特許第5765162号(P5765162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5765162非水系二次電池用負極材及びこれを用いた負極並びに非水系二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5765162
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】非水系二次電池用負極材及びこれを用いた負極並びに非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20150730BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20150730BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20150730BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20150730BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/587
   H01M4/36 C
   H01M4/133
【請求項の数】4
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2011-207573(P2011-207573)
(22)【出願日】2011年9月22日
(65)【公開番号】特開2012-94498(P2012-94498A)
(43)【公開日】2012年5月17日
【審査請求日】2014年4月8日
(31)【優先権主張番号】特願2010-215539(P2010-215539)
(32)【優先日】2010年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005968
【氏名又は名称】三菱化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智洋
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−068114(JP,A)
【文献】 特開2006−049288(JP,A)
【文献】 特開2003−151559(JP,A)
【文献】 特開2004−247187(JP,A)
【文献】 特開2012−069488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/587
H01M 4/36
H01M 4/133
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物を少なくとも含む非水系二次電池用負極材であって
前記周期表第13族元素(B)を含有する化合物が、ホウ酸、メタホウ酸、酸化ホウ素、ホウ酸塩、アルミン酸塩から選ばれる化合物であり、
周期表第13族元素(B)の下記式1で表される表面元素量X13/C値が0.05%以上8%以下、且つ周期表第13族元素(B)の下記式2で表される表面存在比が2以上であることを特徴とする非水系二次電池用負極材。
式1
周期表第13族元素の表面元素量X13/C値(%)=X線光電子分光法(XPS)分析における周期表第13族元素の最外殻電子軌道のスペクトルのピーク面積に基づいて求めた周期表第13族元素濃度/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度×100
式2
表面存在比=式1で表される周期表第13族元素の表面元素量X13/C値(%)/誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)分析から求めた周期表第13族元素のバルク含有量(質量%)
【請求項2】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)のBET比表面積が、1m/g以上8m/g以下であり、タップ密度が0.7g/cm以上1.3g/cm以下である
請求項1に記載の非水系二次電池用負極材。
【請求項3】
集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備えると共に、該活物質層が、請求項1又は2に記載の非水系二次電池用負極材を含有することを特徴とする、非水系二次電池用負極。
【請求項4】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに、電解質を備えると共に、該負極が、請求項に記載の非水系二次電池用負極であることを特徴とする、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池に用いる負極材と、その材料を用いて形成された負極と、その負極を有する非水系二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴い、高容量の二次電池に対する需要が高まってきている。特に、ニッケル・カドミウム電池や、ニッケル・水素電池に比べ、よりエネルギー密度の高く、大電流充放電特性に優れたリチウムイオン二次電池が注目されてきている
リチウムイオン二次電池の炭素材として黒鉛を使用することが知られている。特に、黒鉛化度の大きい黒鉛をリチウムイオン二次電池用の負極活物質として用いると、黒鉛のリチウム吸蔵の理論容量である372mAh/gに近い容量が得られ、さらに、コスト・耐久性にも優れることから、活物質として好ましいことが知られている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の負極板は、前述の負極活物質として用いられる炭素材、結着剤を適当な溶剤に分散または溶解させて、スラリー状の塗工組成物とし、金属箔集電体の表面に塗布され、溶剤を乾燥、成形させて負極活物質層を形成することにより作製される。
前記炭素材負極表面には通常、結着剤などに用いられる高分子化合物や非水系電解液との反応により形成されるSEI(Solid Electrolyte Interphace)と呼ばれる保護皮膜が存在することによって電解液との接触を防ぎ、負極の化学的安定性が保たれている。しかしながら、上記SEI被膜生成や副反応生成物としてガスが発生することにより、初期サイクル時の充放電不可逆容量が増え、結果として、高容量化に至らないといった問題点があった。また、結着剤などに用いられる高分子化合物や安定なSEI保護皮膜形成のために抵抗が上昇し、電池の入出力特性が低下するという問題点がある。
【0004】
こうした中で、上記副反応に由来する不可逆容量の低減や電池入出力特性低下の抑制を目的として、負極材に関する検討が多くなされている。例えば、結着材としてスチレンブタジエンラテックス(SBR)などのオレフィン性不飽和結合を有する化合物とともに、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、及びその塩を用い、これらカルボキシルメチルセルロース、及びその塩のエーテル化度や平均分子量や塩の対イオンの調整をする技術が知られている。
【0005】
特許文献1〜3では、CMCのナトリウム、及びリチウム塩を用いた例が開示されている。その中で、代表的な物性値であるエーテル化度や平均分子量や好ましい対イオンについて開示されている。
また、特許文献4では、負極電極塗膜の塗工性改善や、高容量化やサイクル特性の向上を目的として、結着材としてポリビニルアルコールを用い、負極活物質として、黒鉛化触媒としてホウ素を含有した石油ピッチコークスを2500℃にて焼成した高度黒鉛化炭素材を用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−154513号公報
【特許文献2】特開平11−67213号公報
【特許文献3】特開2002−237305号公報
【特許文献4】特開平11−67215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら本発明者らの検討によると、特許文献1から3に記載の技術では、炭素負極活物質材料にSBRなどのオレフィン性不飽和結合を有する化合物と、CMC、及びその塩を含む化合物を結着剤として加えた場合、負極活物質同士、及び負極活物質と集電体との結着性が良好であるが、不可逆容量の低減と抵抗抑制による電池の入出力特性の両立が不十分という問題が見られており、この抵抗上昇の傾向は特に低温領域において顕著に見られた。また、特許文献4に記載の技術では、黒鉛化触媒としてホウ素を添加した石油ピッチコークスを焼成することにより、黒鉛結晶性が向上して負極電極圧延性の向上や容量の増加といった効果が確認されるものの、焼成後の残存ホウ素含有量が焼成前添加量より低減し、且つ残存ホウ素の多くは固溶体として炭素と置換された状態で黒鉛中に存在するため、黒鉛表面における反応抵抗低減には効果が見られず、昨今高い水準で要求されるようになってきた電池の入出力特性を十分に満たすことができなかった。また、この方法にて黒鉛表面にホウ素を大量に存在させるためには、ホウ素添加量自体を顕著に増やす必要があり、相対的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質量が減少することによる容量の低下が大きく見られた。
【0008】
そこで、本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は炭素材負極表面と非水系電解液との反応を抑制することにより、初期サイクル時にみられる充放電不可逆容量が十分に小さく、低温でも抵抗の上昇を抑制して入出力特性に優れたリチウムイオン二次電池を作製するための負極材を提供し、その結果として、高容量、且つ低温でも高入出力特性を有するリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)に特定量の周期表第13族元素(B)を含有させることにより、初期サイクル時にみられる充放電不可逆容量が十分に小さく、低温でも抵抗の上昇を抑制して入出力特性に優れたリチウムイオン二次電池を作製するための負極材を提供することが可能となるため、高容量のリチウムイオン二次電池を得られることを見出し、本発明に至った。
【0010】
即ち本発明の要旨は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物を少なくとも含む非水系二次電池用負極材であって、前記周期表第13族元素(B)を含有する化合物が、ホウ酸、メタホウ酸、酸化ホウ素、ホウ酸塩、アルミン酸塩から選ばれる化合物であり、周期表第13族元素(B)の下記式1で表される表面元素量X13/C値が0.05%以上8%以下、且つ周期表第13族元素(B)の下記式2で表される表面存在比が2以上であることを特徴とする非水系二次電池用負極材に存する。
【0011】
式1
周期表第13族元素の表面元素量X13/C値(%)=X線光電子分光法(XPS)分析における周期表第13族元素の最外殻電子軌道のスペクトルのピーク面積に基づいて求めた周期表第13族元素濃度/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度×100
式2
表面存在比=式1で表される周期表第13族元素の表面元素量X13/C値(%)/誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)分析から求めた周期表第13族元素のバルク
含有量(質量%
【発明の効果】
【0012】
本発明の負極材は、それを非水系二次電池用負極材として用いることにより、高容量、且つガス発生量が少なく、低温でも入出力特性の良好な非水系二次電池を提供することができる。
本発明におけるその原理の詳細はいまだ明らかではないが、例えば、負極材料表面に従来よりも多くの周期表第13族元素(B)を含有させることにより、電池の充電時に負極活物質の表面で電解液が必要以上に分解されたり、溶媒和したリチウムイオンが活物質の表面から取りこまれて活物質自体が破壊されたりすることを防ぐのに有効で、且つ安定で低抵抗な被膜を作るため、充放電に伴うリチウムイオンの出し入れの際に、余分な電解液の分解や抵抗上昇が起こらず、初期サイクル時にみられる充放電不可逆容量の低減や、低温における入出力特性の向上につながっていると考えられる。
【0013】
さらに、水溶性高分子(C)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物を混合させ非水系二次電池電極用バインダー組成物とし、それを炭素材(A)と混合させ電極に塗布することにより、水溶性高分子膜中において水溶性高分子の極性官能基に周期表第13族元素が配位して水溶性高分子(C)の強い分子間力を適度に弱め、その結果、水溶性高分子(C)膜のリチウムイオン伝導性を向上することで、リチウムイオンの出し入れの際の抵抗が低減し、入出力特性の向上につながっているものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の内容を詳細に述べる。なお、以下に記載する発明構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨をこえない限り、これらの形態に特定されるものではない。
本発明の非水系二次電池用負極材は、少なくともリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物を含み、周期表第13族元素(B)は、下記式1で表される表面元素量X13/C値が0.05%以上8%以下、且つ周期表第13族元素(B)の下記式2で表される表面存在比が2以上であることが特徴の一つである。
【0015】
式1
周期表第13族元素の表面元素量X13/C値(%)=X線光電子分光法(XPS)分析における周期表第13族元素の最外殻電子軌道のスペクトルのピーク面積に基づいて求めた周期表第13族元素濃度/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度×100
式2
表面存在比=式1で表される周期表第13族元素の表面元素量X13/C値(%)/誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)分析から求めた周期表第13族元素のバルク含有量(質量%)
<リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)>
・リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)の種類
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)(本明細書では、炭素材(A)ともいう)としては、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質被覆黒鉛、非晶質炭素の中から選ばれる材料を用いることができる。これらの炭素材(A)は二種以上を任意の組成及び組み合わせで併用して、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)として好適に使用することができ、一種又は二種以上を、他の一種又は二種以上の炭素材と混合し、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)として用いても良い。
【0016】
例えば、炭素材(X)に炭素材(Y)を混合し炭素材(A)とする場合、炭素材(X)
と炭素材(Y)の総量に対する炭素材(Y)の混合割合は、通常10質量%以上、好ましくは20質量%以上、また、通常90質量%以下、好ましくは80質量%以下の範囲である。混合割合が、前記範囲を外れると、添加量が少ない方の炭素材(A)の添加効果が現れ難い傾向がある。上記混合割合について、三種以上混合する場合は、炭素材(A)中の混合割合が大きい2つの炭素材を選択するものとする。
【0017】
