(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明についてより詳しく説明する。以下の説明において、鋼の化学組成に関
する%は質量%を意味する。
(A)化学組成
C:0.015%以上、0.15%以下
Cは、鋼の強度を高める作用を有する元素である。Cはまた、オーステナイトからフェ
ライトへの変態温度を低下させる作用を有するので、熱間圧延の圧延完了温度を低下させ
ることを可能にし、フェライト結晶粒の微細化を促進するのに有用である。C含有量が0
.015%未満では上記作用による効果を得ることが困難となる。したがって、C含有量
は0.015%以上とする。好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.025%以
上である。一方、C含有量が0.15%超では、r値や延性の低下が著しくなる。したが
って、C含有量は0.15%以下とする。好ましくは0.135%以下、さらに好ましくは
0.12%以下である。
【0016】
Si:2.0%以下
Siは、鋼中に不純物として含有される元素であるが、フェライトの強化と延性の向上
に寄与する元素でもある。したがって、Siを積極的に含有させてもよい。しかし、Si
含有量が2.0%超では、熱間圧延時の表面酸化の問題が顕在化してくる。したがって、
Si含有量は2.0%以下とする。好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以
下、特に好ましくは0.3%以下である。
【0017】
Mn:0.1%以上、3.0%以下
Mnは、オーステナイトからフェライトへの変態温度を低下させる作用を有するので、
熱間圧延における圧延完了温度を低下させることを可能にし、フェライト結晶粒の微細化
を促進するのに有用な元素である。Mn含有量が0.1%未満では上記作用による効果を
得ることが困難となる。したがって、Mn含有量は0.1%以上とする。一方、Mn含有
量が3.0%超では、Mnの偏析に起因する成形性の低下や、フェライト体積率の低下に
起因する成形性の低下が著しくなる。したがって、Mn含有量は3.0%以下とする。好
ましくは2.5%以下、さらに好ましくは、2.0%以下である。
【0018】
P:0.05%以下
Pは、鋼中に不純物として含有される元素であるが、強度を高める作用を有するので、
Pを積極的に含有させてもよい。しかし、P含有量が0.05%超では、粒界偏析による
脆化が著しくなる。したがって、P含有量は0.05%以下とする。好ましくは0.03%
以下、さらに好ましくは0.02%以下である。
【0019】
S:0.05%以下
Sは、鋼中に不純物として含有される元素であり、鋼中に硫化物系介在物を形成して加
工性を低下させる作用を有する。S含有量が0.05%超では加工性の低下が著しくなる
。したがって、S含有量は0.05%以下とする。一段と優れた加工性を確保したい場合
には、S含有量を0.008%以下とすることが好ましく、0.003%以下とすることが
さらに好ましい。
【0020】
sol.Al:0.001%以上、0.1%以下
Alは鋼を脱酸する作用を有し、鋼を健全化するのに有効な元素である。sol.Al
含有量が0.001%未満では、上記作用による効果を得ることが困難となる。したがっ
て、sol.Al含有量は0.001%以上とする。好ましくは0.010%以上、さらに
好ましくは0.015%以上である。一方、sol.Al含有量が0.1%超では、オース
テナイトからフェライトへの変態温度の上昇が著しくなり、熱間圧延の圧延完了温度を上
昇させざるをえなくなって、フェライト結晶粒の微細化が困難となる。また、連続鋳造法
を適用する場合には、安定した操業が困難となる。したがって、sol.Al含有量は0
.1%以下とする。好ましくは0.080%以下、さらに好ましくは0.060%以下であ
る。
【0021】
N:0.001%以上、0.01%以下
Nは、鋼中に不純物として含有される元素であり、延性や深絞り性を低下させる作用を
有する。N含有量が0.01%超では延性や深絞り性の低下が著しくなる。したがって、
N含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.008%以下、さらに好ましくは0.0
07%以下である。一方、TiやNb等を含有させた場合には、Nは窒化物または炭窒化
物として析出することにより、冷間圧延の母材である熱延鋼板を細粒化し、その結果、冷
延鋼板の機械特性の向上に寄与する。したがって、N含有量は0.001%以上とする。
