(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5765304
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】厚板用連続鋳造鋳片及びその連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/108 20060101AFI20150730BHJP
B22D 11/10 20060101ALI20150730BHJP
B22D 11/11 20060101ALI20150730BHJP
B22D 11/117 20060101ALI20150730BHJP
B22D 11/00 20060101ALI20150730BHJP
B22D 1/00 20060101ALI20150730BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20150730BHJP
C22C 38/08 20060101ALI20150730BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
B22D11/108 D
B22D11/10 360D
B22D11/11 B
B22D11/11 C
B22D11/117
B22D11/108 C
B22D11/108 A
B22D11/108 B
B22D11/00 A
B22D1/00 F
C22C38/00 302B
C22C38/08
C22C38/58
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-184208(P2012-184208)
(22)【出願日】2012年8月23日
(65)【公開番号】特開2014-39954(P2014-39954A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2014年8月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】水上 英夫
(72)【発明者】
【氏名】山中 章裕
(72)【発明者】
【氏名】川畑 友弥
(72)【発明者】
【氏名】川原 啓督
【審査官】
田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−218370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/108
B22D 1/00
B22D 11/00
B22D 11/10
B22D 11/11
B22D 11/117
C22C 38/00
C22C 38/08
C22C 38/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚板製造用の連続鋳造された鋳片であって、該鋳片は、
質量%で、
C:0.01〜0.12%、
Si:0.01〜0.6%、
Mn:0.3〜2.0%、
P:0.05%以下、
S:0.008%以下、
Ni:5.5〜10.0%、
Al:0.005〜0.05%、
N:0.0005〜0.006%、
O:0.001〜0.015%、
Bi:0.0001〜0.03%、
を含んでなり、
残部がFe及び不純物であり、
平均結晶粒径が4〜9mmであり、
結晶粒のアスペクト比が1.0〜1.4である、
連続鋳造鋳片。
【請求項2】
さらに、質量%で、
Cu:2.0%以下、
Cr:1.5%以下、
Mo:0.5%以下、
V:0.1%以下、
B:0.005%以下
のうちの1種以上を含んでなる、請求項1に記載の連続鋳造鋳片。
【請求項3】
さらに、質量%で、
Nb:0.1%以下、
Ti:0.1%以下、
のうちの1種以上を含んでなる、請求項1又は2に記載の連続鋳造鋳片。
【請求項4】
さらに、質量%で、
Ca:0.0001〜0.005%、
Mg:0.0001〜0.005%、
REM:0.0001〜0.005%
を含んでなる、請求項1〜3のいずれかに記載の連続鋳造鋳片。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の鋳片を製造するための連続鋳造方法であって、
タンディッシュ内の溶鋼又は鋳型内の溶鋼中に、Bi、Mg、Ca及び/又はREMを含有する金属の蒸気及び/又は粒子を供給する工程を備える、
連続鋳造方法。
【請求項6】
前記金属の蒸気及び/又は粒子が、浸漬ランスを介してキャリアガスとともに前記溶鋼中に供給される、請求項5に記載の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造過程において金属元素を添加することにより得られる結晶粒が微細な鋳片、当該鋳片の連続鋳造方法、さらには当該鋳片を素材として製造された厚板用鋼材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
