(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ヘッドパイプから左右一対のメインフレームが後方に延出し、ダウンフレームが下方に延出するように、前記ヘッドパイプに対して前記メインフレームと前記ダウンフレームとが接合された自動二輪車の車体フレームであって、
前記ヘッドパイプが、
上側パイプ部から前記メインフレームの上壁部及び下壁部に沿うように上下一対の対向片部が延出する上側ヘッドパイプと、
前記上側パイプ部に下側パイプ部が接合され、前記下側パイプ部から前記ダウンフレームの前壁部に沿うように前側舌片部が延出する下側ヘッドパイプと、
前記上側ヘッドパイプの後部に接合され、前記一対のメインフレームの内側壁部間を連ねる縦壁部から前記ダウンフレームの後壁部に沿うように後側舌片部が延出する補強部材とによって形成され、
前記補強部材には、前記縦壁部から前記左右一対のメインフレームの内側壁部に沿って後方に延出される左右一対の後方延出部が設けられ、
前記左右一対の後方延出部は前記縦壁部と前記左右一対のメインフレームの内壁部とを緩やかに接続するように湾曲し、側面視において延在方向の後端に向かって幅狭となる半円状に形成されることを特徴とする車体フレーム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のヘッドパイプでは、左右割の金型の抜き勾配の制約によって、縦壁部に対して直交する左右方向に環状突出部が突出する。この場合、環状壁部の先端がメインフレームの側壁部に対して突き当たるようにして接合される。メインフレームと環状壁部との突き当て部分においては、断面積の変化によって車体フレームの剛性が急激に変化するため、メインフレームにおける応力集中を緩和できないという問題があった。
【0007】
また、特許文献2に記載のヘッドパイプでは、前後方向に延びる上側舌片部と下側舌片部とを前後割の金型によって成型するため、金型の深さが大きくなり、鍛造時の加工ストロークが長くなる。このため、大型の加工機が必要となり、加工時間が長くなっていた。また、金型に作用する負荷が大きいため、金型の寿命が短くなる。よって、ヘッドパイプの成型コストが増大するという不具合が生じていた。また、特許文献1、2のヘッドパイプでは、金型の抜き勾配による制約を受けるため、駄肉が多くなって車体フレーム全体の重量が増加するという不具合もあった。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、設計自由度を確保しつつ、低コストで成型することができ、適切な強度を有する車体フレームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の車体フレームは、ヘッドパイプから左右一対のメインフレームが後方に延出し、ダウンフレームが下方に延出するように、前記ヘッドパイプに対して前記メインフレームと前記ダウンフレームとが接合された自動二輪車の車体フレームであって、前記ヘッドパイプが、上側パイプ部から前記メインフレームの上壁部及び下壁部に沿うように上下一対の対向片部が延出する上側ヘッドパイプと、前記上側パイプ部に下側パイプ部が接合され、前記下側パイプ部から前記ダウンフレームの前壁部に沿うように前側舌片部が延出する下側ヘッドパイプと、前記上側ヘッドパイプの後部に接合され、前記一対のメインフレームの内側壁部間を連ねる縦壁部から前記ダウンフレームの後壁部に沿うように後側舌片部が延出する補強部材とによって形成され
、前記補強部材には、前記縦壁部から前記左右一対のメインフレームの内側壁部に沿って後方に延出される左右一対の後方延出部が設けられ、前記左右一対の後方延出部は前記縦壁部と前記左右一対のメインフレームの内壁部とを緩やかに接続するように湾曲し、側面視において延在方向の後端に向かって幅狭となる半円状に形成されることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、上側ヘッドパイプと下側ヘッドパイプと補強部材とが別体に成型される。上側ヘッドパイプは、上下一対の対向片部によって上下方向で鍛造できず、前後方向で加工ストロークが長くなるため左右方向で鍛造するが、下側ヘッドパイプと補強部材とが上側ヘッドパイプに鍛造方向を合わせる必要がない。