(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
山部と谷部が交互に連続するように基材が折り曲げられた構造をなすプリーツフィルターであって、折り曲げ部である前記谷部もしくは前記山部、または前記谷部と前記山部の両方に破断防止構造を備え、
前記破断防止構造は、前記基材の表面を覆う樹脂または前記基材の内部に浸透した樹脂を補強体とする樹脂補強構造であり、
前記プリーツフィルターの一の面から他の面に液体を濾過する場合に、前記一の面側に突出した折り曲げ部を山部、前記他の面側に突出した折り曲げ部を谷部と呼ぶ場合であって、
前記破断防止構造は、前記谷部の折り曲げ部の曲げ半径Rであって、
該曲げ半径R(mm)と前記基材の厚さt(mm)が、
2t≦R≦10t
の関係であるプリーツフィルター。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の内容を列記して説明する。本願発明は、(1)山部と谷部が交互に連続するように基材が折り曲げられた構造をなすプリーツフィルターであって、折り曲げ部である前記谷部もしくは前記山部、または前記谷部と前記山部の両方に破断防止構造を備えるプリーツフィルターである。
【0012】
ここで破断とは、後述のように、フィルター基材に生じる裂け目や微細な孔などであって、本来の濾過機能を損ねて濾過すべき対象物が通り抜ける程の損傷をいう。破断防止構造とは、そのような破断が生じ難くするためにフィルターに部材、変形、加工等を付加した構造の総称である。
【0013】
プリーツフィルターにおいては、濾過対象液の圧力によって、あるいはその圧力の変動によってプリーツの折り曲げ部分に応力や応力変動が集中しやすい。特に、濾過対象液が水等の液体の場合は、空気等の気体の場合に比べてフィルターが受ける圧力が大きく、フィルターが折り曲げ部にて破断しやすい。さらに、プリーツフィルター全体に均一の圧力が加わる場合でもプリーツフィルターの一部に圧力が集中したり変動したりする場合に破断の可能性が高くなる。発明者らの検討によると、この破断は、前述の山部や谷部となる折り曲げ部にて生じやすいことが確認できた。また、山部と谷部とでは、破断が生じやすい原因が異なることも判明した。
【0014】
谷部には濾過対象液の圧力により折り曲げを開こうとする方向の力が加わり、また圧力変動によって折り曲げ部の曲げ角度が変動(すなわちプリーツが開閉)することから、引張応力と繰り返し曲げによって破断の可能性が高まるものと考えられる。
【0015】
山部では濾過対象液の圧力によって折り曲げが閉じる方向に圧力が加わるので、谷部のような開く方向の応力は加わらないものの、繰り返し曲げは加わる。さらに山部では、複数連続した山部のうちの特定の2つの山部間に濾過対象液の圧力が集中した場合に、山部同士が開こうとする力が加わる。プリーツフィルター全体として上下端は固定されているため、山部同士が開こうとすると、山部の中央付近にて山部の稜線が鋭利に折れ曲がる変形を生じることとなる。このため、折れ曲がり部に破断が生じやすい。
【0016】
このような破断を防止するために、破断防止構造を設けることによって、濾過不良の発生を抑止できると共に、プリーツフィルターの強度が増し、寿命を延ばし、ひいては濾過装置の長期運転が可能となる。また、濾過装置としてはフィルターの交換にかかる部品および作業を含めた運用コストの低減を図ることが可能となる。さらには、濾過装置の濾過量や濾過速度を向上することが可能となる。
【0017】
(2)破断防止構造は、基材の表面を覆う樹脂または基材の内部に浸透した樹脂を補強体とする樹脂補強構造であると良い。フィルター基材に、より破断しにくい樹脂材料を複合することによって、破断の可能性を低くできる。
【0018】
