(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
サーミスタとは、温度変化に対して抵抗変化の大きい抵抗体をいう。サーミスタは、温度の上昇に対して抵抗が減少するNTCサーミスタ、温度の上昇に対して抵抗が増加するPTCサーミスタ、ある温度を超えると抵抗が急激に減少するCRTサーミスタに分類される。これらの内、NTCサーミスタは、温度と抵抗値の変化が比例的であるため、最も使われており、単にサーミスタというときは、NTCサーミスタを指す。
【0003】
一般に使用されるサーミスタは、Mn、Ni、Co、Fe、Cuなどの遷移金属酸化物を2〜4種類含む酸化物複合体からなる。サーミスタを各種センサ(例えば、高温域で使用する温度センサー)として使用するためには、所定の形状のサーミスタ素子にPtリード線を接合する必要がある。Ptリード線を接合する方法には、Ptリード線と原料粉末とを一体的に成形して焼結する方法、焼結体表面に印刷法で電極を形成し、電極表面にPtリード線を接合する方法などが知られている。Ptリード線が接合されたサーミスタ素子は、温度変化以外の要因による抵抗値の経時変化を抑制するために、通常、ガラスシールや金属管で封止された状態で使用される。
【0004】
しかしながら、Ptリード線と原料粉末とを一体的に成形して焼結する場合において、原料粉末の焼結温度が高すぎると、焼結時にPtリード線が劣化するという問題がある。また、ガラスシールや金属チューブで封止しても、封止された空間内のガス成分が変化し、抵抗値が経時変化するという問題がある。
【0005】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、窒化ケイ素に対して、8.7〜8.8wt%の炭化ケイ素と、29.1〜29.3wt%の酸化イットリウムと、0.8wt%の硼化チタニウムと、0.2〜2.0wt%の金属硼素とを加えて混合し、混合物を成形及び焼結させることにより得られるワイドレンジ用サーミスタが開示されている。
同文献には、このワイドレンジ用サーミスタは、室温(25℃)〜1050℃の範囲において、温度−比抵抗の対数の関係が直線的である点が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、Si
3N
4粉末に対して、30wt%のSiC粉末と、6wt%のY
2O
3とを加えて混合し、混合物を成形及び焼結させることにより得られる還元雰囲気用サーミスタ材料が開示されている。
同文献には、この還元雰囲気用サーミスタ材料は、120℃×10気圧の水素雰囲気下で1000時間暴露した時の抵抗変化率が1%以下である点が記載されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、導電性物質として炭化ケイ素及び/又は炭化ホウ素と、酸化物のマトリックスとを含有するサーミスタ材料が開示されている。
同文献には、このサーミスタ材料は、初期値に対する500℃−3000時間の抵抗値の変化率が1%未満である点が記載されている。
【0008】
サーミスタ材料をある温度域での温度計測に用いる場合において、高い計測精度を得るためには、
(a)使用温度域において適度な抵抗値を持つこと、及び、
(b)使用温度域において温度(T)又は温度の逆数(1/T)と抵抗値の対数(logR)との関係が直線的であること(すなわち、適度な温度抵抗係数(B値)を持つこと)
が必要である。なお、本発明においては、R=Aexp(−BT)で近似したときの定数Bを「温度抵抗係数」とする。
【0009】
特許文献1に記載のサーミスタ材料は、温度抵抗係数(B値)が0.01未満であるために、室温から1000℃程度までの広い温度範囲の測定が可能である。しかしながら、この組成物を−80℃〜500℃程度の低温域の温度測定にそのまま用いた場合、抵抗変化の絶対値が小さいために、検出精度が低いという問題がある。
また、特許文献2に記載のサーミスタ材料は、導電性材料がSiCのみからなるので、抵抗値と温度抵抗係数を同時に低温域に適した値にするのが困難である。