各部材の形状に適した鍛造方向で加工することができるため、金型の抜き勾配による制約を減らして設計自由度を確保できる。これにより、駄肉を減らして軽量化することができ、さらに鍛造時の加工ストロークを短くできる。また、上下一対の対向片部によって上側ヘッドパイプとメインフレームとの接合長が長く取られ、前側舌片部及び後側舌片部によって下側ヘッドパイプとダウンフレームとの接合長が長くとられる。これにより、ヘッドパイプに対するメインフレーム及びダウンフレームの接合強度を高めることができる。このように、設計自由度を確保しつつ低コストで車体フレームを成型でき、さらに車体フレームに適切な強度を持たせることができる。
また、左右一対の後方延出部がメインフレームの内側壁部に沿うように延出するため、後方延出部の後端部から縦壁部に向うまでの間で急激な剛性の変化を抑えて、メインフレームにおける応力集中を緩和できる。また、溶接長を長くとることができ接合強度を高めることができる。
【0011】
また本発明の車体フレームにおいて、前記上側ヘッドパイプが左右割の金型によって鍛造され、前記下側ヘッドパイプが上下割の金型によって鍛造され、前記補強部材が前後割の金型によって鍛造される。この構成によれば、上側ヘッドパイプ、下側ヘッドパイプ、補強部材を、それぞれ適した鍛造方向で鍛造できる。
【0013】
また本発明の車体フレームにおいて、前記補強部材の縦壁部は、前記上下一対の対向片部の後端部に接合されており、側面視において、前記上下一対の対向片部に接合する前記縦壁部の接合箇所を結ぶ直線と、前記後方延出部の後端部と前記後側舌片部とを結ぶ直線とが略平行に形成される。この構成によれば、側面視において2つの直線間の距離が狭くなるため、2つの直線に略直交する上下方向からの鍛造によって、補強部材の加工ストロークを短くすることができる。
【0014】
また本発明の車体フレームにおいて、前記左右一対のメインフレームの中間部及び前記ダウンフレームの中間部は、ブリッジパイプを介して連結されており、前記補強部材の後側舌片部には、前記ブリッジパイプ取付用のブリッジパイプ取付部が前記ダウンフレームの後壁部に沿うように接合される。この構成によれば、補強部材とブリッジパイプ取付部とを別体に成型することで、一体に成型する場合と比較して設計自由度が高くなり、ブリッジパイプ取付部を容易に成型できる。さらに補強部材とブリッジパイプ取付部の駄肉を減らして軽量化することができる。
【0015】
また本発明の車体フレームにおいて、前記下側ヘッドパイプの前側舌片部には、前記ダウンフレームの両側壁部に沿うように一対の側壁部が設けられ、前記一対の側壁部は、前記上側パイプ部と前記下側パイプ部との接合面よりも上方に延出して前記上側パイプ部に接合される。この構成によれば、一対の側壁部によって上側パイプ部と下側パイプ部との接合面を補強することができる。また、一対の側壁部によって前側舌片部の剛性が高められるため、前側舌片部の厚みを薄く形成できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数のフレーム構成部材を接合してヘッドパイプを形成することで、設計自由度を確保しつつ低コストで車体フレームを成型でき、車体フレームに適切な強度を持たせることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下においては、本発明の車体フレームをオフロードタイプの自動二輪車に適用した例について説明するが、これに限定されるものではなく適宜変更が可能である。例えば、本発明の車体フレームを、他のタイプの自動二輪車にも適用可能である。
【0019】
図1を参照して、本実施の形態に係る自動二輪車全体の概略構成について説明する。
図1は、本実施の形態に係る自動二輪車の左側面図である。なお、
図1においては、車体前方を矢印FR、車体後方を矢印REでそれぞれ示す。
【0020】
図1に示すように、自動二輪車1は、パワーユニット、電装系等の各部を搭載する鋼製又はアルミ合金製の車体フレーム2を備えている。車体フレーム2のメインフレーム22は、前端に位置するヘッドパイプ21から後方に向けて左右に分岐し、斜め下方に延在している。メインフレーム22の後端部からは、スイングアームブラケット23が下方に向って延在している。また、車体フレーム2のダウンチューブ(ダウンフレーム)24は、ヘッドパイプ21から略下方に向って延在している。ダウンチューブ24の下端部からは、左右に分岐したロアチューブ25が後方に向って略水平に延在し、スイングアームブラケット23の下端部に連結されている。
