【0008】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
図1(A)は、本発明の実施の形態によるプラズマCVD装置を模式的に示す断面図であり、
図1(B)は、
図1(A)に示す矢印16の方向から視たカソード及び交流電源を示す図である。
このプラズマCVD装置は被成膜基板(例えばディスク基板)1に対して左右対称の構造を有しており、被成膜基板1の両面に同時に成膜可能な装置であるが、
図1(A)では、被成膜基板1に対して左側を示し、右側は省略している。
プラズマCVD装置はチャンバー2を有しており、このチャンバー2にはガス導入フランジ15が取り付けられている。ガス導入フランジ15はアースに接続されている。ガス導入フランジ15及びチャンバー2によって成膜室が形成されているため、ガス導入フランジ15及びチャンバー2を含めてチャンバーと呼んでも良い。
チャンバー内にはプラズマウォール8が配置されている。このプラズマウォール8はガス導入フランジ15に取り付けられており、プラズマウォール8はフロート電位(図示せず)に電気的に接続されている。プラズマウォール8は、チャンバー2に対して絶縁された状態で配置されており、ガス導入フランジ15に対しても絶縁されている。また、プラズマウォール8は両端が開口された円筒形状又は断面が多角形状を有している。
プラズマウォール8の一方端には膜厚補正板8aが設けられており、膜厚補正板8aはフロート電位に電気的に接続されている。この膜厚補正板8aにより被成膜基板1の外周部分に成膜される膜の厚さを制御することができる。
プラズマウォール8の一方端の開口近傍には被成膜基板1が配置されており、被成膜基板1は、図示しないホルダー(保持部)および図示しないトランスファー装置(ハンドリングロボットあるいはロータリインデックステーブル)により、図示の位置に、順次供給されるようになっている。
被成膜基板1はイオン加速用電源としてのDC電源(直流電源)12に電気的に接続されており、このDC電源12はチャンバー2に対して絶縁された状態で配置されている。このDC電源12のマイナス電位側が被成膜基板1に電気的に接続されており、DC電源12のプラス電位側がアース6に電気的に接続されている。DC電源12としては例えば0〜1500V、0〜100mA(ミリアンペア)の電源を用いることができる。
ガス導入フランジ15内にはアノードコーン4a及びアノードベース4bからなるアノード4が配置されている。なお、
図4に示すようなカソード背板111は設けられておらず、
図1に示すアノードコーン4aは、
図4に示すアノードコーン104aとカソード背板111を一体化したような形状とされ、
図4に示すアノードコーン104aとカソード背板111との隙間が埋められた状態となっている。これにより、アノードコーン4aの背面で放電が生じてCVD膜が付着することを抑制できる。
言い換えると、アノードコーン4aはプラズマウォール8の他方端の開口を覆うように配置されている。また、アノードコーン4aはスピーカーのような形状とされており、アノードコーン4aはその最大内径側を被成膜基板1に向けて配置されている。
アノードコーン4aとプラズマウォール8の他方端との間には隙間18aが設けられており、この隙間18aの最大部分が5mm以下であることが好ましく、より好ましくは3mm以下である。なお、本実施の形態では、この隙間18aの最大部分の間隔を3mmとしている。このようにアノードコーン4aとプラズマウォール8の他方端との最大の隙間を5mm以下とすることにより、アノードコーン4aとプラズマウォール8によって囲まれた空間にプラズマを閉じ込めることを妨げないようにすることができる。つまり、この最大の隙間を5mmより大きくすると、この5mmより大きい隙間からアノードコーン4aの背面や外側(即ちアノードコーン4aとプラズマウォール8によって囲まれた空間の外側)にプラズマが分散してしまったり、背面や外側で異常放電を起こすおそれがある。言い換えると、この最大の隙間を5mm以下とすることにより、アノードコーン4aの背面や外側にCVD膜が成膜されてしまうことを抑制できる。
また、隙間18aには、ガス導入フランジ15とアノード4及びプラズマウォール8それぞれとの隙間18b,18cが繋げられており、隙間18b,18cの最大部分が5mm以下であることが好ましい。
