(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記バックフォイルは、前記軸受ハウジングの周方向に沿って、該軸受ハウジングと接する谷部と、前記トップフォイルに接する山部とを交互に形成した波板状のものであり、
前記バックフォイルの切欠は、前記谷部に形成されており、
前記接続部は、前記トップフォイルと前記バックフォイルとの間に配置されていることを特徴とする請求項1記載のラジアルフォイル軸受。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、軸受ハウジングへのバックフォイル(バンプフォイル)の固定を溶接で行うと、入熱によってバックフォイルや軸受ハウジングが変形し、この影響を受けてトップフォイルに歪みが生じてしまう。また、前記特許文献1〜3のものでも、トップフォイルやバックフォイルを曲げ加工しているため、トップフォイルに歪みが生じてしまう。すなわち、トップフォイル及びバックフォイルの曲げ加工によってそれぞれに歪みが生じるが、バックフォイルはトップフォイルを支持しているため、バックフォイルの歪みがトップフォイルに影響し、トップフォイルの歪みがより大きくなってしまう。
【0006】
ところが、回転軸の回転によって該回転軸とトップフォイルとの間に形成されるフォイル軸受の流体潤滑膜は、10μm前後と非常に薄いため、トップフォイルに少しでも歪みが生じると、軸受の負荷能力や動特性(剛性と減衰)に影響が及び、設計通りの性能が得られなくなる。
【0007】
また、ラジアルフォイル軸受の軸受性能を向上させるためには、バックフォイルをその周方向に複数分割することが有効であると考えられる。しかし、その場合には、軸受ハウジングに対するバックフォイルの固定点が多くなるため、従来の溶接による固定では溶接箇所が増えることで工数が増え、製造コストが増大してしまう。また、溶接箇所が増えると、全箇所が良好に溶接できなければ製品として出荷できないため、品質維持が難しくなり、良品率の低下によるコストアップも懸念される。
【0008】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、トップフォイルに生じる歪みを充分に少なくし、軸受の負荷能力や動特性(剛性と減衰)について設計通りの良好な性能が得られるようにするとともに、コストアップを抑制した、ラジアルフォイル軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のラジアルフォイル軸受は、回転軸に外挿されて該回転軸を支持するラジアルフォイル軸受であって、
前記回転軸に対向して配置される円筒状のトップフォイルと、前記トップフォイルの径方向外側に配置されるバックフォイルと、前記トップフォイル及び前記バックフォイルを内挿した状態に収容する円筒状の軸受ハウジングと、を備え、
前記軸受ハウジングの両側面には、該軸受ハウジングの外周縁から内周縁にまで延びる係合溝が形成され、
前記バックフォイルの両側周縁部には、切欠が形成され、
前記軸受ハウジングの前記係合溝及び前記バックフォイルの前記切欠には、該係合溝及び該切欠に係合する一対の係合脚と、該係合脚の一端側に配置されて該係合脚間を接続する接続部とを有する係止部材が係止していることを特徴としている。
【0010】
このラジアルフォイル軸受にあっては、一対の係合脚と接続部とを有する係止部材を用い、一対の係合脚をそれぞれバックフォイルの切欠と軸受ハウジングの係合溝とに係合させることにより、バックフォイルを軸受ハウジングに固定しているので、バックフォイルに対してスポット溶接や曲げ加工を行うことなく、バックフォイルを軸受ハウジング内に収容・固定することができる。したがって、バックフォイルのスポット溶接や、バックフォイルの歪みの影響によりトップフォイルに歪みが生じるのが防止され、トップフォイルの歪みが充分に少なくなる。また、バックフォイルの溶接を不要にしたため、溶接不良による組立て不良や組立てのバラツキを無くすことができる。
【0011】
また、前記ラジアルフォイル軸受において、前記バックフォイルは、前記軸受ハウジングの周方向に沿って、該軸受ハウジングと接する谷部と、前記トップフォイルに接する山部とを交互に形成した波板状のものであり、前記バックフォイルの切欠は、前記谷部に形成されており、前記接続部は、前記トップフォイルと前記バックフォイルとの間に配置されていることが好ましい。