(3)樹脂補強構造は、基材に樹脂を含浸して形成されても良い。比較的簡便な手段により樹脂を内部まで強固に補強できる点で好ましい。基材と補強体樹脂が一体となることで強度と寿命が効果的に向上する。含浸の手段は樹脂の塗布や浸漬など、基材中に樹脂が浸透して硬化する種々の手段を採用できる。なお、含浸により多孔質である基材の孔部を埋め、含浸部分が無孔質となる態様をも含む。無孔質となることで折り曲げ部の強度は一層補強される。含浸は、特に谷部の谷側表面、すなわち、濾過対象液が供給される側の表面に含浸されることが好ましい。また、山部の稜線に沿って含浸されると好ましい。
【0019】
(4)樹脂補強構造は、基材の表面に樹脂部材を貼付して形成されても良い。特に表面を覆う樹脂を厚くすることが可能となり、強固に補強できる点で好ましい。貼り付けは接着剤を用いても良く、樹脂自体の接着性を利用してもよい。これらの一形態として、補強体としての樹脂シートを熱融着により貼り付ける際に、融着された樹脂の一部が基材中に含浸する形態も挙げられる。
【0020】
(5)樹脂補強構造は、基材の表面に樹脂を塗布して形成されていると良い。簡便な手段により樹脂を複合することができ、製造が容易な点で好ましい。
【0021】
(6)破断防止構造は、プリーツフィルターの谷部または山部の頂部を縫製した縫製補強構造としても良い。縫製とは糸により縫い合わせる構造である。谷部または山部の稜線に沿って縫製補強することができる。具体的な縫製方法は一般に衣料等の布地端部を補強するために用いられる縫製方法を適用することができる。
【0022】
(7)プリーツフィルターの一の面から他の面に液体を濾過する場合に、前記一の面側に突出した折り曲げ部を山部、前記他の面側に突出した折り曲げ部を谷部と呼ぶ場合であって、破断防止構造は、谷部の折り曲げ部の曲げ半径Rであって、曲げ半径R(mm)と前記基材の厚さt(mm)が、2t≦R≦10tの関係であると良い。基材に折り曲げ加工を施すことで、折り曲げ部の頂部の基材の厚さは一般には元の基材の厚さより薄くなり、特に鋭角に折り曲げると、その部分に応力集中が生じて破断しやすい。折り曲げ部の曲げ半径を上述のようにすることで、破断を抑止できる。2tより小さくなると曲げ径による破断防止の効果が十分に得られない。また、プリーツの目的が折り畳むことによって体積当たりのフィルター面積を大きくすることであることを勘案すると、フィルターの隙間は数mm以内にすることが望ましく、これにともなって曲げ半径は10tより小さくすること
が好ましい。好ましくは5t以下、2t以上である。例えば、基材として500μmの不織布を用いた場合には、曲げ半径Rを1mm以上とすることが好ましい。より好ましい範囲は1〜2.5mmである。ここで、曲げ半径Rは、折り曲げられた谷部側表面に接する円の最小半径を指し、使用するプリーツフィルターの複数の谷部から抜き取った20サンプル以上の曲げ半径を、拡大鏡や写真等を用いて通常の寸法測定手法により測定して平均した値とする。
【0023】
(8)破断防止構造は、前記谷部の折り曲げ部に設けられた樹脂補強構造であり、かつ、前記谷部の折り曲げ部の曲げ半径Rと前記基材の厚さt(mm)が、2t≦R≦10tの関係であるとさらに良い。双方の効果を併せ持つことで、より補強の効果が発揮されるからである。
【0024】
プリーツフィルターが円筒形状フィルターである場合について以下説明する。(9)山部の稜線方向を円筒軸の方向として全体が円筒状をなし、円筒外側から円筒内側に向けて液体を濾過するためのプリーツフィルターであって、破断防止構造が円筒外側方向に突出した山部もしくは円筒内側方向に突出した谷部、またはそれら両方に設けられているプリーツフィルターである。円筒形状のプリーツフィルターにおいても好ましく上述の破断防止構造が適用できる。
【0025】
(10)山部の稜線に沿って樹脂を塗布して形成された樹脂補強構造を用いると好ましい。この場合、(11)樹脂はポリウレタンを用いると効果的である。また、(12)山部をその稜線に沿って縫製した縫製補強構造としても良い。
【0026】
