(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記鋳造工程では、前記鋳造素線の延在方向に直交する断面内における導電率の最大値と最小値との差を5%IACS以下とすることを特徴とする請求項1に記載のCr含有銅合金線材の製造方法。
前記銅合金溶湯を保持する鋳造炉を有し、前記鋳型は、前記鋳造炉に断熱部材を介して接続されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のCr含有銅合金線材の製造方法。
前記断熱部材を通過する前記銅合金溶湯の温度が1100℃以上とされ、前記鋳型から製出される前記鋳造素線の温度が400℃以下とされていることを特徴とする請求項3に記載のCr含有銅合金線材の製造方法。
前記鋳造素線は、断面円形とされており、その直径が5mm以上50mm以下とされていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のCr含有銅合金線材の製造方法。
前記Cr含有銅合金線材は、Zrを0.01質量%以上0.3質量%以下の範囲で含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のCr含有銅合金線材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、Cr含有銅合金の鋳塊においては、銅の母相中にCrが偏析しており、例えば、1〜10μm程度の粗大なCr粒子が存在することがある。この鋳塊をそのまま加工して時効処理をした場合には、粗大なCr粒子がさらに成長することになり、微細なCr粒子が析出せず、強度を向上させることができない。
そこで、Cr含有銅合金の鋳塊においては、バッチ式の熱処理炉を用いて、例えば、900℃以上で1時間以上の条件で熱処理し、Crを銅の母相中に固溶させる溶体化処理を行う必要がある。
【0007】
特に、特許文献1に記載されているように、棒状の鋳塊を連続的に製出する場合には、溶湯を保持する鋳造炉に鋳型が接続されているため、鋳造炉内の溶湯の温度が鋳型へと伝達されることから、銅の母相中に1〜10μm程度の粗大なCr粒子が存在しやすい。このため、製出された鋳塊に対して上述の溶体化処理を実施する必要があった。
このように、Cr含有銅合金線材を製造する際には、鋳塊に対してバッチ式熱処理炉を用いて溶体化処理を行う必要があるため、Cr含有銅合金線材を効率的に製造することができないといった問題があった。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、Crを含有する銅合金からなるCr含有銅合金線材を、効率良く、かつ、安定して製出することが可能なCr含有銅合金線材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のCr含有銅合金線材の製造方法は、Crを0.2質量%以上1.5質量%以下の範囲で含む銅合金からなるCr含有銅合金線材の製造方法であって、
前記銅合金は、Cu−Cr合金、Cu−Cr−Zr−Si合金、Cu−Cr−Zr合金、または、Cu−Cr−Zr−Mg合金からなり、銅原料を溶解してCrを0.2質量%以上1.5質量%以下の範囲で含む銅合金溶湯を生成する銅合金溶湯生成工程と、この銅合金溶湯を鋳型に導入して鋳造素線を連続的に製出する鋳造工程と、前記鋳造素線に対して伸線加工及び圧延加工のいずれか一方又は両方を実施する加工工程と、を有し、前記鋳造工程では、
30秒以内に1100℃以上から400℃以下にまで冷却してCrを母相中に固溶させることにより、前記鋳造素線の導電率を60%IACS以下とすることを特徴としている。
【0010】
このような構成とされた本発明のCr含有銅合金線材の製造方法においては、鋳造素線の導電率が60%IACS以下とされているので、鋳造素線の段階で十分にCrが銅の母相中に固溶していることになり、十分、急冷できていることとなる。よって、バッチ式熱処理炉を用いた溶体化処理を省略することが可能となり、Cr含有銅合金線材を、効率良く、かつ、安定して製出することができる。
