特許第5765509号(P5765509)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5765509-油井用電縫鋼管 図000004
  • 特許5765509-油井用電縫鋼管 図000005
  • 特許5765509-油井用電縫鋼管 図000006
  • 特許5765509-油井用電縫鋼管 図000007
  • 特許5765509-油井用電縫鋼管 図000008
  • 特許5765509-油井用電縫鋼管 図000009
  • 特許5765509-油井用電縫鋼管 図000010
  • 特許5765509-油井用電縫鋼管 図000011
  • 特許5765509-油井用電縫鋼管 図000012
  • 特許5765509-油井用電縫鋼管 図000013
  • 特許5765509-油井用電縫鋼管 図000014
  • 特許5765509-油井用電縫鋼管 図000015
  • 特許5765509-油井用電縫鋼管 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5765509
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】油井用電縫鋼管
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20150730BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20150730BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20150730BHJP
   C21D 9/50 20060101ALI20150730BHJP
   C21D 9/08 20060101ALI20150730BHJP
   C21D 8/10 20060101ALI20150730BHJP
   B21D 3/02 20060101ALI20150730BHJP
   B21C 37/08 20060101ALI20150730BHJP
   B23K 13/00 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   C22C38/00 301Z
   C22C38/14
   C22C38/38
   C21D9/50 101A
   C21D9/08 F
   C21D8/10 B
   B21D3/02 A
   B21C37/08 F
   B23K13/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-515346(P2015-515346)
(86)(22)【出願日】2014年12月11日
(86)【国際出願番号】JP2014082898
【審査請求日】2015年3月24日
(31)【優先権主張番号】特願2013-267314(P2013-267314)
(32)【優先日】2013年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福士 孝聡
(72)【発明者】
【氏名】濱谷 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 雅和
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 祐輔
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/001076(WO,A1)
【文献】 特開2006−144037(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/057390(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00 − 49/14
B21C 37/08
B21D 3/02
C21D 8/10
C21D 9/08
C21D 9/50
B23K 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.02〜0.14%、
Si:0.05〜0.50%、
Mn:1.0〜2.1%、
P:0.020%以下、
S:0.010%以下、
Nb:0.010〜0.100%、
Ti:0.010〜0.050%、
Al:0.010〜0.100%、及び
N:0.0100%以下を含有し、
Cu、Ni、Cr、Mo、V、及びBの含有量が、それぞれ、
Cu:0〜0.50%、
Ni:0〜1.00%、
Cr:0〜0.50%、
Mo:0〜0.30%、
V:0〜0.10%、
B:0〜0.0030%であり、
残部がFe及び不可避的不純物からなり、
全厚試験片について管軸方向引張試験を行ったときに、引張強さが780MPa以上であり、引張強さに対する0.2%耐力の比〔0.2%耐力/引張強さ〕が0.80以上であり、引張強さに対する2%流動応力の比〔2%流動応力/引張強さ〕が0.85〜0.98である油井用電縫鋼管。
【請求項2】
質量%で、
Ca:0超0.0050%以下、
Mo:0超0.30%以下、
V:0超0.10%以下、
Cr:0超0.50%以下、
Ni:0超1.00%以下、
Cu:0超0.50%以下、
B:0超0.0030%以下、及び
Ce:0超0.0050%以下の1種又は2種以上を含有する請求項1に記載の油井用電縫鋼管。
【請求項3】
クランプトン法によって測定された残留応力が300MPa以下である請求項1又は請求項2に記載の油井用電縫鋼管。
【請求項4】
下記式(1)によって定義される溶接割れ感受性組成Pcmが、0.1800以上である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の油井用電縫鋼管。
Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B ・・・ 式(1)
〔式(1)中、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、及びBは、それぞれ、各元素の含有量(質量%)を示す。〕
【請求項5】
陽電子消滅法によって測定された平均陽電子寿命が120ps〜140psである請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の油井用電縫鋼管。
【請求項6】
管軸方向及び肉厚方向に平行な断面において、
観測される旧オーステナイト粒のうちの50%以上が、アスペクト比1.5以上の旧オーステナイト粒である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の油井用電縫鋼管。
【請求項7】
Vノッチ付きフルサイズ試験片についてシャルピー衝撃試験を行うことによって求められた管周方向の母材靱性が、0℃で30J以上である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の油井用電縫鋼管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油井用電縫鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
油井管に求められる特性の一つとして、地中深くでも破壊しないための圧潰強度(Collapse Strength)が挙げられる。圧潰強度は、圧潰圧力(Collapse Pressure)として測定される。
