【実施例】
【0019】
次に
図5を参照して、スロットダイ101の内部に蓄積された溜まりエア123をスロットダイ101の外部に排出する作用について詳細に説明する。
【0020】
スロットダイ101に塗布液122を充填して塗布を長時間行うと、マニホールド106の長手方向中央部にエアが徐々に蓄積されて溜まりエア123を形成する(
図5(a)の状態)。この状態で一旦塗布を中断し、まず圧空配管133に圧縮空気を供給してパイロット圧を付与してエアオペバルブ132を開とし、塗布液およびエアが排液配管131を通じて外部に流出できる状態にする。
【0021】
つづいて図示しない塗布液供給装置を作動させて、塗布液122を供給口116から供給経路119を経てマニホールド106に流入させると、塗布液122はマニホールド106内で長手方向両側に拡幅される塗布液122Aと、ベント口109からベント経路113へ流入する塗布液122Bとに分岐する。この塗布液122の分岐にあわせて溜まりエア123も分離する。すなわち、溜まりエア123の一部は、マニホールド106内で長手方向両側に拡幅される塗布液122Aによって、長手方向に中央部から両端部に向かって押し流されて、ベント口110、111からベント経路114、115に流入するエア125、126になる。エア125、126が分離した後の溜まりエア123の残りの部分は、ベント経路113へ流入する塗布液122Bによって、ベント口109からベント経路113へ流入するエア124となる(
図5(b)の状態)。
【0022】
さらに続けて塗布液122を供給口116から供給すると、マニホールド106内で長手方向両側に拡幅される塗布液122Aによって、エア125、126はベント経路114、115を合流部112に向かって移動する。これと並行して、ベント経路113へ流入する塗布液122Bによって、エア124はベント経路113を合流部112に向かって移動し、合流部112にてエア125、126と合流する(
図5(c)の状態)。
【0023】
エア124、125、126は合流後に、供給口116から続けて供給される塗布液122によってさらに下流側に押し流され、排出経路118を経て排出口117から排液配管131を流出してスロットダイ101の外部へ排出される。すなわち、スロットダイ101の内部に蓄積された溜まりエア123が、スロットダイ101の外部に排出されたことになる。
【0024】
ここで、溜まりエア123がスロットダイ101の内部からスロットダイ101外部に排出するまでの排出時間を最短とするために、各ベント口にあるエアがほぼ同時に合流部で合流できるようにすることが好ましい。そのために、ベント経路でのベント口から合流部までの塗布液の流動時間が、どのベント経路を経由しても略同一となるようにベント経路ごとに塗布液の流速を定め、その流速が得られるようにベント経路の形状を定めるのが好ましい。具体的には、n個あるベント経路1、2、...、nのベント口から合流部までの長さをL1、L2、...、Ln、各ベント経路1、2、...、nでの塗布液の流速をV1、V2、...、Vnとすると、ベント経路でのベント口から合流点までの塗布液の流動時間をどのベント経路を経由しても同じ時間t0にすることから、t0=L1/V1=L2/V2=...=Ln/Vn、となる。各ベント経路1、2、...、nを粘度ηの塗布液が速度V1、V2、...、Vnで流動する時の圧力損失ΔP1、ΔP2、...、ΔPnは、ΔP1=η×V1×f1、ΔP2=η×V2×f2、...、ΔPn=η×Vn×fn、である。ここでf1、f2、...、fnは各ベント経路1、2、...、nの形状から定められる形状係数である。各ベント経路1、2、...、nは、ベント口から合流点までの区間で並列流路を形成しているので、各ベント経路1、2、...、nでの圧力損失ΔP1、ΔP2、...、ΔPnは等しくなることから、V1×f1=V2×f2=...=Vn×fnとなる。この等式を満たす形状係数f1、f2、...、fnが得られるように、各ベント経路1、2、...、nの形状、すなわち断面形状と長さを定めれば、各ベント口にあるエアがほぼ同時に合流部で合流することが可能となる。
【0025】
実用的には、ベント口とベント経路の個数が3であるスロットダイ101を例に挙げると、長手方向両端にあるベント経路114、115が対称形状であり、ベント口110、111から合流点112までの長さがより長いベント経路114、115の断面積を、ベント口109から合流点112までの長さがより短いベント経路113の断面積より30倍以上大きくすると、