一方、(13)谷部に設けられた破断防止構造は、前記基材表面を覆う樹脂または基材内部に浸透した樹脂を補強体とする樹脂補強構造とし、前記樹脂はポリプロピレンであることが好ましい。
【0027】
本願は、以下の通り上述の円筒形状のプリーツフィルターを用いた濾過装置として、バラスト水処理装置を開示する。
【0028】
すなわち、(14)プリーツフィルターは円筒上面と円筒底面をそれぞれ水密に封止し、かつ円筒軸を中心に回転可能に保持され、前記プリーツフィルターの外周面に向けて被処理水を流出する被処理水ノズルと、前記プリーツフィルターを囲むように設けられ前記被処理水ノズルのノズル口を内部に備えた外筒部を有するケースと、前記プリーツフィルターを透過した濾過水を前記プリーツフィルターの円筒内部から前記ケースの外部へ導出する濾過水流路と、前記プリーツフィルターで濾過されなかった排出水を前記ケースの外部へ排出する排出流路とを備えたバラスト水処理装置である。
【0029】
かかる構造の装置においては、円筒形状プリーツフィルターの円筒外部のノズル口から被処理水がプリーツフィルターの外側面に向かって噴出するため、プリーツの一部に被処理水の圧力が集中する。すると、プリーツが開く方向に圧力が加わり、上述の通り谷部と山部のそれぞれでフィルターが破断する可能性が高くなる。そこで、上述の破断防止構造を採用することにより、濾過不良の発生抑止、プリーツフィルターの長寿命化による装置の長期運転、運用コストの低減等の効果が期待できる。
【0030】
したがって、(15)上記記載のバラスト水処理装置を船体内に搭載し、船体外部から取得した海水を被処理水として用い、前記バラスト水処理装置により処理された濾過水にさらに殺滅処理を加えた後に、バラスト水として船体内に設けたタンクに貯留するバラスト水の処理方法を採用することで、同様の効果を得ることが可能となる。
【0031】
[本願発明の実施形態の詳細]
本発明にかかるプリーツフィルターおよびバラスト水の処理装置の構成を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0032】
(プリーツフィルターの構成)
図1は、本発明の実施形態としてプリーツフィルターの代表的構成を説明する斜視模式図である。このプリーツフィルター10は平面帯状の基材1を山谷交互に折りたたむことで、いわゆるプリーツ形状とし、さらに円筒状につなぎ合わせて構成されたものである。以下、特に効果的な代表例として円筒状のプリーツフィルターについて説明するが、本発明による破断防止構造はプリーツフィルターを円筒にすることなく平板状のフィルターとして用いる場合にも適用でき、同様の効果を奏するものである。
【0033】
図1において円筒状プリーツフィルター10の円筒外側から濾過対象液が供給され、フィルターの基材1によって濾過された液が円筒内側から排出される場合を想定する。濾過対象液(被濾過液)が接する側の面を濾過前面、濾過された濾過液が排出される側の面を濾過後面と呼び、以下の説明を行う。本例の構成では円筒外側のフィルター面が濾過前面、円筒内側のフィルター面が濾過後面に該当する。フィルターが平板等の場合においても、濾過の利用形態に応じて濾過前面か濾過後面かを読み替えれば良い。濾過前面から見てプリーツ形状の折り曲げ部の山部と谷部を定義する。
図1においては、例えば図中のV部が谷部であり、M部が山部である。
【0034】
フィルターの基材には多孔質樹脂シートが用いられる。材質として例えば、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等からなる延伸多孔質体、相分離多孔体、不織布等の多孔質構造物が利用されるが、高流量処理を行う目的においては、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルからなる不織布が特に好適に用いられる。
【0035】
図1において、折り曲げ部である谷部もしくは山部、または谷部と山部の両方に破断防止構造を設ける。谷部と山部についてそれぞれ説明する。
図2は、