厚板用鋼材は、主として建築、土木、建設機械、造船、パイプ、タンク、海洋構造物等の構造用鋼材として使用されている。このうち、タンクに用いられる極低温用の厚板用鋼材はLPG(Liquefied Petroleum Gas)やLNG(Liquefied Natural Gas)等の液化ガスを極低温域で貯蔵するために主に用いられている。これらの液化ガスを液体は−60℃以下の極低温において貯蔵され、特にLNGについては−165℃の極低温において貯蔵される。このため、極低温用の厚板用鋼材は、安全性確保の観点から極低温での優れた破壊靭性が要求される。中でも、貯蔵用タンクの製作時に材料が受ける冷間塑性加工を行った後でも、脆性破壊の発生を抑制できる特性が求められる。
【0003】
これには、鋼材中にNiを添加することが有効であることが知られており、特にNiを9%添加した鋼材は日本工業規格にも規定されている。ここで、鋼材中にNiが5質量%以上含有される場合、初晶がオーステナイトとなり、オーステナイト単相で凝固が完了する。しかも凝固時の液相線温度と固相線温度との差が約10℃と小さく、凝固シェル中の温度勾配が大きな状態で凝固が完了することから、凝固シェルには大きな熱応力が作用することとなる。このため、連続鋳造鋳片の表面に熱応力割れが発生し、これを除去する必要があり、歩留まりが低下するだけでなく多大な労力を要し製造コストが増えることとなっていた。
【0004】
この問題に対しては、凝固組織及び結晶粒を微細化するとともに、結晶粒の粗大化を抑制することが重要である。例えば、特許文献1には、Niを5質量%以上含有する炭素鋼を連続鋳造するに際し、鋳片表層の凝固組織のデンドライトの二次アーム間隔を40μm未満に制御し、ついで連続鋳造鋳型により下流に設置された二次冷却帯の冷却能を制御して割れを無くす製造方法が開示されている。しかしながら、鋳片表層の凝固組織のデンドライトの二次アーム間隔は、連続鋳型内にて形成され、モールドパウダーを介した鋳型による冷却に依存することとなる。連鋳鋳型は上下にオシレーションしており、凝固シェルと鋳型との間にモールドパウダーを流入させて潤滑性を高めているが、鋳型の幅方向で必ずしも均一に流入しておらず、冷却は不均一となる。また、鋳型内に浸漬されたノズルより溶鋼が供給されるが、鋳型の幅方向及び鋳造方法での流れの状態が均一でないため、凝固シェルの冷却状態も均一とはならない。このため、冷却が不均一となって凝固シェルの厚みも一定とならず、熱応力割れを低減することは困難である。さらに、冷却が不均一で冷却速度が小さな領域では、デンドライトの二次アーム間隔が大きくなり、所望の値を満たすことは困難となる。
【0005】
ところで、厚板用鋼材を製造するには、素材となる連続鋳造鋳片も厚くなり、連続鋳造鋳片の凝固組織は鋳片表層から厚み中央部に向かうにつれて粗大化する。凝固組織は通常デンドライト状であり、デンドライトの一次アーム間隔が生成された後に二次アーム間隔が形成される。
【0006】
Niを5質量%以上含有する鋼材の場合、オーステナイト単相で凝固が完了するため、デンドライトで方向の揃った一次アームの集団の境界と、結晶粒の境界とが一致することが知られており、結晶粒を微細化するにはデンドライトの一次アームを微細化することが必要である。また、厚板用鋼材の場合、厚み方向における機械的特性の確保も重要であることから、連続鋳造鋳片の厚み中央部においても結晶粒の微細化が必要である。しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は、鋼材の厚み中央部の組織を微細化することまで考慮したものではない。
【0007】
結晶粒の粗大化を抑制する技術としては、大入熱溶接時の鋼材HAZ(Heat Affected Zone)に対しての技術が提案されており、例えば、特許文献2には、Mgを添加することによりMgO若しくはMg含有酸化物を核にして、酸化物を包含若しくは周辺に析出した窒化物より構成される大きさ0.01〜2.0μmの酸化物−窒化物の複合粒子を1mm
2当たり1.0×10
5〜1.0×10
8個含む鋼材を作製し、超大入熱溶接時の結晶粒の粗大化を抑制することが開示されており、これによりHAZ靭性の良好な鋼材を製造することができるとしている。
【0008】
このように、鋼材の組織の粗大化を抑制するには、溶鋼中に金属元素を添加することが有効である。ここで、鋼材の特性を安定して確保するためには、溶鋼中に添加された金属元素が凝固後の鋳片内において均一に分散している必要がある。しかしながら、一般に、鋼材は、連続鋳造を経て製造される場合が多く、金属元素の種類によっては、その連続鋳造スラブ内に均一に分散させることが困難な場合が多い。
【0009】
溶鋼中に金属元素を添加する方法としては、塊状の金属を溶鋼湯面に投入する方法、金属ワイヤー、アルミニウムや鋼等によって被覆した金属ワイヤー若しくは金属元素を含有する合金で作製したワイヤーにより添加する方法等が採用されている。しかしながら、これらの方法では、Ag、Bi、Mg、Ca、Nd、Snなどといった蒸気圧が高く若しくは融点の低い金属元素を精度良く安定して添加することは困難である。というのも、金属元素を溶鋼湯面に添加する場合、溶鋼の湯面近傍において、金属元素が気化して大気中に放散され、溶鋼中への添加量を制御することが難しいためである。それゆえ、添加歩留まりも低下し、金属元素の均一な添加・分散も困難となる。