油井管として用いられる電縫鋼管(以下、「油井用電縫鋼管」ともいう)において、圧潰強度は、肉厚(t)に対する外径(D)の比(D/t)が小さいほど高くなり、降伏強さ(YS;Yield Strength)が高いほど高くなり、残留応力(電縫鋼管の成形やサイジング等、冷間で行われる工程で管内に発生した残留応力)が低いほど高くなり、真円度および偏肉度に優れるほど高くなることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
油井用電縫鋼管の圧潰強度を高めることを目的とした技術として、造管後に、低温で熱処理を行い、コットレル効果を利用して降伏強さを上げ、圧潰強度を高める技術(例えば、特許文献1参照)や、造管後に、高温で熱処理を行い、残留応力を除去して圧潰強度を高める技術(例えば、特許文献2参照)が開示されている。
また、油井用電縫鋼管について、化学組成、降伏応力(降伏強さ)、引張強さ、及び降伏比をそれぞれ特定の範囲に調整することにより、造管後に熱処理を施すことなく、強度及び靱性を向上させる技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
特許文献1:特開昭60−187664号公報
特許文献2:特開昭59−177322号公報
特許文献3:特許第5131411号公報
【0005】
非特許文献1:塑性と加工(日本塑性加工学会誌)第30巻 第338号(1989−3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1〜3に記載された油井用電縫鋼管に対し、圧潰強度を更に向上させることが求められている。これらの油井用電縫鋼管の圧潰強度を更に向上させるためには、造管後の熱処理によって圧潰強度を向上させることが有効であると考えられる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、造管後の熱処理によって圧潰強度が向上された油井用電縫鋼管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は鋭意検討した結果、化学組成、引張強さ、引張強さに対する0.2%耐力の比〔0.2%耐力/引張強さ〕、及び引張強さに対する2%流動応力の比〔2%流動応力/引張強さ〕をそれぞれ特定の範囲に調整することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、上記課題を解決するための具体的手段は以下のとおりである。
<1> 質量%で、
C:0.02〜0.14%、
Si:0.05〜0.50%、
Mn:1.0〜2.1%、
P:0.020%以下、
S:0.010%以下、
Nb:0.010〜0.100%、
Ti:0.010〜0.050%、
Al:0.010〜0.100%、及び
N:0.0100%以下を含有し、
Cu、Ni、Cr、Mo、V、及びBの含有量が、それぞれ、
Cu:0〜0.50%、
Ni:0〜1.00%、
Cr:0〜0.50%、
Mo:0〜0.30%、
V:0〜0.10%、
B:0〜0.0030%であり、
残部がFe及び不可避的不純物からなり、
全厚試験片について管軸方向引張試験を行ったときに、引張強さが780MPa以上であり、引張強さに対する0.2%耐力の比〔0.2%耐力/引張強さ〕が0.80以上であり、引張強さに対する2%流動応力の比〔2%流動応力/引張強さ〕が0.85〜0.98である油井用電縫鋼管。
<2> 質量%で、
Ca:0超0.0050%以下、
Mo:0超0.30%以下、
V:0超0.10%以下、
Cr:0超0.50%以下、
Ni:0超1.00%以下、
Cu:0超0.50%以下、
B:0超0.0030%以下、及び
Ce:0超0.0050%以下の1種又は2種以上を含有する<1>に記載の油井用電縫鋼管。
<3> クランプトン法によって測定された残留応力が、300MPa以下である<1>又は<2>に記載の油井用電縫鋼管。
<4> 下記式(1)によって定義される溶接割れ感受性組成Pcmが、0.1800以上である<1>〜<3>のいずれか1項に記載の油井用電縫鋼管。
Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B ・・・ 式(1)
〔式(1)中、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、及びBは、それぞれ、各元素の含有量(質量%)を示す。〕
<5> 陽電子消滅法によって測定された平均陽電子寿命が、120ps〜140psである<1>〜<4>のいずれか1項に記載の油井用電縫鋼管。
<6> 管軸方向及び肉厚方向に平行な断面において、観測される旧オーステナイト粒のうちの50%以上が、アスペクト比1.5以上の旧オーステナイト粒である<1>〜<5>のいずれか1項に記載の油井用電縫鋼管。
<7> Vノッチ付きフルサイズ試験片についてシャルピー衝撃試験を行うことによって求められた管周方向の母材靱性が、0℃で30J以上である<1>〜<6>のいずれか1項に記載の油井用電縫鋼管。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、造管後の熱処理によって圧潰強度が向上された油井用電縫鋼管が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実線(「300℃低温熱処理」)は、本実施形態の一例である、造管後に300℃で300秒の熱処理が施された電縫鋼管の応力−ひずみ曲線であり、破線(「アズロール」)は、上記一例において、造管後、上記熱処理が施される前の応力−ひずみ曲線である。
図2】比〔0.2%耐力/引張強さ〕(YR)と圧潰強度比との関係の一例を示すグラフである。
図3】残留応力と圧潰強度比との関係の一例を示すグラフである。
図4】熱処理温度と残留応力との関係の一例を示すグラフである。
図5】熱処理時間と残留応力との関係の一例を示すグラフである。
図6】平均陽電子寿命と比〔0.2%耐力/引張強さ〕(YR)との関係の一例を示すグラフである。
図7】熱延工程における平均冷却速度と、平均陽電子寿命と、の関係の一例を示すグラフである。
図8】熱延工程における巻き取り温度と、平均陽電子寿命と、の関係の一例を示すグラフである。
図9】造管工程におけるサイジングひずみ量と、平均陽電子寿命と、の関係の一例を示すグラフである。
図10A】実施例1(熱処理条件:300℃、300秒)に係る電縫鋼管のL断面の一部(ナイタールエッチング後)を示す光学顕微鏡組織写真である。
図10B図10Aに示した光学顕微鏡組織写真中、2つの旧オーステナイト粒の粒界を白色の破線でなぞった光学顕微鏡組織写真である。
図11A】実施例1(熱処理条件:300℃、300秒)に対し、熱処理条件を200℃、300秒に変更して得られた電縫鋼管のL断面(ナイタールエッチング後)を示す光学顕微鏡組織写真である。
図11B図11Aに示した光学顕微鏡組織写真中、1つの旧オーステナイト粒の粒界を白色の破線でなぞった光学顕微鏡組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本明細書中において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書中において、成分(元素)の含有量を示す「%」は、「質量%」を意味する。