図1のプリーツフィルターの円筒軸方向に直角な横断面の一部を拡大した図である。Vは谷部、Mは山部を指す。濾過前面からの濾過対象液の圧力を受けたプリーツフィルターにおいて、谷部には拡がろうとする向きの力Pが加わり、谷部の基材1に引っ張り応力が集中する。また、圧力の変動があると、折り曲げ部に繰り返し曲げが加わる。これらによって、特に谷部においては、折り曲げ部稜線に沿って裂けることによる孔が生じやすいと考えられる。このように、谷部においては、折り曲げ部を裂け難くする破断防止をおこなうことが好ましい。
【0036】
図3は、
図1のプリーツフィルターの一部を円筒側面方向から見た図である。Vは谷部、Mは山部を指す。濾過前面からの濾過対象液の圧力を受けたプリーツフィルターにおいて、全てのプリーツにほぼ均一の圧力が加わっている場合は、谷部とは逆に山部には山の位置はそのままで山を閉じようとする方向の力が加わることになる。一方、1つのプリーツ間(山と山との間)に、それと隣接するプリーツ間よりも大きな圧力が加わった場合には、その力は山部の稜線間隔を拡げようとする力となる。プリーツ全体がフリーな状態であれば、プリーツ全体の伸縮によりこの力を吸収する。しかし、濾過装置として構成されたプリーツフィルターは濾過のために端部は固定封止されている場合が多い。
図3であれば図の上下にあたるフィルター端部は他の部材に固定されている状態である。よって、上述の力が加わった場合、山部稜線の上下中央付近が拡がろうとする一方で上下端部は固定されていることから、稜線全体を引き延ばす方向の力が加わることとなる。さらに、このような圧力を繰り返し受けることにより、山部稜線が左右方向に繰り返し変形することとなる。その結果、
図3(B)に示すようにその中央部付近において折れ曲がる場合(図のD)があり、その部分に孔が生じやすい。このように、山部においては、折り曲げ部の稜線が屈曲し難いような破断防止を行うことが好ましい。
【0037】
(樹脂補強構造)
このような多孔質樹脂シートである基材を折り曲げた部分の破断防止構造の1つとして、折り曲げ部近傍を樹脂により補強することができる。樹脂を基材に適用するためのもっとも簡便な方法は、折り曲げた基材の稜線に沿って樹脂を塗布することである。塗布は筆やローラー等の既知の手段により行うことができる。塗布された樹脂は基材表面に付着した後に硬化させる。また、樹脂を補強体とした補強構造の一例として、基材への樹脂の含浸が好ましく用いられる。基材を一層強固に補強できるからである。樹脂を基材表面に塗布した場合においても、樹脂の少なくとも一部が基材内に含浸された状態で硬化することが、より好ましい。
【0038】
図4から
図7は、プリーツフィルターの折り曲げ部を拡大して説明するための模式図である。これらの図により、谷部Vを例として樹脂補強構造を説明するが、山部においても同様である。
図4は、谷部Vにおいて、基材1の折り曲げ内側面に補強用の樹脂2が含浸されている様子を示す。基材1は多孔質樹脂であり、樹脂2は基材1の多孔質の孔部において孔部表面の基材表面に付着している。含浸により孔部を埋め、含浸部分が無孔質となると、濾過液の圧力により孔が拡がり裂けようとする力が生じないことによる折り曲げ部の補強効果も得られることでさらに強い補強効果が得られる。
【0039】
図5および
図6は含浸の別な態様を例示したものであり、
図5では折り曲げ部の基材1の外側表面に樹脂2を含浸、
図6では基材1の両面に亘って全体に樹脂2を含浸している。
図6ではまた、含浸した樹脂2がさらに基材1の表面を覆うように厚みを持って付着している。このように基材1の内部に含浸させるのみに限定されることなく表面への樹脂の付着であっても効果がある。谷部においては少なくとも濾過前面に樹脂が含浸されている方が、引っ張り応力への補強として好ましい。
【0040】
