(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
フェライト焼結体で構成されるフェライトコアは、主としてコイル部品、センサ、アンテナ、偏向ヨーク等の部品に用いられており、これらの部品は、各種電子機器に用いられていた。
【0003】
しかしながら、近年、携帯電話やノート型パソコン等の携帯用機器の急速な普及が進み、たとえばコイル部品が組み込まれた機器には、厳しい使用環境、とりわけ温度変化に耐え得る特性が要求される。具体的には、使用可能な温度域が広範囲に及ぶことや、かつその温度域での初透磁率の変化が小さい、望ましくは全く変化しないことが挙げられる。
【0004】
さらに近年、特にトランスポンダなどのタイヤ空気圧センサやエンジンルーム内の制御回路等の自動車用部品としても、コイル部品の用途が拡大しており、このような用途には、厳しい使用環境、とりわけ温度変化に耐え得る特性が要求される。
【0005】
しかも、コイル部品は、用途に応じて、その初透磁率が特定の範囲内にあるものが選択される。したがって、コイル部品には、初透磁率の温度変化が小さいことに加え、その初透磁率が特定の範囲にあることが求められる。
【0006】
ところで、特許文献1では、Ni−Cu−Zn系フェライト焼結体において、Fe
2O
3とZnOとの比を特定の範囲とすることで、初透磁率の相対温度係数を良好にできるフェライトが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、広い温度範囲(たとえば、−40〜125℃)において、初透磁率μiの変化率が小さく、しかも初透磁率μiが特定の範囲(たとえば、350〜700程度)にあるフェライト焼結体と、該フェライト焼結体で構成してあるフェライトコアを有する電子部品とを、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るフェライト焼結体は、スピネル構造を有し、酸化鉄と、酸化亜鉛と、酸化銅と、酸化ニッケルと、を含む主成分を有するフェライト焼結体である。該フェライト焼結体はA相とB相とを有している。A相は、酸化鉄のFe
2O
3換算での含有割合(モル%)が酸化亜鉛のZnO換算での含有割合(モル%)よりも大きい領域であり、B相は、酸化鉄のFe
2O
3換算での含有割合(モル%)が酸化亜鉛のZnO換算での含有割合(モル%)以下の領域である。主成分100モル%に占める酸化鉄のFe
2O
3換算での含有割合をx(モル%)とし、A相の面積とB相の面積との合計面積に対するA相の面積割合をy(%)とした場合に、変数(x,y)が、下記の点A〜Dを頂点とする四角形に囲まれた領域内(線上を含む)にある。
点A(46,97)
点B(46,83)
点C(47.9,70)
点D(47.9,85)
【0010】
本発明に係るフェライト焼結体では、主成分中に占める酸化鉄のFe
2O
3換算での含有量(モル%)と、上記のA相の面積比率(%)と、が特定の範囲にある。このようにすることで、広い温度範囲における初透磁率の変化率を小さくすることができ、しかも、初透磁率を特定の範囲内とすることができる。
【0011】
本発明に係る電子部品は、上記に記載のフェライト焼結体から構成されるフェライトコアを有する電子部品である。
【0012】
本発明に係る電子部品は、μiの温度変化が少なく、しかもμiが特定の範囲(たとえば、350〜700程度)にあるため、1Hz〜5MHzまでの周波数帯における応用製品のコイル部品、トランス部品、磁気ヘッド部品に好適である。コイル部品としては、自動車用トランスポンダ、インダクタやチョークコイル等が挙げられ、トランス部品としては、スイッチング用、インバータ用等の電源トランス等が挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0015】
本実施形態に係るコイル部品用フェライトコアとしては、
図1に示したドラム型のほか、FT型、ET型、EI型、UU型、EE型、EER型、UI型、トロイダル型、ポット型、カップ型等を例示することができる。
図1では、コイル部品10は、フェライトコア12の周囲に巻き線14を所定巻数だけ巻回することにより得られる。
【0016】
コイル部品10のフェライトコア12は、本実施形態に係るフェライト焼結体で構成してある。該フェライト焼結体は、Ni−Cu−Zn系フェライトであり、その主成分は、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛および酸化ニッケルから構成される。
