特許第5764923号(P5764923)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764923
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】キャンバ制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/0165 20060101AFI20150730BHJP
   B60G 17/015 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   B60G17/0165
   B60G17/015 Z
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2010-288169(P2010-288169)
(22)【出願日】2010年12月24日
(65)【公開番号】特開2011-148486(P2011-148486A)
(43)【公開日】2011年8月4日
【審査請求日】2013年12月16日
(31)【優先権主張番号】特願2009-296090(P2009-296090)
(32)【優先日】2009年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591261509
【氏名又は名称】株式会社エクォス・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100096426
【弁理士】
【氏名又は名称】川合 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100089635
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 守
(74)【代理人】
【識別番号】100116207
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 俊明
(72)【発明者】
【氏名】茂木 幸治
【審査官】 平野 貴也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−051497(JP,A)
【文献】 特開2007−223457(JP,A)
【文献】 特開昭60−193781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のボディと、
該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪と、
該各車輪のうちの所定の車輪に配設され、車輪にキャンバを付与するためのキャンバ可変機構と、
車両が低μ路を走行しているかどうかを判断する走行環境判定処理手段と、
前記所定の車輪にキャンバが付与されているかどうかを判断するキャンバ付与状態判断処理手段と、
前記所定の車輪にキャンバを付与するためのキャンバ付与条件を設定するキャンバ付与条件設定処理手段と、
該キャンバ付与条件設定処理手段によって設定された前記キャンバ付与条件が成立したかどうかを判断するキャンバ付与条件成立判断処理手段と、
該キャンバ付与条件成立判断処理手段によって、前記キャンバ付与条件が成立したと判断される場合に、前記キャンバ可変機構を作動させて前記所定の車輪にキャンバを付与するキャンバ付与処理手段とを有するとともに、
前記キャンバ付与条件設定処理手段は、前記キャンバ付与状態判断処理手段によって、前記所定の車輪にキャンバが付与されていないと判断される場合において、前記走行環境判定処理手段によって、車両が低μ路を走行していると判断される場合に、車両が低μ路を走行していないと判断される場合より早く前記所定の車輪にキャンバが付与されるように、キャンバ付与条件を変更することを特徴とするキャンバ制御装置。
【請求項2】
前記キャンバ付与条件設定処理手段は、車両状態及び操作状態のうちの少なくとも一方に基づいて前記キャンバ付与条件を設定するとともに、前記車両状態及び操作状態のうちの少なくとも一方の閾値を変更することによってキャンバ付与条件を変更する請求項1に記載のキャンバ制御装置。
【請求項3】
前記キャンバ付与状態判断処理手段によって、前記所定の車輪にキャンバが付与されていると判断され、前記走行環境判定処理手段によって、車両が低μ路を走行していると判断される場合に、前記走行環境判定処理手段によって、車両が低μ路を走行していないと判断されるまで、前記所定の車輪をキャンバが付与された状態に保持するキャンバ状態保持処理手段を有する請求項1又は2に記載のキャンバ制御装置。
【請求項4】
道路の路面状態を取得する判定情報取得処理手段を有するとともに、
前記走行環境判定処理手段は、前記判定情報取得処理手段によって取得された路面状態に基づいて、車両が低μ路を走行しているかどうかを判断する請求項1〜3のいずれか1項に記載のキャンバ制御装置。
【請求項5】
スノーモードが設定されているかどうかを判断するモード判定処理手段を有するとともに、
前記走行環境判定処理手段は、前記モード判定処理手段によって、スノーモードが設定されていると判断される場合に、車両が低μ路を走行していると判断する請求項1〜3のいずれか1項に記載のキャンバ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャンバ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、後方の車輪に負のキャンバ(ネガティブキャンバ)を付与することができるようにした車両が提供されている。
【0003】
この種の車両においては、車両を直進させて走行させるとき、すなわち、車両の直進走行時に、あらかじめ設定された条件が成立するかどうかが判断され、該条件が成立する場合に、後方の各車輪のタイヤにキャンバが付与されるようになっている。
【0004】
