(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下部がコーン状である筒状容器の上部にポリマー粉体供給口と排ガス出口が設けられ、下部にガス吹込み口とポリマー粉体抜き出し口が設けられたポリマー粉体の乾燥装置において、
前記容器内側の下部全体に、該容器と密着させずに微多孔性のガス透過膜シートを設け、
前記ガス吹き込み口を、前記容器内側の下部中央部と、前記容器と前記微多孔性のガス透過膜シートとの間との、少なくとも2ヶ所に設け、
前記ガス吹き込み口は、40〜80℃の温度を有する不活性ガスを吹き込むものであり、
前記供給されるポリマー粉体は、粉体層せん断力測定装置により計測した有効内部摩擦角が35〜55°であることを特徴とするポリマー粉体の乾燥装置。
前記ポリマー粉体は、デジタル画像解析式粒子径分布測定装置又は振動篩粒径測定器により計測した平均粒径が700〜3000μmであることを特徴とする請求項4に記載のポリマーの製造方法。
前記ポリマー粉体は、ポリプロピレン、プロピレン−エチレンコポリマー及びプロピレン−エチレン−ブテンコポリマーからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項4または5に記載のポリマーの製造方法。
前記ポリマー粉体は、プロピレン単独重合体もしくはエチレンおよび/またはC4〜C20のα−オレフィンとプロピレンとのランダム共重合体であるポリマー成分(A)30〜70重量%と、ポリマー成分(A)よりプロピレン含有割合が少ないプロピレン系ランダム共重合体であるポリマー成分(B)30〜70重量%とからなるプロピレン系ブロック共重合体であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系の熱可塑性エラストマーあるいは、プラストマーとしては、エチレン−α−オレフィン共重合体に代表されるランダムコポリマーなどの成分のブレンドがよく知られ、適度な柔軟性と強度を持ち、リサイクルや焼却廃棄などの環境問題適応性が高く、また、軽量で成形性や経済性などにも優れていることから、フィルムやシート、繊維、不織布、各種容器、成形性、改質剤などとして幅広い分野で用いられている。
かかる熱可塑性エラストマーのうち、第1工程でポリプロピレン成分を、第2工程でプロピレン−αオレフィン共重合体エラストマー成分を製造する、いわゆる軟質プロピレン系ブロック共重合体と称されるものは、ランダムポリマーコポリマーのエラストマーに比べて耐熱性と生産性に優れ、また、機械的な混合により製造されるエラストマーに対して、製造コストの低減がはかれるため、経済性が高く、耐熱性などに優れているため、最近において非常に汎用されている。
【0003】
これまでの軟質プロピレン系ブロック共重合体は、チーグラー・ナッタ触媒を用いて製造されるため、触媒活性点の不均一性が原因で発生する低分子量オリゴマーにより、ポリマー粉体(以下、「パウダー」ともいう。)の表面に第2工程成分がブリードするため、パウダー流動性が悪化する。このパウダー流動性悪化を改善するために、チーグラー・ナッタ触媒での軟質プロピレン系ブロック共重合体の製造は、気相重合技術、プロピレン−αオレフィン共重合時に触媒失活剤を添加したコア−シェル構造の形成技術、パウダー粒子の大粒径化技術などにより、製造可能範囲を拡大してきた。特に、気相重合とパウダー粒子の大粒径化技術の組み合わせは、軟質プロピレン系ブロック共重合体の製造限界を大きく広げた。さらに、触媒活性点が均一であるメタロセン触媒への転換により、低分子量オリゴマー生成を押さえ、軟質プロピレン系ブロック共重合体をチーグラー・ナッタ触媒で製造するよりも、さらに軟質にできるようになった。
一方で、パウダー粒子の大粒径化による乾燥速度の低下、ポリマーの軟質化によって重合されるパウダーの非晶成分の増加に伴うパウダーへのモノマー溶解量の増加により、現状の乾燥設備ではパウダー粒子中のモノマー残留が多くなった。この問題を解決するためには、乾燥温度を上げ、滞留時間を長くする解決方法もある。しかし、軟質プロピレン系ブロック共重合体は特に高温では軟質成分のブリードによりパウダーの凝集が生じやすい。特に縦型筒状容器のコーン部でパウダー粉体のブリッジングが発生し、閉塞しやすい。一般的に縦型筒状乾燥器は、粉体のブリッジングを解消する方法としてエアーノッカーが用いられるが、パウダー粉体の圧密を助長することもあり十分ではない。
【0004】
