特許第5764789号(P5764789)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5764789プラズマCVD装置及び磁気記録媒体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764789
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】プラズマCVD装置及び磁気記録媒体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/503 20060101AFI20150730BHJP
   C23C 16/26 20060101ALI20150730BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20150730BHJP
   G11B 5/72 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   C23C16/503
   C23C16/26
   G11B5/84 B
   G11B5/72
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-546649(P2012-546649)
(86)(22)【出願日】2010年11月29日
(86)【国際出願番号】JP2010071772
(87)【国際公開番号】WO2012073384
(87)【国際公開日】20120607
【審査請求日】2013年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】595152438
【氏名又は名称】株式会社ユーテック
(74)【代理人】
【識別番号】100110858
【弁理士】
【氏名又は名称】柳瀬 睦肇
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】本多 祐二
(72)【発明者】
【氏名】荒木 智幸
(72)【発明者】
【氏名】老川 晶久
(72)【発明者】
【氏名】田中 正史
【審査官】 伊藤 光貴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−007126(JP,A)
【文献】 特開2000−226669(JP,A)
【文献】 特開2010−013675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00−16/56
G11B 5/72
G11B 5/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバーと、
前記チャンバー内に配置され、両端が開口された円筒形状又は断面が多角形状を有するプラズマウォールと、
前記チャンバー内に配置され、前記プラズマウォールの一方端の開口近傍に配置された被成膜基板を保持する保持部と、
前記チャンバー内に配置され、前記プラズマウォールの他方端の開口を覆うように配置されたアノードと、
前記チャンバー内に配置され、前記アノードの内側で且つ前記プラズマウォールの他方端の開口近傍に配置され、前記保持部に保持された前記被処理基板と対向して配置されたフィラメント状のカソードと、
前記チャンバー外に配置され、前記カソードの一端に第1の配線を介して電気的に接続され、前記カソードの他端に第2の配線を介して電気的に接続された交流電源または直流電源と、
前記アノードに設けられ、前記第1の配線及び前記第2の配線それぞれが通る孔と、
前記チャンバー外に配置され、前記アノードに電気的に接続された第1の直流電源と、
前記チャンバー外に配置され、前記保持部に保持された前記被成膜基板に電気的に接続された第2の直流電源と、
前記チャンバー内に原料ガスを供給するガス供給機構と、
前記チャンバー内を排気する排気機構と、
を具備することを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記プラズマウォールの他方端と前記アノードとの最大の隙間が5mm以下であり、
前記孔と前記第1の配線及び前記第2の配線それぞれとの最大の隙間が5mm以下であることを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記プラズマウォールの他方端と前記アノードとの隙間に繋げられた、前記チャンバーと前記アノードとの隙間を有し、前記隙間の最大部分が5mm以下であることを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項4】
請求項2または3において、
前記プラズマウォールの他方端と前記アノードとの隙間に繋げられた、前記チャンバーと前記プラズマウォールとの隙間を有し、前記隙間の最大部分が5mm以下であることを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のプラズマCVD装置を用いた磁気記録媒体の製造方法において、