【0021】
車体フレーム2の前端には、ヘッドパイプ21に設けられた不図示のステアリングシャフトを介してフロントフォーク31が回転可能に支持されている。ステアリングシャフトの上端にはハンドルバー(不図示)が設けられており、ハンドルバーの両端にはグリップ33が装着されている。ハンドルバーの左前方にはクラッチレバー34が配置されており、ハンドルバーの右前方には前輪3用のブレーキレバー(不図示)が配置されている。フロントフォーク31の下部には、前輪3が回転可能に支持されている。前輪3には、前輪用のブレーキを構成するブレーキディスク35が設けられている。
【0022】
車体フレーム2のスイングアームブラケット23には、スイングアーム41が上下方向に揺動可能に連結されており、車体フレーム2とスイングアーム41との間にはサスペンション42が取り付けられている。スイングアーム41の後部には、後輪4が回転可能に支持されている。後輪4の左側には、ドリブンスプロケット43が設けられており、ドライブチェーン44によってエンジン5の動力が後輪4に伝達されるよう構成されている。後輪4の右側には、後輪4用のブレーキを構成するブレーキディスク(不図示)が設けられている。
【0023】
車体フレーム2により略囲まれる空間には、駆動源となる水冷式のエンジン5が搭載されている。エンジン5の前方にはラジエータ51が配置されており、エンジン5の後方にはフィルタを備えたエアクリーナボックス52が配置されている。また、エンジン5の上方には燃料が格納される燃料タンク61が配置されており、燃料タンク61の後方にはシート6が配置されている。シート6の下方にはフットレスト62が設けられている。車体左側のフットレスト62の前方にはシフトペダル63が設けられており、車体右側のフットレスト62の前方には後輪4用のブレーキペダル(不図示)が設けられている。
【0024】
エンジン5は、横置きクランク式の4サイクル単気筒エンジンとトランスミッションとからなる。エンジン5には、インテークパイプ(不図示)を通じて空気が取り込まれ、燃料噴射装置にて空気と燃料とが混合されて燃焼室に供給される。燃焼後の排気ガスは、エンジン5の右側面において後方に延出されたエキゾーストパイプ(不図示)を経てマフラ54から排出される。
【0025】
図2から
図4を参照して車体フレームについて説明する。
図2は、本実施の形態に係る車体フレームの斜視図である。
図3は、本実施の形態に係る車体フレームのヘッドパイプ周辺の拡大図である。
図4は、本実施の形態に係る車体フレームのヘッドパイプ周辺の分解斜視図である。
【0026】
図2に示すように、車体フレーム2は、ヘッドパイプ21と、ヘッドパイプ21から車体後方に向って斜め下方に延びる左右一対のメインフレーム22と、各メインフレーム22の後端部から下方に延びる左右一対のスイングアームブラケット23とを有している。また、車体フレーム2は、ヘッドパイプ21から車体下方に延びるダウンチューブ24と、ダウンチューブ24の下側で左右二股に分岐した後、後方に向って略水平に延びて各スイングアームブラケット23に接合されるロアチューブ25を有する。
【0027】
一対のメインフレーム22は、アルミ系展伸材等により中空状に形成されており、ヘッドパイプ21から後方に向って左右に広がり、エンジン5の上方を通るように延在する。一対のメインフレーム22の上部には、燃料タンク61が設置される。一対のスイングアームブラケット23は、アルミ系鋳造材又はアルミ系鍛造材により、開放された内面側に多数の補強リブを設けて形成されている。一対のスイングアームブラケット23は、一対のメインフレーム22に接合される上端部において、アッパブリッジ26を介して連結される。このアッパブリッジ26にはサスペンション42の上端部が支持される。
【0028】