炭素材(X)と炭素材(Y)との混合に用いる装置としては、特に制限はないが、例えば、回転型混合機の場合:円筒型混合機、双子円筒型混合機、二重円錐型混合機、正立方型混合機、鍬形混合機、固定型混合機の場合:螺旋型混合機、リボン型混合機、Muller型混合機、Helical Flight型混合機、Pugmill型混合機、流動
化型混合機等を用いることができる。
【0018】
非晶質炭素としては、例えば、バルクメソフェーズを焼成した粒子や、炭素前駆体を不融化処理し、焼成した粒子を用いることができる。
また、黒鉛が商業的にも容易に入手可能であり、理論上372mAh/gの高い充放電容量を有することができるため、さらに他の負極活物質を用いた場合よりも、高電流密度での充放電特性の改善効果が著しく大きいので好ましい。
【0019】
黒鉛は、天然黒鉛、人造黒鉛の何れを用いてもよい。黒鉛としては、不純物の少ないものが好ましく、必要に応じて種々の精製処理を施して用いる。また、黒鉛化度の大きいものが好ましく、具体的には、X線広角回折法による(002)面の面間隔(d002)は、通常0.335nm以上、0.340nm未満の炭素のことである。ここで、d002値は好ましくは0.339nm以下、更に好ましくは0.337nm以下である。d002値が大きすぎると結晶性が低下し、初期不可逆容量が増加する場合がある。一方0.335nmは黒鉛の理論値である。
【0020】
天然黒鉛としては、例えば、高純度化した鱗片状黒鉛や球形化した黒鉛を用いることができる。中でも、粒子の充填性や充放電負荷特性の観点から、球形化処理を施した球状黒鉛が特に好ましい。
球形化処理に用いる装置としては、例えば、衝撃力を主体に粒子の相互作用も含めた圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を繰り返し粒子に与える装置を用いることができる。具体的には、ケーシング内部に多数のブレードを設置したローターを有し、そのローターが高速回転することによって、内部に導入された炭素材に対して衝撃圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を与え、表面処理を行なう装置が好ましい。また、炭素材を循環させることによって機械的作用を繰り返して与える機構を有するものであるのが好ましい。好ましい装置として、例えば、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所社製)、クリプトロン(アーステクニカ社製)、CFミル(宇部興産社製)、メカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン社製)、シータコンポーザ(徳寿工作所社製)等が挙げられる。これらの中で、奈良機械製作所社製のハイブリダイゼーションシステムが好ましい。
【0021】
例えば前述の装置を用いて処理する場合は、回転するローターの周速度を通常、特に制限はないが、30〜100m/秒にするのが好ましく、40〜100m/秒にするのがより好ましく、50〜100m/秒にするのが更に好ましい。また、処理は、単に炭素質物を通過させるだけでも可能であるが、30秒以上装置内を循環又は滞留させて処理するのが好ましく、1分以上装置内を循環又は滞留させて処理するのがより好ましい。
【0022】
人造黒鉛の具体例としては、コールタールピッチ、石炭系重質油、常圧残油、石油系重質油、芳香族炭化水素、窒素含有環状化合物、硫黄含有環状化合物、ポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、天然高分子、ポリフェニレンサイルファイド、ポリフェニレンオキシド、フルフリルアル
コール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂などの有機物を、通常2500℃以上、通常3200℃以下の範囲の温度で焼成し、黒鉛化したものが挙げられる。この際、珪素含有化合物やホウ素含有化合物などを黒鉛化触媒として用いることもできる。
【0023】
また、黒鉛化度の小さい炭素材としては、有機物を通常2500℃以下の温度で焼成したものが用いられる。有機物の具体例としては、コールタールピッチ、乾留液化油などの石炭系重質油;常圧残油、減圧残油などの直留系重質油;原油、ナフサなどの熱分解時に副生するエチレンタール等の分解系重質油などの石油系重質油;アセナフチレン、デカシクレン、アントラセンなどの芳香族炭化水素;フェナジンやアクリジンなどの窒素含有環状化合物;チオフェンなどの硫黄含有環状化合物;アダマンタンなどの脂肪族環状化合物;ビフェニル、テルフェニルなどのポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラールなどのポリビニルエステル類、ポリビニルアルコールなどの熱可塑性高分子などが挙げられる。
【0024】
更に黒鉛化度の小さい炭素材(A)を得る場合、有機物の焼成温度は通常600℃以上、好ましくは900℃以上、より好ましくは950℃以上である。その上限は、炭素材に付与する所望の黒鉛化度等により異なるが、通常2500℃以下、好ましくは2000℃以下、より好ましくは1400℃以下の範囲である。焼成する際には、有機物に燐酸、ホウ酸、塩酸などの酸類、水酸化ナトリウム等のアルカリ類を混合してもよい。
【0025】
炭素材(A)は、炭素材に金属粒子、及び金属酸化物粒子等の粒子を任意の組み合わせで適宜混合して用いても良い。また、個々の粒子中に複数の材料が混在するものであってもよい。例えば、黒鉛の表面を黒鉛化度の小さい炭素材で被覆した構造の炭素質粒子や、黒鉛粒子を適当な有機物で集合させ再黒鉛化した粒子でも良い。非晶質被覆黒鉛としては、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛に非晶質前駆体を被覆、焼成した粒子や、天然黒鉛や人造黒鉛に非晶質をCVDにより被覆した粒子を用いることができる。
【0026】
更に、前記複合粒子中にSn、Si、Al、BiなどLiと合金化可能な金属を含んでいても良い。
・炭素材(A)の物性
本発明における炭素材(A)は以下の物性を示すものが好ましい。なお、本発明における測定方法は特に制限はないが、特段の事情がない限り実施例に記載の測定方法に準じる。
【0027】
(1)炭素材(A)の粒径
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)の粒径(d50)については特に制限が無いが、使用される範囲として、d50が通常50μm以下、好ましくは30μm以下、更に好ましくは25μm以下である。また1μm以上、好ましくは4μm以上、更に好ましくは10μm以上、特に好ましくは15μm以上である。この粒径が大きすぎると極板化した際に、筋引きなどの工程上の不都合が出る傾向があり、また、粒径が小さすぎると、表面積が大きくなりすぎ電解液との活性を抑制しにくくなる傾向がある。
【0028】
なお粒径の測定方法は、界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートの0.2質量%水溶液10mLに、炭素材0.01gを懸濁させ、市販のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置に導入し、28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、測定装置における体積基準のメジアン径として測定したものを、本発明におけるd50と定義する。
【0029】
(2)炭素材(A)のBET比表面積(SA)
本発明の炭素材(A)のBET法で測定した比表面積(SA)は、通常1m/g以上、好ましくは1.5m/g以上、より好ましくは5m/g以上である。また、通常11m/g以下、好ましくは9m/g以下、より好ましくは8m/g以下である。比表面積が小さすぎると、Liが出入りする部位が少なく、高速充放電特性出力特性に劣る傾向があり、一方、比表面積が大きすぎると、活物質の電解液に対する活性が過剰になり、初期不可逆容量が大きくなるため、高容量電池を製造できない可能性がある。
【0030】
なおBET比表面積の測定方法は、比表面積測定装置を用いて、窒素ガス吸着流通法によりBET1点法にて測定する。
(3)炭素材(A)のX線構造解析(XRD)
炭素材(A)のX線構造解析(XRD)から得られる、Rhombohedral(菱
面体晶) に対するHexagonal(六方体晶)の結晶の存在比(3R/2H)は通常0.01以上0.50以下である。3R/2H値がこの範囲を下回ると、高速充放電特性の低下を招く虞があり、この範囲を上回ると3R/2H値の調整が困難となり、製造処理を強く長時間行う必要が生じたり、工程数を増加させる必要が生じたりする傾向があり、生産性の低下、コストの上昇を招く虞がある。
【0031】
なお、X線構造解析(XRD)の測定方法は、0.2mmの試料板に炭素材を配向しないように充填し、X線回折装置で、CuKα線にて出力30kV、200mAで測定する。得られた43.4°付近の3R(101)、及び44.5°付近の2H(101)の両ピークからバックグラウンドを差し引いた後、強度比3R(101)/2H(101)を算出できる。
【0032】
(4)炭素材(A)のタップ密度
本発明の炭素材(A)のタップ密度は、通常0.7g/cm以上、1g/cm以上が好ましい。また、通常1.3g/cm以下、1.2g/cm以下が好ましく、1.1g/cm以下がより好ましい。タップ密度が低すぎると、高速充放電特性に劣り、タップ密度が高すぎると、粒子内炭素密度が上昇し、圧延性に欠け、高密度の負極シートを形成することが難しくなる傾向がある。
【0033】
本発明において、タップ密度は、粉体密度測定器を用い、直径1.6cm、体積容量20cmの円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して、炭素材を落下させて、セルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを1000回行なって、その時の体積と試料の重量から求めた密度をタップ密度として定義する。
(5)炭素材(A)のラマンスペクト
本発明の炭素材(A)のラマンR値は、1580cm−1付近のピークPの強度Iと、1360cm−1付近のピークPの強度Iとを測定し、その強度比R(R=I/I)を算出して定義する。その値は通常0.01以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.15以上である。また、通常1以下、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.2以下である。ラマンR値が小さすぎると、粒子表面の結晶性が高くなり過ぎて、高密度化した場合に電極板と平行方向に結晶が配向し易くなり、負荷特性の低下を招く傾向がある。一方、ラマンR値が大きすぎると、粒子表面の結晶が乱れ、電解液との反応性が増し、効率の低下やガス発生の増加を招く傾向がある。
【0034】
ラマンスペクトルはラマン分光器で測定できる。具体的には、測定対象粒子を測定セル内へ自然落下させることで試料充填し、測定セル内にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、測定セルをこのレーザー光と垂直な面内で回転させながら測定を行なう。
アルゴンイオンレーザー光の波長 :514.5nm
試料上のレーザーパワー :25mW
分解能 :4cm−1
測定範囲 :1100cm−1〜1730cm−1
ピーク強度測定、ピーク半値幅測定:バックグラウンド処理、スムージング処理(単純平均によるコンボリューション5ポイント)
(6)炭素材(A)の表面官能基量O/C(%)
本発明の炭素材(A)の表面官能基量O/C(%)は、下記式3で表される、表面官能基量O/C値が通常0.01%以上、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、更に好ましくは2%以上、特に好ましくは2.5%以上である。また、通常10%以下、好ましくは7%以下、より好ましくは5%以下、更に好ましくは3%以下である。この表面官能基量が少なすぎると、電解液との反応性に乏しく、安定なSEI形成ができなくなる傾向がある。一方、表面官能基量が多すぎると、粒子表面の結晶が乱れ、電解液との反応性が増し、効率の低下やガス発生の増加を招く傾向がある。また、O/C値の調整が困難となり、製造処理を強く長時間行う必要が生じたり、工程数を増加させる必要が生じたりする傾向があり、生産性の低下、コストの上昇を招く傾向がある。
式3
O/C値(%)=X線光電子分光法(XPS)分析におけるO1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたO原子濃度/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度 × 100
本発明における表面官能基量はX線光電子分光法(XPS)を用いて測定することができる。
【0035】
表面官能基量O/C値は、X線光電子分光法測定としてX線光電子分光器を用い、測定対象を表面が平坦になるように試料台に載せ、アルミニウムのKα線をX線源とし、マルチプレックス測定により、C1s(280〜300eV)とO1s(525〜545eV)のスペクトルを測定する。得られたC1sのピークトップを284.3eVとして帯電補正し、C1sとO1sのスペクトルのピーク面積を求め、更に装置感度係数を掛けて、CとOの表面原子濃度をそれぞれ算出する。得られたそのOとCの原子濃度比O/C(O原子濃度/C原子濃度)を炭素材(A)の表面官能基量O/C値と定義する。
【0036】
<周期表第13族元素(B)を含有する化合物>
周期表第13族元素(B)(本明細書では、第13族元素(B)ともいう)を含有する化合物とは、通常、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウムの元素を一種以上含む化合物である。この中でも、ホウ素及び/又はアルミニウムの元素を含む化合物が入手の簡便さから好ましく、ホウ素元素を含む化合物が、負極抵抗低減効果や入出力特性向上効果が大きく、より好ましく用いることができる。
【0037】
上述した元素を含む化合物としては、酸化物、硫化物、無機酸、及び無機酸塩などが挙げられる。これらの中でも、ホウ酸、メタホウ酸、酸化ホウ素、ホウ酸塩、アルミン酸塩が入手の簡便さから好ましくより好ましく、酸化ホウ素、ホウ酸リチウムが負極抵抗低減効果や入出力特性向上効果が大きい点から特に好ましい。
上述したようなホウ素を含む化合物は、上記利点の他、非水系二次電池電極用バインダー組成物を製造する際には水溶性高分子(C)との相溶性が良く、水溶液中での水溶性高分子(C)の変性やゲル化するといった影響が少なく、均一混合・分散させることが出来るためより好ましい。
【0038】
本発明における第13族元素(B)を含有する化合物と炭素材(A)の混合割合は、炭素材(A)に対して第13族元素(B)を含有する化合物の含有量が、通常0.01質量%以上、好ましくは0.02質量%以上である。また通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。第13族元素(B)を含有する化合物が少なすぎると抵抗低減による入出力特性の向上効果が不十分となり、一方、第13族元素(B)を含有する化合物が多
すぎると負極活物質である炭素材量が減少することにより電池容量が低下する傾向がある。
【0039】
<水溶性高分子(C)>
水溶性高分子(C)は、本発明の非水系二次電池用負極材中に含有させても良い。なお、本発明の水溶性高分子(C)は水に完全に溶解する高分子が好ましいが、非水溶性高分子であっても、浸水性成分を導入して一部を水へ可溶化させることにより、水への分散性を付与した高分子であっても良い。水溶性高分子(C)はイオン結合可能なカチオン、もしくはアニオンを含む官能基、及び/または水素結合ドナー(水素供与原子)、もしくは