このようにすれば、バックフォイルはその山部でトップフォイルに接するため、谷部に形成された切欠に係合する係止部材は、その接続部がトップフォイルに干渉することなく配置される。
【0012】
また、前記ラジアルフォイル軸受において、前記バックフォイルの切欠は、該バックフォイルの周方向中央部に形成されていることが好ましい。
バックフォイルは、トップフォイルを弾性的に支持するため、トップフォイルから荷重を受けた際には、その周方向に変形することでトップフォイルの撓みを許容し、これを支持する。しかし、バックフォイルは周方向に変形する際、軸受ハウジングとの間の摩擦の影響を受けるため、自由端側では変形し易いものの、固定端側では変形し難くなっている。そのため、自由端側と固定端側とでは支持剛性に差が生じてしまい、軸受全体として均一な支持剛性が得られにくくなってしまう。
そこで、バックフォイルの切欠をバックフォイルの周方向中央部に形成し、係止部材による固定をバックフォイルの周方向中央部で行っているので、バックフォイルの一端部を係止部材で固定した場合に比べ、固定端(係止部材による固定部)と自由端(バックフォイルの端部)との間の距離がほぼ半分になり、自由端側と固定端側との間の支持剛性の差が充分に小さくなる。
【0013】
また、前記ラジアルフォイル軸受において、前記バックフォイルは、前記トップフォイルの周方向に沿って配置された複数のバックフォイル片を有して構成され、前記バックフォイル片には、それぞれ前記切欠が形成されているとともに、該切欠には前記係止部材の係合脚が係合しているのが好ましい。
このようにすれば、バックフォイル片における固定端と自由端との間の距離が短くなるため、前述したように自由端側と固定端側との間の支持剛性の差が小さくなり、したがってバックフォイル全体での支持剛性のバラツキが少なくなる。
【0014】
また、前記ラジアルフォイル軸受において、前記バックフォイル片の切欠は、該バックフォイル片の周方向中央部に形成されていることが好ましい。
このようにすれば、各バックフォイル片の、自由端側と固定端側との間の支持剛性の差がさらに小さくなり、したがってバックフォイル全体での支持剛性のバラツキがより少なくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のラジアルフォイル軸受によれば、バックフォイルに歪みが生じるのを防止し、トップフォイルの歪みが充分に少なくなるようにしたので、軸受の負荷能力や動特性(剛性と減衰)について、設計通りの良好な性能を得ることができる。
また、溶接を不要にして溶接不良による組立て不良や組立てのバラツキを無くしたので、良品率の向上によるコストダウンを図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明のラジアルフォイル軸受を詳しく説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0018】
図1は、本発明のラジアルフォイル軸受が適用されるターボ機械の一例を示す側面図であり、
図1中符号1は回転軸、2は回転軸の先端部に設けられたインペラ、3は本発明に係るラジアルフォイル軸受である。なお、
図1では省略してラジアルフォイル軸受を一つしか記載していないが、通常は回転軸1の軸方向にラジアルフォイル軸受が二つ設けられて、回転軸1の支持構造が構成される。したがって、本実施形態においてもラジアルフォイル軸受3が二つ設けられているものとする。
【0019】
回転軸1には、インペラ2が形成された側にスラストカラー4が固定されており、このスラストカラー4の両側には、このスラストカラー4に対向してそれぞれの側にスラスト軸受5が配置されている。
また、インペラ2は静止側となるハウジング6内に配置されており、ハウジング6との間にチップクリアランス7を有している。
また、回転軸1には、スラストカラー4より中央側に、ラジアルフォイル軸受3が外挿されている。
【0020】
図2(a)〜(e)は、このような構成のターボ機械に適用されたラジアルフォイル軸受の一実施形態を示す図である。本実施形態のラジアルフォイル軸受3は、