一対のスイングアームブラケット23は、一対のロアチューブ25に接合される下端部において、ロアブリッジ27を介して連結される。また、一対のスイングアームブラケット23は、その延在方向の中間部にスイングアーム41を揺動可能に支持するスイングアームピボット46が形成される。ダウンチューブ24は、アルミ系展伸材等により中空状に形成されており、エンジン5の前方を通るように延在する。ダウンチューブ24の延在方向における中間部は、U字状のブリッジパイプ28を介してメインフレーム22の中間部に連結される。一対のロアチューブ25は、アルミ系展伸材等により中空状に形成されており、エンジン5の下方を通るように延在する。
【0029】
これら車体フレーム2の構成部材によってエンジン5等の収容空間が画成される。エンジン5は、スイングアームブラケット23、ダウンチューブ24、ロアチューブ25に設けたマウントを介して懸架されることで、車体フレーム2に対する補強部材としての役割を果たしている。
【0030】
図3及び
図4に示すように、ヘッドパイプ21は、アルミ系合金材料を鍛造成型した各種部材を溶接等によって接合して形成されている。ヘッドパイプ21は、上側ヘッドパイプ71と下側ヘッドパイプ72とを接合して略円筒形に形成されている。上側ヘッドパイプ71は、左右割の金型によって、上側パイプ部711から上下方向で対向する上下一対のフランジ(対向片部)714、715が後方に延出するように成型される。上側パイプ部711の上部は、ステアリングシャフトの上部軸受が装着される上部軸受ハウジング712となっており、本体部分よりも僅かに大径に形成されている。
【0031】
また、上側ヘッドパイプ71の後側には、一対のメインフレーム22を取り付けるための開口部713が形成されている。開口部713の上辺部及び下辺部は、後方に突出して上側フランジ714及び下側フランジ715を形成している。上側フランジ714及び下側フランジ715は、それぞれ一対のメインフレーム22の上壁部221及び下壁部222に沿うように延出している。上側ヘッドパイプ71の開口部713の両側辺部には、一対のメインフレーム22の内側壁部223、外側壁部224が接合され、上側フランジ714及び下側フランジ715には、それぞれ一対のメインフレーム22の上壁部221及び下壁部222が接合される。上側フランジ714及び下側フランジ715によって、上側ヘッドパイプ71とメインフレーム22との接合長が長くなっている。
【0032】
下側ヘッドパイプ72は、上下割の金型によって、下側パイプ部721からダウンチューブ24の前壁部241に沿って板状の前側舌片部722が下方に延出するように成型される。下側パイプ部721は、ステアリングシャフトの下部軸受が装着される下部軸受ハウジング723となっている。また、下側パイプ部721の上面には、上側パイプ部711に向って環状に突出した接合部724が設けられている。下側パイプ部721には、接合部724を介して上側ヘッドパイプ71が接合され、前側舌片部722には、ダウンチューブ24の前壁部241が接合される。
【0033】
前側舌片部722の基端側には、幅方向の両側辺部から立ち上がる一対の側壁部725が設けられている。この一対の側壁部725によって前側舌片部722の剛性が高められるため、前側舌片部722を薄く形成することが可能となっている。一対の側壁部725は、下側パイプ部721と上側パイプ部711との接合面Sよりも上方に延出しており、上方に向って幅狭になるような側面視略三角状に形成されている。一対の側壁部725の前方の斜辺部726には、上側ヘッドパイプ71が接合され、一対の側壁部725の後方の斜辺部727には、ダウンチューブ24の両側壁部243が接合される。この一対の側壁部725によって、下側ヘッドパイプ72と上側ヘッドパイプ71及びダウンチューブ24との接合長が長くなっている。
【0034】
上側フランジ714及び下側フランジ715の後端部には、上側ヘッドパイプ71の後方において、一対のメインフレーム22の内側壁部223間を連結するメインフレームガセット(補強部材)73が接合されている。メインフレームガセット73は、前後割の金型によって、一対のメインフレーム22の内側壁部223に沿う一対の後方延出部731及びダウンチューブ24の後壁部242に沿う板状の後側舌片部732が、それぞれ縦壁部733から後方に延出するように成型される。縦壁部733は、側面視において後方に膨らむように湾曲しており、上部及び下部において上側フランジ714及び下側フランジ715の後端部に接合される。
【0035】