この場合、各車輪において、互いに対向する方向にキャンバスラストを発生させることができるので、車両の直進走行時の安定性(以下「走行安定性」という。)及び車両の旋回時の安定性(以下「旋回安定性」という。)を高くすることができる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−193781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、車両が、雪道、凍結路等のような路面の摩擦係数が小さい道路(以下「低μ路」という。)を走行している場合に、乾燥路等のような摩擦係数が大きい道路(以下「高μ路」という。)を走行している場合と同じ条件で、車輪にキャンバを付与すると、車両の走行安定性及び旋回安定性を十分に高くすることができない。
【0007】
また、車両が低μ路を走行している場合に、旋回用のキャンバ付与条件が成立したり、成立しなくなったりすると、低μ路上で、各車輪に負のキャンバが付与されたり、各車輪へのキャンバの付与が解除されたりすることになる。したがって、各車輪への負のキャンバの付与と、各車輪へのキャンバの付与の解除とが切り換わるのに伴って、タイヤと路面との接触状態が変化し、不安定になるので、車両が低μ路を走行しているときの旋回安定性を十分に高くすることができない。
【0008】
本発明は、前記従来の車両の問題点を解決して、車両が低μ路を走行しているときの走行安定性及び旋回安定性を十分に高くすることができるキャンバ制御装置を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、車両が低μ路を走行しているときに、キャンバの付与と付与の解除とが切り換わるのを抑制することによって、旋回安定性を十分に高くすることができるようにしたキャンバ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのために、本発明のキャンバ制御装置においては、車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪と、該各車輪のうちの所定の車輪に配設され、車輪にキャンバを付与するためのキャンバ可変機構と、車両が低μ路を走行しているかどうかを判断する走行環境判定処理手段と、前記所定の車輪にキャンバが付与されているかどうかを判断するキャンバ付与状態判断処理手段と、前記所定の車輪にキャンバを付与するためのキャンバ付与条件を設定するキャンバ付与条件設定処理手段と、該キャンバ付与条件設定処理手段によって設定された前記キャンバ付与条件が成立したかどうかを判断するキャンバ付与条件成立判断処理手段と、該キャンバ付与条件成立判断処理手段によって、前記キャンバ付与条件が成立したと判断される場合に、前記キャンバ可変機構を作動させて前記所定の車輪にキャンバを付与するキャンバ付与処理手段とを有する。
【0011】
そして、前記キャンバ付与条件設定処理手段は、前記キャンバ付与状態判断処理手段によって、前記所定の車輪にキャンバが付与されていないと判断される場合において、前記走行環境判定処理手段によって、車両が低μ路を走行していると判断される場合に、車両が低μ路を走行していないと判断される場合より早く前記所定の車輪にキャンバが付与されるように、キャンバ付与条件を変更する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、キャンバ制御装置においては、車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪と、該各車輪のうちの所定の車輪に配設され、車輪にキャンバを付与するためのキャンバ可変機構と、車両が低μ路を走行しているかどうかを判断する走行環境判定処理手段と、前記所定の車輪にキャンバが付与されているかどうかを判断するキャンバ付与状態判断処理手段と、前記所定の車輪にキャンバを付与するためのキャンバ付与条件を設定するキャンバ付与条件設定処理手段と、該キャンバ付与条件設定処理手段によって設定された前記キャンバ付与条件が成立したかどうかを判断するキャンバ付与条件成立判断処理手段と、該キャンバ付与条件成立判断処理手段によって、前記キャンバ付与条件が成立したと判断される場合に、前記キャンバ可変機構を作動させて前記所定の車輪にキャンバを付与するキャンバ付与処理手段とを有する。
【0013】
そして、前記キャンバ付与条件設定処理手段は、前記キャンバ付与状態判断処理手段によって、前記所定の車輪にキャンバが付与されていないと判断される場合において、前記走行環境判定処理手段によって、車両が低μ路を走行していると判断される場合に、車両が低μ路を走行していないと判断される場合より早く前記所定の車輪にキャンバが付与されるように、キャンバ付与条件を変更する。
【0014】
この場合、車両が低μ路を走行していると判断される場合に、車両が低μ路を走行していないと判断される場合より早く所定の車輪にキャンバが付与されるので、車両の走行安定性及び旋回安定性を十分に高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態における車両の制御ブロック図である。
図2】本発明の実施の形態における車両の概念図である。
図3】本発明の実施の形態における車輪の断面図である。
図4】本発明の実施の形態における制御部の動作を示す第1のメインフローチャートである。
図5】本発明の実施の形態における制御部の動作を示す第2のメインフローチャートである。
図6】本発明の実施の形態における操縦安定キャンバ要否判定処理のサブルーチンを示す図である。
図7】本発明の実施の形態における直進安定キャンバ要否判定処理のサブルーチンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図2は本発明の実施の形態における車両の概念図である。
【0018】
図において、11は車両の本体であるボディ、12は駆動源としてのエンジン、WLF、WRF、WLB、WRBは、前記ボディ11に対して回転自在に配設された左前方、右前方、左後方及び右後方の車輪である。前記車輪WLF、WRFによって前輪が、車輪WLB、WRBによって後輪が構成される。
【0019】