軟質プロピレン系ブロック共重合体パウダーのブリッジングを防止し、かつ、微量の未反応モノマー及び/または溶媒の除去方法として、攪拌翼を備えた縦型筒状乾燥装置を用いる方法がある(特許文献1参照)。これは、高乾燥温度、滞留時間の増大による粉体性状が悪化しても閉塞させずに微量の未反応モノマー及び/または溶媒を除去する方法である。
【0005】
一方で、流動性の悪い粉体を筒状容器の下部コーン部に微多孔性のガス透過膜を形成するシートを設置しガスを通気する流動装置を用いることで、連続的に排出することができる技術が知られている。(特許文献2および3参照)しかし、凝集性の小粒径粉体を安定的に排出することが目的であり、また、残留するモノマーや溶媒の除去を行うものではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の記載に従って検討した結果、該乾燥装置は、粉体圧力が最大となる下部コーン部の撹拌が困難であるため、粉体のブリッジングを防止する方法として必ずしも最適なものではなかった。また、本来プラグフローで抜き出される粉体の流れを撹拌により阻害するため、製造グレードの移行時間が増大し、移行品の発生が増大するおそれがあった。さらに、攪拌翼にポリマー粉体が付着するおそれがあり、製造条件変更後のグレードへの混入を引き起こすおそれがあった。
さらに、特許文献2及び3の記載に従って、下部コーン部に微多孔性のガス透過膜を形成するシートを有する筒状容器を用いてポリマー粉体に適用したところ、流動装置が導入されている容器が小さい場合には粉体の保有量も少ないため、コーン部にかかる粉体圧が小さく、そのため、通気させる不活性ガス量が少量であっても、粉体の連続排出が可能であったが、十分に乾燥時間を得るために容器容量を大きくした場合、コーン部にかかる粉体圧が大きくなるおそれがある問題を知見した。そのため、軟質プロピレン系ブロック共重合体のように、粘着性を帯びているポリマー粉体を流動させる方法としては、問題があることを新たに見出した。この場合、ポリマー乾燥装置を縦型筒状ではなく、機械的攪拌を有する横型筒状など、構造を変更することで改善することも考えられるが、縦型筒状のものに比べ構造が複雑なため、高価であるという問題があった。
したがって、本発明の目的は、上記従来の問題点に鑑み、オレフィンを重合反応させた後のポリマー粉体において、粒径が大きい、または、付着性が大きい粒子であっても、微量の未反応モノマー及び/または溶媒を効率的に除去して、ポリマー粉体を付着・閉塞させることなく、容易に抜き出すことができ、早い乾燥速度で安定的・効率的にポリマー粉体を乾燥させることのできる筒状容器からなるポリマー粉体の乾燥装置及びそれを用いたポリマーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、下部がコーン状である筒状容器内の下部全体に、該容器と密着させずに微多孔性のガス透過膜シートを設け、ガス吹き込み口を、特定の2箇所に設け、前記ガス吹き込み口は、特定の温度を有する不活性ガスを吹き込むポリマー粉体の乾燥装置が、オレフィンを重合反応させた後のポリマー粉体において、粒径が大きい、または、付着性が大きい粒子であっても、微量の未反応モノマー及び/または溶媒を効率的に除去して、ポリマー粉体を付着・閉塞させることなく、容易に抜き出すことができ、早い乾燥速度で安定的・効率的にポリマー粉体を乾燥させることのできるポリマー粉体の乾燥装置であることを見出した。
また、該乾燥装置を乾燥工程に用いたポリマーの製造方法が、特に、特定のポリマー粉体を乾燥する際に効果的であることを見出した。
そして、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、下部がコーン状である筒状容器の上部にポリマー粉体供給口と排ガス出口が設けられ、下部にガス吹込み口とポリマー粉体抜き出し口が設けられたポリマー粉体の乾燥装置において、
前記容器内
側の下部全体に、該容器と密着させずに微多孔性のガス透過膜シートを設け、
前記ガス吹き込み口を、前記容器内
側の下部中央
部と、前記容器と前記微多孔性のガス透過膜シートとの間との、少なくとも2ヶ所に設け、
前記ガス吹き込み口は、40〜80℃の温度を有する不活性ガスを吹き込むものであ
り、
前記供給されるポリマー粉体は、粉体層せん断力測定装置により計測した有効内部摩擦角が35〜55°であることを特徴とするポリマー粉体の乾燥装置が提供される。
【0010】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記容器と前記微多孔性のガス透過膜シートとの間に設けられたガス吹き込み口は、前記容器下端における前記ポリマー粉体圧1KPaに対して10〜200Nm