図2(a)に示すように回転軸1に外挿されて該回転軸1を支持する円筒状のもので、回転軸1に対向して配置される円筒状のトップフォイル10と、該トップフォイル10の径方向外側に配置されるバックフォイル11と、該バックフォイル11の径方向外側に配置される軸受ハウジング12とを備えて構成されている。
【0021】
軸受ハウジング12は、ラジアルフォイル軸受3の最外部を構成する金属製で円筒状のもので、内部にバックフォイル11およびトップフォイル10を収容したものである。この軸受ハウジング12には、その内周面に、該軸受ハウジング12の軸方向に沿って溝13が形成されている。
すなわち、軸受ハウジング12の内周面には、該軸受ハウジング12の軸方向の全長に渡って溝13が形成されている。この溝13は、その深さ方向が、後述するトップフォイル10の一方の側10aが延び出る方向に一致して形成されている。また、その深さは、2mm〜5m程度とされる。
【0022】
また、軸受ハウジング12の外周面側には、前記溝13に連通する孔14が一対形成されている。これら孔14は、後述するように溝13内に差し入れられたトップフォイル10の一方の側10aを、溝13内に固定するのに用いられる雄ネジの挿入用の孔であり、内周面に雌ネジ部が形成されている。
【0023】
また、軸受ハウジング12の両側面には、
図2(a)、(b)に示すようにそれぞれ、該軸受ハウジング12の外周縁から内周縁にまで延びる係合溝15が形成されている。係合溝15は、本実施形態では
図2(a)に示すように軸受ハウジング12の側面を、その周方向にほぼ3分割する位置に、それぞれ形成されている。そして、これら係合溝15には、後述する係止部材30が係止している。なお、本実施形態では、前記3つの係合溝15のうちの2つの係合溝15の間に、前記溝13が配置されている。
【0024】
バックフォイル11は、フォイル(薄板)で形成されてトップフォイル10を弾性的に支持するものである。このようなバックフォイル11としては、例えばバンプフォイルや、特開2006−57652号公報や特開2004−270904号公報などに記載されているスプリングフォイル、特開2009−299748号公報などに記載されているバックフォイルなどが用いられる。本実施形態では、バックフォイル11としてバンプフォイルを用いている。ただし、前記のスプリングフォイルやバックフォイルを、本発明のバックフォイルとして用いてもよいのはもちろんである。
【0025】
バックフォイル(バンプフォイル)11は、
図2(a)に示すように本実施形態では、トップフォイル10の周方向に沿って配置された3つ(複数)のバックフォイル片11aによって構成されている。これらバックフォイル片11aは、フォイル(薄板)が波板状に成形され、かつ、側面が全体として略円弧状になるよう成形されたもので、3つが全て同じ形状・寸法に形成されている。したがって、これらバックフォイル片11aは、軸受ハウジング12の内周面をほぼ3分割して配置されている。
【0026】
また、これらバックフォイル片11aは、前記溝13を挟む位置ではある程度の隙間をあけて配置されているものの、それ以外の位置では、互いの端部が近接して配置されている。このような構成によって3つのバックフォイル片11aは、全体として略円筒形状に形成されて、軸受ハウジング12の内周面に沿って配置されている。
【0027】
また、このように波板状に成形されたバックフォイル片11aは、
図2(a)の要部を平坦化して模式的に示す
図2(c)に示すように、軸受ハウジング12の周方向に沿って、該軸受ハウジング12と接する平坦な谷部11bと、トップフォイル10に接する湾曲した山部11cとを交互に形成している。これによってバックフォイル片11aは、特にトップフォイル10に接する山部11cにより、トップフォイル10を弾性的に支持している。また、ラジアルフォイル軸受3の軸方向に、山部11cや谷部11bによる流体の通路を形成している。
【0028】
また、これらバックフォイル片11aには、
図2(c)のA−A線矢視図である
図2(d)に示すように、それぞれの周方向中央部(軸受ハウジング12の周方向に沿う方向の中央部)の両側周縁部に、切欠16が形成されている。該切欠16は、