【0010】
また、これらの金属元素は、気化する際の体積膨張が大きいことから、溶鋼の湯面近傍で気化した場合に、溶鋼の飛散が激しく、操業上の安全の確保が困難である。さらに、添加金属元素の融点が低い場合には、添加前に溶鋼の輻射熱によって軟化或いは溶融するため、所望の量だけ添加することが困難となる。溶鋼よりも密度が小さな金属元素を添加する場合には、添加された金属が溶鋼の表層部にのみ偏在して、溶鋼の内部にまで侵入せず、一方で、溶鋼よりも密度が大きな金属元素を添加する場合には、添加位置から溶鋼内部に沈降するのみで溶鋼全体に均一に混合させることが困難となる。また、これらの金属は、連続鋳造用の浸漬ノズル等を構成する耐火物に付着し、浸漬ノズルを閉塞させる可能性があり、これらの金属元素を含む溶鋼を用いて連続鋳造の安定操業を行うことは難しい。
【0011】
特許文献3には、溶鋼へのBi添加方法であって、取鍋を出てタンディッシュ内の溶鋼浴面へと移動している溶鋼流にBiを添加する方法が開示されている。しかしながら、BiはMgと同様に沸点が低く、溶鋼流と接触すると爆発的に反応し、蒸気となって系内に飛散するため、添加歩留まりが低下し、溶鋼中に均一に添加することもできない。したがって、Biが均一に分散された連続鋳造鋳片を得ることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−212972号公報
【特許文献2】特開2001−335882号公報
【特許文献3】特開2001−1116号公報
【特許文献4】特開2004−249315号公報
【特許文献5】特開2005−169404号公報
【特許文献6】特開2005−219072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その第一の課題は鋼材(鋳片)の結晶粒を微細化させることにある。第二の課題は、結晶粒の成長を抑制させるための介在物を微細分散させた厚板用鋼材を提供することにある。第三の課題は、このような厚板用鋼材を得るために必要な金属元素を溶鋼中に効率よく添加し、連続鋳造スラブ内に均一に分散させることのできる連続鋳造方法を提供することにある。
【0014】
尚、本願において、酸化物等の介在物が「微細分散」した状態とは、連続鋳造鋳片から採取した試料をSEMにより500〜2000倍の倍率で観察し、観察された析出物粒子200個当たりの平均粒子径が1μm以下であるような析出物が分散している状態を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
溶鋼中にNiが5質量%以上含まれていると、オーステナイト単相で凝固が完了するため、凝固後の鋼材にあっては、成長方向の同じデンドライト一次アームの集団の大きさによってオーステナイト粒径が決定されることとなる。すなわち、オーステナイト粒を微細化するには、デンドライト一次アーム間隔を減少させ、成長方向が同じデンドライトの集団を小さくすることが効果的と考えられる。ここで、デンドライト一次アーム間隔は次式で表すことが可能である。
【0016】
【数1】
(ここで、λ:デンドライト一次アーム間隔(μm)、D:拡散係数(m
2/s)、σ:固液界面エネルギー(J/m
2)、ΔT:凝固温度範囲(℃)である。)
【0017】
式(1)から分かるように、デンドライト一次アーム間隔λは、固液界面エネルギーσに依存し、このσを低減することで、λを減少させることができる。そこで本発明者らは、固液界面エネルギーを低減させることを目的に、溶鋼中に界面活性元素であるBiを添加する方法を発案した。
【0018】
一方、いったん形成された結晶粒の粗大化を抑制するには、高温において安定な微細な酸化物を鋼材中に分散させることや、この酸化物上に窒化物(TiN等)を析出させることが有効である。酸化物としては微細で高温において安定なMgOやMgO・Al
2O
3のようなMg含有酸化物が有効である。
【0019】
ここで、MgやBiのような蒸気圧が高い若しくは融点が低い金属元素を溶鋼中に添加する場合、添加金属は、溶鋼と接触するか若しくは溶鋼からの輻射熱を受けて、溶融するか若しくは気化する。溶鋼と接触する前、或いは、接触した瞬間に添加金属が溶融若しくは気化すると、添加金属を溶鋼中に均一に歩留まり良く添加することは困難である。
【0020】
連続鋳造鋳片内に金属元素を均一に添加するには、連続鋳造鋳型に近いタンディッシュ内の溶鋼又は連続鋳造鋳型内の溶鋼に添加する方法が最適である。これまでに本発明者らは、特許文献4〜6において、金属元素の蒸気或いは金属元素の化合物をタンディッシュ内の溶鋼又は連続鋳造鋳型内の溶鋼中に添加する方法を開示した。これらの方法により、金属元素或いは金属元素の化合物を溶鋼中に均一に、しかも歩留まり良く添加することが可能となった。
【0021】
以上のように、本発明者らは、結晶粒が微細な厚板用鋼板を製造するにあたり、金属元素を連続鋳造スラブ内に効率よく、しかも均一に添加するための連続鋳造方法を検討し、下記の(a)〜(c)の知見を得て、本発明を完成させたのである。