前記車両は後輪駆動方式の構造を有し、前記車輪WLB、WRBが駆動輪として機能する。そして、エンジン12と各車輪WLB、WRBとが第1の伝動軸としてのプロペラシャフト17、差動装置18及び第2の伝動軸としてのドライブシャフト46を介して連結され、エンジン12を駆動することによって発生させられた回転が車輪WLB、WRBに伝達される。本実施の形態において、前記車両は後輪駆動方式の構造を有するようになっているが、前輪駆動方式の構造を有するようにしたり、四輪駆動方式の構造を有するようにしたりすることもできる。また、駆動源としてエンジン、発電機及びモータを配設してハイブリッド型車両を構成するようにしたり、駆動源としてモータを配設して電気自動車を構成するようにしたりすることもできる。
【0020】
また、13は車両の操舵を行うための操作部としての、かつ、操舵部材としてのステアリングホイール、14は車両を加速するための操作部としての、かつ、加速操作部材としてのアクセルペダル、15は車両を制動するための操作部としての、かつ、制動操作部材としてのブレーキペダルである。
【0021】
そして、31、32は、それぞれ、ボディ11と各車輪WLB、WRBとの間に配設され、各車輪WLB、WRBにキャンバを付与したり、キャンバの付与を解除したりするためのキャンバ可変機構としてのアクチュエータである。なお、本実施の形態においては、ボディ11と各車輪WLB、WRBとの間に各アクチュエータ31、32が配設されるようになっているが、ボディ11と各車輪WLF、WRFとの間にアクチュエータを配設したり、ボディ11と車輪WLF、WRF、WLB、WRBとの間にアクチュエータを配設したりすることができる。
【0022】
ところで、前記車輪WLF、WRF、WLB、WRBは、アルミニウム合金等によって形成された図示されないホイール、及び該ホイールの外周に嵌(かん)合させて配設されたタイヤ36を備える。そして、該タイヤ36として、タイヤ36の幅方向の全体にわたって、後述される損失正接を小さくすることにより、タイヤ36のトレッドの変形によって発生する転がり抵抗が小さくされた低転がり抵抗タイヤが使用される。この場合、タイヤ36の転がり抵抗が小さくされるので、燃費を良くすることができる。
【0023】
本実施の形態においては、転がり抵抗を小さくするためにタイヤ36の幅が通常のタイヤより小さくされるが、トレッドの溝のパターンであるトレッドパターンを、転がり抵抗が小さくなるような形状にしたり、少なくともトレッドの部分の材料を、転がり抵抗が小さいものにしたりすることができる。
【0024】
なお、前記損失正接は、トレッドが変形する際のエネルギーの吸収の度合いを表し、貯蔵剪(せん)断弾性率に対する損失剪断弾性率の比で表すことができる。損失正接が小さいほどトレッドによるエネルギーの吸収が少なくなるので、タイヤ36に発生する転がり抵抗が小さくなり、タイヤ36に発生する摩耗が少なくなる。これに対して、損失正接が大きいほどトレッドによるエネルギーの吸収が多くなるので、タイヤ36に発生する転がり抵抗が大きくなり、タイヤ36に発生する摩耗が多くなる。
【0025】
次に、各車輪WLB、WRBにキャンバを付与したり、キャンバの付与を解除したりするための前記アクチュエータ31、32について説明する。この場合、アクチュエータ31、32の構造は同じであるので、車輪WLB及びアクチュエータ31についてだけ説明する。
【0026】
図3は本発明の実施の形態における車輪の断面図である。
【0027】
図において、WLBは車輪、21はホイール、31はアクチュエータ、36はタイヤである。
【0028】
前記アクチュエータ31は、ベース部材としての図示されないナックルに固定されたキャンバ制御用の駆動部としてのモータ41、前記ナックルに対して揺動自在に配設された可動部材としての可動プレート43、前記モータ41の回転運動を可動プレート43の揺動運動に変換する運動方向変換機構としてのクランク機構45、前記エンジン12(図2)の回転をホイール21に伝達する前記ドライブシャフト46等を備える。前記ホイール21は、可動プレート43に対して回転自在に支持され、ドライブシャフト46と連結される。
【0029】
また、前記クランク機構45は、前記モータ41の出力軸に取り付けられた第1の変換要素としてのウォームギヤ51、前記ナックルに対して回転自在に配設され、前記ウォームギヤ51と噛(し)合させられる第2の変換要素としてのウォームホイール52、及び該ウォームホイール52と可動プレート43とを連結する第3の変換要素としての、かつ、連結要素としてのアーム53を有する。該アーム53は、一端において、ウォームホイール52の回転軸から偏心させた位置で、第1の連結部を介してウォームホイール52と連結され、他端において、可動プレート43の上端で、第2の連結部を介して可動プレート43と連結される。この場合、前記可動プレート43によって第4の変換要素が構成される。
【0030】
前記ウォームギヤ51及びウォームホイール52によって、ウォームギヤ51及びウォームホイール52の回転運動の軸心の向きが変換され、ウォームホイール52及びアーム53によって、ウォームホイール52の回転運動がアーム53の直進運動に変換され、アーム53及び可動プレート43によって、アーム53の直進運動が可動プレート43の揺動運動に変換される。
【0031】
したがって、モータ41を駆動すると、ウォームギヤ51及びウォームホイール52が回転させられ、アーム53が進退させられ、可動プレート43が揺動させられる。その結果、可動プレート43が傾けられた角度と等しい角度のキャンバが車輪WLBに付与される。
【0032】
次に、前記構成の車両の制御装置について説明する。
【0033】
図1は本発明の実施の形態における車両の制御ブロック図である。
【0034】
