(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る偏角算定装置100のブロック図である。偏角算定装置100は、複素数Xの偏角θを算定する装置であり、演算処理装置12と記憶装置14とを具備するコンピュータシステムで実現される。演算処理装置12は、記憶装置14に格納されたプログラムPGMを実行することで、複素数Xの偏角θを算定する偏角算定部20として機能する。記憶装置14は、演算処理装置12が実行するプログラムPGMや演算処理装置12が使用する各種のデータ(例えば複素数X)を記憶する。半導体記録媒体や磁気記録媒体等の公知の記録媒体または複数種の記録媒体の組合せが記憶装置14として任意に利用される。
【0012】
図2は、偏角算定部20が偏角θを算定する処理のフローチャートである。例えば利用者からの指示を契機として
図2の処理が開始される。処理を開始すると、偏角算定部20は、複素数Xの実部Re[X]および虚部Im[X]を符号反転により非負値(ゼロまたは正数)に変換したうえで、実部Re[X]と虚部Im[X]との和Mおよび差Sを算定する(SA1)。実部Re[X]および虚部Im[X]を符号反転により非負値に変換する処理は、
図3に示すように、複素平面の第2象限から第4象限の各々に属する複素数Xを第1象限内の数値に変換する処理(写像)に相当する。
【0013】
第1に、実部Re[X]および虚部Im[X]の双方が非負値である場合(すなわち複素数Xが複素平面の第1象限内の数値である場合)、偏角算定部20は、以下の数式(A1)および数式(B1)で表現されるように、実部Re[X]および虚部Im[X]の符号反転(すなわち象限間の移動)を実行せずに和Mおよび差Sを算定する。
M=Re[X]+Im[X] ……(A1)
S=Re[X]−Im[X] ……(B1)
【0014】
第2に、実部Re[X]が負数で虚部Im[X]が非負値である場合(すなわち複素数Xが複素平面の第2象限内の数値である場合)、偏角算定部20は、以下の数式(A2)および数式(B2)で表現されるように、実部Re[X]の符号を反転したうえで和Mおよび差Sを算定する。
M=(−Re[X])+Im[X] ……(A2)
S=(−Re[X])−Im[X] ……(B2)
【0015】
第3に、実部Re[X]および虚部Im[X]の双方が負数である場合(すなわち複素数Xが複素平面の第3象限内の数値である場合)、偏角算定部20は、以下の数式(A3)および数式(B3)で表現されるように、実部Re[X]および虚部Im[X]の双方の符号を反転したうえで和Mおよび差Sを算定する。
M=(−Re[X])+(−Im[X]) ……(A3)
S=(−Re[X])−(−Im[X]) ……(B3)
【0016】
第4に、実部Re[X]が非負値で虚部Im[X]が負数である場合(すなわち複素数Xが複素平面の第4象限内の数値である場合)、偏角算定部20は、以下の数式(A4)および数式(B4)で表現されるように、虚部Im[X]の符号を反転したうえで和Mおよび差Sを算定する。
M=Re[X]+(−Im[X]) ……(A4)
S=Re[X]−(−Im[X]) ……(B4)
【0017】
以上の説明から理解されるように、演算処理装置12は、複素数Xの実部Re[X]および虚部Im[X]を符号反転により非負値に変換する要素(第1変換手段)、および、変換後の実部Re[X]と虚部Im[X]との和Mおよび差Sを算定する要素(和差算定手段)として機能する。
【0018】
実部Re[X]と虚部Im[X]との和Mおよび差Sを算定すると、偏角算定部20は、和Mに対する差Sの比R(R=S/M)を算定する(SA2)。そして、偏角算定部20は、ステップSA2で算定した比Rに応じて暫定的な偏角(以下「暫定偏角」という)φを算定する(SA3)。暫定偏角φは、ステップSA1での符号反転が加味された状態の仮想的な偏角であり、複素数Xが第2象限から第4象限に属する場合には実際の偏角θとは相違するという事情を考慮して偏角θとは表記を区別している。比Rと暫定偏角φとの関係について以下に詳述する。