また、前記鋳造素線に対して伸線加工及び圧延加工のいずれか一方又は両方を実施する加工工程を備えているので、Cr含有銅合金線材において、鋳造組織が残存せず、結晶粒の微細化及びCr濃度の均一化を図ることができる。
さらに、前記Cr含有銅合金線材は、Crを0.2質量%以上1.5質量%以下の範囲で含んでいる。Crは、適切な熱処理を行うことによって銅の母相中に析出物粒子を生成させ、強度の向上と電気伝導性の確保を図ることが可能となる。そのため、析出物粒子を均一に分散させることが銅合金線の特性を向上させるうえで重要となる。銅合金線の導電率の観点からCrを0.25質量%以上1.0質量%以下の範囲で含んでいることがより好ましい。
【0011】
ここで、前記鋳造工程では、前記鋳造素線の延在方向に直交する断面内における導電率の最大値と最小値との差を5%IACS以下とすることが好ましい。
この場合、鋳造素線内部でのCrの偏析が抑えられていることになる。よって、バッチ式熱処理炉を用いた溶体化処理を省略することが可能となり、Cr含有銅合金線材を、効率良く、かつ、安定して製出することができる。
【0012】
また、前記銅合金溶湯を保持する鋳造炉を有し、前記鋳型は、前記鋳造炉に断熱部材を介して接続されていることが好ましい。
この場合、鋳型と鋳造炉との間に断熱部材が配設されているので、鋳造炉の熱が鋳型へと伝達することが抑制され、鋳型温度の上昇が抑えられる。よって、鋳型内で銅合金溶湯を急冷することができ、Crの溶体化を促進することが可能となる。また、鋳型の温度を低く抑えても、鋳造炉内の鋳型近傍の銅合金溶湯の温度が高く維持されることになり、鋳造を安定して行うことができる。
【0013】
また、前述のように、鋳型が前記銅合金溶湯を保持する鋳造炉に断熱部材を介して接続されている場合には、前記断熱部材を通過する前記銅合金溶湯の温度が1100℃以上とされ、前記鋳型から製出される前記鋳造素線の温度が400℃以下とされていることが好ましい。
この場合、鋳型の入側温度が1100℃となり、鋳型の出側温度が400℃となる。よって、鋳型内で1100℃から400℃まで急冷されることになり、Crを銅の母相中に固溶させることが可能となる。
【0014】
前記鋳造素線は、断面円形とされており、その直径が5mm以上50mm以下とされていることが好ましい。
この場合、鋳造素線の直径が50mm以下とされているので、鋳造素線の内部まで急冷することができ、Crを銅の母相中に固溶させることが可能となる。また、鋳造素線の直径が5mm以上とされているので、鋳造を安定して実施することができる。
【0015】
前記Cr含有銅合金線材は、Zrを0.01質量%以上0.3質量%以下の範囲で含むことが好ましい。
この場合、Zrを含有することによって、さらなる高強度化を図ることができる。なお、ZrはCrに比べて、銅に固溶した際の導電率への影響が少ないことから、鋳造素線の導電率を60%IACS以下とすることで、鋳造素線の段階で十分にCr及びZrが銅の母相中に固溶していることになる。
【0016】
さらに、前記銅合金溶湯に対して不活性ガスによるバブリングを実施することが好ましい。
この場合、銅合金溶湯内におけるCr等の元素の偏在を抑制することができ、鋳造素線における偏析の発生を抑制することができる。
【0017】
また、前記鋳型は、前記銅合金溶湯を保持する鋳造炉の底部に接続されており、前記鋳造素線は、前記鋳型から鉛直方向下方に向けて引き抜かれる構成としてもよい。
この場合、鋳型が鋳造炉の底部に接続されているので、鋳造炉内の銅合金溶湯の水頭圧が鋳型へと作用することになり、鋳型内に向けて銅合金溶湯を確実に供給することができ、鋳造を安定して行うことができる。また、ミクロ空孔の発生を抑制でき、高品質な鋳造素線を製出することができる。
【0018】
あるいは、前記鋳型は、前記銅合金溶湯を保持する鋳造炉の側壁部に接続されており、前記鋳造素線は前記鋳型から水平方向に向けて引き抜かれる構成としてもよい。