(a)厚板用鋼材の結晶粒を微細化するには、連続鋳片の凝固組織であるデンドライト一次アーム間隔を低減すれば良い。これには界面活性元素であるBiを添加することが効果的である。
(b)厚板用鋼材の結晶粒の粗大化の抑制には、連続鋳造鋳片内に微細な介在物を分散させることが有効である。微細な介在物を生成されるには、例えばMgやREMを添加することが効果的である。
(c)蒸気圧の高い若しくは融点の低い金属元素を溶鋼中に添加する場合、添加金属は、溶鋼と接触するか若しくは溶鋼からの輻射熱を受けて、溶融若しくは気化する。溶鋼中に添加する以前に若しくは添加した瞬間に金属元素が溶融若しくは気化すると、添加金属を溶鋼中に均一に且つ歩留まり良く添加することは困難である。このような問題を解決し、連続鋳造鋳片内に金属元素を均一に添加するには、連続鋳造鋳型に近いタンディッシュ内の溶鋼或いは連続鋳造鋳型内の溶鋼に、金属元素の蒸気等を添加する方法が最適である。
【0022】
本発明は上記の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は、下記の(1)〜(4)に示す連続鋳造鋳片並びに(5)及び(6)に示す連続鋳造方法にある。
(1)厚板製造用の連続鋳造された鋳片であって、当該鋳片は、質量%で、C:0.01〜0.12%、Si:0.01〜0.6%、Mn:0.3〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.008%以下、Ni:
5.5〜10.0%、Al:0.005〜0.05%、N:0.0005〜0.006%、O:0.001〜0.015%、Bi:0.0001〜0.03%を含んでなり、残部がFe及び不純物であり、平均結晶粒径が4〜9mmであり、結晶粒のアスペクト比が1.0〜1.4である、連続鋳造鋳片。
(2)さらに、質量%で、Cu:2.0%以下、Cr:1.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下、B:0.005%以下のうちの1種以上を含んでなる、(1)に記載の連続鋳造鋳片。
(3)さらに、質量%で、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下のうちの1種以上を含んでなる、(1)又は(2)に記載の連続鋳造鋳片。
(4)さらに、質量%で、Ca:0.0001〜0.005%、Mg:0.0001〜0.005%、REM:0.0001〜0.005%を含んでなる、(1)〜(3)のいずれかに記載の連続鋳造鋳片。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の鋳片を製造するための連続鋳造方法であって、タンディッシュ内の溶鋼又は鋳型内の溶鋼中に、Bi、Mg、Ca及び/又はREMを含有する金属の蒸気及び/又は粒子を供給する工程を備える、連続鋳造方法。
(6)金属の蒸気及び/又は粒子が浸漬ランスを介してキャリアガスとともに溶鋼中に供給される、(5)に記載の連続鋳造方法。
【0023】
本発明において「平均結晶粒径」とは、以下のようにして求めた値である。すなわち、連続鋳造鋳片の厚み中央近傍の±10mmの領域から試料を採取し、鋳片表面と平行な20mm角の面の組織を観察する。組織は、エメリー・ペーパーを用いて研磨後、さらにダイヤモンドの砥粒が6μmおよび1μmの研磨剤を用いて、研磨するものとする。ここで、試料の結晶粒を顕出するため、ピクリン酸溶液を用いてエッチングを行なう。顕出された結晶粒について、それぞれ水平フェレ径及び垂直フェレ径を求め、水平フェレ径及び垂直フェレ径それぞれについての平均粒子径を求め、これをさらに平均して平均結晶粒径とする。
【0024】
本発明において「結晶粒のアスペクト比」とは結晶粒の長径を短径で除した値を意味する。また、本発明において「金属の蒸気及び/又は粒子」とは、金属蒸気及び/又は蒸発が不十分なために液体若しくは固体粒子として存在する金属粒子或いは金属蒸気が凝縮して形成される金属粒子を意味する。ここで、「金属」とは、純金属及び金属の合金を含む。「溶鋼中に…金属の蒸気及び/又は粒子を供給する」とは、言い換えれば、溶鋼の湯面よりも下方から金属蒸気や粒子を供給することを意味する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、溶鋼中に界面活性元素であるBiを均一に分散させることができ、連続鋳造鋳片内のデンドライト一次アーム間隔を微細化し、鋳片の表面から内部にかけて結晶粒を微細化させた厚板用鋳片を提供することができる。或いは、本発明によれば、溶鋼中にMg、Ca、REM等を均一に分散させることができ、結晶粒の成長を抑制させるための介在物を微細分散させた厚板用鋳片を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】一実施形態に係る本発明の連続鋳造方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<厚板製造用連続鋳造鋳片>