一対の後方延出部731は、縦壁部733と一対のメインフレーム22の内側壁部223とを緩やかに接続させるように湾曲して形成されている。この一対の後方延出部731によって、メインフレーム22とヘッドパイプ21との接合部分における変化を小さくして剛性を抑えることで、メインフレーム22の応力集中を緩和している。一対の後方延出部731には、それぞれ一対のメインフレーム22の内側壁部223が接合され、後側舌片部732には、ダウンチューブ24の後壁部242が接合される。一対の後方延出部731及び後側舌片部732によって、メインフレームガセット73と一対のメインフレーム22及びダウンチューブ24との接合長が長くなっている。
【0036】
後側舌片部732の下端部には、ブリッジパイプ28取付用のブリッジパイプガセット(ブリッジパイプ取付部)74が接合されている。ブリッジパイプガセット74は、斜め割の金型によって、ダウンチューブ24の後壁部242に沿ってブリッジパイプ28用の取付部741から接合片部742が上方に延出するように成型される。取付部741には、一対のメインフレーム22とダウンチューブ24間を接合するブリッジパイプ28が接合され、接合片部742には、ダウンチューブ24の後壁部242及び後側舌片部732の下端部が接合される。接合片部742によって、ブリッジパイプガセット74とダウンチューブ24との接合長が長くなっている。
【0037】
このように、鍛造方向の異なる複数の部品を接合してヘッドパイプ21を形成することで、金型の抜き勾配による制約を減らして設計自由度を高められている。これにより、駄肉を減らして軽量化することができ、各部材の鍛造時の加工ストロークを小さくできる。また、本実施の形態に係るヘッドパイプ21は、各部材間の接合長が長くとられているため、複数の部材を接合して形成しても十分な接合強度を得ることが可能となっている。以下、ヘッドパイプ21の接合構成について説明する。
【0038】
図5を参照してヘッドパイプの接合構成について説明する。
図5は、本実施の形態に係るヘッドパイプの接合構成の説明図である。なお、
図5は、ヘッドパイプの各構成部材(フレーム構造体)を模式的に図示したものである。
【0039】
図5Aに示すように、ヘッドパイプ21は、垂直に対してキャスター角だけ傾いている。このため、路面からの突き上げやブレーキの制動力等によってヘッドパイプ21に対してピッチング方向の荷重が発生する。このとき、ヘッドパイプ21内には、上下の軸受を介してステアリングシャフトが支持されているため、上側ヘッドパイプ71には上部軸受を介して後方に荷重F1が作用し、下側ヘッドパイプ72には下部軸受を介して前方に荷重F2が作用する。この場合、上側ヘッドパイプ71は、メインフレーム22に押し込まれる方向に荷重F1が作用するため、比較的接合強度に与える影響が少ない。一方、下側ヘッドパイプ72は、ダウンチューブ24から引き離す方向に荷重F2が作用するため、上側ヘッドパイプ71及びダウンチューブ24との接合強度に大きな影響が与えられる。
【0040】
本実施の形態に係るヘッドパイプ21では、下側ヘッドパイプ72に一対の側壁部725が設けられており、この一対の側壁部725と上側ヘッドパイプ71の後側とが接合されている。このため、一対の側壁部725には、前側ヘッドパイプ21に押し込まれる方向に荷重F2が作用する。また、下側ヘッドパイプ72及び上側ヘッドパイプ71は、一対の側壁部725によって接合面Sだけでなく接合面Sに交差する方向でも接合される。このような接合によって、下側ヘッドパイプ72と上側ヘッドパイプ71との接合強度が高められている。
【0041】
また、下側ヘッドパイプ72では、一対の側壁部725がダウンチューブ24の両側壁部243に接合され、前側舌片部722がダウンチューブ24の前壁部241に接合される。この場合、前側舌片部722は、ダウンチューブ24の前壁部241に沿って延在しており、接合長が長くとられている。このように、一対の側壁部725と前側舌片部722とがダウンチューブ24を囲うように接合されるため、下側ヘッドパイプ72とダウンチューブ24との接合強度が高められている。よって、下側ヘッドパイプ72に対して荷重F2が作用しても、十分な接合強度を得ることが可能となっている。
【0042】
この場合、前側舌片部722は、下端部に向って幅狭になるように下側パイプ部721から延出し(