この場合、鋳造設備を簡素化することができ、Cr含有銅合金線材を製造する際の初期コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、Crを含有する銅合金からなるCr含有銅合金線材を、効率良く、かつ、安定して製出することが可能なCr含有銅合金線材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態であるCr含有銅合金線材の製造方法について、添付した図を参照して説明する。
本実施形態であるCr含有銅合金線材は、例えば、トロリー線、溶接用チップ、ロボット用ワイヤ及び航空機用ワイヤ等の素材として用いられるものである。本実施形態に係るCr含有銅合金線材は、例えば断面積が110mm
2とされたトロリー線の素材として使用されるものである。
【0022】
本実施形態に係るCr含有銅合金線材は、Crを0.2質量%以上1.5質量%以下、Zrを0.01質量%以上0.15質量%以下、Siを0.01質量%以上0.05質量%以下、残部がCuと不可避不純物とされたCu−Cr−Zr−Si合金からなるものとされている。
Cr含有銅合金線材の線径(直径)は、5mm以上30mm以下とされており、本実施形態では12mmとされている。
【0023】
次に、本実施形態であるCr含有銅合金線材の製造方法に用いられる連続鋳造装置10について説明する。
図1は、Cr含有銅合金線材の素材となる鋳造素線Wを製出する連続鋳造装置10を示している。
この連続鋳造装置10は、溶解炉11と、保持炉13と、移送樋15と、鋳造炉20と、鋳型30と、鋳型30から製出される鋳造素線Wを引き抜くピンチロール17と、を備えている。
【0024】
溶解炉11は、銅原料を加熱溶解して銅溶湯を生成するものであり、銅原料が投入される原料投入口11Aと、生成した銅溶湯を排出する銅溶湯排出口11Bと、を備えている。
また、この溶解炉11の後段側に保持炉13が配設されており、溶解炉11と保持炉13とは連結樋12によって接続されている。
【0025】
保持炉13は、溶解炉11から供給された銅溶湯を一時的に保持して保温するものである。この保持炉13には、Cr,Zr,Si等の元素を添加する添加手段(図示なし)が設けられている。また、この保持炉13内は、Cr,Zr,Si等の元素の酸化を防止するために、不活性ガス雰囲気とされている。
【0026】
移送樋15は、Cr,Zr,Si等の元素が添加されて成分調整された銅合金溶湯を、後段の鋳造炉20へと移送するものである。本実施形態では、移送樋15の内部が不活性雰囲気とされている。
【0027】
鋳造炉20は、保持炉13から移送された銅合金溶湯を貯留するものである。この鋳造炉20は、
図2に示すように、チャンバ21と、炉本体23と、加熱手段24と、を備えており、チャンバ21の内部は不活性ガス雰囲気とされている。また、加熱手段24は、貯留した銅合金溶湯の温度を調整するために設けられており、本実施形態では輻射ヒータとされている。
【0028】
さらに、
図3に示すように、炉本体23及びチャンバ21の底面部分には、注湯孔26が穿設されている。
この鋳造炉20のうち銅合金溶湯が貯留される炉本体23内部の水平方向に沿った断面の断面積Sfは、20000mm
2≦Sf≦34600mm
2の範囲内に設定されている。さらに、この鋳造炉20には、炉本体23内部に貯留された銅合金溶湯の湯面位置を検知するためのレベルセンサ(図示なし)が配設されている。また、鋳造炉20には、不活性ガスを噴出して鋳造炉20内の銅合金溶湯を撹拌する不活性ガスバブリング装置(図示なし)が設けられている。
【0029】
鋳型30は、
図3に示すように、軸方向に貫通した鋳造孔36を有した筒状をなしており、鋳造孔36の内周面を構成する黒鉛スリーブ31と、この黒鉛スリーブ31の外周側に位置する冷却ジャケット32と、を備えている。冷却ジャケット32の内部には、冷却水を流通させるための水路33が設けられており、黒鉛スリーブ31を冷却する構成とされている。
この鋳型30は、鋳造炉20の鉛直方向下方側に接続されており、
図2及び
図3に示すように、鋳造炉20の注湯孔26と鋳型30の鋳造孔36が連通するように配設されている。また、この鋳型30の鋳造孔36の直径は5mm以上50mm以下に設定されており、本実施形態では30mmとされている。さらに、鋳型30の引抜方向長さは、100mm以上1000mm以下とされており、本実施形態では250mmとされている。