3/hの割合で前記不活性ガスを吹き込むものであること特徴とするポリマー粉体の乾燥装置が提供される。
【0011】
また、本発明の第3の発明によれば、第1または2の発明において、前記微多孔性のガス透過膜シートは、平均細孔径が10〜20μmであることを特徴とするポリマー粉体の乾燥装置が提供される。
【0012】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明のポリマー粉体の乾燥装置を用いてポリマー粉体を乾燥する工程を含むことを特徴とするポリマーの製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第
5の発明によれば、第4の発明において、前記ポリマー粉体は、デジタル画像解析式粒子径分布測定装置又は振動篩粒径測定器により計測した平均粒径が700〜3000μmであることを特徴とするポリマーの製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第
6の発明によれば、第4
または5の発明において、前記ポリマー粉体は、ポリプロピレン、プロピレン−エチレンコポリマー及びプロピレン−エチレン−ブテンコポリマーからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とするポリマーの製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第
7の発明によれば、第4〜
6のいずれかの発明において、前記ポリマー粉体は、プロピレン単独重合体もしくはエチレンおよび/またはC4〜C20のα−オレフィンとプロピレンとのランダム共重合体であるポリマー成分(A)30〜70重量%と、ポリマー成分(A)よりプロピレン含有割合が少ないプロピレン系ランダム共重合体であるポリマー成分(B)30〜70重量%とからなるプロピレン系ブロック共重合体であることを特徴とするポリマーの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリマー粉体の乾燥装置及びそれを用いたポリマーの製造方法は、粒径が大きい、または、付着性が大きい粒子であっても、微量の未反応モノマー及び/または溶媒を効率的に除去して、ポリマー粉体のブリッジングによる付着・閉塞を防止し、ポリマー粉体を閉塞させることなく、容易に抜き出すことができ、乾燥速度を増大でき、安定的・効率的にポリマー粉体を乾燥させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、下部がコーン状である筒状容器の上部にポリマー粉体供給口と排ガス出口が設けられ、下部にガス吹込み口とポリマー粉体抜き出し口が設けられたポリマー粉体の乾燥装置において、前記容器内側の下部全体に、該容器と密着させずに微多孔性のガス透過膜シートを設け、前記ガス吹き込み口を、前記容器内側の下部中央付近と、前記容器と前記微多孔性のガス透過膜シートとの間との、少なくとも2ヶ所に設け、前記ガス吹き込み口は、40〜80℃の温度を有する不活性ガスを吹き込むものであることを特徴とするポリマー粉体の乾燥装置に関する。
また、本発明は、上記ポリマー粉体の乾燥装置を用いてポリマー粉体を乾燥する工程を含むことを特徴とするポリマーの製造方法に関する。
以下、本発明をその一実施様態を示す
図1及び
図2を参照しながら具体的かつ詳細に説明する。
【0020】
1.乾燥装置
図1及び2に本発明に用いる筒状容器の一例を示す。
図2は、該筒状容器の下部拡大図である。
図1において、筒状容器(エアレーションホッパー1、以下、「ホッパー」ともいう。)は縦型筒状容器で下部はコーン状であり、その上部には、ポリマー粉体供給口2及び、未反応モノマー及び/又は溶媒ならびに供給される不活性ガスの排出口である排ガス出口3がある。ポリマー粉体(以下、「粉体」ともいう)の流動化に必要な不活性ガスはガス吹き込み口6より供給されコーン状部に設置される微多孔性のガス透過膜シート5を通してコーン状部全体をエアレーションする。ホッパー1の最低部にはポリマー粉体抜き出し口7がある。定常運転ではエアレーションホッパー1内に一定レベルのポリマー粉体堆積層8があり、ポリマー粉体供給口2から新しいポリマー粉体が供給され、ポリマー粉体抜き出し口7から乾燥されたポリマー粉体が抜き出されていく。すなわち、ポリマー粉体堆積層8のポリマー粉体は、ホッパー1の中を上方から下方へ移動していく。
【0021】