同様に、特許文献3に記載のサーミスタ材料は、温度抵抗係数が炭化ケイ素の特性によって決まってしまうため、抵抗値と温度抵抗係数を同時に低温域に適した値にするのが困難である。また、難焼結性であるため、緻密質の焼結体を得るためには高温での焼結が必要となる。これは、緻密性が低いと、抵抗値が高くなるおそれがあるため、又は、抵抗の安定性が悪くなるためである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 低温用サーミスタ材料]
本発明に係る低温用サーミスタ材料は、以下の構成を備えている。
(1)前記低温用サーミスタ材料は、
窒化物系及び/又は酸化物系の絶縁性セラミックスからなるマトリックス材料と、
α型SiCからなる導電性粒子と、
室温における比抵抗値が前記α型SiCより低く、かつ、融点が1700℃以上である金属又は無機化合物からなる第2導電性粒子と、
ホウ素と、
必要に応じて焼結助剤と
を含み、
少なくとも前記導電性粒子及び前記第2導電性粒子は、前記マトリックス材料の結晶粒又はその集合体の周囲に分散して導電パスを形成している。
(2)前記低温用サーミスタ材料は、
温度抵抗係数(B値)が0.010以上0.025以下であり、
室温における比抵抗値が0.1kΩcm以上2000kΩcm以下である
ものからなる。
【0017】
[1.1. マトリックス材料]
[1.1.1. 組成]
マトリックス材料は、窒化物系及び/又は酸化物系の絶縁性セラミックスからなる。マトリックス材料は、窒化物系セラミックスのみからなるもの、酸化物系セラミックスのみからなるもの、あるいは、これらの2種以上の混合物のいずれであっても良い。絶縁性セラミックスは、電気比抵抗が10
12Ωcm以上であるものが好ましい。
マトリックス材料を構成する酸化物系セラミックスとしては、具体的には、酸化アルミニウム、ムライト、ジルコニア、マグネシア、チタンアルミ、ジルコン、スピネルなどがある。特に、酸化アルミニウムは、還元性雰囲気下における耐久性が高いので、マトリックス材料として特に好適である。
また、マトリックス材料を構成する窒化物系セラミックスとしては、具体的には、窒化ケイ素、サイアロン、窒化アルミニウムなどがある。特に、窒化ケイ素及び同系のサイアロンは、還元性雰囲気下における耐久性が高いので、マトリックス材料として特に好適である。
【0018】
[1.1.2. 粒径及びアスペクト比]
マトリックス材料の結晶粒の大きさは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な大きさを選択することができる。一般に、マトリックス材料の結晶粒の大きさが小さすぎると、導電性粒子及び第2導電性粒子で導電パスを形成しにくくなり、抵抗値が上昇する。従って、マトリックス材料の結晶粒の大きさは、0.5μm以上が好ましい。
一方、マトリックス材料の結晶粒が大きくなりすぎると、焼結密度が低下する。このため、抵抗値が上昇したり、材料の強度が低下する。従って、マトリックス材料の結晶粒の大きさは、10μm以下が好ましい。
マトリックス材料の結晶粒のアスペクト比は、特に限定されるものではなく、目的とする抵抗値が得られるように、最適なアスペクト比を選択する。一般に、アスペクト比が大きくなるほど、導電性粒子及び第2導電性粒子の間隔が長くなるので、温度抵抗係数(B値)や抵抗値を大きくすることができる。
【0019】
[1.2. 導電性粒子]
[1.2.1. 組成]
導電性粒子は、マトリックス材料より電気比抵抗が小さい非酸化物系の導電性材料からなる。導電性粒子の電気比抵抗は、10
-6〜10
6Ωcmが好ましい。
導電性粒子は、少なくとも後述する第2導電性粒子と共に、マトリックス材料の結晶粒及び/又はその集合体の周囲に分散して導電パスを形成している。このような導電パスを形成するためには、導電性粒子は、マトリックス材料より焼結温度が高い材料が好ましい。また、導電パスを容易に形成するためには、導電性粒子は、粒径がマトリックス材料の結晶粒より小さく、焼結温度においてマトリックス材料と化合物を形成しない材料が好ましい。
【0020】
本発明において、導電性粒子は、α型SiCからなる。α型SiCは、ホウ素がドープされていないものでも良く、あるいは、ドープされているものでも良い。また、他の不純物元素(例えば、N、P、Alなど)をSiCにドープして、温度抵抗係数を大きくしても良い。α型SiCは、還元雰囲気下における耐久性が高く、かつ、温度抵抗係数(B値)が大きいので、導電性粒子として好適である。