【0030】
そして、鋳型30の水平方向の断面積Scと、鋳造炉20の水平方向の断面積Sfとの断面積比Sf/Scは、Sf/Sc≧5に設定されており、より好ましくは、Sf/Sc≧10に設定されている。
【0031】
そして、鋳型30の黒鉛スリーブ31と、鋳造炉20の炉本体23との間には、断熱部材40が配設されており、本実施形態では、チャンバ21の底面外側と炉本体23の底面外側との間に配置されている。また、この断熱部材40は貫通孔46を有する筒状をなしており、貫通孔46の内周面が、鋳型30の鋳造孔36及び鋳造炉20の注湯孔26の内周面に連なるように配置されている。
断熱部材40は、例えばAl
2O
3、SiO
2等のセラミックスで構成されており、その熱伝導率が、常温で40W/(m・K)以下とされ、厚さが5mm以上60mm以下に設定されている。
【0032】
次に、前述した連続鋳造装置10を用いた本実施形態であるCr含有銅合金線材の製造方法について説明する。
このCr含有銅合金線材の製造方法は、
図4に示すように、銅原料を溶解して得られた銅溶湯にCr,Zr,Si等の元素を添加して、所定の組成の銅合金溶湯を生成する銅溶湯生成工程S01と、保持炉13から鋳造炉20への銅合金溶湯を移送する溶湯移送工程S02と、銅合金溶湯を鋳造炉20内に保持する溶湯保持工程S03と、この鋳造炉20に接続された鋳型30によって鋳造素線Wを連続的に製出する鋳造工程S04と、得られた鋳造素線Wに対して冷間加工を行う冷間加工工程S05と、を有している。
【0033】
(銅合金溶湯生成工程S01)
まず、銅原料として、純度が99.99質量%以上99.999質量%未満の純銅(4NCu)のカソードを準備する。この4NCuカソードを、原料投入口11Aから溶解炉11内に投入し、溶解炉11で加熱溶解して銅溶湯を製出する。そして、得られた銅溶湯は、銅溶湯排出口11Bから連結樋12を介して保持炉13へと供給される。
保持炉13では、供給された銅溶湯を一時保持するとともに、ヒータや誘導加熱コイル等の加熱手段(図示なし)によって、銅溶湯の温度を例えば1100〜1400℃に制御する。そして、保持炉13内の銅溶湯中に、Cr,Zr,Si等の元素を添加し、銅溶湯の成分を調整し、銅合金溶湯を生成する。このとき、保持炉13内は不活性ガス雰囲気とされており、Cr,Zr,Si等の元素の酸化が抑制されている。
【0034】
(溶湯移送工程S02)
保持炉13において生成された銅合金溶湯は、移送樋15を介して鋳造炉20へと供給される。この移送樋15の内部は、前述のように、不活性ガス雰囲気とされており、銅合金溶湯及びCr,Zr,Si等の元素の酸化が防止されている。
【0035】
(溶湯保持工程S03)
鋳造炉20では、銅合金溶湯を保持し、加熱手段24(輻射ヒータ)によって、銅合金溶湯の温度を例えば1100〜1400℃に制御する。なお、この鋳造炉20の炉本体23内に貯留された銅合金溶湯の湯面位置はレベルセンサによって検知されており、湯面位置が一定となるように、保持炉13からの銅合金溶湯の移送量が調整される。
また、本実施形態においては、鋳造炉20に設けられた不活性ガスバブリング装置により、銅合金溶湯が撹拌されている。
【0036】
(鋳造工程S04)
そして、鋳造炉20内に貯留された銅合金溶湯は、注湯孔26を介して鋳型30の鋳造孔36内へと供給される。鋳型30内に供給された銅合金溶湯は、冷却ジャケット32にて冷却された黒鉛スリーブ31部分で凝固し、鋳造孔36の下端側から鋳造素線Wが製出されることになる。なお、鋳造素線Wの引抜速度は、ピンチロール17によって制御されており、本実施形態では、間欠的に鋳造素線Wを引き抜くように構成されている。
【0037】
ここで、鋳造素線Wの導電率が60%IACS以下となるように急冷させる必要がある。好ましくは45%IACS以下となるように急冷する。また、鋳造素線Wの延在方向に直交する断面内における導電率の上限値と下限値との差が5%IACS以下となるように均一に凝固させる。より望ましくは、導電率の上限値と下限値との差が3%IACS以下とされている。