アクセプター(水素受容原子)を含む官能基を有することが好ましい。具体的には、カルボキシル基、水酸基、カルボニル基、エーテル基、エステル基などの含酸素官能基、スルホ基、スルホニル基、スルフィニル基などの含硫黄官能基、アミノ基やアミド基、イミド基などの含窒素官能基、燐酸基などの含燐官能基、もしくは電気陰性度の高いハロゲンなどを含む置換基が挙げられる。この中でも、カルボキシル基、水酸基、カルボニル基、アミノ基やアミド基、イミド基を有するものが好ましい。水溶性高分子(C)が持つ上記置換基は、アニオン、及びカチオン交換能を有しているため、充放電の際に、非水系二次電池用炭素材の表面におけるLiイオンと電解液溶媒の脱溶媒和反応を促進し、リチウムの黒鉛層間への挿入・脱離をスムーズに行うことができるようになるため、電解液溶媒の還元分解を抑制し、高い入出力特性を有することが出来るため好ましい。
【0040】
これらの中でも、水溶性増粘多糖類、アクリル樹脂、ビニルアルコール樹脂、ポリエーテルが好ましく、より好ましくは水溶性増粘多糖類や水溶性アクリル樹脂である。これらは、水溶性と増粘性を適度に有しており、安定した電極塗工性を有するスラリーを作製することができ、表面が平滑、且つ高強度な電極を安定的に得られ、さらに電池の高容量化とサイクル特性の向上とを両立させることができるため好ましい。
【0041】
多糖類とは、ポリヒドロキシアルデヒドまたはポリヒドロキシケトンとして表される一種、または二種以上の単糖がグリコシド結合により複数重合してなる化合物と定義される。水溶性増粘多糖類の具体的な化合物としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、澱粉、カラギナン、プルラン、グアーガム、ザンサンガム(キサンタンガム)、及びそれらアルキル金属塩、アルキル土類金属塩、アンモニウム塩、等が挙げられる。この中でもカルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースといったセルロースエーテル系化合物、及びそれらアルキル金属塩、アルキル土類金属塩、アンモニウム塩、が好ましく、カルボキシメチルセルロースのアルキル金属塩、アルキル土類金属塩、アンモニウム塩がより好ましい。その平均重合度は100以上2500未満であることが、水への溶解性が確保でき、レート特性とサイクル特性の両立が出来る点から好ましい。平均重合度が小さすぎるとレート特性は良くなる一方で、サイクル特性が悪化し、逆に、重合度が大きすぎるとレート特性が悪化し、高電流密度で充放電した際に電池容量の低減する虞がある。また、エーテル化度については特に限定はないが通常0.4〜1.5のものが好ましく用いられる。
【0042】
アクリル樹脂とはアクリル酸誘導体をモノマーとして含む重合体と定義される。水溶性アクリル樹脂の具体的な化合物としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、及びそのアルキル金属塩、アルキル土類金属塩、アンモニウム塩、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、及びそれらの共重合体等が挙げられる。
水溶性高分子(C)の25℃、せん断速度40s−1における1質量%水溶液の粘度は、通常100cP以上、好ましくは200cP以上であり、より好ましくは300cP以上であり、通常10000cp以下、好ましくは3000cP以下、より好ましくは100cp以下である。上記粘度がこの範囲外であると、塗布スラリー液中に負極活物質を十分に安定分散させることが困難となり、安定的に均一かつ表面が平滑な電極を集電体膜に
塗布することが出来なくなる。また、水溶性高分子(C)重量平均分子量が通常2000以上、好ましくは5000以上、より好ましくは1万以上であり、また通常8000万以下、好ましくは5000万以下、より好ましくは2000万以下、更に好ましくは1700万以下である。大きすぎると、炭素材(A)に対する均一添着性の低下を招く傾向や均一負極抵抗増大や入出力特性低下を招く傾向があり、小さすぎると、炭素材(A)に対する添着力が下がることによる水溶性高分子(C)の剥離など、材料の耐久性が低下する傾向がある。
【0043】
本発明における水溶性高分子(C)とリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)の混合割合は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)に対して水溶性高分子(C)の含有量が通常0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上である、また通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。水溶性高分子(C)の量が多すぎると、負極活物質である炭素材量が減少することにより電池容量が低下する傾向があり、水溶性高分子(C)が少なすぎると極板強度が低下する傾向がある。
【0044】
<非水系二次電池電極用バインダー組成物>
本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物とは、炭素材(A)に混合する前の組成物であり、少なくとも前述の水溶性高分子(C)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物を含むものである。水溶性高分子(C)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物の組み合わせとしては特に制限はないが、水溶性高分子(C)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物を水に溶解させたときに、ゲル化などせず、相溶性が高い組み合わせが好ましい。
【0045】
バインダー組成物中の、水溶性高分子(C)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物との混合割合は、水溶性高分子(C)に対して周期表第13族元素(B)を含有する化合物の含有量が通常1質量%以上、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。また、通常1000質量%以下、好ましくは500質量%以下、より好ましくは100質量%以下である。周期表第13族元素(B)を含有する化合物の含有量が少なすぎると不可逆容量の低減や抵抗低減による入出力特性の向上効果が不十分となり、多すぎると極板強度の低下を引き起こす傾向がある。
【0046】
また、バインダー組成物中には、分子内にオレフィン性不飽和結合を有する化合物等が含有されていても良い。その種類は特に制限されないが、具体例としては、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン・イソプレン・スチレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体などが挙げられる。これらの中でも入手の容易性から、スチレン−ブタジエンゴムが好ましい。
【0047】
このようなオレフィン性不飽和結合を有する化合物と、前述の水溶性高分子(C)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物とを組み合わせて用いることにより、負極板の強度を高くすることができる。負極の強度が高いと、充放電による負極の劣化が抑制され、サイクル寿命を長くすることができる。また、活物質層と集電体との接着強度が高くなることにより、活物質層中のバインダーの含有量を低減させても、負極を捲回して電池を製造する際に、集電体から活物質層が剥離するという課題も起こらないと推察される。
【0048】
分子内にオレフィン性不飽和結合を有するバインダーとしては、その分子量が大きいものか、或いは、不飽和結合の割合が大きいものが望ましい。具体的に、分子量が大きいバインダーの場合には、その重量平均分子量が通常1万以上、好ましくは5万以上、また、通常100万以下、好ましくは30万以下の範囲にあるものが望ましい。また、不飽和結合の割合が大きいバインダーの場合には、全バインダーの1g当たりのオレフィン性不飽和結合のモル数が、通常2.5×10−7以上、好ましくは8×10−7以上、また、通
常1×10−6以下、好ましくは5×10−6以下の範囲にあるものが望ましい。バインダーとしては、これらの分子量に関する規定と不飽和結合の割合に関する規定のうち、少なくとも何れか一方を満たしていればよいが、両方の規定を同時に満たすものがより好ましい。オレフィン性不飽和結合を有するバインダーの分子量が小さ過ぎると機械的強度に劣り、大き過ぎると可撓性に劣る。また、バインダー中のオレフィン性不飽和結合の割合が小さ過ぎると強度向上効果が薄れ、大き過ぎると可撓性に劣る。
【0049】
また、オレフィン性不飽和結合を有するバインダーは、その不飽和度が、通常15%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上、また、通常90%以下、好ましくは80%以下の範囲にあるものが望ましい。なお、不飽和度とは、ポリマーの繰り返し単位に対する二重結合の割合(%)を表す。
本発明において、水溶性高分子(C)及び周期表第13族元素(B)を含有する化合物を含む本発明の非水系二次電池用バインダー組成物と、上述のオレフィン性不飽和結合を有するバインダーとを組み合わせて用いた場合、活物質層に用いるバインダーの比率を従来に比べて低減することができる。具体的に、本発明の負極材と、バインダー(これは場合によっては、上述のように水溶性高分子(C)と、不飽和結合を有するバインダーとの混合物であってもよい。)との重量比率は、それぞれの乾燥重量比で、通常90/10以上、好ましくは95/5以上であり、通常99.9/0.1以下、好ましくは99.5/0.5以下の範囲である。バインダーの割合が高過ぎると容量の減少や、抵抗増大を招きやすく、バインダーの割合が少な過ぎると極板強度が劣る。
【0050】
本発明の水溶性高分子(C)及び周期表第13族元素(B)を含有する化合物を含むバインダー組成物は、炭素材と混合し、分散媒等で分散させてスラリーとすることができる。分散媒としては、アルコールなどの有機溶媒や、水を用いることができる。このスラリーには更に、所望により導電剤を加えてもよい。導電剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック、平均粒径1μm以下のCu、Ni又はこれらの合金からなる微粉末などが挙げられる。導電剤の添加量は、本発明の負極材に対して通常10質量%以下程度である。
【0051】
<非水系二次電池用負極材の製造方法>
非水系二次電池用負極材の製造方法は、特に制限されない。代表的な方法を以下に挙げるが、本発明の負極材はこの製造方法に限定されるものではない。
下記手法の中でも、水溶性高分子(C)中に周期表第13族元素を均一分散させることができるため、より
少ない周期表第13族元素添加量で負極抵抗の低減、入出力特性の向上効果を得ることができるとの点で、手法(1)が好ましい。
【0052】
・手法(1)
非水系二次電池用負極材の製造手法(1)は、例えば、水溶性高分子(C)及び周期表第13族元素(B)を含有する化合物を溶解させたバインダー組成物水溶液に、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)を加えて混練や攪拌をする工程が挙げられる。
手法(1)における水溶性高分子(C)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物との混合割合は、水溶性高分子(C)に対して周期表第13族元素(B)を含有する化合物の混合割合が通常1質量%以上、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。また通常1000質量%以下、好ましくは500質量%以下、より好ましくは100質量%以下である。この化合物(B)が少なすぎると不可逆容量の低減や抵抗低減による入出力特性の向上効果が不十分となり、多すぎると極板強度の低下を引き起こす傾向がある。
【0053】
その後、このスラリー液を集電体に塗布・乾燥・プレス成型することにより負極を作製
することができる。上記バインダー組成物水溶液には、必要に応じて、分子内にオレフィン性不飽和結合を有する化合物を分散させておいても良い。もしくは、上記バインダー組成物水溶液にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材を加えて混練・攪拌した後に、さらに分子内にオレフィン性不飽和結合を有する化合物を添加して追攪拌しても良い。
【0054】
この製造方法を用いると、水溶性高分子(C)中に周期表第13族元素を均一分散させることができるため、より少ない周期表第13族元素添加量で負極抵抗の低減、入出力特性の向上効果を得ることができるといった利点が得られる。
・手法(2)
非水系二次電池用負極材の製造手法(2)は、例えば、水溶性高分子(C)及び周期表第13族元素(B)を含有する化合物の粉末とリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)とを混合する手法が挙げられる。
【0055】
手法(2)における水溶性高分子(C)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物との混合割合は、水溶性高分子(C)に対して周期表第13族元素(B)を含有する化合物の混合割合は、通常1質量%以上、好ましくは2質量%以上、1000質量%以下、より好ましくは5質量%以上である。また通常500質量%以下、好ましくは100質量%以下である。この化合物(B)が少なすぎると不可逆容量の低減や抵抗低減による入出力特性の向上効果が不十分となり、多すぎると極板強度の低下を引き起こす傾向がある。
【0056】
また炭素材(A)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物との混合割合は、炭素材(A)に対して周期表第13族元素(B)を含有する化合物の混合割合が通常0.01質量%以上、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。また通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。この化合物(B)が少なすぎると不可逆容量の低減や抵抗低減による入出力特性の向上効果が不十分となり、一方、化合物(B)が多すぎると極板強度の低下を引き起こす傾向がある。
【0057】
その後、この混合粉末負極材に水と必要に応じて分子内にオレフィン性不飽和結合を有する化合物を添加し、混練や攪拌を行ってスラリー液を作製し、このスラリー液を集電体に塗布・乾燥・プレス成型することにより負極を作製することができる。
この製造方法を用いると、水への相溶性が低く水溶液として保管しておくとゲル化してしまうような水溶性高分子(C)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物との組み合わせものもでも利用でき、且つ水溶液調整工程が不要になるといった利点が得られる。
【0058】
・手法(3)
非水系二次電池用負極材の製造手法(3)は、例えば、周期表第13族元素(B)を含有する化合物水溶液とリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)の粉末を混合・乾燥することにより、周期表第13族元素を含む化合物が添着した炭素材を作製し(ステップ1)、更にこの周期表第13族元素(B)を含有する化合物が添着した炭素材と水溶性高分子(C)組成物粉末と水(もしくは水溶性高分子(C)組成物水溶液)を混練・攪拌する(ステップ2)手法が挙げられる。上記水溶性高分子(C)水溶液には、必要に応じて、分子内にオレフィン性不飽和結合を有する化合物を分散させておいても良い。
【0059】