図2(b)に示すようにバックフォイル片11aの谷部11bに形成されたもので、山部11c、11c間に形成された平坦部からなる谷部11bが、その側周縁から軸受ハウジング12の軸方向中心部に向かって切り欠かれて形成されたものである。該切欠16は、軸受ハウジング12の前記係合溝15に対応する位置、すなわち係合溝15と重なる位置に形成されており、その幅、深さが共に、係合溝15の幅、深さと同じに形成されている。
【0029】
このような構成のもとに、軸受ハウジング12の係合溝15とバックフォイル片11aの切欠16とは、
図2(b)に示すように一つの溝として機能するようになっている。なお、切欠16の形成については、バリが発生せず、ストレスを与えないため歪みも生じないように、フォイルをエッチング加工や放電加工で行うのが好ましい。すなわち、エッチング加工や放電加工でフォイルに切欠16を形成した後、山部11cや谷部11bを形成するためのプレス成型を行い、バックフォイル片11aを形成するのが好ましい。
【0030】
これら係合溝15と切欠16とには、係止部材30が係止している。係止部材30は、
図2(c)のB−B線矢視断面図である
図2(e)、及び前記
図2(b)に示すように、一対の係合脚31、31と、これら係合脚31、31の一端側に配置されて該係合脚31、31間を接続する接続部32と、を有するコ字状のもので、一方の係合脚31がラジアルフォイル軸受3の一方の側面側の前記係合溝15と切欠16とに係合し、他方の係合脚31がラジアルフォイル軸受3の他方の側面側の前記係合溝15と切欠16とに係合している。係合脚31の長さは、
図2(e)に示すように、軸受ハウジング12の厚さとバックフォイル片11aの厚さの和に、ほぼ等しくなっている。また、接続部32は、
図2(c)〜(e)に示すように、バックフォイル片11aの谷部11bとトップフォイル10との間に配置されている。
【0031】
このような構成によって係止部材30は、係合脚31が軸受ハウジング12の係合溝15とバックフォイル片11aの切欠16とに共に係合しているため、バックフォイル片11aを軸受ハウジング12に固定する固定手段として機能している。また、この係止部材30は、その接続部32がトップフォイル10で覆われていることにより、バックフォイル片11aから脱落するのが防止されており、したがってバックフォイル片11aを軸受ハウジング12に確実に固定している。
【0032】
なお、係止部材30の係合脚31や接続部32は、
図2(b)に示したように四角柱状であっても、また、円柱状(丸棒状)であってもよく、その太さは0.2〜0.5mm程度となっている。例えば、ラジアルフォイル軸受3の軸受サイズがφ35mm×(長さ)35mmである場合、バックフォイル片11a、トップフォイル10の厚さは共に100μm程度であり、その際のバックフォイル片11aの山部11cの高さ(谷部11bに対する高さ)は0.5mm程度となる。したがって、係止部材30の太さを0.5mm未満(0.2〜0.5mm程度)とすることにより、
図2(b)に示したように係止部材30の接続部32がトップフォイル10に接触することなくトップフォイル10から離間して配設されるようになり、トップフォイル10に干渉しないようになる。
【0033】
このような係止部材30は、例えば厚さが0.5mm未満のステンレス等からなる金属箔をコ字状にエッチング加工することで、形成することができる。また、太さが0.5mm未満の針金状の金属棒を、折り曲げ加工することでも形成することができる。
【0034】
図2(a)に示すようにトップフォイル10は、3つのバックフォイル片11aからなるバックフォイル11の内面に沿って円筒状に巻かれたもので、一方の側10aの先端部が軸受ハウジング12に形成された前記溝13に係合するように配設されたものである。このトップフォイル10は、軸受周方向を長辺とし、軸受長方向を短辺とする矩形状の金属箔が長辺の長さ方向(軸受周方向)に円筒状に巻かれて、形成されたものである。
【0035】
ただし、このトップフォイル10は、前記金属箔の両端が突き合わされるように巻かれることなく、一方の側10aが他方の側の外側に重なるように巻かれている。また、一方の側10aは、これ以外の部分で形成される円筒部の所定位置での接線方向に、延び出て形成されている。
また、前記の軸受ハウジング12における溝13は、その深さ方向が、トップフォイル10の一方の側10aの延び出る方向に一致するように形成されている。
【0036】