また、本実施形態では、10m毎に鋳造素線Wの外周面の導電率を測定しておき、長さ50mの領域内における導電率の上限値と下限値との差が5%IACS以下とされており、好ましくは3%IACS以下とされている。
本実施形態では、鋳造工程04における鋳造素線Wの引抜速度は、200mm/min以上600mm/min以下とされており、より具体的には、500mm/minとされている。また、鋳造炉20への銅合金溶湯の供給速度は、0.5t/時間以上10t/時間以下とされている。
【0038】
また、この鋳造工程S04においては、鋳造炉20の炉本体23内に貯留されている銅合金溶湯の水頭圧が鋳型30内に作用するように構成されており、本実施形態では、鋳型30の上端からの炉本体23内の銅合金溶湯の水頭が100mm以上となるように、炉本体23内の銅合金溶湯の湯面高さが制御されている。
【0039】
さらに、この鋳造工程S04では、断熱部材40を通過する銅合金溶湯の温度が1100℃以上とされている。また、鋳型30から製出された鋳造素線Wの温度は400℃以下とされている。すなわち、鋳型30の入側部分の温度が1100℃以上とされ、鋳型30の出側温度が400℃以下とされているのである。
また、本実施形態では、鋳造素線Wの引抜速度が500mm/minとされ、鋳型30の引抜方向長さが250mmとされていることから、鋳型30内を30秒以内に通過することになる。
このようにして得られた鋳造素線Wは、冷却手段(図示なし)によって冷却されてコイル状に巻き取られる。
【0040】
ここで、鋳造工程S04において得られる鋳造素線Wは、断面円形とされており、その直径dが5mm以上50mm以下とされ、本実施形態では、鋳造素線Wの直径dが30mmとされている。
【0041】
なお、鋳造素線Wの導電率は、例えば、フェルスター社製のシグマテスタ等の導電率測定装置を用いて測定される。本実施形態では、直径8mmのプローブを用いて、
図5に示すように、鋳造素線Wの断面の5点で導電率を測定している。
【0042】
(冷間加工工程S05)
そして、常温まで冷却された鋳造素線Wは、冷間ロール圧延によって冷間加工が施される。ここで、冷間加工の加工率は70%以上90%以下とされている。本実施形態では、冷間ロール圧延にて10パスで直径30mmから12mmまで加工を行っており、加工率は84%とされている。
このようにして、本実施形態であるCr含有銅合金線材が製出されることになる。
【0043】
このような構成とされた本実施形態であるCr含有銅合金線材の製造方法によれば、鋳造工程S04において製出される鋳造素線Wの導電率が60%IACS以下、具体的には45%IACS以下とされているので、鋳造素線Wの段階で十分にCrが銅の母相中に固溶していることになる。また、鋳造素線Wの延在方向に直交する断面内における導電率の上限値と下限値との差が5%IACS以下、具体的には3%IACS以下とされているので、鋳造素線WにおいてCrの偏析が抑えられていることになる。
よって、バッチ式熱処理炉を用いた溶体化処理を省略することが可能となり、Cr含有銅合金線材を、効率良く、かつ、安定して製出することができる。
【0044】
また、常温まで冷却された鋳造素線Wに対して冷間加工を実施する冷間加工工程S05を備えているので、Cr含有銅合金線材において鋳造組織が残存しなくなり、結晶粒の微細化及びCr濃度の均一化を図ることができる。
特に、冷間加工の加工率は70%以上90%以下とされており、具体的には加工率が84%とされているので、確実に鋳造組織を破壊することができる。
【0045】
また、鋳型30の黒鉛スリーブ31と鋳造炉20の炉本体23との間に断熱部材40が配設されているので、鋳型30が鋳造炉20内部の銅合金溶湯の温度(1100℃以上)にまで加熱されることが防止される。よって、鋳型30内で銅合金溶湯を急冷することができ、Crの溶体化を促進することが可能となる。また、鋳型30の温度を低く抑えても、鋳造炉20内の鋳型30近傍の銅合金溶湯の温度を高く維持することができ、鋳造を安定して行うことができる。
【0046】
