】
腐食環境下において、亜鉛はジンサイト(Zincite、ZnO)、ハイドロジンサイト(Hydrozincite、Zn(CO(OH))、シモンコライト(Simonkolleite、Zn(OH)Cl)などの腐食生成物を形成し、中でも、シモンコライトは緻密な腐食生成物であって、腐食抑制効果に優れる。Zn−Al−Mg系合金めっき鋼板におけるめっき層中のMgは、シモンコライトの生成を促進してめっき層の耐食性を向上させるため、本発明ではZn単相組織が10%以下になるよう制御する。Zn単相組織が10%を超えて形成されると、腐食環境下でシモンコライトの生成が低下し、耐食性が低下するという問題がある。
【0030】
溶融めっき工程では、めっき後に調質圧延(skin pass)を行うことで、表面に適正な粗さを付与することが一般的である。鋼板の表面粗さは、プレス成形時の加工性向上及び塗装後の線形性に影響を及ぼす重要な因子であるため、管理が必要である。
【0031】
そのために、適正な表面粗さを有するロールを用いて調質圧延することで、ロールの粗さを鋼板に転写し鋼板の表面に粗さを付与する。めっき層の表面が粗いと、調質圧延ロールの粗さが一定に鋼板に転写されにくくなり、調質圧延後の表面粗さも不均一となるという問題点がある。即ち、めっき層の表面が粗くないほど、調質圧延ロールの粗さが鋼板に均一に転写されやすいため、調質圧延前のめっき層の粗さRaは可能な限り下げることが好ましい。従って、本発明では、溶融亜鉛合金めっき鋼板の表面粗さRaを2μm以下に管理することが好ましい。
【0032】
図2はAl/(Mg+Al)の変化によるめっき層の粗さを比較した結果であり、Al/(Mg+Al)の値が0.38未満では、めっき層の表面粗さが粗すぎることが分かり、めっき浴添加元素や冷却速度によっても表面粗さを調節することが困難となる。
【0033】
本発明の溶融亜鉛合金めっき鋼板の表面には、リン(P)が0.01〜500mg/mの範囲で付着されていることが好ましい。上記リンは、後述する溶融亜鉛合金めっき鋼板の製造過程の冷却時にリン酸塩水溶液噴射を通じて付着されたものである。上記付着されるリンによって、後述する冷却時の冷却能の効果が向上する特徴はあるが、その含量が500mg/mを超えると、表面欠陥を誘発する恐れがあるため、その上限を500mg/mにすることが好ましい。
【0034】
以下、溶融亜鉛合金めっき鋼板の製造方法について詳しく説明する。
【0035】
本発明の溶融亜鉛合金めっき鋼板の製造方法は、上述した溶融亜鉛合金めっき浴を用意する段階と、上記溶融亜鉛合金めっき浴に素地鋼板を浸漬してめっきを行うことでめっき鋼板を製造する段階と、上記めっき鋼板をガスワイピング後に冷却する段階と、を含む。
【0036】
上記溶融亜鉛合金めっき浴は420〜450℃の温度でめっきを行うことが好ましい。一般的に、溶融亜鉛めっき層は420℃内外で凝固反応が終了するが、本発明の溶融亜鉛合金めっき鋼板のめっき層は400℃以下で凝固が開始し、350℃内外で凝固が終了するため、凝固温度区間が広いという特性があり、凝固区間での冷却速度は、めっき層の組織及び表面品質に影響を及ぼす。従って、本発明の溶融亜鉛合金めっき浴の温度は一般的なめっき浴温度より低い420〜450℃に設定することが好ましい。
【0037】
上記めっき後のガスワイピング処理によりめっき付着量を調整する。上記ガスワイピング処理は、空気または窒素を用いて行うことが好ましく、中でも、窒素を用いることがより好ましい。その理由は、空気を用いると、めっき層の表面でマグネシウムが優先的に酸化し、めっき層に表面欠陥を発生させることがあるためである。上記ガスワイピングはめっき付着量を調整するためのもので、その方法は特に限定されない。
【0038】
上記冷却は10℃/s以上の冷却速度で冷却することが好ましい。上記冷却はガスワイピング直後から凝固終了時点まで施し、空気を噴射して冷却することが好ましい。上記冷却速度が10℃/sより遅いと、めっき層の結晶組織が粗大となり、Zn単相が形成されて耐食性と表面品質が低下するため、10℃/s以上の冷却速度で冷却することが好ましい。
【0039】