図において、16はコンピュータを構成する制御部、61は第1の記憶部としてのROM、62は第2の記憶部としてのRAM、63は車速を検出する車速検出部としての車速センサ、64は操作者である運転者による前記ステアリングホイール13(図2)の操作量を表す操舵量としてのステアリング角度を検出する操舵量検出部としての、かつ、ステアリング操作量検出部としてのステアリングセンサ、65は車両のヨーレートを検出するヨーレート検出部としてのヨーレートセンサ、66は第1の加速度としての横加速度を検出する第1の加速度検出部としての横加速度センサ、67は第2の加速度としての前後加速度を検出する第2の加速度検出部としての前後加速度センサ、68は各車輪WLB、WRBに付与されたキャンバを検出するキャンバ検出部としてのキャンバセンサ、69は車輪WLF、WRF、WLB、WRBの各タイヤ36のうちの所定のタイヤ36に配設され、該タイヤ36の温度を検出する温度検出部としてのタイヤ温度センサ、Swは車室内の所定の箇所、例えば、インスツルメントパネルに配設され、車両をスノーモードで走行させるための操作要素としての、かつ、モード設定部材としてのスノーモードスイッチ、70は車外を撮影する撮像装置としてのカメラ、dsは図示されない表示画面を備えた表示部、71は運転者による前記アクセルペダル14の操作量を表す踏込量(アクセル開度)を検出する加速操作量検出部としてのアクセルセンサ、72は運転者による前記ブレーキペダル15の操作量を表す踏込量(ブレーキストローク)を検出する制動操作量検出部としてのブレーキセンサ、73は各車輪WLB、WRBの図示されないサスペンション装置のストロークを検出する懸架検出部としてのサスストロークセンサ、75は各車輪WLB、WRBに加わる荷重を検出する荷重検出部としての荷重センサである。前記ボディ11、アクチュエータ31、32、制御部16等によってキャンバ制御装置が構成される。
【0035】
前記サスストロークセンサ73は、ハイトセンサ、磁気センサ等によって構成され、荷重センサ75は、サスペンション装置に配設されたロードセル(歪みセンサ)によって構成される。
【0036】
本実施の形態においては、路面の摩擦係数が閾(しきい)値以下である道路、すなわち、雪道、凍結路等の低μ路上で、運転モードとしてスノーモードを選択し、設定することができるようになっている。そして、運転者が、前記スノーモードスイッチSwを押下してスイッチ信号をオンにすると、車両の全体の制御を行う図示されない車両制御部のモード設定処理手段は、モード設定処理を行い、スノーモードを設定し、図示されない変速機によって2速の変速段で車両を発進させたり、前記エンジン12の出力を小さくしたりすることにより、急加速が行われないようにする。なお、前記スノーモードスイッチSwを再び押下してスイッチ信号をオフにすると、前記モード設定処理手段は、スノーモードの設定を解除し、通常モードを設定する。
【0037】
ところで、本実施の形態においては、前述されたように、タイヤ36の転がり抵抗が小さくされるが、タイヤ36の転がり抵抗が小さい場合、タイヤ36の剛性が低下し、タイヤ36による路面を掴(つか)む力、すなわち、グリップ力が小さくなる。そこで、本実施の形態においては、タイヤ36の剛性が低く、グリップ力が小さい場合でも、車両の直進走行時に走行安定性を、車両の旋回時に旋回安定性を高くすることができるように、あらかじめ設定された所定のキャンバ付与条件が成立したかどうかが判断され、所定のキャンバ付与条件が成立した場合に、前記各アクチュエータ31、32が作動させられ、各車輪WLB、WRBに所定の負のキャンバθが付与されるようになっている。
【0038】
したがって、車両の直進走行時には、各車輪WLB、WRBにキャンバθを付与するのに伴って、各車輪WLB、WRBのタイヤ36に、互いに対向する方向にキャンバスラストが発生するので、何らかの理由で車両に外力が加わると、外力が加わった側とは反対側の車輪のタイヤ36に大きなキャンバスラストが発生し、該キャンバスラストが復元力として車両に加わる。その結果、走行安定性を高くすることができる。
【0039】
また、車両の旋回時には、車両に遠心力が発生するが、外周側の車輪(車両を左方に旋回させる場合は車輪WRBであり、車両を右方に旋回させる場合は車輪WLBである。)の接地荷重が内周側の車輪(車両を左方に旋回させる場合は車輪WLBであり、車両を右方に旋回させる場合は車輪WRBである。)の接地荷重より大きくなり、外周側の車輪のタイヤ36に発生するキャンバスラストが内周側の車輪のタイヤ36に発生するキャンバスラストより大きくなる。したがって、車両に求心力を発生させることができるので、旋回安定性を高くすることができる。
【0040】
なお、前記各車輪WLF、WRF、WLB、WRBのうちの少なくとも車輪WLB、WRB、本実施の形態においては、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBがアクチュエータ31、32を作動させない通常の状態である初期状態に置かれた場合に、車両の仕様で規定された所定の角度のキャンバ、すなわち、基準キャンバαが、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに付与される。したがって、本実施の形態においては、キャンバ付与条件が成立した場合に、前記基準キャンバαに所定のキャンバが付加されて前記キャンバθが、
−5〔°〕≦θ<0〔°〕
にされる。
【0041】
また、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与された状態で車両を走行させるのに伴ってタイヤ36に偏摩耗が発生すると、タイヤ36の寿命が短くなってしまうが、本実施の形態においては、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与された状態で車両を走行させているときにタイヤ36に偏摩耗が発生するのを抑制するために、所定のキャンバ解除条件が成立したかどうかが判断され、キャンバ解除条件が成立した場合に、アクチュエータ31、32が作動させられ、各車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与が解除され、各車輪WLB、WRBが初期状態に置かれる。
【0042】
次に、各車輪WLB、WRBにキャンバθを付与したり、キャンバθの付与を解除したりするための制御部16の動作について説明する。
【0043】
図4は本発明の実施の形態における制御部の動作を示す第1のメインフローチャート、図5は本発明の実施の形態における制御部の動作を示す第2のメインフローチャート、図6は本発明の実施の形態における操縦安定キャンバ要否判定処理のサブルーチンを示す図、図7は本発明の実施の形態における直進安定キャンバ要否判定処理のサブルーチンを示す図である。
【0044】
まず、制御部16の図示されない判定情報取得処理手段は、判定情報取得処理を行い、前記各車輪WLB、WRBにキャンバθを付与したり、キャンバθの付与を解除したりするために必要な判定情報、本実施の形態においては、車両の状態を表す車両状態、運転者による各操作部の操作の状態を表す操作状態、及び車両を走行させる道路における路面の状態、すなわち、路面状態を取得する(ステップS1〜S3)。