本発明に係る厚板製造用連続鋳造鋳片は、質量%で、C:0.01〜0.12%、Si:0.01〜0.6%、Mn:0.3〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.008%以下、Ni:5.0〜10.0%、Al:0.005〜0.05%、N:0.0005〜0.006%、O:0.001〜0.015%、Bi:0.0001〜0.03%、を含んでなり、残部がFe及び不純物であり、これら成分が均一に分散されてなることで、平均結晶粒径が4〜9mm、結晶粒のアスペクト比1.0〜1.4を満たすものである。
【0028】
C:0.01〜0.12%
Cは、強度及び靱性を確保するために有効な元素である。その含有量が0.01%未満では上記の効果が充分に得られず、一方、その含有量が0.12%を超えて高くなると母材の靭性が低下する。上記の理由から、C含有量の適正範囲を0.01〜0.12%とした。C含有量のより好ましい範囲は0.03〜0.09%である。
【0029】
Si:0.01〜0.6%
Siは、鋼材の高強度化のために有効な元素である。その含有量が0.01%未満では母材の強度を確保できず、一方、その含有量が0.6%を超えると溶接性が低下する。上記の理由から、Si含有量の適正範囲を0.01〜0.6%とした。Si含有量のより好ましい範囲は0.03〜0.3%である。
【0030】
Mn:0.3〜2.0%
Mnは、鋼材の高強度化と靱性の確保のために有効な元素である。上記の効果を得るためにはその含有量を0.3%以上とする必要がある一方、その含有量が2.0%を超えて高くなると、靱性が損なわれる。上記の理由から、Mn含有量の適正範囲を0.3〜2.0%とした。Mn含有量のより好ましい範囲は0.5〜1.5%である。
【0031】
P:0.05%以下
Pは、鋼材の延性及び靱性及び加工性を劣化させる元素であることから、その含有量を0.05%以下、より好ましくは0.03%以下に制限する。
【0032】
S:0.008%以下
Sは、不純物元素として鋼中に存在し、多すぎる場合には連続鋳造鋳片の中心偏析を助長したり、脆性破壊の原因となるMnS介在物などを形成する。特に、0.08%を超えると母材の靭性が低下するので、その含有量を0.08%以下、より好ましくは0.003%以下に制限する。
【0033】
Ni:5.0〜10.0%
Niは、極低温用鋼として靭性を確保するために必要で重要な元素である。極低温用鋼として靭性を確保するには5.0%以上を含有させることが必要である。Niの含有量が多いほど極低温における靭性が良好となるが、10%を超えると製造コストが上昇する。上記した理由から、Ni含有量の適正範囲を5.0〜10.0%とした。Ni含有量のより好ましい範囲は5.5〜9.0%である。
【0034】
Al:0.005〜0.05%
Alは、溶鋼の脱酸元素であると同時に、セメンタイトの析出を抑制して焼き戻しでのオーステナイトの安定化を改善する作用を有する。さらに、Alは鋼中のNと結合してAlNを生成し、鋳片の加熱時のオーステナイト粒の粗大化を抑制する効果がある。このような効果を得るには0.005%以上含ませることが必要である。しかし、含有量が0.05%を超えると靭性の劣化を招く。このため、Al含有量の適正範囲を0.005〜0.05%とした。Al含有量のより好ましい範囲は0.007〜0.040%である。
【0035】
N:0.0005〜0.006%
Nは、オーステナイトの安定化に寄与する元素である。また、NはAlやTiと反応してAlN、TiNを析出させるために必要な元素である。ただ、その含有量が0.006%を超えて高くなると、靭性が低下する。一方で、工業的にNを完全に除去することは不可能であるため、実操業において低減可能な範囲を考慮すると、その下限は0.0005%とすることが好ましい。このため、N含有量の適正範囲を0.0005〜0.006%とした。N含有量のより好ましい範囲は0.001〜0.004%である。
【0036】
O:0.0001〜0.015%
Oは酸化物を生成させるために必要な元素である。0.0001%未満では酸化物の個数が不足する一方、0.015%を超えると酸化物が多くなり過ぎて靭性が低下する。このため、O含有量の適正範囲を0.0001〜0.015%とした。O含有量のより好ましい範囲は0.001〜0.0050%である。
【0037】
Bi:0.0001〜0.03%
Biは、本発明において最も重要な元素である。Biは鋼の凝固過程において界面活性元素として作用し、デンドライト状の凝固組織を微細化する効果を有する元素である。0.0001%未満ではこの微細化効果がほとんど無い。また、0.03%を超えて高くなると粗大なBi酸化物が生成し靭性を低下させる。また、Biは界面活性元素であることから、後述のMg含有酸化物上へのTiNやMnS等の析出を促進する効果があり、微細分散しているMg酸化物に析出させることで、粗大化し易いTiNやMnS等を微細分散化させることができる。その効果は0.0001%未満ではほとんど無い。上記の理由から、Bi含有量の適正範囲を0.0001〜0.03%とした。Bi含有量のより好ましい範囲は0.0005〜0.0100%である。
【0038】