含浸される樹脂は、シリコーンやエポキシ、ポリウレタンなどの熱硬化性樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ETFE、PVdF等の熱可塑性樹脂、またはPVdFやシリコーンを溶剤で希釈したもの等が利用可能であり特に限定されないが、フィルターの素材になじみやすいものが望ましい。基材に不織布を用いる場合、濾過前面からみて谷部の補強にはポリプロピレンが好ましい。特にプリーツ構造を製造する際に熱含浸させることができ、折り曲げ部を裂け難くする破断防止を行うことができるためである。また、プリーツ形成後に塗布により補強する場合には、ポリ塩化ビニルやポリウレタンが好ましく、塗布が容易等の理由でポリウレタンが特に好ましく用いられる。
【0041】
また、含浸される樹脂は、含浸時には多孔質内に浸入する流動性が必要であるが、含浸後はフィルターと一体となって容易に分離できないようにすることが必要である。熱硬化性樹脂では含浸後加熱硬化すれば良い。2液性硬化樹脂では混合後すぐに含浸させた後に硬化させることができる。溶剤希釈して粘度を下げた樹脂の場合は含浸後に溶剤を乾燥するためにしばらく時間を置いて硬化させると良い。
【0042】
図7は、さらに別な樹脂補強構造を例示したものであり、基材1の表面に樹脂シート3を貼り付けた例である。このように含浸を伴わない手段によっても、濾過対象液の圧力を受け止め、また基材1との接着により基材の受ける力を分担することによって補強が可能である。図示はしないが基材1の濾過後面への樹脂シートの貼り付け、あるいは両面への貼り付けによっても効果が得られる。
【0043】
図8は、
図5と類似の樹脂補強構造を、鋭利な折り曲げ部としての山部Mを例に、山部の稜線に沿って樹脂を塗布した場合の一例を示す図である。稜線に沿って塗布された樹脂が塗布後に基材1に一部含浸されて硬化した状態を表している。
【0044】
(曲げ半径)
次に、折り曲げ部と曲げ半径について説明する。折り曲げ部の曲げ半径は、谷部の濾過前面の最小半径で定義する。
図9は折り曲げ部と先端曲げ半径を説明する模式図であり、谷部を拡大した図である。ここで谷の内側が濾過前面である。折り曲げ部とは、折り曲げ前の平板状基材が曲げられた部分を言う。
図9を参照して断面で見ると、直線部Lが曲げられていない部分であり、曲線部をなす区間Cが折り曲げ部となる。かかる折り曲げ部の濾過前面の折り曲げた曲面への内接円のうち最小の半径R(mm)を曲げ半径とする。Rが小さい程折り曲げ部の破断、すなわち裂けや孔などが生じやすい。適切な曲げ半径Rは、基材の厚さt(mm)との関係において、2t≦R≦10tである。より好ましくは3t≦R≦5tである。
【0045】
また、樹脂により補強する場合においては、樹脂補強構造は、折り曲げ部の全体に亘って補強するように設けられていることが好ましい。補強された部分と補強されていない部分の境界部分は堅さが不連続となることから、応力が集中しやすい。折り曲げ部にそのような境界が存在すると、長期の使用において破断しやすい。そのため、樹脂補強構造は折り曲げ部全体に亘っており、その端部(境界部)が基材の直線部に存在するように設けられていることがより好ましい態様である。言い換えると、樹脂補強構造による補強部分の補強長さ(幅)が折り曲げ部の長さ(幅)よりも長いと好ましい。また、折り曲げ部をほぼ均等な円に接するような形状で形成する場合では、折り曲げ部Cの濾過前面側の表面長さが曲げ半径のほぼ2倍となるため、補強長さが曲げ半径の2倍より長いことが好ましい。
【0046】
上述の樹脂の含浸等を行った上で、さらに曲げ半径を上記の範囲にすることが、さらに好ましい。樹脂補強を行った後に、あるいは補強の工程において曲げ半径が所望の範囲になるように折り曲げ部を固定することで製造することが可能である。
【0047】
(縫製構造)
さらに別な破断防止構造の例として、折り曲げ部の縫製による補強について説明する。
図10は、折り曲げ部の山部Mの1つを断面で表した図である。折り曲げ部の頂部において基材1が縫製材5によって縫い合わされている。
図11は
