特許第5765346号(P5765346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5765346
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】化学蓄熱体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/16 20060101AFI20150730BHJP
【FI】
   C09K5/16
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-556853(P2012-556853)
(86)(22)【出願日】2012年2月3日
(86)【国際出願番号】JP2012052462
(87)【国際公開番号】WO2012108343
(87)【国際公開日】20120816
【審査請求日】2013年9月11日
(31)【優先権主張番号】特願2011-27791(P2011-27791)
(32)【優先日】2011年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-186861(P2011-186861)
(32)【優先日】2011年8月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 正和
(72)【発明者】
【氏名】志満津 孝
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇史
(72)【発明者】
【氏名】松本 満
【審査官】 服部 芙美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−214818(JP,A)
【文献】 特開2005−213459(JP,A)
【文献】 実開平06−055066(JP,U)
【文献】 特開2007−291267(JP,A)
【文献】 特許第5521967(JP,B2)
【文献】 VASILIEV,L.L. et al,Solar-gas solid sorption refrigerator,Adsorption,2001年,Vol.7, No.2,p.149-161
【文献】 汲田幹夫 他,塩化カルシウム添着吸着材の調製とその水蒸気吸着特性,化学工学会秋季大会研究発表講演要旨集(CD-ROM),2007年,39th,p.D302
【文献】 ZAJACZKOWSKI,B. et al,New type of sorption composite for chemical heat pump and refrigeration systems,Appl Therm Eng,2010年,Vol.30, No.11-12,p.1455-1460
【文献】 VASILIEV,L.L. et al,NaX zeolite, carbon fiber and CaCl2 ammonia reactors for heat pumps and refrigerators,Adsorption,1996年,Vol.2, No.4,p.311-316
【文献】 VASILIEV,L.L. et al,Activated carbon ammonia and natural gas adsorptive storage.,Extended Abstr Program Bienn Conf Carbon,1997年,23rd,P.334-335
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00
F28D 20/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアまたは水蒸気の吸蔵または放出により発熱または吸熱する蓄熱粒子と該蓄熱粒子を保持するバインダーとを混合した混合物の成形体からなる化学蓄熱体であって、
前記蓄熱粒子は、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素または遷移金属元素の一種以上と塩素との化合物である金属塩化物を含み、
前記バインダーは、該蓄熱粒子よりも熱伝導性に優れる炭素繊維からなり、
該炭素繊維は、前記混合物全体を100質量%としたときに5〜45質量%であり、
該蓄熱粒子と該バインダーと残部である不可避不純物とからなることを特徴とする化学蓄熱体。
【請求項2】