【0019】
複素数Xの偏角θは、以下の数式(1)で表現されるように、実部Re[X]に対する虚部Im[X]の比(Im[X]/Re[X])の逆正接(アークタンジェント)として定義される。
θ=arctan(Im[X]/Re[X]) ……(1)
また、実部Re[X]および虚部Im[X]は以下の数式(2a)および数式(2b)で表現される。記号rは複素数Xの絶対値である。
Re[X]=r・cosθ ……(2a)
Im[X]=r・sinθ ……(2b)
【0020】
したがって、複素数Xが第1象限に属する場合の実部Re[X]と虚部Im[X]との和Mおよび差Sは以下の数式(3a)および数式(3b)で表現される。
M=Re[X]+Im[X]=r(cosθ+sinθ)
=(√2)r・cos(θ−π/4) ……(3a)
S=Re[X]−Im[X]=r(cosθ−sinθ)
=(√2)r・cos(θ−3π/4)
=−(√2)r・sin(θ−π/4) ……(3b)
【0021】
数式(3a)および数式(3b)から、和Mに対する差Sの比Rを表現する以下の数式(4)が導出される。
R=S/M=−tan(θ−π/4) ……(4)
数式(4)を変形することで、偏角θと比Rとの関係を表現する以下の数式(5)が導出される。
θ=−arctan(R)+π/4 ……(5)
第1実施形態ではステップSA1にて符号変換を実行する(暫定偏角φと実際の偏角θとは相違し得る)ことを考慮すると、数式(5)の偏角θを暫定偏角φに置換した以下の数式(6)が成立する。
φ=−arctan(R)+π/4 ……(6)
【0022】
また、比Rが、例えば−1以上かつ1以下の範囲内の数値である場合、以下の近似が成立する。
arctan(R)=(π/4)・R
したがって、数式(6)を近似(1次近似)する以下の数式(7)が導出される。
φ=(π/4)(−R+1) ……(7)
図4には、比Rと数式(6)の暫定偏角φとの関係が破線で図示され、比Rと数式(7)の暫定偏角φとの関係が実線で図示されている。数式(7)による近似が妥当であることが
図4から理解される。
【0023】
図1の偏角算定部20は、前述のステップSA3において、ステップSA2で算定した比Rについて数式(7)の演算を実行することで暫定偏角φを算定する。以上の説明から理解されるように、演算処理装置12は、和Mに対する差Sの比Rを算定する要素(比算定手段)、および、比Rから複素数Xの暫定偏角φを算定する要素(偏角暫定手段)として機能する。
【0024】
以上の手順で暫定偏角φを算定すると、偏角算定部20は、暫定偏角φを、ステップSA1での符号反転前の複素数Xが属する象限に対応する実際の偏角θに変換する(SA4)。第1に、複素数Xの実部Re[X]および虚部Im[X]の双方が非負値である場合、偏角算定部20は、以下の数式(C1)で示すように、ステップSA3で算定した暫定偏角φを偏角θとして確定する。
θ=φ ……(C1)
【0025】
第2に、複素数Xの実部Re[X]が負数で虚部Im[X]が非負値である場合(すなわちステップSA1で複素数Xを第2象限から第1象限に変換した場合)、偏角算定部20は、以下の数式(C2)の演算で、第2象限内の複素数Xに対応する偏角θを算定する。
θ=π−φ ……(C2)
【0026】
第3に、複素数Xの実部Re[X]および虚部Im[X]の双方が負数である場合(複素数Xを第3象限から第1象限に変換した場合)、偏角算定部20は、以下の数式(C3)の演算で、第3象限内の複素数Xに対応する偏角θを算定する。
θ=φ+π ……(C3)
【0027】
第4に、複素数Xの実部Re[X]が非負値で虚部Im[X]が負数である場合(複素数Xを第3象限から第1象限に変換した場合)、偏角算定部20は、以下の数式(C4)の演算で、第3象限内の複素数Xに対応する偏角θを算定する。
θ=2π−φ ……(C4)
【0028】
すなわち、演算処理装置12は、暫定偏角φを実際の偏角θに変換する要素(第2変換手段)として機能する。以上が複素数Xの偏角θを算定する処理の具体例である。