図4参照)、一対の側壁部725は、前側舌片部722の下端部に向って低くなるように形成されている。このように、ヘッドパイプ21側に向って前側舌片部722及び一対の側壁部725の断面積が徐々に大きくなっている。このため、前側舌片部722の下端部からヘッドパイプ21に向うまでの剛性の変化を緩やかにしてダウンチューブ24における応力集中が緩和される。
【0043】
図5Bに示すように、メインフレームガセット73は、縦壁部733から後方に一対の後方延出部731を延出している。一対の後方延出部731は、側面視において延在方向の後端に向って幅狭となる略半円状に形成されている。また、
図5Cに示すように、一対の後方延出部731は、縦壁部733と一対のメインフレーム22とを緩やかに接続させるように湾曲している。このように、ヘッドパイプ21側に向ってメインフレームガセット73の断面積が徐々に大きくなっている。このため、後方延出部731の後端部から縦壁部733に向うまでの剛性の変化を緩やかにしてメインフレーム22における応力集中が緩和される。
【0044】
この場合、一対の後方延出部731の外縁部は、略半円状に形成されているため、溶接ビードが緩やかな曲線で構成される。このため、接合長が長くなってビード端部の割れが防止されるため、メインフレームガセット73とメインフレーム22との接合強度が高められている。また、メインフレームガセット73の後側舌片部732には、ブリッジパイプガセット74が延設されており、ダウンチューブ24とメインフレームガセット73との接合強度が補強されている。
【0045】
ところで、一対のメインフレーム22の前側には、燃料タンク61が配置されており、ヘッドパイプ21の後方空間が小さくなっている(
図5C参照)。このため、通常ヘッドパイプを鍛造によって一体成型した場合には、ヘッドパイプの後方部分を肉付けすることができない。しかしながら、本実施の形態では、一対のメインフレーム22の内側壁部223に沿うように一対の後方延出部731が設けられているため、燃料タンク61とヘッドパイプ21との干渉を抑えつつ、ヘッドパイプ21の後方部分を肉付けすることが可能となっている。
【0046】
ブリッジパイプガセット74は、接合片部742の上端側でメインフレームガセット73の後側舌片部732の下端側に接合されている。この場合、
図5Dに示すように、接合片部742は上方に向って幅狭になり、後側舌片部732は下方に向って幅狭になっている。よって、接合片部742と後側舌片部732との重なり部分の断面積が徐々に増加するため、剛性の急激な増加を抑えて接合片部742及び後側舌片部732における応力集中が緩和される。
【0047】
図6を参照して、上側ヘッドパイプ、下側ヘッドパイプ、メインフレームガセット、ブリッジパイプガセットの鍛造方法について説明する。
図6は、本実施の形態に係る上側ヘッドパイプ、下側ヘッドパイプ、メインフレームガセット、ブリッジパイプガセットの鍛造方法の説明図である。
【0048】
なお、本実施の形態における金型の割方向は、車体の向きを基準として各部材がどの方向から鍛造されるかを示したものである。したがって、実際の鍛造時においては、各部材が前後割の金型、上下割の金型、左右割の金型、斜め割の金型によって、それぞれ前後、上下、左右、斜めに鍛造されるわけではなく、これらの金型を用いて例えば上下方向で鍛造される。
【0049】
図6Aに示すように、上側ヘッドパイプ71は、左右割の金型によって鍛造される。この形状の上側ヘッドパイプ71は、前後割の金型では上側パイプ部711と下側フランジ715との間がアンダーカットになり、上下割の金型では上側フランジ714と下側フランジ715との間がアンダーカットになる(
図4参照)。また、上側ヘッドパイプ71は、左右方向における寸法が最小になっている。よって、鍛造方向を左右方向にすることで、駄肉を減らし、さらに鍛造時の加工ストロークを短くすることが可能になっている。
【0050】
図6Bに示すように、下側ヘッドパイプ72は、上下割の金型によって鍛造される。この形状の下側ヘッドパイプ72は、前後割の金型では前側舌片部722の裏面側がアンダーカットになり、左右割の金型では一対の側壁部725間がアンダーカットになる(