好ましくは0.0015%以上、さらに好ましくは0.002%以上である。
【0022】
O:0.01%以下
O(酸素)は、鋼中に不純物として含有される元素であり、鋼の清浄度を低下させて、
その機械特性を劣化させる。O含有量が0.01%超では機械特性の低下が著しくなるの
で、O含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.005%以下である。
【0023】
Ti:0.1%以下、Nb:0.1%以下、V:0.5%以下、Mo:0.5%以下および
B:0.005%以下からなる群から選択される1種または2種以上
Ti、Nb、V、MoおよびBは、炭化物、窒化物または炭窒化物として析出し、鋼組
織の微細化やYS向上に寄与する。したがって、これらの元素の1種または2種以上を場
合により鋼に含有させてもよい。しかし、Ti含有量が0.1%超、Nb含有量が0.1%
超、V含有量が0.5%超、Mo含有量が0.5%超、またはB含有量が0.005%超に
なると、炭化物、窒化物または炭窒化物が鋼中に多量に析出して面内異方性が大きくなっ
たり、深絞り性が低下したりする。そのため、それぞれの元素の含有量は、Ti:0.1
%以下、Nb:0.1%以下、V:0.5%以下、Mo:0.5%以下およびB:0.005
%以下とする。TiおよびNbの含有量は、それぞれ0.05%以下とすることが好まし
く、0.03%以下とすることがさらに好ましい。VおよびMoの含有量は、0.3%以下
とすることが好ましく、0.1%以下とすることがさらに好ましい。Bの含有量は0.00
3%以下とすることが好ましく、0.001%以下とすることがさらに好ましい。なお、
上記作用による効果をより確実に得るには、Ti、Nb、MoおよびVの何れかを0.0
01%以上含有させるか、Bを0.0001%以上含有させることが好ましい。
【0024】
Cr:2.0%以下
Crは、固溶強化により鋼材の強度を一層高める作用を有するので、場合により鋼に含
有させてもよい。しかし、Cr含有量が2.0%超では、加工性の劣化が著しくなる場合
がある。したがって、Cr含有量は2.0%以下とする。好ましくは1.5%以下、より好
ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。なお、上記作用による効果
をより確実に得るにはCr含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
【0025】
Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下およびREM:0.01%以下からなる群
から選択される1種または2種以上
Ca、MgおよびREM(希土類元素)は、凝固中に析出する酸化物や窒化物を微細化
して、鋼塊または鋼片の健全性を向上させる作用を有する。したがって、これらの元素の
1種または2種以上を場合により鋼に含有させてもよい。しかし、いずれの元素も0.0
1%を超えて含有させても上記作用による効果は飽和してしまい、徒にコスト上昇を招く
。したがって、それぞれの元素の含有量は0.01%以下とする。なお、上記作用による
効果をより確実に得るには、いずれかの元素の含有量を0.0002%以上とすることが
好ましい。ここで、REMとは、ランタノイドの15元素とYおよびScを合わせた17
元素を意味する。
【0026】
(B)機械特性
TS
ave:300MPa以上
耐疲労性の高い鋼板を得るには、その引張強度(TS)が高いほど好ましい。そして、
様々な方向の繰り返し応力に対して高い耐疲労性を得るには、鋼板の面内の各方向におけ
る引張強度が全体的に高いことが好ましい。そのため、本発明では下記式(1)で規定され
るTS
aveを300MPa以上とする。耐疲労性はTS
aveが高いほど良好であるため、T
S
aveは好ましくは340MPa以上、より好ましくは390MPa以上である。
【0027】
TS
ave=(TS
0+2×TS
45+TS
90)/4 ・・・ (1)
ここで、TS
0:圧延方向の引張強度、TS
45:圧延方向に対して45°方向の引張強
度、TS
90:圧延方向に対して90°方向の引張強度である。
【0028】
YR
ave:0.67以上
鋼鈑が用いられる部品の要求特性に従って鋼板のTSは決定されるが、同じTSであっ
てもYSが高いほど疲労特性は向上する。そのため、本発明では下記式(2)で規定される
YR
aveを0.67以上とする。YR
aveは好ましくは0.69以上、さらに好ましくは0.