【0017】
また、本実施形態に係るフェライト焼結体は、主として、A相とB相とから構成されている。なお、該フェライト焼結体は、A相およびB相以外の相を有していてもよい。
【0018】
本実施形態では、A相およびB相の両方が、構成成分として、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛および酸化ニッケルを少なくとも有しており、酸化鉄と酸化亜鉛との含有割合によりA相とB相とに分けられている。すなわち、A相は、酸化鉄のFe
2O
3換算での含有量(モル%)が、酸化亜鉛のZnO換算での含有量(モル%)よりも大きい領域(相)である。また、B相は、酸化鉄のFe
2O
3換算での含有量(モル%)が、酸化亜鉛のZnO換算での含有量(モル%)以下である領域(相)である。
【0019】
本実施形態では、主成分100モル%中の酸化鉄の含有量と、フェライト焼結体におけるA相の面積およびB相の面積の合計100%に対するA相の面積割合と、を制御している。具体的には、主成分100モル%中のFe
2O
3の含有量を「x」(モル%)とし、A相の面積割合を「y」(%)とした場合、変数(x,y)が、
図2に示す点A(46,97)、点B(46,83)、点C(47.9,70)および点D(47.9,85)を頂点とする四角形に囲まれる領域内(線上を含む)にある(
図2の斜線部)。すなわち、主成分100モル%中、酸化鉄の含有量は、Fe
2O
3換算で、46.0〜47.9モル%である。なお、酸化鉄の含有量は、主成分を100モル%としたときに、酸化鉄がFe
2O
3換算で占める量であり、特定の相における含有量ではない。
【0020】
フェライト焼結体中において、主成分中の酸化鉄の含有量と、A相の面積割合と、が上記の関係を満足することで、初透磁率を特定の範囲にしつつ、フェライト焼結体の初透磁率の温度特性を良好にすることができる。具体的には、−40〜85℃、25〜85℃および25〜125℃での各温度範囲において、25℃における初透磁率に対する変化率(Δμi/μi
25℃)を−5.0〜+5.0%とすることができる。
【0021】
A相およびB相の面積を求める方法については特に制限されないが、本実施形態では、たとえば以下のようにして求めることができる。まず、フェライト焼結体を切断し研磨する。研磨面に対して、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて、特定の領域(たとえば100μm×100μmの正方形領域)について、面分析を行う。
【0022】
測定点において得られる各元素の含有割合から、Fe元素のFe
2O
3換算での含有割合がZn元素のZnO換算での含有割合よりも大きい測定点の集合(領域)をA相とし、Fe元素のFe
2O
3換算での含有割合が、Zn元素のZnO換算での含有割合以下である測定点の集合(領域)をB相とする。
【0023】
そして、面分析を行った領域のマッピング画像について画像処理等を行うことにより、A相およびB相の面積を算出し、これらの値からA相の面積割合を算出すればよい。
【0024】
なお、EPMAを用いて面分析を行う領域全体がA相およびB相から構成されている必要はなく、該領域内に、A相およびB相以外の相が存在していてもよい。この場合であっても、上記のA相の面積割合は、A相の面積とB相の面積との合計100%に対する割合として算出される。
【0025】
上述したA相およびB相の面積比は、後述するが、焼成条件の制御や酸化亜鉛の原料を複数用いることで容易に実現することができる。
【0026】
フェライト焼結体における他の成分の含有量は、酸化鉄の含有量が上記の範囲であれば特に制限されないが、本実施形態では、以下の範囲にあることが好ましい。
【0027】
主成分100モル%中、酸化銅の含有量は、CuO換算で、好ましくは2.0〜8.0モル%、より好ましくは4.0〜6.0モル%である。
【0028】
主成分100モル%中、酸化亜鉛の含有量は、ZnO換算で、好ましくは28.0〜34.0モル%、より好ましくは30.0〜32.0モル%である。
【0029】
主成分100モル%中、酸化ニッケルの含有量は、NiO換算で、好ましくは12.0〜20.0モル%、より好ましくは14.0〜16.0モル%である。
【0030】