ステップ1における炭素材(A)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物との混合割合は、炭素材(A)に対して周期表第13族元素(B)を含有する化合物の混合割合が通常0.01質量%以上、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上である。また通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。この化合物(B)が少なすぎると不可逆容量の低減や抵抗低減による入出力特性の向上効果が不十分となり、多すぎると極板強度の低下を引き起こす傾向があ
る。
【0060】
また、必要に応じて上記周期表第13族元素(B)を含有する化合物水溶液に水溶性高分子(C)を共存させ、炭素材(A)に周期表第13族元素(B)と水溶性高分子(C)からなる組成物を添着しておくことができる。
この場合、炭素材(A)表面での周期表第13族元素(B)粒子の析出や凝集が抑制できるため、より好ましい場合がある。
【0061】
更にステップ1にて製造された周期表第13族元素(B)を含有する化合物が添着した炭素材、ステップ2において水溶性高分子(C)組成物水溶液を混合してもよく、水溶性高分子(C)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物の混合割合は、通常、水溶性高分子(C)に対して周期表第13族元素(B)を含有する化合物の混合割合が通常1質量%以上、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。また通常1000質量%以下、好ましくは500質量%以下、より好ましくは100質量%以下である。この化合物(B)が少なすぎると不可逆容量の低減や抵抗低減による入出力特性の向上効果が不十分となり、多すぎると極板強度の低下を引き起こす傾向がある。
【0062】
その後、このスラリー液を集電体に塗布・乾燥・プレス成型することにより負極を作製することができる。
この製造方法を用いると、周期表第13族元素を炭素材(A)表面に均一分散させることができるため、より少ない周期表第13族元素添加量で負極抵抗の低減、入出力特性の向上効果を得ることができ、且つ水への相溶性が低く水溶液として保管しておくとゲル化してしまうような水溶性高分子(C)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物との組み合わせものもでも利用できるといった利点が得られる。
【0063】
・手法(4)
非水系二次電池用負極材の製造手法(4)は 、例えば、周期表第13族元素(B)を
含有する化合物粉末とリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)粉末とをメカノケミカル処理により、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)表面に周期表第13族元素(B)を含有する化合物が分散添着した炭素材を作製(ステップ1)し、さらにこの周期表第13族元素(B)を含有する化合物が添着した炭素材と水溶性高分子(C)水溶液を混練・攪拌する(ステップ2)手法が挙げられる。メカノケミカル処理に用いる装置としては、転動型や回転揺動型や遊星型等のボールミルやビーズミル、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所社製)、CFミル(宇部興産社製)、メカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン社製)、等が挙げられる。上記水溶性高分子(C)水溶液には、必要に応じて、分子内にオレフィン性不飽和結合を有する化合物を分散させておいても良い。
【0064】
その後、このスラリー液を集電体に塗布・乾燥・プレス成型することにより負極を作製することができる。
ステップ1における炭素材(A)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物との混合割合は、炭素材(A)に対して周期表第13族元素(B)を含有する化合物の混合割合が通常0.01質量%以上、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは、0.05質量%以上である。また通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。この化合物(B)が少なすぎると不可逆容量の低減や抵抗低減による入出力特性の向上効果が不十分となり、多すぎると極板強度の低下を引き起こす傾向がある。
【0065】
更にステップ1にて製造された炭素材を、ステップ2において水溶性高分子(C)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物との組成物を混合する際の、水溶性高分子(C
)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物の混合割合は、通常、水溶性高分子(C)に対して周期表第13族元素(B)を含有する化合物の混合割合が通常1質量%以上、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。また通常1000質量%以下、好ましくは500質量%以下、より好ましくは100質量%以下である。この化合物(B)が少なすぎると不可逆容量の低減や抵抗低減による入出力特性の向上効果が不十分となり、多すぎると極板強度の低下を引き起こす傾向がある。
【0066】
この製造方法を用いると、メカノケミカル処理によって炭素材表面上に周期表第13族元素含有化合物を物理的、及び化学的に、強固に均一分散付着されることにより、耐久性が向上し、負極抵抗低減・入出力特性向上効果がサイクルを繰り返しても持続するといった利点が得られる。また、水への相溶性が低く水溶液として保管しておくとゲル化してしまうような水溶性高分子(C)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物との組み合わせのものでも利用できるといった利点が得られる。
【0067】
<非水系二次電池用負極>
本発明の非水系二次電池用負極(以下適宜「電極シート」ともいう。)は、集電体と、集電体上に形成された活物質層とを備えると共に、活物質層は少なくとも、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物を含む、本発明の非水系二次電池用負極材を含有することを特徴とする。
【0068】
スラリーを塗布する集電体としては、従来公知のものを用いることができる。具体的には、圧延銅箔、電解銅箔、ステンレス箔等の金属薄膜が挙げられる。集電体の厚さは、通常4μm以上、好ましくは6μm以上であり、通常30μm以下、好ましくは20μm以下である。
スラリーを集電体上に塗布した後、通常60℃以上、好ましくは80℃以上、また、通常200℃以下、好ましくは195℃以下の温度で、乾燥空気又は不活性雰囲気下で乾燥し、活物性層を形成する。
【0069】
スラリーを塗布、乾燥して得られる活物質層の厚さは、通常5μm以上、好ましくは20μm以上、更に好ましくは30μm以上、また、通常200μm以下、好ましくは100μm以下、更に好ましくは75μm以下である。活物質層が薄すぎると、活物質の粒径との兼ね合いから負極としての実用性に欠け、厚すぎると、高密度の電流値に対する十分なLiの吸蔵・放出の機能が得られにくい。
【0070】
活物質層における炭素材の密度は、用途により異なるが、車載用途やパワーツール用途などの入出力特性を重視する用途においては、通常1.10g/cm3以上、好ましくは
1.20g/cm3以上、更に好ましくは1.25g/cm3以上、通常1.55g/cm3以下、好ましくは1.50g/cm3以下、更に好ましくは1.45g/cm3以下であ
る。密度が低すぎると粒子同士の接触抵抗が増大する傾向があり、密度が高すぎるとレート特性が低下する傾向がある。携帯電話やパソコンといった携帯機器用途などの容量を重視する用途では、通常1.45g/cm3以上、好ましくは1.55g/cm3以上、更に好ましくは1.65g/cm3以上、特に好ましくは1.70g/cm3以上であり、1.90g/cm以下が好ましい。密度が低すぎると、単位体積あたりの電池の容量が必ずしも充分ではなく、密度が高すぎるとレート特性が低下する傾向がある。
【0071】
<非水系二次電池用負極材>
本発明の非水系二次電池用負極材は、以下のような特性を持つ。なお、本明細書における非水系二次電池用負極材の特性(測定対象)は、負極に成形する前の負極材でもよいし、負極に成形した後負極から剥離した負極材でもよいし、負極活物質層の表面でもよい。
例えば、本発明にて規定される非水系二次電池用負極材の特性は、例えば、前述の製造
手法例(1)や(2)のように非水系二次電池用負極作製時に周期表第13族元素(B)を含有する化合物を添加するような場合には、非水系二次電池用負極作成後に、負極活物質層の表面を測定した特性であってもよいし、その負極の非水系二次電池用負極活物質層を当業者の技術常識の範囲内で剥離・解砕した負極材であってもよい。また、前述の製造手法例(3)や(4)のようにリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)粉末に予め周期表第13族元素(B)を含有する化合物を添着させた後に非水系二次電池用負極を作成するような場合には、周期表第13族元素(B)を含有する化合物が添着したリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)粉末を負極材としてもよい。
【0072】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)に特定量の周期表第13族元素(B)を含有させた本発明の非水系二次電池用負極材を用いて作製した負極においては、電解液と炭素材表面の接触を防ぐことにより、SEI(Solid Electrolyte Interphace)と呼ばれる保護皮膜の形成や副反応生成物としてのガス発生を抑制することが出来る。そして特定量の周期表第13族元素(B)を含有する化合物が含まれることにより、本負極材を用いた負極では、電池において低抵抗・高入出力特性も有することが可能になる。これは、周期表第13族元素(B)を含有する化合物が含有されることによる負極抵抗低減の機構は明らかになっていないが、非水系二次電池用炭素材表面に周期表第13族元素(B)を含有する化合物が存在することにより安定且つ低抵抗なSEI保護被膜が生成されていると推測される。
【0073】
また、更に好ましい態様として本発明の非水系二次電池用負極材又は負極に上記水溶性高分子(C)を含有することがあげられる。これにより上記の安定且つ低抵抗なSEI保護被膜生成や副反応生成物としてのガス発生の抑制効果、及び負極抵抗低減・入出力特性向上効果が高まるため好ましいのである。この効果の詳細な機構は明らかになっていないが、周期表第13族元素(B)を含有する化合物が水溶性高分子(C)に取り込まれると、水溶性高分子(C)の極性置換基に対し、適度なルイス酸性を有している周期表第13族元素(B)を含有する化合物が配位することにより、水溶性高分子(C)が有する極性置換基とリチウムイオンとの配位力、及び極性置換基同士の水素結合に起因する水溶性高分子(C)の強固な分子間力を適度に弱め、水溶性高分子(C)膜内のリチウムイオン伝導性を向上させていると推測される。この水溶性高分子(C)の中でも、アニオン、及びカチオン交換能持つ置換基が有するものが好ましく、これらを使用することにより、充放電の際に、非水系二次電池用負極材の表面におけるLiイオンと電解液溶媒の脱溶媒和反応が促進されるため、リチウムの黒鉛層間への挿入・脱離がスムーズになり、充放電不可特性が向上すると考えられる。
【0074】
特に本発明のようなリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)に特定量の周期表第13族元素(B)を含有する化合物と水溶性高分子(C)が含有されていない非水系二次電池用負極材を用いて作製した、一般的な前記炭素材料負極は、その表面に通常、非水系電解液との反応によりSEI保護皮膜が形成され、負極の化学的安定性が保たれている。しかしながら、上記SEI被膜生成や副反応生成物としてガスが発生することにより、初期サイクル時の充放電不可逆容量が増え、結果として、高容量化を達成しづらい場合がる。例えばリチウム一次電池で一般的に使用されるプロピレンカーボネート(PC)は高沸点溶媒であり、低温でも高いイオン電導度を発現できるという点で好ましい有機溶媒であるにも関わらず、黒鉛系電極を用いた場合には、Liイオンに溶媒和したPCが黒鉛相間へ共挿入することにより黒鉛系負極活物質の層間剥離劣化がおこり、さらに溶媒と電極の分解反応が激しいため、リチウムの黒鉛層間への挿入・脱離が行えないので、十分な容量が得られにくい傾向がある。そのような場合には、本発明のリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)に特定量の周期表第13族元素(B)を含有する化合物と水溶性高分子(C)が含有された非水系二次電池用負極材を用いて作製した負極を製造することにより、表面に添着された水溶性高分子(C)の持つ置換基が有する、アニオン、及びカチ
オン交換能が効果を発揮し、充放電の際に、Liイオンに溶媒和したPCの脱溶媒和が促進され、Liイオンに溶媒和したPCが黒鉛相間へ共挿入することを防ぐことが可能になるのである。
【0075】
つまり、本発明の少なくともリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物を含む負極材において、負極材の特性として、周期表第13族元素(B)の下記式1で表される表面元素量X13/C値が0.05%以上8%以下、且つ周期表第13族元素(B)の下記式2で表される表面存在比が2以上の条件を満たすことが、本発明の効果を向上させる特徴の一つである。この表面元素量(X13/C値)や表面存在比が上記範囲外の場合には、負極抵抗低減効果や、入出力特性向上効果が低下したり、電池容量の低下や、極板強度の低下を引き起こしたりする虞がある。本発明の非水系二次電池用負極材における周期表第13族元素(B)の表面元素量X13/C値と表面存在比とは、本発明の非水系二次電池用負極材について、上記パラメータを測定・算出した値と定義される。
【0076】
式1
周期表第13族元素の表面元素量X13/C値(%)=X線光電子分光法(XPS)分析における周期表第13族元素の最外殻電子軌道のスペクトルのピーク面積に基づいて求めた周期表第13族元素濃度/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度×100
式2
表面存在比=式1で表される周期表第13族元素の表面元素量X13/C値(%)/誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)分析から求めた周期表第13族元素のバルク含有量(質量%)
(1)非水系二次電池用負極材における周期表第13族元素(B)の表面元素量(X13/C値(%))
本発明の非水系二次電池用負極材における周期表第13族元素(B)の表面元素量(X13/C値)は、下記式1にて算出できる。周期表第13族元素の表面元素量(X13/C値)は、0.05%以上、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.15%以上、更に好ましくは1%以上である。また8%以下、好ましくは6%以下、より好ましくは4%以下、更に好ましくは3%以下、特に好ましくは1.5%以下、最も好ましくは1%以下である。この周期表第13族元素の表面元素量(X13/C値)が小さすぎると、負極抵抗低減効果や、入出力特性向上効果が低下する傾向があり、一方、表面元素量が大きすぎると電池容量の低下や、極板強度の低下を引き起こす傾向がある。
【0077】
式1
周期表第13族元素の表面元素量X13/C値(%)=X線光電子分光法(XPS)分析における周期表第13族元素の最外殻電子軌道のスペクトルのピーク面積に基づいて求めた周期表第13族元素濃度/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度×100