本発明に係る鋳片は上記の組成を有する。本発明に係る鋳片は、後述するように所定の金属(特に、蒸気圧が高い金属或いは融点が低い金属)を溶鋼中に均一に分散しながら連続鋳造を行うことによって製造されるものであり、これにより、例えば、溶鋼中に界面活性元素であるBiを均一に分散させることができ、連続鋳造鋳片内のデンドライト一次アーム間隔を微細化し、鋳片の表面から内部にかけて結晶粒を微細化させることができる。すなわち、凝固過程において初晶晶出相がオーステナイトで且つオーステナイト単相で凝固が完了するNi含有鋳片において、鋳片表面から内部にかけてデンドライト一次アーム間隔を微細化することができ、機械的特性に優れ、表面に割れ等がない鋳片とすることができる。
【0039】
本発明に係る鋳片には、さらに下記の成分が含まれていることが好ましい。
【0040】
Cu:2.0%以下
Cuは、含有させれば焼入れ性の向上及び析出強化に有効な作用を有する元素である。しかし、Cu含有率が2.0%を超えて高くなると鋼の熱間加工性が低下する。そこで、本発明においては、その含有量を2.0%以下に制限する。特に好ましくは1.3%以下である。
【0041】
Cr:1.5%以下
Crは、含有させれば焼入れ性の向上、及び析出強化による母材強度の向上に有効な作用を発揮する元素であるが、その含有量が1.5%を超えると、靱性及び溶接性が劣化する傾向が認められる。そこで、本発明においては、その含有量を1.5%以下に制限する。特に好ましくは1.0%以下である。
【0042】
Mo:0.5%以下
Moは、含有させれば焼入れ性の向上及び強度の向上に有効な作用を発揮する元素であるが、その含有量が0.5%を超えて高くなると、鋼の靱性及び延性の低下ならびに溶接性の劣化が顕在化する。そこで、本発明においては、その含有量を0.5%以下に制限する。特に好ましくは0.3%以下である。
【0043】
V:0.1%以下
Vは、含有させれば炭化物や窒化物を生成して強度を向上させる作用を有する元素であるが、その含有量が0.1%を超えて高くなると、靱性を低下させる。そこで、本発明においては、その含有量を0.1%以下に制限する。特に好ましくは0.08%以下である。
【0044】
B:0.005%以下
Bは、含有させれば焼入れ性を増大させるが、BNを生成することで固溶Nを低下させ、HAZ部の靭性を向上させる効果があるが、その含有量が0.005%を超えて高くなると、鋼中に粗大な硼化物が析出し、これにより鋼の靱性が劣化する。そこで、本発明においては、その含有量を0.005%以下に制限する。特に好ましくは0.004%以下である。
【0045】
Nb:0.1%以下
Nbは、含有させれば炭化物や窒化物を生成して強度を向上させる作用を有する元素であるが、その含有量が0.1%を超えて高くなると、鋼中に粗大な炭化物や窒化物を形成するため、逆に靭性を低下させる。そこで、本発明においては、その含有量を0.1%以下に制限する。特に好ましくは0.08%以下である。
【0046】
Ti:0.1%以下
Tiは、主として炭窒化物を析出し、その析出強化作用により母材強度の向上に寄与する有効な元素であるが、その含有量が0.1%を超えて高くなると、鋼中に粗大な析出物や介在物を形成して、鋼の靱性を低下させる。そこで、本発明においては、その含有量を0.1%以下に制限する。特に好ましくは0.07%以下である。
【0047】
本発明においては、上記した金属元素のほか、Mg、Ca、REM等を溶鋼中に均一に分散させることで、結晶粒の成長を抑制させるための酸化物を微細分散させた鋳片を得ることができる。これにより、機械的特性に一層優れ、表面に割れが無い鋳片とすることができる。
【0048】
Ca:0.0001〜0.005%
Caは、溶鋼中の酸素と反応してCa酸化物を生成する。Ca酸化物としては、CaO単独の他にCaOとAl
2O
3、Ti
2O
3等の1種以上を含有する複合酸化物としても生成され得る。これらの酸化物を鋼中で微細分散させるためにはCaを0.0001%以上含有させることが必要である。しかし、その含有量が0.005%を超えて高くなると鋼中の粗大な酸化物系介在物量が増大し靭性が低下する。上記の理由から、Ca含有量の適正範囲を0.0001〜0.005%とした。Ca含有量のより好ましい範囲は0.004〜0.003%である。
【0049】
Mg:0.0001〜0.005%
Mgは、溶鋼中の酸素と反応してMg酸化物を生成する。Mg酸化物としては、MgO単独の他にMgOとAl
2O
3、Ti
2O
3等の1種以上を含有する複合酸化物としても生成され得る。これらの酸化物を鋼中で微細分散させるためにはMgを0.0001%以上含有させることが必要である。しかし、その含有量が0.005%を超えて高くなると鋼中の粗大な酸化物系介在物量が増大し靭性が低下する。上記の理由から、Mg含有量の適正範囲を0.0001〜0.005%とした。Mg含有量のより好ましい範囲は0.0003〜0.003%である。
【0050】
REM:0.0001〜0.005%
REMは、溶鋼中の酸素と反応してREM酸化物を生成する。REM酸化物としては、REM酸化物単独の他にREM酸化物とAl
2O
3、Ti
2O
3等の1種以上を含有する複合酸化物としても生成され得る。これらの酸化物を鋼中で微細分散させるためにはREMを0.0001%以上含有させることが必要である。しかし、その含有量が0.005%を超えて高くなると鋼中の粗大な酸化物系介在物量が増大し靭性が低下する。上記の理由から、その含有量の適正範囲を0.0001〜0.005%とした。REM含有量のより好ましい範囲は0.0003〜0.003%である。