本発明において、筒状容器は、下部がコーン状であり、該筒状容器の上部にポリマー粉体供給口と排ガス出口が設けられ、下部にガス吹込み口とポリマー粉体抜き出し口が設けられているものであれば特に限定されないが、残留付着ポリマーの清掃の容易さより、縦型筒状容器が好ましく用いられる。
本明細書において、筒状容器について、「上部」とは、筒状容器の頂部付近を示すものとし、一方、「下部」とは、筒状容器のコーン状部を示すものとする。また、「コーン状」とは、円錐状であることを意味するが、略円錐状であればよいものとする。このコーン状部分に、ガス吹き込み口とポリマー粉体抜き出し口が設けられ、一方、ポリマー粉体供給口と排ガス出口は、容器の頂部付近に設けられる。
【0022】
容器内側の下部全体に、該容器と密着させずに微多孔性のガス透過膜シート(以下、単に「シート」ともいう。)が設けられる。該微多孔性のガス透過膜シートは、取り扱う粉体粒径より小さいこと、また不活性ガスの透過を阻害しない細孔径である、平均細孔径が10〜20μmであるものが好ましい。材質は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、テフロン(登録商標)等、特に限定されないが耐熱性、加工特性等よりポリエチレン製が好ましい。本発明に用いられる微多孔性のガス透過膜シートとして、市販されているものを用いることもでき、例えば、バイオン(ボルベア社製)が好適に用いられる。
シートは、コーン状部以外にも設置可能であるが、縦型筒状容器では、下部コーン状部分でポリマー粉体のブリッジングが生じやすいため、コーン状部に設置することが好ましい。好ましくは、1個を円錐状に設置することが、パウダーブリッジングを防ぐためにはより好ましい。シートの作動温度としては、温度によるシート剛性低下、たるみの発生の恐れなどの理由により、ガス吹き込み口が吹き込む不活性ガスの温度領域である、40〜80℃の乾燥温度領域で使用することが好ましい。シートの設置箇所は、効果的なエアレーションを行なうことが可能であるため、筒状容器コーン状部全体、すなわち、ガス吹き出し口の設置場所を確保するため、シートを容器と密着させない位置に、また、シートを通さずに不活性ガスが吹き込まれることを避けるため、コーン状部全体に隙間なく設けることが好ましい。
【0023】
ガス吹き込み口は、筒状容器内側の下部中央付近と、該容器と微多孔性のガス透過膜シートとの間との、少なくとも2ヶ所に設けることが必要である。
すなわち、
図1及び2に示す、ガス吹き込み口4から特定の温度範囲の不活性ガスを供給することで、ポリマー粉体層中および容器内を不活性ガスが均一に流れるようにし、かつ、ガス吹き込み口6からコーン状部に特定の温度範囲の不活性ガスを供給することで、シートを通してコーン状部に向けて均一、多面積にエアレーションを行う。
前者の筒状容器内側の下部中央付近に設けられるガス吹き込み口は、
図1及び2ではガス吹き込み口4として示されるものであるが、不活性ガスがポリマー粉体層中および容器内を均一に流れるような構造が好ましい。そのためには、ガス吹き込み口4は、筒状容器内側の下部中央付近に設けられる。「下部中央付近」とは、容器内において、コーン状部の円心付近であれば適宜設置でき、厳密に容器の円心部でなくても良い。例えば、容器底部に近く容器中央部に設けられる。そして、全方向へガスを流すための構造として、ガス吹き込み口4の吹き出しノズルを覆って円錐状の邪魔版9を設けたもの、ガス吹き込み口4をリング状配管の各所に吹き出しノズルがあるものにする等があり、それらを併用してもよい。
【0024】
また、後者の筒状容器と微多孔性のガス透過膜シートとの間に設けられるガス吹き込み口は、
図1及び2ではガス吹き込み口6として示されるものであるが、シートを通して特定の温度範囲の不活性ガスを多量かつ多面積に吹き込み、コーン部全体をエアレーションするためのものであれば、特に限定されず、任意の個数、配置位置を決定できる。これにより、均一にポリマー粉体に通気できる上に、ポリマー粉体の流動化させることが可能である。
すなわち、本発明においては、筒状容器の下部コーン部に微多孔性のガス透過膜シートを設置し、ポリマー粉体の乾燥に必要な不活性ガスの温度、閉塞を防止するために必要な不活性ガス流量として、コーン状部にガス透過性を有するシートからなる粉体流動装置を設置し、シートを通して特定の温度範囲の不活性ガスを多量かつ多面積に通気することで、粉体流動を生じさせ、ブリッジングによる付着・閉塞を生じさせることなく連続排出が可能となったものである。さらに、本発明の構成により、乾燥器内でのパウダーブリッジングによる閉塞が防止できると思われたところ、意外にも乾燥速度を増大できることも併せて見出された。