なお、ガス導入フランジ15とアノード4との隙間18bの全部が最大5mm以下であっても良いが、ガス導入フランジ15とアノード4との隙間18bの一部が最大5mm以下であり且つこの一部の隙間18bが隙間18aに繋げられている状態であっても良い。また、ガス導入フランジ15とプラズマウォール8との隙間18cの全部が最大5mm以下であっても良いが、ガス導入フランジ15とプラズマウォール8との隙間18cの一部が最大5mm以下であり且つこの一部の隙間18cが隙間18aに繋げられている状態であっても良い。このように隙間18aに繋げられた隙間18b,18cそれぞれの少なくとも一部を最大5mm以下とすることにより、アノード4の背面で異常放電を起こすことをより効果的に抑制でき、アノード4の背面にCVD膜が成膜されてしまうことをより効果的に抑制できる。
アノードコーン4aの外側(プラズマウォール8の内側とは反対側)にはアノードベース4bが設けられており、アノードベース4bはアノードコーン4aと接続されている。アノードベース4bはDC電源(直流電源)7に電気的に接続されており、このDC電源7、アノードベース4b及びアノードコーン4aはガス導入フランジ15に対して絶縁された状態で配置されている。DC電源7のプラス電位側がアノードベース4b及びアノードコーン4aに電気的に接続されており、DC電源7のマイナス電位側がアース6に電気的に接続されている。DC電源7としては例えば0〜500V、0〜7.5A(アンペア)の電源を用いることができる。
ガス導入フランジ15内には、例えばタンタルからなるフィラメント状のカソード(ホットカソード)3が形成されており、このホットカソード3は被成膜基板1に対向するように配置されている。ホットカソード3は、アノードコーン4aの内側で且つプラズマウォール8の他方端の開口近傍に配置されており、アノードコーン4aによって囲まれるように配置されている。
ホットカソード3の両端はガス導入フランジ15の外部に位置する交流電源5に電気的に接続されている。即ち、ホットカソード3の一端には第1の配線17aを介して交流電源5に電気的に接続され、ホットカソード3の他端には第2の配線17bを介して交流電源5に電気的に接続されている。交流電源5はガス導入フランジ15に対して絶縁された状態で配置されている。交流電源5としては例えば0〜50V、10〜50A(アンペア)の電源を用いることができる。交流電源5の一端はアース6に電気的に接続されている。なお、本実施の形態では、交流電源5を用いているが、交流電源5に代えて直流電源を用いても良い。
第1の配線17a及び第2の配線17bそれぞれは、アノードコーン4aに設けられた孔4cを通ってアノードコーン4aの内側から外側に延伸している。孔4cは、一つの孔でも二つの孔でも良い。即ち、第1の配線17a及び第2の配線17bの両者が一つの孔を通るようにしても良いし、第1の配線17aが一つの孔を通り、第2の配線17bが他の一つの孔を通るようにしても良い。
孔4cと第1の配線17a及び前記第2の配線17bそれぞれとの最大の隙間は5mm以下であることが好ましく、より好ましくは3mm以下である。このように最大の隙間を5mm以下とすることにより、アノードコーン4aとプラズマウォール8によって囲まれた空間にプラズマを閉じ込めることを妨げないようにすることができる。つまり、この最大の隙間を5mmより大きくすると、この5mmより大きい隙間からアノードコーン4aの背面や外側にプラズマが分散してしまい、背面や外側で異常放電を起こすおそれがある。言い換えると、この最大の隙間を5mm以下とすることにより、アノードコーン4aの背面や外側にCVD膜が成膜されてしまうことを抑制できる。
また、孔4cと第1の配線17a及び前記第2の配線17bそれぞれとの隙間には、ガス導入フランジ15とアノード4との隙間が繋げられており、この隙間の最大部分が5mm以下であっても良い。ただし、この隙間の最大部分が5mm以下であることは必須ではない。
なお、上記のガス導入フランジ15とアノード4との隙間の全部が最大5mm以下であっても良いが、ガス導入フランジ15とアノード4との隙間の一部が最大5mm以下であり且つこの一部の隙間が、孔4cと第1の配線17a及び前記第2の配線17bそれぞれとの隙間に繋げられている状態であっても良い。このようにすることにより、アノード4の背面で異常放電を起こすことをより効果的に抑制でき、アノード4の背面にCVD膜が成膜されてしまうことをより効果的に抑制できる。