また、α型SiCからなる導電性粒子に加えて、さらに後述する第2導電性粒子を添加すると、α型SiCのみの場合に比べて耐酸化性及び耐久性が向上するという効果がある。
さらに、α型SiCからなる導電性粒子に加えて、さらに所定量の第2導電性粒子及びホウ素を添加すると、抵抗値及び温度抵抗係数(B値)の双方を低温用サーミスタに適した値に調節することができる。
なお、導電性粒子は、β型SiCでも良いが、SiC自体の温度抵抗変化が小さく、添加量の調整が難しい。
【0021】
[1.2.2. 粒径]
導電性粒子の粒径は、強度及び抵抗値に影響を与える。一般に、導電性粒子の粒径が大きくなりすぎると、所定の抵抗値を得るために、相対的に多量の導電性粒子を添加する必要がある。導電性粒子の過剰添加は、凝集体を形成しやすくなり、材料の強度を低下させる原因となる。従って、導電性粒子の粒径は、5μm以下が好ましい。導電性粒子の粒径は、さらに好ましくは、1μm以下である。
【0022】
[1.2.3. 含有量]
導電性粒子の含有量は、材料の電気抵抗、温度抵抗係数(B値)及び強度に影響を与える。一般に、導電性粒子の含有量が少なすぎると、導電パスが形成されにくくなる。すなわち、粒子間隔が広くなるため、材料の電気抵抗が大きくなりすぎる。適度な電気抵抗と高い強度を得るためには、導電性粒子の含有量(又は、添加量)は、15wt%以上が好ましい。導電性粒子の含有量は、さらに好ましくは、17wt%以上である。
一方、導電性粒子の含有量が過剰になると、材料の電気抵抗が小さくなるだけでなく、凝集体を形成しやすくなり、不連続な導電パスを形成するのが困難となる。また、導電性粒子の含有量が過剰になると、SiCが凝集して破壊起点を形成するため、強度は逆に低下し、温度抵抗係数(B値)がかえって小さくなる。適度な電気抵抗及び温度抵抗係数(B値)、並びに、高い強度を得るためには、導電性粒子の含有量は、30wt%以下が好ましい。導電性粒子の含有量は、さらに好ましくは、25wt%以下である。
【0023】
[1.3. 第2導電性粒子]
[1.3.1. 組成]
本発明に係る低温用サーミスタ材料は、マトリックス材料及び導電性粒子に加えて、さらに第2導電性粒子を含む。低温用サーミスタ材料を製造する場合において、原料中にさらに第2導電性粒子を添加すると、比抵抗値の制御が容易化する。
「第2導電性粒子」とは、室温における比抵抗値がα型SiCより低く、かつ、融点が1700℃以上である金属又は無機化合物からなる粒子をいう。少なくとも第2導電性粒子は、導電性粒子と共に、導電パスの一部を構成する。
【0024】
第2導電性粒子としては、具体的には、
(1)周期表の4A、5A、6A族のホウ化物、窒化物、炭化物、ケイ化物、
(2)W、Mo等の耐熱性金属元素、
などがある。
特に、TiB
2は、耐酸化性が高く、熱膨張係数が小さく、かつ反応性も低いので、第2導電性粒子として好適である。
【0025】
[1.3.2. 粒径]
第2導電性粒子の粒径の詳細は、導電性粒子と同様であるので、説明を省略する。
【0026】
[1.3.3. 含有量]
第2導電性粒子は、主として低温用サーミスタの比抵抗値に影響を及ぼす。第2導電性粒子を全く添加しない場合、比抵抗値が過度に大きくなる場合が多い。
適度な比抵抗値を得るためには、第2導電性粒子の含有量(又は、添加量)は、0.6wt%以上が好ましい。第2導電性粒子の含有量は、さらに好ましくは、1.0wt%以上である。
一方、第2導電性粒子の含有量が過剰になると、比抵抗値が過度に小さくなるとともに、温度抵抗係数が小さくなる。従って、第2導電性粒子の含有量は、5.0wt%以下が好ましい。第2導電性粒子の含有量は、さらに好ましくは、3.0wt%以下である。
【0027】
[1.4. ホウ素]
本発明に係る低温用サーミスタ材料は、マトリックス材料、導電性粒子及び第2導電性粒子に加えて、さらにホウ素を含む。原料中に添加されたホウ素は、そのままの形で材料中に残る場合と、他の原料中への拡散や他の原料との反応により別の化合物となって存在する場合とがあると考えられる。また、添加されたホウ素は、導電パスの一部を構成する場合もあると考えられる。低温用サーミスタ材料を製造する場合において、原料中にホウ素をさらに添加すると、温度抵抗係数(B値)の制御が容易化する。