さらに、断熱部材40によって、鋳型30の黒鉛スリーブ31が炉本体23内の銅合金溶湯に接触することが防止され、黒鉛スリーブ31とCr,Zr、Si等の元素との反応を抑制することができる。よって、黒鉛スリーブ31と鋳造素線Wとの固着を防止することができ、黒鉛スリーブ31の劣化を防止することができる。また、黒鉛スリーブ31の酸化損耗が抑制され、鋳造を長期間安定して行うことができる。
【0047】
また、断熱部材40を通過する銅合金溶湯の温度が1100℃以上とされ、鋳型30から製出される鋳造素線Wの温度が400℃以下とされているので、鋳型30内で1100℃から400℃まで急冷されることになり、Crを銅の母相中に固溶させることが可能となる。なお、本実施形態では、鋳造素線Wの引抜速度が500mm/minとされ、鋳型30の引抜方向長さが250mmとされているので、30秒間で1100℃から400℃まで冷却されることになる。
【0048】
また、鋳造素線Wが、断面円形とされ、その直径が5mm以上50mm以下とされており、本実施形態では30mmとされているので、鋳型内30で鋳造素線Wの内部まで急冷することができるとともに、鋳造を安定して実施することができる。
【0049】
さらに、本実施形態では、鋳型30が鋳造炉20の鉛直方向下方側に配設されているので、鋳造工程S04では鋳造炉20の炉本体23内に保持された銅合金溶湯の水頭圧を鋳型30内に作用させながら鋳型30において銅合金溶湯を冷却・凝固させることができる。よって、断熱部材40を介在させても銅合金溶湯を鋳型30の鋳造孔36内に確実に供給することが可能となり、安定して鋳造を行うことができる。特に、本実施形態では、鋳造工程S04において、鋳型30の上端からの炉本体23内の銅合金溶湯の水頭が100mm以上とされていることから、鋳型30内に向けて銅合金溶湯を確実に供給することができ、鋳造を安定して行うことができる。また、ミクロ空孔の発生を抑制でき、高品質な鋳造素線Wを製出することができる。
【0050】
また、冷間加工工程S05を経たCr含有銅合金線材に対して、400〜600℃、1時間から5時間の時効熱処理を行うことによって、最終的に析出物が均一分散したCr含有銅合金線材を製出することができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、Cu−Cr−Zr−Si合金からなるCr含有銅合金線材を製造するものとして説明したが、これに限定されることはなく、Crを0.2質量%以上1.5質量%以下の範囲で含む銅合金からなるCr含有銅合金線材であればよい。具体的には、Cu−Cr合金、Cu−Cr−Zr合金、Cu−Cr−Zr−Mg合金等からなるCr含有銅合金線材であってもよい。
【0052】
また、本実施形態では、鋳造素線Wに対して冷間加工を実施するものとして説明したが、これに限定されることはなく、
図6のフロー図に示すように、鋳造素線Wに対して熱間加工を実施するものであってもよい。
図6に示すCr含有銅合金線材の製造方法においては、銅合金溶湯生成工程S11と、溶湯移送工程S12と、溶湯保持工程S13と、鋳造工程S14と、熱間圧延工程S15と、急冷工程S16と、を備えている。熱間加工工程S15においては、加工率が40%以上60%以下とされており、加工温度が600℃以上1050℃以下とされている。また、急冷工程S16では、冷却速度1400℃/minで冷却を行う。この熱間加工工程S15と急冷工程S16によって、Crの溶体化がさらに促進されることになる。また、鋳造組織が破壊され、結晶粒の微細化及びCr濃度の均一化を図ることができる。
【0053】
さらに、本実施形態においては、鋳型が鋳造炉の鉛直方向下方側に配設されており、鋳造素線Wを鉛直方向下方側に向けて引き抜くものとして説明したが、これに限定されることはなく、
図7に示すように、鋳型130が鋳造炉120の炉本体123の側壁部に接続されており、鋳造素線Wを鉛直方向下方側に向けて引き抜く構成としてもよい。
【0054】
また、溶解炉と保持炉と連結樋とを備えた連続鋳造装置を用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、