図5(c)に示すように、ベント口109、110、111から流出してきたエア124、125、126を、ほぼ同時に合流部112へ到達させることができるので、そのような形状にすることが好ましい。なおベント経路やベント口の断面形状は、上記の条件を満たす形状係数を有するものなら、三角形、四角形等の多角形、円形、半円形、等いかなる形状のものであってもよい。
【0026】
なお
図5(a)の状態で、溜まりエア123が大きくてその一部がすでにベント口109からベント経路113に入り込んでいる場合は、塗布液122が供給口116から供給されると溜まりエア123が押され、ベント口109によって溜まりエア123の一部が切断されて小さな気泡となり、ベント経路113へ流入する塗布液122Bがなくても、浮力によりベント経路113内を上昇する。その上昇速度も、ベント経路の断面形状に依存するので、塗布液の流動によってエアが移動するのと同じようにして、ベント経路の断面形状、長さ等の形状を定めるのが好ましい。
【0027】
上記実施態様では、供給口116、排出口117、合流部112がスロットダイ101の長手方向中央に設けられ、ベント経路114とベント経路115が対称形に形成されているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、供給口116、排出口117、合流部112をスロットダイ101の長手方向中央以外に設けて、ベント経路114とベント経路115を非対称形に形成してもよい。
【0028】
また、ベント口109、110、111の位置も限定されないが、マニホールド106に溜まるエアを流出しやすくするために、塗布液がマニホールド106を拡幅する流れによってエアが集合しやすいマニホールド106の長手方向両端部や、エアの浮力によってエアが集合しやすいマニホールド106の重力方向最上部など、エアが溜まりやすい位置に設けることが好ましい。
【0029】
次に本発明に係る別の塗布器であるスロットダイ201を、
図6を用いて説明する。
図6は、スロットダイ201の内部に設けられた流路を示すリアリップ203の概略斜視図である。
【0030】
スロットダイ201は、リアリップ203以外はスロットダイ101と全く同じ構成である。
図6を参照すると、リアリップ203には、重力方向の上部に連山状の稜線を持つ形状のマニホールド206が設けられている。マニホールド206の連山状の稜線には5個の頂部があり、それぞれの頂部にベント口209、210、211、212、213が設けられている。ベント口209、210、211には、それぞれベント経路216、217、218が連なって接続されている。ベント経路216、217、218は、それぞれの一端が合流部214で合流して一つの経路に集約され、合流部214でさらに排出口223に連なる排出経路225に接続されている。一方ベント口212、213にも、同様にベント経路219、220が連なって接続され、それらの一端が合流部215で合流して一つの経路に集約され、合流部215でさらに排出口224に連なる排出経路226に接続されている。排出口223、224にはそれぞれ個別に図示されていないエア排出用付帯部品が、スロットダイ101の時と同様に接続される。また塗布液227は供給口222から供給経路233を経て、マニホールド206に供給され、塗布時にはスリット207を経て吐出口208から吐出される。スロットダイ201のリアリップ203に形成される流路では、以上の構成により、マニホールド206に流入、または発生するエアは、浮力によってマニホールド206の連山状の稜線の各頂部に向かって上昇する。したがってマニホールド206の連山状の稜線の各頂部にはエアが蓄積され、エア228、229、230、231、232となる。この状態で塗布液を排出口223、224から流出できるようにエア排出用付帯部品を設定し、供給口222から塗布液227を供給すると、エア228、229、230はベント口209、210、211から排出口223に至る流路を流出してスロットダイ201外部に排出される。これと並行して、エア231、232もベント口212、213から排出口224に至る流路を流出してスロットダイ201の外部に排出される。