非磁性基板上に少なくとも磁性層を形成した被成膜基板を前記保持部に保持し、
前記チャンバー内で真空条件下に加熱された前記フィラメント状のカソードと前記アノードとの間の放電により前記原料ガスをプラズマ状態とし、このプラズマを前記保持部に保持された被成膜基板の表面に加速衝突させて炭素が主成分である保護層を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、前記原料ガスは、前記被成膜基板に前記保護層としてのDLC層を形成するための原料ガスであって、炭素と水素を含有するガスを含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD装置、磁気記録媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図4(A)は、従来のプラズマCVD装置を模式的に示す断面図であり、図4(B)は、図4(A)に示す矢印の方向から視たカソード及び交流電源を示す図である。
このプラズマCVD装置は被成膜基板(例えばディスク基板)101に対して左右対称の構造を有しており、被成膜基板101の両面に同時に成膜可能な装置であるが、図4(A)では、被成膜基板101に対して左側を示し、右側は省略している。
プラズマCVD装置はチャンバー102を有しており、このチャンバー102にはガス導入フランジ115が取り付けられている。ガス導入フランジ115及びチャンバー102によって成膜室が形成されている。ガス導入フランジ115内にはホットカソード(カソード電極)103が形成されている。ホットカソード103の両端はガス導入フランジ115の外部に位置する交流電源105に電気的に接続されている。交流電源105の一端はアース106に電気的に接続されている。
ガス導入フランジ115内には円盤形状のカソード背板111が形成されており、このカソード背板111はホットカソード103と交流電源105の間に位置し、フロート電位とされている。また、ガス導入フランジ115内にはアノードコーン104a及びアノードベース104bからなるアノード104が配置されており、アノードコーン104aとカソード背板111との間には隙間113が設けられている。
アノードベース104bはDC電源107に電気的に接続されている。このDC電源107のプラス電位側がアノードベース104bに電気的に接続されており、DC電源107のマイナス電位側がアース106に電気的に接続されている。
チャンバー102内には被成膜基板101が配置されている。被成膜基板101はイオン加速用電源としてのDC電源(直流電源)112に電気的に接続されている。このDC電源112のマイナス電位側が被成膜基板101に電気的に接続されており、DC電源112のプラス電位側がアース106に電気的に接続されている。
アースに接続されたガス導入フランジ115及びチャンバー102の内には、ホットカソード103及びアノード104それぞれと被成膜基板101との間の空間を覆うようにプラズマウォール108が配置されている。このプラズマウォール108は、フロート電位(図示せず)に電気的に接続されている。また、プラズマウォール108は円筒形状を有している。プラズマウォール108とアノードコーン104aとの間にはリング状の空間114が設けられており、この空間114の幅は15mm程度である。また、チャンバー102の外側にはマグネット109が配置されている。
次に、図4に示すプラズマCVD装置を用いて被成膜基板101にDLC(Diamond Like Carbon)膜を成膜する方法について説明する。
まず、チャンバー102の内部を所定の真空状態とし、チャンバー102の内部に成膜原料ガスとして例えばトルエン(C)ガスをガス導入フランジ115のガス導入部115aから導入する。チャンバー102内が所定の圧力になった後、ホットカソード103に交流電源105によって交流電流を供給することによりホットカソード103が加熱される。また、アノード104にDC電源107によって直流電流を供給し、被成膜基板101にDC電源112によって直流電流を供給する。
ホットカソード103の加熱によって、ホットカソード103からアノードコーン104aに向けて多量の電子が放出され、ホットカソード103とアノードコーン104aとの間でグロー放電が開始される。多量の電子によってチャンバー102の内部の成膜原料ガスとしてのトルエンガスがイオン化され、プラズマ状態とされる。この際、マグネット109によってホットカソード103の近傍に位置するトルエンガスをプラズマ化する領域に磁場が発生されているので、この磁場によってプラズマを高密度化することができる。そして、プラズマ状態の成膜原料分子は、被成膜基板101のマイナス電位によって直接に加速されて、被成膜基板101の方向に向かって飛走して、被成膜基板101の表面に付着される。これにより、被成膜基板101には薄いDLC膜が形成される(例えば特許文献1参照)。