前記炭素繊維は、繊維径が0.1〜30μmである請求項1に記載の化学蓄熱体。
【請求項3】
前記炭素繊維は、平均繊維長が0.01〜5mmである請求項1または2に記載の化学蓄熱体。
【請求項4】
前記炭素繊維は、熱伝導率が100W/mK以上である請求項1〜3のいずれかに記載の化学蓄熱体。
【請求項5】
さらに、前記成形体を焼成した焼成体からなる請求項1〜4のいずれかに記載の化学蓄熱体。
【請求項6】
前記金属塩化物は、リチウム塩化物、カルシウム塩化物、マグネシウム塩化物、ストロンチウム塩化物、バリウム塩化物、マンガン塩化物、コバルト塩化物、鉄塩化物、ニッケル塩化物の一種以上である請求項1〜5のいずれかに記載の化学蓄熱体。
【請求項7】
シート状である請求項1〜6のいずれかに記載の化学蓄熱体。
【請求項8】
前記炭素繊維は、熱流方向に配向している請求項1〜7のいずれかに記載の化学蓄熱体。
【請求項9】
アンモニアまたは水蒸気の吸蔵または放出により発熱または吸熱する蓄熱粒子と該蓄熱粒子を保持するバインダーとを混合した混合物を得る混合工程と、
該混合物を加圧成形した成形体を得る成形工程と、
を備える化学蓄熱体の製造方法であって、
前記蓄熱粒子は、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素または遷移金属元素の一種以上と塩素との化合物である金属塩化物を含み、
前記バインダーは、該蓄熱粒子よりも熱伝導性に優れる炭素繊維からなり、
該炭素繊維は、前記混合物全体を100質量%としたときに5〜45質量%であり、
前記化学蓄熱体は、該蓄熱粒子と該バインダーと残部である不可避不純物とからなることを特徴とする化学蓄熱体の製造方法。
【請求項10】
前記混合工程は、前記蓄熱粒子および前記バインダーを分散媒中で混合した後に前記分散媒を除去して前記混合物を得る工程である請求項9に記載の化学蓄熱体の製造方法。
【請求項11】
前記成形工程は、成形圧力が40〜300MPaである請求項9または10に記載の化学蓄熱体の製造方法。
【請求項12】
さらに、前記成形体を焼成した焼成体を得る焼成工程を備える請求項9〜11のいずれかに記載の化学蓄熱体の製造方法。
【請求項13】
前記焼成工程は、焼成温度が100〜300℃である請求項12に記載の化学蓄熱体の製造方法。
【請求項14】
水分濃度が0.7%以下の低湿度環境下で各工程がなされる請求項9〜13のいずれかに記載の化学蓄熱体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア等を作動流体とする化学蓄熱体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素(CO)の排出削減が強く要請される昨今、エネルギー効率の向上や省エネルギー化を図るための研究開発が盛んに進められている。その一つに、各種の機器やプラントから生じる廃熱(または排熱)などを有効利用できる蓄熱システムがある。特に化学蓄熱システムは、体積あたりの蓄熱量が大きく、長期間の蓄熱が可能であるため有望である。この具体例として、下記の特許文献1等では、水酸化カルシウムの脱水反応時の吸熱と酸化カルシウムの水和反応時の発熱とを利用したシステムを提案している。
【0003】
もっとも、一般的な脱水反応を利用するには、ある程度の高温熱源が必要となる。このため、より低温域の廃熱等をも有効に回収し、さらなるエネルギー効率の向上を図るには、より低温域でも作動し得る化学蓄熱システムが必要となる。そこで、低温域でも気体になり易いアンモニアと金属塩化物(CaCl、NiCl等)との反応(アンミン錯体生成反応)を利用した化学蓄熱システムが提案されている。これに関連する記載が、下記の特許文献2〜4にある。ちなみに下記の特許文献5は、蓄熱体ではなく、単にアンモニアの貯蔵を目的としたアンモニア貯蔵体に関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−257698号公報
【特許文献2】特開平5−264187号公報
【特許文献3】特開平6−109388号公報
【特許文献4】特開平6−136357号公報
【特許文献5】WO2010/025948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで化学蓄熱システムでは、円滑に系外と反応熱を交換し、発熱反応または吸熱反応を安定的に継続させることが重要である。この点、上記の特許文献等にある従来の化学蓄熱システムでは、化学蓄熱材として粉末状のCaCl等をそのまま利用していたため、反応熱の滞留が生じ易く、作動が安定しなかった。