また、本明細書中において、C(炭素)の含有量を、「C含有量」と表記することがある。他の元素の含有量についても同様に表記することがある。
【0011】
本実施形態の油井用電縫鋼管(以下、「電縫鋼管」ともいう)は、質量%で、C:0.02〜0.14%、Si:0.05〜0.50%、Mn:1.0〜2.1%、P:0.020%以下、S:0.010%以下、Nb:0.010〜0.100%、Ti:0.010〜0.050%、Al:0.010〜0.100%、及びN:0.0100%以下を含有し、Cu、Ni、Cr、Mo、V、及びBの含有量が、それぞれ、Cu:0〜0.50%、Ni:0〜1.00%、Cr:0〜0.50%、Mo:0〜0.30%、V:0〜0.10%、B:0〜0.0030%であり、残部がFe及び不可避的不純物からなり、全厚試験片について管軸方向引張試験を行ったときに、引張強さが780MPa以上であり、引張強さに対する0.2%耐力の比〔0.2%耐力/引張強さ〕が0.80以上であり、引張強さに対する2%流動応力の比〔2%流動応力/引張強さ〕が0.85〜0.98である。
【0012】
本実施形態の油井用電縫鋼管は、造管後の熱処理(以下、単に「熱処理」ともいう)によって圧潰強度が向上された油井用電縫鋼管である。
ここで、「造管後の熱処理によって圧潰強度が向上された」との効果に関し、本実施形態の上記条件を全て満たす油井用電縫鋼管は、上記効果が奏された油井用電縫鋼管であるとみなすことができる。
また、本実施形態の油井用電縫鋼管では、油井管に要求される靱性が確保されている。本実施形態の油井用電縫鋼管では、例えば、後述のC方向母材靱性(0℃)が30J以上となっている。
【0013】
本明細書中において、「圧潰強度」(Collapse Strength)は、アメリカ石油協会規格(API規格)である「API BULLETIN 5C3」中、「2.3 Collapse Testing Procedure」に準拠して測定された圧潰圧力(Collapse Pressure)を指す。
また、「造管後の熱処理によって圧潰強度が向上」するとは、熱処理前の電縫鋼管の圧潰強度に対する熱処理後の電縫鋼管の圧潰強度の比〔熱処理後の電縫鋼管の圧潰強度/熱処理前の電縫鋼管の圧潰強度〕(以下、「圧潰強度比」ともいう)が1.00超となること(好ましくは圧潰強度比が1.10以上となること)を指す。
【0014】
本実施形態によれば、圧潰強度比を例えば1.10以上にまで高めることができるので、肉厚を例えば1割以上薄くすることができる。これにより、油井管の設計の自由度を向上させることができるとともに、鋼材コストを低減することができる。
【0015】
また、本実施形態の電縫鋼管は、全厚試験片について管軸方向引張試験を行ったときに、引張強さが780MPa以上であり、かつ、引張強さ(TS:Tensile Strength)に対する2%流動応力の比〔2%流動応力/引張強さ〕が0.85〜0.98である。
引張強さが780MPa以上であり、かつ、比〔2%流動応力/引張強さ〕が0.85〜0.98であることは、造管後に比較的低温(例えば200℃〜400℃)の熱処理が施された電縫鋼管であることを示している。
本実施形態の電縫鋼管は、比〔2%流動応力/引張強さ〕が0.85〜0.98である点で、造管後に熱処理が施されていない上記特許文献3に記載の油井用電縫鋼管と異なる。
【0016】
造管後の熱処理の温度について、例えば、造管後の熱処理の温度が200℃以上であると、比〔2%流動応力/引張強さ〕を0.98以下に調整し易い。
また、例えば、造管後の熱処理の温度が400℃以下であると、比〔2%流動応力/引張強さ〕を0.85以上に調整し易く、また、引張強さを780MPa以上に調整し易い。
【0017】
本実施形態によれば、比〔2%流動応力/引張強さ〕が0.85以上であることにより、強度(例えば引張強さ。以下同じ。)が向上するか、又は、強度の低下が抑制される。比〔2%流動応力/引張強さ〕が0.85未満である電縫鋼管は、高強度を得るのが困難である。
比〔2%流動応力/引張強さ〕としては、強度をより向上させる観点から、0.88以上が好ましい。
【0018】
一方、本実施形態によれば、比〔2%流動応力/引張強さ〕が0.98以下であることにより、圧潰強度比が向上する。比〔2%流動応力/引張強さ〕が0.98超であると、圧潰強度比が低下する。
比〔2%流動応力/引張強さ〕としては、圧潰強度比をより向上させる観点から、0.97以下が好ましい。更に、比〔2%流動応力/引張強さ〕としては、残留応力をより低減させ、圧潰強度比をより向上させる観点から、0.95以下がより好ましい。
【0019】
本明細書中において、「2%流動応力」(2% Flow Stress)とは、全厚試験片について管軸方向引張試験を行うことによって得られた応力−ひずみ曲線(stress-strain curve;「SSカーブ」とも呼ばれている)において、ひずみ2%のときの応力を指す。
ここで、「応力」及び「ひずみ」は、それぞれ、公称応力及び公称ひずみを指す。
【0020】
また、本明細書中において、管軸方向引張試験は、全厚試験片について、JIS Z2241(2011)に準拠し、引張方向を管軸方向として行う引張試験を指す。全厚試験片は12号試験片(円弧状試験片)とする。
【0021】
本実施形態の電縫鋼管は、上記管軸方向引張試験を行ったときに、引張強さが780MPa以上である。これにより、高強度の油井用電縫鋼管として要求される強度が確保される。
引張強さの上限には特に制限はないが、靱性の低下を抑制する観点から、引張強さは、1100MPa以下であることが好ましく、1050MPa以下であることがより好ましい。
本実施形態の電縫鋼管(油井用電縫鋼管)は、引張強さが780MPa以上である点で、ラインパイプ用の電縫鋼管のうち造管後に熱処理が施されたものと相違する。
【0022】
また、本実施形態の電縫鋼管は、上記管軸方向引張試験を行ったときに、引張強さに対する0.2%耐力の比〔0.2%耐力/引張強さ〕が0.80以上である。
本実施形態によれば、比〔0.2%耐力/引張強さ〕が0.80以上であることにより、圧潰強度比が高くなる。即ち、比〔0.2%耐力/引張強さ〕が0.80未満であると、圧潰強度比が低下する。
比〔0.2%耐力/引張強さ〕の上限は特に規定しないが、比〔0.2%耐力/引張強さ〕は、理論上1.00以下である。比〔0.2%耐力/引張強さ〕は、圧潰強度比向上の観点から、0.95以下が好ましく、0.92以下がより好ましい。
また、圧潰強度比向上の観点から、比〔0.2%耐力/引張強さ〕は、比〔2%流動応力/引張強さ〕よりも小さいことが好ましい。
【0023】
図1に、本実施形態における化学組成を有する電縫鋼管の応力−ひずみ曲線の例を示す。
図1中、実線は、本実施形態の一例である、造管後に300℃で300秒の熱処理が施された電縫鋼管の応力−ひずみ曲線(「300℃低温熱処理」)であり、破線は、上記一例において、造管後、上記熱処理が施される前の応力−ひずみ曲線(「アズロール」)である。
図1に示されるように、「300℃低温熱処理」は「アズロール」と比較し、引張強さが上昇している。また、「300℃低温熱処理」、「アズロール」とも、明確な降伏点は観測されないが、「アズロール」では比例限(proportional limit)がより低くなっている。
「300℃低温熱処理」では、引張強さが982MPaであり、比〔0.2%耐力/引張強さ〕が0.90であり、比〔2%流動応力/引張強さ〕が0.95である。