したがって、トップフォイル10は、その一方の側10aの延び出た方向が溝13の深さ方向に一致するように配置されて、その一方の側10aの先端部が該溝13に係合させられている。これにより、トップフォイル10は、その一方の側10aが溝13に係合した状態では変形しないため、歪みが生じないようになっている。
【0037】
また、本実施形態では、溝13に係合しているトップフォイル10の一方の側10aは、雄ネジ17によって溝13内に固定されている。すなわち、雄ネジ15が前記孔14に螺合し挿入されることにより、一方の側10aが溝13の内壁面に密着させられることで固定されている。なお、このように溝13の内壁面に密着させられることによる一方の側10aの変形は僅かであり、したがって、この変形によってトップフォイル10に歪みが生じることはほとんどない。
【0038】
また、トップフォイル10には、一方の側10aと、これと反対の他方の側とに、これらの間の中央部に比べて薄厚な薄肉部18が形成されている。これら薄肉部18は、その外周面(バンプフォイル11側の面)が前記中央部の外周面より凹んだ状態となるよう、薄厚化されて形成されている。
【0039】
薄肉部18を形成するには、例えばエッチング加工によってトップフォイル10の両端部を、十μmオーダーでコントロールして所望の厚さ(薄さ)に形成する。具体的には、軸受径φ35mmとした場合、トップフォイル10の厚さを100μmとすると、薄肉部18の厚さは80μm程度となるようにする。なお、このようなエッチング加工では、曲げ加工などに比べてトップフォイル10に生じる応力が極めて小さく、したがってトップフォイル10に歪みが生じることもほとんどない。
また、薄肉部18の周方向の長さは、例えば、溝13と、該溝13の両側に位置する、バンプフォイル11の端部の山一つ分までに対応する長さとされる。
【0040】
このようにトップフォイル10の両端部に薄肉部18を形成したことにより、これら両端部(薄肉部18)は弾性変形し易くなり、したがってこれら両端部は軸受ハウジング12の内周面を構成する曲面に倣って曲面となる。これにより、トップフォイル10は、その両端部においても回転軸1を締め付ける力(局所的なプリロード)がほとんど発生しないようになる。
【0041】
すなわち、従来のようにトップフォイルの一端部(止端部)をスポット溶接で軸受ハウジングに固定した場合、その両端付近(止端側と自由端側)が軸受ハウジングの内周面を構成する曲面になじみ難く、平面に近い状態になる。すると、平面に近い当該部位では回転軸を締め付ける力(局所的なプリロード)が発生し、その結果、始動トルクが高くなったり、運転中の発熱が設定以上に高くなるなどの不都合が起こる。これに対し、本実施形態のトップフォイル10では、その両端部に薄肉部18を形成したことにより、前記したように回転軸1を締め付ける力(局所的なプリロード)がほとんど発生しないようになる。
【0042】
また、トップフォイル10の両端部の外周面を、前記中央部の外周面より凹んだ状態となるように薄厚化して薄肉部18を形成しているので、その外周面側を支持するバックフォイル11との間において、その端部の山一つ分との間に隙間が形成される。これにより、該薄肉部18においては、回転軸1を締め付ける力(局所的なプリロード)が生じるのが確実に防止される。
【0043】
次に、このような構成からなるラジアルフォイル軸受3の作用について説明する。
回転軸1が停止した状態では、トップフォイル10はバックフォイル11(3つのバックフォイル片11a)によって回転軸1側に付勢されることで回転軸1に密着している。なお、本実施形態では、トップフォイル10の両端部が薄肉部18となっているので、これら薄肉部18では回転軸1を締め付ける力(局所的なプリロード)がほとんど生じないようになっている。
【0044】
そして、回転軸1を
図2(a)中の矢印P方向に始動させると、最初は低速で回転を始め、その後徐々に加速して高速で回転する。すると、
図2(a)中矢印Qで示すように、トップフォイル10の一方の側10aとバックフォイル片11aの一端との間から周囲流体が引き入れられ、トップフォイル10と回転軸1との間に流入する。これにより、トップフォイル10と回転軸1との間に流体潤滑膜が形成される。
【0045】