ガス導入フランジ15の外側にはネオジウム磁石9が配置されている。このネオジウム磁石9は例えば円筒形状又は断面が多角形状を有しており、この円筒側面又は多角側面の筒方向の中心を通る内径とホットカソード3との距離は50mm以内(より好ましくは35mm以内)であることが好ましい。この内径の中心は磁石中心となり、この磁石中心はホットカソード3の略中心及び被成膜基板1の略中心それぞれと対向するように位置している。ネオジウム磁石9は、その磁石中心の磁力が50G以上200G(ガウス)以下であることが好ましく、より好ましくは50G以上150G以下である。磁石中心の磁力を200G以下とする理由は、ネオジウム磁石では磁石中心の磁力を200Gまで高めるのが製造上の限界であるからである。また、磁石中心の磁力を150G以下とするのがより好ましい理由は、磁石中心の磁力を150G超とすると磁石を作るコストが増大するからである。
また、プラズマCVD装置はチャンバー内を真空排気する真空排気機構(図示せず)を有している。また、プラズマCVD装置はチャンバー内に成膜原料ガスを供給するガス供給機構(図示せず)を有しており、このガス供給機構のガス導入部15aはガス導入フランジ15に設けられている。
次に、
図1に示すプラズマCVD装置を用いて被成膜基板1にDLC膜を成膜する方法について説明する。
まず、前記真空排気機構を起動させ、チャンバーの内部を所定の真空状態とし、チャンバーの内部に前記ガス導入機構によって成膜原料ガスとして例えばトルエン(C
7H
8)ガスを導入する。チャンバー内が所定の圧力になった後、ホットカソード3に交流電源5によって交流電流を供給することによりホットカソード3が加熱される。また、アノード4にDC電源7によって直流電流を供給し、被成膜基板1にDC電源12によって直流電流を供給する。
ホットカソード3の加熱によって、ホットカソード3からアノードコーン4aに向けて多量の電子が放出され、ホットカソード3とアノードコーン4aとの間でグロー放電が開始される。多量の電子によってチャンバーの内部の成膜原料ガスとしてのトルエンガスがイオン化され、プラズマ状態とされる。この際、ネオジウム磁石9によってホットカソード3の近傍に位置するトルエンガスをプラズマ化する領域に磁場が発生されているので、この磁場によってプラズマを高密度化することができ、イオン化効率を向上させることができる。そして、プラズマ状態の成膜原料分子は、被成膜基板1のマイナス電位によって直接に加速されて、被成膜基板1の方向に向かって飛走して、被成膜基板1の表面に付着される。これにより、被成膜基板1には薄いDLC膜が形成される。この際、被成膜基板1の表面では下記式(1)の反応が起きている。
C
7H
8+e
− → C
aH
b +xH
2↑ ・・・(1)
次に、
図1に示すプラズマCVD装置を用いた磁気記録媒体の製造方法について説明する。
まず、非磁性基板上に少なくとも磁性層を形成した被成膜基板を用意し、この被成膜基板を保持部に保持させる。次いで、チャンバー内で所定の真空条件下に加熱されたホットカソード3とアノードコーン4aとの間の放電により原料ガスをプラズマ状態とし、このプラズマを前記保持部に保持された被成膜基板の表面に加速衝突させる。これにより、この被成膜基板の表面には炭素が主成分である保護層が形成される。なお、保護層としてのDLC層を形成する場合は、原料ガスとして炭素と水素を含有するガスを用いることができる。
次に、本実施の形態によって得られる効果を説明する。
図4に示す従来のプラズマCVD装置では、カソード背板111とアノードコーン104aとの間に隙間113があるため、アノードコーン104aの背面で放電が生じて炭素膜110aが付着することがある。
これに対し、
図1に示す本実施の形態のプラズマCVD装置では、
図1に示すアノードコーン4aを
図4に示すアノードコーン104aとカソード背板111を一体化したような形状とし、且つアノードコーン4aの孔4cと第1の配線17a及び前記第2の配線17bそれぞれとの最大の隙間を5mm以下とし、且つアノードコーン4aとプラズマウォール8の他方端との最大の隙間を5mm以下とすることにより、アノードコーン4aの背面で放電が生じてCVD膜が付着することを抑制できる。また、従来技術のように付着したCVD膜が剥離することで、この剥離したCVD膜が被成膜基板に付着して磁気記録媒体に不良が発生することを抑制できる。