【0051】
このように、本発明に係る鋳片において、金属或いは非金属介在物が微細分散されることで、鋳片表面から内部にかけてデンドライト一次アーム間隔を微細化することができることに加えて、鋼組織における結晶粒の成長を抑制することができ、機械的特性に一層優れ、表面に割れが無い鋳片とすることができる。
【0052】
本発明に係る鋳片は、平均結晶粒径が4〜9mm、結晶粒のアスペクト比1.0〜1.4を満たすものである。
【0053】
ここで、平均結晶粒径は小さいほど好ましいが、当該平均結晶粒径を4mm未満にするには、添加金属の量が多くなり過ぎ、製造コストが増大する。それゆえ、4mm以上とした。また、平均結晶粒径が9mmを超える場合は鋳片の表面割れが生じる虞がある。
【0054】
結晶粒のアスペクト比は、結晶粒の長径を短径で除した値であり、アスペクト比が1.0に近いほど結晶粒が等方的であることを意味する。すなわち、アスペクト比が1.0〜1.4であることによって、結晶粒が等方的となり、鋳片の機械的特性も方向性に依存せず均等となるため、連続鋳造時の強制曲げ時の外力が作用しても表面割れが発生し難くなる。また、結晶粒が等方的になると割れの伸展も等方的になり、割れの伝搬を停止させる特性、いわゆるアレスト性も向上する。結晶粒の異方性が大きいと、結晶粒の長径の方向に割れが伸展し易くなるためである。
【0055】
本発明において、鋳片における結晶粒の平均結晶粒径やアスペクト比が所定の範囲内となるためには、鋳片において添加金属元素が均一に分散されている必要がある。例えば、下記に示す本発明に係る連続鋳造方法によって鋳片を製造することで、表面から内部にかけて添加金属元素が均一に分散された鋳片を得ることが可能となり、結晶粒の平均結晶粒径やアスペクト比が上記範囲を満たす鋳片を得ることができる。
【0056】
<連続鋳造方法>
本発明に係る連続鋳造鋳片は、例えば、以下の連続鋳造方法により得ることができる。すなわち、本発明に係る連続鋳造方法は、タンディッシュ内の溶鋼又は鋳型内の溶鋼中に、Bi、Mg、Ca及び/又はREMを含有する金属の蒸気及び/又は粒子を供給する工程を備えることを特徴とする。
【0057】
溶鋼中にBi、Mg、Ca、REMを添加する方法としては、塊状の金属を溶鋼湯面に投入する方法、金属ワイヤー、アルミニウムや鋼等によって被覆した金属ワイヤー若しくは金属元素を含有する合金で作製したワイヤーにより添加する方法等が有り得る。しかしながら、これらの方法では、蒸気圧が高く若しくは融点の低い金属元素を精度良く安定して添加することは困難である。というのも、金属元素が溶鋼湯面に添加されると、溶鋼の湯面近傍において、金属元素が気化して大気中に放散され、溶鋼中への添加量を制御することが難しいためである。それゆえ、添加歩留まりも低下し、金属元素の均一な添加・分散も困難となる。
【0058】
尚、本発明において、Bi、Mg、Ca、REMを添加すると、鋳片内部で見られる結晶粒の成長が、無添加の場合と異なり、結晶粒の長径/短径の比であるアスペクト比が1.0〜1.4となることが今回初めて分かった。
【0059】
一方、本発明においては、タンディッシュ内の溶鋼又は鋳型内の「溶鋼中」に、Bi、Mg、Ca及び/又はREMを含有する「金属の蒸気及び/又は粒子」を供給するものとしている。すなわち、溶鋼湯面上部から各種金属を投入するのではなく、溶鋼中に(溶鋼の湯面よりも下方から)金属蒸気や粒子を供給することによって、上記した放散の問題を解決しつつ、溶鋼中に金属元素を均一に分散させることができる。特に以下に説明する形態にて、溶鋼中に金属蒸気や粒子を供給することが好ましい。
【0060】
図1に、一実施形態に係る本発明の連続鋳造方法の実施構成を示す。
図1に示すように、本発明に係る連続鋳造方法においては、まず、取鍋3からタンディッシュ2内に溶鋼1を供給する。そしてタンディッシュ2内の溶鋼1に浸漬ランス4の一端を浸漬させる。浸漬ランス4の他端にはワイヤー供給機5を接続する。ワイヤー供給機5にはワイヤー・リール51が装填され、ワイヤー繰出ロール52によってワイヤー繰出速度制御装置53の制御のもとで浸漬ランス4内にワイヤーを挿入する。一方、ワイヤー供給機5には流量圧力制御器55〜57を介してキャリアガス54を導入し、ワイヤーとともに浸漬ランス4内に供給する。これにより、浸漬ランス4に供給されたワイヤーは、ランス内で加熱されることで、或いは、ランスの出側の溶鋼1と接触することで、蒸気及び/又は粒子状となって、キャリアガスに同伴されながら溶鋼1中に供給され、溶鋼全体に行き渡ることとなる。このようにして添加金属が均一に分散された溶鋼1は、浸漬ノズル6を介して鋳型8へと供給され、鋳型8から連続的に引き抜かれて鋳片7となる。
【0061】
このように、溶鋼中に金属を添加する際は、金属の蒸気及び/又は粒子を、浸漬ランスを介してキャリアガスとともに溶鋼中に供給するものとすることで、上記した放散の問題をより適切に防止しつつ、一層容易に、溶鋼中に金属元素を均一に分散させることができる。