この流体潤滑膜の膜圧は、トップフォイル10に作用し、トップフォイル10に接するバックフォイル片11aの個々の山部11cを押圧する。すると、バックフォイル片11aはトップフォイル10に押圧されることにより、その山部11cが押し広げられ、これによってバックフォイル片11aは軸受ハウジング12上をその周方向に動こうとする。すなわち、バックフォイル片11a(バックフォイル11)は、トップフォイル10を弾性的に支持するため、トップフォイル10から荷重を受けた際にはその周方向に変形することで、トップフォイル10の撓みを許容し、これを支持する。
【0046】
しかし、
図2(c)に示すようにバックフォイル片11aにはその側周縁部に設けられた切欠16に係止部材30の係止脚31が差し込まれて係合しており、これが軸受ハウジング12との間での回り止めとして機能している。したがって、バックフォイル片11aの個々の山部11cは、係止部材30が係止している切欠16を固定点(固定端)として周方向に変形する(動く)ものの、バックフォイル片11a自体はその中心が定位置からずれることはない。
【0047】
また、バックフォイル片11aは周方向に変形する(動く)際、軸受ハウジング12やトップフォイル10との間の摩擦の影響を受けるため、その両端部、すなわち自由端側では変形し易い(動き易い)ものの、前記固定点(固定端)側では変形し難くなっている。そのため、自由端側と固定端側とでは、バックフォイル片11aによる支持剛性に差が生じる。
しかし、本実施形態では、切欠16をバックフォイル片11aの周方向中央部に形成し、したがって係止部材30による固定点をバックフォイル片11aの周方向中央部としているので、固定端と自由端との間の距離が短くなっていることにより、前記の支持剛性の差が小さくなっている。さらに、本実施形態では、バックフォイル11を3つのバックフォイル片11aに分割しているため、バックフォイル11を単一のフォイルで形成した場合に比べ、固定端と自由端との間の距離が短くなっており、したがって自由端側と固定端側との間の支持剛性の差がより小さくなっている。
【0048】
また、回転軸1が高速で回転している際、係止部材30がバックフォイル片11aの軸方向への動きも拘束しているため、不測に衝撃等が作用した場合でも、バックフォイル片11aが軸受ハウジング12から脱落することはない。さらに、係止部材30は係合溝15、切欠16に差し込むだけの簡易な構造になっているものの、トップフォイル10がこれの接続部32を覆って抜け止めとして機能しているため、やはり衝撃等によって脱落することはない。
【0049】
また、流体潤滑膜が形成されるまでの過渡状態においては、回転軸1とトップフォイル10との間に固体摩擦が生じ、これが始動時の抵抗になる。しかし、前記したようにトップフォイル10の両端部でプリロードが生じなくなっていることや、周囲流体が流入する側のトップフォイル10が薄肉部18となっていて柔らかくなっており、トップフォイル10と回転軸1との間が開口し易くなっていることにより、回転軸1が始動すると早期に流体潤滑膜が形成され、回転軸1はトップフォイル10に対して非接触状態で回転するようになる。
【0050】
このようなラジアルフォイル軸受3にあっては、係止部材30を用い、一対の係合脚31をそれぞれバックフォイル片11aの切欠16と軸受ハウジング12の係合溝15とに係合させることにより、バックフォイル片11a(バックフォイル11)を軸受ハウジング12に固定しているので、バックフォイル片11aに対してスポット溶接や曲げ加工を行うことなく、バックフォイル片11aを軸受ハウジング12内に収容・固定することができる。したがって、バックフォイル11(バックフォイル片11a)のスポット溶接や、バックフォイル11の歪みの影響によってトップフォイル10に歪みが生じるのを防止し、トップフォイル10の歪みを充分に少なくすることができる。よって、軸受の負荷能力や動特性(剛性と減衰)について、設計通りの良好な性能を発揮させることができる。
【0051】
また、バックフォイル11については、従来のスポット溶接や、歪みを発生させる曲げ加工を無くすことができるため、製作の難易度を低下させ、製造コストを低減化することができる。すなわち、溶接不良による組立て不良や組立てのバラツキを無くしたので、良品率の向上によるコストダウンを図ることができる。また、バックフォイル11に特別な曲げ加工が不要となるため、バックフォイル11を高精度にプレス成型することが可能になる。