図5は、複素数Xの実際の偏角θR(横軸)と、第1実施形態の偏角算定部20が算定した偏角θの2乗誤差(θR−θ)
2との関係を示すグラフである。数式(6)の近似等に起因した誤差は発生するものの、第1実施形態によれば、複素数Xの偏角θを充分に高い精度で算定できることが
図5から理解される。
【0029】
以上に説明したように、第1実施形態では、実部Re[X]と虚部Im[X]との和Mに対する差Sの比Rに応じて複素数Xの偏角θが算定される。実部Re[X]および虚部Im[X]は符号反転により非負値に変換されるから、比Rの分母(除数)に位置する和Mがゼロとなることはない。すなわち、ステップSA3の比Rの演算でゼロ除算は発生しない。したがって、ゼロ除算に対処するための特別な措置が必要な構成と比較して、複素数Xの偏角θを簡便に算定できるという利点がある。
【0030】
なお、以上の説明では、複素数Xの実部Re[X]および虚部Im[X]の双方が負数である場合に実部Re[X]および虚部Im[X]の双方の符号を反転して和Mおよび差Sを算定したが(数式(A3),数式(B3))、和Mに対する差Sの比Rを算定する段階で符号の反転は結果的に相殺されるから、実部Re[X]および虚部Im[X]の双方が負数である場合には符号反転を省略する(すなわち、数式(A1)および数式(B1)で和Mおよび差Sを算定する)ことも可能である。
【0031】
また、以上の説明では、数式(6)を数式(7)で近似したが、暫定偏角φの算定に近似は必須ではない。例えば、数式(6)の関係を満たすように比Rの各数値と暫定偏角φの各数値とを対応させたテーブルを記憶装置14に格納し、偏角算定部20が、ステップSA2で算定した比Rに対応する暫定偏角φをステップSA3にてテーブルから検索する構成も採用され得る。
【0032】
なお、実部Re[X]および虚部Im[X]の双方がゼロである場合には偏角θが不定(偏角θを定義できない状態)となる。そこで、実部Re[X]および虚部Im[X]の双方がゼロである場合、偏角算定部20は、暫定偏角φを、不定を意味する符号(NaN:Not a Number)に設定し(SA3)、暫定偏角φに対応する偏角θについても同様に不定の符号に設定する(SA4)。また、実部Re[X]および虚部Im[X]の双方がゼロである場合に、偏角算定部20が、偏角θを算定できないことを例えば画像または音声で利用者に通知(エラー通知)することも可能である。
【0033】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態を以下に説明する。なお、以下に例示する各形態において作用や機能が第1実施形態と同等である要素については、以上の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0034】
図6は、第2実施形態の音響処理装置110Aのブロック図である。音響処理装置110Aにはステレオ形式の音響信号xL(t)および音響信号xR(t)が信号供給装置200から供給される。左チャネルの音響信号xL(t)および右チャネルの音響信号xR(t)は、残響音が付加された音響(例えば音声や楽音)の時間領域信号である。可搬型または内蔵型の記録媒体から音響信号xL(t)および音響信号xR(t)を取得して音響処理装置110Aに供給する再生装置や、音響信号xL(t)および音響信号xR(t)を通信網から受信して音響処理装置110Aに供給する通信装置が信号供給装置200として採用され得る。
【0035】
音響処理装置110Aは、音響信号xL(t)および音響信号xR(t)の残響音を低減した時間領域の音響信号yL(t)および音響信号yR(t)を生成する信号処理装置であり、第1実施形態の偏角算定装置100と同様に、演算処理装置12と記憶装置14とを具備するコンピュータシステムで実現される。演算処理装置12は、記憶装置14に格納されたプログラムPGMを実行することで複数の機能(周波数分析部32,偏角算定部20,位相調整部34、信号生成部36)を実現する。なお、演算処理装置12の各機能を複数の集積回路に分散した構成や、専用の電子回路(DSP)が各機能を実現する構成も採用され得る。なお、音響信号xL(t)および音響信号xR(t)を記憶装置14に記憶することも可能である。