【0045】
そのために、前記判定情報取得処理手段は、前記車速センサ63、ヨーレートセンサ65、横加速度センサ66、前後加速度センサ67、キャンバセンサ68、タイヤ温度センサ69、サスストロークセンサ73、荷重センサ75等の各センサのセンサ出力を読み込み、車両状態として、車速、ヨーレート、横加速度、前後加速度、キャンバθ、タイヤ36の温度、サスストローク、荷重等を取得する。
【0046】
なお、前記判定情報取得処理手段は、前記車速の変化率(微分)を表す加速度又は減速度を算出したり、前記ヨーレートの変化率を表すヨーレート変化速度を算出したり、前記横加速度の変化率を表す横加速度変化速度を算出したり、前記サスストロークに基づいてロール角を算出したりすることによって、車両状態として、加速度、減速度、ヨーレート変化速度、横加速度変化速度、ロール角等を取得することもできる。
【0047】
次に、前記判定情報取得処理手段は、前記ステアリングセンサ64、アクセルセンサ71、ブレーキセンサ72等の各センサのセンサ出力を読み込み、操作状態として、ステアリング角度、アクセルペダル14の踏込量(アクセル開度)、ブレーキペダル15の踏込量(ブレーキストローク)等を取得する。
【0048】
なお、前記判定情報取得処理手段は、ステアリング角度の変化率を表すステアリング角速度、及び該ステアリング角速度の変化率を表すステアリング角加速度を算出したり、アクセルペダル14の踏込量の変化率を表す踏込速度、及び該踏込速度の変化率を表す踏込加速度を算出したり、ブレーキペダル15の踏込量の変化率を表す踏込速度、及び該踏込速度の変化率を表す踏込加速度を算出したりすることによって、操作状態として、ステアリング角速度、ステアリング角加速度、アクセルペダル14の踏込速度及び踏込加速度、ブレーキペダル15の踏込速度及び踏込加速度等を取得することもできる。
【0049】
さらに、ステアリングセンサ64に代えて、操舵量検出部としての舵角センサを配設し、操舵量としての車輪WLF、WRFの舵角を検出することもできる。その場合、前記判定情報取得処理手段は、舵角センサのセンサ出力を読み込み、操作状態として舵角を取得する。また、前記判定情報取得処理手段は、舵角の変化率を表す舵角速度、及び該舵角速度の変化率を表す舵角加速度を算出することによって、操作状態として舵角速度及び舵角加速度を取得することもできる。
【0050】
続いて、前記判定情報取得処理手段は、カメラ70によって撮影された道路の映像を取得し、該映像の画像データに対して画像処理を行うことによって、路面状態として、路面の色、路面の凹凸のレベル等を取得する。
【0051】
また、前記判定情報取得処理手段は、タイヤ36の温度に基づいて、路面の温度、すなわち、路面温度を算出したり、サスストロークに基づいて路面の凹凸のレベル(路面粗度)を算出したりすることによって、路面状態として、路面温度、路面の凹凸のレベル等を取得することもできる。なお、サスストロークに基づいて路面の凹凸のレベルを算出する場合、前記判定情報取得処理手段は、車両状態に基づいて路面状態を取得する。
【0052】
ところで、前記低μ路においては、路面の摩擦係数が小さいので、タイヤ36のグリップ力が小さくなる。したがって、低μ路における車両の旋回時に、グリップ力が小さくなる分、十分な求心力を発生させることができず、旋回安定性を十分に高くすることができない。
【0053】
そこで、本実施の形態においては、運転者によって前記スノーモードが設定されている場合は自動的に、スノーモードが設定されていない場合は車両が低μ路を走行していると判断されたときに、車輪WLB、WRBに路面状況に対応させてキャンバθが付与されるようになっている。
【0054】
そのために、制御部16の図示されない第1の走行環境判定処理手段としての、かつ、第1のキャンバ付与条件成立判断処理手段としてのモード判定処理手段は、第1の走行環境判定処理としての、かつ、第1のキャンバ付与条件成立判断処理としてのモード判定処理を行い、スノーモードスイッチSwのスイッチ信号を読み込み、スノーモードが設定されているかどうかによって、車両が低μ路を走行しているかどうか、すなわち、モード設定時のキャンバ付与条件が成立したかどうかを判断する(ステップS4、S5)。
【0055】
スノーモードが設定されていて、モード設定時のキャンバ付与条件が成立した場合、制御部16の図示されないキャンバ付与状態判断処理手段は、キャンバ付与状態判断処理を行い、前記キャンバセンサ68によって検出されたキャンバθpを読み込み、該キャンバθpが、
−5〔°〕≦θp<0〔°〕
であるかどうかによって、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されているかどうかを判断する(ステップS6)。
【0056】
各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されている場合、制御部16の図示されないキャンバ状態保持処理手段は、キャンバ状態保持処理を行い、各車輪WLB、WRBをキャンバθが付与された状態に保持して処理を終了し(ステップS7)、キャンバθが付与されていない場合、制御部16の図示されない第1のキャンバ制御処理手段としてのキャンバ付与処理手段は、第1のキャンバ制御処理としてのキャンバ付与処理を行い、アクチュエータ31、32を作動させて各車輪WLB、WRBにキャンバθを付与して処理を終了する(ステップS8)。
【0057】
この場合、運転者がスノーモードスイッチSwを押下してスイッチ信号をオフにするまで、すなわち、車両が低μ路を走行していないと判断されるまで、各車輪WLB、WRBが、キャンバθが付与された状態に保持され、各車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与は解除されない。したがって、低μ路上で、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されたり、各車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与が解除されたりすることがないので、タイヤ36と路面との接触状態を一定にし、安定させることができる。その結果、車両が低μ路を走行しているときの旋回安定性を十分に高くすることができる。