なお、本明細書において、ポリマー粉体における「乾燥」とは、ポリマー製造時にフィードされるプロピレン、エチレン、触媒スラリー溶媒で用いるヘキサン、ヘプタン等の炭化水素であり、重合時に未反応となったモノマーや残留溶媒を除去することである。未反応モノマーとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセンなど反応副生物のオリゴマーや、溶媒として用いられるエタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘプタンなどが挙げられる。さらに、活性コントロール剤として知られている、アセトン、アルコールなどの電子供与物から成る液体も除去することができる。所謂、脱気に該当する場合を含む。
なお、乾燥のために用いられる不活性ガスには、触媒、有機アルミを失活させるために水蒸気を含ませて通気させることが一般的であり、本発明においても、不活性ガスにこれらのものを含ませることができる。
【0025】
本発明において、ガス吹き込み口は、40〜80℃の温度を有する不活性ガスを吹き込むものであることが必要である。すなわち、ガス吹き込み口4およびガス吹き込み口6の両方において、特定の温度を有する不活性ガスを吹き込むものであることが必要である。
不活性ガスとしては、特に限定されないが、例えば、アルゴン、ヘリウム、窒素を用いることができる。その中でも窒素が安全かつ実用的である。
不活性ガスの温度は、未反応モノマー及び/または溶媒の除去を効率的に行えることから、40℃以上、好ましくは50℃以上、一方、80℃以下、好ましくは、70℃以下である。この温度を下回ると乾燥温度が低下して未反応モノマー及び/又は溶媒を除去する時間が長くなり生産性が悪化するおそれがある。また、未反応モノマー及び/又は溶媒の除去効率が低下するため、パウダーに同伴されて系外に排出される可燃性ガスが増加するため火災発生の危険がある。上記の温度範囲を上回るとガス透過性を有するシートである微多孔性のガス透過膜が変形し、窒素ガスの分散が悪化するため、粉体流動化能力が著しく低下するおそれがある。同時に、例えば、ポリマーが軟質プロピレン系ブロック共重合体である際には、パウダー流動性が著しく悪化し、パウダー同士のブリッジングが発生しやすくなるおそれがある。一般的に、パウダーのホッパー内でのブリッジング形成は、パウダーの排出を阻害するだけでなく、不活性ガスが均一に分散することを妨げ、乾燥速度が低下する。なお、ガス吹き込み口より供給される不活性ガスには、触媒や有機アルミを失活させるために水蒸気を含ませるのが好ましく、
図1及び2に示されるガス吹き込み口4およびガス吹き込み口6の両方において、これらを含ませることが好ましい。
【0026】
筒状容器に吹き込まれる不活性ガスの流量は、ホッパー容量、生産量に依存するが、全体で、通常、ポリマー100kgあたり3Nm
3/h以上、好ましくは4Nm
3/h以上、一方、10Nm
3/h以下、好ましくは、8Nm
3/h以下である。この範囲以下の流量になると乾燥速度が低下するおそれがある。この範囲を超える流量になると乾燥器内に持ち込まれる水蒸気量が多くなるため、パウダー温度の低下後に水による濡れが発生する恐れがある。
なお、乾燥速度の評価は、乾燥器入口、出口のサンプリングパウダーの残留揮発分量を測定し、乾燥器での単位滞留時間あたりの残留揮発分量の減少量から算出される値で行うのが適当である。
【0027】
本発明において、筒状容器と微多孔性のガス透過膜シートとの間に設けられたガス吹き込み口は、容器下端におけるポリマー粉体圧1KPaに対して10〜200Nm
3/hの割合で不活性ガスを吹き込むものであることが好ましい。すなわち、
図1及び2に示されるガス吹き込み口6が複数個設置されている場合は、これらから吹き込まれる不活性ガスを合計して、上記の割合になることが好ましい。詳しくは、ガス吹き込み口6より吹き込まれる不活性ガス量は、ポリマー粉体層の保有量、高さに影響するが、1kPaの粉体圧に対して、10Nm
3/h以上、好ましくは、20Nm
3/h以上、さらに好ましくは、25Nm
3/h以上、一方、200Nm
3/h以下、好ましくは、100Nm
3/h以下、さらに好ましくは、80Nm
3/h以下である。この範囲より小さくなると、ポリマー粉体層が圧密状態となり閉塞が発生するおそれがある。また、この範囲より多くなるとポリマー粉体層が流動してしまいプラグフローでの排出できなくなるおそれがある。