上記従来のプラズマCVD装置では、カソード背板111とアノードコーン104aとの間に隙間113があるため、被成膜基板101にDLC膜を形成する際に、アノードコーン104aの背面で放電が生じて炭素膜110aが付着することがある。また、プラズマウォール108とアノードコーン104aとの間の空間114で放電が生じて空間114の壁面にも炭素膜が付着することがある。これらの付着した炭素膜110aが剥離してアノードベース104bとガス導入フランジ115との間に堆積し、その結果、堆積した炭素膜のパーティクル110bによってアノード104とガス導入フランジ115との間の絶縁性が劣化し、安定的に放電させることが困難となる。また、炭素膜110aが剥離すると被成膜基板101に付着して不良が発生してしまうことがある。
また、上述したアノードコーン104aの背面または空間114で生じる放電によって消費される電力は被成膜基板101への成膜に貢献しないロスであるため、この電力ロス分だけ原料ガスの分解に使われるエネルギーが低下することに伴い、被成膜基板101に成膜される膜の膜質が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−7126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一態様は、アノードの背面で放電が生じるのを抑制できるプラズマCVD装置又はこのプラズマCVD装置を用いた磁気記録媒体又はその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、チャンバーと、
前記チャンバー内に配置され、両端が開口された円筒形状又は断面が多角形状を有するプラズマウォールと、
前記チャンバー内に配置され、前記プラズマウォールの一方端の開口近傍に配置された被成膜基板を保持する保持部と、
前記チャンバー内に配置され、前記プラズマウォールの他方端の開口を覆うように配置されたアノードと、
前記チャンバー内に配置され、前記アノードの内側で且つ前記プラズマウォールの他方端の開口近傍に配置され、前記保持部に保持された前記被処理基板と対向して配置されたフィラメント状のカソードと、
前記チャンバー外に配置され、前記カソードの一端に第1の配線を介して電気的に接続され、前記カソードの他端に第2の配線を介して電気的に接続された交流電源または直流電源と、
前記アノードに設けられ、前記第1の配線及び前記第2の配線それぞれが通る孔と、
前記チャンバー外に配置され、前記アノードに電気的に接続された第1の直流電源と、
前記チャンバー外に配置され、前記保持部に保持された前記被成膜基板に電気的に接続された第2の直流電源と、
前記チャンバー内に原料ガスを供給するガス供給機構と、
前記チャンバー内を排気する排気機構と、
を具備することを特徴とするプラズマCVD装置である。
上記本発明の一態様によれば、プラズマウォールの他方端の開口を覆うようにアノードを配置することにより、アノードの背面で放電が生じるのを抑制できるプラズマCVD装置を提供することができる。
また、本発明の一態様において、前記プラズマウォールの他方端と前記アノードとの最大の隙間が5mm以下であり、前記孔と前記第1の配線及び前記第2の配線それぞれとの最大の隙間が5mm以下であることが好ましい。これにより、アノードの背面で放電が生じるのを抑制できるプラズマCVD装置を提供することができる。
また、本発明の一態様において、前記プラズマウォールの他方端と前記アノードとの隙間に繋げられた、前記チャンバーと前記アノードとの隙間を有し、前記隙間の最大部分が5mm以下であることが好ましい。これにより、アノードの背面で放電が生じるのをより効果的に抑制できる。
また、本発明の一態様において、前記プラズマウォールの他方端と前記アノードとの隙間に繋げられた、前記チャンバーと前記プラズマウォールとの隙間を有し、前記隙間の最大部分が5mm以下であることが好ましい。これにより、アノードの背面で放電が生じるのをより効果的に抑制できる。
本発明の一態様は、上述したプラズマCVD装置を用いた磁気記録媒体の製造方法において、
非磁性基板上に少なくとも磁性層を形成した被成膜基板を前記保持部に保持し、
前記チャンバー内で真空条件下に加熱された前記フィラメント状のカソードと前記アノードとの間の放電により前記原料ガスをプラズマ状態とし、このプラズマを前記保持部に保持された被成膜基板の表面に加速衝突させて炭素が主成分である保護層を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法である。
また、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法において、前記原料ガスは、前記被成膜基板に前記保護層としてのDLC層を形成するための原料ガスであって、炭素と水素を含有するガスを含むことが好ましい。