このとき、噴射される空気の圧力は300mbar以下にすることが好ましい。これは、液相と固相が共存する凝固過程でめっき層が損傷することを防止するためである。
【0040】
一方、上記冷却時、空気とともにリン酸塩水溶液を噴射して冷却することがより好ましい。これは、リン酸塩水溶液を噴射することで、12℃/s以上に冷却速度を増大させ、美麗な表面外観のめっき層を確保することができるためである。リン酸塩水溶液により鋼板に付着されたリン酸塩成分が縮合反応し高分子化する反応が、吸熱反応であるため、冷却速度を増大させる。
【0041】
このとき用いられるリン酸塩には、リン酸水素アンモニウム、リン酸カルシウムアンモニウム、リン酸ナトリウムアンモニウムなどがあり、水溶液中のリン酸塩濃度は0.01〜5.0%範囲であることが好ましい。これは、上述したように、めっき層の表面に付着したリンの含量を0.01〜500mg/mの範囲に制御するためのものである。
【0042】
空気とリン酸塩水溶液を噴射する方法としては2流体噴射ノズルを用い、上記リン酸塩水溶液の噴射圧力は0.3〜5.0kgf/cm、上記空気の噴射圧力は0.5〜7.0kgf/cmにすることが好ましい。上記噴射圧力が適正範囲未満では、溶液噴射が不十分であり、適正範囲を超えると、液滴の衝突圧が増加してめっき層に点状のフィッティング欠陥を誘発する。
【0043】
一方、上記噴射されたリン酸塩水溶液は、その液滴が−1kV〜−40kVに帯電されたメッシュ形態の帯電電極を通過して静電的に帯電されることが好ましい。これは、均一、且つ微細な液滴を得るためであり、電圧が−1kV以下では、液滴の微粒化効果がなく、大きい液滴が残留してめっき層にフィッティングマークを発生させることがあり、付加電圧が−40kV以上に高いと、帯電電極と鋼板との間に電気的スパークが発生することがあるため、−1kV〜−40kVに帯電させることが好ましい。
【0044】
以下、本発明の実施例について詳しく説明する。下記実施例は、本発明への理解を助けるためのもので、下記実施例により本発明が限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
鋼帯を連続めっきする溶融めっき設備において、厚さ0.8mmの低炭素冷間圧延鋼板を素地鋼板とし、次のような条件で溶融亜鉛合金めっきを施した。このとき、ガスワイピングは窒素ガスを用い、めっき付着量が異なるめっき鋼板を製造し、塩水噴霧試験(KS−C−0223に準ずる塩水噴霧規格試験)によって、試片表面のさび発生面積が5%になるまでの経過時間を測定し、その結果を図3に示した。
【0046】
−連続還元炉条件:鋼板最高温度780℃、露点温度−40℃
−めっき浴組成:表1
−めっき浴温度及び浸漬時間:440℃、3秒
−めっき後の鋼板冷却速度:10℃/s(空気噴射)
【0047】
【表1】
【0048】
図3に示したように、本発明のAl及びMgの濃度条件を満たす発明例は、比較例に比べて優れた塩水噴霧耐食性を有することを確認することができる。
【0049】
(実施例2)
一方、めっき浴の組成と、めっき組織の関係を通じて、溶融亜鉛合金めっき鋼板の耐食性を確認するため、実施例2を行った。
【0050】
実施例2は、鋼帯を連続的にめっきする溶融めっき設備において、厚さ0.8mmの低炭素冷間圧延鋼板を素地鋼板とし、次のような条件で溶融亜鉛合金めっきを施した。このとき、ガスワイピングは窒素ガスを用い、片面のめっき付着量が60g/mであるめっき鋼板を製造した。塩水噴霧試験(KS−C−0223に準ずる塩水噴霧規格試験)によって、試片表面のさび発生面積が5%になるまでの経過時間を測定し、その結果を表2に示した。
【0051】
−連続還元炉条件:鋼板最高温度780℃、露点温度−40℃
−めっき浴組成:表1
−めっき浴温度及び浸漬時間:440℃、3秒
−めっき後の鋼板冷却速度:10℃/s(空気噴射)
【0052】
一方、めっき層の断面組織において、Zn単相が占める面積を表2に示し、他の金属相の場合は存在有無を○/×で表示した。
【0053】
【表2-1】
【表2-2】
【0054】
表2から、本発明のめっき浴組成を満たすめっき層は、主にZn−MgZn二元共晶組織とZn−Al−MgZn三元共晶組織で構成され、このとき、耐食性が向上することが分かる。