上記流量で、ガス吹き込み口6からシートを通して特定の温度範囲の不活性ガスが供給されるため、縦型筒状乾燥装置内のパウダー加熱効率が向上し、より低い温度の不活性ガスでもパウダー層の温度を上げることができ、同一の不活性ガスの温度条件での乾燥効率が向上する。
なお、ここでの容器下端におけるポリマー粉体圧は、粉体工学で一般的に用いられるJanssenの式によって計算された値である。
【0028】
本発明において使用される筒状容器において、一般的に用いられる攪拌翼、エアーノッカー等の設置は、特に限定されず、適宜設置することができる。
また、本発明の乾燥装置は独立させても、他の設備と連結させてもよい。他の設備としては、重合反応器、脱ガス槽、製品タンク等が挙げられる。
さらに、本発明の乾燥装置は、ポリマー粉体の連続的処理及びバッチ処理のどちらにも使用することができ、他の設備と連結させ、連続的に処理することにより、効率的にポリマー製造を行うことができる。
【0029】
2.ポリマーの製造方法
本発明のポリマーの製造方法は、前述したポリマー粉体の乾燥装置を用いてポリマー粉体を乾燥する工程を含むことを特徴とする。
この乾燥装置を導入されるポリオレフィン重合様式は、スラリー重合、バルク重合、気相重合等が挙げられる。特に制限はないが、本発明が目的としている軟質プロピレン系ブロック共重合体の粉体流動性を維持するために、気相重合で得られるパウダー粉体への適用が望ましい。また、重合形式は、軟質プロピレン系ブロック共重合体の目標物性を得るために、第1工程、プロピレン単独重合、もしくはエチレン−プロピレンランダム重合を行い、第2工程で第1工程よりも高いエチレン、ブテンを含む重合が連続的にできることが好ましく、2槽以上の重合反応器を有することが望ましい。
【0030】
重合されたポリマー粉体層に応力を加えていくとやがて粉体層は崩壊するが、この崩壊が起こる限界状態での垂直応力とせん断応力を応力平面上にプロットして得られる曲線を粉体崩壊曲線と呼ぶ。この粉体崩壊曲線は粉体層にどれだけの応力を加えれば粉体層が崩壊するのか、あるいは流動するのかを定量的に議論する上で重要な粉体力学物性である。
本発明で使用されるような付着性の大きな粉体については、粉体崩壊曲線が上に凸の曲線となるが、粉体崩壊曲線の傾きすなわち有効内部摩擦角は垂直応力によって異なる値を示す。そのため、本発明で課題とするような、乾燥器内でポリマーのブリッジングが発生し、閉塞しやすい付着性の大きな粉体の性質を評価するには、圧密された状態での挙動を適切に評価できる測定方法として、有効内部摩擦角が有効であると云える(入門 粒子・粉体工学、 椿 淳一郎/鈴木 道隆/神田良照 著、 2011年8月31日発行、 P161−164記載参照)。
貯蔵の閉塞現象は、粉体の力学的挙動と関係している。これは粉体内のせん断すべり現象、すなわち粉体の摩擦特性によって挙動を推定できることが知られている。特に粉体の摩擦特性に着目したJenike法によって求められる有効内部摩擦角は、縦型筒状乾燥器のような形状のタンクにおける流動性限界を把握するのに非常に有効である(改訂5版 化学工学便覧、 昭和63年3月18日発行、 P250−253記載参照)。
【0031】
前述したポリマー粉体の乾燥装置を用いてポリマー粉体を乾燥する工程を含む本発明の製造方法において、該乾燥装置の使用で好ましく適用されるポリマー粉体は、粉体層せん断力測定装置により計測した有効内部摩擦角が35°以上、好ましくは40°以上、一方、55°以下であるポリマー粉体である。
この範囲より有効内部摩擦角が小さくなると、粉体流動性が良いため、装置導入効果が小さいおそれがある。また、この範囲よりも有効内部摩擦角が大きくなると、粉体同士の付着性が大きすぎるため、当設備を用いても、連続で排出口7よりパウダー粉体を抜き出しにくくなる。
なお、有効内部摩擦角の測定方法は、上記文献に詳しいが、本明細書においては、Jenike法せん断応力測定によって測定する装置である、粉体層せん断力測定装置(パウダーレオメーター、Malvern社製、FT−4)を用い、予圧条件6KPaにおいて、室温で、粉体層に予圧をかけてせん断試験を行い、この時に得られる破壊包絡線に対応するモール円を描き、モール円に接する直線の勾配を有効内部摩擦角として求めた値である。
【0032】
前述したポリマー粉体の乾燥装置を用いてポリマー粉体を乾燥する工程において、該乾燥装置を用いて乾燥させるに好ましく適用されるポリマー粉体は、平均粒径が700μm以上、好ましくは850μm以上、さらに好ましくは、1000μm以上、一方、3000μm以下、好ましくは2500μm以下、さらに好ましくは、2000μm以下である。上記範囲よりも平均粒径が小さくなると、ポリマー同士の付着性が大きくなりすぎて、閉塞が生じるおそれがある。上記範囲よりも大きくなると乾燥速度が低下し、十分に乾燥させることができないおそれがある。