本発明の一態様は、上述した磁気記録媒体の製造方法を用いて製造された磁気記録媒体であって、
前記被成膜基板と、
前記被成膜基板上に形成された前記DLC層と、
を具備することを特徴とする磁気記録媒体である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様を適用することで、アノードの背面で放電が生じるのを抑制できるプラズマCVD装置又はこのプラズマCVD装置を用いた磁気記録媒体又はその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1(A)は実施の形態によるプラズマCVD装置を模式的に示す断面図であり、図1(B)は図1(A)に示す矢印16の方向から視たカソード及び交流電源を示す図である。
図2(A)は、図1に示すプラズマCVD装置に8時間連続放電試験を行った後のアノード4とガス導入フランジ15との隙間に炭素膜の付着が無いことを示す写真であり、図2(B)は、アノードコーン4aと第1及び第2の配線17a,17bそれぞれとの隙間には炭素膜の付着が無いことを示す写真であり、図2(C)は、図4に示すプラズマCVD装置に8時間連続放電試験を行った後のアノード104とガス導入フランジ115との隙間には炭素膜の付着が有ることを示す写真であり、図2(D)は、アノード104とカソード背板111との隙間には炭素膜の付着が有ることを示す写真である。
図3は、水の接触角とヌープ硬度との関係曲線を示す図である。
図4(A)は従来のプラズマCVD装置を模式的に示す断面図であり、図4(B)は図4(A)に示す矢印116の方向から視たカソード及び交流電源を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
図1(A)は、本発明の実施の形態によるプラズマCVD装置を模式的に示す断面図であり、図1(B)は、図1(A)に示す矢印16の方向から視たカソード及び交流電源を示す図である。
このプラズマCVD装置は被成膜基板(例えばディスク基板)1に対して左右対称の構造を有しており、被成膜基板1の両面に同時に成膜可能な装置であるが、図1(A)では、被成膜基板1に対して左側を示し、右側は省略している。
プラズマCVD装置はチャンバー2を有しており、このチャンバー2にはガス導入フランジ15が取り付けられている。ガス導入フランジ15はアースに接続されている。ガス導入フランジ15及びチャンバー2によって成膜室が形成されているため、ガス導入フランジ15及びチャンバー2を含めてチャンバーと呼んでも良い。
チャンバー内にはプラズマウォール8が配置されている。このプラズマウォール8はガス導入フランジ15に取り付けられており、プラズマウォール8はフロート電位(図示せず)に電気的に接続されている。プラズマウォール8は、チャンバー2に対して絶縁された状態で配置されており、ガス導入フランジ15に対しても絶縁されている。また、プラズマウォール8は両端が開口された円筒形状又は断面が多角形状を有している。
プラズマウォール8の一方端には膜厚補正板8aが設けられており、膜厚補正板8aはフロート電位に電気的に接続されている。この膜厚補正板8aにより被成膜基板1の外周部分に成膜される膜の厚さを制御することができる。
プラズマウォール8の一方端の開口近傍には被成膜基板1が配置されており、被成膜基板1は、図示しないホルダー(保持部)および図示しないトランスファー装置(ハンドリングロボットあるいはロータリインデックステーブル)により、図示の位置に、順次供給されるようになっている。
被成膜基板1はイオン加速用電源としてのDC電源(直流電源)12に電気的に接続されており、このDC電源12はチャンバー2に対して絶縁された状態で配置されている。このDC電源12のマイナス電位側が被成膜基板1に電気的に接続されており、DC電源12のプラス電位側がアース6に電気的に接続されている。DC電源12としては例えば0〜1500V、0〜100mA(ミリアンペア)の電源を用いることができる。
ガス導入フランジ15内にはアノードコーン4a及びアノードベース4bからなるアノード4が配置されている。なお、図4に示すようなカソード背板111は設けられておらず、図1に示すアノードコーン4aは、図4に示すアノードコーン104aとカソード背板111を一体化したような形状とされ、図4に示すアノードコーン104aとカソード背板111との隙間が埋められた状態となっている。これにより、アノードコーン4aの背面で放電が生じてCVD膜が付着することを抑制できる。
言い換えると、アノードコーン4aはプラズマウォール8の他方端の開口を覆うように配置されている。また、アノードコーン4aはスピーカーのような形状とされており、アノードコーン4aはその最大内径側を被成膜基板1に向けて配置されている。