【0036】
周波数分析部32は、音響信号xL(t)の周波数スペクトルXL(k,m)と音響信号xR(t)の周波数スペクトルXR(k,m)とを時間軸上の単位期間(フレーム)毎に順次に生成する。周波数スペクトルXL(k,m)および周波数スペクトルXR(k,m)の各々は、複素数で表現された複素スペクトルである。記号kは周波数軸上の任意の1個の周波数(帯域)を指示する変数であり、記号mは時間軸上の任意の1個の単位期間を指示する変数である。周波数分析部32の処理には例えば短時間フーリエ変換等の公知の周波数分析が任意に採用され得る。
【0037】
偏角算定部20は、左チャネルの周波数スペクトルXL(k,m)の各周波数の偏角θL(k,m)と右チャネルの周波数スペクトルXR(k,m)の各周波数の偏角θR(k,m)とを単位期間毎に順次に算定する。以下の数式(8a)および数式(8b)から理解されるように、偏角θL(k,m)および偏角θR(k,m)は、各チャネルの周波数毎の位相(位相スペクトル)を意味する。偏角算定部20が偏角θL(k,m)および偏角θR(k,m)を算定する方法は、第1実施形態にて複素数Xの偏角θを算定した方法と同様である。したがって、第2実施形態でも第1実施形態と同様の効果が実現される。
XL(k,m)=|XL(k,m)|e
-jθL(k,m) ……(8a)
XR(k,m)=|XR(k,m)|e
-jθR(k,m) ……(8b)
【0038】
位相調整部34は、偏角算定部20が算定した偏角θL(k,m)および偏角θR(k,m)を調整する。具体的には、位相調整部34は、周波数および単位期間が相互に共通する偏角θL(k,m)と偏角θR(k,m)との差異が低減される(理想的には同相化される)ように偏角θL(k,m)および偏角θR(k,m)の片方または双方を調整する。例えば、位相調整部34は、偏角θL(k,m)と偏角θR(k,m)との差分(絶対値)Δθ(Δθ=|θL(k,m)−θR(k,m)|)を算定し、差分Δθが所定の閾値THを上回る場合(偏角θL(k,m)と偏角θR(k,m)とが相違する場合)には、以下の数式(9a)および数式(9b)で表現されるように、右チャネルの周波数スペクトルXR(k,m)の偏角(位相)θR(k,m)を左チャネルの偏角θL(k,m)に置換する。
XL(k,m)=|XL(k,m)|e
-jθL(k,m) ……(9a)
XR(k,m)=|XR(k,m)|e
-jθL(k,m) ……(9b)
左チャネルの周波数スペクトルXL(k,m)の振幅|XL(k,m)|および偏角θL(k,m)と右チャネルの周波数スペクトルXR(k,m)の振幅|XR(k,m)|とは変更されない。他方、左右チャネル間の差分Δθが閾値THを下回る場合、(偏角θL(k,m)と偏角θR(k,m)とが略同等である場合)、周波数スペクトルXL(k,m)および周波数スペクトルXR(k,m)は変更されない。
【0039】
信号生成部36は、位相調整部34による処理後の周波数スペクトルXL(k,m)および周波数スペクトルXR(k,m)から時間領域の音響信号yL(t)および音響信号yR(t)を生成する。具体的には、信号生成部36は、各単位期間の周波数スペクトルXL(k,m)を例えば短時間逆フーリエ変換で時間領域信号に変換するとともに前後の単位期間について相互に連結することで左チャネルの音響信号yL(t)を生成する。右チャネルの音響信号yR(t)も同様の方法で各単位期間の周波数スペクトルXR(k,m)から生成される。音響信号yL(t)および音響信号yR(t)はスピーカ等の放音機器(図示略)に供給されて音波として再生される。
【0040】