【0028】
ホウ素は、主として低温用サーミスタの温度抵抗係数(B値)に影響を及ぼす。ホウ素を全く添加しない場合、温度抵抗係数(B値)が0.01未満となる場合が多い。
高い温度抵抗係数(B値)を得るためには、ホウ素の添加量は、0.01wt%以上が好ましい。ホウ素の添加量は、さらに好ましくは、0.5wt%以上、さらに好ましくは、1.0wt%以上、さらに好ましくは、2.0wt%以上、さらに好ましくは、4.0wt%以上である。
一方、ホウ素の添加量が過剰になると、かえって温度抵抗係数(B値)が低下する。従って、ホウ素の添加量は、12wt%以下が好ましい。ホウ素の添加量は、さらに好ましくは、10wt%以下、さらに好ましくは、8wt%以下である。
【0029】
[1.5. 焼結助剤]
材料中には、必要に応じて、焼結助剤が含まれていても良い。焼結助剤の組成は、マトリックス材料、導電性粒子及び第2導電性粒子の組成に応じて最適なものを選択する。
例えば、窒化ケイ素/炭化ケイ素複合材料の場合、焼結助剤は、Y
2O
3、Al
2O
3、MgAl
2O
4、AlN、MgO、Yb
2O
3、HfO
2、CaOなどが好ましい。これらの焼結助剤は、いずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。特に、Y
2O
3、Y
2O
3−MgAl
2O
4、又は、Y
2O
3−Al
2O
3が好ましい。さらに、焼結助剤としてY
2O
3−MgAl
2O
4を用いる場合、Y
2O
3量は、4〜10wt%が好ましく、MgAl
2O
4量は2〜10wt%が好ましい。
【0030】
[1.6. 導電パス]
導電性粒子は、マトリックス材料の結晶粒及び/又はその集合体の周囲のマトリックス結晶粒界相内に分散して導電パスの主要部を形成する。また、第2導電性粒子は、導電パスの一部を構成する。導電性粒子、第2導電性粒子及びマトリックス材料の結晶粒は、互いに均一に分散していても良いが、導電性粒子及び第2導電性粒子は、1個のマトリックス材料の結晶粒又は複数個のマトリックス材料の結晶粒の集合体(セル)の周囲(粒界相)にネットワーク状に分散しているのが好ましい。
ここで、「ネットワーク状に分散」とは、1個又は複数個のマトリックス材料の結晶粒の周囲を取り囲むように導電性粒子及び第2導電性粒子が配置していることをいう。導電性粒子及び第2導電性粒子をネットワーク状に配置させると、材料全体に導電パスを均一に形成できるという利点がある。
【0031】
また、導電性粒子及び第2導電性粒子は、互いに接触するように密に分散しているよりも、所定の間隔を隔てて不連続に分散しているのが好ましい。導電パスの主要部を構成する導電性粒子が互いに接触していると、導電性粒子が持つ半導体特性のみを示すサーミスタとなる。この場合、一定温度以上で抵抗値が飽和し、広い温度範囲で抵抗値を変化させることができない。これに対し、導電パスの主要部を構成する導電性粒子を不連続に分散させると、半導体特性に加えてトンネル伝導性あるいはホッピング伝導性が重畳されるので、広い温度範囲にわたって抵抗値を直線的に変化させることができると考えられる。
【0032】
導電性粒子及び第2導電性粒子の間隔は、材料の抵抗値に影響を与える。一般に、導電性粒子及び第2導電性粒子の間隔が短すぎると、抵抗値が低くなり、検出可能な温度範囲も狭くなる。従って、導電性粒子及び第2導電性の間隔は、平均で10nm以上が好ましい。また、導電性粒子や第2導電性粒子の間隔が短くなりすぎると、温度抵抗係数が大きく減少する。
一方、導電性粒子及び第2導電性粒子の間隔が大きくなりすぎると、抵抗値が大きくなり、電流値の検出が困難となる。従って、導電性粒子及び第2導電性粒子の間隔は、平均で200nm以下が好ましい。
【0033】
[1.7. 粒径比]
一般に、導電性粒子及び第2導電性粒子とマトリックス材料の結晶粒及び/又はその集合体の粒径比が大きくなるほど、導電パスをネットワーク状に形成するのが容易化する。マトリックス材料の結晶粒又はその集合体の平均粒径(D