本実施形態に係るフェライト焼結体は、上記の主成分に加え、該フェライト焼結体が有する効果を低下させない程度であれば、所望の特性を得るために、副成分を含有してもよい。副成分としては、特に制限されないが、たとえば、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ビスマスなどが挙げられる。
【0031】
また、本実施形態に係るフェライト焼結体には、不可避的不純物元素の酸化物が含まれ得る。
【0032】
具体的には、B、C、Si、P、S、Cl、As、Se、Br、Te、Iや、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Ga、Ge、Sr、Cd、In、Sn、Sb、Ba、Pb等の典型金属元素や、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Co、Y、Zr、Nb、Pd、Ag、Hf、Ta等の遷移金属元素が挙げられる。
【0033】
次に、本実施形態に係るフェライト焼結体の製造方法の一例を説明する。
【0034】
まず、出発原料として、主成分の原料を準備する。主成分の原料としては、酸化鉄(α−Fe
2O
3 )、酸化銅(CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニッケル(NiO)、あるいは複合酸化物などを用いることができる。さらに、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物等を用いることができる。焼成により上記した酸化物になるものとしては、たとえば、金属単体、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、有機金属化合物等が挙げられる。
【0035】
酸化亜鉛の原料としては、2種類以上の原料を用いることが好ましく、特に、主成分の他の原料(酸化鉄等)と仮焼きを行う原料と、仮焼きを行わない原料と、を用いることが好ましい。
【0036】
仮焼きを行わない原料としては、金属亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、亜鉛を含む複合酸化物などを用いることが好ましい。酸化亜鉛の原料として2種類以上の原料を用いることで、焼成後のフェライト焼結体において、上述したA相の面積割合を制御することが容易となる。
【0037】
フェライト焼結体に副成分が含有される場合には、副成分の原料として、上記と同様に、該成分の酸化物や混合物、複合酸化物を用いることができる。また、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物を用いることができる。
【0038】
準備した出発原料を、所定の組成比となるように秤量して混合し、原料混合物を得る。混合する方法としては、たとえば、ボールミルを用いて行う湿式混合や、乾式ミキサーを用いて行う乾式混合が挙げられる。なお、仮焼きを行わない原料は、原料混合物には含ませず、後述する原料混合物の仮焼き後に添加することが好ましい。また、平均粒径が0.1〜3μmの出発原料を用いることが好ましい。
【0039】
次に、原料混合物の仮焼きを行い、仮焼き材料を得る。仮焼きは、好ましくは800〜1100℃の温度で、通常1〜3時間程度行う。仮焼きは、大気(空気)中で行ってもよく、大気中よりも酸素分圧が高い雰囲気や純酸素雰囲気で行っても良い。
【0040】
次に、仮焼き材料の粉砕を行い、粉砕材料を得る。粉砕は、粗粉砕を行ってからさらに微粉砕を行ってもよい。微粉砕は、ボールミルやアトライターなどを用いた湿式粉砕を行うことが好ましい。湿式粉砕は、仮焼き材料の平均粒径が、好ましくは1〜2μm程度となるまで行う。仮焼きを行わない原料は、仮焼き材料の粗粉砕前に添加してもよいし、粗粉砕後に添加してもよい。
【0041】
次に、粉砕材料の造粒(顆粒)を行い、造粒物を得る。造粒する方法としては、たとえば、加圧造粒法やスプレードライ法などが挙げられる。スプレードライ法は、粉砕材料に、ポリビニルアルコールなどの通常用いられるバインダを加えた後、スプレードライヤー中で霧化し、低温乾燥する方法である。
【0042】
次に、造粒物を所定形状に成形し、成形体を得る。造粒物の成形としては、たとえば、乾式成形、湿式成形、押出成形などが挙げられる。乾式成形法は、造粒物を、金型に充填して圧縮加圧(プレス)することにより行う成形法である。成形体の形状は、特に限定されず、用途に応じて適宜決定すればよいが、本実施形態ではトロイダル型形状とされる。