本発明における表面元素量はX線光電子分光法(XPS)を用いて測定することができる。
【0078】
表面元素量(X13/C値)は、X線光電子分光法測定としてX線光電子分光器を用い、測定対象を表面が平坦になるように試料台に載せ、アルミニウムのKα線をX線源とし、マルチプレックス測定により、C1s(280〜300eV)と周期表第13族元素含有化合物(ホウ素(B1s)の場合は180〜210eV、アルミニウム(2p)の場合は、70eV〜80eV)のスペクトルを測定する。得られたC1sのピークトップを284.3eVとして帯電補正し、C1sとX13のスペクトルのピーク面積を求め、更に装置感度係数を掛けて、CとXの表面原子濃度をそれぞれ算出する。得られたそのX13
とCの原子濃度比X13/C(X原子濃度/C原子濃度)を炭素材(A)表面における周期表第13族元素含有化合物の表面元素量X13/C値と定義する。
【0079】
(2)非水系二次電池用負極材のバルク中における周期表第13族元素(B)の存在比
本発明の非水系二次電池用負極材のバルク中における周期表第13族元素(B)の存在比は、下記式2で表される表面存在比にて算出できる。表面存在比は、2以上、好ましくは2.5以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは5以上である。また8以下、好ましくは7.5以下、より好ましくは7以下である。この表面存在比が小さすぎると、負極抵抗低減効果や、入出力特性向上効果が低下する傾向がある。
【0080】
式2
表面存在比=式1で表される周期表第13族元素の表面元素量X13/C値(%)/誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)分析から求めた周期表第13族元素のバルク含有量(質量%)
本発明における周期表第13族元素のバルク含有量は誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)を用いて測定することができる。
【0081】
具体的には、誘導結合プラズマ質量分析法として、誘導結合プラズマ質量分析装置を用い、測定対象試料を分解容器に採取し、分解試薬を加え、マイクロ波加熱密閉分解装置を用いて湿式分解し、イオン交換水で希釈し、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−M
S)で周期表第13族元素重量を定量する。ここで得られた周期表第13族元素重量の仕
込みサンプル重量に対する割合(周期表第13族元素重量/仕込みサンプル重量×100)を周期表第13族元素のバルク含有量(質量%)と定義する。
【0082】
この周期表第13族元素のバルク含有量(質量%)と上述した表面元素量X13/C値から上記式3を用いて算出した値を表面存在比と定義する。
(3)非水系二次電池用負極材の官能基量
本発明の非水系二次電池用負極材の下記式3で表される官能基量(O/C値)は、通常1%以上、好ましくは2%以上、より好ましくは2.6%以上である。また通常30%以下、好ましくは20%以下、より好ましく15%以下である。この表面官能基量O/C値が小さすぎると、負極活物質表面におけるLiイオンと電解液溶媒の脱溶媒和反応性が低下し、充放電不可特性が低下する虞があり、大きすぎると、電解液との反応性が増し、充放電効率の低下やガス発生の増加を招く虞がある。
【0083】
式3
O/C値(%)=X線光電子分光法(XPS)分析におけるO1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたO原子濃度/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度×100
本発明における表面官能基量はX線光電子分光法(XPS)を用いて測定することができる。
【0084】
表面官能基量O/C値は、X線光電子分光法測定としてX線光電子分光器を用い、測定対象を表面が平坦になるように試料台に載せ、アルミニウムのKα線をX線源とし、マルチプレックス測定により、C1s(280〜300eV)とO1s(525〜545eV)のスペクトルを測定する。得られたC1sのピークトップを284.3eVとして帯電補正し、C1sとO1sのスペクトルのピーク面積を求め、更に装置感度係数を掛けて、CとOの表面原子濃度をそれぞれ算出する。得られたそのOとCの原子濃度比O/C(O原子濃度/C原子濃度)を炭素材料の表面官能基量O/C値と定義する。
【0085】
(4)非水系二次電池用負極材のBET比表面積(SA)
本発明の非水系二次電池用負極材のBET法で測定した比表面積は、通常0.5m/g以上、好ましくは1m/g以上である。また、通常8m/g以下、好ましくは7m/g以下、より好ましくは6m/g以下である。
比表面積が小さすぎると、Liが出入りする部位が少なく、高速充放電特性出力特性に劣り、一方、比表面積が大きすぎると、活物質の電解液に対する活性が過剰になり、初期不可逆容量が大きくなるため、高容量電池を製造できない可能性がある。
【0086】
なおBET比表面積の測定方法は、比表面積測定装置を用いて、窒素ガス吸着流通法によりBET1点法にて測定する。
本発明では、非水系二次電池用負極材の表面を周期表第13族元素(B)を含有する化合物と水溶性高分子(C)の混合層でどの程度覆っているかの指標として、該負極活物質層のBET比表面積をSAAN、上記炭素材(A)のBET比表面積をSAとしたとき、BET比表面積の低下率(%):(SA-SAAN)/SA×100を算出することが出来る。この比表面積の低下率は、通常5%以上で、より好ましくは10%以上、更に好ましくは20%以上である。また、通常80%以下、好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下である。この比表面積の低下率が大きすぎると炭素材料表面の反応活性低下し、充放電負荷特性が低下する傾向がある。一方、この比表面積の低下率が小さすぎると、電解液と炭素材料表面の接触を十分に防ぐことができず、不可逆容量が大きくなる傾向がある。
【0087】
(5)非水系二次電池用負極材のX線構造解析(XRD)
炭素材料のX線構造解析(XRD)から得られる、Rhombohedral(菱面体
晶) に対するHexagonal(六方体晶)の結晶の存在比(3R/2H)は通常0.01以上0.50以下である。3R/2Hがこの範囲を下回ると、高速充放電特性の低下を招く虞があり、この範囲を上回ると3R/2H値の調整が困難となり、製造処理を強く長時間行う必要が生じたり、工程数を増加させる必要が生じたりする傾向があり、生産性の低下、コストの上昇を招く虞がある。
【0088】
なお、X線構造解析(XRD)の測定方法は、0.2mmの試料板に炭素材料を配向しないように充填し、X線回折装置で、CuKα線にて出力30kV、200mAで測定する。得られた43.4°付近の3R(101)、及び44.5°付近の2H(101)の両ピークからバックグラウンドを差し引いた後、強度比3R(101)/2H(101)を算出できる。
【0089】
(6)非水系二次電池用負極材のラマンスペクト
スペクトル負極材のラマンR値は、1580cm−1付近のピークPの強度Iと、1360cm−1付近のピークPの強度Iとを測定し、その強度比R(R=I/I)を算出して定義する。その値は特に制限されないが、通常0.01以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.2以上である。また、通常1以下、好ましくは0.5以下である。ラマンR値が小さすぎると、粒子表面の結晶性が高くなり過ぎて、高密度化した場合に電極板と平行方向に結晶が配向し易くなり、負荷特性の低下を招く傾向がある。一方、ラマンR値が大きすぎると、粒子表面の結晶が乱れ、電解液との反応性が増し、充放電効率の低下やガス発生の増加を招く傾向がある。
【0090】
ラマンスペクトルはラマン分光器で測定できる。具体的には、測定対象粒子を測定セル内へ自然落下させることで試料充填し、測定セル内にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、測定セルをこのレーザー光と垂直な面内で回転させながら測定を行なう。
アルゴンイオンレーザー光の波長 :514.5nm
試料上のレーザーパワー :25mW
分解能 :4cm−1
測定範囲 :1100cm−1〜1730cm−1
ピーク強度測定、ピーク半値幅測定:バックグラウンド処理、スムージング処理(単純平均によるコンボリューション5ポイント)
以上説明した本発明の非水系二次電池用負極材を用いて非水系二次電池用負極を作製する場合、その手法や他の材料の選択については、特に制限されない。また、この負極を用いてリチウム二次電池を作製する場合も、リチウム二次電池を構成する正極、電解液等の電池構成上必要な部材の選択については特に制限されない。以下、本発明の負極材を用いたリチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池の詳細を例示するが、使用し得る材料や作製の方法等は以下の具体例に限定されるものではない。
【0091】
以下、本発明の非水系二次電池用負極材を用いた非水系二次電池に関する部材の詳細を例示するが、使用し得る材料や作製の方法等は以下の具体例に限定されるものではない。
<非水系二次電池>
本発明の非水系二次電池、特にリチウムイオン二次電池の基本的構成は、従来公知のリチウムイオン二次電池と同様であり、本発明の負極材を適用した負極以外の部材として、通常、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び電解質等を備える。
【0092】
<正極>
正極は、正極活物質及びバインダを含有する正極活物質層を、集電体上に形成したものである。
・正極活物質
以下に正極に使用される正極活物質(リチウム遷移金属系化合物)について述べる。
【0093】
・リチウム遷移金属系化合物
リチウム遷移金属系化合物とは、Liイオンを脱離、挿入することが可能な構造を有する化合物であり、例えば、硫化物やリン酸塩化合物、リチウム遷移金属複合酸化物などが挙げられる。硫化物としては、TiSやMoSなどの二次元層状構造をもつ化合物や、一般式MeMo(MeはPb,Ag,Cuをはじめとする各種遷移金属)で表される強固な三次元骨格構造を有するシュブレル化合物などが挙げられる。リン酸塩化合物としては、オリビン構造に属するものが挙げられ、一般的にはLiMePO(Meは少なくとも1種以上の遷移金属)で表され、具体的にはLiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPOなどが挙げられる。リチウム遷移金属複合酸化物としては、三次元的拡散が可能なスピネル構造や、リチウムイオンの二次元的拡散を可能にする層状構造に属するものが挙げられる。スピネル構造を有するものは、一般的にLiMe(Meは少なくとも1種以上の遷移金属)と表され、具体的にはLiMn、LiCoMnO、LiNi0.5Mn1.5、LiCoVOなどが挙げられる。層状構造を有するものは、一般的にLiMeO(Meは少なくとも1種以上の遷移金属)と表される。具体的にはLiCoO、LiNiO、LiNi1−xCo、LiNi1−x−yCoMn、LiNi0.5Mn0.5、Li1.2Cr0.4Mn0.4、Li1.2Cr0.4Ti0.4、LiMnOなどが挙げられる。
【0094】
・組成
また、リチウム含有遷移金属化合物は、例えば、下記組成式(A)または(B)で示されるリチウム遷移金属系化合物であることが挙げられる。
1)下記組成式(A)で示されるリチウム遷移金属系化合物である場合
Li1+xMO …(A)
ただし、xは通常0以上、0.5以下である。Mは、Ni及びMn、或いは、Ni、Mn及びCoから構成される元素であり、Mn/Niモル比は通常0.1以上、5以下である。Ni/Mモル比は通常0以上、0.5以下である。Co/Mモル比は通常0以上、0
.5以下である。なお、xで表されるLiのリッチ分は、遷移金属サイトMに置換している場合もある。
【0095】
なお、上記組成式(A)においては、酸素量の原子比は便宜上2と記載しているが、多少の不定比性があってもよい。また、上記組成式中のxは、リチウム遷移金属系化合物の製造段階での仕込み組成である。通常、市場に出回る電池は、電池を組み立てた後に、エージングを行っている。そのため、充放電に伴い、正極のLi量は欠損している場合がある。その場合、組成分析上、3Vまで放電した場合のxが−0.65以上、1以下に測定されることがある。
【0096】
また、リチウム遷移金属系化合物は、正極活物質の結晶性を高めるために酸素含有ガス雰囲気下で高温焼成を行って焼成されたものが電池特性に優れる。
さらに、組成式(A)で示されるリチウム遷移金属系化合物は、以下一般式(A’)のとおり、213層と呼ばれるLiMOとの固溶体であってもよい。
αLiMO・(1−α)LiM’O・・・(A’)
一般式中、αは、0<α<1を満たす数である。
【0097】
Mは、平均酸化数が4である少なくとも一種の金属元素であり、具体的には、Mn、Zr、Ti、Ru、Re及びPtからなる群より選択される少なくとも一種の金属元素である。
M’は、平均酸化数が3である少なくとも一種の金属元素であり、好ましくは、V、Mn、Fe、Co及びNiからなる群より選択される少なくとも一種の金属元素であり、より好ましくは、Mn、Co及びNiからなる群より選択される少なくとも一種の金属元素である。
【0098】
2)下記一般式(B)で表されるリチウム遷移金属系化合物である場合。
Li[LiMn2−b−a]O4+δ・・・(B)
ただし、Mは、Ni、Cr、Fe、Co、Cu、Zr、AlおよびMgから選ばれる遷移金属のうちの少なくとも1種から構成される元素である。
bの値は通常0.4以上、0.6以下である。
【0099】
bの値がこの範囲であれば、リチウム遷移金属系化合物における単位重量当たりのエネルギー密度が高い。
また、aの値は通常0以上、0.3以下である。また、上記組成式中のaは、リチウム遷移金属系化合物の製造段階での仕込み組成である。通常、市場に出回る電池は、電池を組み立てた後に、エージングを行っている。そのため、充放電に伴い、正極のLi量は欠損している場合がある。その場合、組成分析上、3Vまで放電した場合のaが−0.65以上、1以下に測定されることがある。
【0100】
aの値がこの範囲であれば、リチウム遷移金属系化合物における単位重量当たりのエネルギー密度を大きく損なわず、かつ、良好な負荷特性が得られる。
さらに、δの値は通常±0.5の範囲である。
δの値がこの範囲であれば、結晶構造としての安定性が高く、このリチウム遷移金属系化合物を用いて作製した電極を有する電池のサイクル特性や高温保存が良好である。
【0101】
ここでリチウム遷移金属系化合物の組成であるリチウムニッケルマンガン系複合酸化物におけるリチウム組成の化学的な意味について、以下により詳細に説明する。
上記リチウム遷移金属系化合物の組成式のa,bを求めるには、各遷移金属とリチウムを誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)で分析して、Li/Ni/Mnの比を求める事で計算される。
【0102】
構造的視点では、aに係るリチウムは、同じ遷移金属サイトに置換されて入っていると考えられる。ここで、aに係るリチウムによって、電荷中性の原理によりMとマンガンの平均価数が3.5価より大きくなる。
また、上記リチウム遷移金属系化合物は、フッ素置換されていてもよく、LiMn4‐x2xと表記される。
【0103】
・ブレンド
上記の組成のリチウム遷移金属系化合物の具体例としては、例えば、Li1+xNi0.5Mn0.5、Li1+xNi0.85Co0.10Al0.05、Li1+xNi0.33Mn0.33Co0.33、Li1+xNi0.45Mn0.45Co0.1、Li1+xMn1.8Al0.2、Li1+xMn1.5Ni0.5等が挙げられる。これらのリチウム遷移金属系化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上をブレンドして用いても良い。