アノードコーン4aの背面で放電が生じるのを抑制することにより、従来技術のような消費電力のロスがなくなるため、この電力ロス分だけ原料ガスの分解に使われるエネルギーが低下することもなくなり、被成膜基板1に成膜される膜の膜質が低下するおそれもなくなる。
【実施例】
【0009】
[実施例1]
図1に示すプラズマCVD装置に8時間連続放電試験を行った。
(共通の試験条件)
被成膜基板 : Siウエハ
原料ガス : C
7H
8
ガス流量 : 3.25sccm
圧力 : 0.3Pa
アノード電圧Vp(DC電源7の電圧) : 75V
プラズマ電流Ip(DC電源7の電流) : 1650mA
基板バイアス(DC電源12の電圧) : −250V
ホットカソード3 : タンタルフィラメント
交流電源5の出力 : 200W
外部磁場 : 50ガウス
(結果)
アノードコーン4aと第1及び第2の配線17a,17bそれぞれとの隙間には炭素膜の付着が無かった(
図2(B)参照)。
アノード4とガス導入フランジ15との隙間には炭素膜の付着が無く、なおかつ異常放電の痕跡が無かった(
図2(A)参照)。
[比較例1]
図4に示すプラズマCVD装置に8時間連続放電試験を行った。
(共通の試験条件)
被成膜基板 : Siウエハ
原料ガス : C
7H
8
ガス流量 : 3.25sccm
圧力 : 0.3Pa
アノード電圧Vp(DC電源7の電圧) : 75V
プラズマ電流Ip(DC電源7の電流) : 1650mA
基板バイアス(DC電源12の電圧) : −250V
ホットカソード3 : タンタルフィラメント
交流電源5の出力 : 200W
外部磁場 : 50ガウス
(結果)
アノード104とカソード背板111との隙間には炭素膜の付着が有った(
図2(C),(D))。
アノード104とガス導入フランジ115との隙間には炭素膜の付着が有り、なおかつ所々に異常放電の痕跡が有った(
図2(C))。
[実施例2]
図1に示すプラズマCVD装置を用いて3.5インチのメディアに厚さ40nmのDLC膜を下記の共通試験条件で成膜し、成膜されたDLC膜の水との接触角を測定することでDLC膜の硬度を評価した。接触角と硬度の関係は
図3に示すとおりである。
(共通の試験条件)
被成膜基板 : 3.5インチのメディア
原料ガス : C
7H
8
ガス流量 : 3.25sccm
圧力 : 0.3Pa
アノード電圧Vp(DC電源7の電圧) : 75V
プラズマ電流Ip(DC電源7の電流) : 1650mA
基板バイアス(DC電源12の電圧) : −250V、−300V、−350V
ホットカソード3 : タンタルフィラメント
交流電源5の出力 : 200W
外部磁場 : 50ガウス
(結果)
基板バイアス −250V : ヌープ硬度 2930HK(接触角 57°)
基板バイアス −300V : ヌープ硬度 2970HK(接触角 56°)
基板バイアス −350V : ヌープ硬度 3000HK(接触角 55°)
[比較例2]
図4に示すプラズマCVD装置を用いて3.5インチのメディアに厚さ40nmのDLC膜を下記の共通試験条件で成膜し、成膜されたDLC膜の水との接触角を測定することでDLC膜の硬度を評価した。接触角と硬度の関係は
図2に示すとおりである。
(共通の試験条件)
被成膜基板 : 3.5インチのメディア
原料ガス : C
7H
8
ガス流量 : 3.25sccm
圧力 : 0.3Pa
アノード電圧Vp(DC電源7の電圧) : 75V
プラズマ電流Ip(DC電源7の電流) : 1650mA
基板バイアス(DC電源12の電圧) : −250V、−300V、−350V
ホットカソード3 : タンタルフィラメント
交流電源5の出力 : 200W
外部磁場 : 50ガウス
(結果)
基板バイアス −250V : ヌープ硬度 2650HK(接触角 65°)
基板バイアス −300V : ヌープ硬度 2770HK(接触角 62°)
基板バイアス −350V : ヌープ硬度 2830HK(接触角 60°)
実施例2及び比較例2それぞれの結果によれば、実施例2の方が比較例2に比べて接触角が小さいので、実施例2の方が比較例2に比べて高硬度のDLC膜が成膜されたことを確認した。