一方、「アズロール」では、引張強さが902MPaであり、比〔0.2%耐力/引張強さ〕が0.84であり、比〔2%流動応力/引張強さ〕が0.99である。
【0024】
本実施形態の電縫鋼管における0.2%耐力は、降伏点を有する鋼管における降伏強さ(YS;Yield Strength)に対応し、本実施形態の電縫鋼管における比〔0.2%耐力/引張強さ〕は、降伏点を有する鋼管における降伏比(YR;Yield Ratio)に対応する。
本明細書中では、本実施形態の電縫鋼管における0.2%耐力を「YS」と称することがあり、本実施形態の電縫鋼管における比〔0.2%耐力/引張強さ〕を「YR」と称することがある。
【0025】
図2は、比〔0.2%耐力/引張強さ〕(YR)と圧潰強度比との関係の一例を示すグラフである。図2は、詳細には、本実施形態の電縫鋼管の一例において、比〔0.2%耐力/引張強さ〕(YR)のみを変化させた場合の圧潰強度比の変化を示している。図2中の横軸「YR」は、比〔0.2%耐力/引張強さ〕を示している。
図2に示すように、この一例では、比〔0.2%耐力/引張強さ〕(YR)が0.80以上であるときに、圧潰強度比が1.10以上となっている。
【0026】
次に、本実施形態の電縫鋼管の化学組成について説明する。
本実施形態の電縫鋼管は、質量%で、C:0.02〜0.14%、Si:0.05〜0.50%、Mn:1.0〜2.1%、P:0.020%以下、S:0.010%以下、Nb:0.010〜0.100%、Ti:0.010〜0.050%、Al:0.010〜0.100%、及びN:0.0100%以下を含有し、Cu、Ni、Cr、Mo、V、及びBの含有量が、それぞれ、Cu:0〜0.50%、Ni:0〜1.00%、Cr:0〜0.50%、Mo:0〜0.30%、V:0〜0.10%、B:0〜0.0030%であり、残部がFe及び不可避的不純物からなる。
ここで、Cu、Ni、Cr、Mo、V、及びBは、それぞれ任意の元素(選択元素)であり、必ずしも含有されている必要はない。
本実施形態の電縫鋼管は、上記化学組成を有することにより、油井管に要求される靱性(例えばC方向母材靱性(0℃))を確保しつつ、油井管に要求される強度(例えば引張強さ)を確保することができる。
【0027】
<C:0.02〜0.14%>
C(炭素)は、鋼の強度確保に有効な元素である。
C含有量は、鋼の強度を確保するために0.02%以上とする。C含有量は、強度の観点から、0.05%以上であることが好ましい。
一方、C含有量は、靱性の低下を回避するために0.14%以下とする。C含有量は、靱性の観点から、0.12%以下であることが好ましい。
【0028】
<Si:0.05〜0.50%>
Si(ケイ素)は、脱酸剤として有効な元素である。
Si含有量は、電縫溶接性を確保するために0.05〜0.50%とする。Si含有量が0.05%未満である場合及び0.50%超である場合には、いずれも電縫溶接部に酸化物欠陥が多発し、工業製品として成立しない。
Si含有量は、0.10%以上であることが好ましい。また、Si含有量は、0.40%以下であることが好ましい。
【0029】
<Mn:1.0〜2.1%>
Mn(マンガン)は、鋼の強度確保に有効な元素である。
Mn含有量は、鋼の強度を確保するために1.0%以上とする。Mn含有量は、強度の観点から、1.3%以上であることが好ましい。
一方、Mn含有量は、靱性の低下を回避するために2.1%以下とする。Mn含有量は、靱性の観点から、2.0%以下であることが好ましい。
【0030】
<P:0.020%以下>
P(リン)は、不可避的不純物元素である。
鋼の靱性の低下を回避するために、P含有量は、0.020%以下に抑制する。
P含有量の下限は特に規定しないが、脱燐のコストを考慮すると、P含有量は0.0002%以上が好ましい。
【0031】
<S:0.010%以下>
S(硫黄)は、不可避的不純物元素である。
鋼の靱性の低下を回避するために、S含有量は、0.010%以下に抑制する。
S含有量の下限は特に規定しないが、脱硫のコストを考慮すると、S含有量は0.0002%以上が好ましい。
【0032】
<Nb:0.010〜0.100%>
Nb(ニオブ)は、鋼の強度及び靱性の確保に有効な元素である。
Nb含有量は、鋼の強度と靱性とを確保するために、0.010%以上とする。Nb含有量は、強度及び靱性の観点から、0.020%以上であることが好ましい。
また、Nb含有量は、靱性の低下を回避するために0.100%以下とする。Nb含有量は、靱性の観点から、0.060%以下であることが好ましい。
【0033】
<Ti(チタン):0.010〜0.050%>
Tiは、N(窒素)を固定してひずみ時効を抑制し、靱性を確保するために有効な元素である。さらに、連続鋳造時の割れ抑制にも有効である。かかる効果の観点から、Ti含有量は0.010%以上とする。Ti含有量は、靱性の観点から、0.015%以上であることが好ましく、0.020%以上であることがより好ましい。
一方、Ti含有量は、粗大な析出物が生じ、靱性が低下する現象を回避するために0.050%以下とする。Ti含有量は、靱性の観点から、0.040%以下であることが好ましく、0.030%以下であることがより好ましい。
【0034】
<Al:0.010〜0.100%>
Al(アルミニウム)は、脱酸剤として有効な元素である。
Al含有量は、脱酸して鋼の清浄度を上げ、靱性を確保するために、0.010%以上とする。Al含有量は、靱性の観点から、0.020%以上であることが好ましく、0.030%以上であることがより好ましい。
また、Al含有量は、粗大な析出物が生じ、靱性が低下する現象を回避するために0.100%以下とする。Al含有量は、靱性の観点から、0.090%以下であることが好ましく、0.080%以下であることがより好ましく、0.070%以下であることが更に好ましい。
【0035】
<N:0.0100%以下>
N(窒素)は、不可避的不純物元素である。
しかし、N含有量が多すぎると、AlN等の介在物が過度に増大し、表面傷、靱性劣化等を生じるおそれがある。このため、N含有量の上限は0.0100%とする。N含有量は、0.0080%以下が好ましく、0.0060%以下がより好ましく、0.0050%以下が特に好ましい。
一方、N含有量の下限は特に規定しないが、脱N(脱窒)のコストや経済性を考慮すると、N含有量は、0.0020%以上が好ましい。
【0036】
次に、選択元素である、Cu、Ni、Cr、Mo、V、及びBについて説明する。
【0037】
<Cu:0〜0.50%>
Cu(銅)は、焼入れ性を向上し、更に、固溶強化により、強度を向上させる効果を有する元素である。しかし、Cu含有量が多すぎると、母材の靱性を劣化させ、熱延鋼板の疵発生が促進される。このため、Cu含有量の上限は0.50%とする。Cu含有量の上限は、0.40%が好ましく、0.30%がより好ましい。
一方、Cuは選択元素であり、必ずしも含有される必要はない。しかし、上記効果をより効果的に得る観点からみた場合には、Cu含有量は、0.01%以上が好ましく、0.01%以上が好ましく、0.03%以上がより好ましい。
【0038】
<Ni:0〜1.00%>
Ni(ニッケル)は、強度及び靱性の向上の効果を有する元素である。しかし、Niは高価な元素であり、Ni含有量が多すぎると、経済性が損なわれるおそれがある。このため、Ni含有量の上限は1.00%とする。Ni含有量の上限は、0.50%が好ましく、0.40%がより好ましく、0.30%が更に好ましい。