71以上、特に好ましくは0.73以上である。
【0029】
YR
ave=(YR
0+2×YR
45+YR
90)/4 ・・・ (2)
ここで、YR
0:圧延方向の降伏比、YR
45:圧延方向に対して45°方向の降伏比、
YR
90:圧延方向に対して90°方向の降伏比である。
【0030】
|Δr|:0.20以下
Δr=(r
0−2×r
45+r
90)/2で規定されるΔRの絶対値|Δr|が低減するこ
とによって、鋼板を深絞り成形をした際のイヤリングの発生が低減される。そのため、本
発明では、|Δr|を0.20以下とする。|Δr|は好ましくは0.15以下である。
【0031】
r
ave/|Δr|:4.7以上
一般に、平均r値[r
ave=(r
0+2×r
45+r
90)/4]が大きいほど鋼板の深絞り
成形限界が大きくなり、|Δr|が大きくなるほどそのイヤリング量は大きくなる。鋼板
のr値は集合組織に強く影響を受け、r値を向上させる面方位の発達に伴い、平均r値が
上昇して深絞り性が向上するが、|Δr|も大きくなって面内異方性が低下する場合があ
る。そのため、良好な深絞り性と小さい面内異方性とを両立させるには、そのバランスを
限定することが必要である。本発明では、r
aveと|Δr|の比(r
ave/|Δr|)を4
.7以上とする。この比は好ましくは5.4以上、より好ましくは6.1以上である。
【0032】
YR
ave×r
ave/|Δr|:4.7以上
上述したように、耐疲労性の観点からはYRが高いほど好ましく、深絞り性の観点から
はr
ave/|Δr|が高いほど好ましい。Mnなどの焼入性を高める元素の含有量を増加
させて鋼板を高強度化すると、YRが低下するため、耐疲労性向上の効果は小さい。一方
、TiやNbなどの析出強化元素を含有させると、YRは向上するが、r
aveおよび|Δ
r|が低下する。したがって、YRとr
ave/|Δr|とのバランスが高いほど、疲労特
性と深絞り性を高レベルで有することになる。その指標として、YR
ave×r
ave/|Δr
|を用いることができ、これを4.7以上とすることが好ましい。この値はさらに好まし
くは5.0以上である。
【0033】
(C)製造方法
(1)熱間圧延工程
熱間圧延は、レバースミルもしくはタンデムミルを用いて、オーステナイト域で多パス
圧延により行う。工業的生産性の観点からは、少なくとも最終の数段はタンデムミルを用
いて圧延するのが好ましい。
【0034】
熱間圧延に供する鋼材は、連続鋳造により得た鋼塊、鋳造および分塊圧延により得た鋼
片、ストリップキャスティングにより得た鋼板のいずれでもよい。必要に応じてそれらに
予め熱間又は冷間加工を加えたものを用いることもできる。直送圧延の場合のように圧延
に供する鋼材が高温状態にあるならば、加熱を施さずに直接または保温を行って熱間圧延
に供してもよい。圧延に供する鋼材が冷片であるならば、加熱を施して熱間圧延に供すれ
ばよい。
【0035】
熱間圧延の開始温度が1000℃以下になると、圧延荷重が大きくなり、十分な圧下率
で圧延することが困難になったり、Ar
3点以上の温度で圧延を完了することが困難にな
ったりして、所望の機械特性が得られなくなる場合がある。したがって、熱間圧延に供す
る鋼材の温度は1000℃超とすることが好ましい。さらに好ましくは1025℃以上、
特に好ましくは1050℃以上である。熱間圧延に供する鋼材の温度の上限は特に規定す
る必要はないが、オーステナイト粒の粗大化を抑制するため、また設備費用や加熱燃料費
を抑制するため、1350℃以下とすることが好ましく、1250℃以下とすることがさ
らに好ましい。
【0036】
熱間圧延工程における最終直前圧延パス(最終圧延パスの一つ前の圧延パス)と最終圧
延パスとの圧延パス間時間(最終圧延パス間時間)を適度に調整することにより、最終製
品である冷延鋼板のr値およびその異方性を改善することが可能であることが判明した。
この原因は明確ではないが、最終直前圧延パスと最終圧延パスとの圧延パス間において一
部の加工オーステナイトが回復および再結晶することにより、冷延母材となる熱延鋼板の
集合組織が変化し、その結果、冷延鋼板の集合組織が変化するためと推測される。上記効
果を得るには、最終直前圧延パスと最終圧延パスとの圧延パス間時間である最終圧延パス
間時間を0.3秒以上とすることが好ましい。一方、最終圧延パス間時間を過度に長くす
ると、再結晶オーステナイトの粒成長が著しくなり、微細組織が得られなくなる。このた