【0104】
・異元素導入
また、リチウム遷移金属系化合物は、異元素が導入されてもよい。異元素としては、B,Na,Mg,Al,K,Ca,Ti,V,Cr,Fe,Cu,Zn,Sr,Y,Zr,Nb,Ru,Rh,Pd,Ag,In,Sb,Te,Ba,Ta,Mo,W,Re,Os,Ir,Pt,Au,Pb,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Bi,N,F,S,Cl,Br,I,As,Ge,P,Pb,Sb,SiおよびSnの何れか1種以上の中から選択される。これらの異元素は、リチウム遷移金属系化合物の結晶構造内に取り込まれていてもよく、あるいは、リチウム遷移金属系化合物の結晶構造内に取り込まれず、その粒子表面や結晶粒界などに単体もしくは化合物として偏在していてもよい。
【0105】
・非水系二次電池用正極
非水系二次電池用正極は、上述の非水系二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体及び結着剤を含有する正極活物質層を集電体上に形成してなるものである。
正極活物質層は、通常、正極材料と結着剤と更に必要に応じて用いられる導電材及び増粘剤等を、乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、或いはこれらの材料を液体媒体中に溶解又は分散させてスラリー状にして、正極集電体に塗布、乾燥することにより作成される。
【0106】
正極集電体の材質としては、通常、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料や、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が用いられる。また、形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成しても良い。
【0107】
正極集電体として薄膜を使用する場合、その厚さは任意であるが、通常1μm以上、100mm以下の範囲が好適である。上記範囲よりも薄いと、集電体として必要な強度が不足する可能性がある一方で、上記範囲よりも厚いと、取り扱い性が損なわれる可能性がある。
正極活物質層の製造に用いる結着剤としては、特に限定されず、塗布法の場合は、電極製造時に用いる液体媒体に対して安定な材料であれば良いが、具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、イソプレ
ンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、スチレン・イソプレンスチレンブロック共重合体及びその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子、アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。なお、これらの物質は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0108】
正極活物質層中の結着剤の割合は、通常0.1質量%以上、80質量%以下である。結着剤の割合が低すぎると、正極活物質を十分保持できずに正極の機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させてしまう可能性がある一方で、高すぎると、電池容量や導電性の低下につながる可能性がある。
正極活物質層には、通常、導電性を高めるために導電材を含有させる。その種類に特に制限はないが、具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料や、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素材料などを挙げることができる。なお、これらの物質は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。正極活物質層中の導電材の割合は、通常0.01質量%以上、50質量%以下である。導電材の割合が低すぎると導電性が不十分になることがあり、逆に高すぎると電池容量が低下することがある。
【0109】
スラリーを形成するための液体媒体としては、正極材料であるリチウム遷移金属系化合物粉体、結着剤、並びに必要に応じて使用される導電材及び増粘剤を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いても良い。水系溶媒の例としては水、アルコールなどが挙げられ、有機系溶媒の例としてはN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジメチルエーテル、ジメチルアセタミド、ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、キノリン、ピリジン、メチルナフタレン、ヘキサン等を挙げることができる。特に水系溶媒を用いる場合、増粘剤に併せて分散剤を加え、SBR等のラテックスを用いてスラリー化する。なお、これらの溶媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0110】
正極活物質層中の正極材料としてのリチウム遷移金属系化合物粉体の含有割合は、通常10質量%以上、99.9質量%以下である。正極活物質層中のリチウム遷移金属系化合物粉体の割合が多すぎると正極の強度が不足する傾向にあり、少なすぎると容量の面で不十分となることがある。
また、正極活物質層の厚さは、通常10〜200μm程度である。
【0111】
正極のプレス後の電極密度としては、通常、2.2g/cm以上、4.2g/cm以下である。
なお、塗布、乾燥によって得られた正極活物質層は、正極活物質の充填密度を上げるために、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。
かくして、リチウム二次電池用正極が調製できる。
【0112】
<非水電解質>
非水電解質としては、例えば公知の非水系電解液、高分子固体電解質、ゲル状電解質、無機固体電解質等を用いることができるが、中でも非水系電解液が好ましい。非水系電解液は、非水系溶媒に溶質(電解質)を溶解させて構成される。
<電解質>
非水系電解液に用いられる電解質には制限はなく、電解質として用いられる公知のものを任意に採用して含有させることができる。本発明の非水系電解液を非水系電解液二次電池に用いる場合には、電解質はリチウム塩が好ましい。電解質の具体例としては、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)フォスフェート、フルオロスルホン酸リチウム等が挙げられる。これらの電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0113】
リチウム塩の電解液中の濃度は任意であるが、通常0.5mol/L以上、好ましくは0.6mol/L以上、より好ましくは0.8mol/L以上、また、通常3mol/L以下、好ましくは2mol/L以下、より好ましくは1.5mol/L以下の範囲である。リチウムの総モル濃度が上記範囲内にあることにより、電解液の電気伝導率が十分となり、一方、粘度上昇による電気伝導度の低下、電池性能の低下を防ぐことができる。
【0114】
<非水系溶媒>
非水系電解液が含有する非水系溶媒は、電池として使用した際に、電池特性に対して悪影響を及ぼさない溶媒であれば特に制限されないが、通常使用される非水系溶媒の例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の鎖状カルボン酸エステル、γ−ブチロラクトン等の環状カルボン酸エステル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン等の鎖状エーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等の環状エーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル等のニトリル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル、エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、メタンスルホン酸メチル、スルホラン、ジメチルスルホン等の含硫黄化合物等が挙げられ、これら化合物は、水素原子が一部ハロゲン原子で置換されていてもよい。これらは単独で用いても、2種類以上を併用してもよいが、2種以上の化合物を併用することが好ましい。例えば、環状カーボネートや環状カルボン酸エステル等の高誘電率溶媒と、鎖状カーボネートや鎖状カルボン酸エステル等の低粘度溶媒とを併用するのが好ましい。
【0115】
ここで、高誘電率溶媒とは、25℃における比誘電率が20以上の化合物を意味する。高誘電率溶媒の中でも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及び、それらの水素原子をハロゲン等の他の元素又はアルキル基等で置換した化合物が、電解液中に含まれることが好ましい。高誘電率溶媒の電解液に占める割合は、好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、最も好ましくは25質量%以上である。高誘電率溶媒の含有量が上記範囲よりも少ないと、所望の電池特性が得られない場合がある。
【0116】
<助剤>
非水系電解液には、上述の電解質、非水系溶媒以外に、目的に応じて適宜助剤を配合しても良い。負極表面に皮膜を形成するため、電池の寿命を向上させる効果を有する助剤としては、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボ
ネート等の不飽和環状カーボネート、フルオロエチレンカーボネート等のフッ素原子を有する環状カーボネート、4−フルオロビニレンカーボネート等のフッ素化不飽和環状カーボネート等が挙げられる。電池が過充電等の状態になった際に電池の破裂・発火を効果的に抑制する過充電防止剤として、ビフェニル、シクロヘキシルベンゼン、ジフェニルエーテル、t−ブチルベンゼン、t−ペンチルベンゼン、ジフェニルカーボネート、メチルフェニルカーボネート等の芳香族化合物等が挙げられる。サイクル特性や低温放電特性を向上させる助剤として、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム、フルオロスルホン酸リチウム、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)フォスフェート等のリチウム塩等が挙げられる。高温保存後の容量維持特性やサイクル特性を向上させることができる助剤として、エチレンサルファイト、プロパンスルトン、プロペンスルトン等の含硫黄化合物、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸等のカルボン酸無水物、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル等のニトリル化合物が挙げられる。これら助剤の配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。
【0117】
[セパレータ]
正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、本発明の非水系電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
セパレータの材料や形状については特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。中でも、本発明の非水系電解液に対し安定な材料で形成された、樹脂、ガラス繊維、無機物等が用いられ、保液性に優れた多孔性シート又は不織布状の形態の物等を用いるのが好ましい。
【0118】
樹脂、ガラス繊維セパレータの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ガラスフィルター等を用いることができる。中でも好ましくはガラスフィルター、ポリオレフィンであり、さらに好ましくはポリオレフィンである。これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0119】
セパレータの厚さは任意であるが、通常1μm以上であり、5μm以上が好ましく、10μm以上がさらに好ましく、また、通常50μm以下であり、40μm以下が好ましく、30μm以下がさらに好ましい。セパレータが、上記範囲より薄過ぎると、絶縁性や機械的強度が低下する場合がある。また、上記範囲より厚過ぎると、レート特性等の電池性能が低下する場合があるばかりでなく、非水系電解液二次電池全体としてのエネルギー密度が低下する場合がある。
【0120】
さらに、セパレータとして多孔性シートや不織布等の多孔質のものを用いる場合、セパレータの空孔率は任意であるが、通常20%以上であり、35%以上が好ましく、45%以上がさらに好ましく、また、通常90%以下であり、85%以下が好ましく、75%以下がさらに好ましい。空孔率が、上記範囲より小さ過ぎると、膜抵抗が大きくなってレート特性が悪化する傾向がある。また、上記範囲より大き過ぎると、セパレータの機械的強度が低下し、絶縁性が低下する傾向にある。
【0121】
また、セパレータの平均孔径も任意であるが、通常0.5μm以下であり、0.2μm以下が好ましく、また、通常0.05μm以上である。平均孔径が、上記範囲を上回ると、短絡が生じ易くなる。また、上記範囲を下回ると、膜抵抗が大きくなりレート特性が低下する場合がある。
一方、無機物の材料としては、例えば、アルミナや二酸化ケイ素等の酸化物、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物、硫酸バリウムや硫酸カルシウム等の硫酸塩が用いられ、粒子
形状もしくは繊維形状のものが用いられる。
【0122】
形態としては、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状のものが用いられる。薄膜形状では、孔径が0.01〜1μm、厚さが5〜50μmのものが好適に用いられる。上記の独立した薄膜形状以外に、樹脂製の結着材を用いて上記無機物の粒子を含有する複合多孔層を正極及び/又は負極の表層に形成させてなるセパレータを用いることができる。例えば、正極の両面に90%粒径が1μm未満のアルミナ粒子を、フッ素樹脂を結着材として多孔層を形成させることが挙げられる。
【0123】
セパレータの非電解液二次電池における特性を、ガーレ値で把握することができる。ガーレ値とは、フィルム厚さ方向の空気の通り抜け難さを示し、100mlの空気が該フィルムを通過するのに必要な秒数で表されるため、数値が小さい方が通り抜け易く、数値が大きい方が通り抜け難いことを意味する。すなわち、その数値が小さい方がフィルムの厚さ方向の連通性が良いことを意味し、その数値が大きい方がフィルムの厚さ方向の連通性が悪いことを意味する。連通性とは、フィルム厚さ方向の孔のつながり度合いである。本発明のセパレータのガーレ値が低ければ、様々な用途に使用することが出来る。例えば非水系リチウム二次電池のセパレータとして使用した場合、ガーレ値が低いということは、リチウムイオンの移動が容易であることを意味し、電池性能に優れるため好ましい。セパレータのガーレ値は、任意ではあるが、好ましくは10〜1000秒/100mlであり、より好ましくは15〜800秒/100mlであり、更に好ましくは20〜500秒/100mlである。ガーレ値が1000秒/100ml以下であれば、実質的には電気抵抗が低く、セパレータとしては好ましい。
【0124】
<電池設計>
・電極群
電極群は、上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。電極群の体積が電池内容積に占める割合(以下、電極群占有率と称する)は、通常40%以上であり、50%以上が好ましく、また、通常90%以下であり、80%以下が好ましい。