【0055】
比較例はZn単相組織が10%を超える場合で、耐食性が劣ることが分かる。但し、比較例2−7の場合、Al濃度及びMg濃度が2.3%、5%のときも満足な耐食性が得られたが、Al/(Mg濃度+Al濃度)の比率が本発明で提案する0.38未満になると、めっき層内に粗大なMgZn単相が存在することにより、表面粗さが粗くなるという問題があり、比較例として分類した。
【0056】
特に、添加剤を使用した発明例2−6〜2−9の場合、添加剤を使用しない発明例に比べて、Zn−MgZnの2元共晶組織がさらに微細化し、耐食性の向上効果が増大することが分かる。
【0057】
(実施例3)
実施例3は上述した実施例2と異なり、厚さ2.6mmの低炭素熱間圧延鋼板を素地鋼板として実験を行った。めっき浴組成を除いた工程条件は上記実施例2と同様で、実施例3では片面のめっき付着量が90g/mであるめっき鋼板を製造した。
【0058】
一方、めっき層を構成する結晶組織と塩水噴霧試験を通じて、試片表面のさび発生面積が5%になるまでの経過時間を測定し、表3に示した。
【0059】
【表3】
【0060】
表3の結果から分かるように、低炭素熱間圧延鋼板を用いた表3の結果は、冷間圧延鋼板を用いた表2の結果と同様に、本発明のめっき浴組成を満たす場合に優れた耐食特性を有することを確認することができた。
【0061】
(実施例4)
実施例4はめっき後の冷却速度が及ぼす影響について調べるために実施した。実施例4は鋼帯を連続的にめっきする溶融めっき設備において、厚さ2.6mmの低炭素熱間圧延鋼帯を酸洗いなどの方法でスケールを除去してから、めっき浴組成が一定の、次のような条件でめっきを行った。片面のめっき付着量を60g/mに調整し、及び、めっき層の凝固区間で空気噴射式冷却のみを用いるか、空気噴射式冷却チャンバと静電帯電型リン酸塩水溶液噴射を併用するかによって、鋼板の冷却速度を1〜15℃/s範囲に変化させた。めっき鋼板の表面品質と塩水噴霧試験(KS−C−0223に準ずる塩水噴霧規格試験)によって、試片表面のさび発生面積が5%になるまでの経過時間とを測定し、その結果を表4に示した。
【0062】
−連続還元炉条件:鋼板最高温度550℃、露点−40℃
−めっき浴組成/温度/浸漬時間:Al2.5%、Mg3.5%/450℃/3秒
−リン酸塩水溶液噴射条件:リン酸塩水溶液噴射圧力2.0kgf/cm、空気噴射圧力3.0kgf/cm、印加高電圧の強さ:−20kV
【0063】
【表4】
【0064】
表4から分かるように、本特許の範囲より遅い、冷却速度が10℃/s未満の場合は、耐食性が減少する傾向を示し、10℃/s以上の冷却速度で耐食性が向上する。従って、本発明では、冷却速度が10℃/s以上であることが好ましい。
【0065】
(実施例5)
実施例5は、リン酸塩水溶液噴射を用いた冷却時の好ましい条件を確認するために実施した。実施例5は、厚さ0.8mmの低炭素冷間圧延鋼帯を、次のような条件で、ガスワイピングにより片面のめっき付着量が60g/mであるめっき鋼板を製造し、めっき鋼板の表面外観及びめっき層の黒変性を評価し、表5にその結果を示した。
【0066】
−連続還元炉条件:鋼板最高温度780℃、露点−40℃
−めっき浴組成:Al2%、Mg3%
−めっき浴温度及び浸漬時間:440℃、3秒
−溶液噴射及び高電圧条件:表5参照
【0067】
表面外観は目視で表面を観察し、外観上、めっき層の流れ模様や縞模様のない均一な場合を○、微細に観察される場合を△、明らかな場合を×と表示した。また、黒変性は、めっき層を製造した直後、及び製造後3ヶ月が経過した後のめっき層の白色度を測定し、その差が2未満の場合を○、2〜5の範囲の場合を△、5超過の場合を×と表示した。
【0068】
【表5】
【0069】
表5に示されたように、本発明で提案したリン酸塩濃度、印加高電圧の強さ及び溶液噴射条件を満たす発明例の全てで、表面が美麗な表面外観が得られたが、本発明で提案した範囲から外れた比較例では、流れ模様などが観察され、めっき層の表面外観が不良で、耐黒変性も劣ることが分かる。
図1
図2
図3