め、最終圧延パス間時間は4.0秒以下とする。最終圧延パス間時間は好ましくは0.4秒
以上、3.0秒以下である。
【0037】
圧延完了温度(最終圧延パスの完了温度)は、圧延完了後にオーステナイトからフェラ
イトへと変態させて組織を微細化するために、Ar
3点以上かつ780℃以上の温度域と
する。圧延完了温度がAr
3点を下回ると、圧延中にフェライトが発生してしまう。また
、圧延完了温度が780℃未満の温度では、圧延荷重が著しく増大して十分な圧下を加え
ることが困難となる場合や、圧延中に鋼板の表層部においてフェライト変態が生じる場合
がある。圧延完了温度はAr
3点以上かつ800℃以上とすることが好ましい。なお、圧
延完了温度は、Ar
3点以上かつ800℃以上の温度範囲であれば、低いほど好ましい。
圧延完了温度が低い方が、圧延によってオーステナイトに導入された加工歪みの蓄積効果
が大きくなり、結晶粒の微細化が促進されるためである。本発明で用いる鋼種のAr
3点
は、概ね780℃〜900℃である。
【0038】
熱間圧延における総圧下量は、フェライトの微細化を促進するために板厚減少率で86
%以上とすることが好ましい。この板厚減少率はさらに好ましくは90%以上、特に好ま
しくは94%以上である。また、圧延完了温度以上〜(圧延完了温度+100℃)以下の
温度範囲における板厚減少率を40%以上とすることが好ましい。圧延完了温度以上〜(
圧延完了温度+80℃)以下の温度範囲における板厚減少率を60%以上とすることがさ
らに好ましい。少なくとも最終直前圧延パスと最終圧延パスとは連続した多パス圧延とす
る。1パス当たりの圧下量は15〜60%とすることが好ましい。
【0039】
熱間圧延完了後は、720℃までの冷却時間が0.4秒以内になるように冷却を行う。
これは、オーステナイトに導入された加工歪の解放を極力抑制しながらフェライト変態が
著しくなる温度域まで冷却し、オーステナイトに導入された加工歪を駆動力としてオース
テナイトからフェライトへと一気に変態させることにより、微細なフェライト結晶粒組織
を生成させるためである。圧延完了後720℃までの冷却時間を0.2秒以下とすること
が好ましい。冷却は、水冷を用いるのが望ましく、その冷却速度は、空冷時間を除外した
強制冷却を行っている時間の平均冷却速度で、400℃/秒以上とするのが好ましい。
【0040】
ここで、圧延完了後720℃までの冷却条件を規定する理由は、720℃を超える温度
で冷却を停止もしくは鈍化させると、微細なフェライトが生成するより前に、加工によっ
てオーステナイトに導入された加工歪が解放されてしまい、又は、加工歪の存在形態が変
化してフェライトの核生成に有効ではなくなってしまい、フェライト結晶粒が顕著に粗大
化するためである。
【0041】
温度が720℃以下に達すると、フェライト変態が活発化する変態温度域に入る。上記
のフェライト組織が得られるフェライト変態温度域は、この温度から600℃までの間の
温度域である。したがって、巻取温度が600℃より低い場合には、720℃以下に達し
た後、冷却を一次停止、もしくはその速度を鈍化させて、この温度域で2秒以上保持させ
ることが、上記の熱的に安定なフェライト結晶粒組織の形成を確実にするうえで好ましい
。巻取温度が600℃より高い場合には、この保持時間は一般に自然に満たされる。
【0042】
巻取は水冷または空冷により鋼板温度が700℃以下まで低下してから行うことが好ま
しい。巻取温度が700℃を超えると、巻取後の徐冷中に鉄−りん化合物が析出し、深絞
り性が低下する場合があるためである。深絞り性を重視する場合には、巻取温度は600
℃以上、700℃以下とすることが好ましい。一方、疲労特性を重視する場合には、巻取
温度は600℃未満とすることが好ましい。
【0043】
本発明において、上記の冷却を行う設備は限定されない。工業的には、水量密度の高い
水スプレー装置を用いることが好適である。例えば、圧延板搬送ローラーの間に水スプレ
ーヘッダーを配置し、板の上下から十分な水量密度の高圧水を噴射することで冷却するこ
とができる。
【0044】
こうして得られた熱延鋼板は、典型的には鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における
フェライトの平均粒径が下記式(8)を満たす微細結晶粒組織を有する。熱延鋼板のフェ
ライト平均粒径が下記式(8)を満たさない場合、その後に本発明で規定する条件で冷間
圧延および焼鈍を行っても、本発明で規定する機械特性を有する冷延鋼板が得られない場