1)と導電性粒子及び第2導電性粒子の平均粒径(D
2)との比(=D
1/D
2)は、1.5以上が好ましい。粒経比(D
1/D
2)は、さらに好ましくは、2.0以上である。
一方、粒経比を必要以上に大きくしても、サーミスタ材料の焼結性を損なうことになり、実益がない。従って、粒経比は、100.0以下が好ましい。粒経比は、さらに好ましくは、20以下である。
ここで、「平均粒径」とは、顕微鏡で断面を観察した時の粒子又は粒子の集合体の最大長さの平均値をいう。
【0034】
[1.8. 第2導電性粒子とホウ素の総添加量]
第2導電性粒子は、主として材料の比抵抗値に影響を及ぼすが温度抵抗係数(B値)にも影響を及ぼす。同様に、ホウ素は、主として材料の温度抵抗係数(B値)に影響を及ぼすが、比抵抗値にも影響を及ぼす。従って、材料の温度抵抗係数(B値)を適正化するためには、第2導電性粒子及びホウ素の個々の添加量に加えて、これらの総添加量も適正化するのが好ましい。一般に、総添加量が多すぎる場合及び少な過ぎる場合のいずれも、温度抵抗係数(B値)が低下する。
第2導電性粒子がTiB
2である場合において、温度抵抗係数(B値)を0.01以上とするためには、第2導電性粒子とホウ素の総添加量は、1wt%以上が好ましい。総添加量は、さらに好ましくは、2wt%以上、さらに好ましくは、3wt%以上である。
同様に、第2導電性粒子とホウ素の総添加量は、11wt%以下が好ましい。総添加量は、さらに好ましくは、10wt%以下、さらに好ましくは、9wt%以下である。
【0035】
[1.9. 温度抵抗係数(B値)及び比抵抗値]
一般に、温度抵抗係数(B値)が大きくなるほど、低温域における温度測定を高精度に行うことができる。しかしながら、温度抵抗係数(B値)が大きくなりすぎると、温度−抵抗(電圧)の関係を直線近似できなくなり(すなわち、温度に対する抵抗変化が激減し)、かえって測定精度が低下する。
また、一般に、温度抵抗係数(B値)が大きくなるほど、比抵抗値も増大する傾向がある。比抵抗値が過度に増大すると、それに伴って電流量が大幅に減少し、電圧変化の検出が困難となる。
これに対し、導電性粒子、第2導電性粒子、及び、ホウ素の添加量を最適化すると、材料の温度抵抗係数(B値)及び室温における比抵抗値の双方を、低温用サーミスタ材料に適した値とすることができる。
【0036】
具体的には、これらの添加量を最適化することにより、温度抵抗係数(B値)は、0.010以上0.025以下となる。これらの添加量をさらに最適化すると、温度抵抗係数(B値)は、0.015以上0.025以下となる。
同様に、これらの添加量を最適化することにより、室温における比抵抗値は、0.1kΩcm以上2000kΩcm以下となる。これらの添加量をさらに最適化すると、室温における比抵抗値は、10kΩcm以上500kΩcm以下となる。
【0037】
[2. 低温用サーミスタ材料の製造方法]
本発明に係る低温用サーミスタ材料の製造方法は、混合工程と、成型・焼結工程とを備えている。
【0038】
[2.1. 混合工程]
混合工程は、マトリックス粉末と、導電性粉末と、第2導電性粉末と、ホウ素粉末と、必要に応じて焼結助剤とを混合する工程である。
原料混合物は、マトリックス粉末、導電性粉末、第2導電性粉末及びホウ素粉末のみを含むものでも良く、あるいは、必要に応じて、焼結助剤、バインダー、分散剤などがさらに含まれていても良い。
マトリックス粉末、導電性粉末及び第2導電性粉末を構成する材料の詳細、並びに、ホウ素粉末及び焼結助剤の詳細については、上述した通りであるので説明を省略する。
【0039】
導電性粉末、第2導電性粉末及びホウ素粉末の添加量は、サーミスタ材料の温度抵抗係数(B値)及び室温における比抵抗値に影響を与える。
従って、低温域における高精度な温度測定を可能とするためには、
(a)低温用サーミスタ材料の温度抵抗係数(B値)が0.010以上0.025以下となり、かつ、
(b)低温用サーミスタ材料の室温における比抵抗値が0.1kΩcm以上2000kΩcm以下となるように、
これらの原料を混合する必要がある。
【0040】