ポリマー粉体の平均粒径の測定には、振動篩粒径測定器(例えば目開き100μm、150μm,212μm、350μm、500μm、710μm、850μm、1000μm、1180μm、1400μm、1700μm、2000μm、2800μm、3000μmの篩を振とう機で10分以上振動分級して測定し結果を対数正規確率紙上にプロットし、50%粒子径を平均粒径として求める方法)やこれらを自動で行うロボットシフターなどを用いても良い。また画像処理を用いる、デジタル画像解析式粒子径分布測定装置を利用することも好ましい。後述する実施例において用いられるパウダーを種々の測定方法で測定して得られた平均粒径の結果、いずれの数値も同じであった。
【0033】
本発明の乾燥装置ならびに製造方法が好ましく適用されるポリマー粉体は、付着性が高いポリマー粉体であるという理由より、ポリプロピレン、プロピレン−エチレンコポリマー及びプロピレン−エチレン−ブテンコポリマーからなる群より選ばれる少なくとも一種である。
したがって、本発明の乾燥装置ならびに製造方法が好ましく適用されるオレフィン系重合体は、上記記載の範囲の有効内部摩擦角を有する粘着性の高いポリマーであり、第1工程でエチレンおよび/またはC4〜C20のα−オレフィンとプロピレンランダム共重合体(A)30〜70重量%を製造し、第2工程で第1工程よりも高いエチレンおよび/またはC4〜C20のα−オレフィンを含有するプロピレン系ランダム共重合体(B)30〜70重量%を製造されるプロピレン系ブロック共重合体である。
ポリマー成分(A)の割合は、30重量%以上、好ましくは、37重量%以上、さらに好ましくは、45重量%以上、一方、70重量%以下、好ましくは、63重量%以下、さらに好ましくは、60重量%以下である。この範囲を下回ると、柔軟性が不足し、目標の物性に到達しないおそれがある。また、この範囲を上回ると成分(B)がパウダー表面にブリードするため、パウダーの性状が維持できなくなるおそれがある。
【0034】
本発明のポリマーの製造方法は、上記乾燥工程を含むものであればよく、他の工程、すなわち、重合反応工程、脱ガス工程、製品貯蔵工程と適宜連結させてもよく、他の工程と連続的に処理することにより、効率的にポリマー製造を行うことができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本発明における各物性値の測定方法を以下に示す。
【0036】
(1)有効内部摩擦角:
測定機器:Malvern社製 パウダーレオメーター(FT−4)
予圧条件:6KPa
室温で上記記載の粉体層せん断力測定装置(パウダーレオメーター)にて、粉体層に予圧をかけてせん断試験を行った。この時に得られる破壊包絡線に対応するモール円を描き、モール円に接する直線の勾配を有効内部摩擦角とした。
【0037】
(2)パウダー中の揮発分量:
測定機器:オートサンプラー:Perkin Elmer製、Headspace Sampler Turbo Martrix 40
ガスクロ:島津製作所製 CG−2025
カラム:Phenomenex製 ZB−624
オートサンプラーで温度150℃にて30分加熱し、パウダー中の残留モノマーを揮発させ、オートサンプラーに接続したガスクロにて揮発させられたモノマー濃度を測定した。
【0038】
(3)乾燥速度の評価:
乾燥器入口のサンプリングパウダーと乾燥器出口のサンプリングパウダーの揮発分量変化を乾燥単位時間あたりで評価した。
乾燥速度=ln(C/C0)/t
C0:乾燥器入口のサンプリングパウダー揮発分量(ppm)
C:乾燥器出口のサンプリングパウダーの揮発分量(ppm)
t:パウダーの乾燥器滞留時間(h)
【0039】
[実施例1]
図1に示すとおり、130kgのプロピレン系ブロック共重合体を貯蔵させることができる、容量:0.6m
3のエアレーションホッパー1のコーン状部へ、微多孔性のガス透過膜シート5を設置した。該シート及びその設置器具は、粉体流動装置(ワイ・エム・エス社製造品)として市販されているものであった。