合が多い。
【0045】
D≦3.1+5000/(5+350×C+40×Mn)
2 ・・・ (8)
上記式中、Dは鋼板表面から板厚の1/4深さ位置におけるフェライトの平均粒径(μ
m)を意味し、CおよびMnは鋼中の各元素の含有量(質量%)を意味する。
【0046】
(2)冷間圧延工程
熱間圧延工程で得られた熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得る。冷間圧延における圧
下率が小さすぎると、冷間圧延および焼鈍後の結晶粒が粗大化してしまい、所望の機械特
性が得られなくなる。そのため、冷間圧延における圧下率の下限を40%とする。一方、
この圧下率が大きすぎると、冷間圧延設備の負荷が過大となり、操業が困難となる。した
がって、冷間圧延における圧下率の上限を90%とする。
【0047】
(3)焼鈍工程
冷間圧延により得られた冷延鋼板を常法に従って焼鈍すると
、冷延鋼板が得られる。焼鈍温度がAc
1点未満では、フェライトの再結晶に長時間を要するため生産効率が低下する。一方、Ac
3点を超える温度で焼鈍を行うと、焼鈍時の組織がオーステナイト単相となるため、冷延鋼板の細粒化の効果が得難くなる。したがって、焼鈍温度はAc
1点以上、Ac
3点以下のいわゆる二相域の温度とする。焼鈍時間は、フェライトの再結晶に要する時間を確保できればよく、特に規定する必要はないが、フェライトの再結晶をより確実なものとするために5秒以上とすることが好ましい。一方、フェライトの粒成長を抑制する観点からは、300秒以下とすることが好ましい。焼鈍後の冷却条件は特に限定しない。
【0048】
焼鈍後の冷延鋼板には、必要に応じて、常法に従ってスキンパスを施すことができる。
また、連続溶融めっきラインを用いて、焼鈍後の高温の冷延鋼板に続けて溶融めっきを施してもよい。溶融めっきとしては、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、溶融アルミニウムめっき、溶融Zn−Al合金めっき、溶融Zn−Al−Mg合金めっき、溶融Zn−Al−Mg−Si合金めっき等が例示される。また、焼鈍後の冷延鋼板に電気めっきを施すこともできる。電気めっきとしては、電気亜鉛めっき、電気Zn−Ni合金めっき等が例示される。これらのめっき鋼板は必要に応じて耐食性向上のために化成処理を施すことができる。
(D)構造部材
冷延鋼板は、深絞り加工や穴拡げ加工などのプレス成形や打ち抜き加工などの公知の加工法により構造部材を製造するのに適しており、特に深絞り加工が施される構造部材の素材として好適である。上記構造部材としては自動車用鋼板部材が典型的である。
【実施例1】
【0049】
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。
表1に示す化学組成を有する鋼種A〜Hの鋼を溶製し、熱間鍛造によって30mm厚さ
の鋼片にした。この鋼片を1050℃以上に再加熱後、試験用小型タンデムミルにて熱間
圧延を実施して2mm〜3.5mm厚に仕上げた。全ての圧延において、熱間圧延完了温
度〜[熱間圧延完了温度+100℃]の温度域内で3パス以上の多パス圧延を行った。圧
延完了後720℃までの冷却は水冷または空冷により行った。
【0050】
表2に、熱間圧延条件および得られた熱延鋼板のフェライト粒径を示す。
フェライト粒径は、走査電子顕微鏡を用いて鋼板板厚の断面を観察し、板表面から板厚
の1/4の深さにて、EBSP(Electron Back Scattering Pattern)法を用いた結晶方
位解析により求めた。
【0051】
得られた熱延鋼板に対して、表3に示す条件で冷間圧延および焼鈍を行って冷延鋼板を
得た。焼鈍温度での保持時間は60秒とし、焼鈍後は50℃/sの冷却速度で冷却して、
400℃で150秒間保持したのちに室温まで冷却した。
【0052】
こうして得られた冷延鋼板の引張特性を、JIS5号引張試験片を用いて、常温で10
mm/min以下の試験速度で引張試験を行って評価した。試験結果を表4にまとめて示
す。なお、表中の下線部は本発明で規定する要件から外れていることを示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
比較例である試験番号2、6、8、9、11、14、18は、YR
aveが小さいか、Δ
rが大きい。一方、発明例はいずれも、本発明で規定する機械特性の要件をすべて満たし
ており、面内異方性、従って深絞り性と、疲労特性とに優れる。