【0058】
一方、スノーモードが設定されておらず、モード設定時のキャンバ付与条件が成立しない場合、制御部16の図示されない第2の走行環境判定処理手段としての路面状況判定処理手段は、第2の走行環境判定処理としての路面状況判定処理を行い、路面状態に基づいて路面状況を判定する(ステップS9、S10)。すなわち、前記路面状況判定処理手段は、前記判定情報取得処理手段によって取得された路面の色、路面の凹凸のレベル、路面温度等を読み込み、路面の色、路面の凹凸のレベル、路面温度等に基づいて、車両が走行している道路の路面の摩擦係数が閾値以下であるかどうかによって、車両が低μ路を走行しているか、又は路面の摩擦係数が閾値より大きい道路、すなわち、乾燥路等のような高μ路を走行しているかどうかを判断する。
【0059】
なお、雪道、凍結路等の各路面ごとに、路面の色、路面の凹凸のレベル、路面温度等及び摩擦係数があらかじめ測定され、測定結果に基づいて、ROM61(図1)に配設された図示されない路面判定マップに、路面の色、路面の凹凸のレベル、路面温度等と摩擦係数とが対応させて記録される。したがって、前記路面状況判定処理手段は、路面の色、路面の凹凸のレベル、路面温度等を読み込むと、前記路面判定マップを参照し、路面の色、路面の凹凸のレベル、路面温度等に対応する各摩擦係数を読み出し、各摩擦係数が閾値以下であるかどうかを判断し、各摩擦係数が閾値以下である場合に、車両が低μ路を走行していると判断する。
【0060】
本実施の形態においては、路面の色、路面の凹凸のレベル、路面温度等のすべての路面状態に基づいて路面の摩擦係数が閾値以下であるかどうか判断されるようになっているが、路面の色、路面の凹凸のレベル、路面温度等のうちの所定の路面状態に基づいて路面の摩擦係数が閾値以下であるかどうかを判断することもできる。なお、路面の凹凸のレベル及び路面温度については、閾値を設定し、路面の凹凸のレベルが閾値以下である場合、及び路面温度が閾値以下である場合に、摩擦係数が閾値以下であると判断することもできる。
【0061】
ところで、前述されたように、車両の旋回時に旋回用のキャンバ付与条件が成立すると、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されるようになっているが、路面状況によっては旋回安定性を十分に高くすることができなくなってしまう。
【0062】
すなわち、車両が低μ路を走行している間に、旋回用のキャンバ付与条件が成立したり、成立しなくなったりして、低μ路上で、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されたり、各車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与が解除されたりすると、各車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与と、各車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与の解除とが切り換わるのに伴って、タイヤ36と路面との接触状態が変化し、不安定になってしまう。その場合、車両が低μ路を走行しているときの旋回安定性を十分に高くすることができない。
【0063】
そこで、前記キャンバ付与状態判断処理手段は、前記キャンバセンサ68によって検出されたキャンバθpを読み込み、該キャンバθpが、
−5〔°〕≦θp<0〔°〕
であるかどうかによって、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されているかどうかを判断し(ステップS11)、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されている場合に、前記キャンバ状態保持処理手段は、各車輪WLB、WRBをキャンバθが付与された状態に保持して処理を終了する(ステップS7)。
【0064】
この場合、車両が高μ路を走行するようになるまで、各車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与は解除されない。したがって、低μ路上での車両の旋回時に、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されたり、各車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与が解除されたりすることがないので、タイヤ36と路面との接触状態を一定にし、安定させることができる。その結果、車両が低μ路を走行しているときの旋回安定性を十分に高くすることができる。
【0065】
ところで、車両の旋回時に、路面状況によらず、同一のキャンバ付与条件に基づいて車輪WLB、WRBにキャンバθを付与すると、旋回安定性を十分に高くすることができなくなってしまう。
【0066】
例えば、高μ路のように路面の摩擦係数が大きい場合は、タイヤ36と路面との間に発生する摩擦力が大きい分だけ十分な求心力を発生させることができ、旋回安定性が高くなるのに対して、低μ路のように路面の摩擦係数が小さい場合は、タイヤ36と路面との間の摩擦力が小さくなるので、十分な求心力を発生させることができず、旋回安定性が十分に高くならない。
【0067】
そこで、本実施の形態において、制御部16の図示されないキャンバ付与条件設定処理手段は、キャンバ付与条件設定処理を行い、路面状況に対応させてキャンバ付与条件を設定する(ステップS12〜S14)。すなわち、前記キャンバ付与条件設定処理手段は、車両が高μ路を走行している場合に、車両状態及び操作状態のうちの少なくとも一方、本実施の形態においては、車両状態及び操作状態に基づいて、基本のキャンバ付与条件、すなわち、基本キャンバ付与条件を設定し、車両が低μ路を走行している場合に、車両が高μ路を走行している場合よりキャンバθが早く付与されるように、前記基本キャンバ付与条件を変更し、変更キャンバ付与条件を設定する。
【0068】