【0006】
また、その粉末状の化学蓄熱材を成形した化学蓄熱体であっても、アンモニアの吸蔵および放出によって生じる体積膨張または体積収縮が繰り返される結果、化学蓄熱体にクラックや割れが生じ、最終的にはその化学蓄熱材が微粉化していた。このため、やはり、化学蓄熱システムを安定的に運転することは困難であった。このような課題は、特に、化学蓄熱システムの小型化や高出力化を図る際に問題となる。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、アンモニア等を作動流体とする化学蓄熱システムを安定的に作動させつつ高熱出力が得られる化学蓄熱体と、その製造に適した化学蓄熱体の製造方法を併せて提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、金属塩化物からなる化学蓄熱材(蓄熱粒子)をカーボンファイバーで保持することにより、アンモニアの吸蔵または放出を安定的に行える高出力な化学蓄熱体が得られることを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0009】
《化学蓄熱体》
(1)本発明の化学蓄熱体は、アンモニアまたは水蒸気の吸蔵または放出により発熱または吸熱する蓄熱粒子と該蓄熱粒子を保持するバインダーとを混合した混合物の成形体からなる化学蓄熱体であって、前記蓄熱粒子は、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素または遷移金属元素の一種以上と塩素との化合物である金属塩化物を含み、前記バインダーは、該蓄熱粒子よりも熱伝導性に優れる炭素繊維からなり、該炭素繊維は、前記混合物全体を100質量%としたときに5〜45質量%であり、該蓄熱粒子と該バインダーと残部である不可避不純物とからなることを特徴とする。
【0010】
(2)本発明の化学蓄熱体は、化学蓄熱材である金属塩化物の蓄熱粒子と炭素繊維の混合物の成形体(さらにはそれを焼成した焼成体)からなる。この炭素繊維の存在により、本発明の化学蓄熱体は、機械的強度に優れ、アンモニアとの吸脱着反応が繰り返されても、容易に割れ等を生じることもない。
【0011】
また炭素繊維は熱伝導性に優れる。具体的には炭素繊維は蓄熱粒子よりも熱伝導率が高い。このため蓄熱粒子における発熱を炭素繊維を介して効率的に系外へ伝熱して放熱したり、逆に、系外の熱を炭素繊維を介して蓄熱粒子へ効率的に伝熱して吸熱させたりできる。この結果、蓄熱粒子における発熱反応または吸熱反応が安定的に継続されるようになり、本発明の化学蓄熱体は高熱出力を維持できる。
【0012】
さらに炭素繊維は単に熱伝導率が高いのみならず、繊維方向の熱伝導性に優れる。このため、炭素繊維が特定方向に配向している化学蓄熱体は、その配向度に応じて、その配向方向の熱伝導性が著しく高くなる。従って炭素繊維の配向方向や配向度を調整することにより、化学蓄熱体の熱流方向や熱出力を制御することも可能となる。
【0013】
なお、本発明の化学蓄熱体は、化学蓄熱材である金属塩化物の蓄熱粒子とバインダーである炭素繊維の成形体からなるため、形状自由度も高く、また蓄熱粒子によるアンモニアの吸脱に影響する空孔率の調整等も容易である。
【0014】
ここで炭素繊維をバインダーとして用いると、金属塩化物からなる蓄熱粒子の保持性が安定して保持される理由は必ずしも定かではない。現状では、化学蓄熱体中に分散した炭素繊維が絡み合って骨格構造を形成し、その骨格の隙間に蓄熱粒子が安定的に保持されているためと考えられる。そしてこの炭素繊維の骨格構造により、化学蓄熱体は崩壊等せず、優れた機械的強度等も発現していると考えられる。
【0015】
《化学蓄熱体の製造方法》
本発明は上述の化学蓄熱体としてのみならず、その製造方法としても把握される。
(1)すなわち本発明は、アンモニアまたは水蒸気の吸蔵または放出により発熱または吸熱する蓄熱粒子と該蓄熱粒子を保持するバインダーとを混合した混合物を得る混合工程と、該混合物を加圧成形した成形体を得る成形工程と、を備える化学蓄熱体の製造方法であって、前記蓄熱粒子は、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素または遷移金属元素の一種以上と塩素との化合物である金属塩化物を含み、前記バインダーは、該蓄熱粒子よりも熱伝導性に優れる炭素繊維からなり、該炭素繊維は、前記混合物全体を100質量%としたときに5〜45質量%であり、前記化学蓄熱体は、該蓄熱粒子と該バインダーと残部である不可避不純物とからなることを特徴とする化学蓄熱体の製造方法でもよい。この際、前記混合工程は、該蓄熱粒子および該バインダーを分散媒中で混合した後に該分散媒を除去して前記混合物を得る工程であると好適である。