さらに、バックフォイル11の溶接を不要にしたことで、良品率や性能が溶接の良し悪しに影響されないようになるため、再現性が高くなって量産性に優れたものとなり、バックフォイル11の周方向での複数分割化にも対応し易くなる。
【0052】
また、バックフォイル11を、トップフォイル10の周方向に沿って配置された3つ(複数)のバックフォイル片11aで構成し、これらバックフォイル片11aにそれぞれ切欠16を形成しているので、バックフォイル片11における固定端と自由端との間の距離を短くし、これによって自由端側と固定端側との間の支持剛性の差を小さくし、バックフォイル11全体での支持剛性のバラツキを少なくすることができる。したがって、バックフォイル11全体で均一な支持剛性と滑り特性が得られようになるため、大きな軸受負荷能力と、高い軸受剛性能力及び減衰能力を得ることができる。
【0053】
また、バックフォイル片11aの切欠16を、該バックフォイル片11aの周方向中央部に形成しているので、バックフォイル片11aにおける固定端と自由端との間の距離をより短くし、これによって自由端側と固定端側との間の支持剛性の差をさらに小さくし、バックフォイル11全体での支持剛性のバラツキをより少なくすることができる。
【0054】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、前記実施形態ではバックフォイル11を3つのバックフォイル片11aによって構成したが、バックフォイル11については、1枚の金属箔を略円筒状に成形した単一のもので構成してもよい。また、複数のバックフォイル片11aで構成する場合には、2つ、または4つ以上のバックフォイル片11aでバックフォイル11を構成するようにしてもよい。
【0055】
また、前記実施形態では、バックフォイル片11aの周方向中央部に切欠16を形成し、該切欠16に係止部材30を係止させることで、該切欠16の形成箇所をバックフォイル片11aの固定端(固定点)としたが、切欠16を従来のようにバックフォイル片11aの端部に形成してもよい。同様に、バックフォイル11を単一のもので構成した場合にも、切欠16を該バックフォイル11の端部に形成してもよい。
【0056】
また、係止部材30については、係合脚31の長さを軸受ハウジング12の厚さとバックフォイル片11aの厚さの和よりも充分に長くし、
図3に示すように係合脚31の先端部を軸受ハウジング12の外周面側に折り曲げるようにしてもよい。これにより、バックフォイル片11a(バックフォイル11)を軸受ハウジング12により強固に固定することができる。
【0057】
また、係止部材30については、
図4(a)に示すように係合脚31の長さを軸受ハウジング12の厚さとバックフォイル片11aの厚さの和よりも充分に長くするとともに、軸受ハウジング12の厚さとバックフォイル片11aの厚さの和に相当する位置に、窪み(折り目)33を形成しておいてもよい。このような係止部材30によってバックフォイル片11a(バックフォイル11)を軸受ハウジング12に固定するには、
図2に示した実施形態と同様にして係合脚31を切欠16、係合溝15に係合させ、接続部32をバックフォイル片11aの谷部11b上に当接させる。その後、係合脚31を窪み33の位置で折り曲げて折り、先端側を取り除くことにより、
図4(b)に示すように
図2(e)と同じ状態に係止部材30を係止させ、固定する。
【0058】
ただし、この例では、係合脚31を切欠16、係合溝15に係合させた後、係合脚31の先端側を下方に引っ張り、その状態で所定時間保持する。このようにしてバックフォイル片11a(バックフォイル11)を軸受ハウジング12側に間接的に引っ張ることで、バックフォイル片11aを軸受ハウジング12の内周面になじませることができる。これにより、バックフォイル片11aの形状を軸受ハウジング12の内周面に沿った略円弧状にすることができる。
【0059】
さらに、前記実施形態では、トップフォイル10についてもこれを溶接で固定することなく、その一方の側10aを軸受ハウジング12に形成した溝13に係合させることで、軸受ハウジング12内に収容・固定するようにしたが、トップフォイル10の固定については、溶接を含めて任意に行うことができる。