【0125】
電極群占有率が、上記範囲を下回ると、電池容量が小さくなる。また、上記範囲を上回ると空隙スペースが少なく、電池が高温になることによって部材が膨張したり電解質の液成分の蒸気圧が高くなったりして内部圧力が上昇し、電池としての充放電繰り返し性能や高温保存等の諸特性を低下させたり、さらには、内部圧力を外に逃がすガス放出弁が作動する場合がある。
【0126】
<外装ケース>
外装ケースの材質は用いられる非水系電解液に対して安定な物質であれば特に制限されない。具体的には、ニッケルめっき鋼板、ステンレス、アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム合金等の金属類、又は、樹脂とアルミ箔との積層フィルム(ラミネートフィルム)が用いられる。軽量化の観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金の金属、ラミネートフィルムが好適に用いられる。
【0127】
金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、若しくは、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。上記ラミネートフィルムを用いる外装ケースでは、樹脂層同士を熱融着することにより封止密閉構造とするもの等が挙げられる。シール性を上げるために、上記樹脂層の間にラミネートフィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。特に、集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合
には、金属と樹脂との接合になるので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂や極性基を導入した変成樹脂が好適に用いられる。
【0128】
<保護素子>
保護素子として、異常発熱や過大電流が流れた時に抵抗が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を使用することができる。上記保護素子は高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択することが好ましく、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない設計にすることがより好ましい。
【0129】
<外装体>
本発明の非水系二次電池は、通常、上記の非水系電解液、負極、正極、セパレータ等を外装体内に収納して構成される。この外装体は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。具体的に、外装体の材質は任意であるが、通常は、例えばニッケルメッキを施した鉄、ステンレス、アルミウム又はその合金、ニッケル、チタン等が用いられる。
【0130】
また、外装体の形状も任意であり、例えば円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等のいずれであってもよい。
<電池の性能>
上述のように作製した電池は以下の様な性能を示すものである。
不可逆容量は、通常50mAh/g以下、好ましくは40mAh/g以下、より好ましくは35mAh/g以下である。負極密度が高すぎると、負極活物質の割れが生じて反応活性表面が増大し、不可逆容量が増大する傾向がある。
【0131】
負極電荷移動抵抗(Rct)は、通常300Ω以下、好ましくは150Ω以下、より好ましくは120Ω以下、更に好ましくは100Ω以下、反応抵抗時定数(Rct・Cdl)は、通常0.06Ω・F以下、好ましくは0.02Ω・F以下、より好ましくは0.01Ω・F以下、更に好ましくは0.005Ω・F以下である。Rct、及びRct・Cdlが高すぎると、入出力特性が低下する傾向がある。
【実施例】
【0132】
次に実施例により本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
(測定方法)
(1)本発明の負極材に含まれる周期表第13族元素の分析方法
<周期表第13族元素の表面元素量>
周期表第13族元素の表面元素量はX線光電子分光法(XPS)を用いて測定する。周期表第13族元素の表面元素量は、X線光電子分光法測定としてX線光電子分光器(アルバック・ファイ社製ESCA)を用い、測定対象(負極から剥離した負極材、もしくは負極材を用いて作製した負極電極シート)を試料台に載せ、アルミニウムのKα線をX線源とし、マルチプレックス測定により、C1s(280〜300eV)と周期表第13族元素含有化合物(ホウ素(B1s)の場合は180〜210eV、アルミニウム(2p)の場合は、70eV〜80eV)のスペクトルを測定する。得られたC1sのピークトップを284.3eVとして帯電補正し、C1sとX13のスペクトルのピーク面積を求め、更に装置感度係数を掛けて、CとX13の表面原子濃度をそれぞれ算出する。式1に示すように、得られたそのX13とCの原子濃度比X13/C(X原子濃度/C原子濃度)を炭素材(A)表面における周期表第13族元素含有化合物の表面元素量X13/C値と定義する。
式1
周期表第13族元素の表面元素量X13/C値(%)=X線光電子分光法(XPS)分析における周期表第13族元素の最外殻電子軌道のスペクトルのピーク面積に基づいて求めた周期表第13族元素濃度/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度×100
<周期表第13族元素のバルク含有量>
本発明における周期表第13族元素のバルク含有量は誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)を用いて測定することができる。
【0133】
具体的には、誘導結合プラズマ質量分析法として、誘導結合プラズマ質量分析装置を用い、本発明の負極材を用いて作製した負極板から活物質層を剥離して準備した測定対象試料を分解容器に採取し、分解試薬を加え、マイクロ波加熱密閉分解装置を用いて湿式分解し、イオン交換水で希釈し、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)で周期表第13族元素重量を定量する。ここで得られた周期表第13族元素重量の仕込みサンプル重量に対する割合(周期表第13族元素重量/仕込みサンプル重量×100)を周期表第13族元素のバルク含有量(質量%)と定義する。
【0134】
<周期表第13族元素の表面存在比>
周期表第13族元素(B)の表面存在比は、上述の表面元素量X13/C値とバルク含有量から、下記式2を用いて算出した値と定義する。
式2
表面存在比=式1で表される周期表第13族元素の表面元素量X13/C値(%)/誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)分析から求めた周期表第13族元素のバルク含有量(質量%)
(2)表面官能基量
表面官能基量はX線光電子分光法(XPS)を用いて測定する。
【0135】
表面官能基量O/C値は、X線光電子分光法測定としてX線光電子分光器(アルバック・ファイ社製ESCA)を用い、測定対象(負極から剥離した負極材、もしくは負極材を用いて作製した負極電極シート)を表面が平坦になるように試料台に載せ、アルミニウムのKα線をX線源とし、マルチプレックス測定により、C1s(280〜300eV)とO1s(525〜545eV)のスペクトルを測定する。得られたC1sのピークトップを284.3eVとして帯電補正し、C1sとO1sのスペクトルのピーク面積を求め、更に装置感度係数を掛けて、CとOの表面原子濃度をそれぞれ算出する。得られたそのOとCの原子濃度比O/C(O原子濃度/C原子濃度)を炭素材の表面官能基量O/C値と定義する。
【0136】
(3)粒径
径は、界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(例として、ツィーン20(登録商標))の0.2質量%水溶液10mLに、炭素材0.01gを懸濁させ、市販のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「HORIBA製LA−920」に導入し、28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、測定装置における体積基準のメジアン径として測定したものを、本発明におけるd50と定義する。
【0137】
(4)BET比表面積(SA)
BET比表面積は、例えば大倉理研社製比表面積測定装置「AMS8000」を用いて、窒素ガス吸着流通法によりBET1点法にて測定する。具体的には、試料(炭素材)0.4gをセルに充填し、350℃に加熱して前処理を行った後、液体窒素温度まで冷却して、窒素30%、He70%のガスを飽和吸着させ、その後室温まで加熱して脱着したガス量を計測し、得られた結果から、通常のBET法により比表面積を算出する。
【0138】
(5)X線構造解析(XRD)
X線構造解析(XRD)は、0.2mmの試料板に炭素材を配向しないように充填し、X線回折装置(例えば日本電子製、JDX−3500)で、CuKα線にて出力30kV、200mAで測定する。得られた43.4°付近の3R(101)、及び44.5°付近の2H(101)の両ピークからバックグラウンドを差し引いた後、強度比3R(101)/2H(101)を算出する。
【0139】
(6)タップ密度
タップ密度は、粉体密度測定器である(株)セイシン企業社製「タップデンサーKYT−4000」を用い、直径1.6cm、体積容量20cmの円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して、炭素材を落下させて、セルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを1000回行なって、その時の体積と試料の重量から求めた密度をタップ密度として定義する。
【0140】
(7)ラマンスペクト
ラマンスペクトルは、ラマン分光器:「日本分光社製ラマン分光器」で測定できる。具体的には、測定対象粒子を測定セル内へ自然落下させることで試料充填し、測定セル内にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、測定セルをこのレーザー光と垂直な面内で回転させながら測定を行なう。
アルゴンイオンレーザー光の波長 :514.5nm
試料上のレーザーパワー :25mW
分解能 :4cm−1
測定範囲 :1100cm−1〜1730cm−1
ピーク強度測定、ピーク半値幅測定:バックグラウンド処理、スムージング処理(単純平均によるコンボリューション5ポイント)
(8)高分子水溶液の粘度
水溶性高分子水溶液の粘度はブルックフィールド社製「デジタル粘度計HBDV−II+Pro」のスピンドルCPE−41を用いて測定した。付属のコーンにサンプルを2.5g入れ、25℃、せん断速度40s−1において、30秒間スピンドルを回転させたときの粘度を水溶性高分子水溶液の粘度として定義する。
【0141】
(i)負極電極シートの作製
<負極電極シートの作製法1>
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)と水溶性高分子(C)、及び周期表第13族元素(B)を含有する化合物を含む、本発明の非水系二次電池用負極材を用いて、活物質層密度1.70±0.03g/cmの活物質層を有する極板を作製した。具体的には、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)20.00±0.02g、後述実施例記載の水溶性高分子(C)と周期表第13族元素(B)を含有する化合物を一定量混合した水溶液20.00±0.02g(水溶性高分子(C)の固形分換算で0.200g)、及び重量平均分子量27万のスチレン・ブタジエンゴム水性ディスパージョン0.50±0.05g(固形分換算で0.2g)を、キーエンス製ハイブリッドミキサーで5分間撹拌し、30秒脱泡して負極材スラリーを得た。
【0142】
このスラリーを、集電体である厚さ18μmの銅箔上に、負極材が14.5±0.3mg/cm付着するように、ドクターブレードを用いて幅5cmに塗布し、室温で風乾を行った。更に110℃で30分乾燥後、直径20cmのローラを用いてロールプレスして、活物質層の密度が1.70±0.03g/cmになるよう調整し電極シートを得た。
<負極電極シートの作製法2>
負極材が6.0±0.3mg/cm付着するように塗布し、活物質層の密度が1.3
5±0.05g/cmになるよう調整してロールプレスした以外は負極電極シートの作製法1と同様の方法にて、活物質層密度1.35±0.05g/cmの活物質層を有する極板を作製した。
【0143】
(ii)正極電極シートの作製
正極は、正極活物質としてのマンガン酸リチウム(LiMnO)85質量%と、導電材としてのアセチレンブラック10質量%と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)5質量%とを、N−メチルピロリドン溶媒中で混合してスラリーを得た。このスラリーを、集電体である厚さ15μmのアルミニウム箔上に正極材が18.3±0.5mg/cm付着するように、ブレードコーターを用いて塗布し、130℃で乾燥した。更にロールプレスを行い、活物質層の密度が2.40±0.05g/cmになるよう調整してロールプレスし、電極シートを得た。
【0144】
(iii)非水系二次電池の作製
<非水系二次電池の作製法1>
上記方法で作製した負極シートを直径12.5mmの円盤状に打ち抜き、リチウム金属箔を直径14mmの円板状に打ち抜き対極とした。両極の間には、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒(容量比=3:7)に、LiPFを1mol/Lになるように溶解させた電解液を含浸させたセパレータ(多孔性ポリエチレンフィルム製)を置き、上記電解液を使用した2016コイン型電池を作製した。
【0145】
<非水系二次電池の作製法2>
上記方法で作製した正極シート負極シート及びポリエチレン製セパレータを、負極、セパレータ、正極の順に積層した。こうして得られた電池要素を筒状のアルミニウムラミネートフィルムで包み込み、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒(容量比=3:3:4)に、LiPFを1mol/Lになるように溶解させた電解液を注入した後で真空封止し、シート状の非水系二次電池を作製した。更に、電極間の密着性を高めるために、ガラス板でシート状電池を挟んで加圧した。
【0146】
iv)電池の評価
(1)不可逆容量測定方法
<非水系二次電池の作製法1>により作製した非水系二次電池を用いて、下記の測定方法で電池充放電時の不可逆容量を測定した。
0.16mA/cmの電流密度でリチウム対極に対して5mVまで充電し、更に、5mVの一定電圧で充電容量値が350mAh/gになるまで充電し、負極中にリチウムをドープした後、0.33mA/cmの電流密度でリチウム対極に対して1.5Vまで放電を行なった。このときの充電容量(350mAh/g)と放電容量の差を不可逆容量として算出した。
【0147】
(2)負極電荷移動抵抗、及び負極/電解液界面の電気二重層容量測定方法
<非水系二次電池の作製法1>により作製した非水系二次電池を用いて、下記の測定方法で電池充電時の負極電荷移動抵抗(Rct)、及び負極/電解液界面の電気二重層容量(Cdl)を測定した。
0.16mA/cmの電流密度でリチウム対極に対して5mVまで充電し、更に、5mVの一定電圧で充電容量値が350mAh/gになるまで充電し、負極中にリチウムをドープした後、0.33mA/cmの電流密度でリチウム対極に対して1.5Vまで放電を行なった。さらに2サイクル、0.16mA/cmの電流密度でリチウム対極に対して5mVまで充電し、更に、5mVの一定電圧で0.016mA/cmの電流密度に