アノードコーン4aとプラズマウォール8の他方端との間には隙間18aが設けられており、この隙間18aの最大部分が5mm以下であることが好ましく、より好ましくは3mm以下である。なお、本実施の形態では、この隙間18aの最大部分の間隔を3mmとしている。このようにアノードコーン4aとプラズマウォール8の他方端との最大の隙間を5mm以下とすることにより、アノードコーン4aとプラズマウォール8によって囲まれた空間にプラズマを閉じ込めることを妨げないようにすることができる。つまり、この最大の隙間を5mmより大きくすると、この5mmより大きい隙間からアノードコーン4aの背面や外側(即ちアノードコーン4aとプラズマウォール8によって囲まれた空間の外側)にプラズマが分散してしまったり、背面や外側で異常放電を起こすおそれがある。言い換えると、この最大の隙間を5mm以下とすることにより、アノードコーン4aの背面や外側にCVD膜が成膜されてしまうことを抑制できる。
また、隙間18aには、ガス導入フランジ15とアノード4及びプラズマウォール8それぞれとの隙間18b,18cが繋げられており、隙間18b,18cの最大部分が5mm以下であることが好ましい。
なお、ガス導入フランジ15とアノード4との隙間18bの全部が最大5mm以下であっても良いが、ガス導入フランジ15とアノード4との隙間18bの一部が最大5mm以下であり且つこの一部の隙間18bが隙間18aに繋げられている状態であっても良い。また、ガス導入フランジ15とプラズマウォール8との隙間18cの全部が最大5mm以下であっても良いが、ガス導入フランジ15とプラズマウォール8との隙間18cの一部が最大5mm以下であり且つこの一部の隙間18cが隙間18aに繋げられている状態であっても良い。このように隙間18aに繋げられた隙間18b,18cそれぞれの少なくとも一部を最大5mm以下とすることにより、アノード4の背面で異常放電を起こすことをより効果的に抑制でき、アノード4の背面にCVD膜が成膜されてしまうことをより効果的に抑制できる。
アノードコーン4aの外側(プラズマウォール8の内側とは反対側)にはアノードベース4bが設けられており、アノードベース4bはアノードコーン4aと接続されている。アノードベース4bはDC電源(直流電源)7に電気的に接続されており、このDC電源7、アノードベース4b及びアノードコーン4aはガス導入フランジ15に対して絶縁された状態で配置されている。DC電源7のプラス電位側がアノードベース4b及びアノードコーン4aに電気的に接続されており、DC電源7のマイナス電位側がアース6に電気的に接続されている。DC電源7としては例えば0〜500V、0〜7.5A(アンペア)の電源を用いることができる。
ガス導入フランジ15内には、例えばタンタルからなるフィラメント状のカソード(ホットカソード)3が形成されており、このホットカソード3は被成膜基板1に対向するように配置されている。ホットカソード3は、アノードコーン4aの内側で且つプラズマウォール8の他方端の開口近傍に配置されており、アノードコーン4aによって囲まれるように配置されている。
ホットカソード3の両端はガス導入フランジ15の外部に位置する交流電源5に電気的に接続されている。即ち、ホットカソード3の一端には第1の配線17aを介して交流電源5に電気的に接続され、ホットカソード3の他端には第2の配線17bを介して交流電源5に電気的に接続されている。交流電源5はガス導入フランジ15に対して絶縁された状態で配置されている。交流電源5としては例えば0〜50V、10〜50A(アンペア)の電源を用いることができる。交流電源5の一端はアース6に電気的に接続されている。なお、本実施の形態では、交流電源5を用いているが、交流電源5に代えて直流電源を用いても良い。
第1の配線17a及び第2の配線17bそれぞれは、アノードコーン4aに設けられた孔4cを通ってアノードコーン4aの内側から外側に延伸している。孔4cは、一つの孔でも二つの孔でも良い。即ち、第1の配線17a及び第2の配線17bの両者が一つの孔を通るようにしても良いし、第1の配線17aが一つの孔を通り、第2の配線17bが他の一つの孔を通るようにしても良い。
孔4cと第1の配線17a及び前記第2の配線17bそれぞれとの最大の隙間は5mm以下であることが好ましく、より好ましくは3mm以下である。このように最大の隙間を5mm以下とすることにより、アノードコーン4aとプラズマウォール8によって囲まれた空間にプラズマを閉じ込めることを妨げないようにすることができる。つまり、この最大の隙間を5mmより大きくすると、この5mmより大きい隙間からアノードコーン4aの背面や外側にプラズマが分散してしまい、背面や外側で異常放電を起こすおそれがある。言い換えると、この最大の隙間を5mm以下とすることにより、アノードコーン4aの背面や外側にCVD膜が成膜されてしまうことを抑制できる。