【0016】
(2)本発明の製造方法では、分散媒を用いて化学蓄熱材とバインダーを混合している。このため細長くて折れ易い炭素繊維をバインダーとする場合であっても、その形態や特性を阻害することなく、化学蓄熱材である蓄熱粒子と炭素繊維を均一に混合した混合物を得ることが可能である。
【0017】
なお、蓄熱粒子を構成する金属塩化物は水と反応して潮解等し易い。このため、その分散媒は有機分散媒のように多くの水分をあまり含まないものが好ましい。具体的にいうと、分散媒中の水分濃度は0.7%以下さらには0.3%以下であると好ましい。ちなみに、本明細書でいう「水分濃度」は分散媒全体(100体積%)中に含まれる水の体積%である。ちなみに、金属塩化物からなる蓄熱粒子の潮解性は、相対的な水分量(水蒸気量)に依る。従って、蓄熱粒子量に対して、水分量をその潮解が生じない範囲に制御できる環境下であれば、水蒸気もアンモニアと同様に作動流体として用い得る。例えば、水分量(水蒸気量)が適切な範囲に調整された反応容器内に本発明の化学蓄熱体を密封すれば、その反応容器内で水蒸気を吸蔵または放出させることにより、発熱反応または吸熱反応を繰り返し行わせることが可能である。
【0018】
《その他》
(1)化学蓄熱体は、上述した金属塩化物や炭素繊維以外に、種々のものを含有してもよい。例えば、バインダーとして、炭素繊維以外にケイ酸塩や低融点ガラスなどを含んでもよい。ケイ酸塩はアルカリケイ酸塩が好ましく、例えば、メタケイ酸ナトリウム(NaSiO)、メタケイ酸リチウム(LiSiO)、メタケイ酸カリウム(KSiO)、オルトケイ酸ナトリウム(NaSiO)、メタニケイ酸ナトリウム(NaSi)などである。また低融点ガラスには、ホウ珪酸(鉛)ガラス、鉛酸化物系ガラス、ビスマス酸化物系ガラス、バナジウム酸化物系ガラスなどがある。これら低融点ガラスは、炭素繊維の耐熱温度以下で軟化してバインダーとして機能するものが好ましい。なお、化学蓄熱体はコスト的または技術的な理由により除去することが困難な不可避不純物を含有し得る。
【0019】
(2)化学蓄熱体(焼成体)の形態は問わないが、例えば、シート状、板状、バルク状、棒状、管状等にし得る。また本発明の化学蓄熱体は、加工前の素材でも最終的な製品(部品)でも良い。
【0020】
(3)特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値や数値範囲に含まれる任意の数値を適当に選択または抽出し、それらを新たな下限値または上限値とした「a〜b」のような数値範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】試料No.1および試料No.C1に係る化学蓄熱体の熱出力の時間変化を示すグラフである。
図2】各試料(化学蓄熱体)の熱伝導率を示すグラフである。
図3】試料No.6および試料No.7に係る化学蓄熱体の熱出力の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成を上述した本発明に付加し得る。本明細書で説明する内容は、化学蓄熱体のみならずその製造方法にも適宜適用される。製造方法に関する構成は、プロダクトバイプロセスとして理解すれば物に関する構成になり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0023】
《化学蓄熱体》
本発明の化学蓄熱体は、基本的に、金属塩化物からなる蓄熱粒子と、この蓄熱粒子を保持する炭素繊維からなるバインダーとからなる。
【0024】
(1)蓄熱粒子
本発明に係る蓄熱粒子は、主に、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素または遷移金属元素の一種以上と塩素との化合物である金属塩化物からなる。
【0025】
