特許第5764829号(P5764829)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5764829-溶湯容器 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764829
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】溶湯容器
(51)【国際特許分類】
   B22D 41/02 20060101AFI20150730BHJP
【FI】
   B22D41/02 B
   B22D41/02 D
   B22D41/02 A
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-540142(P2013-540142)
(86)(22)【出願日】2013年5月20日
(86)【国際出願番号】JP2013063921
(87)【国際公開番号】WO2014006990
(87)【国際公開日】20140109
【審査請求日】2013年9月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-152074(P2012-152074)
(32)【優先日】2012年7月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000237868
【氏名又は名称】エヌジーケイ・アドレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(72)【発明者】
【氏名】西内 一磨
(72)【発明者】
【氏名】木下 寿治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴志
【審査官】 川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−000650(JP,A)
【文献】 特開2009−233744(JP,A)
【文献】 特開2004−050256(JP,A)
【文献】 特開平06−213572(JP,A)
【文献】 特開平03−202433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/30,41/02,45/00
F27D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄皮の内面に、順に、断熱材と、粉体状の乾式材と、中空構造のセグメント部材を、ライニングした溶湯容器であって、
肉厚1.5〜3mmの板材により構成され、かつ、内部に5mm以上の空間を持たせ、5mm以上の蓄熱材を配置した中空構造を有するセグメント部材を用いて、
前記鉄皮の内面に前記断熱材を巻いた後、前記中空構造のセグメント部材を所定高さで円周状に組み付けたものを炉内に搬入し、断熱材と中空構造のセグメント部材との間に粉体状の乾式材を、タップ充填により最密充填でパッキングする作業を、交互に繰り返して行いながら、
該セグメント部材のライニング厚みを13mm以上確保した上で、
該セグメント部材と前記乾式材を、
乾式材のライニング厚み(B)/セグメント部材のライニング厚み(A)=0.15〜9.0の範囲でライニングしたことを特徴とする溶湯容器。
【請求項2】
該セグメント部材と乾式材との熱膨張係数の差が4×10−6以下であることを特徴とする請求項1記載の溶湯容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、金属溶湯搬送に適した溶湯容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属溶湯用容器のライニング構造としては、断熱材の内面にキャスタブル耐火物を流し込み施工したものが広く採用されてきた(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかし、金属溶湯用容器を搬送用容器としても兼用する場合、搬送やハンドリングの観点から容器の軽量化が求められるところ、キャスタブル耐火物は重量が大きく好ましくないという問題があった。
【0004】
また、使用中に内張り部材が損傷した場合、溶湯が容器の最外層を構成している鉄皮にまで達して、保温性が失われる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−126074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は前記の問題を解決し、容器の軽量化を実現するとともに、内張り部材が損傷した場合であっても、保温性を維持することができる溶湯容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明は、鉄皮の内面に、順に、断熱材と、粉体状の乾式材と、中空構造のセグメント部材を、ライニングした溶湯容器であって、肉厚1.5〜3mmの板材により構成され、かつ、内部に5mm以上の空間を持たせ、5mm以上の蓄熱材を配置した中空構造を有するセグメント部材を用いて、前記鉄皮の内面に前記断熱材を巻いた後、前記中空構造のセグメント部材を所定高さで円周状に組み付けたものを炉内に搬入し、断熱材と中空構造のセグメント部材との間に粉体状の乾式材を、タップ充填により最密充填でパッキングする作業を、交互に繰り返して行いながら、該セグメント部材のライニング厚みを13mm以上確保した上で、該セグメント部材と前記乾式材を、乾式材のライニング厚み(B)/セグメント部材のライニング厚み(A)=0.15〜9.0の範囲でライニングしたことを特徴とするものである。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の溶湯容器において、該セグメント部材と乾式材との熱膨張係数の差が4×10−6以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る溶湯容器は、容器内面に中空構造のセグメント部材をライニングすることにより、キャスタブル耐火物のライニング構造に比べて、軽量化を実現している。更に、中空構造のセグメント部材の背面に、粉体の乾式材を、タップ充填により最密充填でパッキングしてライニングすることにより、中空構造のセグメント部材からなる内張り構造に損傷が生じた場合であっても、乾式材をライニングして形成した層で溶湯を受けて焼結させることができるため、溶湯が容器の最外層を構成している鉄皮にまで達する現象を回避することができる。