マトリックス材料として相対的に焼結温度が低いものを用い、導電性粒子及び第2導電性粒子として相対的に焼結温度が高いものを用いると、導電性粒子及び第2導電性粒子を粒成長させることなくマトリックス材料の結晶粒のみを任意の大きさに粒成長させることができる。このような方法により、マトリックス材料の結晶粒及び/又はその集合体の周囲に導電性粒子及び第2導電性粒子をネットワーク状に分散させることができる。粒子間隔や分散状態は、焼結温度で制御することができる。
しかしながら、焼結温度のみで制御するよりも、予め平均粒径の異なる粉末を出発原料に用いた方が、導電性粒子及び第2導電性粒子のネットワーク化がさらに容易化する。そのためには、マトリックス粉末の平均粒径(d
1)と導電性粉末及び第2導電性粉末の平均粒径(d
2)との比(d
1/d
2)は、1.5〜100が好ましい。
導電性粉末、第2導電性粉末及びホウ素粉末の添加量(又は、含有量)の詳細については、上述した通りであるので説明を省略する。
【0041】
[2.2. 成形・焼結工程]
成形・焼結工程は、混合工程で得られた混合物を成形及び焼結する工程である。
成形方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択すればよい。成形方法としては、具体的には、プレス成形法、CIP成形法、鋳込み成形法、可塑成形法などがある。また、焼結後の仕上加工の工数を削減するために、成形体に対して生加工を施しても良い。
【0042】
焼結温度は、材料組成に応じて最適な温度を選択する。一般に、焼結温度が高くなるほど、高密度の焼結体が得られる。また、焼結温度が高くなるほど、マトリックス材料の結晶粒の粒成長が進行し、導電性粒子及び第2導電性粒子がネットワーク状に分散しやすくなる。例えば、SiC含有量が20〜30vol%であるSi
3N
4−SiC複合体の場合、焼結温度は、1800〜1880℃が好ましい。
焼結時間は、焼結温度に応じて、最適な時間を選択する。
緻密な焼結体を得るためには、ホットプレス処理やHIP処理等の加圧焼結が好ましい。
【0043】
得られた焼結体を適当な大きさに切断し、両面に電極を接合すれば、低温用サーミスタが得られる。電極の材質は、特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の材料を用いることができる。電極は、熱膨張係数がマトリックス材料に近い金属又は化合物からなる材料が好ましい。
【0044】
[3. 低温用サーミスタ材料及びその製造方法の作用]
本発明に係る低温用サーミスタ材料は、第2相粒子(導電性粒子、第2導電性粒子)がマトリックス材料の結晶粒(第1相)の粒界に存在しており、第2相粒子が全体として三次元網目状の構造を形成している。第1相は絶縁性であるのに対し、第2相粒子は半導体(α型SiC)と金属的導電材料(第2導電性粒子)からなる。さらに、第2相粒子同士は、サブミクロン又はナノメートルオーダーで近接して第2相を形成する。そのため、このような構造を備えたサーミスタ材料に通電した場合、電流は第2相を経路として流れることになる。つまり、第2相は導電パスとして機能する。
【0045】
このような導電パスが形成されたサーミスタ材料において、ホウ素をさらに添加すると、比抵抗値が適正に維持されたまま、温度抵抗係数(B値)が大きくなる。原料組成を最適化すると、温度抵抗係数(B値)は、特許文献1に記載されているワイドレンジサーミスタの約3.5倍となる。その結果、低温域における検出電圧範囲が1〜2Vから0〜4Vに拡大し、これによって狭い温度範囲でも高精度の温度測定が可能となる。
【0046】
第2導電性粒子及びホウ素が添加されたサーミスタ材料において、温度抵抗係数(B値)は、主として、
(1)α型SiC(温度抵抗係数(B値)が大きい半導体)の添加量、すなわちSiC粒子間隔(電子伝導原理:ホッピング伝導>トンネル伝導)、
(2)α型SiCへのBドープ量(α型SiCの温度抵抗係数(B値)の制御)、及び、
(3)ホウ素の添加量
により制御する。
一方、サーミスタ材料の抵抗値は、主として第2導電性粒子の添加量で制御する。
【0047】
ホウ素添加により温度抵抗係数(B値)の制御が可能となる原理は不明であるか、ホウ素添加によって何らかの原因により複合材料中を電子が伝導しにくくなり、このような特性が温度変化によって、より大きく現れるようになったためと推定される。