アルカリ金属元素には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)およびフランシウム(Fr)がある。その金属塩化物(アルカリ金属塩化物)としては、LiCl、NaClまたはKClなどが代表的である。アルカリ土類金属元素には、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)およびラジウム(Ra)がある。その金属塩化物(アルカリ土類金属塩化物)としては、MgCl 、CaCl 、SrClなどがあるが、特にカルシウム塩化物またはストロンチウム塩化物が好ましい。蓄熱粒子に適した遷移金属元素は多数あるが、その金属塩化物(遷移金属塩化物)としては、MnCl、FeCl、CoCl、NiCl等が代表的である。
【0026】
蓄熱粒子の形態(粒形や粒径等)は問わない。すなわち、その粒形は球状でも楕円球状でもよい。また粒径も問わないが、電子顕微鏡で観察して1μm〜1mmであると好ましい。
【0027】
(2)バインダー
本発明に係るバインダーは炭素繊維を含む。この炭素繊維の原料、製造方法または形態等は問わない。例えば、アクリル繊維から作ったPAN系炭素繊維でも、ピッチから作ったPITCH系炭素繊維でも良い。また炭素繊維の繊維径や繊維長なども、蓄熱粒子の形態や化学蓄熱体の形態に応じて適宜選択される。例えば、その繊維径は0.1〜30μmさらには1〜15μmであると好ましい。また平均繊維長は0.01〜5mmさらには0.1〜3mmであると好ましい。これらが過小では熱伝導性や蓄熱粒子の保持性が劣り、それらが過大では蓄熱粒子との混合性等が劣る。なお、繊維長は光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察して特定し、その平均繊維長は累積頻度が全体の50%となる長さとした。
【0028】
炭素繊維の熱伝導率は高いほど好ましいが、熱伝導率が過度に大きいものは高コストであり必ずしも必要ではない。そこで炭素繊維の熱伝導率は100〜1500W/mK、200〜1000W/mKさらには300〜950W/mKであると好ましい。
【0029】
化学蓄熱材とバインダーの混合物(より具体的には蓄熱粒子と炭素繊維の混合物)全体を100質量%としたとき、炭素繊維は1〜49質量%、5〜45質量%さらには8〜42質量%であると好ましい。炭素繊維が過少では蓄熱粒子の保持や化学蓄熱体の強度等を十分に確保できず、それが過多では相対的に蓄熱粒子が過少となり化学蓄熱体の単位体積(単位質量)あたりの蓄熱量または発熱量(つまり熱出力)の低下を招いたり、クラックや割れを生じ易くなる。
【0030】
以上をまとめると、バインダーとして用いる炭素繊維は、繊維径が0.1〜30μm、平均繊維長が0.01〜5mm、熱伝導率が100〜1500W/mKおよび配合割合が1〜49質量%であると好適である。
【0031】
(3)高熱伝導材等
本発明の化学蓄熱体は、上述した金属塩化物の蓄熱粒子および炭素繊維と異なるバインダーや高熱伝導材を含んでいてもよい。バインダーについては既述したので、ここでは高熱伝導材について説明する。さらに加える高熱伝導材としては、本発明に係る炭素繊維と同程度またはそれ以上の熱伝導率を有するものが好ましい。このような高熱伝導材として、種々の金属やセラミックス等が考えられる。特に炭化ケイ素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)などのセラミックスは、高熱伝導率であると共にアンモニア雰囲気中で安定であり、高熱伝導材に好適である。
【0032】
ちなみに化学蓄熱体に高い熱伝導性が要求される理由は次の通りである。化学蓄熱システムの性能は、化学蓄熱体とアンモニアとの反応速度に左右される。この反応速度は、(i)アンモニアガスの化学蓄熱体への浸透速度(吸収速度、放出速度)、(ii)アンミン錯体の生成速度、(iii)化学蓄熱体と外部との熱交換速度による影響を受ける。この中でも熱交換速度が律速的であり、化学蓄熱システムの性能に大きく影響する。そこで本発明の化学蓄熱体中に、熱伝導性や熱伝達性に優れる高熱伝導材(炭素繊維を含む)が適量存在すると、その熱交換速度が向上し、ひいては化学蓄熱システムの性能向上が図られる。
【0033】
《製造方法》
本発明の化学蓄熱体は、基本的に、上述した蓄熱粒子または金属塩化物の水和物からなる粒子(蓄熱粒子を構成する一種)と炭素繊維を混合する混合工程と、得られた混合物を加圧成形する成形工程とからなり、さらにその成形体を加熱して焼成体とする焼成工程を備えると好適である。
【0034】
(1)混合工程