【0011】
なお、セグメント部材の背面に粉体の乾式材をライニングして上記効果を奏するためには、後記の表1に示すように、前記セグメント部材が、肉厚1.5〜3mmの板材により構成され、かつ、内部に5mm以上の空間を持たせ、5mm以上の蓄熱材を配置した中空構造を有し、該セグメント部材のライニング厚みを13mm以上確保した上で、該セグメント部材と前記乾式材を、乾式材のライニング厚み(B)/セグメント部材のライニング厚み(A)=0.15〜9.0の範囲でライニングすることが必要である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の溶湯容器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。本実施形態の溶湯容器は、金属溶湯搬送に用いられる金属溶湯搬送容器である。図1に示すように、本実施形態の金属溶湯搬送容器1は、鋼製の鉄皮2と、鉄皮2の内面に内張りされた断熱材3と、断熱材の内面にライニングされた粉体状の乾式材4と、乾式材4よりも内面側にライニングされた中空構造のセグメント部材5とで構成され、中空構造のセグメント部材5の内部には、更に、蓄熱材6が配置されている。
【0014】
中空構造のセグメント部材5は、炭化珪素を主成分とし、肉厚1.5〜3mm程度の板材により構成され、内部に5mm以上の空間8を持たせたものであり、本実施形態では、セグメント部材5の内部には、空間8の他に、蓄熱材6を配置している。蓄熱材6の蓄熱効果を奏するためには、5mm以上確保することが必要となるため、各セグメント部材5ごとの厚み(=板材(肉厚1.5〜3mm程度)+空間8(5mm以上)+蓄熱材6(5mm以上))は、最低13mm以上確保することが必要となる。
【0015】
各セグメント部材5間の目地はモルタルで接着されている。本実施形態では、90%アルミナのモルタルを用いている。
【0016】
粉体状の乾式材4は、高アルミナ質耐火物(タップ充填後の比重が3程度。ここで、タップ充填とは、粉体を叩きながら充填することを意味する。)あるいは高シリカ質耐火物(タップ充填後の比重が2程度)を用いることができる。軽量化の観点からは、比重の小さい高シリカ質耐火物の乾式材が好ましく、高寿命化の観点からは高アルミナ質耐火物が好ましい。ただし、溶湯が通常のアルミナ溶湯の場合には、高シリカ質耐火物の乾式材を用いると、乾式材のシリカ(SiO)がアルミニウムに還元されてシリコン(Si)となりアルミ溶湯中に溶け出す(いわゆる、シリコンピックアップ)問題があるため好ましくないが、シリコンを含有する溶湯の場合には、好適に用いることができる。
【0017】
粉体状の乾式材4は、粒子を最密充填となるようにパッキングして用いられるものであり、最大粒径5mmの粗粒からパウダー状の微粒まで、各種の粒度分布を有するものである。
【0018】
粉体状の乾式材4のライニングは、鉄皮2の内面に断熱材3を巻いた後、中空構造のセグメント部材5を所定高さで円周状に組み付けたものを炉内に搬入し、断熱材と中空構造のセグメント部材5との間に粉体状の乾式材を最密充填でパッキングし、その後、再度、中空構造のセグメント部材5を所定高さで円周状に組み付けたものを炉内に搬入し、続いて、断熱材と中空構造のセグメント部材5との間に粉体状の乾式材を最密充填でパッキングする作業を繰り返し行っていく。
【0019】
乾式材4を最密充填でパッキングする際に、その内部に配置されている中空構造のセグメント部材5間の接合が緩んでしまうと、湯差し(ここで、湯差しとは、溶湯が侵入することを意味する。)の原因となるため好ましくない。本発明では、中空構造のセグメント部材5のライニング厚み(A)と、該乾式材4のライニング厚み(B)の比率B/Aを9.0未満とし、かつ、中空構造のセグメント部材5のライニング厚みを13mm以上とすることで、乾式材4を最密充填でパッキングするに際して、中空構造のセグメント部材間の十分な機械的強度を確保している。
【0020】
なお、乾式材4のライニング厚み(B)を極端に薄くすると、中空構造のセグメント部材5からなる内張り構造に損傷が生じた場合であっても、溶湯を乾式材4のライニング層で受けて焼結させる効果が十分得られず、かつ乾式材4の施工も困難となるところ、本発明では、B/Aを0.15以上確保することにより、これらの問題を回避可能としている。
【0021】
中空構造のセグメント部材5は、炭化珪素の他、アルミナ、シリカ、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、コージェライト、アルミナ、ジルコニア、サイアロン、ムライトの群から選定された1または2以上の材料で構成することもできる。ただし、溶湯の湯漏れ防止の観点から、セグメント部材5と乾式材4の熱膨張係数の差は、4×10−6以下で揃えることが好ましい。
【実施例】
【0022】
図1のライニング構成において、中空構造のセグメント部材5と粉体状の乾式材4とのライニング厚みを検討した結果を下記表1に示している。表1のB欄において、「アルミナ質(95%)」および「シリカ質(98%)」とは、乾式材の組成を意味するものである。
【表1】
【0023】
比較例1では、中空構造のセグメント部材のライニング厚みが13mm以上確保されておらず、乾式材を最密充填でパッキングする際に、セグメント部材が変形してしまい、施工が行えなかった。比較例2では、乾式材の厚みが薄すぎるため、乾式材の施工ができなかった。比較例3では、乾式材を最密充填でパッキングする際に、その内部に配置されている中空構造のセグメント部材間の接合が緩んでしまった。
【0024】
なお、乾式材のライニング厚み(B)を極端に薄くすると、中空構造のセグメント部材からなる内張り構造に損傷が生じた場合であっても、溶湯を乾式材のライニング層で受けて焼結させる効果が十分得られず、かつ乾式材の施工も困難となるところ、本発明では、B/Aを0.15以上確保することにより、これらの問題を回避可能としている。
【符号の説明】
【0025】
1 金属溶湯搬送容器
2 鉄皮
3 断熱材
4 乾式材
5 セグメント部材
6 蓄熱材
7 キャスタブル
8 空間
図1