一方、Niは選択元素であり、必ずしも含有される必要はない。しかし、上記効果をより効果的に得る観点からみた場合には、Ni含有量は、0.01%以上が好ましく、0.05%以上がより好ましく、0.10%以上が更に好ましい。
【0039】
<Cr:0〜0.50%>
Cr(クロム)は、焼入れ性を向上させ、強度を向上させる効果を有する元素である。しかし、Cr含有量が多すぎると、電縫溶接性を著しく劣化させるおそれがある。このため、Cr含有量の上限は0.50%である。Cr含有量の上限は、0.40%が好ましく、0.30%がより好ましく、0.20%が更に好ましい。
一方、Crは選択元素であり、必ずしも含有される必要はない。しかし、上記効果をより効果的に得る観点からみた場合には、Cr含有量は、0.01%以上が好ましく、0.03%以上がより好ましい。
【0040】
<Mo:0〜0.30%>
Mo(モリブデン)は、析出能力を強化し、強度を向上させる効果を有する元素である。しかし、Moは高価な元素であり、Mo含有量が多すぎると、経済性が損なわれるおそれがある。このため、Mo含有量の上限は0.30%である。Mo含有量の上限は、0.20%が好ましく、0.15%がより好ましい。
一方、Moは選択元素であり、必ずしも含有される必要はない。しかし、上記効果をより効果的に得る観点からみた場合には、Mo含有量は、0.01%以上が好ましく、0.05%以上がより好ましく、0.10%以上が更に好ましい。
【0041】
<V:0〜0.10%>
V(バナジウム)は、析出能力を強化し、強度を向上させる効果を有する元素である。しかし、母材靱性の点から、V含有量の上限は0.10%とする。
一方、Vは選択元素であり、必ずしも含有される必要はない。しかし、上記効果をより効果的に得る観点からみた場合には、V含有量は、0.01%以上が好ましく、0.03%以上がより好ましい。
【0042】
<B:0〜0.0030%>
B(ホウ素)は、焼入れ性を向上させ、強度を向上させる効果を有する元素である。しかし、Bは、含有量0.0030%を超えて含有させても焼入れ性の更なる向上は起きないのみならず、析出物を生成して靱性を劣化させる可能性がある。このため、Bの含有量の上限は0.0030%とする。Bの含有量の上限は、0.0025%が好ましく、0.0020%がより好ましい。
一方、Bは選択元素であり、必ずしも含有される必要はない。しかし、上記効果をより効果的に得る観点からみた場合には、B含有量は、0.0001%以上が好ましく、0.0005%以上がより好ましく、0.0010%以上が更に好ましい。
【0043】
<不可避的不純物>
本実施形態において、不可避的不純物とは、原材料に含まれる成分、または、製造の工程で混入する成分であって、意図的に鋼に含有させたものではない成分を指す。
不可避的不純物として、具体的には、O(酸素)、Sb(アンチモン)、Sn(スズ)、W(タングステン)、Co(コバルト)、As(ヒ素)、Mg(マグネシウム)、Pb(鉛)、Bi(ビスマス)、H(水素)、REMが挙げられる。ここで、「REM」は希土類元素、即ち、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、及びLu(ルテチウム)からなる群から選択される少なくとも1種の元素を指す。
上述した元素のうち、Oは含有量0.006%以下となるように制御することが好ましい。
また、その他の元素について、通常、Sb、Sn、W、Co、及びAsについては含有量0.1%以下の混入が、Mg、Pb、及びBiについては含有量0.005%以下の混入が、Hについては含有量0.0004%以下の混入が、それぞれあり得るが、その他の元素の含有量については、通常の範囲であれば、特に制御する必要はない。
【0044】
また、本実施形態の電縫鋼管は、選択的に、Ca:0超0.0050%以下、Mo:0超0.30%以下、V:0超0.10%以下、Cr:0超0.50%以下、Ni:0超1.00%以下、Cu:0超0.50%以下、B:0超0.0030%以下、及びCe:0超0.0050%以下の1種又は2種以上を含有していてもよい。
これらの元素は、鋼中に意図して含有させる場合以外にも、鋼中に不可避的不純物として混入する場合もあり得る。
【0045】
Mo、V、Cr、Cu、及びBについて、これらの元素を含有する場合の好ましい含有量は、それぞれ前述したとおりである。
【0046】
<Ca:0超0.0050%以下>
Ca(カルシウム)は、MnS系の介在物を微細分散化させ、鋼の清浄度を上げる効果を有する元素である。しかし、Caの含有量が多すぎると、酸化物又は硫化物が大きくなり靱性に悪影響を及ぼすおそれがある。このため、Caの含有量の上限は0.0050%とする。Caの含有量の上限は、0.0040%が好ましい。
一方、Caは、必ずしも含有される必要はない。しかし、上記効果をより効果的に得る観点からみると、Ca含有量は、0.0005%以上が好ましく、0.0010%以上がより好ましく、0.0020%以上が更に好ましく、0.0030%以上が特に好ましい。
【0047】
<Ce:0超0.0050%以下>
Ce(セリウム)は、鋼の清浄度を上げる効果を有する元素である。しかし、Ceの含有量が多すぎると、粗大な介在物が生成し、鋼の清浄度が低下する。このため、Ceの含有量の上限は0.0050%とする。Caの含有量の上限は、0.0040%が好ましい。
一方、Ceは、必ずしも含有される必要はない。しかし、上記効果をより効果的に得る観点からみると、Ce含有量は、0.0005%以上が好ましく、0.0010%以上がより好ましい。
【0048】
本実施形態の電縫鋼管において、引張強さ780MPa以上を達成するための手段としては、例えば、下記式(1)によって定義される溶接割れ感受性組成Pcmを高くする手段が挙げられる。
【0049】
Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B ・・・ 式(1)
式(1)中、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、及びBは、それぞれ、各元素の含有量(質量%)を示す。
なお、Cu、Ni、Cr、Mo、V、及びBは、前述のとおり、任意の元素である。即ち、式(1)中、Cu、Ni、Cr、Mo、V、及びBは、0であってもよい。
【0050】
Pcmは、電縫鋼管の引張強さ780MPa以上を達成し易い点で、0.1800以上が好ましく、0.2000以上がより好ましく、0.2200以上が更に好ましい。
また、電縫鋼管がBを含有する場合、Pcmは、見かけ上小さな値となる傾向がある。従って、電縫鋼管がBを含有する場合には、Pcmが0.1800以上であり、電縫鋼管がBを含有しない場合には、Pcmが0.2200以上であることが特に好ましい。
なお、Pcmの上限値には特に制限はないが、Pcmは、例えば0.3000以下とすることができ、0.2500以下が好ましい。
【0051】
引張強さ780MPa以上を達成するための手段としては、Pcmを高くする手段以外にも、熱処理の温度をある程度低くする(例えば400℃以下とする)手段、熱処理の時間をある程度短くする(例えば600秒以下とする)手段、等も挙げられる。
引張強さ780MPa以上を達成するための手段は、1つのみ用いてもよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
また、本実施形態の電縫鋼管において、比〔0.2%耐力/引張強さ〕0.80以上を達成するための手段としては、造管後の熱処理の温度をある程度高くする(例えば200℃以上とする)手段、及び、造管後の熱処理の時間をある程度長くする(例えば3秒以上とする)手段が挙げられる。