【0062】
以上の通り、本発明によれば、溶鋼中に界面活性元素であるBiを均一に分散させることができ、連続鋳造鋳片内のデンドライト一次アーム間隔を微細化し、鋳片の表面から内部にかけて結晶粒を微細化させた厚板用鋳片を提供することができる。或いは、本発明によれば、溶鋼中にMg、Ca、REM等を均一に分散させることができ、結晶粒の成長を抑制させるための介在物を微細分散させた厚板用鋳片を提供することができる。
【実施例】
【0063】
本発明の連続鋳造鋳片及び連続鋳造方法により奏される効果を確認するため、以下に示す連続鋳造試験を実施して、その結果を評価した。
【0064】
<鋳造条件>
溶鋼:表1に示す成分
溶鋼温度:1570℃(タンディッシュ内溶鋼温度)
鋳型サイズ:幅1400×厚250mm
鋳造速度:1.0m/分
金属添加方法:φ3mmの添加金属ワイヤーを浸漬ランス内に挿入
添加金属種類:Bi、Mg、Ca、Sr、Ba
添加位置:タンディッシュ内
キャリアガス:アルゴンガス10L/分
ランス前圧力:0.05MPa
【0065】
本実験では、溶鋼成分を変えて連続鋳造試験を行なった。具体的には、
図1に示すように、Bi、Mg、Ca、Sr、Baを添加する場合、ワイヤーを用いた本発明による連続鋳造方法により連続鋳造を行った。連続鋳造においては、まず、溶鋼1をタンディッシュ2内に取鍋3から供給した。そしてタンディッシュ内の溶鋼に浸漬ランス4の一端を浸漬させた。浸漬ランス4の他端には、ワイヤー供給機5が接続するものとし、ワイヤー供給機5にはワイヤー・リール51が装填されワイヤー繰出ロール52によりワイヤー繰出速度制御装置53の制御のもとで浸漬ランス4内にワイヤーを挿入するものとした。ワイヤー供給機5には流量圧力制御器55〜57を介してキャリアガス54を導入し、ワイヤーとともに浸漬ランス4内に供給した。これにより、浸漬ランス4に供給されたワイヤーを蒸気及び/又は粒子状とし、キャリアガスに同伴させながら溶鋼中に供給するものとした。
【0066】
連続鋳造して得られた鋳片について、厚み中央近傍の±5mmの領域から試料を採取し、鋳片表面と平行な20mm角の面の組織を観察した。組織は、エメリー・ペーパーを用いて研磨後、さらにダイヤモンドの砥粒が6μmおよび1μmの研磨剤を用いて、研磨した。試料の結晶粒を顕出するため、ピクリン酸溶液を用いてエッチングを行なった。顕出された結晶粒の平均粒径を求め、さらには、金属元素を添加しない表1の比較例1の試料の平均結晶粒径で除して結晶粒径指数(比較例1の平均結晶粒径を基準とした平均結晶粒径の比)を算出した。平均結晶粒径が小さいほど、すなわち結晶粒径指数が1.0より小さいほど、結晶粒の粗大化の抑制効果が大きいことを意味する。ここで、平均結晶粒径を4mm未満(結晶粒径指数を0.4未満)にするには、添加金属の量が多く製造コストが増えるため4mm以上(結晶粒径指数を0.4以上)が好ましいものとなる。また、平均結晶粒径が9mmを超える(結晶粒径指数が0.9を超える)場合は鋳片の表面割れ指数の低減効果が少ないといえる。
【0067】
また、この組織の観察結果を基に、結晶粒のアスペクト比を求めた。アスペクト比は、結晶粒の長径/短径の値であり、アスペクト比が1.0に近いほど結晶粒が等方的であることを意味する。結晶粒が等方的であると鋳片の機械的特性も方向性に依存せず均等となるため、連続鋳造時の強制曲げ時の外力が作用しても表面割れが発生し難くなる。また、結晶粒が等方的になると割れの伸展も等方的になり、割れの伝搬を停止させる特性、いわゆるアレスト性も向上する。結晶粒の異方性が大きいと、結晶粒の長径の方向に割れが伸展し易くなるためである。
【0068】
一方、比較例として、上記の添加金属を添加しない条件で連続鋳造を行い、添加金属を添加した場合と同様の試験および調査を行った。
【0069】
下記表1に実施例及び比較例に係る溶鋼成分を、表2に評価結果を示す。表1、2から明らかなように、本発明により、鋼板の結晶粒組織が均一で、結晶粒の粗大化抑制が可能であることが分かる。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う連続鋳造鋳片及び連続鋳造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る連続鋳造鋳片は、特にNiを5%以上含む厚板製造用の鋳片として好適に利用することができる。本発明に係る連続鋳造方法によれば、溶鋼中に界面活性元素であるBiを均一に分散させることができ、連続鋳造鋳片内のデンドライト一次アーム間隔を微細化し、鋳片の表面から内部にかけて結晶粒を微細化させた厚板用鋳片を得ることができる。或いは、本発明によれば、溶鋼中にMg、Ca、REM等を均一に分散させることができ、結晶粒の成長を抑制させるための介在物を微細分散させた厚板用鋳片を得ることができる。
【符号の説明】
【0074】
1:溶鋼、2:タンディッシュ、3:取鍋、4:浸漬ランス、5:ワイヤー供給機、51:ワイヤーリール、52:ワイヤー繰り出しロール、53:ワイヤー繰り出し速度制御装置:54:キャリアガス、55〜57:流量圧力制御機、6:浸漬ノズル、7:鋳片、8:鋳型