本発明に係る混合工程によれば、金属塩化物からなる蓄熱粒子または金属塩化物の水和物からなる粒子と炭素繊維とを分散媒中に分散させて得られた分散液から、その分散媒を除去することにより混合物が得られる。これにより、細長い(アスペクト比の大きな)炭素繊維を損傷させることなく、蓄熱粒子と均一に混合することが可能となる。なお、金属塩化物からなる蓄熱粒子または金属塩化物の水和物からなる粒子と炭素繊維とを充填した容器を、自転、公転させるミキサーを用いても同様な混合が可能となる。
【0035】
この際に用いる分散媒の種類は問わないが、揮発等により除去させ易く入手容易なものが好ましい。例えば、アセトン、ヘプタン、ヘキサン、トルエン等の有機分散媒が好ましい。
【0036】
蓄熱粒子と炭素繊維を分散媒中で攪拌混合する場合、スターラー等を用いると均一性の点で好ましい。分散媒の除去は濾過により行うと好ましい。これらを行う雰囲気は、低湿度環境下であると好ましい。
【0037】
(2)成形工程
成形工程は、混合物を成形型のキャビティへ投入して加圧成形してもよいし、成形型を用いるまでもなくローラ等で圧縮成形してもよい。所望する化学蓄熱体の形状に応じた方法を採用するとよい。
【0038】
この際の成形圧力は、例えば、40〜300MPaさらには70〜250MPaであると好ましい。成形圧力が過小では体積あたりの熱出力や機械的強度の低下を招き、それが過大では炭素繊維の損傷等を招き、いずれの場合も安定した高熱出力が得られない。なお、この成形工程も低湿度環境下で行うのがよい。
【0039】
(3)焼成工程
本発明の製造方法は、さらに成形体を焼成する焼成工程を備えると好適である。これにより、炭素繊維同士または炭素繊維と蓄熱粒子が強固に結合するようになり、高強度の化学蓄熱体が得られる。なお、この焼成工程により蓄熱粒子同士は、焼結していても焼結していなくてもよい。
【0040】
焼成温度は、炭素繊維の耐熱性等を考慮して、100〜300℃さらには150〜250℃であると好ましい。焼成温度が過小では強固な焼成体(化学蓄熱体)が得られず、焼成温度が過大では蓄熱粒子同士の焼結が過度に進行し、化学蓄熱体へのアンモニアガスの浸透が阻害されて好ましくない。なお、この成形工程も低湿度環境下で行うのがよい。また焼成工程は、真空度1000Pa以下さらには100Pa以下でなされると好ましい。大気成分との反応による蓄熱粒子の劣化を防ぐためである。
【0041】
ちなみに本明細書でいう「低湿度環境下」は、雰囲気中の水分濃度が体積分率で0.7%以下、0.3%以下さらには0.1%以下であると好ましい。
【0042】
《用途》
本発明の化学蓄熱体を公知の反応器に組み入れて作動させると、比較的低温の廃熱等をも有効に回収したり、必要に応じて熱出力を得たりできる。但し、本発明の化学蓄熱体の使用温度域等は何ら制限されない。
【実施例】
【0043】
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0044】
《実施例1:試料No.1〜5》
(1)原料
化学蓄熱材(蓄熱粒子)として、CaCl(アルカリ土類金属塩化物)を用意した。これにはアルドリッチ社製のC4901を用いた。この形態は粒状の粉末であった。
【0045】
次にバインダーとして、カーボンファイバー(日本グラファイトファイバー(株)社製XN−100)を用意した。このカーボンファイバーは、ピッチ系炭素繊維であり、熱伝導率900W/mK、繊維径が10μmであった。その平均繊維長は表1に示した。
【0046】
(2)混合工程
これら原料を水分濃度が0.25%のアセトン(分散媒)中に分散させた分散液を得た。各原料の配合割合は表1に示した。ここでアセトン中の水分濃度はガスクロマトグラフ法により特定した。また表1に示した配合割合は、蓄熱粒子とバインダーをあわせた全体(100質量%)に対するカーボンファイバーの質量割合(質量%)である。
【0047】
上記の分散液を減圧濾過して分散媒を除去し、CaCl とカーボンファイバーのみからなる混合物(複合体)を得た。
【0048】
(3)成形工程および焼成工程
各混合物を表1に示す種々の成形圧力で成形し、得られた成形体の一部を焼成した。こうして15×15×3mmのシート状の焼成体を得た。
【0049】
なお、上述した混合工程および成形工程は、特に断らない限り、(株)美和製作所のグローブボックスを用いて、水分濃度がそれぞれ0.1%および0.1ppmの低湿度環境下で行った。また焼成工程は1Pa以下の真空処理炉内で行った。