これらの各手段によれば、熱処理時に、転位に対する固溶Cの固着によるコットレル効果がより効果的に働くことにより、比〔0.2%耐力/引張強さ〕0.80以上を達成し易くなると考えられる。
【0053】
また、比〔0.2%耐力/引張強さ〕0.80以上を達成するための手段としては、鋼板を得るための熱延工程における平均冷却速度を速くする(例えば平均冷却速度を20℃/s以上とする)手段、及び、熱延工程における巻き取り温度を低くする(例えば100℃以下とする)手段も挙げられる。
これらの各手段によれば、フェライト析出が抑制され、低温で変態することにより、転位の量と固溶Cの量とが確保されると考えられる。従って、熱処理時に、転位に対する固溶Cの固着によるコットレル効果がより効果的に働くことにより、比〔0.2%耐力/引張強さ〕0.80以上を達成し易くなると考えられる。
ここで、熱延工程とは、造管前の工程であって、鋼片(スラブ)を熱間圧延し、冷却することによって鋼板とし、得られた鋼板を巻き取ってコイルを得る工程を指す。
【0054】
比〔0.2%耐力/引張強さ〕0.80以上を達成するための手段としては、造管工程においてサイジングひずみ量が高い(例えばサイジングひずみ量2.0%以上)サイジングを行う手段も挙げられる。この手段によれば、転位の量を増大させることができ、安定的な転位下部組織(セル組織)を形成することができると考えられる。従って、熱処理時の転位と固溶Cとの固着により、比〔0.2%耐力/引張強さ〕0.80以上を達成し易くなると考えられる。
ここで、造管工程とは、熱延工程で得られたコイルから鋼板を巻き出し、巻き出された鋼板を筒状(管状)に成形し、成形後の突合せ面を電縫溶接(電気抵抗溶接)することによって電縫鋼管とし、得られた電縫鋼管に対しサイジング(縮径加工)を施す工程を指す。
【0055】
比〔0.2%耐力/引張強さ〕0.80以上を達成するための手段は、1つのみ用いてもよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
また、本実施形態の電縫鋼管において、比〔2%流動応力/引張強さ〕0.98以下を達成するための手段としては、熱処理の温度をある程度高くする(例えば200℃以上とする)手段、熱処理の時間をある程度長くする(例えば3秒以上とする)手段、等が挙げられる。これらの手段は、1つのみ用いてもよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
また、本実施形態の電縫鋼管において、比〔2%流動応力/引張強さ〕0.85以上を達成するための手段としては、熱処理の温度をある程度低くする(例えば400℃以下とする)手段、熱処理の時間をある程度短くする(例えば600秒以下とする)手段、等が挙げられる。これらの手段は、1つのみ用いてもよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
また、本実施形態の電縫鋼管は、圧潰強度比を高くする観点(例えば、圧潰強度比を1.10以上とする観点)から、クランプトン法によって測定された残留応力が300MPa以下であることが好ましい。残留応力は、290MPa以下であることがより好ましく、280MPa以下であることが更に好ましい。
圧潰強度比を高くする観点からみれば、上記残留応力は低ければ低いほど良いため、上記残留応力の下限には特に制限はない。達成し易さの観点からみると、上記残留応力は、10MPa以上が好ましく、50MPa以上がより好ましく、100MPa以上が更に好ましく、160MPa以上が特に好ましい。
【0059】
図3は、残留応力と圧潰強度比との関係の一例を示すグラフである。
図3は、詳細には、本実施形態の一例において、残留応力のみを変化させた場合の圧潰強度比の変化を示している。
図3に示すように、この一例では、残留応力が300MPa以下であるときに、圧潰強度比が1.10以上となっている。
【0060】
残留応力300MPa以下を達成する手段としては、熱処理の温度をある程度高くする(例えば200℃以上とする)手段、熱処理の時間をある程度長くする(例えば3秒以上とする)手段、等が挙げられる。これらの手段によれば、転位の再配列が顕著に起こり、ひいては残留応力が効果的に低減される。これらの手段は、1つのみ用いてもよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
図4は、熱処理温度と残留応力との関係の一例を示すグラフである。
図4は、詳細には、本実施形態の一例において、熱処理温度を変化させた場合の圧潰強度比の変化を示している。
図4に示すように、この一例では、熱処理温度が200℃以上であるときに、残留応力が300MPa以下となる。
【0062】
図5は、熱処理時間と残留応力との関係の一例を示すグラフである。
図5は、詳細には、本実施形態の一例において、熱処理時間を変化させた場合の圧潰強度比の変化を示している。
図5に示すように、この一例では、熱処理時間が3秒以上であるときに、残留応力が300MPa以下となる。
【0063】
また、本実施形態の電縫鋼管は、陽電子消滅法によって測定された平均陽電子寿命が120ps〜140psであることが好ましい。
平均陽電子寿命が120ps以上であると、引張強さ780MPa以上を達成し易い。この理由は、平均陽電子寿命が120ps以上であることは、十分な量の転位が確保されたことを示すためと考えられる。
更に、平均陽電子寿命が120ps〜140psであると、比〔0.2%耐力/引張強さ〕(YR)0.80以上を達成し易い。この理由は、熱処理前に十分な量の転位が確保されて平均陽電子寿命が一旦140ps超となった上で、熱処理により、十分な量の転位に対して固溶Cが十分に固着されて平均陽電子寿命が120ps〜140psの範囲内となると考えられるためである。
【0064】
陽電子消滅法によって平均陽電子寿命を測定する方法は一般的であるが、この方法は、例えば「材料工学の先端実験技術 日本金属学会 1998年12月1日発行 ISBN4−88903−072−7C3057」の中の「陽電子による構造欠陥解析技術 白井泰治教授著 p183〜189」で詳細に説明されている。
具体的には、22Na線源を測定試料に挟み込み、線源から試料中に放出された陽電子の発生時間と消滅時間とを、放出されたγ線を検出器で検出することで認識する。認識された発生時間と消滅時間との差を陽電子寿命とする。実際には、様々な陽電子寿命を示す信号が検出される。これらの信号から認識される陽電子寿命の平均値を、「平均陽電子寿命」とする。
【0065】
図6は、平均陽電子寿命と比〔0.2%耐力/引張強さ〕(YR)との関係の一例を示すグラフである。
図6は、詳細には、本実施形態の一例において、平均陽電子寿命を変化させた場合の比〔0.2%耐力/引張強さ〕(YR)の変化を示している。
図6に示すように、この一例では、平均陽電子寿命が140ps以下であるときに、YRが0.80以上となる。
【0066】
平均陽電子寿命140ps以下を達成するための手段としては、熱延工程における平均冷却速度を速くする(例えば20℃/s以上とする)手段、熱延工程における巻き取り温度を低くする(例えば100℃以下とする)手段、造管工程においてサイジングひずみ量が高い(例えば2.0%以上)サイジングを行う手段、等が挙げられる。
【0067】