残響空間内での左右チャネルの収録音には相異なる伝達特性(振幅特性および位相特性)の残響音が付与される。したがって、左右チャネル間の偏角(θL(k,m),θR(k,m))の差分Δθが大きいほど残響音が優勢(高強度)に知覚されるという傾向がある。第2実施形態では、左右チャネルの振幅(|XL(k,m)|,|XR(k,m)|)を維持したまま偏角θL(k,m)と偏角θR(k,m)との差異が低減される(すなわち位相差が低減または解消される)から、残響音が低減されたステレオの音響信号yL(t)および音響信号yR(t)を生成することが可能である。
【0041】
なお、以上の説明では右チャネルの偏角θR(k,m)を左チャネルの偏角θL(k,m)に置換したが、左チャネルの偏角θL(k,m)を右チャネルの偏角θR(k,m)に置換する構成も採用され得る。また、以下の数式(10a)および数式(10b)で表現されるように、右チャネルの偏角θR(k,m)および左チャネルの偏角θL(k,m)の双方を両者の平均値θave(k,m)に置換する(したがって偏角の差異は低減される)ことも可能である。
XL(k,m)=|XL(k,m)|e
-jθave(k,m) ……(10a)
XR(k,m)=|XR(k,m)|e
-jθave(k,m) ……(10b)
【0042】
<第3実施形態>
図7は、第3実施形態の音響処理装置110Bのブロック図である。音響処理装置110Bにはモノラル形式の音響信号x(t)が信号供給装置200から供給される。音響信号x(t)は、正弦波成分および雑音成分を含む複数の音響成分の混合音の音響信号である。第3実施形態の音響処理装置110Bは、音響信号x(t)内の正弦波成分が存在する周波数FSを特定する音響解析装置として機能し、第2実施形態の音響処理装置110Aと同様に、演算処理装置12と記憶装置14とを具備するコンピュータシステムで実現される。
【0043】
演算処理装置12は、記憶装置14に格納されたプログラムPGMを実行することで複数の機能(周波数分析部42,偏角算定部20,偏角解析部44,音響評価部46)を実現する。なお、演算処理装置12の各機能を複数の集積回路に分散した構成や、専用の電子回路(DSP)が各機能を実現する構成も採用され得る。なお、音響信号x(t)を記憶装置14に記憶することも可能である。
【0044】
周波数分析部42は、第2実施形態の周波数分析部32と同様に、音響信号x(t)の周波数スペクトル(複素スペクトル)X(k,m)を単位期間毎に生成する。偏角算定部20は、周波数スペクトルX(k,m)の各周波数の偏角θ(k,m)を単位期間毎に算定する。偏角算定部20が偏角θ(k,m)を算定する方法は第1実施形態と同様である。したがって、第3実施形態でも第1実施形態と同様の効果が実現される。
【0045】
偏角解析部44は、偏角算定部20が算定した各単位期間の偏角θ(k,m)と直前の単位期間の偏角θ(k,m-1)との差異(以下「変化量」という)δ(k,m)を周波数毎に算定する。すなわち、変化量δ(k,m)は、相前後する単位期間の間で偏角θ(k,m)が変動した度合を意味する。なお、変化量δ(k,m)の算定対象となる単位期間は、音響信号x(t)の全部の単位期間または特定の一部(例えば5個程度)の単位期間である。
【0046】
正弦波成分の偏角θ(k,m)の時間的な変化量δ(k,m)は一定に維持される。他方、例えば収音機器の回路雑音等に起因した雑音成分(例えば白色雑音)の偏角θ(k,m)の時間的な変化量δ(k,m)は刻々と変化して一定には維持されない。以上の特性の相違を考慮して、第3実施形態の音響評価部46は、偏角解析部44が周波数毎に算定した変化量δ(k,m)の時間変動に応じて音響信号x(t)内の正弦波成分の周波数FSを特定する。
【0047】
具体的には、音響評価部46は、各単位期間の偏角θ(k,m)の変化量δ(k,m)の分散値V(k)および平均値M(k)を周波数毎に算定し、周波数軸上の複数の周波数のうち変化量δ(k,m)の分散値V(k)が所定の閾値を下回る周波数(すなわち変化量δ(k,m)の変動が小さい周波数)を正弦波成分が存在する周波数FSとして選択するとともに変化量δ(k,m)の平均値M(k)を正弦波成分の瞬時周波数として確定する。音響評価部46による評価結果(正弦波成分が検出された周波数FSおよび瞬時周波数)は例えば画像や音声で利用者に報知される。