なるまで充電し、負極中にリチウムをドープした後、0.33mA/cmの電流密度でリチウム対極に対して1.5Vまで放電を行なった。その後、さらに2サイクル、0.16mA/cmの電流密度でリチウム対極に対して5mVまで充電し、更に、5mVの一定電圧で0.016mA/cmの電流密度になるまで充電し、負極中にリチウムをドープし、Ar雰囲気下にて2個の電池を解体して2枚の負極を取り出し、2枚の負極と、両負極の間にエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒(容量比=3:7)に、LiPFを1mol/Lになるように溶解させた電解液30μlを含浸させたセパレータ(多孔性ポリエチレンフィルム製)を置き、負極対向セルを作製した。10-2から10Hzの周波数帯で複素インピーダンス測定を行い、負極
電荷移動抵抗(Rct)と、負極/電解液界面の電気二重層容量(Cdl)を測定した。この際、低周波部分の因子の影響を避ける為に、アーガンドプロットを行った際に現れる、負極抵抗成分の円弧の一部を半円で外挿し、前記二つのパラメーターの数値を求めた。また、該数値はコイン型セル2個の結果の平均値とした。
【0148】
(3)初期低温出力評価
<非水系二次電池の作製法2>により作製した非水系二次電池を用いて、下記の測定方法で初期低温出力を測定した。
−10℃の低温環境下で、1)の状態の電池を、1/8C、1/4C、1/2C、1.5C、2.5C、3.5C、5C(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする、以下同様)の各電流値で10秒間定電流放電させ、各々の条件の放電における2秒後の電池電圧の降下を測定し、それらの測定値から放電下限電圧を3.0Vとした際に、2秒間に流すことのできる電流値Iを算出し、3.0×I(W)という式で計算される値をそれぞれの電池の初期出力とし、後述の比較例2の電池の出力を100%としたときの電池の出力比で示した。
【0149】
実施例1
前記測定法で測定した、粒径d50、タップ密度、比表面積、ラマンR値、O/Cがそれぞれ18.9μm、0.90g/cm、5.4m/g、0.19、2.80%である球状天然黒鉛をリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)として用いた。次に水溶性高分子(C)であるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(第一工業製薬製、平均重合度:約1200、粘度:500cP)を炭素材(A)に対して1質量%、周期表第13族元素(B)を含有する化合物である酸化ホウ素(和光純薬一級)を炭素材(A)に対して0.1質量%、均一に混合しバインダー組成物水溶液を作成した。
【0150】
そして、前記<負極電極シートの作製法1>に記載の方法にて、水溶性高分子(C)及び周期表第13族元素(B)を含有する化合物を溶解させたバインダー組成物水溶液に、炭素材(A)とスチレン・ブタジエンゴム水性ディスパージョンを加えて攪拌し、脱泡して非水系二次電池用負極材スラリーを作成した。
この負極材スラリーを用いて前記<負極電極シートの作製法1>に記載の方法にて、負極電極シートを作成した。この電極シートから剥離した負極材及び電極シートにおいて、前記測定法でホウ素の表面元素量(13/C値)、バルク含有量測定、表面存在比を算出た。それぞれ、結果を表1、表2に示す。また、前記測定法で不可逆容量、負極電荷移動抵抗を測定、初回効率を算出した。結果を表4に示す。
【0151】
実施例2
酸化ホウ素の混合量を0.1質量%から0.5質量%に変えた以外は、実施例1と同様の方法で負極電極シートを得た。この電極シートから剥離した負極材及び電極シートにおいて、前記測定法でホウ素の表面元素量(13/C値)、バルク含有量測定、表面存在比を算出た。それぞれ、結果を表1、表2に示す。また、前記測定法で不可逆容量、負極電荷移動抵抗を測定、初回効率を算出した。さらに前記<負極電極シートの作製法2
>にて負極電極シートを作成し、前記測定法で初期低温出力を測定した。結果を表4に示す。
【0152】
実施例3
0.1質量%酸化ホウ素を0.1質量%ホウ酸リチウム(高純度化学製)に変えた以外は、実施例1と同様に負極電極シートを得た。この電極シートから剥離した負極材及び電極シートにおいて、前記測定法でホウ素の表面元素量(13/C値)、バルク含有量測定、表面存在比を算出た。それぞれ、結果を表1、表2に示す。また、前記測定法で不可逆容量、負極電荷移動抵抗を測定、初回効率を算出した。結果を表4に示す。
【0153】
実施例4
0.1質量%酸化ホウ素を0.5質量%アルミン酸リチウム(Alfa Aesar製)に変えた以外は、実施例1と同様に負極電極シートを得た。この電極シートから剥離した負極材及び電極シートにおいて、前記測定法でアルミニウムの表面元素量(13/C値)、バルク含有量測定、表面存在比を算出た。それぞれ、結果を表1、表2に示す。また、前記測定法で不可逆容量、負極電荷移動抵抗を測定し、初回効率を算出した。結果を表4に示す。
【0154】
比較例1
周期表第13族元素(B)を含有する化合物を加えなかった以外は、実施例1と同様の方法で負極電極シートを得た。この電極シートから剥離した負極材及び電極シートにおいて、前記測定法で周期表第13族元素の表面元素量(X13/C値)、バルク含有量測定、表面存在比を算出た。それぞれ、結果を表1、表2に示す。また、前記測定法で不可逆容量、負極電荷移動抵抗を測定、初回効率を算出した。さらに前記<負極電極シートの作製法2>にて負極電極シートを作成し、前記測定法で初期低温出力を測定した。結果を表4に示す。
【0155】
比較例2
酸化ホウ素(和光純薬一級)の混合量を0.1質量%から6質量%に変えた以外は、実施例1と同様の方法で負極電極シートを得た。この電極シートから剥離した負極材及び電極シートにおいて、前記測定法でホウ素の表面元素量(13/C値)、バルク含有量測定、表面存在比を算出た。それぞれ、結果を表1、表2に示す。また、前記測定法で不可逆容量、負極電荷移動抵抗を測定、初回効率を算出した。結果を表4に示す。
【0156】
実施例5
質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を5質量%ポリアクリルアミド(重量平均分子量:1600万)に変えた以外は、実施例2と同様の方法で負極電極シートを得た。これについて、前記測定法でホウ素の表面元素量(13/C値)、バルク含有量を測定表面存在比を算出した。また、前記測定法で不可逆容量、負極電荷移動抵抗を測定、初回効率を算出した。結果を表1、表2、表4に示す。
【0157】
比較例3
周期表第13族元素(B)を含有する化合物を加えなかった点以外は、実施例5と同様の方法で負極電極シートを得た。この電極シートから剥離した負極材及び電極シートにおいて、前記測定法で周期表第13族元素の表面元素量(X13/C値)、バルク含有量測定、表面存在比を算出た。それぞれ、結果を表1、表2に示す。また、前記測定法で不可逆容量、負極電荷移動抵抗を測定、初回効率を算出した。結果を表4に示す。
【0158】
実施例6
前記測定法で測定した、粒径d50、タップ密度、比表面積、ラマンR値、O/Cがそ
れぞれ19.3μm、1.10g/cm、6.3m/g、0.25、2.62%である球状天然黒鉛100gに、1質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(第一工業製薬製、平均重合度:約1200、粘度:500cP)と1質量%酸化ホウ素(和光純薬製一級試薬)の混合水溶液20gを添加し、ミキサーで20分攪拌した後、110℃、3時間、窒素雰囲気下で乾燥してサンプルを得た。これについて、前記測定法で粒径d50、タップ密度、比表面積、B/C、O/Cを測定した。また、前記測定法でホウ素の表面元素量(X13/C値)、バルク含有量を測定、表面存在比を算出した。結果を表3に示す
このサンプル20.00±0.02gに、1質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(第一工業製薬製、平均重合度:約1200、粘度:500cP)水溶液を20.00±0.02g(固形分換算で0.200g)、及び重量平均分子量27万のスチレン・ブタジエンゴム水性ディスパージョン0.50±0.05g(固形分換算で0.2g)を加え、キーエンス製ハイブリッドミキサーで5分間撹拌し、30秒脱泡してスラリーを得た。その後は、前記<負極電極シートの作製法1>にて負極電極シートを作成し、前記測定法にて初回不可逆容量、負極電荷移動抵抗を測定、初回効率を算出した。結果を表4に示す。
【0159】
実施例7
1質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩と1質量%酸化ホウ素の混合水溶液20gを、2.5質量%ポリアクリルアミド(重量平均分子量:1600万)と1質量%酸化ホウ素(和光純薬製一級試薬)の混合水溶液20gに変えた以外は、実施例6と同様の方法でサンプルを得た。これについて、前記測定法で粒径d50、タップ密度、比表面積、B/C、O/Cを測定した。また、前記測定法でホウ素の表面元素量(X13/C値)、バルク含有量を測定、表面存在比を算出した。結果を表3に示す。
このサンプルを用いて実施例6と同様の方法で負極電極シートを作成し、前記測定法にて初回不可逆容量、負極電荷移動抵抗を測定、初回効率を算出した。結果を表4に示す。
【0160】
実施例8
1質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩と1質量%酸化ホウ素の混合水溶液20gを、2.5質量%のポリアクリルアミド(重量平均分子量:1600万)と2.5質量%酸化ホウ素(和光純薬製一級試薬)の混合水溶液20gに変えた以外は、実施例6と同様の方法でサンプルを得た。これについて、前記測定法で粒径d50、タップ密度、比表面積、B/C、O/Cを測定した。また、前記測定法でホウ素の表面元素量(X13/C値)、バルク含有量を測定、表面存在比を算出した。結果を表3に示す
このサンプルを用いて実施例6と同様の方法で負極電極シートを作成し、前記測定法にて初回不可逆容量、負極電荷移動抵抗を測定、初回効率を算出した。結果を表4に示す。
【0161】
実施例9
質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩と1質量%酸化ホウ素の混合水溶液20gを、2.5質量%ポリアクリルアミド(重量平均分子量:1600万)と1質量%ホウ酸リチウム(高純度化学製)の混合水溶液20gに変えた以外は、実施例6と同様の方法でサンプルを得た。これについて、前記測定法で粒径d50、タップ密度、比表面積、B/C、O/Cを測定した。また、前記測定法でホウ素の表面元素量(X13/C値)、バルク含有量を測定、表面存在比を算出した。結果を表3に示す。
【0162】
このサンプルを用いて実施例6と同様の方法で負極電極シートを作成し、前記測定法にて初回不可逆容量、負極電荷移動抵抗を測定、初回効率を算出した。結果を表4に示す。
比較例4
前記測定法で測定した、粒径d50、タップ密度、比表面積、ラマンR値、O/Cがそれぞれ19.3μm、1.10g/cm、6.3m/g、0.25、2.62%であ
る球状天然黒鉛をそのまま用いて、実施例6と同様の方法で負極電極シートを作成し、前記測定法にて初回不可逆容量、負極電荷移動抵抗を測定、初回効率を算出した。結果を表4に示す。
【0163】
比較例5
1質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩と1質量%酸化ホウ素の混合水溶液を、1質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の水溶液に変えた以外は実施例6と同様の方法にてサンプルを得た。これについて、前記測定法で粒径d50、タップ密度、比表面積、B/C、O/Cを測定した。結果を表3に示す
このサンプルを用いて実施例6と同様の方法で負極電極シートを作成し、前記測定法にて初回不可逆容量、負極電荷移動抵抗を測定、初回効率を算出した。結果を表4に示す。
【0164】
比較例6
1質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩と1質量%酸化ホウ素の混合水溶液を、2.5質量%ポリアクリルアミド(重量平均分子量:1600万)の水溶液に変えた以外は実施例6と同様の方法にてサンプルを得た。これについて、前記測定法で粒径d50、タップ密度、比表面積、B/C、O/Cを測定した。結果を表3に示す
このサンプルを用いて実施例6と同様の方法で負極電極シートを作成し、前記測定法にて初回不可逆容量、負極電荷移動抵抗を測定、初回効率を算出した。結果を表4に示す。
【0165】
【表1】
【0166】
【表2】
【0167】
【表3】
【0168】
略号は以下の通り。
CMC:カルボキシルメチルセルロースNa塩、PAAmd:ポリアクリルアミド
【0169】
【表4】
【0170】
略号は以下の通り。
CMC:カルボキシルメチルセルロースNa塩、PAAmd:ポリアクリルアミド
表4から分かるように、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)に、周期表第13族元素含有元素(B)としてホウ素又はアルミニウムを、表面元素量X13/C値、及び周期表第13族元素(B)の表面存在比が規定範囲内になるように添加することによって、実施例1から4では、不可逆容量低下効果、負極電荷移動抵抗(Rct)低減効果が確認され、実施例では初期低温出力特性向上効果も顕著に確認された。
【0171】
一方で、規定の周期表第13族元素(B)が存在しないリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)からなる負極材を使用した比較例1では、大きな不可逆容量、高負極電荷移動抵抗(Rct)、低初期低温出力特性が確認された。また、規定範囲を超えて周期表第13族元素含有元素(B)を添加した比較例2では電極強度の著しい低下により電極活物質が剥離し、評価に使用することができなかった。さらに、実施例5、比較例2からわかるように、周期表第13族元素(B)を規定条件で存在させることによる負極電荷移動抵抗(Rct)の低下効果は、水溶性高分子(C)としてカルボキシルメチルセルロースNa塩を用いた場合だけでなく、ポリアクリルアミドを含む負極材を使用した場合にも顕著に確認された。
【0172】
表4から分かるように、予め周期表第13族元素含有化合物(B)と水溶性高分子(C)の組成物をリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)に添着させる方法にて、周期表第13族元素含有元素(B)としてホウ素を、表面元素量X13/C値、及び周期表第13族元素(B)の表面存在比が規定範囲内になるように添加した実施例6から9においても、周期表第13族元素含有化合物(B)を含まないリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)を用いた比較例4〜6に比べて、不可逆容量低下効果、負極電荷移動抵抗(Rct)低減効果が確認された。
【0173】
また、実施例の比較例に対する負極電荷移動抵抗(Rct)低下効果と、実施例1、2の比較例に対する負極電荷移動抵抗(Rct)低下効果との比較から、予めリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材(A)に周期表第13族元素含有化合物(B)を規定条件で存在させた場合の方が、電荷移動抵抗(Rct)低下効果がより高く好ましいと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明の負極材は、それを非水系二次電池用負極材として用いることにより、高容量、且つガス発生量が少なく、低温でも入出力特性の良好な非水系二次電池を提供することができる。また、本発明の非水系二次電池用負極材の製造方法によれば、上述の利点を有する負極材を平易な工程で製造することが可能となる。