図4参照)。また、下側ヘッドパイプ72は、上下方向に対して僅かに傾いた略上下方向における寸法が最小になっている。よって、鍛造方向を略上下方向にすることで、駄肉を減らし、さらに鍛造時の加工ストロークを短くすることが可能になっている。
【0051】
図6Cに示すように、メインフレームガセット73は、前後割の金型によって鍛造される。この形状のメインフレームガセット73は、上下割の金型では後方に湾曲した縦壁部733の上端部735と下端部736との間がアンダーカットになり、左右割の金型では一対の後方延出部731間がアンダーカットになる(
図4参照)。また、縦壁部733の上端部735と下端部736とを結ぶ直線L1は、後方延出部731の後端部と後側舌片部732の下端部とを結ぶ直線L2と略平行に形成されている。このため、メインフレームガセット73は、この直線L1、L2に略垂直な前後方向の寸法が小さく設計される。よって、鍛造方向を前後方向にすることで、駄肉を減らし、さらに鍛造時の加工ストロークを短くすることが可能になっている。
【0052】
図6Dに示すように、ブリッジパイプガセット74は、前後割の金型の鍛造方向を僅かに傾けた斜め割の金型によって鍛造される。この形状のブリッジパイプガセット74は、上下割の金型、左右割の金型では取付部741の内側がアンダーカットになる。また、ブリッジパイプガセット74は、前後方向に対して僅かに傾けた斜め方向における寸法が最小となっている。よって、鍛造方向を斜め方向とすることで、駄肉を減らし、さらに鍛造時の加工ストロークを短くすることが可能になっている。
【0053】
以上のように、本実施の形態に係る車体フレーム2によれば、上側ヘッドパイプ71、下側ヘッドパイプ72、メインフレームガセット73、ブリッジパイプガセット74を別体に成型することで、金型の抜き勾配の制約を受けることがなく設計自由度を確保できる。このため、他部材の形状によって鍛造方向が制約されることがなく、上側ヘッドパイプ71、下側ヘッドパイプ72、メインフレームガセット73、ブリッジパイプガセット74をそれぞれに適した鍛造方向で成型できる。このため、各部材の駄肉を減らして軽量化することができ、さらに鍛造時の加工ストロークを短くできる。また、各部材間の接合長が長くとられているため、ヘッドパイプの接合強度を高めることができる。このように、設計自由度を確保しつつ低コストで車体フレームを成型でき、さらに車体フレームに適切な強度を持たせることができる。
【0054】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0055】
例えば、本実施の形態に係る車体フレームにおいては、ヘッドパイプを上側ヘッドパイプ、下側ヘッドパイプ、メインフレームガセットに分割したが、この構成に限定されるものではない。ヘッドパイプは、鍛造方向の異なる複数のフレーム構造体を接合して形成されていればよい。例えば、ヘッドパイプを2分割した構成でもよいし、ヘッドパイプをさらに細かく分割することでより複雑な形状に形成してもよい。
【0056】
また、本実施の形態に係る車体フレームにおいては、上側ヘッドパイプが左右割の金型、下側ヘッドパイプが上下割の金型、メインフレームガセットが前後割の金型によって成型されたが、この構成に限定されない。各フレーム構造体を成型できれば、金型の割方向は限定されない。
【0057】
また、本実施の形態に係る車体フレームにおいては、メインフレームガセットの一対の後方延出部を側面視略半円状に形成したが、この構成に限定されない。一対の後方延出部は、応力集中を緩和するようにメインフレームと縦壁部とを緩やかに連結すればよく、例えば、側面視略矩形状に形成されてもよい。
【0058】
また、本実施の形態に係る車体フレームにおいては、メインフレームガセットにブリッジパイプガセットを接合する構成としたが、この構成に限定されない。車体フレームがブリッジパイプを有さない場合には、メインフレームガセットにブリッジパイプガセットを接合しなくてもよい。この場合、メインフレームガセットの後側舌片部の延出長を長くとることが好ましい。
【0059】
また、本実施の形態に係る車体フレームにおいては、前側舌片部の幅方向の両側辺部に一対の側壁部が立設する構成としたが、この構成に限定されない。一対の側壁部は、下側ヘッドパイプと上側ヘッドパイプ及びダウンチューブとの接合強度を高めるように設けられていればよい。