図10の折り曲げ部を模式的に表す斜視図である。基材1が縫製材5によって、山部の稜線に沿って縫い合わされている様子を示す。縫製材5は基材を縫製するのに適し、濾過対象物により劣化等し難い材料であれば良い。一般には木綿糸、ナイロン糸、ポリエステル糸等の糸状材料を用いることができる。縫製の方法は
図11に示されるような単純な本縫い(なみ縫い)のみならず、返し縫い、半返し縫い、かがり縫いなどの一般的に生地を縫い合わせる手法を用いることができる。
【0048】
(樹脂補強構造の製造方法)
以下、樹脂補強構造の製造方法の一例について説明する。樹脂補強構造として熱融着樹脂の含浸を行い、併せて形状を所望の曲げ半径に収める場合の代表例を
図12を参照して説明する。
図12(A)は、基材1の折り曲げ部を形成する部分の片側表面にシート状の樹脂2を添えたところを示している。この例では、谷部の内側である濾過前面に含浸する場合として説明するが、補強用の樹脂シートは樹脂を含浸させたい面に添えれば良い。
図12において、基材1は、多孔体であることを模式的に判りやすくするための表記としている。また、本例では、好ましい製造方法の例として、基材1は多孔質樹脂シート、補強用の樹脂2は、基材1よりも融点の低い熱可塑性樹脂の場合を示す。例えば、多孔質樹脂シートに融点が260℃前後のポリエチレンテレフタレートを主材料とするポリエステル製不織布を用い、含浸させる熱可塑性樹脂として、融点が230℃前後のポリメチルペンテンや66ナイロン、ポリカーボネート、さらには融点が一般に120℃前後のポリエチレン、160℃近辺のポリプロピレン等を好適に用いることができる。
【0049】
ヒートシーラー等の加熱加圧装置(図示しない)によって、
図12(A)の矢印の方向に圧力を加えながら加熱することにより、補強用の樹脂2が溶融しつつ基材1の多孔体内部に含浸される。かかる含浸の後、あるいは含浸と並行して所望の曲率に折り曲げる工程を説明する。
図12(B)は含浸と並行して曲げる場合の例を示しており、
図12(A)の加熱に際して、樹脂2の上に所望の半径をもつ金属治具4を当接させた状態である。かかる状態で含浸を行いつつ折り曲げることで、
図12(C)の如くに、基材1に樹脂2が含浸した状態で所望の曲率に折り曲げられる。この例以外の方法として、含浸は
図12(A)のような基材と樹脂のみの状態で行った後に、
図12(C)のように金属治具4を冷却部材として当接させながら曲げと冷却を行って折り曲げ部を形成しても良い。当接させる部材は金属に限定されるものではないが、冷却効果を考慮すると、金属棒やパイプ、あるいはセラミックスやガラスなど、加熱温度で変形せず、かつ熱伝導が比較的良好な部材であると良い。
【0050】
以上説明した製造方法は、平面状の基材を周期的に折り曲げることにより、山部と谷部が繰り返し連続して形成されるプリーツフィルターの製造方法であって、前記折り曲げ部となる基材の少なくとも一方面に樹脂シートを添える工程と、前記樹脂シートが添えられた部分の前記基材と前記樹脂シートとを加熱することにより、前記樹脂シートの少なくとも一部を前記基材内に含浸する含浸工程と、前記折り曲げ部を折り曲げた状態で冷却固定する冷却工程とを備えた、プリーツフィルターの製造方法である。ここで、前記冷却工程は、一定半径の金属治具を前記折り曲げ部に当接させた状態で冷却する工程である。
【0051】
以上は、基材中に補強用の樹脂を含浸する場合について記載したが、樹脂シートを接着剤により貼り合わせる方法や、熱融着で接着する方法により、含浸以外の樹脂補強構造を形成することが可能である。また、含浸させる場合であっても、予め熱可塑性樹脂以外の樹脂を基材の所定の部分に含浸させた後に、当該部分を折り曲げることでも良いし、折り曲げる際に、加熱をともなって柔軟な状態で所望の曲率に変形させるようにしても良い。その他、樹脂の塗布方法や縫製方法については既知の塗布方法や縫製方法によることができるため、ここには詳述しない。
【0052】
(濾過装置)