また、孔4cと第1の配線17a及び前記第2の配線17bそれぞれとの隙間には、ガス導入フランジ15とアノード4との隙間が繋げられており、この隙間の最大部分が5mm以下であっても良い。ただし、この隙間の最大部分が5mm以下であることは必須ではない。
なお、上記のガス導入フランジ15とアノード4との隙間の全部が最大5mm以下であっても良いが、ガス導入フランジ15とアノード4との隙間の一部が最大5mm以下であり且つこの一部の隙間が、孔4cと第1の配線17a及び前記第2の配線17bそれぞれとの隙間に繋げられている状態であっても良い。このようにすることにより、アノード4の背面で異常放電を起こすことをより効果的に抑制でき、アノード4の背面にCVD膜が成膜されてしまうことをより効果的に抑制できる。
ガス導入フランジ15の外側にはネオジウム磁石9が配置されている。このネオジウム磁石9は例えば円筒形状又は断面が多角形状を有しており、この円筒側面又は多角側面の筒方向の中心を通る内径とホットカソード3との距離は50mm以内(より好ましくは35mm以内)であることが好ましい。この内径の中心は磁石中心となり、この磁石中心はホットカソード3の略中心及び被成膜基板1の略中心それぞれと対向するように位置している。ネオジウム磁石9は、その磁石中心の磁力が50G以上200G(ガウス)以下であることが好ましく、より好ましくは50G以上150G以下である。磁石中心の磁力を200G以下とする理由は、ネオジウム磁石では磁石中心の磁力を200Gまで高めるのが製造上の限界であるからである。また、磁石中心の磁力を150G以下とするのがより好ましい理由は、磁石中心の磁力を150G超とすると磁石を作るコストが増大するからである。
また、プラズマCVD装置はチャンバー内を真空排気する真空排気機構(図示せず)を有している。また、プラズマCVD装置はチャンバー内に成膜原料ガスを供給するガス供給機構(図示せず)を有しており、このガス供給機構のガス導入部15aはガス導入フランジ15に設けられている。
次に、図1に示すプラズマCVD装置を用いて被成膜基板1にDLC膜を成膜する方法について説明する。
まず、前記真空排気機構を起動させ、チャンバーの内部を所定の真空状態とし、チャンバーの内部に前記ガス導入機構によって成膜原料ガスとして例えばトルエン(C)ガスを導入する。チャンバー内が所定の圧力になった後、ホットカソード3に交流電源5によって交流電流を供給することによりホットカソード3が加熱される。また、アノード4にDC電源7によって直流電流を供給し、被成膜基板1にDC電源12によって直流電流を供給する。
ホットカソード3の加熱によって、ホットカソード3からアノードコーン4aに向けて多量の電子が放出され、ホットカソード3とアノードコーン4aとの間でグロー放電が開始される。多量の電子によってチャンバーの内部の成膜原料ガスとしてのトルエンガスがイオン化され、プラズマ状態とされる。この際、ネオジウム磁石9によってホットカソード3の近傍に位置するトルエンガスをプラズマ化する領域に磁場が発生されているので、この磁場によってプラズマを高密度化することができ、イオン化効率を向上させることができる。そして、プラズマ状態の成膜原料分子は、被成膜基板1のマイナス電位によって直接に加速されて、被成膜基板1の方向に向かって飛走して、被成膜基板1の表面に付着される。これにより、被成膜基板1には薄いDLC膜が形成される。この際、被成膜基板1の表面では下記式(1)の反応が起きている。
+e → C +xH↑ ・・・(1)
次に、図1に示すプラズマCVD装置を用いた磁気記録媒体の製造方法について説明する。
まず、非磁性基板上に少なくとも磁性層を形成した被成膜基板を用意し、この被成膜基板を保持部に保持させる。次いで、チャンバー内で所定の真空条件下に加熱されたホットカソード3とアノードコーン4aとの間の放電により原料ガスをプラズマ状態とし、このプラズマを前記保持部に保持された被成膜基板の表面に加速衝突させる。これにより、この被成膜基板の表面には炭素が主成分である保護層が形成される。なお、保護層としてのDLC層を形成する場合は、原料ガスとして炭素と水素を含有するガスを用いることができる。
次に、本実施の形態によって得られる効果を説明する。
図4に示す従来のプラズマCVD装置では、カソード背板111とアノードコーン104aとの間に隙間113があるため、アノードコーン104aの背面で放電が生じて炭素膜110aが付着することがある。
これに対し、図1に示す本実施の形態のプラズマCVD装置では、図1に示すアノードコーン4aを図4に示すアノードコーン104aとカソード背板111を一体化したような形状とし、且つアノードコーン4aの孔4cと第1の配線17a及び前記第2の配線17bそれぞれとの最大の隙間を5mm以下とし、且つアノードコーン4aとプラズマウォール8の他方端との最大の隙間を5mm以下とすることにより、アノードコーン4aの背面で放電が生じてCVD膜が付着することを抑制できる。また、従来技術のように付着したCVD膜が剥離することで、この剥離したCVD膜が被成膜基板に付着して磁気記録媒体に不良が発生することを抑制できる。