図8に示すように、バッチ式溶解炉111によって銅合金溶湯を生成し、移送樋15を介して鋳造炉20に銅合金溶湯を供給してもよい。この場合、バッチ式溶解炉において、成分調整を行うことができる。また、複数台のバッチ式溶解炉を鋳造炉に接続しておくことで、バッチ式溶解炉から鋳造炉へと交互に銅合金溶湯を供給することで、長尺の鋳造素線Wを製出することが可能となる。
【0055】
また、鋳型の鋳造孔の直径、すなわち鋳造素線Wの直径が5mm以上50mm以下に設定されたものとして説明したが、これに限定されることはない。
さらに、鋳造工程における鋳造素線Wの引抜速度や鋳造炉への銅合金溶湯の供給速度は、本実施形態に限定されることはない。
また、注湯孔及び鋳造孔がそれぞれ一つだけ形成されたものを図に示して説明したが、これに限定されることはなく、注湯孔及び鋳造孔が複数設けられていて、複数本の鋳塊を同時に製出する構成としてもよい。
さらに、鋳塊を間欠的に引き抜く構成として説明したが、これに限定されることはなく、鋳塊を連続して引き抜くように構成してもよい。
【0056】
また、溶解炉、保持炉、移送樋、鋳造炉内を不活性ガス雰囲気として説明したが、これに限定されることはなく、真空(減圧)状態として、銅溶湯やCr,Zr,Si等の元素の酸化を防止する構成としてもよい。
さらに、鋳型が黒鉛スリーブを備えるものとして説明したが、これに限定されることはなく、窒化硼素(BN)等の固体潤滑性を有する他の材料で構成されていてもよい。
【0057】
さらに、断熱部材の貫通孔の内周面が、鋳型の鋳造孔の内周面に連なるように配置したものとして説明したが、これに限定されることはなく、貫通孔の内周面が鋳造孔の内周面よりも径方向外方に後退していてもよい。
また、鋳型の構成は、本実施形態に限定されることはなく、冷却ジャケットの構造や水冷配管の配置等は適宜設計変更してもよい。
【実施例】
【0058】
本発明の効果を確認すべく実施した比較実験の結果について説明する。
本発明例として、上述した本実施形態である連続鋳造装置10を用いて、Crを0.3質量%、Zrを0.05質量%、Siを0.03質量%含有するCu−Cr―Zr−Si合金からなる直径30mmの鋳造素線Wを製出した。このとき、断熱部材40を通過する銅合金溶湯の温度を1100℃とし、鋳型30から製出される鋳造素線Wの温度を400℃とした。この鋳造素線Wの導電率を測定し、
図5に示すように、断面の5箇所を測定し、その平均値、最大値と最小値との差、を評価した。なお、導電率の測定は、フェルスター社製シグマテスタ(シグマテスト2.069)の直径8mmのプローブを用いて実施した。導電率の算術平均値は、45%IACSとなり、最大値と最小値との差は2%IACSであった。
一方、従来例として、断熱部材を備えていない連続鋳造装置を用いて、Crを0.3質量%、Zrを0.05質量%、Siを0.03質量%含有するCu−Cr―Zr−Si合金からなる直径30mmの鋳造素線Wを製出した。このとき、鋳型から製出される鋳造素線Wの温度を800℃とした。この従来例の鋳造素線Wの導電率を本発明例と同様な条件で測定したところ、導電率の算術平均値は63%IACS、最大値と最小値との差は7%IACSであった。
【0059】
次に、本発明例の鋳造素線及び従来例の鋳造素線を冷間ロール圧延にて10パス通過させて、直径6mmまで加工した。その後、500℃、3時間の時効熱処理を施して、Cr含有銅合金線材を製出した。
【0060】
(組織観察)
本発明例及び従来例の鋳造素線Wから製出したCr含有銅合金線材に対して、それぞれ組織観察を行った。組織観察は、素線断面に湿式研磨を施し、表面エッチング後、光学顕微鏡観察に供した。組織観察の結果を
図9、
図10に示す。
【0061】
時効処理後の組織観察を行った結果、従来例の鋳造素線Wから製出したCr含有銅合金線材においては、粗大なCr粒子が観察される。鋳造素線Wの段階で粗大なCr粒子が析出しており、時効処理でこのCr粒子が成長したものと考えられる。
一方、本発明例の鋳造素線Wから製出したCr含有銅合金線材においては、粗大なCr粒子は観察されておらず、微細なCr粒子が均一に分散していることが確認される。