そのために、ステアリング角度γに第1、第2の閾値γi(i=1、2)が、ステアリング角速度δγに第1、第2の閾値δγi(i=1、2)が、横加速度gに第1、第2の閾値gi(i=1、2)が、横加速度変化速度δgに第1、第2の閾値δgi(i=1、2)が、ヨーレートηに第1、第2の閾値ηi(i=1、2)が、ヨーレート変化速度δηに第1、第2の閾値δηi(i=1、2)がそれぞれあらかじめ設定され、ROM61に記録される。
【0069】
そして、前記キャンバ付与条件設定処理手段は、車両が高μ路を走行している場合、前記第1、第2の閾値γi、δγi、gi、δgi、ηi、δηiにおける値iに1をセットすることによって、基本キャンバ付与条件が成立したかどうかを判断するための閾値を、各第1の閾値γ1、δγ1、g1、δg1、η1、δη1とし、車両が低μ路を走行している場合、前記第1、第2の閾値γi、δγi、gi、δgi、ηi、δηiにおける値iに2をセットすることによって、変更キャンバ付与条件における閾値を、各第2の閾値γ2、δγ2、g2、δg2、η2、δη2とする。この場合、各第2の閾値γ2、δγ2、g2、δg2、η2、δη2は、いずれも、各第1の閾値γ1、δγ1、g1、δg1、η1、δη1より小さく設定されるので、変更キャンバ付与条件が設定された場合、車両の旋回時にキャンバθを早く付与することができるとともに、キャンバθが付与されやすくすることができる。
【0070】
なお、本実施の形態においては、車両が低μ路を走行していると判断され、変更キャンバ付与条件が設定されると、再び路面状況判定処理が行われ、車両が高μ路を走行していると判断されるまで、変更キャンバ付与条件が変更されたり、基本キャンバ付与条件が設定されたりすることはない。
【0071】
続いて、制御部16の図示されない第2のキャンバ付与条件成立判断処理手段としての操縦安定キャンバ要否判定処理手段は、第2のキャンバ付与条件成立判断処理としての操縦安定キャンバ要否判定処理を行い、車両の旋回時に、前記車両状態及び操作状態のうちの少なくとも一方、本実施の形態においては、前記車両状態及び操作状態に基づいて、旋回用のキャンバ付与条件が成立したかどうかを判断する(ステップS15、S16)。
【0072】
そのために、前記操縦安定キャンバ要否判定処理手段は、前記ステアリング角度γ、ステアリング角速度δγ、横加速度g、横加速度変化速度δg、ヨーレートη及びヨーレート変化速度δηを読み込み、ステアリング角度γが第1、第2の閾値γiより大きいかどうかによって第1の条件が成立したかどうかを、ステアリング角速度δγが第1、第2の閾値δγiより大きいかどうかによって第2の条件が成立したかどうかを、横加速度gが第1、第2の閾値giより大きいかどうかによって第3の条件が成立したかどうかを、横加速度変化速度δgが第1、第2の閾値δgiより大きいかどうかによって第4の条件が成立したかどうかを、ヨーレートηが第1、第2の閾値ηiより大きいかどうかによって第5の条件が成立したかどうかを、ヨーレート変化速度δηが第1、第2の閾値δηiより大きいかどうかによって第6の条件が成立したかどうかを判断する(ステップS15−1〜S15−6)。
【0073】
この場合、前記第1〜第6の条件のうちの少なくとも一つの条件が成立すると、前記操縦安定キャンバ要否判定処理手段は、旋回用のキャンバ付与条件が成立したと判断する(ステップS15−7)。
【0074】
なお、第2の条件はステアリング角速度δγに基づいて、第4の条件は横加速度変化速度δgに基づいて、第6の条件はヨーレート変化速度δηに基づいて成立したかどうかが判断されるが、ステアリング角速度δγはステアリング角度γの、横加速度変化速度δgは横加速度gの、ヨーレート変化速度δηはヨーレートηの変化率であるので、車両の旋回が開始されたときのステアリング角度γ、横加速度g及びヨーレートηの変化を顕著に表す。したがって、旋回用のキャンバ付与条件が成立したかどうかを迅速に判断することができるので、各車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与を的確に行うことができる。
【0075】
そして、旋回用のキャンバ付与条件が成立した場合、前記キャンバ付与状態判断処理手段は、前記キャンバセンサ68によって検出されたキャンバθpを読み込み、該キャンバθpが、
−5〔°〕≦θp<0〔°〕
であるかどうかによって、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されているかどうかを判断する(ステップS17)。
【0076】
各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されている場合、前記キャンバ状態保持処理手段は、各車輪WLB、WRBをキャンバθが付与された状態に保持して処理を終了し(ステップS18)、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されていない場合、前記キャンバ付与処理手段は、アクチュエータ31、32を作動させて各車輪WLB、WRBにキャンバθを付与する(ステップS19)。
【0077】
一方、前記操縦安定キャンバ要否判定処理において、旋回用のキャンバ付与条件が成立しない場合、制御部16の図示されない第3のキャンバ付与条件成立判断処理手段としての直進安定キャンバ要否判定処理手段は、第3のキャンバ付与条件成立判断処理としての直進安定キャンバ要否判定処理を行い、車両の直進走行時に、前記車両状態及び操作状態のうちの少なくとも一方、本実施の形態においては、車両状態及び操作状態に基づいて、直進走行用のキャンバ付与条件が成立したかどうかを判断する(ステップS20、S21)。そのために、前記直進安定キャンバ要否判定処理手段は、車速を読み込み、車速を読み込む直前の所定の時間、本実施の形態においては、過去X〔秒〕間の車速に基づいて、車速算出値、本実施の形態においては、平均車速を算出するとともに、前記ステアリング角度γを読み込む直前の所定の時間、本実施の形態においては、過去Y〔秒〕間のステアリング角度γに基づいて操舵量算出値、本実施の形態においては、平均ステアリング角度を算出し、過去X〔秒〕間の平均車速が閾値vth1以上であり、かつ、過去Y〔秒〕間の平均ステアリング角度が閾値γth1より小さいかどうかを判断する(ステップS20−1)。過去X〔秒〕間の平均車速が閾値vth1以上であり、かつ、過去Y〔秒〕間の平均ステアリング角度が閾値γth1より小さい場合に、直進安定キャンバ要否判定処理手段は、直進走行用のキャンバ付与条件が成立したと判断する(ステップS20−2)。なお、閾値γth1は第1、第2の閾値γiより小さく設定される。