図7は、熱延工程における平均冷却速度と平均陽電子寿命との関係を示すグラフである。
図7は、詳細には、本実施形態の一例において、平均冷却速度を変化させた場合の平均陽電子寿命の変化を示している。
図7に示すように、この一例では、平均冷却速度が20℃/s以上であるときに、平均陽電子寿命が140ps以下となる。
【0068】
図8は、熱延工程における巻き取り温度と平均陽電子寿命との関係を示すグラフである。
図8は、詳細には、本実施形態の一例において、巻き取り温度を変化させた場合の平均陽電子寿命の変化を示している。
図8に示すように、この一例では、巻き取り温度が100℃以下であるときに、平均陽電子寿命が140ps以下となる。
【0069】
図9は、造管工程におけるサイジングひずみ量と平均陽電子寿命との関係を示すグラフである。
図9は、詳細には、本実施形態の一例において、サイジングひずみ量を変化させた場合の平均陽電子寿命の変化を示している。
図9に示すように、この一例では、サイジングひずみ量が2.0%以上であるときに、平均陽電子寿命が140ps以下となる。
【0070】
また、本実施形態の電縫鋼管の態様としては、管軸方向及び肉厚方向に平行な断面(以下、「L断面」ともいう)において、観測される旧オーステナイト粒のうちの50%以上(50個数%以上)が、アスペクト比1.5以上の旧オーステナイト粒である態様が好ましい。
この態様の電縫鋼管は、焼入れ焼戻しが施されていない電縫鋼管である。詳細には、焼入れ焼戻しが施された電縫鋼管においては、観測される旧オーステナイト粒のほとんどがアスペクト比1.5未満の旧オーステナイト粒となっている。即ち、焼入れ焼戻しが施された電縫鋼管においては、アスペクト比1.5以上の旧オーステナイト粒の割合は、観測される旧オーステナイト粒のうちの50%未満となっている。
従って、上記態様の電縫鋼管によれば、高温(例えば900℃以上)の加熱が必要である焼入れを行わなくても、焼入れ焼戻しを行った場合と同等又は同等以上の圧潰強度比を得ることができる。よって上記態様の電縫鋼管は、焼入れ焼戻しが施される電縫鋼管と比較して、生産性に優れ、コストメリットもある。
【0071】
図10Aは、後述の実施例1(熱処理条件:300℃、300秒)に係る電縫鋼管のL断面の一部(ナイタールエッチング後)を示す光学顕微鏡組織写真であり、図10Bは、図10Aに示した光学顕微鏡組織写真中、2つの旧オーステナイト粒の粒界を、白色の破線でなぞった光学顕微鏡組織写真である。
図10A及び図10Bに示すように、実施例1の電縫鋼管のL断面には、アスペクト比1.5以上の旧オーステナイト粒が観測される。
図10A及び図10Bに示すように、実施例1の電縫鋼管のL断面の組織は、ベイナイト主体の組織であり、部分的(旧オーステナイト粒の粒界等)に、フェライトが含まれる組織である。
【0072】
図11Aは、後述の実施例1(熱処理条件:300℃、300秒)に対し、熱処理条件を200℃、300秒に変更して得られた電縫鋼管のL断面(ナイタールエッチング後)を示す光学顕微鏡組織写真であり、図11Bは、図11Aに示した光学顕微鏡組織写真中、1つの旧オーステナイト粒の粒界を、白色の破線でなぞった光学顕微鏡組織写真である。
図11A及び図11Bに示すように、上記電縫鋼管のL断面には、アスペクト比1.5以上の旧オーステナイト粒が観測される。
図11A及び図11Bに示すように、上記電縫鋼管のL断面の組織は、ベイナイト主体の組織であり、部分的(旧オーステナイト粒の粒界等)に、フェライトが含まれる組織である。
【0073】
また、本実施形態の電縫鋼管は、靱性の観点から、Vノッチ付きフルサイズ試験片についてシャルピー衝撃試験を行うことによって求められた管周方向の母材靱性が、0℃で30J以上であることが好ましい。以下、この母材靱性を「C方向母材靱性(0℃)」という。
ここで、シャルピー衝撃試験は、JIS Z2242(2005)に準拠し、0℃の温度条件下で行う。5回の試験結果の平均値をC方向母材靱性(0℃)とする。
靱性の観点からみて、C方向母材靱性(0℃)は、40J以上が好ましく、50J以上がより好ましい。
靱性の観点からみればC方向母材靱性(0℃)の上限には特に制限はないが、靱性と強度(例えば引張強さ)との両立の観点からみれば、C方向母材靱性(0℃)は、200J以下が好ましく、180J以下がより好ましく、130J以下が更に好ましい。
【0074】
本実施形態の電縫鋼管の肉厚には特に制限はないが、肉厚としては、5mm〜17mmが好ましく、7mm〜15mmがより好ましく、9mm〜13mmが特に好ましい。肉厚が5mm以上であることは、圧潰強度向上の観点からみて有利である。肉厚が17mm以下であることは、材料費低減の観点からみて有利である。
【0075】
また、本実施形態の電縫鋼管において、肉厚(t)に対する外径(D)の比〔D/t〕には特に制限はないが、比〔D/t〕としては、10.0〜25.0が好ましく、13.0〜23.0がより好ましく、15.0〜21.0が特に好ましい。比〔D/t〕が10.0以上であることは、材料費低減の観点からみて有利である。比〔D/t〕が25.0以下であることは、圧潰強度向上の観点からみて有利である。
【0076】
また、本実施形態の電縫鋼管を製造する方法には特に制限はなく、一般的な電縫鋼管の製造方法によって製造することができる。
【0077】
本実施形態の電縫鋼管の好ましい製造方法(以下、「製法A」ともいう)は、
鋼片(スラブ)を熱間圧延し、冷却することによって鋼板とし、得られた鋼板を巻き取ってコイルを得る熱延工程と;
コイルから鋼板を巻き出し、巻き出された鋼板を筒状(管状)に成形し、成形後の突合せ面を電縫溶接(電気抵抗溶接)することによって電縫鋼管とし、得られた電縫鋼管に対しサイジング(縮径加工)を施す造管工程と;
サイジングが施された電縫鋼管に対し、熱処理を施す熱処理工程と;
を含む製造方法である。
【0078】
製法Aにおいて、熱延工程における冷却時の平均冷却速度は、高いYRを得る観点から、20℃/s以上であることが好ましい。平均冷却速度の上限は、例えば60℃、好ましくは50℃である。
また、製法Aにおいて、熱延工程における巻き取り時の巻き取り温度は、高いYRを得る観点から、100℃以下であることが好ましい。巻き取り温度の下限は、例えば5℃、好ましくは10℃である。
また、製法Aにおいて、造管工程におけるサイジングのひずみ量(サイジングひずみ量)は、高いYRを得る観点から、2.0%以上であることが好ましい。サイジングひずみ量の上限は、例えば5.0%であり、好ましくは4.0%である。
また、製法Aにおいて、熱処理工程における熱処理の温度(熱処理温度)は、200℃〜400℃が好ましい。熱処理温度が200℃以上であると、残留応力が低減され、圧潰強度比が上昇する。熱処理温度が400℃以下であると、強度(例えば引張強さ)が上昇する。
また、製法Aにおいて、熱処理工程における熱処理の時間(熱処理時間)は、3秒〜600秒が好ましい。熱処理温度が3秒以上であると、残留応力が低減され、圧潰強度比が上昇する。熱処理温度が600秒以下であると、強度(例えば引張強さ)が上昇する。
なお、生産性の観点から、熱処理は、IH(induction heating)で行うことが特に好ましい。
【実施例】
【0079】
以下、本実施形態を実施例により更に具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0080】
〔実施例1〜14、比較例1〜22〕