アノードコーン4aの背面で放電が生じるのを抑制することにより、従来技術のような消費電力のロスがなくなるため、この電力ロス分だけ原料ガスの分解に使われるエネルギーが低下することもなくなり、被成膜基板1に成膜される膜の膜質が低下するおそれもなくなる。
【実施例】
【0009】
[実施例1]
図1に示すプラズマCVD装置に8時間連続放電試験を行った。
(共通の試験条件)
被成膜基板 : Siウエハ
原料ガス : C
ガス流量 : 3.25sccm
圧力 : 0.3Pa
アノード電圧Vp(DC電源7の電圧) : 75V
プラズマ電流Ip(DC電源7の電流) : 1650mA
基板バイアス(DC電源12の電圧) : −250V
ホットカソード3 : タンタルフィラメント
交流電源5の出力 : 200W
外部磁場 : 50ガウス
(結果)
アノードコーン4aと第1及び第2の配線17a,17bそれぞれとの隙間には炭素膜の付着が無かった(図2(B)参照)。
アノード4とガス導入フランジ15との隙間には炭素膜の付着が無く、なおかつ異常放電の痕跡が無かった(図2(A)参照)。
[比較例1]
図4に示すプラズマCVD装置に8時間連続放電試験を行った。
(共通の試験条件)
被成膜基板 : Siウエハ
原料ガス : C
ガス流量 : 3.25sccm
圧力 : 0.3Pa
アノード電圧Vp(DC電源7の電圧) : 75V
プラズマ電流Ip(DC電源7の電流) : 1650mA
基板バイアス(DC電源12の電圧) : −250V
ホットカソード3 : タンタルフィラメント
交流電源5の出力 : 200W
外部磁場 : 50ガウス
(結果)
アノード104とカソード背板111との隙間には炭素膜の付着が有った(図2(C),(D))。
アノード104とガス導入フランジ115との隙間には炭素膜の付着が有り、なおかつ所々に異常放電の痕跡が有った(図2(C))。
[実施例2]
図1に示すプラズマCVD装置を用いて3.5インチのメディアに厚さ40nmのDLC膜を下記の共通試験条件で成膜し、成膜されたDLC膜の水との接触角を測定することでDLC膜の硬度を評価した。接触角と硬度の関係は図3に示すとおりである。
(共通の試験条件)
被成膜基板 : 3.5インチのメディア
原料ガス : C
ガス流量 : 3.25sccm
圧力 : 0.3Pa
アノード電圧Vp(DC電源7の電圧) : 75V
プラズマ電流Ip(DC電源7の電流) : 1650mA
基板バイアス(DC電源12の電圧) : −250V、−300V、−350V
ホットカソード3 : タンタルフィラメント
交流電源5の出力 : 200W
外部磁場 : 50ガウス
(結果)
基板バイアス −250V : ヌープ硬度 2930HK(接触角 57°)
基板バイアス −300V : ヌープ硬度 2970HK(接触角 56°)
基板バイアス −350V : ヌープ硬度 3000HK(接触角 55°)
[比較例2]
図4に示すプラズマCVD装置を用いて3.5インチのメディアに厚さ40nmのDLC膜を下記の共通試験条件で成膜し、成膜されたDLC膜の水との接触角を測定することでDLC膜の硬度を評価した。接触角と硬度の関係は図2に示すとおりである。
(共通の試験条件)
被成膜基板 : 3.5インチのメディア
原料ガス : C
ガス流量 : 3.25sccm
圧力 : 0.3Pa
アノード電圧Vp(DC電源7の電圧) : 75V
プラズマ電流Ip(DC電源7の電流) : 1650mA
基板バイアス(DC電源12の電圧) : −250V、−300V、−350V
ホットカソード3 : タンタルフィラメント
交流電源5の出力 : 200W
外部磁場 : 50ガウス
(結果)
基板バイアス −250V : ヌープ硬度 2650HK(接触角 65°)
基板バイアス −300V : ヌープ硬度 2770HK(接触角 62°)
基板バイアス −350V : ヌープ硬度 2830HK(接触角 60°)
実施例2及び比較例2それぞれの結果によれば、実施例2の方が比較例2に比べて接触角が小さいので、実施例2の方が比較例2に比べて高硬度のDLC膜が成膜されたことを確認した。
【符号の説明】
【0010】
1,101…被成膜基板
2,102…チャンバー
3,103…カソード(ホットカソード)
4,104…アノード
4a,104a…アノードコーン
4b,104b…アノードベース
4c…孔
5,105…交流電源
6,106…アース
7,107…DC電源
8,108…プラズマウォール
8a…膜厚補正板
9…ネオジウム磁石
12,112…DC電源
15,115…ガス導入フランジ
15a,115a…ガス導入部
17a…第1の配線
17b…第2の配線
109…マグネット
110a…炭素膜
110b…炭素膜のパーティクル
111…カソード背板
113…隙間
114…リング状の空間
116…矢印
図1
図3
図4
図2