【0050】
《試料No.C1〜C3》
(1)試料No.C1
上述のCaCl のみを水分濃度が0.1ppmの低湿度環境下で、表1に示す成形圧力で加圧成形した。こうして15×15×3mmのシート状の成形体を得た。
【0051】
(2)試料No.C2
同じCaCl へNHを室温域で吸蔵させた後、真空排気してCaCl・2NH を得た。これを前述した低湿度環境下で表1に示す成形圧力で加圧成形した。こうして15×15×3mmのシート状の成形体を得た。
【0052】
(3)試料No.C3
同じCaClと高熱伝導材であるアルミナ(Al:昭和電工(株)社製AS−20)とを混合した。この混合は乳鉢を用いて手動で混合して行った。混合粉末中のアルミナ量は全体を100質量%として30質量%とした。この混合粉末を前述した低湿度環境下で表1に示す成形圧力で加圧成形した。こうして15×15×3mmのシート状の成形体を得た。
【0053】
《試料の評価》
(1)外観
得られた各試料の外観を観察した結果を表1に併せて示した。カーボンファイバーを適量(50質量%未満)含む試料No.1〜4は、他の試料と異なり、割れやクラックが観られず、機械的強度(保形性)に優れることがわかった。
【0054】
(2)試験
試料No.1の焼成体と試料No.C1の成形体を、それぞれ熱交換が可能な反応器に装填して、0.4MPa×7℃で、アンモニアガスと反応させ、CaCl1.8gあたりの熱出力(W)を測定した。この結果を図1に示した。また試料No.1、3およびC1の厚さ方向(熱流方向)の熱伝導率を定常法を用いて測定した。この結果を図2に示す。
【0055】
なお、試料No.C1〜C3の化学蓄熱体は既に割れ等を生じていたため、反応器による評価をするまでも無かったが、試料No.C1の化学蓄熱体だけ参考に評価した。ちなみにここで用いた反応器は、ステンレス製で、内容量250ccであり、アンモニアガスの供給脱気のためのバルブや圧力計を具備している。
【0056】
(3)性能
図1に示す結果から、試料No.1の化学蓄熱体は、アンモニアガスとの反応性に優れ、高い熱出力が安定して得られることが確認された。一方、カーボンファイバーを含まない試料No.C1では、熱出力が低く不安定で、アンモニアを吸蔵させると崩壊して粉体化した。また図2に示す結果から、試料No.1および試料No.3の厚さ方向の熱伝導率は、試料No.C1に比べて大幅に向上することが確認された。
【0057】
《実施例2:試料No.6および試料No.7》
(1)試料No.6
ストロンチウム塩化物の6水和物(SrCl・6HO/和光純薬工業株式会社製197−04185)と前述したカーボンファイバー(平均繊維長0.25mm)を、水分濃度が0.25%の低湿度環境下で混合した。この混合は自転、公転ミキサー(株式会社シンキー製、ARE−310)を用いて行った。なお、カーボンファイバーの配合割合は、混合物全体を100質量%として17質量%とした。
【0058】
この混合物を0.7tonf/cm(68.6MPa)の成形圧力で成形した。得られた成形体を水分濃度100ppm以下の低湿度環境下で、170℃で焼成した。こうして15×15×3mmのシート状の焼成体(化学蓄熱体)を得た。なお、低湿度環境下は前述したグローブボックスを用いて実現した。
【0059】
(2)試料No.7
化学蓄熱材(蓄熱粒子)であるストロンチウム塩化物の無水物(SrCl/アルドリッチ社製439665)と試料No.6の場合と同様のカーボンファイバーを、前述したようにアセトンを用いて分散、混合した後、アセトンを除去した混合物を得た。カーボンファイバーの配合割合は26質量%とした。
【0060】
得られた混合物を用いて、試料No.6と同様な成形および焼成を行い、シート状の焼成体(化学蓄熱体)を得た。
【0061】
《試料の評価》
(1)外観
得られた試料No.6および試料No.7の焼成体はともに、割れやクラック等がなく機械的強度(保形性)に優れることがわかった。
【0062】
(2)試験
これら焼成体を、それぞれ前述した反応器に装填し、同条件下でアンモニアガスと反応させて、SrCl1.8gあたりの熱出力(W)を測定した。この結果を図3に示した。
【0063】
(3)性能
図3に示す結果から、試料No.6および試料No.7からなる化学蓄熱体も、アンモニアガスとの反応性に優れ、高い熱出力が安定して得られることが確認された。
【0064】
【表1】
図1
図2
図3