上述のプリーツフィルターを用いた濾過装置の好ましい適用例として、バラスト水処理装置の構成を図面を参照して説明する。
図13および
図14は本発明の実施態様としての船舶用のバラスト水処理装置の一例を示す図である。
図13は軸線を含む垂直断面の構成、
図14は
図13における水平A−A断面の構成をそれぞれ模式的に示す図である。円筒形状のプリーツフィルター101は回転中心となる軸線を囲むように配置されており、中心に配置された中心配管140(配管は回転しない)の周囲を回転自在に取り付けられている。プリーツフィルターの上下面は水密に塞がれている。回転自在な取り付け構造は、同じく水密構造とする必要があるが、特に限定されることなく既知の構造が用いられる。フィルター全体を覆うようにケース103が設けられる。ケース103は外筒部131、蓋部132、底部133で構成され、底部133には排出流路108が設けられる。ケース103内に被処理水としての海水を導入するため被処理水流路106と被処理水ノズル102が設けられる。被処理水ノズル102は、そのノズル口121をケース103の外筒部131内に備えるように被処理水流路106から延設され、被処理水がプリーツフィルターの外周面に向かって流出するように構成されている。また、プリーツフィルターの回転のためにモーター190がプリーツフィルターの中心軸に備えられている。モーター190はモーターカバー191で覆われて収納され、駆動制御部(図示せず)からの電力により駆動される。
【0053】
本例の場合、被処理水ノズルから噴出した被処理水はプリーツフィルターのプリーツ外周面に当たり、その圧力によってプリーツフィルターの洗浄効果が得られる。濾過されない被処理水および、ケース内に沈殿した濁質分は、ケース底部の排出流路から順次排出される。このように濁質分や残った被処理水が連続的に常に排出されつつ濾過が進行される点もこの装置の特徴であり、バラスト水に求められる10〜20ton/時間やさらには100ton/時間という処理量を確保するために効果がある。なお、図では排出流路にバルブなどを記載していないが、保守用や流量調節用に必要な機器を設けることはできる。一方、プリーツフィルター101により濾過された濾過水はフィルター内部にて中心配管104に設けられた取水穴141を通して濾過水流路107に導かれ、ケース外部に流出される。
【0054】
100ton/時間の処理を行う装置の一例として、プリーツフィルターの外径は700mm、軸方向長さ320mm、有効面積としての高さ280mm、プリーツ深さ70mm、プリーツ数420折、が挙げられる。被処理水ノズル102はノズル口121が矩形開口であるとよい。被処理水ノズルから大量の水がプリーツフィルター面に噴出されることにより、プリーツフィルターの特に谷部への応力集中が生じ、また谷部の折り目が開閉する方向の振動が生じることで、折り目に裂け等の孔が開きやすくなる。上述のように折り目が補強されたプリーツフィルターを用いることで、破断が効果的に抑止でき、装置の長期安定的な運転が可能となる。
【0055】
(実験例1)
樹脂補強構造による効果を確認するため、樹脂の含浸と折り曲げを行った部分の強度比較を行った。使用した材料は次の通りである。
多孔質フィルター:ポリエチレンテレフタレート製不織布(商品名:東レ製 アクスターG2260−1S BK0)
含浸樹脂:ポリプロピレン製不織布(商品名:出光ユニテック製 ストラテックRW2100)
ヒートシール機:石崎電気製卓上シーラーNL−301J
基材となる多孔質フィルターの折り曲げ部に含浸樹脂を載せて、ヒートシール機のシールタイマーの設定4(加熱時間約1秒)にてヒートシールをした。含浸樹脂を完全に熱溶融して多孔質フィルターに含浸させた状態でいったん冷やした。さらに同じ加熱条件で加熱したあと、直ちに直径3mmのステンレス棒を挟んでステンレス棒の形状に添って折り曲げ部を曲げて曲げ半径1.5mmとなったものを実施例とした。また、同多孔質フィルターをそのまま180度折り曲げて戻らないまで折れクセを付けたものを比較例とした。