【0078】
そして、直進走行用のキャンバ付与条件が成立した場合、前記キャンバ付与状態判断処理手段は、前記キャンバθpを読み込み、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されているかどうかを判断し(ステップS22)、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されている場合、前記キャンバ状態保持処理手段は、各車輪WLB、WRBをキャンバθが付与された状態に保持して処理を終了し(ステップS23)、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されていない場合、前記キャンバ付与処理手段は、アクチュエータ31、32を作動させて各車輪WLB、WRBにキャンバθを付与する(ステップS24)。
【0079】
この場合、車両が低μ路を走行していないと判断されるまで、各車輪WLB、WRBが、キャンバθが付与された状態に保持され、各車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与は解除されない。したがって、低μ路上での車両の直進走行時に、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されたり、各車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与が解除されたりすることがないので、タイヤ36と路面との接触状態を一定にし、安定させることができる。その結果、車両が低μ路を走行しているときの走行安定性を十分に高くすることができる。
【0080】
また、前記直進安定キャンバ要否判定処理において、直進走行用のキャンバ付与条件が成立しない場合、前記キャンバ付与状態判断処理手段は、前記キャンバθpを読み込み、現在、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されているかどうかを判断する(ステップS25)。
【0081】
そして、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されている場合に、制御部16の図示されないキャンバ解除処理手段は、キャンバ解除処理を行い、制御部16に内蔵された計時処理部としての図示されないタイマによる計時を開始し、計時を開始してから所定の時間が経過すると(ステップS26)、アクチュエータ31、32を作動させて各車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与を解除する(ステップS27)。
【0082】
このように、本実施の形態においては、車両の旋回時に、車両が低μ路を走行していると判断される場合に、車両が低μ路を走行していないと判断される場合より早く車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されるので、旋回安定性を確実に高くすることができる。
【0083】
そして、本実施の形態においては、スノーモードが設定されている場合に、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されているかどうかが判断され、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されている場合に、スノーモードの設定が解除されるまで、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与された状態が保持される。
【0084】
また、車両が低μ路を走行している場合に、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されているかどうかが判断され、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されている場合に、車両が高μ路を走行していると判断されるまで、キャンバθが付与された状態が保持される。
【0085】
したがって、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されたり、車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与が解除されたりすることがないので、タイヤ36と路面との接触状態を一定にし、安定させることができる。
【0086】
なお、本実施の形態においては、車両の旋回時に、車両が低μ路を走行していると判断される場合に、車両が低μ路を走行していないと判断される場合より早く車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されるようになっているが、車両の直進走行時に、車両が低μ路を走行していると判断される場合に、車両が低μ路を走行していないと判断される場合より早く車輪WLB、WRBにキャンバθを付与することができる。
【0087】
その場合、前記直進安定キャンバ要否判定処理手段は、過去X〔秒〕間の平均車速が閾値vth1以上であり、かつ、過去Y〔秒〕間の平均ステアリング角度が閾値γth1より小さいかどうかを判断するに当たり、車両が低μ路を走行していると判断される場合の閾値vth1が、車両が低μ路を走行していないと判断される場合より小さくされ、車両が低μ路を走行していると判断される場合の閾値γth1が、車両が低μ路を走行していないと判断される場合より大きくされる。
【0088】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【符号の説明】
【0089】
11 ボディ
16 制御部
31、32 アクチュエータ
WLF、WRF、WLB、WRB 車輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7