表1に示す成分を有し、Pcmが表1に示す値であり、外径(D)が200mmであり、肉厚(t)が11mmである、実施例1〜14及び比較例1〜22の電縫鋼管をそれぞれ製造した。電縫鋼管中、表1に示された成分以外の成分(残部)は、Fe及び不可避的不純物である。
実施例1〜14並びに比較例1〜7及び9〜22の電縫鋼管は、前述の製法Aによって製造した。
比較例8の電縫鋼管は、熱処理工程を行わないこと以外は前述の製法Aと同様の方法によって製造した。
各例において、熱延工程における平均冷却速度、熱延工程における巻き取り温度(冷却終了時点の温度;以下、CT(Cooling Temperature)ともいう)、造管工程におけるサイジングひずみ量、熱処理工程における熱処理温度、及び熱処理工程における熱処理時間は、表2に示すとおりである。
ここで、熱延工程における平均冷却速度は、熱間圧延終了時点の鋼板の温度と、巻き取り温度(CT)と、の差に基づいて求めた。
【0081】
なお、実施例1〜14並びに比較例1〜7及び9〜22における熱処理後の冷却の条件は、いずれも、平均冷却速度40℃/sで室温まで冷却する条件とした。
【0082】
得られた各電縫鋼管について、以下の特性を測定した。
結果を表2に示す。
【0083】
<引張強さ、比〔0.2%耐力/引張強さ〕(YR)、比〔2%流動応力/引張強さ〕>
得られた電縫鋼管から、全厚試験片として12号試験片(円弧状試験片)を採取した。全厚試験片は、電縫鋼管の母材90°位置(電縫溶接部に対して管周方向に90°ずれた位置)から、引張試験の引張方向が管軸方向(L方向)となる向きで採取した。採取された全厚試験片について、JIS Z2241(2011)に準拠し、引張方向を管軸方向とする引張試験(管軸方向引張試験)を行い、引張強さ(MPa)、比〔0.2%耐力/引張強さ〕(YR)、及び比〔2%流動応力/引張強さ〕をそれぞれ測定した。
【0084】
<残留応力>
得られた電縫鋼管について、クランプトン法によって残留応力(MPa)を測定した。
【0085】
<平均陽電子寿命>
得られた電縫鋼管について、陽電子消滅法によって平均陽電子寿命(ps)を測定した。測定方法の詳細は前述したとおりである。
【0086】
<アスペクト比1.5以上の旧γ粒の割合>
得られた電縫鋼管からL断面を観察するための試料片を採取し、採取された試験片の観察面(電縫鋼管のL断面)をナイタールエッチングし、ナイタールエッチング後の観察面を、光学顕微鏡によって観察し、光学顕微鏡組織写真を得た(例えば、図10A図10B図11A、及び図11B参照)。得られた光学顕微鏡組織写真より、旧オーステナイト粒(旧γ粒)のアスペクト比を求めた。
以上のようにして、電縫鋼管1つ当たり30個の旧γ粒について、アスペクト比を求めた。得られた結果より、30個の旧γ粒に占める、アスペクト比1.5以上の旧γ粒の割合(%(個数%))を求めた。
【0087】
<C方向母材靱性(0℃)>
得られた電縫鋼管からVノッチ付きフルサイズ試験片(シャルピー衝撃試験用の試験片)を採取した。Vノッチ付きフルサイズ試験片は、試験方向が管周方向(C方向)となるように採取した。採取されたVノッチ付きフルサイズ試験片について、0℃の温度条件下で、JIS Z2242(2005)に準拠してシャルピー衝撃試験を行い、管周方向のシャルピー吸収エネルギー(J)を測定した。
以上の測定を、電縫鋼管1つ当たり5回行い、5回のシャルピー吸収エネルギー(J)の平均値を、C方向母材靱性(0℃)(J)とした。
【0088】
<圧潰強度比>
造管工程後であって熱処理工程前の電縫鋼管、及び、熱処理工程後の電縫鋼管のそれぞれについて、API BULLETIN 5C3の「2.3 Collapse Testing Procedure」に準拠して圧潰強度を測定した。
得られた結果に基づき、圧潰強度比、即ち、比〔熱処理後の電縫鋼管の圧潰強度/熱処理前の電縫鋼管の圧潰強度〕)を求めた。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
表1中、Pcm(%)は、前述の式(1)によって定義される溶接割れ感受性組成である。
表2中、CTは巻き取り温度を示し、RTは室温を示す。
また、表1及び表2中、下線を付した数値は、本実施形態の範囲に含まれない数値であることを示す。
【0092】
表1及び表2に示すように、質量%で、C:0.02〜0.14%、Si:0.05〜0.50%、Mn:1.0〜2.1%、P:0.020%以下、S:0.010%以下、Nb:0.010〜0.100%、Ti:0.010〜0.050%、Al:0.010〜0.100%、及びN:0.0100%以下を含有し、Cu、Ni、Cr、Mo、V、及びBの含有量が、それぞれ、Cu:0〜0.50%、Ni:0〜1.00%、Cr:0〜0.50%、Mo:0〜0.30%、V:0〜0.10%、B:0〜0.0030%であり、残部がFe及び不可避的不純物からなり、引張強さが780MPa以上であり、比〔0.2%耐力/引張強さ〕が0.80以上であり、比〔2%流動応力/引張強さ〕が0.85〜0.98である、実施例1〜14の電縫鋼管は、圧潰強度比(比〔熱処理後の電縫鋼管の圧潰強度/熱処理前の電縫鋼管の圧潰強度〕)が1.10以上であり、造管後の熱処理によって圧潰強度が向上していた。更に、実施例1〜14の電縫鋼管は、C方向母材靱性(0℃)が30J以上であり、油井管に求められる靱性を備えていた。
【0093】
実施例1〜14に対し、比〔0.2%耐力/引張強さ〕が0.80未満である比較例1〜8の電縫鋼管(これらの中でも、特に、比〔2%流動応力/引張強さ〕が0.98超である比較例4、6、及び8の電縫鋼管)は、圧潰強度比が低かった。
また、比〔2%流動応力/引張強さ〕が0.85未満である比較例5及び7の電縫鋼管、C含有量が0.02%未満である比較例9の電縫鋼管、並びに、Mn含有量が1.0%未満である比較例13の電縫鋼管は、いずれも引張強さが780MPa未満であり、油井管としての強度が不足していた。
また、化学組成が本実施形態の範囲に含まれない(詳細は表1参照)比較例10及び14〜22の電縫鋼管は、C方向母材靱性(0℃)が30J未満であり、油井管としての靱性が不足していた。
また、Si含有量が0.05〜0.50%の範囲に含まれない比較例11及び12では、電縫溶接部に酸化物欠陥が多発し、油井管としての使用に耐え得る電縫鋼管を製造すること自体が不可能であった。
【0094】
日本出願2013−267314の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【要約】
質量%で、C:0.02〜0.14%、Si:0.05〜0.50%、Mn:1.0〜2.1%、P:0.020%以下、S:0.010%以下、Nb:0.010〜0.100%、Ti:0.010〜0.050%、Al:0.010〜0.100%、及びN:0.0100%以下を含有し、Cu、Ni、Cr、Mo、V、及びBの含有量が、それぞれ、Cu:0〜0.50%、Ni:0〜1.00%、Cr:0〜0.50%、Mo:0〜0.30%、V:0〜0.10%、B:0〜0.0030%であり、残部がFe及び不可避的不純物からなり、全厚試験片について管軸方向引張試験を行ったときに、引張強さが780MPa以上であり、引張強さに対する0.2%耐力の比〔0.2%耐力/引張強さ〕が0.80以上であり、引張強さに対する2%流動応力の比〔2%流動応力/引張強さ〕が0.85〜0.98である油井用電縫鋼管。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B