【0056】
折り曲げ部を開いて折り曲げ部がダンベルの中心付近で引張方向に垂直になるようにダンベル型に打ち抜き、チャック間隔3cm,引張スピード100mm/分にて破断強度を測定した。結果、比較例は全て折り曲げた部分で破断し破断強度は33MPaであった。また、折り曲げ無しの基材そのものでの測定結果は40MPaであったため、折り曲げによって強度が低下していることが示唆された。これに対し、実施例では、樹脂を含浸した折り曲げ部分では破断せず全てが他の平坦部で破断し、その破断強度は41MPaであった。すなわち折り曲げ部は41MPa以上の強度であることが確認できた。
【0057】
図15は、上述したバラスト水処理装置を濾過装置として用いた船舶用バラスト水処理システムの全体構成を模式的に示した説明図である。
図15において、海洋から取水された海水である被処理水は配管31を経てポンプ21により送られ、配管32を通じて濾過手段である濾過装置12に供給される。濾過装置12において濾過された濾過水は配管33を経て紫外線照射装置などの殺滅手段13(必須ではない。)に送られる。また、濾過装置12において濾過されなかった排出水は、配管35を経て装置外部へ導出される。殺滅処理を経た海水は、配管34、配管36を経てタンク11に送られる。
【0058】
(実験例2)
樹脂塗布による効果を確認するため、円筒状プリーツフィルターを用いたバラスト水処理装置を用いて破断防止構造の有効性を確認した。破断防止構造は、プリーツフィルターの全ての山部に樹脂を塗布した樹脂補強構造を採用した。塗布はローラーにより山部にのみ施した。比較のために樹脂の塗布を行わないプリーツフィルターを用いた。また、実験例1で用いたポリプロピレン含浸を山部と谷部に施したものの効果を合わせて確認した。
【0059】
使用したフィルターと樹脂は次の通りである。
多孔質フィルター:ポリエチレンテレフタレート製不織布(商品名:東レ製 アクスターG2260−1S BK0)
塗布含浸樹脂:ポリウレタン樹脂(商品名:サンユレック製 SA−7073)
【0060】
使用したバラスト水処理装置は
図9に示す構造である。プリーツフィルターは単体プリーツフィルターをフィルターカートリッジとして、3つのフィルターカートリッジを軸方向に積み重ねるように接続したものである。これにより3倍の有効面積が得られる。単体プリーツフィルターの外径は700mm、軸方向長さ320mm、有効面積としての高さ280mm、プリーツ深さ70mm、プリーツ数420折である。ノズル口はプリーツの長さ方向に長辺、プリーツ間隔方向に短辺を持つ長形開口である。被処理水としての海水として、佐賀県伊万里市において採取した標準的な海水(塩分濃度2〜4%、濁度1〜1000NTU(Nephelometric Turbidity Units))を用いた。
【0061】
運転時間が長くなるにつれ、プリーツ凸部に破損が発生し、破損箇所が次第に増えて行く。このような破損の発生時間と個数からワイブルプロットによる寿命推定を行った。
図16にフィルターの寿命をワイブルプロットにより推定したグラフを示す。ワイブルプロットは品質保証や寿命推定等で一般的に利用されるものである。本実験では縦軸に破損確率(=破損プリーツ数/全プリーツ数)、横軸に時間をとり、運転時間と共に増える破損数をプロットして一定の傾きで寿命推定したものである。発明者らの過去の実験によると、破損確率が1.4%程度になるとバラスト水処理としては限界である。すなわち、海水中に含まれるプランクトンの有意な漏れが生じてしまうことが判っている。
図16を参照して、補強を施していないフィルターでは1.4%破損となる時間が50時間であるのに対して、ウレタン含浸補強では約180時間、PP含浸補強では約140時間と、顕著に寿命が延びていることが確認できた。ここには記載していないが、他の樹脂材料を用いた場合にも程度の違いはあるものの、同様に樹脂による破断防止構造の効果が得られる。