【0043】
次に、成形体の本焼成を行い、焼結体(本実施形態のフェライト焼結体)を得る。本焼成は、好ましくは900〜1300℃の温度で、通常2〜5時間程度行う。本焼成は、大気(空気)中で行ってもよく、大気中よりも酸素分圧が高い雰囲気で行っても良い。
【0044】
このような工程を経て、本実施形態に係るフェライト焼結体は製造される。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0046】
たとえば、上述した実施形態では、トロイダル型形状とするために、本焼成前に該形状に成形しているが、本焼成後に該形状に成形(加工)してもよい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0048】
まず、フェライト焼結体の原料として、Fe
2O
3、NiO、CuO、ZnOおよび表1に示す原料を準備した。
【0049】
【表1】
【0050】
次に、Fe
2O
3、NiO、CuO、ZnOの各粉末を秤量した後、ボールミルで5時間湿式混合して原料混合物を得た。
【0051】
次に、得られた原料混合物を、空気中において900℃で2時間仮焼きして仮焼き材料を得た。この仮焼き材料に対し、表1に示す原料を、仮焼き材料100重量%に表1に示す割合の範囲内で添加し、ボールミルで比表面積が3m
2/gとなるまで湿式粉砕して粉砕材料を得た。なお、表1に示すZnOは、平均粒径5μmの粉体と、平均粒径1μmの粉体と、を1:1の割合で混合した粉体である。
【0052】
次に、この粉砕材料を乾燥した後、該粉砕材料100重量%に、バインダとしてのポリビニルアルコール(3重量%水溶液)を10重量%添加して造粒し、20メッシュの篩で整粒して顆粒とした。この顆粒を、100kPaの圧力で加圧成形して、トロイダル形状の成形体を得た。
【0053】
次に、これら各成形体を、空気中において、1150℃で2時間焼成して、焼結体としてのトロイダルコアサンプル(外径18mm×内径10mm×高さ5mm)を得た。得られたサンプルについて、蛍光X線分析を行い、フェライトコアの組成を測定した。また、フェライトコアに対し以下の特性評価を行った。
【0054】
(A相およびB相の面積比の測定)
得られたサンプルを切断し、樹脂に埋め込んだ後、研磨し、その研磨面に対しEPMA分析を行った。電子線マイクロアナライザ(島津製作所製EPMA−1600)を用いて、100μm×100μmの正方形領域に対し、加速電圧15kV、照射電流0.3μA、計数時間60秒の条件でマッピング分析を行った。
【0055】
得られたマッピング分析における各測定点でのFe元素およびZn元素の含有割合の大小から、測定領域においてA相とB相とに分け、その面積比率を求めた。結果を表2および
図3に示す。
【0056】
(初透磁率(μi))
得られたトロイダルコアサンプルに、巻線を20回巻回した後、LCRメータ(アジレント社製4284A)を用いて、初透磁率μiを測定した。測定条件は、測定周波数1kHz、測定温度25℃、測定レベル0.4mAとした。本実施例では、25℃における初透磁率が350〜700の範囲内にある試料を良好とした。
【0057】
(初透磁率の温度特性)
続いて、上記の測定条件において、−40〜125℃における初透磁率(μi)を測定した。得られた初透磁率から、25℃における初透磁率に対する変化率(Δμi/μi)を算出した。本実施例では、−40〜25℃におけるΔμi/μi(25℃)(=μi
−40℃−μi
25℃/μi
25℃)は−5〜+5%を良好とし、25〜85℃におけるΔμi/μi(85℃)(=μi
85℃−μi
25℃/μi
25℃)は−5〜+5%を良好とし、25〜125℃におけるΔμi/μi(125℃)(=μi
125℃−μi
25℃/μi
25℃)は−5〜+5%を良好とした。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
表2より、x(Fe
2O
3含有量)と、y(A相面積比率)とが、上述した範囲内である場合には(実施例1〜20)、幅広い温度範囲において、初透磁率の温度変化を小さくでき、しかも、初透磁率が特定の範囲内(350〜700)にあることが確認できた。また、
図3より、実施例1〜20は、上述した点A〜点Dを頂点とする四角形に囲まれた領域内にあることが視覚的に確認できた。