一つの推察として、
(1)電子伝導が可能となる範囲でSiC添加量を低くすることにより、電子伝導の原理がSiC粒子を主体としたホッピング伝導となるため、
(2)SiC粒子間にB系化合物を介在させることによって、ホッピング伝導度あるいはトンネル伝導度がさらに制御されるため、及び、
(3)B自体が大きな温度抵抗係数を発現しているため
と考えられる。
【実施例】
【0048】
[1. 試料の作製]
市販のSi
3N
4粉末(平均粒径:1.0μm)に、15〜30wt%のα型SiC、6wt%のY
2O
3、0〜20wt%のB、及び、0〜5wt%のTiB
2を添加し、エタノール中で混合し、混合物を蒸留、乾燥した。α型SiCは、Si
3N
4粉末との粒径比d
SN/d
SCが2.5であるものを用いた。
得られた混合粉末を20MPaの圧力で一軸成形した。さらにホットプレスを用いて、成形体を焼結し、サーミスタ素材を得た。このサーミスタ素材から薄板形状の温度センサ素子を切り出し、電極付けを行った。
【0049】
また、Si
3N
4粉末に代えて、市販のZrO
2粉末(平均粒径:1.0μm)又はAl
2O
3(平均粒径:1.5μm)を用いた以外は、上記と同様にして、サーミスタを作製した。
【0050】
[2. 試験方法]
得られたサーミスタを電気炉に入れ、種々の温度における抵抗値を測定した。得られた抵抗値から比抵抗値を算出し、温度抵抗係数(B値)を評価した。
【0051】
[3. 結果]
表1に、各試料の組成、温度抵抗係数(B値)、及び、室温における比抵抗値を示す。
図1に、TiB
2+B量と温度抵抗係数(B値)との関係を示す。
図2に、所定量のTiB
2と所定量のBの双方を含む低温用サーミスタ材料と、30wt%SiC+0.6wt%TiB
2を含むサーミスタ材料の温度抵抗係数(B値)を示す。さらに、
図4に、α型SiCの添加量(TiB
2:0.6wt%、B:1.0wt%)と温度抵抗係数の関係を示す。表1及び
図1〜2、4より、以下のことが分かる。
【0052】
(1)Bのみ又はTiB
2のみが添加された場合、温度抵抗係数(B値)が0.01未満となるか、あるいは、室温における比抵抗値が25MΩcmを超える(No.21〜26)。
(2)B及びTiB
2の双方が添加された場合であっても、SiC、B及び/又はTiB
2の添加量が相対的に少ないときには、室温における比抵抗値が25MΩcmを超える(No.22)。
【0053】
(3)B及びTiB
2の双方が添加され、かつ、適量のSiCが添加されている場合には、温度抵抗係数(B値)が0.010以上0.025以下となり、かつ、室温における比抵抗値が0.1kΩcm以上2000kΩcm以下となる(No.1〜3、5〜6、8〜13、16〜17)。
(4)B、TiB
2及びSiCの添加量を最適化すると、温度抵抗係数(B値)が0.010以上0.025以下となり、かつ、室温における比抵抗値が10kΩcm以上500kΩcm以下となる(No.1、7、9〜11、16、17)。
(5)若干のばらつきはあるが、TiB
2+B量を1〜11wt%の範囲とすると、温度抵抗係数(B値)が0.01以上になる(
図1)。
(6)TiB
2量及びB量が一定である場合、SiC添加量が多くなるほど、温度抵抗係数(B値)が減少する(
図4)。
【0054】
【表1】
【0055】
サーミスタ材料をプルアップ抵抗と共に回路に組み付けた場合の温度−出力電圧を測定した。
図3に、所定量のTiB
2と所定量のBの双方を含む低温用サーミスタ材料と、30wt%SiC+0.6wt%TiB
2を含むサーミスタ材料の、温度と電圧の関係を示す。
TiB
2のみを含むサーミスタの場合、温度抵抗係数が0.005と小さいことから、温度に対する出力電圧の変化が約1Vと小さく、0〜5Vの電圧範囲で使用する場合、検出精度が悪い。これに対し、B及びTiB
2の双方を含む試料No.9の場合、温度抵抗係数が0.02と大きいことから、温度に対する出力電圧の変化が約3.5Vとなった。
【0056】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。