プロピレン系ブロック共重合体としては、水平方向に攪拌翼を有する横型反応器(100L、L/D=5.17)に特開2007−297505号公報に記載されているメタロセン触媒をフィードし、第1工程で重合圧力:2.1MPaG、重合温度:58℃、プロピレン/エチレン/水素:89/4.5/0.00014mol%条件で、ポリマー成分(A)であるエチレンを2.0重量%含むエチレン−プロピレンランダム共重合体(MFR=7)を製造し、第2工程で重合圧力:1.9MPaG、重合温度:70℃、プロピレン/エチレン/水素:63/34/0.000305mol%条件で、ポリマー成分(B)であるエチレンの割合が14重量%であるエチレン−プロピレン共重合体40重量%を気相重合により製造したプロピレン系ブロック共重合体パウダー(MFR=7、平均粒径:1100μm、有効内部摩擦角:40°)を用い、これを20kg/hでエアレーションホッパー1へ連続投入、20kg/hで排出をしながら、60℃に加熱した窒素を、ガス吹き込み口6より45Nm
3/hにて通気、ガス吹き込み口4より8Nm
3/hにて通気させて乾燥させた。ポリマー粉体投入口2およびポリマー粉体抜き出し口7からパウダーの一部を抜き出し、パウダー中の揮発分を測定した。当該投入口2で製品内溶媒・モノマー濃度が約3000ppmであるものが、抜き出し口7での同濃度が200ppm以下になる状態で安定的に長期間の連続運転ができた。この結果を閉塞発生の評価を含めて表1にまとめた。
なお、上記プロピレン系ブロック共重合パウダーのポリマーインデックスをまとめると、以下のとおりである。また、エチレン含量は、各ポリマー成分を100wt%としたときの値である。
ポリマーインデックス
ポリマー成分(A):エチレン含量 2.0wt%
ポリマー成分(B):エチレン含量 14.0wt%
ポリマー成分(B):重合割合 40wt%
【0040】
[比較例1]
ガス吹き込み口6から窒素を通気しない以外は実施例1と同条件で乾燥装置の運転を実施したところ、抜き出し口7で閉塞が発生し、長期間の連続運転はできなかった。当該投入口2で製品内溶媒・モノマー濃度も約3000ppmであるものが、抜き出し口7での同濃度が700ppmと増加し、表1で示すように、乾燥速度が低下した。この結果を閉塞発生の評価を含めて表1にまとめた。
比較例1より、シートを通してのガス吹き込み口6からの窒素供給は、パウダー排出を改善させ、かつ、パウダーの加温効率が向上することが示された。
【0041】
[比較例2]
ガス吹き込み口4より窒素を通気しない以外は実施例1と同様の条件にてエアレーションホッパー1へパウダーを連続投入した。この時、連続的にパウダーが排出されたものの当該投入口2で製品内溶媒・モノマー濃度が約3000ppmであるものが、抜き出し口7での同濃度が500ppmとなり、表1で示すように、乾燥速度が低下した。この結果を閉塞発生の評価を含めて表1にまとめた。
比較例2より、ガス吹き込み口4よりの窒素供給がないと、乾燥器内で窒素流れに偏流が生じ乾燥温度が目標温度に到達できない部分が発生することが示された。
【0042】
[比較例3]
ガス吹き込み口6および4より供給する窒素温度を90℃にした以外は、実施例1と同条件で乾燥装置の運転を実施したところ、シートの変形が発生し、長期間の連続運転はできなかった。抜き出し口7でのサンプルも採取できなかったため、残留溶媒、モノマー濃度は測定できなかった。この結果を閉塞発生の評価を含めて表1にまとめた。
【0043】
[比較例4]
ガス吹き込み口6および4より供給する窒素温度を30℃にした以外は、実施例1と同条件で乾燥装置の運転を実施したところ、乾燥器を通過させても、パウダーに残留した溶媒、モノマー濃度は減少しなかった。この結果を閉塞発生の評価を含めて表1にまとめた。
【0044】
【表1】
【0045】
[評価]
表1から明らかなように、実施例1と比較例1〜4とを対比すると、本発明のポリマー粉体の乾燥装置における「前記容器内側の下部全体に、該容器と密着させずに微多孔性のガス透過膜シートを設け、ガス吹き込み口を、容器内側の下部中央部と、容器と微多孔性のガス透過膜シートとの間との、少なくとも2ヶ所に設け、ガス吹き込み口は、40〜80℃の温度を有する不活性ガスを吹き込むものである」との要件を満たさない方法による比較例で得られたものは、比較例1では、閉塞が発生し、乾燥速度も遅いものであり、比較例2では、閉塞が発生しなかったものの、乾燥速度が遅いものであり、比較例3では、微多孔性のガス透過膜シートが破損し、処理後のポリマー粉体を抜き出すことができず、比較例4では、乾燥がされなかった。
これらに対して、本発明のポリマー粉体の乾燥装置の要件を満たす方法による実施例1によれば、粒径が大きい、または、付着性が大きい粒子であっても、微量の未反応モノマー及び/または溶媒を効率的に除去して、ポリマー粉体を付着・閉塞させることなく、容易に抜き出すことができ、早い乾燥速度で安定的・効率的にポリマー粉体を乾燥させることが可能であることが実証された。