以上のスロットダイ201内部に溜まったエアを、スロットダイ201の内部に設けられた2系統の流路で外部へ排出することは、供給口222から供給される塗布液227が分岐して、エア228、229、230、231、232を外部に向かって押し流すことで行われる。スロットダイ201は、合流部214、215を有する構成にすることで、5箇所のベント経路217、218、219、220、221から、2箇所の排出口223、224に少なくすることができる。これによって排出口223、224に接続するエア排出用付帯部品の数も2にすることができ、ベント口と同数の排出口を有する従来の装置構成と比べて、装置構成を大幅に簡素化でき、さらにエア排出用付帯部品の取付時間も大幅に短縮することができる。このように本発明に係る塗布器では、ベント口ないしはベント経路の個数よりも少ない個数の排出口を設けることによって、上記の格段の効果を発揮するものであり、この個数の条件を満たすなら設ける排出口の個数はいかなる値であってもよいが、より好ましくは設ける排出口の個数を1とする。
【0031】
ここで、スロットダイ201についてもスロットダイ101と同様に、ベント口209、210、211にあるエア228、229、230がほぼ同時に合流部214で合流できるようにするとともに、ベント口212、213にあるエア231、232がほぼ同時に合流部215で合流することが好ましい。
そのために、ベント経路でのベント口から合流点までの塗布液の流動時間が、どのベント経路を経由しても略同一となるようにベント経路ごとに塗布液の流速を定め、その流速が得られるようにベント経路の形状を定めるのが好ましい。
【0032】
なおベント経路219、220については、ベント口212、213から合流部215までの長さを同じにすると、ベント経路を同一の断面形状とすることでベント口231、232に溜まるエア212、213を同時に合流部215で合流させることができる。
【0033】
次に本発明に係るさらに別の塗布器であるスロットダイ301を、
図7を用いて説明する。
図7は、スロットダイ301を各構成部材に分解して示す概略斜視図である。スロットダイ301は、リアリップ303の外面(フロントリップ302と相対する面の逆側の面)に合流部材321を重ね合わせて連結ボルト305で締結し、この合流部材321とリアリップ303にまたがってベント経路313、314、315を設けるとともに、ベント経路313、314、315が合流する合流部312と、排出口317と、合流部312と排出口317を接続する排出経路318とを合流部材321に設け、合流部材321の出口となる排出口317にエア排出用付帯部品130を接続した他は、スロットダイ101と全く同じである。したがって、リアリップ303に設けた供給口316に塗布液を供給すれば、スロットダイ101の時と全く同じ作用にて、スロットダイ301の内部流路であるマニホールド306に溜まったエアを、ベント口309、310、311から排出口317に至る流路を流出させて、スロットダイ301の外部に排出することができる。さらに3個のベント経路に対して排出口を1個にできるので、ベント口と同数の排出口を有する従来の装置構成と比べて、装置構成を大幅に簡素化でき、さらにエア排出用付帯部品の取付時間も大幅に短縮することができる。このように、塗布液を供給する供給口のある部材とは別の部材に、エアを排出するためのベント経路や合流部以降の流路を設けるようにしても、その部材が塗布器を構成しかつ塗布器に含まれる部材であるなら、本発明の作用や効果は同じように発揮される。すなわちスロットダイ301のような構成をとっても、塗布器の内部にエアを排出する経路とその合流部を設けるという本発明の本質要素には変わりはない。
【0034】
以上の本発明の塗布器に適用できる塗布液としては、粘度が1〜1000mPaS、より望ましくは1〜100mPaSであり、ニュートニアンであることが塗布性から好ましいが、チキソ性を有する塗布液であってもよい。とりわけ溶剤に揮発性の高いものや溶存しているエアが発泡しやすいもの、たとえばPGMEA、酢酸ブチル、乳酸エチル等を使用している塗布液を塗布するときに有効である。具体的に適用できる塗布液の例としては、カラーフィルター用のブラックマトリックス、RGB色画素形成用塗布液の他、レジスト液、オーバーコート材、柱形成材料、TFTアレイ基板用のポジレジスト等がある。